第30話 1944/11 『世界は、行動する者を待っているのよ』
東部戦線は冬季になれば停滞する。
ドニエプル河は、双方にとって適当な防衛線だった。
ドイツ軍将校が川向こうを双眼鏡で眺める。
「・・・冷えてきたな」
「ああ、向こうも再編成が終わったようだ」
「鉄道をもっと増やして欲しいな」
「輸送力があれば増援できたというのは、昔の話しだよ」
「もうドイツに予備兵力は残っていない」
「フランスに上陸されたからな・・・」
「イタリア軍も、東欧軍も頼りにならん」
「一番頼りになるのは日本の華寇軍だそうだ・・・・ほら、これ」
書類が渡される。
「・・・なんだ・・・」
「・・・こっちで日本が華寇作戦でアメリカ西海岸に1億を上陸させる噂を流せだと」
「何で、東部戦線から?」
「・・・信憑性の関係でな。敵を疑心暗鬼にさせたいらしい」
「華寇作戦か」
「アメリカ西海岸に華寇軍を1億も上陸させてくれたら、確実に勝てるぞ」
「日本は、そんなに船は持っていないよ。武器もね」
「ブラフか。だろうね」
「まだ、500万トンくらい輸送船が残っているはずだが。残念だな」
「アメリカ西海岸に華寇軍1億を上陸させてくれるのならドイツとイタリアの艦船を全てくれてやりたいよ。武器弾薬もね」
「アメリカ軍も1億人を皆殺しにするのは、骨だろうな」
「だが、1億人の衣食住を準備するより楽だ」
「人を生かすより、殺す方が楽だからね。だから戦争が起こる」
「日本の戦略は優れているよ」
「日本軍部というより日本の財界の圧力で、そうなってしまったらしい」
「あはは・・・」
「日本は軍部より財界が怖いのか」
「軍人は戦略を学んでも足の引っ張り合い」
「保身、派閥、馴れ合いで、戦功意欲ばかり強いらしい」
「戦争で損益計算ができる財閥の方がマシなんだろう」
「まともに損益計算ができるならアメリカと戦争しないと思うけどな」
「平時でも戦時でも良識より、強者の論理が幅を利かせるから」
「特に軍部は、自己満足な大義名分があるなら、どんな犯罪でもする」
「エゴと物欲で敵ばかり作って、身と国を滅ぼしていく」
「もう少し上手くやれたら利口なら戦わず、敵を追い詰めるし」
「敵より味方を作るからね」
「しかし、平和なときは戦争を求め、戦争のときは平和を求めだから救われないな」
「特に戦場にいると人間は救われない生き物だと良くわかるね」
ドニエプル河を境に互いの陣営が戦線を構築していく、
数センチ深く掘れば、その分、命を保てるかもしれない、
日本に供給した工作機械で数センチの深さを減らされるなら、命懸けの供与といえる。
「・・・大佐。スパゲッティができたぞ!!」
「熱いうちに食べるんだ!!」
後ろからイタリア軍将校が叫ぶ。
「・・・イタリア人がいると、救われるな」
「あはは・・・」
西部戦線
航空戦力と戦車が第一次世界大戦のような大規模塹壕線を難しくしていた。
ドイツは、西部戦線へ予備兵力を移動させて陣営の厚みを強め、
アメリカ戦車部隊は、用心深く、街道を進撃する。
互いに戦車なのだから少しくらい起伏が激しくてもかまわない、
しかし、平坦な街道を進ませた方が車両に無理をさせなくて済む。
惜しんでの事というより、
いざというとき、故障したら困る。
航空支援がないとき、電撃戦ができないため、
前進は用心深く、斥候が先行していた。
当然、双方の斥候が衝突したり、すれ違ったり・・・・
フランスの森
木陰に潜んだ人影が双眼鏡を覗き込んでいた。
「・・・東部戦線で捕獲したT34戦車だ」
「多いのか?」
「ああ、最近は増えている。ヘボなロシア人のおかげで、いい迷惑だ」
「レジスタンスに武器を供給したいが、まず、君たちを信用したい」
「どうすれば?」
「銃の名手にドイツ軍将校を射殺してもらいたい。確認した後、武器を空輸する」
「用心深いな」
「アメリカが、太平洋側に兵力を割かれて、余裕がなくなってきている」
「余裕がないのは、俺たちもだ」
「レジスタンス狩り?」
「それもあるがドイツ軍が日本軍の真似をして、フランス人をウクライナに送り込んでいる」
「酷いな」
「普通のフランス人は、ロシア人よりドイツ人をマシだと思っている」
「武器を持っていれば、ソ連軍側に向ける」
「ふ 俺も、そうするよ」
「だろうな」
「アメリカ軍とイギリス軍捕虜も東側の捕虜収容所に送られ」
「ロシア軍捕虜は、西側の捕虜収容所に送られている」
「本当に?」
「ああ、捕虜を解放しても信頼できない味方というわけだ」
「脱走する気も失せるだろうね」
深夜、木陰に潜んだドイツ軍兵士がモーゼルGew98を構え、
無線で連絡を取り合っていた。
『いいか、連合軍の将兵は距離が離れると軍服と階級章が、わかりにくい』
『長々と敬礼もしない』
『まだ、ドイツ軍の方がわかりやすい』
『しかしだ。僅かな違いで分かる事もある』
アメリカ軍陣地は、マニュアル通り歩哨が立ち警戒している。
テントから出てきた兵士と、
M4シャーマン戦車の上部ハッチから外を見ていた兵士が敬礼する。
銃声が森の中に響き渡ると戦車の上にいた兵士が倒れ、
陣地全体が騒然となる。
そして、周囲から一斉に銃声が聞こえて、兵士が次々と倒れていく、
一流の狙撃兵は、価値がある。
電撃戦で勢い良く進撃する部隊も、一人潜む狙撃兵に怯える。
指揮系統は、高度な戦略と戦術を支える上で重要だった。
しかし、同時に弱点を作る。
指揮官を射殺されてしまうと肝心の指揮系統が乱されて、前進も、後退も、遅れる。
軍上層部が狙撃を恐れ、後方にいると情勢判断を誤認しやすくなり、
判断ミスも増え、侵攻能力と機動力が失われる、
単純に相手より強い戦力をぶつければ勝てる戦いでさえ、
指揮系統を維持するため適切な命令が出せず、絶好の機会を逸してしまう、
狙撃兵に撃たれると進撃が止まり、狙撃兵狩りが始まる。
そして、一流の狙撃兵は、身を隠すのも一流でなければならず、
狙撃の群狼作戦もある。
四方に隠れ潜んで無線で連絡しあいながら同時に撃つ、
「・・・・いまのは、指揮官だったかな」
『まぁな。先に敬礼する方が階級が下だから、敬礼されるヤツは狙いだろうな』
『しかし、最近は、敬礼も省略しやがるからな』
「死にたくなければ、そうするさ」
僅か数人のベテラン狙撃兵に囲まれた中隊(200人)は、指揮系統が失われ、
地獄を見ることになった。
パリ ドイツ空軍基地
ノルマンディー上陸作戦後、
アメリカとイギリスの航空戦力は、量的な損失とローテーションが狂わされ。
空襲の勢いが鈍っていた。
航空戦力の再編成と整備が軌道に乗るまで合間があり、
しばしの静寂が訪れる。
小雪舞う滑走路にMe262戦闘機が並ぶ、
世界最強の戦闘機Me262は、ジェットエンジンの耐久性が低く、
まともな訓練ができず。ひたすら実戦あるのみ。
当然、実戦経験があって、柔軟性ある若者がパイロットになる。
しかし、例外もあった。
バシャ! バシャ! バシャ!
人だかりの中、二人の少女がフラッシュの前に立っている。
ドイツ空軍パイロット、
金髪のアイリス・ライチェ少尉と黒髪の仁科マイ少尉は、国威高揚の飾り、
ソビエト空軍パイロットは、腕力で劣ってもよいと考えられ、
国を守るためなら女性も実利的に投入され、女性パイロットは多い、
ドイツ空軍は国民、女子供を守るために戦うため存在するため、
女性パイロットの数は少なかった。
しかし、全国民を鼓舞する萌えな存在を必要とした。
絶対に撃墜されてはならない空の舞姫、
矛盾するのだが実力と能力は、どうでも良く、ただ、見栄えあるのみ、
“敵機が来たら逃げろ” が、最優先至上命令だった。
身に覚えがないのに機体の撃墜マークが増え、
公式記録に数字が記される。
写真撮影が終わって、記者が引いていく、
同時に営業スマイルの二人の表情が曇っていく、
「・・・ジェット戦闘機なのに “逃げろ” だなんて、なに考えているわけぇ〜」
アイリスが撫すくれる。
「命令だから」
「そりゃ〜 プロペラ機だと負けるでしょうけど」
「わたしたちが乗ってるのは、Me262ジェット戦闘機なのよ」
「関係ないじゃない」
「・・・・・・・・」
「・・・もう〜 頭にきた〜!」
ばぁ〜ん!! 機体を叩く、
「こんな嘘のマークじゃなくて。本物のマークをつけてやる」
「隊で撃墜した数の1割が二人に振り分けられているから偽造じゃないわ」
「冗談じゃないわよ」
「一機も落とさないでドイツが負けたら、私たち、この偽造マークの年数だけ刑務所行きよ」
「命令違反」
「ふん! 空に上がってしまえば、こっちのものよ」
「危ないわ」
「あんた。何で戦闘気乗りになったわけぇ〜」
「・・・空を飛びたかっただけ」
「それだけの為に飛行艇に乗って、インド洋から地中海まで飛んで来たの?」
「日本じゃ パイロット無理だったから・・・」
「はぁ〜 女は戦わなくて良いわけぇ〜 平和ねぇ」
「日本は、女に配る武器もないもの。それに慰安婦で死ぬより良いもの・・・」
「・・・なんか酷いわね」
「貧しいと、そうなる」
「ドイツ語は、どうして覚えたの?」
「むかしは、お金持ちの娘だったから」
「ふ〜ん でも、そんなのどう〜でもいいわ、マイ」
「私たち、もう、飛行時間は300時間を越えたのよ」
「280時間は、練習機だったわ・・・」
「いい、マイ。人間、待っていては駄目よ」
「組織も、社会も、世界も、行動する者を待っているのよ」
「・・・総統みたいに?」
「そうよ “やればできる” 日本の “ことわざ” よ」
「それ “ことわざ” じゃ・・・」
むっ!
「・・・いいわ」
管制塔
「金髪の女神と黒髪の魔女か・・・」
「離着陸できるだけのヒヨッコ娘に最強の戦闘機とはね」
「宣伝省の別会計ですから」
「余裕があると、思って良いのかな」
「余裕を作る為の宣伝ですよ」
「本当にアメリカ軍は、太平洋側に兵力を持っていかれているのか?」
「数字上は・・・」
「前線を見る限り、そう思えないんだが・・・」
「アメリカは、大国ですからね」
「そんなことは、わかっている」
「増援は?」
「決められた分だけは、送れると・・・」
「思えん・・・」
地中海
米英軍がフランス戦線、ソビエト軍が東部戦線に集中するあまり、
地中海・北アフリカ戦線は停滞していた。
イタリアにとって幸運といえるが兵力の多くがフランス戦線と東部戦線へと割かれ、
お留守番のロンメル軍団に半島が支配されているようにも思えた。
空母アキーラ 艦橋
軍艦があっても燃料がなければ、その真価を発揮できない、
燃料がないのだから、港に浮かぶだけで精一杯で、
日本も、イタリアも、燃料がない貧しさが身に沁みる。
「イタリア半島がドイツ軍に駐留されてしまっているのは、嘆かわしいね」
「だが、イタリア軍は、南フランスと西ウクライナに駐留している」
「そいつらに燃料を食われてどうするんだよ。イタリアに利益無しじゃないか」
「あるだろう」
「南フランスと西ウクライナにイタリアの利権がある」
「これは、イタリア史が始まって以来、稀な事だ」
「ドイツのおかげなのが癪だがね」
「太平洋側の日本と中国のような関係が欧州のドイツとイタリアの関係に当たるのか」
「真似したとしか思えないな」
「創造性の欠如だ」
「ドイツ人は、むかしから、文化が遅れていたからな」
「どちらにしろ、イタリア半島の軍事力をドイツ任せというのが気に入らん」
「そりゃ 非人間的で芸術性のかけらもないドイツの機能主義は、誰だって反吐が出るよ」
「ドイツ人の作ったヴァイオリンが、それだな」
「機能美を追求したヴァイオリンが美しい音色を奏でると思い込んでいるところがドイツ人の程度の低さを物語っているね」
「あははは・・・・」
米英航空部隊がイギリス本土から飛び立ち、
橋頭堡を拡大する支援爆撃を開始する、
ドイツ空軍機が出撃して前線の上空を防空する。
Me262戦闘機群が、ムスタングやライトニングを撃墜していく。
そして、フォッケウルフとメッサーシュミットが、
コンバットボックスを組んだB17爆撃機の弾幕へと切り込んでいく、
コンバットボックスの周囲を高速で飛び交う戦闘機群が舞い、
曳航弾が標的を追い掛け、互いの機体をズタズタにしていく、
少しくらい命中しても致命傷にならないだけの防弾があると
僚機の支援に助けられ事が少なくなく、
パイロットに相互支援の余裕を与える。
何より、損傷による戦闘能力低下が少ないと反撃しやすく、
粘り強い空中戦ができた。
高々度
Me262戦闘機2機
「あれ・・・コンパスの調子が悪いわ。マイは?」
「ええ、悪いわ・・・方向が、わかりにくいわ」
『おい、どうした!』
「・・・・あ・・ガッー!・・・・マイ・・・・ガッー・・・無線も・・・」
「ええ、悪いわ・・・基地と連絡できなくなるわ」
『おい、アイリス少尉、マイ少尉。どう・・・プッ!』
その日、金髪の女神と黒髪の魔女は、ムスタング2機を撃墜してしまう。
華寇軍のパース、ダーウィン占領は、漢民族と朝鮮民族を熱狂させていた。
しかし、赤レンガから聞こえるのは、ため息ばかり、
この作戦で日本の弾薬庫が全て空っぽになっていたとしても、
一般には、伝えられていない。
そして、航空戦力どころか、一般兵士の標準装備すらまともに揃えられない。
「・・・救いがあるとすれば、38式小銃を全部処分できたことかな」
「こんなことなら99式なんて採用しなければよかったんだ。バカめ」
「数を揃えるんなら、38式のが良かったけどな」
「38式でも、99式でも、どっちでもいい」
「最悪なのは、どっちも使うことになったことだよ」
「とりあえず。99式の生産工場は、増築すべきだろうね」
「工場の拡張増築はいいけどね」
「クワとツルハシしか持ったことのない人間が簡単に小銃など作れるものか」
「小銃を製造するだけでも、これほどの労力になるとわね」
「アメリカと戦争なんて、とんでもないという感じだな」
「99式小銃が110円ぐらいだろう。100万丁で1億1000万くらいだよな」
「戦艦かよ。頭いてぇ〜」
「確かに華寇作戦を考えると弾薬込みで、あと、100万丁は、欲しい」
「華寇作戦を続けようと思えば、100万丁どころか、もっとだ」
「ふふふ・・・もう・・・戦車いらねぇ 小銃作って華寇作戦で押し切り・・・」
「北アメリカ大陸は遠すぎる。途中で沈められそうだよ」
「何とか、アメリカ機動部隊を分散させないとな」
「んん・・・」
「まず、艦隊決戦に萌えている海軍バカ将校を片付けてからだな」
「か、海軍から、将校がいなくなるぞ」
「・・・・・」
新工場
工作機械が並べられ、工作機械の部品が製造されていく、
いうなれば、ドイツでも最高級の最新の工作機械で、
工作機械を製造する工作機械(マザーマシン)。
言葉が通じなかったものの、
学徒動員された青年たちを手取り足取りで教えていく、
ドイツ本国の圧力を減らそうと思えば、日本の産業を底上げさせる必要がある。
アメリカ・イギリスに黄禍論・日本脅威論を刷り込まなければならなかった。
日本にとって工作機械は、産業基幹の要、
軍部が武器や兵器を作ってくれと騒いでも、
ここで生産されるのは、工作機械の部品のみ、
ここで組み立てられる工作機械でさえ、
最重要の精密機械を除けば、工作機械の部品を製造する。
日本の国力をジリ貧から黒字にするには、兵器生産を後回しにせざるを得ない、
現在ある工作機械を3倍に増やしても必要とする戦力に足りない。
ドイツ製の旋盤、フライス盤、ボール盤、
平削盤上削盤、歯切盤、研磨盤で部品が作られていく。
そして、組み立てられた旋盤の精度が確認される。
ボールベアリングの鋼球すら、まともに製造できない日本から、
ボールベアリングくらいまともに作れる工業国になろうとしていた。
ドイツ製ドリルが気持ちよく穴を空いていく、
ここで、民族自立を振りかざす者はいなかった。
ドイツ人技師とドイツ職人が工場を監視していた。
「切削油と潤滑油がな・・・・まぁ いいか・・・」
「駄目だろう。焼き付け起こすよ」
「まともな製油工場作ってたら戦争が終わるよ」
「とりあえず。随分、マシになった」
「添加剤の代用は、良いけど。工員と整備士が理解していないとな・・・」
「基油と添加剤合わせて10種類以上は、覚えてもらわないと・・・」
「いや、せめて、6種類くらいは・・・・」
「色分けしても、ないからしょうがないで、やられてしまうとな・・・」
「あはは・・・・」
「しかし、やっぱり、学生は良いよ」
「日本の熟練工は駄目だね。自分のことしか考えていない」
「自分の価値と賃金を維持する為」
「保身の為、知識と経験を後塵に伝えないからな」
「これじゃ 総力戦で勝てないね」
「自分たちの保身が日本を滅ぼしていることすら気付いていない」
「ヤスリがけでアメリカに勝とうとしているんだろうな。矮小な国民性だよ」
「贅沢が敵だとか言ってるからな。ドイツ人も、そこまで欲望を卑下しない」
「本当は、貧乏が国家の敵なんだよ」
「貧乏が犯罪を生む」
「犯罪が人間と人間社会を蝕んでいく、行き着く先は戦争だな」
「豊かなアメリカが、もっと豊かになろうと起こしている戦争だよ」
「ドイツと日本は、アメリカ産業の踏み台だな」
「日本に期待するよ。特に華寇作戦」
「アメリカ資本家を青ざめさせてやればいい」
ドイツ人たちは、言葉が、わからないと思い、言いたいことを言う。
もっとも、目は口ほどにモノを言う。
顔色や表情を見れば、どう思っているのか、なんとなく、わかったりもする。
中国大陸
大陸鉄道は、少しずつ本数を増やし、
機関車は、季節外れの黄砂を巻き上げる。
南京政府は、日本と協力し、大陸鉄道を利用し、
利権構造を構築して中央集権を確立していた。
もちろん、日本と南京政府軍に反発する漢民族も少なからずいる。
しかし、華寇作戦で、中国の親欧米派は一掃され、
大勢が親日派になっていく、
中国人の商魂は、たくましく。
日本のような統制は難しく、無秩序に市場が拡大していた。
その代わり、貧富の差は、広がり、
貧しい者は、さらに貧しくなっていく。
駅弁は日本以上に贅沢に作られ、日本語新聞も売られていた。
「汪兆銘死去。陳公博が継ぐ。か・・・」
「代替わりの影響は、どうかな?」
「成都の蒋介石も、欄州の毛沢東も、動けないのなら大勢は変わらんよ」
「動きたくても動けないか」
「南京政府は、蒋介石・国民党と毛沢東・共産党を材料にして日本と駆け引きをしている」
「南京政府軍が包囲だけで攻めようとしていないのがそれだな」
「蒋介石と毛沢東も予備に回って確信犯だろうな」
「しかし、この辺も随分と豊かになってきたな」
「船腹は不足気味だが日本人も半島に移民して富農が増えた」
「大陸の原料と消費が日本経済を底上げしている」
「生産力は小さいのにな。消費も・・・」
「人口8000万の衣食住と民生品を原料、輸送、工員、機械、サービスを計算すると」
「民間で最低限必要な物資が割り出される」
「しかし、それに中国人6億の消費が加算されるとな・・・」
「こっちにも、回ってきているんだろう」
「だからって、日本人だけで・・・というのはないのか」
「経済は、正直でね。弱者と貧乏人を無視するんだ」
「軍主導の我田引水で国民生活の物資を計算をすれば、国民は苦しくなっていく」
「そりゃ 経済は消費にしたがって動くからね」
「華寇作戦で個人所得と消費が増える。当然、日本経済は大助かりだ」
「民間と軍部の物資争奪は昔から行われている」
「こういう手法で解決するのは、罪悪感に苛まれるよ」
「漢民族も、朝鮮民族も、日本民族も、本音は大助かりだよ」
「本音はね」
「だからといって、本音が言えるわけでもないよ。無分別な金の亡者が増えそうだし」
「富農が増えたから。トラクターを量産すれば、喜ばれるだろうね」
「でもさぁ〜 金かけてトラクター製造して余剰人員を増やしても」
「日本人の労働価値はトラクターより低いだろう」
「農民しかできないのに余剰人員増やしてどうするんだよ・・・」
「工員はスキル高いから。すぐなれそうなのは兵隊だろう」
「こういうのはね、平時にやらないと駄目なんだよ」
「食糧増産で言うと少人数で食糧増産と拡大だろう」
「余剰人口で工業化。サービスの拡充で国力増強が富国強兵の道」
「問題は、トラクターの性能がね・・・・」
「企業農業への参入を認めるのが早い」
「あれは確か、選挙の関係で駄目だったんじゃ・・・」
「いまは大丈夫だろう。軍政で議会は無力化しているし、いまの内に・・・」
「暴力団で豪農を恐喝するようなものだ」
「鉄は熱いうちに打て」
「大多数の人間は歳を取ると権威的に自己主張して時代を見抜けず」
「欲の皮を突っ張って醜くなるんだ」
「そういう時は非合法な暴力で解決する」
「・・・どっちが?」
「あはは・・・」
「トラクターより、戦車を作りたいってよ。目指せ機甲師団」
「自分の立身出世、戦績の為、勅命を利用して国力を消耗させるハネッ返りのバカ軍人か」
「お国の為に〜 ってか?」
「無知蒙昧で無分別な愛国も弊害だよ」
「いまの日本に機甲師団を作れるだけの国力はないね」
「セクト主義は度が過ぎると癌化して国家を滅ぼしてしまう」
「今回は、たまたま軍部だがね」
「軍部は、見境がなくなると宿主の血肉を切り売りしたがるからな・・・」
「軍を切り売りしたいね」
「・・・バカは、華寇軍と一緒に敵に処分してもらいたいよ」
「拝金主義は困るけど。権威主義とバランスを取らないとね」
「禍根を断つ程度は、賛成だよ」
「大陸権益で邪魔な将兵は、前線に追いやっているから大丈夫だろう・・・」
「守ってもらっているのに気が退けるけどね」
「自業自得だろう。赤紙一般徴兵には、悪いが責任を取ってもらう」
「それは、自業自得というより、自業他損」
「しかし、揺り返しも怖い」
「軍部が日本を危機に陥れるか」
「資本家が日本を危機に陥れるかの違いだろう」
「官僚も入っているな」
「共産主義だってそうだよ。権力側のエゴは大多数の国民を窮状に陥れる」
「いや、古今東西の国々は、みな共通だ」
「国民の大勢が虚栄を望んでいるのさ」
「正気な人間を巻き込んで断崖に向かって突撃されると、困るよ」
「人間社会がバカ過ぎて、利己主義と無政府主義が増えても困る」
「確かに犯罪者も多くてモラルは最悪だな」
「危なく泥棒に陸奥を爆破されるところだったらしい」
「泥棒の気持ちもわかるね」
「貧しい上に権威主義のごり押しは人を卑屈にさせてしまう」
「権威主義者は、人の気持ちを踏み躙り過ぎだよ」
「キレて暴動に訴えるか。自暴自棄で軍艦を道連れか」
「権威側も少しは懲りればいいんだ」
「これで拝金主義が強くなれば人の気持ちを狂わせて、ねじけた人間ばかり増えてくる」
「人間性まで失いそうだな」
「社会性だろう」
「独り善がりを追及すると人間社会を構築、維持できなくなる、未開人化だな」
「かくして、殺人、強姦、放火、強盗、窃盗、傷害、詐欺、横領、賭博は、相変わらずか・・・」
「半島の接収で軍属の土地持ちが増えて、少しは、マシになっただろう」
「基本は農業だからね」
「だけど、陸奥が爆沈するところだったんだぞ」
「いつの時代の新聞も同じ結論しか出てこないよ」
「人間社会は混沌に向かっていくね」
「欲望のままに貧困と戦争を作り出した元凶はアメリカだよ」
「それじゃ 混沌の結果の華寇を突きつけてやればいいんだ」
「それは、八つ当たりでは?」
「八つ当たりもしたくなるさ」
「偽善者ぶりやがって、いつまでもアメリカに生殺与奪権を握らせおくものか」
「個人から世界まで、同じ構図だよ」
「まず世界から片付けよう」
「本当は良心的な人間や国が尊ばれるべきだけど、疎まれやすいのが問題かな」
久しぶりの船に兵士たちが港に集まっていく、
上空は、輸送船の防空の為、海燕の編隊が旋回していた。
下ろされる物資は、生活用品や自給自足用の物資がほとんどだった。
自給自足が進むと、なんと、本物のコーヒーが栽培される。
その分、船の行き来が減ってしまうのが難点だった。
しかし、二式大艇が、日本に帰還するとき、
コーヒー豆を持って帰るのだから、日本軍も・・・・・
いや、コーヒーも戦略物資かもしれない。
ガダルカナル司令部
「それで?」
「できれば、ここから大規模な華寇作戦の陽動を・・・」
「それらしい振りをしろと?」
「哨戒線を突破し、東オーストラリアに華寇軍60万という計画で・・・」
「ニューカレドニアでも良いけど・・・」
「あの哨戒線は、かなり必死だし、難しいんじゃないか」
「海軍の図上演習で空母が何隻も沈んだと聞いたぞ」
「水田を拡張し、それらしい施設を拡充させて兵站になるなら、アメリカも用心して機動部隊を動かせないだろう」
「それで、これだけの資材か・・・」
「そういうこと」
「その陽動で、こっちが、攻撃されたらどうするんだよ」
「だ・か・ら・陽動だろう」
「なるほど、アメリカ機動部隊を誘き出して、ほかで華寇作戦か」
「そういうこと。アメリカ機動部隊をひきつけてくれ」
「無駄死にだけは、ごめんだぞ」
「そうならないようにはするがね」
「とにかく “いかにも” という感じで、時間稼ぎをやってくれ」
「できれば、もっと、武器が欲しいんだがな」
「武器がな〜」
「武器もないのに戦争するなよ」
「あはは・・・・」
『笑い事か・・・・』
「日本を守るため、この楽園を地獄にするのか・・・」
「祖国だろう」
『日本は、それほど、守る価値があったかな・・・』
ガダルカナル航空基地は、2000m級滑走路3本の飛行場にまで拡張されていた。
航空機は、戦闘機が多く、300機を越える。
アメリカ機動部隊も大規模な攻勢を見送るほど。
上陸作戦を防いでいたのは、航空戦力より、
水雷戦隊、防潜網、機雷の存在が大きかった。
そして、難あり日本製のトラクターやブルドーザーが活躍し、
ガダルカナルの衣食住の兵站能力は、ラバウルに次いで高く、
トラック、グアムなど小さな島に比べて充足していた。
南太平洋の華寇作戦も、ここを拠点にして行われている。
敵基地を直接攻撃するといった馬鹿げた作戦はしない、
給油用の潜水艦と二式飛行艇があれば、たいていの場所に華寇の上陸作戦ができる。
特にニュージーランドは山岳に囲まれた湖水が多く、
少ない武器弾薬でも時間稼ぎがしやすかった。
アメリカ軍も豪州全域にレーダー網や哨戒基地を建設したり、
部隊配備で忙しく、攻勢に出る余裕がなくなっていた。
輸送船から3式自走砲、新型のブルドーザーとトラクターが降ろされてくる。
「新型のトラクターか・・・これは壊れないだろうな」
「軽く作っているからエンジンに負荷が、かかりにくい大丈夫だろう」
「・・・って、アルミじゃないか」
「あたり」
「戦闘機を持って来いよ」
「いや、単純な話し、建設機械とトラクターだけでも10万台以上欲しいとかで・・・・」
「・・・・」
「ほら、余剰人口を製造業、軍、運送業に回せるだろう」
「武器もたくさん作れるだろう」
「そういうのはな。戦争始める前に揃えとけよ」
「戦争して、揃えるようになったんだよ〜」
アベンジャー雷撃機が海面を飛びながら魚雷を投下、
魚雷は、黒い艦影に向かって、白い泡を立てながら迫っていく、
そして、ゴーン!!
「よ〜し」
「上手くいきましたね」
「後は帰るだけ」
黒い艦影は、水柱を上げただけ、
そして、黒く見えるのは、夜だったからだ。
タイコンデロガ
アメリカ空母艦載機は、夜間の離着艦を繰り返す
日本海軍が空母で優勢でありながら華寇作戦を重視し、
艦隊決戦を避けるようになると状況が変わる。
アメリカ太平洋艦隊は、数において劣勢であるにも関わらず。
華寇作戦の元を絶とうと、艦隊決戦を求め始める。
ヘルキャット戦闘機、アベンジャー雷撃機が着艦する。
これが日中であれば、問題なし、
問題ありは、夜間の離着艦だったこと、
レーダー装備の艦載機でなければ不可能で、
夜間の航空戦ができない日本機動部隊は負ける。
ランチェスターの法則に従えば、日本機動部隊は、迎撃機も出せずに完全敗北、
まさに数に対する質の勝利といえた。
灯火管制の薄暗い艦橋で笑みを浮かべる将校が立っていた。
「提督。レーダーだけで、標的艦を確認。雷撃に成功したそうです」
「そうか。続けろ」
「実戦がどうなるか。楽しみですね」
「くっそぉ〜 日本機動部隊め、夜間爆撃で全滅させてやる」
「夜間の空母発艦で艦隊攻撃は史上初です」
「吊光弾を落とせば、めくらましにもなるな」
「日本機動部隊の周りは、一時的に真昼のようになる」
「敵味方、共に。ですけどね」
「どっちが良いかは、戦況次第か」
「そして、戦況を作るのは、アメリカ海軍だ」
オーストラリア パース
豪州守備隊は、華寇軍に都市が占領されても戦力を保持しようと思えばできた。
華寇軍が欲するのは、己が命。
次点で、己が衣食住。
あえて言うと、命を保つ為の衣食住さえあれば戦意はない、
それ以下ではなく、
それ以上の戦略的価値は求めていない、
華寇軍の性質を知らない当初、
守備隊は住民の生命と衣食住を守ろうと駐屯地から出撃を繰り返す。
華寇軍は、守備隊から逃げ回りつつ、住民を襲い奪っていく、
守備隊は、疲労困憊しながら華寇軍を追撃し、孤立して取り残される。
弾が残っていれば基地に帰還できるが残っていなくても、
華寇軍は、遠巻きに監視するだけ、
運の悪い部隊が壊滅するが、運が良ければ基地に帰還できた。
今では、存続したいと思えば出撃せず、基地内に留まれば存続できる。
もっとも、逃げ出してくる住民を抱え込んで食料が尽きると、アウト。
かといって、逃げ出してくる住民を排除し、
機銃掃射しようものなら、何の守備隊なのか、
存在目的すら疑われ自己矛盾で崩壊する。
どちらにしろ、食料は乏しく、基地は長くは持たず、
駐屯地が華寇軍に奪われるのも時間の問題に過ぎなかった。
生き残る方法は、住民たちを引き連れ逃亡生活なのだが、
これも、よほどの幸運に恵まれなければ食料が尽きて、アウト。
援軍も補給の当てもなく、
地の利を生かした要衝に隠れなければ全滅を待つままだった。
占領地
食料は生産しないと尽きる。
人口は、一時、上陸前の3倍近かったものの、
いまでは、上陸前の半分以下、
一体、何人死んだのか。考えたくもない。
日本人はメンタル面で成功が、覚束ない、
しかし、漢民族は、農業だけでは生きていけず。
隙あらば、匪賊(ひぞく)になる。
正確には、土匪、鮮匪、兵匪、思想匪、宗教匪、政治匪・・・・・etc・・・・
強盗する者と強盗される者の境は気概と力関係のみ、
馬賊は、もう少し、専門的で規律があった。
とはいえ、日本軍も華寇軍も農民出身が多く、
土地があれば、何がしか生きる道を模索し、田畑が作られていく、
日本軍は食糧や種を華寇軍に供給し、
華寇軍は都市の資材と物資を日本軍に供給する。
パース航空基地は、一部、破壊され、
一部、略奪されていた。
日本軍将校らが滑走路に立って思い悩む。
「・・・日本軍をパース基地に前進させるんですか?」
「そんな余裕はないよ」
「大本営は、なんと?」
「同じだよ。日本人が骨格を握って漢民族が肉体だな」
「豪州を中国人にくれてやるので?」
「漢民族の労働意欲は少しばかり良くなって、生産も上がっている」
「日本の港は、鉄鉱石、石炭、希少金属で山積みだ」
「ですが身の危険を感じますね」
「ある意味、怖さも」
「漢民族は自決なんて潔いことはしませんから」
「まったくだ。あのしぶとさは驚嘆に値するね」
「いずれ、中国人に日本人が押し潰される気がします」
「しかし、資源があれば国力を再建させ」
「アメリカ西海岸に華寇を上陸させる事もできるかもしれない」
「じゃ 豪州にも華寇軍を上陸させ、日本に資源を供給させると?」
「生活保障は勝手にやるのだから、こっちは、面倒を見なくて済む」
「日本人より潰しが利いて使いやすい」
「日本人の犯罪者は、いいのですか?」
「刑務所を拡張して工場にしているよ」
「ドサクサにまぎれて磨り潰している」
「彼ら自身が華寇軍を望んでいるが気が進まないな」
「確かに外国受けが悪いですから、過労死してもらいたいですがね」
「漢民族・朝鮮民族の犯罪者は、生きる道があるのに」
「日本人犯罪者は、生きる道は無しか。体面とはいえ不幸だな」
「漢民族の方が有利のような気がしますよ」
「どうかな」
「中国人を豪州に送って、揚子江を朝鮮人と東南アジア人で完全に分断すると」
「日本列島保持で有利だ」
「確かにジリ貧状態のまま、アメリカに負けるよりマシですかね」
「ここで、それらしく陽動をすれば、アメリカ機動部隊を引き付けて・・・・」
「戦うのは華寇軍。ですか?」
「南京政府も人口を減らして喜んでいるだろうよ」
「それが豪州では、あまり気が進みませんが・・・」
「ここで生まれてくるのは、白人と漢民族の混血だろう」
「漢民族の自覚は、少ないかもしれないが・・・」
「南京中国政府が干渉してくるのでは?」
「中華民国には海軍がないよ」
「それに、これといった制度的なものは作れないはず」
「日本文化を上手く取り入れれば、やっていけるかもしれないな」
「日中同盟万歳ですか?」
「万歳? 身の毛がよだつよ」
「しかし、負けるより、良いだろう」
オーストラリア大陸と北アメリカ大陸の荒野を馬賊・匪賊と騎兵隊が
銃撃戦をしながら行き来する光景が脳裏に浮かぶ。
月夜裏 野々香です。
あちらを立てると、こちらが立たず。
こちらを立てると、あちらが立たず。
国家指導者のエゴで国の運営を誤ると大変。
権威主義と拝金主義に押し潰されていく弱者、
身が立たなくなると、生存権を得ようと犯罪者が・・・・・
平時も、戦時も、同じ。
半島の接収が進んで軍属に分配。陸奥爆沈は救われたようです。
軍需主導だとジリ貧。
軍民共有で民需拡大を狙っていますが日本の基礎国力の低さに・・・涙。
モラルが下がって、何とかしたいけど、性悪説だと、なにやっても無理。
少しだけ豊かにして、一時しのぎ・・・・
アメリカ機動部隊
正気で夜間攻撃でしょうか?
マリアナ沖海戦では、事故・不時着が続出だったようですが・・・・・
アメリカ西海岸・西部
馬賊・匪賊 VS 騎兵隊
・・・・・・・・悪夢です・・・・・・・・・・・
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第29話 1944/10 『セーラー服と風船爆弾』 |
第30話 1944/11 『世界は、行動する者を待っているのよ』 |
第31話 1944/12 『小さなことからコツコツと・・・』 |