月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

第26話 1944/07 『ファインダーを覗くと、他人事・・・』

 ソ連軍の東部攻勢は、イタリア・東欧軍の従深陣地を磨り潰して寸断し、

 ソ連軍の進攻は、そこで限界を迎えてしまう。

 そして、ドイツ機甲師団の反攻作戦で逆包囲されてしまう。

 ソ連軍は、交替しながら体勢を立て直しつつ反撃し、

 ドイツ軍は、防衛線を構築しつつ包囲網を維持していた。

 

 

 対空機関砲が火を噴き、

 シュトルモビク爆撃機が爆弾を投下して引き揚げていく、

 戦場のいたる所で爆発が起こり、

 土砂を吹き飛ばし、爆風が砂塵を散らしていく、

 「ま、まずい、ソ連空軍の方が多い」

 「まだ後退しないのか?」

 「包囲してるソビエト軍が降伏するのを待ってんだよ」

 タイガーとパンサーは、迫ってくるT34戦車群に向けて砲撃していた。

 T34戦車の砲撃は、戦車壕に阻まれ、

 タイガー戦車を破壊できる距離に入り込めない。

 「T34が、側面に回りこむぞ!!」

 「ちっ!」

 数両のT34戦車がタイガー戦車の後方に回り込もうと機動していく。

 3号戦車、4号戦車が急発進し、

 後方に回り込もうとしたT34戦車を近距離射撃で撃破してしまう。

 「やった♪」

 「60口径50mm砲でも近付けば、T34戦車を撃破できるからな」

 ソ連軍が数に任せて五月雨な攻勢をかけるのに対し、

 ドイツ軍は、連携と組織力で対抗、

 東部戦線は、こう着状態となっていく、

 

 ソ連軍陣地

 「・・・あのタイガーが邪魔だな。デタラメな装甲だ」

 「日本が供給したニッケルがタイガーの装甲を強化したそうです」

 「スターリン重戦車は?」

 「戦車壕が邪魔で・・・・」

 「ちっ!」

 「戦線突破で重戦車を消耗し過ぎた。数が揃えられない」

 「その上、地の利もドイツ側か。包囲網の内側の重戦車はどうした?」

 「トーチカ相手に砲弾を使い切っているはず」

 「ほとんど残っていないと」

 「スターリン戦車は、122mm砲弾でも28発しか装備できないからな」

 ドイツは口径長を伸ばして貫徹力を強化しており、

 ソ連は口径を大きくして破壊力の増強を選択していた。

 「それにタイガーは、10トンから20トンも重い」

 「要衝で守りに入られたら同じ重戦車でも格が違う」

 「爆撃を集中して包囲網を破るしか・・・・・」

 「航空部隊の前進を急がせろ!」

 「シュトルモビクと火力支援を集中して、包囲網を崩すぞ」

 「はっ!」

 爆音が近付いてくる。

  

 メッサーシュミットがシュトルモビクを掃射しながら戦線の上空を通過していく、

 ソ連軍陣地から対空砲火が撃ち上がるとメッサーシュミットが逃げていく。

 「ドイツ空軍もたまに現れるな」

 「稼働率が良いのでしょう」

 「ソビエト空軍は前進したばかりですから」

 「まずい・・・」

 「後退すべきでは?」

 「後退すれば督戦部隊に殺されるからな・・・・」

  

  

 華寇軍が北アメリカ大陸に上陸した地点は30ヵ所に及ぶ、

 統制が取れていない部隊、

 無分別な兵士が個々の自由な判断で動く集団を軍隊とはいわない、

 海賊とか、山賊に近い。

 もっとも中国大陸でやっている事と変わらず、アメリカ軍をして梃子摺らせる。

 問題は、上陸地点が陸の孤島で数隻の軍艦を派遣しなければならず。

 華寇掃討作戦に煩わされ、対日反攻作戦の準備が進まないことだった。

 ハワイ

 白レンガの住人たち

 「いい加減、華寇なんて放っといて対日作戦を立てようぜ」

 「国民を守らないと選挙で負けるんだ」

 「あんな、サルどもの為に軍艦を派遣させられて対日戦ができないとは・・・・」

 「日本艦隊は?」

 「・・・動いてない」

 「嬉しいね」

 「中国に資材を取られ過ぎて戦線を拡大できないんだよ」

 「ジャップのバカが猿真似しかできないくせに身の程をわきまえず、背伸びするからだ」

 「大統領も日本の利権を認めてやれば良かったんだよ」

 「どうせ、まともな工作機械は作れないんだ」

 「アメリカが工作機械を日本に売れば、日本が汚れ役で稼いでくれるんだ」

 「だから利幅の駆け引きしていたんだろう」

 「それで日本が折れれば良いものを我を張って戦争しかけてきたんだよ」

 「我って・・・・どっちが?」

 「もう少し、日本が身の程をわきまえている、と思ってたんじゃないか」

 「日本人が、そんな理性的なら軍国主義化したりしないよ」

 「自暴自棄に追い詰めて自滅させようと思ったんだよ」

 「だけど、自滅どころか。こっちが、やばい」

 「とにかく、華寇を片付けないと・・・」

 

 

 

 艦隊航空決戦は、日米海軍だけに許された史上空前、究極の艦隊決戦だった。

 海軍の軍人なら誰であれ、そそられる。

 いや漢なら、誰でも・・・・・・・・・

 しかし・・・

 面白くなさそうな顔の人間には、誰も近付きたくないものだ。

 仕事上、共にいなければならない者は不幸な身の上に撫すくれる。

 ゼロ戦は巡航速度で1時間80リットル、

 ちょっと無理な機動をすれば、さらに消費する。

 ドラム缶1本200リットルの燃料が2時間で消える。

 実戦に出したいと思える飛行時間は500時間ほど、

 ベテランは1000時間以上といわれる。

 あとは、単純な計算だった。

 戦場に出る以前にドラム缶250本を消費し、

 ベテランまで育てるなら500本を消費する。

 当然、機体の耐久年数でパイロット1人につき、3機は、お釈迦になる。

 これが個人の技量のため国が負担する機材と消費する燃料だった。

 あとは、パイロット養成の員数を掛けなければならない、

 他にも諸経費を掛ける必要があった。

 艦載機パイロットは、一朝一夕で育てられない特殊技能者であり、

 国庫を浪費してベテランパイロットを育てる。

 また艦載機パイロットとなれば、空の男と海の男の気質も兼ね持ち合わせていなければならず。

 さらに経費が累計加算される。

 農業国で、こういった人材を揃えるのは簡単ではない、

 そういう状況で、せっかく養成したパイロットを右から左に引き抜かれると面白くなくて当たり前、

 この怒りをどこにぶつけようかと思い図る。

 日本機動部隊が陣容でアメリカ機動部隊を圧倒しても攻勢に出られない。

 燃料不足とパイロット養成でお茶を濁しているのも攻撃力の不足があった。

 隼V型が離着艦訓練を繰り返していた。

 日本機動部隊

 瑞鶴 艦橋

 「・・・・・以下、12名を転属させていただきたい」 しれ〜

 「・・・・・・・・・」 憮然

 人殺し多聞丸と異名を持つ男も、

 手塩をかけて育てたパイロットを紙切れ一枚で右から左に異動させられると

 いい加減、滅入る上に気落ちする。

 部下に真珠湾攻撃、インド洋作戦、ミッドウェー海戦を越える手柄を立てさせたくない、

 南雲長官の策謀だろうか。

 陸上航空戦力でカタを付けたがる陸軍も共謀している。

 向こうは、上級将校の命令書を持ち、

 言ってる事は費用対効果で怪しいが筋が通っている。

 とはいえ、この世界、総論賛成でも各論は納得しがたいは、よくあることで、

 その気になれば “空母航空戦力は繊細でシステマチックだ”

 “ちょっとした掛け違いが命取りで勝敗を分ける”

 などなど、いくらでも反論できる

 当然、己が戦果は進退とも直結し、下手をすれば名誉の戦死、

 お使いの士官を睨みつける視線にも殺意が篭もる・・・・

 とはいえ、海軍軍人は、スマートでなければ・・・・

 「・・・艦に乗っていると、少し運動不足になるな」

 「若いの、一つ、俺の相手をせんか」

 「はぁ〜」

 これでも合気道の達人、

 苦労して育てたパイロットを紙切れ一枚で右から左に持っていかれる。

 この若造を2、3日寝込ませてやろうと思ってもいいじゃないか。

 という気分になっていた。

  

  

 赤レンガの住人たち

 予算は決まっていた。

 予算の比率を変えると質が向上し量が減る。

 量を維持しようと思えば質は変えられない。

 どちらも・・・というのは、国力が大きくならない限りありえない。

 次期主力戦闘機の疾風は、確かに性能が向上する。

 しかし、そのために振り分けなければならない製造工程、工程管理、消耗品、人材を計算すると躊躇する。

 「・・・ムスタングは700km/hで、海燕は時速600kmだ」

 「まともに空中戦をすれば負けるな」

 「しかし、疾風は、本当に670km出せるのか?」

 「誉だと、もっと、たくさんの優良工作機械がないと・・・」

 「速度を出せても全体の稼働率で落ちるよ」

 「しかし、エンジンの耐久時間を考えると練度維持だけで年間2基はお釈迦になる計算だ」

 「陣容を維持できないな」

 「結局、一つの戦場に何機投入できるかで戦果が決まるから・・・」

 「そりゃ まともに飛ぶ機体で数を揃えた方が良いけどさ」

 「サッチウィーブをまともに食らうとやばいよ」

 「それは、疾風でも変わらないよ」

 「たぶん。高高度性能は疑問」

 「あのムスタングとかいうの反則だよ」

 「工作機械を回してくれたらな〜 作れるんだけどな〜 疾風」

 「民間設備投資なんて戦争中にやることじゃないよ」

 「平時にやってなかったからだろう。皺寄せ」

 「ふん! ぬあぁあにが未来への投資だよ」

 「中国の利権に目が眩んでいるだけじゃないか」

 「それはいえる」

 「そんなに儲かるのか? 大陸鉄道って?」

 「そりゃあ〜 儲かるんじゃないか」

 「輸送船どころか、軽巡を使い捨てさせられたんだぞ、元が取れないと納得できん」

 「乗員の新型艦への割り振りは、上手くいったけど。練度は、それなりに維持できる・・・」

 「納得できん!!」

 「大陸依存を増やしたかっただけだろう」

 「しかし、大陸の利権なら元が取れるだろう」

 「でも海軍を後回しにされるとな」

 「それは、面白くないかも・・・」

   

  

  

 中国大陸

 大陸鉄道は、日本のドル箱になろうとしていた。

 日本帝国陸軍が大陸の利権に目が眩んだと言われても否定しようがなく、

 この段階にまで来ると、居直って “それがどうした。文句があるか?” だろうか。

 日本の行為が、世間一般で当てはまる単語は侵略。

 しかし、日本軍の治安維持能力は、大陸の点と線が精一杯で侵略不能といえた。

 そして、中国南京政府の統治能力も低い、

 日本と中国南京政府は、二人三脚で大陸鉄道で収益を上げ、

 地方軍閥を組み込んで押さえる。

 さらに、華寇作戦の勢いで日中同盟が親密になっていく、

 大陸鉄道は、時速130km以上で走るが性能だけでなく、数も求められ、

 社会基盤も必要で、それが日本の国力を著しく消耗させ、

 戦争遂行能力を削がせる。

 食堂車は、豪華な食事が出され駅弁もある。

 日本本土と違って、砂糖、味噌、醤油、酒は、金次第で統制がない。

 それでいて、国民所得の平均は日本より小さいのだから貧富の差が大きかった。

 権威によって奪われ虐げられ、食べ物がなければ、反体制で匪賊にもなるだろう、が道理。

 客車に政府高官が乗って、中国大陸の地図を覗き込む。

 大陸鉄道と揚子江経済圏が記されていた。

 資源の流れと、それに伴う金融・産業・物流・消費など大まかに記されている。

 「・・・ニッケル、タングステン、モリブテン、クロム、マンガンの確保は、それなりに進んでいる」

 「問題は、冶金技術だな」

 「硬度が上がれば加工が困難になる」

 「日本の工作機械は軟鉄用だよ」

 「3式自走砲で懲りただろう。生産が遅れている」

 「3式自走砲は電気溶接にしたんだろう」

 「新型戦車は、さらに装甲の厚みが増すし、割り振りが利かないよ」

 「かといって、装甲が硬すぎるとリベットの穴も、あけられない・・・・」

 「優良工作機械をエンジン部品に注ぎ込むからだ」

 「動かない戦車は、張り子の虎だよ」

 「飛ばない飛行機は、ゴミだ」

 「だけど、装甲を軟鉄に落としたら勝てないだろう」

 「ドイツ技師が車体をモノコックにすれば、もう少し比率が良くなるそうだ。飛行機と同じだな」

 「良いけど・・・スプリングが酷くてね・・・」

 「工作機械を、もっと、マシにすればいいんだ」

 「工作機械は、最優先で底上げ中だよ。軍民玉虫色だけどね」

 「ゴム皮膜って、そんなに大事か?」

 「大陸鉄道の通信が目的なら、無線で十分だろう」

 「無線を頻繁に使うと暗号が解読されやすくなる」

 「有線の優先順位は悪くないよ。軍でも使うし」

 「底上げだから目に見えては大きくならないよ」

 「梅毒予防に使えるらしいけど・・・・」

 「生めよ、増えよ、地に満ちよ政策なのにゴム皮膜なんかいるか?」

 「それが日本でゴム皮膜産業が軽視された原因ね」

 「油紙の銅線で戦わされている機体は悲惨だな」

 「華寇作戦で、どこまで時間稼ぎできるかだな」

 「日本軍は、華寇作戦をやらないのか」

 「日本軍人の強盗殺人は少ないから、無視されるよ」

 「その点、漢民族と朝鮮民族は天性の才能があるから・・・」

 「やれよ」

 「軍隊は、統制を重んじるからね。兵士の無分別を嫌うんだ」

 「強盗も、強姦も、規律を乱す。軍規違反だよ。世界の常識」

 「そんなに日本軍のモラルって高かったっけ」

 「相対的にね。命令でやるのなら良いけど・・・・完全な軍隊なんてないよ」

 「だけど華寇作戦も難しくなってきているんじゃないか」

 「アメリカは海岸線に自警団を編成している」

 「上陸した疑いだけで大騒ぎになるよ」

 「1人の上陸に対して100人は動く、輸送費を引いても費用対効果で悪くない」

 「そうか?」

 「アメリカ人100人を生産ラインでなく、海岸警備につかせれば、それだけ有利になる」

 「50人も上陸させれば5000人が動く」

 「しかし、日本も戦車より機関車じゃ 本当に戦争をしているのか、と疑わしくなる」

 「主導権が陸軍から拝金主義に変わってきたかな・・・・・」

 「陸軍だって、金が欲しかろうよ。口で粋がっていてもね」

 「敵に強くても、金に弱いか」

 「あははは」

 「笑えねぇ」

  

  

  

 潜水艦と大型飛行艇による豪州上陸作戦が時折、行われ、

 中国人と朝鮮人の無分別な刹那主義、快楽主義が、

 オーストラリア人とニュージーランド人を苦しめる。

 処刑場

 「や、止めるニダ・・・助けてニダ・・・」

 「朝鮮人じゃないニダ。日本人ニダ」

 「そ、そうある。わたし、華寇じゃないある。漂流したある。被害者ある」

 「違うニダ。日本人ニダ。助けてくれニダ!」

 「死にたくないある〜」

 「もう、華寇、やめたニダ!」

 「日本の犠牲者ある。死ぬのいやある〜」

 持たされたのが武器弾薬で食料が渡されず、

 なのだから言い分を聞けば、情状酌量の余地もある。

 しかし、結果的に強盗殺人暴行では、全て、日本人のせいにしても足りない。

 黄色い悪魔、トロールの襲撃と思われても仕方無しだろう。

 銃声が轟くと、木に縛られた男たちが力尽きていく。

  

 

 

 

 南太平洋は、自給自足政策と華寇作戦の影響で、

 程度の低い航空戦が行われるだけの戦場になっていた。

 ガダルカナル最高峰マカラコンブル(2447m)の頂に電探が配置されていた。

 そして、有人の観測気球が浮かぶ。

 なぜ二つも?

 理由は、日本製電探装置が疑心暗鬼に陥るほど、しょぼ過ぎた。

 そして、早期警戒で成果のある三式指揮連絡機が中腹の洞穴に向かって滑り込むように着陸する、

 ショボイ飛行機なのだが短距離離着陸性能は、シュトルヒより優秀で、

 監視塔、電探基地との連絡、人員交替などで有用だった。

 

 ガダルカナル上空

 日米航空戦が展開されていた。

 海燕30機、ムスタング10機で、戦闘機同士のドックファイト。

 有人観測気球は、日米航空戦のほぼ中心で、特等席だった。

 「・・・早く、ゴンドラを降ろせ、狙い撃ちだぞ」

 「わかっているよ」

 「・・・・・・」

 「おまえ良く平気で写真とっていられるな」

 「ファインダーを覗くと、他人事・・・」

 「俺にも見せろよ」

 「・・・駄目。これは、俺の任務」

 

   

 速度差が100kmも違えば追撃不能なのだが空中戦は、機体差だけではない、

 高度差と降下速度を足せば、追い込める。

 また連携も問われた。

 この時期の日本機は、比較的無線機の調子が良く、相互支援しながら戦う事ができ、

 一方的にカモにされたりはない。

 ムスタングに追撃されていた海燕が木の葉落とし、

 ゼロ戦と違って翼面荷重が小さい海燕は、舞い落ちるでなく完全な失速。

 いや、墜落。

 これを低空でやるのは、命懸けだった。

 高度、推進力、揚力を合わせた運動エネルギーで勝っている側が航空戦で優位だった。

 その為、航空戦の最中、運動エネルギーを落とし、意図的に失速させるバカはいない。

 その時点で、標的、カモなのだが、

 葉落としは、緊急事態の航空戦術だった。

 ムスタングは、目の前の敵機を見失って混乱し、

 支援していた海燕が機銃掃射して撃墜する、

 日本機は、機数で勝り、無線が使える条件で、この木の葉落としを多用する。

 失速した危ない状況でも数に任せて相互支援すれば、ムスタングを出し抜く事ができた。

 「・・・爆撃機は、随伴していないようだな」

 「戦闘機による強行偵察のようです」

 生き残ったムスタングが逃げていく、

 「行ったか・・・」

 「ええ、凌ぎきったようです」

 「昼間は戦闘機部隊で強行偵察」

 「夜は爆撃機で強行偵察か、攻撃が近いのかな」

 「アメリカは、空母を10隻以上就役させているそうですよ」

 「すげぇ〜」

 「でも相手がヘルキャットなら、嬉しいかも」

 「そりゃ ムスタングよりな」

 「しかし、噂だとエセックスにコルセアを載せ始めたらしいが」

 「・・・コルセアですか? それ、まずいですよ」

 「隼V型じゃ・・・勝てんな」

  

  

 ガダルカナルで町並みが広がっていた。

 農家出身は、自給自足の習慣があった。

 そして、手に職のある家の出身は、その職に意識がある。

 ちょっとした日本人町が作られると現地民との融合も進んでいく、

 現地民にすれば、採取・狩猟生活から農耕生活の切り替えは、驚天動地。

 日本人の知識は、未知との遭遇で、

 日本語を覚え目に知性の輝きを見せる現地民が急増し、

 生活環境を変化させていく、

 「・・・最近は、爆撃が減ったな」

 「南太平洋の小さな島にも華寇軍を上陸させたからな」

 「哨戒機を取られているんじゃないか」

 「平和だね〜」

 「タダでさえ生きていくの辛いのに殺し合っていたんだからね」

 「こうやって、日常の仕事だけで済むんなら天国だね」

 壁には、日米戦力比が記された紙が張ってある。

 そして、ココナッツ・ヤシの酒と新作タロイモ焼酎がテーブルにおいてある。

 さらにサトウキビから作られたキャラメルも置かれている。

 将校たちは、アボガドに醤油を浸けて食べる派と塩をかけて食べる派に分かれる。

 因みに醤油も、塩も、ガダルカナル産・・・

 内地が食料で統制され、

 代用砂糖の配給すら事欠いていることを思えば、奇異に感じる。

 敵の空襲が減ると、だらけてしまうのか、

 自給自足体制の構築が主眼になっていく、

 むろん、兵士のそばに小銃こそ置いているが持ち歩くと作業の邪魔になった。

 会話の内容も敵戦力がどうのこうの・・・・といった軍事用語が減り、

 「・・・・タロイモ焼酎は、いまひとつかな」

 「普通にジャガイモにした方がいいよ」

 「栽培に成功したら、だけど・・・・」

 「標高が高いと日本の作物もいけそうだけど」

 「現地物も評価が高いような気もするな」

 「そういえば、紡績機が来たって?」

 「ラバウルに入っていたぞ」

 「いいなぁ 綿花栽培に成功していたからな」

 「こっちも綿花畑が欲しいよ」

 「それにラバウルの洗剤が良い」

 「洗剤に柑橘系を入れるって聞いたな」

 「ココナッツやヤシだけより良いのかな」

 「廃油をもう少し精製しないとな」

 「んん・・・・それもあった」

 「しかし、だいぶ世俗化してきたな」

 「ふっ 考えてみたら、宗教も、軍隊も、崇高な精神で究極の非日常、非世俗だからね」

 「爆弾が落ちてこないのなら人間の基本は、衣食住の世俗だよ」

 「す、少なくとも軍隊は、世俗を守るためにあるぞ」

 「宗教だって少し寄付すれば高潔な背景のため生活してきたって、宇宙的な自己満足で癒しを与えてくれる」

 「そ、そうだけど・・・」

 「そういえば、この前、落ちてきたB24爆撃機にアイスクリームがあったな」

 「冷蔵庫なんか、なかったのに」

 「高度が高いと、凍るんだよ」

 「砂糖、ミルク、卵、クリームを溶かした容器を載せて飛べば、程よくアイスクリームが食べられる」

 「むっかぁ〜 あいつら戦争を冒涜しとる」

 「100式司偵なら・・・できるかも・・・・」

 「んん・・・アメリカ軍の戦略思考を学ぶ為に、ちょっと、やってみるか」

 「ふ、普通にアイスクリームを作れば良いだろう」

 「そんなものに燃料を使うなよ」

 「いや、冷蔵庫ないし、索敵だから」

 「索敵で10000m越えることないだろう」

 「いや、性能確認もしないと実戦で慌てて上っても支障があるだろう」

 「・・・・」

 「クリームって、あったっけ」

 「まぁ 原料は、牛乳だろう」

 「攪拌すればクリームになるんじゃないか」

 「水牛の方が、たくさん取れるから作れないこともないけど」

 「植物性のものでも攪拌して、できないことはないな」

 「よーし、いろいろ混ぜてトロピカル風にするぞ」

 「良いのかなぁ・・・」

 「きっとパイロットたちは、アイスクリームを守るために命懸けで戦ってくれるよ」

 「天皇陛下のために戦っているんだよ」

 「だから、アイスクリームもプラスアルファでパワーアップするんじゃないか」

 「祖国防衛は動機が多いほど効果的なんだよ」

 「「「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」」」  疑いの目

  

  

 タイコンデロガ

 アメリカ太平洋艦隊は増強されていた。

 エセックス型空母 5隻

  ホーネットU、フランクリン、バンカー・ヒル、タイコンデロガ、ハンコック。

 インディペンデンス型軽空母 5隻

  プリンストン、ラングレーU、カボット、バターン、サン・ジャシント。

 戦況は悪化していた。

 華寇作戦で戦力が分散され、

 慣熟訓練が必要な空母も多く悩みは尽きない、

 艦載戦闘機をヘルキャットからコルセアへと切り替えるのも、

 質的な性能差で戦力比を埋める為だった。

 戦艦ワシントン、サウスダコタ、インディアナ。

 戦艦アイオワ、ニュージャージー、ミズーリ、ウィスコンシン。

 戦艦は、満足しうるものがあったが攻勢をかけるには足りない。

 

 

 空母ホーネットU 作戦室

 「「「「・・・・・・」」」」 ため息

 アメリカ海軍の図上演習の結果は、よくない、

 日本側についた新任の参謀が基地防空を成功させ、

 アメリカ海軍の掃海艇を機銃掃射と爆撃で壊滅させてしまうと。

 図上の侵攻作戦が頓挫する。

 アメリカ軍人は、サイコロの目でインチキをしないだけの健全性と良識があった。

 「・・・防潜網があるとLSTは進めず」

 「上陸用舟艇も海岸まで届かないか・・・」

 「立ち往生すれば船ごと狙い撃ちだな」

 「空母戦力を冷静に判断すれば時期尚早だよ。まだ、攻勢より守勢だな」

 侵攻作戦ができる戦力差になっていない。

 「厳しいな・・・」

 「日本機動部隊の航空戦力が噂どおりなら半戦力。何とか、なりそうなのですが・・・・・」

 「計算上の裏付けがあっても出所が信用できんよ」

 「日本の基地航空戦力の強靭さからすると、ありえるのでは?」

 「パイロット、整備士、消耗品」

 「ある程度、充実していなければ、あの防空能力。迎撃力は、ありえませんよ」

 将官が、疑い深げにレポートを見る。

 「・・・まともな、航空戦力を有しているのは、第一、第二機動部隊だけ」

 「それも半分は陸で教官だと・・・・」

 「日本のパイロット数を概算すると、そうなりますね」

 「じゃ 攻撃したら」

 「慌てて、空母パイロットを招集して迎撃は、第一、第二機動部隊だけ・・・・」

 「少し遅れて、第三機動部隊でしょうね」

 「んん・・・」

 「それでも、現状では、まだ足りん。インド洋に穴を開けても・・・」

 「イギリス機動部隊は、まだ、来れないのか」

 「イギリス海軍は、大陸反攻作戦成功とティルピッツを沈めるまで艦隊を北大西洋から動かしたくないとか」

 「くそぉ〜」

 「欧州大陸反攻は通商破壊で計画より物資輸送が遅れている」

 「ティルピッツは、ドイツ防空部隊が配備されて艦載機だけでは困難らしい」

 「忌々しいな」

 「図上演習ですが日本人の気質から掃海艇狙いは、ないと思いますが・・・」

 「日本機は防弾が考慮されていないからな」

 「掃海艇でなく、大型艦狙いなら被弾機多数で思う壺だ」

 「しかし、最近の日本人は金に目が眩んでいるらしいからな」

 「金に目が眩むと自己満足的な勝ち負けより損得で判断しますからね」

 「単純に交換比で損をさせられたら辛いですよ」

 日本側に着いた新人参謀は交換比で有利な掃海艇、輸送船やフレッチャー型駆逐艦に攻撃を集中する、

 駆逐艦1隻の乗員は約300人。

 上陸部隊が乗った輸送船は、さらに悲劇的。

 アメリカ軍攻略部隊の損失は目も当てられない。

 日本の前線基地は機能を十分に果たし、

 アメリカ軍の戦力を暫減しつつ果てようとしていた。

 この損失を減らす方法は、単純明快でランチェスターの法則で有利になること。

 被害甚大で次の攻勢を遅らせる。

 「まずいな・・・・・」

 「P61ブラックウィドウを多用すれば、もう少し、有利になるのでは?」

 「P61ブラックウィドウは、対ドイツ戦に取られているよ」

 「太平洋には、2、3機が配備されているだけだ」

 夜間航空戦になれば、P61ブラックウィドウの独壇場で日本に対抗できる機体はなかった。

 一方的に攻撃できて、ランチェスターの法則は、アメリカ側に跳ね上がる。

 

  

  

   

 メキシコの海岸

 日の丸をつけたガトー潜水艦が二式大艇に給油していた。

 そして、二式大艇から、数十人の華寇軍が降ろされていく。

 同時進行でやるのは、発見を恐れてのこと。

 華寇軍将校に武器箱の鍵が渡され、海岸に取り残される。

 二式大艇は、給油を済ませると飛沫を上げながら滑走しつつ滑空し、

 日本へと帰還していく、

 飛行艇は、日本潜水艦から何度も給油しなければ、日本の拠点にたどり着けなかった。

 日本は華寇作戦のため、通商破壊戦を一時棚上げにしている。

 華寇作戦は罪悪感から徒労に似た気持ちを乗員に起こした。

 結果的にアメリカ軍をして、海岸線警備に予算を注ぎ込ませ、

 華寇軍が内陸へ行くほどアメリカ社会に相互不信を起こし、

 参戦した同盟国の不信を買う。

 正気な国は、国内治安を犠牲にしてまで参戦しない。

 日の丸をつけたガトー潜水艦 艦橋

 「・・・そろそろ、行くか」

 「帰還中に敵艦を発見できれば良いんですがね」

 「そうだな・・・」

 捕獲したガトー潜水艦は機械的な信頼性が高く、調子がよかった。

 アメリカ海軍を混乱させることもできる。

 しかし、魚雷は限られており、通商破壊に投入できるほどではない。

  

  

 夏のアラスカ州

 アメリカ上陸作戦部隊が華寇軍を狩り出していく、

 しかし、夏になると気温が上昇し、

 冬と違って華寇軍は、村の占拠にこだわらずに済んだ。

 そして、白夜と濃霧は華寇軍の逃亡を容易にしてしまう。

 海賊とか、山賊とか、武装犯罪組織に近い彼らを追い立てるのに戦車は、勿体無い。

 しかし、華寇軍は、多すぎた。

 「・・・・くそぉ〜 忌々しい霧だ」

 「軍曹・・・少し固まった方が良いのでは?」

 「華寇軍を相手に何をビビッテいる!」

 「しかし、この濃霧では、武器は使えませんし・・・」

 「単純に・・・兵の数がモノを言うのでは?」

 「んん・・・」

 そして、周辺から悲鳴と怒号、銃撃音が聞こえ、

 辺りが喧騒に包まれていく、

 「敵襲!!!」

 「戦闘開始!!」

 しかし、濃霧で視界が数メートルで、ガーランドよりカービン、

 カービンより拳銃が有利だった。

 そして、M4戦車も数十人の華寇軍の襲撃を受けた。

 「うぁ! 全速前進!!」

 軍曹は車内に隠れ、

 M4戦車が逃げ出すが渓谷から落ちてしまう。

 そして、混乱したアメリカ軍は、同士撃ちを始める。

  

 

 アメリカ旧戦艦部隊。

  ネヴァダ、ペンシルヴァニア、テネシー、

  カリフォルニア、メリーランド、ウェストバージニア。

 使い道としては、侵攻作戦。要衝防衛など裏方で有用だった。

 そして、日本の華寇作戦で、

 これら旧戦艦部隊は、沿岸警備と華寇軍の掃討に転用させられ、

 対日作戦が困難になっていた。

 アラスカ沖 

 戦艦ペンシルヴァニア 艦橋

 上陸部隊からの通報を受け、

 時折、支援の艦砲射撃を繰り返していた。

 「増援の船団が機雷源で遅れているだと」

 「どうやら日本の潜水艦は通商破壊より」

 「華寇作戦と機雷敷設に力を入れている様です」

 「くっそぉ〜 この霧では掃海も遅れる」

 「よく、この霧で機雷を敷設できたものだ」

 「輸送船ごと乗り上げた華寇軍は、数が多いので掃討に手間取りそうです」

 「日本軍は、追加の上陸作戦を計画しているんじゃないのか?」

 「いえ、輸送船ごと、というような大規模な計画は兆候がないかと」

 「けっ!」

 「司令部は、西オーストラリア上陸作戦とアラスカ上陸作戦は兆候がなかったと言ってたよ」

 「いくらなんでも小型船の片道上陸で。次は、中型船の片道上陸ですからね」

 「同じ手は食いませんよ」

 「別の手を考えているに決まっている」

 「しかし、日本も輸送船が減少しているので、これ以上は、困難かと」

 「今度は、戦艦を突入させてこないだろうな」

 「まさか・・・」

 「まったく・・・・・」

 

 

 

 

 大きな島であれば、自給自足が可能であっても小さな島は、それも困難。

 ミクロネシアは、そういった島が多く、

 船舶が減少した日本は、維持が難しくなっていた。

 それぞれの島の日本軍守備隊は、アメリカ上陸作戦に備えて作戦を練っていた。

 「・・・アメリカ軍は、まず、通商破壊によって島の補給路を断つでしょう」

 「その後、空爆を加えて弱体化させて艦砲射撃」

 「その後に水陸両用強襲車両を先頭に作戦が、オーソドックスな攻略法と思われます」

 「その時点で防潜網と捕獲網は寸断され」

 「艦砲射撃で、主要な砲台は潰されてると考えるのが妥当だろうな」

 「はい、島に立て籠もる守備隊の武器弾薬、食料は乏しいですから」

 「もう少し、武器弾薬と食料の備蓄が欲しいな」

 「・・・大本営は、武器弾薬の輸送をなんと?」

 「んん・・・機関車が、どうのこうの言ってたと思ったが・・・・」

 「耳を疑いたくなりますね」

 「大陸軍は、我々を盾にして、私腹を肥やそうとしているのでは?」

 「国益に反映されるのなら無駄ではないと思いたいがな」

 「しかし、この程度の防衛力と備蓄では無駄死にです」

 「地下壕は、広げているのだろう?」

 「はい、有線も繋げているので指揮系統は維持できると思われます」

 「地下壕は、同じ場所に命中しなければ、40cm砲弾の直撃でも耐えるらしい」

 「深過ぎませんか?」

 「反撃時に地上に出るのが遅れ、支障が出ます」

 「計算したのは、俺じゃなくて数学者だ」

 「学者に戦争が、わかるんですかね・・・」

 「少なくとも機動部隊の艦載機パイロットを集結させるのに時間が必要らしい」

 「それまで、地下で持ち堪えろと?」

 「らしいね」

 「本当は、大陸軍が時間を稼いで欲しがっているだけでは?」

 「太平洋には、ろくな利権が無いからな・・・」

 「大佐。我々は、利権のあぶれ組みですか?」

 「軍人としての高潔性を追求できるじゃないか」

 「地下壕内に相応の武器弾薬を隠せます」

 「しかし、M4戦車、M3軽戦車が相手になると撃破できるかどうか・・・」

 「擲弾筒と迫撃砲じゃな・・・」

 「ドイツ軍のパンツァーファウストが欲しいよ」

 「構造としては、それほど難しくないようですが・・・」

 「構造で難しくなくても、精度を求められると造れなくなるのが日本だからな」

 「現状戦力で、アメリカ兵だけでも、やれと言うことでしょうね」

 「だろうな・・・」

 日本軍は、ドイツ軍のような充実した装備は、望めなかった。

  

 

 


 月夜裏 野々香です。

 史実の五式戦闘機と、この戦記の海燕は、似てます。

 品質・規格が良いのと、自動空戦フラップを装備。

 海燕の方が、微妙に性能が良いです。

 爆撃機のほうは、彗星。

 どちらも、原型が同じ水冷エンジンを使って、

 同じ空冷エンジンに換装しているところが同じ。

 性能は、それほどでもないですが稼働率だけは史実より上。

 数で勝負という感じです。

 双発機は飛龍で、こちらも史実とだいたい同じで、稼働率は、上。

 

 もう一つは、百式司偵でしょうか。

 この戦記では、偵察だけでなく、航空戦術指揮。夜間戦闘機などでも活躍しています。

 しかし、通信はソコソコ。電探は程度が低く、

 P61ブラックウィドウからみると煩わしいカモでしょうか。

 

 

 大陸鉄道

 軍国主義に対するワクチンは、拝金主義しかないと・・・・・

  

 

 

   

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