月夜裏 野々香 小説の部屋

      

新世紀エヴァンゲリオン 『一人暮らし』

   

   

キールローレンツ物語

  

 

 1900年代の後半。

 ゼーレ本部は、スイスの古城にあった。

 金髪をなびかせた青年が、白球を追いかけ、コートの角で、打ち返す。

 新緑の大自然を背景に白球は、行き交い応酬が続く。

 若き当主、キールローレンツ(16歳)は、テニスで汗を流す。

 ゼーレの栄耀栄華と支配圏は、全世界に広がって、我が世の春を謳歌していた。

 人類の頂点に立ち、神が、なせないことも、できるのなら、並び立つといえなくもない。

 とはいえ、テニスをするのは、勝つためではない、

 幸福を満喫できるだけの健康を保つためだとしたら。

 人間の宿業からは、抜け出せていない。

 「ローレンツ様」

 一汗掻いた彼の元に執事が報告書を届ける。

 ローレンツ少年は、まじまじと見つめる。

 「・・・信じたくはないな」

 「ゼーレが総力を挙げ、最優先で調べさせたとか」

 「人間は、生存権を確立して栄耀栄華を掴むと」

 「それが、いつまで、続くのか、気になり始める。庶民には、わかるまい」

 「先代も、似たような事を気にかけていました」

 「そうだったな」

 白人世界は、個人主義が強く、早くから人権が認められ、子供の飼い殺しになりにくい。

 人類史は、離合集散、権力闘争、資本の集約・分散。

 時流を作る者、時流に乗る者、時流を追いかける者。

 時流に置いていかれる者。脱落する者。

 時流に逆らう者、時流に乗らない者。

 この世の理に腹を立てても仕方がない。

 好むと好まざるとにかかわらず。貧富は作られ、地域差は生じる。

 人は、聖人ではない。

 むしろ、小悪党を吊るし上げ、人の善意や犠牲を依り代にし、社会全般が成り立つ。

 人の世は、争いながら切磋琢磨していく。

 結果的に階層が生まれ、少数の支配者階層が、形勢されていく。

 そして、キールローレンツは、支配者としての資質を内外両面から備えていた。

 種明かしは、第18使徒リリンから延々と続く、一子相伝の記憶。

 第18使徒リリン系人種を統べるの正統後継者の証しともいえる。

 外なる資質は、対外的な財力や権力など数字で表すことができた。

 内なる資質は、第18使徒リリンの正統な末裔。

 人類史的な知性。真偽を見抜く力の発現。

 組織の構築で有用で、それあってのゼーレであり、

 その力の根源だった。

 人科に与えられる運命を全うに生きれば、余生も、安楽。

 王宮の間は、今風に合理的であり、

 権威的な無駄が省かれていた。

 「本当に・・・人類に危機が訪れるのか?」 

 リリンの長としての直感でも危機が、正しいと知覚する。

 しかし、若き頭首キールローレンツ(16歳)は、動揺を隠せない。

 これは、既成概念とか、感情の問題だった。

 恐竜だと、絶滅まで、二億年ほど、地球史にすがりたい気になっている。

 一つの種が繁栄し、絶滅するまで希望的観測で、一億年ぐらい欲しいものだ。

 人科なら、ホモ・サイエンス誕生から20万年の歴史。

 直立歩行を含めて長く見積もっても、500万年の歴史。

 あと9000万年から9500万年の余裕があるはず。と思いたい。

 キール財団が、いくら地球資源を散在しても、蚊に刺されたほど、たいしたことはない。

 ところが、人類を単位にすると違うらしい、チリも積もれば、山となる。

 地球の環境が、急速に変貌していく。

 大気層の比率が変わったり、温暖化が進めば、新種のウィルス・細菌も発祥しやすくなる。

 一つのウィルス、細菌が、人類を死滅に追い込む可能性は、常にあった。

 

 

地球誕生〜生命誕生

46億年前   地球誕生 原始地球が形成されたと考えられている。
45億5千万年前   月の形成時期も、とされる。
38億年前 40億年 海が形成   生命の起源   原始生命が誕生したと考えられている
32億年前   光合成をする生物が現れる。藍藻 (シアノバクテリア)。 酸素の供給が始まる。
27億年前   シアノバクテリアが大量発生
24億年前 22億年前 ヒューロニアン氷期
20数億年前   海中から大気中に酸素が放出されていく。
20億年前   小惑星衝突  フレデフォート・ドーム
20億年 19億年前 最初の超ヌーナ大陸出現
8億5千万年前   ジャイアント・インパクト説
8億年前 6億年前 大規模な氷河時代 雪球地球 (スノーボールアース)であったとされる
     
生命の多種多様 カンブリア爆発
10億年 6億年前 多細胞生物
6億年前   カンブリア爆発
5億7000万年前 2億5000万年前 古生代 エディアカラ生物群 バージェス動物群 三葉虫
4億3千年前頃   生物の大量絶滅(オルドヴィス紀末)
4億年前   陸上植物出現 アンモナイト
    温暖期  氷河の消滅。大森林が形成され、石炭の元となる
3億6千万年前   生物の大量絶滅(デヴォン紀後期)。
3億5千万年前 2億5千万年前 氷河期
3億年前   昆虫 ゴキブリ
2億5000万年前   生物の大量絶滅 (ペルム紀)。 海生生物95〜96%、全ての生物種90%〜95%が絶滅
2億5000万年前 6500万年前 中生代 恐竜の出現
2億2000万年前   生物の大量絶滅 (三畳紀末)。
2億年前   大陸移動説、プレートテクトニクス説 パンゲア大陸の分裂 哺乳類
1億5千年前   始祖鳥
2億年前    
     
1億年前 〜 1000万年前
    恐竜の全盛時代
7000万年前   インド亜大陸とユーラシア大陸が衝突
65000万年前   生物の大量絶滅 (白亜紀末)。この頃、恐竜が絶滅。
    霊長類の出現
4000万年前   寒冷化で、大型哺乳類の生存が困難となっていく、南極大陸で氷河が作られる
2500万年前   アルプス・ヒマラヤ地帯などで造山運動。山脈が形成 類人猿誕生
2000万年前   古代湖が形成。バイカル湖、タンガニーカ湖
     
1000万年前 〜 100万年前
1000万年 500万年前 人科の直立歩行の要因。アフリカで、グレート・リフト・バレーの形成が始まる。
600万 500万年前 ヒトの直立歩行で、チンパンジーの分岐
250万年 180万年前 アウストラロピテクス (猿人)  石器
100万年前 〜 10万年前
78万年前   地磁気の逆転
50万年前   北京原人
23万年前   ネアンデルタール人
    温暖期
20万 19万年 ホモ・サピエンス アフリカに出現
14万年前   氷期 (リス氷期)
13万 12万年前 温暖化
     
10万年前 〜 1万年前
7万3000年前   トバ火山の大噴火 数年間に渡って、3〜3.5度低下。人科は、一万以下に激減。
5万年前   クロマニョン人
3万年前   ネアンデルタール人の絶滅
3万年前 2万年以前 モンゴロイドがアメリカ大陸に渡る
2万年前   ウルム氷期 (最終氷期)のピーク
1万年前 〜 現在
1万年前   最後の氷期 (最終氷期) 終わる。
    農耕革命 農耕の開始
     
     
     

 

 

 「生態系の破壊は、地球史的に珍しくありません。生物は、数度、絶滅に瀕しています」

 「それは、そうだが人類が絶滅するまで、まだ余裕があると思いたいが・・・」

 「キール様は、そうかもしれません」

 科学者は、推測される未来図を映し出す。

 「プラス・マイナスの幅は、ありますが、このままですと自滅です」

 「・・・人類滅亡まで、キール財団の特権は、維持できそうだ」

 「しかし、これは、厳しいな」

 「人核戦争を防ぐ事ができても、核は、生物の絶滅で力不足です」

 「別の要因で、生態系が根底から破壊されます」

 「主要な要因は・・・これか、相乗効果もひどいものだ」

 「生態系自体に内在する要因と、環境の著しい変動が要因になります」

 「我々が残れば、よかろう」

 「核戦争が起きても、数世紀は、生きていけるシェルターを建造しましたが・・・」

 「こっちが生き残って、確実に全世界を支配できる」

 「不確定要素もあるが核戦争も辞さないよ」

 「核戦争をしてもよいと?」

 「この推測より、マシだな、当然だろう」

 「選ばれた白人で、もっと、マシな世界を再構築できるよ」

 「問題もあるのでは?」

 「ああ、多様な人種文化は、人類が種として絶滅を防ぐための手段だよ」

 「それでも、私は、白人。白人の味方をしたいね」

 「核戦争は、一時的なものです」

 「しかし、人口爆発と工業社会の拡大による環境の変化は、数世紀で収まりません」

 「具体的には?」

 「資源の枯渇と環境汚染。温暖化に伴う天災の増加。ウィルス・細菌の発生率増加」

 「それが核戦争よりも怖い?」

 「第一次世界大戦の戦死者900万、非戦闘員死者1000万、負傷者2200万人」

 「第二次世界大戦の戦死者1500万、軍人負傷者2500万、一般市民の死者数3800万」

 「常温で発生したスペイン風邪は、死者4000万から5000万です」

 「人を殺すのに武器弾薬など、野蛮なものは不要です」

 「んん・・・医療は高めるべきだが人口爆発で、さらに温暖化か・・・」

 「そうなれば、新種のウィルスや細菌も活性化しますし。我々も無事では、すみません」

 「んん・・・」

 「人類の総人口が温暖化を加速させていますから」

 「共存共栄で発展する、というのなら死滅あるのみ」

 「対策は?」

 「温暖化を抑制するには、人口を減らすこと、生存権を拡大すること、新エネルギーを発見すること」

 「人口を減らすと、ピラミッドの頂上にいる我々は、制限される」

 「生存権の拡大は、海か、宇宙か、南極しか残っておらず、逆に温暖化を進めてしまう」

 「・・・残るのは・・・」

 「新エネルギーか・・・」

 「それも、温暖化に拍車をかけないモノという、制限付です・・・」

 むすぅ〜

 「我々の責任なのかね」

 「いいえ、自業自得の結果ですので、満足されるのがよいかと」

 「いやみか、我々は、まだまだ栄耀栄華を極めたいのだ」

 「もはや、戦争で、人類を減らすのは、困難かと・・・」

 「我々は、特権階級なのだ」

 「たとえ、地球が沈む船でも無責任な3等客に殺されるより」

 「流れのまま、最後の生き残りである方が良いだろう」

 「自然のまま、底辺から磨り潰して、最後まで、残ることはできるかもしれませんが・・・しかし・・・」

 「それほど、状況は、悪いのか」

 「状況は、切迫しています。外的なクライシス以前に、内的なクライシスが先になるかもしれません」

 「事前にワクチンを、というのは? 細菌やウィルスの開発は?」

 「開発はしていますが、変種が現れると、諸刃の剣です」

 「各国政府は?」

 「各国とも資源の枯渇に合わせて、弱者から順番に磨り潰しています」

 「しかし、根本的な解決には、至ってないようです」

 「戦争しないのであれば、国内の弱者を磨り潰すしかないか・・・」

 「共産圏は、得意かと」

 「粛清か・・・利口な者から殺されていくのは困り者だな。それに温暖化の原因は、西側だよ」

 「はい」

 「戦争でも平和でも、人道主義との戦いになる」

 「しかし、ペルム紀並みの大量絶滅だと人類に生き残る術は、ないかと」

 「外道は、嫌われるからな」

 「私も、嫌いです」

 「下っ端は、いいな。偽善で好き、嫌いが言える」

 「タイムスケジュールは、厳しいようです」

 「いいな、他人事で・・・」

 「おかげさまで」

 「かといって、地球環境の激変だとジリ貧」

 「結果、人類の死滅。最後まで、ゼーレが生き残ったとしても面白くなかろう」

 「御意」

 「回線を開いてくれ、会議をしてみよう」

 「はい」

 

 

 薄暗い部屋。

 いくつもの影が浮かび上がる。

 リリンの正統なる血脈に繋がる主流で、それぞれ、特殊な能力を持っていた。

 「・・・状況は、芳しくない。我々がたとえ、市場を誘導しても、需要が足りず」

 「産業として、伸び悩みは避けられない」

 「目標を統制すれば、民衆は、反発し、活力が失わる」

 「科学技術も、経済も、停滞していくだろう」

 「自由競争は、科学技術や経済で、活力があっても、私利私欲」

 「無駄な労力、資源、資本、時間が失われ、目的の完遂は、不可能だ・・・」

 「・・・情報の開示は?」

 「あるいは、統制しても、反発が、小さいかもしれない」

 「まず、情報を開示しても、信じないだろうね」

 「タイムスケジュールを知れば、混乱を生み刹那主義者が増えるだけ」

 「人類全部を助けるのは無理。犯罪が増えるよ。犠牲者は、もちろん、弱者だ」

 「後進国も足を引っ張るだろうね。自暴自棄に資源を抑えられたら面倒だよ」

 「それに、いまさら民衆に質素倹約な原始生活はないよ」

 「労働意欲の減退と、アル中増加で設備投資も経常収支も減る」

 「まともな人間は、私欲で働く。収入が減ってまで真剣に働くものか」

 「勤勉勤労を嫌がるからね」

 「人類滅亡近し、となれば、10人中8人が死ぬまで飲んだくれる方に賭けるよ」

 「生きるだけで精一杯。善意を口先だけで要求する無能な愚民など、どうでもよい」

 「左様、最低限、己だけでなく、他人に傘をさせる程度の人間でなければ、無用だよ」

 「人類の命運を決めるのは、我々、ゼーレの責任」

 「己の運命すら他人任せな民衆は、我々の責任の一端すら想像に及ぶまい」

 「権力側が求めるのは、国が国民に何をしてくれるか、ではなく」

 「国のため何かをしてくれる国民だよ」

 「たしかに・・・しかし、抵抗勢力も少なくない」

 「愚民とはいえ、反旗を翻されると、我々、ゼーレにとっても命取り」

 「左様、我々も、欲望という城の頂上に住む住人に過ぎない」

 「人の欲望を否定すれば、元も子もないよ」

 「子供から食事を取り上げれば、殺されるからね」

 「しかし、人は、怠惰だからね」

 「もう少し、物価を上げて追い詰めれば、採算レベルの事業を起こす者も現れる」

 「総合的には得だよ」

 「宝くじの確率より、良いがね」

 「しかし、状況から間に合うだろうか。それに物価を引き揚げると政府が潰されるよ」

 「いっそ、恐慌を起こして・・・」

 「こっちも、縮小だな」

 「我々に原因が無く、なにか、不可抗力で人口を・・・」

 「アレの検討は?」

 「そっちこそ、命取りでは?」

 「しかし、この閉塞され、悪化しつつある情勢、検討に値するよ」

 「この世の神である我々も存亡を賭けた天秤に乗せるのか?」

 「だが得られる知識、科学技術、可能性は、捨てがたい」

 「それで、人類の苦しみ」

 「袋小路から解放されるのであれば、掛け金を載せるのも、やぶさかではないよ」

 「掛け金ならね。命のやり取りは、民衆にやらせればよかろう」

 「放って置けば、勝手に始める」

 「勝手は困るよ。収益が目減りする」

 「人類の矛盾や葛藤は、高度な生命体にありがちなこと消えないよ」

 「高度な生命体ほど、矛盾は、大きくなっていく」

 「統制できなくなると、国も、個人も、キチガイだな」

 「それは、矛盾を統括する人格が力不足なのでは?」

 「幼い時期もあるよ。人間だからね」

 「成長するのは、潜在能力の高さ、可能性と比例する。悪くないよ」

 「知識の蓄積。もう十分という気もするがね。エゴは、十分だよ」

 「羊のように従順で利他主義的な人間が、もっと。増えて欲しいものだ」

 「いや、個人の成長を考えれば、欲望は、動力源。問題は、ベクトルのほうだよ」

 「しかし、宗教も、哲学も、あまり、役に立たないな」

 「私利私欲から離れすぎているからだろう」

 「どんな治世でも、人は満足できない」

 「上下関係のしわ寄せで、欲望が捻じ曲げられ有害化する。人の業だね」

 「いや、事は、有害化していない善意の民衆にも及ぶよ」

 「近代化する生活圏が人類を滅ぼそうとしているのだからね」

 「人類の自らの業で滅ぼうとしているのだから、自業自得といえなくもないが・・・」

 「リリンの主流である我々、ゼーレが、どうにかすべきだよ」

 「人類に対してかね。我々が生き残れば人類は、起こせる」

 「種の危機の要因は、数百年から数千年に及ぶ。核シェルターでも不足だよ」

 「人工的な人体改造で乗り切るというのは?」

 「検討に値する。先代からクムラン派の一派が人類の尻尾きりで、検討していた」

 「アレも含めて、検討すべきだろうか」

 「とにかく、我々の栄耀栄華も人類存続で成り立つ。最善の可能性を検討すべきだ」

 いくつもの影が頷き、消えていく。

  

  

 キールローレンツは、その名のごとく、人類の竜骨。

 第18使徒リリンの魂を直系で引き継ぐ、人種の長だった。

 人類は、闘争、発展、創造、破壊の歴史。

 切磋琢磨で、種を鋼のように強靭な生命へと昇華させるためでもある。

 もっとも、背後で歴史を操れるほど、人類の精神は、統制されていない。

 しかし、悪化良貨を駆逐するがの如く、不毛な争いが多い。

 闘争より、競合。

 むしろ、種としての強靭さを保とうと調整していた。

 そして、リリン系人種が科学技術と産業に傾倒し過ぎた事に頭を抱える。

 このままでは、地球の造山活動より、早く、資源が枯渇してしまう。

 不毛な闘争が人類を地球にへばり付け、埋もれさせ萎えさせていく。

 このまま、むざむざと時を過ごせば、太陽系の近傍恒星が超新星を起こしただけで人類種は、絶滅。

 破壊衝動と、不毛な足の引っ張り合いは、犯罪ともいえる。

 利己主義と利他主義のバランスが悪いのだろうか・・・・

 いや、前提で利己主義を追求しなければ生物を誕生させられない。

 人類種の誕生と繁殖を十数億年遅らせるよりマシ。

 多細胞生物以降、社会秩序として、利己主義より、利他主義が求められるだけ。

 生命の成長にエゴは、必要だった。

 たとえ、社会全般で、個々の人間がエゴで癌化を起こしても、

 本体のゼーレが養分を吸い上げ、無事ならかまわなかった。

 大半の人類は、ゼーレの働きアリに近い。

 愚衆な働きアリなら好都合だったが、それでは、知的な科学技術は、見込めない。

 バランス的には、悪くないはず。

 キールローレンツは、記憶の奥底にある死海文書を思い出す。

 第18使徒リリン系人種は、種の興亡を賭けたリリスの正統継承戦ができるか。

 継承戦で勝てば、人類の集合が、可能になり、新規巻き返しもできるかもしれない。

 果たして、残された時間は・・・

 キールが、モニターを切り替えると、どこかの保育園で、幼児たちが戯れている。

 リリン系人種の次代を担う幼い子供たち。

 このまま、種として滅びていくのなら継承戦争を始めても・・・ 

 キールは、不意に木陰にたたずむ一人の幼児に目を止める。

 「この子は?」

 ・・・・・・・・・・

 「六分儀ゲンドウという身寄りの無い孤児です。父親不明。母親は出産時に死亡」

 「ほぉ・・・」

 「気になるので?」

 「私が、スカウトする人間に間違いは、あったかな?」

 「いえ」

 「能力が高くても、それは、諸刃の剣。成果以上に過分な要求をする者は、排除する」

 「しかし・・・そうも言ってられなくなるな・・・」

 「どうされますか?」

 「社会的な恩恵とやらで、適当に資金援助をしてやれ」

 「はい。ほかには?」

 「居場所の確認。まだ、可能性に過ぎない、それだけでいい」

  

  

 西暦1999年

 スイスの古城。

 重要で正確な情報が早く集まってくる。

 映像に流れる未来予想図は、わずかに修正され、

 枠の中を飛び出すことなく推移。

 既にデットゾーン。

 「中華のエネルギー消費は、急速に伸びていきそうだな」

 「生活のためでしょう」

 「後進国で、安価な商品を生産」

 「先進国で高性能で利潤の大きな製品を製造し買わせれば、大きな設備投資を楽にできます」

 「無論、利益は、嬉しいがね・・・結果がデッドゾーンでは・・・・・まるで恐竜の如くだな」

 「新しい科学技術革命に期待したいところですが現状は、厳しいようです」

 「技術革命に賭けて核戦争を止めたのだ。いまさら、それだと、困るよ」

 「やはり、アレを?」

 「ああ、確認。確保している。しかし・・・・」

 「既にデッドゾーンですし」

 「このまま、資源が枯渇すれば、自然と、国内の弱者から引導を渡していくか」

 「後進国から磨り潰していくか・・・です・・」

 「ふ 船が転覆するから、ゼーレのため、弱者から、死んでくれか・・・」

 「現在の科学技術でブルーラインだと、これくらいの犠牲になるかと・・・」

 「数字が大き過ぎる。しらふじゃ 言えんな」

 「リリスは、こうなることを予測して、あそこにいた。とも、取れます」

 「人類の力量は、最初から決まっていた」

 「進化の分水量に届かないと定められていたと思うべきだろうな」

 「年月をかけるほど、資源の枯渇が進み」

 「人口は増え、苦しむ人間は増えるはず。さらに辛い決断が必要となりましょう」

 「二日前、孤児院や養老院に慰問に言ったよ」

 「この袋小路にあっても生殺与奪の権限を行使するのは、躊躇するものだ」

 「・・・碇ゲンドウ氏から通信です」

 「ふっ 遠慮のない男だ」

 ホログラフに碇ゲンドウが映し出される。

 「碇。そっちは、寒くないかね」

 「南極ですから。お望みであれば氷を持っていけるでしょう」

 「裏死海文書の解読。どう思うね?」

 「信憑性は、高いかと」

 「碇。始めるには、条件が足りないような気もする」

 「しかし、状況は、悪化しているよ」

 「情報は、リンクされているので、こちらでも、確認しています」

 「ですが、例のATフィールド。自力で貫通できるまで待つべきかと」

 「わかっておると思うが既に退路は断たれている」

 「強攻策か。自滅かしかない」

 「それも間引きを躊躇した私の不決断の結果といえなくもないがね」

 「議長の不決断が正しかったと全力を尽くしますよ」

 「碇。ゲヒルンのおかげで、わずかに上向き傾向にある」

 「しかし、デッドゾーンにいることに違いはない。本当に大丈夫なのかね」

 「・・・全力を尽くすとしか、いえません」

 「南極で問題は、ないかね」

 「機材の搬出とアメリカ軍の監視が必要かと」

 「わかった。アメリカ軍は、抑えておこう。搬出は、任せる」

 「では、後ほど」

 「ああ、葛城博士と綾波教授によろしく伝えてくれたまえ」

 「はい」

  

  

  

 セカンドインパクト

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 セカンドインパクトの張本人キールローレンツ登場です。

 セカンドインパクトの状況は、あまりにも、無計画、用意の無さ過ぎ。

 設定上、アメリカ軍の暴走ということにしています。

 不可抗力も含んでいますが、キールの責任で、負うところ、大でしょうか。

  

 

楽 天

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新世紀エヴァンゲリオン 『一人暮らし』

一人暮らし 『キールローレンツ物語』
第01話 『使徒襲来』
登場人物