月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

     

第35話 1945/04 『恨めしや〜』

 冬季明け

 アメリカ軍とソビエト軍は、ドイツ軍を挟撃しつつも精彩を欠いた攻撃で始まる。

 「将軍。攻撃は?」

 「爆撃と砲撃だけで良い」

 「大攻勢をかけるとキングタイガーが来るぞ」

 「しかし・・・」

 「血の流すのは反対側の戦線に任せよう」

 「ドイツが疲弊した頃合を見計らって大攻勢をかける」

 「はっ!」

 米英軍は、華寇作戦の恐怖で戦力が分散されて遊兵化していた。

 さらに風船爆弾がアメリカ合衆国内陸を襲い、人心不安と離反工作が進み、

 通商破壊作戦の損失増大の相乗効果で著しく消耗していた。

 ソビエトも、東部戦線で大きな被害を出し、対米英不信が高まり戦意が低下していた。

 米英・ソ連合国は、互いに高度で他力本願な作戦を考え、

 得意の飽和攻撃に二の足を踏んでいた。

  

 対する独伊・東欧軍も防衛線構築に躍起になる。

 しかし、やっていることは、ひたすら穴掘りと土嚢造り、

 「・・・いいか! まず。塹壕を掘ることだ!!」

 「戦車の防弾が最強であろうと火力が強かろうと機動力があろうと」

 「十分に準備していれば恐れるに足りない!」

 「T34戦車の車体長は、6.10m。M4中戦車も車体長は、6.19mだ」

 「いいか、4m幅の塹壕を掘れば戦車は越えられん」

 「掘った土砂で対岸に土嚢を積み上げれば、半分の3m幅の塹壕でも越えられない」

 「また、登坂能力を超えた傾斜は登れない」

 「戦車は、その程度の物に過ぎない」

 「塹壕と保塁に隙間を作って、そこに戦車を追い込めば砲兵、突撃砲、自走砲、地雷の餌食だ!」

 「迂回路を作って側面や後部を撃つ事ができれば口径の小さい対戦車砲でも十分に撃破できる」

 「パンツァーファウスト、パンツァーシュレックでも戦車大隊を殲滅できる」

 「いいか!」

 「準備さえ、怠らなければ、戦車部隊などカモに過ぎない!!」

 独伊・東欧軍は、防衛線を強化していく、

 下士官は、戦意を上げる為、ひたすら威勢良く嘘を付く、

 士官は、不都合が起きないように慎重になりやすい、

 将官に至っては、権力基盤、栄達、出世や戦線の都合だけで部隊の生き死にを取捨選択した。

 「・・・少しは、時間を稼げれば良いが・・・」

 「空襲をどの程度、抑えられるかですよ。支援砲撃もありますし」

 「塹壕と保塁が埋められたら突破されるし・・・」

 「穴を掘るのも保塁造成も労力が大きいからな・・・・」

 「・・・ん・・・この保塁は?」

 「斜面の上の方が色合いの幅が広いだろう」

 「遠近感を錯覚させられるか試すらしい」

 「ここを上ろうとしたら、戦車は引っくり返る」

 「ふっ」

 強敵は、味方を一枚岩にする場合と、逆に疑心暗鬼から不信と離反を誘発させる場合がある。

 この時、枢軸国軍は前者。連合国軍は後者だった。

 イタリアは、大西洋のボルドー港への権益ルートとオデッサまでの権益ルートを握る。

 イタリア国民にとって大西洋への道は悲願であり、

 中央アジアへ至る道は念願だった。

 俄然、国民を上げて、やる気を出してしまう。

 ドイツにすれば、利権を奪われて面白くない。

 しかし、ドイツ人が兵器・武器弾薬を生産。

 イタリア・東欧軍に戦わせる体制が少しずつ進む。

 この分担は、兵器・武器弾薬の増産と余剰兵力を確保できる点で優れていた。

 そして、直接、戦場で戦うばかりが戦争ではなく、

 防衛線の造成、構築など人手が戦力に反映されることもあった。

 無論、彼らは信頼できないのだが利害が一致していると期待できた。

 そして、東欧諸国は、ソ連に対する恐怖と西欧への道が開かれ、一枚岩が強まっていく、

 ドイツは利権の独占を失っていく。

   

 

 東部戦線北部

 平坦な場所が多く、起伏は少ない。

 しかし、広陵とした台地など防衛線を構築しやすい場所がある。

 また、湖や河川。森林、湿地など戦術を凝らせる場所もあった。

 独伊・東欧軍は、対戦車壕と保塁など人工的な縦深対戦車陣地を構築していた。

 とはいえ、東部戦線の全域で、それだけの対戦車壕や保塁を造成し、

 防衛線を構築できるだけの時間も余裕もなかった。

 ソ連軍は、損害の大きくなる要衝を攻めず、

 比較的、平坦な平野部で攻勢を試みようとしていた。

 数任せで深縦陣地を押し切って一点突破し、要衝を包囲すれば何とかなると計算する。

 ドイツ軍は、隙間を埋める長距離砲を配置したトーチカと、

 旧式戦車の車体を埋め、砲塔だけ出した即席トーチカーと地雷源を作っていく、

 逆U字の保塁にキングタイガー戦車を配置し、

 迫るT34戦車の大群に備えさせた。

 71口径88mmの砲塔が動き、長射程の砲弾が撃ちだされる。

 と、衝撃が車体を震わせ、

 撃ち出された砲弾がT34戦車の装甲を貫いて破壊する。

 「次だ! 右のやつをやるぞ。砲塔を回せ!」

 巨大な砲塔も電動式で回ると乗員は楽だった。

 「ターゲットに入った!」

 「撃て!」

 T34戦車の砲塔が吹き飛び、車両だけが残される。

 キングタイガー戦車が一定の間隔で配置され、長射程の砲台が要衝になった。

 戦場は、膠着状態に陥る。

 ソビエト軍は、T34戦車の数を揃えて突撃させ、至近距離からの砲撃でキングタイガーを破壊するか、

 爆撃で破壊するか。

 砲弾を使い果たす頃合を見計らって遮二無二突撃するなど選択肢が著しく狭められる。

 T34戦車の53口径85mm砲弾がキングタイガー戦車に命中すると簡単に弾かれる。

 キングタイガー戦車の装甲は、日本が輸送したタングステンとニッケルで強化され、本物の移動要塞と化していた。

 日本は、戦略資源をドイツに供給し、

 ドイツは、工作機械・技術供与を日本にしていた。

 そして、日本軍武官が東部戦線を観戦し、ドイツ軍将校が案内していた。

 「凄い・・・」

 「キングタイガー戦車は、盾。防波堤ですよ」

 「本当に?」

 「ええ、機動力で劣りますからね。あの戦車で戦場を支配できませんから」

 「じゃ・・・」

 「戦車は機動力ですから、後方の4号戦車と5号パンターが矛。主力ですよ」

 「なるほど・・・」

 「西部戦線と東部戦線の振り分けは、どうです?」

 「・・・かなり、困難ですな」

 「最近は、Uボートが護送船団の対潜能力に追い詰められているとか」

 「ええ、仕方がなく、インド・太平洋でも群狼作戦ですよ」

 「日本のお金を使って、ですかね」

 「本体と乗員はドイツ製ですから日本の負担は少ないはず。費用対効果でも割り得ですよ」

 「確かに・・・」

 「高度な同盟戦略というヤツです」

 「助かります」

 「日本の華寇作戦とドイツの群狼作戦で連合軍の物量作戦を分散させれば負けないでしょう」

 「大西洋の護送船団がインド・太平洋に行く、ですか?」

 「ええ、しかし、総合戦で連合国は苦戦する」

 「なるほど」

 「日本では要塞を構築とか?」

 「残念ながら日本は、まともなエンジンを製造する力がないようで・・・」

 「それは残念ですな」

 「しかし、それでも、あのアメリカを追い詰めている」

 「ドイツの支援があれば、さらに追い詰められそうです」

 「費用対効果が良ければ、たとえ地の果ての戦線でも協力しますよ」

 「お互いに、ですな」

 「・・・始まりましたよ」

 100両近いT34戦車の群れが突進する。

 5両のキングタイガー戦車は、先頭から順番に砲撃を加えて撃破していく、

 キングタイガー戦車は、防御力の高い戦車で、

 新型のT34戦車(54.6口径85mm砲)でも至近距離でなければ、撃ち抜く事ができない。

 そのタイガー戦車が逆U字の堡塁の内側に隠れ、砲塔だけを出していた。

 たとえ、T34戦車100両近くで向かっても射的の的であり。

 ソ連軍に絶望感が漂う。

 「キングタイガーは、隠れる必要があるのですか?」

 「いえ、ですが、キングタイガーが隠れていると、ソビエト軍は予備兵力を持っていないと錯覚する」

 「なるほど・・・」

 「そして、こちらの規模が大きいと思われると重砲の火力支援と航空機による空襲を受けます」

 「しかし、こちらの規模が戦車5両だけだと思い込めば・・・突っ込んでくる」

 「いいですな」

 そして、ドイツ戦車隊の反撃が始まる。

 平地で戦車を隠すにはコツがあった。

 対戦車塹壕に隠し、土砂に似せたカバーを被せるなどして偽装する。

 しかし、いくら偽装しても偽物は、偽物でばれやすい。

 そこで、一計を案じる。

 キングタイガー戦車が後退していく、

 風穴の開いた戦線に向けて、

 T34戦車部隊とソビエト軍兵士が一斉に進撃していく、

 ソビエト軍で無線機を持つ戦車は少なく、指揮戦車に付き従うだけだった。

 電撃戦は、火力集中、突破、迂回、包囲を一連の手順で遂行しなければならず、

 時間との戦いだった。

 ゆっくりと見渡せば、わかる偽装も、

 機動戦術は、そういった “ゆっくり” を許さない。

 ソ連軍戦車部隊は戦線を突破し、

 キングタイガー戦車を追撃しながら、遮二無二に突進していく、

 そして、ドイツ軍の作戦が動き出した無線で “Gehen” が繰り返される。

 カモフラージュしていたカバーを吹き飛ばしたドイツ4号戦車部隊の急襲が始まる。

 4号戦車は48口径75mm砲。近距離射撃であれば、T34戦車の装甲を撃ち抜くことができた。

 4号戦車がT34戦車の懐に入り込むとT34戦車を撃破しつつ包囲していく、

 格下の4号戦車でも奇襲攻撃が成功すれば戦況が変わり、キルレートが引っくり返る。

 そして、パンツァーファウスト、パンツァーシュレックを持った機甲龍騎兵がT34戦車群に近付き、

 T34戦車を狙い撃ちし撃破していく、

 ソ連軍戦車は、動揺し、指揮系統が乱れ、混乱する。

 T34戦車部隊は、次々に撃破され、残骸を残すばかり、

 ドイツ軍に包囲されたソ連軍兵士は降伏していく、

 機動戦術、連携戦術は、ドイツ軍戦車部隊が上だった。

 「・・・ふっ 包囲殲滅ですな」

 「素晴らしい」

 「後は、もう一度、キングタイガー戦車で戦線に蓋をし、ソ連軍戦車を西部戦線に運べば・・・」

 「なるほど、砲塔が破壊されていても、T34戦車の車両は使い道があるわけですかな」

 「T34戦車は、車高が低いので、どうしても砲塔に当たりやすいのです」

 「それがT34戦車の有利な部分ですがね」

 「なるほど・・・」

 「獲物が多ければ多いほど東部戦線に配備できるキングタイガーの割り当てが増えますから」

 「・・・・・・」

 「ん・・・どうやら、捕虜の中に日本人がいるようですよ」

 「東部戦線にですか?」

 「東から流れてきたんでしょう。会いますか?」

 目の前に東洋人の捕虜が立つ、

 「日本人ニダ! 日本人ニダ! 日本人ニダ! 日本人ニダ!」

 「日本人ニダ! 日本人ニダ! 日本人ニダ! 日本人ニダ!」

 「はて、どうしたものか・・・」

 「日本人ニダ! 日本人ニダ! 日本人ニダ! 日本人ニダ!」

 「日本人なのでは?」

 「いえ・・・・朝鮮人のようですな」

 「朝鮮人?」

 「まぁ ひねくれた民族ですよ」

 「日本人のようにも見えますが?」

 「ええ、性格が違いますが近い民族ですよ」

 「イヤになるくらいにね・・・」

  

  

 

 「・・・なんで、ポートモレスビーなんか攻略したの?」

 「攻略したいって言う、将校がたくさんいたんだよ」

 「輸送機を861機も捨てて?」

 「いいじゃないか。捨てたって」

 「それで本当に良かったの?」

 「し、しょうがないじゃないか」

 「み、みんなが、そうしたって言うから。しょうがないじゃないか」

  

  

 ポートモレスビー

 アメリカ軍陣地

 日本軍の空挺作戦で飛行場や要衝の中枢が制圧されていた。

 アメリカ軍は、数に任せて反撃を試みようとした時、

 「将軍は?」

 「いまだ、不明です」

 「そうか・・・」

 「・・・大佐、弾薬庫の位置は、わかっています。弾薬庫を攻撃すべきでは?」

 「いや、弾薬庫だけは狙うな」

 「大佐・・・」

 「これは命令だ」

 「理由も聞くな。知らない方が良い。全守備隊に徹底させろ」

 「はっ!」

 無能な下士官は盲目的に従い、

 有能な下士官は悟って、

 中途半端な下士官は反発しそうな命令が出された。

 「た、大佐・・・海を・・・」

 日本の輸送艦が海岸に向かって、突入してくる

 「ばかな。聞いていないぞ。こんなに早く、これるものか」

 「あれは、一等輸送艦です」

 「一等輸送艦?」

 「情報だと22ノットだせるそうです」

 「げっ!」

 海上から闇夜を利用した華寇軍の強襲を受けてしまう。

 「海岸の砲台は?」

 「再占領した砲台は、全て破壊されています」

 「ちっ!」

 「大佐・・」

 「ぅぅ・・・榴弾で良い。海に向けろ!」

 「はっ!」

 海岸の砲台は日本の空挺部隊によって制圧されていたのか、

 まともな反撃もできない。

 地上戦で使う榴弾砲で、海岸を走る輸送艦に砲弾を命中させるのは至難の業だった。

 アメリカ軍は押し寄せる華寇軍の人海戦術によって、さらに混乱していく、

 「ちっ! 華寇軍だ、弾薬庫・・・」

 「いや、違う。食料庫を守れ!!」

 「それと民間人もだ。女子供を避難させろ!」

 アメリカ軍守備隊は、犯罪集団から食料庫と民間人を守るという雑多な任務までさせられてしまう。

 日本軍との戦いは拠点と戦線が自然と構築され前線が作られる。

 しかし、統制のない華寇軍は違った。

 華寇軍はアメリカ軍と戦う目的がなく、己が欲望と利己主義を追求し、前線はなかった。

  

  

 日本軍陣地

 ポートモレスビーの航空基地は防衛しやすい場所に建設されている。

 その規模は、大きく2000m級滑走路4本、

 さらに他3ヶ所に中型飛行場が建設されていた。

 日本軍は、それら飛行場と他の重要拠点も制圧し、弾薬庫や食料庫を押さえ持久戦で戦う。

 弾薬庫。

 「・・・なあ、この色つきの爆弾と砲弾は、なんだ?」

 「なんだろうな」

 「試しに使ってみるか?」

 「ん・・・説明書ぐらい読んだ方が良いんじゃないか。常識的に・・・」

 「んん、英語のわかるやつは、いたかな」

 「ん・・・説明書は、どこにあるんだ?」

 「さぁ〜」

   

 アメリカ軍の野戦食は、日本兵にとって感涙モノの、

 Cレーション(缶詰)と感動モノのDレーション(非常食)に分類される。

 もちろん、基地中枢を占領、食料庫や台所を確保しても、

 のんびりAレーション、Bレーションを作る暇がない、

 しかし、日本人は肉やコーヒーが喜ばれても、

 ご飯の代わりにパンだと辛いらしい、

 日本軍は前線で水田や菜園を作って自給自足を進めていた。

 本土より美味しい食事を食べていた節もある。

 お陰で食い物にうるさくなっていた。

 時折、百式輸送機がパラシュートで米を投下していく、

 「辻大佐。計画通り、一等輸送船10隻も捨てたか。もったいないな」

 「それも、華寇軍に使わせるなんて」

 「1500トン艦10隻に5万人以上を満載ですから・・・」

 「日本軍では、真似できんな」

 「一騎当千の精鋭が本当なら日本兵50人で良いはずですがね」

 「まさか。鼓舞の為の常套文句。数には勝てないよ」

 「たとえ、武器弾薬が少なくても華寇軍は必死だ・・・」

 「華寇軍は、我々、日本軍以上に殺されますからね」

 「やれやれ、アメリカは良いな捕虜の待遇の為、物資を送り込めるからな」

 「日本では真似できませんよ」

 「しかし、新型輸送艦を使うとは・・・」

 「22ノットで突入ですから」

 「アメリカ機動部隊の迎撃も間に合わなかったようです」

 海岸に乗り上げた輸送艦から華寇軍がクモの子を散らすように出てくる。

 武器を持っている者は、少なかった。

 数日、食っていないのか目が血走っている。

 アイヤ〜!!!

 アイゴ〜!!!

 アメリカ軍の機銃掃射が華寇軍に向けられ、海岸線は血の海に染まっていく、

 しかし、数は力。

 あっという間に大半が散り散りになり、死体を乗り越え、

 アメリカ軍陣地に乱入し、混乱させていく、

 「・・・・戦力にならないのでは?」

 「華寇軍は航空基地を守るための陽動ですよ」

 「アメリカ軍の半分は彼らの掃討に回るはず」

 「・・・彼らの死を無駄にしない為にもポートモレスビーを占領するとしよう」

 伝令の兵士が近付いてくる。

 「・・・牟田口中将。オーエンスタンリー側に掘削場を発見したそうです」

 「なに?」

 「アメリカ軍は、オーエンスタンリー山脈を刳り貫いて北側に出ようとした模様です」

 「なんとまぁ 悠長な軍隊だな」

 「それだけ国力があるということでしょう」

 「そりゃ これだけ武器弾薬とB24爆撃機とムスタングを揃えられるのなら戦争も楽しいだろうよ」

 「パイロットと整備士を送るので可能な限り」

 「米軍機をラバウルへ移動させて欲しいようです」

 「ついでに兵士も送って欲しいな。どちらにせよ。防衛線は維持する」

 「はっ!」

 「・・・それと、いい加減、米を食わないと力が出なくなるな」

 「米軍食のアイスクリームとチョコレート。肉は良いのですが米がないのが辛いですな」

 「・・・その穴も掘った方が良いかもしれないな。何人か回すべきだろう」

 「しかし、予断を許さない戦況下では・・・」

 「だが兵士は命を賭けて戦場にいる」

 「上層部は権力争いと利権争いに明け暮れている」

 「現場は、ご飯食くらいないと士気が保てない」

 「はっ!」

 全日本兵が納得するほど切実な理由で貴重な人材が割かれ、穴掘り作業が始まる。

  

  

 そして、夜明け、

 南方の洋上、上空に点々と黒点が現れ、

 次第に大きくなっていく。

 アメリカ艦載機の来襲。

 「・・・・およそ・・・160・・・・200機・・・」

 「んん・・・200機だと・・・空母は、4隻ぐらい・・だろうか」

 「本当に・・・来たよ」

 「対空戦闘用意だ」

 「40mm機関砲の威力を見てみるか」

 「対地戦闘では中途半端な口径だが対空戦だと良さそうだな」

 「日本は、基地攻撃を控えてきたからな」

 「夜襲の空挺作戦でも対空火器は、ほとんど、使われていない」

 「初めて撃つ相手が友軍機ということもあるな」

 「それよりアメリカ守備隊の反撃、どうにも歯切れが良くないような気がする」

 「中枢の陥落で指揮系統が乱れているのでは?」

 「地の利が、こちらにあっても元アメリカ軍基地だから、アメリカ軍なら弱点を良く知っているはず」

 「精彩を欠いていますね」

 「・・・辻。死傷した敵将校の確認は?」

 「佐官以上の氏名を確認させています」

 「敵も、味方も夜襲の混乱で人手も余っていませんし・・・」

 「んん・・・・」

 「広範囲での作戦でしたから、一度、占拠しても奪い返された拠点もありますし・・・」

 「んん・・・・」

 ボフォース40mm機関砲 発射速度120発/分 初速881m/秒 

 有効射程距離4000mの弾幕がアメリカ軍機の編隊へと吸い込まれていく。

 ポートモレスビーは日本軍、アメリカ軍、華寇軍が混在し、大混戦となっていく。

 アメリカ守備隊は、日本軍に向けて支援攻撃を開始。

 敵と味方は、アメリカ製の兵器・武器弾薬を使う。

 華寇軍の乱入で入り乱れているのか、

 いたるところで、十字砲火と曳航弾が飛び交う。

 バシィ〜!!

 「うぁっ!」

 「おっ!」

 機銃掃射が牟田口中将の脇を掠めていく。

 「て、敵か?」

 「いえ、曳航弾の方向だと、味方だと思いますが」

 「もう、わけわからん」

 「まったく」

 アメリカ艦載機は、それらしい陣地に向けて爆弾を投下していく、

 ポートモレスビーの混乱は続いていた。

  

  

  

 

 大連の工場でウメサイとドキアナが製造されていた。

 強力なディーゼルと発電機が装備されていた。

 どうせ車体は埋められ、

 地表に出る砲塔は、さらに装甲が追加増装される。

 さらにコンクリートや、土嚢さえ載せられる。

 ソ連軍のT34戦車の53口径85mm砲も、

 スターリン戦車の43口径122mm砲の直撃も跳ね返せる。

 タダでさえ重装甲で、さらに重くなることを想定し、発電機とモーターは大型だった。

 海軍砲の50口径の140mm砲と127mm砲は、T34戦車も、スターリン戦車も、一撃だった。

 さらにソ連軍の大口径野戦砲30口径以下の152mm砲の直撃も耐える。

 量は質に勝る。

 しかし、一定の限界を超えた質は、量を注ぎ込んでも、いかんともし難い圧力になった。

 「・・・包囲されることを前提に考えると円陣陣地が良いな」

 「機関車も、ぐるりと回して戻すことができるからね」

 「輸送機で食料と武器弾薬を供給するとしても」

 「円陣陣地がいいが問題は、空襲になるな」

 「爆弾が大型になれば、大型になるほど、命中させるのは困難だよ」

 「火砲だと、ウメサイを撃破できるのは、203mm、210mm、305mmの大型野戦砲くらいだね」

 「どちらにせよ。こっちは、50口径だ」

 「地面に埋めて固定している」

 「命中率と射程は勝っている。叩き潰せるよ」

 「問題は、数だな」

 「数か・・・」

 「軍艦なんな造らせるな」

 「こいつをたくさん作れば満州は守れる」

 「日本の生命線は最小限の兵員数で守れる」

 「・・・アメリカ軍がウラジオストックから、B17爆撃機とムスタングで日本本土を爆撃する、という話しもある」

 「本当に?」

 「話しだけだ。日ソ中立条約が維持されるかどうか。まだわからないが・・・」

 「満州も守りだけだと弱いということか」

 「そういうことだ」

 「しかし・・・日本は、ウラジオストックを攻撃できるだけの戦力どころか、武器弾薬さえもないぞ」

 「・・・・・・」

  

  

 呉

 イタリア潜水艦R級4隻が停泊していた。

 1隻が600トンの物資を積載できた。

 そして、ドイツから送られてきたガソリンエンジンが倉庫に並べられている。

 “工作機械を持ってきてくれ” という声もあれば

 “現物を見ないとわからない” という現場の声もある。

 管理運営、技術者、職人、工員などの意見を総合した結果。

 ドイツ製マイバッハHL230P30   水冷V型12気筒ガソリンエンジン700馬力 × 3

 ドイツ製マイバッハHL120TRM 水冷V型12気筒ガソリンエンジン300馬力 × 3

 ドイツ製タトラ103 水冷V型12気筒ディーゼルエンジン 220馬力 × 3

 が、並んでいる。

 難しい表情をした技術者、職人、工員が並ぶ。

 「・・・やはり、複製は、無理だな」

 「それは、工作機械次第だろう」

 「良い工作機械は回せないだろう」

 「いまある、240馬力、400馬力エンジンの改良に回してトラックを作る方がマシ」

 「んん・・・・」

 「・・・どうする? これ」

 「エンジンが、あるんだから、製造しても良いと思うが?」

 「運ぶのが大変だろう」

 「半島で組み立てれば、いいんじゃないか。輸送の手間も省けるし」

 「・・・しょうがないか」

 「どうする?」

 「ブルドーザー、ショベルカー、クレーン車でも造る?」

 「需要に従えば、そうだろうけどね・・・・」

 「パンター戦車モドキと、4号戦車モドキが造りたいよ〜 あと、プーマモドキも」

 「まじ?」

 「大砲は、3式自走砲と同じ、60口径76.2mmだよな」

 「ドイツ空母や潜水艦の大砲を剥がして使っていい、ってよ」

 「補給が面倒だよ」

 「それは、いえる」

 「700馬力だと砲塔戦車も楽勝だね」

 「300馬力だと自走砲にしないと無理だろう」

 「だよな。3式自走砲も240馬力で自走砲だし」

 「ガソリンエンジンは、車体を小型化できるよ」

 「で・・・・本当に戦車にするの?」

 「・・・・・・・・・・・」

 大陸の鉄鉱石、石炭、希少金属を強力なエンジンを持つ掘削機械で露天掘り、

 どれほど戦局を好転させられるか、

 という常識的な発想がある。

 とはいえ、人間は、常識的な発想を拒みやすい性質も持っていた。

  

  

  

  

 “木馬” 陣地

 なぜ木馬かというと空襲の標的用で木馬に似ていただけ、

 地下空洞を掘り出した土砂を木枠の中に入れて周りをコンクリートで固める。

 中に通路を作るだけで基本的に標的用だった。

 ソ連空軍の大型爆弾を “木馬” に使わせれば良いだけの構造物、

 それでも最上階は、見晴らしが良く、砲弾観測の設備が置かれる。

 広陵とした台地を埋めるほど漢民族がいる。

 基本的に人海戦術だが衣食住を確保する為、建物も設営されトラックも少なくない。

 大型建設機械が凍土を崩していくと、あとは人の波が土砂を動かしていく、

 中国人の指揮で中国人が働かされ、要塞が建設されていく、

 地表で働いている者もいれば、地下で働いている者もいる。

 地下で働いている者は、方角が、わからないように掘り進めさせている。

 というより、全方位で掘らせているので、これといって弱点もない。

 さらに、この方向に掘っていると適当に言っても当たる。

 これほど大規模にやってしまうと口止めする気にもならないほどで、

 後方との補給線の地下道は、最重要で機材も多く、

 24時間体制で、もっとも堀進んでいる。

 「・・・・・」

 在日ドイツ武官が絶句するほど・・・

 「あれが新型車両か・・・」

 日本は、ディーゼルエンジン240馬力を量産し、大型土木建設機械の開発・量産していた。

 土木建設機械の何が凄いか、というと、1台で300人分から600人分の働きをする。

 衣食住を考えずに済み、費用対効果が優れている。

 しかし、試しに戦車も、ということで試作の400馬力エンジンで、4式戦車3両を製造していた。

 「30トンで、60口径76.2mm砲塔を、ようやくか」

 「そういえば、1式戦車、3式戦車、4式戦車も、開発段階で、中止になったとか」

 「結局、3式自走砲と、ウメサイで戦うことになりそうだな」

 「試作の4式戦車は悪くないですよ」

 「30t。400馬力。時速45km。60口径76.2mm砲」

 「砲塔を旋回させる事ができても相手がT34戦車だと分が悪いよ」

 「大砲はともかく、その分、装甲が薄いですからね」

 「それでも、車高を低くして可能な限り装甲の厚みを保っているよ」

 「一時は、4式戦車の開発生産だったのですが・・・」

 「半島に日本人が増えて戦車も欲しい、という声が強くなっただけだろう」

 「南京中国政府も戦車と交換なら本当に国民を磨り潰してしまうから。労力は不足しないよ」

 「しかし、肝心の工業力が伴っていなければ量産は無理だな」

 「いまの日本は、ブルドーザーの需要が強いですから大陸の開発でも重要ですし」

 「金の亡者どもが・・・」

 「兵士の命を危うくして、漢民族を人海戦術で苦役ですから・・・」

 「どうやって中国人が長城を建設したか良くわかるよ。酷いことしやがる」

 「日本人が恨まれる必要はないよ。人使いは同族に任せるべきでしょうね」

 「しかし、これだけやっても武器弾薬の生産に繋がらないとは」

 「設備投資に金をかけ過ぎているのかもしれません」

 「3式自走砲は17tで、60口径76.2mm砲装備で、数を揃えられるから我慢できるよ」

 「ソビエト軍が塹壕を埋める場所に射線を合わせとけば良いだけだし」

 「射線さえ合わせられるなら、T34戦車も撃ち抜ける」

 「そういう使い方しか、できないな」

 「やはり、ウメサイと3式自走砲に生産を集中べきでしょうか」

 「火力集中だと砲塔を持つ戦車がいいがね」

 「諸事の事情で、ウメサイと3式自走砲で戦うしかなさそうだ」

 「とりあえず、試作の4式戦車は3両だけですが、全部、ここに配備するそうです」

 「相手がソビエト軍だと、あまり使い道がないな。ソビエト軍が疲弊するまで隠すしかない」

 「地上戦より地下戦主体で戦いたいですね」

 「百式短機関銃とソ連のPPSh1941機関銃だと負けそうだな」

 「それでも地上で戦うより良いかもしれません」

 「まったくだ・・・・・・天候が良くなったな」

 「ええ、陣地構築も進むでしょう。400馬力のブルドーザーは良いようです」

 「そりゃ 自走砲より大きいエンジンで土木建設機械だ。当然だろうな」

 「採掘現場でも戦線でも引っ張りだこですからね」

 「T34戦車が何万両と来ても対戦車塹壕を埋めない限り渡れんからな」

 「埋めようとしても、こっちのウメサイの射程が勝っているので射的の的ですからね」

 「円陣要塞は伊達じゃないか」

 「あとは、対岸を高く。塹壕は、より深く、より幅が広ければいい」

 「問題は、B17爆撃機とムスタングがウラジオストックに配備されている可能性でしょうか」

 「情報が本当なら日本本土爆撃も、あるかもしれないが・・・」

 「相手がムスタングとB17だとしたら日本に勝ち目は、ありませんよ」

 「だが、ソビエトは本気だろうか?」

 「ムスタングとB17爆撃機は東部戦線で使いたいと考えるだろう」

 「ええ・・・」

 「ソビエトが大国でも敵を増やしたくないよな」

 「ええ、敵を増やせる日本が異常なんでしょうね」

 「「「・・・・・」」」

 「後方との地下道は可能な限り深く」

 「可能な限り遠くまで引っ張るんだ。要塞の生命線だからな」

 「ええ、わかっています」

 「ソビエトのスパイが、こちらの情報をどの程度、掴んでいるのか気になるところだ」

 「それらしい空間が中にあると思えば、この木馬を爆撃してきますよ」

 「目立ちますし大きいですし」

 「とにかく、人海戦術で要塞を大きく数を増やしていこう」

 「防備が万全なら何とかなるだろう」

 「武器弾薬があれば、ですがね」

 「穴掘り器具ばかりだからな・・・・」

 「大本営は、なに考えているんですかね」

 「武器を作ると穴掘り器具が作れず」

 「穴掘り器具を作ると武器が作れず、なのではないか」

 「かと思えば、97式爆撃機と96式陸攻を合わせて、861機もポートモレスビーに捨てたそうですよ」

 「くぅ〜 あんな、僻地を占領して、どうするつもりだ。馬鹿どもが!」

 「こっちに寄越せば良いのに・・・」

 「その気になれば一日もかからず、武器弾薬をこの要塞に運び込めるんですよ」

 「1機、1tで計算すると、武器弾薬860トンか、使い応えが、ありそうだ」

 「こちらには、一式陸攻と呑龍を使う気なのでは?」

 「飛龍も、その気になれば、武器弾薬で使えるはずです」

 「100式輸送機とゼロ式輸送機も使える。爆撃するより効果的だろうよ」

 「そういえば、半島に工廠を作っていましたね」

 「半島は大陸の橋頭堡だ。武器弾薬を鉄道で運べるなら悪くない」

 「ですが発電所と製鉄所。設備投資ばかりだそうですよ」

 「ふん、武器弾薬もまともに作れず。国防もままならないとは・・・・・・」

 「本末転倒では?」

 「いや、逆だろう」

 「日本の国力は低過ぎた。弱いくせに見境無く噛み付き過ぎた」

    

  

 風船爆弾が昇っていく、

 華寇軍がパラシュートにつるされている場合もあれば、パラシュートだけの場合もあった。

 戦果は、ともかく華寇作戦と風船爆弾は、アメリカ合衆国国民に恐怖を与える。

 殺人事件は、戦争中でも起きる。

 アメリカ合衆国だと100000人に対し5.8人。

 1億5000万人の人口だと、年間8700件の殺人事件が起きていた。

 そして、風船爆弾と華寇作戦で、殺人事件が起きたと思わせる犯罪も起きる。

 日本側は、パラシュートと一緒に刃物を落とすだけ、

 犯罪計画を練っている人間がたまたま、それを拾うと、実行する。

 あと、犯人が、その刃物を現場に置き、華寇の仕業にしてしまえば無事、

 アメリカ社会は、華寇が侵入したと思ってしまい、

 日本軍と、アメリカ人犯罪者の利害が一致してしまう。

 「気球でアメリカまで飛んできたなんて、ありえないぞ」

 「普通、凍死するだろう」 警察官

 「そんなのわかるものか。おじさんは華寇に殺されたんだ」 犯人

 「んん・・・」

 「証拠のパラシュートも落ちていたじゃないか。この刃物も中国製だ」 犯人

 「んん・・・」

 「くっそぉ〜 華寇軍め・・・」

 「許せないぞ。良くも大好きな、おじさんを殺しやがったな」 犯人

 「んん・・・」

 「軍に入隊して華寇をやっつけたいけど・・・」

 「おじさんの財産も守らないと・・・」 犯人

 「んん・・・」

 ・・・・迷宮入り・・・・

  

  

 

中華民国

漢民族 5億
朝鮮民族 2000万
チワン族 800万
ウィグル族 200万
モンゴル族 200万
チベット族 200万
その他48族 1000万
   

 崇明島の庁舎

 「満州への移民が増えているようだが、中国の人口比率で漢民族は圧倒的に多い」

 「大陸鉄道や揚子江経済圏を最小限の負担で維持存続させようと思えば」

 「少数民族の利権を優先すべきだが」

 「漢民族の反発は?」

 「東南アジアと豪州の利権で、緩和されている」

 「望まない形だね」

 「無論、望んでいないよ」

 「しかし、それは全ての民族で言えることだと思うよ」

 「少なくとも日中同盟で中国の戦意が高いのは助かると思うよ」

 「親日も多いような気もする」

 「そりゃ 華寇作戦で主役だからね」

 「中国と米英が憎み合えば漢民族は親日に転がる」

 「利害さえ一致すれば日中同盟も結束しやすいよ。確信犯だったからね」

 「利害か・・・」

 「大陸権益と揚子江権益は確実に確保したい」

 「日本語のわかる朝鮮民族が要になるとして、他の少数部族も保護すべきだろうね」

 「それと東南アジア居留民の保護を確保すれば自動的に人口が増える」

 「東オーストラリア側には、鉄道を?」

 「予算がな・・・」

 「大陸鉄道は、輸送コストの関係で良いとは言えないよ」

 「釜山まで来るまで目減りする」

 「しかし、潜水艦による撃沈はないし、護衛艦も不要」

 「もっとも装甲列車は必要になるがね」

 「だが、大陸鉄道で物流が大きくなっていくと消費も増えて需要も増える」

 「当然、工業力のある日本の利益は莫大」

 「やはり、崇明島が大陸の中枢になるべきだろうな」

 「少し小さいがね」

 「東シナ海側に埋め立てていけば良いよ」

 「とりあえず、製鉄所の増築で、ここで大陸の消費をまかなえるようにすれば大きいだろう」

 「戦争は?」

 「日本の大陸権益を守ることが戦争だよ」

 「余裕ができれば、機関車、日用品以外の物を生産しても良いがね」

 「不利なんじゃないか? 戦局」

 「だが、この日中同盟はアメリカ資本が、もっとも恐れている状況だよ」

 「そして、アメリカ政府が妨害してきたことだ」

 「日中同盟を?」

 「日中同盟は日本が大陸権益を得る妥協の産物だけどね」

 「国民の富裕層が増えれば余裕ができるし」

 「研究と開発は、試行錯誤が多いから。余裕のある国しかできないからね」

 「日本民族に余裕ができれば先端技術で先進国の仲間入り?」

 「大陸の利権は十分なカンフル剤になるよ」

 「鉄鉱石と石炭、希少金属が豊富で消費も巨大。冶金技術も向上する」

 「問題は長い目で見ないとだろう。戦争は待ってくれないよ」

 「だからって、ジリ貧はな」

 「経済は回りくどいよ」

 「軍人に任せると強盗しか思いつかない。いい加減、滅入るよ」

 「精神衛生上良くないね。居直り強盗は」

 「そうそう。まっとうに生きるのが良いよ」

 「ところでポートモレスビー攻略は本当に良かったのか?」

 「ポートモレスビーの中枢は押さえたよ」

 「アメリカ機動部隊は近付いているようだがね」

 「アメリカ機動部隊が対地攻撃で消耗してくれるのなら嬉しいね」

 「ポートモレスビー攻撃が意味ある攻撃なら、かまわないがね」

 「意味はあるよ」

 「大陸利権に邪魔な日本国内の精神論者を根こそぎできた」

 「武器で国を守れても、国民は養えないからね」

 「少なくとも道理のわからないバカは消えてもらうべきだよ」

 「ふ 拝金主義も子供に寝首をかかれない程度で程々にな」

 「拝金主義だけでなく、権力闘争でも起こりうるよ。珍しいが昔から行われてきたことだ」

 「だからといって増やすこともなかろう」

 「物理的に豊かになったら、日本の犯罪も少しは減るよ」

 「だと、いいがね」

 「ポートモレスビーは焦点になりそうかい?」

 「1942年の中旬から最重要な戦略拠点でアメリカが戦略物資を送ってきただけはあるようだ」

 「“弾薬庫の上に居る” というのは、どこまで本当かな」

 「たかだか1万に満たない兵力で20万のアメリカ軍の攻撃を防いでいる」

 「本当なんじゃないか」

 「戦況は?」

 「さぁ 中枢部を押さえて華寇軍5万も上陸したらしい」

 「アメリカ機動部隊が爆撃しているようだが」

 「まともな訓練もなければ組織編制もないのだから華寇軍じゃなくて華寇賊だろう」

 「それいうと士気が落ちるから・・・」

 「アメリカ機動部隊が疲弊した頃を見計らって日本機動部隊が出撃するのか?」

 「さぁ〜 別の場所に華寇作戦を展開するか」

 「それとも疲労したアメリカ機動部隊を直接叩くか、だろうな」

  

  

   

 ポートモレスビー沖

 アメリカ機動部隊

 第1任務部隊

 (バンカー・ヒル、タイコンデロガ、プリンストン、ラングレーU)

   アイオワ、ニュージャージー、重巡2隻、軽巡3隻、駆逐艦12隻

   

 第2任務部隊

 (ホーネットU、フランクリン、カボット、バターン)

   ミズーリ、ウィスコンシン。重巡2隻、軽巡3隻、駆逐艦12隻  

   

 タイコンデロガ

 タイコンデロガ 艦橋

 「・・・提督。ラールトン隊、出撃しました」

 「日本機動部隊に動きは?」

 「まだです」

 「輸送部隊との合流は?」

 「午後4時の予定です」

 「輸送部隊と合流次第。交替で補給する」

 「はっ 途中、Uボートの群狼作戦で被害を受けているようです」

 「ちっ! 太平洋にまでUボートが出てきやがって、ろくなことをしない」

 「日本機動部隊が来ると厄介です」

 「日本機動部隊に備えねばならん。補給は怠るな」

 「連合国沿岸の哨戒だけでなく、輸送船団に対する護衛もですから・・・穴も多いようです」

 「物量にも限界があるか」

 「はい」

 「くっそぉ〜 日本機動部隊め、来るなら早く来い」

 「ポートモレスビー攻略部隊を見捨てる気か」

 「華寇軍の例もあります。非人道的な軍隊なのでは?」

 「うぬぅぅぅぅうう〜 同族まで見殺しにするとは何たる人でなし民族だ」

 「もう、遺族年金の引当金が決まっているのでは?」

 「後進国が!」

 「もう、人科だけじゃなく。霊長目からも外しましょう」

 「当たりまえだ。あんのトロールどもめ、皆殺し根絶やしにしてやる」

 「提督。ポートモレスビーの守備隊から誤爆と誤射が多いと苦情が来ています」

 「紛らわしい・・・」

 「我が軍の通信機を使って、デタラメな英語で、話している者がいるようです」

 「将軍は、どうした! まだ連絡が付かないのか?」

 「それが中枢部と戦略拠点が押さえられていますし」

 「守備隊は分断されたまま統制が取れていないようです」

 「まさか、戦死という事はないだろうな」

 「日本の無線は傍受しています。それらしい節はありません」

 「東京ローズは?」

 「いえ、挑発するような話題だけで、なにも・・・」

 「んん・・・死んでくれているのなら、それはそれで嬉しいが・・・」

 「将軍を救出すれば、地位も昇給も確実ですからね」

 「まぁな」

 「どちらにせよ。将軍に何か、あれば、日本で新聞や号外になるはず・・・」

 「・・・爆撃と機銃掃射は、慎重にな」

 「ですが、日本軍は、ボフォース40mm機関砲で迎撃しているので被害も多いようです」

 「・・・・・・」

 「それに捕獲されたムスタングが迎撃に上がり」

 「守備隊は捕獲された機体に銃撃されて混乱しているようです」

 「・・・日本軍め、卑劣な・・・」

 「・・・提督。大統領から電文です」

 「なんだ?」

 電文が手渡される。

 「・・・ラールトン隊に弾薬庫爆撃を中止させろ!」

 「はい?」

 「全軍に通達。ポートモレスビーの弾薬庫への爆撃を中止する」

 「弾薬庫への攻撃は禁止だ」

 「提督・・・」

 「バカが・・・」

  

  

 トラック

 第三機動部隊

 空母 伊勢、日向、扶桑、山城

 重巡 妙高、那智、足柄、羽黒

 軽巡 矢矧

 駆逐艦 (春月、宵月、花月)

 駆逐艦 (清波、玉波、涼波、藤波) (朝霜、早霜、秋霜、清霜)

 駆逐艦 (磯波、浦波、敷波、綾波) (天霧、朝霧、夕霧、白雲)

 

 空母 伊勢 艦橋

 隼V型が洋上を逆風に向かって低速・低空でヨロヨロと飛ぶ、

 揚力と推力など航空力学の知識が必要であり、

 翼面荷重、馬力荷重、機体の空力特性など、慣れていなければ、わからない。

 航空機を低速・低空に飛ばすには機体を気流に乗せるコツと慣れが必要だった。

 そして、高速機だと重量に対する翼面積は小さく着艦も困難になりやすい。

 飛行甲板に向かって突入してくる隼V型は、あまりにも酷い。

 「・・・なんという、ヘボだ。胃痙攣を起こしそうになるわ」

 「もっと脚の予備が必要かもしれませんね」

 「穀潰しどもが・・・」

 「技量は、ともかく。現在、パイロット要員は3割というところです」

 「まともな艦載機パイロットがいない機動部隊・・・・なんと無様な・・・」

 「ポートモレスビー作戦にパイロットを持っていかれましたから・・・」

 「貧乏国が戦争するからだ」

 「これでは戦艦のままの方が良かったかもしれませんね」

 「んん・・・」

 「一応、艦載機だけは積載されているので、あとは、パイロット待ちだけ、なんですけどね」

 「機体ごとにクセが違うのにか?」

 「離着艦を舐めているぞ」

 「機体があれば機動部隊として動けると、アメリカ軍を勘違いさせられるのでは・・・」

 「気休めだ。タダでさえ、不足している空母艦載機要員を地上配備してどうする?」

 「ポートモレスビーの空挺作戦機861機」

 「そして、その支援作戦機300機ですから・・・・」

 「もう、教官の割り振りも利かない」

 「ド素人ばっかりだ。練習機で離着艦訓練をさせたくなるな」

 「たしかに・・・」

 「ベテランを持っていきやがって・・・」

 「ラバウル航空部隊も米軍機に乗って喜んでいるようですが」

 「けっ! 舶来物に現を抜かしおって」

 「隼V型と海燕からムスタングとサンダーボルトですからね」

 「それに輸送機からB24爆撃機だと乗り応えがあるかと」

 「実戦部隊も、運び屋もか・・・」

 「あっ そうだ」

 「ん・・・」

 「パイロットと整備士を引き抜きたいと大本営から士官が来るそうだ」

 「またか!」

 「人の苦労を頭だけで右から左へと・・・」

 「睡眠薬・・・あったよな」

 

 

 トラック環礁

 B24爆撃機が駐機していた。

 敵国の大型爆撃機を操縦できるパイロットは、捕獲した大型爆撃機に試乗した者、

 そして、ベテランに限られた。

 「B24爆撃機か・・・」

 「あんな、デカ物が艦橋に突入してきたら大和が制御不能にるのも頷ける」

 「米軍機は、性能が良いのですが運用で大変だそうです」

 「治具も、消耗品も、日本では維持できないだろうな」

 「ポートモレスビーが宝の山になるのでは?」

 「それとも、国力を消耗するだけの要塞になるか・・・」

 「それは、機動部隊が艦載機パイロットを養成できるかによるよ」

 「それは、なさそうだ」

  

  

 ○○君。万歳! 万歳! 万歳! 万歳! 万歳! 万歳!!

 学徒動員で出陣する新兵が送迎されていく、

 兵士という名目だが学徒労働者で大陸運営が主な仕事。

 鉄道職員だったり、揚子江の船乗りだったり、採掘現場だったり。

 機関車が走り始める。

 「おじいちゃん。お兄ちゃんが行っちゃった」

 「行って、しもうたな」

 「おじいちゃん。人は、どうして戦うのかな」

 「そうじゃの・・・」

 「ミヨちゃんのお父さんが死んじゃったんだって・・・」

 「そうじゃの・・・」

 「戦争なんて、しなければ、ミヨちゃんのお父さん、死なずに済んだのに・・・」

 「人はな。人それぞれ、違うんじゃ 人の中で生きていくのは大変でな」

 「だから戦争になるの?」

 「おまえは、将来どうするかな。いまの社会に組み込まれていくか」

 「兵隊さんになるのかな」

 「どうかな。だが兵隊が、いやな者もいる」

 「でも赤紙が来たら・・・」

 「赤紙が来れば行かねばならん」

 「・・・うん・・」

 「しかし、戦争が、いやな者は、戦いをやめたいと思うじゃろうな。思うのは自由じゃ」

 「やめたいよ。死ぬのは、いやだもの」

 「戦争が終わっても人は、その社会で生きていくことになる」

 「大変なの?」

 「どんな社会でも、自分を社会に合わせようとする者が出てくる」

 「うん」

 「どんな社会でも、自分に社会を合わせようとする者が出てくる」

 「そんなことができるの?」

 「その社会に自分を合わせられず、自分にとって望まない社会であれば、そういう者も出よう」

 「自分の思い通りにしたいんだ」

 「大なり、小なり、誰でも、そうだ」

 「偉い人も・・・」

 「踏み躙られる者が増えると非合法でも自分を守るため」

 「騙したり、盗んだり、他人を犠牲にする者も出てくる」

 「悪い人?」

 「さぁ 嘘をつかない人間にあったことはないが・・・恨めしいのう」

 「うん・・・・」

 「そして、不正と腐敗が増え、それが大きくなっていくと人々の不平不満が大きくなっていく」

 「世の中が、いやになるんだ」

 「上の者が社会を変えられないのであれば下の者が社会を変えようとするだろう」

 「できるの?」

 「どちらも、それが、できなくなれば国の運営ができなくなって国が壊れてしまう」

 「困るよ」

 「だから、自暴自棄になりやすい」

 「自分たちの失敗を誤魔化す為、身を守るため外に敵を作り、他の国の利権を餌に戦争する」

 「うん」

 「それでバラバラになりそうな国を保って、不満を持つ者に死んでもらうんじゃ」

 「でも不満を持っている者が死ぬとは限らないよ」

 「内戦より良いんじゃ 戦争に負けると我慢できなかった者まで我慢するようになる」

 「うん」

 「それに人が減れば、人と人との関係で恨めしいことも減る」

 「うん。朝鮮人の人が “恨” って、言ってたよ」

 「そうじゃ 日本人の “恨めしや〜” じゃ」

 「どちらにしろ自分の気持ちを自分で抑えられなくなる」

 「うん」

 「占領すると土地と物が増えるんじゃ 富農が増えれば収まるんじゃ」

 「ミヨちゃんも半島に土地があるから、そっちに行くかもしれないって」

 「そうか・・・寂しくなるの・・・」

 「うん。でも戦争に負けたら?」

 「土地は減るが不満分子も減るじゃろうな」

 「・・・・うん」

 「このことは黙っておくんじゃぞ」

 「どうして?」

 「後ろめたい時は、権威を貶められるのが、いやな者が多いんじゃ」

 「うん」

  

  

 


 月夜裏 野々香です。

 “行方知れずの某将軍”

 “色つきの爆弾と砲弾”

 多分、ご推察の通りかもです。

 損失の多い基地攻撃を控えてきたのが混戦の切っ掛けになったかもです。

  

  

 日中同盟は、庶民を磨り潰しながら近代化を目指します。

   

     

 

 

 

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第34話 1945/03 『華寇軍は、愛の戦士ある♪』
第35話 1945/04 『恨めしや〜』
第36話 1945/05 『貧者の知恵』