月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

 

加持リョウジ物語

 セカンドインパクト後。

 地震、洪水、飢餓が世界を滅ぼしかけた。

 南半球のオゾン層は、吹き飛ばされ。

 世界各地で、人と人が生き残るための戦いが繰り広げられていた。

 例外的に日本は、国連の支援で復興、再建しつつあった。

 それは、ゼーレ系に食わせてもらう人間がそれだけ多くなったということだ。

 もっとも、一庶民は、そういった恩恵は、抜き取られ、小さく切り売りされた状態で届いく。

 世界的には、恵まれていたが、足りないことも事実で、生きるために仲間内と強盗や盗みを働く。

 

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 それは、いまのチルドレンたちと同じ頃。

 散々悪さをした後、加持リョウジは、掴まる。

 両親が死ねば、労働孤児という身分が振り分けられる。

 遅めの入隊だったが消耗品のような訓練を受けた。

 それが、怪我の功名というやつだ。

 重症、野ざらしで使い捨てられた状態で、ある種の能力を身に着けていた。

 むかし、重傷を負ったドイツ兵の一人が、潜在能力を開花させてしまった話し。

 例が、それだけなのか、他の者は隠したのかわからないが、低い確率で当たったのだろう。

 

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 能力的には、諜報だった。

 セカンドインパクトが起きた原因に興味を持ったのは、自分の裏切りで弟と仲間を失ったせいだろう。

 当然、成長企業に入り込み内情を探って、上澄み分の利益を収入にしているうちうに、そっちの世界とぶつかる。

 もちろん、生活費が目的で、争いは、望まない。

 しかし、いつの間にか名人になって、恩知らずにもゼーレと敵対。

 多くの場合。正当防衛。

 話せばわかると、言いたかったがゼーレ側の被害は、甚大で聞く耳持たず。

 そして、面従腹背の傀儡。日本政府も巻き込んで、仕方無しに不正腐敗をリーク、根こそぎ、潰した後。

 ゼーレ側の “誤解” が解けたのか、懐柔されたのか、ようやく。

 葛城ミサトの監視役に収まった。

 

 どこかの寂れた飲み屋

 二人の男が久しぶりに会う。

 「・・・・・・・・加持。おまえに利用価値があると判断されたからだよ」

 「それは、それで悪くないさ。一休みできたのは助かる」

 「いつまで休められるか。だな」

 「利用価値があると思われる間だろうな」

 二人が組んでいることは、誰も知らない。

 諜報の世界に一匹狼はない。

 そう見せることがあっても一匹狼はありえない。

 鞍馬ジンは、自分と同時期に労働孤児で訓練に入った仲間で、彼も訓練中の事故で捨てられて生き残った男。

 影と闇でいうと鞍馬ジンは闇だろう。

 能力が高いというわけではなかったが、信頼できるため同盟が続いていた。

 

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 セカンドインパクトは、全地球的な被害をもたらした。

 南半球は、一時的にオゾン層が吹き飛ばされて焼き払われ。

 今も虫食いの穴が開いたオゾン層によって大地も海洋も焼かれる。

 南半球から逃れようと押し寄せてくる難民は、実力で押し返されていた。

 その戦線は、生き残るために多くの惨劇と悲劇が繰り返される。

 子供を生き残らせるためには、北に行かなければならなかった。

 

 

 

 

 2015年

 イタリア

 ボローニャの迎賓館。

 午後の紅茶を飲めるのは、特権階級の証。

 「ここまで来るのに随分遠回りしましたよ」

 加持は、一口飲んで上質の香りを懐かしむ。

 「ここは、オゾンと南半球の監視をする場所で適当でね」老人

 「ここに基地をおけば、アフリカ人の欧州人に対する憎しみは、イタリアに集中してしまいますね」

 「ふっ・・・・・日本のメタンハイドレート採掘技術。運用技術は、相当なものらしい。日本は、セカンドインパクトで真っ先に滅ぶと思ったがね・・・あとナノ技術もだ」

 老人は、加持から受け取ったメモリーチップを見てほくそえむ。

 「日本は、セカンドインパクトの被害の大きさに救われたといえますね。もし、南極大陸が吹き飛ばず。氷だけが解けてでもしたら。全滅でした。地震のエネルギーも南半球に逃れた」

 「こっちは、人口が安定するまで、惨劇が繰り返される」

 「ロシアの平原を使わないので? 穀倉地帯として使えませんか」

 「気候がまだ安定していない上に回復傾向にある。海流もだ。各国とも余裕がなくてな」

 「それでいて、日本に対し大量の戦略物資を送り込んでいる。慈善家が多いわけではないでしょう。自国民が飢えているのにもかかわらず」

 「ははは、まさか。ところで、日本は、破壊されたオゾン層からの放射線でエネルギーを得る技術が育っていると聞くが」

 「メガフロート。いや、ギガフロートに太陽光熱発電機を並べるだけのものでは?」

 「破壊されたオゾン層。宇宙から直接受けた放射線と潮風に耐えられる基盤だ。宇宙船で使われている基盤を大量に製造する能力がある国は少ない。そして、目に見えるものは、氷山の一角に過ぎない。それを支えるだけの技術も工業力も大きい」

 「では、次は、ギガフロートですか?」

 「ああ、それと・・・日本の内調を経由して、NERVの監視を頼むよ」

 「“NERV本部”・・・ですか」

 「そうだ。NERV本部と日本の力を知りたい。力を持ち過ぎた傀儡には、鈴が必要だ」

 「鈴・・・ですか?」

 「・・・・微妙なのだ。使徒には勝たねばならない。負ければ、人類は滅ぶ。だからといって必要以上に力を付けさせるわけにも行かない」

 「本当に滅びるので?」

 「間違いなく滅びる。だから、子供や赤子に与えなければならない食料すらも日本に送っているのだ」

 「わたしでなくても・・・・日本には、楔を打ち込んでいたのでは?」

 「君が壊しただろう。海岸沿いの在日アメリカ軍は、セカンドインパクトの津波で全滅。そして、本国との連絡を絶たれた我々の代理人に止めを刺したのは君だ。おかげで我々の資本も差し押さえられて雲散霧消してしまった」

 「セカンドインパクト後の混乱期でしたから。生き残るには、ドサクサにまぎれて、資産を掠め取るくらいのことは、しないと・・・・それに正当防衛でした。ついでに言わせていただくと東京のことは知りませんでしたよ」

 「罠に誘い込んで、日本政府ごと根こそぎ一網打尽にしてかね? 東京に関していうと第2使徒来襲と重なっていて、あずかり知らぬ事。運が良かったな」

 「前もって教えていただければ、気を使いましたのに・・・・・・東京ごと吹き飛んでしまったのは、本当に意外なので?」

 「予定より早かったのだ。こちらの計算ミスなのか、リリスの許容範囲なのか、わからないがね」

 「・・・・・・・・・仕事の件は、引き受けますよ」

 「それと、お使いも頼むよ。碇ゲンドウに、このスーツケースを渡して欲しい」

 テーブルの上にスーツケースが置かれた。

 「確認させていただきたい」

 「かまわんよ・・・・・」

 加持は、スーツケースを開けて、顔色を変える。

 「・・・・船旅で頼むよ。ゆるりとな。時間を稼いでもNERV本部の動向を確認しなければならんでな」

 「・・・どの程度まで、聞いて良いのか、悩みますな。中身についてですが・・・・・」

 加持がスーツケースを閉じる。

 「ふっ・・・・第1使徒アダムの種子だ。二号機で第二太平洋艦隊を護衛していく」

 「この種子に興味を抱いて使徒が来る可能性は?」

 「大いにあるだろう。イザというときは、スーツケースだけを持って、二号機を捨てて逃げたまえ。使徒がこれを利用できるかどうかわからない。しかし、リリンに向かおうとするライバルであることに変わりない」

 「これがリリスのそばにあるとサードインパクトが起こるのでは?」

 「・・・改造している。普通なら不発だろうな」

 「そういうことでしたら、異存ありませんね」

 「そうだ。紹介しよう。パイロットが来たようだ」

 老人は、テラスを覗き込んだ赤毛の少女に気付いた。

 「彼女がエヴァ二号機のパイロット。惣流・アスカ・ラングレーだ」

 

 

 ボローニャの迎賓館で

 14歳というのは、どれほど訓練を受けて鍛えられていたとしても素直だ。

 隠そうとしていても何を思っているか、目の動きや光でわかる。

 「カナダで南半球開発機構の長老が撃たれたの、知ってる?」 アスカ

 加持は、無精ひげを引っ張り、どうしたものかと逡巡する。

 「人が撃たれるのは、日常的なものだ。流れ弾で死ぬ人間も珍しくない」 加持

 「へぇ。近くにいたんじゃない。伝説のスナイパーなんでしょう」

 「いや。10kmは、離れていたよ」

 「・・・・くすっ」

 そして、ゼロコンマ数秒。

 アスカの攻撃をすり抜けて、腕をねじ上げる。

 「目は、口ほどものをいう。というのを聞いた事はあるかい。お嬢ちゃん」

 「・・・あんたの腕を見たかっただけよ」

 ゼーレの保安部員がしゃしゃり出てくる前にねじ上げた腕を離す。

 「スナイパーは副業。本当は、火事場泥棒でね」

 「ふんっ! 日本人の血を誇りに思うことが少ないの」

 「君の母親がいなければ、エヴァンゲリオンは影も形もなかったよ」

 「・・・・・・・・・・・・」アスカ

 「そして、君がいなければ、人類は滅ぶことになる」

 「・・・と、当然よ」

 「可愛いお嬢ちゃんに守ってもらえるというのも悪くない」

 「つ、ついでに守ってあげるわよ」アスカ。

 少し頬を赤らめる

 

 惣流アスカは、全寮制で英才教育を受け。

 さらに軍事教練を受けた鍛えられた彫刻のような印象を受けた。

 硬度、強度とも優れていたが、粘度が感じられず衝撃に対する脆さが感じられる。

 教育の仕方に問題があるような気がして調べてみると。

 ある仮定から意図されたものだとわかる。

 

 ボローニャ市場

 監視が厳しく、刺々しさに比例して安全だった。

 加持は、アスカに誘われて、のんびりと市場を歩く。

 商品の種類は少なく、量は多い。

 人通りも少なくなかった。

 アスカがリンゴを一つ買う。

 服で拭くと、その場で二つにねじ割って、一つを加持に放った。

 訓練された人間にすれば、リンゴを手でねじ割ることなど、造作も無い。

 ナイフで皮を剥くなど、勿体無いことをするのは、世界中で日本だけだろう。

 「・・・また値段が上がったわ」 アスカ

 「インフレか・・・」 加持

 「そう、この市場は、まだ良い方ね。区画の南側に行くと、浮浪者が纏わりつくわ」

 「そこを通ってきたよ」

 「ふ〜ん。感想は?」

 「かわいそうには、思うね」

 「あら、随分、庶民的な感想ね。もう少し、独創的な感想を聞けると思ったのに」

 「おいおい。俺は、冷酷でもなければ、良心家でもないさ」

 「でも、英才教育を受けていないのに、加持が、それだけ強いのはどうしてかしら?」

 「・・・・怪我の功名でね」

 「怪我で? 超能力者にでもなったの?」

 「ふっ・・・・どうかな。命が惜しいから種明かしは出来ないな」

 

 アスカは、なんとなく、路地裏で賭け事をしている場所に近付いていく。

 5人ほどいるが全員がサクラ。

 アスカは、構わないようだ。

 「よう。お嬢ちゃん。遊ばないか」賭師

 アスカは、なんとなく迷った振りをする。

 「なあに、ちょっとしたお小遣い稼ぎだ。スペードの1を当ててごらん」賭師

 サクラが逃げないようにアスカの後ろを塞ぐ。

 3枚のカードを開ける。

 ハートとダイヤの13が2枚。スペードの1が1枚だった。

 カードを動かした。

 誰が見ても真ん中だ。

 賭師が100マルクを置く

 アスカは、100マルクを真ん中に出した。

 当たって、100マルクを受け取る。

 そして、さらにカードが動かされた。

 誰が見ても、真ん中だった。

 賭師が200マルクを置いた。

 アスカも200マルクを真ん中に置く。

 真ん中で当たって、200マルクを手にする。

 さらに賭け師がカードを動かすと500マルクを置いた。

 誰が見ても真ん中だった。

 アスカは、500マルクを出したかと思うと。

 その手で賭師の右手の関節を捩じ上げる。

 周りが、アッと驚くが、賭師の手から、スペードの1が落ちる。

 「わたしの勝ちね」

 アスカが500マルクを手にする。

 突然、桜の5人が襲い掛かるが、アスカは、瞬時に身を翻して、一人を盾にする。

 そして、そのまま、テーブルごと賭師もひっくり返した。

 騒然とし始めるが、アスカは、面白がる。

 客引きのため。

 それほど、強そうな人間は、いない。

 訓練されているアスカにすれば、5人ともカモで、欲求不満の解消でしかない。

 飛び付こうとする一人を簡単に捻りあげ。

 サクラのおばさんにぶつける。

 後ろから捕まえようとした男の腕を捻り上げて腕をへし折ろうとする。

 「・・・・・・・・・もうよせ」

 加持が声をかけると。

 賭け事をしていた連中が、怖気づいて、下がり始めた。

 突然、男が現れたように見えたのか、全員が逃げ出していく。

 「ふ〜ん。隠形が上手なのね。加持」

 「こうやって、小遣いを稼いでいるのか」

 「そうよ。刺激もあって、楽しいし。趣味と実益も兼ねてね」

 

 

 アスカは、主要国の言葉は、ほとんど話すことが出来た。

 天才というのは、本当だが、さらに努力を惜しまなかった。

 知力、体力、努力、さらに美貌まで備わっているというのは、稀少だ。

 レストランに入っても、やはりアスカは、目立つ。

 「加持。本場のイタリア料理は、どう?」

 「悪くないな」

 さりげなく、ウェイトレスと加持の視線の絡みに気付く。

 「本当は、イタリア女が気になるんじゃないの?」

 「・・・・・・・欧州では、ドイツ人女性よりもイタリア人女性の方が好まれやすい」

 「ふん。自己中心で独りよがりで、大嫌い」

 「ラテン系は、面白い人間が多い。純粋に自分の欲望を追求できる正直さがある」

 「冗談じゃないわ。サルじゃあるまいし。人間なのよ。もっと、大局的な利益を考えなきゃ」

 「ふっ。楽しい事もないと、生きていくのが辛いだろう。アスカも笑っている方が、かわいいと思うだろう」

 「・・・・・・・・」アスカ。ぼぅ〜と赤くなる。

 アスカも、いろんなアプローチを受けるが、この手の言い回しは、経験無かったらしい。

 大学でも天才肌を維持しているせいか、若すぎて、浮いた状況にもならないようだ。

 このあと、アスカとかなり親密になったが、子供をまともに相手にするわけにもいかず。

 他の護衛もいることもあって、適当な距離をとる。

 それでもアスカの試験は、時折、行われたが、どうやらクリアしている。

 いつの間にか、加持と呼ばれ、加持さんと呼ばれるようになった。

 

 

 第13使徒戦後

 少しばかり、やり過ぎたようだ。

 NERVから干され、スイカの世話をしながら、ゼーレから次の指令を受け取る。

 使徒戦が終わりに近付くと、ゼーレとNERVの亀裂が大きくなる。

 碇司令の裏切りに確証を持ったゼーレが強行策を取ろうとしていた。

 使徒戦。初号機のパイロット。碇シンジの失踪で状況は極めて悪い。

 そして、戦略自衛隊が、碇シンジの失踪に絡んで動いているのは、事実だ。

 

 スイカの機嫌は、良いようだ。なんとなくわかる。

 惣流アスカと綾波レイが来る。

 「やあ。アスカに綾波ちゃんか・・・どうした?」

 「わたし達が探しているの・・・知っているでしょう。バカなこと聞かないで」

 「・・・・ふっ・・・・あははは」

 まったくもって、アスカは、葛城と似た反応をする。

 ゼーレの指令と。

 惣流アスカと綾波レイの碇シンジ捜索依頼。

 使徒戦で死ぬか。暗殺で殺されるか。の違いでしかなかった。

 真実を追い求めてきた男としては、逡巡することもないが、娘二人の視線には抗えそうにない。

 結局、燃やしたのは、ゼーレの指令書。

 

 内調の人間でもあるが、日本自体は、ゼーレの影響下。

 行動は慎重に

 こちらの強みは、鞍馬ジンという闇の存在が、ゼーレ、日本政府、NERVに知られていないということだ。

 鞍馬ジンの誘導を受けながら、碇シンジの捜索を開始する。

 戦自の撹乱工作に引っ掛からないように碇シンジを追跡。

 

 山道に入ると戦自の特殊部隊が展開していた。

 見つからないように移動する。

 子供が何人かたむろしているようだが、立ち居振る舞いだけで訓練された人間とわかる。

 諜報で見つかるというのは、失敗を意味する。

 当然、派手な立ち回りもなかった。

 

 闇を利用しながら、かわしていく。

 見つかれば、例え政府の密命でも保障されない命。

 碇シンジの痕跡を追跡し、確信を得ると。

 陽動を開始する。

 手近な人間の口を塞いで、睡眠薬を盛って放置。

 しばらくすると。

 慌てふためいて、警戒が強まるが、反対方向から回り込む。

 旅館にいる少女といる碇シンジを確認する。

 

 後は、政府筋から証拠を突きつけて大手を振って、入り込む。

 戦自も証拠を突きつけられれば、ぐうの音も無い。

 

 シンジは、呆然と30代の無精髭の男を見つめる・・・・・・・

  

  

 「よう。シンジ君。リフレッシュ休暇は、終わりかい」

 「・・・加持さん・・・・どうして?」

 「俺は、政府側の代理だよ。戦自ばかりが先走ると、ろくなことがないからね。御目付け役さ」

 「だ、だって・・・・」

 

 

 

 

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一人暮らし 『加持リョウジ物語』
第29話 『男の戦い』
登場人物