月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

 

   
第43話 1945/12 『映し鏡』

 大日本帝国が世界に与えた影響で、もっとも大きな流れは民族自決、

 有色人種の日本人がロシアに戦争を仕掛け負けなかった。

 さらにアメリカとイギリスに宣戦布告し、

 東南アジアのイギリス・フランス植民地支配を終わらせ、

 アメリカとイギリス相手に負けなかっただけでなく、

 良い勝負をしたのだから、民族独立運動が勢い付くのも無理はない、

 日本は、もとより列強を向こうに回し、

 植民地支配を続けられるような国力は持ち合わせていない、

 戦前戦中にかけ、東南アジアだけでなく、

 南アジア、中東、アフリカなどで、有色人種の民族自決を煽っていた。

 しかし、戦中の本土爆撃の被害を再建し、

 天文学的な戦費と死傷者の補償し、

 財政再建するには支配域で搾取してでもと、日本の事情が一変してしまう、

 搾取する側に立つと一転して勢力圏の

 民族自決と独立運動に悩まされるのだから自業自得、

 そして、有色人種の民族自決の波は、イギリス勢力圏へも飛び火し、

 旧フランス植民地も同様だった。

 日本に責任の一端があるものの、

 勢い付いた植民地の原住民は、白人を恐れなくなっていた。

 日本帝国は、白人世界から白い眼で見られながらも植民地経営を始めるしかなく、

 当然、上手く行かない、

 旧フランス植民地会議。

 「植民地経営って採算が合わないぞ」 by イタリア

 「現地民が勢い付いて虐殺しても収まりそうにないな」 by ドイツ

 「くっそぉおお〜 何でコイツらは、独立独立と、うるさいんだ〜」 by 日本

 「おまえのせいだ! このバカが!」 by イギリス

 「今時、植民地なんて流行らないんだよ」

 「頭を使えよ、バカたれが!」 by アメリカ

 「「「「なにぃいいい〜!」」」」

 「「「「おまえのところと違って資源がないんだよ〜!!」」」」 by ドイツ、イギリス、日本、イタリア。

 「旧フランス領の治安と開発で不良漢民族を人身売買ある♪」

 「そして、全世界に漢民族、同胞が広がるある〜」 by 中国

 「旧フランス植民地の上がりは欲しい・・・」

 「しかし、ソビエトの資源が高値で売れなくなるのは困るし・・・ぶつぶつ・・・」 by ソ連

 喧々諤々 喧々諤々 喧々諤々

  

  

 フィンランド

 雪の舞い落ちる港、船から物資が降ろされる。

 「少ないな・・・」

 「すまないが今週は、コレだけだ。来週は、もう少しマシになると思うが・・・」

 「あいつらにも、武器弾薬が流れている。状況は良くない」

 「気をつけろ、あいつらは、武器弾薬を使わなくても人を狂わせる伝染性の強い猛毒がある」

 「ああ “あれ” に侵されると人間と物は同列」

 「人間の尊厳を喪失させ、内部で殺し合いが始まる」

 「人間の脳を凶暴なサルにして、人間社会を根底から狂わせてしまうからな」

 「天然痘よりたちが悪くて被害が大きい」

 「軍の侵攻を防いでも “あれ” の お陰でフィンランド国内は荒れ模様だ」

 「だが体制側の不正腐敗や搾取率が多いと “あれ” の温床になる。程々にな」

 「なあに、共産ゲリラといっても、利益を受けている頭を潰せば何とかなる」

 東部戦線で、ドイツがソ連軍の攻勢を食い止めると、

 フィンランドは、ドイツとソ連の外交戦略上の緩衝地帯として、取り残される。

 ドイツとソビエトは、疲弊していたものの、

 フィンランドの動向を注目し、互いに外交工作を進める。

 世界大戦が停戦で終わったこの年。

 列強は、それぞれの戦災で悩まされていた。

 それでも、互いに対する恐怖と不信の為、

 外交戦略は地道に行われていた。

 

 

 現状、同盟と連合は、戦争不能なほど疲弊していた。

 とはいえ、ゼロサム理論を基にした外交戦略戦は、一貫している。

 トルコは、ユーラシア大陸鉄道を成功させたい日独伊同盟と

 邪魔したい米英ソ連合の二つの勢力が、ぶつかる。

 そして、そういった国際外交戦略の天秤を利用し、

 トルコは国力をつけようとしていた。

 第二代トルコ大統領イスメト・イノニュは、トルコの地図を睨む

 「・・・将来的には、北のドイツ帝国の圧力が強くなっていくと思うが・・・」

 「アメリカとイギリスが北アフリカ鉄道を建設しています」

 「完成すれば、モロッコからエジプト」

 「そして、シリアにまで到達するかと」

 「脅威のレベルは、小さいと思うが」

 「はい、ですが、ソ連の圧力が加重されると勢力は均衡するのでは?」

 「ソ連の正面は、東部戦線だろう」

 「南下は、難しいのではないか?」

 「米英ソ連合は、鉄道をイラン、イラク、アラビア、エジプトを越え、連結させる可能性もあるかと」

 「アメリカ、イギリスとソ連は、そこまで信頼し合っていないはず」

 「あくまでも可能性です」

 「ですが、資源という観点だけなら大いにありえるかと」

 「トルコ外交の舵取り、誤れば大変なことになるか」

 「はい」

 

 

   

 中国は、揚子江を境にし、南北に国が分断されていたものの、

 国内情勢は安定していた。

 租界・大陸鉄道など日本の勢力圏は不正腐敗が少なく、

 治安が守られ、経済活動が盛んになっていた。

 華寇作戦で民族を口減らしで磨り潰し、

 匪賊が減少し、相対的に富農が増えたこと。

 大陸鉄道で東南アジアへの道が開かれ

 中国資本が華僑資本と連結したこと。

 また “枢軸国、列強として、アメリカ、イギリス、ソ連と戦った” という自負が、

 漢民族の尊厳と中国の国威を支える。

 漢民族が豪州とアメリカ西海岸に上陸した事は歴史的事実であり、

 華寇軍がアメリカと豪州をいまだに苦しめている点で

 “白人恐れるに足らず” と、自信となって胸を張らせる。

 日本が骨髄・神経なら、中国は骨肉といわんばかりで、

 漢民族は、大陸鉄道沿いに巨大なネットワークを構築しつつ広がっていく、

 中国南京政府は、日中同盟を利用し、

 南京政府の正統化と中国の国際的地位を押し上げていく、

 日本政府も日本語と多国語より、

 日本語と中国語で物事を解決する方が費用対効果で楽だった。

 日本人、中国人、朝鮮人、少数民族の国民感情がどうあれ、

 “好むと、好まざるに関わらず”

 日中同盟が大きな比重を持つのは自然の成り行きだった。

 中国南京政府が人海戦術で路線と道路を拡張していく、

 中国政府の人権無視は当たり前で、

 少しくらい理不尽でも “日本のせい” にすれば良かった。

 中国は、恐ろしいまでの権威主義と利己主義で、社会基盤を拡大し、

 同胞の漢民族を踏み躙りながら、近代化に必要な下地を構築していく、

 一方、日本も人権は煩くないものの国民に対し、

 そこまで理不尽になれず。

 国民も、己が正義を追求し、裁判に訴えたりする事も少ない、

 しかし、土地が絡むと有力者と結託して邪魔をするヤクザな人間も多く、

 回りくどい根回しや多数派工作が基本的に多くなる。

 結果的に大陸は開発で圧倒的に早く、市場も大きく、投資の回収も早かった。

 日本人も、投資回収の成否が、わかりにくい日本より、

 活力のある市場に誘われ、

 半島から大陸へ流れ、大陸開発に向かい、投資で拍車をかけてしまう、

 租界の安全性が確保され、

 治安さえよければ成否確実な大陸利権に依存したくなるのが人情であり、

 租界防衛が強力で、少数民族の防波堤が機能し、

 治安が安定しているほど日独伊同盟の投資が促進されていく、

 わかりやすい構図といえたが

 日中同盟を結婚詐欺同盟と陰口を叩く人間は増えていく、

 

  

 揚子江、

 日本租界は、壁と堀で囲まれながら幾層にも広がっていく、

 租界を建設し、増築し、防衛するのは、漢民族の海に漂う朝鮮人と少数民族だった。

 表向き、朝鮮民族が見栄で反日を鼓舞しても、

 日本を後ろ盾にしなければ漢民族に飲み込まれてしまう。

 朝鮮民族が揚子江で民族自決を維持しようと思うなら、

 日本の利権拡大と日本軍の増強が必要になった。

 朝鮮人は日本人と一緒にいることで身の安全を図り事が増え、

 これは中国大陸に限ったことでなく東南アジア全域でも同じだった。

 朝鮮人の視点では、一緒にいる日本人は身を守る為の隠れ蓑、

 人質、保険、囮、生贄・・・・

 日本人の視点だと朝鮮人しだいで、

 雇い主、雇用者、友人、彼女、ほか、いろいろ・・・

 大は日本と朝鮮自治区の関係であり。

 小は日本人と朝鮮人の関係だった。

 「はぁ 匪賊が減って、この当たりも、ずいぶんと安全になったよ」

 「気をつけるニダ」

 「漢民族を信用してはならないニダ」

 「そうかな」

 「そうニダ」

 漢民族が日本人を見つめる視線と、

 朝鮮人を見つめる視線に温度差がある。

 日本人に対し冷たい視線でも、朝鮮人に対して悪意と敵意を見せる。

 朝鮮人は採掘などの実務レベルで恨まれ役をしているため後ろめたさもある。

 そして、朝鮮民族は、漢民族の殺意を敏感に感じ取り、

 日本人と漢民族の関係に不和を意図的に作り、悪化させ、

 日本民族と漢民族の仲介に入り相対的な価値を上げ、

 割り込もうとする、

 朝鮮民族の打算であり。

 自治、尊厳、自尊心を守ろうとする手段だった。

 なので朝鮮人は、身を守るため日本人と一緒に行動したがり、

 日本人を盾にし、利用しつつ、日漢を取り持ったように振る舞い手数料を得、

 どこかで、出し抜こうとする。

 しかし、動機が、あまりにも見え見えであり、

 やっていることは直情的、我田引水、支離滅裂。

 日本民族も、漢民族も、少数民族も呆れ果て、退き気味だったりする

 

 

 朝鮮民族が増えるつれ、朝鮮自治区が形になってくる。

 日韓併合で消えた両班制度が揚子江の大河流域で復活する。

 なぜ復活したかといえば

 朝鮮民族自治区の行政区画で地方行政官が必要になったためで、

 そして、アイデンティティを維持しようと懐古主義に走る。

 日本も権力構造で朝鮮民族を組み敷く事が多く、

 朝鮮人が資源採掘で経済力を持ち、格差が広がったこともある。

 この両班制度は、貴族制度で1人の行政官に

 親族など400人の御付が身内から付く、

 この集団が強盗とか搾取集団といった悪行を重ね、

 朝鮮民族の心身を歪に捻じ曲げ蝕んでいく、

 もちろん、半島と違って回りは中国で、

 民族自治行政区画の外に出てしまえば、治外法権となって支配権は及ばない。

 また、親日派の一進会など、日本を模倣しようと反発する。

 「・・・人の上にも、人の下にも、人を作ってはいけないニダ」

 「早稲田で学んだことを忘れたニカ?」

 「人の上に人がいるニダ。人の下に人がいるニダ。これが自然の理ニダ」

 「早稲田は狂っているニダ」

 「そうニダ。日本人は奇麗事の建前ばかりニダ。嘘つきニダ」

 「だけど朝鮮人は、朝昼晩で言うことが全然違うぞ」

 「その時、その時、自分の都合で話すのだから朝鮮人は正直者ニダ。矛盾していないニダ」

 「朝鮮は、もっと公平で良い社会にするニダ」

 「そんなもの些細なことニダ」

 「大切なのは権威と年功序列ニダ。秩序と礼儀ニダ」

 「権威者に対する無償の奉仕ニダ」

 「もっと経済を考えるニダ」

 「考えることは不浄な金ではなく」

 「正しく生きる礼儀とか、権威者に従う崇高な奉仕ニダ」

 「1歳でも年長には従うニダ」

 「それは相手が黒人や中国人でもニカ? 敬拝するニカ?」

 「こ、黒人や中国人は違うニダ」

 「そんな、ご都合主義な差別、理屈が国際社会で通用しないニダ」

 「そ、そんなことはないニダ」

 「朝鮮民族は揚子江の大河、大陸の番人として世界に覇を競うニダ」

 「そんな井戸の中の蛙な思想は、上手く行かないニダ」

 「やればできるニダ〜!!!」

 「やればできるニダ〜!!!」

 「やればできるニダ〜!!!」

 「・・・・・・・」 涙々

 

 

 呉

 連合艦隊

 栄光ある大日本帝国海軍は、維持費だけ、

 旧式艦艇から順番に廃艦にしていくしかない。

 武蔵 艦橋

 「ふ 訓練費用も、ままならないとは・・・」

 「訓練費用は、大陸の貨車を作る分に回されたようです」

 「動いているのは経済効率の良い、丙型海防艦。物を運べる輸送艦ばかりか・・・」

 「歴代、連合艦隊長官として最悪の条件下ですかね」

 「もう、海軍どころか、陸軍の圧力も、政府、議会、皇族に届かない」

 「議会は、現役軍人の政府入りを禁止、軍事予算の削減を決めていますから」

 「強面の軍上層部が原爆で根こそぎ、されたからな」

 「兵卒をまとめる士官と下士官も減少して、軍組織も手足をもぎ取られたようなもの」

 「軍縮するしかないでしょう」

 「少なくとも、再建需要で民間の仕事だけはある」

 「むかしのようにあぶれ者を抱え込むだけの軍隊は必要ないのだろうな」

 「本土爆撃と原爆で日本の病巣が取り除かれてしまうなんて時代の流れですかね」

 「実は、敵に救われたなど言えんな」

 「まったく・・・」

 「しかし、最近は、母親が子供に “お国の為に” と言わなくなったな」

 「兵士が減りましたからね」

 「はぁ 嘆かわしい」

 「人がお国の為に生きぬとしたら何のために生きるのだ」

 「家族のためとか」

 「家族の為に国を犠牲にしたらどうする」

 「それは、困りますね」

 「だが家族の為というのなら、まだ許せる」

 「しかし、自分のために生きるようになってみろ」

 「危険ですかね」

 「自分の利益の為に親兄弟を犠牲にし、子供さえ犠牲にする」

 「国も当然、犠牲にする。日本民族が、そうなっていいのか?」

 「最大公約数として “お国の為” が本当は良いのでしょうが・・・」

 「たとえ、軍国主義が弊害だったとしても挙国一致で有用だったよ」

 「個人主義が強くなり、欲望に従って産業が大きくなっても、足の引っ張り合いも起きるのでは?」

 「そうだな、ドイツの技術と大陸市場が大きいが・・・」

 「やっぱり大陸の市場を当てにして?」

 「日本は、まだまだ農業国」

 「程度の低いものでも売れるのであれば当てにしたくもなるよ」

 「現実は、まだまだ厳しいですね」

 「軍の規律がなくなれば国益の支柱が無くなって、百花争乱だな」

 「真実より偽りの方が持てはやされるかもしれませんね」

 「拝金主義者の理想どおりには行きませんからね」

 「偽りで生きる方が楽ですし・・・」

 「人が偽りなのだから偽りが親近感を得やすいか」

 「正義を追う者、理を追う者は阻害されやすいですし」

 「規制が緩んで個人主義が強くなると、ますます酷くなるのでは?」

 「軍国主義も終わりかな」

 「ですが、いくら軍政がいやだからって拝金主義なんて、どうかしてますよ」

 「巷の退役軍人は反動で、そうなるかもしれないな」

 「日本の国力で個人主義は、危険だと思うのですが・・・」

 「大陸利権を頼りに個人主義拡大で能力主義と実力主義で産業を大きくしたいのだろうな」

 「やはり、大陸依存ですか・・・」

 「生産拡大して確実に利益を上げようと思えば、そうなるな」

 「大陸抜きだと国内投資も怪しくなる」

 「日本経済は、厳しいですね」

 「まったくだ」

  

  

  

  

 東欧

 第三帝国ドイツはオーストリア、ハンガリー、チェコ・スロバキア、

 ユーゴスラビア、ギリシャを支配下に置いてしまう。

 過去、ハプスブルク朝オーストラリア・ハンガリー帝国は東欧を膠の如く、まとめた事があった。

 しかし、弱々しい連合体に過ぎなかった。

 第一次世界大戦後、オーストラリア・ハンガリー帝国が崩れてバラバラとなり、

 周辺内外の思惑や経済効率でドナウ連邦、ドナウ合衆国が構想された事もあった。

 善意とか、良識ではない。

 小さな国の群れより大きな連邦体である方が国防で安定しやすく、

 物流も、投資も、安心、便利、

 輸出先の市場が大きな一枚岩であれば、

 売れる場所へと移動させるのも楽で利益になりやすい、

 生き馬の目を抜く国際情勢でも善意と良識に通じる構想が生まれる。

 しかし、善意や良識に似た構想が生まれようと。

 当事者は民族差別を恐れ、

 不利を承知で民族自決を選択する。

 あと知恵で言うと国家的自殺、民族的自殺なのだが、

 第二次世界大戦後

 停戦するとパルチザンは、アメリカ、イギリス、ソ連の支援を表向き得られなくなる。

 ユーゴの山脈で抵抗運動を行うが狩り出され縮小していく、

 ドイツ帝国に敵対した東欧諸国はバラバラのまま踏み潰され強制的に併合されていく、

 パルチザンの集団が崖の上で双眼鏡を覗き込む。

 「駄目だ・・・あの数では、助けられない」

 「ああ、もう、間に合わない」

 「もっと、武器があれば」

 「・・・・・・」

 双眼鏡で見える光景は、痛みと失望を漂わせる。

 雪の降りしきる森の中、

 捕らえられたパルチザンが穴を掘っていく、

 ドイツ軍将兵が周りで機関砲を並べて監視、

 勝者の特権なのか、余裕があるのか、寒いのか、

 停戦後で、少し哀れんでいるのか。後ろめたいのか表情がない、

 穴を掘らせてしまうとパルチザンを並べさせる。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 ばぁあ〜ん!!!

 冬は銃声が響いて木霊しやすかった。

 前頭部側だと目が合って気が引けてしまう。

 いやな仕事は、それだけの給与を貰っている下士官と相場が決まっている。

 下士官が捕虜の後頭部に向けて拳銃を撃っていく。

 あとは、引力に従って墓穴に落ちていくだけ、

 感情の入る隙は、あまりなく、

 機械的に処理が進んでいく、

 優勢なドイツ軍と劣勢なパルチザンの違いがあるだけ、

 立場が変わればパルチザンも似たようなことをしていた。

 生活圏のテリトリーを奪うか、テリトリーを奪われるか、

 自由が欲しくば生存圏を勝ち取れの理屈で互いに命を奪い合う。

 ドイツ民族と東欧諸国民族は、互いのテリトリーを尊重し、

 対等な関係を構築する可能性を自ら消していく、

 商業上の取引で互いに生存権を拡大する道も閉ざされている。

 ドイツ民族の非道な振る舞いは東欧で発揮され、

 パルチザンが、いまさらドナウ連邦構想を懐かしんでも手遅れ、

 生きる選択肢は狭められていた。

 ドイツ民族に従うほかスラブ系種族に生きる道がないほど虐殺される。

 生き残っている者はドイツ帝国の家畜か、

 逃げ回るか、

 劣勢な中で生き続けるか、

 連合側へ逃れるか、

 東欧はルーマニアとブルガリアがドイツ帝国と組して利権を拡大し、

 ドイツの同盟国としてのみ、残されている。

 しかし、コンプレックスに支配されたヒットラー総統(死亡説あり)が引退し、

 温厚気質なカールおじさんであるデーニッツ総統が就任する。

 ドイツ民族の良識派が巻き返してドイツ選民思想が後退し、

 ドイツ帝国も少しずつ変わり、

 少しずつ、人道主義な穏健な制度が取り入られていた.

 とはいえ、民族間の主従関係は変わらない。

  

  

 ベルリン

 図面が並べられていた。

 計画中の新型7500トン級シュペークロイツァー型偵察巡洋艦、

 17ノット / 12000浬は作戦能力が高く、

 日独伊同盟の広大な海域を連結できた。

 問題は、艦艇の機能で火力と防御が低いこと。

 日本の大淀型巡洋艦の方が運用・艦体設計で優れていた。

 しかし、運用上の問題がどうあれ、

 冶金技術など品質・規格でドイツが優れ、

 砲身命数、射撃精度で勝り、ドイツ砲口兵器は日本軍でも好まれる。

 他にもV2ロケット、Me262戦闘機、音響魚雷、フリッツXなど、

 図面上だけは規格統合が進んでいた.

 これらの兵器の優性遺伝的な融合が徐々に進む、

 それも紙の上でのこと、

 「「「・・・・・・・・・」」」 ため息

 予算がなかった。

 日本、ドイツ、イタリアも国民生活はままならず、

 軍事費で余裕のある国は一国もない。

    

  

 白レンガの住人たち

 一国だけの戦争は、イメージしやすく想像しやすい。

 しかし、同盟戦略は、より高度なイメージと想像力が必要であり、

 複雑な戦略が求められる。

 同盟国同士でも戦後処理を含んだ損得勘定が絡んでくる。

 日本民族は、島国で同盟戦略という概念が弱く、

 用兵家も想像力が及ばず敬遠したりする。

 まして、戦争が始まる以前の同盟外交戦略で勝敗が固まっているなど想像の外、

 大半の政治家と軍上層部は、兵器性能のスペックを見て喜んでいるレベルだった。

 しかし、第二次世界大戦の経験から、

 日独伊同盟の結束が強まり同盟戦略構想も構築されていく。

日独伊同盟 米英ソ連合
ドイツ、イタリア アメリカ、イギリス、カナダ
ルーマニア、ブルガリア ノルマンディ、北アフリカ
インド洋・大西洋・(人種・文化)という深い溝 大西洋・太平洋・(宗教・思想)という高い壁
日本 ソ連
中国、満州国、東南アジア諸国 モンゴル、豪州

旧フランス植民地

インド・中東

スペイン、日本植民地

南米諸国、イギリス植民地

スイス、スウェーデン、フィンランド、ポルトガル

  

 日独伊同盟の連携が進むと、どうなっていくか、

 白レンガの住人たちの顔色は、シミュレーションを繰り返して行くにつれ青くなっていく、

 「・・・物量など総力とダメージコントロールはアメリカが優れていると思うがね」

 「ドイツのマスプロは怪しい」

 「しかし、科学技術、工業力は列強屈指で油断できない」

 「マスプロは取捨選択を切り詰めて得られる一つの概念だよ」

 「ドイツはメッサーシュミット社。日本は中島がやっている」

 「その取捨選択ができるかが重要だよ。人間は頑固だからね」

 「そりゃ 芸術家に “同じ物をたくさん作れ” といえば腹を立てるだろうよ」

 「だが日独伊同盟の結束が強まれば日本海軍は、音響魚雷、フリッツXを使うだろう」

 「苦戦するのは間違いないぞ」

 「アメリカ政府はドライだよ。採算が悪いと戦争未満だと思うがね」

 「確かに核弾頭搭載のV2ロケットなど、洒落にならないが・・・・」

 「核弾頭は、5トン以上あるだろう。V2ロケットは無理だ」

 「ドイツなら核弾頭と組み合わせて、もっと、大型ロケットを作るよ」

 「日本なら核弾頭の方を小型化しそうだし、そういう国だ」

 「問題は、北アメリカまで届くかだ」

 「そのときは、ドイツも、日本も酷い目に遭うだろう」

 「アメリカにも核弾頭があるからね」

 「相互確証破壊か。恐怖時代の到来だな」

 「ソビエトが信用できれば良いのだが」

 「駄目だな。個人的にソ連より日独伊同盟を信用したい」

 「そう思いたい将校は多いよ」

 「国民もだよ」

 「とりあえず、豪州とのルートを確保してインド・太平洋への制海権を確保すべきなんだが・・・・」

 「オーストラリア政府は、まだ、ごねているのか?」

 「化学兵器と細菌兵器はアメリカ製と考えるのが自然だからね」

 「その上、サリンとか、天然痘と炭疽菌の薬品が遅れただろう。根に持っているよ」

 「天然痘は治まっているだろう」

 「何とか押さえ込んでいる」

 「しかし、天然痘は伝播性が強いから、まだ安心できない」

 「日本が、あの規模で空挺作戦をやられなければ、こんな無様な事にならずに済んだのに・・・」

 「あの貧乏臭い日本が輸送機を800機も捨てる作戦など、普通、考えられるか」

 「整備士だけで何人揃えたんだ」

 「1機当たり、20人くらいだろうか。かけたら16000人だな」

 「華寇作戦と風船爆弾で戦力を温存させていたとはいえ、良くやるよ」

 「とにかく、インド・北太平洋・南太平洋に機動部隊を配置しないとな」

 「大西洋、地中海も艦隊を配備したい」

 「アメリカの財政も厳しくなるだろうな」

 「イギリスは、欧州大陸に近いから生きた心地がしないらしい」

 「アメリカにとってもイギリスは欧州の前線で要」

 「イギリスに注ぎ込むと艦隊が目減りするぞ」

 「大西洋は、足場がある」

 「しかし、太平洋は、適当な距離に足場がないのが辛いよ。艦隊しかない」

 「ミッドウェーを埋め立てているから何とかなるだろう」

 「何とかね」

 「だがアメリカも厳しい、治安の悪化で予算も生産量も低下だよ」

  

  

 モスクワ

 核の直撃でクレムリンは破壊され、

 スターリンの死去でソビエトの恐怖政治は最悪の峠を越える、

 むろん、終わりではなかったが、

 後任のニキータ・フルシチョフ書記長を含め、

 万単位の粛清を強行できる指導者は存在しない、

 なにはともあれ、第二次世界大戦は停戦により終結し、

 ソビエトにも平和が訪れていた。

 しかし、ドイツと日本は、国家存亡を賭けた戦いで残り、

 ソビエトの人的被害は、2000万を超え、史上最悪の規模となり、

 ソビエトの安全保障は、以前より悪化していた。

 救いはアメリカ、イギリスとの絆が強まり、

 ムスタング、B17爆撃機のライセンス生産が可能になったこと、

 そして、軍事力は国力の一側面でしかない。

 国力を軍事力に転化することができても、

 軍事力を国力全般に転化することはできない。

 無分別に軍事費を増大させ、

 国力まで削いでしまうバカ者などいない方がまし、

 他の列強がそうであるようにソビエトも戦後軍縮が自然に進んでいく、

 工場はアメリカ製の工作機械が並び、

 農業機械、工業機械の生産が増え、

 GDPを上げることで、国家財政の立て直しを図っていた。

 ニキータ・フルシチョフ書記長は、ノートに資本主義、共産主義、全体主義の

 利点と欠点を落書きし、比較していく。

 どういう政体であれ、長所と短所が存在する。

 あえて、最高の政体があるとすれば、優れた王に率いられた王国。

 しかし、三代続けば、奇跡で、ありえない。

 ベストが無理なら、ベターな政体、

 問題ありなのだが民衆の望む人間を選挙で選択。

 権力者を新陳代謝で選挙で定期的に変えていく、

 資本主義が資本家優位な議員が選ばれやすく、

 共産主義は、一党独裁、共産党員から選ばれる。

 世襲でないだけで広義では民主主義だといえる。

  

 個人の欲望を追及させる資本主義。

  長所は、個人の才覚を生かし、競争原理が働き、全体を発展、波及させやすいこと、

  短所は、貧富の差が広がり、嫉妬、僻みが、増大。

  足を引っ張る者にも同等の権利を与えてしまうこと、

  

 平等と公平を追求する共産主義。

  長所は、国が国策レベルで個人を管理して国の望む方針を進められる。

  短所は、個人の欲望と権利が制限され、想像力と競争力を阻害してしまうこと

   

 全体の利益を追求する全体主義。

  長所は、私有財産は認められるが国の方針は絶対。

  短所は、利己主義的な国粋主義に陥りやすく、

  自由主義・共産主義など国境を越えた連帯が執りにくい。

   

 フルシチョフ書記長は、眉間にしわを寄せ、

 ソビエト連邦の未来を予測する、決して明るくはない。

 全体の公益を追求し過ぎれば、個人の利益が破壊され、全体主義も破壊される。

 個人の利益を追求し過ぎれば、全体の公益が破壊され、個人主義も破壊される。

 結局、全体の公益の追求と個人の利益追求は、国情に応じ無難な範囲で収まる。

 全体主義も、個人主義も、エゴを無理強いすれば歪が大きくなって自壊する。

 そして、ソ連は、主義思想を追求するあまり歪が大きくなろうとしている。

 ロシア民族は、ロマノフ皇帝と貧富の差を否定し、

 ひがみ、ヤッカミで、平等な世界を選択した。

 ほかに選択があるだろうか・・・

 「日中同盟が建設している線路は、中央アジアを伸び、カザフスタンへと向かっているのか?」

 「はい」

 「日本の戦車は?」

 「3式自走砲が主力です」

 「たいしたことはないと聞いているが」

 「はい、防衛陣地を出れば簡単に撃破できるはずです」

 「日本軍に捕獲されたM4戦車、T34戦車、スターリン戦車の方が脅威だな」

 「はい」

 「それでも、まだ、中国の人海戦術のほうが怖いか」

 「はい、線路は、まだ貧弱です」

 「輸送力からカザフスタンは機械化師団を配備しておくだけで十分かと」

 「完成するまで、まだ、年月が必要だろう」

 「戦車は、後回しでもいい、こちらの輸送力が日本を上回っていればいいだろう」

 「最大の問題は、ドイツ・イタリア国境でしょうか」

 「ああ、ドニエプル川を境に防衛線を構築するしかないな」

 「ええ」

 「あとは、中東、インド、そして、旧フランス領へと共産主義を波及させていく」

 「現在、国境を越えて、人心に思想を浸透させる影響力があるのは、共産主義のみです」

 「いまは、戦争に耐えられない。防衛線を固め、思想戦に頼るのみだ」

 「同盟の大陸鉄道は、どうされますか?」

 「共産ゲリラによる妨害工作とイラン、インド、トルコ方面の線路を増やしておくだけで良いだろう」

 「はい」

 「輸送力で負けなければ勝てる。アメリカとイギリスの支援も受けられやすい」

 「はい、連合大陸鉄道案は、どうされます?」

 「まぁ 日独伊大陸鉄道に対する、反発だろうが・・・」

 「確かに連合全体としてみればプラスだがね」

 「しかし、アメリカとイギリスは信用できません」

 「まったく信用できんよ。結婚詐欺に近い連合だな」

 「我が国が言うと洒落にしか聞こえませんが」

 「ふ しかし、戦略物資は必要だ。お互いにな」

 「結婚詐欺的な同盟も、あるようですが」

 「詐欺は、同盟にも、連合にも、あるだろう。それが国家というものだ」

  

 

 北アメリカ大陸

 大学から派遣された華寇の専門家が講堂で説明していた。

 これから華寇狩りで行こうという狩人たちが座っている。

 「華寇軍は、その素性から匪賊出身者が大半を占める」

 「匪賊というのは半農半盗で隙あらば強盗という連中たちだ」

 「中国の歴史では珍しくない存在で中国歴代王朝は匪賊に苦しめられ、時に組して楽をした」

 「つまり華寇は、資質で才能がある」

 「誤解のないように言うが華寇は、軍隊ではない匪賊だ」

 「日本軍は、組織で強いが個人で無力だ」

 「しかし、匪賊は組織化していない方が強い。個人が脅威だ」

 「個人で無類の犯罪能力を発揮する。それが華寇だ・・・」

 

 

 アメリカ大陸中部の保安官事務所

 華寇発見の騒ぎは、東海岸に向かって次第に大きく広がっていく、

 大半は、便乗犯と模倣犯の増大で、

 強盗殺人犯は、華寇の犯罪であるかのように工作することが多く、

 事件が起きても黒人・インディアンなのか、白人なのか、はっきりしていない、

 アメリカ社会は、ヒューマニズムの国であると同時に弱肉強食、

 弱者切捨てで銃保有の権利が保障され、犯罪も少なくない。

 “華寇のせいにすれば・・・”

 “蜂起している黒人やインディアンのせいにすれば・・・・”

 という発想は起こりやすく、相乗効果で犯罪件数が急増し、

 華寇による犯罪件数をはるかに超えている。

 白人側も “この際、面倒な、黒人やインディアンを・・・・・”

 なのだから、どっちも、どっちで、

 温厚で良心的気質な人種ほど犠牲に遭いやすかった。

 被害者も華寇にやられたなどと言えば、どんな目で見られるかわからず。

 特に女性は、本当のことを言うかどうか・・・

 「ダラスから応援が来るそうだ」

 「華寇が、ここまで来るとは信じられんが」

 「風船爆弾に乗ってきたやつじゃないのか?」

 「まさか、風船爆弾で太平洋を越えて生きているやつなんて、いるものか」

 「わからんぞ、あいつら人間じゃない、トロールだからな」

 「大型飛行艇に乗ってきた中国軍のエリート部隊じゃないのか」

 「ニューメキシコのなんとか、という湖に降りたヤツだ」

 「あいつらか、州軍の1個小隊を全滅させたらしい」

 「華寇軍と黒人、インディアンとの関連は?」

 「いや、それより、白人も便乗で犯罪を起こしている」

 「そっちの方が多くて深刻だな」

 「そういえば、イタリア潜水艦がスラブ人をカナダの海岸に上陸させたと聞いた事がある」

 「メキシコ湾は、どうなんだ?」

 「ありえるが、まだ聞いていない」

 

 

 アメリカ軍は、ロッキー山脈を越えた華寇軍を1万人前後と試算していた。

 冬という季節は、彼らに有利に働いた。

 奪った外套に武器を隠し、白人のように見せかけ変装する。

 華寇軍は、一人から数人という少人数で孤立した民家を襲う。

 犯罪が増えるほど、アメリカ州軍と警察が人員を割かれ、飽和状態になり、

 発見されにくくなると聞かされていた。

 そして、彼らの素質が、それを事実と確信させている。

 単純に1件の犯罪に100人が動員されるとすれば、

 最小限の数でバラバラに行動した方が良かった。

 二つの影が荒野に伸びていく、

 追っ手を撒いた順華と満腹の旅は続いていた。

 彼らのやり口は奪ったガーランド自動小銃で孤立した民家を襲撃し、

 男手を消し、好き勝手やらかし、いただくものはいただいて逃亡だった。

 お陰で戦争が終わって帰国、

 無残な家族から取り残された哀れなアメリカ兵士もいる。

 「あ〜 お腹が空いたニダ」

 「満腹なのに、どうして、お腹が空くある?」

 「そっちこそ、順華なのに、どうして上手く行かないニダ」

 「はぁ もう少し北に行くある」

 「そうすれば吹雪に閉ざされて襲撃した家で、のんびりできるある」

 「逃げるとき困るニダ」

 「こっちは、まだ車の運転が、わからないニダ」

 「馬で良いニダ。山道だと有利ある」

 「最近は、山が少ないニダ。どうしてニダ」

 「山が少ないほうが民家が近くて楽ある」

 !?

 「アイゴ〜 トウモロコシ畑ニダ♪」

 「あいや〜 民家も、近くある♪」

 「やるニダ♪」

 「白人女ある♪」

 ・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

        


 月夜裏 野々香です。

 1945年

 戦争の年が停戦で終わって世界情勢は、ボチボチ冷戦といったところ。

 史実と違うのは日独伊同盟と米英ソ連合の冷戦となっていること。

 列強は、これ以上の人的損失を避けながら勢力圏の拡大を目指し。

 代理戦争が行われる節があり。

 しかし、旧フランス植民地は、合議制の馴れ合いで共同搾取市場。

 これは、民主主義 VS 全体主義では、思想戦というファクターが弱いからでしょうか。

 戦後異世界と開き直るのが、吉かと思われます。

   

   

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第42話 1945/11 『心が狭いと、バラバラよ』

第43話 1945/12 『映し鏡』

第44話 1946/01 『心が、国際社会を・・・』