月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

     

第34話 1945/03 『華寇軍は、愛の戦士ある♪』

ドイツ南部ベルヒテスガーデン

 ドイツ帝国バイエルン州と併合したオーストリアの境、

 風光明媚な森林と山岳の峰が広がり、神秘的なエメラルドグリーンのケーニヒ湖が見渡せた。

 ドイツで最も美しいリゾート地と言われ、都会の喧騒から離れ、執務の邪魔になるものが少ない。

 彼が、この地を選択したのは、欧州のほぼ中央に位置していたこと、

 山岳の頂上に官邸ベルグホーフを置き、心地よい気分に浸りたかったのか。

 どちらにせよ、頂上の邸宅はこじんまりとし、それほど大きくなく、爆撃するのに魅力がなさ過ぎた。

 むろん、犠牲を覚悟し無理すれば爆撃で破壊できそうだった。

 しかし、ベルグホーフ別荘は、氷山の一角に過ぎず、

 本体は、岩山の岩盤を刳り貫いた地下宮殿とか、地下要塞にあり、爆撃の効果は及ばない。

 それは、軍人でなくても推測できる事であり、

 まして、軍人であれば、なおさら無駄なことをしない。

  

 そして、華寇作戦の戦果が気に入られたのか、日本との窓口は重要だと思われたらしく、

 この要衝の地にも日本人武官はいた。

  

 「主要都市を一回り見てきたよ」

 「第三帝国ドイツは大変な状態だな」

 「大理石と石で作られた町並みが、これほど破壊されるとなると・・・」

 「日本が同じような爆撃を受けると瓦礫どころか、焼け野原だ。立ち直れなくなる」

 「地下工場は?」

 「大きいのを数ヶ所建設している」

 「ドイツと違って規格が揃いにくいから、分散すると組み立ての効率が悪くなる」

 「そうか・・・」

 「皮肉なことに地下工場というか。要塞建設が進んでいるのは、潰しの利く労働者を集めやすい半島と満州らしい」

 「やれやれ、日本人は、いつの間に鬼畜になったかな」

 「鬼畜日本にならなければ勝てないよ」

 「問題は、どこまでドイツ軍が連合軍を消耗させてくれるかだ」

 「ドイツ側も、日本に対し、そう思っている」

 「そして、そのために日本を支援をしている」

 「実のところ、ドイツは西部戦線と東部戦線の振り分けが至難の業になってきている」

 「冬季明けの攻勢をどれほど耐えられるかにかかっているようだ」

 「その上、米英の戦略爆撃と、ソ連の戦術爆撃か、対応に苦慮する事ばかりだな」

 「イタリア軍は、やる気になっているのだろうか」

 「南フランスと西ウクライナの利権が絡んでいる。士気は低くないよ」

 「欲張っていても勝てないが、ドイツ帝国も、うまみがないな」

 「利権独占ができなくても敗北するより良いだろう」

 「意外とイタリアが一番、儲けたりしてな」

 「あははは」

 「しかし、最近、二式大艇が往復できなくなっている」

 「エジプトにレーダーと、ムスタングが配備されたのだろう」

 「日独連絡は困難になってきて、その上、ソビエトの動きも怪しい」

 「ムスタングをソビエトに供給していたら、日本本土も危ないな」

 「焼け野原か・・・」

 「やめろよ。縁起でもない」

 「普通、最善の場合と最悪の場合を考え、対処を検討しておくのが軍人だよ」

 「日本の迎撃能力は?」

 「低いな。海燕と隼Vだけだ」

 「百式司偵を改造した夜間戦闘機はあるが、電探がろくなものじゃない」

 「とてもじゃないが、お話しにならないか・・・」

 「外交戦略上、ソビエトが中国を攻めてくれたら日中同盟の絆が、さらに強固になるよ」

 「それは政治の話しだろう」

 「もっとも中国人を信用する気にはなれないがね」

 「いまの日本は、軍人が政治を司っている」

 「欲張りすぎだな。分をわきまえるべきだ」

 「中国の利権が増えれば、民間需要の利権が増していく」

 「そうなれば普通に政治家が力を付けていくよ」

 「軍官僚が普通の官僚になっていくだけだろう」

 「そんなところだ。上手くソフトランディングできるか微妙だがね」

 「まぁ 軍が縮小されても上層部にいれば、こうやって、上手いものを食べていられるし」

 「汚泥をすすって戦場を這いずらなくてもいい」

 「だが、バカやっていると敗戦で吊るされるぞ」

 「ふっ 戦勝国に媚びる上層部も出てくるだろうな」

 「そこまで腐りたくないがね」

 「そういうことなら何とか切り札を揃えていくしかない」

 「華寇作戦と風船爆弾だと足りないか?」

 「時間稼ぎはできたと思うよ」

 「もっと時間を稼ぐには、ドイツにがんばってもらって。ドイツの技術を日本に導入するのが早道だ」

 「日独連絡か・・・」

 「アフリカ大陸越えでもいい」

 「地中海に辿り着けばドイツとの連絡はできるよ」

 「イギリス機動部隊がインド洋に入ってから伊号と二式大艇の合流は簡単ではないよ」

 「ジリ貧だな」

 「こっちから打って出て、イギリス機動部隊を壊滅できれば良いのだが」

 「ジリ貧は、むかしからだよ」

 「ジリ貧から抜け出す為に戦争を始めたようなものだ」

 「というより、戦争させるために、日本はジリ貧にさせられた」

 「結局、国力に差がありすぎてジリ貧状態は変わらずか」

 「ドイツも、そうだったな」

 「都市があれだけ爆撃されたらヒットラー悪者説は出るがね」

 「ドイツ民族が支持した背景もある」

 「ヴェルサイユ条約を押し付けた戦勝国の亡者が。いまのヒットラーとドイツ第三帝国を作ったんだろう」

 「それ、勝ち組に日本も入っているぞ」

 「そうだったっけ」

 「どちらにせよ。ヒットラーは原因ではなく、結果か・・・」

 「敵と味方も自業自得だよ」

 「ヴェルサイユ条約が、もっと融和的なものだったら」

 「ヒットラーはドイツ民族から支持されなかっただろうな」

 「戦勝国がドイツの良識と善意を追い詰めた」

 「ドイツ悪者は、理不尽だね」

 「そういえば日本も相当な理不尽を朝鮮人に押し付けているが大丈夫なのか?」

 「さぁ〜 怨恨が入っても、いまの利害関係に左右されるんじゃないか」

 「そういう関係を築くだけの戦略があればだがね」

 「朝鮮人を揚子江に集めるのは悪くないよ」

 「朝鮮人が揚子江で民族的な生存権を維持するなら、日本との関係は重要になってくる」

 「それは、日中同盟の力関係しだいだな」

 「少数民族と東南アジアに力不足分を補完させればいい」

 「自然な状態で維持できるようにすれば軍事的な負担は少ない」

 「軍官僚としては困るな」

 「大陸利権は懐が大きいぞ。インドよりはるかに大きい」

 「ふっ」

 「本当のところ、日本は大規模な華寇作戦ができるのか?」

 「できたとしても、残っているのは大型優良船ばかり、あまりしたくないだろう」

 「少なくともアメリカ機動部隊が上陸作戦か、何かで身動きが取れないときだな」

 「敗戦まで受身か。ジリジリと大量の輸送船を失う」

 「いくら大陸鉄道で戦略資源を釜山まで持ってこれたとしても船は大切だよ」

 「だよな・・・」

 「どちらにせよ。待ち状態は好きじゃないな」

 「こっちから打って出ようとすればアメリカ機動部隊に迎撃されて必ず失敗するそうだ」

 「図上演習ではね」

 「インチキサイコロでやれよ。楽勝で勝てる」

 「あははは・・・」

  

  

  

 戦争中でも年頃の女の子は着飾りたいとか、町を歩きたいとか思う。

 そして、フランスの町は、フランス人がいるためか、

 あまり爆撃を受けていない、

 欧州戦線は、戦場と祖国が近く地続きのため、時折、兵士が故郷に戻る。

 しかし、黒髪の魔女マイは日本に戻れる機会がない代わりに休息が多く、

 そして、一人で休息しても、つまらないのか、

 金髪の女神アイリスも余計に休みを取れた。

 「アイリス。少し寂しい町ね」

 「レジスタンスが強い町は、フランス人を強制的に東部戦線側に移民させてしまうの」

 「ふ〜ん。この町は安全なの?」

 「ええ、たぶん、安全よ」

 親衛隊が遠巻きにいて二人を白けさせる。

 「日本でフランスを見てきた、なんて言ったら人だかりができて人気者なんだけどな・・・」

 「ドイツでも日本を見て来たといったら、いろいろ聞きたがるでしょうね」

 「戦争中でも市民生活は意外と普通ね・・・・」

 「行ったり来たり、食べたり飲んだり、寝たり起きたり」

 「経済活動をしないと人は生きていけないわね」

 「ふ〜ん・・・」

 マイがカフェテラスで雑誌を開くと顔色が変わる。

 「アイリスの言う、経済活動の成果よ」

 マイがアイリスに雑誌を見せる。

 「げっ! なによぉ〜! これ、最低ぇ〜!」

 金髪の女神と黒髪の魔女の首から下が、別なモノに変わっていた。

 「気持ち悪いわね」

 「どの面下げて、こんなもの作っているのか」

 「表に出して引ん剥いてやりたいわね」

 「これが男の性〜!」

 「見ている人間は、ともかく」

 「作ったやつは変態ね。顔を拝んでやりたいわ」

 「きっと人間のクズね」

 「こういう人間は前線に出して淘汰。殺してしまうべきよ」

 「でも、偉そうな連中に限って、こういうものが好きなのよ」

 「裏でなにやっているか、わかったものじゃないわ」

 「ったく〜 戦争中になにやっているんだか」

 「爆弾の直撃を受ければ良いのよ。ど変態」

 「というより儲けた金、寄越せ」

 「あはは・・・」

 世の中、需要があると供給が生まれてしまう。

 これを倫理と道徳で押さえられない場合、イタチゴッコ。

 泣き寝入りとか。

 刺客を送り込んで闇に葬ったりとか。

 仕方がないので金で済ませてしまったりとか・・・

   

   

   

 

 日本は、1939年に日米通商航海条約の廃棄を通告され、

 1940年1月に条約が失効する、

 アメリカは、くず鉄、航空機用燃料など戦略資源の輸出を制限し、

 日本は戦争に必要不可欠な物資が絶たれて5年、

 代替の戦略資源と、生糸産業の市場を中国大陸に求めた。

 人口が多く資源が多いと、何を作っても売れやすい、

 中国市場は産業の踏み台として最重要な国だった。

 日本は、この中国市場の権益を得るため良識を捨て、悪魔に魂を売り渡してしまう。

 それが華寇作戦であり、

 並みの国なら就労人口に匹敵する人命が豪州とアラスカで失われた。

 もっとも人口比だと華寇作戦で失われた漢民族の人命も多いと感じさせない、

 それが日本の輸送力の限界であり、中国の非常識な人口だった。

 中国人の人口は、それほど多く、

 数学上の怖さ、統計上の怖さがあった。

 そして、この時期の大陸は混乱していたにもかかわらず、

 不思議と落ち着いていた。

 これは、人口減で富農が増え、男女の比率が近くなったか、

 女の数が男より増えた事に由来する。

 貧しい地域に行くと男手が欲しいばかりに育てられない女児を殺してしまう。

 男女の人口比を歪にしてしまうと社会全体を殺伐とさせてしまう。

 華寇作戦は、男を消耗させ、男女比率を安定させ、逆転させていた。

 

 華寇作戦は全世界的な災禍として通用する。

 しかし、中国では、中華の光を世界に広げる自性自愛に満ちた膨張政策で華光作戦と総称され、

 中国発の世界的な福音だった。

 意識が世界へ広がると宗教と同じで狂信者が育つ土壌が作られる。

 個人的に犠牲を強いられても、

 大義名分があると、不満は小さくなりやすく、

 犠牲が大きいほど成功に近付くとアドレナリンが分泌され、快感と喜びに変わる。

 マラソンと同じで苦しさが続くと、その向こうに快感と喜びが溢れてしまうのと似ている。

 現実に漢民族がパース、ダーウィンを占領しているので確信に近付き、

 一生懸命に働けば豪州だけでなく、

 北アメリカ大陸も中華の光が届くと、中国人民は大それたことを考える。

 そうなると、荒唐無稽などでなく意欲的に働き、眼の輝きも変わる。

 「我々、中華は人類の長子として、全世界に儒教を伝える使命ある!」

 「華光を全世界へ伝えるある!」

 「朝鮮人も行くニダ! 世界征服ニダ!」

 「・・・・・・・」

 というわけで大陸鉄道は、支線を増やし、

 利権の一部が日本に転がり込んだ。

 しかし、量が増えても、それが、すぐに質に転化されるとは限らない。

 科学者、技術者、研究者、熟練工、管理者、官僚など、専門家が育っていなければならなず、

 高度な社会は、知識、経験、意欲、蓄積されたノウハウなど、人の想像力と規範と能力で広く支えられていた。

    

    

 赤レンガの住人たち

 日本陸海軍のエリートが集められ、威勢の良い訓示が行われている。

 まさに聖戦、軍神など、美辞麗句に溢れ、

 疑惑と不信は一切介入していない、

 そして、兵士たちも選りすぐられた最優秀の将兵と信じていた。

 「・・・諸君は、断固として華寇軍に後れを取っては、ならない〜!!!!」

 まさに皇軍の権化ともいえる将校が居並んでいる。

 窓辺から外を眺める数人の軍官僚は、ぼんやり視線を落とし、複雑な表情を見せる。

 「あと、10年・・・・いや・・・20年あればな・・・・」

 「それだけあれば、高度な技能者を戦前の5倍に増やせるな」

 「だけど中国の方が富農が増えているし、豊かになりそうだよ」

 「中国はGDPで、だいたい日本の3倍だろう」

 「人口で7.5倍で、一人当たりの所得が約5分の1ぐらいで・・・」

 「でも個人所得5分の1で良く生きていけるな。数字怪しくない?」

 「だから、半農半盗の匪賊。それに本当に貧しいし・・・」

 「中国の人口が1億減ったら、6.25倍・・・・」

 「一人当たりの所得が増えて・・・・3分の1くらい?」

 「・・・あ、あんまり、殺さない方が良いんじゃないか」

 「そ、そうだよ」

 「余剰資金が増えると教育に金をかけて知的水準が向上する」

 「資本、資源、労力が揃えば、産業を興したりするんじゃないか?」

 「でも儒教で権威主義とか、不正腐敗が強い」

 「実力主義とか、能力主義の足を引っ張るだろう」

 「いや、もう権威主義は駄目だろう。さすがに近代化するよ」

 「日本に大陸の利権があっても取り分で言うと半分ぐらいだろう」

 「んん・・・・」

 「まぁ〜 それぐらいの利害関係を構築していないと軍事費がかさむからね」

 「ぅ・・・・まずい〜」

 「中国経済は大陸鉄道で勢いがついているし、負けるぞ」

 「大陸は、人災がなくなれば、資源もたくさんあるし、消費も大きい」

 「揚子江で南北に分断しても中国は、世界有数の大国になるよ」

 「中国は、当面、後回しで良いよ」

 「いまは、対米戦。そして、対ソビエトだよ」

 「ソ連は、攻めて来るかな?」

 「東部戦線で停滞しているからね」

 「日本を倒すことが対ドイツ戦線で有利になるなら参戦するかも」

 「日ソ中立条約は?」

 「1941年4月30日に公布されて、期限満了が1946年4月だろう」

 「今年の4月までに破棄しないと5年ごとに自動延長だっけ?」

 「・・・少なくとも、来年、46年の4月までは中立条約期間だよな」

 「信用できたらね」

 「それまで戦線が持つかな〜」

 「ソビエトを仲介に対米講和したがってる勢力があるよ」

 「アホだな」

 「ソ連は信用できないよ。気休めだね」

 「一応、ソ連が延期しないと仮定して、来年の条約明けと同時に宣戦布告して攻めて来るとしたら・・・・大丈夫かな?」

 「大丈夫じゃないよ。T34戦車は凄過ぎ、移動要塞だね」

 「穴は掘るけど。資材が少ないよ」

 「ウメサイは?」

 「可能な限り、大きな大砲を載せて埋めてしまうけどね」

 「砲塔の重さを支えるだけの強度も車両に必要だしね」

 「40トンくらいだっけ」

 「単装なら海軍砲の140mm。127mmでも大丈夫だね」

 「連装か、3連装は火砲と装甲重量で得だけど」

 「埋め立ててしまえば砲塔も装甲を増装したり土嚢を載せることもできるよ」

 「あとは、中国人とドキアナを使って、凍土の側溝を掘って要塞の数を揃えれば・・・・・・」

 「・・・何両くらい作れそうなの?」

 「んん・・・海軍がな・・・」

 「とりあえず。鋼材4万トンだから、1両40トンとして・・・・1000両かな」

 「要塞砲車20両とその他支援車両60両編成で円陣を組んで埋め立てていくと50個か」

 「火力は、もっと、相互支援で、集中すべきだね」

 「50両くらいだと20ヵ所。1個師団くらいなら押さえられないか?」

 「やはり大興安嶺・小興安嶺と、要衝を押さえるのに使うべきだろうな」

 「やばいな。そんなに埋め立てたら大陸鉄道の運行に支障が出るよ」

 「うん、元を取るのが大変」

 「元も何も、中国人を使い捨てでやっているんだから元札も偽札だし」

 「んん・・・・それでもな・・・・資材は、本物だし」

 「少なくとも満州防衛で一息つけば、太平洋に集中できるんだから」

 「ソ連軍が攻めてこないのを祈るしかないね」

 「うん」

 「ぅぅ・・・こんなことなら満州をアメリカ資本と分け合っていたら良かったんだ」

 「だいたい。陸軍が悪いんだよ」

 「いくら血を流して苦労したからって、がめついんだよ」

 「そうそう、スポンサーを怒らせた陸軍が悪い」

 「道理を失うと駄目だね。見境がなくなって醜悪だよ」

 「そのくせ、いい格好しぃの奇麗事言うから自己矛盾で破綻するし」

 「いまさら開き直っても遅いよ。偽善者の馬鹿陸軍が・・・」

 「感情的過ぎるんだよ。教養がなさ過ぎるね」

 「品性に欠けるから自己矛盾に気付かないんだよ」

 「気付いてもしがらみと、利権がらみで、どうしようもなかったりして」

 「そういうやつは上層部に来るな。死ねばいいのに・・・」

 「まぁ 国民の声もあったからね」

 「流れるまま民意に従ったといえば、そうなるけど」

 「そりゃ 行政が民意にばかり従ってたら楽だよ」

 「日露戦争時の遺族にすれば、大陸の利権も欲しいだろうけどさ」

 「能無し民意に、事勿れ行政は駄目だよ」

 「それでも、軍国主義よりマシだとはね」

 「というか、日露のときは、人死なせ過ぎだよ」

 「馬鹿みたいに突撃しやがって息子を殺されたら大陸に代償を求めるよ」

 「もう、それ終わったことだし」

 「それより来るとしたら、内蒙古側からソビエト軍の主力が来るんじゃないか」

 「内蒙古側とウラジオ側から侵攻して南北に分断して、北側を孤立化だな」

 「山岳地帯は、守りやすいけどね」

 「予算がないんだから防衛線を下げるのが良いと思うよ」

 「でも聖戦に後退なしとか、精神力で戦え、とか騒ぐ将校がいるし」

 「あいつらか・・・」

 「なにかあると馬鹿の一つ覚えで英霊が・・・とか。勅命が・・・とか、言うし」

 「敗北主義者とか決め付けるし、ランチェスターの法則知らないし」

 「それじゃ 英霊じゃなくて、道連れ根性丸出しの意地汚い悪霊だよ」

 「生霊はバカ過ぎて怖いね」

 「バカ将校は、まとめて英霊になれば良いと思うよ」

 「いや、馬鹿とハサミは・・・」

 「そうそう、生きている人間の足を引っ張らないように靖国で静かに永眠してもらおうよ」

 「でも戦死者が多いと英霊好きの遺族が増えるし」

 「やだねぇ〜 最小限の死傷者で抑えないと、また英霊に国体を乗っ取られるよ」

 「やっぱり漢民族に死んで・・・」

 「だから富農が増えるって・・・」

 「だって、しょうがないじゃん」

 「意外と中国政府もやる気だし」

 「そりゃ 漢民族が豪州を占領できるのなら嬉しいだろうよ」

 「世界地図の豪州を中国の色に変えちゃっているし」

 「かなりイヤだな。それ・・・」

 「だって、しょうがないじゃん」

 外に居並ぶ将兵たちは、その意気が絶好調に達していた。

 「・・・・よって、天皇陛下のご意向を世界に知らしめるのである!!!」

 天皇陛下万歳〜!!!  天皇陛下万歳〜!!! 天皇陛下万歳〜!!! 

 天皇陛下万歳〜!!!  天皇陛下万歳〜!!! 天皇陛下万歳〜!!! 

 部隊への訓示が終わったのか、

 将校が窓に向けて誇りと自信に溢れ、

 嬉しげに敬礼する。

 「ん?・・・尊敬されているみたいだぞ」

 と、決められた通り窓辺から答礼する赤レンガの住人たち。

 「そりゃ あいつらの要求戦力が小さ過ぎるんだよ」

 「無駄死にさせるより成功率が高い方がいいし」

 「自己満足で戦争やられても困るしな・・・」

 「だいたい、この作戦。元が取れないような気がするが・・・」

 「いや、精神主義な将校と下士官と、弊害になりそうな連中を集めたらしいよ」

 「長い目で見ると足を引っ張る連中がいなくなれば元取れそうだし」

 「道理で多いと思ったよ。一掃処分?」

 「「「「「うん」」」」」

 「死ねば良いと思うよ」

 「「「「「うん」」」」」

 上で、にやりと歪に微笑む赤レンガの住人たちと、

 下で、晴れ晴れと敬礼する将兵たちの表情は、日本の歪な構造、そのものだった。

    

   

   

 オーストラリア パース港

   

   晴天白日旗       五色旗

 面を制している南京政府軍の旗が多く、

 点と線を制している日本の旗は少ない、

 旗だけを見ると晴天白日旗と五色旗の中に日章旗が埋没していた。

 血の代価と言えなくもない。

 しかし、漢民族の次の目標へ向かう原動力だった。

 この地の日本軍は運送屋扱いでしかない、

 古今東西、同盟関係にあった国同士でも血を流していないと発言力がなかった。

 そして、この地で流された血の半分が日本兵だったら、

 国家基盤を維持できなくなるほど死んでおり、

 降伏文書の素案を考えるほど死んでいた。

 血を流した中国と、運んだだけの日本という関係は歴然で、

 当然、どちらも言い分はあるがオーストラリアの大地に根付いたのは漢民族だった。

 南京政府軍将校たちの鼻息は荒い

 “扶華滅洋” “扶黄滅洋” の号令で西オーストラリアに向かおうとしていた。

 「・・・日本人。船。出すある」

 「・・・ないよ」

 「日本人。気合で船を作るある」

 「作っては、いるけどね」

 「武器、渡せば豪州、全部占領ある。中国人に全部任せる、良いある」

 「武器と資材も作るのに時間がかかるよ」

 「できたら、すぐに送るよろし」

 「鉄道でシドニーまで行くある。そうすれば、アメリカは休戦ある」

 「あはは・・・」

 「日中同盟で世界を征服ある。怖いものないあるね」

 「あはは・・・」

 「漢民族は腐るほどいるある」

 「半分減っても問題ないある」

 「いや、むしろ好都合ある。国家的緊急避難ある」

 『それ、緊急避難といわない・・・』

 漢民族の人口が半分に減ると富農層がさらに増え、

 GDPどころか、一人当たりの所得でも日本を上回りかねなかった。

 魂を悪魔に売り渡した気持ちになる日本人将校は苦笑いするしかない。

 「豪州を占領したら、次は、北アメリカある」

 「北アメリカですか・・・」

 「1億ぐらい上陸させれば、アメリカ合衆国は降参するある」

 「1億ですか」

 「中国大陸で女余るある。日本人、良かったある。ハーレムある」

 「あははは・・・・」

 「日本人の血が入ると、漢民族、ますます優秀ある。遠慮いらないある♪」

 「あははは・・・・」

 「一緒にアメリカ合衆国を捻じ伏せるある♪」

 「あははは・・・・」

 「だから、日本人、たくさん、船造るある♪」

 「あははは・・・・」

 「中日一体ある♪」

 『日本を併合する気だよ。こいつら・・・・』

 「大中国ある♪ 日中同盟で世界を平伏ある♪」

   

  

 パース航空基地

 脱出できなかったアメリカ・オーストラリア空軍の航空機が並べられていた。

 ダーウィンにも、そういう航空機があり、中国空軍が運用していた。

 もっとも、部品・治具・燃料など、日本に頼るしかなく、

 日中同盟は、強まっていた。

 そして、南京政府軍も隼V型を購入するようになるとパースにも配備される。

 対中国で隼V型は、高く売れていた。

 「蒋介石国民軍と毛沢東共産軍が減少しているある」

 「どっちに付いても中国に未来がないある」

 「日本と組んだ南京政府は、豪州を占領して未来が広がっているある」

 「北アメリカ大陸も占領できるある」

 「世界が漢民族を待っているある♪」

 この時期の日本は悲観論が強く、中国は楽観論が強かった。

 中国は、現実に豪州で地歩を固め、人口減が所得に跳ね返っていた。

 東南アジアへ華僑が広がり、ネットワークが構築され、

 日本列島を盾にアメリカ合衆国と太平洋の覇権を争うとしていた。

 それは、それで、めでたいのだろう。

 日本人も、半島への移民が増え、実質、富農が倍増し、さらに大陸の利権でポケットが膨らんでいる。

 しかし、悪逆非道な行いが、そうさせているか、良心の呵責に苛まれている節もある。

 シャイで小心者の日本人は、恨まれるという現実に直面し、開き直る。

 という精神構造に慣れていない。

 楽観論は、失われ、

 また、国力比と戦力比の関係もあった。

 国力を増強しようとすれば、戦力を縮小しなければならず。

 戦力を増強しようと思えば、国力をすり減らさなければならない。

 質を高めようとすれば、量が減じられ、

 量を求めれば、質で妥協しなければならない、

 相矛盾する富国強兵を無理に求めれば国民を奴隷貧民にするか、

 他国を虐げ、奪わないとありえない、

 愚か者ほど、取捨選択できず、相矛盾するものを美辞麗句で求めようとし、

 支離滅裂、自己崩壊に向かっていく、

 不渡り手形、空手形の国債・軍票を発行しまくり、

 日本経済は背伸びし過ぎたのか限界に近付いていた。

 持ち応えているのは、半島の接収と大陸の利益誘導で

 皺寄せは、全て国外に向けられている。

 海外にとって不幸なことでも、

 日本の搾取率は、イギリスやオランダより小さいのが救いといえた。

   

   

 

 B24爆撃機とムスタングの爆撃部隊を夜戦型100式司偵が迎撃していた。

 ここで圧倒的な戦闘能力を発揮するのが数機の夜間戦闘機P61ブラックウィドウだった。

 性能差があり過ぎて、ランチャスターの法則が成り立たず、

 P61ブラックウィドウは1機も落とされることなく、

 夜戦型100式司偵を撃墜していた。

 夜間爆撃は、命中率が低い、

 レーダーで海岸線がわかると、

 あとは計測して暗中模索に爆弾を落としていく、

 日本軍は、灯火管制しても被害を受け、滑走路に穴が空くこともあった。

 日本軍将校たち

 「・・・いきなり、司偵が3機も撃墜されたか。夜戦は駄目だな」

 「P61ブラックウィドウは海燕と変わらないくらい速いからな」

 「昼間でも撃墜できるかどうか」

 「数はまだ少ないから良いとしても、増えたら手に負えないな」

 「んん・・・・・」

 「どうしたものか・・・」

 「電探の死角に入り込まれ、一撃で撃墜されてる」

 「アメリカ軍機は単発機でさえ、レーダーを装備して」

 「夜戦型100式司偵が苦戦しているのに・・・」

 「たった2、3機の夜間戦闘機のお陰で夜間航空戦は不可能か」

 「ドイツは、どうやっているんだ?」

 「He219はレーダーは負けているらしいけど、機体だけなら見劣りしない」

 「それだけでも良いよ」

 「夜戦型100式司偵より上で、地上から誘導もされている」

 「速度だけなら100司偵が上なんだけどな」

 「元々、100司偵は偵察機だから、まっすぐ飛ぶだけならね」

 「旋回性能もあるから。旋回するたびに追いつかれて銃撃されるよ」

 「1500馬力が2基だろう。旋回に馬力を振り分けると・・・・・」

 「タダでさえ防弾をケチっているから速度と高高度性能が落ちる」

 「・・・・駄目だな」

 「んん・・・航空戦が駄目で対空火器で撃墜できないといいように爆撃されるぞ」

 「他の基地は、どうなんだろう」

 「どこの戦線もブラックウィドウが配備されて苦戦してるそうだ」

 「どうしよう」

 「どう考えてもブラックウィドウは、オーバースペックだな。数の問題じゃない」

 「ぅぅ・・・アメリカ軍め」

 「レーダーなんか使いやがって卑怯者が・・・」

  

  

 アメリカ夜襲部隊

 SCR720 レーダー 波長10cmを装備したブラックウィドウは無敵だった。

 新しいドイツ製FuG202 リヒテンシュタイン BC 波長 60cmと比べても、

 連合軍側のレーダーは解像度で勝っている。

 そして、月光にはドイツ製の新旧レーダーを装備していたものの、

 機体性能とレーダーで負けて、打つ手なしといえた。

 数機のブラックウィドウを先頭にムスタングとB24爆撃機が続く、

 夜間爆撃は命中率が低い。

 しかし、分母が大きくなれば分子も大きくなる。

 滅茶苦茶なのだがアメリカ軍の物量作戦は、それを可能にし、

 500機近い夜間爆撃が行われる、

 欧州の爆撃に比べれば、程度が低かったものの、日本軍にすれば空前絶後。

 B24爆撃機

 「・・・どうやら、日本機は、上がってこないようだ」

 「もう、夜間戦闘機は、残っていないんじゃないか」

 「ちっ! 臆病者が・・・」

 「海岸線から予定通りこのコースから突入する」

 「飛行場に爆弾を落とせるはずだ」

 サーチライトが爆撃コースに乗ってくるアメリカ軍機を照らそうと、

 光線が延びて機体の周囲を照らす。

 地上の対空火器が曳航弾を打ち上げ、

 暗闇に浮かび上がる機体へと伸びていく、

 アメリカ爆撃部隊は、暗闇の空を駆け抜け、

 投下された爆弾は、空気を切り裂きながら地表を吹き飛ばし、

 大地を紅蓮の炎で包み込んでいく。

 「誘爆は・・・それほどでもないか・・・」

 「少しずれたかな」

 不意に地上から、爆炎が立ち昇る。

 「おっ! 弾薬庫にでも当たったかな♪」

 「ラッキー〜」

   

   

 航空作戦で良く行われている作戦で送りオオカミというのがある。

 攻撃が終わって、さぁ 帰還というとき、

 後から付いて行って後ろから撃墜したり、

 着陸中に攻撃する、というもの。

 帰還する為、あまり反撃したくない心理もある。

 弾薬を使い切って、ほとんど残っていない場合もあった。

 基地まで追い掛けられてしまう事もある。

 これをやられて滑走路を破壊されると着陸できない。

 さらに被弾していたり、

 燃料不足で別の飛行場にも辿り着けない時は不時着という目に遭う。

 もちろん、通常、基地防空部隊が帰還を援護する為、基地上空に待機するのが慣わしだった。

 しかし、日本は中国の利権のため、太平洋での攻勢を抑えた結果。

 日本軍は、アメリカ軍の基地を攻撃してなかった。

 そういう経緯もあって、アメリカ空軍基地の防空作戦は穴が多く、

 そして、日本軍の送りオオカミの規模は、アメリカ軍の予想をはるかに超えて大きかった。

   

   

 ポートモレスビー空挺作戦97式重爆575機  陸軍 6900名

 ポートモレスビー空挺作戦96式陸攻286機  海軍 3432名

 合計             作戦機  861機     10332名

 陸海航空部隊の双発攻撃機は、4式重爆の飛龍に主力が切り替えられていた。

 それでも旧式の双発機は、利便性の良い輸送機、哨戒機として、重要な機体でもあった。

 そして、日本軍は、保有する97式重爆と96式陸攻の輸送機、全機を投入してしまう。

 当然、各戦線、航空移動など、

 戦争遂行で支障をきたしてしまうが作戦は決行される。

 ラバウルの夜間爆撃を終えたアメリカ軍機は、次々と着陸し

 待機場へと誘導されていく、

 そこに見馴れぬ機体が低空から進入して胴体着陸をやってのけた。

 あまりのことにアメリカ軍は、動揺する。

 吊光弾が飛行場上空を照らし、上空から滑走路が丸見えになってしまう。

 日本機の胴体着陸は続き、胴体着陸した機体から日本軍将兵が降りてくる・・・

 機体上部と側面の機関銃が掃射を開始し、米軍兵士とパイロットをなぎ払っていく、

 その夜、ポートモレスビーの航空基地は、大混乱となっていた。

 将兵10000人を超える空挺作戦は前例が少ない。

 通常、高価なエンジンが無駄なのでグライダーを使うが日本にグライダーは少ない。

 それでも試作的に製造したグライダー5機が投入されている。

 この作戦を日本軍が決行したのは、それだけ追い詰められていたからといえた。

 日本軍は、最前線が崩壊してしまうと、物資集積の少ない後方の基地は弱体化していく、

 連合国のように満遍なく配備しても、後方戦力が多いという冗談のような資材は日本になかった。

 

   

 エスピリットサント沖

 アメリカ機動部隊

 第1任務部隊

 (バンカー・ヒル、タイコンデロガ、プリンストン、ラングレーU)

   アイオワ、ニュージャージー、重巡2隻、軽巡3隻、駆逐艦12隻

   

 第2任務部隊

 (ホーネットU、フランクリン、カボット、バターン)

   ミズーリ、ウィスコンシン。重巡2隻、軽巡3隻、駆逐艦12隻

   

 

 タイコンデロガ

 タイコンデロガ 艦橋 

 「提督 ポートモレスビー基地が攻撃されました」

 「どうした!」

 「日本軍機がポートモレスビーの飛行場に強行着陸した模様です」

 「なんだと!」

 「どうやら日本の爆撃機の移動は、対機動部隊でなかったようです」

 「全艦隊に警戒させろ!」

 「日本機動部隊が来るぞ!」

 「それと、華寇作戦だ!」

 「提督。ポートモレスビーへも機動部隊を移動させないと、危険では?」

 「基地航空部隊の支援が得られない状況で機動部2群隊をポートモレスビー沖にか・・・・」

 「現在、日本機動部隊は、トラックから動いていないかと・・・」

 「もし、日本機動部隊が動いていたら、もっと警戒している」

 「やすやすと空挺作戦など許すものか」

 「これから動くとすれば・・・・」

 「華寇作戦だけか?」

 「はい、輸送船が10隻ほど、来ていたはず」

 「軽く見積もって華寇軍10万以上・・・・」

 「空挺作戦は陽動ではないのか?」

 「アメリカ機動部隊をポートモレスビーに移動させ。本命の華寇作戦はエスピリットサントの可能性もあります」

 「ポートモレスビーのアメリカ軍は、20万だぞ」

 「華寇軍10万、20万なら殲滅できる」

 「確かに」

 「日本軍の空挺作戦なら昼までに処理できるだろう」

 「飛行場を回復できれば、ポートモレスビーは回復、迎撃も成功する」

 「はい」

   

   

 アメリカ機動部隊は、日本軍の空挺作戦の規模を誤っていた。

 滑走路に不時着した日本軍爆撃機の機関銃は弾切れになり、

 空挺部隊が持つ百式短機関銃が弾薬を使い果たし、手榴弾を全て使い切ってしまう頃、

 携帯していた武器は、その役割を十分に果たしたのか、

 虚を突かれたポートモレスビー航空基地は、日本軍の手によって占領されていた。

 「辻大佐。ポートモレスビーの航空基地を占領しました!」

 「よーし、アメリカ軍の重火器を押さえろ向かってくる米兵を殲滅する」

 「パイロットは、計画通りに?」

 「そうだったな。滑走路を開けろ」

 「米軍機に搭乗させて戦車を攻撃させろ」

 「機銃を撃ち尽くしたら捕獲機はラバウルに帰還させる」

 「はっ!」

 「朝には、ラバウルからも航空支援が来るだろう」

 「このまま、空挺部隊だけで制圧できるかもしれませんね」

 「おお〜し!! 赤レンガの腑抜けどもに皇軍の何たるか、を教えてやるわ」

 「でも、これだけの規模で空挺作戦ができたのは彼らのおかげでは?」

 「まぁ 本当は、30機、400人に満たない申請だったのだが・・・」

 「861機 将兵10332ですからね」

 「桁も違いますし師団並みですよ」

 「銃器の充足率だけなら最強です」

 「んん・・・」

 「それに明日の夜に華寇軍20万が突入してくるはず・・・・」

  

  

 その夜、アメリカ太平洋作戦司令部は、最悪の日になろうとしていた。

 オアフ島 白レンガの住人たち

 「どういうことだ!」

 「ポートモレスビーが日本の空挺作戦で占領されたそうです」

 「そんな、バカな・・・」

 「そんなに空挺部隊がいるわけがない」

 「夜半、日本爆撃機爆撃機800機から1000機ごと、ポートモレスビーに胴体着陸で突入です」

 「パラシュート降下の訓練は、必要ない・・・か」

 「現在、ポートモレスビーのアメリカ軍20万は」

 「日本軍9000から12000将兵が抵抗中だそうです」

 「戦況は?」

 「混乱していますが占領地は飛行場だけにとどまらず、重要拠点の多くが胴体着陸で突入されたようです」

 「重火器は、夜の内に制圧され、戦車も破壊されたか、奪われたとも・・・」

 「なんということだ。日本機動部隊は?」

 「トラックですが通信が増えているので、これから動く、兆候を見せています」

 「日本が、これだけの大規模な航空作戦をするとは・・・」

 「トラックの機動部隊が動けば発覚しやすいので陽動もせず。静観していたと思われます」

 「第3機動部隊、第4機動部隊もソロモンへ、送るか・・・」

 「北太平洋をがら空きにするのは危険では?」

 「んん・・・・・」

 「日本軍から先に痺れを切らせるとは・・・」

 「しかも空挺作戦です」

 「規模からありえん、日本の航空路線は消えたな」

  

  

 ポートモレスビー

 アメリカ軍は、寝起きの状態で日本軍の奇襲を受けてしまう。

 銃声が響き渡り、爆発が闇を照らす。

 近接戦闘で有効な兵器は、重火器でなかった。

 百式短機関銃や手榴弾、14式南部拳銃が主役を演じる。

 日本軍空挺部隊は、爆撃機の機関砲で援護されながら兵舎に突入し、

 混乱しているアメリカ将兵に向け、30発装填の百式短機関銃を掃射し、

 さらに手榴弾を投げ込めば、一度に数十人を死傷させることもできた。

 輸送機は、機関砲を撃つ乗員を除く乗員7人は相互支援しながら司令部に突入し、戦果を拡大させる。

 闇夜の中、日本空挺部隊は指揮系統を保ちつつ合流し、

 逆にアメリカ軍将兵は混乱し、統制が取れず、離散しつつ逃げ惑い孤立していく、

 日本兵が予備の銃弾を撃ちつくす頃、

 敵から手に入れたガーランド自動小銃とカービン自動小銃が力を発揮していく、

 事前にアメリカ製の武器弾薬を手渡され、構造を理解し、使い方を教わっていた。

 もっとも慣れていない武器弾薬は、補給や装填などで戸惑うことも多く、

 夜明け頃は、もっとも危険な状態でもあった。

 軍隊に武器弾薬を配布する主計長がいる。

 戦場では、あまり役に立たない。

 しかし、武器弾薬を滞りなく、重要な場所に重要な物資を供給することで重責だったりする。

 「弾薬庫を押さえろ!! 目録を作れ!」

 「部隊の再編成に合わせて、武器弾薬を配布する・・・」

 前線に全ての兵士を置くことはできなかった。

 こういう状況だと、どうしても武器を使わない事務管理業務が必要になってくる。

 能力や適正に関係なく、手近な者が使われていく。

 仮に10000の将兵がいても、

 全てが敵と対峙して銃撃戦で戦えるわけでもない、

 そして、指揮官も部隊の把握に忙しかったりする。

 「辻大佐。パイロットは?」

 「はっ! 牟田口中将。確認しているのが513人です」

 「現在、飛行場に189名」

 「滑走路を空けさせろ」

 「使える機体はパイロットに確認させるんだ」

 「夜明けと同時に離陸させ」

 「戦車は必ず機銃掃射で仕留めさせろ」

 「はっ!」

 さらに1機に必要な整備士の数もあった。

 単発の整備士でも10人以上。双発になれば、さらに多い。

 そして、敵機だとさらに要領がわからない、

 当然、手間取るが出撃準備が完了し、

 待機している機体は常にあった。

 「残りのパイロットも飛行場へ来るように伝えるんだ」

 「はっ!」

 「ん?・・・杉山元帥と富永は、どうした?」

 「・・・不明です」

 「そうか・・・」

 「しかし、杉山元帥も富永を道連れに連れて来るとは、いやらしいな」

 「権力闘争で負けた腹いせに東條閣下の手足を捥ぎ取って、ですからね」

 「自業自得だな」

 「最近は、中国利権組が強くなって武士は食わねど、の時代は終わったかな」

 「武士も建前ですからね。石高で身分が判断されますし」

 「食べられなければ生きていけませんよ」

 「死中に活を求めて、再起を図れるのであれば良いが・・・」

 ポートモレスビーの夜が薄っすらと明けていく、

 オーエンスタンリー山脈を飛び越えた命が、この地で磨り減らされていく、

 「日本の精鋭部隊ここにありだ!」

 「10倍の敵であろうと20倍の敵であろうと何するものぞ!」

 「「「「「おおおー!!!!」」」」」

 銃声は止むことはなかった。

 サンダーボルト、ムスタング、B24爆撃機、ブラックウィドウが滑走路から離陸していく、

 飛び立つとアメリカ軍陣地に向けて機銃掃射し、

 銃弾を使い果たすと、ラバウルへと飛び去っていく、

 捕獲されたM4シャーマン戦車に赤い丸が付けられていた。

 それでも機銃掃射しようと低空飛行してくる戦闘機は少なくない。

 「・・・おいおい・・・・撃つなよ・・・」

 ギリギリのところでサンダーボルトが上昇し、飛び去っていく、

 「ちっ! 紛らわしい・・・」

 日本軍将兵は、ほっ! とする

 「・・・・動かせそうか?」

 「・・・ああ、ビルマ戦線で動かしたことはある」

 「3式自走砲より大きいな」

 「ああ、倍以上の大きさだな」

 「こっちの方が強そうだ」

 「そりゃ 大砲を動かせるからな」

  

  

 白い星のマークをつけたアメリカ軍機が悠々とラバウル飛行場に着陸してくる。

 事前に連絡を受けていたとしても気持ちが良いものではない。

 「すげぇ〜! ムスタングだ」

 「うほぉ〜 サンダーボルトだよ」

 「あれなんだ?」

 「B24爆撃機・・・・」

 「きゃ〜 素敵!」

 「爆弾を落とさないだろうな」

 「・・・なんか、条件反射的に撃ち落としたくなるよ」

 「うん」

 「ポートモレスビーは占領できそうなのかな」

 「さぁ 占領できたらアメリカ軍最強の前線基地だから凄いそうだ」

 「へぇ〜」

 「ハワイ、エスピリットサント、ポートモレスビーに備蓄された戦略物資は東京や呉を超えるらしいよ」

 「さすがアメリカ」

 「もし、制圧できれば、数年は補給いらずかも」

  

  

 海燕と飛龍がポートモレスビー港を襲撃する。

 対空火器は多くなく、

 港湾に点在する50隻ほどの艦船から弾幕が撃ち上げられるが艦隊編成もなされていない。

 さらに混乱しているのか、組織的な反撃も弱かった。

 「てっ!!」

 低空で海面ススレスレを突進する飛龍が魚雷を投下し、

 ふわっ! と機体が浮かび上がり、

 護衛空母の頭上を飛び越えて去っていく、

 そして、護衛空母の舷側に水柱が立ち昇る。

 護衛空母6隻、護衛艦15隻。駆逐艦4隻、

 輸送艦25隻に魚雷と爆弾が命中し沈んでいく。

 制空権を失った港湾基地は脆く、アメリカ軍の混乱に拍車を掛けた。

 M4シャーマンが飛行場に向けて砲撃し、

 日本軍が捕獲したM4シャーマンを撃破する。

 「よーし! 命中!」

 「ばかめ。付け焼刃で戦車を動かせるものか。このまま、押し切るぞ!」

 「・・・ん なんだ?」

 そのとき、爆音が近付いてくる。

 飛行場に向けて砲撃していたM4シャーマンが、

 海燕の機銃掃射で上部装甲を射抜かれて沈黙し、無力化する。

 発射速度だけでなく、

 機体の降下速度が弾丸の速度に加算されると貫通力は凄まじくなる。

 それまで鳴りを潜めていた日本軍機による基地攻撃が行われる。

 大規模な空挺作戦に続き。

 地上攻撃でアメリカ軍の組織的な反撃が遅れていく、

  

  

  

 アメリカ西部

 夕日をバックに荒野を影が二つ東に向かう。

 馬に乗っているお陰で悲壮感はないが、馬泥棒の罪が加算されていた。

 「・・・おなか空いたある」

 「どうしたら良いニダ。アメリカは、広すぎるニダ・・・・おなか空いたニダ」

 「おまえ、満腹という名前なのに。なぜ、おなか空くある」

 「おまえこそ、順華なのに、なぜ上手くいかないニダ」

 「今度は、車を奪って、もっと速く東に行くある」

 「運転できなかったニダ。だから馬にしたニダ」

 「今度は、殺す前に動かし方を聞くある」

 「そういえば、戦車で追いかけてきたやつがいたニダ」

 「あの戦車を奪えば、無敵ある」

 「車を動かせないのに戦車は、もっと動かせないニダ」

 「同じある。殺す前に動かし方を教わるある」

 「それ良いニダ。しかし、どうやるニダ」

 「やっぱり、夜を狙うある。寝ている時ある」

 「んん・・・そうするニダ」

 「だけど動かし方を聞いても英語がわからないある」

 「だから、この前殺したニダ」

 「アイヤ! そうだったある」

 「アイゴ〜! やっぱり馬ニダ・・・」

 「あっ! 蛇ある♪」

 「毒蛇ニダ♪」

 「食べるある♪」

 「・・・精力付くニダ♪」

 「白人女を一杯愛せるある♪ 泣いて喜ぶある♪」

 「俺たち博愛主義者ニダ♪」

 「白人女は感謝するある」

 「きっと抱かれた女は、女に生まれて良かったと思うニダ♪」

 棒でガラガラヘビの頭を砕いてしまう。

 「・・・俺たちの優秀な血を足して白人世界を清めるある♪」

 「世界平和ニダ♪」

 「世界平和ある♪」

 「そうある。朝鮮民族は、嘘つき日本民族と違うニダ!!」

 「本当の聖(性)戦ある♪」

 「そうある。華寇軍は嘘つき日本軍と違うニダ!!」

 「華寇軍は、愛の戦士ある♪」

 ガラガラヘビが、こんがりと焼かれていく、

  

  

  

 その後方、30kmのガソリンスタンド。

 M3グラント戦車が燃料を入れている。

 「トリー軍曹、周辺の町で保安隊を組織させたそうです」

 「そうか・・・・くっそぉ〜 あいつら・・・」

 「なかなか、追いつけませんね。軍曹」

 「燃料を給油しないといけないからな」

 「ジープの方が良くないですか? 燃費が悪すぎますよ」

 「2台も、やられただろう。忌々しい」

 「あのキチガイどもに、もう100人以上が殺害されていますよ。」

 「このまま、東に行かせたら名折れだ」

 「大体、あいつら、なんで強いんですかね」

 「良くわからんが一人は、拳法の達人だそうだ。もう一人は銃の名手だ」

 「このまま東に行かれると欧州戦線から帰還したがる兵隊が増えるそうですよ」

 「んん・・・日本軍め〜 性犯罪者を使うとは、ろくなことしない」

 無線が入る。

 「軍曹。本隊からです」

 「華寇をニューメキシコに入れるな、だそうです」

 「ん、ニューメキシコ・・・なんか、あるのか?」

 「さぁ〜 何もないと思ってましたが・・」

 そこにカーチス P40ウォーホークが低空で旋回しつつ、

 舗装された道路を滑走し着陸し、ガソリンスタンドへと近付いてくる。

 「ふっ ケルソ軍曹! 空中戦でもするつもりか? UC61連絡機はどうした?」

 「修理だよ、コイツしかなかった」

 「トロールを見つけたか!」

 「いや、トリー。駄目だ。もうすぐ日が暮れる」

 「今日は、これで終わるから護衛についてくれ」

 「ちっ! しょうがねぇ・・・」

  

  

 トラック環礁

 大鳳 艦橋

 「・・・アメリカ機動部隊は、どうするかな?」

 「第1・第2機動部隊がエスピリットサント。第3・第4機動部隊がハワイです」

 「ポートモレスビー基地航空部隊の支援が見込めないとすれば、4群とも・・・」

 「ポートモレスビーを占領しても戦略的価値は、小さい気がしますが」

 「軍事施設と資材は、相当なものだそうだ」

 「それでは、エスピリットサントも同時にやるべきだったのでは?」

 「戦力は、集中だそうだ」

 「それに陸軍は空挺部隊だけで制圧したかった節もある」

 「陸軍も豪儀ですな」

 「二兎追うよりも、だろうな」

 「中国人と朝鮮人が華寇作戦で強がっていますから」

 「ここで日本民族の力を見せたいのでしょうか」

 「現実に交渉ごとになると漢民族も、朝鮮民族も材料があると使うからな」

 「そういえば、最近、朝鮮人は、瑞穂人と名乗っているとか」

 「やれやれ」

 「それと便乗ですかね。揚子江も瑞穂江と・・・」

 「やれやれ」

 「それと華寇作戦の準備は進んでいるそうです」

 「そうか。アメリカ太平洋艦隊が機動部隊をどう振り分ける気かな」

 「アメリカ機動部隊が動けば良いのですが・・・」

 「動かないと・・・動けないな」

 「どちらにしろ輸送機がなくなると空路が使えず、不便ですよ。これから・・・・」

 「だよな・・・」

  

  

  


 月夜裏 野々香です。

 後悔先に立たず。

 欲望とエゴに振り回されて魂を悪魔に売ってはいけません。

 

 

 数十年後

 「朝鮮民族は偉大ニダ。アメリカ大陸に侵攻し」

 「当時、世界最大最強のアメリカ軍と戦ったニダ♪」

 「日本人は、朝鮮人を強制的に徴集して無理やり華寇させたニダ。補償するニダ」

 「朝鮮民族は、性犯罪のような酷いことしないニダ」

 「全部アメリカ合衆国の捏造と日本のせいニダ。補償するニダ」

 「日本とアメリカは、アメリカ合衆国本土を制圧、打倒しかけた偉大な朝鮮民族戦士に民族補償と賠償するニダ」

 「もう、何でも良いから永遠にたかるニダ♪」

   

  

    

 

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第33話 1945/02 『新兵器で ぶゎああ〜! と』
第34話 1945/03 『華寇軍は、愛の戦士ある♪』
第35話 1945/04 『恨めしや〜』