月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

第36話 1945/05 『貧者の知恵』

 東部戦線

 攻勢の主導権を握っているのは、シュトルモビク爆撃機とT34戦車だった。

 どちらも性能がよく、何より数で独伊・東欧軍を圧倒できた。

 そして、ソビエト軍は世界最強の切り札というべき、督戦隊と囚人部隊を投入する。

 砲声と銃声と爆音は絶えることなく轟き、

 運の悪い将兵は一生、消えることのない傷を負うか。

 二度と戻ることのない肢体と別れるか、

 命を失う戦場になっていた。

 

 ドイツ師団司令部

 砲弾が風を切る音が迫り、爆発が起こる、

 爆発に巻き込まれた運の悪い一等兵一人が破片で左肩に傷を負い、

 若い二等兵が左手首を失って呻き、

 40代の軍曹は、地に伏したまま、二度と起き上がる事がなかった。

 そしていつものように救護班が駆け寄って、負傷者の手当てを行い・・・

 指揮所のドイツ軍将校たち

 「空軍はなにをしてるんだ」

 「きっと、西部戦線上空と本土防空だよ」

 「戦線を後退させろよ」

 「後退させると資源が足りなくなる」

 「それさぁ 後退した場合の損失比と計算して正しい選択なわけ?」

 「さぁ でも資源を失うと、ジリ貧だし・・・・」

 「あ・・・」

 シュトルモビクが爆弾の雨を投下、

 独伊・東欧軍の陣地が爆炎に包まれていく、

 ソビエト軍は、イタリア軍と東欧軍を蹂躙し、一時的に戦線を突破していく、

 しかし、ソビエト軍も対戦車縦深陣地で疲弊し、

 ドイツ機甲師団の機動防御戦術に押し戻される戦況が何度も繰り返された。

 

 ソ連空軍が後方のドイツ機甲師団を爆撃すると、

 ソ連地上部隊はイタリア・東欧軍の縦深対戦車陣地を突破できず。

 ソ連空軍が縦深対戦車陣地を爆撃すれば、ソビエト地上軍は縦深対戦車陣地を蹂躙できるが

 ドイツ機甲師団の反撃で大損害を受けた。

 後退戦術は、戦域と交換に敵軍に出血を強いることから、敵戦力が大きい戦場で使われやすかった。

 ドイツ軍が、これを繰り返せば戦域を失う代償に、ソビエト軍将兵を消耗させることができた。

 ソビエト軍は攻勢力どころか、戦線を防衛する戦力さえ失い、

 ドイツ軍は大規模な反撃も可能になる。

 もっとも、そう都合良く行かないのが戦争で、

 敵も、味方も勝つために死力を尽くし可能な限り戦果を上げようとする。

 得た戦場の価値が失った戦力を上回れば戦場を取った方が勝ちであり、、

 その損益分岐点は国力比でも左右された。

  

   

 ドイツ苦戦は、西部戦線も同じだった。

 ドイツ空軍は大都市だけでなく、フランスにもMe262戦闘機を配備していた。

 理由は、ベルリンに向かう戦闘機は燃料を満載し、

 途上であれば、増漕タンクを捨てても速度と機動力が緩慢だった。

 そして、フランス上空で空中戦になれば、増漕タンクを捨てさせることができ、

 弾薬と燃料を消費した戦闘機は後退するか。

 前進したとしても、ベルリン上空で積極的な機動で戦闘ができなくなっていた。

 もちろん、被弾すれば大したことが無くても後退することもあった。

 もう一つ、西部戦線にシューティングスターが配備されたことも影響する。

 ジェット戦闘機は都市・要衝の防空が主任務で侵攻作戦に使われず。

 シューティングスターとMe262が空中戦をまみえるとしたら、

 アメリカ軍が戦線を突破する大規模攻勢で起きる制空戦だった。

 シューティングスターとMe262が成層圏の覇を争う。

 シューティングスターは速度や総合力でMe262に勝る。

 しかし、後退翼を持つMe262戦闘機は機動性に勝り、

 シューティングスターは翻弄される。

 「アイリス。見て凄く速い」

 「でも小回りが利かないみたいね。マイ。後ろを取るわよ」

 アイリスが、後方に回りこもうとするシューティングスターに気付く、

 「ええ・・・」

 アイリスとマイは、ジェット戦闘機での航空戦技術を習得したのか、捻り込みを繰り返し、

 シューティングスターを撃墜してしまう。

 

 航空戦術の基本は、ファーストルック・ファーストキル(先制発見・撃墜)能力だった。

 とはいえ、ジェット機とプロペラ機は性能が隔絶していた。

 プロペラ機がジェット機を撃墜できるとしたら性能以上の運が必要だった。

 ジェット戦闘機を撃墜できるポテンシャルを有するのは、ジェット戦闘機であり、

 シューティングスターは、Me262をターゲットスコープに追い込むだけの推力を有していた。

 戦線上空の覇者だったMe262戦闘機のアドバンテージが失われていく、

 Me262はムスタングをカモにする以前にシューティングスターを発見し撃墜しなければならなくなる。

 それは、ドイツ空軍が恐れる消耗戦も意味した。

 ジェット戦闘機は、エンジンの信頼性も含め航続力が短く、

 Me262戦闘機を戦線上空から後退させれば、

 戦場の空を支配するのは連合国空軍になった。

 そして、防衛線を守る独伊同盟地上軍は著しく不利になった。

  

  

 西部戦線

 アメリカ・イギリス空軍とドイツ空軍は同じ質的レベルの航空技術と工業力を有していた。

 航空戦は相殺戦になりやすく、空襲の効果は容易に得られない、

 ドイツ・イタリア軍の縦深対戦車陣地は頑強で、

 重戦車1両に対し、5倍以上の戦車を揃えなければ攻撃は控えられた。

 米英軍は物量に任せても簡単に進撃できず、

 対戦車塹壕を埋めるため出血を強いられる。

 「火力支援を集中させろ! 対戦車塹壕を早く埋めろ!」

 進撃で役に立つのは、ブルドーザーだった。

 援護のM4戦車を前進させ、

 155mm重砲部隊は、砲弾の雨をドイツ軍陣地に降らせた。

 ドイツ軍も地の利を利用し塹壕に引き篭もって退かず。

 T34戦車の砲撃でM4戦車が破壊されていく、

 捕獲したT34戦車でも相手がM4シャーマンなら西部戦線を維持できた。

 M4戦車の撃った砲弾はT34戦車を破壊できない、

 「ふ M4戦車なんて、ちょろい戦車だな」

 「・・・ん・・・なんだ・・・あれ・・・」

 50口径90mm砲弾の直撃を受けたT34戦車が吹き飛び、破壊される。

 M26パーシング戦車の数が増えていくにつれ

 アメリカ軍は西部戦線の戦場を支配していく。

 丘の上で戦況を見ていたドイツ軍将校たちは青ざめる。

 「M26戦車は、50口径90mm砲だそうだ」

 「中戦車じゃ駄目だ」

 「タイガーを持ってくるしかないな」

 「キングタイガーは、71口径88mm砲だから負けてはいないが・・・」

 「負けてはいないが数が少ない」

 「それに東部戦線のスターリン戦車は、タイガー戦車より確実に多いそうだ」

 「東部戦線は厳しいらしいからな」

 「だが、このままだと対戦車塹壕が埋められ防衛線が崩壊してしまう」

 「Uボートをインド・太平洋に送るからだ」

 「だよなぁ いくらニッケル・タングステンが欲しくても限度があるよ」

 「タングステンの弾芯が使えれば、口径が小さくても戦車を撃破できる」

 「器を小さくできるのは悪くないよ」

 「ぅぅ・・・太平洋は余裕があるんだから、こっちにもっと資源を回せば良いんだ」

 「アメリカ軍は、本当に太平洋へ物資と戦力を送っているのか?」

 「送っているんじゃないか」

 「大西洋から護送船団を引き抜いてインドや太平洋に・・・」

 「結果的に大西洋への輸送船団の数が減るのか」

 「・・・統計上はそうなる」

 「そういうのは、数学者の考えていることだよ。気持ちで納得できないだろう」

 「確かにそう思いたくなるだけの物量だな」

 「あれだけの戦力を大西洋から持ってこれるものなのか・・・・・」

 「それだけ生産力が、あるということでは?」

 「とにかく、西部戦線にもタイガーは必要だよ・・・」

 鉤十字の印を付けたT34戦車が90mm砲弾の直撃を受けると吹き飛んだ。

 「「「「・・・・・」」」」

 「パンター戦車もね」

 

 

 インド航路とアメリカ大陸航路。

 二つの航路支配はイギリスが大国である証しだった。

 イギリスにとって、どっちの航路が重要か、

 客観的に判断するならアメリカ北大西洋航路が上だとわかる。

 しかし、イギリスにとってインドは国家財政上重要であり、

 戦後の国家財政再建のための踏み台だった。

 そして、イギリス本土とインドの長大な航路を張る日独伊潜水艦の通商破壊を突破し、

 イギリス本土に輸送させなければならない戦略物資がインドにあった。

 それは、イギリス国民の戦意を支え、

 イギリス軍将兵を戦線に踏みとどませる礎でもあった。

 

 

VIIC型

排水量(t)

(水上/水中)

全長×全幅

(m)

吃水(m)

馬力(hp)

最大速力(kt)

航続力(kt)

最大潜航深度

魚雷

乗員

769 / 871

67.1×6.2

4.74

3200 / 750

17.7 / 7.6

8500 / 10

80 / 4

220

5 × 14本

44〜52

 

XXI型

1621 / 1819

76.7×8.0

6.32

4000 / 4400

15.6 / 17.2

15500 / 10

340 / 5

280

6 × 23本

57〜60

XVIII型

1485 / 1654

71.5×8.0

6.36

4400 / 396

18.5 / 7.0

24

3000 / 17

45 / 4

202 / 24

280

6 × 23本

50

 通常型     VIIC型 570隻

 その他        残り

 航洋型     IX型   200隻

 海中戦型   XXI型 120隻

 ヴァルター型 XVIII型 2隻

 XXI型潜水艦は、それまでの主力潜水艦VIIC型・IX型の4〜5倍も海中で動くことができた。

 “隠れ潜む” のほか “逃げ回る” 選択肢は、攻撃と逃亡の機会を増やし、潜水艦の生存性を高めた。

 ドイツ海軍は、さらに24ノットの高速で海中を潜航できる潜水艦を開発し、水上艦に対する反撃を容易にした。

 もちろん、スペック上のパラメーターの数値が変わっても

 潜水艦が数で勝負なのは変わらない、

 そして、ドイツ海軍の主力潜水艦は、いまだVIIC型・IX型でり、

 XXI型潜水艦は、これからの主力潜水艦だった。

 そして、開発したばかりのヴァルター機関搭載のXVIII型潜水艦U796、U797は、

 性能が安定しておらず、実験艦でしかなかった。

  

 

 ドイツ参謀本部

 「潜水艦より、キングタイガーか、パンター戦車を量産すべきだろう」

 「しかし、XXI型はノルマンディーに上陸された後ても有用だよ」

 「それにUボートは、大西洋のみならず、インド・太平洋全域で作戦している」

 「日本の伊号の華寇作戦と連携すれば連合国軍の戦力を分散ができる」

 「正面戦力より、陣地構築に土木建設機械が必要だよ」

 「いや、航空戦で負ける損失も大きい」

 「航空機生産は、Me262とTa152に集中すべきでは?」

 「Me262もキングタイガーも日本から送ってくるニッケル次第ではないのかね」

 ドイツ軍将校は限られた予算と資材の配分で苦悩する。

 

 

 ヴァルター機関装備のUボートは艦内の酸素を消費せず機関を回せて海中を高速移動できた。

 もっとも、過酸化水素水は毒性が強く問題ありで

 ノルマンディー上陸作戦の後、どれほどUボートの性能が向上しても、

 Uボートは活躍の舞台が狭められ、追い詰められていた。

 連合国の対潜哨戒線は、北海やフランス(ビスケー湾)沖に広がり、

 Uボートは大洋に出る前段階で神経を磨り減らされる。

 港湾施設ごと爆撃されてUボートが撃沈されることも少なくなく、

 北大西洋のUボート作戦は危険が増えるばかりで戦果が減少していた。

 それならば、日本海軍の負担でインド・太平洋戦線で連合国商船を沈めた方がマシだった。

 なぜ、ドイツ海軍がインド・太平洋にUボートを派遣したのか。

 ヒットラーが贔屓しやすい日本陸軍が通商破壊を推し進め

 さらに日本軍が華寇作戦を進めたからといえる、

 

 Uボート

 「・・・ふっ 見つけたぞ」

 暗闇の海、潜望鏡に黒い影が映る。

 「やりますか?」

 「無論だ」

  

 イギリス護送船団

 護衛空母トラッカー

 「緊急事態だ。先行していた護送船団の護衛空母チェイサーが潜水艦に撃沈された」

 「本当に?」

 「なんてことを・・・」

 「これで、本艦は必ず港に着かなければイギリス軍の戦線が崩壊してしまう」

 

  

 護衛艦 ベルナード

 ソナー音が海中を叩き、反射音が戻る、

 爆雷が海中で爆発する音が響き渡り、艦尾海上に水柱が立っていく。

 「どうした?」

 「・・・速度が、増速。速まりました。16ノット以上です」

 「まさか?」

 「ディーゼル機関を動かしているとしか思えません」

 「バカな酸欠で死ぬ気か?」

 「深度150m。速度16ノット。進路そのままです」

 「僚艦に先回りさせる。追い立てるぞ」

 「・・・艦長。護衛空母トラッカーからです」

 「“ソードフィッシュ3機を出撃させる。Uボートを本艦に近づけさせるな” です」

 「・・・そういえば、あの護衛空母。紅茶を載せていたな」

 「他の船は、ともかく紅茶を失ったら出世の道が閉ざされますよ」

 「だから紅茶は戦艦に載せれば良かったんだ」

 「・・・ローテーション。厳しいですからね」

 「紅茶は、全イギリス国民の国威高揚と、全イギリス兵士の士気に関わる」

 「下手をすればノルマンディ戦線は崩壊する」

 「なんとしても護衛空母トラッカーを守るぞ」

 米英護送船団は、かってないほど苦戦していた。

 新型Uボートは、最大24ノットの海中速度で護送船団の護衛艦を翻弄し、

 護衛艦が爆雷を投下しても

 新型Uボートの海中速度は、突然、速度を上げたり、

 低速で回避したり、爆雷を避けてしまう。

 

 ヴァルター型潜水艦は、速度の緩急、深度を上げ下げしながら爆雷の雨の中を縫うように潜り進み、

 護衛艦の爆雷を消耗させ、隊形を崩し、護衛艦を引っ張り回した。

 爆雷の水中爆圧は一定の距離を離れると威力が弱くなるが、艦は上下左右に揺れ動かされ翻弄される。

 それでも常に位置を変え、囮になって護送船団に揺さぶりをかけた。

 護送船団の対潜哨戒システムに隙が生まれると、潜ませていたVIIC型、XXI型が群狼作戦を開始する。

 この時期、独伊海軍の協力が進み、

 イタリア海軍は、地中海からビスケー湾とドイツ北部へと引っ越し、

 イタリア製、フランス製の潜水艦がジブラルタルを越えて大西洋側に配備されていた。

 イタリア海軍工廠は、ボルドー港へと移り、

 イタリア海軍もUボートを使っていた。

 洋上は、イギリス商船が燃え上がり、地獄絵図となってく、

 Uボート艦隊の襲撃を生き延びた護送船団がブレスト港に着いたとき、

 船団は、3分の1が撃沈されていた。

 

 「・・・・首の皮一枚、出世の道は、残されたかな」

 「出世どころか、危なく海の底でしたよ」

 「酷いものだ・・・」

 護衛空母トラッカーから積荷が陸揚げされていく。

 紅茶中毒というものが、あるとすればイギリス人は紅茶中毒民族だった。

 しかし、それは、イギリス人がイギリス人として本質的な力を発揮させる根源であり、

 決してマイナス要因といえない。

 紅茶の輸送に成功した時点でイギリス戦線の不敗は決まっていた。

  

  

 南フランス 

 ビスケー湾に注ぐジロンド川の河口都市ボルドーにイタリア軍旗がはためいていた。

 イタリア潜水艦R級は、日本からの積荷を満載していた。

 特殊鋼で希少金属の比率は5パーセント。

 希少金属600tを単純計算するなら12000tの特殊鋼材を製造することができた。

 1t当たりどの程度、工作機械を磨耗させてしまうのか不明。

 それを抜きにするとキングタイガー戦車200両分になった。

 ドイツ軍が利権の一部をイタリアに譲渡し、戦線を縮小したことで、イタリア軍が南フランスに常駐し、

 ドイツは、希少金属を貰い受け、

 イタリアは、ドイツ製の兵器体系を使う。

 イタリアは念願の北大西洋に至る港を得てローマ帝国以来というほど士気が高まり、

 東の権益は、オデッサに到達していた。

 

 

 西部戦線

 「あの戦車を撃破したら、このワインと3日間の休暇をくれてやるぞ」 ドイツ軍将校、

 「「「「おぉおおお〜!!」」」」 イタリア軍兵士、

 深夜、アメリカ軍陣地の周囲に煙幕弾が落ち

 アメリカ軍は慌てふためき、戦闘態勢に移行する。

 「ふ・・・行くぞカーチス」

 『遅れるなよ。ポルコ』

 暗闇の中

 豚と蛇が描かれた2両の4号戦車が疾走する。

 M26パーシング戦車が砲塔を旋回させ、

 近付いてくる影に向かって砲撃する。

 「ひねりこみ?」 M26

 4号戦車2両がM26戦車の砲弾をかわし、後方に回り込む。

 この時代、戦車は、停止して撃つのが常識。

 暗ければ、なおさら。

 しかし、彼我の戦力差が大き過ぎて、停止すれば撃破される。

 2両の4号戦車は止まることなく、アメリカ軍陣地を撹乱し、

 M26パーシング戦車の至近距離に肉迫し、

 擦れ違いざまに砲撃し、撃破してしまう。

 「やったぜ〜♪ ポルコ」

 『それ、逃げろ!』

 他のシャーマン戦車が暗闇と煙幕に隠れる2両の4号戦車を追撃しつつ砲撃。

 「クソッ、なんてことしやがる」 M4

 「撃て、撃てっ!」 M4

 「撃ちまくれ!」 M4

 4号戦車は後ろ向きに蛇行しながら反撃、

 シャーマン戦車を2両撃破して逃げ延びてしまう。

 ドイツ製の装備で身を固めたイタリア軍兵士は妙に楽天的で自由奔放だった。

 個人プレーで光り、報酬と喝采を得る為だけにウルトラCを決める。

   

   

 

 中国大陸

 南京・政府軍は、日本主導で華僑と組みつつ東南アジア域に勢力を拡大させ、豪州に足場を築いていた。

 漢民族は、勝ち馬の南京政府軍に希望を託し、

 成都の蒋介石・国民軍と蘭州の毛沢東・共産軍は勢力を失って、縮小の一途をたどっていた。

 もっとも、漢民族が組むのは人情や希望だけではない。

 南京政府の権力構造が定まるまで不正腐敗に溺れず、権力基盤を強固にできるかであり、

 国家と漢民族の利害が一致することで大勢が南京政府になびいていく、

 中国は腐るほど資源がある強みで、日本に資源を送る対価で日本製工業機械が流れてくる。

 日本が望まなくても自然な需要と供給で、自発的に資源を採掘し、日本に供給する。

 揚子江に水力発電所が建設されるのも、それだけの資源を日本に供給したからだった。

 そして、理不尽な土地収用と人海戦術で公共工事が進んでいく、

 「中国は金、資源、人で桁違いだな」

 「総人口が5億だぜ。6億かもしれないんだぞ。1億減っても大丈夫な国は中国だけだよ」

 「ふ 日本で1億減ったら民族存亡どころか、消えてしまうな」

 「そういえば、水力発電所と製鉄所も作ってやるのか?」

 「反発も多いからな・・・」

 「しかし、作れば日本に資源が送られ、市場も大きくなる」

 「日本に水力発電所と製鉄所を作っても資源は減る一方」

 「資源が送られて来ることはないし市場も増えない、それくらいわかれ」

 「救いがあるとすれば利権が日本と朝鮮人と漢民族で3分の1ずつだ」

 「武器を買わせろよ」

 「武器も買っているよ」

 「しかし、水力発電所と製鉄所も欲しいんだと」

 「それで資源が日本に流れ込むし、市場も安定する」

 「それでアメリカとの戦争に負けないのであれば嬉しいがね」

 「前門の虎、後門の狼、って、知っているか」

 「好きで、やっているものか」

 「しかし、アメリカとの戦争で負けたら後がないだろう」

 「アメリカは労働者の権利が煩いだろう」

 「中国は労働者の権利どころか権力構造を守るため国民を弱体化させ」

 「反政府勢力を磨り潰す為に公共工事をやっている」

 「・・・・・」

 「まともな土木建設機械、工業力が揃えば日中同盟は負けないだろうな」

 「本当に?」

 「アメリカが一番恐れているのは、日中同盟だよ」

 「日本が中国に取り込まれなければ、だろう」

 「そうなんだよな・・・どうかしているよ・・・」

 「うん、揚子江で分断しても、まだ、やばいよ。この国・・・・」

 「ったく、何で、こんなにうじゃうじゃ人がいるんだ。信じられん」

 「あははは・・・・蟻かよ。ありえねぇ〜」

  

  

 物資が満載された船舶が釜山港に並ぶ、

 日本の移民者が降り、引越し業者が生活用品を降ろしていく、

 そして、大陸の資源が詰め込まれて、日本へと送られていく。

 瑞穂半島と崇明島。

 そして、大陸の工業が育てば日本の産業効率は、さらに良くなりそうだった。

 成功すれば、日本産業は拡大傾向。

 しかし、ナショナリズムが内地の空洞化を拒み始める。

 無論、中国・漢民族も日本が足元にも及ばないナショナリズム。中華思想があった。

 そして、中華思想が中国・漢民族を華寇作戦に駆り立てた。

 近代化するには想像力、知識、組織力。

 現実に利用できる土地、使える人材、資本と物が必要だった。

 人口が減れば、土地に対する人口が減る。

 そして、富農が増え、一人当たりのGDPが大きくなり、資本の余剰が増して近代化に弾みがついた。

 「はやく、北アメリカ大陸に華寇作戦ある」

 「いま船は、大陸との往復で大変でして・・・」

 「船は造れば良いある」

 「それだけの石炭と鉄鉱石を日本に供給ある」

 「まぁ 産業の拡大は徐々にという感じなので、すぐには・・・・」

 日本は、中国の意図が分かっていて、簡単に乗りたくない。

 「日本人を半島と大陸に移民させれば良いある」

 「何のために揚子江で妥協したあるか」

 「そ、そうだけどね・・・すぐには・・・・」

 「中国南京政府軍は、華寇軍をすぐにでも駆り立てられるある」

 「その為の軍隊ある〜♪」

 「そ、そちも、悪よの〜」

 「何をおっしゃるある。アメリカに勝・て・る・あ・る♪」

 

 

 ニューギニア戦線は、日本軍のポートモレスビー空挺作戦によって一躍、焦点になっていた。

 とはいえ、注ぎ込まれる戦力、

 そして、意識される総量は、ポートモレスビーの戦略的価値をはるかに越える。

 まともな将校なら地図を見るだけで他の戦線に戦力を回すのが健全と見当が付く、

 とはいえ、近視眼的な戦略でポートモレスビーが日米攻防の焦点になったわけでなかった。

 日本は、対中国外交。そして、政争と権力闘争の結果で、

 アメリカは、政治戦略上の弱点がこの地にあったからといえる。

 細菌兵器と化学兵器は実戦で使ってよい物ではなく、

 備えあれば憂いなしという性質のモノだった。

  ジュネーヴ議定書 (1925年)

  “窒息性ガス、毒性ガスに類するガスと細菌の戦争使用を禁止する”

 もし、不用意に使えば真珠湾攻撃に比肩するダーティなイメージを国際社会に与えてしまう。

 国際力学上の弱点にもなり “知らなかった” で済まされないものだった。

 

 アメリカ合衆国は、戦後国際社会で正義の国として主導権を握りたく、

 使用を避けたいモノ、

 それが日本軍の手に落ちていた。

 というわけで、ポートモレスビーを地図上で考えられる以上に大きな戦略的焦点にしてしまう。

 弾薬庫

 日本軍将校が集まっていた。

 「この色つきの爆弾と砲弾ってさ」

 「細菌兵器とか、生物兵器じゃないの?」

 「んん・・・化学兵器と生物兵器は熱に弱いんじゃなかったかな」

 「でも舶来物は進んでいるから砲弾と爆弾の爆発でも細菌が平気かもしれないし・・・」

 「日本軍でも化学兵器と細菌兵器は軍機だから知っているやつは少ないと思うけど・・・」

 「詳しいやつに聞かないとな」

 「731部隊か・・・」

 「開けるのは不味いよな」

 「普通の爆弾や砲弾でも危ないぞ」

 「アメリカ軍の爆撃と砲撃が弾薬庫を避けているのは細菌兵器だからだろうか?」

 「化学兵器なら威力を小さくできるが細菌兵器だと・・・・」

 「だけど、こんなもの作るなんて・・・・」

 「日本にもあるよ・・・」

 「利己主義は誰にもある、民族的な利己主義も、国家的利己主義も同じ、全ての国にある」

 「問題になるのは地位や国力を背景にした利己主義の強弱だろうな」

 「なんであれ、出る杭は打たれるよ」

 「日本みたいだね」

 「ふ 押し破ってやるよ」

 「しかし・・・どうしたものか・・・」

 日本軍将校は腕を組んで不安げ、

 真っ当な将兵は万国共通で、命令でもない限り細菌兵器や化学兵器を使いたがらない、

 まして、自己責任は御免蒙りたい、

  

  

 戦線は厄介なことに敵と味方がアメリカ製の武器を使うため混乱している。

 アメリカ軍は神経質な銃撃戦に徹し、

 日本軍は重火器を遠慮なく使って砲撃する。

 この時期のポートモレスビー戦線は、世界でも珍しい戦線だった。

 「・・・・日本軍め〜 いい気になりやがって〜」

 「大佐・・・華寇軍の掃討が進まないと・・・」

 「うぬぬぬぬ〜 キチガイどもを殲滅しろ!」

 時折、日本の輸送機が着陸し兵員が降ろされ、

 鹵獲されたアメリカの航空機が離陸していく、

 日本軍が、ポートモレスビーを占領しようとしているのか、

 それとも、兵器・武器弾薬を奪いに来ただけなのか、意味不明な行為といえる。

 もっとも、砲撃に晒されるアメリカ軍機をラバウルに避難させ、

 同時に兵力を増員しているのなら理に適っている。

 邪魔してやりたいが基地奪還が優先だった。

 そして、華寇軍もアメリカ軍の武器弾薬を入手しつつあった。

 もっとも華寇軍は統制も訓練もされておらず、

 まともに装弾もできない野盗の群れに過ぎず掃討は難しくない。

 機銃掃射に晒される華寇軍は海岸線にうごめく烏合の衆だった。

 

 海岸の華寇軍 第245遊撃軍

 ロン・ワン兵長は、無線機で日本軍と交信していた。

 「・・・助けてニダ!! アメリカ軍が来るニダ!!」

 「助けてある〜!」

 『食べ物に釣られて出て行くからだ。バカたれ!!』

 「・・・もう駄目ニダ!!」

 「死にたくないある〜!」

 『・・・もう知らん! アメリカ軍が迫っているぞ。火力支援をする。一斉攻撃しろ!』

 「駄目、怖いある〜」

 『泣き言を言うな、突撃!』

 「そんな。無理ニダ〜!」

 『何を言うか! アメリカ軍に殺されるぞ!』

 「ぅぅぅ・・・・し、死ぬある〜」

 『死を恐れるな。このままでも餓死するか。撃たれるぞ。突撃あるのみ!』

 「そういえば、おなか空いたニダ」

 『だから、飢え死にする前に突撃〜!』

 「死にそうある〜」

 「死ぬニダ」

 『死を恐れず突撃! いや、死んだ気で突撃!』

 「日本人、酷いニダ〜!」

 「日本人。嫌いある〜!」

 戦車を先頭にアメリカ軍の突撃が始まる。

 「ぅぅ・・・うぁあああ!! 逃げるニダ〜! アイゴ〜!」

 『こら、まてぇ〜! 逃げるな〜!!!』

 「ぅぅ・・・うぁあああ!! 助けてある〜! アイヤ〜!」

 『こら戦え! いや、むしろ、逃げ回れ! 撃たれて死ね!!!』

 散を乱して逃げ惑う華寇軍は、射的の的、

 運を天に任せて崖から海に飛び込んでいく、

 アメリカ軍は、後方の華寇軍を片付け、日本軍に集中したがっていた。

 そして、ポートモレスビーの中枢を押さえた日本軍は、華寇軍を時間稼ぎで利用し、

 防衛線を強化していく。

 「・・・・ちっ! 餌に釣られて灯台も取られたか。根性ないな」

 「少佐。華寇軍は、ほとんど、やられたのでは?」

 「どうかな、逃げ回ってバラバラだ」

 「生き残っていても収拾付かないので戦闘集団としては・・・」

 「最初から戦闘集団として当てにしていないよ、強盗とか、泥棒とか」

 「アメリカ軍の兵站線を脅かせばいいだけだ」

 「アメリカ軍の武器弾薬を消耗させても良いし」

 「アメリカ軍に手傷を負わせても良いし。どっちでも、良いけどね」

 「・・・少佐。次の266部隊から通信です。チョウ・ウン伍長とミン・タン兵長です」

 「ったく・・・・・なんだ?」

 『助けてニダ!!』

 『アメリカ軍が来たある〜!』

 「チョウ・ウン伍長。ミン・タン兵長・・・」

 『はい、ニダ』

 『はい、ある』

 「どこにいる」

 『・・・東側の岬ある』

 『地図だと・・・・・143区ニダ』

 「何人いる?」

 『・・・1640人ある』

 「そうか・・・・おまえらに魔法をかけてやろう」

 『ま、魔法ニカ?』

 「そうだ。軍機中の軍機。日本軍秘伝の魔法。弾が当たっても死なない魔法だ」

 『う、嬉しいある♪』

 「この魔法は日本を日清戦争で勝たせ、日露戦争で勝たせ」

 「太平洋戦争でも日本を勝たせようとしている」

 『す、凄いニダ♪』

 『やっぱり、日本軍は秘密があったある♪』

 「しかし、恐れると効力を失って死ぬ」

 『はい、ある』

 「逃げても命令を守れなくても効力を失って死ぬ」

 『はい、ニダ』

 「では、掛けてやろう」

 『・・・・・・』

 「クインダム・オクラス・タギラ・・・クインダム・オクラス・タギラ・・・クインダム・オクラス・タギラ・・・」

 『・・・・・・』

 「よ〜し。これで、魔法が、かかった」

 「後は、突撃のとき “テカチュー・テカ・テカ” と叫ぶんだ」

 『はい、ニダ♪』

 『はい、ある♪』

 「では、火力支援をするから。アメリカ守備隊に向かって突撃しろ!!」

 『『テカチュー・テカ・テカ〜!!!』』

 日本は日清戦争で大国清国を倒し、

 日露戦争で白人世界の雄ロシア帝国を圧倒し、

 第一次世界大戦で、太平洋と極東からドイツを駆逐し、

 真珠湾攻撃後も白人世界とまともに戦って勝っている実績があった。

 そして、疑い深い漢民族も空腹と恐怖で自暴自棄になっていた。

 華寇軍は、某少佐が気まぐれに掛けた魔法にしがみ付き、

 結果的に華寇軍を山賊から死を恐れない狂信的な宗教軍に変貌させてしまう。

   

  

 ラバウル基地

 黒塗りの双発機が滑走路に並んでいた。

 「これがブラックウィドウか・・・凄いな」

 「でもさぁ なんで、こういう機体設計をするんだ」

 「だよな。普通の機体にすれば良いのに」

 「ライトニングは好きだぞ、エンジンが二つで贅沢だし」

 「そりゃ 電探が良いから、夜戦もできて文句はないけど」

 「日本本土も欲しがっているんだよな」

 「何で? いらないだろう」

 「ウラジオストックにB17爆撃機とムスタングが集まっているらしいよ」

 「うそ。ソビエトと戦争するの?」

 「さぁ〜」

 「嫌がらせか」

 「そりゃ B17爆撃機とムスタングをウラジオストックに配備するだけで」

 「日本本土に戦闘機を貼り付けさせられるから効率いいよ」

 「性格悪すぎだよ」

 「いや、性格が悪いのは、国際社会の常識」

 「他国の足を引っ張るのも国威高揚と並んで重要だよ」

 「もう、ウラジオストック行きの輸送船を止めさせろよ」

 「どうかな・・・」

 「ソビエトとは南方資源と交換で、アメリカ製が日本に流れているし」

 「まともなオイルがないと工作機械が止まるし・・・」

 「げっ!」

  

  

 呉

 日本人技術者とドイツ人技術者たち

 「・・・持ってきたか?」

 「ポートモレスビーで見つけたトルペックス爆薬です」

 「TNT火薬の1.6倍か・・・やれやれ」

 「凄い・・・」

 「たしか。ドイツ爆薬は、RDX(トリメチレントリニトロアミン)が15〜25パーセント」

 「アメリカのトリペックスは、RDXが41〜45パーセント」

 「TNTのパーセントは、ドイツ製爆薬が多く。アルミ粉は、ほぼ同じ程度・・・・」

 「RDXは、TNTより起爆性と威力を大きくできて良いのでは?」

 「RDXは起爆性と爆発性が強い」

 「トリペックスは威力があっても爆薬の保全を考えると感心しない」

 「弾薬管理体系の違いですし、ドイツの爆薬よりトリペックスが優れているといえませんね」

 「日本は、TNT60パーセント。アルミ粉40パーセント」

 「成分比率の違いがあるのと、RDXを量産できないのでは意味が違いますよ」

 「下瀬火薬(ピクリン酸)は、TNTより破壊力があってもRDXに負けですかね」

 「下瀬火薬は止めたほうがいい。危なすぎる。ペントリットの方が・・・」

 「ペントリットは、熱に鈍感過ぎて炸薬を多くできない」

 「どちらにせよ。RDXは下瀬火薬より使いやすい」

 「RDXを造るには設備投資が必要ですな」

 「TNTの製造でさえ間に合わず、少ないのにRDXを造るのは意味ありますか」

 「TNTの工場をもっと増やすべきでは?」

 「どちらにせよ」

 「こういった爆薬が出てくると武蔵の46cm砲と酸素魚雷も相対的に見劣りですかね」

 「しかし、この爆薬。どの程度の衝撃で?」

 「それは試験をしてみないと・・・」

 「まぁ どんなに強力な爆弾でも爆発して欲しいときに爆発して欲しいのであって」

 「そうでなければ、使えない」

 「アメリカ軍が使っているのなら大丈夫なのでは?」

 「んん・・・・」

 「保管に気を使うのって、人材が割かれるし、気を使うし自爆で恨まれるし」

 「それは、TNTとRDXの比率の問題でしょう」

 「仮に設備投資をするとして、RDX爆薬と酸素魚雷の組み合わせなら、かなり良いのでは?」

 「TNTとRDXの比率は、ドイツ系をお勧めしますよ」

 「それと酸素魚雷は危険ですぞ。伊号の行方不明艦が多過ぎます」

 「酸素魚雷は信用していただきたいですな」

 「潜水艦を撃沈しても事故による損失と思わせたいため、報告しないのは海軍の常識」

 「信用の根拠に欠けます」

 「酸素魚雷を製造しているのはドイツ製工作機械で、最良の工作機械ですぞ」

 「ドイツで酸素魚雷を生産していないのは取り扱いと製造価格だけでなく」

 「商船狙いなら酸素魚雷の爆発力は必要ないですし」

 「それだけの理由があるということですよ」

 「・・・日本は、軍艦狙いでしたかな」

 「いまは陸軍主導で商船狙いから、華寇作戦に移行してますがね」

 「酸素魚雷自体は悪くありませんよ」

 「派遣Uボート艦隊への酸素魚雷供給は、こちらの技術者の確認が取れてから、ということで・・・」

 「しかし、酸素魚雷で弾頭重量半分の200kgとなると破壊力は落ちますがね」

 「連合国艦船の99パーセントは商船ですよ」

 「炸薬の威力不足は、酸素の爆発力で補えるでしょう」

 「酸素の量が増えれば、速度と射程距離も延ばせるはず」

 「補えるどころか計算機の数値も変えませんとね」

 「商船は遅いですからな」

 「戦果に跳ね返れば良いのですが・・・」

 「速度と射程距離が伸びると命中率が良くなるはずですよ」

 「魚雷が速過ぎて逃げる時間もない、とUボート艦長に不評かもしれませんね」

 「まさか」

 「日本の戦局も悪くありませんがRDX製造の設備投資が進めば・・・」

 「TNTの生産でさえ遅れ気味で、その上、民間の設備投資との兼ね合いがありますからね」

 「採掘の発破ならペントリットが良いですし・・・」

 「はぁ〜 戦争が始まって、民間への設備投資は、どうかと思いますよ」

 「戦争が始まって、ようやく大陸利権を確保できたのですよ」

 「なるほど」

 「しかし、陸軍が主導権を取って中国を制圧したと思ったら民間に押されて主導権を失ってしまうとは・・・・」

 「兵器・武器弾薬は利潤が大きいです」

 「しかし、民生品は、利潤が小さくても市場が大きければ、一定以上の利益が得られますからね」

 「中国は植民地化が無理でも資源は膨大で、インドより市場が大きいですからね」

 「陸軍でなくても眼の色が変わりますよ」

 「中国で塩税でも取る気ですか?」

 「まさか、販売するとしても税を取るのは中国政府ですよ」

 「大東亜共栄圏と五族協和は?」

 「捨てました」

  

  

 中国市場

 日本製品が流れ込む。

 戦時中なのに、なぜ?

 といわれても、日本と南京中国政府の条約外の不足分は、取引しなければならなかった。

 中国人も日本製品が欲しければ資源を余計に採掘し、

 釜山や崇明島へと輸送する。

 山積みされた資源を加工するには相応の設備投資が必要で、

 更なる利潤を求めるなら民生品の方が得やすかった。

 揚子江と大陸鉄道を中心にした華僑資本ネットワークは物流・金融・生産を拡大させ、

 一度、弾みがついた大陸市場経済と好景気は、大陸経済圏を形成し、

 戦争どころでないと認識させてしまう。

 なぜ戦争したかというと根柢に経済的困窮があり、

 それが解消されれば金持ちケンカせずで、戦争などしなくても良いといえた。

 陸軍でさえ、不毛な海燕を生産し、4式戦車を開発するより。

 大陸鉄道の機関車や貨車を生産する方に力を注ぎ、

 邪魔な主戦派をポートモレスビー攻防戦に追い込み、私腹を肥やしていた。

  

  

 ポートモレスビー

 武器弾薬を持たない華寇軍は夜に盗賊を働く、

 アメリカ軍が来れば逃げ回りイタチゴッコ、

 華寇軍は、小銃が少なく、棒などで武装し、

 圧倒的な兵力差がなければ民家すら襲わない、

 

 その日、華寇軍は、突如、アメリカ軍守備隊に向かって突撃する。

 武器も持たない人間がアメリカ軍陣地に突撃して、どうなるものでもない。

 しかし、アメリカ軍将兵の慢心が “華寇軍は怯え、腹を空かせて寝ているはず” と油断を誘い、

 日本軍の支援砲撃がアメリカ軍守備隊の反応を十数分遅らせ、

 華寇軍の数が物をいう。

 『大東亜共栄圏ある〜!!』

 『五族協和ニダ〜!!』

 『『テカチュー・テカ・テカ〜!!!』』

 アメリカ軍守備隊は華寇軍の突然の襲撃に混乱する。

 『『テカチュー・テカ・テカ〜!!!』』

 ・・・・うぅうああああ!!!!

 とアメリカ軍は、奇妙な呪文に驚いて機銃掃射、

 安心し、交替で寝ていたアメリカ軍守備隊が慌てて目を覚ました時、

 戦局は変わっていた。

 血塗れの襲撃者が押し寄せ、アメリカ軍守備隊の陣形が崩されていく。

 日本軍の火力支援と連携する華寇軍は、空腹、恐怖、魔法の力を借りて総攻撃をかけ、

 アメリカ軍守備隊は総崩れとなっていく、

 日本軍陣地

 「ん・・・なんだ?」

 「そうした?」

 「この色つきの砲弾は、なんだ?」

 「訓練用じゃないか?」

 「どうする?」

 「もう、何でも良いから撃ってしまえ」

 「ろくな武器を持っていない華寇軍を支援してやろう」

 アメリカ軍陣地へ向けて155mm砲弾が撃ち込まれていく、

 

 

 ポートモレスビー沖

 アメリカ機動部隊4群は、崩壊しつつあるアメリカ軍守備隊を救援する為。

 洋上補給を受けつつ艦砲射撃と艦載機による波状攻撃を繰り返した。

 空母ハンコック 艦橋

 それは、比較的小柄な機体に見えた。

 太回りな胴体を除けば隼V型と、それほど変わらない寸法で倍の馬力と重量、

 航空機は、求める性能に対し、馬力を割り振っていく、

 欲張れば重量が重くなり、機動性、速度、航続力が低下していく、

 しかし、カタログにない防弾、レーダー、高々度性能などに変わるため、

 短絡的に機動性重視が良いわけでもない。

 

   馬力 速度 航続力 全長×全幅 翼面積 自重/全重 武装 爆装
hp km/h km m u kg   kg
隼V型 1300 570 1500 8.92×10.8 22.00 2050/2630 12.7mm×4 120
ワイルドキャット 1200 512 1240 8.8×11.6 24.15 2610/3600 12.7mm×6 90
ヘルキャット 2000 612 2500 10.24×13.06 31.03 4152/7000 12.7mm×6 900
コルセア 2100 717 1000 10.26×12.50 29.17 4175/6650 12.7mm×6 900
ベアキャット 2100 678 1780 8.61×10.92 22.67 3210/5900 20mm×4 900

 

 「・・・F8Fベアキャットは、小柄で機体数も増強できて最強の戦闘機ですよ」

 「少し余裕がないのが寂しいですがね」

 「対日戦には、十分だろう。足りない分は艦爆に載せる」

 「まだ、一部だが、こいつが配備されたらアメリカ合衆国機動部隊は世界最強になるな」

 「日本は、海燕を艦載機にしていないのか」

 「着艦フックを装備した海燕を生産したそうです」

 「もっとも、それだけの技量を持ったパイロットが揃っていないかと・・・」

 「だが日本軍も数だけは揃えてくる」

 「コルセアとベアキャットなら同数でも隼V型を圧倒できるよ」

 「海燕が相手だとベアキャットで片付けたいがね」

 「ポートモレスビーは練度を上げる訓練に、ちょうど良いよ」

 「しかし、40mm機関砲の被害は少なくないぞ。それに、こうも標的に制約が多いと・・・・」

 「護衛空母のワイルドキャットに華寇軍をやらせては?」

 「いや、通商破壊による損失も増えているし、沿岸の哨戒で護衛空母は使いたいそうだ」

 「やれやれ、伊号と大型飛行艇の華寇作戦の上にUボートの群狼作戦まで来るとは・・・」

 下士官が近付く、

 「提督、輸送船団がUボートに襲撃され輸送船7隻が撃沈されたそうです」

 舌打ちが、いくつも聞こえた。

 日本軍が占領した弾薬庫攻撃が禁止され、

 ポートモレスビー再占領の効率は悪かった。

 アメリカ軍は、疲労が増え、ローテーションが崩れていく、

 インド・太平洋戦線に派遣されたUボートの通商破壊により、

 艦隊への輸送計画が破綻していく、

  

 白レンガの住人たち

 「・・・西海岸のB24爆撃機とムスタングをハワイとミッドウェーへ、至急送ってくれ」

 『し、しかし、それでは東太平洋の哨戒が・・・・・』

 「艦隊が南太平洋に出撃している」

 「北太平洋のハワイを守るには爆撃機が必要なんだ」

 『し、しかし・・・』

 「ハワイを日本軍に取られたら太平洋の戦線が崩壊するぞ」

 「・・・分かりました」

   

 


 月夜裏 野々香です。

 1945年05月を越えてしまいました。

 ドイツどころか、イタリアまで、がんばっています。

 限界を突破しているのですが、連合国軍側も戦力が分散され、

 攻勢をかけるには弱過ぎ。

 当然、ランチェスターの法則が適応され、

 連合国軍の損失比は史実より不利。

   

   

 華寇軍

 「クインダム・オクラス・タギラ」 「テカチュー・テカ・テカ」

 やってしまいました。某特撮と某アニメです。

 魔法ですから、なんでも、あり、でしょうけど、つい出来心です。

 リアルを追い求めたい方は、脳内で  ウラー!!! 

 とかにでも変換してださい。

 もう一つ、日本が、捨てたはずの

 『大東亜共栄圏ある〜!!』 『五族協和ニダ〜!!』 が使われたりします。

 華寇軍は、聖(性)戦。

 戦う口実、民族集約の為、倫理的な支柱を欲しました。

 適当なのが加護とか、魔除けもあるのか。

 むかし、日本が使っていた標語です。(苦笑い)

 お陰で戦局が動き始めました。

 アメリカ機動部隊は、ポートモレスビー沖に集結。

 イギリス機動部隊も、インド洋から、南太平洋を行ったり来たりでしょうか。

 米英海軍は、割り振りが利かなくなっていきます。  

 

 

 色つきの砲弾

 使ってしまいました。士官でしょうか、下士官でしょうか、

 無知は死の影。怖いです

 何しろバカ野郎ばかりをポートモレスビーに集めましたから・・・・

 

 

 兵員輸送船

 連合国軍だと。

 装備を含めて、

 10000トン級3000人(連隊)、30000トン級5000人(旅団)。

 80000トン級15000(師団)という感じです。

 トン数が大きくなれば、割損に見えて武器弾薬の追加装備で戦力的には大きいようです。

 これが華寇軍だと武器弾薬どころか

 食料、日用品、生活物資すらなく、ギュウギュウ積めです。

 船が岸に乗り上げると、すぐに船から逃げ出したくなる鬼畜状態です。

 ダイナマイトと同じでギュウギュウに圧縮すると

 爆発力が上がり爆発しやすいのと同じ原理です。

 トン数当たりの人数は、さすがに移動距離と反比例することになりますが・・・・・

 連合軍の士気は “満”  VS  華寇軍の士気は “飢”  でしょうか。

 日本軍も、独伊軍も、貧乏なくせに見栄を張って中途半端すぎて駄目駄目です。

 

  

  

       

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第35話 1945/04 『恨めしや〜』
第36話 1945/05 『貧者の知恵』
第37話 1945/06 『相 殺』