月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

第71話 『夏も・・・・』

 白いレースのカーテンが揺れ、蝉の音が響く。

 波の音と、潮の香りが心地よく、窓辺から夏の日差しが差し込み、泳いだ後の体を癒していく。

 ソファに座るシンジは、幸福感に打ち震え浸る。

 海はいい。恋愛と青春の金字塔。

 微笑むレイと、青く、きらめく世界で泳ぐ。

 不意に押し寄せる闇。

 そう、人は、水に浮くようにできていない。

 レイの人工呼吸で、命を救われ、溺れる度に二人の絆が深まっていく。

 なんて、素敵なんだろう。

 死線スレスレで、レイに抱きしめられて、海から引き上げられて、唇が重なる。

 幸せで、命がけの恋愛。

 カンヅチ万歳。

 シンジも、人並み以上に泳げるようになったのだが、レイに負けるだけの話し。

 

  そわそわ。

  そわそわ。

  そわそわ。

  隣に座るレイは、新聞記事を確認。世論の誘導が上手くいきそうだと ほっ としている。

  綾波レイは、不利な芽が大きくなる前に処理する。

  伸びる前に根腐れさせ、切り崩して分派させて内ゲバで力を殺ぐとか。

  別方向へと勢いを誘導させてしまう。

  関が原のような天下分け目の戦い以前に決着がついてしまう。

  欠点としては、アスカのストレスがたまり。反対分子の諦めが悪いのが特徴。

  シンジは、横目でチラチラとレイを覗き見る。

  そして、緊張しながら、少しずつレイに接近。

  ごくんっ!

  レイの肩に手が乗せられると。シンジとレイの視線が絡む。

  揺れる潤んだ瞳。

  肌と肌が擦れ合う感触が互いを刺激していく。

  レイの瞳が閉じられ・・・

  シンジは、レイを抱き寄せて・・・

  ごくんっ!

  口付け・・・・

  ごくんっ!

  「綾波・・・」

  「碇君・・・」

  シンジは、そのまま、レイを押し倒して・・・・

 はっ!!

 目を覚ます、霧島マナ

 ・・・汗々・・・

 はぁ はぁ はぁ はぁ はぁ

 ・・・汗々・・・

 ベットから跳ね起きると、慌てて、扉を開け、階段を降り、居間へ・・・

 いない

 慌てて、広い豪邸を、あちら、こちらと、走り回って・・・

  

 

 中庭

 シンジとレイは、スイカの収穫中。

 コッ! コッ!

 スイカを弾く音だけで、わかる。

 アスカとカヲルは、パラソルの影、テーブルに座り、スイカにかぶりついていた。

 「カヲル。今度は、金星よ」

 「金星ねぇ 随分と、熱そうだね」

 「船と資材は、送っているから、トリニティと上手くやってくれでばいいわ」

 「はいはい」

 「カヲル君、アスカ。食べ頃が、まだあったよ」

 「ったく、シンジ。何が悲しゅうて、いい高校生が土いじりしているわけぇ」

 「いい加減、飽きてもいいんじゃない?」

 「い、いいじゃないか、土に触っていると落ち着くし」

 「人はね、大地との絆を失っては、いけないんだよ」

 「アスカだって、食べているし」

 「余ったら、学校に持っていくんだから。ここで、食べたって・・・」

 「あ・・そうだ。シンジ。どうせなら、キュウリとか、トマトとかも作ってよ」

 「ん? そうか。同じ、作物ばっかりだと、土地が、痩せるって、いうから・・・それも、いいかな」

 「ほ、本気にするな。まともに原稿を読め、そっちの方が地位も磐石。金にも、なるのよ」

 「いや、シンジ君は、議場で原稿を読まされる反動で土いじりしているんだよ」

 「あんたは、黙ってなさい」

 そこに血相を変えた霧島マナがやってくる。

 ぜぇ ぜぇ ぜぇ ぜぇ

 「あはは・・・あ・・マナも、スイカを食べようよ」

 「・・・夢か・・・」

  

  

 そう、たまたま。

 霧島マナは、たまたま、オークランド(ニュージーランド)の町で出会った少女に声をかけ。

 喫茶店に誘って語りかける。

 「レイ。この島も、随分と人が増えたわね」

 「トリニティとロボットの産業とサービスだけで安楽に生活できた」

 「人間の働き場が、なくなるね」

 「人は・・・ごく一部を除いて、足を引っ張るだけで邪魔なだけ」

 「そ、それを言っちゃ、おしまいよ、って」

 「でも、人間の威信回復。自然回帰。誇りを賭けて移民してきたはずの島でトリニティのシステムが拡大している」

 「それが、視察の結論?」

 「ええ、建前通り生きていける人間は、一世から縮小しながら三世まで」

 「その後は、宗教染みていくけど、まだ、未定」

 「そうなのよね。わたしも、諜報組織再編できたけど」

 「人間って、自然より、利便性のいい生活を求めちゃうのよね・・・」

 ごく自然を心がけながら・・・・

 「レイ・・・あの子。カッコいいね」

 「そう」

 っくそぉ〜 人が苦労して、セッティングしたというのに “そう” だけか〜!

 レイが好みそうなタイプを統計的に調べ、集めて、配置していた。

 トリニティやマギの隙を突き、自然を装い、身内すらも、たぶらかす。

 作戦に要した時間と労力は、I・S・I財閥の情報操作の最重要機密工作よりも上。

 「レイ、って、一途なのね」

 「なぜ?」

 「だって、他の男の子には、興味がいかないの?」

 「ええ、いかないわ」

 『むっ 手強い』

 「・・・そ、そう、そうよね。来年には、シンジ君と結婚だものね。目移りしたら変か・・・」

 「そうでもないかもしれない。でも、わたしには、碇君しか、いないもの」

 じー

 赤い視線に捕らえられる。

 『ぅ セッティングしたのがバレた・・・バレたのかな・・・目を、そ、逸らしたら、疑われる〜」

 じー

 『ま、まずい〜 気付いているかもしれない・・・この女。きっと・・・疑っている〜』

 じー

 『ど、どうしよう・・・・」

 じー

 『ぅ ま、負けない・・・計画B22に変更よ』

 じー

 「そ、そうだ。渓流釣りで、良い情報があるのよ」

 「そう」

 無表情なのだが、少しだけ言葉が弾む。

 「そうだ! この近くなのよ。時間があるなら、案内させるから行ってみない」

 「時間あるわ・・・行く」

 そう、プロジェクトの合間を狙って、用意周到に準備したのだから空いてなくて、どうする、だった。

 「呼び出すわ・・・」

 『・・むふ♪ レイ好みの男の子よ』

 じー

 「南半球は、冬で寒いけど、綺麗な川らしいから」

 「楽しみだわ」

 じー

 『ぅ・・気付いている? 気付いていないと思うけど・・・どっち・・・』

 「レイ。シンジ君とは、どこまで行ったの?」

 「キス」

 『よっしゃぁあああ〜!!! 思った通り〜!!!』

 「・・・そ、そうよね。まだ、高校生だものね♪」

 「臨時の教師も、兼ねてる」

 「そ、そうそう、ま、紛らわしいのよね〜♪」

 「マナ。嬉しそう。なぜ?」

 「そ・・それは、ふ、ふたりの仲が・・良くて・・良いかなって・・・」

 じー

 ごっくん!

 「マナ・・・少し、顔、赤い」

 じー

 「そ、そうかな、大丈夫よ。そ、それより、行きましょう」

 「ええ・・・」

 好き合っている婚約者同士を引き裂いて、割って入ろうというのだから、

 馬に蹴られて、とは、良く言ったもので。

 マナはレイと、それなりに仲が良く、かなり後ろめたい。

 人間、自分が幸せになりたいばかりに悪巧みをするときは、かなり緊張する。

 レイの眼を他の男の子にも向けさせる。

 ただ、それだけなのだが、冷や汗モノ。

 恋愛は、ゼロ・サム・ゲームの極地。

 シンジとレイの幸せは、マナの不幸に直結する。

 食うか、食われるか。奪うか、奪われるか。

 さわやか系の二枚目を用意して、渓流まで案内させていく。

 まぁ 見た目も、気質も、碇シンジより勝っている。

 しかし、渓流を歩く、レイに隙はなかった。

 女の子なのだから、疲れたり、ヨロヨロ、ヨタヨタしていれば、男性に優しく扱われる。

 いい思いが、できるものを世間知らずが・・・

 どう見ても、案内している男の子より、足取りがしっかりしている。

 『くっそぉおおお〜 秘書なんか、やっているくせに、まだ、なまってない』

 レイと案内人が最接近した時、良い感じの写真を撮ってしまう。

 これをあと、近況報告でシンジに送って、と。

 やりすぎると、逆効果になるから、

 やけぼっくりにならない程度。嫉妬未満で疑惑を増やしていく。

 人間は、単純な生き物で人間不信は、常に効果がある。

 愛とか言いながら、与えている間はいい。

 しかし、要求が質と量で限度を超えていくと、人は離れていく。

 愛は、苦痛を伴う事もある、利用され、奪われ、

 踏み躙られていると、感じてしまえば、苦痛を超えて、憎しみに変わる。

 レイは、その辺の間合いを良く知っているのか。

 親しき仲にも礼儀あり、シンジと適度な関係を保っている。

 むろん、シンジの方も、想像力も、意欲も低いのか、サドっけもなく、要求自体低い。

 これでは、付け込む隙がない。

 しかし、できることをしないと、高校卒業で、シンジ君とレイは、結婚・・・・ぅ・・・・っ・・・・・涙・・・

 「マナ。どうしたの?」

 じー

 「えっ あ、なんでも、ないよ」

 じー

 「そう」

 じー

 「ぅ・・・」

 じー

 「マナ。どうしたの?」

 じー

 「えっ あ、なんでも・・・・ないよ」

 じー

 「困ったことがあれば、力になるわ」

 『あ・・・レイ・・・なんて、いい人なの〜』 涙

 「だ、大丈夫よ。シンジ君は、いつ来るの?」

 「二日後」

 「でも、大丈夫? 冬の山小屋で、二人っきりなんて」

 「自然の中で、トリニティから解放された人間が誇りを取り戻せるか、確認する必要があるわ」

 「短いけど、一週間」

 「わ、わたしも・・・い、行こうかな」

 「いいわ」

 『う、レイって、なんて良い人なの・・・』

 「・・・レイ・・・」 ぐすん

 「・・・・」

 「た、退屈させないからね」

 「そう」

 

 

 虚空潜航艦レリアース二番艦 “飛龍”

 全長222m、全幅22.32m。全高24m。

 エヴァの全高40m、幅5mと比べれば、巨大さがわかりやすい。

 しかし、大きければ良いともいえない。

 大きくなるほど、シンクロ率が低下し、反応速度が鈍り、機動性も低下する。

 トリニティで補って、シュルツ艦の技術を融合してもシンクロ率で虚数空間への移動が決まる。

 移動基地と割り切れば、いいのだが本体を強靭にした状態で虚数空間移動になると上限がある。

 伊吹マヤと山岸マユミ

 「どう、この艦は?」

 「一番艦より、出来が良いみたいですね」

 「シュルツ艦のおかげね。トリニティの計算だと2.3倍強は、強靭になっているそうよ」

 「大型化すると反応とか、機動力が落ちるのに、トリニティが反重力装置で補ってくれるので助かります」

 「怖くない?」

 「ちょっと、不安かな」

 「そう、ゼーレ球の一つを持っていけば、座標を見失わないそうだけど、まだ、ちょっと、信用できないのよね」

 「そ、そうですね」

 「虚数空間世界は、宇宙開発と両輪だから、期待しているの。がんばってね。マユミちゃん」

 「はい。でも、宇宙開発が進んでいるみたいですけど」

 「あっちは、純正の使徒だもの。火星の穴掘りが終わって、今度は、金星らしいわね」

 「そ、そんなに・・・」

 「ええ、後は、火星は、トリニティと、エヴァング。そして、ロボット任せ」

 「金星にも穴を掘るんですか?」

 「金星は、地表から高度50kmから65kmくらいだと、気圧と気温が、地球と似ている」

 「空中都市?」

 「熱を光に変換することは、難しくないから」

 「上下幅15kmの生活圏が金星の表面積に対して広がっている」

 「じ、地面にへばり付いて生きるより楽しいかも・・・」

 「窒素も、酸素も、炭素と酸素二つの二酸化炭素より、軽いから浮くの」

 「もう、テスト用のフローティングシップを浮かばせているわ」

 「落ちないの?」

 「フローティングシティ構想だと、熱と、気圧で、浮くでしょうね」

 「地表は、90気圧だから、落ちたとしても、かなりゆっくりね」

 「宇宙開発って、そんなに進んでいるんだ」

 「ええ、空中都市で金星に蓋をして、二酸化炭素を減らしながら温度を下げていくでしょうけど」

 「す、すごい」

 「渚カヲルなら、掘ろうと思えば、穴も、掘れて。大気の半分ぐらい吹き飛ばせそうだけどね」

 「や、やりそうね」

 「でも、タイムスケジュールに余裕がでてくると、使徒の手を借りるのが癪に触るみたいで、色々あるみたい」

 「形振り構わなかったと思ってたのに、喉元過ぎると、すぐに自尊自大になるんだから・・・ったく」

 「本当よ。カヲル君を火星開発から、金星開発に移動させたのだって、総仕上げを人間側で、ってね」

 「人間側って・・・トリニティと、エヴァング。ロボットでしょう」

 「そうなんだけどね。気持ちの問題でしょうね」

 「はぁ ロンギヌスの槍があるからって、踏み躙っていい相手じゃないと思うけど」

 「そうなのよね」

 「渚カヲルって、碇シンジ、洞木ヒカリの関係でリリン系人種と、繋がっているようなものだから」

 「精神感応でいうと良識派は、後退中?」

 「最近は、微妙に後退中かな」

 「精神感応も、遮断したり、ぼかしたりで全体像が掴みにくくなってきているのよね」

 「よほど開けっぴろげな性格じゃないと、わからないよね」

 「一部のコミュニティーだけの精神感応じゃなくて、全人類的な精神感応なのが、ややこしいのよね」

 「誰だって、特別な力は欲しいけど、みんなだとね」

 「一番、良いのは、人類を宇宙開発とか、平行次元世界とか、勢力を拡大させることよ」

 「そうなの?」

 「内向きに篭ると希望をなくして、内ゲバを始めるでしょ」

 「でも、未知の世界に視野が広がると、不安のあまり協調しやすい」

 「さすが、マヤお姉さん、年の功」

 「ま、まだ若いわよ。でも、我田引水で臆病な引き篭もり勢力って、多いから」

 「スキル不足で、ひがみ、やっかみな、人?」

 「それで、内部で権力争いを始めて、組織潰しとか、社会全体を荒廃させてしまうのよね」

 「足引っ張るしか脳がなくて、結局、できなくて、って、いるのよね。同級生にもいる」

 「大人の世界も、おんなじ。自分以外のせいにして、保身を図る」

 「そのくせ、能無しだと、権威を嵩に切るわ。わかりやすいわね」

 「・・・次は、いつになったら、虚数空間に行くのかな」

 「就航したら、しばらく、慣熟運行して、それからね」

 「それまで、必要なものを用意しておかないと」

 「それ、あれ?」

 円盤状の機体が甲板に駐機していた。

 「プロペラ・・・」

 「エヴァ系技術の簡易型がエヴァングがなら」

 「この機体は、レリエル系の簡易型。虚数空間の出入りはできないけどね」

 「すごい」

 「プロペラだと、燃料のヘリウム3が尽きるまで、一生、飛んでいられるわね」

 「宇宙時代なのに?」

 「宇宙空間だって、燃料を気にしなければ、1G加速で、飛べるわよ」

 「え、反重力装置?」

 「こぶし大に絞り込んでいるだけ。でも、本領を発揮するとしたら、大気圏のある惑星ね」

 「ふ〜ん」

 「位相空間ジャイロで姿勢制御は、優れているし、金星とか、火星でも飛べる」

 「円盤型の飛行機って飛ぶの」

 「安定しているはずよ」

 「わたしでも、飛ばせるかな」

 「コンピューターでも、飛ばせるけど、いざという事もあるから、練習しないとね」

 「練習か・・・でも、大きくもなく、小さくもなくね」

 「探索用で、戦闘用じゃないから気をつけてね」

 「た、戦うのは、いやかな」

 「まず重要なのは、リリスと敵対しないで情報収集よ」

 「さ、さすがにリリスは、気が引けるわね」

 「でも、採集してきたものは、面白い物があったわね。魔術とか」

 「こっちでは、使えない?」

 「まだ、保存の段階ね。解析して、安全性を確認しながら増殖だけど、たぶん、足りないものがある」

 「あの世界のリリス?」

 「いえ、ラミエルの性質によるところが大きいわね」

 「こっちのラミエルが一番、近いけど、微妙にスペクトルが違うし」

 「でも、使徒戦がリリスの継承争いだったなんて・・・」

 「良かったわね。第18使徒のリリンが勝って、リリスを失ったのは、問題になるかも知れないけどね」

 「渚カヲルが味方の方が良いと思うけど。リリンを喪失したのは、考え物かな」

 「あなた達もね」

 「バウンドインパクトのおかげね」

 

 

 渚カヲルは、地球から送られてくる機材で金星に当たる太陽熱を遮断していく。

 金星の大気は、二酸化炭素95.32パーセント。窒素2.7パーセントで致死量を超える

 地表は、90気圧。赤道の気温は、500度で、人間は、生きて行けない。

 しかし、金星の地表から50km〜65kmの高度は、ほぼ、1気圧。

 温度は、0度から50度で、ほぼ、地球並み。

 フローティングシップは、安全のため、

 位相ジャイロや反重力装置など、安全装置を装備しているが自然に逆らわず。

 船内は、地球と同じ、窒素78パーセント、酸素21パーセントで、

 二酸化炭素の大気に浮かぶことができた。

 フローティングシップのエネルギー源は、金星の熱と、気圧差を利用し、調整、浮いている。

 浮遊船は、感覚的に定められた大気層に浮かぶ飛行船に近かった。

 その周囲をヘリウム3発電でプロペラを回して飛ぶ観測機が二酸化炭素の大気を舞う。

 そして、1km四方の浮遊植物が貯水タンクを支柱代わり垂らし、1気圧を目処に浮かび漂っていた。

 人影が二つ。浮遊植物草原の上に立っている。

 二酸化炭素の大気に漂う浮遊植物は、ところ、どころ萎れ、モノになるのか微妙だった。

 少年は、普段着ごと、ATフィールドで身を覆い、ボロボロにならないようにしている。

 少女は、ATフィールドを張れない代わりに、できの悪いゴスプレ系の服装。

 バサバサ、バサバサ、バサバサ・・・・

 二人の周りをハトが集団で飛び回る。

 飛行実験用のロボットをトリニティが無線操作していた。

 「空中浮遊生活なんて、リリンの文化は、偉大だね」

 「カヲル様。対熱・対気圧制御が進めば、ムササビのように飛び回れます」

 「君は、必要ないだろう。それに “陽炎” その服。美しくないよ」

 「まだ、試作ですわ。0.1気圧から30気圧まで」

 「温度幅は、マイナス30度からプラス120度までの層を自動検知して、滞空できますの」

 「随分、幅があるね」

 「気圧・温度調整服も兼ねてます。光合成で酸素も作ります」

 「まだ、一人分の酸素に足りませんが生存の足しになります」

 「陽炎・・僕は、そんなもの、着ないよ」

 「残念ですわ。お揃いですのに・・・」

 「金星のテラ・フォーミングは、時間がかかりそうだね」

 「二酸化炭素を吹き飛ばすのもありですが」

 「地球の総人口は、セカンドインパクトで減少していますから」

 「余裕があるわけだね」

 「二酸化炭素も、資源ですから」

 「宇宙では、炭素も、酸素も、重要な資源。真空よりマシということかな」

 「浮遊植物の研究も進んでいますし」

 「光合成のできる層に浮遊植物相を確保できれば、あとは、年月の問題かと・・・」

 「年月・・・地球の人口が増えるのは、その年月より、早いよ」

 「可能性の存在が、魅力あるそうですわ」

 陽炎が送電コードを抜くと膜を広げる。

 ふわりと、浮かび上がり、そのまま、金星の空を滑空する。

 人類が、金星の大気層を浮遊しながら生活できるとしたら。

 それを夢と考えるか、不安と思うか、人それぞれ。

 メイドロボットで、それを確認したいのだろう。

 データーさえあれば、人間の感性が、どういう反応になるか、個性別にトレースできるらしい。

 トリニティも、エヴァングやメイドロボットという手足と感覚器官があって、楽しいのだろう。

 陽炎は、金星の大気層を面白げに滑空する。

 リリンは、金星の生活居住圏をどういった形で選択するのか、試行錯誤している。

 金星の地表は、エヴァングとロボットが、90気圧500度以上を物ともせず、採掘作業中だった。

 特に驚くに値しない。月では、真空に近く、マイナス200度からプラス120度。

 耐久年数は、どっちが、ということにもなる。

 エヴァングとロボットで、金星の地表を開発させて、人類が、天上人なら悪くない。

 酸素が増えて、気候が低下すれば、いずれ、地表で生活できるようになっていく。

 「きゃー!!」

 見ると、陽炎が、乱気流に巻き込まれ、回っている。

 次の瞬間、渚カヲルに首根っこを捕まえられた陽炎が草むらに座り込む。

 「あ、ありがとうございます。カヲル様」

 「金星も、手ごわそうだね」

 「ええ」

 偶発的な事件だろうか、

 それともトリニティが、使徒、渚カヲルを試したのだろうか。

  

    

   

 地球連邦軍

 言語体系でいうと、日本語、英語、ドイツ語が飛び交う。

 とはいえ、軍隊も様変わりしているのか、思うほど、支障がない。

 人間の指揮能力は、ロボットの戦術機動について行けない。

 トリニティが率いるロボット小隊は、人間が率いるロボット小隊より強いという事実。

 移動距離、踏破性、睡眠、攻守能力、生活物資を含めると、

 人間のウィークポイント、負担の方が大きいと思われたりもする。

 これは、トリニティと、ロボットとの通信を遮断できない限り、という点で確定的だった。

 つまり、人間は、副将とか、予備軍でしかなく。

 エヴァングの副パイロットがせいぜいだった。

 トリニティとロボットの通信が遮断されない限り、能力を発揮できない。

 トリニティは、そういうコンピュータだった。

 

 

 地球軌道上に学校が作られ、未来を担う学生が勉強していた。

 先生は、トリニティ配下の怖綺麗型の教育ロボット。

 一度、黒板型先生でも良いのでは、という話しにもなったが立ち消えてしまう。

 「ゼーレの人類補完計画は、当初、ビフォア・バベルを目指し」

 「融和と開発を相乗効果させながら、宇宙開発を目指すものでした」

 「もっとも、当時は、時間が足りず。メリットもあれば、デメリットもありました」

 「言葉が通じれば、個々の人間関係においてコミュニケーションが進み」

 「発展すると思うのは理想、願望、空想に過ぎず」

 「諸君らの学生生活と同様。世の中、そんなに甘くない」

 生徒達の間で苦笑いが広がる。

 「言葉が通じることで揉め事の種にもなり。逆に不和に繋がる事もあり」

 「同じ言語でも仲違いは日常茶飯事であり。犯罪もピンからキリまで・・・」

 「また、資源消費を増やしてしまうので、当時の情勢では、諸刃の剣・・・」

 「本当に人間って、ヤツは・・・」  「(^・^)

 「そこ、チャチを入れない」

 「はい」

 「人類補完計画を形而上学で扱ったのは、プラスとマイナスの総量でプラスが大きかっただけであり」

 「この時期、人類補完計画は、個別進化と両輪と考えられていました」

 「個別進化は、肉体改造によって、特権階級を固定するものでした」

 「しかし、地球規模の危機に際し、個別進化は消極的であったと言えます」

 「人類補完計画は大局的な視点で優れ、ジリ貧よりマシとゼーレで計算され進められていきました」

 「そのゼーレの人類補完計画を根底から変えたのは、南極のリリス発見でした」

 「リリスとエヴァ技術は、地球的規模の危機に対する、非常手段であり」

 「人類の起源も絡んで、宿命的な問題を解決するパンドラの箱でした」

 「人類補完計画は、修正されつつ、可能性を飛躍的に高め」

 「ご存知、セカンドインパクトに至り、その後、使徒戦へ、もつれ込みました」

 「結果は、どうあれ。この時点まで、ゼーレは人類の代表でした」

 「その後、使徒戦。日本・NERV連合 VS ゼーレ・世界戦へと続き」

 「サード・バウンドインパクトが行われました」

 「人類は、人類補完計画原案で再構築されて、精神感応世界となりました」

 「その後、I・S・I財閥の躍進。渚カヲル特需」

 「トリニティとロボットによる経済効果と宇宙開発が進み」

 「ゼーレ球の情報資源と永遠性。成熟していくエヴァ系技術」

 「平行次元世界からのシュルツ系技術による新産業革命も過渡期にはいりました」

 「物質的な情勢は良いのですが・・・」

 「精神感応世界でも人間は、利己主義と利他主義の自己矛盾に苛まれた現状です」

 「心の問題は、未解決なままであり」

 「というわけで、ばら色の世界と言い難い世界で」

 「生きている者は、己の人生を自ら綴っていくように!」

 はぁ〜い × 生徒

    

 

 地球軌道上

 コアを装備した専用トライデント機アルファ艦が軌道エレベーターを避けて旋回する。

 ATフィールドを展開できる洞木ヒカリ、相田ケンスケ、新城チアキ、久坂タダシは別格であり。

 その中でも、洞木ヒカリのアルファ機は、さらに別格で、

 使徒戦に耐えられるだけの戦闘能力を発揮する。

 また全人類的な精神感応能力と、

 渚カヲルと心身感応の両方の特性を知るのは、彼女だけだった。

 「確認、ターゲットに入ったわ」

 『撃破してくれ』 日向

 アルファ艦から撃ち出される陽電子弾が大気圏に突入する隕石を破壊する。

 「弱々しい光なのに随分と強力ね」

 『シュルツ艦のおかげだ。新型陽電子砲は、収束率がいいからね』

 「隕石が多いと、訓練用の射的に困らないわね」

 『夏休みなのに引っ張り出して、悪いね。洞木中尉』

 「いえいえ」

 ・・・社交辞令

 組織に入って、付き合いの量と質に比例し、自分の剥き出しの欲望を化粧で隠していく。

 どれほど、自分の素顔が隠されたのか、わからないほど・・・・

 綺麗な化粧であれば良いが・・・・

 自己満足な化粧で他人に失笑される化粧もある。

 他人の目ばかりを気にして、己を騙し、偽りの厚化粧を重ねたりもする。

 一度、化粧を取って、己の欲望のままに・・・

 という気にもなるが、かなり醜いだろう。

 渚カヲルに嫌われたくない。好かれたいという気持ちが一番強く、

 洞木ヒカリは、かなり気を使っている。

 アルファ機は、渚カヲルとのダブルエントリで、光質が増大。

 強靭なATフィールドを展開していた。

 S2機関の組み込みも成功し、シュルツ艦の技術も導入。

 宇宙空間と大気圏、海中まで自在に飛ぶことができた。

 いまでは、連邦最強の宇宙戦闘機であり。

 戦力は、初号機に並び。

 居住性を含めた作戦能力は、初号機を抜く。

 このアルファに勝る価値があるとすれば、平行次元世界に行けるレリアース2番艦 飛龍 だけ。

 もし、宇宙から敵が現れれば、アルファ機が最高峰だろうか。

 とはいえ、平和が続いて敵もいない。

 そして、洞木ヒカリは軍属と、学生の二足のワラジで

 身分保障や給与は良いが、わびしい宮使い。

 惣流アスカ、綾波レイ、朝霧ハルカ、碇シンジは、使徒戦の英雄で、

 命がけの実戦と戦功に対する報奨で、予備役扱いで、私利私欲で走れて、羨ましくもあり・・・・

 洞木ヒカリも、高校卒業と同時に渚カヲルと結婚退役を希望するが渋られ。

 最善でも忙しい予備役扱いになりそうで甘い新婚生活はない。

 さらに軍最高機密のパイロットで大学行きも決まっている。

 “高卒の士官は指揮系統上困る、軍の体面の為、大学に行け” だそうだ。

 自らの意欲だけで進む志願兵で、軍高級官僚を目指す士官候補生なら、嬉しかろう。

 しかし、徴兵で、まだ若く、軍の事情で新婚生活まで脅かされるのは、理不尽に感じられる。

 シンクロ率という一点で徴兵された4人は、志願兵を尻目に、もてはやされる。

 高校在学で少尉は、異常事態で

 戦時でもなければ、ありえない。いや、戦時でもない。

 志願兵と徴兵の士気の違いは、定説通り歴然で、徴兵も志願兵も世の不条理に縛られる。

 一時は、志願兵の士気にかかわるとか、

 公文書の入隊動機の書き直しで、4人の志願兵化も検討されたほどで、

 平和になると、どうでもいいような差別感情が優先し、杓子定規が幅を利かせる。

 「洞木中尉。次を頼むよ」

 「はい・・・誘導に乗りました」

 「誘導は、実戦の勘を失わないように自分で確認しながら飛行するようにしてくれ」

 「はい」

  

  

   

 アリエル要塞

 そして、好きこそ何とかで志願し、力をつけている者もいる。

 トライデント機ガンマー艦を駆る相田ケンスケ少尉だった。

 相田ケンスケは、望みのまま、エヴァにも乗れ、トライデントにも乗れ、

 年齢の割には、階級が良くて、軍隊生活を満喫。

 もちろん、不満もあるらしい。

 「使徒、来ないかな・・・」

 「戦いたいな・・・」

 と、子供な感じで口走りやすかったり・・・

 『人間がロボットを率いた場合の戦術研究』

 という名目で、野戦訓練をしたりする。

 自暴自棄で突拍子もない行動がトリニティにフィードバックされ、

 それなりな功績もあるらしい。

 ケンスケは、若輩ながら真剣な目つきで、

 モニターに映るロボット小隊の動きを見つめる。

 隣には、護衛を兼ねたメイドロボット “雪風” がいる。

 心の壁の強さがATフィールドの強さに比例するなら、ケンスケも才能があった。

 社交性の低さは、視野を狭めて孤立しやすく、

 シンジのように内罰的に篭るか、敵を作りやすい。

 トリニティとロボットが代替不能なATフィールドは、人類最後の拠り所だった。

 ケンスケの言動は、色々、支障があるのだがATフィールドが強くなるならと、

 まわりも、修正せず。生暖かく見守ったりする。

 「ヘリウム3で、燃料と駆動系は、確保したけど、戦力になる自律思考は、まだまだか」

 「トリニティから切り離されると孤立します」

 「最終命令か、現状維持、帰還の3択です」

 「それも、基本的な動きに制約される」

 「通信を妨害されると、限定的な作戦に制約されますね」

 「マギクラスを載せた大型トラックの有線で拠点防衛か、撤収です」

 「マギは、随分、小型化できたみたいだけど、大型トラックで、それも有線じゃ・・・」

 「通信妨害は、戦略の常套手段ですから、指揮系統から外れた部隊は、攻勢能力を失います」

 「人権を棚上げで人間の脳をロボットに載せるくらいかな」

 「ゼーレ球入りに対する対案ですね」

 「死期を前にしたら考えるだろうね」

 「ゼーレ球入りも、ロボットに脳を移すのも、問題あるよ」

 「普通に死ぬ方が良い、とは、言わないけどね」

 「将来、アンドロイドは、借金返済で部隊編成も可能かもしれません・・・」

 「人間の脳を載せたアンドロイド部隊より」

 「トリニティ配下のロボット部隊の方が信用できるのが悲しいね」

 「そう認めていただけるのでしたら、恐縮です」

 「ロボットは、ともかく、エヴァングは、もう少し、自律系が欲しいところだ」

 「エヴァングは、人間のコクピットをはずせば、もう少しマシになるかと・・・」

 「敵が来なくて、通信回線が維持されるのなら、構わないけどね」

 「マギクラス搭載のロボットになると、戦闘力が落ちますし、大きさも、JAクラスを超えるかと」

 「トリニティとか、マギは、大型艦とか、大型船に乗せているくらいだからね。冷却とか、問題ない?」

 「蓄冷物質は、格段の進歩を遂げましたから、ですがエヴァングは無理ですね」

 「4メートル大のエヴァングは、運用とか、利便性で良いけど・・・」

 「左脳型トリニティと、右脳型ゼーレ球の融合構想ガイアが進めば、あるいは・・・」

 「それ、本決まり?」

 「いえ、構想だけです」

 「だよね・・・」

 可能性で論じられていたが消極的だった。

 リリン系人類は、臆病で

 むろん、ゼーレ球もそうだった。

 トリニティも警戒

 異質分裂は、容易で

 異質融合は、困難な道といえる。

  

  

 ニュージーランド

 吹雪の中で孤立した山小屋。

 レイとマナは、テキパキと材料を調理していく。

 2人とも張り合っているのか、いつもの如くシンジは何もさせてもらえない。

 小屋は、小さく、みすぼらしいのだが気持ちが変わっても、基本的に変わらない生活。

 2人とも効率がいいのか、スキルが過ぎる。

 その気になれば、1人で10人前以上作れるのにチマチマと3人分・・・・

 シンジは、おとなしく、雪を溶かしながら、飯ごうの準備。

 日本の豪邸にいると、それすらもなく、上げ膳、据え膳。

 焚き火を突く仕事も、なんとなく、口元が緩み、嬉しかったりする。

 よくバカ殿という。

 家臣達が、その方が都合が良いと。バカ殿にしていると、かんぐりたくもなる。

 それで国が滅びるのなら、どっちのせいともいえない、自業自得だろうか。

 『そういえば、綾波の弁当を作っていたときは、楽しかったっけ・・・』

 などと、感傷に浸ったりもする。

 食後は、3人で3000ピースのパズル。

 ランプの明かりの下で張り詰めた緊張感が漂い。空地が黙々と埋められていく。

 ほぼ中央。一ヶ所だけ、赤地のマス目。

 そこを埋めるピースを持つ者は “頬にキス” を命令できる。

 2対1で、分が悪い。

 しかし、マナは、馬に蹴られても、臆することなく、勝負を賭ける。

 「・・・本当に囮になるなんて、シンジ君」 むすぅ〜

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「この天候も計算?」

 「ええ、予報通り」

 「冗談じゃないわ。レイ。シンジ君に、もしもの事があったら、どうするつもりだったの?」

 「可能性は、それほど高くないもの」

 「ニュージーランドは、反I・S・I。回帰派の本山の一つなのよ」

 「みたいね」

 「反I・S・Iは、少なくない」

 「本体が直接手を下さなくても目的が果たせるなら、ハネッ返りでも構わないのよ」

 「動機のない、ハネッ返りは、ここまで、これないわ」

 「だったら、命がけね、わたしがいて良かったわ」

 「そう」

 「“そう” じゃないわよ。ったく。特殊訓練を受けた大人が来たら、勝ち目ないのよ」

 「エヴァングとロボットを隠しているわ」

 「だと良いけど、3原則は?」

 「特例。生死は、問うけど。それだけだから」

 「戦闘不能なら、大丈夫ということ?」

 「ええ」

 外は、吹雪。

 マナは、ドラム缶のお風呂に入っている。

 もし、反I・S・Iが仕掛けてくれば芋蔓式に本体まで・・・・

 シンジと、レイは、窓から白い世界を見つめる。

 「綾波。マナを連れてきて良かったの?」

 「ええ、私たちの証人。敵も、私一人で処理できることだから」

 「ぼ、僕もやるよ」

 「ATフィールドで、一帯を走査して、自然な形で敵の装備品を使えなくするだけ」

 「や、やっつけるんじゃないんだね」

 「冬山だもの、装備品を失えば、引き揚げる」

 「あとは、待ち伏せしている部隊が捕まえて、依頼人を突き止める・・・」

 「い、意外と簡単そうだね」

 「山岸マユミのおかげ。ATフィールドで、こういう、小技。思いもしなかったから」

 「でも、来るかな」

 「そっちの方が心配。一応、探知機を弱めたから、少しくらい強いATフィールドでも、大丈夫」

 「で、でも、なんか久しぶりだな。こういうの。ずっと、高校生とか、どこかの役付だったから」

 「そうね。渚カヲルがいるとき、敵は、動かないわね」

 「ま、まだ。カヲル君が嫌いなんだ」

 「ええ。使徒だもの・・・」

 「ぼ、僕たちも、似たようなもじゃ・・・」

 「フォースインパクトは、起こさないもの・・・でも、碇君のフォースインパクトなら・・・いい」

 「ぼ、僕も。カ、カヲル君もリリスがないから、フォースインパクトはないと思うよ」

 「リリスの出自がわかるまで、警戒したほうが良いわ」

 「そういえば、虚数空間の向こう側にもリリスが・・・」

 「リリスがこの世界の中継器もかねていたら、大元と接触することになるかもしれない」

 窓の外を見つめるレイの視線は、冷たく、無機質。

 ごくんっ

 シンジは、レイを覗き見る。

 ごくんっ

 シンジの手が恐る恐る、レイの肩に・・・・

 レイが微笑むと、シンジは ほっ とする。

 「・・・綾波・・・来た」

 「ええ」

 山小屋の周辺、数キロ先に張り巡らしているATフィールドの網に感触が伝わる。

 エヴァングと、ロボットは、足が付くのか使えず。

 手製のパワースーツを着用している傭兵が数十人。

 シンジとレイは、久しぶりに高揚感があるのか、微笑む。

 といっても、やっていることは、悪戯に近い。

 ピアノ線のように細いATフィールドを使って、食料、水、武器を谷底に落としたり、

 パワースーツの電子回路を誤作動・回線を接触不良にさせたり、

 登山器具を壊したりとか・・・

 冬山の登山では、命とりなものばかり。

 

 吹雪いている山小屋。

 真っ白なマナが凍えながら戻る。

 マナの罠は、かなり極悪でピアノ線と板を使って罠を仕掛ける。

 雪で埋まってしまうと判別付かなくなる。

 上に重量がかかると、そのまま、谷底へ・・・・というものだった。

 他にも、原始的ながら殺傷力の高い罠が張り巡らされ、

 警報用の仕掛けが、山小屋を囲んでいた。

 マナは、一息つくと、

 “女は、女同士” とか

 “一応、教師と生徒なんだから” とか。

 適当な口実でレイと一緒に横になる。

 「マナ。外、寒くなかった?」

 「ぅぅ 本当は、シンジ君に抱っこしてもらうのが一番良いんだけど」

 「駄目」

 「あ、そう」

 「・・・」

 「レイは、シンジと上手くいっている?」

 「ええ・・・」

 「いろいろ、罠を仕掛けたから、悪漢が来たときは、私に従ってね」

 「ええ、いいわ」

 「無茶するわね。このあたり一帯、無防備だなんて・・・」

 「山の周囲は、駐屯地も、あるから」

 「むっ まさか、婚前・・・」

 「・・・・・」

 「やっぱり、そうだったのね」

 「碇君しだいだもの・・・・」

 「レイぃ ずるいぃ〜」 ぐっすん!

 「・・・そのうち、良いことも、あるわ」

 「あ〜ん 恋に破れた女なんて、不幸のどん底、良い事なんて、あるはずないよ〜」

 「そう、頬にキスしてもらってたわ」

 「むふっ♪」

 「・・・・」

 「ねぇ 碇司令とは、どうだったの?」

 「碇司令は、ほかの人を見ていた」

 「ふ〜ん 一途?」

 「さぁ」

 「男って、そういうところがあるのね」

 「・・・・」

 「まぁ 使徒戦じゃ 碇司令は、命の恩人」

 「つまらない倫理観で責めるほど、恩知らずでもないし・・・」

 「子別れの儀式は、必要だったのかもしれない。親と子も、リリスと第18使徒リリン系も・・・」

 「へぇ 言いようがあるわね」

 「父親は、排他的な厳愛が普通だもの。子煩悩な父親は、気持ち悪くて戦えない」

 「まぁ 孤児の私は、どっちでも、いいけど・・・シンジ君って、お父さんに似てるの?」

 「似ているかもしれない」

 「うげっ! シンジ君が、あんな風になったら、どうする?」

 「私が存在するのは、あの人のおかげ」

 「碇君は、あの人の子供。碇司令がいないのなら、私の事は、当然の権利」

 「そ、そういう問題なの? 好きとかじゃないの?」

 「好き? それ以上の絆だもの・・・」

 「あ そう・・・」

 数日後、

 ふもとを警戒していたI・S・I警備隊が瀕死のテロリストたちを捕らえる。

   

   

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 月夜裏 野々香です。

 夢か、現か、シンジとレイは、ちょっと、バカップル化でしょうか。

 『夏も・・・・』 と題しながら、舞台は、南半球、ニュージーランドの冬山。

 押しの強さか、思いが叶ったのか、2対1を撥ね返して、頬にキスされた霧島マナでした。

 宇宙開発の舞台は、いよいよ、金星へ。

 そして、虚空潜航艦 “飛龍” の完成後は、虚数空間のかなた。平行次元世界へ。

 人類の未来は、どこへ・・・

  

   

   

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第70話 『春も・・・・』
第71話 『夏も・・・・』
第72話 『秋も・・・・』
登場人物