月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

    

第73話 『冬も・・・・』

 冬・・・・・

 冬も恋の季節

 雲が厚く、雪もチラチラ・・・

 高校生活も黄昏時。

 結婚も控えて人生の節目。

 行く末の定まっている者もいれば、定まっていない者もいる。

 碇シンジは “これだ” と定まった未来像もなく、過ごしている。

 なぜかというと、教壇に立つ青い髪の先生で、同級生で、婚約者で、秘書で、戦友で、

 一人6役な少女が “したいことがあれば、こちらで調整するわ” で、奪われ・・・

 少し離れた席で綾波の教え方を批評気味に見ている惣流・アスカ・ラングレーが

 “シナリオの邪魔になるから、何もするな” で、縛られ・・・

 自分をチラチラ見ている霧島マナは “私と一緒に星の世界に行きましょう” で、無力化され・・・

 ちょっと、愛想笑いをした後、ノートを取っている優男は “男が立たない” で殲滅されてる気がする。

 トリニティとロボットに飼いならされていく人間世界。

 初号機の力も、ゼルエルの力も、無用なほど平和な世界。

 脅威が訪れる可能性は、今のところなく、

 アニメをみると世界が滅ぶような危機に、ときめいてしまいそうになる。

 平和に価値があるのだろうか。

 不意に自分が世界の敵になって全力を出したくなる。

 なんとなく、押し寄せてくる破壊衝動で、これが可能なのが恐ろしい。

 力をフルに使えば、使徒と同じことができそうだった。

 それなのに、このままだと、ヒモにされそうな予感だけがヒシヒシと伝わってくる。

 お金持ちなのだから、ヒモというのは、おかしい。

 彼女たちに言わせると “ボスは、あなたよ” だそうだ。

 I・S・I財閥の組織図を見ると、なるほど、そうなっている。

 どの道、父親から受け継いだ財産は、トラウマがあってアスカに任せている。

 実権は、すべてに彼女たちで、生活も、遊びも、彼女たち主導では、ヒモ以下だろうか・・・・

 飼い殺し・・・

 植民地・・・

 自立した女は、感覚が、男に似て、さらに実力で差が、あると自然とそうなるらしい。

 反抗する意欲を削がれ。

 離れることもできない底なし沼。心地良過ぎて丸投げ。

 上げ膳据え膳で無力化されて傀儡。人形。

 トリニティ・ロボットと、人間の関係に近い。

 というか、人間で、それをやれる女性も相当なもの。

 しかし、無能でも、失敗しても、自己満足で何かやりたくなるのが人情だろう。

 自分の力で何かやろうとすると、いつの間にか “手伝わせて” で、自分より、上手くやり始める。

 一応、主導権は、あるのだが、いつの間にか、疎外されていく。

 周りの同級生は羨ましいという。

 誰も助けてくれないという。

 自分1人で、やらなければならないという。

 将来が不安だという。

 “なんという、羨ましい環境だろう”

 “数歩、離れた先に不確定人生が腐るほど転がっているというのに・・自分は、籠の鳥・・・”

 “自分の力だけで自分の人生を切り開いて、自分の実を摘み採れる”

 “それは、すばらしい不安といえる”

 “目の前のドアを開けようとすると、自動ドアのように開いてしまうより、はるかに良い”

 そして、問題は、それで満足してしまう自分がいるところにある。

 綾波の、胸

 綾波の、太もも

 綾波の、ふ・く・ら・は・ぎ

 はぁ〜

 まったくもって “愛” の力は、恐ろしい。

 『あ・・クリスマスプレゼントは、何しよう・・・』

 実のところ、欲しいものはない。

 レイと一緒にいるのが幸せ。

 レイもこれといって、欲しいものがない素振り。

 『レイのコートでも買いに行くかな。それとも、小さくてかさばらない宝石とか・・・』

 とはいえ、何個かかったことがあるけど、

 いつも付けている宝石は、シンジが始めて買った小さなサファイアのネックレスばかり。

 というか3人とも、そればかり・・・

 “初めてのお土産だから”

 “まぁ 落としても惜しいものじゃないしね”

 “シンジ君との き・ず・な・♪”

 歳相応といえば、歳相応より少し上、日常、身に付けやすいネックレスといえた。

 

  

  

 アラエル要塞 ゼーレ球

 シンジは、時折、ゼーレ球に訪れる。好んでというより気紛れ。

 I・S・Iのお飾りの長でも、

 エヴァンゲリオンのパイロットでも、

 臆面着せぬ態度を取る相手は限られる。

 ゼーレ球は、LCLのプールに沈む12個のコアだった。

 話しをするときは、黒い墓標が目の前に投影される。

 人型で投影すればいいのに、と思うが、それが好みらしい。

 「セカンドインパクトの前は、どういうことをしていたのですか?」

 『まぁ 今と同じだ。スイスの古城で、のんびり、楽隠居だな』

 「? 世界の支配では?」

 『そんなものは、利権体制さえ整備すれば、部下が勝手にやり始める』

 「そ、そんなものですか」

 『そんなものだ。帝王学とか、組織論とか、抑えていれば勝手だよ』

 「はぁ なにか、こう、人とか、世界を支配するのって・・・」

 『人も、世界も、支配しとらん。利害を超えた少数の仲間たちと、利害関係の大多数の関係だ』

 「・・・・」

 『理不尽に人を踏み躙るなど、人が不信して組織から退いて行くだけだ』

 『論外だから滅多にやるもんじゃない』

 「そ、そんなものですか?」

 『そんなものだ。いまの碇シンジと大して変わらんよ。憂うものが、あるか、ないか、だけだ』

 「憂うものは、少なからず、あります・・・」

 『人類の尊厳か・・・人類の存亡と違う危機だな』

 「トリニティとロボットに対する人類の劣等感は、かなり大きいですから」

 『人間は、生存圏を確保するために戦った。進歩もする』

 『しかし、生存圏を確保してしまうとハングリーな精神を失い、滅びるかもしれない』

 「いまの状態に満足しての劣等感ですから・・・」

 『飢餓状態で滅びるのと、肥料をやり過ぎて腐らせる、の違いだな』

 「ゼーレ案は、眼を通しました」

 『暇潰しだ。どうでもいいことだ』

 「一般的に嫌われそうな案も多いですね」

 『人は与えられたものを奪われることを嫌う』

 『損得で見境がなくなると大人も子供と同じ、交換すらも嫌って両方欲しがる』

 『そうして、人類は豊かになってきたが足ることを知らねば滅びるかもしれないな』

 『そういえば、セカンドインパクト前は、肥満死も、あった・・・』

 「最近は、貧しさのリバウンドで、そういうことも、ありそうです」

 『理屈屋のメルキオール』

 『博愛主義のバルタザール』

 『融和主義のカスパーは、理想的な形で人間社会を拡大成長させることはできるだろう』

 『しかし、聖人プログラムで統制され』

 『可能な限り人間社会を補正維持しようとするだけだ』

 『成長が開発を上回れば、閉塞的な社会へと移行していく。あとは、ジリ貧の社会になる』

 『そのとき、不完全な人間社会を破壊して再構築する力があるのは、人間だけだ』

 『その人間の力そのものが弱くなっている』

 「・・・・」

 『事の是非に関わらず。トリニティでは、セカンドインパクトも、サード・バウンドインパクトも行使できない』

 「・・・・」

 『人間は、完全ではなく。完全でないことで出来ることもあるのだよ』

  

  

 昼下がりの午後

 碇シンジと渚カヲルは、公園のベンチで、ハトとスズメにポップコーンをあげていた。

 最初は、手持ちぶたさの暇潰しだったのが、次第に楽しくなって、いまは、惰性。

 次第に近付いてくるスズメがカヲルの手からポップコーンを取っていく。

 「・・・シンジ君。平和だねぇ」

 「洞木さんとは、上手くいってるの?」

 「うん、時々、会いに行くよ」

 「洞木さん。すごく綺麗になってきてない?」

 「そうかい。忙しいみたいだけどね」

 「トライデントは、まだ、乗っているんだ」

 「一緒に乗りたがるからね」

 「カヲル君が?」

 「どっちもだよ。今度、一緒に火星に行くよ」

 「へぇ〜 新婚旅行みたいだね」

 「んん・・・2人付いてくるらしいよ」

 「ふ〜ん、じゃ 人間も、火星で生活できるようになるんだ」

 「うん、火星も、随分と地下空間を掘ったからね」

 「トリニティ8基、エヴァング8000機、ロボット8000体で環境を整えているから、かなり早いよ」

 「す、凄いね」

 「シンジ君の会社でやっているんだろう」

 「そ、そうなの」

 「全部、I・S・Iのマークが入っているよ」

 「し、知らなかった・・・」

 「このままだと、惣流・アスカ・ラングレーが宇宙を支配してしまうよ」

 「あははは・・・」

 「どうでも、いいけどね」

 「うん、僕には、できそうにないから」

 「地下空間に生態系を作って」

 「空気とか、植物とかも、少しずつ、大気圏に放出していくんじゃないかな」

 「寒いんじゃないの?」

 「んん・・・重力制御で、気圧を部分的に維持したり」

 「太陽熱集光器で地表を暖めているらしいよ」

 「それで、テラフォーミングが進むの?」

 「トリニティは、本気でやっているみたいだから、時間の問題じゃないかな」

 「でも、レリアースと重なるんじゃないか」

 「あ・・・どうなんだろう。そろそろ、だったかな」

 「カヲル君は、クリスマス・プレゼント、どうするの?」

 「シンジ君の希望があれば、何とかするよ」

 「い、いや、僕じゃなくて、カヲル君は、洞木さんにどんなプレゼントするのかなって・・・」

 「・・そうだね・・・!?」

 公園の影でキスをしているカップル気付く。

 !?

 良く見るとディープキスだった。

 ソフトなキスで止まっている高校生二人には、少し刺激が強く思わず赤くなる。

 「「・・・・・・」」

 「ク、ク、クリスマスは、ディ・・ディープキスは・・」 真っ赤

 「ディ、ディープキスは、い、いいねぇ」

 「リ、リリンの生み出した文化の極みだよ」 ドキドキ

 「で、でも、クリスマスプレゼントは、別にしないと・・・」 真っ赤

 「そ、そうだねぇ 気分的に、な、何でもよくなってきたよ」

 

 

 

 シンジ、レイ、アスカ、マナ。

 「行ってらっしゃいませ。ご主人様」 香取が見送る。

 「行ってくるよ」 シンジ。

 「「「・・・・・」」」

 香取を人間のように扱っているのは、シンジだけ。

 登下校は自動操縦のナイトメアもあるが “歩いて” が多い。

 4人とも、風景を楽しみながら歩く方が好みらしい。

 時間を無駄にしているようであり、有意義に使っているようであり。

 4人でつらつら歩いているのが自然だったりする。

 シンジは、レイの唇がなんとなく気になったりする。

 「シンジ君とわたしは “普通の学生” なんだから、もっと後から出ても良いのに・・・」

 「で、でも、一緒の方が楽しいし」

 「シンジ君。結婚したら財産とか、どうするの?」

 なんとも世知辛い話し。

 「んん・・・わからないよ」

 「どっちが管理するの?」

 「ぼ、僕は、管理できないかな。ほとんど、I・S・Iの株に変えているし」

 「シンジ。あんたね。何でも、I・S・I株を買えばいいって物じゃないのよ。タイミングってあるんだから」

 「というか、この日、この時間、この銘柄を買いなさいって渡しているでしょう」

 「あ・・・綾波にやってもらっているから」

 「自分の資産で何の株を買われているのかも知らんのか・・・」

 「既にレイが管理しているのね」 くらぁ〜

 「秘書だもの・・・」

 「だいたい、シンジ。お金の使い方とか、なってないわよ」

 「ていうか、ほとんど使ってないでしょう」

 「貯まる一方・・・」

 「ったく。一般人より低水準な生活って、どういう、お金持ちよ・・・」

 「そうだ、シンジ君。車とか買えば?」

 「車・・・いいけど、どこに行くの?」

 「あんたね。普通は、男が考えるの」

 「あそこに連れて行ってあげようとか、どこか行きたいところないかとか」

 「あ、綾波。どこか、行きたいところ、ある?」

 「碇君が行くところに行くわ」

 「んん・・・トライデントで世界中を周っているし」

 「観光名所は、ほとんど行ったわ」

 「あれは、トライデント機は、エヴァ光質の増殖が目的で仕事でしょ」

 「でも、綾波、一番楽しいよね」

 「ええ」

 「はぁ〜 あんたち、似すぎてない?」

 「そ、そうかな。綾波は、やさしくて、良くしてくれるし、強いし、頭も良くて、綺麗で・・・」 落ち込み

 「婚約者だもの・・・」

 「ぅぅ〜 シンジ君〜 あ、校則違反」

 繋ごうとしていた手が離れる。

 「マナ・・・3年間の風紀委員は、これなんだね」

 「ていうか、マナ。手を繋ぐの校則違反になっていない」

 「ふ、不純異性交流が校則違反」

 「婚約者が手を繋ぐと校則違反?」

 「い、いやあ、つい癖で・・・」

 『『確信犯ね』』

 「シンジ君。クリスマスに何かたくらんでいるでしょう」

 ドッキィ〜イ!!!

 「いや、そ、そ、そんなことないよ」

 じー!

 ジー!

 「・・・・・・」

 「ク、ク、クリスマスプレゼントで、ふ、服を買いに行くつもりだよ」

 ドキドキ ドキドキ ドキドキ 

 じー!

 ジー!

 「・・・・・・」

 ドキドキ ドキドキ ドキドキ ドキドキ

 ごっくん!

 

    ここで 『碇シンジ物語』 クリスマスの・・・・が、入ります

 

 

 

 小惑星帯(アステロイドベルト)

 火星と木星の中間を太陽を囲むように公転する小惑星の群れ、

 大きなカークウッドの空隙で分けられた集団が点々と広い範囲で散らばっていた。

 小惑星帯の小惑星は数が多くても、

 それぞれの集団で、もっとも大きな小惑星と、2番目、3番目を抑えれば、圧倒的であり、

 アステロイド支配は、それほど難しいわけではない。

小惑星帯アステロイド(メインベルト)

       

名称

    直径(km)

比重(%)

直径(km)

01 フローラ族 135.89 80  
02 ベスタ族 468.3×530    
03 マッサリア族 145.50    
04 ニサ族 70.64    
05 マリア族 44.30    
06 エウノミア族 255.33    
07 パラス族 570×525×482    
08 ケレス族 959.2 × 932.6    
09 コロニス族 42.8 × 32.8   ウルダ ラクリモサ イダ ドレスダ エルヴィラ クラウディア フロレンティーナ
39.9 41.0 31.3 23.0 27.0 24.0 27.0
10 エオス族 103.87  

バーデニア

フリーデリーケ

78.17

70

11 ヒギエア族 407.1 96  
12 テミス族 198   エラト アンティオペ   クリメネ オフィーリア リーナ  
95.39 87.8 ± 1.0   123.68 116.69 69.34  
13 キュベレー族 237.26    
                     

 小惑星帯のパラス族の小惑星 パラス (570×525×482km) は、最大の小惑星だった。

 二番手がヨッフェ直径22km。

 比重からパラスを抑えるとパラス族全部を抑えたといえる。

 小惑星コロニーは、中空を刳り貫いた材料で外郭を強固に固めてしまう事が多かった。

 高速で自転させ、外壁側にGを作って、居住圏を確保する。

 外郭の補強に失敗するとバラバラということもありえた。

 パラスほどの大きさになると、中空空間は (全長500km×直径50km) で、

 気圧も、平均すると、地球の大気層より厚く重くなる。

 ちなみに地球の大気圏は、対流圏0/9〜17km。成層圏9/17〜50km。

 中間圏50〜80km。熱圏80〜800kmで、成層圏から上は、空気が薄く呼吸困難になる。

 おかげで、高速自転に足らずでも1G、バラバラになる心配はない。

 さらに気圧も十分で飛行機が飛び回れたりする。

 外殻に向かって幾重にも地下階層が作られ、

 外側に住むほど1Gより大きくなり、人口も膨大なものになっていく。

 重力制御装置を使う方法もあった。

 しかし、空が欲しいのと重力制御で消費するエネルギーを考え、

 どうしても、安易な物理法則を運用してしまう。

 人は住んでおらずトリニティとエヴァング、ロボットで仕切っていた。

 人間がいないと、いさかいも、いざこざもない。

 平和で理想的な楽園が、ゆったり広がって、時間が流れていく。

 世界全体を監視する制御ルームは、自転する両端の壁にある。

 洞木ヒカリは、制御盤で両肘を突いてパラスの世界を見渡していた。

 「・・・カヲル君。平和ね」

 「そうだね。ヒカリ」

 「でも・・・理想的って刺激がなくて詰まんないのね」

 「リリンは痛がりだから」

 「あはは・・・」

 「でもクリスマスイブだね」

 「そうね」

 もうすぐ結婚式と思うとなんとなく楽しく。

 ヒカリは、不意に頭を撫でられると、さらに嬉しくなる。

 後ろで、二人の技術者が機器を無作為に確認している。

 日本人は人前でイチャイチャできず。

 ロボットより人間の方が邪魔になるが世の中・・・・

 「あ・・お二人さん、暇なら、空中遊泳をしてきたら」

 「中芯の放射光塔に近付かなければ、楽しいはずよ」

 ヒカリとカヲルが微笑む。

 「向こう側なんて行かないようにしてね。500kmも先にあるんだから」

 「は〜い♪」

  

 パラスの全長の中芯を通す放射光塔は光に満たされ、遥か地表を照らしていた。

 眩し過ぎて、視界が悪くなるため黒いサングラスが必要になるが、それでも光が強い。

 放射光塔は光が強く、熱は暖かいレベルで

 熱は外郭側から床暖房式で伝わる。

 「こ、こわい」

 「無重力域だから大丈夫だよ」

 「落ちたら?」

 「僕が支えるよ。それに中芯の放射光塔は、二重」

 「その内側だから透明なガラスがある。歩くこともできるよ」

 「本当にガラスがあるの?」

 ふわっ〜

 「わぁー!」

 カヲルがヒカリの手を引っ張って、足で蹴りだすだけで光に包まれた無重力の空間を進む。

 「もう〜 カヲル君〜」

 こういうチャンスは、お互いに逃さないもので抱き合ったまま、しばし、遊泳。

 コロニー中心部は、無重力域が広がり。

 光に包まれ視界が狭まくなる。

 遊泳すると地球では、味わえない高度25000mの光景がサングラスを通して広がる。

 彼氏と彼女で手を繋いで空中遊泳は、誰もが憧れる。

 「・・・カヲル君。ちょっと、空気が薄いね」

 「うん、ちょっとね」

 「カヲル君は、空気関係ないか」

 「うん、関係ないかな」

 「でも体は、必要なんじゃないの? 空気」

 「心の光があるから・・・」

 「使徒って、な、なんでもありなのね」

 「ATフィールドは、何人にも侵されざる聖なる領域だからさぁ」

 「・・・・・」

 ヒカリは突っ込むべきかどうか躊躇して止める。

 「あったかい・・・」

 幸せな気分を無粋な言葉で壊さないものだ。

 サングラスは、邪魔だった。

 そして、初めてのディープキスは、最高だったりする。

 

 

 

 浜辺の豪邸に小雪が降っていた。

 シンジは、本を見ながら来期のナス畑のための研究。

 塩害の対策を検討しつつ

 基本だけ抑えて、あとは、我流でやる姿勢。

 『種(2月)からにするか、苗(4月)からにするか』

 『とりあえず。半分を種。半分を苗にして、最悪の事態を避け・・・』

 「・・・あ・・・4月は、結婚式だった・・・」

 なんとなく、照れハズイ。

 思わず、綾波レイと “あんなこと。こんなこと” を妄想して鼻の下が伸びてしまう。

 『3分の2を種にして、3分の1を苗にしょう』

 

 その頃

 なにもない広い部屋

 綾波レイは、香取と対峙。

 香取の連続技をかわしながら反撃。

 戦闘訓練を受けた人間は殺傷技を含め、本気で戦える相手が限られる。

 高校卒業が近付くと体格も大きくなり、技能も洗練され深みが出てくる。

 実力差がなければ殺傷技は使えない。

 ロボットメイドの香取だと遠慮なく使える。

 そして、香取は恐ろしいほど強い。体術で勝てる人間は存在しない。

 人間が、いくら本気でやっても、トリニティは、人間の実力や能力に合わせ、

 弱点を補強する教育プログラムで動く。

 最高の練習相手だった。

 日頃、大人しげな綾波も、うっぷん晴らしで動くため、急所攻撃も躊躇しなし。

 アスカとマナは、ぼんやりと見ている。

 仕事はあるがトリニティ任せでも良く。

 というより、トリニティとロボットにやらせた方が効率的で社会的に喜ばれたりする。

 「殺意を感じさせずに一撃か。レイもトリニティのロボットも同じタイプの戦い方ね」

 「シンジ君。かわいそう・・・」

 「あんたが、それを言うわけぇ」

 「最近、調子が良くて、天城印の薬のおかげね」

 「新陳代謝で一巡したのね。私達は、むかしから飲んでたけど」

 「ぅぅ・・・いんちき〜」

 「そう?」

 「ああいう、整調剤を飲んでたら、もっと強くなったわ」

 「戦自は、強壮剤を使っていたんじゃないの?」

 「ん・・・作戦の時だけね」

 「あまり、使いたくないんだ」

 「まぁ ドーピングだし。不健全ね」

 「ふ〜ん。体に悪いものを全部出せて、体調が整えられるなら」

 「単純に練習量と才能。そっちの方がいいか」

 「でも、レイもシンジ君が見てないと遠慮ないわね」

 「ぶっちゃけ。ロボットだから眼を潰しても戦闘力はあまり変わらないけど。マナほどじゃないわね」

 「かわいい子路線は、まだいけるわ」

 「あはは・・・」

 「きっと振り向いてくれるわ」

 「はぁ〜」

 「シンジ君がレイの本性に気付けば脈アリね」

 「ていうか、わたし達、3人とも、そういう風に教育されてきたんだから似たもの同士でしょう」

 「んん・・・墓穴だけは掘りたくない・・・」

 「ていうか、あの一般人のシンジに何で、そんなに入れ込むかな」

 「一般人のシンジ君が命の恩人なのに、そういうこと言うの?」

 「それが腹が立つ」

 「しかも、女としても無視されているし」

 「あ、あんたもでしょう!」

 「むっかぁあああ〜!! 綾波レイ。あいつ、独り占めしやがって」

 「あんな犬みたいにレイに付いていこうとする小男のどこが良いんだか」

 「レイも、いい加減に飽きればいいものを・・・」

 「か、かわいくて良いじゃない。愛してくれそうだし」

 「けっ! キモ〜」

 「アスカ。あんた。男勝りに自分本位に引っ張るんだから」

 「あんた似の男と一緒になっても、殺傷沙汰で離婚確実ね」

 「・・・・」 ぶっすぅう〜

 「アスカくらいになってしまうと逆に相手が少ないのよね〜」

 「あのねぇ 私は男に飼われて生きるような女じゃないの」

 「まず “かわいい” とか、言ってもらえないわね」

 「逆に言われると、変なのにコロリだったりして」

 「けっ!」

 「“かわいい” じゃなくて “怖い” だっけ?」

 「ふん ろくな男がいないのよ」

 「でもねぇ〜 受けタイプの綾波レイが受けタイプのシンジとくっ付くのって、どうかと思うけどな」

 「マナはどうなのよ?」

 「わたしは、どっちでも、って感じだけど。アスカが攻めタイプなのよね・・・」

 「SMで、丁度いいということね」

 「ていうか、既にSM状態」

 「そんなに扱き使ってないでしょう」

 「あれぇ〜 火星、金星、小惑星の利権分けで、シンジ君を酷使しているじゃない」

 「あのねぇ やることやらないと歪な利権闘争で空中分解で紛争とか、戦争になるの」

 「おかげでシンジ君は、土いじりか・・・ふ・び・ん・・・」

 「ロボットのおかげで人口の過密も余裕で押さえられそうだし」

 「紛争とか戦争の芽を摘み取らないでどうする?」

 「長期安定平和は、人類史上初?」

 「不幸の連鎖で戦争だもの」

 「ロボットのおかげで人口を抑制できて、個人が平穏に満たされれば、戦争も遠のくけど主体性を失うのよね」

 「怠惰で無能になりそうね」

 「車があれば車を使う。ロボットがあれば、ロボットを使う。当たり前よ」

 「理想に近付いているのやら墓場に近づいているのやら・・・」

 「人間は、元々、不完全にできている」

 「だから、欲望のまま、完全性を求めて奪い合う」

 「完全になったとき、生きる動機を半分以上失って無力化する」

 「でも、完全性を求めて、補完計画でしょう」

 「補完は、あくまでも補完」

 「プラス思考じゃなくて、人間社会のマイナス要因を全て、淘汰した結果がゼーレ球よ」

 「アスカ。別の道があるというの?」

 「単細胞生物は、自己複製で増える」

 「悩みもなく葛藤もなく、選択肢はひとつ。利己主義だけで生きていける」

 「それ以上の高等生物になろうとすると雌雄で分かれて多細胞化する必要が出てくる」

 「雌雄に分かれてしまうと、利己主義だけでは相手が見つけられず」

 「利己主義と利他主義の葛藤で悩まされる・・・」

 「その代わり、選択肢は相乗効果で累計されて可能性は無数に広がっていく」

 「代わりに社会生活で変革をもたらしやすい、異端、不適者が発生して淘汰されていく」

 「より強い種、結束力の強い種は有利で生き残りやすく増えやすい」

 「欲望が膨れ上がるにしたがって、生存競争が激しさが増していく」

 「対立は、個人対個人の欲望の衝突から、集団対集団の利害衝突に膨れ上がる」

 「集約できるエネルギーが大きくなればなるほど、紛争も大きくなり、戦争にもなる・・・」

 「それで、次の段階は?」

 「一つは、ゼーレ球で良いと思うけど・・・」

 「わたし達の方がトリニティとロボットより、不完全で不確定要素が強すぎる」

 「そして、人間は欲望に支配されている」

 「今、人間が使えるエネルギー量は、セカンドインパクトを起こすエネルギーより大きいのよ」

 「危なくない?」

 「危ないからシンジにがんばって、もらっているんでしょ 土いじりで遊んでもらっても困るのよ」

 「まぁ 禍根が断てるなら、それで、いいけど・・・」

 「英雄には、もう、しばらく、働いてもらわないとね」

 「あ・・・それより、来年、結婚したら、わたし達、どうするの?」

 「ん?」

 「このまま、ここにいるのか、ってこと!」

 「あ・・・まぁ 仕事上は、一緒にいた方が好都合なのよねぇ」

 「そりゃ そうだけどさ」

 「ここ、腐るほど部屋あるし。別荘なら大陸ごとに10個ぐらいずつあるし」

 「わたしたち名義の屋敷は、小惑星にも、惑星にもあるよ」

 「どこかに行けってこと?」

 「さぁ〜 この屋敷の名義、レイだし・・・あいつら、どうする気だろう・・・」

 「あんただって、屋敷ぐらい買えるでしょ」

 「まぁ〜 ここに居るのって、ロジックじゃないのよねぇ」

 体術観戦

 「「・・・・・」」

 体術観戦

 「「・・・考えてねぇ」」

 衣食住足りて、余裕があり過ぎて、人生の節目を考えない人種もいる。

 「レイ! 3対1でやるわよ」 アスカポーズ

 「無理。3対1でも、勝てないよ」

 「根性よ! 根性!」

 「むかしの戦車を破壊できるロボットに根性は通用しないでしょう」 マナ

 それでも3人が組むと、香取を翻弄していく。

  

 

 お正月

 正月といえば、初日の出、お雑煮、おせち、書初め、羽子板、カルタ・・・

 そして、初詣

 箱根神社

 シンジとレイは、使徒戦が終わった後、初詣に来るようになった。

 生死を賭けているときでなく、終わった後に来るのも変な話しだったりする。

 それも、リリスのおかげで宗教の存在そのものが問われるようになってから・・・

 先祖が暗中模索と試行錯誤の歴史を経て構築した文化と伝統は生きていた。

 人類の起源がリリスの使徒リリン系人種と公認された後も、惰性なのか習慣で続いている。

 拝む対象はリリスなのだろうか。

 そもそも、裏死海文書に “リリスを神として拝め” と書かれていない。

 リリスは、優良種族が残れば良いと望んでいるだけなのだろう。

 初詣は、ロジックじゃない・・・と天城リツコは、開き直り。

 葛城ミサトは、エビチュを飲む口実のために来る。

 女の子は振袖を着たがるのだろう。

 綾波レイは赤系統の振袖・・・

 はぁ・・・ぽぉ〜・・・

 なぜか、天城家のチドリ(3歳)と

 加持家のフブキ(4歳)、ヤヨイ(2歳)がレイにまとわり付いてたりする。

 「・・・見てぇ〜 シンジ君〜 霧島マナ。18歳。朝の6時から準備したの」

 マナがオレンジ系統の振袖で綺麗なターンをしてみせる。立ち居振る舞い

 「よ、良く似合っているよ。マナ」

 「へへぇ♪」

 「うぅが〜! うっとおしい〜」

 そして、緑系の振袖を着たアスカが騒ぐ。

 「アスカ。着物は、歩幅を小さくしないと、おかしいのよ」

 「わ、わかっているわよ」

 「内股で、静々と、歩くの」

 「わ、わかっているわよ、それくらい!」

 8頭身でスタイルの良い女性が着物を着ると、どことなく、違和感を感じたりする。

 やはり、上手く着こなしているのは、同じ8頭身でも香取。

 しっくりくるのは、霧島マナ、山岸マユミ、新城チアキの日本勢。

 「洞木さんは、渚君と火星か・・・」

 「婚前旅行〜♪」

 相田ケンスケと保坂タダシは、面白がる。

 「ったく、男どもは・・・」

 そして、恒例のおみくじ、なんとなく、結婚を控えて緊張する。

 シンジとレイは、境内の隅に並んで座ると・・・

 「吉だ・・・」

 「わたし、半吉・・・」

 「ふ〜ん 努力を惜しむなって事ね」

 じゃあ〜ん!

 ミサトが面白がって、小吉を見せ付ける。

 「綾波・・・」

 「碇君・・・」

 「なに真っ青になって涙ぐんでいるのよ。失礼なヤツね」

 「ミサトより運が悪いんじゃ 泣きたくなるわね」

 「何ですってぇ〜! アスカッ!」

 「あはは」

 「あんたのも見せなさい!」

 「いやよ」

 「まて!」

 ドタバタ、ドタバタ、ドタバタ、ドタバタ

 「・・・碇君、手が冷たい」

 「えっ」

 「温めて上げる」

 レイが両手でシンジの両手を包み込むと擦り始める。

 細くて薄い、すべすべの手が心地良すぎる・・・

 「綾波・・・」

 「なに・・・」

 「き、気持ち良過ぎるよ・・・」

 「そう・・・」

 「「「「「・・・・・・・」」」」」

 相思相愛フィールドが広がって、誰も近づけなくなっていく。

 「こ、今度は、ぼ、僕が・・・」

 綾波の細くて薄い掌を包み込んで擦る。

 「・・・・碇君・・・あったかい・・・」

 「「「「「・・・・・・・」」」」」

 バカップルには、誰も近付かない。

 「今度は、わたし・・・」

 「う、うん」

 レイが両手でシンジの両手を包み込むと擦り始める。

 細くて薄い、すべすべの手が心地良すぎる・・・

 「・・・綾波・・・」

 「なに・・・」

 「き、気持ち良過ぎるよ・・・」

 「そう・・・」

 「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」

 「ほら、マナ、物欲しそうな顔をするな、他を回るわよ」

 「アスカ〜! 大吉なのになんで、こんなに悲しいの〜」 涙々

 仲間たちが、ぞろぞろと去っていく。

 「こ、今度は、ぼ、僕が・・・」

 綾波の細くて薄い掌を包み込んで擦る。

 「・・・・碇君・・・あったかい・・・」

 「」

 「」

 その日、香取が迎えに行くまで、シンジとレイは、境内に居たそうな。

 

 夜

 「あんた達、ずっと、あの境内にいたわけぇ」

 「「・・・・」」  コクン × 2

 

 

 

 

   

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 月夜裏 野々香です。

 いよいよ、結婚式が・・・

 アスカも、マナも、小姑化してます。

 シンジとレイも盲目が入って、無事、結婚できるでしょうか・・・

  

 

 この時代のトリニティとロボットは、むかしの戦車砲弾、機銃の弾道を予測して避けてしまいます。

 

 

 

   

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第72話 『秋も・・・・』
第73話 『冬も・・・・』
一人暮らし 『碇シンジ物語』
第74話 『そして、春・・・・』 完
登場人物