月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

 持たざる国、日独伊枢軸国が、

 持てる国、米英ソ連合国の世界構造に歯向かって第二次世界大戦が始まった、

 そして、ソビエトの対日参戦により、

 大戦は、日独伊同盟国 VS 米英ソ連合国 の総当りへ移行していた。

第38話 1945/07 『まだ、講和未満』

 欧州戦線

 西部戦線は米英連合軍がノルマンディー上陸作戦に成功させ、

 フランス北東部に大陸反攻の橋頭堡を確保していた。

 東部戦線はソビエト軍がドイツ軍を押し返し、

 リトアニアからミンスク、キエフ、ドニエプル川防衛線で停滞していた。

 独伊東欧軍は縦深対戦車陣地を構築して粘り強く戦い、

 物量で勝る米英ソ連合軍は苦戦を強いられていた。

 この戦況はドイツが占領地の利権の一部をイタリアと東欧諸国に譲渡した事に起因する。

 同盟戦略の根幹から立て直され、独伊東欧軍将兵の戦意は高まり、次第に結束していく、

 西部・東部戦線とも膠着状態となっていた。

 

 

 スイス 戦史研究者たち。

 「インド・太平洋戦線の日本・中国軍の奮戦」

 「そして、欧州戦線の独伊東欧軍の奮戦の関連性は不明だな」

 「二つの戦線は、時系列上のパワーバランスで自然に推移しているようだ」

 「自然の影響、人為的なミス、英断はあるけどね」

 「転換点と節目があっても、ここから戦局が変化したと断定しにくいかな」

 「ターニングポイントで大きいのは日本の中国大陸での大攻勢。華寇作戦、大陸鉄道」

 「ドイツのクルスク攻勢の中止とか」

 「そうなると中国大攻勢の原因になったミッドウェー海戦も大きい」

 「日本軍のポートモレスビーの大空挺作戦もアメリカ軍の細菌・化学兵器を押さえたから大きいぞ」

 「どうかな、どちらも、それ以前の戦況に影響された結果だよ」

 「戦力比で、もう少し差が生まれないと戦局は動かないね」

 「しかし、華寇作戦は大局的に大きな戦力だと思うよ」

 「アメリカ西海岸に上陸するなんて・・・」

 「アメリカは華寇軍を軍隊じゃないと軽視したからだよ」

 「大体、万年軍国貧乏、ジリ貧だった日本帝国が大陸経営に目が眩んで工業力を立て直すか?」

 「日米の生産力は大差あるのに、キルレートが良い勝負どころか。戦局を盛り返そうとしているのが信じられない」

 「だけど日本は、本土爆撃で家が燃やされているそうじゃないか」

 「ああ、いくら要衝を守れても庶民生活が失われると、産業を維持できない」

 「だけど、ウラジオストックのアメリカ軍も縮小気味だろう」

 「将兵は帰還できるが、もうすぐ施設と兵器・武器弾薬ごとソビエトに組み込まれる」

 「そうすれば日本本土爆撃も終わるよ」

 「アメリカも高い代償を払ったものだ」

 「だが日本本土爆撃で日本の攻勢能力、継戦能力が失われる」

 「どうかな」

 「半島と大陸に人口を移せば輸送船と食糧の配給で余裕ができる」

 「日本民族は砂糖と食べ物が欲しくて半島と大陸へか・・・」

 「大陸鉄道は大きいよ」

 「日本が海上輸送で余裕ができ、大規模な華寇作戦と空挺作戦を可能にした」

 「もっとも日本産業を維持できるギリギリの艦船しか残っていない」

 「その上、日本は本土爆撃で収拾付かないだろう」

 「日本民族の半島と大陸への移民は、弾みがつくかな」

 「日本が歴史を面白くしてくれるのなら楽しいけどね」

 「歴史を動かすには戦略や謀略は、もちろんのこと、英知と情熱が必要だよ」

 「不足分は血を流せって事かな」

 「英知を血を流しても取り戻せないだろうが」

 「血を求めるのは保身と野望で醜い欲望だよ」

 「他人や他国の夢や希望を撃ち砕くのは最高の刺激だからね」

 「アメリカとイギリスも少しは懲りたら良いんだ」

 「是非はともかく日本、ドイツの利権分けは大きいよ」

 「血を流した結果を他国に分けた。そのお陰で戦線が膠着している」

 「日本とドイツは、みみっちぃケチな貧者にしては良く戦っていると思うよ」

 「それが妥協の産物でも反発が大きいだろう」

 「良識派の数だろう。金に目が眩んだにしてもね」

 「結局、懐を暖めようとして負けるか。懐のものを手放して戦線を安定させるかだよ」

 

   

 

 ドイツ軍東部防衛線の維持は

 北部方面戦線ミンスク、南部方面戦線キエフの二つの都市を防衛拠点にしていた。

 二つの都市にフランス人の強制移民が増えると雰囲気が変わってくる。

 レジスタンスの反骨型人間でさえ、ソ連軍が攻めてくれば小銃をもって身構える。

 それまで反ナチだったフランス系レジスタンスがコロリと立場を変え、ドイツの消極的協力者に変貌する。

 少なくともポーランド人と同程度でナチを嫌っていながらも、ソビエト共産主義よりマシだった。

 そして、フランスとポーランド人が消極的に対戦車縦深陣地を構築していく、

 T34戦車が溝ひっくり返っている場所と、崖に衝突していた。

 夜襲を仕掛けてきたソ連軍戦車部隊の末路だった。

 よく見ると崖の上の方で色合いと幅を微妙に変え、遠近感を狂わしていた。

 登れない傾斜なのに登ろうとしたり。崖の斜面を進んで転げ落ちたり、

 渡れないはずの対戦車塹壕に飛び降りていたり、

 画家の素質のありそうなフランス人とイタリア兵が俺が、俺が、と自慢しあっている。

 フランス人の造形は美しさを追求し、

 イタリア人の造形は雑でさえある。

 最初に工作を考えたドイツ軍ドイツ兵は、計算高く計算尺を使い、

 緻密に造られているのにソビエト軍戦車は引っ掛からない、感性の差なのか。

 世の中、そういうものらしい。

 そして、小高い不自然なモノが偽装され、見え隠れするモノがあった。

 なぜ、こんなモノを・・・というモノが、この世にある。

 それを作り出せるだけの頭脳を持つドイツ民族は、ある意味、不幸といえる。

 作り出せるのだから造るべきだと、

 幼稚なまでの衝動が、それを実現させる。

 この戦車が高台の半地下に囲まれた逆U字の中央に砲塔だけ出して、座していた。

 天才は、正気を疑われやすい生き物で、なにかと紙一重、

 呆れるような眼差しがそれに集まる。

 一時、副砲として75mmも装備させられそうだった。

 しかし、機動性、いや、移動の為、外された。

 1080馬力ガソリンエンジンは、一度、電気駆動に変えられ、エンジンの負荷が減らされていた。

 それでも重量が188tを超えて戦車の限界に挑戦していた。

 55口径128mm砲は、最強の戦車砲で周囲2000mから3000mを射程に入れ、突破を許さない。

 車内の砲弾数は32発。

 それなら最悪、T34戦車32両を失うだけで突破できる公算も成り立った。

 対歩兵に弱そうなスペックで、ドイツ軍の支援部隊がいなければ簡単に抜ける。

 しかし、現時点、この戦線を正面突破するソビエト軍は少なかった。

 夜襲を掛けても恐怖で急かされ、例の罠にかかってしまう。

 空襲を仕掛けようにもドイツ空軍機が制空パトロールを繰り返していた。

 重戦車のマウスは、巧妙に偽装され、時折、移動させ偽物も作っていた。

 お陰で、いまのところ戦線は維持されていた。

 

 ドイツ軍将校がたちマウスを見上げる。

 敵戦車を何両撃破すればマウス2両分の代価になるのか不明で

 技術大国世界一の自己満足に付き合わされるドイツ軍も哀れといえた。

 「・・・せっかく2両だけで打ち止めにしたのだ」

 「こいつを活躍させるのは疑問だぞ」

 「総統は酔狂ですからね」

 「クルスク攻勢を止めさせられた腹いせがマウス2両ならかまわないがね」

 「なるべく飾りのまま、コイツを使わせないようにすべきでしょうね」

 「費用対効果が小さければ止めるでしょう」

 「まったく、トーチカーに同じ大砲を備え付ければ良いんだ」

 「もっとパンターが、あれば良いのだが・・・」

 「マウスは、ソ連を軍を牽制する為だけの存在だ」

 「少なくとも、この近辺を突破させない程度には役に立つのでは?」

 「爆撃で直撃されなければな」

 「ええ・・・」

 「まだ、コイツの方が面白いかもしれないな」

 「数さえ揃えれば面白いのですがね」

 破損したタイガーを改造した自走砲があった。

 シュトルムティーガー。

 格好は悪い、

 最大射程5659mの臼砲で、380mmロケット砲弾は戦艦の口径だった。

 砲弾の全備重量は345〜351kg。

 単純な重量計算をするなら

 日本の99艦爆が投下する250kg爆弾より威力があった。

 こんなものが降って来たら生きた心地はしない、

 地面に大穴が開き、爆心近くは、戦車が吹き飛んで戦闘不能に至る。

 対人殺傷力も高く、戦車と人間を一度にやれるのは、景気が良いのか好まれる。

 ドイツ軍は、命中率が良好で長距離砲撃が好きなのか、電波戦関連の部隊が存在する。

 「昨夜の電波発信具合からするとソ連軍の司令部は、あの辺だろうな」

 一人の将校が森に覆われた小高い丘を指差した。

 「一発、お見舞いしてやるか」

 「いや、昨晩のお礼に絶対に殺す」

 「3両くらいまとめて砲撃するから時間を合わせてくれ」

 「はっ!」

 この種の大口径砲は数を揃えての対地制圧に向かない。

 しかし、その前段階である敵司令部の殲滅、

 指揮系統の中枢を狙い撃ちで役に立った。

 近代的な軍隊の弱点で、どれほど強力な軍隊でも指揮官不在だと攻勢能力を失う。

 3発の黒い砲弾が放物線を描いて小高い森に落ち、

 爆発、木々を吹き飛ばし、何かを誘爆させ、火炎が広がっていく。

  

   

 インド・太平洋戦線、

 西部戦線・東部戦線は、陸上で戦線を描きやすかった。

 しかし、インド・太平洋戦線は “線” より “点” で考える。

 広大な洋上に配置される艦船の場と、交換が戦局を変えてしまう。

 しかし、突如として、極東とアメリカ西海岸に点でなく戦線が描かれた。

 世界の戦史史上、例を見ない戦場がアメリカ西海岸に作られた。

 

 アメリカ西海岸

 華寇軍は、上陸すると人海戦術で押し寄せ、食料があればしばし留まり、

 食らい尽くすと内陸へと移動していく、イナゴの如くだった。

 そして、少なくともアメリカ国民にとって華寇軍は、人間細菌兵器であり、

 アメリカ爆撃機は、もっとも密度の高い群衆に爆弾を投下し、

 戦闘機は、牧羊犬の如く回り込み、華寇軍の群れを街道から逸らすため機銃掃射を繰り返した。

 絨毯爆撃も機銃掃射も群衆を殺傷するには、あまりにも大きな浪費だった。

 腹を減らした華寇軍は、人海戦術でヨロヨロと進み、

 不気味な呪文を唱えて押し寄せる、

 アメリカ国民は、圧倒的な恐怖に怯え、

 最前線を守るアメリカ軍将兵は、命令されていても華寇軍が細菌の保菌者であるという疑いを持ち、

 アメリカ守備隊は、遠距離砲撃を加え、狙撃兵が如き距離で銃撃した。

 命中率は必然的に低下し、無駄弾が増えた。

 そして、夜になると華寇軍の細菌兵器、化学兵器を恐れ、

 アメリカ軍は、陣地を捨て後退する。

 16日

 「「「「「クインダム・オクラス・タギラ!!!」」」」」

 「「「「「テカチュー・テカ・テカ!!!」」」」」

 シアトルに向かう華寇軍の群れの中心。

 その上空・・・

 「「「「「ニダ!?」」」」」

 「「「「「アル!?」」」」」

 

 

 

 ピカ! どぉおおお〜ん〜!!!!!

 人類史上初の原子爆弾が落とされた。

 しかし、華寇軍の群れの周辺部は止まらない。

 「「「「「テカチュー・テカ・テカ〜!!!!」」」」」

 その光景は、さながら、細菌兵器に犯された人間たちのようにも見え、

 人外のトロールのようにも見えた。

 アメリカ軍守備隊は、引き付けて撃つはずが狙撃兵でも難しい距離から・・・・

 「あぁわあわわ・・・撃て!!!」

 「撃てぇ〜!!!」

 無駄に弾薬を消耗してしまうと総毛だって逃げ出し、

 生き残った華寇軍はシアトルを占領してしまう。

 そして、その光景を峠から見ていたインディアン集団の蜂起を促してしまう。

 「・・・風よ。風の精霊よ。華寇軍の怒りは大地の怒り」

 「精霊の怒りが熊と鷹に乗り移り、白人の魂と器を砕け!!」

 「われら先住民を清浄な大陸の主へと戻さん。我らも戦うぞ!!」

 差別されていた黒人とエスパニックは便乗して立ち上がっていく、

 もっともインディアン、黒人、エスパニックは組織的というより、

 ドサクサにまぎれの火事場泥棒で犯罪だった。

 いわゆる華寇軍の真似。

  

  

 白レンガの住人たち

 アメリカ太平洋艦隊が真珠湾に停泊する。

 ポートモレスビー攻防戦の疲れを癒し、整備と補給を急がせていた。

 アメリカ軍将校は息交じりに、世界最強のアメリカ太平洋艦隊を見上げた。

 アメリカ機動部隊はアメリカ西海岸の上陸作戦に気付き、北大西洋側へと回航した。

 しかし、時を逸していた。

 華寇のアメリカ西海岸上陸作戦は成功し、

 日本機動部隊はアメリカ西海岸上陸作戦艦隊の支援で遊撃戦を展開し、日本本土へ回航していた。

 

 もちろん悪い知らせばかりではない、

 ソ連参戦とウラジオストックからの戦略爆撃が功を奏し、

 日本本土は絨毯爆撃を受けていた。

 日本の社会整備全般は貧弱で、

 輸送船の大量損失と合わせ、継戦能力が著しく低下していた。

 日本民族の半島移民と

 大陸権益がなければ再起不能な打撃を受けていると概算できた。

 しかし、アメリカ太平洋艦隊も身動きが取れない。

 ここで日本に大攻勢を掛ければ良いのだが合理的な戦略が必ずしも通ると限らない。

 アメリカ太平洋艦隊は、華寇軍のアメリカ西海岸上陸作戦の責任を取れという。

 大統領の免罪宣言など、最前線は通用しない。

 華寇軍は、人間細菌・化学兵器と噂され、

 元々、人海戦術で、十分に引き付けて撃つ戦術が使われにくく、

 肉弾戦はもっての外だった。

 真っ当な軍人なら4発爆撃機で対人爆撃はないだろうと考える。

 それでも、アメリカ機動部隊は、アメリカ西海岸へと移動させられ、

 太平洋の対日作戦は後回しとなっていた。

 

 真珠湾 白レンガの住人たち

 「戦局は日本の国力が、どの程度か、ということだろう・・」

 「工業地帯は、さすがに防空能力が高い」

 「それ以外の居住区は好きなだけ爆撃できるような感じだな」

 「ウラジオストックの爆弾は、それほど多くないよ」

 「いずれは弾薬は尽きて使えなくなる」

 「設備と機材はソビエトに譲渡されるし・・・」

 「安い焼夷弾で良いんだから。それまでに徹底的に日本本土を叩けば良いだろう」

 「西海岸は、華寇の輸送路を断てば消えるんじゃないか」

 「あいつらは最初から棄民で軍隊じゃないよ」

 「ごく少数の志願兵だけが組織化されているが基本は盗賊だよ」

 「武器弾薬は?」

 「携帯兵器だけだ」

 「もう弾薬は残っていないだろう」

 「後は青龍刀か。奪った武器弾薬で戦っている」

 「原爆を華寇の頭上から落としただろう」

 「シアトルに向かっていた華寇軍の中心部を原爆で吹き飛ばした」

 「だけどバラけていたらしくて6割以上は残っているらしい」

 「守備隊の方が怖気づいてシアトルを華寇軍に盗られて、どうするんだよ。バカが」

 「住民の避難に大半の州兵が動員されているからな」

 「女子供は生きた心地がしないだろう」

 「華寇軍は、餓えているし、数が多いからな」

 「黒人とインディアンが便乗で蜂起して治安が悪化しているのが問題だよ」

 「東海岸でも白人と有色人種が相互不信で殺し合いを始めているそうだ」

 「日本機動部隊を圧倒できる機動部隊を揃えたというのに・・・」

 「ポートモレスビー空挺作戦でアメリカ機動部隊が振り回されたからな」

 「ウラジオストックからの戦略爆撃で日本の港湾ごと吹き飛ばせば良いんだ」

 「風船爆弾の基地は、ともかく。戦略爆撃で精密爆撃は割損だよ」

 「絨毯爆撃するなら、都市爆撃が一番効率がいいからね」

 「ウラジオストックは大丈夫なんだろうな」

 「満州・半島の日本軍も武器弾薬が少ないらしい」

 「華寇に武器弾薬を配ったからだろう」

 「それなのになんでソビエト軍は攻めきれないんだ」

 「ソ連も武器弾薬を欧州に持って行ってる」

 「極東は正面戦力がいくらあっても動けないよ」

 「ヘタレが!」

 「サンフランシスコは大丈夫だろうな」

 「カリフォルニア州に上陸した華寇軍は、30万程度らしい」

 「後退中だがサンフランシスコは、まだ守られているよ」

 「なぜアメリカ軍が武器弾薬を持っていない華寇軍に後退しているんだ?」

 「人間細菌兵器と思われているからだろう」

 「そうでなければ住人が家を捨てて避難するものか」

 「大統領はニューギニアの風土病だって」

 「日本は細菌兵器を使っていないと宣言しただろう」

 「一般庶民は政府なんて信用してないし、悪く考えるものだよ」

 「あの原子爆弾でさえ、日本軍の攻撃だと思っている住人がいるくらいだ」

 「それに風船爆弾だからな」

 「北アメリカ大陸は大恐慌だな」

 「あんなサル以下の黄色人にしてやられるなど納得できん」

 「しかし、西海岸の状況はよくないぞ」

 「インディアンと黒人は、いまのアメリカ社会体制に未練がなく、離反している」

 「アメリカ合衆国憲法は自由平等」

 「しかし、現実社会は不自由・差別あり、だからね」

 「誰だって黒人、インディアンと席を並ぶのはイヤだね」

 「奇麗事を認めるのは苦痛だよ」

 「しかし、このまま自己矛盾を突かれるのは、不味い」

  

  

 

 ウラジオストックからダグラスA26攻撃機インベーダーとムスタング出撃する、

 中型双発爆撃機は、長距離を飛び、精密爆撃ができた。

 B17爆撃機がコンバットボックスを組んで都市爆撃を行う中、

 A26爆撃機の編隊が低空から侵入する。

 呉で修理改装中の第一機動部隊とストラスブール、ツェッペリンは無視、

 目標は、日本劇場、東京宝塚劇場、

 有楽座、浅草国際劇場、両国国技館。

 千葉県一ノ宮。茨城県大津。福島県勿来の各海岸で、

 風船爆弾のバラスト砂で製造地と発射地点を推測した結果だった。

 日本の迎撃機は大規模爆撃を防ぐ為、高高度から侵入するB17爆撃機に忙殺され。

 低空で侵入するB26インベーダーに手が回らない、

 風船爆弾の製造、発射拠点は、次々と爆撃されていく、

 アメリカ合衆国にとっての脅威は、第一機動部隊ではなく、

 アメリカ市民生活を脅かす風船爆弾になっていた。

  

 赤レンガの住人たち

 「・・・卵が食べたいな〜」

 「氷砂糖も食べてぇ〜」

 「大陸じゃ 配給なしで、自由に食べられるんだと」

 「良いよな〜 大陸と繋がっていると・・・・」

 「釜山は物資が山積みなんだろう」

 「行きの便はあるよ」

 「移民政策かよ」

 「それくらいやらないと土地持ちの保守な連中は動かないからな」

 「大陸は、3倍以上の土地だぞ。動けよ」

 「先祖からの土地だからね。遺産相続で殺し合いもあるくらいだ」

 「ちっ! 臆病者が!」

 「だけど日本本土って基礎で乏しいから爆撃されると脆いよな」

 「パイロットを南方から戻している」

 「しかし、相手は、ムスタングだろう」

 「隼V型と海燕は、数を揃えないとカモだよ」

 「もう、好きにして、って感じ」

 「船を捨てるからだ。それも大型船ばかり片道で・・・」

 「しょうがないじゃん」

 「北米って遠いし、小さい船ばかりだと船酔いで、まともに動けなくなるし」

 「どうでも良いけど食料がなくなると思考が散漫になるよ」

 「もう、鼻血も、出ねぇ〜」

 「いい加減、講和しようよ」

 「窓口ないじゃん」

 「中立国は?」

 「あのさぁ 華寇って講和したからといって、どうにか、なるものでもないよ」

 「日本軍と中国軍は、華寇軍を統制していないし」

 「まず疫病神だから中国だって、帰還して欲しくないよね」

 「「うんうん」」

 「補給も最初から繋がっていないから自然消滅させるしかないんだよ」

 「講和の意味なし」

 「だから次の華寇作戦を止めさせる為に講和って、いうのは?」

 「だから、もう船がないって」

 「日本が万策尽きているの、バレているかな?」

 「バレているよ。もう打ち止め」

 「せめて、4000万は半島に移民しないとね」

 「半分か・・・・そうだよな・・・」

 「せっかく、瑞穂なんて洒落た名称にしたんだから」

 「でも、いくらシンガポールから釜山まで鉄道が使えるからって、船、捨て過ぎだよ」

 「だけど考えようによってはだ」

 「これから建造している戦時標準船は、いい船だぞ」

 「工員が習うより慣れろで船の建造に慣れたから?」

 「うん」

 「どうせ沈められるからって耐久性を減らして手抜きで造っていたのを補正したから?」

 「うん」

 「まともな軍艦を建造しなくなって工作機械が回ってきたから?」

 「うん」

 「嬉しくて涙が出てくるよ」

 「西海岸に乗り上げた初期の戦時標準船を見て、びっくりしているだろうな」

 「ていうか良く無事に西海岸まで辿り着けたよ。奇跡」

 「アメリカが日本の造船レベルを低く見積もるだろうから油断してくれるよ」

 「それはないよ戦前の大型優秀船も突っ込ませたから」

 「そ、そうだった」

 「どちらにしろ大陸鉄道のお陰でマシな船を建造できるようになって喜ばしい限りだね」

 「パイロットと整備士は?」

 「いま、南方から戻している」

 「機体は、そのまま置いてきたがね」

 「ある程度揃えば日本本土防空戦もできそうだ」

 「本当にカツカツだな」

 「基本的に日本は弱小国だからね」

 「そして、これが弱小国家の新型クワ、ツルハシ、シャベル、モッコ?」

 「そう希少金属をふんだんに使った」

 「軽量かつ強靭な、汎用土木建設決戦用具」

 「弾薬に事欠いているのに前線の兵士が泣くよ」

 「塹壕を簡単に掘れる方が嬉しいに決まっている」

 「マジ? 本当は鉱山採掘が楽からだろう」

 「人海戦術向きだよ。壊れにくいし」

 「・・・遺族に石を投げつけられないように気をつけよう」

 「いまを耐え忍んで次世に繋ぐ、官僚の鏡だ」

 『いくら、お金が動いたんだろう・・・』

 

 

 南京政府

 上空を旋回する中国空軍の隼V型、

 日本から購入した機体もあるが木製の国産機体もあった。

 木製合板を張り合わせたのはイタリアの技術、

 性能が落ちても日本からエンジンを買えばよく、

 木製の機体なら何とかできそうだった。

 後は、数さえ揃えれば満州戦線で演習させ、技能を磨いて数を増やしていく、

 「・・・悪くないある。ソビエト兵を機銃掃射してやれるある」

 「重量の関係で航空戦は難しいかもしれませんよ」

 「かまわないある。たくさん造るある」

 漢民族は何故か、舞いそうなほど生き生きとしていた。

 大陸鉄道と揚子江経済圏の利権は日本と少数民族に盗られていた。

 それは、それ。

 日中同盟は、さらに強固になり華寇軍の精鋭化も進みつつあった。

 漢民族の気持ちは豪州上陸作戦とアメリカ西海岸上陸作戦で世界に羽ばたいた。

 いくら死んでも、まだ華寇は残こる。

 「日本海軍は、もっと華寇軍を上陸させるべきある」

 「華寇軍500万をアメリカ西海岸に上陸させましたよ」

 「日本軍は志が低過ぎるある」

 「いや、華寇500万ですよ」

 「しょぼ過ぎて泣けてきたある。中国の同盟国として情けないある」

 「い、いったい。どのくらい」

 「桁が違うある華寇軍は1億いけるある。豪州1憶、北米1憶、南米1憶ある」

 漢民族は、アメリカ西海岸に1億ぐらい上陸させたら良かったと、日本海軍のヘタレ振りをなじりはじめる。

 船腹の関係で不可能なのだが豪州ならジャンク船でも行けそうだった。

 中華が3大陸を制すことができるのであれば、億単位の人口も惜しいものではなく、

 無慈悲であろうと理不尽であろうと資源を掘り続け、船を建造し、華寇上陸作戦を継続すべしだった。

 

 元々、中国人は日本以上の拝金主義と権威主義、

 共産化でも、民主化でも、封建制度でもよかった。

 どういう制度であれ、宦官・科挙・党で官僚天国が造られる。

 懸念されていた揚子江は、朝鮮(瑞穂)自治区として収まりかけている。

 朝鮮人は、瑞穂人という名称を使いたがり、

 中国の一人当たりのGDPは、拡大傾向にあった。

 富農が増えれば、教育熱も高まり、識字率が増す。

 識字率が増せば中国全体の知性が引き上がり、

 科学技術者も職人も増えていく、

 不正・腐敗を反米・反英・反ソのせいとし、

 反政府勢力をオーストラリア大陸とアメリカ大陸に上陸させ地固めを確保する。

 それでも足りなければ朝鮮民族のせいとし、

 さらに日本のせいにして中国の近代化を進める。

 「日本人も自業自得の不幸をアメリカとイギリスのせいにして開戦したある」

 「だから、中国人も正しいある」

 漢民族の影響圏は豪州・アメリカ西海岸にまで及ぶ、

 工業化し近代化すれば自動的に中国の国力は増す。

 アメリカ西海岸の華寇軍が全滅させられる前に追加の華寇軍を送り続ける事ができれば・・・・・

 漢民族は笑いが込み上げてきて止まらない。

  

  

  

 

 白い家

 アメリカ合衆国の地図がテーブルに置かれ、数人が頭を付き合わせていた。

 欧州戦線、インド・太平洋戦線、新たな戦場である極東戦線も眼中にない、

 地図は、北アメリカ西海岸の地図だった。

 「華寇軍によってシアトルが制圧されていますが」

 「西海岸の山道を押さえているので華寇軍の侵入は抑えられています」

 「いつまで持つ?」

 「中国は山が多く、その中でも華寇軍は囚人、山賊出身ですので、山中では手強いかと」

 「実質、トロールか・・・」

 「華寇軍の中部アメリカへの浸透は時間の問題です」

 「・・・大統領、西部で黒人とインディアンが武装蜂起」

 「中部で不穏な動きをしています」

 「東部側は?」

 「白人の過剰防衛が黒人の犯罪を誘発させているようで治安は最悪です」

 「白人優位主義者は、この機会に非白人の絶滅を考えている節もありますし」

 「火に油を注いでいるようで・・・」

 「なんてことだ」

 「さらに東と南に向けて移動している集団もいるようです」

 「なぜだ?」

 「シアトルは大きな都市だろう」

 「ワシントン州は華寇軍300万くらいなら十分支えられる」

 「衣食住が足りても女がいなければ、やはり移動するのでは?」

 「ケダモノどもが!」

 「軍を立て直してワシントン州ごと殺菌消毒してやろうと思ったのに・・・」

 「華寇軍が合衆国全域に広がっていくのは不味いぞ」

 「食料に毒を入れるのはどうなったんだ」

 「それが用心深くて・・・・」

 「それと合衆国国民まで被害に遭う可能性がある」

 「睡眠薬を使って眠ったときを見計らってというのが良いかと」

 「んん・・・」

 「この恨み。漢民族も、日本民族も、抹殺、根絶やしにしても飽き足らん」

 「うん。こうなったら、この地球を白人だけの世界にすべきだ」

 「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」

 できる、できないは、二の次で、白人たちは、妄想しながら心の内で喜ぶ。

 妄想は、いかなる宗教、哲学、権力、暴力、支配に犯されない自由な聖域だった。

 「・・・そうだ、ダムを決壊させて山を越える華寇を水死させては?」

 「良いねぇ 人間細菌兵器という噂に恐れて、兵士は無駄弾を撃っているし」

 「火攻め、水攻めが良いよ」

 「じゃ 油を円状に撒いて華寇が中に入ったら火をつけて焼却処分とか」

 「うんうん♪ 油田地帯だし。自然発火なら良心も痛まないし」

 「消毒殺菌もかねて、ちょうど良いね」

  

  

 日本の某所

 新規工場で風船爆弾が製造されていた。

 アメリカ側に場所が特定されていなかったお陰で救われたといえる。

 他の場所から避難してきた女工を集め再編成し、

 風船爆弾工場を数人の将校が見詰めていた。

 「この期に及んでも風船爆弾か・・・」

 「風船爆弾の製造工場がムスタングとA26インベーダー精密爆撃された」

 「戦略的価値があったからだろう」

 「どうせ、細菌兵器を恐れたんじゃないか」

 「というか、いま細菌兵器を使われたら、やばくないか」

 「いや、アメリカは、日本が細菌兵器を使用していないと宣言している」

 「そのアメリカが日本に対して細菌兵器を使ったら不味いだろう」

 「そりゃそうだ」

 「だけどアメリカ軍が風船爆弾の基地を攻撃している」

 「これは、日本の細菌兵器の手段を失わせる為だろう」

 「じゃ 風船爆弾がなければアメリカは細菌兵器を使う?」

 「可能性はあるよ」

 「最悪に備えるのも戦略だし、少なくとも風船爆弾の基地は再建すべきだよ」

 「日本の細菌兵器と化学兵器なんて、質も、量も程度が低いだろう」

 「なに考えているんだか」

 「アメリカは民主主義国家だからね。そういうのに弱いんだ」

 「それは表面上だよ」

 「人の欲望を最大限に利用している資本主義国家だ」

 「国が国民の欲望を認めるのは寛容な社会だよ」

 「それは、寛容さの程度にもよるよ」

 「いまでさえ、そうなのだから日本を金持ちの支配する国にすべきでないね」

 「というか、若い男は軍人で、若い娘は奉公行き」

 「日本は、貧富の格差だけなら世界最高に開いてるのだが」

 「それは是正しないとね」

 「結局、どういう政体でも特権階級と有力者の結託はあるよ」

 「貧富の格差で産業を興しているのだから」

 「特権階級にも有力者にもなれない人間のヒガミはあるよ」

 

  

 満州原野

 型枠に土嚢を積み上げて “木馬” に似た城塞が造成されていた。

 艦橋に当たる部分と通路と砲座が、いくつかあるだけの飾りだった。

 爆撃の標的として吸収させる為に目立つように造成され、その役割を果たしていた。

 シュトルモビクが押し寄せ、

 T34戦車の群れが地平線の向こう側に集結しつつあった。

 と言っても圧倒的というほどでもない。

 「・・・こっちに爆弾を落とす機体は、無視しして良いぞ」

 「円陣要塞に爆弾を落とそうとしているやつだけを撃墜しろ!」

 日本軍陣地は、シュトルモビクの爆撃を受けていた。

 要塞の周りは、粉砕されたT34戦車が屍を晒している。

 そして、地平線に見え隠れするソ連軍と睨み合う。

 ウメサイ要塞の50口径140mm砲。127mm砲。60口径76.2mm砲が、

 ソ連軍に砲口を向け、待ち構えていた。

 砲弾が少ない為、射程に入っても可能な限り引き付ける、

翼は脳内で消してください

 ソ連軍も欧州戦線に戦力を取られ、戦力不足なのか停滞気味、

 「・・・まだ、攻めてこないようだ」

 「数が少ないようです。T34戦車を撃破されて躊躇しているようです」

 「助かるな。弾薬が少ない。突撃されたら弾薬を失って、一気に地下攻防戦になる」

 「引き付けて撃つにしても厳しいですね」

 「この陣地全体も本要塞を守るための出城で囮のようなものだ」

 「反対側の “獅子” 要塞もそうですが、本要塞も弾薬が不足しています」

 「半島の工場から早く弾薬を持ってこないと戦線が崩壊するぞ」

 「砲弾を製造するより、小銃の弾薬すら生産が遅れているようで・・・・」

 「華寇に武器弾薬を持たせるからだ」

 「死出の旅路ですからね」

 「100人に1丁か、2丁くらいはと、できるだけのことをしたかったようです」

 「満州を失いかけているのに・・・・」

 「5万丁あれば、十分、守れそうですし」

 「10万丁もあれば反撃もしやすいですがね」

 「くっそぉ〜 小銃どころか弾薬も造れんのか」

 「いま、中国人を後方に下げて、あっちこっち対戦車用の落とし穴を掘っているようですが・・・」

 「落とし穴・・・・近代的軍隊と思えんなぁ〜」 さめざめ

 「土木建築用の道具だけは作っていましたからね」

 「小銃より、たくさん造ることはないだろう」

 「凍土ですから人間が乗っても大丈夫です」

 「しかし、戦車は車体の半分を超えた辺りで重量に負けて ストン! だそうです」

 「・・・待つのは好かんな。日本軍好みではない」

 「パッと散るのが日本古来の伝統ですからね」

 「そう日本民族は極度な精神的ストレスに弱いのだ」

 「・・・中佐。地下通路の入り口に砲弾と弾薬が少し届いたそうです」

 「少しか・・・・本当に少しなんだよな〜」 泣き

 

 

 円陣陣地の内側。

 逆U字に掘られた塹壕に中心に4式戦車が配置され、偽装されていた。

 時折、シュトルモビクが木馬に向けて爆弾を落としていく、

 「・・・阿室少尉。ソ連軍は来ませんね」

 「T34戦車をやりたいな」

 「3式自走砲の連中もT34戦車を狙っていますからね」

 「やっぱり、戦車は機動戦だよな」

 「何で、こんなところに埋もれるかな・・・・」

 「でも、勝てますかね」

 「地表に出ているのは、砲塔だけ、たとえ、相手がT34戦車でも勝てるよ」

 「機動戦じゃないのでは?」

 「機動戦だよ。都合の良い土手と塹壕に車体を隠すだけだよ」

 「なるほど・・・」

 コツコツと車体が叩かれて、おにぎりが渡される。

 「昼飯か・・・」

 「ええ、そういえば漢民族が後方に下げられてから、こっちも随分と静かですね」

 「いまは、重要な地下通路を掘らされているくらいだろうな」

 「でも親戚が瑞穂半島に移ってきているし、こんな状態で大丈夫ですかね」

 「そうだよな」

 「弾薬の在庫も少ないようだし泣きたくなるよな」

 「爆撃もされるままのようですし」

 「南方からのパイロットが遅れているんだろうな・・・・」

  

  

  

    

 見捨て去られた戦場

 ポートモレスビー空挺部隊の生き残り534人は遺体処理に追われていた。

 細菌・化学兵器が使われた熱帯雨林地帯で、これを怠けると大変なことになる。

 時折、ラバウルから来る輸送機が米と味噌など日本人好みの糧を落としていく、

 しかし、基本はアメリカ軍が残したレーション(戦場食)、

 細菌・化学兵器が使われて後、増援があっても増兵ない、

  

 しかし、世の中、止む得ない事情もある。

 日本は、この機会を利用して講和に持ち込もうとしたものの、そこまで届いていないらしい、

 ポートモレスビーの湾に白旗と赤十字を掲げた大型飛行艇が着水した。

 対細菌・化学防護服を着込んだアメリカ軍将校が日本軍士官に敬礼し、情報交換が始まる。

 アメリカ政府は人道上の理由で “風土病” で生き残ったアメリカ兵の捜索した事実を必要としており、

 日本政府も人道上の理由で “風土病” の医療上の情報を欲した。

 しかし、公にしている表向きの理由もあれば、公にできない裏の理由もあって、

 戦時下でも国の上層部同士で、ギブ&テイクが成り立つと交渉が進む。

 アメリカ政府は “風土病に犯されたアメリカ軍将兵の生存者を捜索した”

 というパフォーマンスと事実を欲し、

 日本政府も対処不能の細菌兵器や化学兵器の対策を知りたかった。

 どこの国でも負担だけの捕虜は欲していない。

 これは万国共通で捕虜を監視し、衣食住の面倒を見て養うなどばかげている。

 戦場で捕虜規定を守り、自軍の戦略物資を目減りさせるのは利敵行為、

 殺してしまうのが一番で、手っ取り早い解決案だった。

 無論、例外もある。

 「・・捕虜は、いますか?」

 「生きているのは、56人です」

 「風土病にかかった将兵は?」

 「天然痘から回復しているのが4人」

 「炭疽菌から回復しているのが2人。別々に隔離しています」

 「引き渡していただきたい」

 「ええ、かまいません」

 「捕虜規定は?」

 「激戦でしたので徹底されませんでしたが可能な限り守るようにしていますよ」

 「それは、ご親切に・・・」

 「いえいえ、日本とドイツが捕虜規定を守りやすいのは中立国から送られてくる資金や物資のおかげですよ」

 「帰還すれば家族も喜ぶでしょう」

 「捕虜に必要な物資と資本が送られるのなら無慈悲に捕虜を殺す事もありませんからね」

 「日本も捕虜の為の物資と資本をアメリカに送ってくれるのなら」

 「日本軍捕虜はパフォーマンス以上に増えると思いますし」

 「アメリカ軍将兵も残忍な扱いを慎むでしょう」

 「いや、いや、日本の国力では、とても真似できませんよ」

 「そうですか」

 「とりあえず捕虜は引き取りますが、他にアメリカ兵を発見したときは、お願いしますよ」

 「はい。あ・・・そうそう、一人は民間人でした」

 「民間人?」

 「有名な方ですよ。リンドバーグです」

 「無事ですか?」

 「ええ。一応、捕虜扱いにしています」

 「それは良かった」

 「この戦争。彼はどうも批判的でしてね」

 「これで少し変わってくれるでしょう・・・・」

 連合国の大型飛行艇は、捕虜を乗せると飛び去っていく、

 そして、アメリカと日本の間で裏取引があった。

 アメリカは、ポートモレスビーの “風土病” の次善策を決定していた。

 秘密を知っているアメリカ兵の捕虜を日本の手元に残したくなく、手元で監視したがる。

 代償は日米二国間政府交渉で裏取引が済んでいるのか、あっさりしていた。

 もちろん、どういった裏取引が行われたのか不明で、利権者同士の保身を確保と推察される、

 当然、取引の内容は闇から闇へと消えていく予定にあった。

  

  

  

 アメリカ西部

 剥き出しの欲望は、荒れた原野を開拓させる原動力だった。

 しかし、開拓が進むにつれ、

 法と資本が育つと、男たちに理性と秩序を押し付けてしまう、

 アメリカ人のフロンティアスピリットを形骸化させ、葬り去りさったのは近代化の波だった。

 そして、時代は流れ、

 華寇軍は、アメリカ人が忘れていた無知、野生、暴力の種をこの西部に撒こうとしていた。

 彼らは自由奔放に無法で野蛮な領域を拡大していく、

 「・・・おなか空いたある」

 「どうしたら良いニダ。アメリカは広すぎるニダ・・・・おなか空いたニダ」

 「おまえ、満腹という名前なのに。なぜ、おなか空くある」

 「おまえこそ、順華なのに、なぜ、上手くいかないニダ」

 「あの白人女は良かったある♪」

 「ウン、嬉しそうに泣いてたニダ〜♪」

 「おまえのは小さ過ぎて女の子が泣いてたある」

 「そんなことないニダ。小さいと、その分、持久力があるニダ」

 「そうあるか。次は、時間を計るある」

 「大丈夫ある。次の農場では絶対にイカせるニダ」

 「ん・・・次の農場を見つけたある」

 「あ・・・白人女ニダ♪」

 「ど、どこあるか?」

 「裏で洗濯物を干してる・・・金髪で、かわいいニダ〜♪」

 「いた・・・でも、できすぎある」

 「んん・・・・ん?・・・草むらにジープを隠しているニダ」

 「罠あるか?」

 「罠か。魔除けか。わからないニダ」

 「・・・どうするある」

 「迷うニダ〜 男の性がたぎるニダ〜!」

 「ここは、はずして次を・・・」

 「い、行くニダ〜!!! 突撃ニダ!!!」  "8<^∀^8>=<8^∀^>8" 

 〃〃〃〃<o≧∇≦>o〃

 「こ、こら、待つある!」   ┛)"0"(┗

 「愛の戦士。行くニダ!!!」  〃〃〃〃<o≧∇≦>o〃

 満腹は突撃し、

 順華は見送る。

 草むらからアメリカ兵が現れ、

 銃撃戦

 「に、逃げるニダ〜!」

 「だから待て、言ったある〜!」

 「でも、あいつら、ばかニダ」

 「もっと、引き付けて撃てば良かったニダ」

 「最近、そういうのばっかりある」

 「助かったニダ」

 「そういえば、日本人。東に行けば神風が吹くと言ってたある」

 「日本人嘘つきニダ。信じるとバカを見るニダ!」

 「でもアメリカ軍は減っているある。不思議ある」

 「それより、やばいニダ」

 ジープが3台に増え、満腹と順華の逃げ道が塞がれていく、

 「ま、不味いある〜 自由と博愛の旅が終わりそうある〜」

 「ぅぅ・・・最後にあの白人女を可愛がってあげたかったニダ〜」

 「俺たちの、愛の気持ちが裏切られたある〜」

 「なんて、バカで不幸な白人女ニダ〜」

 アメリカ軍兵士10人は、満腹と順華を崖に追い詰め、

 ガーランド自動小銃を向ける。

 にやりと微笑んだアメリカ軍の士官が腕を振り上げ、

 ゴックン!!

 銃声が轟き、アメリカ軍兵士に矢が突き刺さり、次々と倒れていく。

 !?

 「助かったある♪」

 「アイゴ〜 神風ニダ」

 アワワワワ!! アワワワワ!! アワワワワ!! アワワワワ!! 

 西部劇で、お馴染みのインディアン登場。

 「・・インディアン。嘘つかない。華寇、友達」

 「やったニダ〜! みんなで、さっきの農場に戻るニダ〜!!!」

 「みんなで、人種、宗教、文化、言語、差別の壁を越えるある〜♪」

 「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 「華寇は愛の戦士ニダ!」

 「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 「人類は皆兄弟姉妹ある!」

 「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 精霊と共に生きるインディアンの高貴な魂が次第に汚されていく、

  

  

  

 

  

 チチハルとハルピンの中継地。安達。

 この地でソビエト軍を迎え撃つ予定はない、

 チチハルを失えばハルピンまで後退する。

 駐留していた日本軍は退路を確保する為の駐留旅団であり、

 漢民族の暴走を押さえている守備隊に過ぎない、

 中国全域は大陸鉄道によって好景気になりつつあった。

 特に工業の大きい満州は、日本資本に魅かれたのか、漢民族の人口も増えている。

 満州帝国の行政も警察機構も実質、日本の管理下、

 特に満州鉄道沿線は、完全に治外法権の外、日本そのものだった。

 数人の日本人官僚が住民の視線と雰囲気、距離感を感じつつ歩いていた。

 ソ連の対日参戦後、不満分子の動きは肌で感じやすい、

 貧弱な日本資本では、増え続ける漢民族の衣食住はまかなえない。

 官僚の一人がリンゴを買うと乞食をしている子供に渡す。

 「・・・ふ・・・偽善だな」 自嘲気味。

 「偽善はいいよ。気が紛れる」

 「一人の子供に感謝されて数万の人間に呪われる人生だ」

 「日本帝国の為とはいえ、救われん人生だな」

 「満州帝国の為でもあるさ」

 「少なくとも満州帝国は傀儡で、独立していないよ」

 「日本は植民地経営が下手だからな」

 「日本人は、農耕民族で育てるのが好きでね」

 「白人のように人間を飼うような神経は持ち合わせていないんだよ」

 「日本型の植民地生活は捻じ伏せるより浸透型だから、曖昧で年月がかかる」

 「少なくと日本人と漢民族は、ロシア兵から女子供を守っているだけかな・・・」

 「秩序は大切だぜ、満州帝国5000万人が、それなりに生活している」

 「それなりだろう。貧弱な日本資本じゃ 無理だな」

 「満州帝国の自己責任なら自業自得で、不満は帝国自身の責任だ」

 「しかし、中途半端な傀儡だと不満もたまりやすいし、不満を日本に向ける事もできる」

 「利権が半分で不満が9割か。割に合わんな」

 「満州帝国も放り出したいよ」

 「だけど、半島まで日本民族が来ている」

 「いまさら投げ出せないよ。日本人も増えているし」

 「この戦争が終わったら満州行政で手を抜きか?」

 「どうだろうな」

 「日本人も欲が深いから大陸鉄道権益だけは手放さないだろうな」

 「命の代償か」

 「だが、漢民族も洒落にならないほど死んでいるけど」

 「命の値段も計算するのか・・・もう地獄行きだな・・・・」

 「極東ロシアと漢民族を磨り潰してならよかったけど、恨まれ過ぎで日本が国力が磨り潰されそうだな」

 「漢民族は、穴掘りをさせて弱らせるのが一番だろうな」

 「それで満州を守れたら良いけどね」

 「漢民族も民族自決権を得たいのなら相応の血を流すべきだ」

 「・・・いま一番、攻勢が強いのは内モンゴル側らしい」

 「鞍山と遼陽を落とせば半島まで一気に戦線を推し進めるからな」

 「追加の漢民族は、送っているが不穏な動きを見せている」

 「もっと、穴掘りさせるか」

 「衣食住の関係も、ありますからね。これ以上、送っても・・・」

 「だが。あまり、漢民族が強くなるのは、問題だぞ」

 「この近くも掘るか」

 「ええ、少しは、足しになるかもしれませんね。漢民族の弱体化で」

 「小銃渡すより、死ぬほど、穴掘りをしてもらった方が・・・」

 「そうなんだよな」

 「歴代王朝がしていたように民の力を削ぐんだよな」 泣き

 「そうそう、ここは心を鬼にして・・・」

 「サボると、歴代王朝と同じで潰れるし」

 「満州帝国も、南京政府も汚い仕事を日本に摩り替えてしまう節がありますからね」

 「日本も奇麗事言わずに本性丸出しだし」

 「欲深〜」

 「よし、毒を食らわば皿までチチハルに至る街道も対戦車用で穴掘りだ!」

 「はぁ〜 俺たち魂を悪魔に売ってるな」

 「こうなったら、高値で魂を悪魔に売ってやる」 泣き

  

  

 

        


 月夜裏 野々香です。

 さて、そろそろ日本の民主化を考えないと

 作者が生存不能な日本社会となってしまいそう。

 少なくとも、戦前・戦中の日本社会だと作者は生きていけない気がします。

 そう作者が生きていける程度、怠惰で寛容な社会へ、

 日本の国体を体質改善しないと・・・・

 って、どうするんだろう・・・・

  

  

 いよいよ、大慶油田が・・・・・

 これから穴掘りやって製油所作って油送パイプを作って・・・・・

 戦後か〜!!

 って・・・本当に発見できるのだろうか・・・

  

  

  

  

  

  

 

   

ランキングです ↓ よろしくです。

NEWVEL     HONなび

長編小説検索Wandering Network

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

 
第37話 1945/06 『相 殺』
第38話 1945/07 『まだ、講和未満』
第39話 1945/08 『殺す戦い VS 生きる戦い』