月夜裏 野々香 小説の部屋

   

新世紀エヴァンゲリオン 『赤い世界』

       

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 人類補完計画ゼーレ案主導のサードインパクト世界

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 第02話 『ノア・ラングレー よ』

 紅い海に照らされた赤黒い空が地平の果てまで広がる。

 空母オーバー・ザ・レインボー

 セカンドインパクトで少人数化が進み、

 第6使徒ガギエル戦後の改装で、さらに自動操船が進んでいた。

 大型のトライデント機が飛行甲板を占め、3体のロボットが働く。

 艦橋

 「・・・メルキオール。少し寒くなったわね」

 「南半球に近づいていますから」

 「航海は?」

 「順調です」

 「動作不良がなければ、艦隊を揃って目的地までたどり着けるはずです」

 「そう・・・シンジは、眠っているの?」

 「はい」

 「公転軌道上のパターン反応は?」

 「第12探知衛星が公転周期の軌道で微量ながら “青” を感知しました」

 「・・・そう、絞り込んで」

 「はい」

  

 空母オーバー・ザ・レインボー 艦橋

 シンジ、アスカ

 アスカは、イライラとモニターを見詰める。

 探知機が荒れ果てたパタゴニアの大地を徘徊し、映像を送ってくる。

 「・・・シンジ。海の方は?」

 「いま、探知機を配置しているけど・・・」

 「やっぱり、同じ技術レベルだと隠蔽も相当なもの、地の利がないから不利ね」

 「でも、アスカ。植樹は上手く行ってると思うよ」

 無人農作機械も上陸して動いていた。

 「そんなの片手間にやっていることよ」

 どうでも良さそうに呟く。

 アスカの主眼は、あくまでも反ゼーレ勢力の遺産にあるらしい。

 どこか、違うような気がしないでもない。

 しかし、シンジだけなら南半球の植樹など思い付きも、考えもしない所業だった。

 「ん〜・・・地表には・・・出入り口が、ないのかも・・・」

 「え?」

 「反ゼーレが隠密で避難地を建設しようと考えれば潜水艦を使う」

 「当然だけど、潜水艦は機密性の強い・・・」

 「じゃ 海・・の中?」

 「シンジ。海底洞窟をしらみ潰しよ」

 「アスカ。ひょっとしたら、人類が生き残っているかも?」

 「それは、ないわね。アンチ・AT・フィールドから人間が体を維持できるのはエヴァだけ」

 「・・・・」

 「それに人間が生き残っていたら・・・」

 「いまごろ、パタゴニアの地表を吹き飛ばして地上に出ているはず・・・」

  

  

 時田工業の小型人型ロボット。

 青系統色のメルキオール、

 赤系統色バルタザール、

 緑系統色カスパー、

 時田の趣味なのか、純粋なロボット型だった。

 ケーブルで電力を供給され、マギによって無線・有線操作されている。

 ユミールと同様、駆動機械に限定したことで動きだけは人間以上だった。

 この3体がマギの指揮下で動き、機動部隊のメンテナンスをしていた。

 人手不足なのだが汎用性があり、自己診断も相互メンテナンス機能もあって世話いらず。

 電力が続く限り24時間フル稼働で動けるのが利点らしい。

 まったくもって良くできている。

 『アスカ様。海底洞窟を発見しました』

 「メルキオール。人工的な工作は?」

 『巧妙に偽装されていますが感知器に微弱な反応があります』

 「そう、海底から行くのは危険かもしれないわね」

 『はい』

 「あとは陸上までの施設を推測できれば・・・」

 『反ゼーレ勢力の土木建設関連の事業と、この地域の地盤を推測すると・・・』

 『規模は、これくらいになると思われます』

 モニター映し出される海図とパタゴニア沿岸部。

 海底洞窟から大陸に向かって、大陸側に線が延びていく。

 「探査機を集めて。ユミールと掘削機械を使って、ここから掘り進んで」

 「はい」

 アスカは、反ゼーレ勢力の造った防御壁を用心深く回避し、慎重に探索していく。

 まるで、ゲームをしているように防御壁を一枚一枚剥ぎ取り、施設内部を曝していく。

 『アスカ様。メインコンピューターに繋がる端末を発見しました』

 「そう、相手もマギクラスの可能性もある」

 「メルキオール、バルタザール、カスパール。大丈夫でしょうね」

 『はい』

 「そう・・・ハッキング開始」

 双方向通信が接続されると、たちまちの内にコンピューター間の主導権争いが始まる。

 三位一体で相互監視するマギ系スーパーコンピューターを陥落させるのは苦労する。

 「・・・やるわね。敗北主義者の拠点のクセに」

 『アスカ様。パタゴニアの自律防御システムは、強固で苦戦中です』

 「・・・そんなに防御したいのなら引き篭もらせてあげる」

 「ダナン型防御を1基に押し付け。残りは、2対1と、1対1で攻勢をかけて」

 マギの完全防御プロテクトプログラムを敵のマギ1基に送り込み、閉塞させてしまう。

 人間不在だと、この辺の切り返しが難しい、

 パタゴニア側のマギは、後手に回る。

 3対2となったマギ同士の戦いはランチェスターの法則が成り立つ。

 ・・・・3対2・・・・・・・・3対1・・・・・・3対0・・・

 「第666プロテクト解除」

 『はい』

 ・・・・・・3対1・・・・・・・3対0・・・・陥落。

 自律コンピューターさえ支配下に置けば、パタゴニア基地は占領と同じだった。

 中の様子も、わかれば人間の有無もわかる。

 モニターにパタゴニア基地の全容が映し出された。

 「・・・人間は、いないわね」

 「うん。でも凄いね。第3東京市のNERV基地とほぼ同等だよ」

 「使徒戦で、これだけの資財を集中できたら、もう少し楽だったのに・・・」

 「人類の敗北主義者の総量か・・・」

 「メルキオール。目新しいものは、ある?」

 『はい。ガギエル系の研究が進んでいるようです』

 「ふ〜ん 負け犬の努力の結晶を出して」

 モニターに情報が流れる。

 「・・・なるほど、ゼーレと反ゼーレも、いろいろ、取引があったみたいね」

 「敵同士で取引するの?」

 「非ゼロ・サム・ゲームは互いに共通の敵がいて戦争したくないとき」

 「それがないと困るとき仕方なしだけど起きるわね」

 「・・・・」

 「カスパー。トライデント機の準備は?」

 『完了しています』

 「そう・・・シンジ。行くわよ」

  

  

 パタゴニアの避難地

 地下に造られた避難地は、破壊されていたオゾン層から身を守る以上に深く。

 施設は機能していた。

 タダそれを操作する人間だけが消失している。

 「へぇ NERV基地より、こっちの方が綺麗だね」

 「ええ、地上に町がないのが寂しいけど」

 「さ、寂し過ぎるよ」

 「ここを人類再生の拠点にするつもりだから、かなりの資材が揃っている。衣食住も1万人分か・・・」

 「地下は、ちょっとした町だけど・・・」

 「一生かかっても使い切れないわね。シンジ。家に、お日様が当たっていないと、いや?」

 「ど、どうかな・・・」

 シンジは井戸の中の蛙な気質。

 日本から出たくなさそうな表情をする。

 「・・・でも地下設備の価値は、半分。残りの半分は別にある」

 「これだけでも凄いのに・・・」

 「こっちにマギを移して拠点にしても良いわね」

 「え、第三東京市のマギを捨てちゃうの?」

 「野ざらしのマギじゃね。スペックだけなら第三東京市のマギと、それほど変わらない」

 「・・・・・」

 「原子力潜水艦内臓のマギなら自由に移動できるし」

 アスカがスイッチを押すと巨大な扉を開く。

 巨大な水路に大型潜水艦が浮いていた。

 「ガギエル系の光質を利用したわけか。アダム系エヴァの光質も合成させているみたいね」

 「これで身を守れなかったんだ」

 「チルドレンとコアがないとATフィールドは無理ね。それにアダム系エヴァとスペクトルが違う」

 「でも・・・・凄い・・・」

 「でかいだけで、エヴァ光質の総量は、初号機の3分の1くらいよ」

 「でも、これなら十分に世界中の海を渡り歩けるわね」

 「ど、どこに行くの? アスカ」

 「次は、欧州で情報を入手して、南アフリカで欧州連合の資産を相続しないとね」

 「な、何があるんだろう」

 「さあ〜」

  

  

 海中排水量25000トン級潜水艦 “ノア” (全長260m × 全幅100m)。

 光質の軽さの為か、完全浮上すると艦体の半分以上が海上に浮いてしまう。

 海流だけでなく風力の影響も大きいためマンタ型。

 大型艦でも完全浮上は浅瀬に停泊しない限り、止めたほうが無難だった。

 反ゼーレの拠点であり。

 相応の施設を持つ大型艦で命名はノアの箱舟からとったのだろう。

 人類が生き残る意思を感じさせる。

 ユミールやトライデント機を格納できる空間がある。

 何を意図して建造された潜水艦か、わかりやすい。

 「わたしが艦長ね。シンジ」

 「どうぞ、艦長でも提督でも・・・」

 「よ〜し ノア・ラングレー発進!」

 「ノア・ラングレー?」

 「カッコ良いでしょう♪」

 「はい、はい」

  

    

 惣流・アスカ・ラングレーの支配欲は、かなり強く。

 次の得物を探し回る。

 大型潜水艦ノア・ラングレー。

 このデカ物を動かせるのは搭載されたマギ型コンピューターのおかげ。

 元々、人類補完計画後、反ゼーレの拠点だったらしく自動操艦技術は最先端だった。

 アンチ・ATフィールドから身を守れなかったことを除けば不足のなし移動基地といえた。

 「アスカ。空母と艦隊は、どうするの?」

 「ああ、あれは、もう、いらないわ。機能不能まで南半球の植樹で使い切りましょう」

 「そ、それが良いと思うよ」

 何故か、ほっとするシンジ。

  

  

 ノア・ラングレーは、マギ制御の優れた自動操艦潜水艦だった。

 目的地をセットすれば、マギが航路計算プログラムを作ってくれる。

 赤い海は生理的に違和感があった。

 それでも潮風に吹かれると気晴らしになる。

 シンジが何をしているか、というと、甲板でアスカの肩揉み。

 アスカといえば、リクライニングチェアで、ゆったりと横文字雑誌を読みふける。

 「・・・アスカ。なんか退屈だね」

 「シンジ。ノア・ラングレーの操艦は覚えているの?」

 「・・・ボ、ボチボチかな」

 「壊れても対処できるようにしておかないと、いざというとき立ち往生になるわよ」

 「う、うん・・・出会い系のメールが来なければ、もっと、時間が取れるけど・・・」

 「あんた。わたしが、いながら、そんなこと、やっているわけぇ」 怒

 アスカは理不尽に目くじらを立てる。

 「ア、アスカが送っているんじゃないか、もう、アスカの肩揉み、1500時間越えたよ」 どよ〜ん

 「シンジも刺激があって良いわけね。って、あんた画像を保存しているでしょう。このスケベ」

 苦笑い。

 「な、なんかさぁ もっと上手くやれたんじゃないか、とか、思わない?」

 「なによ、それ?」

 「ほら、使徒戦とかさ」

 「ば〜か。わたし、そんな後ろ向きな性格じゃないわよ」

 「あ、そう」

 「それに、この世界。結構、気に入っているのよ」

 「そ、う、なんだ」

 「人類補完計画の賛否はともかく、わたし達にとって、この世界は悪くないわ」

 「でも、人類補完計画なんて・・・・ほかに方法は、なかったのかな」

 「・・・シンジ。あんた。餓えて死んでいく人間を見たことがある?」

 「・・・・」

 「じゃ 国や人が弱者を踏み躙って、騙して、奪って殺してしまうのは?」

 「・・・・」

 「シンジが物心ついたころは、日本は使徒戦に備えて、そういうの消えていたみたいだけど・・・」

 「・・・・・」

 「それがセカンドインパクト以降の世界よ」

 「セカンドインパクト以前も大半の世界が、そうだったらしいわ・・・」

 「・・・・・」

 「そういうの面倒見る気がないのなら、嫌悪感だけで口出しすべきじゃないわね」

 「・・・・・」

 「口先だけで女々し過ぎよ・・・」

 「・・・・・」

 「少なくとも、この世界。人口も、まだ少ないからシガラミないし。資財も十分・・・」

 「そ、それは、そうだけど・・・」

 「全部、わたし達のモノだし。ていうか全部、わたしのモノね」

 「え、ぼ、ぼくのは?」

 「んん・・・シンジには・・・わたしだけ、かな」

 「ぅ・・・それは喜んで良いの?」

 「宿題が終わるまで “おあずけ” よ」

 『い、いつ終わるんだよ〜』

 どうやらアスカは自分が気が済むまで “おあずけ” させる気らしい。

 アスカは、むかしのような、刺々しさがなく普通の友達。

 いや、就寝前と寝起きの抱擁とキスが、あるから、婚約者?

 いや、良い意味での主従関係。

 「・・・でもさぁ 二人だけの世界って、なんか寂しくない?」

 「そうねぇ このわたしの美貌を見せる相手がシンジだけ、なのが少し寂しいわね」

 「ア、アスカは、と、とっても美しいです」

 「むふ♪ 何回目だっけ?」

 「12回目・・・」

 「マイナス12分か・・・」

 「全然、減った気がしないよ」 ・・・ッー・・・涙・・・

 「画像をコピーしたりするからよ。何に使っているんだか」

 「な、何にも使ってないよ!!」

 「へぇ〜・・・・ご褒美に欧州に着いたら、わたしの城を見せてあげるわ」

 「城?」

 「家よ」

 「うぅ・・・アスカ、城に住んでたの?」

 「そうよ。これでも、お金持ちで城持ちのお姫様よ」

 「・・・・」

 「良かったわね、シンジ。お姫様と二人っきりの世界なんて」

 「はい。アスカは、とっても美しいです」 涙

 「ん・・・マイナス13分か・・・チリも積もれば山となるね」

 永遠に続くような気がする・・・・

 欧州に着く前にやることが、いくつかあった。

 マギを使って事前の調査。

 生活できるか、などなど、欧州のインフラ調査と整備。

 アスカが調べた限りだと、

 ゼーレのお膝元ながら個別人工進化系を研究するクムラン派という部署があるらしい。

 「・・・それが、問題なの?」

 「人類補完計画ゼーレ案が遂行された場合。個体レベルのATフィールドは太刀打ちできないはずだけど・・・・」

 「なんか、あるの?」

 「わたしなら抜け道を探せそうだから・・・・」

 「じゃ・・・」

 「万が一。ということも、あるわね。わたしと同じレベルの天才がいるかも・・・」

 「そ、そんなに凄いの? アスカって」

 「あ、あのねぇ〜」

 「まぁ 能力が、あっても足の引っ張り合いとか、杓子定規な事務処理で半減するからね・・・」

 「・・・・」

 「でも・・・効率的な組織で統制が取れていると・・・2乗したり、3乗したり・・・・」

 「アスカ。なんで、そんなに不安なの?」

 「ゼーレのケルベロスを落としていないからよ」

 「ケルベロス?」

 「マギを拡大改良したものね」

 「たぶん、量産型エヴァ12体共有のおもちゃ。直轄コンピューターというところね」

 「欧州に行くと、そいつと、ぶつかる?」

 「量産型エヴァが、わたし達になにかする、ということはないと思う」

 「うん」

 「でも、ケルベロスが隠している “何か” が、わたし達に危害を及ぼす可能性は、あるわね」

 「あの、量産型エヴァに聞けば?」

 「イヤよ」

 「お母さんなのに・・・」

 「こっちも意地があるのよ」

 「い、良いお母さんなのに・・・」

 「あんたねぇ ママのお陰で、わたしと、キスできるようになったからって・・・」

 「バンジー。飛べば、良かったのよ」

 「ぅ・・・」

 思い出しただけで足が竦み、気が遠くなる。

 シンジは平々凡々な日和見で受身が好きだった。

 良くも、悪くも棚ボタ待ちの平和主義者。

 卑怯者とか、臆病者とか、消極的とか、偽善者とか、ぴったりな単語が浮かんでくる。

 『こんなヘタレなヤツでも使徒戦の英雄で・・・命の恩人か・・・』

 こういうバカタレだと包容力・寛容の無さを感じる、安心して身を委ねられない。

 アスカは、違う意味で気が遠くなるような、めまいと失望感を覚える。

 大人しいだけの碇シンジ15歳に包容力や寛容を求める方がどうかと思ったり。

 時期、早々の年齢でもある。

 『・・・ま、いいか』

 惣流・アスカ・ラングレーは、シンジより半年ほど若い。

 しかし、英才教育のおかげか、研ぎ澄まされた精神と肉体を持っていた。

 サードインパクト以降は “誰か” に干渉され精神的な負の部分が消えて安定していた。

 天才の部分だけが表面化している。

 そして、もう一つ

 敵? の存在がアスカに緊張感、緊迫感、目標を与えている。

 何かを捻じ伏せてしまうときの達成感、高揚感を感じているのか、含み笑いを見せた。

  

  

 ノア・ラングレーの格納庫の大半をトライデント機が占めていた。

 単純に速度を考えるのであればトライデントで行く方が早い。

 しかし、ノア・ラングレーで行けば、ユミールなど使いやすい手駒も増える。

 そして、マギがあると調べ物で便利だった。

 シンジはマギの端末を覗き込む。

 宿題が解ければ、アスカと・・・頬が赤くなる。

 蟷螂のオスは、たとえ、食べられても蟷螂のメスに近づくという。

 たとえ、アスカが気を変えて殴ってきたら・・・

 ぶるっ・・

 戦々恐々なのだが碇シンジも一応、男。

 バンジージャンプが無理でも、アスカの出した条件は満たしたい衝動が起こる。

 頭を使う問題なら、いつでも空いた時間を利用できた。

 「・・・カスパー。人間は、どうして争うのかな」

 『相反する欲望が、ぶつかるからといえます』

 「そういうのがなければ良いのに」

 『ゼロ・サム・ゲームというのがあります。シンジ様が野球をされているとします』

 『勝てば野球選手を続けられます。負ければ相手のバッターが野球を続けられます』

 『負けると野球ができず、生活ができなくなります』

 「・・・・」

 『シンジ様は、わざと負けられますか?』

 「それは・・・でも野球と戦争は違うよ」

 『同じです』

 「そ、それは、悲しすぎるよ」

 『仮に非ゼロ・サム・ゲームに誘導できたとしても、イカサマとか、ウィンウィンの関係ですし』

 『最終的に相手次第です・・・・』

 「んん・・・愛し合った二人が憎み合うようになって、最後には、殺し合う・・・・なぜ・・・」

 『・・・・』

 「アスカは、答えを知っているよね・・・」

 『問題を出したということは、自分なりの回答を持っているかと』

 「あの、キールとかいう人も、アスカのお母さんも、答えを知っているみたいだったし・・・」

 『答えは、最低限でも全ての判例に共通する事柄と思われます』

 シンジは、マギーの端末に流れている判例を眺める、

 これといった共通点も思い浮かばない

 「・・・・わから〜ん。カスパーは、わかるの?」

 『マギは、全ての判例に共通する、それらしい回答を出しています』

 「んん・・・・・・・ヒント」

 『駄目です』

 「・・・推理とかだったらな・・・犯人は、おまえだ! とか」

 「じっちゃんの名に賭けて、とか・・・・はぁ・・・」

 『・・・・これは、結果に対する推理というより。現象に対する推論です』

 「・・・・」

 携帯を見ると、いつもの如く、出会い系のメールが流れてくる。

 たった二人しか、いない人類。

 いもしない女性からの出会い系メールに何の価値があるのだろう。

 “即・ホテル”

 “あと半年の命で・・・・”

 “いくらでも、お金を用立てられ・・・・”

 “あなたの M令嬢・・・・”

 ふん、くだらない誘い文句なんかに乗るものか・・・

 『ぅ・・・この画像は・・・・・・』

 ぽちっ

 「あ・・・し、しまったぁあああ〜!!!」

 『・・・・・』 カスパー

 「つ・・・つい・・・」

 はぁ〜

  

  

 ノア・ラングレー 艦橋

 艦長席のアスカは、いくつかのモニターを見つめる。

 第3東京市のマギをノア・ラングレーのマギにデーターを転送させていた。

 エヴァ制御など対使徒戦で使わない余剰分のスペックでマギとの会話が成り立つ。

 さすが人格移植プログラムだろうか。

 「メルキオール。どう? ATフィールド通信の状況は?」

 『・・・パターン青反応で初号機の軌道は、わかりますが交信は、まだです』

 「碇ユイは太陽系を離脱する気かしら?」

 『ええ、公転軌道計算で加速スイングバイを繰り返して太陽系脱出速度まで加速するようです』

 「初号機で銀河の彼方へか・・・」

 『いいのですか? 初号機の喪失』

 「シンジのママが宇宙に行きたいのなら、別に止めないけど。別に必要ないわ」

 『初号機と情報交換が必要なのですか?』

 「別に・・・わたしからは、せいぜい “旅の安全を祈る” かしらね」

 『ではシンジ様の為に?』

 「交信の内容次第ね」

 『おやさしいことで』

 「ふ・・」

 『碇ユイ様が、いない方がシンジ様を自由にできる?』

 「そういうこと・・・」 にやり

 『統計上、姑は邪魔ですからね』

 「でも・・・せめて何か言い残していけばいいのに・・・」

 『何を言っても悲しませるだけなのでは?』

 「でもメッセージがあればシンジに対する切り札になるわね」

 『・・・もう、たくさん、お持ちなのでは?』

 「手駒は、多いほど、いいのよ。財布の中身もね」

 『そういうものですか?』

 「そういうものよ・・・でも宇宙か・・・碇ユイが他の星で新しいリリスになるのね」

 『宇宙の種。スター・シードですか?』

 「リリスは、地球人類だけじゃなく銀河の箱舟よ。宇宙樹のライブラリーでもある」

 『・・・リリスが出自不明なのが気になりますが』

 「借り物に命運を託すのが気に入らない?」

 『それは人間側が判断することですから』

 「別に・・・人類そのものがリリスの借り物よ。自分で自分を創ったわけじゃない」

 『リリスの被造物です』

 「そう、宇宙の果てから流れて、この星で作られ、生きて、また、宇宙へ飛び立っていく・・・」

 『いつの間にか、そこに居て、自我に気付いて、被造物なら、マギも人間と似てます』

 「借り物よ・・・」

 なんとなく、鏡に映るアスカ自身の姿を見つめる。

 『確かに・・・』

 「存在する生命と種族をいくつも抱え込み、他の恒星系に紡ぐ」

 「シンジは、その価値を理解できないわ」

 『アスカ様も行きたかったので?』

 「さぁ どうかしら」

 「でも一端の生命体なら、この銀河に生きて存在したことを証明するため足掻き切るのも悪くない」

 『初号機の旅立ちは、シンジ様が悲しまれるのでは?』

 「そんな道義的な理由で生命が生きた証明を銀河から消してしまうなんて、女々しいだけよ・・・」

 『その方が生物的な合理性と強さを感じられます』

 「シンジは、わからないでしょうけど、普通、万歳三唱で銀河に送り出すべきね」

 『日本人は情を重んじやすいようです』

 「情? 女々しさを正当化されてもね。その上、恨みがましくなられたら最低ね」

 『シンジ様も、ずいぶんと変わられたと思います』

 「わたしの教育の賜物かしら」

 『ですが、シンジ様の場合は・・・』

 「赤木レポートと伊吹レポート?」

 「いくら閉塞的な気質がATフィールドの強弱に影響するからって・・・・」

 『初号機のATフィールドは最強です。碇シンジ様のサードチルドレン採用は正解でしたね』

 『あと、数パーセント低かったら使徒戦に負けていました』

 「ふん! たまたま、ヘタレな可能性が幸いしただけよ」

 『結果、良しですか?』

 「・・・わたし達とゼーレ。そして、碇ユイの初号機。三つの選択枝がある。選択肢は多い方が良い」

 『第18リリン系人種は、リリスの意図にかなったのでしょうか?』

 「そうね・・・生きた証を乗せて銀河に旅たつ初号機・・・」

 「新たの可能性を求めて、群体で液状化したゼーレ・・・」

 「そして、既存種のまま、やり直しの可能性を残した、わたし達・・・・」

 「リリスの意図は、どうでも良いけど悪くないわ」

 「わたしが、女々しいシンジと一緒、というのが、気に入らないけどね」

 『しかし、シンジ様の場合は・・・』

 「わかっているから、腹が立つのよ・・・」

 「いくら仕組まれて、そう育てられた子供だからって・・・ったく」

 

 

   

  

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 月夜裏 野々香です。

 『赤い世界』の支配者とらんと、惣流・アスカ・ラングレーが動きます。

 ゼーレは、人類補完計画が安定するまで小技が使えず、身動きがとれず。

 ゼーレは、シンジとアスカが唯一の人類であり、

 精神体の供給源。手を出しにくい状況です。

 ゼーレにとっては、まさか、まさか。

 拠り代の碇シンジは、ATフィールドを使えるのですが内気、

 意志薄弱で御しやすいと思っていたら、とんでもない伏兵。

 能力だけの碇シンジより。

 実力・情報・野心の強い惣流・アスカ・ラングレーの怖さでしょうか。

  

 しかし、碇シンジ、まだまだ、煩悩・凡庸です

 

 

    

 レイに教育された『一人暮らし』のシンジと。

 アスカに教育されている『赤い世界』のシンジは、微妙に性格が変わりそうです。

    

      

     

      

   

   

   

楽 天

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第01話 『わたしの世界よ』
第02話 『ノア・ラングレー よ』
第03話 『もう一つの可能性』
登場人物