月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

 

第33話 1945/02 『新兵器で ぶゎああ〜! と』

 「ムカデ〜〜」

 「そう、全長、砲身140m、直径150mm。射程距離130km。これが3基あるわね」

 金髪のアイリスと黒髪のマイがカレー前線基地を視察していた。

 二人は、お飾りなので、あっち、こっちで写真を撮られていいく、

 ドイツ軍とドイツ国民を高揚し、

 ひいては、ドイツ帝国軍萌えぇ〜 な印象を全世界に広め、

 連合軍の戦意を低下させる空前絶後な計画が遂行されている。

 「ん・・・アイリス。ロンドンまで届かないじゃない」

 「ロンドンの外縁までは届くでしょう」

 「撃っているの?」

 「ええ、この辺のフランス人は東部戦線に強制移民させられているの」

 「だからレジスタンスもいないわね」

 「でも大丈夫、ここ攻撃受けない?」

 「地中だしね。見つからなければ大丈夫よ」

 「先の方の砲身をずらして行くだけで標的も変えられるみたい」

 「へぇ〜 こんなに近くて大丈夫なの?」

 「この辺は対空火器も、ジェット戦闘機も、たくさん配備されて守られているから」

 「大丈夫だと思うけど・・・」

 「ふ〜ん」

 「最大の理由は射程が130kmでロンドン外縁までなのが後回しの理由ね」

 「戦術兵器なの?」

 「そういうことになるわね」

 「これが破壊されず残っていたから上陸作戦はないと安心したらしいけどね」

 「じゃ この大砲を攻撃しなかったからノルマンディー上陸作戦が成功したの?」

 「これが残っている間、上陸してこないと普通は、考えるものね」

 「ドイツって、本当に凄い物を作るわね」

 「あまり弾がないのが問題なのよね」

 「でもドイツ軍も日本軍の華寇作戦は真似できないわ」

 「あれは華寇軍よ。日本軍じゃないもの」

 「いいのよ。どんどん、やるべきよ」

 「そ、そうなのかな」

 「生存競争なんて、そういうものよ」

 「相手を殺して自分が生きる。戦争は、その究極よ」

 「せ、切磋琢磨して協力しながら向上していくためじゃないの?」

 「切磋琢磨も協力もしているわ。ドイツは、日本やイタリアとね」

 「でも、人間は生態系の頂点だもの、人間同士で間引きは必要よ」

 「ま、間引きって・・・博愛は?」

 「間引きしないと人類が増え過ぎちゃうでしょう。生き残った者たちで博愛」

 「良いのかな・・・」

 「戦争ぐらいじゃ 人類は絶滅しないわよ」

 「人間って、恐怖、ストレス、曖昧が嫌いで落ち着かないのよ」

 「白黒はっきり、独善的な勧善懲悪が好きなの」

 「そ、そう」

 「あいつら私の家を爆撃したのよ」

 「アメリカ合衆国も少しは懲りれば良いのよ。あのバカども」

 「大丈夫だったの?」

 「駄目ね。直撃よ。家族は仕事中で無事だったけど」

 「酷い事になったわね」

 「はぁ お互い様よ。敵もね」

 「お、お互い様なら平和を求めたいわね」

 「国が国民の命を対価に生存権の拡大を求めたんだから」

 「目的のモノを得るまで掛け金を載せ続けるしかないわよ」

 「次は、どこ行くの?」

 アイリスが地図を見る。

 「列車砲を見て・・・」

 「そのあと、ベルリンから北約160kmの・・・」

 「バルト海とシュチェチンコ湖を挟んだウーゼドム島の西端ペーネミュンデ」

 「何があるの?」

 「V2ロケット」

 「そこも無事なんだ」

 「連合軍が費用対効果で、マイナスと思ったみたいね。後回しにされている」

 「そ、そうなの」

 「ドイツって、そういうのが多いのよ」

 「日本にも送っているんじゃ・・・」

 「なんだか生産体制を日本側に移したいとかで計画しているみたいだけど」

 「大丈夫かな」

 「最近、日本の技師にあったけど頭抱えてたもの」

 「頭抱えていた人間が組織の癌だったりして」

 「あはは・・・・」

 「ありがちよ。国民の気持ちの大きさ以上に国は大きくならないもの」

 「じゃ 怪しいわね」

 「日本人は、職場とか、近所とか、体面しか考えてないもの」

 「それ以上、大きな事を考えている人間は、キチガイされるもの」

 「また、総統も酷い国民と組んだわね・・・」

 「でも、そういう国に逃げ出すことにならなければ良いけど」

 「負けそうなの?」

 「良くもないけど、悪くもないって感じね」

 冬は、天候の悪い冬場は、それなりに休息が取れた。

 パルチザンなど煩わしい問題もあった。

 しかし、米英軍捕虜とフランス人を東側に強制的に送ってしまうと

 治安が良くなっていく、

 ロシア人に対する恐怖は本物らしく、大人しく生産活動に従事する。

 ユーゴ住民も同様だった。

 地場勢力を現地から切り離し、

 ソビエト側に強制移民させてしまうと静かになっていく、

 武器弾薬を前線に送るだけが戦争ではない。

 日本の利益供与と民族強制移動は、ドイツに影響を与えてしまう。

  

ドイツ列車砲レオポルド 76.1口径280mm砲 射程61km

  

 イギリス本土

 米英戦略爆撃部隊が天候の間隙を縫って出撃する。

 そして、飛行場は、これまで見られなかったB29戦略爆撃機と、

 F80シューティングスターも見られた。

 「いよいよ。コイツの出番か」

 「B29は対日戦に集中するかと思ったのにな」

 「Me262戦闘機に護衛戦闘機が切り崩されているだろう」

 「メッサーシュミットとフォッケウルフにコンバットボックスに切り込まれて被害も多いからね」

 「んん・・・・」

 「政治的判断もあるが」

 「Ta152が大量配備される前にな」

 「この爆撃機でベルリンと戦略拠点を根こそぎ瓦礫の山に変えたいらしい」

 「でも対日戦は?」

 「高度な政治的判断があるらしいな」

 「俺、嫌いなんだよな。コミュニスト」

 「だから、高度な政治的判断だって・・・・」

 「政治家が高度な政治的判断と言うと、ろくな事がないからね」

 「だから、言い訳がましく “高度” って、付けるんだろう」

 「このシューティングスターって役に立つの?」

 「役に立つかを調べるんだと、フランス戦線に持っていくよ」

  

  

 ソ連軍は、スターリングラードの戦い。

 その後の反攻作戦でドイツ軍をドニエプル川の向こう側に追い返した。

 しかし、ソ連軍もクルスク拡大の戦いで主力軍を壊滅状態に追いやられ消耗してしまう。

 そして、クレムリンの一角。

 アメリカとイギリスの代表が着膨れたコートを脱いで椅子の背もたれにかける。

 預けずに自分で管理するのは、ソビエトを信頼していない証拠といえる。

 「・・・長旅でしたな」

 「随分と寒いですな。肺が凍るかと思ったよ」

 「冬将軍に守られている国ですからね」

 「神風ですかな」

 「ふ ご冗談を・・・」

 「ご存知ですかな」

 「ロシア兵は砲弾と機銃掃射に晒されると神に祈るそうですよ」

 「気の迷いですよ。人間は、それほど強くない」

 「ええ、そうでしょうとも」

 「ところで、冬季明け前、アムール川が凍っている間に満州国に攻め込む、というのは?」

 「ドニエプル防衛線の突破、できていない段階は困難といえますな」

 「西側は、十分に努力しているのですがね」

 「理解していますよ」

 「もっと援助していただければ、さらに戦局を好転させられると思います」

 「時に・・・」

 「ソ連にムスタングとB17爆撃機の配備が進めば対日作戦も可能ではないのですかな」

 「それは、まぁ・・・・」

 「ウラジオストックから日本列島は、片道1300km圏内ですから十分に可能ですよ」

 「我々を苦しめている元凶を焦土にできるわけです」

 「残念ながら日ソ不可侵条約があるので・・・」

 「ふ 我々が対日戦で振り分けさせられている戦略物資の総量・・・」

 「戦局全体に、いかなる影響を与えているか、想像が及ばないので?」

 「まさか。十二分、理解していますよ」

 「では、考慮されてはいかがですかな」

 「もちろん、国際信義を貶める損失を負う事になりますから、条件が折り合えば・・・」

 「それについては、事務レベル協議で進んでいるかと思いますが?」

 「まぁ 確かに戦局は、苦しいですからね」

 「日本の大陸鉄道も寸断・破壊できますし」

 「なるほど、確かに・・・・」

 「ソ連の中国侵攻も容易になるでしょう」

 「なるほど、確かに・・・・」

 「日本は背後から戦略爆撃で焦土と化し、ドイツ帝国も西と東から絨毯爆撃で・・・・」

 「・・・なるほど、確かに・・・・」

 「日本を焦土化できれば、我々を苦しめている華寇作戦も、風船爆弾もなくなる」

 「あとは、ドイツを叩き潰すのみ」

 「結構な話しですな」

 「それでは、戦後の線引きでもいたしますか?」

 「ええ」

  

  

 

 満州

 虎頭要塞は、東西10km×南北4km×標高約150m。

 410mm榴弾砲×1。305mm榴弾砲×2。240mm榴弾砲×2。

 15cmカノン砲×6。105mm砲×20

 他にも海軍砲140mm、127mm、76.2mmなどなど・・・

 その台地は、虎が東に頭を向けた姿に似ていた。

 ソ連側からだと尻をみせている様にも見える。

 日本軍は、さらに対戦車壕。円陣のトーチカ。

 標的になりやすそうなダミー要塞を建設していく、

 扶桑・伊勢型を空母に改造し、

 旧式艦艇を解体しただけは、あるのか、

 小銃・機関銃だけは7.7mmで統合されていた。

 この要塞は、ハバロフスクとウラジオストックを結ぶ、鉄橋を破壊できることにあった。

 そして、日本軍は、要塞をさらに南北へ伸ばしていくことで包囲を遅らせようとする。

 的になりそうなピラミッドと木馬は、本命の地下要塞を隠すための偽装工作でもある。

 外は、極寒で吹雪いていた。

 日本軍の縦深要塞・ダミー要塞・トーチカ群の地下深く

 凍土の底に空間が広げられていく、

 ソ連の電撃作戦に対抗するには地下空間を利用して戦うしかなかった。

 もっとも “乾坤一擲” の作業は、その由来の元、漢民族に実証させていたりする。

   ※漢楚の戦い 劉邦・項羽の時代。

 掘削作業中の坑道は最悪の環境だった。

 そして、作業を監視している日本兵士は、丁寧な話し振りを心がけ、

 “心を込めて掘らんか!!” など、無駄に叩いたりはしない、

 日本兵は、疲労で転ぶ中国人工夫をやさしく助け起こした。

 「大丈夫か?」

 はっ!

 「だ、大丈夫ある」

 「無理しなくて良いぞ。少し休んだ方が良い」

 「そ、そんなことないあるよ。まだ、がんばれるある」

 「本当か?」

 「本当ある。日本万歳ある」

 「まぁ 少し足りないから、がんばってな」

 「は、はい、ある。がんばるある」

 『ぅぅぅ・・・日本人は酷いある。残忍ある。きっとサドある』

 彼らは、使い捨ての消耗品だった。

 個人とグループで最低のノルマが果たせない時、

 代わりが、いくらでもいるので、

 やさしく、肩を叩き、

 一点のケガレもない白雹の満州氷原に出され、安らかに永眠・・・

 もっとも日本人の犯罪者も、ここに送り込まれて肩を並べていた。

 互いに言葉が通じず、

 相手をスパイと勘違いし、まじめに働く、

 日本軍将校たち

 「油を流し込まれた場合の貯水層が進んでいないな」

 「投げ込まれた手榴弾を捨てられる側溝もね」

 「後回しにして良いの?」

 「まず、工夫を増やせるだけの空間を広げるべきだろうな」

 「目指せ全天候型24時間掘削・4交替作業」

 「そうだろうけどね・・・」

 「ドイツ軍将校が羨ましがっていたよ」

 「これだけの工夫を集められるなんて信じられないそうだ」

 「ふ 人口が、5億もいたら犯罪者だけで、一つの国を作れるよ」

 「しかし、ソ連軍の電撃作戦も地下空間での迎撃なら耐えられそうだな」

 「地表の施設に無駄弾を使ってくれたら助かるけど、本当に武器弾薬が足りないぞ」

 「そりゃ しょうがないさ、掘削道具と爆薬を作っているんだから」

 「それで大丈夫か?」

 「地下では、ソビエト軍が得意な電撃作戦も物量作戦も効かないよ」

 「中で使えるとすれば、小銃、拳銃、機関銃、手榴弾だろう」

 「地下で攻防戦で脅威になるのは、ソ連軍のPPSh1941(7.62mm×25)だな」

 「サブマシンガンか。怖いのは71発の弾丸の方か」

 「日本の百式(8mm×22)で対抗できるかな?」

 「全長が900mmだろう。弾数30発で負けだな」

 「そういや、PPSh1941は全長836mmか」

 「百式じゃ 生産量で、まず駄目だよ」

 「まだ削り出しだったっけ」

 「抜刀でがんばるしかないか、地下なら足しになるかも・・・」

 「ショボイな〜 地の利で巻き返すしかないか」

 「んん・・・こっちの武器弾薬が少ないのは問題だけど」

 「それでも坑道は銃撃戦で有利な構造にしている」

 「まぁ 運がよければ、日本も地震から回復して武器弾薬も持ち直せるさ」

 「この盾は?」

 大昔の盾のような物があった。

 「ライフル弾は駄目だけどね」

 「・・・・・・」

 「木の盾でも地下なら役に立つさ」

 「相手が拳銃弾(7.62mm×25)なら正面で受けずに斜めにするのがコツ」

 「だと良いけど・・・」

 「地下要塞の攻防戦なら戦車と航空機と大砲抜きだろう」

 「運がよければランチェスターの法則で戦力差をひっくり返せるよ」

 「でもさぁ こんな土方とかじゃなくてさ」

 「新兵器で ぶゎああ〜! とかないの? 流行らないよ」

 「無理」

 日本の国力は、世界的にも上位に食い込んでいる。

 しかし、比べる国によって評価が相対的に変わってしまう。

 質量とも秀でた連合国。

 質だけ最高のドイツ帝国。

 質量ともショボイ日本だった。

  

  

 呉

 適度な訓練と燃料不足で適度な休息、

 日本海軍は戦局が低迷している状態を利用し、訓練と整備補修に明け暮れる。

 軍艦は機関を時折動かさなければならず、

 就役させているだけで、湯水のように経費が消えていく、

 弁解気味に言うと動けないのではなく、

 余力がないので消極的なだけ、相手次第で戦略が変わってしまう。

 機械の塊は常に動作を確認し、修復と整備をしなければならなかった。

 そして、日本の補修整備施設は脆弱、乏しい治具・・・

 労働条件と生産能力は、次第に悪化し弱体化していく、

 ドイツ製のマザーマシンがカンフル剤のように、

 日本の基礎工業基盤を精鋭化させ回復させていく、

 しかし、東南海地震で一気に低迷し困窮気味していた。

 最良の工作機械で最先端兵器の部品など作れるはずもなく・・・・

 地震の前は、華寇作戦で大攻勢とか、言い出す士官もいたが立ち消えていく、

 それは、それで、評価が分かれるところ。

 居並ぶ日本海軍の艦隊。

 珍しい艦影は、ハーケンクロイツを掲げた2隻の軍艦だった。

 戦艦ストラスブールと空母ツェッペリンは修理改装中だった。

 そして、北大西洋のティルピッツとシャルンホルストが揃って廃艦が決まり、

 ストラスブールは、ドイツ海軍最強の戦艦となり、

 空母ツェッペリンも含めると、ドイツ最強の艦隊となっていた。

 「・・・でも、やっぱり、武蔵だよねぇ〜」

 「うんうん。鋼の要塞。最高だなぁ〜」

 「この戦艦で艦隊決戦ができないのは国家予算的な犯罪」

 「日本民族に対する詐欺で重罪だよ」

 「そうそう」

 「断固。戦うべし」

 「うんうん」

 「B17爆撃機が大和に体当たりをしなければ」

 「武蔵と共にアメリカ戦艦群を奈落の底に沈めていたものを・・・」

 「そうそう」

 「体当たりなんて、非人道的で、なんと卑劣な戦法なんだろう」

 「うんうん」

 「しかし、残りの戦艦が、この武蔵と、長門と陸奥。金剛と榛名だけとは嘆かわしい」

 「扶桑・伊勢型4隻を空母に改造したからね」

 「くそぉ〜 大砲欲しさに陸軍め〜!」

 「一応、36cm砲は太平洋側だろう」

 「それでも、むかつくわい。海軍砲を持っていきやがって」

 「中口径砲は、空襲や戦艦の艦砲射撃で、やられるし」

 「大口径砲だって長く、もたないだろう」

 「だからって、モグラじゃないんだから穴ばっかり掘っててもな」

 「制空権を取られたら穴に潜り込む。実に自然な選択肢だよ」

 「そりゃ 地下なら空襲と戦車に怯えなくても良いけどね」

 「中口径の大砲も艦砲射撃の届かない山岳地帯にまで運び込めば、結構な戦力になるけどね」

 「大砲なんて、たくさん作れないし、そっちの方が良いかな」

 「海岸線において艦砲射撃で潰されるよりはね」

 「日本はね」

 「その大砲をたくさん揃えるだけのお金もないんだよな」

 「だけど、陸軍のやつら汚ねぇよな。余計に予算踏んだくってよ」

 「その上、こっちの生産を妨害してから」

 「“作らないのなら、先に使わせて” とかいって半分、持って行くんだぜ」

 「むかつくなぁ〜」

 「大陸の利権で見境がなくなっているんだよ。豚に見えるね」

 「ったく〜 民間に使い過ぎだよ」

 「ザルのように無駄に流しているに決まっている」

 「戦争しているの忘れているんじゃないか」

 「だけど、最近は、ヤスリがけが減ったらしいから生産性は上がっているらしいぞ」

 「ぅぅ・・・性悪な熟練工のお蔭で、むごい目にあったよ」

 「人を育てるより、秘密主義。己の技能を昇給や出世だし」

 「赤紙外しに利用する傾向が強いからね」

 「だから産業が大きくなれないんだよ」

 「そうそう。たとえ、それがごく一般的でも戦争中は困る」

 「弟子を育てられないやつは、切って前線送りにしてしまえば良いんだ」

 「人材が余っていないだろう」

 「切れない、切らせないから後進国なんだよ」

 「くぅぅぅ・・・技能独占で心根が、せまか〜!」

 「民間が、それだと勝てんわ・・・」

 「いや、軍隊内でも一般的だし・・・・」

 「小心者が〜」

 「貧乏だから・・・・」

 「こんな大戦艦に乗っているというのに景気悪いの〜」

 「ぅぅぅ・・・」

 「せっかく、マザーマシーンで工作機械を作ったと思ったら、地震で潰しやがって」

 「だけど学生は覚えが早いそうだ」

 「自重すれば持ち直せるらしいがね」

 「アメリカ機動部隊が来るんやぞ。自重できんから困っとるんやろう」

 「そりゃそうだ」

 武蔵の艦橋から見ると

 小さな艦影が軌跡を残しながらノタノタと東に向かって進んでいく。

 「・・・・あいつら、大丈夫か?」

 「Uボート艦隊か・・・」

 「本場の群狼作戦を見せてくれるらしいな」

 「そりゃ ありがたいが・・・」

 「華寇作戦の陽動を引き受けてくるらしい」

 「それは、もっと華寇作戦をしろって事か」

 「輸送船の改造も地震がなければ、もっと進んでいたのに・・・」

 「ぅぅ・・・皺寄せを持ってきやがって。陸軍よりドイツのUボートの方が協力的でマシだぞ」

 「いや、大西洋で沈めても太平洋で沈めても、連合国の輸送船の総量は変わらないんだよ」

 「太平洋の方が楽して沈められるってことね」

 「総力戦とか、同盟戦略とか、ドイツの方が造詣が深い気がするね」

 「それは、そうと、こっちの準備は、できているんだろうか」

 「アメリカ上陸作戦が、どこで行われても、反対側の世界は最悪の結果になるだろうよ」

 「ふっ」

 「成功するかどうかは、わからんがね」

 「アメリカ機動部隊さえなければ、どうにでもなるわい」

 「アメリカだって小ざかしい。技を使うんじゃないか。防潜網とか・・・」

 「・・・あり得る」

 「それにムスタングが増えている。隼V型で迎撃しきれるかどうか」

 「・・・・・・」

 「それに・・・原子爆弾」

 「それ、そんなに凄いのか?」

 「想像もつかんが、1発で都市を破壊できるらしい」

 「日本は作らないのか。ドイツから濃縮ウランを貰ったって聞いたぞ」

 「さぁ〜 予算がついたかな・・・・」

 

 

 

 海中を進む鋼の刺客、

 ソナーの深信音が海中を響かせ、この艦の位置を測定しようとしている。

 時折、何かが海中に投下され、泡立てながら迫ってくる。

 不意に爆音を響かせ、水圧で艦が左右・上下に揺れ床が持ち上がる。

 潜水艦は、絶望的な状態でも僅かな生の希望を期待し、

 深く静かに潜航していく、

 生きた心地がしない。

 潜水艦は、水上艦艇と違い、乗員の運・不運は一蓮托生が多く、

 死の恐怖に支配されず、耐え忍ぶ者は幸いといえる。

 死ぬときは一瞬で苦しみも短い、

 恐怖と狂気に支配された状態が本意でないとしたら、

 自分自身の正気を失っている。

 恐怖に耐え、狂気に陥らず。

 死ぬまで、正気でいられるのなら、その分、長生きしたといえなくもない。

   

  

 連合軍はノルマンディー上陸作戦の成功でブレスト港を押さえていた。

 南には、ボルドー港が残っていたが空襲は可能だった。

 対潜哨戒線がビスケー湾に広がり、

 ドイツUボート艦隊は追い詰められていた。

 連合軍の護衛空母と護衛艦に守られた護送船団は、

 日独伊潜水艦と激戦を繰り広げていた。

 双方とも大損害で消耗・疲弊していく、

 連合国軍の対潜能力と輸送船の総量が増し、

 技能が向上するにつれUボートの損失比は増えていく、

 ドイツUボート艦隊は、窮する事になったが

 シュノーケルなど技術的な革新と

 戦訓を取り入れたXXI型の投入で巻き返そうとする。

 ドイツからみると日本の華寇作戦は望むべく戦果を上げていた。

 連合国は、航空機と艦船を群狼作戦と華寇作戦に分散しなければならず、

 戦略的相乗効果も認められていた。

 ドイツが日本への協力で工作機械、治具や兵器を供与し、

 戦艦、空母、Uボート、輸送船をインド・太平洋に送ったのも、

 日本の戦略的価値を認めたからといえた。

 また、ドイツ本土と違い、大西洋脱出・港湾空襲による損失がないのか、

 Uボートのインド・太平洋配備は、それほど理に外れてなかった。

  

 

 揚子江

 数千トンの輸送船が行き来する河川の両岸は、物資が満載されている。

 朝鮮民族は民族存亡がかかっているのか、必死に物資を採掘する。

 採掘量に比例して日本からの工業製品が増え、武器弾薬も増えていく、

 揚子江の両岸はハングルと日本語が増えていく、

 漢字なら漢民族も意味がわかりやすく、

 ハングル、日本語、中国語が入り交ざっていた。

 「・・・本当ニカ?」

 「・・・・」 頷く日本人

 「朝鮮が無くなる・・・・」

 「・・・・」 頷く日本人

 「・・・・瑞穂半島ニカ?」

 「たぶん、そう、改称するんじゃないか」

 「・・・そうニカ・・・・」

 「・・・寂しいな」

 「今日から瑞穂民族ニダ♪」

 がくっ!

 朝鮮民族の独立か、自治は、日本の資源調達と密接に関わり、

 日本・朝鮮民族・中国の3者は、巧みな渉外を重ねていく、

 特に朝鮮民族は、死活問題で民族のアイデンティティを保持しようとしていた。

 揚子江鉄道は、中国揚子江の両岸を走らせる交通と資源と物流の大動脈となっていた。

 「独立には、大反対ある!」

 「絶対に独立ニダ!!!」

 「独立による侵略の危険より、外交を除く9割自治権が有利では?」

 「アイゴ・・・」

 「アイヤ・・・」 

 「朝鮮民族も中国の内政に票を投じることができるし」

 「議席もあって民族的には、お金持ちだし」

 「アイゴ・・・」

 「アイヤ・・・」 

 朝鮮民族から将来、スターリンのような男が現れ、中国を支配できるかは、不明。

 それでも他の少数民族や東南アジア資本、

 日本から受けてきた教育制度で朝鮮民族の識字率は、周辺の漢民族より高かった。

 日本の政治・軍事・外交的な圧力があれば民族的な豊かさは、得られそうな勢いがあった。

 「アイゴ・・・」

 「アイヤ・・・」 

 地図を見ながら漢民族代表と朝鮮民族代表が、あれやこれや線引きを始める。

 

  

 

 ビルマ戦線

 穴を掘って枝を渡し、土を盛って被せていく、

 落とし穴の定番だが先を尖らせた木を底に刺していると殺傷力がある。

 戦車も車体の半分以上の幅を掘ってしまうと、当然、落ちてしまう。

 兵士も武器弾薬が少なくなってくると、こういった事で戦線を守ろうとする。

 中国兵は、少しずつ増えて華僑の町が次第に広がる。

 東南アジアの華僑と中華街は、大陸鉄道に沿って伸びていく、

 大家は、一応、日本なので税収になった。

 そして、世の中、役得な地位・階級の人間がいる。

 「・・・これさぁ 少し、隠して置かないか?」

 「えっ でも、不味くないか?」

 「ほら日本に帰ったとき、どうせ大して補償されないだろう」

 「も、持ち帰るの?」

 「バカだな。持ち帰られるわけないだろう。ビルマに隠すんだよ」

 「っで、どうするんだよ」

 「戦争が終わったら戻ってきて掘り出して、日本に持って帰って、お金持ち」

 「おぉおおお〜!!!」

 「いいだろう♪」

 「いつ?」

 「そりゃ 二人で山分けにして、別々に埋めるだろう」

 「ほとぼりが冷めてから好きなときに、ビルマに戻って来るんだよ」

 「ほとぼりって・・・・」

 「良いけど、その頃、結構、年寄りになっているだろう?」

 「そ、その時は、子供たちに宝の地図として渡しておくんだよ」

 「おぉおおお〜!!!」

 「いいだろう♪ 夢があるだろう♪」

 「うんうん♪」

 「でも、俺たちの子供が、もし、まじめだったら俺たち逆臣扱いで呪われるぞ」

 「ぅ・・・ぅ・・・うううう」

 「まぁ 俺たちの子供や孫だったら大丈夫だろう」

 「きっと泣いて喜ぶよ。お父さん、おじいちゃん、ありがとう。って」

 「ぅ・・ぅ・・うううう」

 「どうする?」

 「・・ぅ・・・ぅ・・・うううう」

 「持っていこうぜ?」

 「・・ぅ・・・ぅ・・・うううう」

 「なぁ」

 「やめた。人間、まじめが一番だよ」

 「そ、そうか〜」

 「そ、そうだよ。人間は、やっぱり、まじめに生きるもんだよ」

 「親とか、妻とか、子供や孫に軽蔑されたくないし」

 「まだいないだろう」

 「生まれるかもしれないだろう」

 「そうか?」

 「人は、己を裏切ってはいけない」

 「大志と希望を胸に抱いて生きていくんだ」

 「・・・・・」

 日本軍のモラルは、まだ保たれていた。

 

 

 大連

 日本陸軍にもマッドサイエンティスト系の学者がいた。

 標準軌1435mmに乗った貨車が、鼻歌交じりに製造されている、

 上半分が装甲で覆われ、

 60口径76.2mm砲、25mm機関砲、7.7mm機関砲が載せられていた。

 「これは?」

 「埋め込み要塞砲車 “ウメサイ”」

 「渋いな」

 「機構は、戦車だよ」

 「それも世界最大レベルのね」

 「しかも居住空間も広くてT34戦車も一撃」

 「・・・・なんかな・・・」

 「ん、なんだ?」

 「んん・・・・上の方しか装甲がないのが、あれだな」

 「だから、ここで内装を作って、ソ連国境に持って行くだろう」

 「それで貨車ごと埋めて砲台だけが地表に出るってか?」

 「そういうこと。塹壕と線路は漢民族に作らせる」

 「貨車を円陣に配置して砲塔だけ残して埋め戻していく、だから “ウメサイ”」

 「爆撃とかの衝撃で内壁が吹き飛ばないか」

 「一応、薄くても装甲だから、周りは凍土だし」

 「地表に出す砲塔は偽装させる」

 「・・・・・」

 「砲塔と上部装甲だけは、タイガーも真っ青な装甲で世界最強」

 「んん・・・・動けないのがな・・・」

 「それでも簡易の円陣要塞が作れるだろう」

 「段差を分ければ射線も増やせる」

 「んん・・・」

 「円陣の内側に飛行場を作ったり、輸送機で補給物資を投下したり」

 「んん・・・上からの衝撃に弱そうだな」

 「トップヘビーだけど、上面装甲は強力にしている」

 「まぁ 物には限度もあるし、弱点はあるよ」

 「大砲も機関砲も付いている」

 「トップヘビーでも埋めてしまえば大砲を撃っても引っくり返らないか・・・」

 「大陸では点と線しか防衛できないから割安といえば割安だがね」

 「動けないけど、強靭な防弾。強力な攻撃力。弾薬も多く。居住性も良し」

 「地下と繋げれば逃げる事もできる」

 「悪くはないか・・・」

 「日露戦争時、ロシアが単線のシベリア鉄道を極東行きのみ編成して戦力を送ってきた」

 「ここで作って送る。送りっぱなし戦法だ」

 「それで戦えるのなら良いがね」

 「満州の要塞は、地表と地下の両面だろう」

 「ソビエト戦車の足を止めないと撃破できないだろう」

 「それも、そうだがね・・・・」

 「要塞群の隙間は、あれこれ仕掛けられるし、3式自走砲で狙い撃ちもできる」

 「怖いのは空襲かな」

 「敵に重たくて値段の高い爆弾を使わせるのも戦略だよ」

 「なるほど・・・」

 「費用対効果だと、迂回できないような場所に配備するか」

 「要衝に配備するべきなんだろうな」

 「いい防衛線になる」

 「それで、こっちは?」

 「こっちは、土木用穴掘り機関車。名付けて “ドボアナ”」

 「地下トンネルを掘ったり “ウメサイ” の側溝を掘ったり」

 「んん・・・ネーミングに失望感が漂うぞ」

 「穴に締りがないのは気に入らん」

 「そうか。ガバガバ行けて楽なんだが」

 「・・・漢の夢に反する」

 「じゃ “ドキアナ”」

 「よ〜し “ウメサイ号” と “ドキアナ号” だ」

  

  

 

 ハルピンとチチハルの中継に安達という町があった。

 さらに北東側は、それらしい “なに” の疑いをかけられている場所がある。

 しかし、あくまでも噂、

 そして、大興安嶺の山岳部を突破されたあと、

 この平原で、ここでソビエト軍を迎え撃つのは不可能と思われていた。

 というわけで、チチハルのネン川防衛線を抜けられたら、

 ハルピンの松花江(ソンホワチアン)防衛線まで後退する。

 もちろん、それも西側の沿海州側の戦線が保たれていたら、という条件付。

 日本は、これらの防衛線を構築する労力は、あったものの、

 兵力、資材、武器弾薬に事欠いていた。

 満州 黒龍江省 安達

 数人の日本人が街を見ていた。

 大多数が漢民族で日本人が少数派の世界、

 どんなに覇を唱えていても、人の数ほど説得力のあるものはない。

 漢民族の毒々しいエゴが町が包み込んでいた。

 もちろん、言語が通じれば仲良くなれるものでもなく。

 漢民族同士が仲が良いわけでもなく、

 日本人同士が仲が良いわけでもない。

 人種間のいさかいもあるが漢民族同士、日本人同士、満州族同士の間でもいさかいがある。

 言葉が通じる方が、いさかいの種になる。

 言葉が一つになれば、世界平和と単純なものではない、

 会話でエゴを調整できれば問題ない。

 しかし、エゴが会話を作り、

 いさかいを増長させていく事も多かった。

 家族内、身内、同族の皺寄せを内側に向け、

 限界を超えると内戦以下の内部抗争となっていく、

 異民族や他国など、外側に向けて、限界を超えると戦争・・・・

 人間は、正義の名の下に我を張りやすく、

 建設的な協調より、破壊的な権力欲に取り憑かれる、やれやれな存在といえた。

 

 町の外の様子は、えらく物悲しく見えた。

 「インド・太平洋で戦っても満州を等閑にできないのは、ソ連の脅威が大きいからだろうな」

 「等閑にできないのは、一握りの利権者が、それを国益にしているからだよ」

 「国益は、あるだろう」

 「国民が国益を感じるのは時間がかかるよ」

 「どうせ、収益は軍隊に流れていくし」

 「しかし、日本もここに来て侵略本位か」

 「建前をかなぐり捨てたとは相当に来ているな」

 「負ければ全てを失う。花と散るか。汚泥にまみれて勝ちに行くかだな」

 「満州国は、どうするのかな」

 「名目上は独立国だからね。実権は日本軍が握っている」

 「半島は本性を現して、奪い盗った」

 「じゃ 毒を食らわば、皿まで?」

 「アメリカ合衆国はインディアンを根絶やしで北アメリカ大陸を横断。西海岸まで来たんだぞ」

 「食っちまった後なら奇麗事で、いくらでも責められるか」

 「いま、やっている事と連中の所業と何の変わりがある」

 「人種と国力、歴史の違いで尺度を変えてしまうのが人間の性だろうな」

 「変えてみせるか」

 「穴掘り?」

 「漢民族減らしだよ」

 「お陰で漢民族も豪農が増えて匪賊が減少している」

 「漢民族も本音は隣人がいない方が所領が増えて喜んでいる、ということか」

 「ふっ」

 「しかし、最近は農民の所領が増えて匪賊が減っているんだよな」

 「日本軍が太平洋で負けた事にして撤退する振りをすれば動き出すよ」

 「最近は、デマに乗らないからな」

 「だいたい。朝鮮人と違って、漢民族は単純じゃないし騙せないぞ」

 「そうなんだよな」

 「悪徳というなら中国人は日本人の10倍ぐらい上手だからな」

 「騙すのは中国人が得意」

 「しかし、太平洋で戦争しているのに良いのか。満州で金使って?」

 「太平洋と違って金掛けてもリターンはあるし」

 「労力の関係で費用対効果は物凄く良いんだ」

 「上がりが、あるのは良いけどね」

 「それに漢民族の磨り潰しだよ。匪賊を磨り潰せば日本人が住みやすくなる」

 「酷いね」

 「中国歴代王朝がそうしてきた。中国大陸の大地は山岳ばかりだ」

 「人口が増えて山岳に住んでも食料が不足する」

 「国情から匪賊化しやすいか。山を切り崩せば良いのに?」

 「やり過ぎると、治水の関係が悪くなるがね。まぁ やっても良いだろう」

 「難しい土地柄だな」

 「歴代王朝も地方有力者も匪賊狩りをするか。匪賊と組んで弱者を間引きするか」

 「どっちかだっただろうな」

 「まぁ 間引きなら日本でもやっていたがね」

 「東北なら最近までやっていたな」

 「天候不順の直撃を受けるからな」

 「半島の接収で助かったよ」

 「日本も、やれやれか」

 「やるとしたら、匪賊狩りは掘削工事がしやすい、冬季明けだろうな」

 「縦穴と一定以上の地下空間を凍土の底に掘っておけば、冬でもやれるそうだ」

 「じゃ そうするか」

 「しかし、鉄がないな・・・」

 「大和なんか、無理して造るからだ。こっちに回せば良いんだ。海軍のバカが」

 「1億3000万で、いくつ要塞を造れると思っている?」

 「まぁ 太平洋にいると満州は見えなくなるからな」

 「満州にいると太平洋は見えなくなるよ」

 「問題は、北半分がソ連軍に囲まれている」

 「独ソ戦次第だが華寇作戦と風船爆弾でアメリカ合衆国の対応も変わる」

 「だよな・・・ソビエトにうまみを与えて対日参戦か」

 「日中同盟だからな」

 「ソ連が参戦すれば、黄河の北側くらいは領土にするかもしれないだろう」

 「ひぇえええ〜! 悪夢だよ」

 「だな・・・」

  

  

 日本の某工場。

 絶縁ゴム銅線と真空管が作られていた。

 工業用ダイヤが足りなくなると、ルビーやサファイアが代用される。

 硬度で言うとダイヤが10に対し、

 ルビー・サファイアが9なのだから “しょうがない、いくらか使える” というレベル。

 ドイツ人技師が批判気味に見詰め、しばらくすると少し微笑む。

 「・・・悪くないか」

 「良くもないがね」

 「機能美は後回しで良いよ。使えるものならね」

 「ベアリングとか良くなったよな。バネとか」

 「ボチボチだが。まぁ 悪くないという感じだな」

 「だいたい、日本人は、教える側が良くわかってないのが駄目だよ」

 「試行錯誤しながらだろうな。遅れた技術と技能。遅れた工作機械」

 「無知無教養の権威主義。想像力の欠如」

 「翻訳し間違っても、そのまま、ごり押し」

 「浪花節でチグハグで理不尽な行動様式」

 「そういえば、電圧も漏電ばかりで安定してなかったな」

 「道ぐらい舗装すりゃ 良いのに・・・」

 「あははは・・・」

 「こんなんで、よくアメリカに宣戦布告したもんだ。天然、おめでたが・・・」

 「しかし、少なくとも本土は爆撃されていないな」

 「こんな国、ドイツに落とされた爆弾の10分の1が落ちただけでも降伏だな」

 「焼け野原しか残らんよ」

 「だな」

 「しかし、これだけ協力しているんだから」

 「もう少し、戦力が太平洋にシフトしてもらわないと困るな」

 「まぁ 底上げは進んでいるから、これからだろう」

  

 

  

 赤レンガの住人たち

 日米海軍の戦力比が図上演習の上に駒として載せられていた。

 第一機動部隊

 空母 瑞鶴、翔鶴、飛龍、蒼龍

 軽巡 大淀

 重巡 利根、高雄、愛宕、摩耶、鳥海

 駆逐艦 (秋月、照月、涼月、初月) (嵐、萩風、野分、舞風)

 駆逐艦 (風雲、夕雲、巻雲、秋雲) (初風、雪風、天津風、時津風)

   

 第二機動部隊

 空母 大鳳、赤城、加賀

 戦艦 金剛、榛名

 重巡 筑摩、最上、三隈

 軽巡 能代

 駆逐艦 (新月、若月、霜月、冬月) (長波、巻波、高波、大波)

 駆逐艦 (早潮、黒潮、親潮、夕風) (霞、霰、陽炎、不知火)

  

 第三機動部隊

 空母 伊勢、日向、扶桑、山城

 重巡 妙高、那智、足柄、羽黒

 軽巡 矢矧

 駆逐艦 (春月、宵月、花月)

 駆逐艦 (清波、玉波、涼波、藤波) (朝霜、早霜、秋霜、清霜)

 駆逐艦 (磯波、浦波、敷波、綾波) (天霧、朝霧、夕霧、白雲)

  

 第四機動部隊

 空母 飛鷹、隼鷹、龍鳳

 重巡 衣笠、青葉、加古、古鷹

 軽巡 酒匂

 駆逐艦 (浦風、磯風、谷風、浜風) (村雨、五月雨、春雨、夕立)

 駆逐艦 (朝雲、山雲、夏雲、峰雲) (有明、夕暮、時雨、白露)

   

 第五機動部隊

 空母 龍驤、瑞鳳、千代田、千歳、日進

 軽巡 阿賀野、北上、大井

 駆逐艦 島風

 駆逐艦 (雷、電、響、曙) (初春、子の日、初霜、若葉)

 駆逐艦 (早波、浜波、沖波、岸波) (初雪、叢雲、江風、涼風)

 

  

 

 アメリカ機動部隊

 第1任務部隊

 (バンカー・ヒル、タイコンデロガ、プリンストン、ラングレーU)

   アイオワ、ニュージャージー、重巡2隻、軽巡3隻、駆逐艦12隻

  

 第2任務部隊

 (ホーネットU、フランクリン、カボット、バターン)

   ミズーリ、ウィスコンシン。重巡2隻、軽巡3隻、駆逐艦12隻

  

 第3任務部隊

 (ハンコック、ベニントン、サン・ジャシント)

   ワシントン、サウスダコタ、インディアナ。重巡2隻、軽巡3隻、駆逐艦16隻

 

 第4任務部隊

 (ボンノム・リチャード、ランドルフ、エンタープライズU(シャングリラ))

  アラスカ、グアム。重巡5隻、軽巡4隻、駆逐艦15隻

 

 タイコンデロガ

 慣熟訓練中の空母アンティタム

 「イギリス機動部隊がインド洋配備だろう」

 「太平洋側から攻勢を掛けるのは難しくないと思うがね」

 「どうかな」

 「こっちの上陸作戦中、日本海軍に大規模な華寇作戦をやられたら洒落にならないよ」

 「そんなに酷いことになりそうなのか?」

 「日本に残っている商船は優良船ばかりだそうだ」

 「片道だけならアメリカ西海岸に押し寄せて来れるよ」

 「本当に?」

 「まだ400万トンは残っているそうだ」

 「半分の200万トンを捨てて西海岸に突っ込まれたら・・・」

 「仮に1万トンで1万人とすると200万なら華寇軍200万か?」

 「距離によって人の数は変わるだろうが単純に計算すると、そうなるだろうが・・・」

 「もっと積みこめそうな気もするな」

 「しかし、日本は、200万トンも船を捨てるだろうか?」

 「民間は、350万トンは必要なはずだぞ」

 「大陸鉄道は伊達じゃないよ」

 「シンガポールから釜山まで繋がっている」

 「んん・・・・」

 「それに半島への移民で日本商船の負担は減っている」

 「くっそぉ〜 日本人め」

 「艦隊決戦こそが漢の名誉なのに華寇作戦などと、まじめに戦わんか卑怯者が」

 

 

 戦力比で日米機動部隊はいい勝負に見えた。

 もっとも、悲しいことに日本機動部隊が常備で翼無き艦隊に等しく、

 アメリカ機動部隊も攻勢の機会を窺っていたものの、

 戦力比で消耗戦を避けがたい為、様子見。

 しかし、太平洋での基地航空部隊の配備が進み、

 イギリス機動部隊がインド洋に回航されてくると状況も変わる。

 アメリカ機動部隊は、インド洋から退き。

 太平洋側へとシフトしていく、

 太平洋作戦司令部

 図上演習後

 「駄目だな。華寇作戦と風船爆弾で戦力を分散され過ぎている」

 「攻勢は不可だな」

 「全陸海軍戦力をスマトラ島、ジャワ島、パースに投入して、3ヶ月」

 「西オーストラリアを回復してもハワイか、アラスカで華寇作戦をやられてしまう」

 「人海戦術で完全に占領されてしまうな」

 「あのトロールどもが」

 「・・・直接、日本本土上陸作戦は?」

 「輸送路を維持できない」

 「肉を切って骨を断つ、だろう」

 「こちらが息切れする前に、日本の工業を破壊すれば立ち直れないはずだ」

 「日本は借り物の工業力だからな」

 「身の程を知れば良いんだ」

 「サルの分際で白人に歯向かうなど、インディアン同様に根絶やしにしてくれる」

 「しかし、陸軍機の支援無しで日本機動部隊と日本の陸上航空部隊を相手にするのは無理だろう」

 「んん・・・」

 

 

 そして、北大西洋からイギリス機動部隊がインド洋に回航していた。

 コロンボ港

 空母インプラカブル、インディファティガブル、ヴィクトリアス、フォーミタブル、インドミタブル

 戦艦デューク・オブ・ヨーク、アンソン。巡洋戦艦レナウン。

 軽巡5隻、駆逐艦20隻。

 イギリス海軍は、ドイツUボート艦隊の通商破壊作戦に苦戦し、

 インド洋に派遣し得る艦艇は少なかった。

 それでもインドの植民地を維持するという、期待が込められた艦隊だった。

 セイロン島の航空基地にアメリカ軍機が翼を並べていた。

 ムスタング、B24爆撃機、ヘルダイバー爆撃機、アベンジャー雷撃機が数百機。

 日本機動部隊の強襲と奇襲を防ぐ為だけの航空部隊。

 欧州で戦っている連合軍航空部隊が、この地の航空戦力を見れば、さぞ、むくれる。

 しかし、連合国全体が日本の華寇作戦に恐怖していた。

 戦力拠点だけでなく、海岸線の広い地域にレーダー監視網と飛行場を建設し、

 航空機、陸軍を配備すれば、どの程度、戦力が割かれるか、

 それでも西オーストラリアのパースが占領され、

 北オーストラリアのダーウィンが占領されている。

 連合国は、日本の華寇作戦によって遊兵を作らされ、

 戦力の振り分けで苦心惨憺していた。

 

 空母インプラカブル 艦橋

 イギリス軍将校が集まり頭を悩ませる。

 「パースとダーウィンの回復には、インド兵を投入するしかない」

 「無論、現状で、それだけの艦船を揃えるのは不可能だ」

 「日本機動部隊も怖いですから」

 「その通りだ」

 「この機動部隊もインド洋を守るための艦隊に過ぎない」

 「イギリス海軍は単独で日本海軍に勝てないだろう」

 「アメリカ機動部隊が日本機動部隊を粉砕できなければ・・・」

 「日本軍がインドに対し大規模な華寇作戦を行う可能性は?」

 「いまのところ、ないと考えて良いだろう」

 「夜間にコソコソと大型飛行艇でインド国民軍を送り込んできているだけのようだ」

 「しかし、日本軍にパースとダーウィンを取られてしまうとは・・・」

 「次に大規模な華寇作戦が行われるとすればオーストラリア東岸だ」

 「数百万単位で華寇軍を上陸させられたら」

 「人口800万しかいないオーストラリア大陸は完全に占領される」

 「日本は大型商船をそういった強襲揚陸船に改造しているそうだ」

 「ぎゅうぎゅうに華寇軍を詰め込んでな」

 「聞けば東南アジアの人間も豪州に関心を示しているらしいな」

 「くっそぉ〜 純軍事学的には日本軍なんてショボイはずなのに・・・・」

 「もちろん、日本軍相手ならシャーマン戦車は配備されているがね」

 「弾薬以上の人間を殺せんよ」

 「それにシャーマン戦車は、性犯罪者を追い掛け回すようにできていない」

 「もし、上陸されたら300万の女性を守るのは無理だな」

 「南京政府の動きは?」

 「たとえ、漢民族の人口を半分失っても豪州を手に入れられるのなら日中同盟万歳だろうよ」

 「北京の執政室に豪州の地図が張ってあるそうだ」

 「オーストラリアだけでなく、ニュージーランドも占領する気だな」

 「むぅぅうう・・・・」

 

 

 

 太平洋は、それらしい島と環礁が多かった。

 そこに偽装船を配置し、鉄塔を建て、

 わざと無線を発したり、灯火したり、煙を出したり。

 無論、環礁に置かれた偽装船に魚雷が届くはずも無く途中の岩礁で爆発する。

 アメリカ潜水艦は、偽装船に引っ掛かる度に座標を太平洋艦隊へと通報し、

 用心深くなっていく、

 連合国の潜水艦が防潜網や捕獲網に引っ掛からなければ、

 海防艦や水上機による撃沈に頼るほか無かった。

 例え、人形だとか、囮船だとか・・・

 気付くまで近付くのが潜水艦乗りの性といえるが・・・

 囮商船の船上に幾人の人影が見えたりしても、

 囮を利用した防潜網・捕獲網が怖いのか最近は、無視。

 戦争中で、あるにもかかわらず、島に船が接岸したままとか。

 洋上で、のんびり船が留まっていることは、ありえない。

 まして、何もない洋上に鉄塔が建っていたら用心する。

 また、島に荷揚げ中に見せかけていたとしても・・・・

 アメリカ潜水艦が消極的になるほど被害は小さくなった。

 日本商船は、日本本土とシンガポール・釜山・崇明を基点にし、

 策源地と前線を行き来していた。

 欧米の大護送船団方式は、待ち時間の関係から不都合が多く、

 日本は、偶然でなければ船団は組まない、

 この頃、日本は、たいした武装のない丙型海防艦の建造に力を入れていた。

海防艦 第1号型(丙型)
排水量(t) ディーゼル機関(hp) 速度 艦砲 対空火器 爆雷投射機 爆雷投下軌条 爆雷
745 1900 16.5 120mm砲×2 25mm3連装×2 12基 1基 120

 アメリカ潜水艦が囮に引っ掛かり難くなり

 日本商船を撃沈し、戦果を上げ始めたのが理由だった。

 海防艦

 停泊中も船体にぶら下がって、フジツボを獲るなど、面倒な事をする。

 あまり変わらなくても、それで、速度が少しでも増すのなら生き残る確率が高くなる。

 なにしろ小型の船で16.5ノットだと狙われたらイチコロ。

 “船板一枚下は地獄” とも言われ、

 大型艦に乗って踏ん反り返っている将校と表情が違う、

 運を天に任せた作戦任務が続くと神経が擦り切れる、

 平和な本土の人間と微妙に感覚にズレも生じる。

 「おうーぃ 燃料を持ってきたぞ」

 「やっと来たか。忘れられたのかと思ったよ」

 小型の丙型艦でも給油する燃料は、100tを越える。

 満載して前線に行くと帰還のとき、余剰分の燃料を少し降ろしたりもする。

 そういうわけで給油は、時間もかかる。

 出航直前は、生水と生鮮食品と決まっているものの、

 大陸からの食材も増えていた。

 「燃料は、新しいやつだ」

 「なんだ。新型燃料か?」

 「松根油だ」

 「うそ。航空機用だろう」

 「諦めたらしい」

 「あ、そう」

 「今度は、どこに行くんだ?」

 「ウェーク、南鳥島に囮を置いてくるよ」

 「ほう、あそこも大変だな」

 「あそこも穴掘りか魚釣りくらいだと」

 「ふっ 敵が来るまで、のんびりだな」

 「ああ・・・しかし、この港湾も大陸鉄道のお陰で船が集まりだしたな」

 「ああ、関門トンネルも複線になってから日本本土の物流も良くなっている」

 「これで北海道と、つなげたら、もっと楽だろうな」

 「半島と繋げたら、もっとだろうよ」

 「日本海運が一番心配しているのが、それだな」

 「潰れるってか?」

 「それは、ないだろうが、使う人間が減ると収入も減るからね」

 「まぁ そうだろうがね」

  

 


 月夜裏 野々香です。

 満州の要塞群は、地表と地下両面で数倍の規模で建設されていきます。

 ハイラル要塞、虎頭要塞、勲山要塞・・・・・・

 円陣埋め立てトーチカ。

 絵が欲しいですが無理。脳内で妄想してください。

 いったい、どれくらいの犠牲者を出したのか、

 史実 (3500万? ありえねぇ) × 数倍。

 歴代王朝の並みでしょうか。

 要塞地帯が増えていたら、さらに掛け算です。

 鬼畜日本が建前を捨てると、かなり怖いです。

 戦争で綺麗に鞘を収めようなどと、

 ヘタレなことを言ってたら、全て奪われ、さらに奪われます。

 まして、美学を追求して戦争に勝とうなど、世の中を舐めてはいけません。

 人という字は、伸るか、反るか、です。

 この戦記の日本国と日本民族は、醜悪に戦って我を通します。

  

  

 ドイツ列車砲レオポルド

 76.1口径280mm砲 射程61km。砲身命数540発は、凄過ぎです。

 大和が、45口径460mm砲 射程41km。砲身命数200〜250発。

 冶金技術の差でしょうか。

 無理して造るなよ〜 と思ったりです。

   

 

   

   

ランキングです ↓ よろしくです。

NEWVEL     HONなび

長編小説検索Wandering Network

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

 
第32話 1945/01 『もう、弾。ありません〜』
第33話 1945/02 『新兵器で ぶゎああ〜! と』
第34話 1945/03 『華寇軍は、愛の戦士ある♪』