月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

    

第72話 『秋も・・・・』

 秋・・・

 読書の秋、食欲の秋、恋の秋・・・

 海岸沿いの豪邸の住人、碇シンジ、綾波レイ、惣流アスカラングレー、

 霧島マナ、冬月コウゾウは、思い思いに居間で、くつろぎ、香取が世話をする。

 夏の日差しが薄れ、夜が長くなるにつれ、侘びしさが募る。

 霧島マナは、時々、視線が居間の向こう側に向けられる。

 シンジとレイが、楽しそうにしているのが腹立たしい。

 悲観的になると諸々な妄想が重なって辛かったりする。

 比較的、前向きな霧島マナも今年の秋は、かなり堪えていた。

 来年の春。高校卒業すると碇シンジと綾波レイは、結婚。

 いろいろ画策するがシンジとレイの間に割り込めず。不和は、なさそうだった。

 この手の醜い女同士の抗争は、アスカに悪役をやらせて、高みの見物。

 霧島マナは、善良な慰め役で、

 トンビに油揚げで むふっ♪ が、いいのだが・・・・

 惣流・アスカ・ラングレーは、不気味に構え、トランプ越しに睨みつける。

 「・・・・」

 「なっ 何よ」

 「マナ。あなたの番よ」

 「そ、そうだった」

 「マナ。また、なにか、よからぬ事を企んでいるでしょう」

 「I・S・Iの仕事よ」

 「あら、組織もラインもマニュアルが出来上がってワンパターンの繰り返し、利益が膨らんでいるわ」

 「それは、よござんした」

 「あなたの部門の非合法対策だって、トリニティ任せで問題なしよ」

 「冬山でテロ集団が捕まって忙しいのよ」

 「おかげで反対派は、戦々恐々、大人しくなったけどね」

 「運が良かっただけよ。ったく、レイのやつ、軽はずみなことして」

 「でも、マナが眉間にしわを寄せるとしたら理由は、一つね」

 「眉間にしわを寄せているのは、一流の傭兵が揃いも揃って間抜けだったからよ」

 「まだ、原因は、掴めないの?」

 「渚カヲルが金星にいたときの出来事よ。未登録のATフィールド使いがいるのかしら」

 「未夜と千歳ミズキ以外に?」

 「あの2人がシンジとレイを助ける義理はないから、もう一度、最優先でクムラン派を調べないと・・・」

 「いまさら、ATフィールド感知器もないけど」

 「のこのこ、しゃしゃり出てきても、ロンギヌスの槍で、いちころよ」

 「でもね。世界の核になる人間の危機管理は、大切よ」

 「地球の全周囲は、ちょっとね」

 「お金の問題?」

 「シュミレーションゲームと同じ。まず、予算ありきで物事を決めていく、常識よ」

 「杓子定規。敵が増えるよ。少しは、情を掛けて先行投資で恵んであげたら」

 「その方が、ねたみ、やっかみで、敵が増えるのよ」

 「何で、こっちの予算じゃないんだって、無能扱いするしね」

 「へいへい」

 「ATフィールド感知器なんて、採算が取れないでしょう」

 「アスカ。金星の予算を増やしているの?」

 「んん・・・金星の大気圏で空中庭園生活も悪くないみたいね」

 「アスカが第8使徒サンダルフォンを生け捕りにしていたら、苦労しなかったのに・・・」

 「わ、私が、いま、一番、後悔しているのよ・・・」

 「金星行きもトリニティとエヴァングとロボットばかりでしょ」

 「宇宙で人を生かすのは、予算がかかるのよ」

 「採算待ちか・・・ところで、アスカって、シンジ君に手を出してないみたいだけど?」

 「ん? シンジ、あいつ、レイしか見てないから・・・」

 「その気になれば、手当たりしだいなのに・・・バカなやつ」

 「そこが、良いというか・・・なんと言うか・・・」

 「アレで、キス止まりとはね。呆れるわ」

 「良い傾向♪ 良い傾向♪」

 「あの小心者・・・レイに嫌われるんじゃないかって、ビビッているのよ」

 「ぅぅ レイ一筋なんて、ずるいぃ〜」

 「どこが良いんだか・・・」

 「アスカも淡白ね」

 「あのねぇ わたしは、ガキには用はないの」

 「ガキねぇ の、割には、アスカ。誰とも付き合ってないじゃない」

 「ふ 私と、釣り合う男がいないのが問題ね」

 「ふ〜ん 頭で?」

 「ん・・・」

 「容姿で?」

 「んん・・・・」

 「体力で?」

 「んんん・・・・」

 「それとも、金持ちで?」

 「まぁ いろいろね」

 「いろいろねぇ・・・」

 「そう、いろいろ」

 「そういえば・・・身元不明のお金持ちの娘がシンジと一緒にいたらしいけど?」

 「へぇ〜 いつ? 誰かしら?」

 「瑞穂シオリ。黒髪でアスカがシンジに案内させたらしいけど・・・そんな娘、いないのよね・・・」

 「・・・そういえば、シンジの接客態度を見ようと、ちょっと、試したことが、あったわね」

 「へぇ〜 接客態度か・・・で、どうだったの? シンジの接客態度?」

 「まぁ 可もなく、不可もなくね」

 「不思議と、あなたの体格に似たメイドロボットだったのね」

 「偶然でしょ」

 「どっちが本物だったのかしら?」

 「どっちでも同じよ。シンジの接客態度を見たかっただけだから」

 「・・・楽しかった?」

 「ふっ」

 「むっ まさか〜 アスカ・・・」

 「あのねぇ 無教養な牛飼い娘じゃあるまいし」

 「そこまで、プライド捨ててないわよ。捨てるつもりもないし」

 「なら良いけど・・・」

 アスカも、マナも、暇で面白くない午後を過ごすことになる。

  

  

 将棋版を見詰めていた冬月副司令が本を読んでいるシンジに声をかける。

 「ん、シンジ君。次は、ナスにするのかね」

 シンジの読んでいる本は、ナスの栽培。

 「ええ、スイカばかり続けると、土地が、痩せるかも知れないので挑戦してみようかなって」

 「ナスか・・・家庭菜園も悪くないな」

 「副司令。紐で、何をしているんですか?」

 「ボケ予防で、あや取りだよ」

 シンジとレイが珍しそうに覗き込む。

 冬月が呆れる。

 『セカンドインパクト以降の子供だと、こうなるのか・・・』

 というわけで、シンジとレイは、冬月に教わったあや取りに興じて楽しげ。

  

   綾波は、糸を摘まんで捻りながら器用に形を作っていく。

   同じ糸を見て、糸を通して、指と指が触れる感触が、心地良い。

   綾波の仕草や表情がいとおしい。

   視線が合うと見詰めていたいのに避けてしまう。

   綾波の眼差しに軽蔑の光を見てしまうのが怖く。

   拒絶するような意思が潜んでいるかもしれないと思うと消えたくなる。

   綾波に愛されているのだろうか。

   綾波に愛されるような男なのだろうか。

   “綾波” と呼べる自分が好きで、余韻まで細胞に沁み込む。

   綾波が微笑みかけてくれる自分が好きで瞳に映る自分の姿が照れくさい。

   綾波のそばにいられる時間が好きで、やさしくなれる自分がいる。

   綾波と向かい合って、視界にいることが嬉しくて、気持ちが和む。

   「カニ・・・」

   「お・・・」

   「はしご・・・」

   「お・・・」

   「じゃ 僕は、東京タワー・・・・・んん・・・」

   ばら・・・・・・・・・。

   「・・・・・・」

   「んん・・・・・あ・・・れ・・」

   ぽろっ

   「失敗・・・」

   ずっと、続いて欲しい時間が過ぎて行く。

    

   

 秋の海原は、うねりが大きい。

 小船は、木の葉のように浮き沈みする。

 シンジとレイは、刺激があるのか、身を寄せ合って、釣竿を垂れる。

 何かの拍子で頭と頭が コツッ とぶつかると、かなり嬉しい。

 レイの実力なら海岸からの釣りで、十分大漁なのだが身を寄せ合うのなら、小船。

 もっとも、転覆したとき、レイの方が泳ぎが上手いのが少し情けない。

 もう一つ、最新技術の集大成で作られた小船で、材質でも、二重構造の空気層でも浮かぶ。

 沈める方が至難の業。

 それでも、大きなうねりに煽られると遊園地の乗り物より危なげ。

 腕を絡めたレイを守りたいという気持ちにもなりやすい。

 なんとなく、レイの頭を撫でたり。軽く口付けしたりで嬉しく。

 レイは、釣りが楽しいのか。

 釣った魚をイルカの口に入れるのが楽しいのか、微笑が絶えない。

 イルカたちもサービスが良くて、立ち泳ぎしながら、空中で、捻って、海に飛び込んだりする。

 『イルカが近くで、泳いでいるのに、なぜ、魚が釣れるのだろう・・・』

 !?

 綾波が竿に触って、数分で、ヒット。

 手応えが楽しい。

 『疑問に思っちゃいけないのかな』

 レイの横顔を見ていると・・・

 「なに?」

 「あ・・・綾波。イルカの名前は決めたの?」

 「ええ、ハイドロジェン、ヘリウム、リチウム、ベリリウム・・・」

 「げ、元素?」

 「一杯いるから・・・いま、飛び上がったのが、シリコン」

 「そ、そんなにイルカの知り合いが多いの?」

 「50匹ぐらい・・・」

 くらぁ〜

 「違いが、よく、わかるね」

 「名前を付けたら、全部、違って、見えた」

 「同じイルカは、一匹もいなかった。小石も、花も・・・それぞれ、少しずつ違う」

 「・・・綾波。そろそろ、陸に上がる?」

 「まだ、秋刀魚が釣れてない」

 「秋刀魚?」

 「秋は、秋刀魚の季節だから」

 「でも、アイスボックス、一杯だけど」

 「問題ない、近所に配る」

 ヒラメ、サケ、アジ、タチウオ、キンメダを他所に配って、

 家で秋刀魚を食う感覚は、お金持ち・・・なのかもしれない。

 綾波は、余った魚を近所や業者に配るので、かなり有名になっている。

 おかげで、近所や業者のお返しが煩わしく、

 メイドロボットの香取がいないと、やっていけない。

 食卓に新鮮な魚が載らない日が珍しく。

 和食派の冬月ゴウゾウが喜び。

 肉食系のアスカが、時々、キレる。

 「碇君。陸に戻りたい?」 寂しげ

 「い、いや、もう少し、こうしているのもいいかな」

 「碇君・・・」

 「綾波・・・」

 シンジは、時々、勇気を振り絞って、レイの胸を つん と、触ったりする。

 心地良い弾力で心まで弾む。

 「・・・・・・・・」

 レイは、微笑むとシンジを抱きしめ、口付け。

 吹き荒む潮風、浮き沈みする海原の中、シンジとレイは、幸せだった。

  

  

  

 虚空潜航艦レリアース 2番艦 飛龍

 艦の偽装が済むと艦体のラインに惚れ惚れとし、感動したりする。

 艦橋

 山岸マユミ 天城リツコ

 「・・・かっこいい〜」

 「これで、宇宙開発局に巻き返せるわね」

 「そ、そういえば、日陰者だったっけ」

 「そんなこともないわ」

 「別世界のリリスことも、そうだけど。シュルツ艦だけでも利益が大きかったわ」

 「可能性だけなら、平行次元世界が高いのよ」

 「次は、どんな世界かな〜」

 「あなたが主役なんだから、がんばってね」

 「そ、そういわれると、緊張するかな」

 「大事なのは、どの世界でも、リリスとの接触を避けること」

 「他の判断も、記録を見る限り、無難な選択だったわ」

 「ほとんど、トリニティ任せだったけど」

 「それで、正解」

 「緊急避難以外は、トリニティに任せても、大丈夫だから」

 「緊急時でも、トリニティが正しいと思うけどね」

 「なんか、わたし、動力源とか、エンジン扱いされているような気もするけど」

 「あなたが、トリニティに勝る統括能力、情報処理能力、判断能力を持たない限り」

 「この艦パイロットは、トリニティで。レリエル系人種の人力動力艦よ」

 「やっぱり・・・」 っー 涙

 「通常空間は、一応、反重力エンジンとか、ロケット推進で補助するけど」

 「虚数空間での機動は、ATフィールドのみよ」

 「・・・ほとんど、手漕ぎね。カッコわるぅ〜」

 「あなたには、リリスのいない世界を見つけて欲しいわ、惑星ごと実験したいから。がんばってね」

 「わ、惑星ごとって?」

 「ほら、いろんな、化学物質を混ぜ合わせて、惑星の造山運動とか、大気とか、海流とか」

 「自然に循環させながら新しい化学物質の生態系を・・・・」

 「え・・・」

 「素敵じゃない。どんな、化学物質が生成されて、どんな、世界が作られるのか」

 「この太陽系じゃ できない実験もできるし、神の所業よ」

 「せ、生命が生まれたら?」

 「望むところよ〜」 うっとり〜

 「え、得るものがあるの?」

 「未知の化学物質が、有用になるかもしれないでしょ」

 「それに、異世界だと、いろいろ試しても、この世界まで来ないし」

 「マッド・・・」

 「あら、地球の生態系だって、そうやって作られたのかもしれないし、偉大な発展もあるでしょ」

 「やらないと損よ」 恍惚

 「な、なんか毒々しくて、危なそうな世界・・・」

 「あら、猛毒に対する耐性が人類を救うのよ」

 「魔物の世界を作って、その耐性を採集するのもいいわね♪」

 「い、いいんですか・・・」

 「むかしは、毒性の強い南米で採集した毒をフィールドバック」

 「医療技術を向上させていたのよ。人類愛よ。人類愛」

 「うう・・・」

 「リアルでローディング・プレー。魔物退治ができるかもね」

 「い、いやぁ〜 リアルは、ちょっと・・・」

 「今のうちに練習しておいたら良いかもしれない」

 「好きなだけ狩りができて、未知の物質も採集できる」

 「・・・・・」

 「きっと、飛躍的な発展が望めるわ」

 「創造した世界が、どうなっていくのかも、見てみたいし♪」

 「・・・・・」

 「失敗したら、N2で、熱消毒。リセットして、やり直し♪」

 「・・・・・」

 「本当は、火星とか、金星でやりたかったけど。アスカが “そんなの駄目” とか言うし」

 「・・・・・」

 「アスカが五月蝿いから、まず、前提で移民できないところじゃないとね」

 「・・・・・」

 「天地創造よ♪」

 

 

 I・S・I財団 本社

 3D映像で初号機、二号機、零号機の大活躍が流れる。

 惣流・アスカ・ラングレーは、まずまず。

 綾波レイは、感慨なし。

 霧島マナは、批判的。

 「勧善懲悪映画か・・・」

 「アスカ。誰かを悪者にして、そいつを滅ぼす映画って、どうなの?」

 「使徒戦は、リリスの継承戦争で生存競争だから善悪はないけどね」

 「グー・チョキ・パーで、グーを正義と思い込んで、どうするのよ」

 「グー って、食物連鎖とか、弱肉強食なんじゃ・・・」

 「大して変わらない。偽善とか、人道で物事を捻じ曲げるから」

 「正義は、一つ。立場が変われば、正義も変わるとか、思いたくないのよ」

 「でも、大衆受けに走ったか・・・」

 「庶民は、自己正当化できる悪党を見つけて、やっつけたいのよ」

 「ストレスの発散で刺激になって、嬉しい、ということね」

 「そりゃ 現実逃避と割り切れば良いけど」

 「うちが作った映画でもないし」

 「当事者なのに? おべっかな映画・・・」

 「自画自賛でやるより、他で作らせる方がいいでしょ」

 「勝手にやってくれ、みたいのことは、言ったけど・・・ここまで、ヨイショするなんて・・・」

 「なんか、気に入らないけど」

 「ヒガミ、やっかみ根性で隠れて人を貶めて喜ぶ連中だっているのよ」

 「私たちの場合。媚びた連中に贔屓されても元が取れないわね」

 「そういえば、落ちこぼれ組からみると、私たちは、トリニティ任せの無能な独裁者扱いか・・・」

 「I・S・Iグループは、政官に食い込めるけど独裁じゃないよ」

 「誹謗中傷よ。世間知らずか発想が貧困で短絡な人間が独裁者なんて、言葉を無分別に使うのよ」

 「本当に独裁なら独裁者という言葉を使ったら殺されるものね」

 「でも、私たちが正義の味方なら、阿漕な事をやっても反感を減らせるし」

 「だけど、生きる戦いで自己満足とか、自己正当化で敗者を悪党にするのって敗者冒涜」

 「さらに鞭打つ行為よ。理不尽で人でなしね」

 「敗者を称える余裕がないのね」

 「それが、自分の価値を高めることだけど。揚げ足取りな人間が多いと引き摺り落とされる」

 「精神感応世界になっても大らかさがないわね」

 「精神感応世界は、人格改造計画じゃない」

 「他人を悪党に貶めて、断罪、自己正当化しないと生きていけない人間は、どうしても出てくる」

 「それで、独善で敵認定で許さないで殲滅? どっちが悪党だか」

 「後ろめたい人間は、悪党を悪く言うことで自分を正義の味方にして平静を保とうとするわね」

 「自分本位な正義の味方が増えなきゃいいけど・・・」

 「あと、誰かを悪者にすることで自分を正義の味方におきたがる小心者」

 「やっぱり、レイも批判的?」

 「そういう世界は、いや・・・」

 「それより、ゼーレ球から金星開発の案件が出ているわ」

 3Dが切り替えられる。

 「!?・・・・なにこれ?」

 「植物」

 「でか〜! 木?」

 「草。木より成長が早い。これを金星の大気圏に浮かべて、葉や実の部分で生活する」

 1気圧、生存可能気温の層を全高、数キロの草が浮遊する映像が流れる。

 一つの実が、家ほどある。

 「まじ?」

 「レイ。これが、酸素を作ってくれるのはいいとして。元が草だと枯れるのが早いと思うけど・・・」

 「その方が、都合がいいの。こうすると・・・」

 時系列に沿って映像が流れていく。

 補強されながら枯れていくと居住スペースが増えて快適な構造になっていく。

 「すごい・・・」

 「なるほど・・・」

 「邪魔になったときは?」

 「金星の底に落とせば、焼却」

 「・・・良く考えれば、便利ね。焼却炉の上で生活」

 「落ちなければ、でしょう」

 「気圧と温度を制御することで、滞空できる衣服を研究中」

 「ムササビ・ゴスプレは、評判悪いけど。空中遊泳で寝られるのって、悪くないかも」

 「金星の気流に巻き込まれなければね。あと、衝突回避」

 「まだ、研究中」

 「んん・・・ゼーレ球とトリニティの連結。ガイア構想も検討したくなるわね」

 ハイリターンを求めようとすれば、リスクも自然と大きくなっていく。

  

  

  

 シンジと仲間たちの交友関係は、意外と狭い。

 時間にすると、8割近くが小さなコミュニティ。仲間たちとの交流に使われている。

 仲間以外との交流に使われているのは、時間にして、2割程度で、

 ただの利害関係に過ぎない。

 そして、シンジにとって最重要な関係は、綾波レイで、なるべく、そばにいようとする。

 秋も深まると婚約者たちが腕を組み、

 自分の気持ち、相手の気持ち、互いの気持ちを確認、整理したりする。

 もっとも、2人が立っている場所は、ハネムーンの由来になった場所。

 地表は、クレーターに覆われた無機質で無窮。

 ロマンチックの欠片もない。

 しかし、十数キロ地下には、地球と変わらない風景が広がる。

 地下震度が深いのは、それくらいの岩盤層で押さえ込まないと、気圧で地表が吹き飛ぶため。

 巨大な地下空間は、太陽の集光熱器で集めた光で照らし。

 広大な海水が海のように広がる。

 なぜ、海水なのかというと、

 それだけ、地下空間が広大で海水の方が管理しやすいだけの話し。

 貯水湖は、別にあった。

 空気層と海水層は、碁盤の目のように月の地下全周を覆い、

 太陽熱の温度差を利用して、人工的な気流と海流が形成されていた。

 庭園は、適度で潤沢な太陽光熱が降り注ぎ、生態系は、地球に近付く。

 引力が小さく、植物相は、骨細で大きくなる傾向にあった。

 居住区画の一部は、シュルツ艦の技術のおかげで、1Gを作り出していた。

 反重力装置は、耐久年数が短く、価格は高い。

 最大3Gの重力操作が可能で人類の居住世界を広げることができた。

 低重力の庭園を散歩するシンジとレイは、腕を組み、気持ちだけでなく、体も軽い。

 互いに好きになれば、好きになるほど、

 相手を失うかもしれない恐怖は、強くなっていく。

 シンジは、レイに対して、婚約者というより、ファン心理に近く。

 自分たちの結婚が上手くいくのだろうか、と不安も募る。

 式場の手配など、煩わしい事柄は、洞木ヒカリと、香取が進めていた。

 結婚式より、結婚した後の方が問題といえる。

 綾波と組む腕の感触は、心地よく。

 小心者のシンジは、時々、レイを覗き見る。

 「綾波。僕たち上手くやっていけるよね」

 「ええ、シナリオ通り。上手くいく」

 「シ、シナリオ・・・そ、そんなのあるの?」

 「トリニティは、人間の精神構造と人生をパターン化させてしまったもの・・・」

 「じゃ・・・」

 「私たちの理想的なパターンも組み上がっていたわ」

 「そ、そこまで、コンピューターって、進んでいるのか」

 呆れるほど感心する。

 「こ、幸福とかも?」

 「パラメーターを計算するだけ」

 「同じ境遇でも、主観で、幸福と思うか、不幸と思うか、個人差がある」

 「自分が、幸福か、不幸か、は、自分自身が決めること」

 「他人が幸福か、不幸か、決めようとすると、主観侵害で殺されることもある」

 「でも、人が幸福と感じやすい環境条件がある」

 「人にとって心地よい環境を整備するのは、むかしのゼーレとか、私たちとか、力がある者だけ」

 トリニティは、個性で主観が、どちらに向きやすいかも推測する。

 「そ、そうなんだ」

 「あとは、私が合わせるから、問題ない」

 「あ、ありがとう。僕も努力するよ」

 「碇君」

 レイが嬉しそうに微笑む。

 2人とも、抱きたい、抱かれたい、なのだがシンジは、なかなか踏み込めないでいる。

 使徒戦の功績がどうあれ、

 直接対峙すると、鋼のように鍛えられた綾波レイと、

 14歳まで怠惰で、なまくらに過ごした碇シンジの差は大きい。

 使徒戦以降のシンジは、天城流空手の基礎練習をするくらい。

 体術で負けて。

 頭脳も、かなり負けている。

 『あ、綾波。あれも?』

 『あれは、なし』

 『そう、だよね』

 この2人の場合、不確定要素が微妙にあるのが人間らしかった。

 「月も、人が住めるようになるかもしれないね」

 「人口は、制限されるけど重力制御装置のおかげ」

 「カヲル君が地下世界を広げてくれたからだよ」

 「そうね」

 「でも、随分と丁寧に作っているね。月の地下が、こんな風になるなんて・・・」

 「トリニティに与えられた惑星開発テーマの一つは “地球より美しく” だから」

 「こういう環境なら、人は、幸せになれそうだね」

 「苦痛を幸せと思うか、不幸だと思うか、個人差があるもの」

 「痛みを伴う幸せもあれば、心地よさを伴う破滅もある」

 「まずいことがあるの?」

 「苦痛が小さいと、人は、怠けて家畜でいようとするから・・・」

 「それは、その人にとって、不幸なことかもしれない」

 「そ、それは、いやかな」

 「トリニティは、幸せの定義も計算している。でも、まだ、近似値しか出せていない」

 「そういうこともするんだ」

 「人間のエゴに付き合えるのは、ロボットメイドだけ」

 「お金持ちは、ロボットメイドを欲しがるもの」

 「ぼ、僕は、綾波だけでいいよ」

 「そう・・・」

 「だって、全部、トリニティなんだろう」

 「ええ、最近は、エゴに付き合うだけじゃなくて人の悪癖を矯正をしたり」

 「向上心を煽るような研究も進めている」

 「に、人気があるんだ」

 「ええ、トリニティは、理想的な伴侶も計算しているもの」

 「その気になれば、クローンを出産させることもできる」

 「人格や容姿を含めると、100倍、マシかもしれない」

 「人間は、いらない子になるんだ」

 「人格を人間の価値にすると、もう、いらないかもしれない」

 どぉ〜ん

 「癌みたいなエゴとか、自滅性とか、脈絡のない言動とかで、価値があるかもしれない」

 これがSF映画だとトリニティの反乱が起こり、人間は、戦って自立と自尊心を回復できた。

 しかし、事態は、最悪。

 善意の側は、トリニティ。悪党は、人間。

 犯罪者は、人間に決まっていた。

 トリニティ配下のロボットは、どんなに差別的待遇を受けても反乱が起こらず、

 一方的な献身と無償奉仕。

 人間は、トリニティとロボットへの依存を深め、人間同士の絆が切れていく。

 人々は、危機感を覚えるものの、

 家族の絆も夫婦間、親子間、兄弟間の我田引水なエゴで衝突する。

 聖人・賢人級の言動を規範とするロボットを上司、同僚、部下として望む時代。

 実の親や子供よりトリニティのロボットの方が信用される時代。

 人間の自立、自尊心は、ますます、失われていく。

 公園に視線を向けるとアスカとマナが暇潰し。

 低重力域での格闘術は、1Gの格闘術とかなり違う。

 相手を掴みでもすれば仮に体重が60kgだと、

 6分の1で10kg。1歳程度の体重になってしまう。

 アスカとマナは、さらに体重が小さくて不利。

 コツを覚えず、下手に走ろうとすると勢いが付いて、上にジャンプしたり。

 支点・力点がよければ、人を十数メートルも投げてしまう。

 あっ!

 アスカがマナに捕まって、飛ばされる。

 投げられる方は、たまったものではなく。受身に失敗すれば大変な目に遭う。

 それでも、大地に叩きつけられることを避け、

 上に逃れたのは、技で空中で体を捻り込み、猫のように着地する。

 アスカは、暇があるとマナに挑戦する。

 マナが受けて、アスカを返り討ちを繰り返していた。

 4人とも予備役に入って訓練時間は、中学の頃より減っていた。

 ほとんど、走り込み。

 少しだけ体術。

 ちょっとだけ、エヴァでハーモニックステスト。

 たまに射撃訓練。飛行訓練。

 アスカとマナは、体つきも女性らしくなっていたが、かなり強い。

 レイも、通常の訓練だけだったが、まだシンジより強かった。

 この予備役生活が、いつまで続くのか定かではない。

 碇シンジは、まだ高校生。

 法的に無理があるのか、

 修正法案を通過させて、準禁治産者なのに社会的責任も負わされている。

 アスカ任せで使いきれない資産と莫大な収入が転がり込む。

 それでも、ソコソコに自由。

 ソコソコに制約され縛られた生き方をしている。

 むかしのネルフ江をみても国防省の特殊兵役条項に付随された項目を見ても、ほぼ同じ。

 現役から予備役の移行しても予備役からの退役はなかった。

 つまり、一生、お国の手ごまのまま、使われる運命にあったらしい。

 流し読みしただけで細かい文節まで目を通さなかったことも悪い。

 しかし、どうでもいい文書がズラズラと書き綴られ、

 全部、読みたくないほど長い。

 大事な文節は、意識が遠のいた頃に留意書きで書かれている・・・・

 なんとなく、小賢しい作為を感じずにはいられない。

 想像力とか、読解力に欠けていたのだろう。

 当時の年齢で好都合に見えても、

 あれやこれや面倒になってくると好条件も目減りしていく。

 もっとも、アスカに言わせれば、自由を謳歌している人間は、地球全体でも一握りらしい。

 独立しても誰かの利益にならなければ収入にならない。

 人類の99パーセント以上が誰かに義務を負う人生といえる。

 「シンジく〜んも、やってみる?」

 アスカを落としたマナが手を振る。

 「・・・・」

 実力が違い過ぎて、師匠と弟子の関係に近い。

 師匠が教えるというのだから、裏がなければ、栄誉な事なのだろうか。

 なんとなく、レイを見てしまう。

 唯我独尊、物事を独り善がりに決めていた頃を思い出す。

 1人で、我を通して、ささくれた自由より。

 2人で、自我を捨て、満たされた不自由の方が心地良い。

 レイの気持ちで動くことの方が嬉しく。

 レイの同意がなければ、しないことが多かった。

 「・・・・」

 レイが頷いたので立ち上がるとマナと対峙する。

 シンジの身長は、168cm。体重58kg/6

 マナの身長は、156cm。体重48kg/6

 セカンドインパクト後の食糧事情で日本人の平均身長も微妙に低下していた。

 そして、シンジも、マナも、概ね、年齢相応。

 よくよく考えると頭一つ低い、かわいい女の子と戦うのは、男のすることじゃない。

 「・・・・」

 とはいえ、体術で勝てる気がしないのが、一般認識を根底から覆している。

 こんなことなら、幼少の頃から英才教育で訓練されていれば良かっただろうか。

 いや、きっと、落ち零れていただろうと想像が付く。

 マナは、前傾姿勢を取る。

 !?

 一瞬にして目の前。

 一足飛びで懐に入り込まれて身を庇おうとしても間に合わない。

 6分の1の引力だと感覚が狂う。

 さらに地球の1Gと違うのは、内側に捕まれ、

 そのまま、上に持ち上げられたことだった。

 胸倉から胸中に掛けて、重圧がかかり、一気に押し上げられる。

 ふあ〜

 ありえないほど、高く飛ばされてしまうと、どうにもならない。

 アスカのようにしなやかに体勢を変えることもできず・・・

 ジタバタ ジタバタ

 ・・・カメ・・・

 「相変わらず、無様だわ」 アスカ

 「・・・・」 レイ

 そのまま、足掻きながら落ちて、マナに抱きかかえられてしまう。

 「は〜い。シンジ君。かる〜い♪」

 「や、やあ・・・」

 6分の1だと9.6kgで、1歳未満の体重になってしまう。

 一回り背の低いマナに抱きかかえられるのは、かなりカッコ悪い。

 などと、考えていると、

 「シンジく〜ん」

 と甘い声で抱きしめられたりする。

 頬ずり♪ 頬ずり♪

 「あ、ちょ、ちょっと、マナ。だ、駄目だよ」

 と、かなり、情けなかったりする。

 

 

 

 

   

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 月夜裏 野々香です。

 天城(赤木)リツコは、神レベルのマッドでした。

 結婚生活が始まるまで、小心者シンジは、続くかも・・・

 シンジとレイは、学生時代、モテなかった作者の祟りで、いまだ、キス止まりです。

 

 

   

   

   

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第71話 『夏も・・・・』
第72話 『秋も・・・・』
第73話 『冬も・・・・』
登場人物