月夜裏 野々香 小説の部屋

   

新世紀エヴァンゲリオン 『赤い世界』

       

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 人類補完計画ゼーレ案主導のサードインパクト世界

65話〜70話 + 惣流・アスカ・ラングレー物語 T から

『赤い世界を抜粋し推敲・加筆した総集編です。

LASな方用に『一人暮らし』から切り離しました。

『一人暮らし』からの方は、読まなくても良いかも

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 第00話 『赤い世界』

 赤い海、赤い空。

 赤い世界の波打ち際。

 碇シンジと惣流・アスカ・ラングレーが眠っていた。

 アスカは、量産型エヴァとの戦いの後遺症なのか、頭から包帯を巻いている。

 砂浜を歩く音が、眠っているシンジとアスカの枕元に・・・・

 赤い世界に一回り背の高い碇シンジが立ち、

 眠っているシンジとアスカを見下ろしていた。

 !?

 倒れていたシンジが気付いて目を開ける

 背の高いシンジと倒れていたシンジ。互いに似たような反応を見せる。

 天上天下唯我独尊。古今東西唯我独尊。

 世界には似た人間が三人いても同じ人間はいない。

 「君は・・・・」

 沈黙に耐えかね。

 くだらないことを聞くのは、背の低いシンジだったりする。

 「・・・碇シンジ」

 「碇シンジは、僕だ」

 「そう・・・何が起こったんだ。この世界?」 背の高いシンジは、呟く。

 「・・・わ、わからないよ。気付いたら、こうなっていたんだ」

 「ふ〜ん・・・・綾波は?」

 「し、知るもんか!」

 背の高いシンジはアスカの頭をやさしく撫で、

 ATフィールドでアスカの傷ついた体と気持ちを補完していく。

 第15使徒アラエル (ARAEL)と第16使徒アルミサエル (ALMISAEL)の技の応用だった。

 背の低いシンジは、背の高いシンジの見覚えのあるオレンジ色の光の粒子を見て、驚く。

 「そ、それは・・・・」

 「ATフィールドだ。傷を治せるよ」

 「・・・・」

 

 

 そして・・・・・

 眼を覚ます。惣流・アスカ・ラングレー

 「・・・あんた誰よ」

 「ふ 碇シンジ」

 「なんで、碇シンジが、二人いるわけ」

 くすっ♪

 背の高いシンジが面白そうに笑う。

 「・・・あ、あんた。バカシンジの癖に。なに、加持さんの真似しているのよ」

 ますます、微笑む。

 「・・・・・・・・」 憮然

 「・・・二人に、この世界のことを教えてあげるよ」

 「「!?」」

 「この世界は、ゼーレの仕組んだ人類補完計画が成功した世界なんだ」

 「成功? こんな世界が?」

 「本当に完成するまで、数万年必要だよ」

 「人類全ての心身が溶けた人間社会全般に存在する葛藤と苦しみのない世界」

 「ぼ、僕たちは?」

 「君たちは、この世界を作るために拠り代として、一時的に利用されたんだ」

 「何ですって!」

 「どうして?」

 「君たちは、この世界のアダムとイブというところかな」

 「君たちは、生み増えながら、この紅い海へ新しい命を継ぎ足していく」

 「冗談じゃないわよ。だれが、こんなヤツ!!」

 「ぅぅ・・」

 なんとなく自分のいた世界の自分自身とアスカの関係とあまり変わっていない気がする。

 「・・・二人とも、なかよく・・・・・」

 ふいに襲ってくる喪失感、

 別世界のシンジが、この世界から消えていく。

  

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 シンジとアスカは、海岸線から見えた白い大きな別荘へと入っていく。

 アスカは、無造作に別荘でくつろいだ。

 「ア・・・アスカ・・・良いのかな・・」

 「名にびびってんのよ」

 「あのLCLの男が言ったでしょ。この世界は、わたしと、あんたしかいないって」

 「・・・う・・・うん」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 惣流・アスカ・ラングレーは、NERVの資料を漁って、ぶすくれ。

 碇シンジは、白い別荘の周りに畑を作り、作物を栽培していた。

 「「!?」」

 二人が気付くと、背の高いシンジが手を振る。

 「やあ、君たち」

 「・・・あら、LCLの化物が出たわ」

 「!?」

 人間は、未知のものに恐怖する。

 しかし、彼女は、不敵な表情を見せた。

 どうやら人類補完計画を理解しているらしい。

 「ア、アスカ」 中学生のシンジが、非難気味。

 「LCL液・・・なるほど・・・どうやら、この世界が僕を呼んだのかな」

 「どういうこと?」

 「・・・この世界は、君たちが心配だったらしい」

 「私たちを騙し、利用して捨てた世界に何の用もないわ」

 「だから君たちを守って保護している」

 「贖罪だよ」

 「この世界は、まだ、統一した感情や意思が現せないから代わりに僕を呼んだんだ」

 「それで?」

 「この世界は、君たちを愛していると僕に伝えて欲しいと思うよ」

 「例え、この世界を君たちが憎んでいたとしてもね」

 「あんたは、誰よ」

 「僕は、別の選択をした世界の碇シンジだよ」

 「どういう世界かしら」

 「ゼーレの人類補完計画を拒んで、原案にスケールダウンした世界かな」

 「・・・あんたが、そうしたの?」

 「僕が?」

 「まさか、そんな力はないよ」

 「切っ掛けとか、歯車の一つで、そうなっただけで、ほとんど大人たちが、やったことだから」

 「ふ〜ん もう一人の私は、どうしているのかしら?」

 「いまは、財閥の社長で素敵な女性だよ」

 「・・・・・・・・」 じと〜

 「そ、そして、いろいろ指図をするんだ。僕に・・・・」

 「ぷぅ!」

 中学生のシンジが噴出す。

 「・・・世界は、違っても、あんたたち同じね」

 「視線に耐えかねて、直ぐに目を逸らす」

 「「ぅ・・・」」

 「まぁ どうせ、この世界も今の私たちを利用するんでしょう」

 「それは、どうかな、人類に選択する道が他にもある」

 「「・・・・・・・・」」

 「君たち二人は、もう一つの選択をする自由が、ある。素晴らしいと思うよ」

 「それで、私たちで、もう一度、人類を興せというわけ」

 「そういうことに、なりそうだね」

 「あんた。シンジの癖に何で加持さんみたいな言い方するのよ」

 「君らの幸福を望んでいるからだよ」

 「ふん!」

 「・・・・・・」

 「・・・君たちが、死んだあとは、LCLの世界に入っていく」

 「僕は、その世界に入ったことがあるけど、良い所だったよ」

 「・・・・」

 「だけど、増殖する力がないみたいだ。君たちは、生きている間、幸せになるべきだよ」

 「この世界は、それだけのものを君たちに与えてくれ・・・」

 意識が消え失せると別世界のシンジは、違う場所に立っていた。

 どうやら時間的な制約があるらしい。

  

 紅い海の海岸。

 目の前に中学生だったころのレイが立っている。

 「・・・綾波」

 別世界のシンジは、思わず両手をレイの両肩に置く。

 「!?」

 「・・・辛かっただろう?」

 「・・・・・・・」

 「綾波」

 「・・・碇君と、少し違う」

 「君は、最初の頃の綾波と似ているよ」

 綾波が肩に置かれた手を見つめる。

 「あ・・・ごめん・・・」

 シンジが手を引っ込めてしまう。

 「・・・あたたかい・・・別の世界では仲が良かったのね」

 「うん」

 シンジとレイは、紅い海岸に向かって座る。

 「綾波。君と婚約したよ。高校を卒業したら結婚する」

 「そう・・・・違う私は、その道を選択したのね」

 「綾波は、二人のところに行かないの?」

 「この体は、まだ、一時的なもの・・・あなたと同じLCL液だから」

 「・・・綾波。今の選択で、満足しているの?」

 「わからない」

 「・・・そう・・・」

 紅い風景の色が中学生の綾波の横顔に映える。

 「・・・いつも、そういう風に・・・もう一人のわたしを見ているの?」

 ドキッ〜!!

 「・・あ・・・うん」

 ドギマギしながら隠れ見るシンジの視線は、バレバレだったらしい。

 勇気を磨り減らして綾波とキスをするのも見抜かれているような気がする。

 「・・・そう・・・」

 自分の知っている綾波と同じように微笑むのが不思議。

 「綾波は、後悔していないの?」

 「・・・数万年後、この世界は、群集意識を持つ液体生命体になるわ」

 「そうなったとき、一つでも個別に動き回れるようになる」

 「その頃、碇君と、もう一度、歩けるかもしれない」

 「・・・どっちが良いか、わからないけど、僕は、僕の世界で良いと思っている」

 「綾波のことが好きだから」

 「!? あ、ありがとう・・・」

 「綾波の隣の部屋に引っ越してから、僕の人生は変わった気がする」

 「・・・そう、私の世界の碇君は、コンフォート17」

 「葛城少佐、二号機のパイロットと住んでいたわ」

 「・・・それは、酷いことになりそう」

 「碇君は、何も言わなかった」

 「住めば都だからね。僕は、生活に馴染んでしまうんだ」

 「・・・そう・・・」

 綾波の横顔が、寂しげで、ふいに視界がぼやけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   

  

 白い別荘。

 シンジとアスカの二人っきりの世界。

 しかし、個体の違い。個性の違い。異性の違い。彼我の距離を感じる。

 寂しさと孤独感。葛藤と衝突を感じる毎日。

 この苦痛に耐えかね。

 “個体の群れ” という存在を捨て、

 一つになる道を選択した紅い世界が広がっている。

 そして、二人は、その世界から捨てられた。

 紅い世界のシンジは、高校生のシンジとの出会いで自分の将来的なモデルを掴んでいく。

 何年かすれば、もう一人のシンジのように大きくなれると。

 シンジは、高校生のシンジがアスカを癒した様子を見ていた。

 そして、内にある恐れが薄れ、自分の力に気付き始める。

 あの力が使えるのではないかと・・・

 「アスカ・・・海岸を歩かない?」

 「ふ〜ん・・・・珍しいじゃない。あんたから、誘うなんて・・・」

 アスカは、NERVのマル秘資料から視線上げて、シンジを注視する。

 ドギマギと視線を避けるシンジ。

 二人の間には、確固たるルールがない。

 ルールがあれば、衝突を最小限になるだろう。

 しかし、シンジは性格的に意思薄弱。

 アスカに遠慮しているのか、後ろめたいのか引き気味。

 アスカが強い態度にでても我慢していた。

  

 アスカは、マギの情報を漁ったお陰で、シンジの後ろめたい理由を知っていた。

 自虐的に手をニギニギさせ、堪えてしまうシンジにも呆れている。

 アスカは、二人のルールが、どこまで通用するのか、試しているだけ・・・・

 「・・ま・・いいか・・・」

 アスカは、なんとなく、シンジに付いていく。

 実力や能力は、社会的な地位を得られるだけのこと。

 人は強圧的な主従関係では満たされない

 恐怖、専制、封建の歪な人間関係で人は満足しない。

 真に求めている事柄は、概して対極にある。

 互いに真実を求め、愛を求め、正義を求める。

 健やかなるときも、病めるときも。

 喜びのときも、悲しみのときも。

 富めるときも、貧しいときも、

 これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くす。

 結婚問答に限らず。人が人に求めるのは、これ。

 しかし、普通は、違う。

 健やかなるときは、傲慢になり。

 病めるときは、卑屈になる。

 喜びのときは暴虐。悲しみのときは憎み。

 富めるときは勝ち誇り。貧しいときは、ひがみ、やっかむ。

 憎悪、蔑視、虐げ、見殺し。

 命のある限り、他人も家族も、自分すらも騙し続ける。

 どうせ、二人しかいない世界。成るようにしかならない。

 一度壊れた関係は誰も修正してくれることはない。

 少しだけ正直に、少しだけやさしく、少しだけシンジに良くしても良いだろう。

  

 

 『一人暮らし』 & 『赤い世界』

 紅い海のシンジとアスカ。

 蒼い海のシンジとレイ。

 それぞれの空を同じように見上げる。

 少しの寂しさと少しの楽しさ。

 そして、少しの辛さ。少しの葛藤だけなら自分の思い通りにならなくても、

 生きて、歴史を綴れる自分を幸せだと思う。

   

  

 海岸沿いの白い別荘。

 少年と少女がテラスのテーブルを挟んで座っていた。

 シンジも、アスカも、一人より、二人でいたいのだろう。

 ストレスになっても、あまり離れることはない。

 NERVのマギが機能しているおかげで電気も、水も、ガスもある。

 食料は、インスタントもあれば、米も、腐るほど・・・・

 動植物は残されており、

 生態系の頂点に君臨する人間は、二人だけ。

 赤い世界で他に人がいないだけ、真新しいことは、何もなかった。

 退屈しのぎといえば、漫画を読むか、ビデオを見るくらいだろうか。

 互いに懲りたのか、他人がいたら “おまえら、熟年夫婦か”

 と、突っ込まれそうな距離を保って、一緒にいる。

 シンジが読んでいたマンガから目を離した。

 「あ・・・あのう・・・・アスカ・・・」

 「・・・・・」

 「た、退屈だね」

 「・・・あんたはね」

 アスカは、NERVから持ち出したマル秘資料を読み漁る。

 端末もマギ直結で赤木リツコレベルの情報が入る。

 「な、何か、僕に、できること無いかな」

 「じゃ この計算をやって見せて」

 アスカは、書類をシンジに手渡す。

 絶望的になるシンジ。

 「あ、あのう・・・アスカ」

 「なに?」

 「・・・・・・・・」

 「シンジ」

 「なに?」

 「私を抱きたい?」

 「え! い、いや・・・そ、そうじゃなくて・・・」

 「その気になれないのよね・・・」

 「・・・・・・・」

 まだ、そういう関係にはなっていない。

 そして、男と女の間は、深くて広い溝がある。

 というより、気質の違い。

 それなりに覚悟を決めているアスカと場当たり的に寂しいシンジだった。

 アスカは、サードインパクトの概要をほぼ掴んでいた。

 情報を知る者は、感情だけに左右されず有利な選択ができた。

 というより、情報が無ければ、情緒すらも湧いてこない。

 この矮小なシンジは使徒が起こそうとしていたサードインパクトから人類を救っている。

 本人が気付いていないだけで、功績がモノを言う。

 本当なら歯牙にもかけたくないバカな小男だが軽蔑気味の気持ちも揺らいでくる。

 『こんな計画で使徒を退けて、人類が生き残ったなんて、奇跡ね』

 『ATフィールドの性質が心の壁だとしたら・・・』

 『シンジのATフィールドが異常に強いのも納得か・・・・』

 『使徒がリリスを求める動機が、裏死海文書に書かれていない・・・』

 『使徒が完全な固体を選択したのなら、リリスは無用になるはず・・・』

 『基礎になる。計画に穴がある・・・』

 『そういえば、この前、来た。あの高校生のシンジ・・・』

 『何か、言ってたような・・・言ってないか・・・』

 『ったく。あっちのシンジも、こっちのシンジも、大局観ナシじゃない・・・』

 『そういう風に育てられたからって、腹が立つわね・・・』

 何より気に入らないのはサードインパクト前と、

 いまのアスカ自身の精神状態が違い過ぎた。

 二号機の中に母親がいたことは、最後の戦いの時に知っていた。

 母親から捨てられた娘ではない。

 母は、自分を見守って、一緒に戦っていた、ということも知っている。

 しかし、二号機は、量産エヴァに喰われたはず。

 これほど、精神的な刺々しさが消えることはない。

 この癒されたような精神状態は、サードインパクトにあるのか、探る必要があった。

 精神的に追い詰められても自分自身の心である方が良い。

 アスカは肉体も、精神も、傀儡であることを望んでいない。

 「・・・シンジ。明日、NERVに行くけど、あんたは、どうする?」

 「ぼ、ぼくも、行くよ。一緒に・・・・」

 「農園は?」

 「いまは、寒いから、地中に電線を通して、農園を保温してみようかと思っているんだ」

 「水がしみ込まない?」

 「・・・ハウス栽培の方が、良いのかな?」

 「どっちでも・・・」

 「ア、アスカ・・・ぼ、僕のどこが気に入らないのかな?」

 「はぁ〜 シンジ。あんた、私に気に入って、もらいたいわけ?」

 「「・・・・・」」

 「男なら、おべっかを使うな。女に惚れさせろ!」

 「ぅ・・・どうやって・・・」

 「自分で考えろ。バカシンジ」

 「わ、わかんないよ!」

 「・・・・」

 「そんなのわかるわけないじゃないか。アスカが、どんな男を好きかなんて!」

 「逆ギレ〜」

 「そ、そんなんじゃないよ!」

 「男なら覇気を見せてみろ」

 「覇気?」

 「そう、覇気」

 「「・・・・・」」

 「じゃ アスカを・・・・襲う」

 「ほお・・・」

 シンジは、真っ青で立ち上がると無表情なアスカに迫っていく。

 そして、ぼんやり、見ている、アスカの肩に手を乗せる。

 「「・・・・・」」

 「っで・・・」

 「・・・な、殴らない?」

 「殴る」

 アスカの方が強かった。

 こうなると、ヘビに睨まれたカエル。

 シンジは、怖気づきながら離れていく。

 「「・・・・・・」」

 「・・・そ、そうだ。あ、あした、こ、コレやるよ」

 シンジが唐突にテーブルにあった雑誌を指差す。

 バンジージャンプの広告が載っている。

 「・・ふ〜ん」

 「・・・・・・」

 「・・・はぁ〜 いいわ、飛び降りることができたら抱かせて、あげる」

 「え、本当!」

 「ええ・・・でも、飛び降りることができなかったらシンジ。あんた、私の奴隷よ」

 「い、いいよ」

 「ふっ」 にやり

 「で、でも、い、いまの、げ、下僕と、奴隷と、どう違うのさ」

 「下僕には人権があるけど、奴隷には人権がないわね」

 「・・・いまと、あまり変わらないような気がする」

 むっ!

 自動車は、腐るほどあった。

 アスカは、かなり上手い。

 シンジは、ヨタヨタと走って、時々、エンストする。

 ほかに走る車が無いのだから事故が起きても自損事故。

 物損だけなら良いのだがシンジに死なれると少々どころか一人残されて、かなり困る。

 というわけでシンジの運転する車に乗りたくない。

 その夜

 アスカは、横になり、ぼんやり、月夜を眺める。

 シンジをバンジージャンプの賭けで煽った、元々、女の子を襲うタイプではない。

 どちらかというとアスカの方が強く、その気になれば素手で虐殺。

 しかし、シンジが銃で脅してくれば勝てない。

 格闘技の差も、その程度。

 もっとも、来たら、来たらで、どうしたものか、という気にもなる。

 ほかに男がいないのだから、いずれは、と思っているが、

 今が駄目、というわけでもない。

 なんとなく、寂しく肌寒いのに踏ん切りがつかないだけだろうか。

 シンジも似たようなものだろう。

 あのバカは、やさしく接して笑いかけて、もらいたいだけ。

 寂しん坊で本能そのままの欲しがり。

 それ以外は、考えていない。

 自分自身を納得させるだけの口実と相手に求める最低限の資質もある、

 どちらも、満ちていないように思える。

 それが満ちれば、後は、勢いとタイミングだろうか。

 確かに誘うような素振りは女に必要かもしれない、

 しかし、積極的な面も男に必要だろう。

 こういう計算をしないシンジは感情的で思慮が浅く、かなり能天気。低脳といえる。

 この前、別世界から来た高校生のシンジになると、もう少しマシ。

 自分の知らない、未知の情報を知っている表情だった。

 一定レベル以上の知性を裏付けにした言動は、わかりやすく、

 謎と刺激があり魅力もある。

 『まずは、私の精神状態を変えてしまうような “何か” を探らないと・・・・』

 『あのバカはバンジーなんて、できるはずがない』

 『いくら功績があっても。自分自身が、わからないなんて、どうしようもないわ』

 『あの無知バカを教育してやるか・・・』

 『神経質で懐も狭く、視野も矮小なバカシンジに抱かれるのは、気持ち悪い・・・』

 『もっと、良い男になるように・・・zzz』

 アスカの碇シンジ育成計画が始まる。

  

  

 中学生シンジは、夜、こっそりと別荘から出て、海岸線を歩く。

 明日のバンジージャンプは、不安だった。

 ・・・アスカと・・・・・・涎が出てくる。

 自分の内にあるモヤモヤとしたものを処理する必要に迫られる。

 手を海岸線に向けてかざすとATフィールドが展開できた。

 これが自分自身だけで起こった事なら恐慌状態。

 しかし、別世界の高校生シンジは、当たり前のように使っていた、

 おかげで平静を保てた。

 「・・・もっと、きめ細やか、だったっけ・・・」

 絞り込んでいくとATフィールドの形を変えることができた。

 「・・・もう一人の僕と話したいな」

 中学生のシンジが望んでも高校生のシンジは現れない。

 それでも、高校生のシンジが、やったようにアスカを助けることができると、毎夜、練習していた。

 パワー全開で単調なATフィールドを出すより、

 小技で微細な使い方をした方が、次に全開にしたときのパワーが増す。

 これは、不思議というより、格闘技で似たような経験をしている。

 「アスカは、ATフィールドが使えないのかな・・・」

 ため息。

 「そんな風でもないし、化け物扱いされると、イヤだし・・・」

 ため息。

 不意にこれまで感じたことのない気配を背後に感じる。

 振り返ると男女が二人。

 「これは、これは、珍しい世界に珍しい人物にあったね」

 「・・・未夜様。碇シンジです」

 「だ、だれ?」

 「未夜だ。こっちは、千歳ミズキ」

 

 「・・・・どうして、僕の名前を知っているの?」

 「戦ったことがあるだろう。レリエルだよ」

 シンジの表情が変わる。

 「もっとも、別の世界のレリエルだけどね」

 「・・・・」

 「ミズキ。ここは、最近分岐した世界だろうね」

 「な、何か、用なの?」

 「取り立てて用事はないよ」

 「暇潰しに旅をしていたら、珍しい世界で珍しいATフィールドを感じてね」

 「・・・・・・」

 「この世界にリリスは残されていた」

 「だけど、改造されていなくても相性が良くないね」

 「残念です。未夜様」

 「この世界のリリンは、人の形を捨て継承を望んだのかな」

 「それとも、本筋から離れ別の進化を望んだのか・・・・」

 「・・・・・・」

 「もっとも、本筋の進化は使徒も知らないからね・・・」

 「・・・・・・」

 「じゃ・・・別の世界の碇シンジ君。僕たちは、これで、お暇するよ」

 「この世界が私たちを消したくなる前に・・・」

 不意に二人が黒い光を放つと消えてしまう。

 赤い世界に取り残されたシンジは、いつもより長めのATフィールド練習をする。

  

  

 翌朝

 バンジージャンプの施設も無人だった。

 シンジが、ビルの上から下を見ると目も眩むような高さに怖気づく。

 双眼鏡で覗くとアスカは、下にテーブルを置き、

 マンガの山を作って、コーヒーを入れ、くつろいでいる。

 さらにベットを置いて、明らかに長期戦の構え。

   

 「・・・ア、アスカ・・・なにやっているんだよ」

 『シンジ。がんばってね。ベットも用意して、待っているから♪』

 「ぅ・・・」

 無線の調子は憎らしいほど良かった。

 シンジは、バンジージャンプの機材を何度もチェックする、

 マニュアル通り、ロープを脚につける。

 そして、恐る恐る、下を覗き込む・・・

 アスカは、マンガに魅入っている。

 明らかに暇潰しか、第三者。賭けの当事者と思っていない。

 『・・・シンジ〜 まだぁ〜 わたし、もう、我慢できない〜』

 「ぅ・・・・」

 『はやくぅ〜』

 無線からアスカの甘い囁きが聞こえる。

 しかし、上から見るとマンガに魅入って、ニヤニヤしているのが良くわかる。

 「ぼ、僕が死んだら、どうするんだよ!」

 アスカは、上を見上げると、小悪魔の微笑み。

 どこで覚えたのか、小指から人差し指まで、そそるように折り曲げて誘って魅せた。

 「アスカ〜」

 『ほら、シンジぃ 見て、この胸、張りと弾力があるわ。突付くと弾むの〜』

 アスカが自分の胸を持ち上げてみせる。

 『触りたいでしょう』

 「・・・ぅ・・・な、殴らない?」

 『殴るか!』

 「・・・ぅ・・・」

 『ほら、この脚も、白くて、サラサラ、スベスベ、滑らかよ。触りたい?』

 アスカが白い脚を持ち上げ、手で摩る。

 「ぅ・・・アスカ・・・ほ、本当に良いの?」

 『シンジ〜 飛び降りて、惣流・アスカ・ラングレーを自分のモノにしてみせなさいよ」

 色っぽく囁いているのだが面白がっているのは、良くわかる。

 「ぅ・・・・」

 『はやくぅ〜』

 「ぅ・・・・」

 『シンジを、やさしく、抱きしめて頭を撫でて、可愛がってあげても良いわよ』

 「・・・ぅ・・・」

 『シ・ン・ジ・は・や・く♪』

 「・・・ぅ・・・」

 『シ・ン・ジ・は・や・く♪』

 「・・・ぅ・・・」

 『シ・ン・ジ・は・や・く♪』

 「・・・ぅ・・・」

  

      

    

 3時間後

 シンジに泣きが入り、アスカに謝り許してもらう。

 アスカが車を運転。

 「・・・ありがとう・・・・永遠のアスカ様」

 代償で “永遠の・・・様” を付けなければならなくなる。

 「まぁ 暇潰しになったわね」

 「ぅ・・・最初から無理だと思っていたんだ」

 「当たり前よ。私、パラシュート降下3回。バンジージャンプ5回。やってたから」

 「シンジが無理なのはすぐわかる」

 「うっ」

 「はぁ しょうがないわね」

 「本当なら言わないけどシンジを待っていたら、私、ババァになりそうだから・・・」

 「・・・・」

 「いい。シンジ。女の子っていうのはね。最初は、刺激のある男に魅力を感じて惹かれるの」

 「・・・・」

 「体は、歳を取れば醜くなっていくけど」

 「中身の魅力が体以上であれば、相応に輝いて見えるものよ」

 「・・・・」

 「バンジージャンプは・・・そうねぇ〜・・・」

 「・・・・」

 「まぁ この天才アスカ様に賭けを挑んで来たのは、面白かったわね」

 「・・・・」

 「あとは、わたしに合わせて、好かれるより」

 「自分自身を磨いて、わたしを虜にさせるだけの魅力が欲しいわね」

 「・・・・」

 「未知の刺激。包容力、知性、体力。荒い気性とかもね」

 「基本的に器が小さいとか、視野の狭い自己中じゃ駄目よ」

 「・・・・」

 「ということでシンジ」

 「あんたは、これから、私の奴隷として生きるの」

 「徹底的にしごいて、少しは、マシな男にしてあげるわ」

 「・・・ぅ・・・」

 「勉強も必要だから教えるけど」

 「とりあえず。NERVに行く前に私の散髪をしてもらおうかしら」

 「・・・・・」

 「シンジ・・・返事は?」

 「はい、永遠のアスカ様」

 車は、美容室へと入っていく。

  

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   

 NERV基地は、半壊。

 マギは、廃墟に剥き出しにされた状態で、機能していた。

 あの水槽は、何もないまま、破壊されている。

 そして、アスカとシンジは、さらに奥に入っていく。

 「・・・アスカ。なんか凄いね」

 「そう?」

 「どこに行くの?」

 「・・・だいたい、わかっているから、あとは、実地検分ね」

 「調べ物?」

 「ええ、パターン青の検知器」

 「ふ〜ん」

 「シンジには、わからないでしょうね〜」

 「わ、わからないけど・・・」

 「でしょうね」

 「説明してくれたって、良いじゃないか」

 「パターン青を計測するのは、ATフィールドを計測しているということ」

 「うん」

 「この世界をゼーレは不完全な群れから群集意識体へと進化した世界だと思っているわけ」

 「そして、それ自体が、巨大な一つ精神フィールドなの」

 「そして、当然、ATフィールドを感知できるわけ」

 「ふ〜ん・・・・」

 「もう・・・半分わかっていないわね」

 「あはは・・・」

 「まぁ いいわ」

 「結論だけ言うとパターン青検知器は、ゼーレと交信する通信機に改良できるかもしれない」

 「そ、そうなの?」

 「わたし、これでも、天才なのよ」

 「ぼ、僕も、そう思うよ」

 「・・・・」

 「でも、アスカ。本当にゼーレと交信したいと思っているの?」

 「なぜ?」

 「だ、だって・・・・あんな目にあったのに・・・」

 「それが不思議なのよね。精神が、変にすっきりしているのよね」

 「アラエルのときの逆の現象みたいに・・・・」

 「そ、その方が嬉しいよ。な、なんか、むかしのままだとズタズタにされそうで不安だし」

 「あのねぇ。狂犬じゃないんだから。誰にでも噛み付いたりしないわよ」

 「そ、そうだったっけ」

 「そうよ」

 「で、でも、ゼーレと、どんな話しをするのさ」

 「人類補完計画が成功しているか確認しないと・・・」

 「気になるの?」

 「そりゃ、気になるでしょう」

 「死んだら、そっち行きの可能性大よ。失敗だったら他の選択を考えないと・・・」

 「・・・・」

 「だいたい、人間って言うのは、ハングリーな状態。欲望が必要なのよ」

 「そうなの?」

 「不完全であることが心と体を動かす原動力で完全性を求める動機なの」

 「完全だと満足して動きが止まる、ということね」

 「んん・・・・」

 「ちっ! もう、7割は、わかってないわね」

 「ぅぅ・・・」

 「コーヒーを飲みたいと思うから。コーヒー豆の畑が必要になるの」

 「運んで、サービスも必要になる。そして、淹れる」

 「うん」

 「でも飲みたいと思う前に飲んでいたら?」

 「ん?」

 「飢えとか。満たされない欲望とか。人と人との葛藤は必然で」

 「人間にとって必要なのかもしれない・・・」

 「でも、なんか、不幸じゃない? それ」

 「そうよ。不幸な状態から、より幸福になろうという欲求が人の心と体を動かす」

 「不幸がわからなければ、幸福もわからない」

 「んん・・・」

 「他者との関係性で自我を確認する」

 「自己を否定して社会に妥協すれば、不満とか、不幸を感じる」

 「だから人は、社会や他者の圧力を押しのけ、エゴを拡大させて満足感が得られる」

 「でもアスカ。戦争とか、飢餓とか、不都合があって人類補完計画なんじゃ・・・」

 「ええ、独善が過ぎると社会や他者から抹殺されるか」

 「それとも社会を滅ぼし、他者を陥れるか。変革してしまう」

 「んん・・・・」

 「でもゼーレが完全な存在になっていたら、どうかしら?」

 「それは、良くないの?」

 「人は不完全だけど生きていける。周りも不完全だから」

 「でも、完全な人間が現れたら人は、拒絶反応を起こす」

 「なぜ?」

 「自分と社会の不完全さと自己矛盾に耐えられなくなるから」

 「自分自身が、嘘つきで、泥棒で、人殺しだと、わかるからよ」

 「ぼ、僕は、そんなことしないよ」

 「あら、嘘をついたことは?」

 「・・・あ、あるけど」

 「泥棒は?」

 「・・・・・」

 「人殺しは?」

 「・・カ、カヲル君は・・・」

 「そのカヲル君なんて、どうでもいいのよ」

 「・・・・・」

 「人はね、保身の為に嘘をつくの。それと、何かを奪うときも嘘をつく」

 「そして、見境がなくなると他人の物や人権、命、労働まで奪う」

 「ひがみ、ヤッカミ、ねたみだけで人を無視したり、追い詰めて、潰してしまうの」

 「それも根性の悪い人間じゃなくて普通の人がね」

 「じゃ 僕の人権はアスカに奪われているんだね」

 「うん。シンジ、嬉しい?」

 「・・・ぅ・・・」

 「そう〜でしょう。私を “永遠のアスカ様” と呼べるなんてシンジは幸せ者よ」

 「・・・ぅ・・・」

 「し・あ・わ・せ・も・の・でしょ」

 「はい、永遠のアスカ様」

 「というわけで、パターン青検知器を改良して」

 「ゼーレの存在を確認する為、ゼーレとコンタクトするんじゃない」

 『なにが、というわけ、なんだろう』

 「・・・ど、どんな人かな?」

 「サードインパクトのスペクトルとか、ベクトルとか、パラメーターにもよるけど・・・」

 「欲望がないか、少ない人々ね」

 「いくつか、パターンがあったけど、どれを使っているやら・・・」

 「使徒戦と平行してやるなんて・・・」

 「ゼーレも全財産を使徒戦に注ぎ込んで、自暴自棄になっていたとしか思えないわね」

 「でも、なんか寂しいよ。こんな世界」

 「そう? 私がシンジに刺激を与えてあげているでしょ」

 「そ、そうだけど・・・ど、奴隷じゃ・・・」

 「私の直属奴隷なんだから泣いて喜びなさい」

 「そ、そうなのかな・・・」

 「そうよ」

 「宗教っぽい」

 「そう、アスカ教よ。わたしが、神よ」

 「ぅぅ・・・」

 「良かったわね。シンジ。私が神で、この幸せ者」

 「でも、アスカって、凄いよ。その・・・いろんな考え方ができて」

 「カント、ヤコービ、フィヒテ、シェリング、ヘーゲル、ラインホルト・・・・」

 「ヘルダーリーン、ゾルガー、フリードリッヒ・シュライエルマッハー」

 「・・・・・・・・・」

 「ドイツの哲学者よ。ドイツでは、この手の観念哲学が進んでいるのよ」

 「で、でも、アスカって、凄いんだね」

 「シンジって。ボ、ボキャブラリーがないけど。こ、好意的なことを言うわね」

 「好意・・・」

 「悪くないってことよ」

 「そ、そう・・・・」

 「なに?」

 「カ、カヲル君にも、同じ事を言われたから・・・・」

 「ふ〜ん 私が、いない間、いろいろあったみたいね」

 「うん・・・」

 「なに? 良くやったね、って、慰めて欲しいわけぇ?」

 「い、いや・・・な、なんか・・・いいよ・・・」

 「そう・・・・」

 カプセルらしき物の前に来る。

 アスカがモニターを覗き込み、データーを解析していく。

 「ちっ! シンジ。あんた。少し外に出てくれない。確認することがあるから」

 「えっ! でも」

 「いいから。出ろ!」

 アスカが シィッ! シィッ! という態度。

 仕方なく出て行くシンジ。

 五分後、部屋から現れたアスカは失望気味。

 「・・・・・」

 「・・・大丈夫?」

 「・・・サードインパクトで実体は、溶けきっていたけど、潜在意識が残っているか」

 「?」

 「リリスの中継は、できそうね」

 「?」

 「私の端末に繋げたから。後は、送受信機と繋いで波長を合わせるだけね・・・」

 「アスカ。上手くいきそうなの?」

 「そうね・・・」

 「・・・・・」

 「シンジ・・・ファーストとは、どうだったの?」

 「し、知らないよ」

 「そんなに悪い娘じゃないわよ」

 「アスカは綾波のこと嫌っていたじゃないか」

 「むかしのことよ。いまは別に嫌っていないわ」

 「で、でも・・・」

 「ふ〜ん・・・そう・・・知っているわけね」

 「・・・・・」

 「近視眼」

 「・・・・・」

 「小心者」

 「・・・・・」

 「ビビリ」

 「・・・・・」

 「ヘタレ」

 「・・・そ、そんな風に言わなくたって良いじゃないか」

 「言いたくもなるわよ。私は、全然、気にしないし、ファーストには礼を言いたいくらいよ」

 「・・ど、どうしてさ」

 「私たち、というより人類は自業自得だけど。彼女は巻き込まれた方よ」

 「ど、どういうこと?」

 「さぁ まだ、概要しか、わかっていないから説明は難しいわね」

 「・・・・」

 「さっ 行くわよ。ここは気分の良いところじゃないし」

 「つ、次は、どこに行くの?」

 「時田工業よ」

 「ん?」

 「ジェット・アローンよ」

 「あれぇ〜!」

 「あるのは・・・2代目・・・みたいね」

 「原子力じゃなくて、エヴァと同じ。制御だけじゃなく、電源も外部に頼っている」

 「原子力を止めたんだ」

 「ええ、小型駆動系の人型ロボットも、あるわね」

 「これも、同じ。プログラムは、まだ見たいだけど・・・」

 「・・・・」

 「マギと直結させて指示を下せば使い道ありね」

 「な、なんに使うのさ?」

 「・・・いろいろ、よ」

 「いろいろ・・・?」

 「あんた。ばかぁ〜!」

 「ぅ・・・」

 「カードは、いくつも揃えて、おかないといけないのよ」

 「手駒が多いほど、物事は上手く転がせるの」

 「・・・・」

 「んん・・・切り札だけでも、30個くらい、欲しいわね・・・・」

 動機があり、能力があり、実行する意欲がある者だけが、歴史を動かせる。

 そうでない者は、追随するか。見物人。

 セーフティな安全弁か邪魔者でしかない。

   

 

 サードインパクトの後。

 人の出す喧騒がなく、静寂に包まれていた。

 その中で動いている人影は、二つだけ。

 中学生のシンジとアスカは、時田工業の倉庫に来ていた。

 あのJA暴走事件後、時田社長は、命脈を断たれかけた。

 一度、傾いた信用と財政難で危なく再起不能だった。

 生き残る為、妥協を強いられつつ方向転換を強いられる。

 しかし、ゼーレがNERVを見限った後、日本政府は対ゼーレ用の手駒を欲し、

 時田工業の再建策に投資する。

 辛うじて再建されたモノが残されていった。

 航空巡洋艦トライデント1機

 ジェット・アローン1体

 小型ロボット3体

 東京湾埋立地の倉庫に眠っていたのは、この5つだった。

 「・・・電力は、ここまで来ているみたいね」

 「うん」

 「・・・シンジ。回線をマギに繋げて、このシステムをマギの支配下に入れる」

 「う、うん」

 シンジは、アスカに散々しごかれ、オペレータ能力を少しだけ覚える。

 「・・・シンジ。ちが〜う」

 バシャ!

 「ぅ・・・イタィ」

 それでも、やっぱりシンジは、それなりでハリセンで叩かれながら作業が進む。

  

  

 マギは、対使徒戦・対ゼーレ戦で見劣りする性能だった。

 しかし、既存の技術をはるかに超えたオーバーテクノロジーであることに違いなく。

 コンピューターがネットワークにさえ繋がっていれば生殺与奪は造作もない。

 程度の低い、暗号・パスワード。対ウィルス防御など突破。支配下に入れてしまう。

 そして、この時田工業のシステムプログラムも、マギの軍門に降る。

 「・・・どれも、試作品ね」

 アスカは、批判気味にシステム情報のマニュアルを見て呟く。

 アスカの後ろに3つの人影が浮かんでいた。

 「それじゃ。メルキオール、バルタザール、カスパール。よ・ろ・し・く」

 「「「はい、ご主人様」」」

 二足歩行のロボットらしい物があった。

 「すごい・・・」

 「それほどでもないわ」

 「元々、マギは、ゼーレの不老長寿を考えて作ったものだし」

 「お金持ちが投資するといったら、こういうことよね」

 「ロボットが?」

 「ええ、寝たきりになっても自分の意識をロボットに移せば自由に動ける」

 「そ、そんなのにお金を使うの」

 「まだ研究段階みたいだったけど。余分なお金があると違うわね。いくつかの選択の一つね」

 「良くできているね」

 「さぁ NERVが人工進化系だとしたら。こっちは機械に拠り代の代用ね」

 「・・・・」

 「資本主義。拝金主義が進むとサービス産業が向上するけど」

 「お金持ちへのサービスが利益になりやすいのよ」

 「そ、そうかな」

 「あら、お金持ちにケンカを売るなんてバカよ。根回しされて生きていけなくされるだけ」

 「げっ!」

 「そうやって、お金持ちに奉仕させるような社会を構築させていくのよ」

 「ひょっとして・・・僕たち、お金持ち?」

 「そういうことになりそうね。この地球に二人っきりしか、いないんだから・・・」

 「わ〜ぃ・・・」

 「でも、サービス産業とか無いし。冷凍モノじゃない。肉とか、食べたくなるのよね・・・」

 「うん」

 「こいつらに食肉関係を、やってもらおうかしら。牛は、いるはずだから」

 「そんなことも、できるんだ」

 「マギなら、できるでしょうね」

 「エネルギーと制御を外部に頼ったロボットは、駆動系だけ。こんなものよ」

 「で、どうするの?」

 「そうね。トライデントに載せて行くとして、このデカ物を船に載せ、自動操船で東京湾から駿河湾まで持っていって・・・・」

 「送電は・・・何とかなりそうね」

 「アスカ。トライデントは、飛ばせるの?」

 「目的地さえ、プログラムすれば自動で飛んでいくわ」

 「へぇ〜 便利」

 「NERVの警備用ロボットの方が進んでいるけど。ほとんど壊されているし」

 「こっちは、汎用性が高そうだから。まぁ いいか」

 「なんに使うの? アスカ」

 「シンジ・・・あんたも、想像力のない男ね」

 「・・・・」

 「その頭。飾りで載せていないのなら使いなさい」

 「・・・うん・・・」

 「この、デカ・・・ロボットの名前・・・・固有名詞は、なし・・・」

 「ジェットアローン2号って、書いているよ」

 「ボキャブラリーが、ないわね」

 「しかも美的センスに欠けた設計ぇ〜」

 「・・・・・・・」

 「あんたは、今日からユミールよ」

 「ユミール?」

 「ドイツの伝説。最初の巨人・・・」

 「神々に滅ぼされるけど・・・その印象も、私が、変えてやるわ」

 帰りは、トライデント機で、帰還。

 「・・・シンジ。ちが〜う」

 バシャ!

 「ぅ・・・イタィ」

 その間、シンジは、ハリセンで叩かれながら難しそうな本を読まされる。

 さらに何を書いてあるのかアスカが質問。

 シンジが答えられないと、 

 「・・・シンジ。ちが〜う」

 バシャ!

 「ぅ・・・イタィ」

 「いい。シンジ。無知からは、情緒が生まれない」

 「情緒が生まれないと動機も本能も、そのまま動物的になるの・・・」

 「はい、永遠のアスカ様」

 「だったら、ひたすら、読め!」

 バシャ!

 「ぅ・・・イタィ」

 暗記するまで同じ本を読み続ける。

 『・・・誰か、僕に優しくしてよ〜』

  

  

 海岸沿いの別荘。

 どうして、シンジとアスカが、ここに住むようになったのかというと惰性。

 最初、二人が海岸に倒れていた場所から、それほど離れていなかっただけ。

 そして、あのコンフォート17は、二人の思い出の中で、それほど良いものでなかった。

 新しくやり直したいという動機も、あったかもしれない。

 どちらにせよ。人のいなくなった世界だと家も、物資も、土地も、腐るほど。

 NERVの送電コードにつなげられた元JA2。ユミールは土方作業していた。

 エヴァとほぼ同じサイズであり、エヴァが使っていた物は使えるという。

  

  

 町

 送電は、マギのコントロールで限られた場所に集中させていた。

 シンジとアスカの行く場所も限られている。

 デパートは宝の山。

 当然、お金も、払わずに済む。

 二人だけで、とても消費しきれるものではない。

 しかし、賞味期限は過ぎていく。

 アスカは、農園で採れる野菜だけで満足できない。

 冷凍肉、燻製、干し肉は、まだ、食べられる、

 しかし、血の滴るような肉は、冷凍保存された物に限られた。

 アスカは、無造作に欲しい物をかごに入れていく。

 シンジは、無頓着なのか、センスも並み以下。食料か、日用品が多い。

 豪勢な服と宝石を着飾るアスカは映えて見えた。

 「シンジ。これ、似合う?」

 「うん」 うなずく

 「・・・・・・」 ぶすぅ〜

 褒め方が足りないのか、視線がシンジの一つだけだと興ざめらしく、ブスくれる。

 この手の男女の駆け引きは、シンジの気質、資質に備わっていない。

 「あれぇ〜 シンジ。どこに行くのかな?」

 「ちょっと、散歩・・・」

 シンジにとって、一人の息抜きは、重要だった、

 携帯の呼び出しがかかるまで屋上で、ぼんやりしていたり。

 マンガ本に浸っていたり。

 面倒になるとデパートの寝装具フロアで寝たりもする。

 二人っきりという、状況の割に、色気がない。

 いや、アスカは、十分に色気がある。

 しかし、自我が強過ぎて、シンジと反発しやすかった。

 そして、シンジは、内罰的、自虐的な資質があるせいか、SMの関係になりやすい。

 もちろん、その関係でアスカは満足しているわけでもない。

 アスカも自己満足で得られる喜びは、それほど、大きくないと計算できる。

 また、経験上わかっていた。

 時折、アスカの携帯が鳴る。

 「カスパール・・・・そう・・・・じゃ・・・パターンが掴めたのね・・・・良かった」

 「なにやっているの? アスカ」

 「秘密よ・・・」

 不敵に微笑むアスカの表情は怖い。

   

  

 二人っきりの世界。

 しかし、アスカは、浮ついた関係を求めていないらしい。

 その気になれないほど、シンジは程度が低い、という。

 アスカに言わせれば、ミサトは、知性と品性の程度が低く。

 リツコも組織的な問題で才覚が発揮されていなかったらしい。

 天才は鼻持ちならないが実力を見せ付けられると、あれでも慎ましい、と思ってしまう。

 いつの間にか、アスカは、世界中の通信をマギで制御。統制しつつあった。

 最初、大き過ぎる別荘と思っていたのは、シンジだけだったらしい。

 フロアが、次々とぶち抜かれ。

 コントロールセンターのような一角が居間に造られ、

 物が溢れ、広かった部屋が手狭に思えてくる。

 「・・・アスカ様、作業は78パーセントです」

 「そう、メルキオール、そろそろ、シナリオB22に移行するわ」

 「はい」

 「アスカ様・・・危険では?」

 「バルタザール・・・・覚悟の上でやっているのよ」

 「はい・・・」

 「ペンタゴン並みの空間が欲しいわね。無駄な人間は要らないけど・・・・」

 バシャ!

 「ぅ・・イタィ」

 「シンジ・・・それ、違う・・・」

 「よ、良く、仕事しながら僕の勉強を見られるね。アスカ」

 「逆よ。あんたの勉強を見ながら片手間に仕事をしているの」

 「そ、そうなの?」

 「人に知恵を付けさせるのが一番、大変なのよ」

 「そ、そう・・・」

 「いいから、答えがわかるまで、何度も読め」

 「答えを教えてくれたほうが早いような・・・」

 バシャ!

 「・・・ぅ・・・」

 「何度も、言・わ・せ・る・な。答えを聞いても、すぐ忘れるだけ」

 「自分で答えを考えて見つけろ」

  

  

 惣流・アスカ・ラングレー

 才覚もエネルギーも過多なのか、何事かやっていないと持て余し気味なのか。

 ロボット3体を扱き使いながらエヴァ大のユミールをフルに使い切っていた、

 それを片手間というらしい。

 NERVの日常でも、これほどの作業は無かった。

 それも、朝から・・・

 バシャ!

 「・・・ぅ・・・」

 「違う!」

 ロボットが、コーヒーを運んでくる。

 「・・・アスカ様。作業が終了しました」

 「そう、カスパール。いよいよね」

 「はい」

 「アスカ・・・何を始めるの?」

 「まず・・・ケジメを付けなきゃね」

 「ケ、ケジメって・・・また見たね、ヤクザのビデオ」

 「ちょっと、モチベーションとか、気合入れるのに良いのよ」

 「・・・・」

 「さてと・・・食後の後の、散歩よ。シンジも、おいで」

 「うん・・・・」

  

  

 散歩で来た場所は、別荘から少し離れた場所。

 少し前まで、ユミールの工事現場だったが作業は終わっているらしい。

 後ろの巨大なユミールが海を見据えて。停止していた。

 アスカは、腕を組んで、ぼんやりと海を見詰める。

 何をしているのか、と思っていると。

 赤い海が盛り上がり。

 量産型エヴァが姿を現して飛んでくる。

 「いっ!」

 「おそい〜」

 「お・・遅いって、アスカ!」

 「・・・・」

 「あ・・・アスカ〜 あ、あれぇ・・・」

 「シンジ。なにビビッテいるのよ」

 「だ、だって、量産型エヴァじゃないか!」

 「・・・ちっ! 一匹だけか」

 量産型エヴァが翼を広げ、ふわりと地上に降りると、大地が上下し、

 飛び上がりそうなほど、ショックを受ける。

 巨大な量産型エヴァとユミールに挟まれたシンジとアスカは絶望的な気分になるはず・・・

 『・・・我々を呼び出すとは・・・・久しぶりだな。惣流・アスカ・ラングレー』

 「キールのおじさん。他のは、どうしたの?」

 『・・・アスカ君。これでも、忙しいんじゃよ。おまえの相手をしている暇はないんじゃ』

 「いいえ、キールのおじさん。無理にでも相手をしてもらうわ」

 『!?』

 刹那、量産型エヴァの足元から大地が消えて、エヴァは、地面に吸い込まれていく。

 量産型エヴァは、首から上だけを残してシャッターが閉まる。

 量産型エヴァの巨大な顔が目の前。

 「キールのおじさん。状況だけ、教えてあげる」

 『・・・・・・・』

 「周りは、装甲板で覆われた魔法瓶というところね」

 「そして、ベークライトと一緒にN2爆弾20個を固めたわ」

 『・・・・・・・』

 「遠隔操作でも。動いても。いま以上のATフィールドに反応してもN2爆弾が爆発する」

 アスカがリモコンらしきものを見せる。

 『・・・・・・・』

 「どう? キールのおじさん。これで、時間ができたでしょ」

 『・・・ふっ ふはははは・・・』

 「量産型エヴァの再生能力も計算済みだから確実に死ぬわね」

 『こりゃ参った・・・』

 『しかし、いま、ここで、N2爆弾20個が爆発したらアスカ君も死ぬぞ』

 「ええ、油断したでしょう。キールのおじさん」

 『あははは・・・確かに油断した』

 「・・・・・」

 『そのオンボロのロボットが相手なら、全然怖くなかった』

 『しかし、こうなると、お手上げじゃわい』

 アスカが、ふらり、ふらりと量産型エヴァに近付くと口元に蹴りを入れ始める。

 どかっ! どかっ! どかっ! どかっ!

 どかっ! どかっ! どかっ! どかっ! 

 「・・・よくも、私と、ママをやってくれたわね」

 「このまま、タダで済むと、思っていないでしょうね。キールのおじさん!」

 『・・・・アスカ君・・・悪気は、無かったのだよ』

 「ふざけんな!!」

 どかっ! どかっ! どかっ! どかっ!

 どかっ! どかっ! どかっ! どかっ! 

 『・・・アスカ・・・ママを足蹴にするなんて酷いわ・・・』

 量産型エヴァが女性の声で話し始める。

 「・・・マ・・・ママ・・・」

 『キール議長は、私をこっち側に取り込むため、仕方なくしたことなの。わかってあげて』

 「・・・ほ・・・本当にママ・・・なの?」

 『ええ・・・あなたが最後におねしょした日を言いましょうか?』

 「ぅ・・・それは、言うな!」 赤

 『・・・アスカ。復讐が目的なの?』

 「ええ、でも、ついでに・・・人類補完計画の現状も知りたいわ」

 『ねぇ〜 アスカ。それより脱出の方法は、あるのかしら?』

 「ママ。これでも天才なのよ。そんなもの、あるわけないでしょ」

 『・・・困るわ、私たち、LCL液に浸っていないと人類補完計画が遅れるのよ』

 「LCL液の水路だけは作っておいたわ、体半分は、LCL液に浸れる」

 『まあ アスカ。全部知ってて、こんな酷い罠を作るなんて』

 「少なくとも、いま以上にATフィールドを強くしない方が良いわね。ママ。死ぬことになるわ」

 『もう〜』

 「そこで、自分の身勝手を反省しなさい!」

 『アスカ〜』

 「それと・・・サードインパクトの時。私の心の中をいじくってないでしょうね?」

 『あら、私たちは知らないわ』

 「本当に?」

 『他の世界から別のシンジ君を呼んだけど、彼が知っているかも・・・』

 「・・・・・」

 『・・・・・』

 「・・・行くわよ。シンジ」

 「ど、どこへ?」

 「家に帰るのよ。散歩は終わりよ」

 『・・・碇シンジ君』

 「え!」

 『ごめんなさいね。シンジ君。こんな怖い娘と二人きりの世界なんて迷惑だったでしょ』

 「え! い、いえ・・・」

 「むっ!」 怒

 『本当に、ごめんなさい。シンジ君』

 『もっと、やさしくて、かわいい娘に育てば良かったのに・・・・』

 「マ、ママ! なに言ってんのよ!」

 「い、いえ、そんな・・・」

 『シンジ君。あなたに、お願いがあるの』

 「え! は、はい・・・」

 『私の代わりに、寝る前と朝起きたとき、アスカを抱きしめてキスしてあげて』

 「えっ! えぇぇええええ〜!」

 「なっ! マ、ママ!」

 『シンジ君。私の代わりにアスカを ギュッ! と。お願いね』

 『きっと、やさしい娘になってくれるわ』

 「はっ はい!」

 「シンジ。あんたぁあ〜! なに、勝手に約束しているのよ!!」

 「えっ で、でも、アスカのお母さんが・・・」

 「ふ、ふざけんな! そんな約束するな!」

 『アスカ・・・おとなしくしないと、あんなことや、こんなこと、シンジ君に教えちゃうわ』

 「なっ!」 赤

 首から上だけ出した量産型エヴァが、にやりと笑う。かなり不気味。

 『アスカの事。よろしくね。シンジ君♪』

 「は、はい!」

 『シンジ君って、良い子だわ。アスカ。良かったわね』

 「バ、バカ言ってんじゃないわよ。だれが、こんなヤツ」

 『あら、アスカ。私の代わりに、しっかり、シンジ君に抱きしめられて、キスしてもらいなさい』

 「・・・ぅ・・・」

 『・・・本当にごめんなさいね。腹黒な娘で、恥ずかしいわ・・・』

 「なっ! なんて、こというのよ〜!」

 「腹黒は、そっちでしょ! そっち!!」

 『まぁ ママに、そんな酷いことを言うなんて・・・』

 『シンジ君に顔向けできないわ。許してね。シンジ君』

 「あ・・・いえ・・・」

 ギシッ ギシッ ギシッ

 リモコンが軋み。

 アスカは、肩を震わせて怒りに堪え。

 量産型エヴァは、満身の笑み。

  

  

 その夜

 憮然とするアスカ。恐々のシンジ。

 「・・・あ、あのさぁ」 かなり腰砕け

 「・・・・・・・・」 ぶっすぅうう〜

 「ア・・・アスカ・・・」

 「・・・・・・・・」 ぶっすぅうう〜

 「君の、お、お母さんとの・・・や、約束だから・・・」

 「・・・・・・・・」 ぶっすぅうう〜

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 アスカがシンジに腕の中に・・・

 だきぃ〜

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 ギュゥ

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 ちゅ! 

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 「・・・お、おやすみ、アスカ」 赤

 「・・・おやすみ」 ぶっすぅ〜

  

  

 そして、翌朝

 寝ているアスカ。

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 アスカがシンジに腕の中に・・・

 だきぃ〜

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 ギュゥ

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 ちゅ! 

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 ぐぁわしぃ〜!

 アスカに頭を抑えられるシンジ。

 「・・・あ、あんたぁわあああ〜!」

 「ア、アスカッ! あ、朝の挨拶だから・・・」

 「てぇめぇぇえええ〜!」

 「ご、ごめん」

 「ふざけんな! 謝るくらいなら、最初からするなぁああ〜!」

 「で、でも・・・約束だったから・・・」

 「ったく・・・・」

 「ごめん」

 「・・・あんたねぇ〜」

 「・・・・」

 「はぁ〜 まぁ いいか、今日は、行くところが、あるからね」

 「・・・・うん」

  

  

  

 トライデント機は、北に飛び、広い草原に着陸する。

 ということで、ここは、北海道の牧場。

 セカンドインパクトの後、

 世界中から物資が日本に送られたせいか、動植物の体系は維持されていた。

 自然に放された牛や馬が、点々としている。

 「アスカ。肉を食べるの?」

 「違うわよ!」

 アスカは、馬小屋から鞍を持ち出し、1頭の馬につける。

 なんとなく、馬が驚いているのがわかる。

 「ど、どうするの? アスカ」

 「あんたねぇ 分かり切ったこと言わないで」

 「あ、危ないよ、アスカ」

 「シンジ。あんた、下がっていなさい。馬に蹴られたら、死ぬわよ」

 アスカが スッ と馬に乗ると馬の形相が変わる。

 馬は、上に乗ったアスカを振り落とそうと必死に辺りを駆け巡り暴れだす。

 アスカは、予測していたのか、バランスを取りながら、乗り続け・・・・・

 数分後、アスカは、大人しくなった馬の上で偉そうに踏ん反り返っている。

 「シンジ。これが、あんたに足りないものよ」

 「気合と力で馬の意志を挫いて捻じ伏せるのよ」

 「アスカ・・・無理だよ」 泣き

 「ったく、しょうがないわね。調教された馬もいるから、そっちに乗ると良いわ」

 「う、馬に乗るの?」

 「シンジ。あんたと同じ、調教された馬に、なに、びびってんのよ」

 「・・・ぅ・・・」

 シンジにとっては、初めての乗馬。

 「落馬したら死ぬこともあるから落ちないようにしっかり、捕まってなさい」

 「・・・・・・」

 しばらく、アスカに乗馬を教えてもらう。

 セカンドインパクト後

 人口減と世界中からの投機、

 北海道は、地軸の変化の影響で、避暑地になっていた。

 お陰で自然だけは、豊かに残される。

 「・・・アスカ・・・どこにいくの?」

 「んん・・・・しばらく、キャンプかな」

 「で、でも、何も準備してないよ」

 「あのねぇ〜 空き家は腐るほどあるのよ。それに野宿だって死にはしないわよ」

 「そ、そう」

 「あんたの、そのナヨっとした軟弱内罰な精神と退行的な思考を、何とかしてやるわ」

 「ぅ・・・」

    

   

 保護者の存在しない世界は、シンジの自我に影響を与える。

 もっとも、有能すぎるアスカが半分保護者に近い状態だった。

 アスカのスパルタ教育は、相当なもので日本やNERVの教育と違う。

 集団重視で失敗を許せない減点主義的な日本式でなく。

 個人重視で成果を求める加点主義的なアスカの思考はシンジの精神状態を微妙に変える。

 何しろ、世界で二人きり、集団が存在しないのだから減点主義の長所を生かしにくい。

 「失敗したらいけない」 by シンジ

 失敗に怯え、消極的、臆病になっていくより。

 積極的、意欲的になっていく方が良いといえる。

 この北海道を吹き飛ばしても、全然、困らないほどで、

 こういう発想は、余程のアンチでなければ減点主義の思考から生まれない。

 仕事を与えて仕事の不出来を減点していく方式ではなく。

 仕事を与えて、仕事の成果で、加点していく方式、

 才覚次第で、いくらでも伸びていく。

 もちろん、科学技術・教育・資源・資本など、余裕のない日本の国情だと、仕方がない。

 それでもアスカ視点だと欝な日本社会と教育制度に物言いしたくなる。

 アスカは日本の教育制度のあり方に疑問を持つ。

 これはドイツとの違いを鮮明に認識できたからといえる。

 そして、社会全般がそうであるように、

 シンジの思考の根底に日本の教育制度で受けてきたベクトルがある。

 それを捻じ曲げなければならない。

 ドイツ教育が優れている、というわけでもなくケースバイケースであり。

 二人だけの世界で物理的な余裕があるとドイツ系の教育がマシなだけ。

   

  

 森の中

 「ぼ、僕には、で、できないよ。アスカ」

 「シンジ。怖いの?」

 「・・・だ、だって・・・」

 「たいしたことないわよ」

 「まっすぐ構えて、あんたが持っているモノを的に向けて発射するだけよ」

 「だ、だけど・・・アスカ・・・僕、こ、こんなこと・・・・したことないし」

 「あんたね。私たち。この世界で、二人っきりなんだからね」

 「だ、だけど・・・・」

 「シンジ! いい加減にナヨナヨす・る・な」

 シンジ。もじもじ

 アスカ。ぶすぅうう〜

 

 馬に乗ったアスカは猟銃を構える。

 銃口の先に見えるのは鹿。

 風上側に背を向けて嗅覚で背後に気を配っているのがわかる。

 耳も良くて物音に敏感。

 目の位置で分かるとおり。視界も左右に広く全方位的に見渡せる。

 視界の外で気配を悟られない距離を保つと、狩猟の方法は、おのずと限られる・・・・

 バア〜ン!!

 猟銃の弾丸が数百メートル離れた鹿の眉間を撃ち抜いてしまう。

 鹿は静かに ずんっ! と音を立て倒れる。

 「・・・なかなか、立派な最後ね」

 「死んだ・・・」

 「むふぅ♪ 肉よ。シンジ、皮を引ん剥いてね」

 「ぼ、僕がやるの?」

 「当たり前じゃない。男でしょ」

 「うぅ・・・まだ、冷凍肉が一杯あるのに・・・・」

 「シンジ。あんたねぇ。人が生きるのは、こういうことよ」

 「だ、だけどさ・・・」

 「ちゃんと解体しないと鹿に恨まれるわよ。燻製も作るんだからね」

 シンジは、ビビリながら刃を鹿の体に差し込んでいく。

 「・・血・・だ・・・」

 「シンジ。あんたねぇ〜」

 「骨とか、筋を切ると刃が痛む。血も余計に出ると不味くなるから筋に沿って、丁寧にやるのよ」

 「そ、そんなのわかんないよ〜」 涙

 「泣きごと言うな。さっさと、そこの肉を切り分けて、これから焼くから」

 シンジの目の前にフライパン。

 「・・・・う・・・」

 「あんたは、解体作業よ」

 「・・・・ぅ・・・」

 森の中、小さな小屋は、誰もいない。

 元々、誰もいなかったのか、狩猟のための休憩所だったのか、

 曖昧な大きさの家で、それなりにモノが揃っていた。

 小川が流れているのが良かったのか、

 それで、アスカが、選んだのか、川が血の色に染まっていく。

 なんとなく、慣れてくると、骨や筋を切らないようになり、

 血を流さないようにしていく。

 サクラ、ナラ、ブナを不完全燃焼させないように燻すと、

 煙が濛々とカマドとドラム缶の中に篭もる。

 鹿1頭分にもなれば、それなりの大きさにもなる、

 小さなカマドと、ドラム缶3つで、足りた。

 風呂に入って、血の臭いを消す。

 一息つく頃、日は傾いていた。

 電気は通っていなかった。

 ランプの明かりと薪の燃える炎で森が照らされ、森の音が、周囲で鳴っている。

 狩猟民族系のアスカが美味そうに食べ。

 農耕民族系のシンジが感慨深く食べる。

 精神性と覚悟の違いだろうか。

 味付けは塩と数種のスパイスで、かなり美味い。

 「少し前までは、生きていたのに・・・」

 「欧米諸国は、日本に物資を送り続けて、死と隣り合わせだったわ」

 「死んでいったのは鹿じゃなくて人間だったけどね」

 「日本は、幸せだったんだね」

 「ふ それでも、イギリスで紅茶が飲まれ」

 「ドイツでビールが飲まれていたわ。フランスは、ワイン」

 「・・・・・」

 「私も飲んだけど人口の半分が、餓死しているというのに・・・もう、病気ね」

 「人間って、救いがたいわ」

 「そ、そうなんだ」

 「ゼーレは使徒戦で人類が生き残る為、自国民を餓死させながら、それなりの投機を続けた」

 「・・・・・・・」

 「ゼーレは、善良ではない」

 「でも使徒戦で負ければ人類は終わりだったから。それなりに指導力を発揮したわけね」

 「・・・・・・・」

 「嘘つきな偽善者じゃないということね」

 「ついでに自分たちの計画も作り上げて、実行したのが、この世界・・・」

 「・・・な、なんか、アスカ。変わったね」

 「・・・情報量の差よ」

 「でも必要だったのは才覚じゃなくて、ATフィールドの強さだったみたいね」

 「・・・・・・・」

 「シンジの陰に篭もる性格がATフィールドに比例する可能性だけで生活環境が仕組まれる」

 「ち、違うんだ。ぼ、僕が、お父さんに捨てられたんじゃない」

 「僕が、お父さんを信じられず、お父さんから逃げてしまったんだ」

 「へぇ〜 何で?」

 「お父さんが、お母さんを殺したんだって、そう思ってしまって・・・・」

 「ふ〜ん。どちらにせよ」

 「ATフィールドと関係で、そういう生活環境に追い込まれるでしょうね。計算ずくよ」

 「じゃ 僕が苦しかったのって・・・・」

 「仕組まれたことよ。良かったわね。当たりで」

 「シンジが、いなかったら人類は終わってたわ」

 「でも・・・・こんな世界になってしまうなんて」

 「なに? この惣流・アスカ・ラングレー様といるのが不満?」

 「い、いや、そんなことないよ。と、とても嬉しいよ・・・」

 「シンジ。私と一緒にいることが全人類の男という男が涙するほど羨望なのよ。分かってんの」

 「ぅ・・・凄い自信家」

 「というわけで、シンジは、もう少しマシになりなさいということよ」

 「ぅ・・アスカの期待に応えられれば、良いけど・・・」

 シンジ、自信喪失でウツ状態。

 こういう男に就寝前と寝起きに抱きしめられ、キスをされるのは気持ちの良いものでない。

 しかし、ほかに男が、いないのでは選択の余地がない。

 気が進まなくても、女という生物は、一人で、生きていくように、できていなかった。

  

  

 何もない森の中

 のんびりと生活するのも悪くはない。

 アスカは、この種のサバイバル訓練を受けたことがあるのか、そつなくこなしていく。

 「・・・人間はね、文明から離れて生きていけないの」

 「だから森の中で自然に包まれて生きていく、というのは、ありえない」

 「た、確かに・・・そうだね」

 「そう思うんだったら、本を読め!」

 「はい・・・」

  

  

  

 海岸の別荘

 数週間ぶりに戻ってくるとロボットたちが掃除洗濯していたらしく。

 それほど変わっていない。

 さすが、マギで相当な、おりこうさんといえる。

 アスカは、少しばかり暇なのか、ビデオ観賞。

 ぼんやりしているようで、次のシナリオを練っている。

 そう、推測できるようになるまでしばらくかかった。

 乗馬用なのか、馬2頭も、北海道から、運ばれ、大人しく草を食んでいる。

 

 シンジは、暇潰しに量産型エヴァのところへ行く。

 誰かと話すとしても、アスカしかおらず。他はロボットしかいない。

 それ以外だと囚われ量産型エヴァになってしまう。

 ひょっとして、アスカが使徒戦の指揮を執っていたら、と思わないでもない。

 一度、戦った相手だと作戦も考え付くのだろう。

 サードインパクト以前、

 “会話をしたい” 衝動より “一人でいたい” という気持ちが強かった。

 しかし、誰もいない世界だと寂しい。

 巨大な量産型エヴァが首から上を出し、海岸に埋まったまま。

 こういう光景は赤い世界でも珍しい。

 美的センスに欠けた顔は、どうしようもない。

 しかし、シンジの性格だと外見で人?

 を貶めるというのは、気が引ける。

 美形であれば、情状酌量され、許されるとしたら、

 法は、何のために存在するのだろうか。

 巨大な顔もアスカの母親の精神が入っていると思うと妙に親近感を覚える。

 とはいえ、アスカを抱きしめ、キスできるようになり、

 身近になるかと思いきや、逆方向に向かって気持ちが離れていく。

 碇シンジと惣流・アスカ・ラングレー。

 実力の差があり過ぎる・・・・・・・

 『・・・碇シンジ君か』

 キール議長の声。

 「はい」

 『君は、どの程度の力が使えるのかね』

 「・・・・・・・」

 『・・・・・・・』

 「ど、どうして・・・」

 『どうして、知っている、というのかね?』

 いきなり核心が突かれ、主導権を奪われる。

 そして、主導権を取り戻すような気概もない少年だった。

 『・・・みんな、知っていることだよ』

 『惣流・アスカ・ラングレーも多分、知っておるじゃろうな』

 「・・・・・・・・」

 『サードインパクトの性質を計算すると』

 『中心にいた君は、ATフィールドとアンチATフィールドに対する適性を得たと考えるのが自然』

 「・・・・・・・・」

 『そして、こっちは、不確定だが第14使徒の時も潜在意識下で力を得た可能性もある』

 「・・・まだ、よくわかりません・・・でも使徒と・・・戦えると・・思います」

 『・・・そうか・・・』

 「あ、あのう・・・ぼ、僕は、どうなってしまったんですか?」

 「どうしたら良いんです?」

 『ふっ 自分の力を持て余しているのかね』

 『自分の力の使い道が分からないのであれば、誰かに教わるしかあるまいよ』

 「・・・・・・・・」

 『どれほど巨大な力を持っていても運用する良識、知識、経験、想像力、判断力は自ら学んでいくしかなかろう』

 「・・・・・・・・」

 『自分の行く道は、自分で見つけなければならない』

 「・・・・・・・・」

 『惣流・アスカ・ラングレー。あの娘は、まぁ 問題ありだが良い先生だろう』

 「アスカを恨んでいないのですか?」

 『なぜだね』

 「だ、だって、こんな・・・」

 『恨んでも、仕方がなかろう。自業自得じゃよ。それにわしらは長生きでの・・・・』

 「・・・・・・・」

 『内なる世界でさえ、地球より広いくらい』

 「・・・でも・・・」

 『わしらも、あの娘も計算ずくじゃよ。互いに覇を競っても敵というわけではない』

 「そ、そういう計算は、どうやって?」

 『たくさん、勉強することじゃな。良識、知識、経験、想像力、判断力も身についていく』

 「・・・・・」

 『人間なのだから、身勝手に間違いも犯すだろう』

 『しかし、そのうち、相手の考えていることすら想像するようになる』

 「・・・・・」

 『それに、これだけ大きな世界で二人っきりだ』

 『少しくらいの失敗でも、世界は、揺るがない』

 「・・・・」

 『気をつけなければ、ならないのは、相手に我を張り過ぎないことじゃ」

 「・・・・」

 「アスカ君は、少し我を張りすぎる傾向にある』

 『しかし、許容範囲を計算している。君は、逆だな』

 「・・・・・」

 『性格的には上手くかみ合って、ちょうど良いくらいだろうが』

 『実力的に近付いたとき、要注意だな』

 「・・・・・」

 『それでもアスカ君の母親、キョウコ君との約束は彼女にとっても、君にとっても悪くないだろう』

 「でも、アスカは・・・」

 『実力、才覚は、ともかく。本音は、それほど嫌がってはおらんよ』

 「・・・・」

 『これも計算の内じゃよ』

 『君は難があるがアスカ君の命の恩人。アスカ君は女の子じゃからの』

 「・・・・」

 『それほど、悪いようにはせんよ』

 「・・・・」

   

 

  

   

  

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 月夜裏 野々香です。

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 人類補完計画ゼーレ案主導のサードインパクト世界

LASな方用に『一人暮らし』から切り離しました。

65話〜70話 + 惣流・アスカ・ラングレー物語 T

 から『赤い世界を抜粋し推敲・加筆した総集編です。

『一人暮らし』からの方は、読まなくても良いかもです。

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 赤い世界が軸なので、微妙に視点を変えました、

 基本は、同じでしょうか。

 

           

   

   

楽 天

   

新世紀エヴァンゲリオン 『赤い世界』

第00話 『赤い世界』
第01話 『わたしの世界よ』
 
登場人物