月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

   

第40話 1945/09 『情けは人の為ならず』

 第二次世界大戦は、停戦で収束していく、

 停戦とはいえ、枢軸・連合各国が足並み揃えて “いざ、再開戦!” もなさそうだった。

 枢軸・連合とも共同統治で旧フランス植民地を分け合い、それなりの収益もあった。

 このまま、 枢軸国側(独伊・東欧 + 日中・東南アジア) VS 連合国側 (米英 + ソ連) の冷戦へ移行する。

 停戦は軍産複合体にとっては、喜ばしい状態で

 国際緊張が軍人の実入りを維持させる。

 とはいえ、枢軸と連合は疲弊しており、各国とも国家再建など、やるべき事が多い。

 貧乏な国は軍事費を削減しない限り立ち行かない、

 戦後 “動かざること師団の如し、静かざること連合艦隊の如し” と言われるのも金欠病が原因だった。

 連合艦隊の将兵も陸に上がり、

 復興事業、再建事業で土方作業するほかなかった。

 

 

 日本の大都市は、見渡す限りの焼け野原にされていた。

 遺体処理さえなければ、広々として気持ちが良いほど・・・

 「潜水艦の中も酷かったが陸に上がっても酷いな」

 「満州で油田を見つけても、これか・・・」

 「子供たちに良いところを見せて軍艦乗りを志望させるしかないな」

 「軍も縮小だろう。出世競争も厳しくなるかな」

 「もう、土地は増えたんだから、見切りをつけるべきだよ」

 「・・・支持票が減ると海軍もクビだなこりゃ」

 「しかし、日本本土爆撃は悲惨だな」

 「こりゃ 大都市は、その日暮しじゃないか」

 「見晴らしだけは良くなったけど、人口が減って区画も広がる。良いじゃないか」

 「一人当たりの土地面積が増えるのは嬉しいがね」

 「これじゃ 農業国だよ」

 「お、子供たちの作った屋台がある。たくましいな」

 出来合いの掘っ立て小屋に浮浪者が集まって何かを油で揚げている。

 いまの内に稼いで冬を越さないと大変なのだろう。

 必死に生きていこうとする、ひたむきさが眩しく感じる、

 焼け野原で土地があっても家がない。

 中規模以下の都市は、無傷でも、失われた資産と資材は多かった。

 「・・・イナゴ・・・バッタ・・・蛇に・・・カエルに・・・タニシ・・・これは、なんだ?」

 「カイコのサナギだよ。軍曹殿」 と子供が敬礼する。

 国が焼け野原にされても、停戦で引き分けだと軍人も尊敬されるらしい、

 「カイコを食べてみるか・・・」

 「ありがとう。軍曹殿♪」

 「・・・ぼうず。軍人や大人たちを恨んでいないか?」

 「どうして?」

 「あ・・・いや・・・大人の責任だからな」

 「いいんだ。父さんと母さんを悪く言えないよ。親だもの」

 「そ、そうか・・・」

 焼け野原での生活は苦しかった。

 親が子供を見放し、子供が親を見捨てる。

 酷いときは親子で殺し合いも起こり、夫婦でも憎みあう。

 しかし、親が子供のために犠牲になり、子供も親のために苦労することもあった。

 前者は金のある、なし、に関わらず不幸に思え。

 後者は金のある、なし、に関わらず幸福に見える。

 「・・・ああいう子供の資質、気品、品格は、出所不明だな」

 「どちらにしても欲望丸出しの醜い人間は、品格の良い人間を犠牲にしていくからね」

 「純粋なままで生きていけないよ」

 「そりゃ 戦地帰りだからね」

 「モノ以下の価値しかない人間もいるよ」

 「“もう、おまえ死んでくれ” というヤツ?」

 「いるいる」

 「利権塗れで暴走のあげく、自暴自棄になって国を滅ぼしかねない指揮官とか」

 「部隊ごと全滅させるバカな上官とかね」

 「しかし、唯物思想を入れるわけに行かないな」

 「人間は、唯物史観を知らなくても人よりモノに価値を置きやすい」

 「モノ以下の人間はいるよ。人殺し、人でなし・・・」

 「日本人は哲学や思想、宗教より。自然から学ぶからね」

 「当然、理不尽なときもある」

 「日本は天災ばかりだったからな」

 「しかし、今度の戦争は人災だよ」

 「報われないな」

 「家に帰っても雰囲気が違うし」

 「半分近い日本人が半島に追いやられたのだから人間もささくれるよ」

 焼け野原を着の身着のままの生き残りたちが行き来していた。

 「「やれやれ」」

  

  

 アメリカを除く世界の主要都市が同じ状態だった。

 余剰資金で余裕のあるアメリカは中国とイタリアの離反工作交渉を始める。

 日本にとって中国の離反、

 ドイツにとってイタリアの離反は死活問題になりかねない、

 それとなく妨害する。

 しかし、余りにも露骨な妨害だと中国とイタリアの反発も大きくなった。

 “北風と太陽” と同じで、

 日本にとって中国はコートであり、

 ドイツにとってイタリアはコートだった。

 銃口を向けられると同盟の結束は強まる。

 しかし、金を向けられるとコロリで離れていく、

 日本資本とドイツ資本はアメリカの資本攻勢に対抗できない。

 札束で頬を叩くアメリカ資本を信用するなと、中国・イタリア政府に圧力をかけるだけ、

 しかし、やり過ぎは禁物で、さじ加減が求められた。

 日本 首相官邸。

 「・・・まだ噂ですが、アメリカの薬局と病院が揚子江に進出するようです」

 「あいつら金に任せて汚ねぇ真似しやがって」

 「どんな権力者でも医者には勝てんからね」

 「日本租界から離れた場所に病院や薬局を作っても、どうせ腐敗行政だ」

 「採算が合わなくなれば撤退するさ」

 「どうかなアメリカと中国が結束する可能性も高い」

 「それに医療関係は太刀打ちできんよ」

 「むぅうかつくぅうう〜 アメリカは華寇で痛い目に遭っているというのに・・・」

 「華寇帰還を促進する為の処置だろう」

 「アメリカも希少資源欲しさとはいえ切り返しが早い」

 「アメリカは、思想漬けのソビエトより、拝金主義の中国の方が毒が弱いと考えたのだろう」

 「イタリアにも進出しようとしている」

 「アメリカの野党は何しているんだ? 国民感情は?」

 「停戦しているのに華寇を簡単に殺せないだろう」

 「わかっていたこと、とはいえ戦後は厳しいな」

 「朝鮮は?」

 「朝鮮民族の年功序列と権威主義的が復権している」

 「アメリカが、いくら干渉しても悪癖全開なら朝鮮の近代化は遅れる」

 「卑屈な精神も頼りになるか・・・」

 「それも微妙だな」

 「近代化が弱いと朝鮮民族が漢民族に取り込まれて中国が強大になってしまう」

 「朝鮮民族の識字率は高いよ」

 「揚子江経済圏の中枢だと思っているし、簡単に取り込まれないだろう」

 「だと良いがね」

 「どちらにせよ」

 「日本が大陸鉄道と揚子江経済圏を押さえていれば上澄みの利益が入ってくるよ」

 「問題は国内の都市計画ですかね」

 「青写真は、できているが予算がな」

 「物資も山積みだが大陸や半島の方が工業化で有利だ」

 「と、とにかく、最優先は日本のモラルを安定させるべきでしょう」

 「段階的な民主化も必要かと」

 「我が国にはモラルを敵国には腐敗をか・・・」

 「あはは、徴兵制のモラル低下は激しかったからね」

 「どれほど能力、実力、科学知識、工業力、社会整備、資産、資源があってもな」

 「モラルがなければ自滅だよ」

 「相互不信を払拭して社会不信だけは何とかしないと」

 「問題は、国債と軍票かな・・・」

 「大都市が燃えているので軍票も国債も灰になっているかと・・・」

 「爆撃してくれて、ありがとうとは言えないがね」

 「あはは・・・」

  

  

 崇明島

 国の工業化には火力資源、鉄鋼資源、水資源と人材と資本が必要だった。

 一定以上のモラルが国民にあるなら学制を敷き、知的水準を向上させていく、

 仕事で経験を積み、ノウハウを確立していけば、さらに市場を大きくすることができた。

 日本と中国沿岸部は、資源だけでなく、磨り潰せるだけの労働力と消費市場があり、

 アメリカ東海岸の如く発展する可能性を秘めていた。

 アメリカは、その潜在力の高さを恐れ、日本の中国侵略を妨害し、起きた戦争でもあった。

 日本は、ボロボロになりながらもアメリカの野望を退け、ソビエトの火事場泥棒的な攻勢に耐え、

 中国・東南アジアの権益を維持できた。

 日本の資源とドイツの工業機械は大量に交換され、

 日独伊中は戦後も連携を強めていた。

 日本は、ドイツから科学技術、工業品製造、品質管理を資源と交換で得ると、工業製品を向上させていた。

 アメリカとイギリスは連携しつつ、グローバルな利権を構築し、枢軸国を分断していく、

 停戦は交戦状態でない戦争状態といえなくもなく、

 ソビエト連邦は、スターリン亡き後、権力闘争の混迷期に入って混乱中で、

 アメリカは国力こそ世界一だったものの、西海岸の華寇軍狩りと、少数民族の蜂起。便乗犯罪が横行し、

 史上最悪の治安状態が続いていた。

 

 

 揚子江

 日本商船が行き来している中、

 アメリカの星条旗と中国の青天白日滿地紅旗が並んだ船が通過していく、

 揚子江を監視する崇明島の灯台に日本人がいた。

 「・・・アメリカのリバティ船だな」

 「華寇を乗せているらしい」

 「ほう憎い華寇を殺さず、船をつけて帰還させているのか。アメリカも優しいね」

 「戦争が終われば、そういうものだろう」

 「それに無事に帰還させれば残ってる華寇も降伏しやすい」

 「リバティ船は買えるのかな」

 「買えるが安くないぞ」

 「日本の建造が間に合わなければ買うしかないだろう」

 「しかし、日本は危なかったな」

 「ああ、工作機械、人材、資本で末期だったからな」

 「一人当たりのGDPが増えた中国が教育熱を育て、産業に力を入れるようになると・・・」

 「教育は年月が必要だよ」

 「たしかに。学校という器を作って教育制度を定め」

 「知識とモラルと15年掛けて教え込むことになる」

 「教育費が必要で教育成果も当たり外れがある」

 「そして、最先端研究は、途方もない資本を投入しなければならないか」

 「中国が外国人を雇わなければ、いまの日本のレベルになるのに30年くらいは必要だろうな」

 「そのくらいか?」

 「・・・人口と識字率で掛けないとな」

 「中国社会の不正腐敗が進んでくれたら良いがね」

 「富農が増えているから微妙だが」

 「日本も富農が増えている」

 「しかし、人材が集まりにくいと産業でマイナスだな」

 「ドイツの技術を使えば農業機械を効率化できるだろう」

 「後は余剰人口が産業とサービスに回るかも知れないな」

 「そういえばドイツ経済も厳しいんだろう」

 「日本と同じ大都市だけだ」

 「それに都市も占領地も無傷が少なくない」

 「大都市は集中的に狙われたからな」

 「アメリカも少数民族の蜂起と華寇軍で混乱しているから、それほど良いわけじゃないさ」

 「治まらないのか?」

 「逃げ回っている華寇がいるらしい」

 「中国に帰還すれば凱旋なのに?」

 「信頼関係がゼロだし、犯罪生活が楽しかったんじゃないか?」

 「白人女か」

 「ああ」

 「酷いな。それ」

 「まぁ 狩り立てたのは中国兵だけど。運んだのは日本海軍だし」

 「しかし、どこも、かしこも酷いな」

 「崇明島は、これからだよ」

 「満州の大慶油田も希望らしいがね」

 「どちらにせよ。ドイツの技術がなければ、お手上げだ」

 「そういえば日本は周波数をドイツと同じ電圧で50ヘルツに変えるそうだ」

 「やれやれ、本格的に反米だな」

 「日本とドイツの連携強化が早いか、アメリカの治安回復が早いか。だそうだ」

 「だけど、アメリカの核は怖いぞ」

 「華寇は、アメリカにとって核以上だよ」

 「子供を黙らせるときに使えそうだな。華寇が来るぞって」

 「日本でも怖いよ。弾の数より華寇の数の方が多いし」

 「中国人が自信を持ち始めているからな。勝てんよ」

  

  

  

 クレムリン カザコフ館

 フルシチョフ書記長は、モスクワに原爆が投下されたことで出世していた。

 それは、それで良かったものの、

 国際社会でソビエトの置かれた情勢に撫すくれていた。

 ソ連軍はドニエプル河を越えられず。

 北部方面もリガ、ミンスクを回復できず停戦し、

 極東の満州から撤退させられるどころか、日本軍に北樺太を占領される始末、

 ソビエトは、再起・再興を図る為、資源を放出する以外になく、

 新書記長はソ連国内の安定を図るよりなく、

 連合・同盟の共同名義で不自由・薄利な旧フランス領の利権へ手を伸ばしていく、

 旧フランス領は、戦後、ソビエトの市場と世界戦略を広げる足場になった。

 ソビエトは、米英・日独伊中の陣営のどちらからも疎外にされ、

 旧フランス植民地は唯一、国際社会で共産主義を発言できる場所だった。

 「満州の油田は?」

 「はい、船舶、火力発電、製鉄はいいようですが、ガソリンに向かないとの情報です」

 「そうか・・・満州帝国の防衛線は?」

 「はっ! 強化されつつあるようです」

 「捕獲されているT34戦車は1000両に及ぶとか」

 「そうか・・・」 ため息

 「日本と同盟国の離反工作を進めてくれ」

 「民衆を共産主義、民族主義、何でも良いから煽って仲違いさせて戦争させるんだ」

 「はっ!」

 「今度は、高みの見物で儲けてやる。T34戦車を売りまくれ」

 「余剰資金を作ってソ連の政権を安定させるしかないな」

  

  

 日本は、大陸鉄道、崇明、揚子江経済圏、大慶油田の相乗効果で経済を成長させていた。

 瑞穂半島に集まりかけた人口は、経済的な要求で中国大陸へと引き摺り込まれていく、

 そして、大陸の日本人が少しくらい増えても

 日本の大陸支配は、点と線が濃くなるだけで、それ以上にはならない。

 「・・・なぁ 中国人の知的水準が上がっていないか?」

 「利己主義な気質は変わっていないと思うが一人当たりのGDPも増えている」

 「識字率が上がるだろうな」

 「文盲を華寇で送っていたから、やりすぎたんじゃないか」

 「んん・・・っで、ハーレムって?」

 「あっち」

 「むふっ♪」

 「まぁ 日中友好で、もう少し知的水準を上げてやるかな」

 「そう、友好、友好」

 中国と朝鮮の歴史で女の人口が男の人口を上回るのは珍しい、

 日本は、財政再建中で軍票、国債、年給、見舞金、遺族年金をまともに払えず。

 地域と階層で温度差が違うことが多く、悲惨だったりする。

 

  

  

 瑞穂半島

 軍部は、再建需要で工作機械を民間に取られ、機体の生産が後回しにされていた。

 それでもカツカツの努力と、人脈を駆使し、無理を言いながら

 エンテ・カナード型の後退翼ジェット戦闘機震電を完成させていた。

 ドイツ製ジェットエンジン(推力1000kg)を装備した機体は、時速760kmを出し、

 航空部隊将校の目を見張らせる。

 ホルテンHo229のような前衛性はないものの、Me262(推力900×2)より洗練され。

 シューティングスター(推力2450kg)に近い、

 このまま、ジェット戦闘機となるか。ジェットプロップ機となるか。

 日本軍首脳の頭を悩ませる。

 

 滑走路には、他にも戦利品が並べられていた。

 アメリカ製、

   B24爆撃機、B17爆撃機、

   ムスタング、サンダーボルト、ブラッウィドウ、

   M4シャーマンなどなど・・・

 ソ連製、

   スターリン戦車、T34戦車、シュトルモビク、La戦闘機、ミグ戦闘機などなど・・・

 イギリス製、

   スピットファイア・・・

 負けていたら返還でも引き分けになると、返還義務もなく、調べるのは自由だった。

 ドイツ製工作機械なら模倣できそうだった。

 どちらかというとドイツ製兵器の性能が優秀に思えた。

 もっとも、新規開発力になると日本は列強最弱で、欧米製部品の模倣すらまともにできなかった。

 

 ドイツ製ジェットエンジンが火炎を吐き、

 その隣で、国産ジェットエンジンが小さい火炎を吐いていた。

 「・・・コイツ大丈夫か?」

 「希少金属を輸出して手に入れた工作機械で製造した」

 「模倣にしては悪くないだろう」

 「相変わらずジェットエンジンも借り物で、しかも推力は半分か、ショボイな」

 「日本は、科学技術で追いつこうとしても、具現化する基礎工業力で開きがあり過ぎるね」

 「プロペラエンジンは馬力比7割で国産していたぞ」

 「工作機械は外国製だよ。特に心臓部は全部、借り物」

 「相変わらず借り物か」

 「まともなマザーマシーンを作れるようにならないと資源があっても中国並みだな」

 「まともなマザーマシーンは、どうやって作るんだ?」

 「大量生産された工作機械で偶然マザーマシーンの精度を超える工作機械ができる」

 「つまり、そいつが新しいマザーマシーンになる」

 「偶然頼みかよ」

 「それともドイツから買うか、だろうね」

 「はぁ〜」

 「それより戦車は?」

 「捕獲戦車のM4戦車とT34戦車」

 「あれで十分。というより戦車を動かす燃料もないらしいが・・・」

 「かあ〜 ショボ過ぎる〜 パンターF型とか設計図が揃っているんだろう」

 「もう、無理」

 「戦車なしか?」

 「日本本土の配備を含むなら17トン制限で戦車予算が取れるかも・・・」

 「・・・・・」 ため息

 「強面は、ほとんど死んでしまったし。帝国議会は、軍の暴走を許さないだろうな」

 「一騎当千の士官、下士官をポートモレスビーで磨り潰したからね」

 「軍組織も統制しやすい程度に縮小するしかないだろう」

 「うん。だいたい軍組織が大き過ぎて見境なく暴走していたんだよ」

 「議会が肥大化しすぎた軍部を抑えられず」

 「国の自浄能力を期待できないときは、他国の力を使ってでも是正するしかないよ」

 「本当は、原爆落としてくれて、ありがとう、なんだけど女子供が死に過ぎているし」

 「国民感情を考えると言えないけどね」

 「それくらいの犠牲が出ない限り、人は利権を手放せないよ」

 「それでもいるよ」

 「戦渦に巻き込まれた女子供が逃げ惑っている被災者を見ても」

 「自分の利権を抱えてニヤニヤしているやつがね」

 「人の命より自分の利権か。人の業だな」

 「こういう戦時下の雰囲気は、少しずつ色褪せていく」

 「そして、思い込みだけの人道主義、正義感、民族主義で判断されてしまうんだろうな」

 「偽善が公で言えるだけでも良いよ」

 「人殺し反対とか。鬼畜米英は止めましょうとか。人類皆兄弟とか」

 「それでも民間人100万、軍人30万が死んだ」

 「厭戦気運は、一世代くらい持つだろう」

 「それより聞いたか?」

 「ん?」

 「満州の油田は相当な難物らしい」

 「採れないのか?」

 「いや、重油質でガソリンどころか、デーゼル油。重油も厳しいそうだ」

 「本当に?」

 「ああ、まだ満州油田の全貌は掴んでいないが粘土に近いそうだ」

 「んん・・・」

 「ドイツの技術でも製油所は、かなり大掛かりになるかもな」

 「人造石油よりマシだろう」

 「火力発電と製鉄所は十分だが。船舶用で取れる分は少ないらしい」

 「やれやれ・・・アメリカに気付かれなくて良かったな」

 「気付かれていたら、戦争は延びていたかもしれないな」

 「ドイツの核で講和ができたかもしれないだろう」

 「日本のアドバンテージは、もっと低かったかもね」

 「やれやれ・・・」

  

  

 華寇の被害は中部アメリカへと広がっていた。

 3台のジープ、トラック2台が荒野を疾走する。

 華寇は、隠れ潜み。見つかると、クモの子を散らすように逃げていく、

 アメリカ軍が数台のジープで華寇軍を追い掛け回し、

 降伏させてトラックに詰め込んでいく、

 華寇を殺せば犯罪は暴行から強盗。強盗殺人へと悪化していく、

 殺さず生かして中国本土に帰還させなければならず、頭が痛いところ。

 アメリカ政府は不承不承に中国人・朝鮮人の傭兵を雇い、

 華寇を捜索・降伏させるため費用がかさんでいく、

 また、少数民族と華寇が共謀し、便乗犯罪が増えていた。

 「・・・くっそぉ〜 トロールを殺してぇ〜」

 「麻酔銃で我慢するんだな」

 「殺していることが連中に伝わると民間人を本当に虐殺する」

 「だけど市民が猟銃でトロール狩りを楽しんでいるじゃないか」

 「軍隊の俺たちが捕まえる方がおかしい」

 「一貫性はないがな。アメとムチだよ」

 「どうせ、太平洋で半分くらい海に投げ込むんじゃないか」

 「俺たちは捕まえる役だよ」

 「貧乏くじだぜ」

 「華寇の本音は、中国の帰還を望んでいないらしいがね」

 「帰還命令を無視したときだけ脱走兵扱いか、ったく、華寇は厄介だな」

 「だいたい無線もないのか、あの連中は」

 「あいつら自身が最悪最狂の細菌、ばい菌だよ」

 「アメリカは汚染されているよな」

 「いやだぜ髪と眼の黒い子供が増えるのは・・・」

 「「「・・・・」」」

 「だんだん、殺したくなってきた」

 「うん」

  

  

 米英共同統治領ノルマンディ区

 自由資本主義のモデル区として、体裁を整えつつあった。

 金髪のアイリスと、黒髪のマイは、戦後のノルマンディ区に立つ、

 宣伝目的なのか、停戦を印象付けたいのか、観光だった。

 各国のマスコミが有名な二人をバシャ! バシャ! と写していく、

 「・・・ここはアメリカみたいな自由資本主義にするみたいね」

 「ふ〜ん」

 「むかしね、ノルマンディ公国というのが、あって独立したがってたの」

 「独立するのかしら?」

 「北側のドイツ領フランスと南側のイタリア領フランスがそのままだと、独立できないかもね」

 「ふ〜ん でも北フランスがドイツ領で良かったわね。パリは華やかでしょ」

 「ドイツ人が住むと質実剛健になりやすいから。美学より機能美だしね」

 「ねぇ アイリス。ドイツ人は、本当に質実剛健なの?」

 「わたしたちに歌えって、どういうの?」

 「ったくぅ ゲッペルスのやつ」

 「いくら停戦を定着させたいからって、ドイツ女性を芸人にさせようなんて・・・」

 「あの馬鹿はビールの飲み過ぎよ。信じられないわ」

 

 アメリカ人とイギリス人

 「意外とフランス人は少ないな」

 「この辺はレジスタンス狩りで、ほとんどベラルーシ側に連れて行かれたらしい」

 「フランス領植民地のフランス人が戻って来るだろう」

 「しかし、栄光のフランスがドイツとイタリアに分割されてしまうなんて黄昏だな」

 「フランスは独立させないのか」

 「独立させるべきだろうが・・・」

 「ドイツとイタリアも占領地が外郭防衛線だからな・・・」

 「本気でフランス人を東欧側に移民させる気だな」

 「ヴィシー・フランスで収まっていた方がフランス人も国の体面が残されていたのに・・・」

 「しょうがないよ」

 「スイスとのルートは確保できた?」

 「ああ、ドイツ資本でスイス航空がね」

 「あそこは資金がある。大丈夫か?」

 「ドイツとイタリアも上層部は、私腹を肥やしてスイス銀行に入れてうし」

 「発覚は、致命的だからスイスには手が出せないよ」

 「だと良いが・・・」

 「自国の銀行より、信用できる銀行だ。失うわけに行かないだろうよ」

 「悪党が銀行を守るなら強いだろうな」

 「有力者だけじゃなく、それに便乗している庶民も多い」

 「みんな、わかっているのさ」

 「世界が正義で作られていないことに?」

 「老若男女に関わらず、人の欲が世界を作っている」

 「だから世界は紛争に包まれる」

 「なんか・・・無性に反発してきたくなったぞ。この世界に・・・」

 「まぁ そのうち良いこともあるさ」

 「それはフランス人を慰めているのか? それともイギリス人?」

 「社交辞令だよ」

 「社交辞令は大切だろう」

 

 

 豪州

 病院

 炭疽菌は、肺感染の致死率が高いものの、

 人から人への感染は弱く、猛威は低下していく、

 「・・・天然痘のワクチンはまだか?」

 「イギリス本土から少し届いていますがアメリカからは遅れ気味です」

 「どういうことだ?」

 「華寇が本土に残っている為では?」

 「ふざけんな〜!」

 「元をただせばアメリカ人が持ち込んだ細菌兵器だぞ!」

 「軍も、まだ隠し持っているようで・・・」

 「うぬぅうう〜」

 「ダーウィンとパースの華寇は、無分別に拡大中ですし」

 「撤退させるには軍事的圧力が必要とか」

 「華寇軍は、天然痘にかかっていないのだろう」

 「可能性だけで持っていたいのだと・・・」

 「華寇そのものが超・極悪細菌なんだぞ。天然痘なんか使うか!」

 「殺菌消毒したいですな」

 「ふっ♪ まったくだ」

 医者が殺意を持つと世の中、救われない。

      

   

 日本

 某所

 「おまえら!」

 「命懸けで戦った帝国陸海軍を愚弄するつもりか〜!!」

 「い、いや、十分に敬意を払いますよ」

 「ふざけんな〜!」

 「道理を引っ込めて小賢しい金儲けに走りくさりやがって。恥を知れ、恥を〜!」

 『この、くそじじぃ〜』

 「いやぁあ、もちろん、遺族年金とか、恩給とか、見舞金とか。きちんと払わないといけませんから」

 「現有戦力を機能不全にして何を言うか非国民!」

 「いや、戦後の必要経費で、国民も大変ですし、ここは軍も協力していただけたらと・・・」

 「ふざけんな〜!」

 「栄光ある帝国海軍を削減して、どうする!」

 「いや、だからね。国の再建を最優先に・・・」

 「バカタレ!!」

 「陸海軍将兵は、一兵卒に至るまで粉骨砕身。身を賭して戦ったのにこの仕打ちか!」

 「・・・」

 「満州で油田を発見したのに何を言うとる!」

 『いや、発見したから、だったりして・・・』

 「・・・はぁ〜 おまえら情けがないのか! 人の心がないのか!」

 「・・・」

 「陸海軍が帝国を守ったんだろうが!」

 「おまえら、信賞必罰の原則も知らんのか。国潰しが〜!」

 「で、でも、ほら、みんな生活が大変でしょ」

 「あ〜! 根腐れしおった!」

 「あの・・・」

 「アメリカ、イギリス、フランス、ソビエトを敵に回して一歩も退かなんだ大日本帝国が金の力に屈しよる〜」

 「いや、好きでやっているわけじゃ・・・」

 「情けなか、嘆かわしか〜」

 「い、や・・・泣かんでも・・・」

 「いいかぁああ〜!」

 「おまえら、武士は食わねど高楊枝という言葉がある!!!」

 「はぁ〜」

 「人間をな。利益を追うばかりの卑しい泥棒根性にしたらいかん、という意味じゃ」

 「わかっているのか!!!」

 「はぁ〜」

 「このままだと、日本民族は卑しい、浅ましい、無分別な国民になってしまうぞ!」

 「はぁ〜」

 「目先の金よりもな。国家の威信」

 「つまりだ。国の礎たる国軍の安寧を図ることこそが」

 「日本民族の清らかな精神を守る要ぞ・・・」

 「はぁ〜」

 「聞いているのか?」

 「はぁ〜」

 ・・・うんたら、かんたら・・・・・

 ・・・うんたら、かんたら・・・・・

 ・・・うんたら、かんたら・・・・・

 ・・・うんたら、かんたら・・・・・

 

 大都市が焼け野原にされると政策が生活重視へと移行していく、

 また、軍上層部が勅命を乱用し、

 国軍(皇軍)を乱用・半私兵化していた悪夢も足を引っ張った。

 被害が小さい中小都市・田舎は、古武士のような気概が残っていた。

 しかし、その我が侭も焼け出された者の有言無言の圧力に押し切られていく、

 というわけで大日本帝国陸海軍は紆余曲折を経ながら信賞必罰の原則を外れ、

 理不尽に縮小させられていた。

     

     

 パース港

 白人の家と町並みに根付く、強盗たちの巣、華寇軍が支配する世界、

 リバティ船が港湾に並んでいた。

 「・・・撤退あるか?」

 「そうある」

 「なぜある。中華で豪州を占領するある」

 「華寇を乗せた船は中国のものになるある」

 「無理ある。みんな好きに生きるある」

 「・・・戻りたい者は戻るある」

 「懸賞金は?」

 「シドニーに着かない限り無理ある」

 「だったらシドニーについてから帰還するある」

 「じゃ アメリカに懸賞金の分まで出させるように伝えるある」

 「それが大人の解決ある♪」

 「でもアメリカは金を払うより殺して、なかったことにするある」

 「それなら押し切るある」

 「アメリカが怒ると怖いある」

 「大丈夫ある。日本を盾にするある」

 「どっちも消耗しきって潰れたら豪州を奪った中国の勝ちある」

 「それは良いある。日本とアメリカを戦争させるある」

 「じゃ 今日から、おまえたちは日本人ある」

 「そうある日本人ある。日本語覚えるある」

 「サクラサクで十分ある」

   

  

  

 白い家

 戦争が終わったのに殺意に満ちた表情は変わらない。

 いや、戦争中なら、まだ許せる。

 しかし、アメリカ合衆国は戦争が終わったというのに人種紛争真っ只中で、

 憎しみが憎しみを呼び、治安は史上最悪だった。

 「・・・華寇は?」

 「半分は殲滅。残りも帰還させられそうです」

 「しかし、数パーセントが・・・」

 「数パーセントか。500万の数パーセントは万単位だな」

 「・・・ロッキー山脈を越えたのか」

 「はっ 残念ながら・・・」

 「んん・・・」

 「大統領。中国に船ごと渡すのも国民感情からすると・・・」

 「犠牲になった者は辛いだろうな」

 「だが帰還させなければ殺戮戦で犠牲者が、さらに増える」

 「統制されていない軍隊は厄介ですな」

 「揚子江に建設中の病院・薬局など国民は、かなり否定的ですが・・・」

 「まさか、もう一度、戦争というわけにも行くまい」

 「それに戦争したところで状況は変わらないよ」

 「例え勝ったとしてもな」

 「華寇を隠れ蓑に黒人とインディアンも蜂起したので国内の治安は過去最悪です」

 「しかし、総生産だけはいいようだ」

 「帰還兵は、帰国後もガードマンの仕事がありそうですな」

 「ロッキー山脈を越えた華寇は殺しても良いでしょう」

 「ええ、これ以上、被害を増やすと国の威信も揺らぐことに・・・」

 「そうだな」

 「オーストラリアは、対華寇の支援がもっと欲しいと」

 「武器弾薬は資源と交換に供給できそうだが・・・兵士は・・・」

 「アメリカ軍駐留の協定にサインさせれば・・・」

 「そうだな・・・」

 

 

 

 ロッキー山脈

 山間の道、数人の華寇が落ちているチラシを見ていた。

 「ん・・・中国語ある」

 「なんて、書いてあるニダ?」

 “降伏すれば命を助け、中国に帰国させる” 意訳

 「字が読めるなら華寇軍にならないある」

 「噂だと、降伏したら中国に帰還させてくれるニダ」

 「そんなの信用できないある」

 「あいつら洪水で溺死させようとしたある」

 「火あぶりにしようとしたニダ」

 「爆弾も落としたある」

 「機銃掃射したニダ」

 「仲間をたくさん、殺したある」

 「「「「「・・・殺す・焼く・奪う  (ある & ニダ) 〜!!!」」」」」

 「「「「「・・・三光作戦 (ある & ニダ) 〜!!!」」」」」

  

   

 

 日本のとある浜辺。

 「おじさん。戦地に言っている間、家族に何か、ありました?」

 「いや、焼け出された人たちに食料とか、分けていたくらい。だったな」

 「そうですか。なんか家の雰囲気が変わって・・・」

 「しばらく、男手が、なかったんだ。気分的なものだろう」

 「そうですか・・・」

  

 とある家。

 「・・・大丈夫ですか。お兄さん」

 「ああ、潜水艦勤務で疲れたのだろう。こんなに寝込むとは・・・」

 「高麗人参が少し入ったので、お持ちしました」

 「本当に? 高かっただろう」

 「いえ、米と交換しただけですから」

 「そうか、大変だったんだな」

 「ゆっくり休んでください。お兄さん」

 「ああ・・・ありがとう」

   

 母と娘

 「・・・飲んだかい」

 「ええ」

 「これで、お父さんと、お兄さんが死ねば、この家は、わたしたちのものね」

 「そうだね」

 「でもバレないかしら?」

 「大丈夫だよ。隣のおじさんとも口裏を合わせているから」

 「じゃ お母さんは、隣のおじさんと、私は・・・」

 「脱走兵の良い人かい?」

 「ええ♪」

 「幸せになろうね」

 「うん♪」

 漢民族と朝鮮民族の恨みは、日本民族の心理に微妙な影響を与えたりする。

 殺伐とした相互不信が膠着した家族主義・権威主義を減退させ、

 物欲と情欲が人心を溺れさせていく、

 人間不信が権威主義と家族主義を崩しはじめる。

 日本全体では根腐れ未満で、躍動的な拝金主義へと向かっていた。

 少しずつ大きくなっていく拝金主義と、軽視されつつある権威主義が微妙なバランスを保つ、

 ドイツ系企業風土と混ざり、日本の経済力を押し支える要因になっていく、

  

  

 瑞穂半島

 とある施設の前

 毅然とした態度をとる日本女性の背後で、浮浪者の少年たちは怯える。

 少年達は、少数民族側で、日本の役人たちは躊躇していた。

 「あ、あのう・・・」

 「この子達は、わたしが面倒を見ます」

 「い、いや、そういう施設が揚子江にあるので・・・」

 「あなたたちは、いつもそうです。口先だけ」

 「その施設を見た事もないのでしょう」

 「いや、しかし・・・」

 「あなたも、こちらの条件さえ飲んでいただければ、こういう苦労をしなくても・・・」

 「自ら進んですることです。あなた方には関係ありません」

 「し、しかし、悪い話しでは・・・」

 「結構です!」

 「し、しかし・・・」

 「とにかく、私は、この子達を無責任に放り出したりしません」

 「この子達は、わたしが責任を持って預かります」

 「し、しかしですね・・・」

 「この国は、この子達が生まれ育った土地です!」

 「あ・・・あ・・・あのう〜」

 「国を奪った上に土地まで奪うなんて・・・」

 「いや、それは・・・軍部を牽制する為に・・・」

 「そんなものがなんですか。情けは人の為ならず。ご存知?」

 「あ・・・き、今日は、こ、この辺で・・・・ま、また、来ますので・・・」

 「もう、来ないでください!!」

 瑞穂半島、満州帝国、華寇作戦などなど、

 日本民族の良心を咎めさせてしまうのか、

 華寇神社と朝鮮神社が祭られる。

 人間、良心の呵責に苛まれるのは、いやなのだろう。

 生きている人間を祭るのは、イヤでも死んだ人間は祭れる。

 出雲神社並みに・・・

 日本民族は良心の呵責を祭ることで誤魔化してしまう程度、善良だった。

  

 

 

 


 月夜裏 野々香です。

 『青白き炎のままに』 の戦後は、史実の枢軸国よりマシなようです。

 女子供も、一度、手にした利権を手放すのは惜しい・・・。

 過激な例も書きましたが戦後の混乱ということで・・・

 働き者の男が殺され。背後に妻と愛人がいる。

 推理モノの定番。平時でもありそうですし。

 情欲が奪われるとモラルも最悪で悩まされそうです。

 情けは人の為ならず、モラルも大切に・・・でしょか。

  

  

 そして、史実よりモラル低下で悩まされる連合国。

 犯罪が無法地帯や社会全般を覆い。

 国の権威と威信を揺るがせ、国民の相互不信を増大させます。

 殺伐とした戦後は、こんな感じでしょうか。

 富農と資源の多い大陸鉄道、揚子江、崇明島など

 欲望に支配された人間は、なびいていきそうです。

   

   

  

          

   

   

 

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第39話 1945/08 『殺す戦い VS 生きる戦い』

第40話 1945/09 『情けは人の為ならず』

第41話 1945/10 『でも、諸行無常』