月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

第28話 1944年09月 『うそつき』

 米英戦略爆撃部隊はドイツ本土爆撃を繰り返し、

 ソビエト軍は戦術爆撃と機甲師団の電撃作戦で断続的な攻勢を掛ける。

 ドイツは東西から挟撃され、著しく消耗していた。

 

 

 数百機の航空機が編隊を組んで海上から大陸へと侵攻し、

 上陸作戦艦隊130隻。上陸用舟艇4000隻など

 総数6000隻を超える艦船がノルマンディー沖を埋め尽くしていた。

 艦船から無数の砲弾とロケット弾が撃ち上げられ、

 砲弾の雨は放物線を描いて陸地に降り注ぎ、

 着弾と同時に大地を抉って爆発し、守備隊を吹き飛ばした。

 爆風と爆圧の衝撃で戦闘不能にされ、

 榴弾であれば致死率の高い子弾が数十メートルの範囲で飛び散り、死傷者を量産した。

 ノルマンディー上陸作戦が決行され、

 12000機の航空部隊。1000機もの空挺部隊が動員され、

 5000トンの爆弾が戦場に投下される。

 噴煙で陸地が覆われ、爆発で大地が振動し、爆発音が続く、

 戦争は物量だけで決まるものではない、

 しかし、物量を投射すれば、大勢は決まっていく、

 図上演習で使われた地図の上で駒が動かされ、

 報告に従って二度と使われなくなる駒が図上から消えていく、

 外界は、喧騒の中で士官の怒号が兵士の士気を鼓舞していた。

 上陸用舟艇が水柱の間を何度も往復する。

 機銃掃射が舟艇の兵士たちをなぎ倒し、穴だらけにし、

 砲撃の直撃で沈んでいく、

 ドイツ軍の機銃掃射に晒される兵士が波打ち際で立ち往生し、

 その上空を爆撃機が逆V字で陸地へ向かっていく、

 勝てるだろうか?

 狭い視野でリアルな戦場を見ると視界が狭まり、感情で判断が狂わされてしまう。

 軽巡ヒューストン 艦橋

 「波が荒いな。時期外れの海水浴は厳しい・・・」

 「戦略作戦本部は、6月に行いたかったらしいですがね」

 「ソ連軍のヘタレが悪い」

 「空挺部隊からの報告では、橋頭堡にT34戦車が確認されているようです」

 「東部戦線は、識別で面倒だから、こっちに回したのか」

 「味方に撃ち殺されたくありませんからね」

 「ドイツ兵は?」

 「老兵と闘病兵、学生上がりで並み以下のようですが思ったより粘ります」

 「・・・作戦は、順調だろうか」

 「損害は・・・許容範囲だそうです」

 「許容範囲か・・・許容範囲内で死んでいく者は報われんな」

 「戦争は理不尽ですからね」

 「戦争は、我が身かわいさで曖昧にしていたエゴを先鋭化したに過ぎない」

 「生きる事自体が理不尽の連続だよ」

 上陸作戦は成功して大西洋の壁に穴が空く、

 たが累々と転がる戦死者は痛ましく、

 ノルマンディーの海岸に上陸したM4戦車が内陸に向かって突進していく、

 ハーケンクロイツが描かれたT34戦車がM4戦車を撃破しつつ後退していく、

 ドイツ軍将兵たち

 「どうやらアメリカ軍は橋頭堡を拡大し始めたようです」

 「T34戦車は、無線を付けると意外と頼りになる」

 「若い連中ばかりですがね」

 「子供しか乗れない戦車を作るとは、ソビエトもどうかしている」

 「ちょうど良かったのでは、軍の平均年齢は低下している」

 「・・・酷いことになったな」

 「死傷者の数で言うと、東部戦線よりマシですよ」

 「・・・85mm弾が無くなるぞ」

 「パリで製造に入ったばかりだそうですが命数が切れたら75mmに換装する方が良いでしょう」

 「3号戦車と前期の4号戦車では数を揃えても戦線を守れそうにないな」

 「フランス人のレジスタンスも激しくなるし、兵士と来たら・・・・・」

 「主戦線の東部戦線から戦力を回すしかないだろう」

 ノルマンディー上陸作戦の成功。

 そして、何かを暗示するかのようにV2ロケットがロンドンに撃ち込まれていく、

  

 ベルリン

 ノルマンディー上陸作戦で情報収集と対応策でドイツ参謀本部は混乱する。

 この日ばかりは、ベルリン爆撃がないとわかる。

 駒が図上に並べられていく、

 「・・・やられたな」

 「ベルリンに対し、3000機爆撃をかけるというのは嘘か」

 「戦闘機をフランスに進出させているが手遅れだな」

 「何もしないよりマシだが西部戦線で適当な防衛線を構築しないと」

 「戦闘機をフランスへ移動させるとドイツ本土を爆撃してくるのではないのか」

 「捕獲したソ連戦闘機とシュトルモビクの部隊をフランスに配置していたはずだが」

 「橋頭堡を爆撃しているがね」

 「ベテランパイロットはいない。長くは持たないだろう」

 「橋頭堡なら昼間にこだわらなくても物資が集積されている」

 「夜間爆撃にすれば撃墜されないのでは?」

 「ベテランでないと言っただろう」

 「夜間飛行訓練など受けていないから着陸で失敗するよ」

 「東部戦線で一息ついたと思ったのに・・・」

 「一息ついた東部戦線から西部に戦力が戻る前に大陸反攻をしたかったのだろう」

 「余剰兵力は?」

 「ロンメル軍団だろうな」

 「・・・イタリアの押さえだぞ」

 「では、イタリア半島に残されているイタリア軍残存兵力全て・・・」

 「東部戦線で主力軍を磨り潰されて士気が低下している。フランス戦線を守れるものか」

 「だが、フランス女に惹かれているはず。駐留くらいするはずだろう」

 「とにかく、東部戦線から引き抜くしかないな」

 「来年の冬季明けまでソ連軍の攻勢がないと信じて・・・」

 「・・・・仕方があるまい。総統がどう決断されるか」

 「だな」

 

  

  

 中立国 スイス

 欲望が無機質な紙幣に意思を与え世界を動かしていく、

 どす黒くても善意でも、欲望が動かなければ紙幣は動かない。

 金融資本の観点で世界大戦を見直すと財欲の牙城が市場を奪い合う下剋上でもあった。

 欧州アルプスの牙城は、高みから下界を見下ろしていた。

 いかなる人間の資産でも守るスイス銀行は、荒れ狂う世界大戦を制御しようと修正する。

 「経済は正直だからね。勝ち組にお金が集まりそうだな」

 「戦争になるように誘導したとしても、本当に戦争を起こしたのは国の責任だよ」

 「戦争を防ぐ方法なら権力構造を組み替える方法がある」

 「それができるくらいなら大恐慌も、共産化も、ファシズムも、軍国化も起きないと思うよ」

 「ドイツ投資は無駄になるかな」

 「アメリカの思うつぼではありそうだけどね」

 「このままだと、戦後、欧州経済はアメリカ資本に踏み躙られそうだ」

 「だけど、アメリカの計画通りいくかな。ドイツにもう少し投資しても良いような気もするが」

 「負けるんじゃないの」

 「欧州資本のほとんどは、アメリカに流れるか。スイス銀行に避難しているよ」

 「賭け率は国力格差とだいたい同じくらいだけど、計画通りとはいかない気がするね」

 「しかし、国内需要がないからって外国の需要を狙うのもな」

 「いや、国内で権力構造を守ろうとするあまり、他所の国の権力構造を崩して市場を奪う、じゃないの」

 「東部戦線は一息。ノルマンディー上陸作戦でドイツが危なくなれば、もっと資本が集まるはず」

 「まぁ 兵器産業は利益幅が良いからね」

 「それに銀行は、緊張状態があった方が預金が集まりやすいし」

 「人口が減ると一人当たりの資源が増えて預金に跳ね返る」

 「引き受けなしの名義人も増えるよ♪」

 「でも懐が増えるけど良心は痛むよね」

 「庶民は大恐慌脱出で助かっているよ」

 「戦災で無慈悲に殺されるか。仕事もなく生皮で絞められるように餓えていくかだろう」

 「まぁ 経済も再構築が必要なことは認めるけどね」

 「これだけ破壊されると再建がな・・・」

 「再建資材は、押さえているよな」

 「ああ」

 「だけど・・・アジアが問題だな。華僑は日本と組んでる・・・」

 「問題は、華寇作戦じゃないかな」

 「資本家は贅沢で欲が深いからね。金次第」

 「ノルマンディー上陸で戦局が好転すれば・・・」

 「アメリカ資本は、採算割れすると戦意が低下するけど」

 「国民は厭戦気運にも左右されるからね」

 

 

 

 

 大陸鉄道建設後、

 日本は、国家存亡の戦争状態から、国家再構築しながらの戦争になっていく、

 工場で製造しているのは軍事部品でなく、民生品と機関車関連部品、

 おかげで新型戦闘機と新型戦車の開発と生産が進まない、

 学徒出陣で職場に回された青年と少年たちがドイツ人技師、職人の下で働く、

 古い酒は古い入れ物で、新しい酒は新しい入れ物にいれる。

 まっさらな学生は、既成概念と仕事の姿勢が定まっておらず、衝突が少なく幸せといえた。

 そして、鉄道関連予算は増えていく、

 大陸鉄道が敷かれたとしても、それだけでは用を成さない。

 損益分岐点を越える車両数と鉄道網を支えるだけの設備投資も必要だった。

 揚子江 漢口

 東南アジア諸系資本の入植も増え、エスニック系の食堂も進出していた。

 揚子江は、華僑と東南アジア系が双方向で経済進出する事で活性化していく、

 香辛料をふんだんに使うエスニック系料理がテーブルに並べられる。

    

 「・・・本土が、もっと軍事物資をよこせだって」

 「もう、戦争やめろよ。くだらない」

 「そういうのは、アメリカに言うんだよ。特に軍産複合体」

 「あいつら寄生虫だけじゃ物足りないのか?」

 「大恐慌で失業者が溢れてたからね」

 「欲深な羊飼いが羊を増やし過ぎて牧草地を枯らしたから」

 「羊を邪魔な山羊と戦わせて一掃処分かもしれないね」

 「くっそぉ〜 金に目が眩んで人の国を踏み躙りやがって・・・」

 「アメリカは最初から邪魔な日本を捻じ伏せて、アジア太平洋の利権を握るつもりだったんだよ」

 「まぁ 人の国のこといえないし」

 「あいつらが追い詰めなければ日本は、ここまで、やらなかった」

 「向こうは余裕があるから狡猾だしね。偽善ぶれる」

 「こっちは爪に火を燈すような思いで命を磨り減らしているのに弱みに付け込んで搾取しやがるし」

 「いや、もう人の国のこといえないし」

 「向こうは自業自得だ」

 「いや、こっちも、そうだし」

 「アメリカの軍産複合体と比べたら死神が、かわいい女学生に思えるよ。トロールじゃ勝てん」

 「揚子江経済圏と大陸鉄道」

 「中国・東南アジア域の戦略資源が軌道に乗れば持ち直せないか?」

 「あと5年あれば・・・・」

 「5年? 根拠は? 日本は5年も戦えないだろう」

 「太平洋の距離は大きいよ」

 「サンフランシスコ−ハワイ−トラック−グアム−沖縄−東京のルートだと、だいたい28000浬だ」

 「戦艦の航続力が17000浬。空母が8000浬。巡洋艦10000浬。駆逐艦6500浬だろう」

 「駆逐艦で計算すると5000海里ごとに満タンにするとして給油は6回くらいか」

 「さらに追撃と後退に必要な燃料も確保しなければならない」

 「日本に近付けば近付くほど輸送航路を警備させる護衛艦が増えていく」

 「アメリカ機動部隊を支える輸送船も雪ダルマ式に増えていく」

 「アメリカが日本の3倍の機動部隊を日本近海に持ってくるには、何隻の輸送船が必要になるのかな」

 「日本海軍が仮に100万トンなら、アメリカは、300万トンをぶつければ勝てる」

 「兵站に1500万トンを使うなら間に合うだろう。十分じゃないか」

 「いまのところ、日本海軍は、ミッドウェー海戦で勝てたのと」

 「華寇作戦で時間を稼いでいるがね」

 「いつまで持つやら・・・」

 「大和と海軍上層部がやられたのだから、ミッドウェー海戦で勝てたと言えんよ」

 「アメリカに打撃を与えるとしたら海戦や航空戦に勝つことより、華寇作戦じゃないか?」

 「潜水艦で輸送する場合。時間と居住性の問題で困難だろう」

 「大型飛行艇だと時間はおおが、居住性は、さらに悪い」

 「華寇作戦は、特別な大型輸送潜水艦が必要だな」

 「そんな、余計な予算はないよ」

 「だよな・・・」

 食堂に入ってきた日本人が騒ぎ始める。

 「中国人め、俺を騙したな。偽札じゃないか!」

 「・・・・・」

 「丁は、どこにいる。工作機械を返せ!!」

 「・・・・・」

 なんとなく含み笑いが食堂に広がる。

 中国人と約束しても守られないことが多い。

 基本は、現物交換。

 そして、現物交換でも騙されることがある。

 「・・・やれやれ、偽札を掴まされたんだと」

 「アヘン密売が難しくなったから、偽札かな」

 「そういえば、日本のオンボロ工作機械を南京政府が買い取って」

 「欧米の技術者や職人に修理させて使っているそうだ」

 「南京政府が?」

 「ああ、中国を底上げさせれば、相対的に日本の主導権がぐらつく」

 「日中離反工作だろう」

 「封建社会が強いから近代化は難しくないだろうか。あの権威主義の強さは弊害だな」

 「日本も、あそこまで権威主義は強くない」

 「しかし、日本の中古工作機械なんて、それも中国に売るやつになると欧米の職人でさえ難儀するんじゃないか」

 「それでも、97式戦闘機を運用しているらしい」

 「日本が送っている消耗品より、質が高い治具で修復されている」

 「わかるのか?」

 「エンジン音で一発だ」

 「じゃ 相応の工場があるのか」

 「少なくとも97式戦闘機を維持できる程度の工場が、どこかにある」

 「探れないのか?」

 「探っているだろう」

 「しかし、探り当てても同盟国。手を出せるわけじゃない」

 「揚子江への移民政策。急がせるべきだろうな」

 「ああ、南北に分断できれば、例え工業化に成功しても圧力を軽減できる」

 「だが、たとえ、97式戦闘機でも10000機も配備されたら事だ。性能差は関係ない」

 「悪夢だな」

 

 

 ミッドウェー島

 大和の威容がミッドウェー島のシンボルになりつつあった。

 アメリカ海軍がミッドウェー海戦で負けなかった証拠として残される。

 埋め立てられ拡張された滑走路にアメリカ軍機が並び、

 離着陸が頻繁に繰り返された。

 「・・・本当に日本海軍は、来るのか?」

 「暗号電文だと。そうらしいな・・・本土の動きも確認している」

 「潜水艦の哨戒線は」

 「配置に付かせた。網に引っ掛かれば反撃できる」

 「あとは、アメリカ機動部隊しだいだな」

 「日本機動部隊の方が強いぞ」

 「どうかな、情報が事実なら日本機動部隊の艦載機パイロットは練度が低い」

 「教官を空母に乗せれば、どうにでもなるだろう」

 「ミッドウェー基地航空部隊を増強しているムスタングには勝てないよ」

 「それに艦隊を全て動かせば、こっちの艦隊集結も間に合うだろう」

 「しかし・・・本当に日本機動部隊は動くのだろうか」

 「ミッドウェーを占領したところで負担が増えるだけだ」

 「アメリカ機動部隊を誘い出してというのではないか」

 「前回は、それでやられた」

 「あの頃と状況が違う。ゼロ戦の優位性は消えている」

 「隼V型も数が揃えなければ、役に立たないはず」

 「そして、日本の艦載機パイロットは、少ないはずだ」

 「確かに、この作戦は怪しすぎるな。他の機動部隊に動きは?」

 「・・・・空母機動部隊は、シンガポール域にいるようだが戦艦は修理改装で日本本土だ」

 「ミッドウェーを占領して華寇作戦を容易するつもりか」

 「そういうことはあるな」

  

  

  

 第一機動部隊

 空母 蒼龍

 隼V型、彗星が離着艦を繰り返す。

 「ドイツ製電探の調子は?」

 「アルミ片対策は怪しいですが日本製電探より良いですよ」

 「・・・これなら艦載機の接近は、わかりやすい」

 「しかし、待望の電探を換装したと思ったら、また、離着艦訓練か」

 「それぞれの基地に空母着艦経験者がいるのは、作戦能力で悪くありませんよ」

 「海燕が離着艦ができれば・・・・」

 「できるとしても、大鳳、瑞鶴、翔鶴、赤城、加賀の5隻だろうな」

 「海燕は、相当なベテランじゃないと離着艦は無理だ」

 「部隊単位のベテランが割かれると精鋭部隊以外はガタガタになる」

 「・・・ベテランを引き抜かれると基地防空戦全体が支えきれなくなる」

 「しかし、レーダー誘導で隼V型を有利に展開させても相手はヘルキャットか、コルセアだ」

 「防空網を支えるのは厳しい」

 「ヘルダイバーとアベンジャーを12.7mm弾で落とすのは至難の業だよ」

 「爆撃と雷撃の射線を空母から外せれば良いよ。撃墜は二の次」

 「アメリカの戦闘機と爆撃機は速度差が違うはずだ」

 「上手く各個迎撃で撃破できればいいが・・・」

 「先に爆撃機を出撃させて、その後、戦闘機を出撃させれば、丁度、良いぐらいだろう」

 「隼V型と彗星の速度差の方が怪しいくらいだ」

 「どうしたものか、火力不足を機体数で補おうにもな」

 「アメリカ機動部隊の方が艦載機で多くなるはず」

 「基地航空部隊の制空権下で戦うのが良いと思うが・・・」

 「打って出たいですな・・・気持ちだけですが・・・」

 「ジリ貧だからといって打って出るのは衝動だな。アメリカ海軍の思う壺だ・・・」

 「しかし、今回は、打って出るべきだろうな・・・」

 「時間稼ぎでジリ貧を何とかできる話しは?」

 「大陸投資だろう。それも希望的観測に過ぎないよ」

 「時間稼ぎでジリ貧が何とかなるのであれば、時間稼ぎとは言わん」

 「ふ 陸軍の言うことなど、どこまで本当かわからんな。期待できるものか」

 「部品の品質向上で、耐久時間がそれなりに維持できたのは助かるがね」

 「兵器と武器弾薬の生産を減らして設備投資では何のための戦争かわからんよ」

 「陸兵にも呆れるよ」

 「何万機も生産したんだから戦線は大丈夫だろう、だとよ」

 「ふ パイロットの練度を維持する為。一年に1機は、使い潰さなければならない」

 「エンジンの耐久時間を300時間以上と見積もるのも練度維持と被せて計算しやすいからだ」

 「そりゃ 規格品質が良くなって、耐久時間が維持できたのは有利だ」

 「しかし、熟練パイロットを急増しようと思えば、さらにエンジンを潰すことになる」

 「だけどね、何万機生産したからといっても」

 「戦線に投入できる機体数は、総数の3分の1から5分の1くらいになるからね」

 「当然、規格品質の精度を上げても、分母を減らされたら、分子も減るだろう」

 「だいたい、パイロットと機体を揃えても、練度維持するだけの燃料が心もとないよ」

 「もっと陸兵を減らして、予算を振り分けないと・・・」

 「・・・アメリカ製は、耐久性が良さそうだな」

 「無理のない堅実設計で規格も品質も良いらしいな」

 「ドイツ製の工作機械が入ったんだから。シリンダーくらいまともにつくろうよ」

 「工作機械が入っても熟練工が少ないからな」

 「もっとも日本産業基盤そのものが危なかったらしいけどね」

 「だからって、兵器生産を後回しにされたらな・・・・」

 着艦しようとしていた彗星が右翼側の脚が下りず。

 飛行甲板に不時着、制動網に突っ込んで、止まる。

 「・・・脚もな・・・」

 「これから作戦だというのに・・・・」

 ため息交じりの艦橋

 

 

 赤レンガの住人たち

 アメリカ・イギリス軍のノルマンディー上陸作戦による影響を計算していた。

 「華寇作戦にも関わらず。欧州では大陸反攻が決行された」

 「国力比で計算するなら、意外とはいえないだろう」

 「アメリカも、イギリスも、大陸反攻の橋頭堡もないのに講和を結ぶなどありえない」

 「ノルマンディー上陸作戦を講和の為の環境作りの為と見るか」

 「それともドイツ打倒の試金石と見るか・・・微妙だな」

 「・・・もっと、工作機械が欲しいな」

 「しかし、民間設備投資をしていて間に合うのか」

 「そりゃ 大陸鉄道と揚子江経済圏は重要だけどね・・・」

 「だいたい、陸軍の間抜けにもほどがある」

 「陶器職人を徴兵したらアルミの弁当箱が必要になったのと変わらんよ」

 「問題は、その程度の国力が中国の治安維持に殺がれてしまうことだな」

 「揚子江に朝鮮人、少数民族、東南アジア諸国の人間を移民させて中国を南北で分断している」

 「代わりに東南アジア諸国の華僑資本増大で混乱は、やまずだよ」

 「だが、混乱させて反日を抑えられれば良いだろう」

 「それより、華寇作戦による時間稼ぎだよ」

 「大型船舶を使うと時間を稼げるが兵站線が消耗する」

 「南方の自給自足率は高くなっているだろう」

 「大きな島はね」

 「大きな島か・・・」

 

 

 第二次ミッドウェー海戦はアメリカ海軍も予測していた。

 もっとも確定的なものではなく、

 成都経由の情報で信憑性は定かではなかった。

 アメリカ太平洋艦隊は疑心暗鬼に囚われながらも機動部隊をミッドウェー沖に集結させる。

 

 

 第一機動部隊

 空母 瑞鶴、翔鶴、飛龍、蒼龍

 軽巡 大淀

 重巡 利根、高雄、愛宕、摩耶、鳥海

 駆逐艦 (秋月、照月、涼月、初月) (嵐、萩風、野分、舞風)

 駆逐艦 (風雲、夕雲、巻雲、秋雲) (初風、雪風、天津風、時津風)

  

  

 第二機動部隊

 空母 大鳳、赤城、加賀

 戦艦 金剛、榛名

 重巡 筑摩、最上、三隈

 軽巡 能代

 駆逐艦 (新月、若月、霜月、冬月) (長波、巻波、高波、大波)

 駆逐艦 (早潮、黒潮、親潮、夕風) (霞、霰、陽炎、不知火)

 

 

 第三機動部隊

 空母 伊勢、日向、扶桑、山城

 重巡 妙高、那智、足柄、羽黒

 軽巡 矢矧

 駆逐艦 (清波、玉波、涼波、藤波) (朝霜、早霜、秋霜、清霜)

 駆逐艦 (磯波、浦波、敷波、綾波) (天霧、朝霧、夕霧、白雲)

  

 

 アメリカ機動部隊

 第1任務部隊

 (バンカー・ヒル、タイコンデロガ、プリンストン、ラングレーU)

   アイオワ、ニュージャージー、重巡2隻、軽巡3隻、駆逐艦12隻

  

 第2任務部隊

 (ホーネットU、フランクリン、カボット、バターン)

   ミズーリ、ウィスコンシン。重巡2隻、軽巡3隻、駆逐艦12隻

  

 第3任務部隊

 (ハンコック。サン・ジャシント)

   ワシントン、サウスダコタ、インディアナ。重巡2隻、軽巡3隻、駆逐艦16隻

 

 タイコンデロガ

 タイコンデロガ 艦橋

 図上の駒が動かされていく、

 刻一刻と日米機動部隊がミッドウェー沖に集結。

 「・・・どうやら、第2任務機動部隊は、ミッドウェーに間に合ったようだな」

 「インド・南太平洋側でしたから」

 「燃料を余計に使わせた礼をしてやる」

 「内線と外線の違いだな」

 「外周を移動するアメリカ海軍は、どうしても不利だ」

 「ノルマンディー上陸作戦で余剰艦艇がないというのに・・・」

 「第二次ミッドウェー海戦か・・・」

 「空母は日本側が11隻、アメリカ側が10隻です」

 「そして、ミッドウェー島基地航空部隊が加算されます」

 「ムスタングの制空圏内で戦うぞ」

 「それは良いとして、ミッドウェー・・・・なぜ、ミッドウェーなんだ」

 「確かに・・・・ミッドウェーを占領しても、日本は得より、損のはず・・・」

 「日本海軍は、愚かだと思ったが経験から学べないほど、愚かだと思えないが・・・・」

 「本当の狙いは、南太平洋か、インド洋にあるのでは?」

 「第2任務機動部隊は、北太平洋への移動を渋っていたがね」

 「提督・・・大変です!!」

 「どうした?」

 「ミッドウェー島の滑走路が爆破されました!」

 「なんだと〜!」

 「飛行場は、使用不能!!」

 「提督・・・どうやら、ミッドウェーに時限爆弾を仕掛けられていたようです」

 「くっそぉ〜 全艦戦闘配備。なんとしても、日本機動部隊の攻勢を凌ぐぞ!」

 その後、アメリカ機動部隊は、日本機動部隊の位置を見失う。

 「・・・どういうことだ!」

 「・・・日本機動部隊の行方。依然として知れず。です」

  

 

 

 地下数十メートルで、仕掛けられていた1トン爆弾数十発が時限式に一斉に爆発。

 地下深くであれば、その破壊力は、大きく減じられ。

 分厚いコンクリートで蓋をされた滑走路で地表の被害は、とどまる。

 しかし、地表に向かって吹き上げられた爆発は並べられたムスタングとB24爆撃機を破壊していく、

 その衝撃で格納していた爆弾と魚雷が傾き、制御を離れて、次々に誘爆していく、

 次に起こったのは、小さなサンゴ礁の地殻が緩み海水が浸水し、

 地割れを起こした滑走路にムスタングとB24爆撃機が傾いて沈んでいく、

 そして、傾いた管制塔は、今にも倒れそうだった。

 「・・・司令、滑走路が陥没していきます」

 「なんと言うことだ」

 「機動部隊に状況を知らせろ! 総員、退避!!」

 

 

 

 釜山からシンガポールまで路線が連結すると大陸鉄道が完成する。

 そして、南京と重慶まで鉄道が通ると揚子江経済圏が兆しを見せる。

 日本と東南アジアの海上輸送の相対的価値が低下していく、

 10000トン級以上の輸送船は日本にとって戦略的な価値があった。

 

 

 

 第三機動部隊

 空母 伊勢、日向、扶桑、山城

 重巡 妙高、那智、足柄、羽黒

 軽巡 矢矧

 駆逐艦 (清波、玉波、涼波、藤波) (朝霜、早霜、秋霜、清霜)

 駆逐艦 (磯波、浦波、敷波、綾波) (天霧、朝霧、夕霧、白雲)

  

  

 第四機動部隊

 空母 飛鷹、隼鷹、龍鳳

 重巡 衣笠、青葉、加古、古鷹

 軽巡 酒匂

 駆逐艦 (浦風、磯風、谷風、浜風) (村雨、五月雨、春雨、夕立)

 駆逐艦 (朝雲、山雲、夏雲、峰雲) (有明、夕暮、時雨、白露)

 

 

 第五機動部隊

 空母 龍驤、瑞鳳、千代田、千歳、日進

 軽巡 阿賀野、北上、大井

 駆逐艦 島風

 駆逐艦 (雷、電、響、曙) (初春、子の日、初霜、若葉)

 駆逐艦 (早波、浜波、沖波、岸波) (初雪、叢雲、江風、涼風)

 

 第二次ミッドウェー攻撃はブラフ、フェイクだった。

 そして、真打が西オーストラリアのパース沖に現れる。

 大都市防衛は沿岸砲が沖を睨み、

 数万の華寇軍の上陸にも防衛できると考えられていた。

 しかし、沿岸砲の届かない戦略的価値の低い海岸線に降りれば済むことであり、

 華寇作戦が行われたのは小さな村ばかり、

 オーストラリア軍は長大な海岸線を守るため小隊規模で分散し配備していた。

 パース沖

 日本機動部隊に護衛された10000トン級大型輸送船20隻が出現する。

 10000トン級大型輸送船は華寇軍30000がすし詰め状態で乗っていた。

 20隻で華寇軍60万。

 食料もほとんどない状態で西オーストラリアのパースに降ろされていく、

 華寇軍は生きるため、当然、取るであろう手段を選択した。

 上陸した華寇軍が米豪連合の想定していた規模の10倍になると状況が一変する。

 華寇軍60万はパースの人口26万を越えていた。

 そして航空戦、

 どれほどの高性能な機体であっても数が少なければ戦果は期待できなかった。

 隼V型が群れをなし3対1、4対1でムスタング、B24爆撃機を追い掛け回していく、

 対華寇作戦は海岸線全周に部隊が散らされ、

 航空部隊は広範囲に配備され、戦場への集結が間に合わない。

 ライトニング、ムスタング、B17爆撃機は逐次投入で機銃掃射を浴びせられ撃墜されていく、

 将校たちは双眼鏡で弾幕に向かってくるB24爆撃機を不安げに見守る。

 隼Vに追い掛け回されたB24爆撃機がハチの巣になって落ちていく、

 護衛のムスタングが隼Vを撃墜しようとし、

 別の隼Vがムスタングの背後に付こうと旋回する。

 ムスタングは機銃掃射に晒されると、

 目の前の隼Vを諦め速度を上げ引き離していく、

 空母 伊勢 艦橋

 「ドイツ製のレーダーは良いようだ」

 「ライトニングとムスタングの接近はすぐわかる。誘導もしやすい」

 「・・・速過ぎてね」

 「200機程度の攻撃なら何とか守れそうです」

 「どうやらアメリカ機動部隊は不在のようだな」

 「アメリカ機動部隊は、艦載機パイロット不在の第一、第二日本機動部隊に備えて北太平洋に回ったようです」

 「助かるよ。いたら負けていたな」

 「しかし、なんて速さだ。隼V型がまったく追いつけんよ」

 「ベテランを揃えても、これか・・・」

 「ベテランが乗っても機体速度が速くなるわけがない」

 投下される小型爆弾がバラバラと輸送船の周りに落ちて水柱を上げていく、

 そして、輸送船は、無事。

 ほっ〜 とした空気が流れる。

 「・・・どうやら、こっちの狙いはばれているようだ」

 「日本は、華寇作戦しかないですから」

 「大陸も歓迎しているよ。不穏分子は少ない方がいい、不逞の輩もな」

 「アメリカ機動部隊が戻ってくる前に終わらせてしまおう」

 「ああ」

 今回、大型輸送船は使い捨てではなかった。

 帰還できるだけの航続力があり、

 大型輸送船は岸から離れ、

 艦隊に守られながら帰還していく、

 

 

 白い家

 「大統領・・・日本海軍のフェイクに引っ掛かりました。本命はパースでした」

 「華寇軍60万がオーストラリアのパースに上陸したそうです」

 「なんだと・・・・」

 「守備隊は、交戦していますが華寇軍の数が多く・・・」

 「機動部隊は何をしている?」

 「それがミッドウェーが攻撃されると、全機動部隊が北太平洋へ」

 「バカな・・・」

 「なんということだ。パース港は、インド洋のアメリカ機動部隊の拠点だぞ」

 「現在、アメリカ機動部隊をパースへと回航させています」

 「しかし、ミッドウェー基地は仕掛けられていた時限爆弾で使用不能です」

 「・・・・・」

 「ノルマンディー上陸作戦で手薄になっていたところを、さらに陽動をかけられたようです」

 「日本の主力機動部隊3群で陽動作戦を行うとは・・・・」

 「パースの基地航空部隊は?」

 「日本機動部隊3群の迎撃で攻撃は失敗しました」

 「日本機動部隊の全てに艦載機パイロットを揃えられないと聞いていたぞ」

 「ミッドウェーに向かった日本主力機動部隊が囮。空だったようです」

 「なんと言うことだ・・・」

 

 

 パース周辺部から悲鳴が聞こえる。

 まともな武器すら持っていない華寇軍60万はパースを包囲し、

 人海戦術でパースに押し寄せる。

 最新鋭のムスタング戦闘機とB24爆撃機が華寇軍60万を機銃掃射し爆弾を落としていく、

 「弾の数より多いぞ」

 『信じられん』

 アメリカ軍とオーストラリア軍の守備隊は、人海戦術に圧倒され、

 引き付けて撃つことができず、

 機関銃も小銃も長距離射撃から始まる。

 しかし、一気呵成に迫る群衆の相対距離はたちまち迫り、

 弾薬はたちまち減少していく、

 銃声が減ると、

 血に染まった青竜刀 (柳葉刀)や朴刀を持った華寇軍との白兵戦が増え、

 パース防衛線は、トロールの大群に押し崩されていく、

 パース人口は26万人、

 半分は女であり、半分は年老いてるか、子供だった。

 実質、戦える男は、10万人ほどであり、

 華寇軍は、懐に入るとハングリーなうえに数で押し寄せた。

 欧米諸国にとって60万人という数字は大きく、

 簡単に割り振れない人口だった。

 中国大陸では、それほど大きな数字でなく、

 価値のあるというより、減らしたい数でしかなかった。

 「・・・3日ぶりの食事ある」

 「白人の女は、初めてニダ〜♪」

 「「生きてて、良かったある♪ (ニダ♪)」」

 

 


 月夜裏 野々香です。

 ミッドウェー海戦の影響で欧州は、3ヶ月遅れのノルマンディー上陸作戦、

 アジア・太平洋戦線は、それ以上に開きがあるようです。

 アメリカが損害度外視で勝とうとするのなら日本の空母戦力の倍でも良し、

 選挙対策で確実、最小限の損失で攻勢をかけるのであればランチェスターの法則で

 3倍の空母戦力が欲しいところ、

 作者的には対米戦争が不利。非戦で上策だと思います。

 しかし、ミッドウェー海戦で勝っても・・・の敗北主義者でもないですし、

 赤城、加賀、飛龍、蒼龍の存在は、戦争遂行で影響ありです。

 日本海軍が迎撃防御に徹した場合、

 赤城、加賀、飛龍、蒼龍 × 2

 あるいは × 3 の空母戦力をアメリカ海軍に強要してしまうからです。

 艦船の損失トン数は史実と変わりません。

 しかし、史実より優良船が多く残っていてるようです。

 また、大陸搾取鉄道で軍事物資が目的地に無事たどり着いているので、

 前線の抗戦能力は高そうです。

 

 

 アジア太平洋域

 本音と建前とかありますが、弱肉強食は自然の摂理。

 アジア太平洋域だと、アメリカ > 日本・ソ連 > 中国 > 東南アジア諸国、朝鮮 でしょうか。

 強国が嵩に来て、弱小国を食い物に・・・

 

 

 

 

 

 

   

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第27話 1944/08 『うん、ごめんね♪』

第28話 1944/09 『うそつき』

第29話 1944/10 『セーラー服と風船爆弾』