月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

 

第29話 1944/10 『セーラー服と風船爆弾』

 米英連合軍は、ノルマンディー上陸作戦で欧州大陸反攻の橋頭堡を確保していく、

 米英軍とも膨大な物量によって支えられた大部隊であるのに対し、

 ドイツ軍は予備戦力を慌てて掻き集め、防衛線を構築する。

 ドイツ軍主力軍は東部戦線に集中しており、

 ドイツ軍がノルマンディーに回せる部隊は2線級将兵ばかりだった。

 ドイツの軍服を着ているだけで凶悪さが増して見えても、

 中身は訓練が少なく、実戦経験もない学生上がりの若者だった。

 そして、大むかし、精強だった老兵だった。

 そして、イタリア軍将兵も雑多に混ざって士気は低くかった。

 上空をサンダーボルトが通過するだけで怖気づく、

 列強同士は兵器の質的なアドバンテージが小さく、

 ランチェスターの法則が当てはめやすかった。

 

 

 インド・アジア・太平洋戦線では、ランチェスターの法則が当てはめ難い、

 欧米の常識の範疇を超えた量と質の、異質な戦いが行われていた。

 欧州戦線のそれは近代と近代の戦いであり。

 インド・アジア・太平洋戦線のそれは、近代と古代の戦いとも言えた。

 オーストラリア バース

 補給のない軍隊は孤立し、やせ細り無力化していく、

 しかし、華寇は、最初から領土制圧などを目的とはしておらず、強盗目的だった。

 華寇軍60万は、奪わなければ生きていけない人口だった。

 上陸作戦時、パース近郊の人口は一時的に倍以上に膨れ上がる。

 華寇軍が制圧したパース、フリマントルは、上陸作戦が始まる前の人口より減っていた。

 米豪州軍守備隊とパース市民の奮戦で、死傷者の大半は華寇軍だった。

 純軍事学的にいうと守備隊側の勝ち、

 しかし、勝ちと思わせないところが中国漢民族の偉大さだった。

 米豪軍と華寇軍は、質的アドバンテージが大きく鎧袖一触、

 爆弾の雨が華寇軍の大群に叩き込まれ、

 アメリカ軍の戦車が華寇の群れを食い破っていく、

 「・・・・こえぇある〜」

 「怖いニダ〜」

 「いやある」

 「でっかい銃弾が体に食い込んで抜けていくある」

 「想像するだけで逃げ出したくなるニダ」

 「血が出たらどうするある」

 「お、おれ、足がすくんで動きたくないある」

 「し、死ぬって、どうなるニダ」

 「一瞬で死ぬのと、じわじわと死ぬの。どっちが良いあるか?」

 「どっちもいやニダ」

 「こ、こ、この弾丸が、こめかみから脳髄をグシャグシャにしながら抜けていくと即死ある」

 「ひぇええええ〜! それはいやニダ〜!!」

 「帰りたいある〜」

 「こ、こ、この弾丸が足を突き抜けると死ぬほど痛い思いしながら出血多量で死んでいくニダ」

 「ひぇええええ〜! どっちも、いや、アル〜!!」

 「帰りたいニダ〜」

 「帰っても家がないニダ」

 「ぅぅ・・・もう奪われてしまったある」

 「酷いニダ、補償するニダ」

 「このパースを奪わないと、飢え死にある・・・」

 「その前に爆撃で・・・」

 「くっそぉお〜 アメリカ軍め。見ていろある。やっつけるある」

 「100倍補償ニダ!!!!」

 華寇軍は、質的アドバンテージを埋めるだけの量があった。

 そして、武器弾薬とは別のファクターが存在する。

 まともでない人間は、何人でも殺せたものの極めて少数派であり、

 そういう人間は、平和になる前に敵に処分してもらいたい、

 まともな人間は人を撃ち殺せる数に限界があり、

 普通は、殺し過ぎると、自らの死も受け入れ始める。

 「も、も、もう嫌だ〜!!!!」 アメリカ兵

 「あ、ばか、逃げるな」 オーストラリア兵

 夜間、華寇軍は濁流の如くパース守備隊を押し潰していく、

 

 黙示録

 第五の御使がラッパを吹き鳴らすと天から一つの星が地に落ちた。

 この星の底知れぬ穴を開く鍵が与えられ、穴が開かれる。

 その穴から大きな炉の煙のごとく立ちのぼり、その煙で太陽も空気も暗くなっていく。

 煙の中からサソリの力が与えられたイナゴのようなものが現れ、押し寄せる。

 地の青草と木を損なわず。額に神の印がない人たちに害を加える。

 人間を殺す事をせず五か月のあいだ苦しめることが許される。

 サソリに刺されたような苦痛が人々を襲い。

 人々は死を求めても与えられず、死を願っても死は逃げて行く。

 イナゴは出陣する馬に似ており、金の冠を被り、人間の顔だった。

 その髪の毛は女のようであり。獅子の歯のようであり。鉄の胸当てをつけていた。

 馬に引かれて行く戦車はイナゴの羽音のごとく響く。

 サソリのような尾と針は、五か月のあいだ人間を損なう力がある。

 彼らは、底知れぬ所の使いを王にいただたている。

 その名をヘブル語でアバドンと言い、ギリシャ語でアポルオン (黒い太陽) と言う。

 

 パース港

 内陸では死体を燃やされ、

 埋める気力がないのか、港湾に死体が浮かんでいる。

 死者のほとんどが華寇だとわかる。

 伊号が静かに港湾へと入っていくと、死臭の匂いが鼻につく、

 「占領したんだろう。日本軍は上陸しないのか?」

 「日本代表は送ったがね」

 「山賊みたいな連中で指揮系統も、統制も、滅茶苦茶だな」

 「華寇をまとめられる交渉相手も、いるかどうか」

 「しかし、さすがにアメリカ海軍のインド洋作戦基地だな」

 「破壊されているようだが機動部隊が配備されていただけはある」

 「華寇軍相手に施設を破壊するのが癪だったみたいだ」

 「それなりに残されているのがいいね」

 「期待できるんじゃないか」

 「華寇軍が欲しがっているのは食料と武器弾薬だ」

 「それでパースの工廠が手に入れば良いがね」

 「華寇軍が、どの程度、残っているかだな」

 「10万から20万くらいじゃないか」

 「残っている娘は不幸だな」

 「艦長。こういう戦いは、帝国軍として・・・」

 「同感だが負ければ日本は終わりだ」

 「同じ目に遭うだろうな」

 「「「「・・・・・」」」」

    

 

 真珠湾

 白レンガの住人たちが頭を抱える

 オーストラリア上陸した華寇軍は、これまでのような過疎地ではなく、

 堂々と機動部隊に守らせての上陸だった。

 そして、大都市は、桁違いの華寇軍の兵力に包囲され陥落する。

 人員喪失比を計算すれば、間違いなく守備隊が勝っていた。

 しかし、この場合負け。

 敵は、鼻つまみ者だから処分してくれたら願ったり叶ったりと

 何十万も送り込んでくるキチガイ染みた大国だった。

 そして、白レンガの住人たちが扱っている将兵は、戦後、市民生活に復帰できる将兵であり、

 人海戦術の圧倒的な死傷者に対処できなくなっていた。

 潜水艦の雷撃、爆撃機の爆撃は、システマチックに分担し、精神的に軽減される。

 しかし、兵士は、直接ターゲットに捕らえて撃つ事から、良心の呵責で精神的に追い詰められる。

 一般社会で何千人も殺せて良心の呵責のない人間は怖い、

 共同生活は困難となり、近くにいて欲しくないと考える。

 そして、対華寇戦はそういう作戦を強制される戦いだった。

 「不味いぞ」

 「アメリカ兵が華寇に銃口を向けるのを嫌いはじめている」

 「相手が黄色人種であれば撃ちやすいはずだがな」

 「しかし、それでも限度があるよ。100人も殺せばやめたくなる」

 「・・・・」

 「わざと外している節もあるからな」

 「戦争でも人殺しなんて、いやな仕事だからね」

 「よほど壊れていなければ正当防衛か」

 「自分が撃った弾ではないと思いたいよ」

 「日本は、中国人や朝鮮人を盾にするつもりだな」

 「日本本土に行き着く前に精神的な限界を超える将兵が続出する。大変なことになるぞ」

 「それ以前にミッドウェー島が爆破されて、日本本土が遠のいている」

 「ミッドウェー島は、海抜以下の地盤からやられた」

 「仕掛けられていた爆弾は、時限爆弾で時間が来れば一斉に爆発することが決まっていた」

 「ミッドウェー基地は、もう、使い物にならないのか」

 「いや、予算しだいだ」

 「鉄筋コンクリートで補強すれば埋め立ては継続できる」

 「問題は、今後だな」

 「アメリカ西海岸の市民は脅え、欧州のアメリカ軍将兵も浮足立っている」

 「アメリカ西海岸と豪州の住民は恐慌状態だ」

 「しばらく、華寇作戦から市民を守る仕事だろうな」

 「日本の時間稼ぎに引っ掛かるのか」

 「西海岸に何十人と上陸されただけでも大騒ぎなんだぞ、選択の余地はないよ」

 「西海岸に何十万人も上陸させられたら目も当てられない」

 「華寇軍の衣食住は、とてもまかなえないな」

 「逆に言うと衣食住で吸収できれば何とかなるということか」

 「不良民族を何十万も抱え込むわけには行かないぞ」

 「食わせるくらいなら、殺してしまう方が・・・」

 「だが、このままでは、アメリカ西部から欧州派兵は不可能になる・・・」

 「海軍も、沿岸防衛で、身動きが取れなくなるな」

 「黒人系、スパニッシュ系の動きも相互不信から敵対してるし、不穏になってきている・・・」

 「まずい・・・」

 

 

 呉

 戦艦ストラスブール、空母ツェッペリン

 日本海軍将校たち

 「あれば、あるで、役に立つよ」

 「足並みが揃わないのが問題かな」

 「それ以前に艦載機パイロットがいないよ」

 「パイロット養成が進んでいないじゃないか」

 「そりゃ 飛行時間300時間で最低限だろう。600時間で並み。この時点で2機を潰している」

 「ベテランクラスは1000時間以上だし。さらに練度維持で1年に1機を潰す」

 「基本的にエンジンの耐久時間も養成と練度に合わせて計算しやすいようにしてるし」

 「練習機を使っても耐久年数の長い部品を使いまわしても国の負担は限界だよ」

 「パイロット一人の為、4機が必要だと総生産数の4分の1しか実働で稼動できないか・・・」

 「200リットルのドラム缶で2時間なら飛行時間300時間だと150本で30000リットル・・・」

 「燃料も含めるとパイロットを戦死させたくなくなるな」

 「パイロット養成のたびに機体を潰されたら目も当てられない」

 「それに規格品質で問題ありだろう」

 「実働数で低下するが規格は、それほど酷くはないようだ」

 「戦場で勝つには耐久時間を落としてでも性能を上げるべきだが」

 「しかし、耐久時間を落とすと戦争で負ける」

 「分母を増やすのが一番良いんだよ」

 「機関車なんか作らないで飛行機を作らせろ」

 「そうなんだけどね・・・・」

 「しかし、この軍艦をどうしたものか」

 「一度、戦わせて大破した後に修理改装が合理的なんだが・・・」

 「微妙だな・・・・」

 「それより、原子爆弾は?」

 「原子爆弾か・・・」

 「予算不足か?」

 「んん・・・濃縮ウランも重水もあるがねぇ〜」

 「核分裂を起こせるか、不明だな・・」

 「ドイツ製は良いが模倣が難しいのが難点だよ」

 「それにドイツでは爆弾というより、機関として重視しているらしい」

 「どちらにしろ、まだ研究の段階だよ」

 「どうしたものか・・・・」

 「だいたい。兵士に小銃と弾薬すら満足に供給できないのに勝てるものか」

 「とりあえず。小銃と弾薬から、か」

 「あはは・・・・」

 「最優先で生産中だよ」

 「・・・ヘタレな国だ・・・」

 

 

 南京は、異様な興奮、熱気と活気に満ち溢れていた。

 眠れる獅子、閉塞した大陸。

 華寇軍が西オーストラリアのパースを占領したのだから当然で、

 未来が切り開かれていく、

 「・・・みんな!! 白人世界へ、行きたいか〜!!」

 おー!!!

 民衆が大地を埋め、猛りが上がる。

 「・・・アメリカに、行きたいか!!」

 おー!!!

 「・・・オーストラリアに、行きたいか!!」

 おー!!!

 「全世界が中国人民。漢民族にひれ伏すときがきたぞ〜!!」

 おー!!!

 「立ち上がれ。漢民族!!」

 おー!!!

 「立ち上がれ。漢民族!!」

 おー!!!

 

 「立ち上がれ。漢民族!!」

 おー!!!

 「世界を治めて、中華の覇権を唱えよ!!」

 おー!!!

 「白人女性が待ってるぞ!!!」

 おー!!!!!

  

 「白人女性が待ってるぞ!!!」

 おー!!!!!

 「漢を見せてやれ!!!」

 おー!!!!!

 「漢民族万歳!!!」

 おー!!!!!

 「漢民族万歳!!!」

 おー!!!!!

 

 

 朝鮮半島

 日本人の学徒動員の若者たちが大陸鉄道を運行し、朝鮮移民団が乗車していく。

 日本人は多数派、朝鮮人は少数派となっていた。

 そして、揚子江

 朝鮮人が揚子江で急増すると権益が安定してくる。

 日本は、軍事力で中国大陸を支配する方針を捨て、

 少数民族、異民族の大規模移動を誘導し、

 民族対立で反日を拡散する手法を選択する、

 軍部が考えつかない手法でも、

 財閥の権益と癒着し、拝金主義な政策に捻じ曲げていく、

 「日本の東北域の農家は人減らしで助かりそうだな」

 「まぁ いつまでも軍で大陸を支配しているわけには行かないからね」

 「揚子江の朝鮮・少数民族と東南アジア諸民族が自らの保身で中国を分断してくれるのなら助かるよ」

 「彼らが積極的に働いてくれれば、それだけ、鉄鉱石、石炭、希少金属が日本に入ってくる」

 「問題は、鉄鉱石から鉄を作るのが苦手なことかな」

 「鉄鉱石からでなく。くず鉄からが日本の経済産業の実力ですよ」

 「崇明製鉄所が軌道に乗れば、良いのに・・・」

 「崇明島は、大陸鉄道の要と揚子江の出入り口で地の利の良いですがね」

 「中洲は土壌が脆いような・・・」

 「洪水させられないように堤防を高くしないとな」

 「まぁ 東シナ海側に埋め立てていくよ」

 「問題は、揚子江の出入り口を押さえている利点だ」

 「朝鮮人が揚子江に行ってしまえば、半島は奪われる心配も小さい」

 「それには、鉄道網をもっと強化すべきだよ。軍艦なんか作っていられるか」

 「それは、そうだけどね」

 「しかし、中国も富裕層が増えている」

 「人減らしで個人所得が増えたのでしょう。華寇作戦に積極的ですから」

 「本当は、パースでなく。シドニーに上陸させれば良かったのに」

 「パースは、後回しでも良かった」

 「図上演習だと、空母を3隻、輸送船の半分を撃沈されて、失敗したそうです」

 「シドニーのほうが、航空戦力が強かったということか」

 「ええ、事前に発見されて、航空戦力も集中できますし」

 「それじゃ しょうがないか」

 「ええ・・・」

 「しかし、朝鮮人は、随分と減ったな」

 「大陸利権に誘われたのでしょう。あと、華寇で・・・」

 「半島で日本の個人所得も増大しています」

 「・・・・・・」

 良心の呵責に苛まれながら作戦が進められていく、

 

 

 北部オーストラリア ダーウィン

 ムスタングが滑走路を滑空しながら主脚を格納し、

 速度を増して上昇していく、

 そして、B24爆撃機。ヘルダイバー群が続いて上昇していく、

 管制塔は、喧騒に包まれていた。

 「機動部隊は、どうした!!」

 「こっちに向かっている」

 「しかし、間に合いそうにないな」

 「くっそぉ〜 ミッドウェーがやられてビビリやがったな」

 「ミッドウェーが無力化されているならハワイまで素通りですからね」

 「そうそう、機動部隊は簡単に戻せないだろうな」

 「パースがやられ。今度はダーウィンがやられてもか!」

 「シドニーの航空部隊は!」

 「こっちに向かっている」

 「くっそぉ〜 シドニーも臆病になりやがって!」

 「最後まで航空戦力をケチりやがる」

 「シドニーがやられたら豪州は終わりだからな」

 「輸送船だ!」

 「なんとしても輸送船を沈めろ!」

 「華寇軍だけは上陸させるな!」

 「空母も、他の艦艇も無視だ!」

 

 

 ダーウィンの爆撃部隊は、日本機動部隊に護衛された輸送船に向かって、殺到する。

 日本の第3・第4・第5機動部隊の隼V型が群れをなして機動部隊上空を守っていた。

 「・・・ムスタングです」

 太陽を背にして降下してくる黒い点々が見える。

 「セオリー通りだな」

 ムスタングは、時速700km以上。

 高々度を楽々と飛び、サッチウィーブ戦法で先制攻撃で強襲する。

 隼V型は、いかなる高度で飛ぼうとムスタングンに対し不利だった。

 隼V型は、最大時速560kmが限度、高度が上がると急激に性能が低下していく、

 高々度で、まともに戦っても勝ち目がない。

 限られた戦法で隼V型が有効だったのは敵より先に発見する。

 もっとも、世の中、そんな独り善がりな戦場はない。

 ムスタングは、隼Vが低空を飛べば海面衝突を恐れ、サッチウィーブのキレも鈍る。

 もう一つ、雲の中に逃げ込んでムスタングの第一撃をかわす。

 あとは、数に任せて相互支援しながら、乱戦に持ち込む。

 そして、艦隊攻撃となれば、命中率を高める為、必然的に高度が下がってしまう。

 ムスタングが海面近くの隼V型に襲い掛かろうとしたとき。

 電探で誘導された隼V型が雲間から現れ、ムスタングを掃射していく、

 「上昇!」

 「了解」

 上空と下方に挟まれたムスタングは、混乱。

 下にいた隼V型が上昇しながら乱戦を混戦にしてしまう。

 多少の性能差も数に任せて戦えば損失を最小限にできた。

 隼V型がムスタングに向けて掃射した。

 「ちっ! 頑丈な戦闘機だ」

 ムスタングに小さな穴が空くだけ、

 「爆撃機もだ・・・」

 隼V型は必死にB17爆撃機とヘルダイバーにまとわりつき、

 12.7mm機銃を撃ち込んでいく、

 B17爆撃機が日本機動部隊に向かって突入していく、

 空母に接近してくるB17爆撃機が被弾し、海面に叩きつけられた。

 「海燕だ!」

 チモール基地から出撃した海燕が20mm機銃で爆撃機を掃射していく、

 海燕は、航続距離が短く、長く滞空していられず、

 近場の敵機に全弾を撃ち込むと去っていく、

 B24爆撃機が火を噴きながら弾幕を突破し、

 隼鷹に向かってくる。

 「・・・・・・」 ごくん!

 ジリジリと緊迫した空気が艦橋に漂い、

 艦長は、視線で撃ち落さんばかりに睨みつけた。

 「・・・・・・」

 アべンジャーが空母舷側の近くに墜落して海水を吹き上げる。

 空母 隼鷹

 バリバリと金属と金属が擦れ合う音が艦底から響き、

 ビリビリと振動が艦体に伝わる。

 「B24爆撃機による損傷はありません、艦を引っ掻いた程度のようです」

 「主力機動部隊抜きで上陸作戦は厳しいな」

 「主力機動部隊は、アメリカ主力機動部隊をハワイに足止めさせています」

 「ふ 艦載機パイロット不在で?」

 「アメリカ太平洋艦隊が、そう思っていればミッドウェーから動けないと思います」

 「いまのうちだな」

 「ええ・・・」

 ダーウィン近郊の海岸に華寇軍が降ろされていく、

 華寇軍は、大型船に非人道的なほど押し込められた。

 港に付けば、武器を持っていなくても海岸に飛び出したくなる。

 そして、人海戦術の恐ろしさは圧倒的だった。

 華寇軍30万が人口9000程度のダーウィンに押し寄せ、飲み込んでいく、

 豪州防衛は、危機的な状況になっていた。

 パースは華寇軍によって制圧され、

 ダーウィンも末期戦、

 西オーストラリアの過疎域の海岸線は、分散された小隊、中隊が孤立し、取り残されてしまう。

 海岸の過疎村

 守備小隊

 「やられたな、地方に分散させられ、中央に華寇が上陸する」

 「では、我々は・・・」

 「遊兵にさせられた」

 

  

 シドニー港

 アメリカ機動部隊

 「ダーウィンの華寇軍の規模は?」

 「・・・30万程度だそうだ」

 ダーウィンの人口は8000人弱。戦車も配備されている。

 しかし、過疎地の海岸線にも配備され、

 都市の戦闘車両と兵員は目減りしていた。

 華寇30万の大群の前で、数十両の戦車は、ひとのみ。

 「バカな。あんなところに30万も住めるものか。食料はどうするつもりだ」

 「住める住めないは、二の次。補給はまったく考えてない」

 「日本が華寇軍を上陸させただけで作戦は成功だよ」

 「・・・・あのひとでなしどもが!」

 ばんっ! テーブルが蹴られ、数メートル移動する。

 「問題は、艦隊の補給が終わっても反撃に使える陸軍戦力が足りないことだ」

 「・・・・」

 「アメリカ陸軍は、ノルマンディー上陸作戦で欧州に向けられている」

 「こちらに回せる部隊は少ない」

 「最初に過疎地に上陸させて兵力を分散」

 「その後に本命の大都市に上陸か、参ったね」

 「本土からの救援軍は、欧州上陸部隊に殺がれて遅れ気味です」

 「オーストラリア国民の様子は?」

 「動揺しています。華寇作戦に怯えていますよ」

 「ハワイの機動部隊は動けないか」

 「機動部隊一群だけでは失地回復は不可能です」

  

 

 モスクワ

 モスクワに日本人がいるのは珍しい、

 しかし、いないわけではない。

 赤い塔の部屋

 「・・・中東に空白地帯が作られていると思いませんか?」

 「・・・面白そうな話しだ」

 誰でも考え付くことだ。

 問題は、条件がクリアされているか、クリアされていないか。

 そして、実行に移す意欲のみ。

 「アメリカも、イギリスも、欧州と太平洋でかかりっきり」

 「インド洋、中東は、空白地帯ではありませんか」

 「そういう見方も確かにあるよ」

 「もし、仮にソビエトの中東支配を日本が支持したとしたら・・・・」

 「ソビエトは、アメリカ、イギリスと同盟関係にある」

 「どこの国に対する同盟でしたかな」

 「確か・・・貴国、日本の同盟国だったような気がするが・・・」

 「不凍港の会得は、ロシア帝国以来の悲願のはず」

 「東部戦線で講和を結び。失地分を中東に求めてはどうでしょう」

 「はて・・・そんなことをすればアメリカとイギリスが黙っていないでしょう」

 「それは、どうでしょう」

 「力を行使すれば何もできず、妥協するのでは?」

 「しかし、国際倫理に反するので気が進みませんな」

 『嘘ばつけ!』

 『国際倫理も踏み躙るわ、都合の良いように利用するクセしやがって!』

 「・・・では気が進むような状況をこちらで中東に準備してはどうでしょう」

 「そういうことであれば・・・・やぶさかでもないな」

 ソ連は、東部戦線で消耗していた。

 再建は、年月が必要であり、その負担をアメリカが渋っている。

 そして、日独伊潜水艦の活躍で連合国商船隊の損害は大きい。

 アメリカから太平洋を経て、ソ連へ送られる戦略物資は重要性を増し、

 日本との関係は、舵取りが必要になっていた。

 南方資源との交換で機械部品の一部が日本に流れるのもそれ、

 戦争中、利敵行為は珍しくなく、良くある事だった。

 それをしなければ、東部戦線の大攻勢は、さらに遅れることになる。

 日本が穴の空いた満州防衛線を維持するため、

 ソビエト向けの輸送船を見送るしかないのもそれ、

 戦局が優勢に推移すれば、交換比が有利になり、

 戦局が劣勢に推移すれば、交換比が不利になる。

 それだけの話し、

 敵対する同盟国の離反工作は、常に行われていた。

 国益を追求し、敵勢力を分断し、中立国の権益すらも利用する。

 国益のためであれば、同盟国の生殺与奪も売り渡しかねない。

 国家間の力関係と同盟戦略は、相乗効果で左右されるが損益分岐点は非情だった。

 余程のお人好しか誑し込まれていなければ自国の不利益を許さないのが外交の基本といえた。

 相反して矛盾する事もあった。

 国際的な信義、信用されるのも重要で、必要最小限の妥協も行われる。

 クレムリンの空は暗く、曇っていた。

 日本人たち、

 「・・・どうです? 手応えは?」

 「はぁ〜 結局、国際情勢次第で、どうにでも動くということだよ」

 「約束する価値のない国ですかね」

 「そういうことだ」

 「しかし、東部戦線は低迷して戦果を見込めず。自らの保身に繋がる餌があれば・・・・」

 「バカとハサミは使いようか」

 「無節操で倫理観のない国を利用できるのなら良いですがね」

 「だがハードルは高いな」

 「状況さえ作れるのであれば躊躇しないは助かりますかね」

 「どうかな状況を作る特権は強国の順に強い、日本は列強でも下の方だ」

 「上手く行けば・・・」

 「戦略はな。最善と最悪のどちらも考えておくべきだよ」

 「いまの日本は1隻や2隻ならともかく」

 「大型船を大量に捨てるのは流石に無理だ」

 「成功すれば、それほど沈まないかと」

 「貧しい者ほど、臆病で物に執着する」

 「そうでない者は、バカか、余程、無責任な人間だろうな。確信を持つ者も千里眼も稀だ」

 「しかし、時間を稼ぐといっても・・・」

 「日本の作戦がインド洋に向けられていると思わせるだけでもかまわんよ」

 「アメリカの戦力を分散できれば有利だ」

 「たしかに・・・」

 「ドイツ側に動きは?」

 「スウェーデンでソ連の高官と接触しているようですが、まだ様子見というところです」

 「戦線が膠着すると、どこも、かしこも、色めきたって外交で画策しやがる」

 「それで敵の足並みが乱れれば有利になりますからね」

 「そうだな」

 「極東ソビエト軍に不穏な動きアリ、という噂を流しましたから粛清させられるかもしれません」

 「本当に有能な将軍はいてもらいたくないものだ」

 「もっとも後任がもっと有能だと困るがね」

 「少なくとも後任が人心を掴むまでの時間は稼げるでしょう」

 「後は東部戦線の将校連中に私信が届くようにすれば・・・」

 「攻勢が足踏み状態で軍に不穏な動きがある」

 「独裁者は疑い深いからな」

 「アメリカとイギリスの将校に偽装の私信をソビエトから流すようにしました」

 「少しは混乱してくれると良いのですが」

 

 

 日本

 風船爆弾が昇っていく、

 結果に対する想像力がないのか、

 達成感があるのか、女子高生の声援も力が入る。

   

 日本の風船爆弾と華寇作戦が欧州戦線の戦力を軽減させる。

 ドイツは、アメリカ本土爆撃が欧州圧力減退に繋がると確信し、

 積極的に日本を支援していた。

 赤外線探知装置と連動した舵もその一つだった。

 風船爆弾は水素が抜けながら太平洋を横断し、アメリカ本土に到達。

 赤外探知機で感知した熱源へと舵を動かし、高度を計算して爆弾を投下する。

 森林火災より都市爆撃を狙ったが確率は不利になっていく。

 動作は怪しいものの都市を素通りすることはなくなる。

 ドイツ系将校が二人、昇って行く風船をボンヤリと見守る。

 「女子高生が作った風船爆弾か・・・・」

 「ドイツでも女子高生は軍需工場で働いているよ」

 「子供に勉強させないで働かせるのは国家的損失だな」

 「若いうちから機能重視で専門化、社会の歯車に組み込んでいくのは良いと思うよ」

 「個人の新しい可能性と意欲を摘み取っているのは確かだけどね」

 「自由性と創造性を重視させられるのはアメリカくらいだと思うよ」

 「大国はいいよな、広範囲な知識から組み合わされる想像力が新しい技術革新を生む」

 「後は、育て、認め、投資できるかだね」

 「日本は、無理だろうな。能力も新規産業も潰される」

 「権威主義と年功序列が強いと卑屈になっていくからね」

 「日本は、そうだな。上の度量以上には大きくなれない」

 「しかし、大陸進出で拝金主義が強まっている」

 「意外と権威主義と相殺するかもしれないな」

 「それとも、権威主義と拝金主義の二重簒奪かな」

 「あまり酷いと共産化だよ」

 「だけど、日本は欧米と違って宗教的な抑圧が小さいようだが」

 「欧米諸国は、罪に対する善悪、教条的、心霊的な恐怖が怖い」

 「日本は、恥に対する世間体と村八分の恐怖が強いらしい」

 「どっちが正しいか、間違っているか。良いか、悪いかより、実力者同士の根回しだからね」

 「ドイツと日本は、人間社会のモラルを保つ上で、規範重視か、精神重視の違いじゃないか」

 「精神ねぇ・・・」

 「しかし・・・おとなしい国民だな。日本人は・・・」

 「上に対して長いものに巻かれて事勿れ」

 「設備投資と社会整備に使うべき金を、なあなあで軍事費に使い過ぎている」

 「一度、膨れ上がった政府機関に政府が従属するとはね」

 「しかし、日本を踏み台にしてもドイツを守らないとな」

 「日本脅威を植えつけて欧州からアメリカ軍を撤収させるのが良いな」

 「まぁ 全面協力すべきだろうな」

 他人の国は冷静に良く見えたりする。

 「あれは?」

 超々ジュラルミン製の気球に水素が詰め込まれ、浮かびあがっていく。

 「ハインケルとツェッペリンが共同で建造したものだ」

 「超々ジュラルミン製で厚みは0.5mm。全高10m直径5mの円柱型」

 「ジャイロスコープと赤外線探知機を尾翼舵に連動させて、蓄電池は75時間持ち」

 「油紙とコンニャクより軽量だし」

 「水素を満載させると爆弾60kg分を載せられる」

 「高度8000mから12000mの偏西風の速度は秒速70m」

 「ジェット気流なら50時間ほどでアメリカに到達する」

 「80時間後に内部の爆薬を破裂させ、アメリカ東海岸か、大西洋に落ちる」

 「少なくとも穴があいてなければ、途中で落ちることもなくアメリカ大陸に到達できるし」

 「娘さんたちの指紋が消えることもないだろう」

 「運が良ければ赤外線探知機の反応で都市に爆弾を投下できるだろう」

 部品の精度を問われない風船爆弾は、日本の産業にあっており、

 ドイツ人の目から見ても戦略の理にかなっていた。

 むしろ、艦隊を建造せず、

 こればかり、アメリカ大陸に落としていた方が、余程、良いとさえ思えた。

 

 

 ビルマ戦線

 最前線は、南京政府軍、ビルマ軍、インド国民軍、タイ軍。

 少しばかり後方に日本軍が配置されていた。

 3式自走砲は、運用に難があった。

 しかし、海軍の高射砲だった60口径76.2mmは、最大射程13000、初速900m。

 イギリスやアメリカの戦車を撃破できる数少ない戦力だった。

 しかし、エンジン音がうるさく、長距離から狙わなくてはならない。

 そして、長距離だと命中率は低く、命中しても撃破できない可能性も高くなった。

 それでも中国戦線で使い潰した97式戦車よりマシだった。

 兵団司令部

 司令官が電話中

 「弾薬は、どうした?」

 『いや、それがですね。まだ生産が遅れて」

 「ふざけんな。ルビーを送るのやめるぞ!」

 『い、いやぁあ、そんな。困りますよ。師団長〜』

 「弾薬もないのに前線が維持できるか。ボケが!」

 『け、計算上は、大丈夫なんですけどね』

 「バカか。貴様!」

 『そ、そんな〜』

 「ふざけんなぁ!! 数学者か〜! おまえわぁ!!」

 「前線に立って弾薬の足りない小銃をかまえてみろ!」

 『あはは・・・送っているので、も、もうすぐ、と、届くはず・・・なんですけどね・・・』

 「本当なんだろうな!」

 『も、もちろんですよ』

 『大本営が前線で戦っている兵士を見捨てるはずないじゃないですか』

 「・・・・・」

 がちゃ〜〜ん!!!

 華寇作戦は、大量の武器弾薬を使う。

 たとえ、員数当たりに渡される武器弾薬は、少なくても日本陸軍の全体の装備が減らされる。

 戦闘機や軍艦は必要だったが、兵士に供給する武器弾薬も必要だった。

 急造兵士に満足な武器弾薬も供給できない輸送力、

 日本が成り上がりの小国であると思い知らされる。

 『・・・・・・・・』

 机の上に置かれた宝石が鈍く輝いていた。

 華僑に渡せば裏金ができる。

 しかし、隠し財産を得ても弱みを握られる。

 そして、毒を食らわば皿まで・・・

 日本の国益までも吸い取られてしまう。

 貧しさのあまりに国益を売り渡した朝鮮民族・漢民族の気持ちが、わからないわけではない。

 聖域に浸り腐り切った大本営、

 上層部の利権と戦略がどうあれ、愚かと思えばモラルが低下する。

 次第に低下していく前線将兵のモラル、

 華僑の誘惑は背徳で魅惑的だった。

 「・・・・宝石を日本へ」

 「はい」

 まだ、ギリギリで、モラルが保たれている。

  

 


 月夜裏 野々香です。

 大陸鉄道の比重が大きくなっているのか、華寇作戦全開です。

 優良輸送船は、残っていますが、日本は、本気で使うかどうか・・・・

 

 他人の土地(中東)で政略交渉。

 悪魔の所業でしょうか。地獄行き決定です。

  

 

 風船爆弾

 セーラー服と風船爆弾。

 機関銃より、牧歌的で、無差別で、確率的です。

 ちょっとシュールな光景でしょうか。

 

 

 華寇作戦

 もう、何も言いません。

  

 

   

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第28話 1944/09 『うそつき』

第29話 1944/10 『セーラー服と風船爆弾』

第30話 1944/11 『世界は、行動する者を待っているのよ』