月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

 エントリープラグ。

 暗闇に慣れ、肩を震わせ嗚咽を漏らす人影。

 そのうしろ姿を見つめるケンスケとトウジは、何も言えない。

  

第03話 『綾波レイと・・・・』

 土砂降りの雨

 第壱中学校の教室

 トウジは、ため息。

 ケンスケは、エヴァ搭乗記と内部構造の記憶を振り絞って書いていた。

 包帯が取れたレイは、ぼんやりと雨を見ている。

 「今日で三日目か・・・」

 「俺たちがコッテリ怒られてからか?」

 「あいつが学校に来なくなってからだよ」

 「あいつって?」

 「転校生だよ。転校生。あれから、どない、したんやろうな」

 「心配か?」

 「別に心配ってわけじゃ・・・」

 「トウジは、不器用なくせに強情だからな」

 「あの後、別れ際に謝っとけば、3日も悶々とせずに済んだのに・・・」

 「ほら」

 ケンスケが紙を渡す

 「・・・・」

 「転校生の電話番号だよ。心配だったら、自分で、かけてみろよ」

 誰もいない通路。

 トウジは、電話をかけようとして指が止まり、電話できず教室に戻った。

  

  

    

 作戦指揮車

 シンジ、ミサト、リツコ

 「シンジ君。どうして、命令無視したの?」

 「・・・・・」

 シンジは、ミサトの怒っている顔に何も言えない。

 「応えて欲しいんだけど」

 「ど、同級生・・・だったから」

 「・・・・・」

 リツコは、冷たい視線を向けたまま

 「ですって、リツコ」

 「私は、良いわ。随分、面白いデータが取れたから」

 「でも、シンジ君。これっきりにしてもらいたいわね」

 「死んでも知らないわよ」

 「というより、あなたに死なれると困るの」

 「“私たちも死ぬ” ということだから」

 「シンジ君が死にたいと思っても私たちは、死にたいと思っていないのよ」

 「はい・・・」

 「次は、私か。どうして、撤退しなかったの?」

 「・・・・・」

 「説明して。シンジ君」

 「ミサト・・・そんな怖い顔してたら、何も言えないわよ、震えているじゃない」

 「・・・・・・」 ミサト

 「・・・・・・」 シンジ

 バシンッン!! 机を叩く音。

 シンジが、怯えて飛び上がる

 「はっきり、云いなさい!!」

 「こ、こ、怖かったから・・・」

 シンジが涙目で応える

 「・・・・」 ミサト

 「・・・・」 シンジ

 「シンジ君。今回は、現場の判断ということにして置くけど、下手をすれば死ぬのよ」

 「命令違反、命令無視は、減奉や処罰になるの!」

 「独房に入りたい?」

 シンジが、首を振る。

 「はぁ シンジ君。自分の考えは、はっきりと言いなさい」

 「・・・・」 頷く

 「正当なもので規則に外れたものでなければ、処罰はしないから」

 「いい?」

 「はい」

 「それと・・・」

 「携帯電話は常に持ち歩きなさい。こっちは決められた通り。始末書と減棒よ」

 「はい」

 「始末書の書き方。知っている?」

 「いえ」

 ミサトが紙とペンを渡す。

 「わたしが言うから、そのまま書いて、次からは、自分で考えて書くのよ」

 「はい」

  

  

 シンジは、部屋に閉じ篭もった。

 隣室の402号室に出入りがあるだけの、静かな時間が流れた。

 シンジは、トウジとの事を思うと学校に行く気になれない。

  

  

 学校に行かなくなって4日目の朝。

 ブザーが鳴る。

 ドアを開ける・・・

 綾波レイは、作戦課でなく、研究所の所属。

 別行動が多く。

 NERVで闘病者レイをたまに見かけることがあった。

 

 「学校に連れて行くように命令されたわ」

 「・・・行くよ」

  

 その日。

 シンジとレイは、マンションで初めて顔を合わせ、

 初めて一緒に歩いた。

 レイの排他的な雰囲気は、シンジを戸惑わせた。

 『・・・話す言葉が浮かばない』

 シンジは、思い悩む

 「あ、綾波・・・怪我は、良くなったの?」

 「ええ、問題ないわ」

 「今日は、ありがとう、迎えに来てくれて」

 「葛城一尉の命令だから」

 シンジは、レイの抑揚のない言葉に軽いショックを受ける。

 しかし、傷心気味のシンジ。

 あれこれ、レイに聞かれないのも救いだった。

  

 

 学校

 転校生のシンジが、沈黙と神秘の才女レイと一緒に登校を見た生徒たちが騒ぎ出した。

  

 昼休みの屋上。

 「碇。俺を殴れ」

 トウジの言葉に呆けるシンジ。

 「なんで」

 「おまえの事情も、わからんと、いやな思いをさせてしもうたし」

 「俺は、おまえに助けて、もらって気持ち悪い」

 シンジは、トウジの決まり悪そうな言葉に呆れ。

 次第に笑いが込み上げてくる。

 「くっふぅ・・・ふあ、ははははは」

 シンジは、堪えきれずに笑う。

 「な、なんや、われ。何が、おかしい・・・」

 「トウジ。おまえが、いまどき恥ずかしいやつなんだよ」

 「普通に謝って、ありがとうと言えばいいだろう」

 シンジの笑いは止まらず。

 トウジはくさり。

 ケンスケは、面白がった。

 3人は守秘義務を共有し、なんとなく仲良くなり、

 その日から昼食を一緒にした。

  

  

 仮設研究室

 第四使徒の周りに巨大なシートがかけられていた。

 クレーン車が動き。

 搬出搬入のトラックがさかんに行き来する。

 シンジとミサトは、ヘルメットを被り、使徒を見上げる。

 「これが・・・人類の敵・・・なのか」

 リツコは鼻歌混じりで、弾む様に現場を行ったり来たり。

 「・・・コア以外は、ほとんど原形をとどめているわ」

 「本当。理想的なサンプルよ」

 「シンジ君。次の使徒は、コアだけ切り出してくれる」

 「リツコ・・・無茶言わないで」

 「いまのは、無視していいからね、シンジ君」

 「は、はい・・・」

 「で、リツコ。何がわかったの?」

 「これ」

 「なに・・・これ」

 ミサトが、ディスプレーを覗き込む

 “601”

 「解析不能のコードナンバー」

 「つまり、わからない」

 「ええ、計測だと光子が変質したようなものかもしれない」

 「でも光子ではない」

 「レプトン、クォークとも違う」

 「ミュー粒子ともチャームクォーク。タウ粒子、トップクォークとも違う」

 「ひとつだけ、わかったのが使徒の固有波形パターンね」

 「構成素材が違っているけど人間の遺伝子と酷似。99.89パーセント同じ」

 「チンパンジーより人間に近いわね。エヴァと同じ」

 

 シンジは、使徒に近付く。

 梯子を登り使徒の体に上る。

 使徒に触ると滑らかな表面で生き物のような感触。

 『・・・何で、できているんだろう』

 シンジは、しばらく見て回ると。

 死体ということに気付いて、気味が悪くなり、慌てて降りた。

  

 ゲンドウ、冬月、レイが使徒のコアの前に立っていた。

 ゲンドウは興味深げに覗き込む。

  

 シンジは、父のうしろ姿を遠くから隠れて見つめていた。

 「なに見ているのシンちゃん」

 「わぁあっ!」

 はぁ はぁ はぁ はぁ

 「ほほう。お父さんを見つめていたんだ」

 「熱い視線で はぁ はぁ 言いながら」

 「・・・ち、違います」

 「ミサトさん。変なこと言わないでください」

 「掌を怪我している、みたいだったから・・・どうしてかなって・・・」

 「・・・本当だ」

 「ねぇ リツコ。碇司令の掌。どうして、怪我しているの?」

 「・・・あなた達が来る前、零号機が起動実験で暴走したの。聞いているでしょう」

 「はい」

 「その時、パイロットが、なかに閉じ込められてね・・・」

 「綾波が・・・」

 「碇司令が彼女を助け出したの」

 「過熱した非常ハッチを無理やりこじ開けてね」

 「掌の火傷は、その時のものよ」

 「・・・お父さんが・・・」

 なぜか、嫉妬する。

  

  

 NERV訓練場

 シンジ、レイ、ミサト

 「さてと、シンジ君が少し走り込んだので・・・これから、体術の訓練に入ります」

 「・・・・・」

 「まあ、習うよりも慣れろ。レイ! シンジ君と組み手よ」

 「はい」

 シンジは、ミサトの言葉が信じられない。

 というより、自分と向き合って、その気になっているレイが、それ以上に意外だった。

 「えっ! えっ! えっ?」

 驚くシンジ。

 レイは、特に構えたように見えなかったが臨戦態勢・・・

 「ほら、シンジ君。気合を入れて向かって行きなさい。怪我するわよ」

 「で、でも」

 レイが近付く。

 シンジは、どうしていいかわからず。ボーとしている。

 いきなりレイの掌を受けると、そのまま仰向けに昏倒する。

 「・・・あちゃ〜」

 その後、シンジは、どんなにやってもレイに勝てないと分かるまで、コテンパンに伸され続けた。

 そして、シンジは、家と学校とNERVを走って鍛錬するように命令され。

 レイも付き合わされた。

  

 シンジは、家に向かう途上の路上で汗ビッショリでへたり込んでいた。

 レイは、すまし顔で、ボゥーと立っていた。

 「ごめん。僕のせいで綾波に迷惑をかけて・・・・」

 「いいの、役に立っているのは、私じゃなく、碇君の方だから」

 「綾波って、強いんだね。びっくりしたよ」

 「ずっと訓練していたから」

 「この先って、急に暗くなるよね」

 再開発地域に入ると人通りが消え。電灯の間隔も長くなる。

 レイは、感銘を受けてないのか、表情も変わらない。

 「ねえ、そこのファミリーレストランで食べていかない?」

 「夕食を作る気力がなくなって・・・僕が奢るから」

 「ええ」

 同世代の女の子と二人っきりの食事は初めてだった。

 相手は、青髪紅眼の整った容姿の美少女で、

 それは、自然な流れであっても緊張し、

 同時にミサトに感謝する。

  

 シンジは、サバの焼き魚定食。

 レイは、野菜ラーメン。

 綾波は、ラーメンのチャーシュをシンジの皿に載せ始める。

 「・・・肉嫌いだから」

 「そう・・・なんだ」

 会話らしい会話はない。

 それでも、シンジにとっては、嬉しい一時で疲れた足を休める貴重な時間だった。

  

 食後、シンジとレイは、暗い道路を走って家まで辿りつく。

 「お休み。綾波」

 「お休み。碇君」

 シンジは自分の部屋、403号室に向かう。

 「碇君・・・・マッサージ・・・忘れないで」

 「うん・・・ありがとう・・・そうするよ」

  

 翌朝

 シンジは、ガクガクする足を引き摺って走る。

 それに付き合うレイも学校に到着。

 シンジは、あまりの情けなさにがっくり。

 レイは、周りのヒソヒソ話しに関心を見せず、難しそうな本を読んでいた。

 「シンジ〜」 トウジ

 「シンジ〜」 ケンスケ

 「・・・なに・・・おはよう・・・・・」

 シンジは、疲れきって足を揉み、投げ遣りに応える。

 「おまえ。綾波とどういう関係なんだ」

 「ん・・・ああ、近くに住んでいるんだ」

 「な、なんやとう!」

 「ちがう、関係だよ。関係」

 「重要なのは、おまえと、綾波の二人の関係だ」

 シンジは、守秘義務にかかわらないように考える。

 「お、親同士が仕事の付き合いがあって」

 「それで、最近、わかって・・・それだけ」

 「本当にそれだけか?」

 「本当、やろうな?」

 「う・・・うん・・・」

 「好き合っていないのか?」

 シンジが赤くなる

 「な、なんてこと言うんだよ」

 「僕なんか、綾波と付き合えるわけないじゃないか」

 シンジは、レイにのされた時のことを思い出す。

 きっと軽蔑されている。

 『シンジ。自信持てよ。おまえ、エヴァのパイロットじゃないか・・・』

 『一応、守秘義務だろうけど・・・公然の秘密なんだぞ・・・』

 『そ、そうなんだ』

 『お、おまえな』

 『使徒が来て生徒全員が同じシェルターに避難しているだろう』

 「・・・・」

 『おまえら二人だけ警報が鳴る直前に車に乗ってどこかに行く』

 「・・・」

 『それなのに教師は騒いでいない』

 『怪しさ爆発バレバレじゃないか』

 「ははは・・・」

 シンジは力無く笑う。

 子供の情報収集、分析処理、推理力をNERVが考慮していないと理解する。

 「まあ、今となっては、AT計画が失敗したのも、わかるような気もする」

 「エ・・AT計画って?」

 シンジ慌てる。

 ATフィールドは、NERVの最高機密だった。

 「綾波追跡計画」

 ホッとするシンジ

 「お・・俺たちだけじゃないぞ・・・」

 「綾波って、美人だろう」

 「男子生徒が何人も声をかけたけど。全員無視されて全滅」

 「それでも人気があってな。写真を撮れば売れる」

 「私生活を撮ればもっと金になると思ったんだけど・・・」

 「途中で、眠くなってしまうんだなこれが・・・」

 「俺たち以外にも、わかっているだけで6グループ19人が追跡して途中で眠らされたそうだ」

 「女子もや、女子が声かけても無視しよるから。いまでは誰も近付かんようになった」

 「それなのに転校したばかりのシンジが綾波と登下校しとる」

 「な、なんか、凄いね」

 シンジは、保安部員が仕事をしているんだと少しだけ、感心する。

 「まあ、守秘義務があるから言えないだろうけど」

 「綾波の事ならだいたい見当が付いているけどな」

 ケンスケは、ふふふと、メガネを指で持ち上げる。

  

  

 炎天下

 水着の女子は、プールで、はしゃぎ。

 体操服の男子生徒は、校庭でバスケット。

 待機中の男子生徒は、自然と女子生徒のプールへと目が行ってしまう。

 シンジは、ただプールサイドに座っているレイを見る。

 「おや、センセイ。真剣な目でなに見てんねん」

 「え! いや、何も」

 「ひょっとして、綾波きゃ!?」

 「旦那、お目が高い」

 「ち、違うよ」

 「まったまた。あ・や・し・い・な」

 「綾波の胸。綾波の太もも。綾波のふ・く・ら・は・ぎ・・・」

 「そ、そんなんじゃないよ」

 「だったら、なに見てんだよ。マジな目つきでさ」

 「どうして、いつも一人なんだろうと思って」

 「一年のときに転校してきて・・・いつも一人だったよな?」

 「そういや、綾波が誰かと話したり、笑うたりしてんの、見たことないな」

 「ずっとああだから、近寄りがたくてな」

 「昼休みの昼食を錠剤だけで済ませたり。似たようなパンばかり1個か2個だけ」

 「人間関係と同じくらい食事も貧相だし。おまえが一番近いんじゃないか」

 「ほんま。性格悪いんとちゃうか」

  

 シンジたちのバスケットが始まる。

 黄色い声援がプールサイドから聞こえる。

 「何でシンジばかり。見とれよワイのテクを〜」

 トウジは、試合開始のホイッスルとともに猛然とボールを取って走り、

 簡単にボールを奪われる。

 「うわああああぁぁぁあ!? 待ってくれ〜」

 「もう一度、ワシにチャンスをくれ〜!!」

 トウジの自爆漫才を女子が面白がる。

 「・・あははは。鈴原のやつカッコわる」

 「ださ〜い」

 「あははは」

 女子生徒たちは、指さして笑い始める

 「トウジのやつ。技が荒いんだよな」

 ケンスケが呟く。

 シンジがプールを見るとレイが日陰で我関せず。

  

  

 シンジは、初号機のエントリープラグから外を見詰めていた。

 零号機の肩の上でエントリープラグを調整しているレイが見えていた。

 足音が聞こえ。

 ゲンドウがタラップから降りて来ると緊張する。

 ・・・ゲンドウは、初号機を素通り・・・

 ゲンドウはレイに声をかけ。レイは嬉しげにゲンドウと話した、

 シンジは、ショックを受ける。

  

  

 家庭訪問

 その夜、ミサトとリツコがシンジの部屋に来ていた。

 前もって訪問を聞いていたシンジはカレーを作る。

 ミサトとリツコは、シンジの料理の腕が並み以上であると確認。

 「随分、美味しいわね・・・」

 「これなら一人暮らしも悪くないわね」

 「本当。美味しい。前から作っていたの?」

 ミサトは、ガツガツと食べる。

 「先生のところで、朝食と夕食を作ってたから」

 「じゃ いまも朝昼晩作っているの?」

 「夜に弁当のおかずと夕食をまとめて作って」

 「弁当のおかずは、冷蔵庫に入れて、朝食はパンで済ませていますけど」

 「合理的じゃない」

 「部屋も綺麗だし小まめに掃除している」

 リツコが、ジッーとミサトを睨む

 「何よ」

 ミサト、受けて立つ

 「ミサトも見習ったら、結婚できないわよ」

 「そ、そ、それは、あんたでしょう」

 「私は、使用人がいるから、それに自分の部屋の掃除はしているわよ」

 「食べられる物くらい作れるし」

 「むむむ・・・」

 「部屋のセンスもいいじゃない。青と黒でまとめて」

 「デパートの一人暮らし用のセット物をまとめて購入しましたから、センスがいいわけじゃないです」

 「でも身奇麗なのは性格よね。ミサトも見習ったら」

 「うるしゃい」

 ミサトは、ひたすら食べる

 「シンジ君。レイの部屋に行ったことある」

 「い、いえ、無いです」

 「奥手ね・・・たった二人しか住んでないマンションなのに」

 「で、でも、よくわからないから」

 「レイは、良い子よ、あなたのお父さんに似て、とても不器用だけど」

 「不器用って、なにがですか」

 「生きることが」

 「じゃあ、見てきたら」

 「一緒にカレー食べてもいいわね。連れてきてよシンジ君」

 「えっ!」

 「早く」

 面白がるミサト

  

  

 402号室

 シンジは、レイの部屋の前で躊躇。

 学校の帰り一緒に走って戻って、いるはず。

 と思いブザーを押す。

 音がしない。

 何度押しても音がせず。

 ノブを回すと鍵がかかっていない。

 電灯がついている。

 「ごめんください」

 中から返事が無く。

 シンジが引っ越す前の抜き打ちの壁。

 何も無い薄汚れた台所に驚く。

 インスタントラーメン、パンのビニール袋がゴミ箱に捨てられている。

 シンジが越してくる前の状態に近い。

 「ごめんください。碇だけど」

 返事が無い。

 「綾波。入るよ」

 薄埃が溜まった居間に入って息を呑む。

 ダンボールが積み重なり、衣服が無造作に出し入れしていた。

 奥の部屋に業務用ベット。

 空箱に血で汚れた包帯がダンボールに捨ててあった。

 殺伐とした空間。

 女の子の部屋とは、とても思えない。

 チェストの上の色メガネに気付く。

 レンズが割れて、熱で、フレームが変形している。

 『綾波のメガネ?』

 何気なく、手を伸ばして、かけてみる。

 突然。

 かちゃ!

 という音がして、振り返ったシンジは息をのんだ。

 タオルを羽織っただけのレイが立っていた。

 焦って、チェストにぶつかって、引き出しから下着が落ち、

 散乱した下着を中に入れる。

 レイがシンジの持っているメガネに気付き、

 裸を隠すことも無くシンジに詰め寄った。

 「ぼ、僕は、リツコさんが綾波を呼んで来て・・・て、言われて・・だ、誰もいなかったから」

 あとずさる。

 レイは、シンジのかけているメガネを掴み取ろうとし、

 シンジは足元の下着に滑って、レイを押し倒してしまう。

 シンジと全裸のレイは、重なり、

 「「・・・・・」」

 シンジは、声が出せず、汗が出てくる

 「どいてくれる?」

 シンジは、レイの胸のふくらみに手が触れていることに気付き、恐る恐る引っ込める。

 レイは、シンジを押しのけると散らばった下着を着け、

 シンジは慌てて背を向ける。

 「なに?」

 「ああ・・ごめん」

 「そのう、リツコさんとミサトさんが僕の部屋にいるんだけど」

 「綾波も呼んできて、って言われて」

 「そう・・・服を着たら、行く」

 「じゃ 先に行くから」

 『最低だ。僕は』

  

 シンジは、真っ赤になって403号室に戻ってくる。

 ミサトとリツコが面白そうにシンジの顔色を窺う。

 「・・・もうすぐ来るよ」

 「ははぁ シンジ君。入浴中を襲ったな」

 真っ赤になって俯く。

 ミサトは、ニタニタ。

 リツコは微笑む。

  

 しばらくすると制服を着たレイが来る。

 シンジは真っ赤になってレイを案内。

 レイはキョロキョロと台所を見回し。リツコの前に立つ。

 「レイ。そこに座って、カレーを食べなさい」

 「はい」

 レイは機械的にイスに座ると食事を始める

 「レイ。美味しい?」

 「はい・・・・でも、肉は嫌い」

 レイは、肉を隅に移しながら食べる。

 「ふ〜ん。シンちゃんの作ったカレー美味しいんだって。良かったね。シンジ君」

 シンジは、隣に座ってカレーを食べるレイを正視できず、挙動不審だった。

 「どうも」

 それを見て、ミサトとリツコが面白がる

 「ねえ、シンジ君。レイの部屋、どうだった?」

 ミサトの言葉にリツコが面白がり。

 シンジは複雑な顔をし。

 レイは無表情だった。

 「こ、個性的な部屋でした」

 「ちょっと、シンジ君。女の子の部屋に入って、それは無いでしょう」

 「せっかく、慣れるまでシンジ君の面倒を見るようにレイに言ったのにトウヘンボク」

 「褒めなさいよ、かわいい部屋とか、綺麗な部屋とか」

 リツコが噴出す。

 レイは、無表情に黙々と食べ、

 「で、でも・・・ごめん」

 シンジなりに最大限の賛辞をしていた。

 リツコは、だいたいの見当がついており。

 ミサトは、気の利かない部下に呆れる。

 レイは、まったく意に介していない、だった。

 「・・・さてと、ミサト。そろそろ、行きましょうか」

 「まったく・・・じゃ・・・二人とも仲良くするのよ」

 リツコとミサトは、そそくさと帰っていく。

 「ぁ・・・」

 カレーを食べているレイと二人っきりで残されるシンジは慌てた。

 『いまは、まずいよ。あんなことがあったのに』

 シンジは、レイを押し倒し、胸を触ったことを思い出す。

 右手にやわらかい感触が残っていた。

 ごっくん!

 シンジは怯え。

 バタン!

 無情にも扉は閉まってしまう。

 レイは、自分より、はるかに強く、その気になったら半殺しの目に合わされる。

 シンジは、自分のカレーをそそくさと食べてしまうと。

 ひきつりながら、後片付け。

 「あ、綾波、ゆっくり食べていいから、御代わりも食べる?」

 レイは首を振る。

 「あ、あのう、さっきはごめん。ワザとじゃないんだ」

 「・・・・」 レイは、無表情にコーヒーを飲み。

 『こんな話しじゃ駄目だよ・・・・なんかもっと、いい話しができないかな』

 「碇君」

 「はい」

 どきっ! 

 身構えるシンジ

 「美味しかった。ご馳走さま」

 そういうとレイは帰っていく。

 はあ〜

 ため息をつく。

 『完全に嫌われた』 落胆 & ほっとする

  

  

 402号室

 レイは、自分の部屋が暗く汚れて、何も無いことに気付く。

 『碇君の部屋と逆。碇君の部屋、明るく綺麗で暖かい・・・』

 『私には、なにもないから』

  

  

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第02話 『知らない天井だ』
第03話 『綾波レイと・・・・』
第04話 『笑えば良いと思うよ』
登場人物