月夜裏 野々香 小説の部屋

    

架空戦記 『大本営特攻』

 

 

 第11話 1951年 『不毛の大地』

 豪州日本の大和大陸は、降雨量が少なく。

 大和大陸の4割を非居住地域(アネクメネ)。砂漠・半乾燥帯の不毛の大地が占めていた。

 居住可能地域でさえ水を節約しなければならず、土壌は塩分が強く栄養分が少ない。

 農地のほとんどが塩害に強い放牧用地。

 とはいえ、そういった負の部分を差し引いても大陸は大きかった。

 極東日本の作付面積は550万ha。

 大和大陸の作付面積は45000万haが見込まれて圧倒的。

 役人が区画整備を行い。大型土木建設機械が農地を整備していく。

 ほとんどの農家は分配してもさらに余るため分家で悩むこともなくなる。

 とはいえ、不安要素もあった。

 人手不足が問題となり機械化が求められた。

 非居住地域は個人農家の力で太刀打ちできず、企業農法が形成されやすい環境だった。

 労苦に満ちた豪州移民であり、アメリカの信託統治領の労苦と違いは少なく、

 自分の私財になるか、他人の私財のままか、それだけの違いといえた。

 そして、土壌が育てば植物が生育し、保水で緑化も期待できた。

 休憩時間になると、食事時間となる。

 「今日はカンガルーステーキも出るらしいよ」

 「カンガルーって食べられるのか?」

 「現地は食べてるぞ」

 

 

ダチョウ カンガルー ワニ

 「ボクシングした相手を食べるのは、気が引けるね」

 「尻尾で立った時は、逃げろよ。足蹴り食らうと内臓破裂で死ぬぞ」

 「脅かすなよ」

 「しかし、この大陸は水が少なくて参るよ」

 「山が少ないと保水ができない。せめて森を育てないと」

 「海藻類を乾燥地帯に被せていきますか」

 「海藻類か、悪くない」

 「井戸水に塩分が強いと淡水化プラントが必要になるな」

 「石炭ならあるけど。割損だな」

 「完全に真水にしなくても、塩分濃度を下げるくらいなら採算に乗りやすい」

 「濃度の薄い方を農業用水で使えばいい」

 「塩分濃度の濃い方でワカメを育てられるかな」

 「大陸内でワカメ?」

 「塩害は厳しいからな、塩害を利用することも考えないとね」

 「しかし、林業、果樹園、農地を育てるなら、やっぱり水ですからね」

 「石炭を燃やして発電を起こし、塩害対策で淡水化プラントの建設では?」

 「当面はそうでも、ニューギニアの山脈は標高4000m級で良い水源なんだが」

 「トレス海峡は150km、水深は20mほどありますよ」

 「海底トンネルを建設して大陸に水を輸送するか」

 「取り敢えず、塩害に強い牧畜では?」

 「牧畜ねぇ」

 「ダチョウ農場は良いですよ。育てやすいですし、収入も見込めそうです」

 「でっかい目玉焼きができそうだな」

 「駄目ですよ。殻が売り物ですから小さい穴を開けて、ほじくりながら器に落とすんです」

 「むかしから目玉焼き派なんだよ」

 「殻が高いのに? 卵焼きにするんです。常識ですよ」

 「夢がないな、おまえ」

 「夢は食えません」

 「良質の夢なら食える」

 「一般的じゃないでしょう」

 「夢を煽って日本人を新天地に誘うんだよ」

 「なるほど、大きな目玉焼きが食えると」

 「うん」

 

 土木建設機械が動き、鉄道が伸びていく。

 人口が増えれば旅客が増え、資源が増えれば貨物が増える。

 産業が拡大すれば需要にしたがって交通量が増える。

 「目指せ80000kmって、ソビエト連邦並みじゃないか」

 「大和大陸の環状線だけでも28000kmを越えるからね」

 「沿線経済を確立させようと思えば数倍。豪州全体だと、もっとか」

 「当面は、東海岸に集中するとして、人口、資源、需要に合わせて伸ばしていく方が良い」

 「需要を作るだけの資本はないからな、もっと移民を急がせるべきだろう」

 「極東日本の産業拡大が足を引っ張っているんじゃないか。外資系が日本人を雇っている」

 「外資系で働いている場合、制限付きグリーンカードは、貰えるらしいけど、困るといえば困る」

 「なんか、郷愁と未来で引き裂かれた感じかな」

 「うん」

 

 

 欲望が需要を生み、供給が欲望を育てる。

 伝統的に生かさず殺さずの日本社会が個人の蓄財を後押ししてしまう。

 社会資本は急速に膨れ上がっていくのに貨幣価値は下がらない。

 インフレになることなく、需要と供給は拡大傾向を示し、国民総生産は急速に増大していく。

 7600万人が移民し、衣食住の需要は不足気味。

 必要な産業は膨大であり、需要と供給は膨れ上がっていく。

 生活水準を落としたくないと、そう思う。

 年を取れば尚更で、豪州移民で生活水準を落とさざるを得ない生活水準の者たちもいる。

 いわゆる中産階層で、それなりな生活をしていた日本人たち。

 また慣れない生活環境で戸惑う日本人たち。

 某工場

 元海軍将校たちが見て回る。

 「水の使い方がなっちゃいないな。大陸じゃ 水代の方が高くつく」

 「軍も民も無駄が多い」

 「日本が一番、年月を掛け、金を掛け、育て上げた人材がお小遣い帳の軍人じゃな」

 「金くれ妖怪じゃ日本は破産だよ。損益計算や貸借対照表に慣れないとな」

 「生産管理の過剰生産。不用資材と行動。無駄な輸送・加工・在庫。失敗を整理できれば一流だよ」

 「もっと生産工程を効率良くやれていたら楽に戦えたのに」

 「まぁ 合理的な日本人は少数派だからね」

 「東條が庶民のゴミ箱を調べたくなるのも分からないでもない」

 「あの男も効率性からほど遠いだろう」

 「ふ 本当は軍部のゴミ浚いをしたかったけど、怖くて庶民のゴミ箱を調べたんじゃないの」

 「軍用船だけじゃなく、民用船も意識していたのだから大半の将兵よりマシだと思ったぞ」

 「志低い」

 「いや利権がらみと思った」

 「しかし、極東から豪州に追いやられるとは、なんとも泣けてくるな」

 「野党は責任を追及しているけどね」

 「責任の所在の軍部を有耶無耶に縮小したし。大政翼賛会も潰れたし。いまさら追及は的外れじゃないの」

 「国民の復讐を恐れて最後まで権力を手放せ無いと思ったがね。意外だった」

 「完全な敗北じゃなかったし、豪州引っ越しで背広組に下駄を預けたからじゃないの」

 「まぁ いまの与党は様変わりしているし、責任はないのだから、どうしようもないだろうに」

 「自分は正義で善悪で分けたいんだよ」

 「不満の矛先を向けられるスケープゴートが欲しいだけだろう」

 「偽善者にはなりたくないね」

 「あまりやり過ぎると正当防衛で軍部復活もあるかも」

 「それは困るよ。もう、ああいう世相は嫌だからね」

 不良箇所をチェックして、工場長に手渡していく。

 仕事に慣れてしまうと分からなくなる粗を同業異業他社の人間に指摘してもらう。

 日本の産業は、工業力の劣勢を痛感し、欧米の産業に追い付こうともがいていた。

 

 

 

 アメリカ信託統治領 満州・朝鮮・台湾

 人間、後ろめたい事があると開き直る。

 また、同類とつるんで自己正当化したり、

 針小棒大にあげつらって、他者を貶めて誤魔化したり、

 こういう時、本性があらわれたりする。

 戦後、アメリカの極東信託統治領は多少なりとも気が引け後ろめたい。

 何しろ民族自決だの散々、綺麗事を並べて介入。

 しかし、極東日本を手に入れると日本の旧権益地で日本以上の事を始める。

 他人が脱税すると怒るのに自分が払う段になると、あれこれ節税したり渋るのに似ている。

 文明人は非文明人を教育し指導する権利と義務があると開き直るとか。

 文明人の支配は、非文明人同士の侵略行為と格が違うとか。

 最終的には、独立させると言いながら、対ソ反共政策でソビエトと直接衝突すると面子から退けず、

 策源地の極東日本は魅力的であり。

 信託統治領の満州・朝鮮・台湾を合わせた総人口は7000万近い、

 アメリカ資本は、利権を手に入れれば、支配層の350万人くらいが安楽に生活できると概算。

 金に任せて押し切り、支配層に食い込んでいく。

 なので日本がニューギニアで似たような事をしてもアメリカは何も言わず、協調したりする。

 大国は、国際ルールを我田引水で変える事が好きであり、それができた。

 アメリカ信託統治領では、英語ができないと人間以下の扱いになっていく。

 それでも中国大陸の庶民生活より安全であり、安楽であり、仕事があり、一概に批判も出来ない。

 日本では生かさず殺さず、

 現地民が良い羊である限り、アメリカは良い羊飼いといえた。

 朝鮮人の蜂起が起こるとアメリカ軍が出撃して悪い山羊を鎮圧していく。

 朝鮮総督府の一室。

 朝鮮人たちは、しょんぼりと部屋から出ていく。

 日本人たちが窓越しにアメリカ軍の暴徒鎮圧を見物していた。

 「参ったね。元一進会に助けを求められたよ」

 「採掘現場と農場は家畜同然に扱われて酷いらしい」

 「アメリカに靡いて “日本を攻めよ” とか言ってたのに」

 「そう言わないと親米派に殺されるからね」

 「事大主義っていやだね」

 「日本人もそういうところがあるじゃないか」

 「まぁね。しかし、土下座して敬拝なんて卑屈過ぎるよ」

 「なりふり構っていられないからだろう。気持ちは分かるよ」

 「アジアの同胞か・・・」

 「あまり同胞と思いたくない」

 「日本の時代がたまたま良くて、中国の時代がたまたま悪かっただけかもしれないな」

 「朝鮮はどういう時代でも駄目だろう」

 「まぁね」

 「朝鮮人を豪州日本に連れていくのは問題だよ」

 「まぁ 日本人と結婚していた場合は仕方がないよ」

 「就労ビザは?」

 「そりゃ 潰しの利く労働者は欲しいよ。政府は税金を払う人間が良い国民だし」

 「精肉業者は重要だよ。魚肉と違って日本人には厳しいし」

 「精肉はオーストラリア人とニュージーランド人任せだったりするし」

 「まぁ 労働者はともかく、払わない気がするな」

 「アウトローを欲しているのは金を払える有力者だからね。被害に遭うのは貧乏人」

 「だけど、犯罪が増えるのはね」

 「・・・頭いてぇ」

 

 

 

 

瑞鶴、翔鶴
排水量 全長×全幅×吃水(m) 馬力 最大速度 航続距離   艦載機
26000 260.6×30×9 100000 30 18kt/20000海里 71口径88mm×12 52機

 格納庫は一層となりエンクローズド・バウで、全体的に低くなって大鳳と似た空母となっていた。

 ほか、ディーゼル機関電気推進に換装したせいで速度低下。

 代わりに巡航速度と航続距離が向上していた。

 空母の上空を飛んでいることに違和感を感じるXF5Uフライング・パンケーキが駆け抜けていく。

 そして、標的機に向かってロケット弾を撃ち込んで破壊する。

 艦橋

 「「「「おお〜!!」」」」

 「あれが55mmR4Mか、便利だな」

 「プロペラとプロペラの隙間に配置するしかないから、ちょっと不足な気もするな」

 「だから艦載機型Me262Tが良いのに」

 「アメリカはシューティングスターを進めてるぞ」

 「ドイツとアメリカは日本を陣営に組み込みたいのかな」

 「まぁ 国防関連で連携していると外交で引っ張られるからね」

 「引っ越しが終わるまでは、アメリカ側にいようよ」

 「それは言えるけど、軍事費少なくなると思うよ」

 「ていうか、豪州は軍事力に拘らなくても、守れそうなのが悲しい」

 

 

 オアフ島 真珠湾

 名目上、日本領で10年後、アメリカに返還される。

 名目上なのはアメリカ資本によって日本人の雇用が確保されていること、

 軍港としての真珠湾の再建がなされつつあるためと言える、

 アメリカ資本による日系人の雇用がなければ、日系人は豪州に移民しており、

 オアフ島は軍人・政府関係者しか残っていない。

 どうせ返すのならさっさと返せばいいのにと思われたり、

 日本もアメリカも、豪州・日本の交換を確実にしたいのか、講和条約は守られている。

 空母 飛鷹が入港していた。

 既に第1線空母でなく、海軍直属艦でもなく。

 政府徴用の輸送船として便利に使われていた。

 運行用の人材すら事欠き、戦闘など不可。

 こうでもしないと維持費が賄えない。

 艦橋

 「トラックは、アメリカ海軍基地に改造されているらしいぞ」

 「トラックか。北太平洋の権益は、根こそぎアメリカの信託統治領にされたからな」

 「なんか、ずるいですね。アメリカ」

 「まぁ 金と国力の差だな」

 「日本列島譲渡。オアフ、グアム、ウェークを返還で、アメリカは北太平洋の覇者ですよ」

 「豪州日本だって南太平洋とインド洋で、良い顔できるだろう」

 「ふ 無くなって思うのだが、お盆は極東日本にお参りに行きたくなるな」

 「お盆は、本家取りの威信、財産取りの口実。習慣、惰性、権謀術数絡みで、やっていましたからね」

 「純粋に心から先祖を祭る気になったのは最近ですよ」

 「そうそう、本家が泣きながらっていうのも、豪州引っ越しが決まってからだったな」

 「わたしも、もらい泣きしましたよ」

 「本来は、ああいうモノを守りたかったんでしょうね」

 「だが万歳して若者を戦場に送り出していたのが、我が身になると尻込みだから勝手なモノだ」

 「移民で、泣くわ、喚くは、ゴネるわ、渋るわ」

 「先祖にしがみ付くわ、土地に執着するわ。数に任せて正当化するわ」

 「戦死するわけでもないのにいい気なものだ」

 「そういえば、将兵は死ぬかも知れない戦場に追いやられたんでしたね」

 「不良民とか、弱者がところてん式に戦場に絞り出された気になりますよ」

 「民衆なんて、そんなものだろう。良い気味と思ったりもするがね」

 「そういえば観光関係者は里帰りツアーに目を付けていますよ」

 「目聡いやつは、何でも金に変えやがる」

 「軍需で儲けていた連中が今では、民需ですしね」

 「もっとも先祖の因習から切り離されて、清々するような気もしたがね」

 「寂しくはありますが確かに・・・」

 「命がけで守ろうとしていたモノを全部捨てた気がして心が痛むがね」

 「自業自得と言えなくもないですがね」

 

 

 

 呉

 予備役で輸送船代わりに使われていた大型艦艇の改装が検討される。

 (飛鷹、隼鷹、龍鳳)、(龍驤、瑞鳳、祥鳳、千代田、千歳)

 小型の艦艇ではどんなに性能が良くても駄目でも大型艦であれば可能にする。

 でかい事は良い事と言えなくもない。

 「艦尾側に上陸作戦用の舟艇を格納するのか?」

 「上陸作戦支援艦に改装する必要性があるのかな」

 「対潜用空母でも良いような気もするがね」

 「上陸作戦用艦艇があると、ないのでは、国際外交政治での感じられ方が変わってくるよ」

 「国際緊張は政府が渋るのでは?」

 「新型艦を建造すると警戒される。旧式艦を改造しても目立たないだろう」

 「アオガエルなら離着艦ができるから良いけど」

 「問題は必要性かな」

 「あれば、役に立つじゃないか。マダガスカルにユダヤ人と東欧諸国民が集まってる」

 「いや、役に立てないように政治と外交を進めているじゃないの?」

 「そうそう、また軍事費で住宅公団が何軒建つか試算して出すよ」

 「鉄道も軍事費で、どこまで線路を伸ばせるか試算するし」

 「外務省は、ユダヤ・東欧諸国民のマダガスカル移民を北アフリカ移民に変えさせようと誘導しているし」

 「ちっ 外務省め、余計な事を・・・」

 「何か目の敵にされているな」

 「OBがほとんど向こう側じゃ・・・」

 「揚陸艦は、ニューギニア、瑞穂・秋津防衛の為で良いと思うよ。攻守を兼ねてだけど」

 「当面は必要はないけどね」

 「すぐに建造しても練度がないだろう。旧式艦艇なら目立たないうちに戦力を作れているよ」

 「まぁ そう言えなくもないがね。まだ、普通の輸送船の方が有用な気もするよ」

 「それを言っちゃ お終い」

 

 

 軍縮で起こるのは取捨選択。

 これが出来なければ軍縮自体不可能となる。

 居住区・農地の区画整理が進むにつれ、将兵は減らされていく。

 貧富・階級の格差をなくし公平な社会を・・・は嘘っぱち、

 たいていの人間は同級より多くの給与を望み、同僚より出世を望む。

 民間でも弁護士と清掃業のおばさんと同額賃金だと癇癪をおこすだろう。

 軍事費削減で部署が廃止され、部隊が縮小していく。

 キャリアまで出世した軍官僚がクビを切られていく。

 元将校たちは威張り散らせる部下を失うと権威も威信もなくなりタダの人、

 年老いて退役なら我慢もする。

 ところが、戦後、地位と金がないからと安楽な生活、安定した老後から追い出されたら腹も立つ、

 冠婚葬祭で見栄が張れないと努力した甲斐もない。

 何日も行軍し、食べられず、眠る事も出来ず。

 爆撃、砲撃、機銃掃射に晒され、狙撃に脅えながら泥水の中を這いずる。

 祖国と家族のため戦った陸海軍将兵が国の事情で職場を奪われ放り出されていく、

 代償の土地がなければ内戦もので、タダでは済まなかったといえる。

 キャリア組は、まだ勢いがある年齢だからと他省に異動も人情だったりする、

 資質と方向性に問題があったとしても、金を掛けただけあり優秀な人材が集まっていた。

 新京都 (キャンベラ)  首相官邸 

 「どんなに優秀でも国益とベクトルがズレてれば百害あって一利無しだよ」

 「国のためとか、頑張ってないか」

 「あいつらの口実と我田引水だよ、保身ばかりで国の事なんか考えてるものか」

 「他省に移して良かったと思うよ。少なくとも邪魔されずに済む」

 「教育で、金を使う事より、頭を使う事を覚えさえた方が良くないか?」

 「まぁ 頭の使い方を間違えているような気がしないでもない」

 「学校でマネージメントを教えたらどうだろう。シミュレーションで商売をやらせてみたりとか」

 「農民出が多いからな。発想が田畑を育てて収獲だしね。堅実に真面目にコツコツと・・・」

 「日本は、政府官僚財界の田畑みたいなモノだからね」

 「画一的に土壌を育てて、水引きいれ、稲を育て、雑草を抜いた結果が日本国民だよ」

 「上手く育てれば収穫が見込める」

 「強盗を恐れてヒエを育ててしまったのは失敗かな」

 「豪州日本なら脅威は小さい。普通に稲を植えても大丈夫だと思うよ」

 「自由とか、資本主義的な稲を植えたいね」

 「あんまり、自由資本主義に近付けると弱肉強食になるよ」

 「そうそう、儒教の影響とかあるだろう。中国・朝鮮ほどじゃないけど、商いは卑しいみたいな」

 「でも、少し社会を欧米よりにしないと負けちゃうよ。懲りただろう」

 「少しは近付けるべきだろうね」

 「だけど、学校教育で商売を教えるというのもねぇ〜」

 「軍部の採算度外視は、苦労させられたよ」

 「いや、戦いそのものは合理的だったぞ」

 「そうか、戦艦部隊の大本営特攻とか、自棄になってたけど、みんな泣いてたし」

 「まぁ あれは、思わず見直したというか、貰い泣きしたというか、尊敬した」

 「問題は、そこまで追い詰められた事だろう」

 「軍縮で、喚くわ、騒ぐわだからね。土地がなかったらクーデターものだった」

 「軍部の権威主義は、将兵も辟易していたからね」

 「徴兵上がりは、農地貰って自分の好きに出来るのなら喜んで辞めるよ」

 「軍事費捻出できなかったからね」

 「別に生計の手段があれば将来性のない士官・下士官は逃げ出したくなるよ」

 「退役将兵を学校教育に入れるか?」

 「学校は駄目だろう」

 「じゃ 警察」

 「軍人と警察は接点を持たせないようにした方が良いよ」

 「だよな」

 「じゃ 警備会社でも作るか」

 「うん、軍隊は年齢が上がると戦力がダウンするからね。警備会社は良さそうだ」

 「需要は?」

 「微妙」

 「今度は、もう少し、非軍事的な方向に国民を育てようよ」

 「うん」

 

 

 

 

 アメリカ信託統治領

 満州は、極東日本のための牧場だった。

 漢民族・朝鮮人は、牧畜の感覚で区分けされた中で放牧されている。

 日本が農地型の国家運営ならアメリカは牧畜型の国家運営といえた。

 画一化されず、放任されており、必要に応じて利用され狩り獲られていく。

 満州の土壌は良く、白人、朝鮮人、漢民族の順で社会構造が構築されていく。

 プランテーションは成功しつつあり極東日本の産業を助け、中国への輸出で利益を上げていく。

 「・・・極東日本の武器の不所持は、良いような気がするね」

 「アメリカ最強の圧力団体。全米ライフル協会が五月蠅いぞ」

 「アメリカ合衆国の開拓には武器は必要だった。しかし、極東日本は違うだろう」

 「まぁ しかし “人を殺すのは人であって銃ではない” だからな」

 「問題は、銃不所持で成功した社会が出来上がるのが怖いんだよ」

 「でも開拓時代だって、銃を取り上げた酒場はあったぞ」

 「アメリカ人は政府、社会。いかなる勢力からも自存自衛の権利があるんだよ」

 「まぁ あと10年は日本憲法だよ」

 「しかし、引き籠りで土着な日本人が豪州に移民するというのが信じられんね」

 「まぁ 海外移民組を負け犬、棄民扱いしていたからね」

 「頑固で臆病の裏返しだよ」

 「頑固か。極東日本は、日本人の横並びとアメリカ人の出し抜きで、ぶつかっているらしい」

 「強いやつは栄えいくし、弱いやつは衰えていく。無理に標準化する必要はないよ」

 「日本人は、横並びが好きだからね。飛び級なんて認めたがらないと思うよ」

 「劣った人間を人材と金と時間かけて鍛えるなんて無駄だよ。甘えが生まれるし、根腐れするだけだ」

 「踏み躙って肥やしにすればいのに」

 「犯罪は少なくて良いかもしれないぞ」

 「まぁ 犯罪は、貧困、快楽、差別、復讐、衝動、欲望から起こるからね」

 「あの国、狭く貧しい国で単一民族だから、そういうの避けたんじゃないか」

 「国が大きくなると気質が変わるかもしれないからな」

 「居残り日本人は?」

 「言葉が問題だがね。いまのところオーストラリア人やニュージーランド人より使える駒だよ」

 「事勿れに体制に追随してくれるなら役に立つか」

 「それだけだよ」

 

 

 ベルリン

 戦後、再建は進んでいた。

 しかし、失われた命、経済的損失、

 そして、心身障害者、増大する相互不信などなど、戦災による後遺症で悩まされる。

 苦しみは憎しみの対象を見つける事で紛らわせた。

 憎しみの対象は、もちろん、被支配民族に向けられる。

 ヒットラー総統は、愛憎の象徴とも言うべき存在であり。

 彼のおかげで、第一次世界大戦で奪われたドイツ民族の誇りを取り戻したと受け止められる。

 また、忌み嫌われると同時に崇拝されやすい資質を持ち合わせていた。

 資質というのは誰にも出来ないことをする、という点だった。

 行き過ぎた選民思想は、戦後も続き。ドイツ民族の清浄化も継続する。

 精神病やアルコール依存症患者は社会から駆逐され。

 1940年のT4作戦では精神障害者・身体障害者を安楽死させてしまう。

 一人の偏執病患者が多くの国民から支持され、

 他の心身障害者を抹殺していく姿は、シュールだったり倒錯的でもある。

 理想のアーリア人を求める社会的抹殺は、自分が当てはまらなければ歓迎される向きもあった。

 戦後、心身障害者の問題だけでなく、ドイツ圏拡大とともに多民族化が進む。

 民族浄化の復活を望む声があり、

 多くの民衆は、ヒットラー総統以外にできないと判断、独裁の継続を支持してしまう。

 とはいえ、開戦権をヒットラーに預けたままではドイツ国民も安心できず。

 ドイツ議会が回復すると開戦の決定権を議会が得る事で妥協がなされる。

 ドイツ優良化政策は、ドイツ圏全域に拡大され。

 東欧諸国では、生粋のドイツ人より基準が厳しいため多くの死傷者を出していく。

 

 

 ドイツ世界首都ゲルマニア

 爆撃で瓦礫にされていたベルリンも再建されていく。

 非常識な巨大ドーム(全高280m、直径300m)を中心に左右対称の建築物が建設されていく。

 石灰石、花崗岩、大理石を使ってだとすれば世界最大規模だった。

 まだ戦災の残るベルリンでドイツ人が見上げても、士気高揚したり。逆に士気低下したり。

 人手不足なのか、高給に惹かれた日本人労働者が働いていたりする。

 とはいえ、戦後とはいえ、ドイツ東欧諸国は地続きで敵対国家と直面しており。

 米ソ勢力に挟撃されては、豪州日本のような軍縮できない。

 そのドイツで新型主力戦車が配備されつつあった。

 戦時中、ヒットラーは128mm砲を装備した超重戦車の開発を要求する。

 しかし、発想の優先順位が 砲 > 装甲 > 馬力 では鈍重な戦車でしかなかった。

 東部戦線でいつでも攻勢をかけられたのはT34戦車であり、ドイツの重戦車でなかった。

 鈍重戦車では、戦場を支配することができない。

  重量 全長 全長×全幅×全高 馬力 速度 航続距離 武装 乗員
マウス 188 10.09 9.03×3.67×3.68 1080 20km 190km 55口径128mm×1 36.5mm×75 6
パンター 44.8 8.66 6.87×3.27×2.85 700 55km 250km 70口径75mm×1 7.92mm×2 5
タイガーU 69.8 10.29 7.26×3.76×3.08 700 38km 170km 71口径88mm×1 7.92mm×2 5

 戦後、発想の優先順位が変わる。

 これは、歩兵がパンツァーファウスト、パンツァーシュレックなど対戦車兵装を携行できるためともいえた。

 鈍重戦車はカモにされるだけ。

 機動性と装甲を生かした戦車機動戦術が要求される。

 馬力 > 装甲 > 砲 戦場を支配する戦車の開発は、それまでと発想が逆になる。

 エンジンが決まり、装甲を含めた車体が決まり、それに載せられる大砲が選別される。

  重量 全長 全長×全幅×全高 馬力 速度 航続距離 武装 乗員
タイガーV 50 10.29 7.26×3.76×3.08 1080 60km 400km 71口径88mm×1 7.92mm×2 4
IS3 46 9.85 6.67×3.2×2.45 600 40km 190km 43口径122mm×1 12.7mm×1

7.62mm×1

4
T54 35.5 9.00 6.37×3.27×2.40 520 50km 450km 56口径100mm×1 12.7mm×1

7.62mm×2

4
M26 41.9 8.65 6.33×3.51×2.78 500 40km 161km 50口径90mm×1 12.7mm×1

7.62mm×2

5
M46 44 8.48 6.35×3.51×3.18 810 48 130km 50口径90mm×1 12.7mm×1

7.62mm×2

5

 外見はタイガー戦車に似ていたものの、まったく逆の発想で開発製造されていた。

 装甲はタイガーUの半分ほど。

 しかし、マンガンやニッケル、コバルト、モリブデンなど希少金属が多く使われ、

 軽量化された車体は、タイガーUと同等の防御力であり洗練されてた。

 タイガーVと名付けられたのは、油断させるためと言えた。

 「次期主力戦車は105mm砲を搭載すべきだろうな」

 「105mmか、いまのところ40口径だが、戦車に乗せるのなら50口径から60口径ほど欲しいな」

 「質の向上は良いけど価格が高騰する」

 「個体性能が上がる方が良い。その分、人件費を減らせて、ドイツ人を工場に戻せる」

 「次の戦場は、スエズ運河防衛だろう?」

 「パレスチナにドイツとイタリアが一個師団ずつ駐留させるらしいけど、予算不足で進んでないらしい」

 「まぁ 瓦礫の山だし、衣食住を先決させたいからね」

 

 機能的な枠組みに人間を組み込むドイツは、非人間的な側面が強くなる。

 とはいえ、酒場でビールを飲んでるドイツ人は陽気でハメを外し明るい。

 この法律社会でアル中になるなというのは、かなり抑圧されていると言える。

 抑圧された社会を守り切ったドイツ人は、マゾ的な資質もあるのだろう。

 とはいえ “強い指導力で、困窮する社会を打破して欲しい”

 そういう願望をドイツ人が求めるのも自由といえた。

 

 日本大使館

 窓から見下ろすと街路を移民者たちが行列を作って移動していく。

 「ユダヤ人と東欧諸国民の一団がマダガスカルへ移民か」

 「マダガスカルは気に入らないな。北アフリカの方が良いような気がするがね」

 「アルジェリアもイタリア領も白人が増えれば安定するのに」

 「多過ぎても不安なんじゃないか」

 「それは言える」

 「しかし、純血政策というけど、ヒットラー総統の純血性はどうかと思うよ」

 「コンプレックスの裏返しじゃないと、ああいう非道は出来ない気がする」

 「ドイツ人は、とりあえず、ヒットラーにやらせてるって?」

 「戦後も暗殺未遂が2件ほど起きているぞ」

 「スターリンの場合は、純粋に独裁のための粛清だ」

 「優秀種を残そうとするヒットラーがマシかな」

 「純血種は良いようにみえて弱いような気がするぞ」

 「一定の比率で奇形が生まれるのは伝染病で死滅しないためじゃないのか、種の存続性の高さだよ」

 「でも奇形じゃね。排他的にもなるよ」

 「アメリカ式で貧富で自然淘汰するってないのか?」

 「ドイツ人はアメリカ的な金の亡者を嫌うからね。完全な肉体、肉体美でやりたいじゃないの、ドイツ式」

 「そりゃ 一緒に並ぶとドイツ人が優良人種に見えるのはしょうがないけどね」

 「胴長足短だとモロに劣等感を感じるよ」

 「日本人も、もっと腸が消化しやすい肉類を食べた方が良くないか」

 「たぶんそうなるかも」

 「それよりタイガーVを見た?」

 「ああ、外見はタイガーUに似ているが足回りが良いようだ」

 「希少資源を大量に買っていったらしいからね」

 「アメリカとドイツが接近しているって?」

 「水面下では、近付いている」

 「ソビエトに止めを刺す気かな」

 「スターリンも気が気ではないらしい。日本に接触してきた」

 「ふ〜ん だけどソビエトと組む気にはなれないね」

 「出来れば、米英連合、独伊同盟、ソ、日の4強でやってきたいね」

 「日本って強国だったっけ?」

 「自画自賛したっていじゃないか」

 「まぁ 日本国民が新天地に定着して国力が大きくなれば、強国かな」

 「それより、スエズ運河、大丈夫ですかね」

 「エジプトが独立できるか怪しいが、自費が高くなると通行料が上がる」

 「それは困る」

 独伊東欧諸国規格(Deutsches Italien osteuropäischer Countys-Standard) DIOCT

 ドイツを核にした独伊東欧諸国防衛条約機構が作られていた。

 

 

 北アフリカ

 北アフリカは、沿岸は、比較的、気候が良く、過ごしやすかった。

 主流民族アラブ人と少数派ベルベル人とも黒人ではなく、ホワイトアフリカとも呼ばれる。

 この時期のエジプト、リビア、アルジェリアでは、独立運動が大きくなろうとしていた。

 当然、イタリアと南フランスは北アフリカの領地に対し、不埒で理不尽な野心を持ち・・・

 同じ穴のムジナだった。

 イタリア軍は、大型装甲車と独伊東欧規格の兵装を装備していた。

 イタリア領北アフリカの治安を無理やり安定させていた。

 さらに東欧移民を受け入れ白人を増やして安定させようという動きもあった。

 そして、ペタン南フランスもこの大型装甲車両を購入し、アルジェリアの利権を確保しようとする。

 熱砂が吹き荒ぶなか、イタリア軍の50トン級装甲車両3両が南に移動していく。

 規模は、小隊(30〜50人)であり、巡回任務だったりする。

 「西側には寄るなよ。南フランスに入り込むと面倒だ」

 「でも良いんですか、アラブ人を意図的にアルジェリア側に追い詰めるなんて」

 「フランス軍だってやっているんだからお互い様だよ」

 「共闘しているんだか、対立しているんだか、わからないですね」

 「後ろめたいこと、結構やってるからな」

 「でも、南フランス軍側の方が弾薬を消費してるみたいですよ」

 「あいつら祖国を南北に分断されてカリカリしているんだよ」

 「統一しないんですかね」

 「統一するとどっちかの部署が廃止される。利権が奪われるといろいろ困るから躊躇しているんだよ」

 「年月が経つほど難しくなるんじゃ」

 「まぁ フランス国民の圧力次第じゃないかな。二つに分かれている方がイタリアも安心だしね」

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 大本営 “特行” 引っ越しまであと10年です。

 日米の文化格差が極東日本で顕現化しそうです。

 異文化交流で日本人の良し悪しを実感すれば、豪州日本に移転した後、役に立つかも。

 しかし、豪州って軍事的必要性が小さくて困ります。

 緊張感がないというか、外交的な軋轢がないというか。

 戦記じゃなくて和記。豪州平和過ぎ。

 “どこか、攻めて来い” みたいな。

 

 

 オーストラリア大陸

 西オーストラリア州 鉄鉱石鉱山 マウントトムプライス、パラバード、マウントニューマン

 西オーストラリア州 金鉱 スーパーピット山 

 西オーストラリア州 金・ニッケル鉱山 カンバルダ

 クイーンズランド州 炭鉱 グーニエラ・リバーサイドー、モーラ、

 ニューサウスウェールズ州 炭鉱 マウントソーレーイー

 ノーザンテリトリー(北部準州) ウラン鉱山 ジャビル

 クイーンズランド州 ボーキサイト鉱山 ウイパ

 

 

 

 

日本連邦
オーストラリア (大和) 北ニュージーランド (瑞穂)
ブリズベン 広島 オークランド 旭川
シドニー 東京 ハミルトン 札幌
    ウェリントン 函館
キャンベラ 京都    
メルボルン 大阪 南ニュージーランド (秋津)
アデレード 仙台 クライストチャーチ 高松
    ダニーディン 高知
パース 福岡    
    信託統治領
ダーウィン 沖縄 ポートモレスビー ポートモレスビー
    ラバウル ラバウル
タスマニア (八島)    
ホバート 豊原    
       

  

 

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第10話 1950年 『人間牧場』

第11話 1951年 『不毛の大地』

第12話 1952年 『水、水・・・水・・・』