月夜裏 野々香 小説の部屋

    

新世紀エヴァンゲリオン

『一人暮らし』

      

    

 「敬礼はいらんよ・・・首がすげ変わっただけだ」

 『ふっ・・・シンジ君が初号機と融合していたら、どうするつもりかしら』

    

第30話 『心のかたち、人のかたち』

    

 初号機 エントリープラグ

 コクピットは、オレンジ色の液体だけが満たされて、誰もいない。

 

 シンジは、白っぽい空間に浮かんでいる。

 「ここは、どこだろう・・・」

 「そういえば、スイカの使徒に飲み込まれたときも、こんな空間だったけど、少し明るい」

 「初号機の中にいて、使徒と戦っていたのに・・・」

 「気が付いたらこんなところにいる」

 おお〜ぃ!

 おお〜ぃ!

 反響しながら声が消えていく。

 「反響するという事は、何かに反射しているという事だよね」

 「シンジ」

 突然。

 正面に綺麗な大人の女性が現れる。

 そして、いつの間にか、辺りが大草原。

 大きな木造ペンションの二階。

 広いベランダ。

 「綾波?」

 シンジは、雰囲気が似ている綾波の名前を呟く。

 女性は顔を曇らせる

 「お母さんでしょう。お母さん」

 「・・・・・・」

 「碇ユイ・・・母親の顔を忘れるなんて・・・」

 ユイは、情けないのか、涙ぐむ。

 「あ、あのう・・・お、お母さん?」

 シンジが慌てる

 「・・・・・・・・」

 ユイは涙ぐんだまま

 「ごめん。あのう。お父さんが写真とか燃やしちゃったみたいで小さいころだったから・・・」

 「顔とかわからないし、そ、その、お母さんは、死んだんだよね」

 「僕も死んだのかな・・・ここはあの世」

 「違うわ。第1使徒アダムの中。シンジは、私と同じようにアダムの中に取り込まれたの」

 「えっ じゃあ・・・ここって、初号機の中」

 辺りを見回すと大自然と、大きなペンションのテラスに立っている。

 「そうよ・・・シンジ。会いたかった〜」

 ユイはシンジを抱きしめる。

 「・・・お、お母さん」

 「うん・・・シンジ。かわいい、かわいい。大きくなっちゃって」

 「あ、あの・・・恥ずかしいんだけど」

 「なに言ってんの、あなたはわたしから生まれたのよ」

 「そんなことで文句言わないの?」

 「で、でも、お母さん、ちょっと若すぎない」

 「まあ、シンジ。若いお母さんに惚れちゃ駄目よ」

 「だ、だから・・・・」

 「じゃ ちょっと、あなたに話すことがあるわ」

 ユイがシンジを離した。

 「なに?」

  

 ユイは、突然、現れたテーブルの上にコーヒーを二つ置く。

 「まず、シンジ。あなたが必ずしなければならないこと」

 「うん」

 「綾波レイと結婚する」

 「・・・・・・・・・・」

 シンジの意識が飛んだ。

 「わかった!」

 「・・・・・・・・・・」

 「シンジ! 聞いているの?」

 「・・・へっ・・・」

 「ちゃんと聞きなさい」

 「大事な話しをしているのにボーとするなんて」

 「お母さん、そんな子は、許しませんよ」

 「は、はい」

 「綾波レイと結婚しなさい」

 「・・・えっ!」

 「綾波レイと結婚しなさい!」

 「あのう・・・・お母さん・・・・どうして?」

 「使徒アダムとの協定なの」

 「協定って?」

 「んん・・・順を追って話すとね」

 「使徒アダムのコアを半身不随の状態。去勢状態で復元させたものが初号機なの・・・」

 「まず、これを覚えておいてね」

 「・・・うん」

 「それと、セカンドインパクトに戻るわね。あ、ファーストインパクトからね」

 「ファーストインパクトは、40億年前、地球が巨大小惑星と衝突」

 「本当は、第18使徒リリンとリリスが起こしたもの・・・」

 「そして、生命が出発したの」

 「つまり、人間は、元々、使徒なの。わかった!」

 シンジは頷く。

 納得したというより、勢いに負けて。

 「リリスは、第18使徒リリン系の人類が本当に優秀か試すため」

 「代替できる使徒を17個準備したのね」

 「もし、第18使徒リリン系人類が優秀でなければ、他の使徒が滅ぼして」

 「その使徒系人類が世界を相続する」

 「・・・・・・」

 「新しい使徒は、リリスとサードインパクトを起こして完全な個体から、不完全な群れ」

 「新しい人類を誕生させるつもり・・・」

 「不完全な群れの次の段階は、完全な群れ、それに至る行程はまだ不明ね」

 「でもかわいそうなのは第1使徒アダム」

 「リリスのそばに置かれた起爆剤でしかなかった使徒アダム」

 「人類は、リリスと第1使徒アダム」

 「そして、ロンギヌスの槍でリリスの試みをスタートさせたの」

 「人類といっても、この場合、ゼーレというんだけど人類の象徴みたいなものね」

 「第18使徒リリン系人類の権化みたいな人達」

 「ちょっと、話がそれたけど」

 「わたしが第1使徒アダムに取り込まれたときアダムと協定を結んだの」

 「人類。第18使徒リリン系人類を応援してくれるなら、第1使徒系人類との共生を手助けするって」

 「・・・へっ?」

 「それが綾波レイ。彼女は、第1使徒アダム系の人類」

 「お父さんが私をサルベージしようとしたとき、運が良かったの・・・」

 「わたし、たまたま、研究していたリリスの核の欠片を持っていたみたいで」

 「第1使徒アダム系人種を生成できたの」

 「じゃ 綾波は、人間じゃない?」

 「人間よ。ただ、系列が違うの」

 「既存の人種の違いよりも少し大きいけど、交配も可能よ」

 「交配って?」

 「専門用語よ。世俗的な言い方って恥ずかしいじゃない」

 「・・・・」

 『いや、たいして、変わらないと思うけど』

 「彼女、私に似て、かわいいでしょう」

 「う、ううん」

 「シンジ!」

 ユイがシンジの頬を摘む

 「か・わ・い・い・でしょう」

 「か、かわいいです」

 「ふふふ、いろんなモデルがあったけど、私に一番近いのを選んでおいたからね」

 「シンジの婚約者よ」

 「こ、婚約者。そ、そんな話し聞いてないよ」

 「そうよ。いま言ったもの」

 「お、お母さん!?」

 「ちゃんと幸せにするのよ」

 「・・・うん」

 「よし」

 「あ、あのう・・・・」

 「なに? 次の話しに行きたいんだけど」

 「婚約の話しって、綾波は知っているの?」

 「知らないわ」

 「そ、そんなの婚約として成立しないじゃないか」

 「んん、リリスの欠片がね。少し、小さかったらしいの・・・」

 「だから少し、こちらの意図が伝わっていないのよ」

 「でも、普通の人間の子より質がいいわよ」

 「何しろインパクト前の純正人種よ」

 「その気になったらATフィールドだって張れるわ」

 「ATフィールドって、使徒じゃないか」

 「シンジ。ちゃんと話しを聞いている」

 ユイは、シンジの頬を摘んで、上下にふる

 「・・・・」

 「シンジも、第18使徒リリン系人種でしょう。レイは第1使徒アダム系人種」

 「・・・うん」

 「それに、これからいう事は、あなたも肝に銘じて欲しいのよ」

 「シンジも、ATフィールド張れるようになったからね」

 「・・・・・・」 愕然。

 「でも使っちゃ駄目よ。周りが全部、敵になるからね」

 「ミサトさんも、アスカも、全人類がね」

 「ロンギヌスの槍に狙われたら確実に殺される」

 「ど、どうして・・・」

 「初号機が第14使徒を食べてしまって、その力が、あなた自身に注ぎ込まれたわ」

 「第14使徒と同じことが出来る。荷粒子砲とあの帯状の刃」

 「・・・・・・・」

 「仕方がなかったの」

 「初号機につなげてしまうと、第14使徒の力でリリスと融合して、サードインパクトを起こしてしまうから」

 「シンジにつなげるほかなかった」

 「一応、種子を仮死状態にさせたからサードインパクトは起こせない」

 シンジ、絶句。

 「第1使徒と第14使徒のコアは融合してしまったけど。あなたのバックボーンになっている」

 「そんな」

 「だから、使わないでね」

 「つ、使わないよ。使うもんか、そんな力」

 「そう、良かった」

 「じゃ 次は、お父さんのこと。追放しちゃったでしょう」

 「・・・怒ってる・・・お母さん」

 「怒ってないわよ」

 「シンジが自分の力で後始末。処理してね。失敗したら人類が滅ぶから」

 「・・・で、でもどうしたらいいか」

 「まあ、お父さんもそうだったけど・・・」

 「シンジは、人間関係とか苦手だから、誰かに任せるといいわね・・・」

 「自分が出来ないことは代償を払って誰かにやってもらう・・・」

 「お父さんもそう。面倒なことは、全部、冬月先生にやらせていたわ」

 「だれ?」

 「まあ、わたしが時々、教えるから」

 「ど、どうやって?」

 「だから、第1使徒アダム、第14使徒ゼルエルとつながっているって言っているでしょう」

 「当然、力を引き出せるという事は、わたしが手伝えるという事」

 「綾波レイも、わたしが手伝うかしら?」

 「それは、なんか、イヤだ」

 「・・・じゃ 手伝わないけど・・・ちゃんと押し倒すのよ」

 「・・・・・・」

 イメージトレーニング

 ・・・・不可、押し倒される

 「・・・シンジ」

 「なに?」

 「お父さんを許してあげて、ゼーレの圧力に屈しないために精一杯、意地を張っていたの」

 「シンジを守るためにもね」

 「ゼーレのプロジェクトはとても危険で、とても強いの」

 「NERVの力でも、日本の力でも勝てないくらい強いの」

 「だから、お父さんはゼーレのプロジェクトが完成する寸前で良い方に捻じ曲げようとした」

 「・・・・・・・」

 「わたしが人類の精神だけを連結させる研究をしていたんだけど」

 「ゼーレは人類全てを心身ともに融合させて液状化させようとしている」

 「お父さんは、それを個々の人格や個性を維持させて共有で済ませようとした」

 「じゃ 僕のやったことは間違っていたの?」

 「いいえ、いまなら、あなたの方が上手くやれる」

 「お父さんよりも、だから私は、シンジを選んだ。お父さんも、わかってくれる」

 「・・・・・」

 「強くなったわね。シンジ。最初にエヴァに乗った時と随分違う」

 「どうして、最初から教えてくれなかったの?」

 「初号機に融合されると強い信念がないと出られないわ・・・」

 「あのころのあなたは無理だった」

 「暴走でさえ、知性的な面を欠如させたの」

 「ここはね、居心地が良いのよ」

 「お母さんは、出てこないの?」

 「ごめんね・・・シンジ」

 「お母さんは、初号機を動かすために人身御供。人柱になったの・・・人類のため」

 「で、でも、そんなの酷過ぎるよ」

 「お母さんだけじゃない。アスカのお母さんも。他にも5人の母親がそれぞれコアに融合された」

 「人類が生き残るために7人の母親が犠牲になったの・・・」

 「鈴原トウジ君のお母さんも、みんな、私の同志・・・」

 「それにお父さんも・・・」

 「・・・・・・」

 「まあ、寂しいけど、居心地は、いいから、心配しないで」

 「・・・・・・」

 「コーヒーも、美味しいわ」

 ユイがコーヒーを飲むと。

 シンジもコーヒーを飲む。

 いつの間にか、草原の向こうには、海岸線が広がり、

 反対側に大山脈が連なり頂が白かった。

 「そうだ。チャンスがあったら、リリスのコアの核の部分を持ってきてね」

 「第1使徒系人類が多いと、アダムも全面的に協力するから」

 「例の刃を使えば取ってこられるからね」

 「・・・・・・」

 「でも、なるべく細く。さっとやるのよ。NERVのATフィールド探知機に引っかかるからね」

 「さ、さっきは、使うなといったのに・・・」

 「それは、それ。これは、これ。よ」

 「第1使徒の全面協力があれば、使徒殲滅は容易になる」

 「わかったよ。お母さん」

 「じゃ 戻りなさい」

 「いい、綾波レイ。モノにするのよ」

 「彼女は、あなた以上に人の気持ちを怖がっているから、優しく包み込んであげてね」

 「・・・・・」

 シンジが引きつる。

 イメージトレーニング。

 条件反射だろうか、

 何度やっても自分が倒される光景が自動展開される。

  

  

 発令所

 ヨシキが以前、ゲンドウがいた場所に座り、冬月がそばに立っている。

 ジオフロントに頭部、両腕が存在しない二号機と零号機が巨体を沈めていた。

 初号機は、拘束具を弾き出した状態で停止。

 シンジの回収作業が行われている。

 「零号機、二号機はヘイフリックの限界を超えています」 マヤ

 「時間とお金が必要ね」

 リツコがニヤリとヨシキを見る

 「・・・・・・・」

 ヨシキは、予算の見当をつけているのか青ざめている。

 もちろん、過去最悪の被害。

 それも、半壊したNERV本部と天井都市の再建予算を差し引いての金額になった。

  

  

 管制室

 リツコ、マヤ

 「マギシステムの一時的な移植と代行は可能です」

 「でも・・・ここは、駄目ね」

 「閉鎖。破棄した方が合理的ですね」

 「予備の第2発令所を使用するしかないわね」

 「やり辛いんですよね。あそこ」

 「同じつくりなんですけどね」 

 「違和感があるんですよね」

 「使えるだけましよ」

 「使えるか、わからないのは、初号機ね」

 「自意識が開放されているのに停止。第1使徒が活動を始めないのは、なぜ?」

 「サードインパクトを起こせないからでは?」

 「第14使徒を取り込んだのよ。第14使徒の種子を使えるかもしれない・・・」

 「いま、初号機がリリスに向かったら、誰も、止めることが出来ない」

 「シンジ君の救出は?」 ミサト

 「こちらからエントリープラグの排出が出来ないから、回収班が向かっているでしょう」

 「シンジ君も、意識がないのかもしれない。初号機の状況からすると命がけね」

  

  

 秋津司令は、回収作業を注目。

 NERV維持の要がシンジの意思にかかっていることを思えば当然だった。

 「・・・秋津司令。これから、どうするつもりかしら?」 ミサト

 「さぁ 当面、人心掌握以外にできることはないわね」

 「NERVのこと、詳しいみたいだけど」

 「当然でしょう。日本国内の獅子身中の虫NERV。研究しつくされているわ」

 「少なくとも碇司令より。人付き合いが上手いと見たわ」

 「碇司令より人付き合いの下手な人間を探す方が大変でしょう」

 「手当たりしだい有力者の弱みを握った後で握手するんだもの。友達いないわね」

 「どちらかというと、NERVを維持していたのは碇司令の資金収集力と政治能力」

 「冬月副司令の人身掌握と運用能力ね」

 「でも、まいったわね」

 「シンジ君。あんなに怒っていたなんて。レイとアスカが危ない状態だったのに・・・・」

 「日ごろおとなしい人間が怒ると怖いものよ」

 「ギャップで、本人も、どこで、やめていいのかわからないし」

 「はぁ〜 まいったわね」

 「一パイロットが組織をひっくり返すだけじゃなく」

 「日本の行く末すらも変えてしまった。エヴァとパイロットの価値が同等ということね」

 「そして、S2機関を持った初号機は、NERVの価値を超えたわ」

 「シンジ君が、その気になれば単独で世界を従属させる戦力を操れるのよ」

 「NERVがバックアップすればでしょう」

 「いいえ、S2機関よ。自己再生能力は万全。メンテナンスは必要ない」

 「・・・神の降臨?」

 「シンジ君がカギよ。彼が初号機に取り込まれていなければね」

 「取り込まれていたら、仕切りなおしかしら」

 「そうね。秋津司令の頼みの綱は、シンジ君だけなのだから」

 「もっとも、碇司令が国外追放。戦自に接収された状態でNERVもどうにもならないけどね」

 「冬月副司令は、秋津司令に従うつもりね」

 「使徒戦に勝ち残るのが最優先よ。我を張っても仕方がないわ」

 「我を通したのは、碇司令じゃなくて、シンジ君か、意外ね」

 「彼の入れ知恵かしら」

 リツコは、ぼんやりと初号機の回収作業を見ている加持を見る。

 「今回のことは、彼が仕組んだのね」

 「世界で、もっとも危険な男。と、呼ばれただけはあるわね」

 「いまさら、なに言っても手遅れよ」

 「そのうち、政府と戦自の要人が押しかけてくるわ」

 「及び腰の要人たち?」

 「ええ、安全が確認されて、のこのこやって来て、最後に良い思いする人たち」

 「むかつくわね」

 「NERVにゼーレあり。日本に議員あり。システムは、どこも一緒よ」

 「最後にハサミでテープカットする者が栄光を手にする」

 加持が、そばに来る。

 

 「手にするのは、栄光じゃなくて虚栄だよ。りっちゃん」

 「あんたが黒幕。どうするつもりよ。このバカ!」

 「おいおい。酷いこというなよ」

 「俺は、綾波ちゃんとアスカに頼まれてシンジ君を探しに行っただけだぜ」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「こうなったのは、シンジ君がNERVに戻る条件に碇司令の国外追放を出したからだ」

 「駄目もとでね」

 「「・・・・」」 ミサト、リツコ

 「・・・シンジ君は、初号機にも、NERVにも、戻りたくなかった」

 「政府と戦自は、人類存亡のため、泣く、泣く、シンジ君の条件を飲むことで」

 「シンジ君の意に反して、NERV帰還を行ったのさ」

 「シンジ君が閑職で二佐になっているのは、他の組織が手を出さないようにするためだ」

 「それで、あんたの役職は?」

 「俺かい?」

 「政府側のお目付け役さ。秋津司令の監視。少なくともゼーレと切れてしまったな」

 「殺されるわ。加持君。ゼーレは甘くないわよ」

 「国内とNERV本部のゼーレ派は、根こそぎ、片付けたよ」

 「残党処理が残っているだけだ」

 「人一人殺すのにバックアップは要らないのよ」

 「って、ゼーレとも組んでいたわけ、あんた〜!!」

 「・・・知らなかったのね」

 「なに?」

 「リツコ。知ってたの?」

 「・・・・・・」

 「本当は、ゼーレから日本政府を経由して、NERVに送りこまれていたんだ」

 「加持。無節操だと思っていたけど、限度を超えているわ」

 「リツコは、知ってたの?」

 「ええ。碇司令と冬月副司令も知っていたけど」

 「それで、手が出せなかったのよ。バックが政府だけなら生きてはいない・・・」

 「ふっ」

 「・・・・・・・」 ミサト、憮然

 「初号機。有線接続完了。電力供給完了。双方向システム、オールグリーン」

 「コンタクト開始します」  マヤ

 「エントリープラグを映して」  リツコ

 エントリープラグがモニターに映されるとシンジが眠っている。

 どよめきがおこる。

 「心身ともに異常なし」

 「ま、まさか、なぜ?」

 「エントリープラグ排出。パイロットを回収して」  リツコ

 「はい」

  

  

 302号

 綾波レイの病室

 「・・・まだ生きてる」

 レイは、ベットで眼を覚ますと呟いた。

 「・・・碇君」

 レイは、ベットの脇にいるシンジに気付いた。

 「綾波」

 「碇君」

 「・・・ごめん」

 「どうして謝るの?」

 「僕は、綾波のことより、自分の我を通したんだ」

 「それで綾波を危険な目にあわせて・・・」

 「・・・わたしが、碇君を守れなかったから・・・わたしが悪いの、碇君は悪くない」

 「僕は・・・お父さんを・・・」

 「碇司令は、悪くない・・・」

 「わたしが、あの時、負けたから」

 「碇君。碇司令は間違っていない。わたしが負けたから、わたしが悪いの」

 「・・・綾波」

 シンジは、弱々しいレイの手を握った。

 「・・・そうだ。お見舞いで、りんご持ってきたから、食べる?」

 シンジがリンゴを剥こうとすると、マナが先に動く。

 「わたしが剥くわ、シンジ君は、手を握っていたら」

 「あなた誰?」

 「霧島マナ三尉。シンジ君の部下で護衛よ」

 「碇君は、わたしが守るもの、本屋の娘に用はない」

 「・・・でも逃げ出されたでしょう。わたしがいたら、そんなことにならないわ」

 三角関係特有の刺々しい雰囲気が病室に漂い始めた。

 『・・・マナ・・お願いだから・・退いてよ・・・』 シンジ 泣き。

 剥かれたリンゴが出され、

 レイは拒絶する。

 シンジは、取り繕うと必死になった。

  

  

 304号

 惣流・アスカ・ラングレーの病室

 シンジが病室に入る。

 アスカは、頭に包帯を巻き、両肩にギブスをつけている。

 「アスカ。大丈夫?」

 アスカがシンジを睨みつけると、シンジは怖気づく

 「無敵のシンジ様にご足労していたけるなんて、恐縮だわ」

 「実を言うと、今回も暴走だったんだ」

 「僕の力じゃないから。アスカの言うような無敵とは違うんだ」

 「ふうん、父親を追い出して戦自の二佐になったわけ」

 「あんた。これからNERVをどうするつもり?」

 「NERVは日本に接収されたわ」

 「便宜上。NERVを総称するけど、旧NERV職員の待遇はそのまま維持される」

 「使徒殲滅は日本国に継承され、人類補完計画は凍結されるわ」

 「あんた誰よ?」

 「霧島マナ三尉。シンジ君の部下で護衛」

 「ふうん・・・・」

 アスカがマナの値踏み。

 シンジは、そそくさとリンゴを剥き始める。

 「シンジ。あんた。変わった?」

 「そ、そうかな」

 「あんた、バァカ〜!」

 「碇司令を追放して、日本政府にNERVを接収させるなんて大それた事してのけて」

 「“そうかな” は、ないでしょう」

 「お、お父さんが許せなかったんだ」

 「あんたね・・・呆れた」

 「NERVの総司令官と、一介の中学生の鈴原を天秤に掛けるつもり?」

 「それでも、許せなかったんだよ・・・僕にトウジを殺させたお父さんが・・・・」

 「いまさらなに言っても遅いか」

 “呆れる” を通り越して “諦める”

 「・・・・・」

 シンジは、剥いたリンゴを切り分けて爪楊枝で刺すとアスカの口元に持っていく。

 アスカは、怒ったようにリンゴに噛み付く。

 「・・・アスカ・・・怒ってる?」

 「怒ってるわよ」

 「あんたみたいに軟弱で、神経質で、自虐的で」

 「近視眼で、バカで、トウヘンボクのお陰で、命拾いするなんて気が狂いそう」

 「だから、暴走で・・・僕の力じゃないから」

 「むかつくやつ」

 アスカは、出されたリンゴに噛み付く

 「っで! シンジ」

 「なに?」

 「この女と寝たの?」

 「・・・・・・・・・」

 シンジは、動揺する

 「むかつくやつ」

 「あ、いや、その、違うんだ。そ、そのう。そうじゃなくて」

 「だから。そうなんだけど・・・違うんだ」

 シンジは支離滅裂

 「あんた。不能者」

 「違うよ!!」

 「いま喪に服しているのよね。シンジ君」

 「「・・・・」」

 「ふう〜ん。シンジが再起不能にならなかったのは、あんたのお陰ってこと?」

 「そう思ってくれるのなら、嬉しいわ」

 「あんたの顔、見覚えがあるわね。3丁目の本屋にいなかった?」

 アスカは、まるで怒りの矛先をリンゴに向けているように噛み付く。

 「いたかも」

 「少し不自然な視線と、姿勢が良かったから、変だと思っていたけど」

 「目線が近いと、ばれやすいわね」

 「じゃ あと3人心当たりがあるけど・・・あんたと同業者」

 「さぁ でも、解散したから・・・」

 「戦自って、どの程度なのかしらね」

 「そのうち、試してみたらいいわ」

 アスカがシンジの差し出したリンゴに噛み付く

  

  

 ゼーレの座

 「・・・エヴァシリーズに生まれるはずのない。初号機の覚醒と開放」

 「日本政府の離反とNERV本部の接収。どうするか」 01

 「左様。碇ゲンドウ。あの男の失策だ」 04

 「だがあの男でなければ、計画は遂行できなかった」 02

 「碇シンジ。取るに足らない、無機質で凡庸な子供だったはずだ。考慮しなくても良いと」 08

 「それと日本政府からの最後通牒。どう受け取る」 03

 「アメリカ政府、ドイツ政府とも態度を保留している」

 「もとより、世界史、人類史の主流から外れた国だった」 07

 「いま、一度、叩き潰すか」 04

 「いまは、まずい。使徒戦は、続いている」

 「日本政府は全てを台無しにしてしまうぞ。人類補完計画をどうする」 07

 「日本政府は国連からの離脱も辞さないつもりだ」

 「日本政府は使徒殲滅と人類補完計画が対という事をしらない」 02

 「しかし、弱腰だった外交がここで強行に切り替わるなど」

 「国民が日本政府に付いていけないのではないか。圧力をかければ」 05

 「イレギュラーだ。我々の望まないことも起こりうる」

 「ロシア革命。中国赤化。ベトナム戦争もそうだ。日本も兆候はあった」 10

 「エヴァの負担は大きい」

 「ゼーレ離脱を考える主要国も増大している」

 「日本が全額出すのなら手を引きかねない状況もありうる」 09

 「日本政府は、全て計算ずくか」

 「碇ゲンドウ、あの男の失策が、ここまで事態を悪化させてしまうとは」 11

 「日本政府と本格的な外交交渉が始まる」

 「日本のゼーレ勢力は切り崩された。もはや、ゼーレの意を伝えることは難しい」 01

 「あの男は、どうした。こちらが出した指令を無視している」 04

 「あの男の反逆は、明らかだ。処刑部隊を送らせた」 01

 「しかし、事態の収拾。急がねば、我らの威信が低下する」 03

 「わかっている。しかし、我々は、全てを人類補完計画に賭けるよりない」 01

  

  

 総司令官公務室

 秋津ヨシキ、冬月コウゾウ、赤木リツコ、葛城ミサト

 「経理上の問題は、だいたい相続できる」

 「進退問題は、今週中までに済ませて欲しい、NERVの規定にそうつもりだ」

 「政府と戦自から動員と増員がされる」

 「また、組織的な変更で戦自の階級がそのまま、当てはめられる」

 「問題となるのは、碇二佐で上司の葛城三佐よりも上級になっていることだ」

 「そこで、作戦中の指揮権は、葛城三佐が取るという事にする」

 「また、碇二佐は、情報第7特務機関の司令も兼任している。予備役ではないが閑職だ」

 「これといった任務はないが、そこからの出向という形を取る」

 「君たちの待遇は変わらない。任務もだ」

 「最優先は、使徒殲滅。人類補完計画は凍結する」

 「マギが再建され次第。無条件に情報をこちらにリークして欲しい」

 「戦自の情報は、ゼーレに筒抜けですが」 リツコ

 「そんなはずは、なかろう。我々がNERV本部を接収できたのはなぜだ」

 「シンジ君を味方につけていたからです」

 「それと、第14使徒の来襲が重なったためです」

 「そうでなければ、日本政府のメインコンピューターは機能停止」

 「金融・産業・軍事コンピュータも完全にダウンさせていました」

 「証明できるかね?」

 「碇司令の端末に電源を入れて、パスワードにサクランボとカナで入れてください」

 ヨシキは、碇司令の端末の電源を入れて、パスワードを叩いた。

 流れるデーターに青くなるヨシキ。

 「そのデーターは、マギで得た情報です」

 「ゼーレのメインコンピューター・ケルベロスは、別の経路で同様のことが出来るはず」

 「・・・・・・・」

 「彼らが手出ししないのは、使徒が起こすであろうサードインパクトを恐れているだけのことです」

 「・・・戦自のパープル・セブン・システム。政府のカマディ・システムが落とされていたのか」

 ヨシキ。愕然

 「ゼーレのハッキングから情報を守れるのはマギだけです」

 「だが、世界中のコンピューターが、こちらのウィルスに抵抗できるとは限らないだろう。痛みわけだ」

 「戦自や政府が保有するウィルスの内容は知られています」

 「通信ケーブルから切り離されているコンピュータに溜め込まれているウィルスもかね」

 「いえ、ですが、そういう、コンピュータは、ゼーレにも、NERVにもあります」

 「どこも考えることは同じか」

 「ネットワークが破壊されても、予備の単体コンピュータでシステムを継承、単純な方法だからな」

 「だが共倒れになるのは必至だ」

 「マギの情報のリーク。得策ではありません」

 「わかった。当面は、現状を維持する」

 「だが将来的には、マギの増産と複製による日本のネットワーク防衛を検討することになる」

 「予算上の問題が解決すればですか?」

 「そうだ。葛城三佐。君の指揮下にトライデント空中巡洋艦1機が配備されることになる」

 「ATフィールドはないが、そこそこに使えるはずだ」

 「無人で遠隔操作なら、役に立つかもしれませんが・・・」

 「残念だが4人乗りだ」

 「ご覧になりませんでしたか使徒戦を。N2爆弾の直撃すら破壊し得ない化け物ですよ」

 「トライデント級がN2爆弾の直撃を受けても戦えるのなら使えますけど」

 「プラズマ障壁を期待しても無駄です」

 「だがエヴァがATフィールドを中和している間なら通常兵器でも破壊できる」

 「現在の戦力では、すり潰しても構わない。人類の生存が優先する」

 「悲壮すぎるな」  冬月

 「人類の存続は、悲壮な中での希望だ」

  

  

 NERV病院

 302号室

 綾波レイの病室

 シンジは、マナに外してもらい。一人、レイの見舞いに来た。

 「・・・綾波・・・・大丈夫?」

 「碇君」

 レイが微笑む

 「今日、退院だよね」

 「ええ」

 「あの女は?」

 「あ、ああ・・・今日は、外してもらったんだ」

 「そう・・・・」

 「あの・・・綾波・・・家まで、一緒に行こう」

 「ええ」

 

 

 病院の通路

 「碇君・・・もう、いいの? 鈴原君のこと」

 「時々、思い出すけど、お父さんのこともあって・・・落ち着いた気がする」

 「まだ、わからないけど・・・いろんなことがあったから」

 「ごめんなさい。わたしが、使徒に負けて、碇君に負担をかけてしまったのね」

 「良いんだ。僕の方こそ。八つ当たりだよね。最低だよ。僕は・・・」

 「違うのダミープログラムは、わたしが原因。だから悪いのは、わたし」

 「・・・綾波は、悪くない。綾波は悪くないよ」

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・」

 「・・・碇君が、戻ってきて嬉しい」

 「ありがとう。綾波」

  

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第29話 『男の戦い』
第30話 『心のかたち、人のかたち』
第31話 『綾 波』
登場人物