月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

『惣流・アスカ・ラングレー物語 T』

 

 

 『一人暮らし』

 人間関係をリセットして、やり直したいと思ったことは?

 しかし、互いの記憶が邪魔になる。どうしたら良いか。

 相手を記憶喪失にさせてしまう。

 これは、相手の精神状態が過去と切れて本物といえない。

 もちろん、自分が記憶喪失になる場合も、自分自身の正気を保てない可能性があり、

 本物といえない。

 擬似的な手段を講じる・・・

 鏡の向こうに別人がいる。

 魅力的な表情の奥底に渇望があり “何か” を求める欲望が見え隠れしていた。

 仮面をかぶり他人に成り済ますと。自分の気持ちを偽り隠している事に気付く。

 別人になることで自分の本音や本性を剥き出しにしやすく、

 欲望に駆り立てられやすくなる。

 女という生き物は、見かけ、見栄え、以上にどす黒い欲望が隠れている、

 社会倫理や理性で押さえているに過ぎない。

 仮面をかぶると、自分自身を騙し巧妙に隠していた “欲望” “想い” が湧き出してくる。

  

  

 惣流・アスカ・ラングレーは、ヘアスタイルを変えて化粧を施し “瑞穂シオリ” に変装。

 何度も録音を聞いて 瑞穂シオリ の声と 惣流・アスカ・ラングレー の声を聞き比べる。

 普通は声で疑われる、多分、大丈夫のレベル。

 性格的なベクトルから来る話し方を少しばかり変えてみる。

 香水も変える。

 これだけ化ければ、シンジは気付かない。

 バレるとすればトリニティを除いて自分をよく知るマナか、レイくらい。

 だいたい、あの男は、他人を観察するという観点が欠けている。

 まったく、独善的な引き籠り野郎といえた。

 

 赤髪青眼の日独クォーター、惣流・アスカ・ラングレーは鏡の向こうにいない。

 黒髪・黒眼の大和撫子。瑞穂シオリの出来上がり。

 日本の女は、神秘的な黒髪・黒眼の魅力を上手く使わず、捨てていた。

 アスカは、鏡を見詰め、黒髪・黒眼を羨望しつつ、惹き立てる術を習得していく。

 『ふ バカな連中・・・』

 と、猫に小判な人種を嘲笑する。

 惣流アスカと瑞穂シオリの体格と骨格は同じで、こればかりは変えられない。

 しかし、惣流アスカ似のロボットメイドと、一度でも、一緒にいれば、済むはずで、

 その手はずは整っていた。

 変装した自分自身が別の女を演じても擬似的な関係に過ぎない、

 しかし、気分を味合うくらいなら良いだろう。

 一応、有力者の娘ということで、新型コロニーの案内を命令している。

 レイとマナを自然な形で外させるのは、かなり苦労する。

 バレても “シンジの接待能力を知るため” と建前的な口実も準備している。

 本音は、そう擬似的でも、碇シンジと初対面から始める刺激があった。

 シンジも、一途になりやすい年頃。

 それでも、結婚を控え、少しばかり、余所見したくなる時期でもある。

 人間は、危機管理能力の関係で自己分析の周期が訪れる。

 主観的に一途に成り切れず。客観的な迷いも生じるはず・・・・・

  

  

 衛星軌道上の宇宙空間

 円筒状コロニーの内側、

 周囲の狭い閉塞空間が重要施設であり、

 無駄に広い中空の空間に人工的な自然が造られていた。

 人の生きる空間が、いかに贅沢か、分かりやすい。

 牧場区画

 ロボットメイドの香取が紅茶とお菓子をテーブルの上に準備していた。

 「・・・シンジさん。随分と広いのですね」

 なんとなく、頬が赤くなるシンジ。予想通り、さん付けは慣れていない。

 「あの・・・瑞穂さん、小惑星ケレスに挿入するので、それに合わせた、大きさです」 はにかみ

 「自然も、たくさんあるのね」

 「ええ、地球から遠く離れるので自然を多くしているようです。北海道をモデルにしたそうです」

 「素晴らしい大事業ですわ。シンジさん」

 「いえ、ぼく・・あ・・・わたしは、名前だけですから・・・・」

 「・・・シンジさんは、綾波レイさんと婚約されているのですか?」

 「はい」

 「とても立派な女性と、うかがっています」

 「わたしも、そう思います」

 「まあ 御自分の婚約者ですのに・・・・」

 「僕なんかと、結婚してくれるのが信じられないくらいです」

 「シンジさんも、英雄で大富豪ですのに謙虚ですこと・・・」

 「じ、自分では、そう思えないかな。人任せで、周りに立派な人が多過ぎて・・・」

 「最近は、ロボットが優秀すぎて、希望を持てる人間の英雄が欲しいですわ」

 「そ、そうですね・・・もう、トリニティと競争する気にも、なれませんが・・・」

 「この馬は、ロボットでなくて本物ですか?」

 「はい。自然の循環に組み込んでいるそうです」

 「ちょっと、乗って、みようかしら」

 「えっ!」

 「大丈夫です。乗馬の経験は、ありますから」

 馬に鞍をつけると、明らかに興奮気味、調教されていない馬だと、なんとなく分かるが・・・・

 「・・・あ、危ないですよ。瑞穂さん」

 「シンジさん。少し離れたほうが良いですわ」

 瑞穂シオリは、スッ〜 と乗ってしまう。

 暴れ、跳ね回る馬。

 瑞穂シオリは、黒髪をなびかせ、華麗にバランスを取る

 そして、表情をほとんど変えず、数分で、馬を捻じ伏せ。

 人馬一体の光景を見せつける。

 シンジは、差し出された手に捕まると数メートルの高みで、広がった世界を眺める。

 背中は、細く、しなやかさ、精悍さを感じずにいられない。

 シンジは、瑞穂シオリの女性らしい甘い香りに酔い、

 “抱きしめたい” という衝動に襲われ動揺する。

 「・・・す、凄いですよ。瑞穂さん。馬を乗りこなしてしまうなんて」

 「本当に?」

 「ええ、僕には、とても真似できませんよ」

 「まあ・・・楽しんだ甲斐が、ありましたわ」

 シンジは、体と体の接触を避けようとし。

 「・・・た、楽しい、ですか?」

 瑞穂シオリは、シンジに背もたれしようとする。

 「ええ、命懸けで、馬を乗りこなす。刺激があって、楽しいですわ」

 「そ、そうですか」

 「トリニティには、分かりにくい感覚でしょうね」

 「ええ、そう思います」

 「シンジさん。私に捕まっていないと危ないですわ」

 「えっ」

 馬が小駆けすると自然に二人の体が密着していく。

 「シンジさんって、英雄なのに、まじめなのですね」

 「そ、そうですか?」

 「英雄、色を好むというのに・・・人類や世界に対するサービス精神が足りないのかしら」

 「そ、そんな・・・ぼ、僕なんか、全部人任せで・・・特にアスカには・・・」

 「・・・・どういう方ですの?」

 「す、素晴らしい女性ですよ。瑞穂さんに、似てるかもしれません」

 「まぁ 政財界の黒幕で英雄の一人に似てるなんて嬉しいですわ」

 「黒幕だなんて。ぼ、僕にとっては素晴らしい女性ですよ。尊敬していますから」

 「・・・・・・」

 「・・・あ・・・他の女性の話とか、しない方が、良いんですよね。こういう場合」

 「くすっ♪ 確かにそうですわね」

 「・・・・」

 体と体の密着度は、べったり。

 シンジは、必死に意識しないように懸命だったり。

 それでも、不意襲う衝動を抑えるのに苦労したり・・・

 「このまま、シンジさんを、どこかに連れ去ってしまおうかしら」

 「そ、そんな」

 「くすっ♪ 社交辞令ですわ」

 「し、社交辞令ですか・・・こ、こういう時、社交辞令では、どう言ったら良いんですか?」

 「そうですわね・・・」

 「“もっと早く出会っていたら、あなたと、そうなっていたかもしれません” でしょうか」

 「・・・本当に、そう思いますよ」

 なんとなくホッとする、シンジと惣流アスカ(瑞穂シオリ)。

 瑞穂シオリの正体に気付いている香取は、興味深げで、一応、知らない振りで接待。

 メイドの心得は、プログラムされていた。

   

   

 美貌で気に入った男を引き寄せて、自分の虜にしていく。

 実力・能力で生きる惣流アスカにとって鬼門といえた。

 雄と雌の生態系。社会構造など気付く。

 学術的、たわごとにも感じる。

 天性で備わっている女性らしさ。

 先天的に備わっている美貌。

 後天的に修練され、洗練させた魅力は、それほど価値を置いていないだけで存在している。

 アスカは、女性らしさを競っても、上位入賞だろうか。

 もっとも、気に入らない男が、よってくるマイナスもある。

 受け主体の女性にとって、当然の帰結。

 実力や能力で男を惹き寄せようとしても退かれるだけ。

 受け主体でも、美貌が備わっていたら、使わないと損であり、

 気に入った男がいたら使うべきだろう。

 『わたしも、年頃か・・・・』

  

 テーブルに並べられた紅茶と茶菓子は、最高級で、格調高い雰囲気が作られて行く。

 とはいえ、アスカは、既に失敗していることに気付く。

 目の前の小男は、美貌に魅入られているのでなく。尊敬の眼差しと気付く。

 これでは、惣流・アスカ・ラングレーと変わらない。

 ちっ! と舌打ちしたくなる。

 実力や能力を半分も出していないというのに・・・・・

 『このヘタレが・・・』

 ここで、シンジを誑し込むのに思いつく事柄があった、

 ちょっと、バカの振りをして、ナヨ〜 ヨロ〜 ごめんなさい。が適当といえる。

 こればっかりは、いくら、化けてもドイツ系アスカの心情に反する。

 コロニーの人工的な優しい風が苦笑いのアスカと愛想笑いのシンジを包んでいた。

  

  

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 『赤い世界』

 サードインパクトの後。人の出す喧騒がなく、静寂に包まれていた。

 その中で動いている人影は、二つだけ。

 中学生のシンジとアスカは、時田工業の倉庫に来ていた。

 あのJA暴走事件で、命脈を断たれかけた時田社長は、生き残る為、妥協を強いられつつ方向転換。

 一度、傾いた信用と財政難で危なく再起不能だった。

 しかし、ゼーレがNERVを見限った後、

 日本政府は、対ゼーレ用の手駒を欲し、時田工業の再建策に投資する。

 辛うじて、再建されたモノが、ここに残されていった。

 航空巡洋艦トライデント1機

 ジェット・アローン1体

 小型ロボット3体

 東京湾埋立地の倉庫に眠っていたのは、この5つだった。

 「・・・電力は、ここまで来ているみたいね」

 「うん」

 「・・・シンジ。回線をマギに繋げて、このシステムをマギの支配下に入れる」

 「う、うん」

 シンジは、アスカに散々しごかれて、オペレータ能力を少しだけ覚える。

 「・・・シンジ。ちが〜う」

 バシャ!

 「ぅ・・・イタィ」

 それでも、やっぱり、それなりで、シンジは、ハリセンで叩かれながら作業が進む。

  

  

 マギは、対使徒戦・対ゼーレ戦で見劣りする性能だった。

 しかし、既存の技術をはるかに超えたオーバーテクノロジーであることには、違いなく。

 コンピューターが、ネットワークにさえ繋がっていれば、生殺与奪は造作もない

 程度の低い、暗号・パスワード。対ウィルス防御など難なく突破。

 支配下に入れてしまう。

 そして、この時田工業のシステムプログラムも、マギの軍門に降る。

 「・・・どれも、試作品ね」

 アスカは、批判気味にシステム情報のマニュアルを見て呟く。

 アスカの後ろに3つの人影が浮かんでいた。

 「・・・・それじゃ。メルキオール、バルタザール、カスパール。よ・ろ・し・く」

 「「「はい、ご主人様」」」

 二足歩行のロボットらしい物があった。

 「すごい・・・」

 「それほどでもない」

 「元々、マギは、ゼーレの不老長寿を考えて作ったものだし」

 「お金持ちが投資するといったら、こういうことよね」

 「ロボットが?」

 「ええ、寝たきりになっても自分の意識をロボットに移せば、自由に動ける」

 「・・・・そ、そんなのにお金を使うの」

 「まだ研究段階みたいだったけど。余分なお金があると違うわね。いくつかの選択の一つね」

 「良くできているね」

 「さぁ NERVが、人工進化系だとしたら。こっちは、機械に拠り代の代用ね」

 「・・・・」

 「資本主義。拝金主義が進むとサービス産業が向上するの」

 「特にお金持ちへのサービスが利益になりやすいのよ」

 「そ、そうかな」

 「あら、お金持ちにケンカを売るなんてバカよ。根回しされて生きていけなくされるだけ」

 「げっ!」

 「そうやって、お金持ちに奉仕させるような、社会を構築させていくのよ」

 「ひょっとして・・・僕たち、お金持ち?」

 「そういうことになりそうね。この地球に二人っきりしか、いないんだから・・・」

 「わ〜ぃ・・・」

 「でも、サービス産業とか無いし。冷凍モノじゃない。肉とか、食べたくなるのよね・・・」

 「うん」

 「こいつらに食肉関係を、やってもらおうかしら。牛は、いるはずだから」

 「そんなことも、できるんだ」

 「マギなら、できるでしょうね」

 「エネルギーと制御を外部に頼ったロボットは駆動系だけ。こんなものよ」

 「で、どうするの?」

 「そうね。トライデントに載せて行くとして・・・」

 「このデカ物は、船に載せて、自動操船で東京湾から駿河湾まで持っていって・・・・」

 「・・・送電は・・・・・何とかなりそうね」

 「アスカ。トライデントは、飛ばせるの?」

 「目的地さえ、プログラムすれば、自動で飛んでいくわ」

 「へぇ〜 便利」

 「NERVの警備用ロボットの方が進んでいるけど。ほとんど壊されているし」

 「こっちの方が汎用性が高そうだから。まぁ いいか」

 「なんに使うの? アスカ」

 「シンジ・・・あんたも、想像力のない男ね」

 「・・・・」

 「その頭。飾りで、載せていないのなら。使いなさい」

 「・・・うん・・・」

 「この、デカ・・・ロボットの名前・・・・固有名詞は、なし・・・」

 「ジェットアローン2号って、書いているよ」

 「・・・ボキャブラリーがないわね」

 「しかも、美的センスに欠けた設計ぇ〜」

 「・・・・・・・」

 「あんたは、今日から、ユミールよ」

 「ユミール?」

 「ドイツの伝説。最初の巨人・・・神々に滅ぼされるけど・・・」

 「その印象も、私が、変えてやるわ」

 帰りは、トライデント機で、帰還。

 「・・・シンジ。ちが〜う」

 バシャ!

 「ぅ・・・イタィ」

 その間、シンジは、ハリセンで叩かれながら。難しそうな本を読まされる。

 さらに何を書いてあるのか、アスカが質問する。

 シンジが、答えられないと、 

 「・・・シンジ。ちが〜う」

 バシャ!

 「ぅ・・・イタィ」

 「いい。シンジ。無知からは、情緒が生まれない」

 「情緒が生まれないと動機も、本能、そのまま、動物的になるの・・・」

 「はい、永遠のアスカ様」

 「だったら、ひたすら、読め!」

 バシャ!

 「ぅ・・・イタィ」

 同じ本を数十回以上。暗記するまで、続く。

 『・・・誰か、僕に優しくしてよ〜』

  

  

 海岸沿いの別荘。

 どうして、シンジとアスカが、ここに住むようになったのかというと、惰性。

 最初、二人が海岸に倒れていた場所から、それほど離れていなかっただけ。

 そして、あのコンフォート17は、二人の思い出の中で、それほど良いものでなかった。

 新しくやり直したいという動機も、あったかもしれない。

 どちらにせよ。人のいなくなった世界だと、家も、物資も、土地も、腐るほど。

 NERVの送電コードにつなげられた元JA2。ユミールは、土方作業。

 エヴァとほぼ同じサイズで、エヴァが使っていた物は、使えるという。

  

  

 町

 送電は、マギのコントロールで、限られた場所に集中させていた。

 シンジとアスカの行く場所も、限られている。

 デパートは、宝の山。当然、お金も、払わずに済む。

 二人だけで、とても、消費しきれるものではない。

 しかし、賞味期限は、過ぎていく。

 アスカは、農園で採れる野菜だけで、満足できない。

 冷凍肉、燻製、干し肉は、まだ、食べられる、

 しかし、血の滴るような肉は、冷凍保存された物に限られた。

 アスカは、無造作に欲しい物をかごに入れていく。

 シンジは、無頓着なのか、センスも並み以下。食料か、日用品が多い。

 豪勢な服と、宝石を着飾るアスカは、映える。

 「・・・シンジ。これ、似合う?」

 「・・・うん」 うなずく

 「・・・・・・」 ぶすぅ〜

 褒め方が足りないのか、視線が、シンジ一つだけだと、かなり興ざめらしく。ブスくれる。

 この手の男女の駆け引きは、シンジの気質、資質に備わっていない。

 「あれぇ〜 シンジ。どこに行くのかな?」

 「ちょっと、散歩・・・」

 屋上

 シンジにとって、一人の息抜きは重要であり、

 携帯の呼び出しがかかるまで、ぼんやりしていたり。

 マンガ本に浸っていたり。

 面倒になるとデパートの寝装具フロアで寝たりもする。

 二人っきりという、状況の割に色気がない。

 いや、アスカは、十分に色気がある。

 ただ、自我が強過ぎてシンジと反発しやすかった。

 そして、シンジは、内罰的、自虐的な資質があるせいか、SMの関係になりやすい。

 もちろん、アスカが、その関係で満足しているわけでもない。

 アスカも自己満足で得られる喜びは、それほど大きくないと計算できる。

 また、経験上わかっていた。

 時折、アスカの携帯が鳴る。

 「・・・カスパール・・・・・・そう・・・・じゃ・・・パターンが掴めたのね・・・・良かった」

 「なにやっているの? アスカ」

 「・・・秘密よ」

 アスカが、不敵に微笑む表情は怖い。

   

  

 二人っきりの世界。

 しかし、アスカは、浮ついた関係を求めていないらしい。

 その気になれないほど、シンジは程度が低い、という。

 アスカに言わせれば、ミサトは、知性と品性の程度が低く。

 リツコも、組織的な問題で才覚が発揮されていなかったらしい。

 天才は、鼻持ちならないが実力を見せ付けられると、あれでも、慎ましい、と思ってしまう。

 いつの間にか、世界中の通信をマギで制御。統制しつつあった。

 最初、大き過ぎる別荘と思っていたのは、シンジだけだったらしい。

 フロアが、次々とぶち抜かれ。

 コントロールセンターのような一角が居間に造られ、

 物が溢れ、広かった部屋が手狭に思えてくる。

 「・・・・アスカ様、作業は78パーセントです」

 「そう、メルキオール、そろそろ、シナリオB22に移行するわ」

 「はい」

 「アスカ様・・・危険では?」

 「バルタザール・・・覚悟の上でやっているのよ」

 「はい・・・」

 「・・・・ペンタゴン並みの空間が欲しいわね。無駄な人間は要らないけど・・・・」

 バシャ!

 「ぅ・・イタィ」

 「シンジ・・・それ、違う・・・」

 「よ、良く、仕事しながら、僕の勉強を見られるね。アスカ」

 「逆よ。あんたの勉強を見ながら、片手間に仕事をしているの」

 「そ、そうなの?」

 「人に知恵を付けさせるのが、一番、大変なのよ」

 「そ、そう・・・」

 「いいから、答えがわかるまで、何度も読め」

 「答えを教えてくれたほうが、早いような・・・」

 バシャ!

 「・・・ぅ・・・」

 「何度も言・わ・せ・る・な。答えを聞いても、すぐ忘れるだけ」

 「自分で答えを考えて、見つけろ」

  

  

 惣流・アスカ・ラングレー

 才覚も、エネルギーも過多なのか、何事かやっていないと持て余し気味なのか。

 ロボット3体を扱き使いながら、

 エヴァ大のユミールをフルに使い切って、それを片手間というらしい。

 NERVの日常でも、これほどの作業は無かった。

 それも、朝から・・・

 バシャ!

 「・・・ぅ・・・」

 「違う!」

 ロボットが、コーヒーを運んでくる。

 「・・・アスカ様。作業が終了しました」

 「そう、カスパール。いよいよね」

 「はい」

 「・・・アスカ・・・何を始めるの?」

 「・・・まず・・・ケジメを付けなきゃね」

 「・・ケ、ケジメって・・・また見たね、ヤクザのビデオ」

 「ちょっと、モチベーションとか、気合入れるのに良いのよ」

 「・・・・」

 「さてと・・・食後の後の、散歩よ。シンジも、おいで」

 「うん・・・・」

  

  

 散歩で、来た場所は、別荘から少し離れた場所。

 少し前まで、ユミールの工事現場だったが、作業は終わっているらしい。

 後ろの巨大なユミールが、海を見据えて。停止。

 アスカは、腕を組んで、ぼんやりと海を見詰める。

 何をしているのか、と思っていると。

 赤い海が盛り上がり。量産型エヴァが、姿を現して、飛んでくる。

 「いっ!」

 「おそい〜」

 「お・・遅いって、アスカ!」

 「・・・・」

 「あ・・・アスカ〜 あ、あれぇ・・・」

 「シンジ。なにビビッテいるのよ」

 「だ、だって、量産型エヴァじゃないか!」

 「・・・ちっ! 一匹だけか」

 量産型エヴァが、翼を広げ、ふわりと地上に降りる、

 大地が上下し、飛び上がりそうなほど、ショックを受ける。

 シンジとアスカは、巨大な量産型エヴァとユミールに挟まれる。

 常識的に絶望的な気分になるはず・・・

 『・・・我々を呼び出すとは・・・・久しぶりだな。惣流・アスカ・ラングレー』

 「キールのおじさん。他のは、どうしたの?」

 『・・・アスカ君。これでも、忙しいんじゃよ。おまえの相手をしている暇はないんじゃ』

 「いいえ、キールのおじさん。無理にでも、相手をしてもらうわ」

 『!?』

 刹那、量産型エヴァの足元から大地が消えて、地面に吸い込まれていく。

 量産型エヴァは、首から上だけを残して、シャッターが閉まる。

 量産型エヴァの巨大な顔が、目の前。

 「・・・キールのおじさん。状況だけ、教えてあげる」

 『・・・・・・・』

 「周りは、装甲板で覆われた魔法瓶というところね」

 「そして、ベークライトと一緒にN2爆弾20個を固めたわ」

 『・・・・・・・』

 「遠隔操作でも。動いても。いま以上のATフィールドに反応してもN2爆弾が爆発する」

 アスカが、リモコンらしきものを見せる。

 『・・・・・・・』

 「どう? キールのおじさん。これで時間ができたでしょ」

 『・・・ふっ ふはははは・・・』

 「量産型エヴァの再生能力も計算済みだから確実に死ぬわね」

 『こりゃ参った・・・しかし、いま、ここで、N2爆弾20個が爆発したら、アスカ君も、死ぬぞ』

 「ええ、油断したでしょう。キールのおじさん」

 『あははは・・・確かに油断した』

 「・・・・・」

 『そのオンボロのロボットが相手なら、全然怖くなかったが、こうなると、お手上げじゃわい』

 アスカが、ふらり、ふらりと量産型エヴァに近付くと、口元に蹴りを入れ始める。

 どかっ! どかっ! どかっ! どかっ! どかっ! どかっ! どかっ! どかっ! 

 「・・・よくも、私と、ママをやってくれたわね」

 「このまま、タダで済むと思っていないでしょうね。キールのおじさん!」

 『・・・アスカ君・・・悪気は無かったのだよ』

 「ふざけんな!!」

 どかっ! どかっ! どかっ! どかっ!

 どかっ! どかっ! どかっ! どかっ! 

 『・・・アスカ・・・ママを足蹴にするなんて・・・・酷いわ・・・』

 量産型エヴァが、女性の声で、話し始める。

 「・・・マ・・・ママ・・・」

 『キール議長は、私をこっち側に取り込むため、仕方なく、したことなの。わかってあげて』

 「・・・ほ・・・本当にママ・・・なの?」

 『ええ・・・あなたが、最後におねしょした日を言いましょうか?』

 「ぅ・・・それは、言うな!」 赤

 『・・・アスカ。復讐が、目的なの?』

 「ええ、でも、ついでに・・・人類補完計画の現状も知りたいわ」

 『・・・・ねぇ〜 アスカ。それより脱出の方法は、あるのかしら?』

 「ママ。これでも、天才なのよ。そんなもの、あるわけないでしょ」

 『・・・困るわ、LCL液に浸っていないと人類補完計画が遅れるのよ』

 「LCL液の水路だけは作っておいたわ、体半分はLCL液に浸れる」

 『まあ アスカ。全部知ってて、こんな酷い罠を作るなんて』

 「少なくとも、いまより、ATフィールドを強くしない方が良いわね。ママ。死ぬことになるわ」

 『もう〜』

 「そこで、自分の身勝手を反省しなさい!」

 『アスカ〜』

 「それと・・・・サードインパクトの時。私の心の中をいじくってないでしょうね?」

 『あら、私たちは、知らないわ』

 「本当に?」

 『他の世界から、別のシンジ君を呼んだけど、彼が知っているかも・・・』

 「・・・・・」

 『・・・・・』

 「・・・行くわよ。シンジ」

 「ど、どこへ?」

 「家に帰るのよ。散歩は終わりよ」

 『・・・碇シンジ君』

 「え!」

 『ごめんなさいね。シンジ君。こんな怖い娘と二人きりの世界なんて迷惑だったでしょ』

 「え! い、いえ・・・」

 「むっ!」 怒

 『本当に、ごめんなさい。シンジ君。もっと、やさしくて、かわいい娘に育てば、良かったのに・・・・』

 「マ、ママ! なに言ってんのよ!」

 「い、いえ、そんな・・・」

 『シンジ君。あなたに、お願いがあるの』

 「え! は、はい・・・」

 『私の代わりに、寝る前と、朝起きたとき、アスカを抱きしめて、キスしてあげて』

 「えっ! えぇぇええええ〜!」

 「なっ! マ、ママ!」

 『シンジ君。私の代わりにアスカを ギュッ! と。お願いね。きっと、やさしい娘になってくれるわ』

 「はっ はい!」

 「シンジ。あんたぁあ〜! なに、勝手に約束しているのよ!!」

 「えっ で、でも、アスカのお母さんが・・・」

 「ふ、ふざけんな! そんな約束するな!」

 『アスカ・・・おとなしくしないと、あんなことや、こんなこと、シンジ君に教えちゃうわ』

 「なっ!」 赤

 首から上だけ出した量産型エヴァが、にやりと笑う。かなり不気味。

 『アスカの事。よろしくね。シンジ君♪』

 「は、はい!」

 『シンジ君って、良い子だわ。アスカ。良かったわね』

 「バ、バカ言ってんじゃないわよ。だれが、こんなヤツ」

 『あら、アスカ。私の代わりに、しっかり、シンジ君に抱きしめられて、キスしてもらいなさい』

 「・・・ぅ・・・」

 『・・・本当にごめんなさいね。腹黒な娘で、恥ずかしいわ・・・』

 「なっ! なんて、こというのよ〜!」

 「腹黒は、そっちでしょ! そっち!!」

 『まぁ ママに、そんな、酷いことを言うなんて・・・』

 『シンジ君に顔向けできないわ。許してね。シンジ君』

 「あ・・・いえ・・・」

 ギシッ ギシッ ギシッ

 リモコンが軋み。

 アスカは、肩を震わせて、怒りに堪え。

 量産型エヴァは、満身の笑み。

  

  

 その夜

 憮然とするアスカ。恐々のシンジ。

 「・・・あ、あのさぁ」 かなり腰砕け

 「・・・・・・・・」 ぶっすぅうう〜

 「ア・・・アスカ・・・」

 「・・・・・・・・」 ぶっすぅうう〜

 「君の、お、お母さんとの・・・や、約束だから・・・」

 「・・・・・・・・」 ぶっすぅうう〜

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 アスカがシンジに腕の中に・・・

 だきぃ〜

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 ギュゥ

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 ちゅ! 

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 「・・・お、おやすみ、アスカ」 赤

 「・・・おやすみ」 ぶっすぅ〜

  

  

 そして、翌朝

 寝ているアスカ。

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 アスカがシンジに腕の中に・・・

 だきぃ〜

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 ギュゥ

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 ちゅ! 

 ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ

 ぐぁわしぃ〜!

 アスカに頭を抑えられるシンジ。

 「・・・あ、あんたぁわあああ〜!」

 「ア、アスカッ! あ、朝の挨拶だから・・・」

 「てぇめぇぇえええ〜!」

 「ご、ごめん」

 「ふざけんな! 謝るくらいなら、最初からするなぁああ〜!」

 「で、でも・・・約束だったから・・・」

 「ったく・・・・」

 「ごめん」

 「・・・あんたねぇ〜」

 「・・・・」

 「はぁ〜 まぁ いいか、今日は、行くところが、あるからね」

 「・・・・うん」

  

  

  

 トライデント機は、北に飛び、広い草原に着陸する。

 ということで、ここは、北海道の牧場。

 セカンドインパクトの後、世界中から物資が日本に送られたせいか、動植物の体系は維持されていた。

 自然に放された牛や馬が、点々としている。

 「アスカ。肉を食べるの?」

 「違うわよ!」

 アスカは、馬小屋から鞍を持ち出し、1頭の馬につける。

 なんとなく、馬が驚いているのがわかる。

 「ど、どうするの? アスカ」

 「あんたねぇ 分かり切ったこと言わないで」

 「あ、危ないよ、アスカ」

 「・・・シンジ。あんた、下がっていなさい。馬に蹴られたら、死ぬわよ」

 アスカが、スッと馬に乗ると、馬の形相が変わる。

 馬は、上に乗ったアスカを振り落とそうと、必死に辺りを駆け巡り、暴れだす。

 アスカは、予測していたのか、バランスを取りながら、乗り続け・・・・・

 数分後、アスカは、大人しくなった馬の上で、偉そうに踏ん反り返っている。

 「シンジ。これが、あんたに足りないものよ」

 「気合と、力で、馬の意志を挫いて、捻じ伏せるのよ」

 「・・・アスカ・・・無理だよ」 泣き

 「ったく、しょうがないわね。調教された馬もいるから、そっちに乗ると良いわ」

 「う、馬に乗るの?」

 「シンジ。あんたと同じ、調教された馬に、なに、びびってんのよ」

 「・・・ぅ・・・」

 シンジにとっては、初めての乗馬。

 「落馬したら死ぬこともあるから、落ちないようにしっかり、捕まってなさい」

 「・・・・・・」

 しばらく、アスカに乗馬を教えてもらう。

 セカンドインパクト後

 人口減と世界中からの投機で、北海道は、地軸の変化の影響で、避暑地になっていた。

 お陰で、自然だけは、豊かに残される。

 「・・・アスカ・・・どこにいくの?」

 「んん・・・・しばらく、キャンプかな」

 「で、でも、何も準備してないよ」

 「あのねぇ〜 空き家は腐るほどあるのよ。それに野宿だって、死にはしないわよ」

 「そ、そう」

 「あんたの、そのナヨっとした、軟弱内罰な精神と、退行的な思考を、何とか、してやるわ」

 「ぅ・・・」

    

   

 保護者の存在しない世界は、シンジの自我に影響を与える。

 もっとも、有能すぎるアスカが、半分保護者に近い状態だった。

 アスカのスパルタ教育は、相当なもので、日本やNERVの教育と違う。

 集団重視で、失敗を許せない減点主義的な日本式でなく。

 個人重視で、成果を求める加点主義的なアスカの思考は、シンジの精神状態を微妙に変える。

 何しろ、世界は、二人きり、集団が存在しないのだから、減点主義の長所を生かしにくい。

 「失敗したらいけない」 by シンジ

 失敗に怯え、消極的、臆病になっていくより。

 積極的、意欲的になっていく方が、良いといえる。

 何しろ、この北海道を吹き飛ばしても、全然、困らないほどで、

 こういう発想は、余程のアンチでなければ、減点主義の思考からは、生まれない。

 仕事を与えて、仕事の不出来を減点していく方式ではなく。

 仕事を与えて、仕事の成果で加点していく方式なのだから才覚次第で、いくらでも伸びていく。

 もちろん、科学技術・教育・資源・資本など、余裕のない日本の国情だと仕方がない。

 それでもアスカ視点だと、欝な日本社会と教育制度に物言いしたくなる。

 アスカが日本の教育制度に疑問を持つのは、ドイツとの違いを鮮明に認識できたからといえる。

 そして、社会全般でそうであるように、

 シンジの思考の根底に日本の教育制度で受けてきたベクトルがある。

 それを捻じ曲げなければならない。

 ドイツ教育が優れている、というわけでもなく、ケースバイケースであり。

 二人だけの世界で物理的な余裕があるとドイツ系の教育がマシなだけ。

   

  

 森の中

 「・・・ぼ、僕には、で、できないよ。アスカ」

 「シンジ。怖いの?」

 「・・・だ、だって・・・」

 「たいしたことないわよ」

 「まっすぐ構えて、あんたが持っているモノを的に向けて、発射するだけよ」

 「だ、だけど・・・アスカ・・・僕、こ、こんなこと・・・・したことないし」

 「あんたね。私たち。この世界で、二人っきりなんだからね」

 「だ、だけど・・・・」

 「シンジ! いい加減にナヨナヨす・る・な」

 シンジ。もじもじ

 アスカ。ぶすぅうう〜!

 馬に乗ったアスカは、シンジから取り上げると、猟銃を構える。

 銃口の先に見えるのは鹿だった。

 風上側に背を向けて、嗅覚で背後に気を配っているのがわかる。

 耳も良くて物音に敏感。

 目の位置で分かるとおり視界も左右に広く、全方位的に見渡せる。

 視界の外で気配を悟られない距離を保つと、狩猟の方法は、おのずと限られる・・・・

 バア〜ン!!

 猟銃の弾丸が、数百メートル離れた鹿の眉間を撃ち抜いてしまう。

 鹿は、静かに ずんっ! と音を立て倒れる。

 「・・・なかなか、立派な最後ね」

 「死んだ・・・」

 「むふぅ♪ 肉よ シンジ。皮を引ん剥いてね」

 「ぼ、僕がやるの?」

 「当たり前じゃない。男でしょ」

 「うぅ・・・・まだ、冷凍肉が一杯あるのに・・・・」

 「シンジ。あんたねぇ。人が生きるというのは、こういうことよ」

 「だ、だけどさ・・・」

 「ちゃんと解体しないと、鹿に恨まれるわよ。燻製も作るんだからね」

 シンジは、ビビリながら刃を鹿の体に差し込んでいく。

 「・・血・・だ・・・」

 「シンジ。あんたねぇ〜」

 「骨とか筋を切ると刃が痛む。血も余計に出ると不味くなるから筋に沿って丁寧にやるのよ」

 「そ、そんなのわかんないよ〜」 涙

 「泣きごと言うな。さっさと、そこの肉を切り分けて、これから焼くから」

 シンジの目の前にフライパン。

 「・・・・う・・・」

 「あんたは、解体作業よ」

 「・・・・ぅ・・・」

 森の中、小さな小屋は、誰もいない。

 元々、誰もいなかったのか、

 狩猟のための休憩所だったのか、曖昧な大きさの家で、それなりにモノが揃っていた。

 小川が流れているのが良かったのか、

 それで、アスカが選んだのか、川が血の色に染まっていく。

 なんとなく、解体作業に慣れてきたのか、

 骨や筋を切らないようにして、血を流さないようにしていく。

 サクラ、ナラ、ブナを不完全燃焼させないように燻すと、

 煙が濛々とカマドに籠もり、足りない分はドラム缶の中に煙を引き入れる。

 鹿1頭分にもなれば、それなりの大きさにもなった、

 小さなカマドとドラム缶3つで足りた。

 風呂に入って血の臭いを消す。

 一息つく頃、日は傾いていた。

 電気は通っていなかった。

 ランプの明かりと薪の燃える炎で森が照らされ、

 森の音が、周囲で鳴っている。

 狩猟民族系のアスカが美味そうに食べ。

 農耕民族系のシンジが感慨深く食べる。

 精神性と覚悟の違いだろうか。

 味付けは塩と、いくつかのスパイスなのだが、かなり上手い。

 「少し前までは、生きていたのに・・・」

 「欧米諸国は、日本に物資を送り続けて、死と隣り合わせだったわ」

 「死んでいったのは、鹿じゃなくて、人間だったけどね」

 「・・・日本は、幸せだったんだね」

 「ふ それでも、イギリスで紅茶が飲まれ」

 「ドイツでビールが飲まれていたわ。フランスは、ワイン」

 「・・・・・」

 「私も飲んだけど・・・人口の半分が餓死しているというのに・・・もう、病気ね」

 「人間って、救いがたいわ」

 「そ、そうなんだ」

 「ゼーレは、使徒戦で人類が生き残る為、自国民を餓死させながら、それなりの投機を続けた」

 「・・・・・・・」

 「ゼーレは善良ではない」

 「でも、使徒戦で負ければ、人類は終わりだったから」

 「それなりに指導力を発揮したわけね」

 「・・・・・・・」

 「嘘つきな偽善者じゃないということね」

 「ついでに自分たちの計画も作り上げて、実行したのが、この世界・・・」

 「・・・な、なんか、アスカ。変わったね」

 「・・・情報量の差よ」

 「でも必要だったのは、才覚じゃなくてATフィールドの強さだったみたいね」

 「・・・・・・・」

 「シンジの陰に篭もる性格がATフィールドに比例する可能性だけで生活環境が仕組まれる」

 「・・・ち、違うんだ。ぼ、僕が、お父さんに捨てられたんじゃない」

 「僕が、お父さんを信じられず、逃げてしまったんだ」

 「へぇ〜 何で?」

 「お父さんが、お母さんを殺したんだって、そう思ってしまって・・・・」

 「ふ〜ん。どちらにせよ」

 「ATフィールドと関係で、そういう生活環境に追い込まれるでしょうね。計算ずくよ」

 「じゃ 僕が苦しかったのって・・・・」

 「仕組まれたということよ」

 「良かったわね。当たりで、シンジが、いなかったら人類は終わってたわ」

 「でも・・・・こんな世界になってしまうなんて」

 「なに? この惣流・アスカ・ラングレー様といるのが不満?」

 「い、いや、そんなことないよ。と、とても嬉しいよ・・・」

 「シンジ。私と一緒にいることが全人類の男という男が涙するほど羨望ものなのよ。分かってんの」

 「ぅ・・・凄い自信家」

 「というわけで、シンジは、もう少しマシになりなさいということよ」

 「ぅ・・・・アスカの期待に応えられれば、良いけど・・・」

 シンジ、自信喪失で、ウツ状態。

 こういう男に就寝前と寝起きに抱きしめられて、

 キスをされるというのは、気持ちの良いものでない。

 しかし、ほかに男が、いないのでは選択の余地がない。

 気が進まないのだが女の子という生物は、パラメータがどうあれ。

 一人で、生きていくように、できていなかった。

  

  

 何もない森の中

 のんびりと生活するのも、悪くはない。

 アスカは、この種のサバイバル訓練を受けたことがあるのか、そつなくこなしていく。

 「人間はね、文明から離れて生きていけないの」

 「だから森の中で自然に包まれて生きていく、というのは、ありえない」

 「た、確かに・・・そうだね」

 「そう思うんだったら、本を読め!」

 「はい・・・」

  

  

  

 海岸の別荘

 数週間ぶりに戻ってくる、

 ロボットたちが掃除洗濯していたらしく。それほど変わっていない。

 さすが、マギで相当な、おりこうさんといえる。

 アスカは戻って、少しばかり暇なのか、ビデオ観賞。

 あれで、次のシナリオを練っている、

 シンジが推測できるようになるまで、しばらくかかった。

 乗馬用なのか、馬2頭が北海道から、運ばれ、大人しく草を食んでいた。

 シンジは暇潰しに量産型エヴァのところへ行く。

 誰かと話すとしてもアスカしかおらず。他は、ロボットしかいない。

 それ以外だと囚われ量産型エヴァになってしまう。

 ひょっとして、アスカが使徒戦の指揮を執っていたら、と思わないでもない。

 一度、戦った相手だと作戦も考え付くのだろう。

 サードインパクト以前は “会話をしたい” 衝動より “一人でいたい” という気持ちが強かった。

 しかし、誰もいない世界だと、かなり寂しい。

 巨大な量産型エヴァが、首から上を出して、海岸に埋まったまま。

 こういう光景は、赤い世界でも、珍しい。

 美的センスに欠けた顔は、どうしようもない。

 しかし、シンジの性格だと外見で人? を貶めるというのは、気が引ける。

 美形であれば情状酌量され許される、としたら、法は何のために存在するのだろうか。

 巨大な顔もアスカの母親の精神が入っていると思うと妙に親近感を覚える。

 とはいえ、アスカを抱きしめ、キスできるようになり、

 身近になるかと思いきや、逆方向に向かって気持ちが離れていく。

 碇シンジと惣流・アスカ・ラングレー。

 実力の差が、あり過ぎる・・・・・・・

 『・・・碇シンジ君か』

 キール議長の声。

 「はい」

 『君は、どの程度の力が使えるのかね』

 「・・・・・・・」

 『・・・・・・・』

 「ど、どうして・・・」

 『どうして、知っている、というのかね?』

 いきなり核心が突かれて、主導権を奪われる。

 そして、主導権を取り戻すような気概もない少年だった。

 『・・・みんな、知っていることだよ。惣流・アスカ・ラングレーも、多分、知っておるじゃろうな』

 「・・・・・・・・」

 『サードインパクトの性質を計算すると』

 『中心にいた君は、ATフィールドとアンチATフィールドに対する適性を得たと考えるのが自然』

 「・・・・・・・・」

 『そして、こっちは不確定だが第14使徒の時も潜在意識下で、その力を得た可能性もある』

 「・・・まだ、よくわかりません・・・でも、使徒と・・・戦えると・・・思います」

 『・・・そうか・・・』

 「あ、あのう・・・ぼ、僕は、どうなってしまったんですか?」

 「どうしたら良いんです?」

 『ふっ 自分の力を持て余しているのかね』

 『自分の力の使い道が分からないのであれば、誰かに教わるしかあるまいよ』

 「・・・・・・・・」

 『どれほど巨大な力を持っても運用する、良識、知識、経験、想像力、判断力は、自ら学んでいくしかなかろう』

 「・・・・・・・・」

 『自分の行く道は、自分で見つけなければならない』

 「・・・・・・・・」

 『惣流・アスカ・ラングレー。あの娘は、まぁ 問題ありだが良い先生だろう』

 「アスカを恨んでいないのですか?」

 『なぜだね』

 「だ、だって、こんな・・・」

 『恨んでも仕方がなかろう。自業自得じゃよ。それにわしらは長生きでの・・・・』

 「・・・・・・・」

 『内なる世界でさえ、地球より広いくらい』

 「でも・・・」

 『わしらも、あの娘も計算ずくじゃよ。互いに覇を競っても敵というわけではない』

 「そ、そういう計算は、どうやって?」

 『たくさん、勉強することじゃな。良識、知識、経験、想像力、判断力も、身についていく』

 「・・・・・」

 『人間なのだから身勝手に間違いも犯すだろう』

 『しかし、そのうち相手の考えていることすら想像するようになる』

 「・・・・・」

 『それに、これだけ大きな世界で二人っきりだ。少しくらいの失敗でも、世界は揺るがない』

 「・・・・」

 『気をつけなければ、ならないのは、相手に我を張り過ぎないことじゃ」

 「・・・・」

 「アスカ君は少し我を張りすぎる傾向にあるが許容範囲を計算している。君は逆だな』

 「・・・・・」

 『性格的には上手くかみ合って、良いくらいだろうが実力的に近付いたとき、要注意だな』

 「・・・・・」

 『それでもアスカ君の母親、キョウコ君との約束は、彼女と君にとって悪くないだろう』

 「でも、アスカは・・・」

 『実力、才覚は、ともかく。本音は、それほど嫌がっては、おらんよ』

 「・・・・」

 『これも計算の内じゃよ』

 『君は難があるがアスカ君の命の恩人。アスカ君は女の子じゃからの』

 「・・・・」

 『それほど、悪いようにはせんよ』

 「・・・・」

   

  

  

      

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 月夜裏 野々香です。

 『赤い世界』 EOE LASです。

 『一人暮らし』のシンジの干渉で、少しばかり、精神が安定したアスカです。

 イメージで、レイが魚。アスカが肉。シンジが野菜。

 アスカとシンジの性格からすると、SMっぽくなりそう。

 作者的にシンジとアスカは、気分が、乗らないので、キョウコお母さん登場で、形から入ります。

 『一人暮らし』と『赤い世界』の分岐が始まります。合流するか・・・不明です。

 世界の違い。パートナーの違い。

 生き方の違いで、二つの世界のシンジが、どう絡んでいくか・・・不明です。

  

  

     

   

      

  

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第70話 『春も・・・・』
一人暮らし & 赤い世界 『惣流・アスカ・ラングレー物語 T』
  
登場人物