月夜裏 野々香 小説の部屋

   

新世紀エヴァンゲリオン 『赤い世界』

       

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 人類補完計画ゼーレ案主導のサードインパクト世界

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 第01話 『わたしの世界よ』

 海岸沿いの大別荘。

 シンジとアスカは、この地球という揺り篭で二人っきりの人類。

 シンジが携帯を見る眼は、死んだ魚のように虚ろだった。

 夕食後、

 シンジは、アスカの肩揉みをしていた。

 「・・・アスカ・・・面白い?」

 「何が?」

 「このメール・・・・」

   “私の真心は伝わりませんか? いま、涙が・・・” 資産4億の令嬢 16歳

 「わたし、他人のメールを見る趣味ないの」

   “40万の寄付金はご迷惑でした? 貴方に全額・・・” ゴスプレっ娘 14歳

 「他人って、この地球には、僕とアスカの二人しかいないじゃないか」

   “今日と明日は、予定ないし遊ぼうよ。夜からでもOKだし・・・” りえちゃん 17歳

 「そうなの?」

   “ルーレットで100万円が当たる♪” サイト管理者

 「それに、なんで、ポイントを買うと、お金じゃなくて、アスカの肩揉みの時間になるんだよ」

   “手持ちの50万と合わせて、200万でもいいですよ” 苦学生 17歳

 「それが世の中の不思議なところよね〜」

   “完全無料開催中” サイト管理者

 「だいたい、僕の出会いハメハメ日記って、どういうブログなんだよ」

   “あなただけに・・・わたしの・・・” 医学生 17歳

 「やだぁ シンジ。私という女がいながら、そんなの見るなんて」

   “あったことあります。あなたと”

 「ぅ・・・ていうか、誰も、いないのに出会い系なんて、ないだろう」

   “シンジ君。好き・・・”

 「出会い系なんて、ほとんどが集金サイトよ。本物はサイトの人に取られているけどね」

   “ずっと返信がこなくて、食事も、まともに喉に通らないの・・・” 引き篭もり 18歳

 「アスカは僕を騙して楽しんでいるんだ」

   “サイトから連絡きましたか? 同じVIP会員になれば・・・・” マヤ 24歳

 「えげつない男たちに騙され、奪われた哀れな女たちが」

 「今度は善良な男たちをカモにするのよ」

 「僕は、カモなんだね・・・」

   “だから、私を見て!!” 内村レイコ 15歳

 うんうんと、アスカが面白がる。

 「ほんと・・・世の中って、男も、女も、見境なく金に狂ってバカばっかりだったのよね」

 「消えて正解だったわ」

   “夜になると、いつも、寂しいの・・・”

   “だから、シンジさんの連絡先が必要なの・・お・ね・が・い・・・” ミサト 21歳

 「・・・・・」

   “私のアド確認してくれた? もうダメなの?” 優香 17歳

 「だから、メールだけでも優しく接して、あげないとね」

   “本当は、富豪の娘 余生、短いから シンジさんに遺産をあげる 会いたい” 優香 17歳

 「でも、よく、これだけ人格を使い分けられるね」

 「名前と年齢と画像で言いそうな、せりふを考えるのよ」

 「ちょっと意外なセリフも受けるわね」

 「どうせ、奴隷扱いなんだから、こんな面倒なことをしなくても肩揉みくらい・・・」

 「シンジも、高圧的な、権威主義ばかりじゃ、面白くないでしょ」

 「拝金主義な要素もないとね」

 「・・・・・・」

 「シンジも、かわいい女の子からメールが来る方が、そそるでしょ」

 「そ、そそらないよ。アスカしか、いないんだから」

 「でも返事を出しているし。誰も来ないのに待ち合わせ場所で待っているし」

 「だって、これだけ送られたら出さないと。悪いかなって・・・」

 シンジは、マギが自動で送っていることを知らないらしい。

 「・・・シンジって人が良いのね」

 「それは、どうも・・・・」

 「でも、女の色香に迷う男なんて、騙し取られても当然ね」

 「ポイントは、あと、どのくらいだっけ?」

 「あと200時間くらい、アスカの肩揉みだよ」 泣き

 「もう〜 シンジも好きなんだから。う・わ・き・も・の」

 「あ・・・あのう〜」

 「シンジの方から積極的にメールを送って狩って行かないと駄目よ」

 「狩られる側から狩る側にね」

 「あ・・・あのう〜」

 「シンジも、いつまでも草食動物とか、農耕民族じゃ駄目よ」

 「・・・ぅぅ・・・」

 「だから、スーパー・ゴールド・プラチナ会員になって無制限に送信できるようにするのよ」

 「あ、あのう〜 だ、誰に送るの?」

 「んん・・・ちょっとだけなら、読んで、あげるわよ。嬉しいでしょう」

 「わたしの肩をもめて手紙まで読んでもらえる」

 「あ、ありがとう」

 「まず、口説き文句を覚えないとね」

 「・・・ぅぅ・・・」

 「スーパー・ゴールド・プラチナ会員は、肩揉み1000時間くらいよ。たいしたことないわ」

 「・・・・・」 さめざめ

  

  

 アスカは、別荘のコントロールセンターからNERVに命令を出し、

 世界中の電子機器を統制下に組み込んでいく。

 システム自体は全地球的広がりを見せていく。

 しかし、点と線だけでシステムの負担を小さくして、面は省かれていく。

 二人だけの地球は広く。

 行きそうにない地域は多く。行かなければならない場所は少なくない。

 アメリカと欧州。

 そして、南半球のいくつかは最低でも見ておくべきだろう

 アメリカの避難地のパタゴニア、

 欧州の避難地の南アフリカ。

 日本の避難地の予定だった、タスマニア。

 これら避難地は、性質上、反ゼーレ・NERV・マギで、

 ネットワークからも切り離されて自立している可能性があった。

 マギが、どれほど強力だろうと、

 ネットワークから物理的に切り離されていれば力が及ばない。

 『何があるかしら・・・』

 不意に気付くと、シンジが近付いてくる。

 別段、シンジが嫌いでもなく。大好きでもない。

 決められた二人の運命に選択の余地はない。

 この世界で女が一人。生きていくのは正気すら保てない。

 それに比べたら碇シンジは、100倍もマシで受け入れるべきだろう。

 少なくとも彼の父親がいなければ、対使徒戦略すら人類に与えられなかった。

 第18使徒リリン系人類史は、終わっていた。

 そして、彼の息子も歪な精神状態に置かれた犠牲者で恩人に違いなく・・・・

 「・・・・・」

 抱きしめられやすいように立ち上がる。

 オドオドとした表情を見ると本当にATフィールドが使えるのか、疑問にさえ感じる。

 だき〜!

 計算上、使えるはずなのだが計算ミスもあり得る。

 ぎゅっ!

 抱きしめられるのも悪くなく。

 ちゅっ!

 キスも悪くはない。

 気分が乗らないのは、シンジの身長のせいだろうか。

 「アスカ。おやすみ」

 「おやすみ」

 小男シンジが、はにかみながら去っていく。

 “よくできました” だろうか。

 『・・・女ってスキルが高いと損なのよね』

 『かといって、いまさら、バカ女な振りをするというのも違和感ありね』

 『だいたい男に合わせてバカな振りするのって、なにか違うわよ』

 『わたしが、これだけ魅力的な格好をしているのだってシンジの為よ。ガキが・・・』

 『まぁ 無能なくせに虚勢張って人格攻撃するバカタレより』

 『無垢っぽいガキが、マシだけど・・・』

 『知るべきことは、知っておくべきだけど、シンジが性格的に薄弱なのは考え物ね・・・』

  

  

 この赤い世界の神 惣流・アスカ・ラングレー。

 碇シンジの意思が彼女に手玉に取られているとしたら、

 彼女の意思が、この世界の意思になっていた。

 もっとも彼女の意思、動機もシンジの感情に影響されている。

 ということで惣流・アスカ・ラングレーは全知全能と言えない。

 しかし、量産型エヴァを1体をカモるのだから、

 その威光は縦横無尽で支配者なのだろう。

 碇シンジはアスカに抵抗する気持ちが、あっても立場を逆転する気になれない。

 アスカは、対ゼーレに対する気持ちが治まっているのか、

 少しだけ大人しくなっていた。

 シンジは、朝起きると身支度して、アスカのところへ行く。

 アスカを抱きしめて、キスをするとき、かなり緊張する。

 アスカが気を変えただけで、そのまま残酷物語に移行するため、

 恋愛気分という気にはなれず義務的だったりする。

 彼女が黙って受け入れているのだから、どんな秘密を母親に握られているのか、

 いろいろ、妄想したり・・・・

  

 

 海岸沿いに広がる景色は、朝から相変わらず紅色で嫌悪感が先立つ。

 ここに居を構えているのは惰性だった。

 アスカは、シンジを引き連れて海岸を散歩。

 散歩コースに埋められた量産型エヴァがいて、アスカはサドっ気があるのか嬉しげ。

 「・・・あら、キールのおじさん。ごきげんよう」

 『やあ、奇遇だね。アスカ君』

 「こんなところで、砂風呂かしら?」

 『腰痛に効くと主治医に言われてね。こんな姿でアスカ君に挨拶をすることを許してくれ』

 「もう、お歳ですから、御自愛して下さいね。お・じ・さ・ま」

 『わかっているよ、アスカ君』

 『君の、かわいい赤ちゃんを見るまでは死んでも死に切れんよ』

 「・・・・・・・」 赤

 『シンジ君も、めげないでアスカ君を助けてやってくれたまえ』

 「は、はい」

 『シンジ君が哀れで、ならんよ』

 「そ、そんな・・・」

 「シンジ!! もう、行くわよ!!」

 「う、うん・・・」

 アスカも、キールも、適当な歓談で終わらせている。

 量産型エヴァが少しでも動くと死ぬかもしれないというのに・・・・

 そのことをアスカに言うと “死と背中合わせ、命懸け” な緊張感が心地良いそうだ。

 シンジは豪胆さでアスカに及ばない。

 というより、本質的に危ない少女であり、

 シンジはアスカといれば退屈しないで済みそうだったりする。

 もっとも、海岸を先に歩いているアスカは、それなりに退屈そうだ。

 「シンジ・・・・」

 「な、なに?」

 「わたしと、いるの・・・いや?」

 「ぅ・・・それ。出会いメールの文句」

 「ふっ♪」

 「なんか、退屈ね」

 「そ、そうかな・・・」

 「宝探しにでも、行こうか?」

 「た、宝探し〜」

 「夢があるでしょう」

 「僕にとってはデパートが宝だよ」

 「もう〜 現実的ぃ」

 「そ、そうかな」

 「シンジ。この広い世界で何をみみっちぃこと言ってんのよ」

 「ま、任せるよ。アスカに・・・」

 「ねぇ シンジ」

 「なに? アスカ」

 「シンジって、何か・・・夢とかないの?」

 「と、特にないけど・・・・アスカとは、仲良くしたいかな」

 アスカは、不意に立ち止まると振り返る。

 「・・・シンジ。殺し合いしようか」

 「・・・・」

 押し寄せる波音だけが、聞こえた。

 最初からそのつもりだったのだろうか。放られる短剣。

 アスカが同じ短剣を抜き放つ。

 「ア、アスカ・・・・」

 「行くわよ。シンジ」

 恐怖

 ゆらりと向かってくるアスカに短剣を差し向ける。

 震えが止まらない。

 ぶすっ・・・

 不気味な感触に思わずシンジの手から短剣が離れ落ちると。

 アスカの短剣は首元にひたりと添えられる。

 アスカの蒼く透明な瞳に怯える自分の姿が映る。

 アスカの胸から滲み出し血が大きくなっていくにつれて、

 目の前が真っ暗になっていく。

 アスカの冷たい表情に見据えられ、死を覚悟しつつ意識が途絶えた。

 

  

 冷たい汗に気付いてベットから起こされる。

 悪夢を見た後の不快感が全身を襲う。

 部屋を見渡すと自分の部屋。

 起き上がって居間に行く。

 いつもどおり、アスカがコンピュータの前で、なにやら考え深げ。

 違うとすれば、テーブルの上にある医療ボックスと部屋に篭もる消毒の臭い。

 「・・・ア、アスカ・・・・」

 「起きたの?」

 「あ、あの・・・」

 「・・・シンジに宿題を出してあげる」

 「・・・・」

 「・・・若い男女が愛し合って結婚するの」

 「・・・・」

 「そして、子供ができて、いつの間にか、夫婦は疎遠になっていく」

 「・・・・」

 「次第に反発しあって、憎みあうようになり。10年後には、殺しあって二人とも死ぬ」

 「・・・・」

 「なぜだと思う?」

 「わ、わからないよ。そんなのわかるわけないじゃないか!」

 「わかったら奴隷から解放してあげるわ」

 「ど、どうして、あんなことを・・・」

 「宿題が解ければ、それが答えになるわ」

 「・・・・・」

  

 

 赤い海岸線 

 気が付くと量産型エヴァの巨大な顔の前に立っている。

 アスカとも、アスカの配下のロボット3体とも話したくない。

 『・・・顔色が悪いわ。シンジ君』

 惣流・キョウコ・ツェッペリン。アスカの母親らしい。

 「・・・僕は・・・・」

 『また、アスカがシンジ君をいじめたのね』

 「アスカが・・・殺しあおうって、短剣を投げて・・・・」

 『まあ・・・』

 「それで僕は、アスカを刺してしまったんだ」

 『まぁ あの娘も退屈させないわね』

 「二人きりの世界なのに・・・なんで・・・・」 半泣き

 『それでアスカは、何か言ったの?』

 「宿題って、若い男女が愛し合って結婚する」

 「そして、子供ができて、いつの間にか、夫婦は疎遠になっていく」

 「次第に反発しあって、憎みあうようになり」

 「10年後に殺しあって二人とも死ぬ、って」

 『・・・ほお、キョウコ君。君の娘は、我々に挑戦しているぞ』

 『キール議長。アスカは人類のタブーを結果として憎むのではなく』

 『過程としてシンジ君に把握させようとしているだけですわ』

 『我々は、憎み合う結果を恐れての結論だ』

 『ええ、そうでしたわね・・・』

 『君の娘は人のエゴを過程で把握することで、人類に自己修正を強要させようとしている』

 『挑戦的だな』

 『娘は大雑把ですけど、一つのことで、10も、20も問題を処理する傾向が強いようですわ』

 『最大公約数だよ。そういう人間を人は天才と呼ぶのだ』

 『我々も、やっていた。一石二鳥は便利だよ』

 『ユークリッドの概念を心理や観念に当てはめるのは疑問ですわ』

 『どちらにせよ。あの娘は、我々の供給源としての価値で満足していない』

 『不完全な群れの独自性や分派は自然の流れですわ』

 「あ、あのう・・・」

 『なあに。シンジ君』

 「アスカは、なぜ、あんなことを・・・」

 『君への宿題だよ。我々に解かせる気かね』

 「で、でも・・・」

 『シンジ君。寝起きと寝る前。アスカを抱きしめてキスしてる?』

 「え、でも・・・もう・・・」

 『あら、シンジ君の為にも、アスカのためにも、アスカを抱きしめてキスして、あげなさい』

 「・・・・・」

 『それとも、最初の頃のドキドキが宿題のように薄れしてしまったのかしら』

 「・・・・・」

 『シンジ君。あなたは、父親の碇ゲンドウを憎んでいなかった?』

 「・・・・・」

 『なぜ?』

 「そ、それは・・・」

 『人間のタブーは不幸でも特別というわけじゃない』

 『現実に起こりにくいだけで身近にあるの・・・ヒントかな』

 「こ、答えが、わかっているんですか?」

 『碇シンジ君。アスカ君の奴隷から解放されたかったら自分で答えを見つけることだな』

 『アスカも奴隷に抱きしめられてキスされたくないはず』

 『本当は、あなたを奴隷として扱いたくないのよ』

 『君らが我々のおまけになるか』

 『それとも、不完全な群れのままで同格の存在として覇を競うか。瀬戸際だよ』

 「・・・・・」

 『二人が、決めることよ』

 「・・・・・」

  

  

 紅色の空と海が、海辺の白い別荘を照らす。

 二つの色が混ざると妙な気分になる。

 朝と夜、アスカを抱きしめてキスをしている。

 アスカと唯一の接触。

 アスカは反発する気がないらしい。

 アスカの母は、アスカの、どんな秘密を握っているのだろうか。

 マギからタブーとタブーに至る犯罪記録を取り寄せる。

 量産型エヴァの会話から、いくつかのヒントを得ていた。

 的ハズレがあっても近似値なら無駄ではない。

 あれから、アスカと疎遠でありながら、そばにいる。

 宿題を調べていくとアスカに腹を立てるより興味がわいてくる。

 結果で判断すれば、犯罪者を自己責任で処断できる。

 しかし、過程で判断すれば、犯罪者の周りのエゴ。

 抑圧された情勢や歴史的な環境全体にまで及び、曖昧な広がりを見せる。

 これら加味して、情状酌量という形で減刑したりする。

 確かに自己責任や責任転嫁だけに求めては、いけないような気がするが・・・

 『・・・く、雲を掴むような話しじゃないか』

 「・・・メルキオール。どうして、愛し合った男女が殺し合うほど、憎み合うようになるのかな」

 「シンジ様。その問いは、答えられないように制限されました」

 「そうだろうね」

 わかりきっていた。自分で回答を出すしかない。たった二人しかいない人類。

 男と女、二人だけなのだから誰でも仲良くやっていけるだろうと思えば、そうでもないらしい。

 「メルキオール。アスカは、なぜ、もっと惰性というか。安楽に生きようとしないのかな」

 「衣食住の心配はないのに・・・」

 「押し付けられた世界に反発しているだけ、だと思います」

 「は、反発なんだ・・・・」

 「人間は誰しも持っている感情です」

 「し、少数派だと思うよ。僕は世界に馴染みたい。反発したいとか、思わないもの」

 「ええ、ですが、いまの人口比だと、1対1です」

 「そう・・・だね」

  

  

 海岸

 巨大な量産型エヴァが顔を出して埋められ。

 旧JAのユミールが見下ろしていた。

 アスカが中央に立ち、ぼんやりと浮かび上がる人影と対峙する。

 「・・・なぜ、碇君を変えようとするの?」

 「自分自身を変える事ができるのは、自分自身だけよ」

 「そう・・・・」

 「あなたたちが環境を強制したように、わたしは環境を作っているだけ」

 「ごめんなさい」

 「あら珍しい。ファーストが謝るなんて。別に怒っていないけど」

 「二号機のパイロットの考えていることが推測できないだけ」

 「人類補完計画に疑問をぶつけているだけよ。ついでに代案も、構築中・・・」

 「そう・・・」

 「あなたたちの敵になるかしら?」

 「いいえ、面白いわ」

 「余裕ね。ファースト。シンジのこと、どう思っていたの?」

 「・・・・碇君と、一つになりたい」

 「まぁ 露骨」

 「人は、孤独に怯えて一つになろうとする。自然」

 「続きは?」

 「人は、一つになろうとしても違和感から排他的になり」

 「疎外感を覚え、他者の存在と意思が負担になり邪魔になる」

 「・・・その続き」

 「身勝手な欲望が地球を覆い。多くの者が踏み躙られ。資源も枯渇していた」

 「・・・ええ、対処の選択は限られていたわね」

 「だから、この世界は再構築で一つになる道を選択した」

 「でも、いまの人類は、二人だけ」

 「対処法でなく、根源的な選択の道も広がっている」

 「二号機のパイロットが狙っているのは別の人工進化?」

 「それとも自然進化?」

 「あなたたちの計画の中で埋没していく事を望んでいない。それは確かね」

 「二号機のパイロットは、そうかもしれない。でも、碇君は?」

 「ファースト。いまさら御しやすいシンジの意思を尊重する振り?」

 「シンジも反発する権利は、あるわ」

 「そう」

 「あなたたちの善意でも、掌の上で満足できるほど、おりこうさんじゃない、ということね」

 「そう・・・・」

 「「・・・・・」」

 「・・あ・・・あのさぁ・・・ファースト・・」

 「・・・なに?」

 「わたしは、人を踏み躙っても平気。でも踏み躙ったことは無駄にしない」

 「・・・・・」

 「得た物は、掴み取って、成功を見せ付けてやるわ」

 「・・・そう・・・」

 「「・・・・・」」

 「ファースト・・・辛い思い、したわね」

 「・・・あ・・ありがとう」

 ばしゃ!

 綾波レイを形作っていたLCL液が崩れ、流れ落ちて砂浜に消える。

 「綾波レイ。あなたのこと嫌いじゃないけど」

 「この世界で、覇を競うことになるかも・・・」

  

  

  

 「シンジ。行くわよ」

 「・・・・・」 ため息

 意志薄弱な奴隷の気持ちは、どうでも良いらしい。

  

 というわけで、ここは、北アメリカ大陸。

 二人っきりの世界でも彼女には小さく感じるらしい。

 ほかに誰もいないと本当に遠慮がない。

 マギは警備システムを押さえ、アスカは、偽造カードで、どこでも侵入する。

 「・・・大きい家だね」

 「キールおじさんの別荘よ」

 「えっ」

 「でかけりゃ 良いってものじゃないけど、玄関から御殿まで遠いのは保身の現れでしょうね」

 城のような大邸宅に入っていくと、アスカは、くつろぐ。

 「カップラーメンだけはあるわね」

 「こういうところか、お金持ちの家にしか、残っていないよ」

 「ええ、全て、日本に送っていたもの」

 「世界中が使徒戦の為。資材、人材、資本を投入していたわ」

 「・・・・・」

 「だから、日本以外で、まともな生活をしていたのは、お金持ちと上層部だけ」

 「・・・・・」

 「国の90パーセントの資産を握っていた5パーセントのお金持ちも、第10使徒以降は、こんな、モノを食べていたというわけね」

 「どうして、第10使徒って」

 「製造年月日の表示よ」

 「あ・・・・」

 「ゼーレの人類補完計画も可能な限り人類の精神体を残せるギリギリの段階で決行されたわけ」

 「そ、そうなの?」

 「ええ、人口は、毎日のように激減。ぎりぎりの選択。かな」

 「アスカ。ここには、何をしに?」

 「NERVは、ゼーレにとって油断のならない傘下組織だったけど。反ゼーレ勢力は別にいたの」

 「それは?」

 「サードインパクトが起きても生き残れるような避難所を建設しようといていたはず」

 「?」

 「はぁ・・・その避難所の資産を奪いに行くのよ」

 「えっ!」

 「ゼーレの人類補完計画の計算だと避難所は完成していない」

 「たぶん、駄目でしょうけど。施設は残っているはず」

 「それが、ここと関係あるの?」

 「反ゼーレ勢力の情報が欲しいだけよ」

  

   

 「たまには、こういう贅沢もいいか。シンジは、外国に住むとか。考えたことない?」

 「な、ないけど・・・・」

 「それ、引き篭もりってヤツ?」

 「が、学校は行ってたじゃないか」

 「似たようなものよ」

 「日本国内で羽振り良く闊歩しても井戸の中の蛙」

 「井の中の蛙に踏みつけられたハエが引き篭もりね」

 「・・・・」

 「日本が鎖国しなかったら歴史も随分と変わっていたかもね」

 「・・・・・」

 「日本人ってね。保身の為に海外に出たがらないの」

 「でも、欲に目が眩むと資源と市場を求めて海外に出るしかない」

 「・・・・・」

 「武力を背景に出ようとして、失敗」

 「次は、アメリカの犬に成り下がって、それなりに小金を貯めたみたいだけどね」

 「・・・・・」

 「でも、歪な関係しか構築できず。危なく崩壊する直前に・・・」

 「良かったわね。セカンドインパクトで」

 「ど、どうしてさ」

 「人口の半分も自給自足できない国で経済が破綻したら、どうなると思う?」

 「・・・・・」

 「治世者にとって人災は不幸だけど。天災は減点にならず利用できる」

 「・・・・・」

 「さてと、ちょっと休むか」

 シンジは、アスカを抱きしめるとキスして部屋を出て行く。

 「おやすみ。アスカ」

 「おやすみ。シンジ。宿題を忘れないでね」

 「・・・・わかっている」

  

   

 トライデント機が空母オーバー・ザ・レインボーの上空を旋回しながら着艦する。

 第6使徒ガギエルとの戦いの後、

 アメリカ水兵への予算が足りなくなって電子機器を増設。

 そういう艦艇や兵器が増えていた。

 結果、アメリカ軍の凶悪な無人戦闘兵器が甲板に居並ぶ。

 対NERV戦には、間に合わなかったらしい、

 それでも、相当な戦力だった。

 自動操艦で、ここまで持ってきたお手並みは、アスカが天才ゆえか。マギの力なのか。

 南半球は、サードインパクトのお陰で、オゾン層も元通り。

 生態系も再建されつつあった。

 北アメリカに保存されていた南米の生態系の種を南米に植樹していくのも、

 この作戦で兼ねられている。

 これをするか、しないかで数世紀から十数世紀も生態系の生育で差ができるらしい。

 シンジは、こちらの方が関心があった。

 空母オーバー・ザ・レインボー 艦橋

 「・・・アスカ。前に乗ったときと、随分違うね」

 「敵が後進国なら無人兵器でも十分なのよ」

 「妨害することすらできないわ。その代わり、マギにとってはカモだけど・・・」

 「どこに行くの?」

 「パタゴニア」

 「そう・・・」

 自動販売機の前。

 自動化されていても人間の居住区画だけは残されている。

 「・・日本のカップラーメンって偉大な発明ね。世界中のどこにでもあるわ」

 「でも凄いわね。お金持ちでさえカップラーメンをすすっていたのに無人兵器は、10人前か・・・」

 「どうして、こんな物を・・・」

 「南から押し寄せる難民を殲滅する為よ」

 「精神衛生上よくないから無人戦闘機械を使ったのね」

 「・・・酷い・・・」

 「なに? 日本じゃ。モノが溢れ返っていたわ」

 「・・・・・・・」

 「シンジは、日本人で良かったわね」

 「・・・・・・・」

 「シンジのお父さんのおかげよ」

 「・・・・・・」

 「シンジが他の国の人間だったら、とうのむかしに死んでいたわね」

 「死んでも良いと思っていたんだ」

 「・・・この場合、死ぬというのは飢え死によ。シンジ。見たことある?」

 「・・・・」 むすぅ

 「さぁあてぇ〜 やるわよ」

 「戦争?」

 「そうよ」

 「なんで?」

 「地球の相続よ」

 「相続って、ゼーレ人類補完計画で決まっているんじゃ」

 「シンジ。あんた、飼い犬で終わるつもり?」

 「ぅ・・・」

 戦争のやり方はパラメーターを見ながら無人兵器を必要な場に配置していく。

 敵味方識別の為、小型索敵機を送り込み。攻撃してきたら敵と判断。

 その後、戦闘マシーンに敵を認識させて突入させる。

 仮に妨害電波で制御不能になっても射程に入った敵を自動的に殲滅する。

 かなり怖い兵器だった。

 シュミレーションだと密集させて突破させる方法もある。

 分散させて、包囲殲滅という方法もある。

 NERVで戦術の初歩は学んだが、これは戦略レベル。

 コンピューターの戦術プログラムが初歩的な戦術をトレースしていく。

 シンジは、コントロールパネルを扱いながら駒を動かしていく。

 アスカは、いくつも目的を重複させて行動する。

 普通の人間なら、一つの行動で目的は一つ。

 アスカは、何をしたいのだろうかと思ったりする。

 手駒は、トライデント1機。

 空母 (無人戦闘機50機、無人ヘリ20機)。

 空母の周りを守る無人艦8隻。無人揚陸艦2隻 (ヘリ50機、戦車50機)。無人潜水艦8隻。

 そして、大型輸送機がユミールを投下。

 ユミールが無人の荒野に降り立つと空母からの送電線を背中に装着する。

 エヴァよりも消費電力が少なくて済むため、

 送電ケーブルの径が小さく強度を増すこともできた。

 さらに常温超伝導でケーブル材質に支障がない程度延ばすことができた、

 その距離は、エヴァの数十倍。

 内臓バッテリーの稼働時間も歩くだけなら4日。

 探索では、それなりに使えた。

 「これから、パタゴニアの避難地を制圧するわ」

 

  

   

  

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 月夜裏 野々香です。  

 ちょっと、痛い系LAS。これが、お似合いでしょうか。

 惣流・アスカ・ラングレー。自他とも認める天才だそうです。

 本当にアスカの計算が合っているのか。計算が狂っていないのか。微妙です。

    

      

     

      

   

楽 天

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『赤い世界』

第00話 『赤い世界』
第01話 『わたしの世界よ』
第02話 『ノア・ラングレー よ』
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