月夜裏 野々香 小説の部屋

    

架空戦記 『大本営特攻』

 

 

 第06話 1946年 『鏡の国の・・・』

 豪州の国土は広大だった。

 大和(オーストラリア)大陸だけでも約761万9000ku

 資源は、鉄鉱石、ボーキサイト、チタン、ウラン、金、石炭、オパール、原油、天然ガス・・・

 国民が求めたのは、住宅公団などの居住家屋であり、墓の移籍であり、国家事業となった。

 子供たちがカンガルーを追い掛ける。

 彼らの多くは毒蛇のタイパン、ブラウンスネーク、タイガースネーク、デスアダーを知らない。

 クロコダイルもスズメバチも意識の外。

 毒グモのシドニーファネルウェブもいる。

 毒性の多くは運が悪いと死ぬ。

 当然、解毒は、毒がないと話しにならず職業として成り立つ。

 そして、どの世界にも田畑仕事が苦手な者がいて

 既存の職業に対する反発で新規産業が生まれ、近代化の下地になっていた。

 市場の屋台に蛇に噛まれないお守り、毒グモに噛まれないお守り。

 スズメバチに噛まれないお守りが並ぶ。

 そのほか捕獲装備一式。

 ハンターたちが値踏みして、好みのアイテムを揃えていく。

 「みんな。ダンジョンで毒採集や。行くでぇ〜!!!」

 「「「「おおお〜!!!」」」」

 そして、ポイズン(毒)ハンターなる職業が生まれる。

 「・・・へ、蛇だ!」

 「よ〜し」

 えい、えい!

 やー!

 待て〜!

 たー!

 くてぇ〜

 「「「「捕まえた〜♪」」」」

 

 

 醬油工場

 戦場から戻った者、一緒に来た者、新しく来た者。

 出たり入ったりで、昔ながらの者たちが半分近く残る。

 「お前たち、良く戻ってくれたな」

 「“戻った” というより “来た” ですかね」

 「土地を分けられたのに、ココで働いてくれるんだな」

 「新しいところに来たのに見知らぬ者同士じゃ難しいですから、気心知れた者同士じゃないと」

 「もう畑仕事なんて忘れやしたし、土地なんて、だれも買うてくれんし、また働かせてください」

 「そうか、政府のボンクラどもは負けとうないから先祖からの土地を広いからと交換してしもうた」

 「せめて、見知っている者だけでも頑張っていこうな」

 「「「「へぃ〜!!!」」」」

 「親方。そんなことより、まず “どんたく” と “山笠” を・・・」

 「ど “どんたく” と “山笠” か・・・」

 「「「「へぃ〜!!!」」」」

 「そうやな〜」

 “どんたく” と “山笠” があるけん人生たい! の人たちもいる。

 まだ馴染めない空と大地で試行錯誤、四苦八苦。懐古主義な日本民族だった。

 

 

 仁徳天皇陵

 検地したり、写真を撮ったり、ハケで堀繰り返したり・・・

 オーストラリア人とアメリカ人が遠巻きに見ていたりする。

 彼らもまた。未知の環境に戸惑っている節があった。

 「とりあえず。アメリカは、このまま残すらしいけど」

 「仁徳陵出土品は、オーストラリアに持って行ったんだよな」

 「ああ、だけど、同じ仁徳天皇陵を作るったって、どこに作るかでもめているよ」

 「ニュージーランドにしようよ。綺麗だし」

 「んん・・・」

 「どちらにしろ、町に囲まれたところより、マシになると思うよ」

 「だけどねぇ〜」

 

 

 

 呉

 15年後、アメリカ合衆国ジャパン(Japan)州となる日本。

 既に自らのモノではない空と大地が空々しく広がる。

 戦後、アメリカで余った工作機械が日本に売却され、豪州へと送られていく。

 しかし、一部は、日本に来る。

 日本人の移民と入れ替わるようにアメリカ人、オーストラリア人、ニュージーランド人の移民が進む。

 アメリカ資本は、日本の豪州移民を後押しし始めていた。

 アメリカ資本は、極東アジアの足場として日本列島に価値を見出し、

 アメリカ政府も、日本列島に戦略的価値を認めていた。

 莫大な資本が極東のJpan州に注がれ、結果的に移民政策は予想以上に進んでいく。

 海軍工廠 大和

 海軍将校たち

 「大和の修理・改修が終われば、この呉ともお別れか・・・」

 「ていうか、時代遅れの戦艦が何の役に立つ?」

 「思い出じゃないの。この島で日本民族が芽生えた証しだよ」

 「証しねぇ ドイツ製のディーゼル機関にアメリカ製の電気推進じゃな」

 「船郭と機関さえしっかり作っていればいい軍艦なんだよ」

 「第3砲塔がないのが寂しいよ」

 「豪州攻略戦で損傷したからね。それに時代の流れだよ」

 「ていうか、ディーゼル機関電気推進にすると第3砲塔が配置できないだけだろうが」

 「でも、艦載機を増やすことができたよ。艦尾飛行甲板90mは大きい」

  大和 大和改
排水量 65000 68000
全長×全幅×吃水 263m×38.9m×10.4m 270m×38m×10m
馬力 153000馬力 143000馬力
速度 27.46 27
航続距離 16kt/7200海里 16/20000海里
乗員 3300 2800
  45口径460mm3連装3基 45口径410mm3連装2基
  60口径155mm3連装3基  
  40口径127mm連装6基 71口径88mm連装砲50基
  60口径25mm3連装52基  
水上機 6 30
     

 「でも、なんで45口径410mm砲なの?」

 「豪州占領作戦で、45口径460mm砲身の命数を使い切ったから」

 「460mm砲を敵艦に向けて撃たなかったのが勿体ねぇ」

 「それ使い切ったら、45口径356mmもまだ残ってるよ」

 「戦艦部隊を緒戦で真珠湾に特攻させるからだ」

 「そのおかげで、アメリカの兵站線が崩れたんだから、それは良いと思うけど」

 「何でドイツ製の対空砲なの?」

 「命数が長いから。そういえば、ビスマルク型とリットリオ型の砲身も買えるかも」

 「プライド低ぅ〜」

 「ドイツ製工作機械がなかったら大和自体建造できなかったよ」

 「いまさら目に見える所だけ体裁繕っても小賢しいだけか」

 「火力は落ちてるけど1ヶ月くらい走りまわれるから、作戦能力は上がるはずだ」

 「そういや、豪州だと通商破壊に脅える事もなかったっけ」

 「艦隊決戦に拘らなくても良いのかな」

 「ていうか、戦争にならないような気がするが」

 

 

 イタリア ローマ

 迎賓館から見下ろすと、東部戦線への出兵準備を整えたイタリア軍将兵が行進していた。

 「随分、雰囲気が柔らかくなったんじゃないか」

 「アメリカ、イギリスと講和できたのなら、気分も和らぐと思うよ」

 「まぁ 日本もだけどね」

 「日本の場合、ドイツとイタリアに裏切られて、孤立。悲愴だったからね」

 「・・・・」

 「だけどイタリアは、東部戦線に出兵して、うまみがあるの?」

 「イタリア単独じゃ 地中海・北アフリカ・中東を押さえられないからね」

 「なるほど、利権を維持しようと思えば、ドイツと共闘していくしかないわけか」

 「それにイタリア本土がドイツ軍に占領されているようなものだし、しょうがないんじゃないか」

 「アメリカがイタリアに接近しているみたいだけど?」

 「金の力は強いからね」

 「でも、アメリカは、イタリアのサルデーニャ竜騎兵団に酷い目に遭っているはずだけどな」

 「そういえば、黒人の黒の騎士団とか、自立して頑張っているんだっけ」

 「アメリカのナチス化のUSA in USAも、自立して頑張っているよ」

 「黒の騎士団は良いけどアメリカのナチス化は怖すぎるよ」

 「どちらにしろ、アメリカ国内は荒れ模様かな」

 「まぁ その厭戦機運で日本も終戦できたようなものだし」

 「ところで、イタリアが日本の空母を買いたがってるみたいだけど」

 「アキラの活躍で空母が欲しくなったかな」

 「アメリカ機動部隊の空襲でイタリア海軍壊滅だからね」

 「戦艦部隊の砲撃じゃ そんな芸当はできない」

 「なるほど。高く買ってくれるのなら、空母売却、考えても良いけどね」

 「しかし、不利になるのでは?」

 「物質(ものじち)のおかげで南太平洋の戦雲が低くなってるからね。売っても良い気がするよ」

 

 

 朝鮮半島

 日本人の引っ越しが始まっていた。

 そして、交替で入ってくるアメリカ軍官僚が住み始める。

 「・・・日本人は、本当に行くニカ」

 「国が決めたことだから」

 「朝鮮人が近くにいないと、日本人は寂しくて、きっと死にたくなるニダ」

 「そ、そうかな」

 「きっとそうなるニダ。毒の強い中国人も日本人にとって良い刺激ニダ」

 「そ、そう言われると少し寂しいかも」

 「そうニダ、そうニダ。日本人は南半球に行くと寂しくて。きっと不幸になるニダ」

 「そ、そうかな」

 「そ、そうニダ、そうに決まってるニダ。風水がそう言ってるニダ。南は凶ニダ!」

 「それは行ってからじゃないと・・・」

 「ち、朝鮮人を置いて行くと特に不幸になるニダ! きっと不幸になるニダ!!!!」

 「あははは・・・決まりだら・・・」

 「日本人は、朝鮮人を連れていかないと、きっと、不幸になるニダ〜!!!!!!!」

 「そ、そうだね。さ、寂しくなったら国民運動が起こると思うよ」

 「きっと国民運動が起こるニダ〜!!!!!!」

 

 

 米軍の朝鮮半島上陸は早かった。

 遼東半島から上陸したアメリカ軍も満州帝国の奥へと進軍して日本軍と交替する。

 米ソ対立を誘って漁夫の利を得ようとする日本側の罠だった。

 そして、案の定、満州国境で米ソは直接対立する。

 「黒竜江の北側がソビエト。南側がアメリカか」

 「漢民族と朝鮮人も豪州につれていけばいいのに・・・」

 朝鮮人は出世しようとアメリカ軍将兵に取り入って媚び始める。

 漢民族もアメリカ軍に靡き始めた。

 「日本人が、いやだってよ」

 「取り敢えず。満州帝国と朝鮮半島は、ジャパン州の防波堤にするのが良いな」

 「ジャパン州ねぇ」

 「オーストラリア人とニュージーランド人は、こっちに来ているんだろう」

 「オーストラリア人とニュージーランド人は人口が少なかったからな。日本人と交替で入れ替わってる」

 「あいつら白豪主義が強かったから良い気味だよ」

 「だけど、これで、北半球は白人の世界になったんじゃないか」

 「問題は、南半球の日本が大国になったことじゃないの?」

 「どうかな。国が広いと予算を集中できないし、人も金も資材も分散しそうだし」

 「だと良いけどねぇ」

 

 

 

 日本領オアフ島

 15年後には返還される島だった。

 もっとも、それ以前に返還される可能性が高い島でもある。

 港湾内の艦艇は解体され、必要と思える資材と機材は、豪州へと運ばれていく。

 アメリカ人の遺族が墓に訪れて冥福を祈ったりもする。

 彼らの目には日本人に対する憎しみが宿っていた。

 とはいえ、復讐に至らない。

 アメリカは日本の国土を奪っており。

 アメリカ国民の復讐は果たされたと公けに納得させられていた。

 もっとも、日本人も南半球で広大な国土を手に入れているので得していると言えなくもない。

 士官が書類を持って市役所に走ってくる。

 オアフ島返還の準備も少しづつ進んでいた。

 「おい、お前たちに割り当てられた土地が来たぞ」

 「なに? このまま、合衆国国民になるんじゃないの?」

 「無理だろう」

 「ああぁああ〜 俺たちの人生台無し」

 「そう言うなよ。いまさらアメリカ合衆国に戻れないだろう」

 「まぁ そうなんだけどねぇ〜」

 「日本に親の戸籍が残っていたら戻れることになっているから」

 「んん・・・」

 「あっ 俺んだ・・・どこだ?・・・知らんな・・・」

 「まぁ 日本で英語塾でも開けばやっていけるし、田畑あれば、やっていけるって・・・」

 「げっ ! こんなにあるの?」

 「そりゃ 土地、広いから」

 「水路とか、道とか、あるんだろうな。生殺与奪を奪われているような土地なんていやだぜ」

 「とりあえずさぁ 行って確認すればいいと思うぜ、手入れするなら早い方が良いと思うし」

 「んん・・・」

 「そりゃ そうだけどねぇ」

 「先立つモノがね」

 「まぁ 最低限の区画だけ決めて順番に振り分けてるだけだからね」

 「気心知れた者同士が一緒の方が良いよ」

 「なるべく、地域ごと振り分けられることになっているから。慣れと年月の問題」

 「んん・・・」

 「しかし、日系人は、意外と反応が前向きだな。内地は、かなり深刻な表情するぞ」

 「海外組は、先祖からの土地とか、愛着とか、しこりとかないからね」

 「知らない場所に行ったとき、自分自身を見つめやすくなる。特に異国の地に行くとそうだな」

 「ほぉ」

 「そして、郷土を失ったとき、心に浮かぶモノ・・・」

 「「・・・・・」」

 「・・・・・」 ごくん!

 「「・・・・・」」

 「な、なんだ? 心に浮かぶモノ」

 「教えてやらん」

 「おまえなぁ〜」

 「自分で味わえ」

 「そ、そうなるんだよな・・・」

 

 

 姫路城

 日本人たちがぼんやりと天守閣を見上げる。

 豪州移民していく市民が最も気にしている事があった。

 自分たちのいく場所に姫路城は来るのか

 この種の建築物は移籍に年月を要する。

 15年を越えても移転完了まで日本国有財産であり、保有となっていた。

 もちろん、移転費用も必要。

 そして、移転先は、どこに? という最大の問題も残される。

 軍国時代の強制力が低下すると国民合意のコンセンサスが強まり微妙に影響を与える。

 日本国民と主要都市の大半は、タウンズビルからアデレードまでの東海岸に収まる。

 「自然と風土ならオーストラリアよりニュージーランドだと思うよ」

 「まぁな」

 冷静で雅な判断がなされそうだった。

 そして、アメリカ資本は “金やるから置いていけ” と露骨な素振りも見せる。

 何しろ世界有数の木造建築。歴史上の遺跡もあった。

 “そこ” にあるから価値もある、という理屈もあった。

 当然、観光名所の財源でもあり、アメリカ政府も大枚叩く気になってしまう。

 新領土のせいか、恨みつらみが消えたのか。

 利害が優先するようになると殺し合っていたことなど忘れ去られている。

 

 

 キャンベラ (京都)

 首相官邸

 極東日本と豪州日本から難問・難題が送られてくる。

 軍部独裁が影を薄め、政府筋でやれる時期でもあった。

 しかし、人望を集められる人間と、官僚に求められる能力は違う。

 仕方なく、官僚に任せてしまう。能力のある者に任せるのが楽と言える。

 もっとも、そうすると官僚が大きくなり、政治家は御神輿に乗ってしまう。

 任期ごとに交代する政府任せより、安定して仕事を継続できる官僚任せを望む国民も多い。

 政府が介入すると大規模な変革はできる。

 しかし、代償として一貫性が失われてしまう。

 もちろん、官僚の肥大化を生み、聖域が作られる。

 この事が陸海軍の不統制、不統一、暴走に繋がったため軍部改革が進められる。

 引っ越しのドサクサで首相・摂政制度が確立されてしまう。

 首相に選出されると同時に摂政を兼任。

 摂政は天皇の名で国事を代行、権限も天皇と同等で陸海軍全軍に勅命を下すことができた。

 軍縮を行いつつ軍部大臣現役武官制度を廃止。

 国防省で陸軍省と海軍省を統合。

 参謀本部、規格局、海軍局(10万)、陸軍局(30万)、空軍局(5万)、州軍管区(10万)に分割。

 「首相が摂政を兼ねているのですから、国防大臣は、軍官僚の現役制度でも良いのでは?」

 「戦争が始まってから、現役を大臣にすれば良いよ」

 「対応が遅くないですか?」

 「アメリカ空母と潜水艦を物質(ものじち)にしている。対応が遅くても構わんよ」

 「アメリカと軍艦の相互物質(ものじち)は、意外と軍縮で使えるかもしれません」

 「んん・・・15年後は、軍艦の交換で行ってみるか」

 「アメリカと協定を結ぶ事が出来れば日米戦争は起こりえません」

 「しかし、同数交換だと日本海軍は、ゼロになるのでは?」

 「まさか、比率か。同数なら2、3隻だろう」

 「それより、南極に近付きましたね。この際ですから南極も・・・」

 「予算がないよ。オーストラリア大陸は広過ぎる」

 「アメリカに取られるとまずいのでは?」

 「アメリカは、極東ジャパン投資で忙しいし、欧州諸国も疲弊している」

 「ドイツとソビエト連邦は戦争中」

 「では、しばらく放置ですか」

 「7、8年くらい。そう言う事になりそうだな」

 

 

 ラバウル

 正確にはオーストラリアが敗北したため日本の信託統治領。

 アメリカ軍国防省のムスタングとB29爆撃機

 日本国防省 空軍 疾風と連山が滑走路に並ぶ。

 そして、元政府閣僚の日本人と、パイプを吹かしたアメリカ軍将校が立っていた。

 「御苦労さまです。我々、アメリカ軍は、これより撤収します」

 「はい、確かに日本で引き継ぎしました」

 「あなたを恨みますよ。我々は、このまま、満州帝国行きなんですよ」

 「将軍は戦わずに目的を達したのです。おめでとうございます」

 「ふっ 少なくともアメリカ資本と国民は気が晴れますがね」

 「日本政府は、オーストラリアとニュージーランドのハネっ返りには、お気を付けて」

 「分かっています。むしろ、出たがらずの日本人の方が怖いですがね」

 「「・・・・」」 苦笑い 敬礼

 アメリカ軍機が離陸していく。

 「やれやれ行ったか」

 「しかし、アメリカ軍基地は、すげぇ 日本より近代的〜」

 「地面をこんなにコンクリートで埋めるなんて土木建設技術の差じゃないの?」

 「殺虫剤とかも、基地全周で使ってるな。日本は、蚊取り線香だよ」

 旧アメリカ軍の飛行場は完備されており、日本本土以上に贅沢な設備が整っていた。

 「よくアメリカに負けなかったな。奇跡」

 「お前が言うな。裏切りモノ」

 「何で裏切り者なんだよ」

 「戦いもせず、米軍の軍靴に先祖の土地を踏み躙らせやがって」

 「だって、そうしないと世界が収まらないじゃないか」

 「くっ わかるから腹が立つ」

 「日本国民も同じくらい理性的であれと思うね」

 「しかし、おまえ、本当にこういう世界を望んでいたのか?」

 「・・・望んでいない強大な慣性が抗いようもなく働いていた」

 「しかし、軌道修正できるなら、それをしたかっただけだ」

 「まぁ 最善策だったと思いたいね。子孫にバカ呼ばわりされたない」

 

 

 満州帝国 ハルピン。

 日本人が居座っていた地位にアメリカ人が就いていく。

 朝鮮民族と漢民族は、同族や祖国を売り渡しても己の立身出世を望み、

 人の労苦を骨の髄まで吸い尽くし、ボロ雑巾のように捨てさる。

 そして、アメリカとソビエトを戦わせ、漁夫の利を得ようと画策する。

 おかげで満州帝国のアメリカ人は、日本人と似た状況に追い込まれてしまう。

 そして、米ソ二大国と混乱する大国中国という図式が作られ、

 そこに日本は存在してなかった。

 

 

 巡洋艦 高雄

 オーストラリア攻略戦後、破損個所を修復し、命数切れの大砲を積み替える。

 203mm砲身の命数が数回に渡って切れてしまったため。

 50口径140mm3連装4基を装備するようになった。

 それほど弾薬を投射しなければ豪州を攻略できなかったとも言える。

 もっとも、燃料で苦しむ日本海軍は損傷を口実にディーゼル・電気推進機関に換装してしまう。

  高雄・妙高型 高雄・妙高改
排水量 13400 13400
全長×全幅×吃水 203.76×20.73×6.32 203.76×20.73×6.32
馬力 130000 100000
速度 34 30
航続距離 14kt/8000海里 16kt/10000海里
乗員 835 580
  50口径203mm連装5基 50口径140mm3連装砲4基
  45口径127mm単装4基 71口径88mm単装砲4基
  60口径25mm連装4基 60口径40mm連装2基
   610mm魚雷4連装4基 爆雷投射機4基
  3機 5機
    ソナー
    レーダー

 呉

 「豪州攻略戦で命数全部使い切ってしまうとはね」

 「駆逐艦の大砲だって、命数切れ出したのだから、もう、後がなかったと思うよ」

 「それで豪州を攻略できたのだから良いと思うけど」

 「アメリカとの戦争を終わらせられなかったら、どうするつもりだったんだろう」

 「まぁ 軽巡の大砲が残っていたのが幸いだけどね」

 「140mm砲は対空砲にも使えるのだろう」

 「とりあえず。それだけが救いかな」

 「ディーゼル電気推進の方は、大丈夫なのか?」

 「ドイツ製だから何とかね。アメリカの電気推進は、真珠湾で入手できて、そのまま模倣できたし」

 「心臓部をドイツとアメリカに頼るのって、どうかと思うよ」

 「自惚れが過ぎると、そこで成長が止まる」

 「民族の自尊心とか、国家高揚もあるだろう」

 「まぁ 傲慢は、回りを全て敵視してしまう。もう、懲りたよ」

 「空母もディーゼル機関に換装するの?」

 「もう、燃料で作戦を制約されるのはごめんだし、それらしい敵性国家もないからね」

 「警備艦隊で足りるとは思えないが」

 「当面は、豪州移民経済が主流。軍事費は縮小だよ」

 「やれやれ」

 

 

 

 ワシントン 白い家

 豪州日本が白人世界と覇を競える大国になり得るかという考察が行われる。

 神から見捨てられた南半球世界という認識もあった。

 日本の総人口は7500万を超えていた。

 日本人が全て豪州域に集結すれば、開戦前の日本国力を数倍する大国となると予測される。

 もっとも、未知の環境、砂漠、水の不足など負の項目もあり、一概に大国となれるとは限らない。

 ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、中国、インド、インドネシアがそうであり。

 大国イコール列強とは限らない。

 列強が列強として問われる資質で最大は政府・国民のモラルといえた。

 そして、日本民族は、そのモラルをクリアしている数少ない国と言える。

 とはいえ、国内行政の歯車が狂ってしまえば、差別が収拾不可能なほど広がったり。

 権力構造で亀裂が生じれば、下剋上の如く内戦という事もある。

 行政はそれなりに難しく、膿を出す事を先送りにすれば血を流すことにもつながる。

 アメリカ合衆国は、少なくとも極東で日本列島と北半球の日本権益を得ており、

 世界最強国家といえる規模に拡大しており、北太平洋の覇者だった。

 日本が豪州で肥え太ってもアメリカ合衆国優位であると試算されていた。

 もっとも、計算があっているかは、経済学者次第。

 「1961年後、豪州日本の行く末が定まっていくと思われます」

 「日本が日華思想に陥る可能性は?」

 「我々が持ち上げれば、意外と傲慢で鼻持ちならない国になっていくかと」

 「それで近代化を失速してくれればありがたいがね」

 「北太平洋と極東を制したアメリカ合衆国の方が米華思想に囚われるかもしれませんが」

 「それは困るよ」

 「民主主義は新陳代謝が激しく、資本主義で弱肉強食です。失速までいかないと思われます」

 「日本が民主化する可能性は?」

 「平和になれば、権威主義より拝金主義が強まるかもしれません」

 「日本がどの程度、個人の能力を生かせるか不明です」

 

 

 護衛空母 大鷹

 航海日誌1946・・・・

 “・・・大日本帝国は宿敵アメリカ合衆国に敗れ、国土と北半球の利権を全て失う”

 “どう繕っても国土を全て奪われるなど、負けなのだ”

 “日本民族が2000年もの永きに渡って歴史を綴ってきた日本列島”

 “その祖国が異国異民族に奪われてしまう”

 “外的には、国際外交戦術で国情に合った選択ができなかったこと”

 “内的には先人と英霊の名を貶めまいと虚飾するあまり、反省も自制もできなかったためと言える”

 “日本人の多くは保身で事勿れ、小心者で長い者に巻かれる”

 “軍人は、その最たる者と言える”

 “軍部を国家以上に尊び、利権を過剰に守ろうとするあまり、祖国を失った”

 “アメリカ軍の軍靴に踏み躙られる祖国の大地。アメリカ人に唾を吐き捨てられる郷土”

 “日本の国力と戦力が豪州攻略で底をついたとはいえ・・・・”

 “豪州攻略で、ドイツ・イタリアの同盟離脱を予測し得なかったとはいえ”

 “この国家移転は屈辱に満ちた選択といえよう”

 “その是非は、末代にまで問われ続けられるであろう”

 “日本民族は国家再生の道を南半球に賭けていく”

 “いまだ見ぬ南半球の豪州は、未開拓が多いと聞く”

 “我々に与えられた年月は、あまりにも短い”

 “そして、過酷な開拓の道といえる・・・”

 「提督、移民船団220隻が揃いました」

 「そうか、出航しよう」

 「はっ!」

 「豪州では、住宅公団が主流官僚になるそうですよ」

 「軍官僚は、冷や飯ぐらいか・・・」

 「取り敢えず、住宅区画の整備と建設が優先ですかね」

 「家が有り余る日本に移民するオーストラリア、ニュージーランド人が羨ましいな」

 「日本からの運び出しは自由ですから、こちらが有利では?」

 「それはどうかな」

 「まぁ 普通にアメリカ資本に売るでしょうね」

 「懐古主義が豪州日本を滅ぼさなければ良いが」

 「祖国奪回で豪州日本まで失うですか?」

 「いや、上手くいかない事を豪州移転のせいにしてしまう卑怯者のことさ」

 「いるでしょう。日本人にもウジャウジャいますからね」

 「最初は、なるべく公平にすべきなんだろうな」

 「最初は、第一次産業からですか」

 「まぁ 必然的にそうなりそうだがね」

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 んな、せっしょうな(摂政)兼任首相制です。

 これで、統帥権は総理大臣が兼任して握ってしまいます。

 

 そして、本当に大切なモノは失って分かる。

 業というか、エゴというか、権力欲というか、欲望の結末というか。

 成り行きで郷土を捨て、馴染めない新しい世界で悲喜交々ですぅ

 豪州引っ越しまであと 15年。

 

日本連邦
オーストラリア (大和) 北ニュージーランド (瑞穂)
ブリズベン 広島 オークランド 旭川
シドニー 東京 ハミルトン 札幌
    ウェリントン 函館
キャンベラ 京都    
メルボルン 大阪 南ニュージーランド (秋津)
アデレード 仙台 クライストチャーチ 高松
    ダニーディン 高知
パース 福岡    
    信託統治領
ダーウィン 沖縄 ポートモレスビー ポートモレスビー
    ラバウル ラバウル
タスマニア (八島)    
ホバート 豊原    
       

 とりあえず、こんな感じでしょうか。

 気候で南北をひっくり返しました。

 適当です、残りは脳内で補完してください。

 豪州ニューギニアの信託統治領は、そのまんま日本の信託統治領へ移籍です。

 東京は、東の京と言えなさそうだけど、

 江戸にした方が良いような・・・でも、東京で良いか・・・

 

 

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