月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

第01話 『使徒襲来』

 “時が来た。我々に残された時間は少ない”

 “福音と恐怖は、表裏一体。新時代の扉を開く代償だ”

 “人は、胎を出るとき。黄泉に向かうとき。死を経験する”

 “左様、人類が新たな世界へ向かうとき、人類は生死の峠を通過する”

 “我々が、求めたのだ。この時を・・・”

 “シナリオは、既に定められている”

 

 

 ビル群が海上に傾いていた。

 2機の対潜哨戒機が海面を進む影を追いかけていく。

 

 海岸沿いに機甲師団が配置され、

 重戦闘機編隊がホバーリングしていた。

 

 高台の戦闘指揮車で、前線指揮官が地図を確認していた。

 「距離1000・・・重戦闘機は、左右に散開」

 「地上部隊は、哨戒ヘリを挟んだ中央へに全火力を向けろ」

 「号令に合わせ、一斉に攻撃する」

 「艦隊は、間に合い次第、攻撃してくれ。指揮は、そっちに任せる」

 ミサイルは、有効射程内であれば威力で変わらない。

 戦車砲は近い距離で砲撃する方が有利。

 未知の脅威に対する恐怖で鼓動が速まる。

 間合いを間違えれば先制攻撃を受けて壊滅的する可能性もあった。

 「・・・一佐。艦隊は、間に合いそうにありませんね」

 「補給の間隙を突かれたらしい」

 「哨戒機、目標が浮上したら、すぐに退避しろ」

 『了解!』 パイロット

  

 数分後

 海面が盛り上がり。水柱が吹き上がる。

 対潜哨戒機が離れ。

 大瀑布から異形の巨大生体が現れ、

 盛上がった波が陸地に向かって押し寄せる。

 

 機甲師団と重戦闘機部隊の火器管制が巨大生体に照準を合わせて動いていく・・・

 「・・・攻撃開始!!」

 突撃した重戦闘機からミサイルが発射され、

 戦車が砲撃する。

 無数の砲弾とミサイルが巨大生体に吸い込まれ、

 ミサイルと砲弾が爆発して爆音を轟かせ、巨大生体を爆炎と爆煙が包み込んでいく、

 砲弾を撃ち出した装薬の硝煙が辺りに漂い。

 砲撃が収まると巨大生体は平然と立っていた。

 「司令っ」

 「ちっ! 戦車隊は、後退しつつ左右に展開しつつ各個に攻撃。慌てて衝突するな!」

 巨大生体が無傷で海岸に向かってくると水際作戦は、放棄され、

 海岸線の戦車と自走砲は、退避しつつ、巨大生体を包囲しつつ砲撃を繰り返す。

 巨大生体は上陸すると、煩わしい気に突き進み、

 時折、光を発し、戦車と重戦闘機を破壊した。

  

 

 戦車部隊は稜線を疾駆、砂塵を巻き上げながら巨大生体を砲撃しつつ追走し、

 重戦闘機部隊は、ミサイルと機関砲で波状攻撃を繰り返した。

 砲弾、ミサイル、機関砲が巨大生体に吸い込まれて命中し、

 その度に爆発が生体を包み込むんだ。

 巨大生体は、ハエを散らすような素振りで重戦闘機と戦車を破壊してしまう。

 「「「「・・・・・・・・・」」」」 絶句

 「戦車部隊は砲弾が切れます」

 44口径120mm砲弾は34発。尽きれば後方で補給するしかない。

 「補給地点まで後退させろ!」

 「・・・一佐、護衛艦隊からミサイルを発射するので誘導して欲しいそうです」

 「誘導しろ。こっちも残った火力を全て撃ち込むぞ」

 「了解です」

 「N2地雷は?」

 「はい、最終防衛線に準備を完了しています」

 「それまで、攻撃を続行する」

 「なにか防壁があるようだがエネルギーが消耗すれば消えるはずだ」

 「消えますかね?」

 「・・・・熱力学は無視できないだろう。質量以上のエネルギーはありえない」

 「だといいのですが、あれだけ非常識だと・・・・・」

 「「「「・・・・・」」」」

  

 

 無人のホーム

 全線運転中止の掲示板

 “本日12時30分。東海地方を中心とした関東、中部全域に非常事態宣言が発令されました”

 “住民の方々は、速やかに指定のシェルターへ避難してください。繰り返しお伝えします〜”

 “特別非常事態宣言のため、現在、すべての通常回線は不通となっています”

 アナウンサーが繰り返されていた。

 

 

 駅の前に少年が一人取り残されていた。

 『・・・・やっぱり来るんじゃなった』

 爆音が街に響く。

 少年は “第三東京市まで13km” の標識を見て、ため息。

 おもむろに手にした写真を魅入る。

 胸の大きな女性の水着写真。

 < シンジくん江  わたしが迎えに行くから待っててネ  ここに注目!! >

  

 時計を見る。

 「しょうがない。シェルターにいこう・・・」

 !?

 路上に制服を着た青髪紅眼の女の子が立っていた。

 不意に飛び立つ鳥に気を取られ。

 もう一度見ると。女の子を見失う。

 ズドォオオオオオォン!!!

 大地が震え、建物が揺れ、ガラスが割れて落ちてくる、

 山の稜線で木々や土埃が舞い上がり。

 重戦闘機の群れが頭上を飛び去っていく。

  

 そして、シンジは、視界を塞ぐほど大きな巨大生体を見上げる。

 ビルよりも大きな巨大生体が列車を蹴り上げ、

 車両は、弾道を描いてビルに激突し

 コンクリートの塊、ガラス破片、圧し折れた車両が散乱しながら降って来る。

 突然。

 車が割り込んでシンジを庇うように急停車した。

 「ごめん、おまたせ」

 写真の女性が微笑む。

 シンジは、誘われるまま車に乗り込むと破砕片と爆煙の中から急発進した。

  

 

 NERV本部

 「・・・目標は、依然、本部に向かって進行中。艦隊のミサイルも、効果ありません!」

 「目標は、戦車部隊を振り切りました。第三東京市に進行中」

 「航空隊の戦力では、足止めできません!」

 「厚木と入間の戦闘機も全機上げさせた」

 「総力戦だ! 出し惜しみはなしだ! 何としても目標をつぶせ」

 使徒に次々に命中するミサイル。

 しかし、まったく効果がない。

 「直撃のはずだが」

 「何故だ!? 一体なんだ! あれは」

  

  

 喧騒の中。

 2人の男が、部外者のように座っている。

      

 「・・・ミサイルも駄目、爆撃効果も、まるでなしか」

 冬月が、他人事の様に呟く。

 「15年ぶりだな」

 「ああ、使徒だ」

 「目標は、Dエリアに侵入しました」

 「やはり、ATフィールドか」 冬月

 「通常兵器は、使徒に対して役に立たんよ」

 ゲンドウポーズで、ニヤリ。

 点滅する赤電話のランプ。

 「・・・わかりました。予定通り、発動します」

  

  

 戦場をボロボロの赤いアルピーヌA310がヨタヨタと駆け抜けていた。

 !?

 ミサトが使徒を取り囲んでいた重戦闘機が離れていくのに気付く。

 「いっ!」

 「ちょっと! ・・・ま、まさか、N2爆弾を使うわけ?」

 地平線の向こうから閃光

 「伏せて!!」

 ミサトは、シンジを庇い、

 衝撃波は、車体を襲って何度もひっくり返した。

  

  

 司令塔

 砂嵐のモニター

 「・・・目標は?」

 「・・・電波障害のため映像では、確認できません」

 「あの爆発だ。ケリは、ついているよ」

 「爆心地にエネルギー反応」

 「何だと!」

 火焔の中から使徒が現れ、生体の光球が光っていた。

 「映像回復します」

 モニターに使徒が映し出された。

 「切り札が・・・なんてことだ」

 「化け物め」

 使徒は、一部が解けて損傷していたが自己修復していく。

  

  

 戦場

 タイヤ交換中の赤いアルピーヌA310。

 「・・・ローンが、あと33回もあったのにどうするのよ」 泣き

 「ごめんね。シンジ君。遅れちゃって」

 「いえ、電車が途中で止まっちゃって」

 「それに電話もつながらなくて」

 「それで、待ち合わせの場所に行けなくて・・・」

 「避難せずに上にいたの?」

 ミサトは、タイヤを交換し、ジャッキを外す。

 「実際、ロストして焦ったわよ。で、衛星探知に時間食っちゃってね」

 「本当、マジで使徒が来るとは思わなかったものね」

 ハンカチを渡すシンジ。

 「ありがとう。シンジ君」

 「いえ、僕の方こそ。でも、服・・・」

 ミサトの服は油まみれ。

 「これ、そうね。せっかく気合入れたのに台無しね」

 「あちゃー 汚れ。落ちないかな」

 「よろしくね。碇シンジ君」

 「あ、あの・・・・・」

 「ミサト。葛城ミサト」

  

  

 NERV本部

 「・・・・予想通り、自己修復か」 冬月

 「完全な個体。自己完結型の生命体だ」 ゲンドウ

 使徒から閃光が輝くとカメラからの映像が途絶えた。

 「たいしたものだ。機能が増幅した」

 「おまけに知恵もついたようだ。修復が終われば来るぞ」

 「だいたい、N2爆弾は派手だが全方位に威力を拡散させてしまう」

 「効果的に使うなら使徒の体内に入れない限り役に立つまい」

 「もっと、指向性の強い一点集中の武器でなければ」

 ふっ

  

  

  

 ボロボロの赤いアルピーヌA310が、トロトロと動く。

 ミサトは憮然としていた。

 「あの、葛城さん」

 「ミサトで良いわよ」

 「あの、ミサトさん」

 「なに」

 「あの、使徒って・・・何が起こっているんですか?」

 「お父さんに聞きなさい」

 「お父さんに・・・」

 「あ、そうだ。お父さんからIDカード。もらってない?」

 シンジは、カバンから出したものをミサトに渡す。

 ノートの切れ端に文字が殴り書きされた。

 “ 来い  碇ゲンドウ ”

 千切ってクシャクシャにされ。

 テープで張り合わせた紙切れ・・・・

 書く方も書く方で。来る方も来る方で

 父子関係は、破綻して、殺傷沙汰スレスレというか、未満というか。

 「やはり・・・父のところに行くんですか?」

 「そ、そうね、そうなるわね」

 シンジは、複雑な表情をみせ、

 ミサトは、苦笑いする。

 「だけど、いきなり “来い” だなんて。何なんですか?」

 「仕事の手伝いをして欲しいのよ。きっと」

 「・・・・」

  

  

 NERV作戦司令部

 「・・・わかりました」 息混じり

 幕僚長が赤い受話器を置く。

 「いまから、本作戦の指揮権は君に移った。お手並み、見せてもらおう」

 「了解です」

 「碇君。我々の通常兵器では、目標に対し有効な迎撃手段がないことは認めよう」

 「・・・・・・」

 「だが、君なら勝てるのかね」

 「そのためのNERVです」

 「期待しているよ」

 軍人たちは、作戦司令部から退場していく。

 「目標が移動を開始」

 「第三防衛線まで600秒」

 「どうするつもりかね。N2爆弾も効かない」

 「初号機を起動させる」

 「初号機を、か? パイロットがいないぞ」

 「問題ない。もう一人の予備が届く」

 モニターにミサトとシンジが映っていた。

  

  

 地下モノレールトンネル

 ミサト、シンジ。

 「特務機関ネルフ?」

 「そう。国連直属の非公開組織」

 「わたしはそこに所属しているの」

 「ま、国際公務員ってやつ」

 「父と同じなんですね」

 「お父さんの仕事、知ってる?」

 「人類を守る大事な仕事だと、先生から聞いています」

 「ふ〜ん。苦手なのね、お父さんが・・・」

 『わたしと同じね』

 モノレールが巨大地下空間に入るとシンジは、あまりの壮大さに呆れる

 「ここが、わたしたちの秘密基地。NERV本部。世界再建の要」

 その後、あちらの通路。

 こちらの通路を行ったり、来たり。

 シンジが “ひょっとすると、迷っているのでは?” と疑い始めた頃。

 エレベータが開いて、水着に白衣の金髪女性が現れた。

 『なぜ、白衣に水着?』

 「・・・遅いわよ。ミサト」

 「ゴミ〜ン。リツコ」 手を合わせる

 「迷ったわね」

 「ぅぅ・・・・」

 三人は、エレベータで地下に降りる

 「例の子ね」

 「そ。マルドゥックの報告書による三人目の適任者。で、信用できるの? その報告書」

 「マルドゥック機関の報告書以外に、私たちは、エヴァの操縦の術を知らないのよ。残念だけど」

 「信用するしかないわけね」

 「今の私たちは、子供に頼るしかない」

 「・・・・」

 「どう? お父さんと大違いでしょう」

 「どうかしら、ね」

  

  

 作戦司令部

 「・・・冬月。後を頼む」

 「三年ぶりの対面か・・・」

 「目標接近。速度変わらず。Bエリアに侵入」

 「モニターを出せ」

 「目標探査システムは、まだ完成していませんが」

 「通常の映像だけでいい」

 「目標を確認。最大倍率です」

 日の沈む山間を行く使徒が、コンピューターで補正される。

 「兵装の残弾数は?」

 「再装填を含め。3.2パーセント」

 「状況は?」

 「迎撃システム稼働率7.5パーセント」

 「かまわん。復旧と装填が間に合ったシステムだけでも立ち上げろ」

 「了解」

  

  

 巨大な施設内

 リツコ、ミサト、シンジ

 「・・・リツコ。使徒は?」

 “目標は、第三次防衛線まで600秒 総員、第一種戦闘配置”

 「・・・だ、そうよ」

 「やばいわね」

 「近道するわよ」

 「・・・・」

 シンジは、壁から飛び出した巨大な腕に驚いていた。

 「で、初号機。どうなの?」

 「起動確率。0.000000001パーセント。オーナインシステムとは、よく言ったものね」

 「1000億人に1人? リツコ。いま、人類の総人口が20億切ったの知っている?」

 「ええ、毎月5000万人ずつ、減っていくそうよ」

 「っ・・・セカンドインパクト以後の子供を総数にされたら。動かないと同じ意味よ。それ」

 「ゼロ。ではないでしょう」

 「いずれにせよ。彼しだいということね」

 扉が開かれ、

 シンジの目に巨大なエヴァの横顔が飛び込んでくる

 「・・・・」

 「人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン。初号機よ」

 「・・・・」

 「建造は極秘。人類最後の切り札よ」

 「父が作ったんですか?」

 「そうよ」

 「お父さんが・・・」

 リツコ、シンジ、ミサトは、巨大な初号機の前に立った。

 “久しぶりだな”

 スピーカから響く声で、シンジが見上げ。

 ゲンドウは、管制室から見下ろしていた。

 「お父さん」

 “出撃”

 「出撃? 零号機は駄目でしょう。まさか初号機を使うつもりなの?」

 「そうよ。他に道はないわ」

 「無茶な! 第一、レイは動かせないでしょう。パイロットがいないわよ」

 「さっき。届いたわ」

 「マジ?」

 「シンジ君。あなたが乗るのよ」

 「え・・・僕が?」

 「レイでさえシンクロするのに7ヶ月もかかったんでしょう。今日、着たばかりの子には無理よ」

 「座っているだけで良いわ。それ以上は望みませません」

 「でも、初号機が動く可能性はゼロに近いんでしょう」

 「ゼロではないわ。彼が乗ればね」

 「今は、誰であれ、エヴァと少しでもシンクロ可能な人間を乗せるしかないのよ」

 「わかっているはずです。葛城一尉」

 「・・・そうね」

 視線がシンジに集まる

 「お父さん・・・用って、このために僕を呼んだの?」

 “そうだ”

 「いやだよ! そんなの! 今更、なんだよ! お父さんは、僕がいらないんじゃなかったの」

 “必要だから呼んだまでだ”

 「いやだよ。何故、僕なの!?」

 “他の人間には、無理だからだ”

 「無理だよ。そんなの、できるわけないよ」

 “可能性はある”

 「そんなの・・・・見たことも聞いたこともないのに、乗れる訳ないよっ!?」

 “乗るなら早くしろ。出なければ、帰れ”

 選択の余地がない状況で理不尽な言葉が発せられた。

 大多数の所員は、非道と良心の呵責の板ばさみで傍観者を決め込んでいた。

 「・・・第7サイトより入電。目標はB33区画を通過」

 「直上地点到達まで、あと602秒」

 「嫌だよ・・・せっかく来たのに・・・こんなのないよ」

 「シンジ君・・・何のためにここに来たの?」

 「シンジ君。時間がないわ」

 「乗りなさい」

 「・・・・・」

 シンジは、泣きそうになるのを堪えていた。

 「レイを起こしてくれ」

 ゲンドウが内線に向かって話す

 “使えるのか?”

 「死んでいるわけではない」

 「駄目よ。逃げちゃ。お父さんからも・・・何よりも自分から」

 ミサトは、立場上、理不尽さに良心を痛めながらシンジに言い含めていた。

 「・・・・・」

  

 ゲンドウが内線で話しかける

 「レイ」

 『はい』

 「予備が使えなくなった。出てくれ」

 『はい』

 「初号機のシステムをレイに書き直して再起動」

 仕事につくため、シンジの側から離れるリツコとミサト。

 シンジを見る者は、もう、誰もいない。

 「・・・やっぱり、僕はいらない人間なんだ」

 「目標は絶対防衛線を突破。市街地に侵入」

 「直上地点まで、あと306秒」

  

 青髪紅眼の少女は、包帯が巻かれて、点滴をつけられ、

 苦痛に顔を歪め、

 診察台に横たわったまま、シンジの前を通り過ぎていく。

 「・・・・」

 シンジは、目を逸らした。

  

  

 使徒の目から閃光が発せられるとビルが吹き飛び、爆炎が大地を焦がした。

 天井都市に局地的な大穴が空いた衝撃で、地下空洞施設の一部が本部に落下。

 衝撃がシンジを襲い。

 照明器具がシンジの頭上に向かって落ち、

 初号機の拘束具を引き千切った右手が水から飛び出して、シンジの頭上を庇った。

 初号機の手に弾かれた照明器具は、ゲンドウの立つの窓ガラスにぶつかって砕け落ち。

 微動だにしないゲンドウが微笑んだ。

 

 「なんだ!」

 「何が起こったんだ!?」

 「まさか、インターフェースもなしに、この距離で反応している?」

 「何故・・・ありえないわ。エントリープラグも挿入していないのよ」

 「いける」

   

  

 シンジは、倒れ込んだレイを抱き起こしていた。

 掌のぬめり。べっとり付いた血が滴り落ちる。

 恐怖心。

 そして、別の感情が沸き起こる。

 「ぼ、僕が乗るよ」

  

  

 シンジが、エントリープラグで待機。

 出撃準備の管制会話が流れる

 「第一次接続開始」

 「エントリープラグ。注水」

 コクピット内にオレンジ色の液が溢れるとシンジが慌てる

 「大丈夫」

 「肺の中の空気を全部吐き出して」

 「肺がLCL液で満たされれば、直接酸素を取り込んでくれるわ。すぐ慣れます」

 空気を吐き出すシンジ

 「うっ! 気持ち悪い」

 「我慢しなさい。男の子でしょう」

  

  

 管制が始まる

 「第二次接続。準備よし」

 「主電源接続」

 「A10神経接続。異常なし」

 「思考形態は、日本語を基礎原則として、フィックス」

 「初期コンタクト。すべて問題なし」

 「双方向回線。開きます」

 LCL液に浮かび上がる各種ディスプレーとコンソールに驚く

 そして、意識がエヴァの視神経へと広がって、視点と視界が初号機とシンクロしていく。

 「・・・動きそうね」

 「いける! 発進準備・・・かまいませんね」

 ミサトは、ゲンドウに視線を向ける

 「もちろんだ・・・使徒を倒さぬ限り、我々に未来はない」

 ゲンドウは腕を組んだまま応え

 「本当に、これで良いんだな。碇」

 ゲンドウは、微笑む

 「第二サイトより、入電。目標はB03区画を通過」

 「直接迎撃半径到達まで、あと30秒」

 「内部電源。充電完了」

 「外部電源用コンセント。異常なし」

 「初号機の状況は」

 「現在、最終安全装置を解除」

 初号機が巨大な昇降機によって上昇。

 次々に開いていく装甲シャッター。

 ビル型の塔の側面が、スライドして初号機が現れ、正面の使徒と対峙

 

 「シンジ君・・・死なないでよ」

 緊張するシンジの正面に使徒が立っていた。

 「落ち着いてシンジ君。ゆっくりと歩くことだけ考えて」

 「・・・歩く・・・」

 ビクッ!

 エヴァ初号機がゆっくり、前に向かって、歩きだした。

 「「「「「おおおぉぉっ・・・・・・・」」」」」

 「「「・・・・・・・動いた」」」

 リツコが感激している横で、ミサトは冷めていく。

  

 「歩く・・・」

 シンジは、貧血に近い状態で歩いているような体感にバランスを崩して倒れる。

 そして、目の前に迫る使徒に怯えていた。

 「シンジ君。しっかりして。今は起き上がることを考えて」

 ミサトの声は、恐怖心と緊張でシンジの耳に届かなかった。

 使徒に初号機の左腕を捕まえられ、シンジの左腕に痛みが走る。

 ヴァキ!!

 初号機の左腕が折れると同時にシンジの左腕に激痛が走る。

 痛みと死の恐怖で

 あぁああぁぁぁあああ!!!

 初号機の関節から体液が噴き出した。

 「落ち着いて、シンジ君。大丈夫。あなたの腕じゃないのよ」

 シンジは状況に対処できず泣き叫んだ。

 使徒の矢が棒立ちする初号機の顔面に直撃し、初号機が仰け反った。

  

  

 作戦司令部

 初号機とシンジの接合をモニターしていた緑のゲージが振り切れ、

 警報鳴り響きながら、赤の表示に変わっていく。

 「・・・神経接続計測不能。シンクロ数値不明」

 「エントリープラグ。強制射出!!」 リツコ

 「反応ありません」

 「レンジを5倍に切り替えて」

 「駄目です。500パーセント超えています。制御不能」

 司令塔全体を沈黙と敗北感が包んでいく。

  

  

 突如。

 沈黙していた初号機の口が大きく裂け、咆哮が轟いた。

 そして、初号機は、獣のように使徒に突進していく、

 「暴走・・・保険が働いたわけね」

 リツコが呟く。

  

 初号機は、使徒の光線を受けても平然と突進し

 初号機の手が使徒に届く寸前にオレンジ色の八角形が現れ、初号機の手を阻む。

 「っ・・・ATフィールド」

 初号機は残忍な唸り声を出すと両手でATフィールドを抉じ開け・・・

 破砕。

 「初号機のATフィールド確認」

 初号機の蹴りで、使徒は吹き飛んでビルに激突し、使徒ともども倒れる。

 「・・・勝ったな」

 冬月が呟く

 初号機は、倒れた使徒にケリを入れて、屠殺が始まる。

  

 「・・・シンジ君は?」

 「心神喪失状態です」

 「リツコ。起こせないの?」

 「駄目よ! 戦闘が終わるまで、そのままにしておいた方が良いわ」

 初号機の冷酷な攻撃に圧倒され、なす術のない使徒。

 !?

 使徒は一瞬の隙を突いて初号機にまとわりつき閃光を発した。

 自爆。

 周囲のビルが融解し、

 モニターは熱でホワイトアウト・・・・

 爆炎と煙の中から猫背のエヴァが現れた。

  

    

 「・・・あれがエヴァの姿」

 管制室は、勝利の歓声でなく、驚愕と恐怖が広がる。

 

 

 第三東京市の中央。

 初号機が巨大なクレーターの中心に倒れ。

 被害が円心状に広がっていた。

 大中小のクレーン。建設機械。特殊車両が動いていた。

  

  

 どこか、暗い場所。

 01から12までの数字が描かれた黒い墓石がテーブルを囲み、

 末席にゲンドウが立っていた。

 「・・・かねてより危惧されていた使徒出現。現実のものとなった」 01

 「予定通り。各国政府は大混乱だ」 03

 「15年前ほどではない」 05

 「予測していた我々はともかく、そうでない者には、パニック以外の反応はなかろう」

 「我々でさえ驚いているのだから」 02

 「使徒の正体。襲来の理由。NERVの存在目的・・・」

 「公表しなければ、こちらが責められます」 ゲンドウ

 「真相は隠さなくてはならない。状況から・・・・シナリオB22が一番近いだろう」 01

 「了解しました」 ゲンドウ

 「しかし、死海文書通り本当に使徒が現れるとはな」 09

 「だが、そのために巨額な予算を先行投資していた」 08

 「左様。現れませんでしたでは済まされない」 04

 「NERVとエヴァ。無駄になりませんでしたな」 06

 「そいつは、わからんよ。役に立たなければ同じことだ」 01

 「エヴァの運用。使徒の処置。情報操作。全て、適切かつ迅速に処理してもらわないとな」 03

 「左様。零号機に引き続き。君らが初陣で壊した初号機の修理代。国がひとつ傾くよ」 04

 「使徒の爆発規模が、あの程度で済んだことも、たんに我々の運が良かったに過ぎん」 10

 「いずれにせよ。セカンドインパクト。あの悲劇が同規模で起これば人類は終わりだ」 01

 「賛成だな。だがそのための時間と人と金。どうするか」 07

 「頭の痛い話しだな」 05

 「左様。いったい、君ら親子で、いくら使ったら気が済むのかね」 04

 「碇。忘れてはならないのは人類補完計画だ」 03

 「左様、その計画こそが、現在の絶望的な状況から我々をを救う唯一の希望なのだ」 04

 「わかっています」 ゲンドウ

 「では碇司令。ご苦労だったな。予算の件は一考しよう。あとは委員会の仕事だ」 01

 テーブルの周りから数字の入った黒い墓標が消えていく。

 「碇。我々には、時間が残されていないぞ」 01

 最後に残った 01 が消える。

 「人類には、時間が残されていない」

 一人残されたゲンドウが呟いた。

  

  

 爆心地

 NERV技術者と回収班が防護服を被って回収作業と測定を行っていた。

 簡易遮蔽室で、テレビが流される。

 「・・・シナリオB22か。広報部が、ようやく仕事ができると喜んでいたけど」

 「やっぱり。クーラーは、人類の宝。至高の発明よ」

 リツコが社内電話を置く

 「・・・シンジ君が気付いたそうよ」

 「容態は?」

 「外傷なし。記憶に混乱が見られる」

 「精神汚染は?」

 「その心配はないそうよ」

 リツコは使徒のサンプルのデータ作業に戻る

 「そう・・・いきなり。あれだったから・・・」

 「脳神経に負荷がかかっていたから。無理もないわよ」

 「こ・こ・ろ。でしょう」

  

  

 特殊車両がNERVの施設に出入りし、要塞都市が建設されつつあった。

 「・・・エヴァとこの街が完全に稼動すれば、いけるかもしれないわね」

 「使徒に勝つつもり、楽天的ね」

 「希望的観測は人が生きていくための必需品よ」

 「・・・あなたの・・・そういうところ・・・助かるわね」

 「じゃ」

 ミサトは、病院に向かう。

  

  

 シンジは、眼を覚ました。

 蝉の鳴が五月蠅く。

 誰もいない。

 白壁の部屋。

 すぐに病院とわかるベット。

 背中がべっとりと濡れ、

 思考がぼやけ、病室にいる理由がわからない。

 「知らない天井だ・・・・・」

  

  

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 新世紀エヴァンゲリオンの時系列を改変しました。

 ちょっとしたイレギュラー。いや、イレギュラーを正しただけ。

 最大の功労者は、総務の洞木コダマ。

 そして、出遅れた葛城ミサトです。

 シンジの部屋が綾波レイの隣になったことで、二人の心境に変化を与えます。

 さらにコダマにNERV組織の処世術を事務的に教わり。

 ミサトとの関係に距離が出来たことで、精神的な自立が足されます。

 少しずつ、人間関係が変化。

 使徒戦にまで、反映していきます。

 また、ゼーレの目的が、完全な悪という形を取っていません。

 なぜなら、そう思えるほど、人類は、自業自得で、追い込んでいたからです。

   

    

    

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新世紀エヴァンゲリオン 『一人暮らし』

第01話 『使徒襲来』
第02話 『知らない天井だ』
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