月夜裏 野々香 小説の部屋

    

架空戦記 『大本営特攻』

 

 

 第15話 1955年 『エヴァ・ブラウン銀行の挑戦』

 ニューギニア

 マラー山脈からトレス海峡に向かって1500mの斜面を海峡側へと伸ばしていく。

 標高1500mほどの高さの高原は、程良く涼しい事から考えられた処置だった。

 土壌の良いニューギニアの土を南斜面に向かって押し広げていく。

 いずれは、ゆるやかな坂で陸橋を建設し、ヨーク岬半島へ土を運ぶルートになるはずだった。

 「なんか、水道橋と土砂を運ぶ陸橋か。山崩れが怖いな」

 「のんびりやるさ。ニューギニアも標高1500m級の高台が増えた方が過ごしやすいし」

 北太平洋と南太平洋を1500m級の高原で繋げられれば、ちょっとした天上都市になるかもしれないな」

 「地震が怖くないか」

 「造成する陸橋の方が怖いかな」

 「まぁ きちんと支柱を重ねるとか、樹木を成長させた後、積み重ねるとかすれば、大丈夫だろう」

 

 豪州日本のヨーク岬半島、アーネムランドの沿岸部塞き止めと造成が始まる。

 平地に山を造成し、運河を掘り、大和大陸を無理やり緑化する試みだった。

 “砂漠は拡大する”

 当時の常識を覆す大事業になりそうだった。

 「・・・オーストラリア大陸は平坦で高い山がほとんどない、平均標高は300mだ」

 「熱帯雨林のヨーク岬半島は、雨が多いが保水できず雨水は海に流れて土壌が痩せている」

 「半島沿岸部に標高1000m、幅20kmの山脈を逆U字型で全長2000km造成すると」

 「年間平均2500mm以上の雨水は逃げ道を失い運河を作ると内陸側に向かう」

 「山崩れが怖いな」

 「あの辺の木は、ユーカリとメラルーカ種(半水没樹)だ。木の成長も早い」

 「15年ずつ3mごと埋め立てていけば、樹木を段差で重ねながら積み上げられる」

 「沿岸外側の山を補強して、内側を経こませながら雨水を内陸に誘導すれば良いだろう」

 「また、気が長くて神々しい話しだな」

 「15年単位で3mだと5年で1mか。1000m級の山岳だと5000年もかかる」

 「海側の川を塞き止めるのは、もっと早いよ。つまり運河だけなら先に作れる」

 「予算上の問題もあるから、それくらいの方が負担が少なくて良いよ」

 「土壌が豊かになれば、植林する樹木も変えられる。もっと早くなるだろう」

 「トレス海峡トンネルを掘った方が良くないか」

 「橋の方が土を運びやすい気がするな」

 「まぁ 橋も海底トンネルも寿命があるから、山を作るのは悪くないよ」

 「どっちにしろ、大和大陸は土壌が痩せている、無駄に養土を海に流したくない」

 「ニューギニアも過ごしやすい標高を広げられて住みよい良いと思うね」

 「じゃ ヨーク半島全体の標高1000mほど上げれば気温は、18度から22度くらいか・・・」

 「たぶん、過ごしやすくなりそうだ」

 「理想だと標高1200mから1300mくらいが涼しくて良さそうだけど」

 「雨水だけじゃミネラルが足りないから、土壌を考えると、それくらい欲しいかな」

 「ニューギニアの山脈も整地できて、過ごしやすい標高が増やせればいいが」

 「なんか、豪州日本だけが、別世界の国になっていきそうだな」

 「これから人口が増えていきそうだし、それくらいやらないと、追いつかないよ」

 

 

 水上艦艇の寿命に比べ、潜水艦の寿命は短かった。

 日本が最初に建造した潜水艦は、太平洋・インド洋全域で作戦可能な潜水艦だった。

 ドイツ海軍のXXI型を大型にしたような潜水艦であり、性質もよく似ていた。

 また電気式音響魚雷を開発生産、安定した雷撃戦を可能にしてしまう。

 1) 静粛性  2)ソナー  3)安全深度  4)水中速度  5)作戦能力  6)魚雷

黒潮
  排水量 全長×全幅×吃水 馬力 速力 航続力 533mm魚雷 深度 乗員
水上 4800トン 120m×12.0×7.0 5000 16 28000 艦首 艦尾 300 100
水中 6000トン 5000 16 120 8/24 4/12

 司令塔

 「各国で音響魚雷が配備されると怖いのは潜水艦になる」

 「ええ、ドイツもイタリアも本艦と同じ程度のトン数で潜水艦を建造しているようですし」

 「潜水艦も量から質に変わったかな」

 「維持費を考えると大型艦を揃えておく方が効率的ですからね」

 「ドイツは60000トン級空母を建造するらしい、戦後10年も経つと違うな」

 「ドイツ海軍は、アメリカ機動部隊の強襲で壊滅しましたからね」

 「艦隊が残っている日本は、新型艦建造を後回しか」

 「移民で軍事費を削られていますからね」

 「ドイツ・イタリア海軍は、このまま、アメリカ・イギリス海軍と張り合うかもしれんな」

 「好都合といえば、好都合ですかね」

 「日ソ中立条約が続いてしまうのは面白くないですが・・・」

 「まぁ 意味無いんだがな。ソ連と有益な取引ができるのなら悪くないだろう」

 「共産主義はいやなんですけどね」

 「残念な事に土地持ちは共産主義者になり難いよ」

 「やっぱり、近代化が押さえられますかね」

 「らしいよ。会社クビになっても田畑があれば、開き直れるし」

 「艦隊の将兵もですよ。厳しくすると田畑に逃げますからね」

 「水上艦はともかく、潜水艦でそれは困るな。全員殉職だ」

 

 

 04/25 日ソ中立条約更新

 

 

 戦後10年。

 米英連合、独伊同盟、豪州日本、ソビエト連邦

 純粋な戦勝国というならアメリカ合衆国

 条件付きで戦勝国と言えなくもない国は、国土を大きくした豪州日本とドイツ、イタリア。

 負け組国家は、ソビエト連邦とイギリスだった。

 とはいえ、各国とも節目になれば、それぞれに体面があり式典を行う。

 

 そして、戦後10年後の南北フランスも節目を迎える。

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 独伊・米英講和条約調印。

 日独伊三国同盟破棄。米英の対ソ援助停止。

 フランスは、ドゴール北フランスとペタン南フランスに分割。

 オランダ、ベルギー、デンマークは、中立国として存続。

 米英・独伊は、フランス、オランダ、ベルギーの占領地から段階的に撤収する。

 北フランス・南フランスは、今後、10年は、陸軍兵力を10万以下とする。

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 北ドゴール・フランスは、行きがかり上、米英連合側であり、

 南ペタン・フランスは、独伊同盟側だった。

 フランス国民同士の行き来は自由で行政上分かれているだけ、

 統一することなく続いていた。

 独伊・米英講和条約の執行に合わせて、フランス統合が・・・行われなかった。

 

 北フランス・パリ

 マロニエの並木が凱旋門まで続き、木漏れ日がシャンゼリゼ通りを優しく彩る。

 光と影で照らし出される色合いがフランス芸術を花開かせたと言っても良く。

 通りが作られてから、それほど変わらない、毎日が続いていた。

 この国の状況を端的に表しているとしたら、歩いている国民の表情くらいだろうか。

 国土の半分を失い、北大西洋側に湾曲した国土となったことで国防は、困難となってしまう。

 ドゴールの指揮する北フランスは列強としての覇権を捨てる。

 そして、文化人を自称してたはずのフランス人が製造業に価値を見出していた。

 装飾衣服は優れたモノが多くなり、フランス菓子はドライアイスに保存され、

 その日のうちに欧州各国へと届けられていく。

 北大西洋だけに工業力を集中させ、資源を買い、加工し、売却していく。

 設備投資が繰り返され、急速に羽振りが良くなっていく。

 カフェテラスの日本人たちの多くは、貿易関係者であり、

 手ごろな価格で売り出されたフランス製品を買い求めていた。

 「フランスは統合しないのかな」

 「ペタンの南フランスがアルジェリア併合に血道を上げてるからね」

 「北フランス人は、戦争より、働く事で汲々だよ」

 「統合すると徴兵だからね。南北統合は気が進まないだろうよ」

 「まぁ 南北フランスは行き来自由だし、いまは北の方が豊かだな」

 「南フランスもアルジェリアを支配したら裕福になるんじゃないか」

 「どうかな、ドイツも日本も土地が分配されて労働力を喪失している」

 「豪州日本も第二次、第三次産業人口を大きくできないからね・・・」

 「土地があるんじゃ よほど金を積まれない限り、他所で働こうと思わないし」

 「雇用する給与も高くなるから、大会社じゃないと払えないしね」

 「豪州日本が近代化するためには、土地を奪って、労働者を増やすしかないわけか」

 「当分、無理なんじゃないか」

 「まぁ こうやってフランスまで安くて良い品物を買いに来るのも、しょうがないのさ」

 

 

 豪州日本

 人口が気薄になると市場も気薄になる大地。

 土地があっても、資本がない、労働力が得られない、製品がない。

 購買力がない。

 こういう国は国土ばかり大きいだけで、農業ばかり、

 農地があるのに

 “お前、農業止めて、農業機械の製造をしてくれ”

 といえば、分かりやすいだろうか。

 普通なら

 “農作物を売って農業機械を買えよ”

 なのである。

 まず産業が育ちにくかった。

 引っ越しで金のない農民たちは、土地を配分されても収穫まで生活苦。

 農業組合に土地を貸し出して生活を確保しながら農業産業は拡大していた。

 この時期、豪州日本の農業人口は多く、集票も望め、政府の思惑とは別に調整が始まる。

 各農業組合で作物の銘柄を調整しながら、農業協同組合で価格を統制し、配送していく。

 もちろん独立独歩が好きな農家もいて、難儀な調整は行われる。

 とはいえ、作った農作物を市場に収め、卸値にしたがって、農作物を購入する。

 2、3種しか作ってなくても、十数種類の農作物を年間を通して購入できた。

 漁業市場と併設されると、当然、魚介類も共同歩調するようになり、年間、購入できた。

 第一次産業同士のコミュニティーが構築されてしまう。

 政府のコントロールが及ばない、流通が第一次産業組合の内輪で形成されていく。

 こういったコミュニティーが構築されても、第二次、第三次産業の拡大に結び付かなかった。

 労使関係で言うと無理な労働を強要すると即辞められる、だと工業も商業も伸びない。

 無理が利くとすれば、農業が嫌いで、その業種が好きな人種に限定される。

 当然、サービス業も育ち難かった。

 豪州日本の製造力、商業力が保たれてたのは、戦前・戦中までの行き掛かり。

 惰性の労使関係が続いていただけ、と言えなくもない。

 

 新京都 (キャンベラ)

 豪州日本と極東日本の直通航路は、日増しに大きくなってく。

 「インフレは?」

 「いまのところ、収まっています」

 「インフレになったりデフレになったり、忙しいな」

 「あまり、干渉しない方が良いかもしれませんね」

 「だが豪州日本を農業国にするのはまずかろう」

 「とはいえ、土地を取り上げて無理やり労働者にさせてもな・・・」

 「受け皿になる産業を育てるべきだろう」

 「公用地用の土地に設備投資を行ってもな。賃金を高くしなくては労働者を得られないし」

 「しかし、農業やるより金になる事にすべきなんだろうがね」

 「あまり、インフレを起こすとまずい。都市部と農村部の格差が大きくなる」

 「第一次産業は組合を作って好きにやってるだろう」

 「近場同士の閉鎖的組織ですし、まだ全国的になってないと思います」

 「農業機械の開発を企業に急がせている、機械化が進めば収入を得るため働くのでは?」

 「いっそ、農業漁業組合を中核に産業を起こすべきでは?」

 「人口比率で言うと自然といえば自然だがね」

 「全国規模の産業で重工業に繋がるモノを優先したいがね」

 「それだと、労働者の確保が・・・」

 袋小路

 

 

 家があり、農地の作物は育っていた。

 農作物は、自然の法則に沿って豊作になったり不作になったり。

 機械同様、矛盾も少ない。

 これが人間になると矛盾だらけだったりする。

 矛盾があるからこそ人間といえなくもない。

 健康であっても、情緒教育、知的教育、道徳教育を受けていても、我が強いと衝突する。

 戦前・戦中・戦後と歪な教育しか受けていないと中々変われるものでもなく。

 老いても頑迷となり、

 老いを前にした熟年層も保身に入る。

 働き盛りの壮年層でも、安定した人生設計へと舵を切る。

 豪州日本の未来を作っていく青年層は、軍属上がりでどうしていいのかわからず。

 明るい農村。

 農村が明るいかというと、大本営発表に近かったりする。

 明るくしたいというのが正直なところで、土地持ちになっても、いろいろあったり。

 材木を組み上げ、日本から持ってきた藤の枝を絡ませる。

 若芽は茹でたり、炒めたりで食べることも出来た。

 花も揚げて食べることができる。

 雨量の少ない豪州で育つかというと自生しているキングサリーと同じマメ科。

 とはいえ、木々を育てようとすれば、水が必要なのは事実だった。

 せっかく作った庭付きの家。

 水不足になれば育てているナス、キュウリ、ニンジンのどっちを優先するか、思い悩む。

 藤の木と一年で育つ野菜を天秤に掛けるのも考えもの。

 水の割り当ては、組合から煩く言われており、

 耕作地を増やしても水不足で給水制限を受けると、取捨選択しなければならない。

 日本にいたときと同じようにアパート経営で左団扇な生活でもしようかと遊休地を見ても・・・

 借家住まいをする労働者も、小作人もいない。

 農作業は楽ではない。

 老後を考えると子供に頼るか、他人の稼ぎに頼るかだった。

 土地は大きくても手の白い子供たちに農作業は難しかった。

 隣に割り振られた隣地の土地も満足に耕せていない。

 土地があっても、地主、大家ではなかった。

 全て自分でしなければならなかった。

 支配力を失った権益者は無力であり、既得権益を生かせず取り残されていく。

 茶の間に徳利が置かれ、婆さんが71歳になった爺さんの盃に番茶を注ぐ。

 「なぁ 婆さん、孫たちは藤の木を受け継いで育ててくれるだろうか?」

 「どうでしょう。開拓地が増えると、新しいところに行きたがるかもしれませんね」

 「はぁ 孫たちと違って、馴染めんの」

 「あの芋ようかんの店も遠くに行って、食べられなくなりましたね」

 「んん・・・あそこに芋を植えてみるか」

 「五十六爺さん。芋ようかんなら小豆と寒天も欲しいですね」

 「そうじゃのう・・・」

 人間、支配力を失うと急速に老けこんだりする。

 

 

 極東日本

 計画都市は、合理的であり、敷地面積は3倍ほど、

 白人が過ごしやすい北方に人口の比重が広がり、

 東北・北海道・南樺太・千島が好まれやすかった。

 基本的に海岸線を埋め立て低地を広げるより、

 いまある低地が埋められ海抜が高められていく。

 アメリカ製大型土木建設機械は日本人同士のしがらみごと踏み潰していた、

 直線に近いコンクリート道路が伸び、

 碁盤の目のように整然とビルが建設されていく。

 総人口は5000万ほどが見込まれ、アメリカ資本が支配する世界となっていた。

 アメリカ人と残っている日本人の衝突は、自然との関連が多かった。

 自然との調和を良しとするアメリカ人も少なからずいて、

 日本人同士のしがらみを一顧だにしないアメリカ人も、こればっかりは二つに分かれた。

 和風家屋の需要も少なくないが、芝生の上の洋館も多くなる。

 京都の茶屋 とある一室

 アメリカの資本家が集まっていた。

 「極東日本が日本らしい方が金になるよ」

 「城郭と神社仏閣遺跡類を失うのは痛い」

 「可能な限り、金に任せて買い取るべきだ」

 「法的なモノも少しは残すべきでは?」

 「だが非合理的だ」

 「銃の所持が合理的というのはどうだろう?」

 「銃の件は一考すべきだよ。日本人は所持より、撃ちたがっているようだが」

 「キリスト教は?」

 「変に制限するのもおかしかろう。信教の自由は認めるべきだ」

 「観光を阻害するようなのは面白くないな」

 「日本が日本だから観光になるだろう。日本人にとっても、アメリカ人にとっても」

 「極東日本がアメリカ合衆国Jpan州になるのだからアメリカ人が来るのだよ」

 「外国人だと煩わしいからな」

 「Jpan州は表記上問題じゃないか?」

 「じゃ Apan州とか」

 「そんなものだろう」

 「だけど、まだ、外国だよ」

 「それも、あと5年だよ」

 「日本人は?」

 「1500万ほど残ってる。期限の61年以降、残るのは500万ほどだ」

 「極東日本の総人口は5000万で収まりそうだ。となると、日系人は10分の1か」

 「日本人は大人しいから助かるよ」

 「戦争していた時は、強敵だったのにな」

 「たぶん、半島の朝鮮人を追いたてれば、アメリカ人は8000万くらいになるだろう」

 「しかし、日本人を大量に失うとJpan州の経営が成り立たなくなるよ」

 「土着観光系の日本人は有用だよ。まだ、アメリカ人では荷が重いだろう」

 「日本人が残っている方が日本人観光客が来る」

 「我々が大家になるだけで、日系人の自由にさせる方が良い」

 「問題は、城郭・神社仏閣・遺跡関連だよ」

 「こればかりは、日本の所有として残されるし、移転も自由だ」

 「こちらが買い取ればいいだろう」

 「小さいところは買えているよ。そこを大きくさせるつもりだ」

 「しかし、歴史的建造物となると・・・」

 「本当はそう言うのが欲しいのだがな」

 「移転するより、極東日本に置いておく方がいいと日本人と日本政府に思わせれば良いのだ」

 「極東日本だけでなくアメリカ本土もビザもなくすべきだな」

 「んん・・・まぁ 日本人の犯罪は貧しさ、若さ、無知から来ることが多い」

 「豊かになっていけば、犯罪発生率は、減少するよ。また、減少傾向にある」

 「人身売買は?」

 「豪州移転が始まってからは、ほとんどないな」

 極東日本で日本人同士の拗れ切ったしがらみが消えていくと。

 住み易い社会が作られていく。

 

 

 パレスチナ

 上空をMeP1110の4機編隊が通過していく。

 アメリカはセイバー戦闘機を開発していた。

 アラブ・イスラム圏に配備しつつあったが砂漠仕様で手間取り、稼働率が低い。

 軍事的優越性が確保されると、独伊駐屯地のドイツ人とイタリア人は、急速に増えていく。

 ドイツの質実剛健な建築物とイタリアの女性的な建築物が混在する地となっていた。

 死海の南北に広がる低地は、独伊同盟とアラブ・イスラム圏との境であり。

 独伊同盟と米英連合の代理アラブ・イスラム圏が睨み合う地だった。

 中東の石油は、次第に産出量を増加させており、

 第三次世界大戦が勃発するとしたら、この中東からといえる。

  重量 全長 全長×全幅×全高 馬力 速度 航続距離 武装 乗員
タイガーV 50 10.29 7.26×3.76×3.08 1080 60km 400km 71口径88mm×1 7.92mm×2 4
IS3 46 9.85 6.67×3.2×2.45 600 40km 190km 43口径122mm×1 12.7mm×1

7.62mm×1

4
T54 35.5 9.00 6.37×3.27×2.40 520 50km 450km 56口径100mm×1 12.7mm×1

7.62mm×2

4
M26 41.9 8.65 6.33×3.51×2.78 500 40km 161km 50口径90mm×1 12.7mm×1

7.62mm×2

5
M46 44 8.48 6.35×3.51×3.18 810 48km 130km 50口径90mm×1 12.7mm×1

7.62mm×2

5

 タイガーV戦車は50トン/1080hp。1馬力当たりの重量は46kgだった。

 T54戦車が1馬力68.2kg。M48戦車が1馬力54.3kg。

 T34戦車が1馬力64kg。BT7軽戦車が1馬力30kg。M41軽戦車1馬力46.4kg。

 キャタピラ幅の影響があるものの馬力当たりの重量が小さいほど、機動力が高く。耐久年数も長くなった。

 タイガーV戦車は、数値的に軽戦車に近い機動性の重戦車といえた。

 戦後10年もすると、独伊東欧軍の主力戦車はキングタイガー戦車一色となってしまう。

 弱点があるとすれば、火力が小さいこと価格が高い事といえた。

 ドイツ・イタリア軍将校が双眼鏡でアラブイスラム圏を睨んでいた。

 「M48戦車の数が多い」

 「石油を売った代金で戦車を揃えたのだろう。アメリカも阿漕な商売をする」

 「米英連合の51口径105mm砲とソビエトの56口径100mm砲は厄介ですよ」

 「ドイツはむかしから小口径重防御が好きなのだ」

 「しかし、71口径88mm砲では分が悪いか・・・」

 「タイガーVの車体を利用した55口径150mm自走砲は悪くありませんがね」

 「65口径105mm砲を検討しているが車両の開発が遅れているようだ」

 「アメリカと戦うのは気に入りませんね」

 「どうかな、独伊東欧同盟は、アメリカ極東信託統治領とソビエト連邦を挟んでいる」

 「対ソ・共産主義で共闘しているのだからドイツとアメリカの対立は表面的なモノだ」

 「中東の軍事的緊張を煽って、小金を貯めているに過ぎないよ」

 

 

 

 豪州日本 瑞穂

 ヒットラー(66歳)は、自らの政治的役割を終えたと判断していた。

 ドイツ風の城エヴァ・ブラウン城から欧州に似た山々を見つめる。

 戦後10年は、一つの目処、節目だった。

 後継者が誰であっても暗殺を恐れず民族清浄化を遂行できる統治者はいない。

 政治生命を賭けて強行した政策も役割が終われば終息していく。

 ドイツ第3帝国は、中央集権体制を維持できなくなっていた。

 歳老いた頑迷な独裁者など老害以外の何物でもなかった。

 徐々に地方分権へと移行していく。

 独裁国家から民主国家へ、上手くソフトランディングできたと言えなくもない。

 黄色人種とバカにしていた日本に居着いて、

 余生を過ごさなければならないほど無茶をしたのだ。

 もっとも、日本人は、満更、劣等民族でもないとも思い始めていた。

 独伊同盟は、日本を米英連合に引き渡し講和を結んだのだ。

 その策を日本・豪州移転で切り返した日本人に感心してたりしていた。

 お陰で、日本人のヒットラーに対する感情は良くなくても、悪くないのである。

 「エヴァ、日本の店に行って、買い物をした時は楽しかったな」

 「ええ、本当に・・・」

 「歳を取ると寂しいな」

 「ええ、本当に・・・」

 43歳になったエヴァが応える。

 「クローンも、自分の子も、本当の自分ではない。もう良いだろう・・・」

 「ええ、本当に・・・」

 独裁者が最後に望むモノ。

 永遠の生命の研究は、城の地下で続いていた。

 しかし、老いた肉体は若返らず、半分、挫折していた。

 ヒットラーの個人資産は莫大なものとなり、預金も増えていた。

 そして、自ら作ったエヴァ・ブラウン銀行は、スイス銀行と同様の方式であり、

 エヴァ・ヒットラーの旧名をそのまま銀行名にしただけ。

 スイスに本店が置かれていた。

 そう、いかなる金であっても、個人の秘密口座を守る銀行。

 ヒットラーの遺産は、工業軍事的なモノでなく、アメリカ的な資本主義の権化となった。

 これは、ドイツ本国から追い立てられたからに過ぎない。

 祖国の土地から切り離された者が共有する気持ちがあった。

 なぜ、ユダヤ人の金融業が成功するのかも納得できた。

 これは、土地や国土に縛られた者が、机の上で教われることではなかった。

 放浪の身である事でしか、流通するカネの動きを肌で感じ、気持ちで追いかけられない。

 ドイツ民族は、国土という枠組みに縛られており、国際金融に操作されるだけだった。

 そう資本という名の肥料を与え権力闘争を陰で操作し、暴力を掻きたて、利潤を回収する。

 自己資本を守るため他の資本勢力を駆逐するゲーム。

 エヴァ・ブラウン銀行が非ユダヤ資本系国際金融銀行になった時、

 華僑資本、アラブ資本、印橋資本など拝金主義者たちの注目を浴び始める。

 国家の支配から逃れ、個人口座を守る金融機関は常に求められていた。

 とはいえ、誰に引き継がせるか、ボチボチ考えなければならない。

 「なぁ エヴァ。ユダヤ人の気持ち。なんとなくわかるよ」

 「わたしもです」

 異民族を排斥し民族浄化を強行してきたヒットラーが異民族の中にいた。

 一緒に付いてきたナチスも非ユダヤ系金融資本銀行の職員としてまとまっている、

 忠誠を尽くすことのできない人間に理解できないことがあった。

 忠誠を尽くすことで権威という盾と成果という矛が得られ、個人以上の力を発揮できること。

 ナチスの忠誠の相手が民族国家から民族資本に変わったこと。

 国家の枠組みから解き放たれたゲルマン人たちは、その食指を国境の外に伸ばしていく。

 当面は中東の利権と中国内戦の介入だった。

 どちらも有力者とパイプを作っており、資金援助していた。

 見返りは数十倍が見込め出資者も増えていた。

 

 南半球は、北半球と季節が逆転する。

 初夏の日差しは、温かく、優しげな光を城の中に投げ込んでいた。

 城の外に自分とエヴァの子供と、

 一時は自分の脳を移植しようと思った自分のクローンの子供が遊んでいた。

 暑い冬だけは、許せないと思いながら・・・

 

 

 「第1帝国」 神聖ローマ帝国(962年〜1806年)

 「第2帝国」 プロイセン王国がドイツ諸邦を統一したドイツ帝国(1871年〜1918年)

 そして、ドイツ第3帝国。

 なぜ、第3帝国なのか

 地方自治を廃止、中央集権国家とした3度目の帝国という意味だった。

 ドイツ人は、中央集権国家と地方分権国家を行ったり来たりしていた。

 そして、戦後の第3帝国。

 ドイツ第3帝国首都ゲルマニアの壮大な建築物は、中央集権の象徴だった。

 北端のフォルクスハレ巨大ドームを中心に都市が整然と並び。

 道幅120mの大道路が5000mも続いていた。

 多少、老いたヒットラーが立つとやはり人気があるのか、喝采が起こる。

 しかし、ドイツ民族の感情も変化が訪れていた。

 民族清浄化が進み、国土を東に拡大し、

 周辺国家の脅威が縮小していくと意識が変わる、

 邪魔になる異民族はユダヤ人と一緒にマダガスカルへと追いやられていた。

 ドイツ人は工業系が多く、フランス並みに農地が広がっても、戸惑うばかりと言えた。

 何より、ベルサイユ条約以来の鬱憤が消え去ってる。

 ドイツで内憂外患が減少すると地方分権派が増え始める。

 ヒットラーが知識をひけらかす人間を毛嫌いしたため、側近はイエスマンが増え。

 優秀な人間が外周に向かった事も一つの要因となった。

 民族清浄化が進むほど、次第に反ヒットラー機運が高まっていく、

 ドイツ国民が目的とする成果が叶えば、ドイツ第3帝国は役割を終えてしまったのである。

 いくつか諸問題を内包していたが、ドイツ人の人口が増えれば済む場合が多かった。

 ドイツ人は機能的に社会を構築し、そこに適性の合う人間を当てはめていく。

 元々、全体主義的な思考の持ち主が多いのか、整然としていた。

 とはいえ、農地が拡大していくと人口比率が薄まり、市場経済が落ち込む。

 農村部の人口比を引き下げようと農業機械を大型化しても、すぐに解決できないでいた。

 しかし、それも年月が解決する問題だったのである。

 老いたヒットラーは、多少、熱意の冷め気味のドイツ国民に話し始める。

 “ドイツ民族がアドルフ・ヒットラーに望んだ夢は終わったのである・・・”

 “・・・ここに至り、我が第3帝国は、段階的な民主化へ移行するものとし”

 “選挙による選出が行われるまでの後継者をデーニッツ総統に譲るものとする”

 戦後10年の節目、

 簡潔な宣言で、あっさり権力者から身を退いたヒットラー前総統がいた。

 元々、1950年に身を退くはずだったらしい。

 しかし、汚れ役の民族浄化を惰性で続けていただけ。

 面白くないのは、中央集権から地方分権に向かう勢いを止められなかったことにあった。

 それも老いては子に従えと諦める。

 

 

 ドイツ帝国

 ドイツのロケット技術は列強のそれを圧倒していた。

 V2ロケット (全高14m、直径1.7m、弾頭1000kg、射程300km)

 地対地ロケットだったV2は、誘導技術が低く、費用対効果が低かった。

 しかし、その後も開発が続き、対空、対艦、対潜ミサイル兵器が向上していく。

 そして、ドイツで垂直発射対艦ミサイルが開発された。

 潜水艦発射ミサイル (全高8m、直径533mm、弾頭400kg、射程100km)

 初期の潜水艦発射は、浮上した後の発射だった。

 発射後は、初期設定の座標に向かい、

 その後、決められた範囲を赤外線・レーダーで探知。

 最大の目標に向かって軌道を修正しながら到達する。

 ドイツ帝国海軍

シェーア、シュペー、リュッツォウ
  排水量 全長×全幅×吃水 馬力 速力 航続力 533mm魚雷 VLS 深度 乗員
水上 7600トン 130×12×9.0 6000 16 32000 艦首 艦尾 16 340 120
水中 9450トン 10000 20 820 8/32 4/18

 ドイツは大型潜水艦3隻を建造。

 潜水艦シェーア 艦橋

 「世界最強最大の装甲潜水艦か。また、戦争になるんじゃないだろうな」

 「Uボートの廃艦が増えた。代艦建造ならば構うまい」

 「しかし、対潜攻撃で、散々懲りたと思ったが潜水艦とはね」

 「第一次、第二次とも、潜水艦の緒戦の活躍が大きかったからな」

 「潜水艦の司令だった、デーニッツ総統が引き継いだのだから、これからも増えるよ」

 「ところで対艦ミサイルは、当たるのか?」

 「どうかな、機械精度はともかく、トランジスターの生産で後れを取っているらしい」

 「命中率が怪しいのに浮上発射なんて、射程80kmでも気が進みませんよ」

 

 

 アメリカ合衆国アラバマ州モンゴメリー市

 「何故、席を立たない?」

 「席を立つ必要を感じません」

 「よろしい。席を立たないと警察を呼んで逮捕させるぞ」

 「どうぞ、そうなさい」

 12/01 午後6時頃。

 市営バスの運転手ブレイクと黒人女性ローザ・パークス(42歳)の会話だった。

 アメリカ合衆国南部諸州は、人種分離を目指したジム・クロウ法が施行されていた。

 市営バスは、白人用の椅子と黒人用の椅子が分かれており。

 どちらでもない椅子は、白人がいないとき、黒人が座ることができた。

 百貨店の仕事が終わって帰宅途中の黒人ローザ・パークスは

 白人がバス乗っても席を立たなかったのである。

 結果は・・・

 「どうして、私は連行されるの?」

 「知るもんか。でも法は法だからな。お前は逮捕されるんだ」

 黒人おばさんは、白人に屈服することに疲れ切っていたのか、逮捕されてしまう。

 この事件は、第二次世界大戦の戦勝を祝っていたアメリカに一石を投じ。

 人種問題は、アメリカ合衆国憲法の根幹を揺るがせた。

 のちに教科書に載ってしまう大事件となり、

 二つの急進組織、USA in USAと黒の騎士団を巻き込んだ抗争にも繋がる。

 もっとも、大多数のアメリカ合衆国国民は、自由主義と民主主義を標榜していたため。

 喉元に違憲という刃を突き付けられたのである。

 とはいえ、白人たちも、そんなことで特権を放棄するほど善良ではなかった。

 そして、バス利用者の75パーセントを占めていた黒人のボイコットが始まると。

 バス会社は窮地に陥る。

 さらには、極東日本でも話題となってしまう。

 移転後、白人と日本人も席を分けられるのかと、アメリカ合衆国を追求。

 たちまち、城郭・神社仏閣・遺跡の売却話しが頓挫していく。

 アメリカ合衆国は返答に窮し、人種分離を違法。と言ってしまう。

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 大本営 “特行” 引っ越しまであと6年です。

 史実の戦後、日本は、軽工業。

 その後、重厚長大の重工業から軽薄短小の軽工業に・・・

 

 戦記の戦後、豪州日本、

 土地所有者が増えたたため農業関連が強く。

 産業も農業系団体側に引っ張られそう。

 凝り性なので多様な農作物を作れそうです。

 もっとも、全国規模の流通にのせられるか、発展できるか微妙。

 政府で、鉱山資源、電力、物流を押さえても、工業化は大きくできそうになく微妙。

 

 

 

 

 オーストラリア大陸

 西オーストラリア州 鉄鉱石鉱山 マウントトムプライス、パラバード、マウントニューマン

 西オーストラリア州 金鉱 スーパーピット山 

 西オーストラリア州 金・ニッケル鉱山 カンバルダ

 クイーンズランド州 炭鉱 グーニエラ・リバーサイドー、モーラ、

 ニューサウスウェールズ州 炭鉱 マウントソーレーイー

 ノーザンテリトリー(北部準州) ウラン鉱山 ジャビル

 クイーンズランド州 ボーキサイト鉱山 ウイパ

 

 

 

 

日本連邦
オーストラリア (大和) 北ニュージーランド (瑞穂)
ブリズベン 広島 オークランド 旭川
シドニー 東京 ハミルトン 札幌
    ウェリントン 函館
キャンベラ 京都    
メルボルン 大阪 南ニュージーランド (秋津)
アデレード 仙台 クライストチャーチ 高松
    ダニーディン 高知
パース 福岡    
    信託統治領
ダーウィン 沖縄 ポートモレスビー ポートモレスビー
    ラバウル ラバウル
タスマニア (八島)    
ホバート 豊原    
       

  

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第14話 1954年 『盆栽が・・・盆栽が・・・』

第15話 1955年 『エヴァ・ブラウン銀行の挑戦』

第16話 1956年 『晴れたらいいね』