月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

   

 

 蝉の鳴が五月蠅く。

 誰もいない白壁の部屋と、ベット。

 背中がべっとりと濡れ、

 思考がぼやけ、病室にいる理由がわからない。

 「知らない天井だ・・・・・」

  

第02話 『知らない天井だ』

 

 しばらくすると医師と看護婦が来て一通りの検査をして帰っていく。

 「シンジ君」

  

そして、テレビ版エヴァと流れが変わる。

 病室の扉の前

 20代前半の女性。

 「はい」

 「シンジ君。お疲れ様。検査の結果。身体に問題がなかったので退院よ」

 「・・・そうですか」

 「私は、NERVで総務をしている洞木コダマ。あなたの住まいに案内するわ」

 「はい。洞木さん」

 シンジとコダマは、エレベータの前に立ち。

 扉が開くと、ゲンドウ、冬月がいる。

 排他で拒絶な空気の中、ゲンドウとシンジは対峙。

 シンジは、コダマに続いて、エレベーターに乗ることができず下を向いたままだった。

 結局。コダマも降り、

 ゲンドウとシンジの関係を証明するように扉が閉まっていく。

  

  

 NERV執務室

 ゲンドウ、冬月

 「・・・どういうつもりだ。碇」

 「なにがだ」

 「シンジ君の部屋。不安定要素になるぞ」

 「・・・・・」

 「気が引けるのか、息子を自分のシナリオに利用することを」

 「・・・・」

 「あの娘は、人類補完計画の要の一つなんだぞ。台無しにするつもりか?」

 「問題ない・・・」

 「あいつは、俺の計画を台無しにできる権利があるだけだ」

 「出来はしないだろうがな」

 「自分の良心を息子に任せただけか? それとも正気を、か・・・」

 ふっ

  

  

 車内

 コダマとシンジ。

 「・・・ええと・・・シンジ君 “NERV江” に書かれている通りだけど、ちゃんと読んでおいてね」

 「はい」

 「NERVでのルールが書かれているの」

 「それがないと地図やコンパスなしにジャングルを歩くようなものだから」

 「はい」

 「渡した端末でも知りたいことは、すぐ検索できるわ」

 「シンジ君の場合、階級・給与体系で言うと、軍隊の一曹に相当するの」

 「23万弱の給与のほか、第一級特務技能が加算されて、来年以降の年棒は1500万ね」

 「年内だと500万までは、NERVカードで自由に下ろせるわ」

 「それと使徒一体の殲滅につき、成功報酬は、1億円」

 「査定を引かれた後、パイロットに配分されて、振り込まれるけど、これも来年以降になるの」

 「だから年内は、500万で、生活することになるわね」

 「戦果に応じて、査定で階級が上がるけど」

 「年齢を考慮されて、階級を上げる代わりに褒賞金が別途で支給されるのが一般的ね」

 「・・・・・・」

 シンジは、あまりの金額に唖然とする

 「でも、良いことばかりじゃないの」

 「賞罰は、きちんとしているから、罰則事項に気を付けてね」

 「民間人が当たり前に出来る事も、処罰されるし」

 「罰金を科せられたり。拘束されたり。軍法会議とか・・・」

 「シンジ君。厳しいけど、内容によっては、子供でも情状無しで容赦されないから気を付けてね」

 「はい・・・・」

    

  

 再開発地区の公団住宅

 シンジ、コダマ。

 403号室。

 「・・・ここですか?」

 打ちっ放しの壁。

 6畳の台所、

 通路を挟んで左右にトイレと風呂場、

 奥に6畳の部屋が手前と奥に二つ。

 その奥がベランダ。

 2LDKの何もない部屋に案内される。

 「家具と、電化製品を揃えないと駄目ね」

 「これから店に行くから。部屋に合わせて必要なものを考えておいて」

 「カードが使えるから、たいていの物は買えるわよ」

 「・・・はい」

  

 

 大型ショッピングセンター。

 シンジは、先生のところから送られてくる荷物を計算。

 一人暮らし用のセット物で家具・電化製品を購入すると、

 NERVのカードで60万円以内で収めて、配達を頼んだ。

  

  

  

 再開発地区。

 人気の無い荒れた公団住宅

 「シンジ君。足りないものがあったら、また言ってね」

 「洞木さん。誰か、ほかに住んでいるんですか?」

 寂しくなったシンジが尋ねる。

 「隣の402号に一人、住んでいるわ」

 「いずれ、全部壊して、再開発されるはずだから近くには、誰も住んでいないはずよ」

 「・・・・・」

 「大丈夫よ。どんなに人気が無いように見えても保安部員が常時監視しているから」

 「シンジ君の安全は保障されているの。衛星で追跡されているし」

 シンジは、辺りを見回す。

 「見つけられる?」

 「あなたが保安部員を捕まえたら、その保安部員は、減棒一ヶ月よ」

 「でも、必ず見守っているから安心して」

 「隣は、誰が住んでいるんですか?」

 「綾波レイ。あなたと同じパイロット」

 「今は、入院しているから、しばらくは、一人になるわね」

 「・・・そうですか」

 「IDカードと携帯電話は、常に持っていないと減棒されるから忘れないで」

 「あと、第壱中学への転入手続きは終わっているから地図を見ていくと良いわ」

 「NERVの出勤は決まっているけど」

 「変更があるかもしれないから常に端末か、携帯で調べておくこと」

 「非常呼集があれば、最寄りの保安部員が車かヘリで駆け付けるから」

 「はい」

 「それじゃ 私は、行くから」

 「部屋は、掃除させたから配達されたものを好きなところに運んでもらえば良いわ」

 「はい」

 「がんばってね。碇シンジ君」

 コダマは、シンジと握手すると帰って行く。

 配送トラックが、コダマの乗る車と入れ替わりに入ってくる。

 シンジは、配達員を誘導。

 家具や電化製品を部屋に運んでもらうと、

 無機質だった部屋に人の生活空間が作られていく。

 シンジは、部屋を整理して風呂に入り。ベットの横になると自分の城に満足する。

 !?

 突然のフラッシュバック。

 思い出される戦闘。

 腕が潰され、頭が壊されるような感触。

 シンジは、うずくまり、震えた。

  

  

 NERV

 LCL液に満たされたエントリープラグ。

 パレットガンから劣化ウラン弾が撃ち出され、使徒に吸い込まれて、連鎖的に爆発していく。

 シンジは、何か違和感を感じながら、シューティングゲームを条件反射のように繰り返していく。

 ミサト、リツコ、伊吹はガラス越しに視線を送っていた。

 「・・・おはよう。シンジ君。調子はどう?」 リツコ

 『慣れました・・・・・悪くないと思います』

 シンジが無機質に答える。

 「エヴァの出現位置。非常用電源、兵装ビルの配置。頭に入っているわね」

 『たぶん』

 「では、もう一度、おさらい、するわね」

 「通常。エヴァは、有線からの電力供給で稼動しています」

 「でも、非常時に体内電池に切り替えると、蓄積容量の関係でフルで1分」

 「ゲインを利用しても、せいぜい5分しか稼動できない」

 「これが、現代科学の限界・・・わかった」

 『はい』

 「では、インダクションモードの練習」

 使徒と対峙する初号機。

 微妙な違和感のあるシミュレーション。

 『目標をセンターに入れて・・・スイッチオン』

 『目標をセンターに入れてスイッチオン』

 『目標をセンターに入れてスイッチオン』

 『目標をセンターに入れてスイッチオン・・・』

 

 「よく乗る気になってくれましたね」

 「人の言うことには、おとなしく従う。それがあの子の処世術じゃないの」

 「・・・投げやり。どうでも、よくなっているのよ」

 「学校は?」

 「月曜日から」

 「一人暮らしで、ちゃんと、学校に行くかしら」

 「司令は、どうして、引き取らなかったのかしら。昨日、私が行ったときは、退院していたし」

 「家庭の事情ね」

 「私が引き取っても良かったのに」

 「復讐の道具だから」

 「生き残るためよ」

 「パイロットを集めていたほうが護衛しやすいのよ・・・訓練。するの?」

 「エヴァの概念は、だいたい理解しているけど、訓練は、必要よ」

 「お手柔らかにね。神経細そうだから、苛めると逃げ出してしまうわよ」

 「わかっているわよ・・・」

 「でも、見たところ標準以下ね。精神力、頭脳、体力とも・・・」

 リツコが意味ありげに微笑む

  

  

  

 ジオフロントの森

 シンジ、ミサト

 「・・・取り敢えず。体力をつけることにするわ」

 「本部ピラミッドの周りA周回路を走ってもらうわね」

 「どのくらいあるんですか」

 「一周、1km。さあ、行くわよ」

 ミサトとシンジは走る。

 しばらしく走るとシンジは、息が切れ、フラフラになっていく。

 ミサトは、絶望的な表情で貧弱なシンジを見つめる。

 「シンジ君。NERVと家の往復を走ること、良いわね」

 「はぃ・・・」

 「予想以下ね。他の訓練がずれ込むわ」

 「終わったら、メディカルルームでマッサージ。体をほぐしてから帰るのよ」

 シンジは、ヘトヘトになるまで走らされ。

 さらにNERVから家まで10kmをヨタヨタと帰る。

  

 翌日

 足の筋肉痛に顔をしかめながらシンジは起きることになった。

  

    

 月曜日の朝。

 コダマの車で第壱中学へ、入学手続きを済ませる。

 「・・・じゃあ。がんばってね。シンジ君」

 教室の4分の1が空席だった。 

 シンジは、基本的に自分から友達を作っていくタイプではなく、

 転入挨拶を無難に済ませてしまう。

 最初、興味深げに近付いてきた同級生も潮が退くようにいなくなった。

 始業前にジャージの男が教室に入ってくる。

 「おっす!」

 「久しぶり」 ケンスケ

 「なんや、随分、減った、みたいやな」

 「疎開だよ。疎開」

 「みんな転校して行ったぞ。街中であれだけ派手に戦闘をやられたらな」

 「喜んでいるのは、おまえだけやろな。ナマのドンパチが見れるよって」

 「まあね・・・トウジは、どうしてたの・・・随分休んじゃって」

 「・・・妹のやつがな」

 「え?」

 「妹のやつが瓦礫の下敷きになってもうて・・・」

 「・・・・」

 「命は、助かったんやけど、ずっと入院しとんのや」

 「うち、お父んも、おじんも、研究所勤めやろう」

 「いま現場を離れるわけにいかんしな」

 「俺がおらへんと。あいつ、病院で一人になってしまうからな」

 「そうか」

 「しかし、あのパイロット。ほんまにヘボやな。むっちゃ腹立つわ」

 「敵にやられるんやったら諦めも付くけど、味方が暴れてどないするっちゅんじゃ」

 「それなんだけど・・・転校生がな」

 「転校生?」

 「ほら・・・あいつ。鈴原が休んでいる間に転校して来たやつなんだけど・・・・」

  

 

 シンジは、興味深そうに包帯姿の綾波レイを見ていた。

 マンションで隣室の綾波レイと会っておらず、

 病院から直で学校に来たのか、

 気付かないうちに隣の部屋を出入りしたらしい。

 あれだけ怪我をしていれば、誰か、何か言ってくるはず、

 それを綾波レイの独特の空気が誰も近寄らせない。

 自分を知っているのか、知らないのか、無視。

 なので、シンジは、得意の無気力、無感動の世界に浸り。

 自分の机で ボゥ〜 とする。

  

  

 授業

 少ししょぼくれた老教師

 「・・・このように人類は、科学の発展とともに爛熟した文明を謳歌してきました」

 「しかし、全て灰塵に帰す時がやってきたのであります」

 「20世紀最後の年、宇宙より飛来した巨大隕石が南極に衝突しました」

 「その膨大なエネルギーは、氷の大陸を一瞬に溶解させたのであります」

 「その後、20mの津波が大地を襲い」

 「異常気象で干ばつや洪水、噴火が世界中を襲い」

 「わずか半年で世界人口の半分が失われてしまいました」

 「これこそ、世に言う 『セカンドインパクト』 であります」

 「ある国は、経済恐慌となり」

 「またある国は、一瞬にして政府の機能を消失」

 「天災は、未曾有の混乱と貧困を作り」

 「物資を巡って内戦が続き、力の無い国は併合されました」

 「かくして、我々の文明は大きく後退」

 「再び第一歩から踏み出す事を余儀なくされたのであります」

 「ですが、あの『セカンドインパクト』から15年」

 「わずか15年で、私たちはここまで復興をとげる事ができました」

 「これは人類の優秀性もさることながら」

 「皆さんのお父さん、お母さんの世代の血と汗と涙の努力の賜物と言えるでありましょう」

 「・・・私は、その当時、深川に住んでいましてね・・・」

 生徒たちは “ああ、またか” とウンザリした表情で聞いている。

 シンジも、ぼんやりと聞き流しながら授業が終わるのを待つ。

 そして、端末に通信が入る。

 “碇君があのロボットのパイロットというのは、本当? YES or NO”

 とモニターに表示。

 キョロキョロと周りを見渡す、

 後ろの席で女子が2人。シンジを見ながらヒソヒソ話していた。

 一人が手を振り。一人がパソコンのキイを叩く

 “本当なんでしょう。YES or NO”

   

 シンジは、コダマとの会話を思い出す。

 『・・・・NERVは、国連の非公開組織だけど、第三東京市は、NERV関連企業で持っているの』

 『でも、あなたの場合、守秘義務が厳しいから誰にもNERVの関係者と喋らないようにしてね』

 『一応、ダミーの履歴と家柄を用意しているから覚えておいて』

 『もっとも、関係者の子弟が多いから知られている場合もあるけど最後まで認めないこと』

 『虚偽の会話もしなければならないけど。給与のうちと思って』

 『辛くて大変だけどよろしくね・・・・あなたの安全のためでもあるの・・・・』

 『減俸は、ともかく、軍法会議や口封じは、嫌でしょう・・・』

 シンジは、コダマに言われていたように “NO” と返事。

 その後、しつこく、通信が入り “NO” と回答を続ける。

  

  

 昼休み

 シンジは、校舎裏に呼び出され、トウジに睨み付けられていた。

 ケンスケが不安そうに見守る。

 「・・・碇・・・おまえがロボットのパイロットなのか?」

 『認めたら減奉だったよね』

 「・・・違うよ」

 「何で、この時期に転校してくるんや。おかしいやないか」

 トウジがシンジの胸倉を掴む

 「親の仕事の都合」

 「おまえ・・・あのロボットのパイロットやないんやな?」

 「な・・なんで・・・そんな風に言われないと、いけないんだよ」

 バレバレに動揺。

 「っう・・・」

 トウジは、シンジを突き放し、悔しげに睨み付けると去って行く。

 ケンスケが近付いて、耳打ち。

 「あいつの妹が、この前の戦闘で味方のロボットのせいで、大怪我をしたんだ」

 「すまんな。迷惑かけて、あいつ、ああいう性格だから」

 シンジは、間違いなくパイロットと確信できるほど動揺し、

 ケンスケも、表情を見逃さない。

  

  

 近付いてくる綾波レイ

 「碇君。携帯忘れている・・・非常呼集よ」

 シンジは、レイを追いかけて走ると校門の前に止まっている車に乗り込む。

 途端に警報が鳴り響く。

 “ただいま、東海地方を中心とした関東、中部全域に非常事態が発令されました”

 “すみやかに指定のシェルターへ避難してください。繰り返しお伝えいたします・・・・”

 市内をサイレンと避難命令が反響し、

 通行止めの道路を保安局の特殊自動車だけが走り抜けていく。

  

  

 NERV本部

 冬月

 「総員、第一種戦闘配置。迎撃用意」

 「迎撃用意」

 「第三東京市、迎撃形体へ移行」 日向。

 自動的にシャッターが下り、

 バリケードがせり上がる。

 「第一から第六まで、ブロック閉鎖完了。全館収容完了」

 「政府及び関係各省への通達終了」

 「第一から第六管区、迎撃システム。スタートします」

 「非戦闘員、民間人の避難を確認しました」

 「パイロットは?」

 「エントリープラグに搭乗しました。待機しています」

 「・・・・・・・・」

 冬月、ミサト、日向、青葉、伊吹の管制で兵装ビルが戦闘態勢に移行し、

 ミサイルと大砲が目標を追尾していく。

 「目標が真鶴上空に侵入しました。映像入ります」

 甲虫型の巨大な物体が第三東京市に向かって接近していた。

  

  

 シェルター内で子供が、はしゃぎ。

 赤ん坊の泣き声が響いていた。

 ケンスケは、ハンディカメラ(TVモニター付き)を見つめながら舌打ち。

 “ただいま東海地方を中心に関東、中部に特別非常事態宣言が発令”

 “新しい情報が入り次第、順次お伝えいたします”

 お花畑の静止画がモニターに映っていた。

 「まただ」

 「また。文字だけなんか」

 「報道管制か、後で自分たちの都合の言いように修正するつもりだな。くそぉ〜」

 爆音と震動がシェルター内に伝わる。

  

  

 低空で飛行していた使徒が飛行形態から歩行形態へ変態する。

  

 ミサト、日向

 「碇司令の留守を狙って第四使徒襲来」

 「意外と早かったわね」

 「前回は15年のブランク。今回はたったの三週間ですからね」

 「こっちの都合は、おかまいなしか。女性に嫌われるタイプね」

 山間のサイロから発射されたミサイル群が使徒を押し包み、

 砲台から撃ち出された砲弾が使徒に向かう。

 使徒は爆炎で包みこまれ、砲弾が破裂し弾かれていく。

 「税金の無駄使いだな」

 「委員会から、出撃要請です」

 「うるさいやつらね。言われなくても出撃させるしかないでしよう」

 「初号機の出撃準備を・・・」

 

 エントリープラグ

 LCL液が、エントリープラグに注入されていく。

 『お父さんいないのに・・・なんで乗っているんだろう・・・』

 『自立できたのが嬉しいからかな・・・死ぬかもしれないのに・・・』

 そして、学校の校舎裏のことを思い出す。

 鈴原トウジは、自分を殴ろうとした。

 『同級生に憎まれてまで・・・』

 『大怪我じゃなくて死んでいたらパイロットじゃないと言い張っても殴られていたかな・・・・』

  

  

 シェルター

 大型スクリーンは、何も映っていない。

 ケンスケは、カメラを持って、

 そわそわ うずうず

 そわそわ うずうず

 そわそわ うずうず

 「・・・トウジ。ちょっと、話しがあるんだけど」

 「なんや?」

 「ちょっと、な」

 「しゃーないな。委員長!」

 「なに?」

 「わしら二人。トイレや」

 「もう、ちゃんと済ましときなさいよ」

 「すまんな」

  

 細長い通路

 トウジ、ケンスケ

 「・・・で、なんや」

 「死ぬまでに一度だけ、見たいんだよ!」

 「上のドンパチか?」

 「今度、またいつ敵が来るかわかんないし」

 「ケンスケ。おまえな・・・」

 「この時を逃したら。永久に見れないかもしれないだろう」

 「なっ! 頼むよ。ロック外すの手伝ってくれ」

 「外に出たら死んでしまうで」

 「ここに居たって、わからないだろう。どうせなら見てから死にたい」

 「大丈夫や。わしら死なへん。NERVが守ってくれるわい」

 トウジが憮然とする。

 「その決戦兵器って、ロボットのことだろう」

 「あの転校生が操縦している巨人だよ」

 「この前も、あいつが守ってくれたんだ」

 「・・・・」

 「おまえ、あいつのこと、殴ろうとしただろう」

 「そのせいでロボットが上手く動かなかったら俺たち死ぬぞ」

 「・・・・」

 「トウジ・・・あいつの戦いを見守る義務があるんじゃないのか?」

 「・・・あいつは、違うと、言ったやないか」

 「嘘だって、わかっているんだろう。守秘義務で本当のことが言えないんだよ」

 「本当かもしれんやろう」

 「じゃあ・・・なんであいつが、このシェルターにいないんだ?」

 「おまえ、自分の欲望に素直なやっちゃな・・・」

 「しゃあない。行ったる」

 ガッツポーズのケンスケ

  

  

 エントリープラグ

 シンジは目を瞑っていた。

 『シンジ君。聞こえる』 リツコ

 「はい」

 『シンジ君。使徒の情報は、確認しているわね』

 「はい」

 『出撃。いいわね』

 『パレットガンは、使徒のATフィールドを中和しない限り効果は小さいと思って』

 『でも牽制程度にはなるから』

 「はい」

 『よくって、ATフィールド展開と同時にパレットの一斉射』

 『練習通り、目標をセンターから外さないで』

 「はい」

 『目標。第5防衛ライン突破』

 『発進!』

 昇降機に固定された初号機が急加速で射出。

 LCL液を通じて、わずかな衝撃が伝わる。

   

  

 山腹の高台が振動する。

 爆発の衝撃がケンスケとトウジを押し戻そうとする。

 ビルの陰から巨大な使徒が現れ。

 トウジは、あまりの異様さに身が縮み、

 ケンスケは震えながらハンディカメラを構えた。

 「く、苦労した甲斐があったよ・・・・・」

 ケンスケは恐る恐る場所取りを確保。

 

 ビル正面のシャッターが開き、

 銃を構えたエヴァ初号機が姿を現した。

 「待ってました・・・・・エヴァンゲリオン・・・・」

 「・・・GAU23型、滑空砲身60口径120mmパレットガン・・・くぅっ!・・・しびれる・・・」

 「・・・・初速1700m。射程30000m。連射速度200発。戦車砲弾のマシンガンかよ」

 はぁ うっとり〜

  

  

 管制室

 「・・・初号機。ATフィールド展開を確認」 マヤ

 「作戦通り。良いわね。シンジ君」

 「はい」

 「目標をセンターに入れてスイッチ・・・」

 「目標をセンターに入れてスイッチ・・・」

 「目標をセンターに入れてスイッチ・・・」

 初号機が撃った弾道がまっすぐに使徒に吸い込まれ、

 連続した爆発が使徒を包み込み、爆煙に隠れてしまう。

 「ああわわゎゎ・・・」

 「馬鹿!」

 「見えない。三点射よ、三点射!」

 爆煙で視界が遮られ、

 二本の光のムチが煌めくとパレットガンが真っ二つにされた。

  

 高台のトウジとケンスケ。

 「なんや、やられとるで」

 「大丈夫。予備がある」

 エヴァの動きは遅い。

 「あぁぁぁ やっぱり、トウジに殴られそうになったせいで調子が悪いのかな」

 「あいつ、神経細そうだったし・・・」

 「や、やかましいわい!」

 使徒のムチが初号機のATフィールドに弾かれ、

 初号機は緩慢に新しいパレットガンを取ろうとする。

 使徒の光のムチがビルを切り裂き、

 初号機の電源ケーブルを断ち切ってしまう。

 即座に警報が鳴り、表示された数値が減っていく。

 「初号機、内部電源に切り替わりました!」

 「活動限界まで4分54秒」

 使徒のムチが初号機のATフィールドを中和。

 初号機の右足に巻きつき。

 そのまま、初号機を空中に放り投げてしまう。

 初号機は、放物線を描いてケンスケとトウジのいる高台に迫っていた。

 うぅ・・うぅぁぁああああああああああああああ〜!!!!

 ケンスケとトウジは、衝撃とともに戦場のど真ん中へ。

  

  

 管制室

 各種警報音が、鳴り響く。

 『シンジ君。シンジ君。大丈夫。シンジ君』

 ぐったりしているシンジにミサトの声が届く。

 「うぅ・・・」

 ケンスケとトウジが初号機の指の間で頭を抱えて震えていた。

 シンジは、初号機の指の隙間にいる人影に気付き、

 あと、一歩、間違っていたら・・・

 シンジは同級生を押し潰していた事に気付いて青くなる。

  

  

 作戦司令部

 初号機のカメラを経由して、二人の少年の映像がスクリーンに流れた。

 マギが自動的に検索をかけ、IDを出していく。

 「シンジ君の・・・クラスメート・・・」

 「なぜ、こんなところに・・・・」

  

 迫る使徒が二本のムチを繰り出し、

 初号機は両手でムチを掴むと、互いのATフィールドが反発。

 初号機の掌とムチのATフィールドが干渉し合い、両方を焦がしていく。

 ケンスケとトウジは自分たちのせいで初号機が戦えないと気付く。

 使徒は、次第に迫って来る。

 「の・・・乗れ、そこの二人・・・早く乗るんだ」

 シンジは、外部スピーカに切り替えて叫ぶ。

 「なっ!」

 「何を・・・」

 リツコとミサトが慌てる

 シンジは、二本のムチを右手で掴み、

 二人をエントリープラグに運び入れてしまう。

 「き、許可の無い民間人をエントリープラグに入れられると思っているの、シンジ君、止めなさい」

 「・・・私が許可するわ」

 ケンスケとトウジを背中から張り出したエントリープラグに入れる。

 「うぇっ! なんや、水ん中やないか」

 「・・・ゴボッ・・・・カメラが・・・・カメラが・・・・」

 エントリープラグの各種警報が鳴り響く。

   

 管制室

 「神経接続に異常」

 「異物を二つも入れるなんて、神経パルスにノイズが混じるわね」

 「越権行為よ。葛城一尉」

 異物に反応した神経接続システムが警報を鳴らす。

 「何を言っても手遅れよ」

 「それに選択の余地はなさそうね」

 「撤退しなさい、シンジ君」

  

 ケンスケとシンジは、操縦席にいるシンジを見て驚く。

 『シンジ君。撤退して』

 初号機は、ムチで押さえ付けられ、タイムリミットの数字が減っていく

 「なあ、転校生、逃げろ云うとるでっ」

 『逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ』

 『逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ・・・』

 シンジは、右手でムチを束ね。

 左手でプログレッシブナイフを取る。

 そして、使徒に向かって突進。

 使徒が矢継ぎ早にムチを繰り出し。

 ムチは、初号機のATフィールドを貫き、脇腹を突き通した。

 「っぅ・・・」

 脇腹の痛みに構わず、

 プログレッシブナイフで使徒のコアを突き刺していく。

  

 「あの、ばか」 ミサト。

  

 初号機は両手でナイフをコアに突き刺し、

 使徒は、自由になったムチを初号機に叩き付ける。

 叫ぶシンジは、力任せに光球を割り、

 使徒のムチも初号機の太股を突き通した。

 脇腹と太腿を激痛が襲い、全身に苦痛が伝わり。

 気力が萎え、腕から力が抜けていく。

  

 「初号機。活動限界まで、あと30秒」

 管制室にシンジの嗚咽と無機質なカウントダウンが重なって流れ、

 残り3秒でコアがざっくりと割れ、光を失い。

 エントリープラグは、ブラックアウトする。

 「エヴァ初号機、活動停止」

 「目標、完全に沈黙」

  

  

 エントリープラグ。

 暗闇に慣れると、人影が肩を震わせ、嗚咽を漏らしていた、

 ケンスケとトウジは、後ろ姿を見つめ、何も言えない。

  

  

  

   

  

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第01話 『使徒襲来』
第02話 『知らない天井だ』
第03話 『綾波レイと・・・』
登場人物