月夜裏 野々香 小説の部屋

    

架空戦記 『大本営特攻』

 

第03話 1943年 『財産も捨ててやるわい!!!』

 真珠湾

 一年以上が経過しても真珠湾は廃墟然とし、

 燻ぶる港湾に伊号が並ぶ。

 ドックのアメリカ戦艦は、順番に解体され、

 完了すれば真珠湾を広く使う事が出来た。

 クレーンと重機が動かされ、邪魔なものが処理されていく。

 その中で日系人が元大家、元家主、元資本家層の館に住みつき、

 オアフ島を管理している。

 日本軍の鉄拳制裁、ビンタに馴染めない日系二世も多い。

 恨まれたり、諦められたりで複雑。

 日本とオアフ島を辛うじて繋ぐ病院船が真珠湾に入港する。

 アメリカ軍捕虜将兵を内地へ輸送する病院船は、アメリカ軍の攻撃対象外とされていた。

 もっともアメリカの病院船も攻撃されずヒロに向かう事が出来るのだから、

 お互い様だったりする。

 真珠湾 司令部

 「酷い損害だ。重油も半分減った」

 「地下にタンクを作って半分移しておいたのが救いだよ」

 「ハワイ島に上陸したアメリカ軍に対して何もできないな」

 「港外に座礁していた長門、陸奥、伊勢、日向は駄目だな」

 「魚雷が命中して砲塔も完全に破壊されている」

 

 

 第一機動部隊

  空母(赤城、瑞鶴、翔鶴) ゼロ戦124機、99艦爆42機、97艦攻41機

  重巡 利根、高雄、愛宕、摩耶、鳥海

  駆逐艦 荒潮、満潮、朝潮、大潮、黒潮、親潮、早潮、夏潮

 

 第二機動部隊

  空母(加賀、飛龍、蒼龍) ゼロ戦112機、99艦爆41機、97艦攻33機

  重巡 筑摩、那智、羽黒、足柄、妙高

  駆逐艦 初風、雪風、時津風、天津風、霞、霰、陽炎、不知火

 

 第三機動部隊

  空母 (隼鷹、飛鷹、龍鳳) ゼロ戦72機、99艦爆26機、97艦攻22機。

  重巡 最上、三隈、鈴谷、熊野

  吹雪、初雪、白雪、白雲、叢雲、薄雲、磯波、

  浦波、敷波、綾波、天霧、朝霧、夕霧、白雲

 

 ハワイに向けて、増援の航空部隊を発艦させる。

 迎えにきていた二式大艇が上空を旋回する。

 隼鷹 艦橋

 「真珠湾特攻で上官殺しが何件もあっただろう。最近の人事は疲れるよ」

 「元戦艦乗りの人事か? 何件どころじゃないかもな」

 「まさか主力艦で敵地に乗り込むなんて思っていなかったのだろうな」

 「好き勝手し放題だったらしいからね」

 「先輩面して無茶やるバカは、いい御仕置きだよ」

 「陰惨過ぎて空気悪かったからな。海軍も少しは風通し良くなるだろう」

 「しかし、せっかく、機動部隊が、ここまで来たのに戦わず退くことになるとはね」

 「戦えば燃料不足で艦隊が帰還できなくなりますよ」

 「ちっ! アメリカ艦隊がハワイ島の東に集結しているらしいが何事も無しか・・・」

 艦隊上空のゼロ戦が1機、海面に向かって突っ込んでいく。

 盛大に水柱が上がり

 「・・・ぎ、魚雷だ。海面に注意せよ!!」

 「・・・よ、4時方向に雷跡!」

 ゼロ戦が突入した方向から雷跡が迫っていた。

 「取り舵20度。全速前進!!」

 隼鷹を狙った魚雷が舷側を抜けていく。

 そして、駆逐艦が爆雷を投下し、水上機が旋回し、緩降下すると爆弾を投下する。

 艦隊のあちらこちらに爆雷が投下され。海面が盛り上がり海水が爆散する。

 「3時方向から雷跡3!」

 駆逐艦や巡洋艦が急速に回頭する。

 「潜水艦は、何隻いるんだ」

 「増援の機体は、全て発艦しました。後退すべきです」

 「そうだな。全艦、帰還する」

 双方とも損失はなかった。

 その日、任務を成功させた日本海軍は、また、アメリカ軍に暗号が解読されていると疑い始める。

 

 

 真珠湾

 ゼロ戦300機。99艦爆109機。97式艦攻96機が飛来する。

 「これで、また航空作戦が可能になるな」

 「アメリカ軍が集結しているヒロまで450km。攻撃しますか?」

 「・・・いや、戦力があっても俺たちは孤立している」

 「しかも俺たちの任地は “ここ” だ」

 「戦力を磨り潰して内地に帰っても居場所がない・・・」

 「そういえばハワイ総督でしたね。長官」

 「そういうことだ」

 「目先の戦果より、キルレート優先で粘り強く効率的に戦うべきだろう」

 立場が変わると言うことも変わる。

 「・・・しかし、問題は、増援部隊を届けにきた空母部隊が雷撃されたことだ」

 「暗号がまた解読されていると?」

 「んん・・・」

 「まだ97式印字機ですが、作られたばかりの新型暗号が解かれているとは思えませんし」

 「それにハワイ向けの輸送に暗号は使われていないはず」

 「・・・ハワイから西海岸まで海底電線が繋がっているな。スパイがいるのではないか?」

 「調べてみます」

 

 

 呉

  軽巡やまがら(デ・ロイテル)、やませみ(ジャワ)

    1850トン級ポーター型

      いぬわし(セルフリッジ) 、いそしぎ(フェルプス)、

    1500トン級バッグレイ型

      はくがん(バッグレイ)、はちくま(ブルー)、はましぎ(ヘルム)、はやぶさ(マグフォード)、

      はいたか(ラルフ・タルボット)、へらさぎ(ヘンリー)、ほおじろ(パターソン)、

    1450トン級マハン型

      かわせみ(カミングス)、かるがも(タッカー)、かささぎ(ダウンズ)、かっこう(レイド)、

      きばしり(ケース)、くさしぎ(カッシン)、ごいさぎ(ショー)、ささごい(カニンガム)

    1365トン級ファラガット型

      あおげら(ファラガット)、あおしぎ(デューイ)、あおばと(ハル)、

      あかはら(マクドノー)、あかひげ(ウォーデン)、あおさぎ(デール)、

      あまさぎ(モナガン)、おおるり(エールウィン)、

 

 バッグレイ型駆逐艦 はくがん 艦橋

 「どうだね。慣熟運転は?」

 「悪くないです。輸送任務だけでなく実戦も行けそうです」

 

 

 首相官邸

 「機動部隊が雷撃されたぁ」

 「暗号がバレたのか?」

 「やはり付け焼刃の暗号変更では・・・」

 「本当に91式印字機、97式印字機の複製が作られているのか?」

 「現物を手に入れてるか。複製を作られているか。たぶん、そう考えても良いかと」

 「現物を手に入れたと考えた方が合理的だとおもうが。やはり、予算を・・・」

 「海軍は、旧式艦艇の処分と戦艦の維持費も減っているので、一時的には良いのですがね」

 「陸軍は?」

 「もちろん、予算を欲しがらない省も、部署もありませんよ」

 「暗号か・・・戦力外に予算を引かれるのは、どうもな・・・」

 「実は新暗号が解かれていなくて偶然ということに・・・」

 「その発想は無理が・・・」

 「き、きさまぁ 上級将校の部署と、下士官以下の生命とどっちが大切か!」

 「む、無論、部署でしょうか」

 「そ、そうであろう」

 「我々にとって重要なのは想像力や柔軟性ではない」

 「守られるべきは権威と権益なのだ」

 「なるほど・・・」

 

 

 アメリカと日本は、オアフ島の邪魔になった民間人をアメリカ本土へと帰還させていく。

 この作業が終わるとオアフ島は日本軍10万と日系人16万人となる。

 そして、アメリカ軍は遠慮なく攻撃できた。

 ホノルル支庁

 「衣食住の方は?」 軍代表

 「まぁ 元々、開発された島ですし生産拠点もあります。工業力もあります」 日系人代表

 「といっても、補助的なもので日本からの補給が途絶えるとじり貧となりそうです」

 「日本からの輸送は、なるべく頼りにしない方向でやって欲しい」

 「はぁ」

 日本軍と日系人の資材の取り合いが始まる。

 生産手段を生活のために使うか、戦力に向けるかの差であり。

 両者の価値観の違いから確執が広がる。

 もう一つ、

 日本軍は、ミッドウェー、ウェーク、ジョンストン、パルミラ。グアムを占領せず放置していた。

 これがアメリカ軍にとって悩みの種となった。

 放置されても補給に困るのだ。

 孤島への物資輸送のため潜水艦を使わなければならなず。

 これが日本商船隊の被害を減らしてしまう。

 オアフ島は物資不足で済んだ。

 しかし、5つの島は物資どころか、食事もままならず飢餓状態で

 アメリカは、無力化された島の放棄を考える。

 

 

 ハワイ島

 ハワイ諸島最大の島ハワイ島。

 その東岸に日本人が開拓した町ヒロがあった。

 ヒロから真珠湾まで450km。戦闘機でも十分往復できて航空戦が可能な距離だった。

 アメリカは、ここにB17爆撃機、B24爆撃機を送り込み、オアフ島の海上封鎖を開始する。

 ヒロ飛行場

 百数台のブルドーザーが滑走路を広げ、基地を建設していく。

 数千台のトラックとジープが建設地と輸送船団との間を行き交う。

 アメリカ合衆国は短時間で真珠湾をヒロに建設しようとしていた。

 アメリカ西海岸から飛来するB17、B24爆撃機が滑走路に着陸し、機体が整備されていく。

 そして、ワイルドキャット機とライトニング機の機材が輸送船から降ろされ組み立てられていく。

 とはいえ、航空基地の拡張と戦力増強を同時に行わなければならず。

 アメリカ軍がオアフ島封鎖作戦に割り当てられる機数は30機ほどだった。

 「オアフ島への日本の増援機は500機ほどだそうです」

 「シット!! 機動部隊の不在を狙いやがって!」

 「哨戒機の数が少ないだけでは?」

 「うぬぅうう〜」

 「エセックスとインディペンデンスが輸送船団と、こちらに向かっていますが・・・」

 「まだ勝てんだろう。増援された機体は判明してるかね?」

 「いえ、増援機は、レーダーによる確認ですので、そこまでは・・・」

 「たぶん、戦闘機が多いだろうな」

 「上陸部隊にとっては、P36戦闘機の機銃掃射でさえ脅威ですから」

 「このヒロを拠点に反撃できれば良いが、600機も増援されては厳しいかもしれん」

 「ワイルドキャットとライトニングなら何とか戦えると思います」

 「しかし、日本人の開拓した街を使うことになるとは、なんの皮肉かな」

 「元々、ハワイの勢力は怪しいものでしたからね」

 「そりゃ 宣教師が入り込んで無理やりハワイ王国廃位で連邦に組み込みじゃな」

 「日本は、病院船、二式大艇、潜水艦による補給を行っているようです」

 「こちらも病院船で補給を行っておるよ」

 「問題は、こちらの戦力が小さい事でしょうね」

 「オアフ攻撃で戦艦部隊は大破」

 「空母も損傷して大量のパイロットを失っている。目も当てられんよ」

 「いっそ、巡洋艦隊による封鎖をすべきでは?」

 「あそこは、潜水艦基地だぞ」

 「それとゼロ戦とウォーホークがまだ残っていて、防空能力は高い」

 「オアフは自給自足率も高いですからね」

 「夜間爆撃は? 農場を爆撃しているのだろう」

 「命中率は低いですが効果があるようです」

 「日本軍は我が軍のレーダを使って迎撃能力が高いようだ」

 「無線機も使われているはず」

 「ハワイに備蓄していたものの3分の1は使われていると考えて良いかな」

 「だいぶ消耗しているはずですが・・・」

 「山本長官なら、戦功のため、もっと攻撃的になってもいいと思ったが」

 「山本長官は、長官というよりハワイ総督ですからね」

 「長官なら出世のために将兵を死地に送って、赤レンガに戻ればいいですがね」

 「総督の立場だと、別の戦略になるのでしょう」

 「ふっ 立ち位置で戦略が変わるとか、戦略とはいえんな」

 

 

 アメリカは世界の62パーセントの石油を産していた。

 第二位のソビエト、第三位のベネズエラでさえ10パーセント台に過ぎず。

 第三位のイランと第四位のオランダ領インドネシアは3パーセントの石油しか産していない。

 燃料の差は、エネルギー、生産力、輸送力、作戦能力の差になった。

 そして、油質でも差が開く。

 アメリカはパラフィン基系の油田が多く潤滑油の精製で優れる。

 日本軍が占領した東南アジアは潤滑油の精製で不向きな芳香族基系の油田。

 東南アジアのタラカン油田とバリックパパン油田だけが辛うじて潤滑油に足る成分だった。

 原油成分の違いは潤滑油で顕著に現れる。

 そして、元々、日本は高品質オイル、機械油をアメリカに頼って精製していない。

 機械油、潤滑油の各種の違いだけで10種類以上あり、

 成分が違い間違えると故障したり破損したり。

 戦前購入し備蓄していた潤滑油と機械油は戦線の拡大と同時に急速に減少していく。

 濾紙で濾した機械油や潤滑油を使っても正味より油質が落ちて使用に堪えない。

 日本は、アメリカから購入した機械油、潤滑油をそのまま使っており、

 成分分析や比較もまともにしていなかった。

 もちろん、精製は困難。

 いくら新型戦闘機を開発しても、

 燃料のオクタン価が87から91になっても潤滑油がなければ航空機は飛ばない。

 救いは、ドイツの技術支援で油田の精製能力が向上した事にあったが、

 主に使われたのは、植物性のひまし油だった。

 ヒマシ油の油質は、ほどほど優れているものの、

 植物性のため腐ることが多く、常に入れ替えを必要とした。

 

 

 注目されている戦線が、もう一つあった。

 第二次世界大戦の主力戦場である東部戦線。

 ドイツ軍は、縦深陣地を構築しつつ越冬し戦力を集結させる。

 そして、ハワイ上陸作戦で苦戦するアメリカが北アフリカで反攻作戦ができず。

 ソビエト連邦に陸軍兵器を余計に渡していた。

 ドイツ軍300万+同盟軍80万。ソ連軍650万が睨み合う。

 ベルリン

 「総統は、ドイツ軍の維持費は大変だから早く戦争を終わらせたがってるらしいよ」

 「もちろん、勝ってだけど」

 「そうはいってもねぇ ソ連軍の戦車はドイツの3倍以上だよ」

 正面の戦線にT34戦車を中心にした戦車が対峙していた。

ドイツ軍戦車 ソ連軍戦車
57トン級タイガー戦車56口径88mm砲。 32トン級T34戦車51.6口径85mm砲
25トン級4号戦車48口径75mm砲。 28・30トン級T34戦車41.5口径76.2mm砲。
21.5トン級3号戦車60口径50mm砲。 26トン級T34戦車30.5口径76.2mm砲。
  9.4トン級T26戦車45mm砲
  13.8トン級BT7戦車46口径45mm砲
  26トン級M3リー戦車75mm×1。37mm×1
  28.3トン級M4シャーマン戦車75mm砲
  13トン級M3軽戦車37mm砲
  17.3トン級バレンタイン戦車40mm砲

 20mm機関砲搭載の9トン級2号戦車は、西部戦線で警備をするよりなく。

 緒戦で大量に捕獲したBT戦車。T26戦車、T28戦車など役に立ちそうになく。

 戦線の塹壕に並べて埋めて防衛線を構築する。

 東部戦線は、質と量で明らかにドイツ軍が不利になり・・・

 ドイツ軍将校たちが双眼鏡でソビエト軍陣地を覗き込んでいた。

 「もう、戦線防衛は機動戦術とタイガー戦車と88mm砲に頼るしかないよ」

 「やれやれ」

 「北アフリカ戦線が一段落して良かったけどね」

 「ドイツ軍6個師団(12万)とイタリア軍30万が北アフリカに張り付いたままだよ」

 「おかげでソビエトに止めを刺しそこなっただろう」

 「あの戦車の数を見ろよ。むしろ死なずに済んだかも・・・」

 第一次大戦の塹壕より広く段差のある対戦車塹壕が縦深陣地で広がる。

 むしろ、堡塁に近く、延々と戦線を構築していく。

 そして、冬季明けとともにソビエト軍の反撃が始まり。

 ドイツ軍は、3倍以上のソビエト軍を迎撃する。

 152mm砲弾、122mm砲弾の雨がドイツ陣地に降り注ぎ、粉砕していく、

 シュトルモビクが爆弾を投下し。ドイツ軍陣地を吹き飛ばしていく。

 P39エアコブラが37mm機関砲がドイツ戦車の上部装甲を撃ち抜いていく、

 進撃するT34戦車、M3リー戦車の砲撃で、3号戦車、4号戦車が撃破されていく。

 T34戦車とM4戦車に包囲されそうなタイガー戦車が堡塁から後退していく。

 そして、勢い付いて進軍するT34戦車数十両がいきなり撃破された。

 新規に装備された初期型パンツァーファウスト30が、ドイツ軍と東欧軍の窮地を救った。

 140mm装甲を撃ち抜けるため塹壕に隠れ、

 T34戦車の最大装甲90mmを破壊できた。

 パンツァーファウストの反撃により、

 計算上、押し切れるはずだったソビエト軍は混乱し、戦線が膠着していく。

 とはいえ、歩兵携帯用で射程は30mと短かいのが難点で、決定的な要素は言えなくなっていた。

 「すごいですな」 日本の将校がパンツァーファウストを弄ぶ。

 「状況が許せば、日本へも供給できるはずです」

 「これが大量にあれば、オアフ島が守れるかも知れないな」

 ドイツ軍はアメリカ軍の大陸反攻を挫くため、

 日本軍のオアフ島の維持は有効だった。

 

 

 

 国家も個人も似ていた。

 多角的な価値観による可否。視点の高さ、視野の広さ。

 先天的能力と後天的努力の違いで到達できる目標は、人それぞれ、違ってくる。

 また、趣向によって目標が狭められたり、散漫過ぎて惑ったり。

 伝統や詰まらない確執で柔軟性が失われ、目標が捻じ曲げられたり。

 己を知り、敵を知り。

 身の程をわきまえ、到達可能な目標を選択するのが吉だったりする。

 目標を知らない者は、無知、無学であり。不安に苛まれる。

 目標に向かう意欲がない者は、無気力・無欲・無情であり。野垂れ死に

 目標に辿り着く術を知らない者は、無能であり。右往左往するばかり。

 目標まで行く体力がない者は、無力・弱小であり。負け犬。

 しかし、個人もであるが国情も、いろいろ。

 愚かな代償で、無理・無茶をしなければならないこともあったりする。

 そして、その目標が善意か、悪意かは、まったく別の話し。

 この時期、イタリアは、200万トン近い商船を保有しており。

 そのうち、スエズ運河から東南アジアを往復できる船舶を100隻ほど有していた。

 同盟国は、幸運にもスエズ運河を奪取でき、

 イタリア商船隊はインド洋へと乗り出すことができた。

 スエズ運河を越えて、インド洋。

 そして、シンガポールへと入港する。

 日独伊の連絡が可能となり。

 双方で必要な物資が交換され、

 日独伊同盟の連絡が可能になったことで有利な戦局が作られていく。

 「やっぱり、ドイツ製工作機械だよな」

 「そうそう、この切れ味、この削りっぷり。芸術だよ」

 「製造番号が合えば、ぴったりは神業だよ。ヤスリがいらないんだから」

 「だいたい、壊れないのが良いよね」

 「やっと、まともなエンジンが製造できる」

 「しかし、ドイツとイタリア。随分と原料を持って行ったな。困るよね」

 「でも、真珠湾に良い武器を持って行ければ悪くないよ」

 「だと良いけどね。資源取り過ぎ」

 「ドイツが負けると日本も負けるのが痛いからね」

 

 イタリア海軍は、イギリス戦艦3隻撃沈して、地中海を支配していた。

 もっとも新型戦艦リットリオ、ヴィットリオ・ヴェネト。(50口径381mm砲9門)は大破して修理改装中。

 地中海の女王は、旧式戦艦カイオ・デュイリオ、ジュリオ・チェザーレ。(43.8口径320mm砲10門)となった。

 そして、それに勝る戦艦を持つ国が地中海に存在する。

 戦艦ダンケルク、ストラスブール(52口径330mm砲8門)は、比較的、新しい戦艦であり、

 イタリアの旧式戦艦より強力だった。

 政治的な問題さえなければ、事実上、地中海の覇者といえた。

 ツーロン港のフランス艦隊は、いろんな要因で中立を保っていた。

  1) 日本軍のオアフ島制圧。

  2) 独伊軍のスエズ占領。

  3) 日独伊連絡。

  4) 空母艦載機による戦艦撃沈。

  5) 東部戦線の停滞。

 ヴィシー政府は、いくつかの項目で枢軸国と連合国の戦争が長引くと判断。

 中立国のまま、様子を見る気配を見せた。

 日独伊の将校がツーロンに訪れる。

 無論、狙いは、ヴィシー政府のツーロン艦隊だった。

 「素晴らしい艦隊だ」

 「枢軸国海軍が、これらを得れば、大西洋、太平洋で有利になるでしょうな」

 「確かに・・・」

 日本海軍は、戦艦10隻分の水兵が余り、フランス艦隊を何とか動かせそうだった。

 とはいえ、艦籍はヴィシー・フランス。

 日独伊同盟が狙っても引き渡されるとは限らない。

 スエズ運河の水深は10mほどしかなく。

 戦艦を通過させるには燃料から弾薬から根こそぎ降ろし、

 タグボートで引っ張るしかなかった。

 ダンケルク型は好都合な事に吃水9.6mほど。

 上手くいけば、そのままでもスエズを通過できそうだった。

 

 

 排水量23350トン。

 全長232.5m×全幅29.4m。吃水7.39m。

 速度30ノット。18ノット/5500海里。

 45口径135mm砲8基。65口径65mm砲12基。65口径20mm6連装22基。

 艦載機51機。

 元客船だけあってイタリア艦艇らしからぬ、耐波性と航洋性を有していた。

 そして、イタリア空母アキラは完成していた。

 搭載された艦載機は、日本のゼロ戦22型31機。99式艦爆20機。

 無論、予定されていた機体は本来、別の機体だった。

 レジアーネRe.2002アリエテUは、650kg爆弾を搭載できる戦闘爆撃機であり。

 フィアットG.55チェンタウロは、DB605水冷エンジン1475馬力620kmの戦闘機。

 空母同様、機体の性能自体も悪くないのである。

 しかし、艦上戦闘機として運用する場合、不都合があり。

 まず航法の訓練が行き届いていなかった。

 東西南北の方角がわかり、そっちに飛べば見覚えのある陸地が見える地中海と違う。

 日本人パイロットが搭乗し、ゼロ戦22型。99艦爆が引き渡される。

 「いったん、イタリア所属になれば陸軍パイロットでもゼロ戦に乗れるわけね」

 「ベテランパイロットなら何とかなるだろうよ」

 「しかし、航法を覚えさせられたのは参ったよ」

 そして、空母アキラは、シンガポールにいる。

 アキラに搭載されていた機械部品は降ろされ、

 石油精製所に送られ、精製能力が引き上げていく。

 「中古品のダイムラーベンツ601エンジンに。北アフリカで捕獲したマーリンエンジンか・・・」

 「しかし、初期型の1000馬力級ではな」

 「それでも確実に飛ぶなら飛燕に換装できる」

 

 

 

 そして・・・

 第13独立機動部隊

   イタリア空母 (アキラ)  軽巡洋艦 (デ・ロイテル、ジャワ) が編成される。

 デ・ロイテルが帰還した零式水上偵察機を収容しているにもかかわらず。

 空母アキラは、意を介さないように進んでいく。

 デ・ロイテル 艦橋

 「・・・やれやれ」

 「今度から、もっと手前に着水させるべきでしょうね」

 「そうだな・・・」

 元戦艦の副艦長は、外国艦の艦長となっていた。

 自分の職場(艦)を失った軍官僚ほど惨めなことはなく、

 今では使い慣れない軽巡で、イタリア空母の護衛とは・・・

 大本営特攻は、命を賭しても反対すべきだったと後悔していたりする。

 

 

 南太平洋

 第13独立機動部隊は、給油艦 襟裳(えりも)から燃料を給油したのち、獲物を探しまわる。

 空母アキラからバケツが海に投げ込まれ、大きな鍋に海水が入れられる。

 「「「「・・・おそーら おーそれみーよ〜♪」」」」

 「「「「すたんふろんてぇあ てぇ・・・すたんふろんてぇあ てぇ〜!」」」」

 大きな鍋にヴルスト(ウィンナ)が投げ込まれる。

 海水が沸騰するとスパゲッティが投げ入れられ茹でられていく。

 「「「「・・・と〜や れすたるじぃあ〜」」」」

 「「「「わんなふぁのと でぉおそらふぁなし まな と そーな〜♪」」」」

 長距離航行のコツを掴んでいないイタリア人は、いろんな意味で浪費と消耗が激しかった。

 飛行甲板で茹でられるスパゲッティで気分が爽快になるのか乗員も集まりやすい。

 とはいえ、海水で茹でられるのなら、米よりスパゲッティ有利という気がしないでもない。

 「フォン・ブラウン。どうだ?」

 「ああ、アンドレーア。ゼロは、ちょっと遅いが良い調子だぞ」

 「アルデンテ。だろう」

 「そっちかよ!」

 「だけど大丈夫かな。超々ジュラルミンって使っている間に強度が低下するんだろう」

 「日本人は、良く乗ってられるな」

 「しかも機体がペラペラだし。もう人殺しだな」

 「レジアーネ2002戦闘機にすれば良かったのに・・・」

 「空母に着艦するならゼロ戦なんだけどね」

 「まぁ 低空での揚力は文句のつけようがないけど」

 「飛んでいる最中に強度が劣化して空中分解じゃ怖過ぎるよ」

 ドイツ人とイタリア人のパイロットも混ざっていたりする。

 「敵だ! 出撃〜!」

 「È un nemico! Un sortie!」 (イタリア語)

 「Es ist Feind! Ein sortie!」 (ドイツ語)

 日本人が騒ぎ始め。

 ドイツ人が反応して。

 イタリア人は、いたってのんびり。

 この温度差とまとまりのなさが第13独立機動部隊が編成された理由であり。

 日本海軍が軽巡2隻と給油艦1隻を外しても、一緒に行動したくない理由だった。

 

 

 日独伊カイロ宣言

 「枢軸国は、アメリカ・イギリス・フランスの人種差別を人類に対する犯罪とする」

 「枢軸国は、イギリス、フランスの植民地解放の干渉戦争を行うと宣言する」

 

 

 ワシントン 白い家

 「くっそぉ〜 嘘つきが!!!」

 「枢軸国は、いつの間に宗旨替えしたんだ」

 「論点を外して、ええ格好したいだけなのでしょう」

 「忌々しい連中だ」

 「どんな悪党でも一つ良い事をすれば、実は良いやつなのかもしれないと錯覚させられますから」

 「ふざけやがって、開戦の詔勅(しょうちょく)と全然違うだろうが!」

 「ですがアメリカ国内と植民地は動揺しています」

 「ソビエトの対日参戦は?」

 「東部戦線は苦戦中です」

 「役立たずが」

 

 

 

 呉

 赤城 艦橋

 「良いんですか? イタリア空母を好きにさせて」

 「もう、いいよ。あの艦隊は好きにさせておけばいい」

 「共同歩調は不可能そうですけどね」

 「捕獲したとはいえ、軽巡2隻を付けるのは惜しいです。それに給油艦の襟裳は・・・」

 「し、沈んだと思おう。そう思おう。好都合なこともあるし」

 「・・・・」

 「それより、ドイツ製のレーダーは?」

 「ええ、大したものです」

 艦船用レーダー・ゼータクト (220km)

 基地防空レーダー・フライア (190km)

 対空射撃用レーダー・ウルツブルグD (40〜70km)

 イタリア商船隊が輸送してきたレーダーが並ぶ。

 「複製、できそうかね」

 「最悪でも配線と真空管はドイツ製が良いでしょう」

 「日本の工業力は、そんなに低いのか?」

 「欧米との戦争を避けたがるほど、ですかね」

 「んん・・・・」

 「最悪でも空母と戦艦にはレーダーを載せたいものだ」

 「確かに・・・」

 「真珠湾の拾いモノの対空用SCR270(240km)。射撃用SCR258。艦船用CXAM(50km)も苦労しましたし」

 「かなり壊れていたからな」

 「それでも空母と戦艦には搭載できましたし・・・」

 「大和と武蔵の155mm3連装2基を外してか?」

 「まず、敵機を発見しないと」

 「それに46cm砲の衝撃に耐えるようにアンテナも補強しないと・・・」

 「耐えられそうなのか?」

 「ええ、何とか」

 大和と武蔵は大型レーダーを前後に装備し、

 46cm砲の衝撃に耐えられる程度補強されていた。

 オアフ島で捕獲したアメリカ製レーダーを流用し拡大改良したものだった。

 当然、重量が増すため、155mm砲塔が邪魔になり砲塔が外される。

 これは、仕方なくというより思惑も絡んでいた。

 大型レーダーを装備することで戦闘艦としての戦艦より、

 戦闘指揮艦としての戦艦をアピールする。

 結果的に真珠湾特攻といった戦略を未然に防ごうという動機だった。

 もっとも、燃料バカ食いの大和、武蔵をどうするか日本海軍も悩みどころ。

 『なんで、こんな戦艦を作ったんだ』

 海軍上層部の将校の多くは、穀潰しの愛息子を見つめる気分を共感する。

 戦争が始まってみると分かる。

 この戦艦を最大戦速で走らせるなど亡国モノ。

 大日本帝国の誇りは、日本民族の自己満足の延長でしかなかった。

 しかし、建造に反対すれば殺傷沙汰になりかねないほど押している勢力が存在した。

 頑迷で、くだらない面子を誇りにする軍国主義者たち。

 そして、それで食べている亡国の亡者たち。

 「信濃を潰せただけでも恩の字か」

 「戦艦が減って経費が浮いたのは良いですがね」

 「一点豪華主義では戦争できんよ」

 「いま欲しいのは、東太平洋に全域に配置できる伊号だろうな」

 「ドイツ、イタリア。陸軍が味方してくれたのが追い風ですかね」

 

 

 ウェーク島

 ガトー級潜水艦から積み荷が降ろされていく。

 孤立した島に潜水艦が補給を行う愚は、日本海軍でも行っているという。

 バカげたことに魚雷は積み込まれておらず。

 燃料、食糧、日用品、生活物資ばかり。

 「こんなんじゃ 戦果が挙げられないですね」

 「こんな島。早く占領されてしまえばいいんだ」

 「食料を自給できて、備蓄のあるオアフ島は優位ですかね」

 「んん・・・」

 

 

 給油艦 襟裳(えりも)がパレンバンの港に着く。

 ドイツ人将校とイタリア人将校が不審がる陸軍将校になにやら捲し立てる。

 「・・・っえ・・な・・・ちょっ・・・え・・・まった・・・あ・・あのぉ・・・」

 あれよあれよと、燃料が給油された襟裳が出航していく。

 「はあ・・・」

 「大佐ぁ〜」

 「に、日独伊同盟は、大切だよ」

 陸軍は、イタリア空母アキラにパイロットを出向させていた。

 そして、ドイツは、高度な技術を持っている

 陸軍将兵は渋々だったものの、

 海軍との派閥力学上、ドイツとイタリアを味方につけたいと思うのだった。

 身内を牽制し、派閥力学上の優位を得るため外国勢と結託する。

 日本の陸海軍の不和と亀裂は修復不能なほど大きかった。

 

 

 タスマン海

 第13独立機動部隊、空母アキラからゼロ戦5機、99艦爆20機が発艦する。

 北東200km先の護衛空母ボーグ、カード。護衛艦6隻。輸送船24隻が空襲される。

 「よっしゃ〜!」

 ワイルドキャットが迎撃に上がろうとするが手遅れだった。

 99艦爆は、10機ずつに分かれ、それぞれに護衛空母を襲う。

 250kg爆弾がボーグに3発命中し。カードに4発命中した。

 爆弾は、飛行甲板が付き破った後、炸裂。

 2隻の護衛空母は、大破炎上しつつ沈み始める。

 デ・ロイテルが150mm砲7門。ジャワが150mm砲6門を輸送船団に向けて迫り。

 1100トン級旧式駆逐艦6隻が迎え撃つ。

 もちろん、巡洋艦に対し、102mm、127mmの大砲で勝ち目があろうはずもなく。

 何よりプラットフォームとしての重量差が命中率の差に転化される。

 護衛艦は、1隻ずつ撃破され、

 護衛艦6隻、輸送船8隻を撃沈。輸送船5隻を拿捕してしまう。

 輸送船が捕獲されていく。

 「急げ! 航路を日本へ向けろ」

 「あ、ああ」

 乗員は、全て武装解除されて人質にされており、

 生き残るため言うことを聞くよりなかった。

 オーストラリアからB17爆撃機が来襲。

 レーダーに誘導されたゼロ戦12機が寄ってたかって撃墜してしまう。

 空母アキラ 艦橋

 「いやあ、良いねぇ レーダー」

 「まったく。便利な機械だ」

 「うんうん」

 アキラの艦長は、一応、イタリア人だった。

 しかし、護衛艦2隻の乗員と、艦載機パイロットは、日本海軍であり。

 日独伊将校がゴチャゴチャと混ざって、良くわからない指揮系統が出来上がる。

 

 

 深夜のハワイ島沖

 「スコルツェニー中佐。予定海域です」

 「潜望鏡深度まで浮上」

 「・・・敵影ありません」

 「これより、ハワイに上陸する・・・その前に一言言っておく」

 「「「・・・・」」」

 「我々は、ドイツ最強のブランデンブルク部隊である」

 「名誉にかけて、イタリアのサルデーニャ竜騎兵隊(Dragoni di Sardegna)には負けてはならない」

 「「「「ヤー!」」」」

 「特にボローニャ隊には負けるな」

 「「「「ヤー!」」」」

 「よし、ベルダー・ブレーメン隊出撃」

 11人のフロッグメンたちが陸地に向かって泳いで行く。

 「日本軍も特殊部隊を出しているそうですが?」

 「日系人部隊を出しているらしいがね」

 「信用できないわけじゃないですが、あまり、接触したくないですね」

 「そうだな」

 「しかし、ここまでドイツ軍が日本軍に協力する必要があるので?」

 「太平洋でアメリカ軍が苦戦すれば、それだけ大西洋から戦力が引き抜かれる。それだけだ」

 

 

 アメリカ西海岸。

 暗闇の中、11人の人影が浜辺から内陸に向かっていく。

 海岸線近くでは仕事はしない。

 戦時下の西海岸は戒厳令だったが巡回パトロールの突破は厳しくなかった。

 中途半端に厳しいという程度だった。

 程よい緊張感を保ちながら内陸へと入り込む。

 「みんな、レッジーナ隊は、これよりカナダとアメリカ合衆国を戦争状態にするため工作を行う」

 「アメリカ合衆国で破壊工作を行う時、俺たちは、カナダ人だ」

 「そして、カナダで破壊工作を行う時、俺たちはアメリカ人だ」

 「我々は孤立しているが決して孤独ではない」

 「数隊のチームが活動していることを忘れるな」

 「また、資金は上手く使う事を心掛けよ」

 「「「シィー!(Sì)」」」

 「それから、ドイツのハンザ・ロシュトック隊には絶対に負けるな」

 「ゴールを決めるのはレッジーナ隊だ」

 「「「シィー!(Sì)」」」

 「世界最強の特殊部隊はサルデーニャ竜騎兵隊(Dragoni di Sardegna)だという事を忘れるな」

 「「「シィー!(Sì)」」」

 「キャベツ野郎のブランデンブルク部隊には、ぜった〜い! に負けるな!!」

 「「「シィー!(Sì)」」」

 警戒の緩い西海岸からドイツ、イタリアの特殊部隊が潜入していく。

 

 サルデーニャ竜騎兵隊(Dragoni di Sardegna)25チーム 275人

 ACミラン、ASローマ、ラツィオ、ウディネーゼ、

 ブレッシア、レッジーナ、アタランタ、リヴォルノ、

 レッチェ、ボローニャ、インターミラノ、ユベントス、

 フィオレンティーナ、パルマ、ナポリ、トリノ、

 サンプドリア、トリエスティーナ、A.C.ペルージャ、

 ベローナ、インテル、ピアチェンツァ、

 コモ、モデナ、エンポリ。

 

 ドイツ・ブランデンブルク部隊20チーム 220人

 バイエルン・ミュンヘン、カイザースラウテルン、

 バイヤー・レバークーゼン、1860ミュンヘン、

 VfBシュツットガルト、ヘルタ・ベルリン、

 ハンブルガーSV、シャルケ04、VfLヴォルフスブルク、

 ベルダー・ブレーメン、ボルシア・ドルトムント、

 エネルギー・コットブス、ハンザ・ロシュトック、

 1FCニュルンベルク、ハノーバー96、

 アルミニア・ビーレフェルト、VfLボーフム、

 SCフライブルク、1FCケルン、マインツ05

 両チーム合わせても45チーム500人に満たない特殊部隊だったが

 太平洋域のアメリカ軍を大混乱に落とし入れた。

 

 

 ニューギニア・ソロモン戦線

 ジャヤプラ飛行場

 B24爆撃機とライトニング戦闘機が並ぶ

 マッカーサー将軍は戦力が揃えば、パラオを占領。

 フィリピンを奪回しようと準備を整えていた。

 「基地航空戦力が、あと1000機もあればな」

 「オアフ攻防戦で梃子摺っているようでは・・・」

 「機動部隊と上陸作戦部隊の傘となってフィリピンに攻勢をかけられるのに」

 「まだ補給線を維持するだけで精一杯ですから」

 「日本軍は、ニューギニア・ソロモンに侵攻してこないのかな」

 「日本もオアフ維持が精一杯なのかもしれません」

 「では、トラックを空襲して、いたぶってやろう」

 「ですが、補給が」

 「補給を誘うために戦果をあげるのだ。戦果のないところに補給などない」

 「なるほど・・・しかし、戦略的に正しいのでしょうか?」

 「戦略的に間違っていても人間の感情は、そうなのだ」

 トラックとパラオがB24爆撃機に夜間爆撃された。

 

 

 ハワイ・ヒロ

 アメリカ軍のMP(Military police)憲兵を乗せたジープが忙しげに基地内を行き来する。

 「殺人事件が多過ぎるな」

 「使われている凶器は、石、レンガ、アーミーナイフ、紐・・・」

 「凶器? 至近距離の犯行なのは分かるよ。だからと言って味方とは限らないだろう」

 「アリバイのない者も多いですし・・・」

 「裏切り者がいるとでも?」

 「破壊工作なら敵が潜んでいると考える」

 「しかし、殺人事件だと人間不信が広がる」

 「確かに敵国が行う手として、ありでしょうが・・・」

 「殺人部隊、情報収集部隊、破壊工作部隊」

 「たぶん、いくつかの部隊が動いているのだろう」

 「日本軍がですか? 日系人?」

 「んん・・・それはこれから調べないとな」

 「・・・着きました」

 倉庫の裏

 歩哨がアーミーナイフを胸に刺されて倒れ、周りに人だかりが作られる。

 「よ〜し お前たち、後は我々、MPの仕事だ。引き上げて任務について、もらおうか」

 将兵たちが三々五々引き揚げていく。

 「・・・正面から胸をグサリ。犯人が日系人や日本人ならこれはないはず」

 「んん・・・・女か?」

  

 アメリカ太平洋作戦司令部

 士官たちがヒソヒソと話していた。

 「朝、23件目の殺人事件が起きたそうだ」

 「殺人だ〜 敵軍の襲撃じゃないのか」

 「MPはいったい何やっているんだ」

 「・・・おい、そこ、関係のない話しをするな」

 「「「はっ!」」」

 「・・・それより、南太平洋も危ない状況だそうだ」

 「日本機動部隊が南太平洋を荒らしてる?」

 「らしいよ。輸送船船団2つが喰われた」

 「第一、第二機動部隊は呉。第三機動部隊はシンガポール・・・」

 「小型空母部隊は?」

 「空母パイロットの養成のはず・・・」

 「豪州がごねるとハワイの輸送作戦に支障が出るぞ」

 「・・・適当な航続力があって、それなりの戦力・・・空母エセックスを出すか」

 「新型空母だぞ。大丈夫か?」

 「いま、レキシントン2隻、ヨークタウン3隻。インディペンデンスともローテーションが悪い」

 「艦載機パイロットの訓練もヘルキャットへの転換訓練もか。輸送も手が抜けられないな」

 「なんとか練度があって、まともに運用できるのは、エセックスだけだろう」

 「んん・・・」

 「あと・・・ボルチモアとクリーブランド型のバーミングハム、モビールだな」

 「出来たて、ばっかりだな」

 「もう一度、日本機動部隊が来たらどうなる」

 「オアフ島の日本航空部隊と合わせると、こっちは壊滅だ」

 「なるほど・・・」

 

 

 タスマン海。

 天の川が満天を横切り、南十字星が輝く星空の下。

 空母エセックス 艦橋。

 「レーダーの調子はどうだ?」

 「少しゴーストが見えるようですが」

 「どこだ?」

 「3時方向15km先です」

 「・・・何もなさそうだな」

 「見晴らしのいい時に修復しておいた方がいいですよね」

 「ああ、もう一つのレーダーで補うから、早く直しておいてくれ」

 「はい」

 「しかし、どこに行ったんだ。日本の機動部隊は」

 「もう、護衛空母4隻。護衛艦15隻。輸送船18隻撃沈されている」

 「大破は、護衛空母1隻。護衛艦5隻。輸送船8隻撃沈」

 「あと、輸送船15隻拿捕が痛いですね」

 「暴れている機動部隊を片付けろとヒロから催促が来てるぞ」

 「といってもな・・・もっとB24爆撃機を南太平洋に配備して監視すべきだろう」

 「イギリスが泣きついてな。アメリカも大西洋を荒らされたくないらしい」

 

 そして、数百キロ離れた海域。

 天の川が満天を横切り、南十字星が輝く星空の下。

 空母アキラ 艦橋。

 「「「「かぺぇらこーざ♪ なよるな〜ぜ そら なりあ せれ〜な♪」」」」

 「「「「どんぽっなぺすたっ!」」」」

 艦橋でも・・・

 「「「「お そ れ み〜よ すたんふろんてぇあて」」」」

 「「「「お そ ら お そ れ み〜よ♪」」」」

 機関室でも・・・

 「「「「だ〜 ふぇねすた とーや な らばらなーら」」」」

 「「「「たんたっ せればんた〜♪」」」」

 飛行甲板でも・・・

 「「「「はぁ〜」」」」

 ドイツ軍将兵は、戦略上の不安要素で悩み。

 日本軍将兵は、人間関係で悩んだりする。

 一方、イタリア軍将兵は、女がいないことが最大の悩みだった。

 

 

 ニュージーランド沖

 ウェリントンから780kmほど東の海にチャッタム諸島(963ku 人口400人)がある。

 アメリカから、ニュージーランドに向かうと途中、

 それなりの要衝になるが何もない島だった。

 そこに零式水上偵察機が着水して降りる。

 そして、イタリア人2人が降りて行く。

 偵察潜入活動らしいが何やら不安が付きまとう。

 数時間が経過すると銃声が響き。

 血相変えたイタリア人2人が服を抱えて逃げ帰ってくる。

 『夜這い・・・夜這いなのか・・・』

 零式水上偵察機が飛び立ち、帰還中に僚機が合流する。

 イタリア人たちはニヤニヤと笑い。日本人パイロットが呆れる。

 

 

 

 空母エセックス、

 重巡ボルチモア、

 軽巡バーミングハム、モビール

 空母エセックス 艦橋

 「なに! ニュージーランドの東側だぁ〜」

 「チャッタム諸島沖だそうです」

 「ほう、タスマン海ではなくニュージーランドの反対側を哨戒していたのか」

 「いえ、警察署長がカンカンになって怒って軍に通報してきたとか」

 「はぁ?」

 「なにやら、市長の娘がイタリア軍人に夜這いされたとかで・・・」

 「それは、ニュージーランドの国内犯罪だろう」

 「ニュージーランドの湖で日本の水上機を見たと報告もあるようですし」

 「何か戦略的な目的でもあるのか」

 「まさか、ニュージーランドの裏切り!」

 「ありえん・・・何かの陽動か・・・南に向かってみるか」

 「はっ!」

 

 

 ワイアナエ山脈とコオラウ山脈の間は20km。

 日本軍将兵が一定の間隔で対戦車塹壕を造成していく。

 ブルドーザーは役に立った。

 解体された戦艦の装甲板が運搬車に載せられていた。

 それをM2ハーフトラックで引っ張っていく。

 

 オアフ防空戦は昼夜問わず行われる。

 アメリカ製レーダーを奪った日本軍は、アメリカ軍の空襲・空輸を事前に察知。

 空中待機させたゼロ戦で迎撃することができた。

 もっとも、ヒロに配備されているアメリカ戦闘機は、新型機ばかりになっていた。

 F6Fヘルキャット、P47サンダーボルト、P38ライトニング、F4Uコルセア。

 日本軍機は、空母で送られてきたゼロ戦32、22型で防空戦に徹する。

 夜間爆撃で爆弾を落としていくB24爆撃機。B17爆撃機に脅える毎日。

 元々、オアフ島に備蓄していた燃料、備品は減少していく。

 時折、伊号潜水艦が物資を降ろしていくが焼け石に水。

 少なくとも生活物資を確保できるオアフ島は、それなりに生活が出来た。

 燃料、武器弾薬の消耗を控えれば何とか戦えた。

 そう、太平洋の主戦場は、ハワイ諸島になっていた。

 

 

 そして・・・

 深夜

 アイオワ、ノース・カロライナ、ワシントン、

 サウスダコタ、インディアナ、マサチューセッツ、アラバマ、

 夜間にアメリカ戦艦部隊の艦砲射撃が始まる。

 昼間は、航空機による反撃があっても夜間は、その心配もなかった。

 用心するのは伊号だった。

 それも、整備修復に要する時間は、工作機械の劣化で毎月増えており。

 輸送作戦のローテーションを計算すれば、ハワイ沖の伊号は5隻前後・・・

 戦艦7隻からオアフ島に撃ち込む406mm砲弾は6300発。

 日本戦艦不在のためか、艦砲射撃も遠慮がない。

 コオラウ山脈の山道や沿岸道は遠慮なく砲弾が叩きこまれ、

 東岸のアメリカ軍の進攻を支援する。

 また、滑走路は、吹き飛ばされ、隠している機体にも被害が及ぶ。

 

 雷跡に気付いたアメリカ駆逐艦が回頭する。

 「取り舵一杯!! 全速!!!」

 「艦長! 魚雷が追いかけてきます!!」

 「な、何だと!」

 「音響魚雷です」

 「・・・・」

 連合国軍には、音響魚雷に対する対策があった。

 FOXERは曳航型のノイズ発生装置。

 発見されるリスクを抱え込んでも運次第で、音響魚雷の追跡をかわすことができた。

 唯一、問題があるとすれば、FOXERは大西洋に配備され、

 太平洋には、配備さえていなかったこと。

 無論、警戒し持ってこようとしたアメリカ軍官僚もいた。

 しかし、オアフ島制圧のため後回しにされたのである。

 水中1800トン級IXD型。水中1545トン級IXC/40型。Uボート70隻。

 Uボート艦隊は、ジブラルタルを突破し、地中海を横切り、インド洋を越え。

 そして、はるばる太平洋のハワイ沖に進出していた。

 無論、ヒットラー総統の善意ではない。

 アメリカが太平洋で苦戦すれば大西洋の軍事的圧力が減る。

 大西洋で苦労して100隻沈めるより。太平洋で楽して500隻沈めた方が得。

 それだけだった。

 そのUボート70隻がハワイ諸島に忍び寄る。

 伊号より静粛性能で優れたUボート艦隊に気付くソナー担当官は、いなかった。

 そして、Uボート艦隊は、ウルフパック(群狼戦術)で一斉攻撃を仕掛ける。

 無論、爆薬量の少ないG7魚雷の狙いは輸送船と邪魔な護衛艦だった。

 しかし、この日は、来襲したアメリカ戦艦部隊も攻撃する。

 魚雷を避けようと逃げ回る護衛艦と戦艦に魚雷が命中していく。

 悪夢の夜。

 オアフ島を取り囲もうとしていたアメリカ戦艦部隊は、最悪の被害を出していた。

 そして、駆逐艦を狙ったG7魚雷がたまたま、別の艦に命中する。

 空母パールハーバー (ヨークタウンU) 艦橋

 「艦長。スクリューと舵が1基。破壊されたようです」

 「ちっ! サンチアゴに引き揚げるぞ」

 その夜の雷撃による被害は戦艦7隻、重巡7隻、軽巡10隻、駆逐艦29隻に及び。

 駆逐艦15隻は撃沈されてしまう。

 戦艦アイオワ 艦橋

 「命中魚雷は4本ですが帰還できそうです」

 「G7の弾頭はヘキソーゲン280kgだったな」

 「威力は日本の魚雷より弱いようです」

 「商船狙いなのだから、それで充分なのだろう」

 そして、アメリカ太平洋艦隊は、Uボート艦隊の襲撃による穴埋めを大西洋に求め、

 イギリス、ソビエトの反発を受けることになった。

 米英ソの亀裂は広がり始め、日独伊の連携は進んでいく。

 

 

 オアフ島 真珠湾

 げほぉん! げほぉん! げほぉん! げほぉん!

 艦砲射撃で廃墟と化した司令部から、日本軍将校が湧いて出てくる

 「・・・アメリカ艦隊は引き揚げたか?」

 「どうでしょう。ドイツの魚雷は、対船用で対艦用ではありませんから」

 「戦艦バーラムは3本。ロイヤル・オークは4本で撃沈されてる」

 「旧式ですし。武器弾薬、燃料を満載して身重だったかもしれません」

 「日本戦艦10隻が艦体を無様に晒しているのは、燃料も爆薬もないからか・・・」

 「主砲弾は、使い切ってしまいましたからね」

 「飛行場は?」

 「こちらの被害は滑走路が破壊され。機体100機が破壊されました」

 「正確な数字は、まだ集計されていません」

 「危なかったかもしれんな」

 「Uボート艦隊に救われましたね」

 「日本も音響魚雷が欲しいな」

 「威力も欲しいところですが・・・」

 「命中すれば良いよ。それで引き揚げてくれる」

 「翌朝から、また、空襲ですかね」

 「そうだろうな。なるべく早く滑走路を修復して夜明けの空襲に備えないとな」

 「しかし、2000馬力級戦闘機の攻勢に押されっぱなしです」

 「それにゼロ戦は、寿命が短すぎる」

 「機体が柔ですから」

 「性能が落ちても良いから機体を強化するよう日本に伝えとけ」

 「飛べなくなったら戦争にならんだろう」

 「ドイツのフォッケウルフが欲しいな」

 「その方が家族を守れそうです」

 「上級将校は、家族ごとこっちへ引っ越しか、退路を断たれると泣きたくなるな」

 「総督府も兼ねてですから。私財も全てオアフ島ですよ」

 「ちっ! 国家を犠牲にしても、家だけは犠牲にしたくなかったぜ・・・」

 

 

 日本海軍にハワイ沖で戦うだけの力はなかった。

 どれほど意欲があっても燃料がなくては戦えない。

 大和 艦橋

 「世界最強最大の戦艦を惜しみながら、なにもせず。この呉に収まっておれというのか」

 「いくら予算を掛けたと思っておる」

 「長門、陸奥以下、全戦艦が真珠湾に突入したというのだぞ」

 「大和と武蔵は、おめおめ生き恥を晒せというのか」

 理性でオアフ島は捨石。感情でオアフ島の救援。両者のせめぎ合いは続く。

 第一戦艦部隊と真珠湾・太平洋艦隊の交換なら損益比は、プラスに思えた。

 しかし、ここで残存艦艇を注ぎ込むことはないとダラダラと月日が過ぎていく。

 戦艦信濃も、空母雲竜型も、建造中止。伊号の建造に切り替えられていた。

 空母大鳳だけは、航続力(18kt/10000浬)の関係で建造が続く。

 それだけだった。

 そして、ドイツ・イタリアは、日本に資源を要求する。

 「戦争にならんじゃないか」

 「自分のことしか考えていないんだよ。きっとね」

 「しかし、ハワイ沖でのUボート艦隊の活躍。大きいのでは?」

 「日本側の準備が整い次第、追加のUボートを派遣するらしいよ」

 「機動部隊を使おうよ」

 「赤城の重油は5800トン。Uボート26隻分。伊号なら7隻を満杯にできる」

 「そういう、常識論を言ってる場合か」

 「英々と築き上げた連合艦隊をいま使わずして、いつ使う」

 「無茶を言うな」

 「無茶って・・・無茶を通せば道理が引っ込む!!」

 「んん・・・アフォ!」

 

 

 オアフ島

 病院船からエンジンと機材が降ろされていく。

 工場で捕獲したアリソンエンジンを装備した飛燕が組み立てられていく。

 エンジンの出所は、ハワイ、フィリピン、中国などで発動機は500基を数えた。

 しかし、現実は厳しくハ40エンジン搭載の飛燕より性能が低下し時速570km。

 それでも、この機体が配備されたのは稼働率が高く “飛ぶ” からであり。

 それ以上ではなかったと言える。

 「お、飛んだ」

 アリソンを装備した飛燕が飛び立っていく。

 「・・・性能は?」

 「ウォーホークより少し良いですよ」

 「低い・・・」

 「アリソンは1200馬力だけど過給機がないからね」

 「もう、魚雷艇のエンジンにしてしまえよ」

 「アメリカのPT魚雷艇を真似て、3軸3600馬力の魚雷艇を開発している」

 「もっとマシなエンジンはないのか」

 「欧州じゃ役に立たないエンジンをドイツが送って来るらしい」

 「気前良い」

 「中古のDB601Aだと1050馬力。DB601Nだと1175馬力」

 「まぁ やっぱ、オリジナルだね」

 「あとアフリカ戦線で捕獲したマーリンの初期型エンジンなら1030馬力と1175馬力」

 「アリソンよりマシそうだけど。アメリカは2000馬力だぞ。勝てないんじゃないか」

 「もっと資源をくれるのなら最新のメッサーシュミットでも、フォッケウルフでも・・・だろうね」

 「機体なら日本でも製造できるよ。飛燕は悪くない」

 「エンジンも製造したい」

 「ボロボロの工場、ボロボロの交通機関、ボロボロの公共設備」

 「むしろ、社会基盤が足りなさ過ぎる」

 「いや、そこは、敢えて目を瞑って」

 アメリカ社会は、生活の細々とした部分でも豊かだった。

 そして、日本軍将兵はホノルル在住でアメリカナイズされていく。

 「瞑れん」

 

 

 スカパ・フロー

 イラストリアス、ヴィクトリアス

 キングジョージ5世、デューク・オブ・ヨーク、アンソン、レナウン。

 駆逐艦以下の艦艇は護送船団の護衛に使われていた。

 しかし、大型艦艇は待機状態で残される。

 イラストリアス 艦橋

 「ドイツ艦隊は?」

 「相変わらずフィヨルドの奥だ」

 「たった1隻、大西洋に出られただけでも大騒ぎで全艦隊出撃か」

 「ドイツ戦艦部隊が存在するだけで、イギリス主力艦隊は身動きがとれないか」

 「不公平だな」

 「通商破壊をやられると割に合わないからな」

 「アメリカ参戦でも大陸反攻の切っ掛けも掴めないのが予想外だ」

 「戦略情報部の話しだと対米参戦で戦局は有利になるはずだろう?」

 「んん、枢軸国と連合国は、生産力の差で勝っているはずだが・・・」

 「何か、失敗したか?」

 「失敗したのは生産力の差じゃない。実行力の差だよ」

 「実行力ねぇ」

 「どこの世界の海軍が主力艦隊を捨ててハワイを落とす?」

 「アレのせいで計算が狂ったわけではないだろう」

 「狂ったよ」

 「イギリスは新鋭戦艦1隻、旧式戦艦5隻。空母2隻、小型空母1隻がやられてる」

 「重巡2隻、軽巡4隻、駆逐艦16隻の方が痛いよ。対潜水艦戦で苦戦だ」

 「大西洋から護衛空母と護衛艦を太平洋に持っていかれたら苦戦する」

 「苦戦するというのは正確じゃないな」

 「Uボートは太平洋に遠征だし、総量に変化はない」

 「総論賛成、各論意義ありだな」

 「イギリス海軍は太平洋など、どうでもよくてね。困っているよ」

 「アメリカがイギリス戦艦を太平洋に送って欲しいらしい」

 「冗談じゃない」

 「イギリスはインド航路を失って南アフリカも危ないっていうのに・・・」

 「日本はハワイで頑張っているから南アフリカにまで行けないだろうよ」

 「わかるものか」

 ノルウェーのフィヨルドの奥地。

 ティルピッツ、シャルンホルスト、グナイゼナウ、

 アドミラル・シェーア、リュッツォウが待機していた。

 

 

 オアフ島

 コオラウ山脈の最高峰プウ・コナフアヌイ山は標高960m。

 そこから見渡せば、起伏に富んだ峰々が朝靄に濡れて瑞々しい森林を作っていた。

 中腹から平地にかけ耕作地が広がり、

 パパイヤ、パイナップル、サトウキビ、タロイモの実が結んでいた。

 そして、町並みがアクセントのように広がる。

 ところどころ廃墟や爆撃穴がなければ、パノラマとして絶景だった。

 対空監視所からモロカイ島が見え、100km以上先の水平線を見渡せた。

 日が悪いと雲が低く垂れ込め、視界が低く遠視も効かない。

 数百機単位の航空戦が雲の上で行われていた。

 爆音が雲の下にまで響き、時折、戦闘機が見え隠れする。

 敵機であれば対空砲火が火を吹いて味方機を支援した。

 爆音に不協和音が混じった。

 雲の中からサンダーボルトがコントロールを失って墜落し、

 森林に爆炎を立ち昇らせる。

 かと思えば、引き千切られバラバラになったゼロ戦の残骸が落ちてくる。

 どちらの死が受け入れやすいか、答えを出せない問題を考えたりもする。

 無線機に敵と味方の声が入り混じって聞こえる。

 敵の戦術的な作戦を無線で聞いて、味方に指示を出す士官も増えていた。

 こういった姑息な小細工が数と質の劣勢をはね返す原動力になっていた。

 雲の下でも十数機の戦闘機が乱舞しながら機銃掃射を繰り返す。

 「飛行場はまだ無事だな」

 「雲が低いので何度か目測を繰り返さなければなりませんし」

 「雲の下を飛び続けると的ですからね」

 「こっちは雲の下に味方機を誘導して追いたてれば良いだけですから」

 「敵の増援は?」

 レーダー手が反応を見ながら探知方向を変えていく。

 「いまのところ、上空の敵編隊だけです」

 「・・・無線で確認した敵機は、P47サンダーボルト、P38ライトニング、F4Uコルセアだけです」

 バッチ!

 「どうした?」

 「真空管です。フィラメントが飛びました」

 「すぐに直せ。両隣りの電探に索敵範囲を負担させろ」

 「はっ」

 士官が真空管の予備を検討し始める。

 フィラメントの寿命は短かい。

 管を完全に真空に出来なければ、フィラメントの寿命はさらに短く、

 すぐに燃えてしまう。

 アメリカ航空部隊が海上ギリギリを飛んで来ると発見できるのが100km先。

 仮に100km手前で時速600kmでスタートダッシュかけると真珠湾到達は5分以上先になった。

 余裕はないがレーダーが使えない時間が長いと、

 それだけ不利になった。

 「・・・爆撃機は、来ていないな」

 「オアフ島の海上封鎖に使われているのでは?」

 「先に戦闘機だけで攻撃する方法も戦術としてありだよ」

 「確かに・・・」

 「しかし、ようやくオアフの航空戦力を立て直したと思ったら」

 「ハワイ島のアメリカ軍は大航空戦力か」

 「オアフの工廠がなければ、いくら輸送しても日本は航空戦力を維持できませんでした」

 「いくら航空戦力を回復させてもゼロ戦は耐久年数が短くて不利だ。勝てんよ」

 「陸軍の飛燕は、頑丈ですが戦闘力で今一つだそうです」

 「マーリンとダイムラーベンツの寄せ集めか」

 「それも1000馬力クラスでは苦戦するだろう」

 フォード飛行場

 3式戦闘機飛燕が着陸してくる。

 マーリンエンジン装備の飛燕は悪くなかった。

 もっとも初期型1000馬力級エンジンは力不足だった。

 「給弾を急いでくれ」

 「はっ!」

 「予備機は無いのか?」

 「残ってるのは・・・」

 整備士が格納庫の奥を見つめる。

 「げっ 新型・・・」

 「整備は万全ですが」

 試作生産中の機体に乗る時は、事前に遺書を書いたり、

 休日があったり、特別手当が出たり。

 飛行中は逐一動作記録をつけたり・・・

 「整備は万全でも、空中分解しない保証はあるのか?」

 「ありません」

 「照準と弾薬は?」

 「照準も済んで弾薬も入っています。燃料も3分の2入ってますよ」

 「試験は、どこまで、やってるんだ?」

 「・・・動作記録だと・・・インメルマンターン」

 「よし、試してみるか」

 「だ、大丈夫ですか? 知りませんよ」

 「このまま、手をこまねいてみてられるか」

 「わかりました」

 動作記録長が手渡される。

 「・・・・・」

 あちらこちらで給弾待ちの機体が準備していた。

 勇気あるパイロットは誰からも尊敬の眼差しが向けられる。

 「長官。陸軍が試作戦闘機を飛ばすそうです」

 「例の4式戦闘機か」

 「はい」

 「誉か・・・エンジンで無理をすると稼働率が落ちないか」

 「工作艦の工作機械を工場に降ろしたので品質の良い工作機械が作られているようですが」

 「んん・・・どうでも良いが水平線の向こうまで飛んで高度を取らせてくれ」

 「行きなり上がると被られる」

 内地帰還の道が閉ざされた山本長官は、自己満足を発揮できなくなってしまう。

 目先の戦果よりキルレートを優先するしかなかった。

 いかなる犠牲を払っても戦果をあげるではなく、敵より少ない損失で戦果をあげる。

 

 

 オアフ島とハワイ島の中間にモロカイ島、ラナイ島、マウイ島、カホーラウェ島があった。

 この島々は、アメリカ人が住んでいたが軍事的には、どちらの勢力でもなかった。

 夜になると日本の魚雷艇とアメリカの魚雷艇が行き交う。

 

 

 ハワイ島ヒロ

 数十隻の潜水艦が停泊してアメリカ軍将兵が降りてくる。

 「まさかグアム、ウェークから撤収とはね」

 「日本は、戦わずして、グアムとウェークを手に入れたわけだ」

 「無力化されていたからね。潜水艦を輸送に使われたら、日本商船隊を攻撃できなくなる」

 「しかし、撤退するとウェークから直接オアフ島まで二式大艇が飛んでくるんじゃないか?」

 「どうかな。ミッドウェー、ジョンストン、パルミラは維持するらしいからね」

 「これ以上、潜水艦を割り当てたくないじゃないか」

 「潜水艦で商船攻撃した方がマシだよ」

 「Cレーション以外のモノが食えるのなら賛成だね」

 「だけど歩哨とか、すげぇ 緊張感があるな。殺気立ってないか?」

 「殺人事件、盗難事件が頻繁に起きているらしいよ」

 「なんか、後方に戻ってきたのに神経が擦り減らされそうだな」

 

 アメリカ軍でドイツ系アメリカ人は多い。

 ドイツ系アメリカ人とドイツ人が戦争していると揶揄される。

 数人のアメリカ軍士官が基地の中をうろつく。ロッテ戦法は地上戦でも有用だった。

 二人がペアとなって、もう一組と行動を共にする。

 疑われそうになった時は、口裏を合わせ、相互に身元保証して危機を脱する。

 そのロッテを支援する部隊は、遠くでM1ガーランドを構え、

 いつでも狙撃する準備をしている。

 ハワイ島は数組のブランデンブルク部隊が入り込んで暗躍していた。

 MP司令部

 「昨日だけでエースパイロット3人を含めて21人が殺され、32人が重軽傷か」

 「タイガーシャークの大群が海岸を襲撃するとは、おちおち、海水浴も出来ないな」

 「死体入り水槽が海中で爆破で血が流れ出したためだ。普通はあり得んよ」

 「時限爆弾付きなのだから無差別大量殺人か」

 「犯人を捕まえても怖くて海水浴ができなくなるな」

 「犯人というか、敵のスパイが入り込んでいるのでは?」

 「スペイン系とか、ポルトガル系」

 「敵か・・・戦死だと恩給も出やすいが事故死だと厳しいからな」

 「しかし、軍事的に優勢でも、こうも規律が悪化しているとな・・・」

 「そういえば盗難事件も多いですからね。雰囲気悪いですよ」

 「んん・・・盗難なら探して見つかるようなところに隠すかな」

 「明らかに冤罪を目的とする犯罪が多発している」

 「もう一度、身元を洗い直すしかないな」

 「あと食中毒だが貯水池への大腸菌混入の疑いもある」

 「毒物でないから何とも本気になれない余地を残しているな」

 「カネハメハ大王の呪いとか、ナイトマーチャー(幽霊)を見たとか、そういう噂もある」

 「そんなの擦り付けに決まってる」

 

 

 アメリカ西部 森林

 ばっしゃ〜  ばっしゃ〜  ばっしゃ〜

 なにか、液体が散蒔かれ、ガソリンの匂いが籠もる。

 「「「「・・・おそーら おーそれみーよ〜♪」」」」

 「「「「すたんふろんてぇあ てぇ・・・マッチ一本火事の下」」」」

 「「「「すたんふろんてぇあ てぇ〜! マッチ一本火事の下」」」」

 しゅー ぽいっ!

 ぼぉ〜ぉぉお〜!!!

 「「「「逃げろ〜!!!」」」」

 「「「「お そ れ み〜よ」」」」

 「「「「すたんふろんてぇあて お そ ら お そ れ み〜よ♪」」」」

 森林火災・・・

 

   

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 月夜裏 野々香です。

 日本は、大事な大事な主力戦艦部隊を捨てて、真珠湾を占領。

 いろんな方法でハワイの連合艦隊乗員13000と、

 内地の陸軍将兵40000を入れ替えてしまいました。

 艦隊乗員は後方で艦隊整備。

 呉から真珠湾までおよそ7000km。呉からガダルカナルまで6000km。

 

 げっ! 気付いてみると、空母はワスプしか沈んでない。

 エセックス用の代わりの名前を考えないと・・・

 パールハーバー (ヨークタウンU)

 カイルア・ビーチ (ホーネットU) 

 カネオ・ビーチ (レキシントンU)

 全部、ハワイ絡みで・・・

 

ドイツ軍 IV号戦車H型 後期生産型 (1943年4月〜1944年2月)

 

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第02話 1942年 『名誉も捨ててやる!!!』

第03話 1943年 『財産も捨ててやるわい!!!』

第04話 1944年 『もう、転戦!!!』