第07話 1947年 『いらない子たち』
明治維新後、自作農の土地の収奪が進み、小作農を増やしていく政策がなされた。
富の寡頭化は必然であり、
多くの犠牲の上に立って、豊かな生活ができるのは一部のみ。
しかし、これを行わなければ近代化で失速する。
農業従事人口1400万人、農家戸数約550万、耕地面積約550万ヘクタール
自作農30パーセント、
主自作・副小作20パーセント、
主小作・副自作20パーセント、
小作28パーセント、
その他2パーセント。
自作農だけで生活できるものは3分の1、
小作農で地主に生殺与奪権を握られている農民も3分の1未満、
残りは、小作を主とするか副として生計を立てなければならない、
子供が増えれば土地を分けるか、長男の総取りか、一部分けられ。
それ以外は殺されるか、追い出される。
国土の交換に不承不承で、先祖の土地がどうのこうのでも。
日本の生活苦は本物であり、間引き、人身売買、犯罪、自殺など、食い詰め者は多かった。
当然、自作農でさえ、老後を心配しなければならず。
小作農であればなおさら。
豪州移転に反発する者は少なくない、
しかし、大勢は移転に流れてしまう。
単純計算として、数倍の耕地面積が農業従事者に振り分けられていく。
「水路・道路沿いとなると微妙に減る」
「工業用水もとられるからね」
「どちらにしろ土地なしは喜ぶだろうけどね」
「死に土地は作らせないようにするのかい?」
「分筆を資格制して国が新しい土地を分家に賃貸していけばいいよ。それで税収になる」
「家族は6人ぐらいで計算すればいいのかな」
「アメリカの国力に追いつきたいから人口は増えた方が良いよ。際限なくじゃ困るけどね」
「あとは、もう一度、囲い込みか・・・気が退けるな」
「農業国家じゃ 困るだろう」
区画整理が進み、一旦、土地が割り振られると日本人の移民は速かった。
小作は数倍の土地なのだから行って損がなく、
むしろ先に移動した方が得だった。
損得に目聡い日本人は、決まると早めに移民していく。
もっとも、行って田畑耕しても、みんなが田畑耕すと売る所はない。
せいぜい、問屋で物々交換。
余りは、外国に売るしかない。
というわけで、国内で収入を得ようと思えば、製造業か、サービス業。
みんな一斉に移民してくるわけでもなく。
日本で慣れ親しんだ方法でやっても上手くいかない。
最初は、農業、土木建設の関係者が多かった。
日本から運んできた八重桜や梅木が植えられていく、
根付くかは不明。
もっとも、桜が咲いても春でなく秋に咲くため拒絶反応を起こす日本人もいたりする。
元々、オーストラリアの国樹はアカシア(acacia)属ゴールデン・ワッツル(golden・Waffle)で
黄金色の球状花を咲かせていた。
「根付くかな」
「土壌と風土は問題ないと思うけどね。城郭神社仏閣の移籍ともかかわってくるし」
「移籍する場所は、桜がないと駄目ってか」
オーストラリア大陸
西オーストラリア州 鉄鉱石鉱山 マウントトムプライス、パラバード、マウントニューマン
西オーストラリア州 金鉱 スーパーピット山
西オーストラリア州 金・ニッケル鉱山 カンバルダ
クイーンズランド州 炭鉱 グーニエラ・リバーサイドー、モーラ、
ニューサウスウェールズ州 炭鉱 マウントソーレーイー
ノーザンテリトリー(北部準州) ウラン鉱山 ジャビル
クイーンズランド州 ボーキサイト鉱山 ウイパ
いつもの格好をして出向いた日本人がオーストラリアの大地に立つ。
全て露天掘りだった。
「発破は使わないのか?」
ぼとっ! ぼとっ! ぼとっ! ぼとっ!
ヤマの男たちがツルハシを落とした。
中国大陸
南京政府 汪兆銘が亡くなると政権は陳公博(ちん こうはく)が受け継ぐ。
日本軍が豪州へと移動していくと中国国民軍は前進し、
重慶政府 蒋介石政権は、戦わずして中国沿岸部に達する。
どちらも歩み寄りを始めており、アメリカを挟んで調整していた。
現実に日本という後ろ盾が消えれば、南京政府は総崩れ。
もっとも、アメリカを後ろ盾とする重慶政府も、不正腐敗で漢民族民衆の支持を失っていた。
そして、長征で中国人民に平等という種を撒いた共産党は勢力を急速に増大させていく。
大和大陸 仙台 (アデレード)
日本海軍総司令部
戦後、海軍大綱が検討される。
国際社会で敵性国家の影が薄まり、アメリカとの友好が進むと巨大海軍は不要のモノとなる。
敵愾心を煽るような海軍力は無用どころか有害で、艦隊は存在するものの予算が削減されていく
アメリカに駆逐艦を返還しようとすると、にべもなく断られる。
アメリカでさえ巨大海軍を持て余し、大戦前に建造された駆逐艦など無用になっていた。
仕方なく、イタリアに赤城、加賀とアメリカ製駆逐艦を売却する。
そして、タスマン海が日本海と呼ばれる頃、維持不能な艦隊の処理が求められる。
赤レンガの住人たち
「理想の大綱を言うと、30000トン級空母6隻、8000トン級巡洋艦36隻。潜水艦60隻かな」
「対ミッドウェー級で良いような気がするけどね。60000級3隻、8000トン級巡洋艦24隻。潜水艦60隻」
「ていうか、どこも攻めてこないような気がするけど」
「アメリカは?」
「エセックス型空母15隻が物質(ものじち)になってるだろう」
「イタリア海軍がインド洋に出張ってこないかな」
「ドイツ海軍だって、ギリシャに基地を置けばスエズ運河を越えてインド洋に来るよ」
「でも、日本に侵攻して来ないような気がするけど」
「・・・大綱。いつになる事やら」
「そんな予算ないよ」
「そうそう、いまある艦艇を処分しないとな」
「人員も削減しないと」
「あと経費を減らさないと」
「ディーゼル機関に換装した方が良いかな」
「重油燃焼機関も省エネ型が造られているよ」
「少しだけじゃね」
「求められている性能って、これ全部か?」
「もっと省こうぜ、むかしと違って欲を掻き過ぎると国賊扱いされる」
「大和と武蔵もいらないな。何で修理改装してるの?」
「だって、豪州占領の功労艦だし、予算通しやすかった」
「浪花節かよ」
「補助艦艇に改造するか。民間に半分くらい売り捌くか」
はぁ〜
丙型海防艦の武装が外され、民間人に売却されていく。
ヴォートXF5U試作戦闘機 愛称フライングパンケーキ。
廃棄寸前の試作機の前に日本人が立っていた。
捨てる神あれば拾う神あり。
空母はあっても、艦載機開発で後れを取る日本は、この機体に目を付けてしまう。
日本本土譲渡で日米関係は、改善されて早い時期に交易が再開されていた。
「・・・買いましょう」
「本当に?」
「ええ」
「いまは、ジェット時代なのでは?」
「まぁ そうですがね」
「日本はドイツのジェットエンジンが入手できるのでは?」
「ですが、艦載機としては、まだ怪しいですし・・・」
「それにアメリカのような大型空母は、建造できませんからね」
アメリカも日本がジェットエンジンから後退するのであればと許可してしまう。
ヴォートXF5U フライングパンケーキ | |||||||
hp | 重量 | 全長×全幅×全高 | 翼面積 | 最大速度 | 航続距離 | 武装 | ミ・爆 |
1350×2 | 5958kg/7600/8533 | 8.73×9.91×4.50 | 44.2 | 775km/h | 1703km | 12.7mm×6 | 900kg |
京都(キャンベラ)
フライングパンケーキはアオガエルとか、青ガニとか、呼ばれる。
「積載量は900kgくらいか」
「戦闘機として使うんだろう?」
「アメリカは戦闘爆撃機だからね」
「しかし、信じられん形状だな」
「アメリカ人は想像力があるからね」
「取り敢えず。空母艦載機が決まって良かったじゃないか」
「まぁね」
青ガエルは10mにも満たない滑走でふわりと浮かび、飛び
日本人将校たちは唖然と見送る。
ドイツ第三帝国
ドイツ第三帝国とソビエト連邦は戦争中。
独伊・米英講和条約でソビエト連邦に対する支援を停止する代償でドイツ支援も停止。
そのおかげか、日独伊三国同盟破棄後も日本はドイツと交易している。
明文化されていない同盟と言えなくもなかった。
そして、同盟という制約がないためソビエト連邦にも戦略物資を供給していた。
首都ベルリン。
ティアガルテン区ヒロシマ・シュトラーセ(通り)
日本大使館は、各国の大使館の中でも良地にあり優遇されていた。
イギリスからのドイツ本土爆撃が収まると再建が進んでいく。
この再建を助けていたのが日本で、対価でドイツ工作機械が日本へと送られていく。
好き嫌いというより、経済的理由が大きかった。
ドイツ製の工作機械を使えば歩留まり率が良くなり、
生産性も跳ね上がり、製品の国際競争力も高くなった。
そして、不良品も減る。
戦中より、戦後の方が交易量が増えている。
もっとも懸念することもあった。
「スエズ運河がキナ臭いようです。エジプト独立運動は増大中です」
「やはり、イタリアでは押さえられないか」
「ええ、イタリア海軍は、空母アキラを除いて壊滅していますからね」
「日本は、加賀と軽巡1隻、駆逐艦16隻をイタリアに売却したそうじゃないか?」
「ドイツ海軍にも赤城、軽巡1隻、駆逐艦9隻を売却していますよ」
「対抗上、仕方なく買うだけだ」
「スエズ運河は水深10mでしたから大変でしたよ」
「イタリア海軍は、開戦前より強力になったかもしれないな」
「空母艦載機を上手く運用できれば、でしょうね」
「出来そうかね」
「さぁ〜」
ナポリ港
リバティ船が入港していた。
戦後、アメリカ産業だけで大量に余った輸送船の需要を埋めることはできなかった。
そのため採算さえ合えばどこの国でも売却され、
あるいはチャーターされた。
そうしなければ戦後の国際経済が成り立たず。
アメリカ経済も船を抱えて失速する。
男たちが輸送船のタラップから降りてくる。
サルデーニャ竜騎兵団とブランデンブルク部隊の生き残りだった。
「懐かしいな。やっぱり女はイタリアだよな」
「そうそう」
「次の仕事も来てるらしいよ」
「いやだよ。両手で花のどんちゃん騒ぎで後方勤務」
「だから後方で工作して、イタリア人を東部戦線に兵力を出させろってよ」
「ったく、俺ら地獄行き決定だな」
「カトリックは、死ぬ前に悔い改めれば大丈夫だから」
「死ぬ前、そばに神父がいるか、わからないだろう」
「もうちょっと、お金くれなきゃな〜」
「だけど、日本は血を流さないで豪州だろう。アメリカとも仲良くしているじゃないか。ずるい」
「イタリア人は国益より私益優先だからどうでもいいよ」
「そうそう。ギリシャとか、クレタ島とか、キプロスとか、どうでも良いよ」
「・・・おお〜!! 空母だあ すげぇ〜!!!
「いいなぁ」
空母 (加賀、アキラ)
軽巡やませみ(ジャワ)
1450トン級マハン型駆逐艦
かわせみ、かるがも、かささぎ、かっこう、きばしり、くさしぎ、ごいさぎ、ささごい、
1365トン級ファラガット型駆逐艦
あおげら、あおしぎ、あおばと、あかはら、あかひげ、あおさぎ、あまさぎ、おおるり、
イタリア海軍はカステロ・ネロ(加賀)と軽巡1隻、駆逐艦16隻を購入する。
飛行甲板に艦載機が並んでいた。
戦闘機フィアットG55チェンタウロ、戦闘爆撃機レジアーネRe2002アリエテU。
恐らくヴィシー南フランス海軍の戦艦ジャン・バール、ストラスブール、ダンケルクより強く。
パリ北フランス海軍の戦艦リシュリュー率いる艦隊より強いと考えられていた。
それどころか、イギリス海軍にすら匹敵する。
加賀の水兵たちがバケツを海に投げ込み、海水を汲み上げ、ナポリタンの準備が始まる。
カステロ・ネロ(加賀) 艦橋
「・・・ようやくイタリア海軍の再建か」
「スエズ運河の税収を当て込んで、大枚叩いて買ったのだから元を取りたいね」
「しかし、航空魚雷1本で家が建つ」
「訓練でポンポン落としていたら国民に簀巻きにされそうだな」
「良く考えると、空母って高い買い物なんだな」
「でも、この機動部隊があれば、アメリカ機動部隊の侵入を許さなくていいんじゃないか」
「どこにいるかわからない航空戦力は強いけど、ドイツ空軍には勝てないよ」
「フリッツXか・・・」
「それにドイツも空母赤城を買ってギリシャに配備してるし」
ギリシャ アテネ
空母 (赤城)
軽巡やまがら(デ・ロイテル)、
1850トン級ポーター型駆逐艦
いぬわし、いそしぎ、
1500トン級バッグレイ型駆逐艦
はくがん、はちくま、はましぎ、はやぶさ、はいたか、へらさぎ、ほおじろ、
イタリアに張り合うようにドイツ海軍も地中海ドイツ艦隊を編成する。
「東部戦線で戦っているというのに、無駄な気がするね」
「アメリカ機動部隊にティルピッツ、シャルンホルスト、グナイゼナウが沈められている」
「国民高揚とか、政治的判断だよ」
「空母1隻で埋められるものなのか?」
「少なくともドイツ海軍が再建されたと国民に思わせられるよ」
「そちらの方が重要だからね」
「だと良いけど」
日本海軍は、オーストラリア大陸の南岸。
仙台 (アデレード) セントビンセント港に配備される。
ここに艦隊基地を置けば、南太平洋とインド洋の両大洋に艦隊を展開させることができた。
第一機動部隊
空母(瑞鶴、翔鶴) ゼロ戦124機、彗星42機、天山41機
重巡 利根、高雄、愛宕、摩耶、鳥海
駆逐艦 秋月、照月、
駆逐艦 夕雲、巻雲、風雲、長波、巻波、高波、大波、清波、玉波、涼波、藤波、早波、
瑞鶴 艦橋
将校たちが双眼鏡で飛行甲板を見守る。
上官が意識していると思わせれば仕事も進む。
もっとも上官たちの意識は別のところ・・・
「7月に降る雪か、こればっかりは慣れないな」
「季節感が狂わされますからね。句会で困るとぼやかれましたよ」
「そういえば、句会に出てた連中は移転でブスくれてましたね」
「ったく、どいつもこいつも、私事で国家の大計を歪めやがる」
「ありがちですよ。田舎の母は、きゅうりの心配ですから」
「まぁ 偉そうなことを言っても未知の世界は誰でも不安を感じる」
「結局、身の周りの衣食住が優先しますからね」
「大局的には、いくつもの問題を解決できそうなんですけどね」
「軍としては、小局を優先したいものさ、航空戦力もそうだ」
「次の艦載機はヴォートXF5Uに本決まりらしいよ」
「ふ〜ん、外国製か、それも、アメリカ製・・・」
「いつの間にアメリカと仲良くなったんだ?」
「そりゃ 日本本土くれてやれば、真珠湾のことなんて忘れるわ」
「けっ あの売国奴が」
「それより敵性国家が薄れると、おまんま喰い上げなんだよな」
「爆撃機と雷撃機はどうするんだろう?」
「全部こなせるんじゃないの、戦闘爆撃機らしいから」
「いやだねぇ 手抜きしやがって」
「修理改装中の大和、武蔵でも離着艦できるらしい」
「もう、戦艦の時代じゃないのに」
第二機動部隊
空母(飛龍、蒼龍) ゼロ戦112機、彗星41機、天山33機
重巡 筑摩、那智、羽黒、足柄、妙高
駆逐艦 涼月、初月、
駆逐艦 陽炎、黒潮、親潮、早潮、夏潮、初風、雪風、荻風、舞風、秋雲、浦風、磯風、
第三機動部隊
空母 (隼鷹、飛鷹、龍鳳) ゼロ戦72機、彗星26機、天山22機。
重巡 最上、三隈、鈴谷、熊野
駆逐艦 新月、若月、
駆逐艦 吹雪、白雪、初雪、薄雲、白雲、磯波、浦波、綾波、敷波、朝霧、夕霧、天霧、
第四機動部隊
空母 (大鳳) ゼロ戦34機、彗星18機。
軽巡 大淀、阿賀野、能代、矢矧
駆逐艦 霜月、冬月、
駆逐艦 朝潮、大潮、満潮、荒潮、朝雲、山雲、夏雲、峯雲、霞、霰、
養成機動艦隊
空母 (龍驤、瑞鳳、祥鳳)
1685トン級白露型駆逐艦 白露、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、江風、涼風
空母 (千代田、千歳)
1680トン級吹雪型駆逐艦 朧、曙、漣、潮、暁、響、雷、電、叢雲、
2567トン級島風型駆逐艦 島風
2077トン級夕雲型駆逐艦 浜波、沖波、岸波、朝霜、早霜、秋霜、清霜、
2000トン級陽炎型駆逐艦 浜風、谷風、野分、嵐、時津風、不知火、天津風、
1700トン級初春型駆逐艦 初春、子ノ日、若葉、初霜、有明、夕暮
呉 海軍工廠
大和、武蔵は修理改装中だった。
そして、1680トン級吹雪型駆逐艦 朧、曙、漣、潮、暁、響、雷、電、叢雲も艦種変更していた。
武装削減。
球状艦首(バルバス・バウ)へ改造。
50000馬力の機関も25000馬力に減らされる。
吹雪型 | 吹雪型改 哨戒艦 | |
排水量 | 1680 | 1680 |
全長×全幅×吃水 | 118.5×10.36×3.2 | 118.5×10.36×3.2 |
馬力 | 50000 | 25000 |
速度 | 38 | 28 |
航続距離 | 14kt/5000海里 | 14kt/5000海里 |
乗員 | 219 | 134 |
50口径127mm連装3基 | 71口径88mm単装砲3基 | |
610mm魚雷3連装3基 | 爆雷投射機4基 | |
60口径25mm連装2基 | 60口径25mm連装2基 | |
7式ソナー | ||
7式レーダー |
海軍工廠
技術者たち
「随分と寂しいじゃないか」
「127mm砲は他の艦艇で使い回しできるし、ドイツ製88mmは対空砲で優秀だよ」
「対艦は?」
「哨戒艦に対艦は、いらないだろう」
「居住性が良くなっていないか?」
「居住性を充実しないと生かさず殺さずの兵隊なんて、やってくれないと思うよ」
「志願制にするからだ」
「しょうがないよ。意欲のない兵士なんて士気低いし、モラル落ちるし。兵隊減らしたいし」
「だよなぁ」
東部戦線
戦闘機が高性能を追求するのは、運動エネルギーで敵機より優位な位置に付くためといえる。
それが国際常識。
ドイツ空軍が常識を超える高性能な機体を追求するのは国際常識の延長。
しかし、Ta152HがYak9の後方に回り込むには危険を冒さなければならなかった、
正面から迫る別のYak9戦闘機に機体側面を晒さなければならなくなる。
そして、その後方にもソビエト戦闘機がいて機影が尽きないのだ。
ソビエト空軍のLa11戦闘機、Yak9戦闘機は数で国際常識を圧倒し、数の論理で突進する。
「ちっ! 回り込めん」
ドイツ空軍のBf109戦闘機、Me262戦闘機、Ta152H戦闘機が正面から斬り込み、
回避することもできず、僅かな機動で擦れ違うソ連機を撃墜していく。
独ソ航空戦は質と量の戦いともいえた。
そして、比較的、低空に近くなるとスツーカ爆撃機とシュトルモビク爆撃機が交叉する。
互いの急降下爆撃が逃げようとする戦車に爆弾を投下し、地上を削り吹き飛ばしていく。
地上では対戦車塹壕を挟み、キングタイガー戦車とスターリン3戦車が睨み合う。
質のドイツ軍と量のソビエト軍の戦いは戦線を保ったまま、膠着状態に陥る。
ドイツ・イタリアは日本が米英両国と講和を結んだ事で敵対勢力に囲まれてしまう。
東部戦線に戦力を集中させることができず戦前の状態で窮する。
ソビエト連邦は独伊・米英講和条約で孤立させられる。
日本軍外交武官が将来の布石のため戦場を見つめていた。
日本と日本軍は、第二次世界大戦で懲りて、外交武官を交代で派遣して戦場を観戦させる。
「こういう戦場をもっと観戦させていたら、開戦なんてバカな真似はしなかったかもしれない」
「軍事力が増えれば軍事費を維持するため国民から搾取したくなるよ」
「外国からも奪いたくなるか」
「軍事費増大が悪かったというのか?」
「日本は負けないために豪州に引っ越しさせられたんだぞ」
「はぁ〜 爺さんも婆さんも先祖の墓を守れなかったと泣いてたな」
「年寄りには辛いさ」
「負けて泣くか、負けることを拒んで異国の地で泣くか、だろう」
「次負けたら南極だぞ」
「あははは・・・」 脱力
空前絶後の独ソ戦は、破壊された戦車、航空機、モノと化した人間で大地を覆う。
それでも、全ての感覚を麻痺させるがごとく戦いが続いて行く。
北アフリカ
チュニス以東からスエズ運河以西を支配していたのはイタリア軍だった。
1号戦車、2号戦車、3号戦車、装甲車が並ぶ。
もっともイタリア単独では北アフリカの戦略的条件が良くても維持できない。
イタリア人は自己犠牲を好まず自らの性欲、睡眠欲、食欲の欲望のみ従う。
誰が得をし、誰が損をしているか目聡く、劣悪な環境に耐えられない民族性。
イタリア政府も、イタリア軍も、イタリア人の欲望を抑制できない。
過ごし易いイタリア半島から暑い砂漠に・・・
当然、灼熱の砂漠に飽きて嫌気がさす、
ワインやスパゲッティだけでは士気を保てない。
どこのバカが何を好き好んで女っ気のない世界などと・・・
イタリア将兵は無意識、また意図的にサボタージュ。
当然、イタリア軍将兵の士気が低下を防ごうとすると余計に金を使わなければならない。
北アフリカの現地民がみても隙だらけ、だらけ切っていく。
イタリアの外征は、高く付いた。
このままでは維持費が高騰し、北アフリカから撤収・・・
アレクサンドリア港に大型装甲車が降ろされた。
名称は、砂漠輸送艦 (Abbandoni nave da guerra di trasporto) ANGT
重量50トン。全長20m×全幅5m×全高5m。マインバッハ650馬力×2。
冷房、厨房の発電を兼ねる15馬力のディーゼルエンジン。
60口径25mm機関砲。兵員20人。
装甲は薄く対弾性はなかった。
「日本で製造したのか、随分、大きい装甲車だな」
イタリア将校が任期が延びると思ったのか寂しげにほくそ笑む。
戦後の日本は、余っていたアルミで財政再建を試みていた。
イタリアに需要があれば応じて供給する。
砂漠色のシートで車両を覆うと車内は、北アフリカの灼熱を遮って涼しかった。
居住性優先の冷房のある大型移動車両、広い移動空間はイタリア人に喜ばれた。
これがあれば、北アフリカ内陸部まで侵攻することも可能だった。
「少なくとも、熱射と熱風を遮ることができるな」
「北アフリカでは、それがほとんどだよ」
「だけど、温度の落差は厳しいな」
「そうなんだよな・・・・」
豪州日本
未知の環境で社会が構築されていく。
土地、資本、人材が揃えば、近代化できるとは限らない。
人と人との相互信頼が求められ、蓄積された技能が有機的に補い合い絡み合う。
同時に近代化していくほど構成要素が多層化、多重化、多角化して構造が複雑になっていく。
そして、非人間的にシステマチックになっていく。
ニュージーランド
北島に北海道の都市名が付けられ。南島に四国の都市名が付けられる。
とはいえ、北島は北海道ではなく、南島も四国ではなかった。
候補がほかにあったからであり、
敷島、扶桑、瑞穂、八島、秋津島・・・
北島は瑞穂島。南島は秋津島。タスマニアは八島と改称されていく。
もっとも、移住の段階になると好き好きが出てしまう。
自然環境が日本に近いニュージーランドはオーストラリアより好まれた。
穀物の小麦、トウモロコシ、オートムギ、ジャガイモ、エンドウマメは、そのまま継承。
牧畜業は慣れていないため羊と牛の頭数は減少し、水田が増えていく。
キーウィ・フルーツ、リンゴ、ナシも試行錯誤しながら継承して作られていた。
「とりあえず。公平に土地とチャンスが与えられる。後は、努力次第かな」
「無能、怠惰な連中から取り返して、労働者にしていくわけか」
極東日本
14年後のニュー・オーストラリア(旧日本) シドニー(旧東京)
厳密にはまだ日本であり、大多数の住人は日本人だった。
故郷の大地と空が色褪せていくように感じ、意識下で外国人の土地。
名称も変わりつつあった。
もっとも、国民は移民先の区画地が振り分けられていた。
大勢は移民であり、
赤信号みんなで渡れば怖くないであり。
どうせ行くのなら早く移民したいと考える。
アメリカ人の動産買い業者が日本の代理人と一緒に街々を歩く。
日本動産買い取り協会(Association of Japanese movable property buying up) AJMPB。
彼らは、日本に置いて行って欲しい動産があれば買い漁っていく。
代価は、ドル、機材だったり。
外貨は豪州日本の近代化を進める約束手形でもあった。
オーストラリアの動産を日本に持ち込もうとすると税金が盗られ。
日本から豪州に動産を持ち込む時は税金がなかった。
不公平でも、これが戦争の勝者と敗者の決定的な差ともいえた。
仮に日本の動産をアメリカ合衆国に売り渡し。
オーストラリア、ニュージーランド人が税金を払って、動産を全て日本に持ち込む、
上手くいけば、日本の赤字国債・軍票は解消しそうだった。
もっとも、価値がある物あれば価値のない物もあり、計算通りにいかず。
近代化のためには、もっとアメリカ製工作機械とオイルが必要だった。
というわけで、輸出より輸入の方が多くなる。
満州帝国
飛行場にはアメリカ軍機が翼を並べていた。
P51ムスタング、P47サンダーボルト、
P61ブラックウィドウ
B25 ミッチェル、A26インベーダー、
そして、M4戦車も並ぶ。
自由資本主義アメリカと共産主義ソビエトの覇権が衝突する極東。
漢民族と朝鮮民族は、アメリカとソビエトの二つの選択肢しかなかった。
アメリカ人にとって満州帝国は後進国に過ぎず。
漢民族と朝鮮民族も農奴でしかない、
そして、アメリカのプランテーションは成功しつつあった。
麦畑の地平に陽の沈んでいくと西の空が紅く萌えはじめる。
高台
パイプを吹かせた将軍が椅子に腰かけ一時のパノラマを楽しんでいた。
漢民族や朝鮮民族は嫌いでも満州の地平に沈み行く夕陽は好きだった。
「将軍。黄昏たくなる気分ですか?」
「日本の気持ちが良く分かるな」
「もう少し識字率が低ければ満州・朝鮮統治も悪くないのだが・・・」
「バカな日本人だ。余計な事を・・・」
「後進国が背伸びをして偉ぶりたかったのでしょう。自己欺瞞ですね」
「ふ そんなところだ」
「フィリピンと、どちらが良いですか?」
「こちらの方が涼しい。満州帝国と朝鮮もフィリピン化させるつもりだ」
「識字率の高い朝鮮人を使って、満州を支配するのが良いかと」
「上層部から中層部まで白人で押さえたかったよ。出来ればアフリカ並みに」
「朝鮮人も漢民族も儒教で農奴を作りやすい気質です」
「放っておけば差別が強くなり、知的水準が劣化するかもしれません」
「だと良いがね・・・」
「陽が落ちましたね」
「ああ、少しだけ慰められた」
「妓生(キーセン)が待っているのでは?」
「そうだったな」
中国大陸は、国民党の不正腐敗で屋台骨が腐り落ちて民意を失っていた。
共産軍が各地で勢力を増し、如何ともし難い。
朝鮮半島
朝鮮民族は、伝統的な儒教・両班の圧政と搾取に苦しめられていた。
古来から大国中国の脅威に晒され、反逆することもなく、服従の道を選択していた。
盲目的に中国に追随する事大主義でしか生き残るすべはなく。
朝鮮人の権威主義と年功序列に比べれば、
日本の権威主義、年功序列など子供の遊びに過ぎず。
長男国の中国に続く、二男国として、小中華思想、朝貢文化が定着してしまう。
朝鮮王が直接、中国の皇帝に臣下の礼を取らなければ反乱が起こり、王族は滅びてしまう。
半島は、両班になれば領民から好きなだけ搾取できた。
朝鮮人の多くは、家畜の如く貶められ、働くほど奪われ、領民は拗け、田畑が荒れていく、
両班以外の者は全て農奴でしかない。
地域主義は強まり、家族主義に似た血縁が重視されていく。
欧米勢力の拡大と日本の台頭が朝鮮半島の情勢と力関係を変えていた。
李氏朝鮮支配が崩れ、朝鮮民族の離反が始まる。
平壌で東洋のエルサレムと言われるほどキリシタンが増加。
両班の圧政と中国の脅威から逃れるため、
1) 日本と組みすること。
2) キリシタンになり欧米系の世界市民になること。
3) 共産主義者になり共産系世界市民になること。
3つの選択肢とも儒教・両班の圧政と中国の脅威を緩和させる。
東洋のエルサレムと言われても実態は、刹那主義。
信仰心の根幹は、自己顕示欲、利己主義、保身でしかなく。
むしろ、無神論者で拝金主義ありユダヤ人に近いと言えなくもない。
彼らの主流はキリスト教を足掛かりに新しい主人。
アメリカ合衆国国民になろうとする。
反発する者は共産主義に走った。
そして、大勢が変わるたびに朝鮮半島で起こる事があった。
「や、やめるニダ。助けてニダ」
「無駄ニダ。死ぬニダ」
「た、たのむニダ。殺さないでくれニダ」
「駄目ニダ。親日人生にさよならニダ」
うぁああああああああああああニダ〜!!!!
ボコ、ボコ、ボコ、ボコ、ボコ、ボコ、
「助け・・て・・ニダ・・・」 ガクッ!
親米組織の親日一進会狩りが始まったのは必然で、
朝鮮人は、アメリカ軍統治下の権力体制に組み込まれようと躍起になった。
そう、朝鮮半島の新しい主人は、アメリカ人であり、
言葉が分かる者が新両班であり支配者となっていく。
“東欧を支配するものがハートランドを支配し”
“ハートランドを支配するものが世界本島を支配し”
“世界本島を支配するものが世界を支配する”
マッキンダー
正しいと思われる理論画一的であり。
風土、社会環境、民族性、気質を無視しており。
欧米の歴史観、認識観に限定されたものと言えた。
支配の根幹というべき東欧は、非支配地、緩衝帯として歴史的に野晒しにされる。
また支配は、物流、交通、情報伝達など鉄道整備の拡充を前提とする。
か細いシベリア鉄道の動脈でマッキンダーの理論を達成できるわけもなく。
欧米諸国は絶えず圧力を加えて鉄道施設を妨害しソビエトを疲弊させていた。
そして、東部戦線。
戦車も凍り付いて動かせない。
戦場に雪が降り積もると膠着状態となるのが東部戦線の常だった。
吹雪で視界が遮られ肺の中まで冷気が浸み込む。
ソビエト軍の歩哨が二人、雪人形の如く、木陰を背に立っていた。
雪が吹雪を防いだ。
狙撃兵の的になる事を恐れ火を焚けなかった。
ウォッカを飲むため、時々、腕を動かすだけ。
「ぅぅ・・・鼻と耳がもげそうだ」
「気をつけろよ。鼻が凍って欠けるぞ」
「洒落にならねぇ」
「この前、スタンスキーが素手で戦車に触った時は悲惨だったな」
「もうトーチカに入ろうぜ、凍死してしまうよ」
「政治将校がいるからいやだ」
「あははは・・・」
ぐさっ! ぐさっ!
「「!?・・・」」
歩哨が二人倒れ、死角から回り込んだドイツ兵が血塗れのナイフを引き抜いた。
そして、数十人のドイツ兵が吹雪の中を駆け抜けていく。
ドイツ軍は、密封性の高い防寒軍服を装備した冬季旅団を投入する。
ドイツ冬季戦用軍服は寒気が通気し難いためソビエト軍より長時間戦う。
戦略の基本は多対一。
極寒の中、
わずかでも余計に動く事ができるドイツ冬季旅団は、ソビエト軍陣地を侵食していく。
モスクワ クレムリン
「ソビエト連邦の情勢は、西をドイツ、東をアメリカに押さえられ悪化している」
「アメリカは、日本列島を押さえ、満州帝国と朝鮮半島で基盤を拡大しています」
「日本列島は?」
「アメリカ人、オーストラリア人、ニュージーランド人の移民が進んでいます」
「アメリカ合衆国と直接対峙するのは危険だな」
「日本人の国土放棄と豪州逃亡は残念です」
「今更ながら日本は良い緩衝国家だったよ。バカで愚かで御しやすかった」
「日本の移民が完了すれば、14年後、アメリカ合衆国ジャパン州となるかと」
「これ以上、戦うのは、ソビエトを弱体化させ。アメリカを利するだけだが・・・」
「ドイツは、ソビエトのウクライナの半分とベラルーシの3分の2を支配しています」
「癪だな。アメリカとイギリスの裏切りがなければ・・・」
伝令が報告書を持ってくる。
良い報告であれば生命が危なく。
悪い報告であれば家族も危ない。
独裁者の機嫌を損ねると最悪だった。
「・・・前線の陣地で連絡が断たれ始めている」
「冬季戦に入っております、大規模な攻勢など・・・」
「そうだ。冬季になれば兵力の多くを補給しやすい後方に下げる。だが小規模であれば・・・」
「全軍に警戒警報を発令しますか?」
「そうしてくれ」
豪州の日本は、マッキンダーの世界本島から遠ざかった。
世界戦略上の焦点から外れた国は、列強から意識され難い。
とはいえ、日本は、豪州を制して選択の自由を得る。
オーストラリア 京都 (キャンベラ)
暦だけは12月。
日差しは次第に強くなっていく。
北半球が冬でも南半球は夏だった。
アメリカ製の土木建設機械が降ろされ、東海岸沿いに開発が進み、
公共の区画整理は優先して行われ、計画的に土地の配分が行われていく。
豪州日本は、土地の配分後、一時的に農業国になっていく趨勢にあった。
しかし、近代化させるには製造業、商業を発達させなければならず。
資本、土地、労力を集約しなければならなかった。
大衆の多くを労働者になければ近代化は望めず。
一度与えた土地を合法的に奪わなければならなかった。
「やっぱり、ニュージーランドに持って行くの?」
「京都にあったモノは京都だろう!」
「ニュージーランドの方が風光明媚だと」
「んなの京都じゃねぇ!」
「伝統はニュージーランド。革新はオーストラリアじゃないの?」
「もう、日本の歴史性も地域性も、思い出が滅茶苦茶だな」
瑞穂 (北ニュージーランド) 島 函館 (ウェリントン)
「やっぱ、城郭神社仏閣は、ニュージーランドでしょう」
「まぁ 自然との一体感とかは、そうでしょうけどね」
「ほら、水も豊富ですし、軽工業なんかも行けますよ」
「まぁ 国家100年の大計なんでしょうけどね」
「新しいモノはオーストラリア。古いモノはニュージーランドでしょう」
「んん・・・・」
「日光東照宮も、大東寺も、姫路城も、大仏も、清水寺も、ぜ〜んぶニュージーランド!」
「でもね〜 大和大陸の緑化計画とかも進んでいるからねぇ」
「屋久杉も、持ってきてくださいよ。あのでかいの」
「き、気候が違うから・・・」
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月夜裏 野々香です。
引っ越しまであと14年。
史実の戦後艦艇は、隻数が少ないため、トップヘビー気味な重装備単艦型。
戦記の戦後艦艇は、隻数が多いため軽装備艦です。
戦後のイタリアは、スエズ運河を支配。
イタリア海軍は、カステロ・ネロ(加賀)と空母アキラで機動部隊を編制。
ギリシャのドイツ海軍は赤城(rote Burg)を旗艦にドイツ地中海艦隊を編成する。
極東日本もですが、豪州日本は城郭神社仏閣誘致合戦の真っ最中です。
地域性歴史性がかけ離れた奇天烈な戦後日本が・・・・
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第08話 1948年 『南太平洋波低し』 |