月夜裏 野々香 小説の部屋

    

架空戦記 『大本営特攻』

 

 

 第20話 1960年 『バイバイ、皇紀2620』

 南極大陸

 豪州日本は、空挺作戦で南極基地を建設していく。

 零式輸送機は、軽量化されつつ2000馬力に強化されていた。

 基本的な容積は変わらず、分解されたモノを基地で組み立てるしかなかった。

 雪上車が滑走路を整地していく。

 「戦闘機パイロットも戦後は、輸送機乗りか・・・」

 「歳を取れば反応も遅くなるし、南極行きは老練な判断も求められるから。しょうがないよ」

 「まぁ 歳には勝てんか」

 「しかし、日本がジェット戦闘機を開発していないのは、死んでも死に切れないね」

 「庶民は、水しか考えてないよ」

 

 

 赤い大地が延々と広がる。

 ステップ地帯の真ん中に運河が掘られていく、

 日本は平均海抜340mの大和大陸で4000km超える運河を建設しようとしていた。

 三角関数で直角三角形の斜面の辺が運河として計算される。

 河口まで溝の深さが海抜で計算されており、

 山間で削り。平地で造成しなければならず・・・

 計算以上に運河が深過ぎると水が流れにくくなり湖水になってしまう。

 一旦溝が作られると、ヨーク岬半島からの河水が溝を削り取りながら流れていく。

 長大な運河を挟むように半径約6.5kmの環状線と都市が点々と建設される計画だった。

 全周40kmの環状線であれば電車は減速せず300km/hで走り抜けることも出来た。

 もっとも、駅が20ヵ所では、電車も300km/hに到達することも出来ず。

 最大時速120kmが限度になる。

 そして、区画整理をしていくと、誰でも気付く問題が持ち上がる。

 地下鉄にした方が街の交通システムとして、邪魔にならないという事だった。

 「採算人口100万なら楽勝で黒字だと思うよ」

 「土地代はゼロだけど、地下を掘るのがね・・・」

 「運河ができれば運河沿いの緑化も進むし、人も生活しやすくなるよ」

 「問題は生活排水かな、微妙な気もするね」

 「生活排水処理はすべきだろうね。場所柄、即乾燥するから楽な気もするが・・・」

 「塩は一杯あるけど、高低差を考えるとどうしても海抜以下の地下下水処理になるね」

 「問題は、運河沿線上に何千万人が住むかだ」

 「処理水はともかく、河川に戻さない方がいいかも」

 「むかしながらの肥料もできるかもね」

 「生活排水はともかく、工業排水は別に分けないと危険だ」

 「海岸は工業水で、内陸は農業排水に集中すべきだろう」

 「排水を運河に戻さない方が下流も助かるし、その方がいいような気もするね」

 「やっぱり、ヨーク岬半島の造成は1500m以上欲しいな」

 「それくらいないと、水の流れも遅いし、運河も底が浅いか」

 「地下資源の採掘を考えると、造成に使えそうな土砂は、かなりある」

 「瑞穂暦上巻は、土方歴になりそうだな」

 「徴就制で雇われてるのって、ほとんど土方だからね」

 

 

 ジェットエンジン、ロケットエンジン、ターボプロップは、ドイツ第3帝国が先行していた。

 後塵のアメリカ、イギリス、ソビエトが追い上げを掛けていた。

 スウェーデン、

 一機の戦闘機が飛び立って行く。

 決して強国と言えない国であり、余力のない国だった。

 しかし、米英連合、独伊東欧同盟、ソビエトに周囲を囲まれる国は甘えが許されない。

 国産ジェット戦闘機サーブ35ドラケンを開発し、中立を維持する。

 余力がある豪州日本は軍事力で手抜き可能で、国産でなくても中立できた。

 とはいえ、アメリカ、ドイツ、ソビエトの兵器を購入すると中立性が損なわれやすくなり・・・

サーブ35ドラケン
推力 自重/運用重量/最大備重 全長×全幅×全高 最大速度 航続距離 武装 ミ・爆
5689/7850kg 8250/11400/17650 15.35×9.4×3.89 2119km/h 1763km 30mm×1 5000kg

 関係者たちが上空を滑空するサーブ35ドラケンを見上げる。

 「57年初飛行のサーブ32ランセンより、良さそうですな」

 「まだ試験飛行ですし、手直しは、これからですよ」

 「しかし、二線級部品のドイツ製、アメリカ製、イギリス製ばかり。いろいろ大変ですな」

 「それにしては性能が良い」

 「手抜きで済ませられる日本が羨ましいですな」

 「豪州日本は強豪国と離れていますし。アメリカと日本は国内開発で余裕がありますからね」

 「そうでしょうとも」

 「条約批准後も最強兵器でなくても国防は出来るでしょうな」

 

 

 『万葉集』(まんようしゅう)

 持統天皇(在位期間:690/02/14日〜697/08/22)の時代、

 天皇、貴族、下級官人、防人の詠んだ歌が集められ、

 759年、日本最古の歌集(4500首以上)が作られた。

 

 『日本書紀』(にほんしょき)

 神代から持統(じとう)天皇の時代までの歴史書で720年(養老4年)に完成した。

 

 『古事記』(こじき)

 712年、天皇の権威と正統性を維持するため

 日本神話と初代神武天皇から33代推古天皇まで遡る歴史書が編集される。

 神話から正史に変わる整合性の部分が曖昧にされている、

 

 これより古く正確な過去を知りたくても対比できる文献がなかった。

 『天皇記』 『国記』 『臣連伴造国造百八十部并公民等本記』

 『帝紀』 『旧辞』は焼失したり紛失したりで遡れなかった。

 古書が研究が盛んになるのは伝統を可能な限り豪州日本に移設するためだった。

 「どこかに天皇記、落ちてないかな」

 「くっそぉ〜 誰か隠し持ってたら絞めてやる」

 「隠し持ってるくらいならまだしも、引っ越しのゴタゴタで捨てられていたりするからな」

 「アメリカに売られていたら泣くに泣けねぇ」

 「万葉集、日本書記、古事記に記述のある神社仏閣は、全て洗い直すべきだろうね」

 「埋蔵金と一緒に埋められてないだろうな」

 「それはあるかも」

 「しかし、見つかっても、言ったもん勝ちの宣言歴史だからね」

 「中国でさえ、どこまで正しいのか怪しいもんだけど」

 「確実な歴史は、2国間以上で確認できる条約・通商史くらいだよ」

 「アメリカは、遺跡発掘で協力してくれるって?」

 「現地に残すという条件なら、いくらでも資本を出すそうだ」

 「観光資源だからね・・・」

 「人口4600万弱だし、衣食住とか後回しで遺跡発掘できるよ」

 「遺跡が発掘されると開発が止まるからね」

 「日本人が遺跡発掘の邪魔をしていたからな」

 「土建で見ざる言わざる聞かざるは当たり前だし」

 

 

 仙台(アデレード)

 モスボールされている空母 イントレビット

 日本軍将校が保存状態を見ながら歩き回る。

 豪州日本は、大陸国家で通商破壊を恐れない。

 大陸封鎖されても支障のない国といえた。

 上陸されても焦土作戦に引き込んで敵軍を殲滅できる国でもあった。

 こんな国に戦争を吹っ掛ける酔狂な国は、この世界に存在しない。

 しかし、同時に敵性国家が見当たらない現実に直面する。

 国家安全保障が仮想敵国の存在で成り立っていることを思い知らされる。

 誰が日本をこんな国にしたというべきか、

 地政学という名の強大な敵の前に国防省は膝を屈しつつあった。

 赤レンガの住人たち

 「他国に売れないという事で候補は、哨戒空母、強襲揚陸艦かな」

 「元正規空母も落ちぶれたものだ」

 「アメリカとドイツで6万トン級空母が建造されているのに3万トン級空母じゃ勝てんよ」

 「時代は、ジェット艦載機なのにいまだにアオガエルじゃな」

 「軍産カルテルで肩身が狭いんだと」

 「改造費だって相当なもんだがな」

 「まぁ エセックスは、帳簿上の取引で済むからね。改造費だけの方がいいような気もする」

 「設計図は?」

 「受け取ったよ」

 「サーブ35ドラケンを載せるのか?」

 「翼面積49.2uもあるからな。十分だろう」

 「ドラケンの全長は15m。大丈夫か?」

 「アメリカが開発したF3Hデーモンは17.98m。F11タイガーは全長14.3mだよ」

 「まぁ 大丈夫だろう。余裕をもって空母を改造するけどね」

 「しかしなぁ ドラケンも軽量化が必要だな」

 「最大の問題は、何で載せる必要があるのかってことだよ」

 「載せたい、んじゃ駄目か?」

 「産業が大きくなって、水不足が深刻化してるだろう」

 「というより、水が足枷になって産業を大きく出来ない」

 「それに18000トン級砕氷艦に予算を取られたしね」

 「なんで南極観測基地を増やさなきゃならないんだ」

 「豪州日本の観測担当地が一番、多いからだろう」

 「くっそぉ〜」

 「取り敢えず、計画だと哨戒空母も強襲揚陸艦も総トン数が大きくなるね」

 「しかし、人件費は削減しないとな」

 「貨幣の魅力が低下しているんじゃな。志願兵で集まりにくいよ」

 「なんか国民全部、爺臭くなってないか、水もないのに庭園造りが増えているし」

 「最近は、盆栽も庭木もサボテンが多いらしいな」

 「ったくぅ〜」

 「ドラゴンフルーツ、ウチワサボテンのトゥナは結構な農作物になってるらしいよ」

 「サボテンか・・・」

 「って、志願兵を集められないのが痛い。国民から土地を奪えよ」

 「難しいと思うよ。土地一杯あるし」

 

 

 ドイツ第3帝国ゲルマニア(旧ベルリン)

 ブライトスプールバーン(軌間3000mm二階建列車・時速250m)

 各国代表は、巨大な列車を見上げパチパチと手を叩いた。

 これほど偉大な列車を走らせられることを尊敬して叩いたのか。

 採算性を度外視した巨大さに呆れて叩いたのか不明。

 とにかく世界最大の列車であり、鉄道ファンであれば乗りたいと思う列車だった。

 「車両幅も6mだと・・・」

 「凄い。驚嘆するね」

 「空いた口が塞がらんよ」

 「何を考えているんだろう」

 「採算は?」

 「ドイツだけじゃなく、地中海を一回りさせるらしいけど」

 「独・伊・南仏。地中海・北アフリカ極悪人権蹂躙同盟ね」

 「極東信託統治領より人道的だと」

 「生かさず殺さずで囲う金がないだけじゃないか」

 「しかし、全体主義もここまで来ると立派」

 「全体主義も、随分と緩やかになったらしいけど・・・」

 T4作戦(1933/03〜断種法〜心身障害者安楽死計画〜1941/08)で社会の負担を取り除く。

 その後、ゲルマン民族から優良人種を選りすぐろうとレーベンスボルン(生命の泉)計画。

 1938年から本格的なジーンリッチ(高位人類)を推し進める。

 その後、累積的にジーンリッチは増え、心身健康と頭脳明晰な人間が生産されていた。

 この時代、ドイツのジーンリッチ計画は、各国で賛否があった。

 そして、仮に賛成であっても、ドイツとは異質といえた。

 仮にアメリカであれば、自由恋愛からの関係で優生遺伝技術を望み、

 日本であれば御見合い結婚からの関係で優生遺伝技術を望む。

 しかし、ドイツはさらに上を行く、

 恋愛感情は二の次、カルテで計算し、交配の段階で優生遺伝種だった。

 ドイツ医学は、ユダヤ人やスラブ人で大規模な人体実験を繰り返し、

 他の列強の医療技術の追随を許さず独走できた。

 優れた電子顕微鏡と高品位医療具により、遺伝子レベルにまで干渉しつつあった。

 個体の優位性は確実であり、平均的なIQで50以上の差を付けていた。

 そして、医者が不適格者・心身障害者の断種・安楽死の片棒を積極的に担ぎ、

 規格外人種の生存圏は、ゆっくりと狭められていく。

 ドイツ第3帝国の優良人種政策に刺激されたのはアメリカ合衆国であり、

 極東信託領防衛を口実にドイツと結託しようとする急先鋒はUSA in USAだった。

 当然、有色人種排斥計画も企てようとしていた。

 劣等民族は優良民族に勝てない。

 訓練場

 白人の大男が黄色人種の小男を押し潰そうと迫る。

 次の瞬間、腕を取られた白人の男が捻られ、床にうつ伏せに押さえ付けられる。

 何度ぶつかっても捻じ伏せられた。

 黄色人種の小男が無作為に5人を立たせる。

 向かって来いと手振り、

 そして、白人5人がかりで小男を押さえつけようとしても味方が邪魔になり、

 捕まえることができず、衝突させられ、バラバラにされた後、

 小男の足下に組み伏せられ、5人とも積み上げられていく。

 「不器用過ぎる」 ぽつり

 「「「「「・・・・・」」」」」

 エリート教育を受けてきた周りのジーンリッチたちは絶句するしかなく・・・

 どんなに優良化しようとベースのドイツ人は不器用だった。

 

 

 タイガー戦車は、機動性、防御でアメリカのM48、ソビエトのT55を圧倒していた。

 しかし、高価である事、火力が劣っていたことから、次期主力戦車を模索していた。

  重量 全長 全長×全幅×全高 馬力 速度 航続距離 武装 乗員
タイガーV 50 10.29 7.26×3.76×3.08 1080 60km 400km 71口径88mm×1 7.92mm×2 4
T55 36 9.20 6.45×3.27×2.35 580 50km 450km 56口径100mm×1 12.7mm×1 4
7.62mm×2
M48 44 9.30 6.35×3.65×3.10 810 48km 463km 51口径105mm×1 12.7mm×1 5
7.62mm×2
センチュリオン 52 7.60 3.39×3.01 650 34km 450km 51口径105mm×1 12.7mm×1 4

 

 インホイールモーター(1基200W、トルク40、定格回転50rpm)の車輪が試作されていた。

 1900年フェルディナント・ポルシェ博士が電気自動車開発で発明したものであり、

 ポルシェ社にとって思い入れのある方式だった。

 設計で全インホイールモーターでいくか、

 インホイールモーターを補助で行くかの違いだった。

 仮に新型戦車が7×2の車輪であれば、合計14個で加速させる。

 補助であれば12個をインホイールモーターで回転させる。

 巨大戦車マウスで培った技術をさらに改良進化させたものだった。

 とはいえ、戦車開発予算は限られており、模索段階だった。

 「30トン級戦車で60口径105mm砲は無理だと思うよ」

 「50トン級戦車じゃないと装甲も馬力も足りないままだ」

 「しかし、火力が不足といわれてもね」

 「タイガーVは装甲180mm以下。M48は120mm以下。T55は210mm以下」

 「T55の方が上か」

 「ソビエト軍は数で押してくるから、前面以外は脆弱でも構わないのだろう」

 「数で負けてるドイツは、側面防御も気を抜けないわけだ」

 「理屈だな」

 「同じレベルの科学技術であれば、種も仕掛けもないよ」

 「総合でドイツが上だろう」

 「仮に冶金技術で数パーセント有利でも、決定的な差じゃないよ」

 「潰しの効く人口が多いのはソビエト。物量ならアメリカだからね」

 「成形炸薬弾は?」

 「パンツァーファウストで経験済みだから戦車砲にすることはできるよ」

 「ただ、そうなると滑空砲にしなければならないし、口径が大きく、高初速弾が有利だ」

 「45口径127mmならあるけど」

 「大き過ぎるよ。滑空砲なら新規に造らなきゃ」

 「APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲)弾は?」

 「希少資源のタングステンを弾薬に使うのはな・・・研究中・・・」

 冶金技術、産業でクリアされても国情で避けたいことがあり、

 国内にない資源を消耗品で使う愚は、犯したくないと誰でも考える。

 逆にタングステンを産出するソビエトはタングステン弾も平気だった。

 当然、国情に合わせて兵体系が構築されていく。

 「豪州日本でタングステンが採掘してるんじゃないか?」

 「してるだけ、中国大陸が圧倒的に多いけどね」

 「成形炸薬弾のためだけに戦車を滑空砲にするのって、どうなの?」

 「んん・・・」

 「やっぱり、60口径105mm砲で50トン級戦車じゃないか」

 「装甲減らさないと無理」

 「タングステン安定確保なら、滑空砲も悪くないだろう」

 「それだと豪州日本は取引で有利になりそうだな」

 「ていうか、タングステンは希少金属なんだぞ」

 「うん、工作機械はともかく、弾薬で使いたくない」

 「タングステンのある中国は、アメリカの市場にされているから食い込みにくいよ」

 「チタンで装甲の厚みを補うか?」

 「チタンは豪州日本だっけ・・・まぁ 安定供給だと、そっちがマシかな」

 「日本もチタン加工でドイツと組みたがってるよ」

 「日本か・・・信用できるのか?」

 「いや、裏切ったのドイツだし」

 「そ、それはそうだけど」

 「まさか、黄色人種が列強に成り上がるとは思わなかったからね」

 「米独ソ対有色人種同盟にならないかな」

 「いまのところ付け込む隙がないね」

 「いまが一番弱いというのに米独ソで三つ巴じゃ日本に利するばかりだろう」

 「アメリカは損をしたくない国だからね」

 「まぁ 日本を後回しにしても良いか」

 

 

 

 アメリカ極東信託統治領(満州・朝鮮・台湾)

 治安は歴史上、かってないほど安定していた。

 匪賊は存在せず。

 当然、警護団の馬賊も存在しない。

 巨大なアパートメントがあり、衣類が支給され、食堂に行けば食事ができた。

 漢民族・朝鮮人は、衣食住が確保されており、自由以外のすべてが存在する。

 単調な労働で作られたモノを集約し組み立てると高度なシステムが構築作られていく。

 彼らは自分の仕事で何が作られているのかもわからず・・・

 いくら熟練しても生きていけない単純労働者でしかなかった。

 アメリカ極東信託統治領(満州・朝鮮・台湾)は、原住民の牢獄であり、

 アメリカ合衆国にとっては、打ち出の小槌、金の成る木だった。

 “支配とは生殺与奪を奪うこと”

 これをアメリカ人は、直接・間接的に証明し成功させていた。

 軍事力、物量、資本力、移動の制限、狡猾な人間牧場経営能力、

 合理的なマネージメントで広大なプランテーションが造られていく。

 2割のアメリカ人が支配者であり、8割の漢民族・朝鮮人は被支配者だった。

 アメリカ人600万の為に3000万の漢民族・朝鮮民族は働かされ、

 生産品の多くが極東日本とアメリカ合衆国へと送られていく。

 アメリカ人の数百分の1の賃金で同じ収穫を上げることができた。

 収奪した物資は、アメリカ合衆国の労働運動に対する切り札でもあった。

 生産性の悪い者・犯罪を起こした者は、香港まで送られ、

 武器と麻薬を与えられ、大陸へと追放された。

 そして、追放された彼らは手に入れた自由意思で間違いなく後悔したのだった。

 牢獄から移された大地は不正と腐敗、喰うか食われるかの地獄だった。

 持っている拳銃と麻薬を使う以外に生き残る手段はなかった。

 追放された彼らが中国大陸を混乱させる先兵でもあった。

 そして、不正が見つかった朝鮮人が中国人たちに取り囲まれていた。

 「助けてニダ! 日本人ニダ! 朝鮮人じゃないニダ〜!!」 号泣

 「助けてニダ! 日本人ニダ! 朝鮮人じゃないニダ〜!!」 号泣

 「あれは?」

 「搾取していたのがばれたらしい」

 「女々しいな、何であんなに泣くんだ」

 「見え見えのウソがばれて悔しいんじゃないか」

 「大人しく、黙々と仕事をしてればいいのに・・・」

 「ちょっと目を掛けると、虎の威を借りて突け上がって利権と派閥作るし」

 「後塵を潰すし、平気でうそをつくし、泣き喚くし、倫理観ないし」

 「あれほど自己中心で我田引水な民族は見たことないよ・・・」

 「儒教の強いところは、多かれ少なかれ、そういうところがあるよ」

 「そういえば日本人と中国人も権威に弱かったな。肩書き優先なところ」

 「内容は、どうでもいい人種で、権力、地位、権威、肩書を信じてありがたがる」

 「学習能力のいらない下らない人間だな」

 朝鮮人が “人殺し” と喚きながら暴れまわる。

 「はぁ〜」

 「働きアリは大切にしないとな」

 「いや、朝鮮人は、むしろ大切にしない方がいいのかも」

 「しかし、朝鮮人と黒人がぶつかってるぞ」

 「NO.2の取り合いだろう」

 「朝鮮人には気をつけろ」

 「ああ、やつらは権力者が変わったとたん、前権力者を殺して身の安全を確保する」

 「日本人家族が浮浪の朝鮮人の子供たちの面倒をみていたのに惨殺された話しか」

 「有名だからね」

 「日本・豪州交換で、どうして日本が負けたと思ったのかわからんがね」

 「おかげで朝鮮人の置いてけぼりが決まったようなものだ」

 「恩を仇で返す民族なんか、ババを掴まされた気がするね」

 「まぁ 保険金殺人のようなものか、養っていた妻に殺されたり、子供に殺されたり」

 「欲に目が眩んだ拝金主義はアメリカ的だな」

 「日本人の世話になっていたから、同族の朝鮮人に殺されると思っての行動だろう?」

 「このままだとまずいと思ったって?」

 「いや、引き揚げようとする日本人から財産を奪える口実があれば何でも良いんだよ」

 「やっぱ保身と財産か・・・一石二鳥だな」

 「そ、そういえば親日派朝鮮人も、同族に殺された事件があったな」

 「別に良いのに・・・」

 「いや、親日派を殺して保身を図りながら財産を分けるんだよ」

 「やっぱ金かよ」

 「恩を仇で返すなんて、夫殺し・親殺しの保険金殺人と変わらんな」

 「ちっ 公民市場で拝金主義を弱めさせる動きも出やすいか・・・」

 「まぁ 日本人は気に入らないが公民市場を検討すべきだろうな」

 「気に入らないのに?」

 「俺たちは権威主義者じゃない。謙虚な人種だから価値があると思えば認めるのさ」

 「アメリカ大資本が五月蠅そうだな。下手をすれば殺される」

 「だが、日本の公民市場を殺させない程度は出来るだろうよ」

 

 

 ワシントン 白い家

 男たちが豪州日本の公民市場に注目していた。

 彼らが恐れているのは、公民市場がアメリカ合衆国に波及することだった。

 アメリカの権力者にとって支配は最優先事項であり、

 アメリカ合衆国は 資本主義 > 民主主義 でなければならず。

 資本主義 < 民主主義 だと都合が悪いのだった。

 「徴就制の任期を伸ばせば不満が募る」

 「だが職業的な練度が向上する」

 「徴就制の員数を増やせば無駄な土地が増えて効率が悪くなる」

 「それはどうだろう。個人農家とはいえ、需要が増えれば、稼ぎになるし」

 「農業用水を集中できて土地にとっても休閑地は好都合だ」

 「適当な範囲の徴就人数あれば支障ないよ」

 「そんな事はどうでも良い」

 「・・・日本の政策がアンチ貨幣経済を許容しているのがまずいのだ」

 「ドイツも、そういうところがありますね」

 「ヒットラー時代に比べれば地方分権が進んでいるがね」

 「我々から見れば、ドイツは、まだ個人の欲望が抑えられた全体主義の国だ」

 「USA in USAは、ドイツの影響を受けているし、我々の利益を失わせようとしている」

 「それと一部のキリスト教会は、日本の公民市場に関心を持ち始めてる」

 「そういえば、イスラエルのキブツも模倣してるじゃないか」

 「ユダヤ本家はユダヤ人から利息を取ってはならないから正統性があるよ」

 「そういえば、ドイツも我々への当て付けに公民市場に関心を示していた」

 「アメリカ合衆国に波及するのがまずいのだ」

 「まず、波及を食い止めることだ」

 「アメリカは富を集約した寡頭経済だ。いまのところ成功している。防衛できるだろう」

 「次の段階として、ドイツの全体主義、日本の公民市場の切り崩しだな」

 「共産主義は?」

 「反発的な政策は敵対するだけで済む。問題はアメリカ資本主義に浸透可能な政策だよ」

 「国の発展は、資本主義以外の選択肢がないと証明したいね」

 「アメリカと同じように貧富の格差を増大させ、消費者と労働者を近代化の肥やしにする方がいいのだ」

 「あのコアラどもは、何を言っても無駄という気がするがね」

 「あのモラルの高さを落とさない限りどうにもならんな」

 「拝金主義は蔓延しそうにないし、権威主義も弱体化している」

 「どちらかというと、豪州日本は、民主的で自由な気がしますね」

 「だからまずいのだ」

 「軍事力は?」

 「陸海軍合わせて15万くらいかな。予備役は、その倍」

 「す、少ないな」

 「日ソ中立条約は生きてるからね。アメリカも条約批准まで手を出す気にもならんよ」

 「つまり、国家財政を好きなだけ設備投資に転化させることができるわけか」

 「人口が9200万人だとアメリカが1905年頃だな。アメリカ軍隊は、もっと少なかったよ」

 「州兵が作られたのが1903年だからね」

 「あの頃は、民兵が武器を持っていて、国防だけなら十分だったよ」

 「豪州日本も自動小銃と機関銃だけなら十分に生産しているだろう」

 「昔と違うよ、兵器は高性能になり、高い練度が求められる」

 「半年もあれば携行兵器ぐらい使えるだろう、豪州は距離があり過ぎるよ」

 「南半球の有利な場所で力を蓄えられると、国力差が縮まるぞ」

 「水不足というハンディがある、そう簡単に国力を大きくできるものか」

 「だと良いがね」

 「何よりApan州の併合と極東信託統治領の維持が優先するよ」

 「だが豪州日本は着実に力を付ける」

 「アメリカ合衆国の方が早いよ」

 「次は、64年は東京(旧シドニー)オリンピックだ。それで日本の勢いが分かるかもしれないな」

 「目安にはなるがね」

 「1944年末頃の日本は、軍需産業の3分の1が機能してなかったそうだ」

 「なんで?」

 「工作機械の共食いと消耗品、材料の資源不足。工員の結核患者増大だ」

 「あと食料不足もある、配給できなくなれば自分で運ばなければならないからな」

 「ふ あと少しまで追い詰めていたわけか」

 「もう、そういう状況に追い込めなくなるな」

 「まぁ アメリカ合衆国は、極東日本を併合する」

 「勝ったと思って、公民権市場の利害を調整して日米友好関係で行く方がいいだろう」

 「あまり勝った気がしないが」

 「気のせいだ。そう思え」

 

 

 08/25 ローマ・オリンピック

 

 日本で土地持ちが増えると自給自足率が増え、

 さらに公民市場、公民金庫が形成されると非貨幣経済が強くなっていく。

 日本政府・企業・富裕層は、貨幣経済を活性化させようと貧富の格差を作ろうと画策。

 しかし、公民市場で結束した国民(農民)は反発。

 日本政府は、生産手段と自給自足を断つ土地収奪に失敗する。

 しかたなく、貨幣経済を活性化させるため追加の徴就制を採決させる。

 「ローマの次は、ようやく、東京オリンピックか。長かったな」

 「徴就制でようやく形になったよ」

 「だけどさ、土木建設機械が足りないんじゃないの」

 「何でも良いから働かせて、金を払って使わせろだと」

 「積極財政かよ。剥れるぜ利権から外されたグループがな」

 「だから貨幣経済を活性化させないと産業を大きく出来ないから」

 「土地を収奪できないんじゃ活性化は無理だろう」

 「消費者と労働者を増やして、資本と労働を集約して土木建設機械工場をね」

 「それ、わかっているから・・・」

 「はぁ〜 国民が嫌がってるんだからしょうがないけどね」

 労働者は日当を貰い社宅へ帰っていく。

 弁当が渡されれば、弁当屋が必要になり、

 労働者目当ての繁華街が大きくなり。

 それまでなかった経済が回っていく。

 しかし、それも徴就制で集められた労働者であり人工的に作られた経済だった。

 とあるBAR

 「長袖に長いスカートかよ。サービスが乏しい」

 「共産主義か?」

 「土地持ちばっかじゃな〜」

 「やっぱり、売られた少女とか居ないと」

 「そうそう、かわいそうに・・・とか、同情がないと優越感に浸れないから、つまんねぇ」

 「いま時いないよ」

 「大和大陸と同じだな。卑屈にならずに済むけど、高低差がなさ過ぎ」

 「神々しい山とか、目の眩むような渓谷を見ないと権威主義の有り難さって、わからないよな」

 「確かに地平線も飽きたな」

 「人間関係にも起伏が欲しいよね。社会が回らないって」

 「うんうん」

 

 

 大和大陸

 ヨーク半島に降り注ぐ雨水が内陸へ引き込まれていくと、急速に草木が伸びていく。

 日本は他国の浚渫工事を積極的に引き受け、

 養分を多く含んだ土砂を造成で撒いて行く。

 木々は積み重ねられ、崩落させないように計画的に埋め立てられていた、

 ヨーク岬の北から南に向かってトンネルが作られていた。

 「鉄道トンネルと水道トンネルは、こんなもので良いのか?」

 「鉄道トンネルは余裕がある方がいい」

 「水道トンネルはニューギニアから水圧をかけて押し流すからこんなものらしい」

 「しかし、人工的に山脈を作るなんて、でたらめだな」

 「大和大陸唯一の水源地だからね」

 

 豪州のステップ地帯、

 塩湖が多かった。

 政府は、試験的に内陸で海藻と魚介類を養殖し始める。

 必要なのは光合成のできるプランクトンであり、酸素を作る海藻、珊瑚であり・・・

 いくつかの魚種で生態系を作る。

 「塩分濃度は、1リットルの10パーセントか」

 「死海の30パーセントより小さいね」

 「まだ多い、海水の塩分濃度は、3.4パーセントから3.5パーセントだ」

 「もう少し、水が欲しいな。せめて濃度を4パーセント以下にしたい」

 「そう都合よくいかんだろう。生態系など計算して作れるものじゃない」

 「この分じゃ ニューギニアの方が過ごしやすくなるかもしれないな」

 「あそこは海抜1500mの高原を作れば、過ごしやすいだろうよ」

 「あそこに人工湖と地下水路を作って、水圧で無理やりヨーク半島岬まで水を押し出すんですよね」

 「らしいね。まぁ 地下鉄道も敷くから相当大きな工事になるだろうな」

 「生態系が完全に変わってしまいますね」

 「砂漠の緑化が進んでいるのは大和大陸くらいのものだ」

 

 

 

 東サモア、ニウケ、クック諸島、トケラウ

 豪州日本がニュージーランドから引き継いだ領土に東サモアがあった。

 ニュージーランド人の自覚のない住人を強制的に極東日本(沖縄)に送った後、

 この島々がアメリカ合衆国・西サモア領に近い事に直面する。

 とはいえ、条約批准を控え、衝突を避けたいのか。

 戦雲が低いのか、ボチボチであり。

 日米両国とも良い隣人であろうとリップサービスで終始する。

 飛行場にアオガエルが着陸する。

 ジェット戦闘機が主流の時代、プロペラの軍用機は低くみられる。

 逆に言うと脅威と思われず基地を置いた既成事実だけを作ることができた。

 基地には瑞穂暦元年に合わせた新型1式機関銃(6mm×50)が配備されつつあった。

 既に試作配備という形で先行生産されており、

 そういう意味では、瑞穂暦は、当てはまらない。

 とはいえ、縁起物ということで1式機関銃とされていた。

 「敵国の前線になるとしたらイギリス領ソロモン諸島、アメリカ領西サモア、北フランス領ニューギニアかな」

 「フィジーもあるよ」

 「どちらにしろ、対立するより友好関係の方が得なのだから戦争にならないよ」

 「危機感がない国になっちまったな」

 「スウェーデン製の戦闘機をライセンス生産するって?」

 「どうなんだろう。安上がりで支障ないからいいとか」

 「もう、どうでも良くなってないか? 国防」

 「コアラ化してるからね」

 「コアラ化してても戦車くらい欲しい」

 「戦車は、やっぱりドイツ製だろう」

 「チタンと交換じゃないの?」

 「ソ連は売ってくれそうにないからね」

 「アメリカもチタンを欲しがってるよ」

 「・・・金持ちケンカせずか、なんか、ちっとした防衛力で済むのな」

 「うん」

 

 

 豪州日本の南極開発は、バレニー諸島の空港を使って行われる。

 昭和基地の建設が進めば、そこを基盤に他に基地を広げることができた。

 なので砕氷艦は、それほど重視されなかった。

 しかし、国際的な協調が行われると、早急に観測所を設けなくてはならず。

 18000トン級砕氷艦 富士 が氷を押し割っていく。

 バレニー諸島から遠過ぎると天候の急変に間に合わない、

 なので日本も砕氷艦を建造。

 “みずほ”、“あすか”、“すざく”、“やくも”、“めいじ”、“きぼう”、

 など観測基地の開設を進める。

 艦橋

 「毎度お馴染みのディーゼルか。原子力砕氷艦が良かったがね」

 「大和大陸は石炭が腐るほどありますからね」

 「発電に困らないから日本の原子力技術は伸び悩みですよ」

 「鉄道は電化してますし。これからは、電気自動車が有利かもしれませんね」

 「まぁ アメリカの石油戦略に組み込まれるのも癪に障るからな」

 「アラブの油田があるので、アメリカも相対的に不利になるのでは?」

 「そういえば、リビアで油田が見つかったらしい」

 「日本も、その気になれば石炭の液化も出来ますし」

 「第二次世界大戦のような圧倒的にならないでしょうね」

 「豪州日本で怖いものがあるとすれば、原子爆弾くらいだろうな」

 「そういえば、地下核実験は?」

 「成功したらしいよ。原子爆弾は使うものじゃないらしい」

 「そんなに?」

 「都市を丸ごと破壊できるそうだ」

 「それは・・・とんでもない時代になりますね」

 

 

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 大本営 “特行” 引っ越しまであと1年です。

 はぁ〜〜〜!

 国情、国際情勢、地政学、外交などなど、好条件に恵まれ過ぎて戦意ひくぅ〜

 こんなの日本じゃないやい。

 

 

 中国の京杭(けいこう)大運河は北京〜杭州まで全長1794kmで世界最長。

 秦時代から漢、隋、明、清に渡って築かれる。

 豪州日本が掘る運河は、ヨーク岬半島発端から最長のパースまでだと4200km。

 ニューギニアの山脈から含めると4700km。

 大和大陸の平均海抜は340m。

 高低差が小さいため、押し流されるようにゆったり運河が流れそう。

 

 

 有名な話しは “和夫一家殺害事件” のことです。

 知らない方は検索してください。

 

 

 オーストラリア大陸

 西オーストラリア州 鉄鉱石鉱山 マウントトムプライス、パラバード、マウントニューマン

 西オーストラリア州 金鉱 スーパーピット山 

 西オーストラリア州 金・ニッケル鉱山 カンバルダ

 クイーンズランド州 炭鉱 グーニエラ・リバーサイドー、モーラ、

 ニューサウスウェールズ州 炭鉱 マウントソーレーイー

 ノーザンテリトリー(北部準州) ウラン鉱山 ジャビル

 クイーンズランド州 ボーキサイト鉱山 ウイパ

 

 

 

 

日本連邦
オーストラリア (大和) 北ニュージーランド (瑞穂)
タウンズビル 福岡 オークランド 旭川
ブリズベン 広島 ハミルトン 札幌
シドニー 東京 ウェリントン 函館
       
キャンベラ 京都    
メルボルン 大阪 南ニュージーランド (秋津)
アデレード 仙台 クライストチャーチ 高松
    ダニーディン 高知
パース 舞鶴    
    信託統治領
ダーウィン 沖縄 ポートモレスビー ポートモレスビー
    ラバウル ラバウル
タスマニア (八島)    
ホバート 豊原    
       

  

 

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第19話 1959年 『まったり、ゆったり』

第20話 1960年 『バイバイ、皇紀2620』

第21話 1961年 『瑞穂皇紀元年』