月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

 

第27話 1944年08月 『うん、ごめんね♪』

 ベーリング海、

 2隻の大型艦艇がアメリカ機動部隊の艦載機の空襲を受けていた。

 ドイツは、連合国の戦力を対日作戦に割くため

 戦艦ストラスブールと空母グラーフ・ツェッペリンを太平洋に回航させる。

 アメリカ艦載機の波状攻撃は霧が深まるにつれ、立ち消えて行く、

 この辺りの海域は、カムチャッカ半島の海岸線に近く、

 戦力的には、空白地帯だった。

 アメリカ機動部隊は、アッツ島より西側に機動部隊を進出させ、

 日本の勢力圏へ近付いていた。

 損害は、戦艦ストラスブールと空母グラーフ・ツェッペリンは爆弾が1発ずつ命中し、小破だった。

 砲撃が轟き、ストラスブールの周囲に水柱が吹き上がる。

 ストラスブール 艦橋

 「ボルチモア型2隻のようです」

 「また・・・しつこいな・・・」

 艦長と副長は、海図を覗き込み、

 カムチャッカ半島と敵艦隊の位置と速度で航路を計算し、

 定規で航路を引いていく、

 「・・・霧が深くなれば巡洋艦の追撃」

 「霧が途切れたらアメリカ機動部隊の空襲ですね」

 「ストラスブールが重巡に追い立てられるとはな」

 「高速戦艦が来なければ逃げ切れると思います」

 「時化気味の霧の中で、長距離射撃・・・・」

 「まだ命中していませんが巡洋艦に射撃用レーダーを装備しているのは流石ですね」

 「ドイツ製レーダーより性能が良いようです」

 「しかし、アメリカ海軍は、何を考えているんだ」

 「こんな、僻地に機動部隊や戦艦を配備している」

 「日本のアラスカ上陸作戦の余波でしょう。まだ、掃討しきっていないかと・・・」

 ストラスブールが水柱に包まれる。

 「峡叉されたぞ!」

 「次の転舵で、当てろよ」

 「はっ!」

 「問題は、空襲だな」

 「はい、霧が出てきたようですし、空襲は、もう、ないかと・・・」

 ストラスブールは、時々、回頭し、

 艦首の主砲を敵艦に向け、追撃してくる重巡に砲撃を加える。

 アメリカ艦隊に水雷戦隊が随行していた場合、艦腹を見せるのは、危険だった。

 しかし、天候が厳しいのか駆逐艦は不在。

 蛇行を繰り返すと高速戦艦が接近してくる可能性が高く、

 蛇行を繰り返せば、旧式戦艦でも追撃される。

 何よりストラスブールは先行する空母グラーフ・ツェッペリンを守る必要があった。

 ドイツ海軍のレーダーにアメリカ巡洋艦の影が映り、砲撃が加えられる。

 アメリカ巡洋艦も、こちらの動きを読んでいるのか転舵に合わせて進路を変える。

 当て難い。

 それでも霧の向こう側から爆発音が響いた。

 艦橋で歓声が起こる。

 「やったか?」

 レーダー観測員が注目される。

 「・・・1隻が後退していきます」

 「もう一隻は?」

 「・・・速度を落としていますが追撃は続けています」

 「やれやれ、大量の燃料を消費して極東か、総統のプレゼントは、高くつくかもしれないな」

 「全速とは行きませんが日本まで到着できそうです」

 「迎えが来れば良いが・・・」

 「日本側には、事前に伝えていませんからね」

 「ドイツでも上層部の一部しか。知られていません」

 「敵を騙すには味方からだろうな」

 「だが、それも、あと3時間で、千島に着く」

  

  

 空母ハンコック 艦橋

 「・・・提督。ボルチモア大破だそうです」

 「それと、これ以上の追跡は、燃料が足りなくて困難かと・・・」

 「霧が無ければ、もっと艦載機を集中できたものを・・・・」

 「霧が無ければ、巡洋艦で高速戦艦を追撃できません」

 「・・・やれやれ、練度の低い部隊ばかりで追撃戦をやるからだ」

 「ベーリング海域にいたのが練度不足の艦隊だっただけでは?」

 「練度不足解消の華寇狩りで、この海域に回されていたのだろう」

 「もっと早くわかっていたら大型巡洋艦アラスカを配備できました」

 「この天候だ」

 「アラスカ沖の配置が悪ければ知らないうちに、ドイツ艦隊が日本本土に入り込むところだった」

 「提督・・・これ以上の追撃は・・・・・」

 「・・・撤収する」

  

  

 千島、占守沖

 朝靄の向こうから突然、戦艦ストラスブール、空母グラーフ・ツェッペリンが出現する。

 「・・・なんだ〜・・・・アメリカの新型戦艦? と空母?」

 「・・・ドイツの旗です」

 「・・・ドイツ海軍・・・?」 呆然

 「・・・なぜ・・・・・」

 日本政府がドイツ政府から艦隊派遣の連絡を受けたのは、

 2隻がベーリング海峡を突破して、しばらく経った後、

 後手に回った報告に日本側も混乱する。

 戦艦ストラスブール、空母グラーフ・ツェッペリンは、海防艦の先導を受けながら舞鶴港に入港し、

 その後、給油を受けて、呉の回航が決まる。

 

 

 空母グラーフ・ツェッペリン 格納庫

 日本軍武官とドイツ軍武官

 「・・・本当なら、勝手に任地を離れると軍法会議で厳罰なんですがね」

 在ドイツ軍武官が呟く、

 「お互いに暗号が解読されている可能性がありますから」

 「まぁ これだけの土産があれば事なきを得そうですがね」

 「兵器でなくても良かったのですか?」

 「ええ、日本が欲しいのは、工作機械や治具ですから」

 「半分が、フランス製、イタリア製、チェコ製でも御の字ですよ」

 「兵器の現物は、一つあれば十分です」

 「戦場で勝つには兵器ですが、戦争に勝つには工作機械ですからな」

 「まったくです」

 「ドイツの工場で学ばされました」

 「日本軍は戦場で勝つことしか考えられない軍人が多すぎますよ」

 「あははは・・・・」

 「もっと、ドイツ製工作機械を輸送したかったのですが生産調整の関係があったので・・・」

 「いえ、十分、助かります」

 「この空母も使い応えがあるでしょう」

 「未完成ですが、それでも十分に役に立ちますよ」

空母グラーフ・ツェッペリン
排水量 全長×全幅(m) 吃水 馬力(hp) 最大速度(hp) 航続力(浬) 飛行甲板(m) 艦載機
23200 251.5×31.3 7.0 200000 32 8000 240.7×26.97 約40機
55口径150mm連装砲 55口径150mm単装砲 65口径104mm連装高角砲 83口径37mm連装高射機関砲
4基    4基   6基 11基

 「空母は、戦艦と違って構造が単純ですからね」

 「大砲は、降ろした方が良いようです」

 「砲の性能はドイツが良いようですが・・・」

 「ええ、補給整備の問題もありますから、それに戦局から求められているのは純粋な空母ですし」

 「島礁防衛ですから」

 「確かに・・・そういう考えもあるのでしょうね」

 「いまのところ、アメリカ海軍の攻勢が遅れているようですから急ぐことはありませんが・・・」

 「資源の方は?」

 「最優先で送り届けることになりそうです」

 「助かります」

 「日本の通商破壊作戦と華寇作戦で米英封鎖哨戒能力が割かれ、柳船の帰還率も良いようですし」

 「総統閣下も日本が陸軍主導で協力しやすいとの事です」

 「・・・華寇作戦については、なんと?」

 「華寇作戦。良いですな。欧州では不可能です・・・」

 「総統閣下は・・・呆れていた様に思いましたが・・・」

 「・・・・」 苦笑い

 日独連絡は、好むと好まざるとに関わらず密接になり、

 封鎖突破船(柳船)の隻数も増えていく、

 日本は、ドイツが強靭になれば、連合国の戦力が欧州側に割かれると計算し、

 ドイツも、日本の潜在能力が強まれば、連合国の戦力が太平洋に割かれると計算する。

 どちらも似たようなことを考えているのだから互いの意図にも気付く、

 問題は、米英の受け取り方だった。

 ソース配分でアメリカに空母を余計に建造させれば、ドイツが助かり。

 アメリカに爆撃機を余計に製造させれば、日本が助かる。

 

 

 

 東部戦線は、膠着状態に陥っていた。

 ソ連軍の主戦力軍はドイツ軍に包囲され兵団が消耗していく、

 スターリンの命令を聞いて死んでいくか。

 包囲網を逃れて逃げ出すか。

 降伏するか。

 スターリンは最大可能な時期まで死守命令を出し、

 頃合を見計らって撤退命令を出した。

 この辺りは、スターリングラード時のヒットラー総統と気質が違う。

 ドイツ軍はソビエト軍の攻勢から包囲網を守りながら、

 ソ連軍兵士の逃亡を防ぎきる戦力は残っておらず。

 包囲されたソ連軍130万の内。4分の1が戦死。4分の1が降伏。4分の2が逃亡に成功する。

 包囲内のソビエト軍、戦車4500両、航空機3000機の内、半数が破壊され、

 半数がドイツ軍に捕獲されてしまう。

 一方、ドイツ・イタリア・東欧軍80万の内、4分の1が戦死し、

 残りは、ドニエプル川防衛線の内側へと向かっていく、

 ソビエト軍は、再編成と後続の増援がなければ、反攻ができない為、

 東部戦線は停滞していく、

 

 

 十数両のタイガー、パンター戦車が、橋を守っていた。

 そして、捕獲したT34戦車が橋を渡り、

 3号車と4号車が捕獲した大砲を牽引して橋を渡っていく。

 「・・・ソ連軍は?」

 「前進していますが射程外です」

 「射程内に近付いたら。遠慮なく砲撃しろ」

 「部隊が橋を渡りきるまで橋を死守する」

 ドイツ軍は、降伏したソ連軍の兵器・武器弾薬、資材を

 ドニエプル川防衛線の内側に運び込むことに成功させ、

 ドニエプル川防衛線にまで後退していた。

 独ソ両軍は大河を戦線にすると安穏とした空気が流れはじめていた。

 キエフ ドイツ軍司令部

 「包囲戦で、随分、粘られたな。損失が大きい」

 「ソ連主力軍を壊滅させ、戦利品を大量に捕獲できたので収支は良いと思うが・・・」

 「ランチェスターの法則でいうと割り得だけど、損失比で際どいね」

 「ソ連軍は戦力が大きいからね」

 「だいたい、ロシア人は、多すぎるよ」

 「ソ連軍は、不満分子、少数部族、捕虜を弾除けに使っている」

 「そういえば、日本が華寇作戦で似たようなことをしていたな」

 「少なくともスターリンは、形式的な名称を作らない程度、頭がいい」

 「華寇作戦の数十倍の規模でも名称なしの現象なら忘れ去られる」

 「しかし、名称をつけたが最後、戦後も永遠に言い続けられるよ」

 「日本の将来も高くつきそうだな」

 「そして、日本の脅威が増せば、それだけドイツは有利」

 「しかし、日本に工作機械を送ったらしいが、ドイツ国内生産は大丈夫なのか?」

 「さあ、半分は、フランス製か、イタリア製だろう。どっちかというと工作機械より原料が足りない」

 「そりゃ 希少金属を十分に使ったタイガー戦車は最強だよ」

 「日本とドイツ、どっちが得か。だろうね」

 「いや、アメリカとイギリスが日本とドイツのどっちを脅威と思うか。だよ」

 「それで、アメリカとイギリスがドイツより日本を危険だと思うのかい?」

 「ありえないよ、日本なんて野蛮人だからね」

 「野蛮人を先に片付けようと思ってくれれば助かるよ」

 「対ドイツ作戦を止め、とはいかないだろうが・・・」

 「ティルピッツ、シャルンホルスト、リュッツォウ、アドミラル・シェーアも送ってやれば良かったんだ」

 「いくら何でも、そこまでの決断は難しいだろうな」

 「アメリカ政府は華寇作戦で国民から突き上げられている」

 「もう一歩で天秤が引っくり返ったかもしれないんだぞ」

 「その天秤が、どの程度で傾くのか。が、わからないのだろう」

 「東部戦線は、ドイツ水上艦隊が無くても困らないか、無い方がせいせいする、というか」

 「そりゃ 東部方面軍にすれば、軍艦に予算を使わず、戦車よこせだからね」

 「増援は?」

 「後退したからね、補給は増えるだろう」

 「しかし、来るのは武器を持たせたくないような子供ばかりじゃないか、精鋭とはいえないな」

 「装備を更新できれば・・・不足も少しは埋まるよ」

 「そりゃ 3号戦車より。4号戦車の方が多いがね・・・」

 窓の向こうを20代の若い兵士が行進していく。

  

  

 ベルリン

 捕獲されたT34戦車が並ぶ。

 目的は、国民高揚。

 そして、修理改修して “大西洋の壁” 数ヶ所に配備される。

 主戦線が東部戦線でもT34戦車が東部戦線にあると敵味方共に紛らわしいらしく、

 キングタイガー、パンター、4号戦車を東部戦線に配備、

 3号戦車、4号戦車と捕獲戦車を西側に並べた方が良いらしい、

 もっとも “大西洋の壁” のドイツ軍は、戦傷者、闘病兵、老兵、若兵が大半を占め、

 一部は、外国人兵士まて戦力として使っている。

 行進を見守る将校の表情も曇っていた。

 「・・・大西洋側は、大丈夫か」

 「イタリア軍の奮戦と今回の巻き返しで、しばらく押さえられるはずだ」

 「T34戦車の補修は、できるのか?」

 「配備ヵ所を限定すれば運用できるよ」

 「配備ヵ所を増やしたいな」

 「工作機械を日本に送って弾薬を供給できないそうだ。難しいな」

 「スターリン重戦車まで持ってきたのか・・・」

 「弾数が少ないがアメリカ軍相手なら使えるだろう」

 「アメリカ軍が相手なら弾数が多い方が重要だよ」

 「工場を取られるが88mmを装備できるかどうか、検討してみるか」

 防空サイレンが鳴り響き、

 アメリカ戦略爆撃部隊の空襲を知らせる。

 「上陸してきたら、困るな」

 「まったく・・・・」

 

 

 

 重慶

 人海戦術で建設した揚子江鉄道が重慶にまで到達していた。

 建設で想像したくないほどの命が失われ血が流され、大陸の未来を支える。

 中国大陸の未来が明るいかと問われれば、

 大陸鉄道以前より豊かになるだろうと予測でき、明るいと答えられる。

 しかし、光が漢民族を照らすかと言われると少しばかり目減りする。

 銃声が響いて中国人、朝鮮人、日本人の声が行き交う。

 3者とも仲良く、とは行かないが当面の敵はアヘンだった。

 むかしは、欧米列強が私腹肥やしで、やっていたことだった。

 いまは、華僑がビルマ域から運び込んでいる。

 中国人、朝鮮人、日本人とも闇経済の恩恵を受けている者も少なくなく、喧騒を見守る。

 同国人を蝕み、滅ぼしかねないアヘン、

 しかし、お得様だったり、職場を失いかねなかったりで、

 憎むより日和見が多かった。

 「アジトを全滅させたある」

 「問題は、勢力争いで、どこが縄張りを伸ばして来るかニダ」

 「元から断たないといけないが、これで少しは懲りただろう」

 「やっぱり、見せしめが必要ある」

 「公開死刑ニダ!」

 「・・・追加の華寇を募集していたけど」

 「こいつら、悪すぎるある」

 「白人の女と、やらせるのは勿体無いある」

 「信賞必罰ある」

 「そうニダ。こんなやつらを英雄にするのは絶対に反対ニダ。根絶やしニダ」

 「あ、そう・・・」

 「こいつらの方が役に立ちそうだけど・・・・」

 取り締まる側に漢民族、朝鮮民族、日本人がいて、

 取り締まられる側にも漢民族、朝鮮民族、日本人がいた。

 揚子江・・・

 民族間を越えた犯罪は、民族間を越えた治安維持が求められた。

  

 

 ビルマ戦線

 南京政府軍、ビルマ軍、インド国民軍、タイ軍が前線に立っていた。

 三者とも問題ありで、朝鮮民族軍も船腹不足でビルマに回されて参戦している。

 米英印軍は補給不足で攻勢に出られず。

 日南毘印軍も補給不足だった。

 ラングーン 日本軍基地

 壊れた兵器・武器、治具が基地へ戻され、

 ここで修復して再度、前線へと送り込まれる。

 大陸鉄道と泰緬鉄道が連結されているにもかかわらず。補給不足は深刻だった。

 「日本に鉛、亜鉛、スズ、タングステン、石炭、鉄鉱石、宝石を送っているだろう」

 「武器弾薬が、なぜこない?」

 『・・・鉄道車両の数が十分じゃないからだろう』

 『というより、貨車を製造してるからだな』

 大陸鉄道は物流だけでなく、

 通信の分野でも日本(ハルピン、大連、釜山、崇明、香港)側と直結させてしまう。

 「前線への補給が足りないと戦線を維持できない」

 『工作機械は、送っただろう』

 「発電が安定していないところに送っても、まともに動くか!」

 「部品がすぐに壊れる」

 『壊れるのは、日本も同じだよ』

 『追加の部品を送るから修理しながらやってくれ』

 「日本で生産を一元化すれば良いだろう」

 「そのために資源を送ってるんだ」

 『わかっているよ』

 『だけど、修復は、そっちで、やってくれよ』

 「修理用具をもっと寄越せ」

 『それも生産中で武器生産に回らない』

 「馬鹿が、そんな状況で戦争するな」

 『始めちゃったモノをそう言われてもな』

 「・・・・」 ため息

 『・・・武器弾薬の補給は検討する』

 『それより、裏切りの動きは無いか?』

 「いや、インド側にも、攻勢をかけられるだけの補給が無いらしい」

 「例え裏切りがあっても戦線は維持できるよ」

 『インド洋は、それなりに押さえているからな』

 「艦隊を回せば補給を断てるだろう」

 『まだ、海軍に良い顔させたくないんだ』

 「あははは・・・・」

 ビルマ戦線の後方に比較的大きな修理工場が建設され、

 兵器・武器の修理が行われ、

 シンガポールでは、設備投資が進み、

 部品工場の生産工場が増築されていた。

  

  

 ロンドン 

 大陸反攻作戦の物資が山積みされていた。

 アメリカの戦略物資がカンフル剤となってイギリス産業を立て直していく、

 戦後のイギリス経済はアメリカ資本に組み込まれる予定だった。

 大英帝国が旧植民地に組み敷かれてしまうなど100年前は、考えられなかった屈辱といえる、

 戦略参謀本部

 「ソビエトが大陸反攻を急かしている」

 「こっちはソビエト向けの輸送船団を余計に送り出して、イギリスの輸送を後回しにしたんだぞ」

 「いまさら、そんなことを言われも困る」

 「ところでグラーフ・ツェッペリンとストラスブールは、本当に日本に回航されたのか?」

 「太平洋作戦司令部からクレームがきたらしいね」

 「クレームはソビエトに回してくれ、北極海はソビエトの領海だ」

 「しかし、氷山に衝突したら沈没なのにな」

 「よく北極圏を横断できたものだ」

 「それにドイツ空母は未完成だったはず」

 「ドイツ本土爆撃に集中していたから哨戒線を掻い潜られたんだろう」

 「ノルウェー爆撃が成功しなかったからだ」

 「イギリス機動部隊の攻撃でもティルピッツ、シャルンホルストに損害を与えられなかった」

 「あんな、まともに空襲できないような場所に防空部隊を配置している方がおかしいんだ」

 「ティルピッツとシャルンホルストも日本に回航させれば良かったんだ」

 「そうすればイギリス機動部隊も太平洋に回航できた」

 「だいたい、ドイツ封鎖突破船を抑えられないのは、どういうことだ?」

 「華寇作戦に備えて、豪州やインド大陸に哨戒機と部隊を配備しているからだろう」

 「日本は、商船が少なくなっていると聞いたぞ」

 「それでも大型船1隻を片道で突入させてみろ。餓えた華寇軍数万が上陸する」

 「小隊や中隊では防ぎきれないな」

 「んん・・・どこも、かしこも・・・・・地中海は?」

 「物資を東部戦線に送ったから地中海戦線も停滞中だ」

 「イタリア工作は上手くいってないし、ロンメル軍団が実質的に半島を押さえている」

 「ロシア人はヘタレで。イタリア人は裏切り者か。その逆もありそうだけど」

 「抜け駆けの上手さではイタリアだろう」

 「身の振りはロシア人だよ」

 「だけどイタリア軍も東部戦線で粘ったらしいぞ」

 「ロシア女を捨てるのが惜しくなったか」

 「ワインを引き揚げるより先にソ連軍が侵攻したのだろう」

 「当面はドイツ本土爆撃でドイツの国力を弱体化させるべきだろうな」

 「大陸反攻の準備も進んでいる」

 

 

 呉

 日本商船隊は良船が残っていた。

 囮船、片道上陸船など旧式の小型・オンボロ船から効率よく捨て、

 そのおかげか、失った隻数の割に痛手が小さい。

 とはいえ、喰うか食われるかの戦況であることに変わりなく、

 大型船舶を華寇作戦に投入する改装が行われている。

 「・・・凄いある。華寇軍。たくさん乗れるある」

 「ええ、どうせ片道上陸ですからね」

 日本側は、南京政府・一進会代表に大型商船の改装を意図的に見せる。

 昨今、成都の蒋介石・国民軍と米英両国の関係は悪化している。

 それでも情報はアメリカ側に伝わる。

 「いつ作戦を行うニダ」

 「戦局、しだいですよ」

 「腕が鳴るニダ・・・・」

 軍事力だけで他国を併合できない。

 私利私欲に目が眩んだ有力者が民族と国を売り渡さなければ

 植民地にされるような国は少ない、

 もし、そういう人間が半島に少なければ朝鮮は併合されなかった。

 己の利益を追求する者、

 エゴを押し通す者が日本に多ければ、内憂外患となり、

 一歩間違えれば日本も、そうなっていた。

 日本が大型商船で華寇作戦を行うという噂がアメリカに流れれば良かった。

 アメリカ軍は、西海岸の哨戒に相応の戦力配備を要求され、

 パイロットの初等訓練が海岸部に施設されたのも哨戒を兼ねていたからと言える。

 そして、部隊規模がいくら大きくても戦前からのベテランは、それほど多くなく。

 一つの部隊に必ずベテランを振り分けなければならない、

 結果、前線の軍事的圧力が減る。

 前線の圧力が減れば大陸経営で余裕が生まれ、

 日本の国力の建て直しも利く、

 華寇作戦は、外交政略上と外交戦略上の損益分岐点で推移していた。

 大日本帝国に正義はなく、

 聖戦と言えなくとも国家存亡を賭けた戦いであることに違いはない、

 内通者、裏切り者を利用しても国体を守るべきだろう。

 「そろそろ、日本料理でも・・・」

 「それ、良いある」

 「芸者ニダ〜♪」

 「・・・・・・」  苦笑い。

 

 

 武蔵 艦橋

 大和が座礁、破壊された後、日本海軍の象徴は武蔵が担っていた。

 艦橋から戦艦ストラスブール、空母グラーフ・ツェッペリンが見える。

 世界最大、最強? の戦艦は、圧倒的な威容を誇り、

 来航したドイツ海軍将兵を威圧する。

 「ドイツ艦隊が持ってきたのがV2ロケット、Me262ジェット戦闘機の技術」

 「そして、重水とウランか・・・」

 「ドイツの思惑がわかりやすいな」

 「ええ、アメリカを対日作戦に誘うとしているのでしょう」

 「やれやれだな」

 「じっくりと腰を据えられてアメリカ軍に侵攻されるより良いかと・・・」

 「アメリカ太平洋艦隊が逐次投入してくれるのなら助かるがね」

 「問題は、艦載機搭乗員の準備だな」

 「航空機の性能で負けているし、ランチェスターの法則は無視できないよ」

 「敵に対し一定の航空戦力を維持しなければ、雪崩の如く、ひっくり返される」

 「そういえばアメリカ潜水艦は、囮船に引っ掛かり難くなってきているそうです」

 「もう、囮船の場所は、あらかたばれてしまっているからな」

 「やぐら鉄塔を小さな珊瑚礁に建てて無線を発信させているが同じ手は利かないのだろうな」

 「ところで原子爆弾は?」

 「さあ、学者に聞いても、ようわからんかった」

 「威力を信じれば戦争はしたくなくなるな」

 「開発するので?」

 「予算しだいだろうな」

 「ドイツ本国で投げた物を日本で開発するのは難しいだろう」

 「華寇は、やぶ蛇になりそうですね」

 「やぶ蛇でも頼りたくなるな」

 

 

 

 

 呉

 戦艦ストラスブールの艦橋から武蔵の威容が見えた。

 ドイツ軍武官、イタリア軍武官、

 「中国の利権は、日本を仲介した方が良いようだ」 ドイツ海軍将校

 「まったく、危険を冒しての往復は損失が大きい上に利益が小さいな」 イタリア海軍将校

 「揚子江の利権が増えても官僚が増えれば連中の取り分のため、余計な出費が増えるんだよ」

 「日本軍がもっと暴れてくれるのであれば極東に来る甲斐もありますがね」

 「できれば、華寇作戦をもっと大規模に行ってもらいたいものだ・・・」

 「日本の脅威が増せば、アメリカの妥協もあるかもしれません」

 「そのためにはドイツが枢軸国の工場になるしかない」

 「日本は後進国のくせに自主独立が強いようですがね」

 「だが依存されるよりマシだ。自主独立が弱いと独立すらできないよ」

 「問題は、中国の資源の取り分と華寇作戦の戦果では?」

 「アメリカ潜水艦は囮船に引っ掛かっているらしい」

 「それで日本商船隊は優良船を残している」

 「日本機動部隊を前線に移動させる程度の余裕しかないと」

 「日本海軍は十分に強大だ」

 「あれだけの威容は、そうそう、ありませんぞ」

 「内情は苦しいらしいよ」

 「元々、基礎工業力どころか社会基盤で劣っている国だ」

 「イタリアが大都会に見えるよ」

 「せめて発電ぐらい安定供給してもらわないと、まともな規格で品質も揃えられない」

 「トラックを作るより道路を作れ、ですかな」

 「ふ 旋盤やフライス盤より、クワやカマで農作業をしている方が似合っている国だ」

 「こんな国がよくアメリカに宣戦布告したものだ。無知としか思えんな」

 「国民が権威主義と事なかれ主義の日和見だったのだろう」

 「無知独善な軍人の暴走に押さえられたとしか言いようがない」

 「しかし、イタリアは日本のような滅私奉公で集約を望めない」

 「滅公奉私は、あるがね」

 「公私は相乗効果で拡大していくものだ」

 「片方だけに集中しても効果は小さいよ」

 「とにかく、可能な限り日本の脅威をアメリカ、イギリスに印象付けなければ」

 「わかっている」

 他国人は、客観的に国が見つめ、

 自国民は、自国を見ると曇ってくる。

 

 

 水路と道路を閉ざされれば土地は死ぬ。

 朝鮮総督府は、朝鮮民族から強制的に水路と道路を塞いで土地を殺していく、

 朝鮮半島の強制された囲い込み戦略で、

 土地を殺された朝鮮農民たちは生きていけなくなる。

 これが合法。

 さらに非合法で高利貸し、朝鮮マフィア連携でドギツイ方法が行われる。

 莫大な借金を背負わされ、土地を二束三文で売るしかなくなる。

 後は、華寇作戦に動員されるか、

 揚子江に行くかの選択肢しか残されていない。

 そして、日本人の朝鮮半島入植が増加していく、

 反日運動家は、華寇作戦で雲散霧消し、弱体化していた。

 「日本の侵略ニダ!」

 「うん♪」

 「日本人は酷いニダ。半島を奪ったニダ!!」

 「ごめんね」

 とぼとぼ とぼとぼ とぼとぼ

 アーリラン アーリラン アーラーリーヨ アーリランコーゲーロ ノーモガンダ〜♪

 ナールルポリゴ カ シヌン二ムン シムニド モーカーソー パルピョナンダ〜♪

   ※土地と糧を奪われアリラン峠を越えてく、十里もいかないのに足が痛む。(意訳・たぶん)

 ここまで来ると居直るしかない。

 半島の朝鮮民族が少数派へ追い込まれていくと治安も向上していく、

 

 日本の工業力は、電力、工業規格、品質でドイツより劣り、

 完成した部品はパズル合わせが必要であり、

 もっとも適当な部品でさえ、ヤスリで微調整しなければならなかった。

 そのため日本の地下工場は、ドイツの様な分散が困難となり、

 大型化しやすい傾向にあった。

 それでも、ドイツ製、イタリア製工作機械が供与されると微細加工で精度が跳ね上がる。

 高品位オイルの入手で工作機械の磨耗が減り、

 既存の工作機械の精度も向上していく、

 大陸の資源とドイツ型工業規格が噛み合い、

 生産体制が軌道に乗ると近代産業らしきものが芽生える、

 

 

 グロスフスMG42機関銃の試射

 別名 “ヒトラーの電動のこぎり” の布を裂く連続音が響く、

 「いゃあ〜ん もう、うっとり〜」

 「あほっ!」

 「確かに良いねぇ〜 この機能美」

 「良いんだけどね・・・・」

 「プレス機が入っただろう」

 「燃料タンクに持って行かれたんじゃなかったかな」

 「またかよ・・・」

 「燃料タンクやオイルタンクに穴が空いたら飛行機が落ちるからね」

 「戦闘機が落ちても死ぬのは一人だろう」

 「機関砲は戦線を支えるんだぞ」

 「戦線が崩壊したら数千人の命が失われ、飛行場も占領される」

 「・・・もっと欲しいな。プレス機」

 「うん・・・」

 

 

 F8Fベアキャット初飛行

 最大速度687k/h  航続距離1780km  20mm機銃×4

 戦闘機としての性能を追求した究極の艦上戦闘機が着陸

 「・・・良いよな」

 「良いよ。素晴らしい戦闘機になるよ」

 「戦争だと、いまひとつか・・・・」

 「たくさん、爆弾を載せられないのとね」

 「きっと大量虐殺が嫌いな戦闘機なんだよ」

 「制空戦闘機なら、せめて、もう少し、航続力が欲しいよな」

 「そうだよ、あと1メートル全長を延ばして航続力を伸ばせば良いんだよ」

 「艦載機だから機体は小さい方が良いんだよ」

 「その分、艦爆、艦攻を載せられるだろう」

 「だけどな〜」

 「戦闘機としては、ベアキャットが上なんだが、コルセアの方が良いかな〜」

 「それは、まず、ベアキャットで制空権を取ってからだろう」

 「それは、そうだ」

 

 

 

 


 月夜裏 野々香です。

 作者の意図と関係なく、話しが進んでいきそうです。

 日本の見通しは、微妙・・・

 

 

 原爆

 ヘタレな自衛艦が逆行していないので、マジ使いそう。

 開発できたら、だけど・・・

 

 欧州戦線

 ジブラルタル占領が功を奏したのか、イタリアの脱落もなく。

 ドイツは、資源で少しばかり良くてクルスク戦を仕掛けず。

 イタリア上陸作戦もノルマンディー上陸作戦もいまだなし。

 ソ連の攻勢を受けてイタリア・東欧軍を蹂躙させて反攻作戦で逆包囲に成功。

 史実よりは少しばかり余裕。

 

 

 「戦場で勝つには兵器でしょうが戦争に勝つには、工作機械ですからな」

 お国柄で分かれそうです。

 日本は兵器。ドイツが工作機械。

 ほかに精神力。情報。金融。謀略などなど

 

 

 

 

 

  

     

ランキングです ↓ よろしくです。

NEWVEL     HONなび

長編小説検索Wandering Network

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

   

第26話 1944/07 『ファインダーを覗くと、他人事・・・』

第27話 1944/08 『うん、ごめんね♪』

第28話 1944/09 『うそつき』