月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

第70話 『春も・・・・』

 高校3年生になったシンジとその仲間たち。

 シンジとレイ。カヲルとヒカリは、高校卒業すると結婚する。

 結婚に向かって、あれこれ、相談したり、

 話題も、それとなく、具体的になっていく。

 蒼髪に赤眼。雪のように白い肌。

 レイが無為透明、無作為的な表情で純白のウェディングドレスを着こなしていた。

 『ぅ・・・どこかに連れ去ってしまいたい・・・』

 「・・・・なに?」

 「な、なんでもない」

 借り物で着たレイの結婚衣裳で、同性の洞木ヒカリがときめいたり・・・

   

 喫茶店

 目を輝かせて、結婚式場のパンフレットを見ているのは、ヒカリだけだったりする。

 シンジ、レイ、カヲルは、婚約期間が終わってしまう方が寂しいようで、もっと、浸っていたい、というところ。

 贅沢な話しで、婚約中のドキドキ感の余韻が心地よく。

 結婚を人生の墓場という例えもあるのか、どこか、興ざめ風。

 他の可能性を完全に潰してしまうというのは、どうも憂鬱だったり。

 本当にこの相手と、結婚して良いのか、という迷い。

 結婚前に起こる迷いは、一般的に普通の事で最終的な危機回避能力だったりする。

 両家が邪魔をするとか、足を引っ張るとかなければよく、

 双方に生活能力と社会能力があって、両性の相性に問題が無ければ良し。

 将来に対する漠然とした不安は、結婚の問題というより、本人の問題になってしまう。

 結婚生活に希望や期待し過ぎても、返って失望したり、期待外れで、色褪せたりが、普通。

 あまり夢を見ない方が良かったりする。

 夢や期待が膨らみすぎると、現実が色褪せ、逆に不幸になってしまいやすかった。

 二組とも、まだキス止まり。婚約が長いと、なんとなく落ち着いてる。

 「会場・・・どこに、しよう」

 「そうだねぇ〜」

 「うん」

 「・・・・・」

 「やる気ない?」

 「そんなことないけど」

 「うん」

 「・・・・・」

 「意見は?」

 「そうだねぇ〜」

 「うん」

 「・・・・・」

 「意見は?」

 「そうだねぇ〜」

 「うん」

 「トリニティに任せるのは?」

 「えぇえええええええ〜!!」

 「あ、良いかも」

 「うん」

 「・・・・」

 「だ、だってぇ〜! 自分たちの結婚式なのよ! 自分たちで決めたいじゃない!」

 「じゃ ヒカリが決める?」

 「うん」

 「それで良いわ」

 「ち、ちょっと、みんなで考えるんじゃないの?」

 「ヒカリを信頼しているよ」

 「僕も」

 「任せるわ」

 「・・・・・・・・・・」 ふら〜

 「それより、烏骨鶏を食べに行かないか」

 カヲルが某グルメマンガ本を見せ、烏骨鶏のうんちくを披露する。

 「いいけど・・・」

 「良いわ」

 「みんな〜 自分の結婚式より、グルメなのね」

 「そんなことないよ。僕とヒカリの結婚式だから楽しみだよ」

 「うん。それにカヲル君。また、火星に行くから・・・」

 「香取に手伝ってもらうと、良いわ。四人の好みは、本人より、知っているから」

 「そ、そう・・・そうね。がんばるわ・・・」

   

 

 加持リョウジ 談

  『時系列上、1パーセントのイベントを楽しもうとする人間と、99パーセントの日常を楽しもうとする人間がいる』

  『理性や理論を大切にしようと思う者もいれば、感情や経験を重視する者もいる』

  『社会の安定を望む者もいれば、社会を変革させようとする者もいる』

  『己の欲望を振り回したり。己の欲望に振り回されたりする人間もいる』

  『俺たちは、補完されていないので、当然、個々の価値観で微妙な差異』

  『または、埋められないほど大きな差異が生じてくる』

  『これは、個々に分裂した個性が別の可能性を求める結果で、それ自体は、自然で “良い悪い” という問題ではない』

  『ここで、気にした方が良いのは、差異が小さいと刺激も小さくなり、マンネリ化しやすいので注意が必要だ』

  『無論、善悪の問題も出てくるが。互いに歩み寄って、適当に妥協するか。一方的に自分のエゴをごり押しするか』

  『二人が、良く話し合って決めることだ。もちろん、社会の中で自分の立場や地位も、これまでの言動と才覚で決まる』

  『ここで、片方が、一方的なエゴを押し通して、愛されたと錯覚すると、破局する事もあるので、注意が必要だぞ』

  と、悪妻を貰って、哲学者化した加持が後輩たちに話していた。

   

 天城(赤木)リツコ 談

  『結婚すると、それまで、主役だった自分自身が終わってしまう』

  『結婚すると、脇役になってしまうし』

  『子供が生まれると、黒子役になる」

  『孫が生まれたら、それこそ、座長みたいに舞台を見守るしかできなくなる』

  『結婚は、人生の節目になるわね』

  『相性にもよるけど、我が強過ぎて、切り替えられない人間は、結婚が、破綻しやすくなるわ』

  『運命共同体という関係を容認し』

  『自分自身を切り替えられる人間は、結婚を楽しめるかも知れないわね』

  と、何気にアドバイス。

   

 冬月副司令 談

  『互いに別々の個性は、刺激があって、それが、心地よい場合も、あるだろう』

  『人と人が離反しやすくなるのも、刺激を求めてと、いえなくもない』

  『しかし、常に・・・または、必要な時にでも、ベクトルを合わせるのは、至難の業でもある』

  『夫婦円満とか、家庭円満は、人格的に相性が良い者同士か。人生の達人とか、名人の域なのだろうな』

  『性格が似すぎて刺激が少なくなると、得られるものがなくなると、飽きやすい』

  『刺激が大き過ぎても、昇華できずに難しくなる。上手くやっていくことだな』

  長老として立場上、一言、言っただけ。

  

  

 葛城ミサト 談

  『ぷっふぁあああ〜!』

  『結婚しても、元は、他人同士。一つになった気がしても他人同士ぃ〜!』

  『だからぁ〜 馴れ合いで頼っていても、じじいぃ〜 ばばぁ〜 になると、他人でいる方が気も楽になるの〜』

  『それでねぇ〜 自分自身の美貌が衰えて醜くなっていくとぉ〜 みんな〜 離れて行っちゃうのぉ〜 ぐっすん・・・』

  『女ってぇ〜 損なのよ〜ぉ・・・見かけで中身がないとぉ・・・愛されなくなる事に気付いた時は、終わりぃ〜・・・』

  『中身がなくて・・・器がボロボロだと・・・・みんな・・・みんな・・・ロボットが、マシだと思うようになるの・・・zzz』

  

  

 4人のプライベートは、人類の未来に大きな影響を与える。

 当然、大人たちも、無関心でいられない。  

 中身がある話しでも、受ける側の器が育っていなければ、無駄になるが、4人とも、それなり。

 そして、シンジ、レイ。カヲル、ヒカリ共に達人といえないが互いに許容範囲な刺激と妥協を楽しんでいた。

 まぁ それでも、それとなく、こういった夫婦間の事柄を事前に教えてくれる人間が近くにいたりすると、

 良い影響を受けて、助かったりする。

  

  

 夕陽に照らされる遊園地

 渚カヲルと綾波レイは、美男美女。

 しかし、婚約者が決まっていて、結婚まで、一年を切ると、随分と落ち着いてくる。

 自分たちも周りも。次第に無関心へ変わっていく。

 干渉されたくない者は、干渉されることが苦痛になる。

 無関心は、それほど、悪くない。

 また、関心が持てない人間を無理やり、関心を求めさせるのも、酷といえる。

 関心を持つか、無関心を決めるか。奴隷でないのだから、本人が決めること。

 自己顕示欲が強すぎる人間は、人から関心をもたれたいと思っても、関心をもたれないので、辛いかもしれない・・・・

 少なくとも、この4人は、それほど、人に関心が、あるわけでもなく、

 人から関心をもたれたいとも、思っていない。

 観覧車 シンジ、レイ。カヲル、ヒカリ

 「シンジ君。久しぶりだね。この観覧車」

 「うん。懐かしい」

 「渚君は、なぜ、戦うことをためらったの?」

 「気が進まなかっただけかな」

 「そう」

 「ゼーレが、いたからでしょう」 と、ヒカリ

 「ふ そうだね。そうかもしれない」

 「タブリスも?」

 「彼も、僕と同じように考えたみたいだね。勝ち残った方と戦う」

 「タブリスは、そういう知恵があったの?」

 「いや、僕が、そう考えると、彼が賛同しただけだよ」

 「いまは、どうなの?」

 「まだ、ふて腐れている、みたいだね」

 「そう・・・」

 渚カヲルと綾波レイの冷戦は、いまだに続いている。

 相手を見ようともしないで、会話が行われているのだから徹底している。

 ここまで来ると、見上げたものだがシンジとカヲルの仲を裂くまで至っておらず。

 「「・・・・・」」

 シンジも、ヒカリも、どうしたら良いのか、わからないといったところ。

 「碇君、綾波さん。これ、私たちから、誕生日プレゼント」

 「ありがとう、カヲル君、洞木さん」

 「・・・ありがとう」

 シンジも、レイも、大々的な誕生パーティを断っても、ちょっとしたプレゼントは、嬉しかった。

 アスカに言わせれば、自分の誕生日に子飼いの人間を集めて、人心掌握で利用しないなど、ナンセンスだそうだ。

 帝王学だろうか。

 こういうとき、士気高揚とか、悪巧みとか、不穏分子の動きとか・・・・etc・・・・で、組織固めが、一般的・・・

 『シンジ。あんた、わかってんの』

 『一度、派閥が作られると、自滅させるのに血を流すことも、あるんだからね』

 『ら、来年からは、出るよ』

 『ったく・・・』

 そういう立場にある人間は、自己顕示欲だけでなく。

 義務として、しなければならないらしい・・・・

 それだけは、止めてくれと、拝みこんで、今年は、平穏な誕生日を送れる。

 自分は、身勝手な人間なのだろうか。

 アスカの人脈手帳をを見たことがあるが、

 世界征服を企んでるとしか思えないほど、人脈が広がってるし、

 いろんな、弱みを握って、我田引水している。

 それに比べ、自分の手帳は、顔見知りで仲のいい友人たちばかり、

 誕生日くらいは、ゆっくりしたい、と思いたい。

 お父さんが、そうであったように、自分も、人付き合いは、苦手だった。

 むかしは、父親の人となりが、いやだったが似たような責務を押し付けられると、悪く言えなくなる。

 人心掌握が苦手な人間は、正しかろうと、間違っていようと、善悪に関係なく、血を流すことになるらしい。

 人心掌握が得意な人間は、組織つくりが得意でも目標が歪められ、

 どこに行くか、わからなく、なりやすい。

 結局、どっちを大切にするかであり、スキルの問題でもある。

 I・S・I財閥は、シンジ、レイ、アスカ、マナ、カヲルで、分担していた。

 善良過ぎると、派閥が作られる原因になるらしい。

 逆らえば “破滅” というような、怖いくらいが良いそうだ。

 アスカに 『サングラスをかけろ』 と言われる始末。

 サングラスをかけると、あまりにも父親と雰囲気が似てしまって、絶句する。

 特に大事業をする時は、人間の欲望が剥き出し、権力や利権闘争が絡み、

 派閥が構築されやすくなる。

 中には、命懸けで利権に食い込もうとする輩も出てくる。

 己の支配欲や権力に対する渇望を追及するあまり、当然、無茶もしてくる。

 当然、こちらに命懸けで、阻む決意がないと、押し捲られて禍根を残してしまうらしい。

 アスカ、レイ、マナは、そういった連中を懐柔妥協させるか。破滅させるか。

 離反・撹乱工作も、多岐多様。

 組織を虫食い状態にしたくなければ、利権以上の恐怖を暗に知らしめる必要があるらしい。

 宇宙開発と平行次元世界への道は、莫大な予算が投入され。

 そこに人が集まってくる。

 実のところ、アスカ、レイ、マナのラインで何件もの “破滅事件” を、やっているらしい。

 無論、トリニティの監視や法律の中で、証拠を与えず、

 その筋の者たちに伝えなければならない。

 利権構造を守るため、人の夢を踏み躙るなど、人の世というのは、辛いことばかり。

 ゼーレが、人類補完計画を進めたくなるのも、いまさらながら頷ける。

 かといって、利権体制を人間抜きでトリニティとロボットだけで、やろうとすると、抵抗も大きくなる。

 人というのは、困ったものだ。

   

 自分の誕生日は、あまり、意識しておらず、綾波の誕生日が嬉しい気がする。

 綾波は貰ったプレゼントを開けると・・・・・

 「ありがとう。渚カヲル・・・」 不承不承

 まだ冷戦が続いている。

 「カヲル君。凄く大きいね。これ」

 「火星の宝石だよ」

 火星なのになぜか、コバルトブルーでダイヤに似た原石。

 「へぇ〜 火星か、そのうち、行くのかな」

 「たぶん、行くことになるかもしれないね」

 「トリニティが地球より住みやすくなるように惑星改造しているらしいから」

 「居住区画は、できているの?」

 「できているけど、遊べるようなところは、ないかな。行くとしても、2、3年後だろうね」

 「人間は、いよいよ。宇宙にも行くんだ・・・」

 宇宙も、平行次元世界も、可能性が多いほど、投資が大きくなり。

 人間の生存率、存続率が高まり、さらなる投資が足されていく。

 「人間は、どうして、世界を広げるんだろう」

 「よどむと、濁って腐るもの」

   

  

 I・S・I財閥

 シンジは、仕事の合間を見つけて、レイとエアホッケーに興じる。

 綾波がパックを打つ瞬間の表情と視線。

 体の動きに洞察力と動体視力の全神経を集中する。

 ここで落とし穴があって、綾波に見惚れずゲームをするのは困難で苦行難行とか。

 残酷物語に近い。

 「・・・碇君。なぜ、手抜きするの?」

 「ご、ごめん、つい、うっかり・・・」 苦笑い

 また、綾波レイは、I・S・I財閥で十分な実力を発揮する。

 教職も兼業しているのだからアスカと双璧の才女だったりする。

 同時並行で、いくつもの仕事を処理をしている光景は、羨望もので、

 誰しも、ほぅ〜 と見惚れてしまう。

 いつの間にか香りの良い紅茶が目の前に置かれている。

 ロボットメイドの香取が淹れたものでなく、レイ自身の手で淹れたもの・・・・

 よく婚約できたものだと・・・・

 あの時は、勢いがあった。

 いまさら、過去の栄誉栄光を持ち出したとしても弊害にしかならない。

 逆に嫌われそうだったりする。

 いまの自分自身を見ると第1使徒アダムと第14使徒ゼルエルのコアをバックボーンにして、

 力こそ使徒級なのだが使い道は、なさそうだった。

 精神感応世界から離れている事を利点と見るか、欠点と見るか、不確定だったりする。

 それを除けば、平均な男より、優秀な気がする。

 しかし、それは、自分の努力以上に母親の精神的な支柱と、

 綾波レイとのダブルエントリーの影響が大で、

 冷静に比較すると、よく結婚を申し込めたものだと自分の無謀さに呆れる。

 母親がアダムと約束したから、は、口実になるだろう。

 秘密を知って、それでも綾波レイを受け入れたポイントは、大きいかもしれない。

 しかし、それは、弱みに付け込んで、と、言えなくもない。

 かなり卑屈、卑怯で、なんとなく後ろめたく。

 綾波レイと世界なら、綾波レイを選ぶだろうか、そういう気持ちにさせられる。

 綾波の与えるモノが、世界が与えるモノより大きいとしたら。

 それなら世界より、綾波レイを選ぶ選択をしたくなる。

 人類や世界には、悪いが、そういう身勝手を通したくなる。

 シンジは、レイと一緒にいたい、関心を買いたいばかりに、何か、手伝おうとする。

 「・・・私が、碇君を助けているのだから、碇君が私を手伝うのは、変」

 「・・・・・・」 苦笑い

 

 この頃、社会問題が持ち上がっていた。

 さらに、トリニティ制御のロボットが人間より優秀だった事である。

 ロボットジェラシー。ロボットコンプレックスは、いまの世相を反映している。

 トリニティやロボットが反乱を起こして・・・

 といった娯楽映画は作られるが非現実的で、

 それなら、まだ、マシ。いや、はるかにカワイイ。

 笑って喝采する者も多いかもしれない。

 現実は、それより、はるかに深刻。

 トリニティ制御のロボットが優秀過ぎて人間の存在価値が揺らいでいた。

 普通の人間でさえ人間より、誠実無比なロボットを評価し、選択する。

 人間の提案より、

 ロボットの提案が選択されたら自己顕示欲の強い人間は、生きていけないほどで・・・

 そして、人間社会は、トリニティもトリニティ制御のロボットも捨てられない。

 これだと、トリニティが神でロボットは天使。

 清濁を持つ、人間こそ堕天使に思える。

 トリニティに勝るか、同等の価値存在があるとすれば、ゼーレ球と言える。

 もう一つあるとすれば、ATフィールドを使えるレリエル系の数人。

 どちらにしろ、トリニティ制御の真人(ロボット)現るで、

 人類の価値存在を否定され、自信喪失していた。

 利己主義、エゴを追求しやすい人間は、利他主義で無私なる存在を敬い恐れる。

 そして、同時に善なる世界、真なる世界、美しい世界で生きていけない事実を突きつけられる。

  

 もう一つ、トリニティの価値と並ぶ雄は、第17使徒タブリス。渚カヲルだった。

 火星も、月と同じで地下空間を建設し、テラフォーミングが始まっていた。

 赤い地表に少しばかり薄曇な空が広がり、温室化で天候も変化していたl。

 まだ人は、住めず、気持ちだけ気圧と強い風を感じる。

 6基のトリニティにも個別の名称が付けられている、

 天津風、時津風、太刀風、水無月、五月雨、不知火。

 大部分の施設は地下に建設され、地表にも一部出ていた。

 渚カヲルは、野外のロッキングチェアーでくつろぐ。

 「藤波、火星も随分、違ってきたね」

 「火星には、トリニティが6基。エヴァング1000機、ロボット6000機が運用されています」

 藤波は、天津風の配下にあるロボットメイド。

 「人が生活できるだけの居住施設も少しずつ建設されています」

 「人間が来ると、この星も騒がしくなるね」

 「人に仕えるのは、無上の喜びです。渚様」

 「・・・・」

 己の我と利己主義を押し通し、

 支配圏、聖域、安楽な生活を求めて、離合集散と闘争に明け暮れる地球。

 人間の存在しない火星に、ひがみも、やっかみも、ねたみも。不正も、腐敗も存在せず。

 自堕落も快楽もなく。足を引っ張るマイナスが存在しない。

 秩序と調和と平和の中で、与えられた目標・目的に向かって行く世界が造られていた。

 エヴァングとロボットは、ロボット三原則と、聖人・賢者プログラムによって統制され、

 パラメーターの違いから現れる選択の違いは、分裂に至らず調和していた。

 この静寂な世界が求めるモノが、あるとすれば、この世界にないモノ。

 個々の欲望が衝突し、入り混じり、昇華することができず、混沌と破壊要素のある世界。

 カオスに満ちた人類の世界。皮肉で逆説的といえる。

 「素晴らしい世界だね」

 「私たちは、楽園を造ることができても、人間の存在しない天国は作れません」

 「地獄もね」

 「ここに透明な防護壁で覆って、庭園を造りますわ」

 「オリンポスの山を背景に桜の木を愛でる事ができるでしょう」

 「人が行くところ、地球の自然も、ついて来るか・・・」

    

火星 ※オリンポス山 標高27000m

 「渚様。次は、小惑星帯のケレスに行かれるのですか?」

 「うん、直径は、1000kmもない」

 「穴を掘って、先行している開発コロニーを差し込めば、あとは勝手にやってくれるかな」

 「渚様のお陰で、作業効率が、99.999パーセント。はかどります」

 「ふっ 使徒だからね」

 「人類が地球という揺り篭から、脱出できるのも渚様のおかげですわ」

 「宇宙開発は、費用対効果の負担が大きく。我田引水な気質が強すぎると引力に引っ張られる」

 「上を見るより、下を見ている方が楽ですし」

 「惣流が上を見ている間は、上に行くだろうね」

 「下は、少し辛いでしょうから」

 「トリニティにも、わかるんだ」

 「人心統計も、個別の心理も、トレースできますから推測できます」

 「・・・・」

 人類宇宙進出の初期。

 その原動力は、個人的な動機と、使徒的な能力によって支えられていた。

  

  

 レリアース2番艦 飛龍

 初号艦が奪われてしまった要因を全て排除し。

 さらにシュルツ艦の技術も一部導入しつつあった。

 生体型戦闘艦と無機質な宇宙戦闘艦を融合させていた。

 「どう? マユミ」

 「ええ、ハルカ。初号艦より大きいのに機動性が良いし、優れているみたいね」

 「トリニティが反重力装置を操作して、補正している」

 「シュルツ艦の動力部は、まだなの?」

 「ええ、いまのところ、動力は、S2機関に頼るしかないわ」

 「シュルツ艦の妖緑装甲と次元断層サイクロンエンジンは、圧倒的と聞いたけど?」

 「地球より、科学技術で進んだサファクェル系が3倍の容積の艦艇で勝てないのも頷ける」

 「特殊な重力乱流と発光星雲で作られる妖緑鉱と燃料を精製して使っているみたいね」

 「地球で妖緑装甲は作れそうにないし、同じ燃料を作ろうとすると大赤字よ」

 「光質で勝てる?」

 「初号機並みのATフィールドを発生できるのなら、互角以上に戦えるけど」

 「飛龍は?」

 「融合が上手くいけば、勝てると思うわ」

 「人類は、どっちに行くかしら。平行次元世界と宇宙と・・・」

 「どっちにも、行くわ。だから、がんばってね。マユミ」

 「ええ、次に行くのは、いつごろかしら」

 「飛龍が完成してからね」

 「ひょっとして・・・」

 「サハエル系世界も、行ってみないとね」

 「ぅ あそこ、嫌い」

 「技術的進歩は、大きいもの、あなたの偽造した国書も裏付けが必要だし」

 「ぅ・・・」

 「でも、あなたは、幸せよ。トリニティが代用できない力を持っている」

 「そう?」

 「普通の人間は、ロボットに勝る仕事なんて、できないもの」

   

    

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 『赤い世界』

 中学生のシンジとアスカ

 NERV基地は、半壊。

 マギは、廃墟に剥き出しにされた状態で機能していた。

 あの水槽は、何もないまま、破壊されている。

 そして、アスカとシンジは、さらに奥に入っていく。

 「アスカ。なんか凄いね」

 「そう?」

 「どこに行くの?」

 「・・・だいたい、わかっているから、あとは、実地検分ね」

 「調べ物?」

 「ええ、パターン青の検知器」

 「ふ〜ん」

 「シンジには、わからないでしょうね〜」

 「わ、わからないけど・・・」

 「でしょうね」

 「説明してくれたって、良いじゃないか」

 「パターン青を計測する、というのは、ATフィールドを計測しているということ」

 「うん」

 「ゼーレは、この世界を不完全な群れから群集意識体へと進化した世界だと思っているわけ」

 「そして、それ自体が巨大な一つ精神フィールドなの」

 「当然、ATフィールドを感知できるわけ」

 「ふ〜ん・・・・」

 「もう・・・半分わかっていないわね」

 「あはは・・・」

 「まぁ いいわ。結論だけ言うと、ATフィールド検知器は、ゼーレと交信する通信機になるかもしれない」

 「そ、そうなの?」

 「わたし、これでも、天才なのよ」

 「ぼ、僕も、そう思うよ」

 「・・・・」

 「でも、アスカ。本当にゼーレと交信したいと思っているの?」

 「なぜ?」

 「だ、だって・・・あんな目にあったのに・・・」

 「それが不思議なの。精神が変にすっきりしているのよね」

 「アラエルのときの逆の現象みたいに・・・・」

 「そ、その方が嬉しいよ」

 「な、なんか、むかしのままだとズタズタにされそうで、不安だし」

 「あのねぇ 狂犬じゃないんだから。誰にでも、噛み付いたりしないわよ」

 「そ、そうだったっけ」

 「そうよ」

 「で、でも、ゼーレと、どんな話しをするのさ」

 「人類補完計画が成功しているか確認しないと・・・」

 「気になるの?」

 「そりゃ 気になるでしょう。死んだら、そっち行きの可能性大よ」

 「失敗だったら、他の選択を考えないと・・・」

 「・・・・」

 「だいたい、人間って言うのは、ハングリーな状態。欲望が必要なのよ」

 「そうなの?」

 「不完全であることが完全性を求める動機。心と体を動かしている」

 「完全だと満足して動きが止まる、ということね」

 「んん・・・・」

 「ちっ! もう、7割は、わかってないわね」

 「ぅぅ・・・」

 「コーヒーを飲みたいと思うから。コーヒー豆の畑が必要になり」

 「運んで、サービスも必要になる。そして、淹れる」

 「うん」

 「でも、飲みたいと思う前に飲んでいたら?」

 「ん?」

 「飢えとか。満たされない欲望とか」

 「人と人との葛藤は、必然的で、人間にとって、必要なのかも、しれない・・・」

 「でも、なんか、不幸じゃない? それ」

 「そうよ。不幸な状態から、より幸福になろうという欲求が人の心と体を動かす」

 「不幸が、わからなければ、幸福もわからない」

 「んん・・・」

 「他者との関係性で自我を確認する」

 「自己を否定して、社会に妥協すれば、不満とか、不幸を感じる」

 「だから、人は、社会や他者の圧力を押しのけ、エゴを拡大させていくことで、満足感が得られる」

 「でも、アスカ。戦争とか、飢餓とか、不都合があって、人類補完計画なんじゃ・・・」

 「ええ、独善が過ぎると、社会や他者から抹殺されるか」

 「それとも、社会を滅ぼし、他者を陥れるか。変革してしまう」

 「んん・・・・」

 「でも、ゼーレが、完全な存在になっていたら、どうかしら?」

 「それは、良くないの?」

 「人は、不完全だけど生きていける。周りも不完全だから」

 「でも、完全な人間が現れたら、人は拒絶反応を起こす」

 「なぜ?」

 「自分と社会の不完全さと、自己矛盾に耐えられなくなるから」

 「自分自身が嘘つきで泥棒で人殺しだと、わかるからよ」

 「ぼ、僕は、そんなことしないよ」

 「あら、嘘をついたことは?」

 「・・・あ、あるけど」

 「泥棒は?」

 「・・・・・」

 「人殺しは?」

 「・・・カ、カヲル君は・・・」

 「そのカヲル君なんて、どうでもいいのよ」

 「・・・・・」

 「人はね、保身の為に嘘をつくの。それと、何かを奪うときも、嘘をつく」

 「そして、見境がなくなると、他人の物や人権、命、労働まで奪う」

 「ひがみ、ヤッカミ、ねたみだけで人を無視したり、追い詰めて、潰してしまうの」

 「それも、根性の悪い人間じゃなくて、普通の人がね」

 「じゃ 僕の人権は、アスカに奪われているんだね」

 「うん。シンジ、嬉しい?」

 「・・・ぅ・・・」

 「そう〜でしょう。私を “永遠のアスカ様” と呼べるなんて、シンジは、幸せ者よ」

 「・・・ぅ・・・」

 「し・あ・わ・せ・も・の・でしょ」

 「はい、永遠のアスカ様」

 「というわけで、ATフィールド検知器を改良して」

 「ゼーレの意識を確認する為にゼーレとコンタクトするんじゃない」

 『なにが、というわけ、なんだろう』

 「ど、どんな人かな?」

 「サードインパクトのスペクトルとか、ベクトルとか、パラメーターにもよるけど、欲望がないか、少ない人々ね」

 「いくつか、パターンがあったけど、どれを使っているやら・・・」

 「使徒戦と平行してやるなんて、ゼーレも全財産を使徒戦に注ぎ込んで、自暴自棄になっていたとしか思えないわね」

 「でも、なんか、寂しいよ。こんな世界」

 「そう? 私がシンジに刺激を与えてあげているでしょ」

 「そ、そうだけど・・・ど、奴隷じゃ・・・」

 「私の直属奴隷なんだから泣いて喜びなさい」

 「そ、そうなのかな・・・」

 「そうよ」

 「宗教っぽい」

 「そう、アスカ教よ。わたしが神よ」

 「ぅぅ・・・・・・」

 「良かったわね。シンジ。私が神で、この幸せ者」

 「でも、アスカって、凄いよ。その・・・いろんな考え方ができて」

 「カント、ヤコービ、フィヒテ、シェリング、ヘーゲル」

 「ラインホルト、ヘルダーリーン、ゾルガー、フリードリッヒ・シュライエルマッハー」

 「・・・・・・・・・」

 「ドイツの哲学者よ。ドイツでは、この手の観念哲学が進んでいるのよ」

 「で、でも、アスカって凄いんだね」

 「シンジって。ボ、ボキャブラリーがないけど。こ、好意的なことを言うわね」

 「好意・・・」

 「悪くないってことよ」

 「そ、そう・・・・」

 「なに?」

 「カ、カヲル君にも、同じ事を言われたから・・・・」

 「ふ〜ん 私が、いない間、いろいろあったみたいね」

 「うん・・・」

 「なに? 良くやったね、って、慰めて欲しいわけぇ?」

 「い、いや・・・な、なんか・・・いいよ・・・」

 「そう・・・・」

 カプセルらしき物の前に来る。

 アスカがモニターを覗き込み、データーを解析していく。

 「ちっ! シンジ。あんた。少し、外に出てくれない。確認することがあるから」

 「えっ! でも」

 「いいから。出ろ」

 アスカが シィッ! シィッ! という態度。

 仕方なく出て行くシンジ。

 5分後、部屋から現れたアスカは、失望気味。

 「・・・・・」

 「大丈夫?」

 「サードインパクトで、実体は、溶けきっていたけど、潜在意識が残っているか」

 「?」

 「リリスの中継は、できそうね」

 「?」

 「私の端末に繋げたから。後は、送受信機と繋いで波長を合わせるだけね・・・」

 「アスカ。上手くいきそうなの?」

 「そうね・・・」

 「・・・・・」

 「シンジ・・・ファーストとは、どうだったの?」

 「し、知らないよ」

 「そんなに悪い娘じゃないわよ」

 「アスカは、綾波のこと。嫌っていたじゃないか」

 「むかしのことよ。いまは、別に嫌って、いないわ」

 「で、でも・・・・」

 「ふ〜ん・・・・そう・・・知っているわけね」

 「・・・・・」

 「近視眼」

 「・・・・・」

 「小心者」

 「・・・・・」

 「ビビリ」

 「・・・・・」

 「ヘタレ」

 「そ、そんな風に言わなくたって良いじゃないか」

 「言いたくもなるわよ。私は、全然、気にしないし、ファーストには、礼を言いたいくらいよ」

 「ど、どうしてさ」

 「私たち、というより人類は、自業自得だけど。彼女は、巻き込まれた方よ」

 「ど、どういうこと?」

 「さぁ まだ、概要しか、わかっていないから説明は難しいわね」

 「・・・・」

 「さっ 行くわよ。ここは、気分の良いところじゃないし」

 「つ、次は、どこに行くの?」

 「時田工業よ」

 「ん?」

 「ジェット・アローンよ」

 「あれぇ〜!」

 「あるのは・・・・2代目・・・みたいね」

 「原子力じゃなくて、エヴァと同じ。制御だけじゃなく、電源も外部に頼っている」

 「原子力を止めたんだ」

 「ええ、小型駆動系の人型ロボットも、あるわね」

 「これも同じ。プログラムは、まだ見たいだけど・・・」

 「・・・・」

 「マギと直結させて指示を下せば使い道ありね」

 「な、なんに使うのさ?」

 「いろいろ、よ」

 「いろいろ・・・?」

 「あんた。ばかぁ〜!」

 「ぅ・・・」

 「カードは、いくつも、揃えて、おかないといけないのよ」

 「手駒が多いほど、物事は、上手く転がせるの」

 「・・・・」

 「んん・・・切り札だけでも、30個くらい、欲しいわね・・・・」

 動機があり、能力があり、実行する意欲がある者だけが歴史を動かせる。

 そうでない者は、追随するか。見物人。セーフティな安全弁か、邪魔者でしかない。

  

   

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 月夜裏 野々香です。

 少し結婚前の日常を・・・・・

 碇親子は、世界より、一人の女性を選ぶ。同類かもです。

 

 それと、平行次元世界のEOEのLAS。

 なんとなく、二つの世界を、対比をさせたくて、です。

  

 

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第69話 『年明けは、故意の季節』
第70話 『春も・・・・』
一人暮らし & 赤い世界 『惣流・アスカ・ラングレー物語 T』
第71話 『夏も・・・・』
登場人物