第29話 『男の戦い』
NERV本部 ラウンジ
ミサト、リツコ
「・・・ミサト。あんたも見かけによらず堅物ね」
「覚悟を決めなさいよ」
「私は、巻き込まれ損よ」
「巻き込んだ原因を作ったのは、彼を選んだ。あなたでしょう」
「ミサト。さ、先に飲みなさいよ」
ミサトとリツコの目の前。
オレンジ色の液体が満たされたジョッキが二つ。
ミサトがジョッキに近付く
「リツコ。血の臭いがするわよ」
「これ・・・あんた、これ、人体工学・・・ていうか人権問題よ」
「人体工学上。安全性の追求の結果よ。衝撃で死ぬよりマシよ」
「これを機に、もっとましなLCL液を研究しなさいよ。リツコ」
ミサトは、一口飲んで顔をしかめ、
リツコも、一口飲むと同じように顔をしかめる
「「・・・・・」」
そこにアスカがやってくる。
「ミサト。シンジは、見つかった?」
「・・・まだ見つからない」
「あのバカ。なにやってんのかしら」
「一人じゃないわね・・・シンジは、お金持っているの?」
「シンジ君は、日用品をカードでなく、お金で払うタイプだったから」
「5万は、財布に入れているそうよ。あと錠剤が、3食分くらいね」
「5万で1週間・・・・・・・・・誰かが保護しているはず」
「アスカ・・・・そういうのは諜報部に任せなさい」
ミサトは、さらにジョッキのLCL液を飲む
「そうよ。それに戻ってきてもエヴァに乗るかどうか」
リツコも一口飲む
「ったく。シンジが細過ぎるのよ」
「友達の死と、人類存亡を天秤にかけるなんて。バァカじゃないの」
「・・・・・・・・」
リツコが一口飲んで吐きそうな顔。
「へえ〜 アスカちゃんったらシンジ君が心配なの?」
「さては惚れたな」
「じょ 冗談じゃないわよ。あんな神経質で近視眼で軟弱なやつ。誰が!」
「諜報部に任せなさい。そこそこに優秀だから」
「そこそこにね。パイロットに逃げられるなんて懲罰ものよ」
「減俸されているわ」
「はぁ〜 それ、鼻摘んで一気に飲んだ方が良いわよ」
アスカは、そういうと去って行く。
「アスカ。うっぷんが溜まっているわね」
「そりゃあ。ストレスのはけ口だったシンジ君がいなくなったんだもの・・・」
「ストレスも溜まるし、シンジ君のいない重圧が彼女にかかってくるでしょう」
「自信喪失している状態だと苦しいわね」
「そう」
「レイの方は?」
「シンジ君不在で “うつ” が進んでいるわね」
「元々、その気があったから・・・・」
「たった二人のパイロットが、それか。内情、ボロボロね」
「シンジ君は、名実ともに核だったわけね」
「いま、使徒が来たら、勝てるかどうか」
ミサトが、ため息
「いないと大切な存在だったとわかるタイプね」
「とりあえずさぁ〜 これを片付けない?」
「そうね」
「いち、にの、さんで飲みましょう」
「そうね」
「いち、にの、さん・・・」
ミサトとリツコは、鼻を摘んでLCL液の一気飲み。
シンジとマナは、旅館で作ってもらった弁当を持って小高い山を登っていく。
シンジは、ヘトヘト。マナは、平然。
「マナって、タフだね」
「走って、登り降りするわけじゃないから」
「は、走るの? この山を」
「ええ、意地悪な上官だと、1時間以内に、あの崖登って写真を撮って来いとか言われるの」
マナは、谷の向こう側にある反対側の崖の頂上を指す。
「うそ」
「やってみせようか?」
マナは、スカートだった。
「い、いや、いいよ」
「今日は、見晴らし良いわね」
「うん・・」
「もうすぐで頂上ね」
「二人っきりで山の中なんて、戦自も余裕があるんだね」
「二人っきりじゃない」
「えっ!」
シンジは、辺りを見回すが木々があるだけ。
人の気配はなかった。
マナが石を拾って投げると、放物線を描いて木に当たり、人影が木陰で動く。
「戦自も、NERVも同じ、重要人物には見張りが付くの」
「全然、気が付かなかった」
シンジとマナが頂上に上る。
「食べよう」
「うん」
寂れた旅館の弁当と思えないほど美味かった。
シンジとマナの関係は、シンジが、その気にならなかったことから、兄弟のようになっていた。
シンジは、喪に服している時期で、マナも、そのことがわかっているのか、怒らず。
誘惑は、適度で絶妙な間合いで、シンジを慰める程度に抑えられている。
「シンジ君って、強いのね」
「ど、どうして? 僕は、逃げ出したのに・・・」
「誰かに言われたことない。強いって」
「綾波に言われたことある。綾波の方が強いのに」
「そう、シンジ君の強さって、そういう強さじゃないの・・・」
「もっと、違う強さね。そう、刹那的にならない強さ。戦場心理に左右されない強さ」
「そうかな」
「そうよ・・・」
「マナ。い、いつまで、こうしていられるのかな」
「いつまでも、シンジ君が望むままよ・・・」
「もっともNERVに知られたら、立場をはっきりさせるように追及されるかもしれないけどね」
「知られそうなの?」
「さあ、NERVの諜報部・・・なかなかのものだし」
「その気になって予算を投じたら、どうなるかわからないわ・・・」
「先にシンジ君が身の振り方を決めれば、それだけ有利になるけど・・・」
「シンジ君が身の振りを決めないと・・・」
「この辺り一帯でNERV諜報部と、戦自の特務部隊が銃撃戦・・・」
・・・・沈黙・・・・・
「ぼ、僕は、エヴァに乗りたくない」
「でも、どうしてもエヴァに乗らないといけないのなら・・・」
翌朝の旅館 ラウンジ
シンジとマナは、朝食後、コーヒーを飲みながら戦自の要人が来るのを待った。
50代の熟年の男、20代の秘書が釣り客のような格好で部屋に入ってくる。
そして、もう一人。30代のヨレヨレジャケットを着た無精髭の男。
シンジは、呆然と30代の無精髭の男を見つめる。
「よう。シンジ君。リフレッシュ休暇は、終わりかい?」
「加持さん・・・どうして?」
「僕は、政府側の代理だよ」
「戦自ばかり、先走ると、ろくなことがないから御目付け役さ」
「だ、だって・・・・」
シンジ、絶句。
「よろしいかね。碇シンジ君」 50代の男
「あ、はい」
シンジは、かしこまる
「私は、秋津ヨシキ。戦略自衛隊。幕僚総長だ。よろしく」
ヨシキが手を差し出すと、シンジと握手する。
「わたしは、秘書の崎村ヒロコです」
「俺は、加持リョウジ。知っているよな」
「ええ」
「さて、早速だが、確認をしよう」
「君が提示した二つの条件。日本政府と戦略自衛隊が全面的に保障することにする」
「どちらを選ぶかは君の自由だ。君がそれを破棄したとしても処罰はしない」
「はい」
「問題は、君がNERVに戻る場合の条件だが、日本政府と戦略自衛隊が全面保障する」
「そして、仮に戻らないとしてもだ」
「そこで、君に戦略自衛隊の地位を与えることにする」
「まぁ 役職だな、第8特務機関の司令で二佐だ」
「二佐!」
「そう、二佐。権限のない閑職だがね」
「これで君に手出しできる組織は、なくなる」
「でも、それだと、戦自の命令を聞くことになるんじゃ」
「私の直属だ。権限のほとんどない閑職という地位に命令できる人間も内容も限られている」
「まぁ、飾りみたいなものだ」
「予算が削られた結果。統廃合され、飾りで残った部署だからね」
「それについても、一筆書いてある」
「で、でも二佐なんて」
「君の戦歴を正式に査定すれば、地球上の勲章と称号を総なめだよ・・・」
「私の階級が冗談に思えるほどだ・・・」
「シンジ君の場合、特殊な事情と年齢的なものがあるから、階級が押さえられているに過ぎない」
「シンジ君。戦自は、貧乏だから階級を報奨金に転化できないんだよ」
「加持君。余計なことを言わないでくれ」
「はいはい」
「まあ、調印の前に、これを良く読んで確認するといい。こちらは、特に急がないから」
「・・・・・」
「さて、ヒロコ君。釣りにでも行くか」
「はい」
「じゃ 夕方には、戻ってくる」
「「はい」」シンジ、マナ
ヨシキとヒロコは、そそくさと釣りに行く。
どう見ても、お金持ちの釣り客と、わけありの秘書だろうか。
「戦自って、イメージと違うね」
シンジは、マナに呟いた。
「上層部が現実とイメージを狂わせている場合もあるさ」
「か、加持さんは、どうして政府の代理なんですか?」
「探し回った結果だよ。ここに居ることがわかって」
「それから内調を通じて、総理大臣と話しをつけて、ここに居るというわけだ」
「元々、政府内調からの出向だからね」
「・・・・・・」
「いやあ、参ったね」
「シンジ君の痕跡が消されているから。たどるのが大変だったよ。邪魔も、多かったしね」
加持が微笑むと、マナがプィっとソッポを向く。
「加持さんは、父に頼まれて?」
「いや、綾波ちゃんとアスカに頼まれてね」
「・・・綾波が僕を・・・・・」
「寂しがっているぞ。綾波ちゃん。そして、アスカもな」
「ぼ、僕は・・・・」
「かまわないさ。人間は、何もかも忘れて休む事も必要だ」
「加持さんは・・・僕の決めたことを・・・」
「知っている。なかなか、面白いことになりそうだ」
「良くないと思いますか?」
「いや、君が決めて、いいことだ。君のことだからね」
「でも・・・」
「シンジ君。大人も子供も駄々をこねる」
「大人の場合、信念という言葉を使うがね。駄々も信念も似たようなものだ」
「しかし、大人は、自分が決めたことの責任を取らないといけない・・・」
「でも・・・」
「なんだ。迷っているのか・・・」
シンジが頷く
「まぁ 人生は迷いながら生きるものだ」
「しかし、我を通せば誰かが折れる」
「シンジ君も、一度、我を通してみるのもおもしろいだろう・・・」
「誰かが折れる。その結果どうなるか、予測を立ててみると良い」
「予測なんて・・・・」
「理性論型の人間もいれば、経験論型の人間もいる」
「必要なら経験して培っていけばいい。経験が多ければ、結果が見えてくるものだ」
「・・・・・・」
シンジは、加持とマナを見るが表情からは何も読み取れない。
「ふっ 君の出した条件が正しいのか間違っているのか、誰にもわからない・・・」
「実のところ、戦自も迷っているのさ、政府もね」
「予測していない状況が起きて、周りも、当事者も戸惑っていると言うのが現状だな」
「・・・・・」
「だから、君が決めることになる。君がNERVに戻るなら、俺は全面的に協力するよ」
「ど、どうして、加持さんが」
「選択の余地無しで。その上。おもしろいからさ」
「俺が政府と戦自をまとめ上げて調整する。ゼーレは、一時的に機能不全になる」
「ゼーレ?」
「会ったことがあるだろう」
「あの番号が付いた黒い喋る墓石だよ」
「だ、大丈夫ですか?」
「さて、どうなるやら、君次第だ」
「えっ!」
「シンジ君が決めることだからね」
「僕が・・・僕が・・・NERVに戻る条件をだしたのは、NERVに戻りたくないから・・・」
「エヴァに乗りたくないから出した条件なんです」
「そうだろうな・・・だが、君はエヴァに乗る条件を出した」
「そして、その条件を満たそうとする勢力が急増している。そういう事だ」
「・・・・・・・」
「シンジ君。条件が満たされれば、エヴァに乗ってくれるだろうな」
「はい」
「結構だ。だが、一度決めた信念は貫き通さないと。誰からも信用されなくなるぞ」
「はい」
NERV総司令公務室
ゲンドウ、冬月
受話器が置かれた。
「・・・・・・・」 ゲンドウ
「気が付いたときは、後の祭りか」 冬月
「・・・・・・」
「どうする」
「あの男が動いている」
「政府と戦自がまとまっているとすると、彼の仕業だろうな」
「やつに情報を握られている実力者は、多い」
「ダミーシステムがある」
「ダミーシステムは、まだ、戦闘すら制御できん、暴走モードだけだ」
「敵味方の識別も付かんぞ。どうやってケイジから戦場までもって行くつもりだ」
「・・・・・」
「日本のゼーレ勢力も切り崩されているらしい。あの男が動いているという事か」
「明日。来るそうだ」
「日本政府は、ゼーレと対決する気なのか、無謀と言うか、信じられんな」
「100年前の経験を忘れている」
「使徒戦で相対的にゼーレの権威が低下している」
「エヴァとパイロットの価値が上がったということだな・・・」
「それに無謀というなら、NERVもそうだ」
その日
NERV本部に戦自のトライデント巡洋艦1機、重戦闘機15機が着陸。
茶系のコートを着たシンジの周りに霧島マヤ、秋津ヨシキ、崎村ヒロコ、加持リョウジ。
戦自兵士50人以上が護衛していた。
颯爽と入ってくる戦自の集団を止める者はいない。
ミサト、レイ、アスカもシンジに近付けず。
シンジの隣を歩いているマナの視線がレイとアスカの視線と絡む
NERV総司令官公務室
ゲンドウの机の上に調印書のコピーが、置いてある。
「それが碇シンジ二佐からの条件です」 ヨシキ
「・・・・・」 ゲンドウ
父と息子が対峙。
父親は、手を重ねて口元において座っている。
いつもと変わらないポーズ。
息子は、怒りを抑えているのか、冷たく父親を睨む。
「どういうつもりだ。シンジ」
「初号機のパイロットとは、言わないんだね」
「おまえは、初号機のパイロットでもない。出て行け」
「そうするよ。お父さん、もう会う事もないと思うけど。さようなら」
憑き物が落ちたという感覚。
その程度のことでしかなかった。
シンジが背を向けると歩き出した。
戦自の集団が続く
「司令は、強気だな。加持君」
「内情を言動に出さないのは得意ですから。ポーカーで負けたことがないそうですよ」
「しかし、シンジ君も、なかなかだな」
「いざとなれば、血が証明する・・・・これからですよ」
「交渉を断ってかね?」
「碇親子は、交渉を断ってから始まるんでしょう」
通路
シンジと戦時の集団が、レイとアスカ、ミサト、リツコと擦れ違う。
シンジは、まっすぐ前を見て眼を合わせない。
NERV総司令公務室
「・・・シンジ君は、本気だったな」
「・・・・・・」
ゲンドウは、表情も無く微動だにしない。
突然。警報が鳴る
「どうした!」
発令所
「目標は?」 冬月
「現在、進行中で駒ケ岳防衛線を突破されました」 青葉
NERVに向かって進行中の使徒を確認すると。
トライデント巡洋艦1機、重戦闘機15機は、回避行動をとる。
シンジが見ている間、第3東京市の中央区に第14使徒が着地する。
次の瞬間。
使徒から閃光が放たれて、地面に大穴が開く。
「・・・どうするね。シンジ君」 加持
「僕は・・・」
「シンジ君にしか出来ないことだ」
「そして、シンジ君の決めることだ」
「そういえば、綾波ちゃんと、お別れしていなかったな」
「・・・・・・・」
「これが、最後になるかもしれないな」
「・・・・・・・」
NERV本部
発令所
「第1から第18装甲まで損壊」
「18もある特殊装甲版が一撃で」 日向
「地上迎撃は間に合わない。二号機をジオフロント内に配置。本部決戦よ」 ミサト
「アスカ、そっちにデータを送るから。使徒が出た瞬間を狙って」
「了解!」
「零号機は?」
「左腕の再生が終わっていないわ」 リツコ
「戦闘は、無理ね」
「レイは、初号機で、ダミープラグをバックアップで出せ」
ゲンドウが命じる
初号機のエントリープラグ
レイ
「LCL満水」
「A10神経接続開始」
次々とモニターが変化していく。
突然、警報が鳴るエントリープラグ
「うっ 駄目」 レイ
発令所
「初号機、神経接続が拒絶されました」
「まさか」 リツコ
「碇・・・」
「私を拒絶すると言うのか」
レイは、口を押さえたまま、嘔吐に堪えている
「初号機の起動中止。レイは、零号機で出撃させる。初号機は、ダミープラグで再起動だ」
「しかし、零号機は」 ミサト
『かまいません、行きます』
「レイ」 ミサト
『わたしは、死んでも、代わりがいるもの』
レイが呟く。
地上では、使徒が閃光を放つ。
爆発は、N2爆弾並み。
破壊力と貫通力は、まったく違っていた。
さらに大穴が開く。
「駄目です! あと一撃でジオフロントに侵入されます」 青葉
天井都市が爆発し崩れ落ち
二号機がジオフロントの森でパレットガンを構える
「・・・来たわね」
「シンジが、いなくたって、わたし一人で、やって見せるわ」
天井に開けられた穴から第14使徒が侵入してくる。
二号機の射撃が使徒に吸い込まれて命中し
ATフィールドによって、ことごとく弾かれる。
「・・・何で、やられないのよ!」
「もう、私は、負けられないのよ!」
それでも、アスカは撃ち続ける。
「ATフィールドは、中和しているはずなのに」
二号機は、プログナイフを抜いて構える
「やっぱり、近接戦闘か」
悠然としている使徒。
突然。
使徒の帯状の光る腕が二号機を掴み、
そのまま、二号機を天井に叩きつけ。
首から上が天井に埋まる。
さらにジオフロントの森に叩きつけた。
戦自のトライデント巡洋艦と重戦闘機群が使徒が開けた穴から本部に向けて降下していく。
アスカは、頭を押さえ、苦痛に顔が歪む。
二号機が、よろよろと立ち上がった瞬間。
使徒が繰り出す帯状の腕が二号機の左右の腕を切断する。
アスカは激痛で悲鳴を上げる。
「このぉおおおおおおお!!!!」
アスカは両手を失ったまま突進。
「アスカ、駄目! 二号機の全神経接続をカット。急いで!」
接続がカットされた瞬間。
帯状の腕が二号機の首を切り落とした。
「二号機大破。戦闘不能」
「初号機、ダミープラグ搭載完了」 マヤ
「発進させろ!」 ゲンドウ
初号機が発進する直前に停止
「なに?」 リツコ
「パルスが消失! ダミープログラム拒絶されました! 初号機起動できません」
「バカな」
「冬月。少し頼む」
ゲンドウが動く。
「どちらへ。碇司令」
秋津ヨシキが、シンジとマナ、加持。戦自の兵士も一緒に発令所に入ってくる。
発令所で、ゲンドウとシンジを中心に睨み合い。
シンジが、初めて来た時と、まったく違う気迫を見せる。
「シンジ。人類を人質に取るつもりか」
「お父さんが人類を人質に取っているんだ!」
「「・・・・・・・」」
「零号機出撃します」 日向
「レイ!」 ミサト
使徒に突っ込む零号機は、N2爆弾を抱えていた。
「自爆する気」 リツコ
「レイ!」
「綾波!」
『ATフィールド全開!』 レイ
零号機はATフィールドを中和し・・・
残った右手で使徒の露出したコアにN2爆弾を押し付け、
N2爆弾がコアに届く寸前、蓋がコアを覆う。
はっ!
閃光。
2体の巨人が光につつまれ、
偶然か、レイの意図されたものか。
使徒の体とATフィールドが盾になり、S2爆弾の直撃から本部を救う。
爆発はジオフロント全体を震わせ。
爆風は、NERV本部も揺らした。
「レイ!」 ミサト
「零号機。生命反応を確認」
マヤの一言で、ホッとした空気が流れる
「・・・・碇司令を連行しろ」
ヨシキが兵士に命令する。
戦自の兵士が碇司令に駆け寄るが、NERVの職員は、何も出来ない
「シンジ君。これでいいかな」
「ハイ」
シンジは、コートを脱いだ。
戦自二佐の制服がミサトを沈黙させる。
「では行きたまえ。シンジ君」
「碇司令は、現時点を持って国外追放」
「今後のNERV指揮は、わたしが執る。碇シンジ二佐は、初号機で出撃」
「・・・初号機を出撃させて」
ミサトが命じると、NERVの職員が動きだす。
碇司令は、戦自の兵士に連行され、発令所を出て行く。
「シンジ君。金属類は、ノイズが入るから上着とズボンは脱いで」
「はい」
シンジは、急いで戦自の制服を脱ぐと下着でエントリープラグに入る
初号機が出撃する
使徒は、ジオフロントの本部施設を破壊しながらセントラルドグマに向かい、
発令所に達する。
使徒の一撃で、発令所の外壁が破壊され露出する。
巨大な使徒が発令所を覗き込み、NERVの職員と戦自兵士は真っ青になっていく。
次の瞬間。
初号機が使徒に体当たり。
使徒を壁ごと吹き飛ばしてしまう。
さらに外壁が破壊され、破砕片が発令所に散らばり落ち。
セントラルドグマの視界が広がる。
「本部セントラルドグマ決戦か。最初からシンジ君に頼るしかなかったのね」
初号機が使徒を射出口に押し付ける。
『ミ、ミサトさん!』
「発進口。射出!」
ジオフロントにまで初号機と使徒が射出される。
初号機と使徒が激しく、組み合い、攻防戦を繰り広げた。
しかし、突然。警報音が鳴り。
初号機が停止。
「初号機活動限界です」
無常なマヤの言葉で半壊の発令所に敗北感が広がっていく。
「なんてこと」 リツコ
初号機
「動け、動け、動いてよ。守りたいものがあるんだよ」
初号機は反応せず。
シンジは涙目。
突然、衝撃が襲う
使徒が人形と化した初号機を本部に何度も叩きつけた。
「動いてよ。動かなきゃ 動かなきゃ みんな死んでしまうんだよ」
使徒の帯状の腕が一閃。初号機の左腕が切断される。
さらに胸部装甲が破壊される。
使徒は、胸に現れたコアに対して攻撃。
「動け、動け、動いてよ。お願いだから。動いてよ〜!!!!!」
ドックン。
と響く心臓音。
エントリープラグに起動音が響く。
初号機が口を開き、咆哮がジオフロント全体に響きわたる。
「エヴァ再起動しました。シンクロ率が急速に上昇しています」
「・・56・・70・・87・・・98・・120・・・134・・154・・」
「・・177・・・201・・・248・・・298・・・314・・・354・・・379・・・・」
「測定値限度400パーセント突破・・・双方向システム切断」
「エヴァが、目覚めた!」
初号機が使徒の腕を引き千切ると自分の腕に添え
たちまちのうちに初号機の腕に変形していく。
ミサト、リツコと職員、そして、戦自将兵は驚愕した。
初号機が使徒に襲い掛かかると、抵抗する使徒を捻じ伏せ、
力任せに使徒の贓物を引き千切り、生きたまま、貪りはじめた。
次第に初号機の身体が盛り上がり。
初号機の拘束具がはじけ飛ぶ。
その一つが本部に直撃して、壁の一部を破壊した。
「・・・リツコ。何が起ころうとしているの?」
「初号機がS2機関を取り込んだわ」
「これで初号機は、電力供給を必要としなくなった」
「じゃ 初号機は・・・」
「セカンドインパクトを起こした。第1使徒アダムが命の木を手に入れて再現されたわ」
「あれは、エヴァでなく。第1使徒アダムかもしれない」
「シンジ君は?」
「マヤ!」
「・・・・・・・・・」 マヤ
「マヤ。初号機のシンジ君は、追跡している?」
「ハーモニックス率120パーセント。シンクロ率400パーセントを突破」
「その時点で、エントリープラグと双方向システムは破損しました」
「トレースできません。ブラックボックスも破損している可能性があります」
「はぁ〜 これで、わたし達の命運も、初号機とシンジ君の融合次第と言うわけね」
「ゆ、融合。ちょっと、それどういうことよ」
「前例があるの、シンジ君のお母さんが、400パーセントで初号機と融合してしまった」
「400パーセントって、大人がどうしてシンクロ出来るのよ」
「向こう側にシンクロされてしまうの、自我も、身体も、全てね」
「こちら側で、シンクロ出来るわけじゃないわ」
「前に話したでしょう。人身御供、起動確率を押し上げた核心よ」
「シンジ君・・・・・・」
初号機は、第14使徒のコアさえも飲み込み。
そして、剥き出しの咆哮が轟く。
秋津ヨシキと加持は、ゼルエルを貪る初号機を驚愕しながら見詰める
「・・・加持君。これをどうしたら良いのだ。我々の手には負えないぞ」
「と言うよりも、人類の手には、負えませんね」
「碇司令は、どうするつもりだったのだ」
「私は、大変なことをしでかしたのではないのか?」
「織田信長を討った。明智光秀の気分ですか?」
「三日天下で終わるなら構わんよ。覚悟は出来ている。天下が存続し続けるのならな」
「とりあえず、NERVを接収してからにしてはどうです」
「そうだな・・・しかし、首をすげ替えただけで、機能はそのまま残すしかない」
「付け焼刃ではどうしようもない」
「ですが、シンジ君が乗らない限り、使徒戦は、先に進まない」
「そのことはNERVの人間も理解している」
「碇司令の国外追放を誰も止めることが出来なかったのは、それですよ」
「基地の総司令官より、一パイロットが価値があるのは、異常事態といえるな」
「ダミープラグが役に立たない今、選択の余地はないでしょう」
「シンジ君と仲良くというか・・・」
「怒らさないだけで良いと思いますよ」
「あとは、道義的な責任感だけで十分です」
「だとすれば、碇司令は運が悪かったとしか言えない」
「第13使徒戦、彼の指揮に間違いない」
「後知恵で、危険と破産覚悟で、三機揃えて直上決戦をするか」
「不安定だがシンジ君と綾波君を初号機で、一緒に出せば良かったと思う程度だ」
「でしょうね。碇司令は、優秀な司令官ですから」
「どんなに優秀でも選択の余地がこれほど限られては、発揮できん」
「最初から負け戦じゃないか」
「予算不足が痛いですな。日本政府も、日本経済も。傾きますよ」
「くっ そうだな」
「日本の国家予算で、やれますか?」
「既にサイは投げられた・・・後戻りは出来ん・・・・政府も、ゼーレと交渉を開始している」
秋津司令が、NERVのスタックを前に立つ。
周りに戦自の完全武装の兵士が並ぶ。
「諸君。日本政府の命により、戦略自衛隊はNERVを接収した」
「碇司令は国外追放。後任はわたし、秋津ヨシキが付くことになる」
「諸君らの待遇は、維持される」
「君たちの進退に関して、こちらから一部を除いて強要するものはない」
「しかし、NERVの資産は、全て日本政府のものだ」
「損なうような事態になれば処罰の対象になる」
「日本政府は、ゼーレと戦うというのですか?」 リツコ
「いや、戦いにはならんよ」
「で、ですがゼーレは、人類世界そのものです」
「国連、歴史、文化、宗教、人種、軍事、政治、金融の全てを背景にしています」
「ふっ 赤木博士。使徒の来襲を含めて、国際情勢と日本をマギで計算させてみたまえ」
「ゼーレは、当面、手出しできんよ・・・」
「当時とは、状況が違う、という事がわかるだろう」
「ですが・・・」
「もう、サイは投げられた」
「わかりました」
「リツコ。大丈夫なの?」
「マギで計算しなくてもわかる。多分、ゼーレは使徒戦が終わるまで態度を保留するわ」
「日本政府が、もとより、そう動いて準備していたとすれば・・・」
「いえ、そう思わせるだけで主要各国政府もためらう」
「そして、各国も、ゼーレからの離脱を検討して、ゼーレはバラバラになる可能性がある」
「要は、使徒戦が終わった時点で日本の勢力が、どの程度残されているかによる」
『冬月副司令?』
ミサトが隣の冬月に聞く
『・・・知ったかぶりをしておるな。NERVが彼の手に負えるか、見ものだな』
「では、シンジ君の回収を行ってくれたまえ。葛城三佐」
「はい」
ミサトが敬礼する
「敬礼はいらんよ・・・首がすげ変わっただけだ」
『ふっ シンジ君が初号機と融合していたら、どうするつもりかしら』 リツコ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第28話 『命の洗濯』 |
第29話 『男の戦い』 |
第30話 『心のかたち、人のかたち』 |
登場人物 | |||