月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

第37話 1945/06 『相 殺』

 西部戦線

 シューティングスターとMe262戦闘機が戦線の上空を支配しようと、局地的な航空戦を繰り広げる。

 しかし、双方の出現率は低く、信頼性の関係でプロペラ機が主役だった。

 ムスタング、サンダーボルト、スピットファイア 

       VS メッサーシュミット、フォッケウルフが飛び交う。

 互いに空を支配し、制空権を奪おうと命をかけた航空戦術を駆使する。

 地上でも米英連合軍が独伊同盟防衛線に対し果敢に攻め込んでいく、

 M26パーシング戦車とパンター、キングタイガー戦車が撃ち合い、

 M4シャーマン戦車と4号戦車、3号戦車が機動戦術を繰り広げる。

 同じレベルの科学技術・工業力によって裏打ちされた陸と空の攻防で、

 インド・太平洋戦線では、見られない鍔迫り合いが空と地上で繰り広げられた。

 撃墜されたスピットファイアが燃えながら、地上のキングタイガーに向かって落ち、

 3トンから4トンのスピットファイアが700kmの速度で

 68トンの重戦車キングタイガーに激突した。

 戦場で一際大きな爆炎が起こり、

 ドイツ軍将校を舌打ちさせる。

 「執念だな」

 「だが上面装甲じゃなくて正面だ。当たり所が悪い。修理すれば使えるだろう」

 「不利だが4号戦車を出して戦線を立て直そう」

 「射程以上の戦線は守れない。もっとキングタイガーとパンターを送ってもらわないと駄目だな」

 「後方の対戦車陣地は?」

 「進んでいない、まだ、後退しない方がいいだろう」

 「イタリア軍は大丈夫だろうか?」

 「4号戦車を回している」

 「イタリア軍は、むくれていないか?」

 「マッキ戦闘機はともかく」

 「イタリアは、M15戦車やP40戦車を生産させるより機械部品を作ってもらった方が助かるよ」

 「しかし、アメリカ軍増強で戦況は、次第に不利になっている」

 「戦力差が広がっているから。いずれは後退すべきだろうな」

 「参謀本部は、前線防空と都市防空に航空戦力を割かれて苦戦中らしい」

 「味方同士で戦力の奪い合いか・・・」

 「ドイツ西部の主要都市は爆撃でやられてる」

 「これで、中規模以下の都市がやられたらドイツを立て直せなくなるな」

 「だが物量の差は徐々に広がっている」

 「アメリカの物量攻勢を効果的に分散させてるのは、日本の華寇作戦だそうだ」

 「非人道的な作戦だな」

 「元々、戦争は非人道的だよ」

 「戦争と平和は、我慢できる状態か、我慢できなくなった状態に過ぎないからな」

 「まぁ 平和が人道的とは限らないしね」

 「それは戦争を我慢しているとき?」

 「戦争に我慢できなくなったとき?」

 「平和を我慢しているときか、平和に我慢できなくなったとき、かもしれないな」

   

  

 イタリア

 地中海最強の戦艦インペロが就航していた。

 独伊関係者は、誉れに満ちた戦艦を死んだように見詰める。

 “何で建造したの?” という自己嫌悪な視線が交錯し、

 “だって建造したかったから” というエゴの狭間で揺れ動く、

 ジブラルタル攻略作戦など、イタリア海軍の活躍に対する必賞必罰で、

 必賞必罰は組織のモラルを保つ上で必定だった。

 これを怠ると組織が瓦解していく、

 しかし、45000トンの鋼材が、あれば、もっと有用な使い道もあろう。

 キングタイガーを500両ぐらい造れば良いんだという暗黙の抗議も、

 メッサーシュミット10000機ぐらい造れ、という、視線にも屈せず、

 潜水艦を30隻ほど造れよといった。圧力にもなんのその、

 イタリアの軍楽隊がイタリア地中海艦隊の再建を祝う。

 戦艦インペロは14ktで4200海里程度の航続力しかないものの

 スペック上、同クラスの戦艦より有力で、地中海に限定する限り最強だった。

 しかし、それも航空戦力が戦場を支配する以前の話しで、

 今は高価な置物に過ぎなかった。

  

  

  

  

 東部戦線

 ドニエプル川は全長2285km。流域面積518000u。

 欧州でボルガ川、ドナウ川についで3番目に長く、

 支流のベレジナ川からミンスク川に折れ曲がっていた。

 軍隊が川を渡るとき、相応の準備が必要になった。

 キエフ前面のソビエト軍も大河を渡った後、反撃を受ければ全滅の恐れもあって慎重になる。

 ソビエト陣地

 米英軍武官は、戦線の観戦を怠らない。

 「・・・将軍。舟艇の準備は整っているのでは?」

 「客人。イタリア・東欧軍が対岸に沿って縦深対戦車陣地を構築している」

 「ドイツ機甲師団は、遊撃師団として後方に展開中だ」

 「ドイツ機甲師団が脅威なのは、日本から希少金属の供給を受けているからですよ」

 「客人は、ご理解されているのでしょうか?」

 「極東で戦線を作ることは、この戦線から部隊が引き抜かれることです」

 「アメリカは戦略物資をソビエトに供給しているはず」

 「それは米英の都合では?」

 「ソビエトにとっても都合が良いのでは?」

 「確かにお互い様でしょうが・・・」

 「しかし、成り上がりで欲深なヒットラーがイタリア東欧と利権分け」

 「性急で攻勢好きなヒットラーが後手の戦法とは・・・」

 「やはり、米英両国の心理分析でも意外ですかな?」

 「ええ、権力闘争の力関係で変動があったのかもしれませんがソビエトは、どういう評価を?」

 「トップが全てを決められるわけでもありません」

 「インド・太平洋の戦局が欧州戦線に影響を与えている可能性はあります」

 「将軍、日本を打倒するのは難しくありませんよ」

 「日本列島を潰せば、お終いです」

 「それほど簡単なものとは思えませんが・・」

 「日本の家屋は木造です。火をつければ全焼ですよ」

 「一面、焼け野原」

 「市民生活は不可能になり、抗戦能力は一気に失われるはず」

 「だと良いのですが・・・」

 

  

 ウラジオストック

 ムスタングとB17爆撃機がシベリアを越えてウラジオストックに配備されつつあった。

 中継基地に米英軍の駐屯地が作られてルートが確保されていた。

 自由世界と共産世界は、一向に好転しない戦線を打開しようと無節操に連合していた。

 ムスタングとB17爆撃機が広大な飛行場に並び、

 ソビエト船籍の船舶が北太平洋航路からウラジオストック港に到着し、物資を降ろしていく、

 日本は、明らかにソビエトが対日作戦を意図しているとわかっているものの、

 対ソ戦を避けたいばかりに見てみぬ振りをしていた。

 「次の航行計画です」

 日本側に手渡される書類、

 「ご理解していると思いますが・・・」

 「ええ、計画以外の船舶は、好きにされてもかまいませんよ」

 航行計画にない船舶は撃沈・拿捕もかまわなかった。

 「こちらも、なるべく穏便にしたいのですよ」

 「しかし、随分と珍しい機体が並んでいるようで・・・」

 「極東の兵力を欧州に向けるには、相応の準備が必要でしてね」

 「なるほど・・・」

 「ところで、トルコ行きの便と日本向けの物資は、確保されているのでしょうな」

 「ええ、こちらも、なるべく穏便に済ませたいのですよ」

 

 

 

 揚子江流域。

 妥益村

 立札の前に人だかり。

 “求む、正義の勇者 ・・・・・(省略)・・・ 報酬は・・・・・・”

 元日本兵、老兵二人が退役後の一時を大陸で過ごそうと流れ歩いていた。

 俗に言うと第二の人生という。

 「・・・・ほう、なに、なに?」

 「娘が奪われたらしいよ」

 「奪い返す為の勇者を募っているんだよ」

 「娘って?」

 「ほら、あそこの豪農の娘だよ」

 一際大きな家が建っていた。

 「似顔絵があるが・・・まぁ 悪くない」

 「写真じゃないと信用できんよ」

 「写真もいつ撮ったかわからないとな」

 「・・警察に頼めば、助けてくれるんじゃないか」

 「警察も金を渡さないと助けないからね。金だけ取って、ということもあるし」

 「酷いな」

 「華寇狩りをやっている中国軍に頼むのがいいと思うよ」

 「そうだな・・・・って、あいつらもドサクサにまぎれて人さらいするからな」

 「それで雇うのか」

 「もう娘も、やられているんじゃないか」

 「だよな。もう、貰い手もいなくなるから普通、見殺しだろう」

 「「荒んでるな〜」」

 「ええと・・・一人娘なんだと」

 「それに他の家の娘も10人くらい誘拐されているらしいから、金も少しずつ出るらしい」

 「へぇ〜」

 「どうするんだろう・・」

 後ろに気配を感じた。

 「二人とも。どうある?」

 「「・・・・・・」」

 「二人とも日本人ある。きっと大丈夫ある」

 「んん・・・・」

 「娘と財産の半分をつけるある」

 「半分って?」

 「あそこの川から道のところまである」

 「おっ♪」

 「え♪」

 「「・・・・・・」」

 「とっ 突然、正義の心が胸の奥底から湧き出してきたぞ」

 「んん・・・この老いぼれも人様の役に立ちたい」

 「急にそんな気持ちになったぞ」

 

 

 富農が増えるに従って数千倍の貧農が生みだされていく、

 資本が蓄積され教育水準が高まるにつれ、

 農業以外の才を持つ者が増え、多様な産業を興していく、

 大陸の人口減少が富農を増やし、

 数千倍の貧困層が自動的に華寇軍に編入されていた。

 華寇作戦は、中国の社会構造を根底から変えていた。

 中国南京政府は日中同盟と対米英戦を口実に、

 理不尽な手法で一人当たりのGDPを増やし、

 更なる近代化を目指して強行な政策を強引にとって行く、

 上海

 華寇軍が網の上で、なにやら遊んでいる。

 “船酔い” に備えてだが子供が喜んでいる光景に見えた。

 効果があるのかないのか不明。

 「おまえ、何で捕まったある?」

 「喰い逃げある。酷い冤罪ある」

 「山賊のくせに食い逃げしたあるか♪」

 「そんなことないある200人以上殺しある」

 「それなのに、やってもいない喰い逃げで捕まえるなんて、修正を求めたある」

 「でも刑は同じだと言われたある。男の名折れある」

 「日本人は酷い悪魔ある」

 「食い逃げじゃ 死にたくないある」

 「本当に日本人って酷いある」

 しかし、漢民族も死にたくないのか本気、

 いくら大群でも陸上に降りたとたん、戦闘不能でヘタって動けないのでは話しにならない。

 微罪でも冤罪でも何でも良いから捕まえ、死罪から逃れるには、華寇軍になるよりなく、

 やっていることは、非人道的といえた。

 豪州の一部を押さえ、北アメリカ大陸に上陸した栄光ある

 華寇軍の実体は、犯罪者、ならず者、あぶれ者、浮浪者、弱者者たちに過ぎない、

 犯罪を犯した彼らが悪いというより、

 権力者の圧政による生き地獄で資産もなく、

 生産手段を持たず、仕事もなく、

 そして、匪賊の被害者でもあった。

 そんな、華寇軍でも、志願兵は少しずつ増えていた。

 

 

 赤レンガの住人たち in 揚子江

 深刻な状況らしく表情が硬かった。

 「・・・あの華寇は、どっから、つれてきたんだ?」

 「工事現場から逃げ出したからとか言ってたぞ」

 「微罪で人間狩り、強制労働。逃げ出したら華寇か」

 「中国政府も理不尽というか、酷いね」

 「人の不幸は蜜の味だよ。自分の不幸を忘れられる」

 「漢民族も実入りに跳ね返るのが分かっていて嬉しそうだろう」

 「それは国際社会でも言えるな」

 「上位国が失墜すれば、自国の地位が向上するからね」

 「日本が戦争に負けて失墜は、中国にとって、蜜の味」

 「しかし、中国政府が華寇作戦を渋れば国際社会に躍り出る機会を失うことになる」

 「お互いに渋々か・・・・」

 「実力と能力で這い上がれないのなら、ひがみ、ヤッカミ、ねたみで引き摺り下ろす」

 「人も国も同じだろう」

 「結局、人の集団が国を作るからね」

 「基礎になる人の資質にもよるよ」

 「漢民族にがんばってもらうのは悪くないよ。ウィンウィンならね」

 「仕方ない部分もあるけど負けるよりマシでイヤになるほど妥協させられる」

 「ウラジオストックのアメリカ軍航空戦力は日増しに増強されているからね」

 「妥協も仕方がないよ」

 「ソビエト参戦も近いかな」

 「戦略爆撃部隊を戦線に配備せず」

 「ウラジオストックに配備しているのは参戦する気だろう」

 「だが黒竜江を越えて取引されている工業用オイルがないと日本産業は落ち込むよ」

 「それは分かっている」

 「極東ソビエト軍が満州に侵攻したとしてもな」

 「戦線を維持できれば日本の工業は打撃を受けにくい」

 「しかし、ウラジオストックから日本本土が爆撃されたら・・・」

 「終わりだな・・・」

 「迎撃機は?」

 「海燕、隼V型、夜戦型百式司偵の3機種だ」

 「ムスタングに勝てないぞ」

 「要衝は、ポートモレスビーで捕獲したムスタング、サンダーボルト、ライトニングを配備するよ」

 「数は、全部で200機くらいだそうだ。間違えないように緑色に塗っている」

 「間違えてもかまわないよ」

 「対空火器は、全部、大陸と太平洋に持って行ったからね」

 「味方機に間違えられるよ」

 「そうだった」

 「それだけやっても戦地で足りないのが辛いがね」

 「ふん、携行する小銃すら不足気味だって言うのに・・・・」

 「それで本土防衛ができるの?」

 「足りないだろう」

 「利点は出来立てホヤホヤの新型機、新型砲で本土防衛を再構築できることかな」

 「普通は慣らし運転とか、試射してから使うんだ」

 「本土って、そういうのばかりだからな。大丈夫なんだろうか」

 「カツカツで戦争なんか、するからだ」

 「カツカツを何とかしようと思って戦争したんだし」

 「思いが叶って良かったんじゃないの・・・」

 「はぁ 半島と大陸って他所の土地だろう」

 「その利権を巡って戦争するなんて、ヤ・ク・ザ」

 「あはは・・・」

 「他人の土地に興味があるとか、関心があるのって、基本的に狙っている人間だからね」

 「結局、半島を盗って大陸にも利権ありだからな」

 「ヤクザじゃなくても日本民族もえげつないよ」

 「しょうがねぇよ」

 「人口増え過ぎて私有地が減るとモラルが減る」

 「私有地が多過ぎると保身で経済が停滞する」

 「やっぱりさ、苦しくても民族的な精錬って必要だよ」

 「淀むと民族ごと我が家かわいさ保身と怠け者で社会ごと腐るよ」

 「日本民族って人口が増えているからね」

 「半島って、いま何人?」

 「んん・・・2500万くらい」

 「本土が、5500万か・・・」

 「配給も少し緩んでるし、自給自足が進むと戦意が落ちるよな」

 「家が大きくなると金持ちケンカせず」

 「相続のとき以外は気持ちも大らかになるからね」

 「国が豊かになればアメリカみたいに建前で生きて行けるよ」

 「工業は?」

 「基本的に日本人って農民だから」

 「でもドサクサにまぎれて土地の収用だけは進んでいるよ」

 「教育水準もいいし、工業化は、なんとかなりそうだけど」

 「いや、中国人を踏み躙って余剰資本を作って」

 「いまの10倍くらいの科学技術系の研究者と工員を抱えないと、産業拡大は難しそうだな」

 「中国市場は大きいからね。なに作っても売れるよ」

 「産業が大きくなると、日本の産業は中国市場と東南アジアの市場に依存することに・・・」

 「欧米に負けないは、基本的に、それだろう」

 「でも、どうしよう、このままだとウラジオストックから空襲されて負けちゃうよ」

 「んん・・・やるの?」

 「んん・・・・日本の国家百年の大計が・・・」

 「頭痛てぇ〜」

   

  

 揚子江流域。

 妥益村の外れ。誘拐犯のアジト

 「やっと突き止めたよ」

 「しかし、酷い連中だな」

 「娘を誘拐して高値で売り払っちまうんだからな」

 「どうだか」

 「元をただせば妥益村が “隣村に謀反の疑いがある” と言って中国政府軍に密告したからだろう」

 「それで村ごと華寇にされ、女子供は奪われてか・・・妥益村が豊かなはずだよ」

 「村を滅ぼされた残党の仕返しにしては、やさしい方なのか?」

 「妥益村も、あれで被害者ぶっているところがえげつないよな」

 「もう、お互い様だから被害者も加害者もないよね」

 「あとは誘拐犯を撃ち殺して娘たちを解放すれば・・・・むふ♪」

 「って、大元の原因を作った。日本人が介入して良いんだろうか・・・・」

 「ちょっと良心が痛むかな」

 「でも、あれは国がやったこと俺たち関係ないよ」

 「漢民族が、そう思ってくれたら良いけどね・・・ん・・・尾られているぞ」

 「妥益村の若いのだな」

 「俺たちを利用して自分たちが、やっちまうつもりなんだろうな」

 「これでも歴戦の老兵なんだけどな」

 「どうする?」

 「あのつり橋で、まとめと落としてやろうか」

 「いや、誘拐犯と村の若い連中をぶつけてやろう」

 「いいねぇ〜」

  

  

 

 ポートモレスビー

 大混乱と化した戦場。

 「てぇー!」

 「てぇー!」

 日本軍陣地から155mm砲が撃ち出されていく、

 ポートモレスビー港に突入するアメリカ軍艦船の周りに水柱が立つ、

 155mmの射程は、ウォルター湾の外にまで及ぶ、

 陸上砲であっても水路に入ろうとするアメリカ軍の艦船は射的の的だった。

 アメリカ機動部隊はポートモレスビー沖を遊弋しつつ、

 ポートモレスビー攻防戦を支援していた。

 日本軍機がラバウルから飛び立ち、

 水路に突入するアメリカ軍艦船の弾幕を突破して雷撃していく、

 「ん?・・・・」

 「アメリカ軍が撤収しているぞ」

 「なぜ撤退するんだ?」

 「こっちは、あと少しで全滅だったはず・・・・」

 「増強なら分かるが撤退とは・・・・」

 「中尉。撤収したいのなら大人しく撤収させては?」

 「ふふふ・・・」

 「そんな温情を掛けてやるものか」

 「邪魔してやる。殲滅してやる。皆殺しだ!!」

 「ち、中尉」

 「てぇ〜!!」

 「・・・はぁ〜」

 「てぇ〜!!」

 「も、もう・・・何でも良いから、撃ちまくれ!!」

  

  

 白い家

 世界地図が広げられ、

 局地的なポートモレスビーの地図も広げられていた。

 「避難を急がせろ!!」

 「はっ!」

 「ありったけの輸送船団を回し、ポートモレスビーのアメリカ軍を撤退させるんだ」

 「医療物資が足りないぞ!」

 「追加発注している」

 「くぬぬぅう〜!」

 「本当に細菌兵器が使われたのか?」

 「我が軍が使ったのではないだろうな」

 「日本軍が占領した中枢部の弾薬庫にしか、例の物は配備されていないはず」

 「発症の出所は、華寇軍掃討部隊からです」

 「たぶん、華寇の襲撃に合わせて例の砲弾を使われたのかと・・・・」

 「じゃ 逃げ回る華寇軍と掃討部隊のアメリカ軍が天然痘と炭疽菌に・・・・」

 「サリン、VXガス、イペリットは、ともかく、天然痘、炭疽菌は、不味いぞ」

 「なぜ使った?」

 「あと少しで全滅だったからドサクサにまぎれて使ったのでは?」

 「だから、追い詰め過ぎたんだよ」

 「日本軍は知らずに使ったのか?」

 「いや、それは不味い」

 「知っていて使ったに決まっている」

 「それより、そんな。化学兵器や細菌兵器を前線配備していること自体、不味いだろう」

 「化学兵器はともかく、何で細菌兵器なんか、ポートモレスビーに配備していたんだ」

 「爆撃されていなかったからだろう」

 「この際、日本軍が持ち込んだことにしよう」

 「そんなの砲弾を調べれば分かるだろう」

 「日本のヘタレな技術で細菌を爆弾と一緒にできるものか」

 「んん・・・」

 「こうなったら、化学・細菌兵器の配備は、行方不明のマッカーサー将軍のせいにして・・・」

 「それだと “アイシャルリターン (I shall return)” が悪魔の宣言になって、戦意が保てなくなる」

 「じゃ 華寇軍の発症という事で・・・」

 「そ、それで行こう」

 「いざとなったら中立国を介して日本と辻褄を合わせよう」

 「日本が、それで納得するのか?」

 「そんなものは戦後、少し妥協すれば何とかなる」

 「とにかく部隊をポートモレスビーから退避させるんだ。このままだと全滅だぞ」

 「せっかく機甲師団の装備を追加で上陸させたというのに・・・」

 「そんなこと言っている場合か、撤退だ。全滅するぞ」

 「しかし、これ以上、航空機と艦船を南太平洋に回してしまうのは危険です」

 「このままだと政治外交的に危険だ!!」

 

 

 揚子江流域。

 妥益村

 二人の英雄と奪い返された娘たち、

 そして、匪賊の首3つ、

 万歳〜!!! 万歳〜!!! 万歳〜!!! 万歳〜!!!

 「・・・ありがとうある。二人は、英雄ある♪」

 「「あははは・・・・」」

 「これは土地の証書ある。娘たちも、よろしくある♪」

 第二の人生。広い土地と、若い娘たち。

 『『後味、わる〜』』

 「ていうか、この村の連中、信用して良いのか寝首かかれそうだな」

 「良いんでないの、どうせ、余生短いし太く短く楽しく・・・」

 気付くと中国南京軍が妥益村を包囲していた、

 妥益村人たちは慌てる。

 「なにある?」

 「おまえたち妥益村は、中国南京政府に対する謀反の疑いを掛けられたある」

 「そんなの、うそある!」

 「証人がいるある。全員を捕らえるある」

 妥益村の男たちが連れ去られ、

 妥益村は隣の剛頭村に吸収され、

 日本人の老兵二人と娘たちだけが村に残された。

 「「あらら・・・・」」

  

  

  

 ポートモレスビー

 日本軍陣地

 何人も日本軍将兵が倒れ、

 何人かが腫れ物に触るように運ばれ、埋められていく、

 「ど、どういうことだ?」

 「よ、よく、わかりませんが豆粒状の発疹から天然痘か・・・」

 「それと炭疽菌の疑いも・・・」

 「うっ・・・うそぉ・・・・」

 「もう・・・隔離するしか・・・」

 「い、一体、なんでだ?」

 「アメリカ軍陣地から広がったようですが・・・・・」

 「な、なんてことぉ・・・・」 泣き〜

 「華寇かもしれません」

 「ま、まさか、アメリカ軍は、それで撤退しているのでは・・・・」

 「どうします?」

 「機銃掃射で、将官がほとんどやられて指揮系統も寸断されたので、もう、中尉しか・・・」

 「大本営は、なんと?」

 「時間を稼げ、と、だけ」

 「他の飛行場は?」

 「状況は、同じようです」

 「飛行場を守れば空輸は受けられるが・・・」

 「ど、どうします?」

 「とにかく、上に状況だけを伝えて、判断を仰ぐしかない」

 「中尉! 沖にアメリカ戦艦です」

 「ん?」

 「中尉! あれを・・・」

 「あれは、爆撃機か」

 艦載機群が、ウンカのように現れる。

 そして、アメリカ戦艦部隊、

 遠慮していたポートモレスビー日本軍基地の砲撃と爆撃を開始する。

 アメリカ軍は、全ての証拠を隠滅すべく、総攻撃を開始した。

  

  

 ソビエトの対日宣戦布告

 ウラジオストックからアメリカ戦略爆撃部隊ムスタング戦闘機200機とB17爆撃機500機が出撃し

 日本本土爆撃を開始した。

 帝都全域で防空サイレンが鳴り響き、

 レーダー誘導された海燕、隼V型が出撃していく、

 夜戦型100式司偵はベテランが少なく、機数も少なかった。

 日本の迎撃機は、ムスタング戦闘機に屈し、B17爆撃機のコンバットボックスに突入できず。

 帝都東京は、爆弾の雨が落とされていく。

 工業地帯と要衝は、捕獲していたムスタング、サンダーボルト、ライトニングが迎撃し、迎撃を成功させていた。

 半島の清津に配備された日本機も迎撃しようとするが夜間に出撃されてしまうと、お手上げ。

 そして、ウラジオストックは、ムスタングが配備されており、防空迎撃能力が高く、

 日本軍機は、返り討ちされるだけだった。

  

  

 ケアンズ、タウンズビル、ブリズベン、シドニー。

 負傷兵、闘病兵の病院。

 「ドクター、これは・・・・」

 「天然痘だ・・・」

 「ド、ドクター・・・」

 「び、病院。病院ごと、隔離だ〜!!!」

 ポートモレスビーの戦傷者の間から天然痘、炭疽菌の感染者が現われ、

 オーストラリアは大混乱に陥る。

  

  

 アッツ島沖

 旗艦 戦艦ストラスブール、空母ツェッペリン

 第1機動部隊(臨時編成) 大鳳、瑞鶴、翔鶴、大淀型1隻、秋月型12隻、給油艦6隻。

 給油を受ける日本艦船300隻

 この海域で給油を受けると北アメリカまで、4000km〜5000km。

 アンカレッジまでなら3500kmもなかった。

 片道だけ考えるのであれば駆逐艦でも到達できる距離で、

 油送船の余分な空間は、華寇軍が押し込められていた。

 日本は、この作戦で艦船150万tを捨ててしまう。

 人は、起きて半畳、寝て一畳。天下とっても二合半。

 所詮、どんなに人が我を張っても、支配欲をたぎらせても人並み、

 身体が制する場も、食べられる量も限られている。

 華寇軍は、さらに酷い状態で棺おけ状態で鮨詰めだった。

 水は、あっても食料は、最初に渡された乾パンのみで飢餓に近い。

 最低限の船酔い対策、排便対策があるだけで、

 可能な限り人を詰め込む。

 潜水艦より酷いとか、潜水艦よりマシだとか。

 総トン数当たりの乗員者は、ギネス記録を次々と塗り替えていた。

 堅気の理解を超えた状態で並みの人間ならキレる。

 それも数週間の我慢。

 睡眠薬が切れ、気が付いたら船の中という御仁も少なくなく、

 大陸の人間は苦しんでも悩まない、次善策を考える大らかさがあった。

 体力を温存し、

 来るべき大地での所業と生き残る道を計算して死ぬまで生きる。

 希望は、白人世界が豊かであること。

 自由の新天地と白人女性の存在が約束されていた。

 しかし、それは、勝ち盗らなければ得られない。

 間違いなく犯罪なのだが “白人がインディアンから奪った世界を俺が奪って何が悪い” と自己正当化する。

 船の内壁に写真が張ってあり。

『東海岸で、待っているわ♪』

『早く来てぇ〜 待ってる♪』

『毒入りの水と食料に騙されないでね♪』

 はぁ〜!!!!

 男の性だろうか。

 いやが上にも視線が集まり、静かになりやすく、

 集中力と、期待と、妄想が高まる。

 船の足並みは揃わなかった。

 足の遅い船から給油を済ませて出航していく、

 上陸のタイミングだけを夜間に到達するように推し量り、

 速度を調整しながら霧を利用して突き進んでいく、

 目的地は、アラスカからサンフランシスコに及ぶ北アメリカ大陸沿岸全域に及んでいた。

 

 コジャック島、ウナラスカ島、アダック島、アムチトカ島

 アメリカ軍レーダーサイト

 「撃て!」

 アメリカ軍基地から霧の向こうに向けて砲弾が撃ち出されていく、

 高性能なレーダー技術を持つ国は世界でも少ない、

 そして、辺境地にレーダー射撃装置連動させた砲台を配置できる国は、唯一アメリカだけだった。

 霧の中、日本の商船が被弾しながら島に突入して乗り上げる。

 アメリカ軍守備隊が上陸地点に急行し、待ち構える。

 「「「「「テカチュー・テカ・テカ!!!!」」」」」

 霧の中、湧いて出てくる華寇軍は捨て駒だった。

 機銃掃射にされながらも生き残った華寇軍はアメリカ軍陣地に突入し肉弾戦に移行する、

 ベーリング海を索敵しているアメリカ軍基地は少なくない、

 しかし、アメリカ軍守備隊は、1隻突入されると、哨戒より迎撃に戦力を削がれてしまう、

 そして、本命の船団は霧に紛れ悠々と東に向かって進んでいく、

 

 アメリカ西海岸

 対華寇作戦用護衛空母部隊とB24爆撃機哨戒部隊が配備されていた。

 しかし、アメリカ軍はポートモレスビー攻防戦で苦戦し、

 アメリカ機動部隊もポートモレスビーに遠征していた。

 ハワイ防衛が寂しくなると、西海岸から哨戒部隊、爆撃部隊をハワイへ移動させていく、

 西海岸の海軍は、護衛空母部隊3隊だけ、

 対潜哨戒部隊10隊を除けば、訓練航空部隊ばかりだった。

 アメリカ西部 飛行訓練場。

 「急げ! 護衛空母部隊がストラスブールに追撃されている」

 「大佐。哨戒のB24がストラスブールの後方160kmに日本機動部隊を発見しました!」

 「B24爆撃機とムスタングを出撃させろ!」

 「し、しかし、まだ、航法訓練が・・・」

 「かまわん、ベテランに先導させて出撃!」

 アメリカ航空部隊は、アメリカ西海岸沖を南下する

 戦艦ストラスブール(14000海里)

 空母ツェッペリン(8000海里)。

 後方支援の第一機動部隊。

 大鳳(10000海里)、

 瑞鶴、翔鶴(9700海里)、

 大淀型1隻(8700海里)、

 秋月型12隻(8000海里)、

 給油艦6隻。

 を撃沈する為に出撃を繰り返した。

 日本艦隊は、いずれも航続力が長く作戦能力の高い艦艇ばかり、

 そして、どの艦も弾薬を減らし、燃料、食料、水が積み込まれていた。

 

 

 水平線上を護衛空母部隊3群が必死に逃げようとしていた。

 戦艦ストラスブール 艦橋

 「護衛空母部隊です」

 「囮役だが役得もあるようだな」

 「はい」

 「全速前進!!」

 「護衛空母6隻、護衛駆逐艦6隻・・・・」

 ストラスブール上空は、隼V型が飛び、

 護衛空母の艦載機ドントーレスを撃墜していた。

 「砲撃を続けろ!! 全滅させてやる」

 「12時から、B24爆撃機4機です。ムスタングも7機」

 隼V型が反応して向かっていく、

 ムスタングは高性能だったものの相対距離、相対速度、軌道の取り方、連携など、ド素人の動きだった。

 「スクリューさえ、やられなければ戦える。突撃しろ!!」

 「はっ!」

 「艦尾方向から来るやつだけ、注意すれば良い。取り舵5度!!」

 「はっ! 取り舵5度」

 戦艦ストラスブールと空母ツェッペリンはアメリカ西海岸沖に現れた。

 アメリカ航空部隊は、日本艦隊の攻撃で勢力を削がれ、

 その隙に、ワシントン州とオレゴン州の海岸は、日本商船200隻が漂着してしまう。

 「「「「「テカチュー・テカ・テカ〜!!!!」」」」」

 華寇軍500万の大群は、船酔いで、よろけながらアメリカ西海岸に上陸した。

 アメリカ軍守備隊とアメリカ西海岸の住人の間に底知れぬ恐怖が走った。

 華寇軍は、天然痘、炭疽菌の保有者である。

 恐るべき噂がアメリカ軍民問わず広がっていた。

 

 

 深夜、路上を歩く集団。

 白人の女の子が眠い目をこすりながら母親に連れられていく、

 「お母さん。どこに行くの?」

 「トロールの大群が来るから逃げるのよ」

 「トトロ・・・」

 「・・・そうよ」

 周囲を州軍が警戒し、人の行列が伸びていた。

 州軍が舌打ちする。

 「避難民が優先か・・・」

 「こちら向けの鉄道だけは何とか確保しているので・・・」

 「それも、いつまで持つかな」

 「住人の避難が増えれば鉄道も全部、東行きで使われる」

   

   

 白い家

 深刻な表情が連なる。

 「西海岸のアメリカ人は華寇軍の上陸と、天然痘、炭疽菌の保菌騒ぎで大恐慌に陥っている」

 「軍も戦う以前に浮き足立っている」

 「アメリカ政府が華寇軍の天然痘、炭疽菌の疑いを晴らすと困った事になるな」

 「ポートモレスビーの天然痘、炭疽菌がアメリカ製の細菌兵器の自爆だと証明する事になる」

 「そんなことが、できるか!」

 「アメリカ政府は政治的な危機に陥る」

 「既にポートモレスビーの証拠は隠滅してる」

 「天然痘と炭疽菌は、華寇軍から広がったと流したんだぞ」

 「アメリカ西海岸に上陸した華寇軍の総数は?」

 「約500万かと・・・」

 「防衛線は?」

 「そ、それが天然痘、炭疽菌の噂が広がっていて」

 「守備隊の士気を維持できず・・・後退中です」

 「華寇軍は、増える事はないだろうな」

 「日本海運は、今回の華寇作戦で、西海岸に商船150万トンを捨てています」

 「日本に残された商船は150万トンに満たないはず」

 「これで作戦不能。打ち止めかと・・・」

 「本当に?」

 「日本民族のうち2500万が半島に移民している」

 「日本列島の自給率は、ともかく、作戦不能な総トン数といえます」

 「んん・・・貧乏な国の癖して、ポンポン船を捨て去りやがって・・・・」

 「ウラジオストックからの空襲は?」

 「日本の主要都市を爆撃中ですが要衝の迎撃は激しく損害が大きいようです」

 「ソビエト軍の満州侵攻は?」

 「日本に宣戦布告後、地上軍は攻勢をかけました」

 「ですが武器弾薬が不足し。日本軍の抵抗にあって挫かれているようです」

 「ヘタレが!」

 「武器弾薬は、欧州に送られているのか?」

 「そのようで・・・」

 「日本本土爆撃が成功すれば満州侵攻は、後回しでもいいと思ってるわけか」

 「いえ、予想より満州の防衛能力が高かったようですが・・・」

 「極東ソ連軍50万では、ほぼ同数の日本軍50万を降すのは困難だろう」

 「大統領。合衆国市民は、欧州の戦闘より、西海岸の回復を望んでいるはずです」

 「ドイツと休戦せよというのか?」

 「西海岸の黒人とエスパニックが不穏な動きを見せている」

 「このままでは西海岸が・・・」

 「そういう問題ではなかろう」

 「武器を満足に持っていない華寇軍500万程度なら殲滅できる」

 「そうそう、国力比で計算しても、戦力さえ集中できれば日本も、ドイツも、イタリアも潰せるよ」

 「問題は、上陸した華寇軍500万が天然痘、炭疽菌、黒死病の保菌者であるという噂だよ」

 「日本軍が細菌兵器を使用したと流せば」

 「それだと華寇軍は保菌者ということになる」

 「じゃ 細菌兵器はアメリカ軍の物と公表するのか?」

 「それは不味かろう」

 「合衆国の細菌兵器でアメリカ軍将兵20万が天然痘、炭疽菌にかかったでは、我々が終わりだ」

 「本当に証拠は、隠滅されているのだろうな」

 「アメリカ機動部隊の艦載機が弾薬が尽きるまで爆撃し」

 「戦艦部隊は砲身命数が尽きるまで砲撃した」

 「お陰で機動部隊が動かせず」

 「そのお陰で華寇がアメリカ西海岸に上陸したようなものだな」

 「政治権力を守るためとはいえ、西海岸を犠牲とは理不尽なことだ」

 「守ったのは政治権力ではない、アメリカ合衆国の良心だよ」

 「ふ そんなもの・・・」

 「多民族の移民国家アメリカ合衆国を支えているのは正義、良心、個人の権利なのだよ」

 「日本軍が持ち去っていなければ証拠は残されていないはず」

 「アメリカ西海岸に上陸した華寇軍は、天然痘、炭疽菌の保菌者はいないと発表するしかなかろう」

 「信じるものか」

 「日本軍も細菌兵器を使用していないと宣言するしか西海岸を守る手段がないかと・・・」

 「忌々しい」

 「ウラジオストックの戦略爆撃部隊だけで日本を壊滅させることができるのか?」

 「少し足りないかもしれませんが・・・・」

 「とにかく全力で日本本土を爆撃し、焦土に変えてしまえ」

 「それで日本が降伏すれば西海岸の華寇軍は、いずれ殲滅できる」

 「それと “クインダム・オクラス・タギラ” と “テカチュー・テカ・テカ” の意味は分かったのかね?」

 「まだ、解析中ですが発生元のポートモレスビーが壊滅しているようで・・・」

 「そうか・・・当面すべきことは?」

 「華寇軍のうち約300万は、シアトルに向かっているのでシアトル防衛かと・・・」

 「守れるのかね」

 「まともな、武器を持っていないはず。増援さえすれば・・・」

 「しかし、華寇軍の細菌兵器の疑いだけは晴らさなければ」

 「日本軍と華寇軍は、細菌兵器を使用しておらず」

 「ポートモレスビーの風土病にするのが良いかと」

 「それならば機動部隊と戦艦部隊が総攻撃でポートモレスビーを焼き払った口実にもなるか」

 「はい」

 「それと風船爆弾と細菌兵器の相乗効果の影響もあるようですし・・・」

 「敵の細菌兵器の不使用を宣言しなければならないとは・・・」

 「他には?」

 「今回の作戦で北太平洋での防衛線は大打撃を受けています」

 「アリューシャン防衛線は?」

 「華寇を排除、殲滅しつつあります」

 「回復できますが現状で増援は不可能です」

 「では・・・」

 「ドイツ海軍と日本海軍は、北極海航路を利用している」

 「ソ連軍の力では妨害不可能だ」

 「大西洋側で妨害するしかなかろうな」

 「イギリス海軍に頼むしか・・・・」

 「それだと欧州から陸軍を引き抜くことはできそうにないか・・・」

 「ドイツは日本へ艦隊を送る予定は、あるのか?」

 「さぁ Uボートでも、水上艦でも、夏季であれば危険を冒しても、何とか派遣できそうですが」

 「今となっては、それほど意味のあることとは思えないが」

 「逆では、日本から戦略物資を欧州へ送るのでは?」

 「どちらにせよ。イギリス海軍で食い止めさせるしかない」

  

  

 アメリカ西海岸

 「大東亜共栄圏ある〜!!」

 「五族協和ニダ〜!!」

 「「「「「テカチュー・テカ・テカ!!!!」」」」」

 上陸した華寇軍は、天然痘、炭疽菌、黒死病の保菌者であると大恐慌となっていた。

 アメリカ軍とアメリカ人は、イナゴのように押し寄せる華寇軍に怯え、

 地方の町、大都市から住民たちの避難が始まる。

 食料は華寇軍によって飢餓の如く食べ尽くされていく、

 もし女が残されていたら・・・・・

 東部アメリカ軍は西部へ移動しつつあった。

 

 西海岸の前線

 対細菌兵器用の準備がされている部隊は少なく。

 「・・・日が暮れる」

 「こ、後退する!」

 「食料を可能な限り燃やせ! トロールどもを飢え死にさせるんだ!」

 「そ、それでは、華寇軍の侵攻が早まります」 泣き

 「うごぉ〜!!」 嫌々

 「・・・・」

 「もういい! 女・子供を護衛しながら撤退!!」

 アメリカ軍は、地雷を仕掛けると、上に食料を置き、取ると爆発させるよう工作していく、

 または、毒入り食料なども置いたりする。

 しかし、華寇軍は事前に注意されているのか、用心深いのか、簡単に引っ掛からない、

 現場のアメリカ軍守備隊は、華寇軍が近付くと疫病を恐れて後退する為、及び腰。

 遠くから撃って命中させられる兵士は少なく、ゴーストタウンが増えていく、

 華寇軍は数が減らず、一気に橋頭堡を広げていた。

  

  

 赤レンガの住人たち

 東京に空襲のサイレンが鳴り響き、沈うつな表情が並ぶ。

 「・・・細菌兵器だと」

 「使っていないよな」

 「んなの、報復が怖くて、使えるわけねぇ〜」

 「だいたい、細菌兵器は散布するものだ」

 「砲弾に混ぜたら熱と圧力で死ぬ」 731部隊専門家

 「そうなのか?」

 「当たり前だ」 自信たっぷり、

 「アメリカの方が化学兵器と細菌兵器も進んでいるけどね」

 「ポートモレスビーは?」

 「1000人くらいしか残っていないらしいよ」

 「いまは、焼却作業ばかりだそうだ」

 「酷いな」

 「病人は?」

 「隔離しているが多分、500人くらいになるそうだ」

 「アメリカ軍は?」

 「全軍が撤退したらしい」

 「艦載機の爆撃と戦艦部隊の砲撃で焼却が進んだらしいけどね」

 「現状で増援はできそうにないよ。船がないからね」

 「そりゃそうだ」

 「満州戦線は?」

 「いまのところ本格的な攻勢は受けていない」

 「イマン迂回線の鉄橋だけは破壊したからウラジオストックは孤立だな」

 「ウラジオストックの武器弾薬が、いつまで持つやら」

 「しかし、外を見ろよ、本当に焼け野原になるぞ。どうする?」

 「工場は防空できているのだろう?」

 「捕獲ムスタング、サンダーボルト、ライトニングを配備しているから迎撃は成功してるが・・・」

 「庶民生活を無視するなよ」

 「社会生活できなくなった彼らが工場を支えている・・・」

 「日本産業って層が薄いから庶民生活の可否は生産に直接響くよ」

 「南方のベテランパイロットを戻せば、防空は、もう少しマシになるよ」

 「南太平洋はボロボロだな」

 「そうも言ってられないよ。日本本土を防空できないと・・・」

 「アメリカ機動部隊も西海岸に戻るんじゃないの」

 「華寇軍500万も2ヶ月ぐらいで掃討されると思ったけどさ」

 「意外に、粘れそうだな」

 「アメリカの細菌兵器のお陰で棚ボタだね」

 「上手くいけば、シアトルくらい占領するかも」

 「この作戦で戦線が半年持てば、めっけものかな」

 「半年の時間稼ぎだけのために日本商船を200万トンも捨てるなよ」

 「でも、このままだと日本本土、不味いよ」

 「中国社会は再構築中だし、日中の力関係が引っくり返るかも」

 「それは不味いよ・・・・」

 「それより船を建造しないと・・・・」

 「いま建造中だよ。空襲で生産性が落ちているけどね」

 「リバティ船は2600隻だそうだ」

 「平均42日で完成させられて最短は4日と15.5時間・・・」

 「1万トン級輸送船を・・・・なんて非常識な国だ」

 「日本は、再建の為の船舶を揃えるだけで、やっとだというのに・・・」

 「支援略資源が山積みされていなければ、駄目だったね」

 「本土は、自給自足可能な人口だけ残して半島移民、大陸移民をもっと増やすべきでは?」

 「そうだな・・・移民させる船も必要だな・・・」

 「第一機動部隊とストラスブール、ツェッペリンは?」

 「第一機動部隊は小中破」

 「ストラスブールとツェッペリンは大破している」

 「アッツで給油して、本土に帰還できる」

 「はぁ アメリカ西海岸は、本当に訓練部隊だったのか。大変な被害じゃないか・・・」

 「アメリカ西海岸は航法を誤ったムスタングやB24爆撃機が不時着しているらしい・・・」

 「それは希望的な観測か」

 「華寇軍に志願した部隊からの報告で信憑性はあるかと・・・」

 「このまま、華寇軍がアメリカ西海岸を占領したら大金星だよな」

 「それは悪夢、怖過ぎるよ」

 「西海岸のアメリカ軍を密かに応援したいね」

 「うんうん」

  

 

 

 ドイツ西部域の大都市は瓦礫の山となっていた。

 中規模以下の諸都市は重要性が低ければ無事が多い、

 そして、南部域は、比較的安穏としていた。

ドイツ南部ベルヒテスガーデン

 ヒットラーの官邸ベルグホーフ

 「・・・華寇軍500万がアメリカ西海岸に上陸したのか?」

 「はっ!」

 「アメリカとの講和は可能かも知れないな」

 「中立国でアメリカ高官と接触していますが、いまのところ良い返事がないようで・・・」

 「日本本土爆撃で、華寇作戦はできなくなっていると考えているのだろう」

 「日本の工業力は程度が低いですから」

 「日本は、資源を供給してくれるのであろうな」

 「はっ!」

 「では、こちらも工作機械を供給した方が良いだろう」

 「しかし、我が国の工業も・・・・」

 「かまわん。アメリカが講和したくなるような状況を作り出してやろう」

 「はっ」

 「アメリカが日中同盟に集中するのであれば工作機械など、やすいもの・・・」

 「アメリカ西海岸での戦況が悪くなれば欧州のアメリカ軍も浮き足立つかと」

 「ふ しかし、日中同盟軍がアメリカ西海岸に上陸か・・・・・」

 「それも細菌の保菌兵だそうですから」

 「アメリカ西海岸に上陸した華寇軍は、天然痘、炭疽菌、黒死病の保菌兵だと喧伝してやろう」

 「フランス戦線のアメリカ軍は、さらに浮き足立つかもしれませんね」

 「細菌兵器は、ポートモレスビーのアメリカ軍のものなのだろう?」

 「おそらく・・・」

 

 

 クレムリン宮殿

 独裁者の身長。スターリン163cm。ムッソリーニ168cm。ヒットラー173cm

 スターリンが一番、背が低く、

 ヒットラーが173cmで身長が低いと気にするのだから、ドイツ民族は、よほど身長が高いらしい。

 独裁者は、みな同じ悩みを持って自分の背を高く見せるため、あれこれ苦心惨憺する。

 スターリンは、自分の背丈を気にしながらも一段高い壇上だけで飽き足らずイライラと歩き回る。

 日本爆撃で日本の継戦能力が失われ、

 アメリカ軍の欧州増派で東部戦線でも反撃の糸口になると期待していた。

 しかし、対日参戦した途端、

 華寇軍500万のアメリカ西海岸上陸では話しが違ってくる。

 想定した未来が不確定要素によって大幅に狂う。

 計算のやり直しが必要だった。

 そして、想定した未来が見通せない独裁者は致命的だった。

 東部戦線と極東戦線は、膠着状態。

 無能な独裁者と思われても仕方がない失態だった。

 期待したアメリカ軍の欧州増援は、華寇軍のアメリカ西海岸上陸で、増援どころか引き揚げの可能性も高い。

 小さいものを、あれこれ、美辞麗句をつけ、大きいという。

 大きいものを、あれこれ、難癖をつけ、小さいとしてしまう。

 針小棒大と、その逆の棒大針小は、プロパガンダの常套手段、

 大きいか、小さいか、比較すれば一発でバレる。

 しかし、このくだらない世界は、五月雨式に何度も言った者が勝つ、

 比較することなく、華寇軍のアメリカ西海岸上陸を想定内のことで、

 小さなことだと一方的に言い放てば、そうなる。

 そして、独裁者ほど比較検証を重視し、

 誰かが何か、お勧めがあるといっても信じず。

 類似物と必ず比較し、取捨選択する。

 そして、何とか、状況を利用できないものかと思い巡らせる。

 「・・・欧州への増援、約束は守られるのでしょうな?」

 目の前にいるアメリカ代表も沈痛な表情しか見せない。

 「期待に沿えるように全力を尽くしていますよ・・・・」 白々・・・

 

 

 ポートモレスビー

 戦争の焦点は、ポートモレスビーからアメリカ西海岸へ移動していた。

 そして、日本の漢たちは戦場に取り残され、アメリカのCレーヨンを食べながら、ぶつくさ。ぶつくさ。

 「・・・俺たち本国から捨てられたのかな」

 「日本ってさ」

 「こういう細菌兵器とか、化学兵器に対処する設備とか、医療器具がないから来ないよ」

 「一応、弾薬庫の中にそれらしい薬と医療器具を見つけたから、いいけど・・・・」

 「とりあえず」

 「残っている遺体をブルドーザーで集めて焼却処分するか埋めていこうぜ」

 「酷いよな」

 「将校たちは、みんな死んだのかな」

 「天然痘の致死率が2割から5割だってよ。酷いね」

 「炭疽菌は、発症場所で変わるだと、2割から10割」

 「一緒に併発したら終わりだね」

 「なぁ そのコーンパイプ。誰の?」

 「ん、いいだろう・・・わからないけど、焼け跡に残されていたよ」

 「大丈夫か?」

 「熱湯消毒したから。大丈夫なんじゃないの」

 「なんか、偉そうだな」

 「将校のかな」

 「俺も、なんか探し回ろう」

 「華寇軍は、みんな死んだのかな」

 「さぁ〜」

 「どうでも良いけど缶詰じゃなくて、米が食いたい」

 「なんか、日本本土爆撃が始まってパイロットが本土行きで」

 「こっちに米を運べなくなったらしいよ」

 「げっ! 俺の家。大丈夫かな」

 「どこ?」

 「四国の田舎やきに」

 「絶対に大丈夫だよ」

  

  

  

 アメリカ合衆国

 ラジオから音声が流れていた。

 大統領トルーマンは、ポートモレスビー攻防戦で端を発した天然痘、炭疽菌騒ぎをニューギニア島の風土病と断定し、

 アメリカ軍、日本軍、中国軍、華寇軍は、化学兵器・細菌兵器を使用していないと宣言する。

 「・・・本当かな?」

 「だけど華寇軍が、ふらふらと降りてきて、げぇげぇ〜 やっているのを見たぞ」

 「倒れているやつも見た。あれは、絶対に伝染病だぜ」

 「アメリカ政府は信用できねぇ」

 「本当は、中国大陸の風土病だったんじゃないか?」

 「だよな。あいつらトロールだし。人間じゃないし」

   

  

 

        


 月夜裏 野々香です。

 アメリカ西海岸に華寇軍の大群が上陸。

 日本本土爆撃も始まって滅茶苦茶。

 これで世界中がボロボロの状態です。

 中国だけは、一人当たりのGDPが増えて戦前より景気が良いような・・・

  

 

 

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第36話 1945/05 『貧者の知恵』
第37話 1945/06 『相 殺』
第38話 1945/07 『まだ、講和未満』