第13話 1953年 『信賞必罰は無理』
豪州日本
テレビ放送が新東京で始まる。
「もう、テレビのない時代に戻れないな」
「新京都建設は、後回しか」
「旧キャンベラは、旧メルボルンと旧シドニーの首都争いの結果。中間の山だからね」
「新京都の設計には、好都合だけど」
「新京都は、海抜571mだからな不便じゃないか」
「まぁ 気候は悪くないだろう」
「それより新東京タワーを建てるのか?」
「土地は確保しているから余裕だよ。地震もないし、新東京タワー333mかな」
「東海岸の平野部は狭い山脈沿いだ。幅は100kmもない」
「い、いや、電波の受信半径は50kmから60kmくらいだし、丁度、良いような」
「山脈側に点々と電波用の小塔を立てれば、海岸近く立てる必要はないと思うが?」
「そ、それはね、世界三大美港の新東京湾を一望するという素晴らしい観光も兼ねてるんだよ」
「はぁ 移民事業で忙しいというのに」
「だ、だって 新東京オリンピックとかしたいじゃないか」
「山脈側に建てろよ。海抜分を稼げるし、333mのタワーなら山脈の反対側も電波が届く」
「ぅぅ・・・夢がないやつだな」
「そうだ。最高峰コシアスコ山は2223mある。そこに333mの電波塔を建てろよ」
「海抜2556mなら旧シドニー、旧キャンベラ、旧メルボルンまで電波が届く」
「いかねぇよ。せいぜい、半径200kmだ。それに住民がいねぇ」
「入植がはじまれば山にも住み始めるよ」
「山に住まわれるのはな。余り水源を汚されたくない。いつになることやら」
「熱帯雨林のヨーク半島に山を造成しろよ。雨水を集めて、川になるかもしれない」
「山を造成するエネルギー換算すると泣きたくなるよ」
「大鑽井盆地に淡水濾過用の山を造成して、重圧を利用して地下水を汲み上げる」
「ふもとに降りてくる頃には、飲料水」
「んん・・・・」
日本信託統治領ニューギニア
ニューギニアの要衝にアメリカ軍が建設した基地が点在していた。
日本が営々と築いたトラックやサイパンの設備を越えていた。
開戦から終戦まで短期間に本土並みに充実した施設は、日本の信託統治を助けてしまう。
大和(オーストラリア)大陸は水が少なく。
瑞穂・秋津は配分される土地が少ない。
ニューギニア入植は運賃が少なく、発祥の日本列島も近い。
望郷の念の強い日本人は、ニューギニア入植を望み開拓は進む。
暑い事を我慢すれば良いだけだった。
総督府のおかれるポートモレスビーから西のトレス海峡側に穀倉地帯が広がり。
反対側の東を山脈沿いに大きく迂回しつつ線路が北太平洋側へと伸びて行こうとしていた。
日本政府の肝いりで土木建設工事行われ無理やり、水田を広げ、農地を作っていく。
公団住宅が広げられ、商業施設、工場も建設されていく。
極東利権を確保したがるアメリカ資本に押し出されるように日本移民は進み。
日本人の入植のため、アメリカの輸送船が入港し、積み荷が降ろされていく。
余計な年月をかけて入植できない日本も、アメリカに勝てない分野もあった、
蓄積されている技術、技能で間に合わない分野があった。
どうしても、アメリカ、ドイツから購入しなければならないモノがあった。
医療器具、医療品の類がそうで、知識、経験、技量、技能など蓄積されたレベルが違う。
熱帯生活は伝染病対策が重視され、
未知の伝染病に関する研究で、アメリカやドイツの研究施設が、渋々、作られたりする。
そして、英文・独文の医療本が翻訳されていく。
もっとも専門用語は、経験しなければ培われず、翻訳自体が困難といえた。
「結核に風土病が併発したら面倒だぞ」
「ふ 外国人に排他的な有力者でさえ、ドイツとアメリカの医療関係者に特権を認める」
「我が身かわいさだな」
「日本は、貧しいからね。村のため、家のため、間引きが前提だけど有力者じゃないからね」
「今度は、そうも言ってられないだろう。大多数が疾病の危険に晒されてる」
「医大生は、実績と経験欲しさで、アメリカ外資系に就職、グリーンカード取得するらしいよ」
「やはり、専門分野は机で習うより、実地で慣れろか」
「日本で試行錯誤するより、アメリカやドイツで習得してきた技能を使う方が早い」
「日本医療のトップに立てば、日本の上流階層の覚え目出度く出世できるしね」
「医療で強いのはドイツか?」
「ああ、ユダヤ人の人体実験は規模が大きく新しい」
「アメリカはインディアンや黒人でやってる。しかし、古いし、いまはほとんど行われていない」
「731部隊は?」
「あそこの技能や経験は高い、良いよ」
「しかし、規模は小さいし、軍事に特化し過ぎ、民間医療への応用率が低い」
「ったくぅ 金の使い方がわからんから戦争で追い詰められて、豪州に島流しにされるんだ」
「731部隊は、アメリカとドイツの医療団と擦り合わせするらしいよ」
「731部隊の知識と技能は、日本独自の蓄積だろう」
「アメリカ、ドイツは確認に過ぎないよ。得しているのは日本だけ」
「・・・・アレだけやってまだ負けてるかね」 ぶっすぅうう〜
スターリン死去。
ニキータ・フルシチョフが書記長に就任。
マダガスカル島(イスラエル)
ドイツにとっては、異分子排除。
アメリカ・イギリスにすれば、対日・対伊の牽制で利用するだけ。
海外領では珍しくペタン南フランス領だった。
しかし、どうせ維持できないと諦めドイツと取引。東欧諸国の移民先となっていた。
公用語は、フランス語、ヘブライ語。
東欧諸国(ポーランド、チェコ語、スロバキア語、リトアニア語、ラトビア語、スロベニア語、セルビア語、マケドニア語、ギリシャ語・・・
独伊東欧同盟諸国を除く、東欧諸国人種が圧倒的に多かった。
ユダヤ人は、資金力に任せて急速に増加し、
東欧諸国人を支配階層に組み込み、その下に現地民を置く。
客観的にみるとドイツ帝国が東欧で行っている事を真似していた。
被害者が加害者になっただけとも・・・
そのユダヤ人がドイツ帝国を非難しているのだから同属嫌悪だったりする。
そして、アメリカのユダヤ資本は後ろ盾に立ち、ユダヤ人によるマダガスカル支配を強めていく。
どこかのホテル
モサド(イスラエル総理府諜報特務局)の職員数人が籠もり、隣のホテルを監視していた。
「日本人が対外画策とはね」
「消極的で事勿れで権威主義だろう。受けている情報と違うじゃないか」
「マダガスカル入植が面白くないからと、満州移民、北アフリカ移民に誘導してますからね」
「日本人は、情報収集や想像力に重きを置かないと聞いてました」
「事前策は出世につながらないからね。ファインプレーじゃないと」
「だよな。事が起きてからの調整とか、和とか、対処能力に重点を置いているはず」
「根回しとか言うやつでは?」
「そういうのは、仲間内でやるんじゃないか」
「気質が変わったのかな」
「どうします?」
「まぁ インド洋を挟んで隣国だ。敵意丸出しは都合が悪いし・・・」
「それに杉原千畝(すぎはら ちうね)に借りがある」
「そういえば・・・」
「まぁ 日露戦争ではユダヤ資本がお金を貸してやったんだ」
「ユダヤ人の満州移民だって悪いわけじゃないさ。ソビエト系ユダヤ人の呼び水になるだろう」
「支障がない間は、様子見だな」
日本人の政府関係者がマダガスカルに訪れ、ホテルから双眼鏡で市内を覗き込む。
「随分、白人が増えている。ユダヤ資本の投下は凄まじい」
「この国がインド洋の台風の目になるか、見届けないとね」
「サイクロンというそうだ」
「マダガスカル移民の方が、満州移民や北アフリカ移民より、早そうだな」
「こっちは、ユダヤ人の好きにできるし、満州は対ソ戦略の焦点だ。行きたがらないよ」
「ちっ! 引っ越しが終わるまで、軍事費を落としていたかったけど」
「まぁ ここだって酷いものだよ。そうそう、軍事的脅威にならないと思うよ」
「そうだな〜 ユダヤ人同士でも混沌としている」
「ユダヤ人は寄せ集めだよ」
「東欧諸国系が多いし、反ドイツ運動で捕らえられ連れてこられた連中がほとんどだ」
耳障りな音がすると車が急停車し、
そして、急発進していく。
交通事故で車に轢かれた現地民が倒れていた。
車は逃走し。
周辺のユダヤ人と白人は、そそくさと行ってしまう。
現地民は助ける力もない。
警察が来ると、なんとも要領の得ない対応で捜査もしていない。
助けようと歩み寄ろうとするユダヤ人や白人も僅かにいた。
しかし、周りの同属に止められる。
「・・・どうやら、現地民のための警察ではないようだ。何ともカーストな社会だな」
「マダガスカルに公平は存在しないよ。公平な人間は疎まれ淘汰されていく」
「あの怪我人を助けると、自分がコミュニティから外されるわけか」
「それに病院に連れて行っても現地民なんて診ないよ」
「現地民は、金を持っていないからね」
「やっている事は、ドイツが東欧で起こっている事と同じか」
「保身と排他と差別化。人間の本性を批判するのは筋違いかもね」
「・・・お、ユダヤ人が助けたぞ・・・・医者だな・・・」
「“善きサマリア人” だね」
「危ない橋を渡るやつだな」
「普通は、保身や利益のため他人を犠牲にする」
「他人のために保身を捨て自分を犠牲に出来る人間は少数派だよ」
「ざっと見て、だいたい見物人が100人くらいで、助けたのが1人か」
「その比率だと。マダガスカル。意外と近代化できるかもしれないな」
「そんなものか?」
「そんなものでしょう」
「紹介状でも渡しておくか、日本は医療関係者が不足している」
「言葉が通じないと、診れないだろう」
「外科ならカルテさえあれば・・・」
地中海
地中海西部は、ペタン南フランス海軍が支配し。
地中海中央は、イタリア海軍が支配し、
地中海東部は、ドイツ海軍が支配していた。
パレスチナ(独伊共同統治領)
ドイツ・イタリア軍がユダヤ人発祥の地パレスチナを押さえ、エルサレムを支配していた。
先住パレスチナ人も非人道的で強制的な移民がなされていく。
これらの政策を強行できるのはヒットラー総統以外に存在しなかった。
大多数の人間が国家主義より個人主義を望み。
全体主義より、利己主義を優先させる。
とはいえ、各国とも主流に至らなくても少数意見は存在し、
ドイツ民族国家社会主義に羨望の眼差しを向ける者もいたりもする。
その羨望の現れがアメリカ合衆国のブランデンブルク特殊部隊の忘れ形見。
USA in USAの台頭。
そして、サルデーニャ竜騎兵隊の忘れ形見。
黒の騎士団(黒人至上主義)の抗争。
ドイツ民族が個人の自由より、国家を優先できる希少な性質を持っているのは事実としても、
人間の本能・本質に逆らい続けるのは辛いらしく、自由と平等を求める声は強くなる。
戦後のドイツは、議会が力を盛り返し、民主主義も少しずつ回復していく。
輸送艦からタイガーV戦車が降ろされてくる。
タイガーV戦車は1両の単価が高く、無類の機動力と装甲で世界最強の主力戦車と言えた。
もっとも火力が並みであり、数を作れないことから、より簡易な主力戦車が検討されている。
「明日、アメリカの巡礼団体が来るらしいよ」
「聖地巡礼再開か・・・」
「パレスチナにドイツ人・イタリア人居住者が増えても、違和感はないのかな」
「いや、逆に落ち着くんじゃないかな。白人が多い方が喜びそうだ」
「イエスに一番近い民族は、パレスチナ人だろう。それか、サマリア人」
「イエスキリストを白人だと思っている白人は多いからね」
「パレスチナに白人が増えると、イエスキリストも白人になってしまうかもね」
「あ、ドイツとイタリア共同でイスラエル大聖堂を作るんだよな。様式違うだろう。どうするんだ」
「ドイツでも、バロック建築か、ロココ建築かでもめてなかったか?」
「イタリアもロマネスク建築か、ゴシック建築家でもめていると聞いたな」
「総統は、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂以上なら何でも良いとか、言ってたらしいが」
「ふっ バチカンは、イスラエル・カトリック教会の復活が面白くないかもしれないな」
「イスラエル大聖堂をキリスト教の総本山にでもする気かな」
「ドイツが、キリスト教のイニシアチブを取りたいのなら、イスラエルを押さえておく方が良いよ」
「いまさら、聖地を押さえていなくてもキリスト教はやっていけるだろうがね」
「プロテスタントが増えて、聖地に縛られないキリスト教徒が増えたからな」
「人の心に聖地が宿ったわけだ」
「その聖地が清いとは限らないよ」
東南アジア諸国
インドネシアは、油田、希少資源のいくつかが日本の権益になっていた。
豪州日本は、水と販路を求める程度で、それ以上の権益を求めておらず。
覇権的な要素は急速にトーンダウンしていく。
戦後、東南アジアで独立した国々は、北のアメリカ、南の豪州日本に挟まれる。
アメリカは極東に張り付き、開発事業と信託統治領の運営に勤しみ。
豪州日本も8500万人分の引っ越しと設備投資をしなければならず、
アメリカと豪州日本は、軍事的脅威として東南アジア諸国に届いてない。
とはいえ、東南アジア諸国で近代化し得るだけの国はなかった。
多民族国家で言語が違えば相互理解より、相互不信が強くなった。
国史などの共通性が認知できず、共同体が崩れやすく。封建制度を確立する事も出来ず、
部族間同士で足を引っ張り縄張り争いに終始。
親族までしか組織を大きくできず、全国的な官僚体制もこれからと言えた。
日本商社がインドネシアの豪族と組んで新規事業開拓を検討していく。
「取り敢えず、ある程度、上流から水道管で清水を引っ張って来るのが良いと思うね」
「最近は、ミネラルが濃い土壌水が良いという話しが・・・」
「基本的に非居住地域(アネクメネ)をなんとかしないと、豪州日本の発展はないからね」
「インドネシアの豊かで栄養のある山を削ってでも土砂を豪州に運びたいね・・・」
「まったく・・・」
「そういえば、フランスの情報だと、海洋深層水が土壌に良いって聞いたぞ」
「どの道、塩分は取り除かないと・・・」
ため息・・・
厚めの雲の切れ間から淡い白光が幾筋も差し込み水平線まで続いていた。
アオガエルが、武蔵の艦尾飛行甲板で離着艦を繰り返していた。
護衛の吹雪型哨戒艦4隻が周囲を囲む。
戦艦 武蔵
艦橋
「フジツボ取りも終わったし、久しぶりの航海だな」
「自動でフジツボを取る機械を発明して欲しいね」
「どうかな。軍艦を動かしたくないのが本音かも」
「練度が保てないな」
「それどころか、次期日本艦艇は、艦船用DS鋼ではなく、高張力HT鋼を使うらしい」
「はぁ〜」
「HT60からHT80の目星がついたらしいよ」
「ふ〜ん どうせ、歩合が悪いとか実用化はまだろう」
「すぐ建造するわけじゃないし。もっとも厚みが薄くなるらしいがね」
「あまり装甲を薄くしないで欲しいね。高波で艦体が凹んだら泣きたくなるよ」
「取り敢えず巡洋艦クラスは60mmくらいで検討してるんじゃないかな」
「高雄は127mm。利根は145mmだっただろう。半分は退行してるじゃないか?」
「阿賀野型は60mmだろう。軽い方が回避率が上がるんだと。特に燃費」
「戦後になって、急に世知辛くなったな」
「だから戦争を止めたくなかったんだがね」
「もう、戦功を上げて出世することもなくなるな」
「いよいよ、年功序列と権威主義に押さえ付けられる毎日か」
「宴会、オベッカ、根回し、事勿れの処世術だよ、実に爽やかだ」
「志願兵も集まりにくい。土地貰って軍隊辞めて行くやつも増えているし。このままだと・・・」
「土地に一度根付いてしまうと、しがみ付いて離れなくなるからな」
「・・・また戦争したくなるね」
「まぁ 軍縮するのが嫌で戦争したようなものだし。利権が絡むと見境無しだからな」
「でも、土地持ちが増えると志願兵になりたがるやつが減るよ」
「せめてもう少し危機感が欲しいな」
「日本海軍のために、マダガスカルのイスラエル海軍に強くなってもらいたいね」
「いつになるやら。まだドイツ・イタリア海軍のインド洋艦隊の方が脅威になりやすいだろう」
「ドイツ人だって、土地持ちが増えれば土地の世話に時間が割かれる」
「一生懸命に働かないだろうし、工業も低下するんじゃないかな」
「人間、ハングリー精神がないとな」
極東日本
まだ日本の憲法下、多少、白人向きの法改正がされていたが、まだ日本。
街を白人と日本人が行き来していた。
日本語と英語が入り混じりながら話され、時に通訳が介される。
高台に立ち写真を撮る者が急増し、町並みが変わる様子がアルバムに記録されていく。
アメリカ資本がまとめて土地を買うと道が広げられ、合理的な街並みを作っていく。
「なんか、随分と変わったな」
「まぁ これだけ、ばさっと、やられると清々しいね」
「日本の城下町は、敵の攻撃を防ぐため迷路状に作っていたからね」
「不便だったけど、こうなると寂しい」
「日本人って意地悪な発想で物事を処理してしまうんだな」
「戦国が長かったからだろう。応仁の乱がなければ、まっすぐな道だったかも」
「ずっといると当たり前の生活になって気付かないもんなんだよ。戦国の世がもたらした不便」
「しかし、これだけ、しがらみを、ぶった切られると、不便だったことを自覚させられる」
「まぁ 関所が廃止されたのだって、明治維新が終わった後で、1869年だったからね」
「維新に成功して良かったよ」
呉
アメリカに発注された1000トン級河川砲艦が建造されていた。
「アメリカは河川砲艦で何するのかな?」
「悪いことじゃないの、効率いいみたいだよ」
「なんか、ずるいような」
「そういうもんだよ」
「おれ、中国に同情した」
「まぁ 中国大陸から離れられるのならいくらでも同情するよ」
この時期、内戦中の中国を混乱させる方法は、いくつかあった。
武器と商品を輸出し、国民党・共産党を戦わせること。
地方豪族を強化し、不正腐敗を増進すること。
アヘンを配ること。
一度手に入れた権力や権益は手放せるものではない、
また自分より愚かなモノに付くほど、お人よしでもない。
上層部が混乱し弱体化、下層部の組織力が強靭になり武器があれば下剋上が始まる。
アメリカ信託統治領 満州・朝鮮・台湾
英語・漢字表記の店が立ち並ぶ。
店の商品の多くがアメリカ・日本製だった。
山海関
歴代中国王朝が北方騎馬民族から中国大陸を守る天然の要害であり、長城の最東の要。
いまは、アメリカ信託統治領を中国漢民族の流入を塞ぐ防波堤。
アメリカが大型土木建設機械を導入すると、さらに防衛力が増していく。
立ちはだかる要害は、人海戦術を押し止め、戦車の侵攻すらも阻む。
建設機械を動かし、大まかな造成をしているのは日本人であり、
人海戦術で細かい造成工事をしているのは朝鮮人・漢民族だった。
国民軍政府の列車、トラックのみ行ったり来たり、
国民政府専売による日米商品売買利益は、国民政府を支え。
資源の輸出先を押さえる国民政府は、資源を輸出したい中国勢力の選別すらも行う事が出来た。
そして、揚子江を行き来するアメリカ商船は国民政府だけでなく、別の勢力にもモノを売却する。
「大工事ですね、さすがアメリカ」
「登れない渡れないなら。中国得意の人海戦術もないからね。軍事費は少なくて済む」
「あとは、信託統治領内を区画分けで逃亡を防いで飼い殺しだよ」
「アメリカは、大陸に興味ないのですか?」
「領土としては、まったくないね。満州と朝鮮半島で十分だ。あと列島」
「余裕がありますね」
「軍事費を減らして極東開発に向けることができたからね。日本もそうすれば良かったのに」
「軍事費を削減できませんでしたからね。採算可能な開発費も工面できませんでしたし」
「おかげで膨張するしかなかった」
「それで、日本は、いつ満州を開発するつもりだったので?」
「・・・さぁ〜」
膨張しても治安維持と防衛のため軍拡は続く。
限られた予算はさらに厳しくなり、
侵略による搾取を強行すれば日本人は呪われさらに軍事費の負担を強いられる袋小路。
大規模な開発は捻出できず、萎れていくだけだった。
極東日本の譲渡と豪州日本移転は、日本経済再建の切り札であり、
同時に軍国主義から脱する数少ない手段だった。
もっとも、アメリカは極東信託統治領に投資するより、
確実にアメリカのJpan州となる極東日本に投資する方が良かった。
いまのところ、極東信託統治領に対する投資は、満州・朝鮮・台湾を防衛するための造成工事。
そして、大慶油田開発を除けば、日本が投資した設備の更新と増設がほとんどだったりする。
満州里
高原地帯と分かるほど空が近く、寒々とした空気が張り詰める。
アムール川が米ソ国境線の代わり横たわっている。
冬になれば昼間でもマイナス30度、川はガッチガチに凍り、戦車も川を越えられる。
コムギ、ダイズ、ジャガイモの穀物地帯であり、
乳牛、ウマ、豚、ニワトリの牧畜がなされ、食料を自給していた。
何が悲しゅうてこんな場所になのだが、土壌は良く水も豊かだったりする。
アメリカ機甲師団の駐屯地では、バーベキューが行われ、地産のビールが試される。
M4戦車は、旧式化しておりM26とM46に切り替えられつつあった。
この地を防衛していたのは、アメリカ機甲師団の戦力より、
アメリカ信託統治領というブランド。
そして、断続的に行われる対戦車・対人の造成工事であり、
その規模は、対人用の長城をはるかに超える。
いかに機甲師団でも谷に突進すれば集団自殺、絶壁に突撃すれば自爆する。
そして、最大最強の抑止は、ハルピンに配備しているアメリカ空軍の原子爆弾といえた。
「大佐。ソビエト領側にT34、T55戦車を確認しました。増援部隊のようです」
「そうか、いよいよ、ソビエト連邦は極東に戦力を回し始めたか」
「戦力を揃えたソビエト軍がどう出るか楽しみです」
「まぁ 冬になれば、戦闘不能になるほど吹雪く」
「造成しているせいか、拠点になる高台も少なくない」
「もっとも、ソビエトが極東を増強し設備投資するには、満州から食料を輸入しなければな」
「つまり、アメリカ信託統治領が極東ソ連の命運を握っているわけですか?」
「そういうことだ。こっちは、食糧庫の上に座し、のんびり構えているだけで良い」
「ソビエト連邦が極東を増強したければ、アメリカ信託統治領に頼るよりなく」
「増強した極東ソビエトを維持するのも、アメリカ極東信託統治領次第だ」
戦う前に勝敗が決している。
そういう情勢を作り出す国力、才格、能力がアメリカ人にあった。
イスラエル(マダガスカル)
現地民400万。
ユダヤ人を中心にした入植が続いてた。
ドイツ圏から追い出された東欧諸国民の入植も続いて、白人国家然とした世界が作られていく。
予測される移民人口は、ポーランド人2100万。ユダヤ人1000万。
チェコ人400万、ギリシャ人400万、ユーゴスラビア諸民族400万。
スロバキア人250万。ラトビア90万。リトアニア80万。
合計4720万。
このマダガスカルの世界を支えていたのはユダヤ資本であり、
それだからこそ、少数派のユダヤ人の支配が可能といえた。
もっとも、このマダガスカル移民も満州、北アフリカの移民に引っ張られる。
欧州系ロスチャイルド財閥は戦前からイギリスとフランスを中心に欧州経済を支配していた。
そして、アメリカ系ロックフェラー財閥との経済市場抗争が表面化する。
アメリカ系ロックフェラー財団は戦前、ドイツ帝国に投資。
欧州市場欲しさで、欧州系ロスチャイルド財閥を牽制していたのである。
そして、開戦から戦後に掛け、欧州系ロスチャイルド財閥は利権を喪失し苦境に陥いる。
結果的に世界経済を支配するのはアメリカ系ロックフェラー財団となってしまう、
もっとも、経済戦争は、軍隊を使った戦争と違った。
利権を焦点に利害が衝突し敵と味方が分かれる。
ほとんどの人間が経済的な保証で味方になった。
敵と味方が利害で変わるため戦線というより、広域的な場を奪い合う囲碁に近い。
ロスチャイルド財団は、大戦で失った苦境から回復するためマダガスカルを選択していた。
ロスチャイルドが一手打つと、ロックフェラーも極東の利権を気にかけながら応える。
資本のあるロックフェラーが優位とはいえ、資本が分散していないロスチャイルドが有利。
情報タイムズ、ザ・サン新聞、ロイター、AP、ABC、NBC、CBS。
石油ブリティシュ・ベトロリアム、ロイヤル・ダッチシェル
フランス銀行、イングランド銀行、ウェストミンスター銀行
製薬ローマ・ブーラン
鉱物会社デビアス、リオ・チント・ジンクの支店が集まってくる。
「ロックフェラー系の進出は、遅れているようだ」
「ロックフェラーに初期投資をやらせてタイミング良く入り込むことができた。負担も小さいだろう」
「負けそうなったロックフェラーが盤上を引っ繰り返すような戦争を始めなければ良いけどね」
「ユダヤ資本の勢力圏争いで死んだ人間が哀れだね」
「状況は作り出しているけど。戦争するかは国家指導者と国民のせいだよ」
ロックフェラーは、極東の支配権を確保する必要に駆られ。
マダガスカル投資で手抜きするよりなかった。
“新” 福岡(旧パース)
とある小作農家に振り分けられた土地は、道路と水路に囲まれた。
200m×450m。3ha(30000u)。
坪換算すると1ha=3025坪なので、3ha=9075坪。
「これ?」
「字は読めますよね」
「ええ、まぁ・・・」
「書いてある通りです」
妻や子供たちに腹一杯食べさせることができる・・・
「家屋の建設は、所定の道路沿いに」
「あと公道道路のない区画の分筆は禁止です」
「分筆する時は、公道の国への返還手続きを行ってください」
「入植から10年は、税が軽くなりますが、その後、重くなり。そして、軽くなります」
「これは、国が負担した区画整備工事費の回収分です」
「お金が良いのですが、時価で現物でも構いません」
「なるほど・・・」
「水路はありますが内陸側の外延部ですので、水が不足することもあります」
「やはり、水不足が・・・」
水路を流れる水が寂しげだった。
「ええ、可能な限り、水を節約してください。水をあまり使わない穀物が安心だと思います」
「では、登記書に印鑑と名前を・・・」
どれほど新天地の生活が苦しくても、日本に残って小作するよりマシだった。
ある程度、資金力のある農家は、企業農業の宿舎に入らなくても成功の見込みがあった。
入植した農家は水対策と流通の確保を政府に臨み。
政府は、水資源を産業全体の発展のため欲し、離農から工業、商業への転向を望む。
実力と能力のある者は、成功、支配を望み、貧富の格差と差別化を望む。
二律背反があり、生産性の上がらない農家など、怠惰な人間を淘汰する口実になったり、
淘汰すると貧困が犯罪を引き起こしたり・・・
この辺の舵取りは、それなりに有能な官僚にまかされており。
そこそこ成果を上げると予測されていた。
新 京都
日本連邦議員たち
「信用できるのか? 官僚たち」
「まぁ 軍官僚が縮小して、ようやく日の目を見た官僚たちだから、最初は張り切るんじゃないの」
「でも、軍官僚と同じで、だんだん澱んで来るかも・・・」
「それまで豪州日本の経済が軌道に乗れば良いけど」
「陸海軍省の創設は1872年。五・一五事件は1932年。官僚のモラル寿命は60年くらいだろう」
「いや、シーメンス事件は1914年だから42年くらいじゃないか」
「公僕じゃなく、公害だな」
「どちらにしろ、犠牲になることより、犠牲にする事を覚えたら駄目だよね」
「いや、不正腐敗が小さければ我慢もするがね」
「どちらかと言うと、小さい不正腐敗に目くじらを立てて、大きい不正腐敗に目を瞑るような・・・」
「弱者に遠慮ないけど、利害が絡む強者は媚びるし遠慮するからな」
「それに面子があるから後ろ盾がないと。若輩、弱者の功績は潰しにかかるからね」
「まぁ 信賞必罰が行き届かないのはしょうがないよ。むかしからだし」
引っ越しで余り物が隣家に配られる事は良くある、
アメリカ資本に売れず。
ワザワザ、豪州日本まで運ぶほどではない。
そういう類のモノがソビエトに流れたり、中国に流れたり、
ウラジオストック港
日本商船が停泊、物資がウラジオストックに降ろされていた。
日ソ間相互で脅威が低下すると冷静な交易が行われる。
ソビエトは、アメリカとドイツに挟撃され、生きた心地がしないと豪州日本に歩み寄っていた。
敵性国家と地続きのソビエトは地政学的に不利であり、
敵性国家と遠く海洋を隔てた豪州日本は地政学上で有利だった。
それだけで取引は日本側が有利になっていく。
ソビエトにすれば、日本とのパイプを強めておかなければ、いざという時、日本まで敵に回す。
少しくらい不利でも日本との関係を強化したい思惑があった。
「新しい領事館ですか?」
「ええ、不便と思いまして」
「な、なるほど・・・日本風ですな」
「落ち着いて仕事ができると思いますよ」
「御心使いありがたいですね」
第二次世界大戦で日本とソビエトは日ソ中立条約を守り切り、
戦端を開くことなく平和を保っていた。
それが日本の日本・豪州交換政策によって、たまたま、偶発的に条約が守られたとしても・・・
「日ソ中立条約で守られた国際信義は、国際不戦条約の手本と言えるものです」
「ま、まったくですな」 汗
「日ソ中立条約は、今後とも維持されるべきであり、継続すべき栄誉です」
「はぁ」
となってしまう。
日ソ中立条約の効力発生は1941年4月25日、有効期間は5年。
第一期〜1945年4月25日。
第二期〜1950年4月25日。
第三期〜1955年4月25日
その満了1年前に廃棄を通告しない場合、自動的に5年間延長される(第3条)。
つまり、1954年4月25日までに破棄しないと
自動的に1960年4月25日まで日ソ中立条約が延長されてしまう。
豪州に引っ越した場合、国際外交上不利な制約であり、
日本政府は破棄したと思いつつも慣れ合いと惰性で条約が続いてた。
YES・NOをハッキリ言えない日本人の悪い癖といえる。
外国人用レストラン
「まぁ こうやって、キャビアを安く日本に輸入できるのなら、中立条約も良いような悪いような」
「食いものにつられて外交政策を誤るのは、ちょっとな」
「に、日本の庶民だって、キャビアを食べたいだろう。色々、商品とか買ってくれるって言うし」
「あまり、アメリカの機嫌を損なうような事はしない方がいいと思うよ」
「豪州の引っ越しが終われば、過去の清算とかで条約破棄もできるんじゃないか」
「まぁ そういうの言い出しにくいからね」
「バカな条約を結んだものだ」
中国大陸
国民軍と共産軍の内戦は続いていた。
火種があれば油を注ぐだけで燃え上がる。
油を注いでたのは、アメリカであり、
国・共の地力配分のバランスを取りながら、消耗させ疲弊させる。
アヘンが流れ込み、拳銃類も民衆の手に届いていた。
治安は最悪に近く・・・
日本の戦略研究所の職員が、名指揮者がオーケストラを奏でさせている、と驚嘆するほど。
ソビエトが軍事的介入ができれば、これほど効果的に行かないだろう、が行われていた。
アメリカ合衆国は、白馬に乗った救世主の如く中国民衆に救いの手を差し伸べる。
そういうエンディングまであるという。
ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ。
豪州日本 “新” 東京
赤レンガの住人たち
テレビ映像が流れていた。
“もう軍事力の時代ではありませんよ”
“豪州日本を侵略するような国家があるというのですか?”
ふるふる
“ありもしない恐怖心を煽り、国民の血税を無駄に使い込もうとしている”
“輩は国を滅ぼしますよ”
ふるふる ふるふる
“戦前の過ちを繰り返してはいけません”
“日本は必要最小限の軍事力で十分なのです”
ふるふる ふるふる ふるふる
“水がもっと必要なのではありませんか”
“皆さまの血税は、国民の利益のために使われるべきです”
ふるふる ふるふる ふるふる ふるふる
“必要性の低い、国防費など後回しですよ、後回し、あはははは・・・”
ふるふる ふるふる ふるふる ふるふる ふるふる
「せ〜 じ〜 ま〜!!!!」
拳銃が抜けれ安全装置が外され。
「うぅごぉおおお〜! しぇからしか〜! この裏切り者〜!!!」
「ご乱心されたか、浅野中佐、殿中でござる〜!」
「こいつに! こいつだけは! こんなことを言われて許せるか、梶川、離せ〜!!!」
「殿中の銃撃沙汰は、ご法度でござる〜!」
「軍隊はな。軍隊はな。国の矛、国民の盾なんだよ。チクショウ、チクショウ!」
「テ、テレビは官給品でござる〜! 無実でござる〜!」
「えええぃ 軍人の情けだ。離せ! 離せ〜!!!!」
ブチッ!
・・・停電・・・
「「・・・・・」」
がっくり・・・・
「「はぁ〜」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月夜裏 野々香です。
大本営 “特行” 引っ越しまであと8年です。
史実では58年頃から日本の政官財とロッキード社との贈収賄が始まります。
戦後、13年という早さは、小学校卒・閨閥外れの某大物政治家のおかげでしょうか。
豊臣秀吉の様な人間が出世できるのは良いのですが、不正腐敗を含むと言うのが・・・
ロッキードより、グラマン・国産が良いとはいませんが(笑)
もう少しアメリカンドリームのようなモノが欲しい。
この戦記では、極東日本でアメリカ資本と癒着気味、どうなる事やら、
成り上がり容認の大陸気質で、豪州ドリームが発揮できれば良いのですが・・・
オーストラリア大陸
西オーストラリア州 鉄鉱石鉱山 マウントトムプライス、パラバード、マウントニューマン
西オーストラリア州 金鉱 スーパーピット山
西オーストラリア州 金・ニッケル鉱山 カンバルダ
クイーンズランド州 炭鉱 グーニエラ・リバーサイドー、モーラ、
ニューサウスウェールズ州 炭鉱 マウントソーレーイー
ノーザンテリトリー(北部準州) ウラン鉱山 ジャビル
クイーンズランド州 ボーキサイト鉱山 ウイパ
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第13話 1953年 『信賞必罰は無理』 |
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