「・・・碇君が、戻ってきて嬉しい」
「ありがとう。綾波」
第31話 『綾 波』
シンジとレイは病院を出ようとすると。リツコが腕を組んで待っていた。
「待っていたわ。案内するところがあるの・・・二人とも車に乗って」
シンジとレイは、リツコに連れられて、NERV本部へ
そして、ジオフロントからセントラルドグマに向かうエレベータに乗る。
シンジにとっては、初めての場所。
隣にいるレイが真っ青になっているのに気付く。
「・・・綾波、大丈夫? 気分が悪いの?」
「・・・・・・」 首を振る
リツコは、含み笑い。
「リツコさん。どこに行くんですか?」
シンジは、レイを気遣う。
「碇司令の遺産。シンジ君がどうするか決めるのよ」
「自分のしでかした事の始末をつけてもらうわ」
「ぼ、僕がですか?」
「ええ、あなたに決めてもらうことにする」
リツコの残忍な目付き。
レイが、震える。
「綾波。大丈夫? 病院に戻った方が良いよ」
「時間がないわ。戦自に全てを知られる前にシンジ君に相続してもらうわ・・・・」
不意にシンジは、別の感覚を感じる。
母親ユイの感覚。
そして、すぐに消える。
それで、十分だった。
目の前の赤木博士と、同等以上の感覚がシンジに広がり、
それまで、大きく見えていた赤木博士の動機が読める。
シンジは、リツコに連れられ、セントラルドグマの巨大な扉の前に立つ。
あまりの大きさに扉とは思わなかったシンジは、壁が目の前で左右に広がると肝を潰す。
そして、正面に巨人が十字架に張り付けられ、槍に刺されていた。
『リリス』
心の内からユイの声。
「シンジ君。これがリリスよ」
「これと第1使徒アダム」
「そして、いま胸に突き刺さっているロンギヌスの槍が南極にあった遺物」
「槍に死海文書と呼ばれる文字が記されていた」
「これを南極大陸の資源調査隊が発見して、ゼーレの手に落ちたわ」
「セカンドインパクトは、ATフィールドで守られたリリスと第1使徒を槍で解体しようとしたとき、起きた」
「当時、死海文書を解読した科学者は、解体に反対」
「碇所長も、葛城隊長も、反対したけどゼーレは強行したわ・・・・」
「碇司令は、ゼーレの眼を盗んで可能な限りの遺物を、この地に運び込んだの・・・・」
「セカンドインパクトの被害が最小限ですんだのは、そのためよ」
「そして、エヴァでサードインパクトを防ぐことができるのも」
シンジは、リリスを見つめながらリツコに案内される。
シンジは、青ざめたレイの手を優しく握る。
剥きだしのコンクリートで覆われた実験室。
壁にはいろんな数式が落書きのように書かれ、
ベットと実験器具が置かれていた。
「・・・むかしの綾波の部屋みたいだ」
レイ、ビクッ!
「そう。むかし、レイが生まれ生活していた場所。レイの深層心理の原点は、ここにある」
そして、巨大な空間に出る。
数体のエヴァが白骨化した状態で転がっていた。
「エヴァ?」
「最初の失敗作。10年も前に廃棄された」
「エヴァの墓場?」
「ただのゴミ捨て場よ」
「そして、あなたのお母さんが消えた場所でもあるわ」
「・・・・・・」
「覚えていないかもしれないけど、あなた見ていたはずよ」
「お母さんの消える瞬間を・・・」
「・・・・・・」
そして、リツコ、シンジ、レイは、薄暗く水槽のたくさんある部屋に入る
「シンジ君。あなたに相続できるかしら・・・・」
リツコがスイッチを入れる。
眩しい光。
そして、水槽が光で照らされる。
裸のレイが数十体が水槽を漂う。
そして、一斉にシンジを注視して微笑む。
「あ、綾波・・・」絶句。
「これがダミープログラムの正体よ・・・ダミープログラムの生産工場」
「そして、レイのパーツに過ぎない」
リツコは、冷酷に言い放つ。
「人は、神様を拾って喜んで手に入れようとした。だから罰が当たった」
「それが15年前。せっかく拾った神様も消えてしまったわ」
「そして、今度は神様を作った」
「それが第1使徒アダムのコアから作ったエヴァンゲリオン初号機」
「初号機のコアの一部をとって、増殖させた零号機と改良型の二号機シリーズ」
「綾波たちは?・・・・」
「碇ユイを初号機からサルベージしようとして失敗したの」
「みんなね。でも魂を持った子は、あなたの隣にいる、たった一つだけ」
「・・・・・・」
シンジは、水槽の綾波達に魅入る。
「シンジ君。お父さんの遺産、どうする?」
「全て初号機に戻してください。あ、2体は、零号機と二号機のコアに戻してください」
「ダミープラグに関する情報は、可能な限り破棄」
「綾波の素性は、知られないようにしてください」
呆然とするリツコと、固まるレイ
「・・・・・・・」
「これで終わりですか? リツコさん」
「ええ」
「少し、歩き回っていいですか?」
「カードが、なければ出入りできないわ」
「綾波のカードなら大丈夫じゃないですか?」
「わかったわ。好きにしなさい」
リツコは、憮然と水槽の部屋から出て行く。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「綾波って、綺麗だね」
シンジは、水槽のレイ達を見て呟く。
「・・・・・・」
突然、レイが服を脱ぎ始める。
「あ、綾波。ど、どうしたの?」
「あれは、わたしじゃないわ・・・・見るなら私を見て」
「えっ あ、綾波・・・見てない、見てないから」
「あ、あの・・・出よう・・ここを出よう」
シンジとレイは、水槽の部屋から出て、巨大な空間を歩き回った。
『あ、何で止めたんだろう。チャンスだったのに・・・』
『バカだ。でも、トウジのこともあるし、なんか気が引ける』
「・・・はぁ〜」
シンジ。ため息
「碇君。わたし、人間じゃない」
「僕は・・・綾波が一番好きだよ」
「うそ」
レイが震える
「嘘じゃない。綾波が、一番好きだ」
「うそ!」
「綾波が、一番好きだ!」
「うそ!!」
「嘘じゃない。一番好きだ!!」
「・・・碇君」
シンジは、レイに抱きしめられる。
「・・綾波」
「私のこと嫌わないの?」
「僕は、綾波が一番好きだ」
「人間じゃないのに?」
「僕は、綾波が一番好きだ」
「碇君・・・碇君・・・碇君・・・」
シンジは、オドオドしながら、レイをやさしく抱きしめる。
シンジとレイは腕を組んで歩いていた。
ジオフロントの最下層セントラルドグマ。
ヘブンズドアとも言うらしい。
おぞましい空間にエヴァの巨大な白骨墓地。
しかし、人の心は、恐ろしい。
互いを好きと確認した初めての場所。
シンジは、レイと腕を組んでいるだけでアトラクションで宝探しをしている気分になれた。
心が弾んで、嬉しく、楽しく、笑みが零れる。
リリスが微笑んでいるようにも感じるのだから重症で精神汚染に近い。
「・・・綾波は、小さいとき、ここで、過ごしたの?」
「ええ」
「誰と?」
「碇司令と赤木博士」
「何か楽しいことあった?」
「楽しいこと・・・・わたしは、使命を持って生まれたの・・・」
「時が来たら、私はアダムの種子とリリスを融合させるための媒体になる」
「ゼーレの起こすサードインパクトを捻じ曲げなければならないの」
「心身の融合を共有を捻じ曲げるのが私の使命」
「綾波・・・それは、お父さんの命令なの?」
「そう」
「駄目だよ。そんなことして綾波が無事で済むはずないじゃないか」
「わからない。でもゼーレは、とても強い」
「全ての使徒を倒した後。力ずくでサードインパクトを起こす」
「それを少しでも、良い方向に捻じ曲げて欲しいって。それが私の使命」
「駄目だ。綾波にそんなことはさせない」
「僕が守るから。サードインパクトなんて、起こさせない」
「碇司令がいない・・・どうしたらいいか、わからない」
「綾波は、僕のそばにいて欲しい。僕が綾波を守るから」
「わたし・・・碇君が好き・・・一番好き・・・碇君しかいない・・・碇君のそばにいていいの」
「うん・・・僕も、綾波と一緒にいたい」
「碇君」
「綾波」
二人は、見詰め合い、知らず知らずに惹かれ。
口付け。
シンジとレイはゴンドラでリリスの体に沿って上がる。
二人の表情は、新婚カップルで、セントラルドグマを一回り、
上に昇るエレベーターに乗る。
「碇君・・・変わった」
「そうかな」
「碇君が、わたしのこと知ったら、碇君に嫌われると思ってた」
「そうかな・・・」
「あの女のせい?」
ドキッ!!
「・・・・」
「碇君がいなくなったとき」
「もう駄目になったと思っていたのに」
「帰ってきたときは、とても強くなって、隣にあの女がいた」
「あ、あのう・・・マ、マヤは、戦自の子で僕が逃げ出したとき、やさしくしてくれたんだ」
「そう・・・やさしい女」
シンジは、思いっきり引きつる。
レイがカードを差し込むとジオフロントへ
レイは、シンジと腕を組んだまま、半壊したジオフロントの本部を歩いた。
再建工事中の職員の視線が集まる。
戦自の士官も時折、見かけて、皆、シンジに敬礼する。
シンジも、NERVに戻ってくる間、
マナに教わった答礼を何度もしなければならなかった。
「これから、どうなるの?」
「変わらないと思うよ。使徒殲滅はね」
「・・・私の使命は?」
「綾波の使命は、僕と一緒にいることだよ」
「碇君」
シンジとレイは、綾波マンションに戻ると、
レイが食事を作ると言い張って材料を402号室に持ち込む。
シンジは、403号室の掃除を始める。
二週間以上、空けていたせいか、埃が薄っすらと溜まっていた。
「・・・シンジ君」
マナが入ってくる。
「マナ」
「掃除。手伝うわ」
「えっ! でも・・・どうして、ここに・・・・」
「へへぇ〜 405号室。私の部屋よ」
「本当なら隣の部屋にしてもらって壁ぶち抜きが良かったんだけど」
マナが部屋の掃除を始める
「・・・・・・」
「むっ 迷惑してる。シンジ君」
「あ・・いや・・そのう・・・・」
「綾波さん。退院したんでしょう」
「うん」
「綾波さんが好きなの?」
マナ悲しげ
シンジ頷く
「ごめん。マナ」
「・・・・・・・・・」
マナ、ムスッ。
「ごめん」
「・・・やっぱり、あの時、襲っていたら良かったな」
「・・・マナ・・・」
「でも、先は長いから・・・・チャンスはあるわね」
「・・・・・・・・」
「昼食、余分にあるけど・・・綾波さんと食べるのね」
「うん」
「今日のところは、引き下がるわ」
マナが出て行くと、シンジは、どっと疲れて座り込む
『こ、これが三角関係か・・・』
『マナに助けてもらったんだけど・・・僕は、どうしたらいいんだ・・・』
『性欲おぼれて、マナとしなくてよかったよ・・・ありがとう、トウジ』
シンジは、掃除が終わると、少し休む。
携帯が鳴り、レイに呼ばれ。
部屋に入ると、海鮮スパゲッティと野菜スープを作ってあった。
料理は、美味く、料理本も何冊かあった。
「碇君。ごめんなさい。待った」
「そんなことないよ。綾波も、僕も、病院から退院したばかりだから」
「今度は、肉料理も作るわ」
「無理しなくていいよ」
「作るわ」
レイは決意している。
「夜も昼も朝もわたしが作る」
「でも・・・・」
「作りたいの」
「うん、ありがとう。綾波」
「勉強も、私の部屋でしましょう」
「うん」
レイが微笑むと、もの凄く、かわいい。
「コーヒー入れるわ」
「うん」
コーヒーの香りが部屋一杯に広がる
「片付けは、僕がするよ」
「駄目」
「でも」
「片付けも、わたしがする」
「でも、なんか、悪いよ」
「いいの・・・・わたし、役に立っていないから・・・・碇君の役に立ちたい」
「そんなことないよ。綾波が、一生懸命やっているのは、わかっているから」
「ありがとう。碇君」
シンジとレイは勉強を始める。
しばらくするとレイは教科書を閉じる
「・・・・・」
「・・・・・」
「1+1は?」
「・・・・2」
「表情が同じ・・・全部、答えが、わかるのね」
「・・・・・・・・・」
シンジは諦めたように頷く。
「わたしより、頭が良いの?・・・・碇君」
シンジは首を振った。
「と、突然。わかるようになったんだ。ごめん」
「碇君。どうして謝るの?」
「わたし、碇君の負担になりたくない。だから謝って欲しくない」
「謝るのが癖みたいになって、気をつけるよ」
「そう・・・もう、勉強しなくても大丈夫ね」
「で、でも・・・綾波と一緒にいたいんだ・・・・」
「わたしも、碇君と一緒にいたい」
「じゃ 何しよう・・・・散歩に行こうか」
「うん」
シンジとレイは、腕を組んで歩く。
「・・・僕は、綾波に楽しんでもらいたいんだ」
「だって、あんなところに住んでいたなんて・・・」
「僕もいやなことがあったけど・・・外に出られたから・・・」
「地上には出られなかったけど・・・ジオフロントには出られたわ・・・」
「ほとんど一人で過ごした・・・」
「碇司令が、お菓子とか、お人形を買って来てくれたこともあるの・・・」
「お父さんは、僕に何一つ買ってきてくれなかった」
「預かってくれていた親戚にお金を渡していただけで辛い思いをしたけど」
「綾波は辛い思いとか、しなかったの?」
「いいえ」
「辛いということ自体。わからなかったんじゃ・・」
「人間じゃないことがわかって怖かった。人は人じゃないものを殺すもの・・・」
「だから、わたしには、碇司令と赤木博士しかいなかった・・・」
「でも碇君が私のこと好きと言ってくれて嬉しかった」
「碇君に嫌われるのが、一番怖かった」
「ぼ、僕が綾波を守るから」
キョトンとするレイ
「碇君の方が強くなったの?」
「・・・・・・」
「碇君は、わたしが守るわ」
「・・・ありがとう」
『本当は僕の方が強くなったんだよ〜 ATフィールドが張れるんだよ・・・使えないけど』
シンジの心の叫び
第3東京市全域に戦自、第7師団が駐留。
ジオフロントの敷地に戦自の施設が建設され、
戦自とNERVの関係は、次第に良好になっていく。
初号機の調査は、慎重な上に念入りで、
S2機関を装備した初号機は無敵だった。
ゼーレも、初号機に敵対できないと考えたのか、
世界の日本に対する戦争は、回避されている。
どこかの偉そうな部屋。
偉い人たちと、ヨシキ、ヒロコ、その他
「何とか、世界相手の戦争だけは、防げたな」
「ゼーレも無限に動ける初号機に気後れしたと思います」
「だが、対人戦に初号機は、使えるのかね・・・」
「分析によると、碇シンジ二佐、彼の気質から役に立たないと思うが」
「ええ、彼は、人を騙したり、盗んだり、殺したりに相当な抵抗があるようですから役に立たないと思います」
「しかし、ゼーレも冒険するつもりはないでしょう」
「事実上。初号機は、最強の兵器」
「零号機、二号機も修復が終われば、攻めようがないのですから」
「零号機の綾波レイ。二号機の惣流・アスカ・ラングレーは、こちらの命令に従うだろうか」
「その点は、碇司令がいないだけで待遇の変化はありませんし、任務の変更もありませんから」
「2号機のパイロットは、ドイツ政府と交渉が必要ですが問題ないと思います」
「だがNERVとエヴァ3機。修復と再建にかかる費用は、国債を発行しない限り無理だな」
「セカンドインパクトのドサクサで、それまでの国債をゼロに出来た」
「しかし、憲法で決められた国債の発行上限を超えてしまうぞ」
「NERV債という形で将来的な技術供与を保障して程度の資本が動かせるだろう」
「すぐには無理だ。それに未知のレベルに関しては、供与すべきではない」
「わかっている。将来的な話しだ」
「・・・これまで未知のエヴァ関連から一線を引いて」
「堅実な技術向上を目指した産業体系が一気に変貌してしまう」
「いや、未知でないレベルで有用な技術もある」
「それだけでも株価が跳ね上がって、10もの産業が興りえる」
「ゼーレがすぐ動かせる太平洋艦隊の動きは?」
「ハワイ沖で静観しています」
「旧式艦の艦隊など、無視してもいいだろう。寄せ集めだ」
「わが国のエネルギー源であるメタンハイドレード収集に損失を与える力も無い」
「その通り、主要国が自国用に建造している新造艦1隻で国連の太平洋艦隊を翻弄できる」
「日本の新造艦が主要国の新造艦の性能に勝っていれば良いだけの事」
「正確には、最強のトライデント機動艦が、だろう」
「NERVでコア装備のトライデントが検討されていると聞いたことがあるが」
「コアは、5個だけしかないそうだ・・・・」
「ATフィールドが張れる可能性があるそうです」
「NERVと戦自の統合の象徴として有用だ。採用すべきだな」
「パイロットの問題は?」
「現在。検討しているがNERV側の管轄だ」
「それにエヴァのパイロット候補は、国家の人的資源である労働孤児ではない」
「こちらが勝手に決めることは出来ん」
「作られた子供達か・・・」
「碇ゲンドウが泥を被ってくれたことに感謝すべきだな」
「政府機関では、実行できんよ」
「だが優秀な男だ。今回は、不運だった」
「しかし、アメリカで、国連本部の使徒研究所の所長に納まった」
「国外追放させるべきではなかった」
「仕方がなかろう。初号機の活躍がなければ、サードインパクトが起きていた」
「むしろ、秋津司令の機転を褒めるべきだ」
「そうだな。しかし、際どい戦いが続いている。心臓に悪いよ」
「タスマニア地下都市建設。予算を検討すべきでは?」
「駄目だ。予算の分散は、混乱を招く。下手して国民に知られたら暴動」
「わかっている。全てが脱出できるわけではない」
「だが、国家の責任として、民族の保険が欲しい」
「海底基地建設は?」
「南半球のオゾン層は、不安定だ。まだ北半球でも、海底の方が良いのではないか」
「検討しているがね。予算不足は痛いな」
「メタンハイドレードの空空間。使えるのではないか」
「ああ、空間だけはな。生存に適した設備投資に必要な予算が天文学的な数字になるだけだ」
「まあいい・・・当面は、NERVとエヴァ再建だ」
「ゼーレが使徒戦後の戦争に備えて5号機から14号機の9機を建造開始している」
「碇ゲンドウ。彼は、勝ち目がないと最初から、ゼーレの人類補完計画を捻じ曲げる程度で抑えようとしていたらしい」
「我々にはその機会もない。徹底的に破壊される」
「使徒戦後は、総力戦だぞ。悪夢、再びだな」
「こちらは、エヴァ3体。ゼーレは建造中のエヴァ9体か、先制攻撃なら勝てるのではないか」
「駄目だ。N2爆弾の集中攻撃を受けるぞ」
「電磁弾道弾の撃ち合いで、迎撃できる数は知れている」
「ゼーレ勢力側もな」
「3対9か、あと予備のコアでトライデント5機建造すれば、8対9で拮抗する」
「エヴァの建造は、無理だな。予算的にも、時間的にも」
「だからトライデントか、勝てるかどうか」
「どの道、エヴァをいまから建造しても間に合わんよ」
「確かにそうだ」
NERV本部ラウンジ
ミサト、リツコ
「リツコ。初号機の凍結は、なしなの?」
「ええ、政府も、戦自も、覚醒したエヴァの危険性を認識できないみたいね」
「直接セカンドインパクトを起こしたゼーレと違うか。実際のところはどうなの?」
「私は、賭けになってしまうから使わない方が良いと思う・・・」
「でも、命令なら、やってみるしかないわ」
「初号機の体積が、1.2倍に増えたから。新しい拘束具が製造出来次第。初号機を就役させる」
「シンジ君は?」
「・・・わからない」
「わからないって?」
「分析不能・・・・わたしが知っているシンジ君と違うわ」
「別人という事?」
「器は同じだけど、少なくとも、脱走前と戻ってきたときのシンジ君は、別人」
「何が、あったのかしら」
「親友の死。父に対する怒りと絶望」
「逃亡生活。霧島マナと接触。戦自との協定」
「父親の追放・・・」
「でも、それだけでは、ない何か・・・・」
「って。かなりの容量よ、それ。人格が変わっても、おかしくないでしょう」
「変わったように見える?」
「あまり、見えないけど・・・・」
「表面的にはね。でも中身が全然違っている」
「心臓に毛が生えているような一面を見せたわ」
「それでいて、レイに対して、誠実に付き合おうとするし」
「霧島マナとの関係は?」
「霧島マナと話したわ」
「シンジ君が立ち直ったのは、霧島マナのおかげであることは確かね・・・」
「心理学の教育を詰め込まれただけある・・・」
「シンジ君は、トウジ君のことがあって、やってはいないけど・・・」
「普通なら、やっていても、おかしくない状況よ」
「不能?」
「いいえ、普通よ。トウジ君のことで、喪に服して我慢していただけね」
「まじめね・・・普通なら逆の行動をするのに・・・」
「タイミングでしょう。トウジ君の死体を見ているし・・・」
「でも、霧島マナと出会っていなければ、再起不能だったはずよ」
「シンジ君も、もてるわね」
「三角関係になるわね。霧島マナ。シンジ君を好きみたいだから」
「アスカが、乱入すれば、さらに混乱するわね」
「アスカが、シンジ君に・・・可能性があるの?」
「アスカは、虚勢を張っているけど落ち込んでいるわ」
「シンジ君が少しでも優しく包み込むような、男らしさを見せれば惹かれるわね。命の恩人だし・・・」
「シンジ君がそうじゃないからフラストレーションが溜まっているに過ぎない」
「さすがに、そっちの方は、鋭いわね」
「シンジ君の内面が強くなっているとしたら、惹かれるかも知れない」
「あの碇司令と鍔迫り合いをして、国外に追放したんだもの・・・」
「惹かれるものを感じるはずよ。それが八つ当たりな感情でもね」
「そうかもね」
402号室
朝食後。
渋々のシンジがドアの外で最後の抵抗。
「・・・綾波。学校に行くの?」
「ええ、碇君と一緒に学校に行きたい」
「学校。行きたくないな・・・」
「碇君は、わたしが守る。そばにいる」
「・・・トウジのことで、辛いんだ」
不意に人の気配を感じると、シンジの隣にマナがいる。
「シンジ君。綾波さん。おはよう」
「見て、朝6時に起きて、シンジ君に見せるために準備したわ」
マナがクルリと回転する
「お、おはよう。マナ。に、似合うよ。とても・・・」
「おはよう」
「行こう。シンジ君。綾波さん」
シンジは、レイとマナに挟まれる。
レイとマナの間で、視線が絡む。
「うん」
シンジは、この状況で学校に行くのに気が引ける。
トウジのことで辛い思いをしているのは、自分だけではない。
それなのにレイとマナを左右に置いて学校に行くと、なんと言われるかわからない。
特にマナと一緒にいるのは、危険でケンスケ、ヒカリも気がかり。
そして、ケンスケやヒカリのことで、綾波に尋ねてもたいした情報は入らないと見当がつく。
レイの守るという概念は、精神攻撃なものでなく、物理的行使。
“学校に着く前に一人になろう” シンジは、そう、心に決める。
ふと気付くとレイの手がシンジの腕を持っていた。
マナに取られまいとしている仕草が、とてもかわいい。
「シンジ君。学校の案内。お願いしていい」
「・・・うん。いいよ」
シンジは、マナの借りが大きすぎて、断れない。
恐る恐る、レイの方を見ると無表情。
「マナは、どこの学校に行ってたの?」
「第弐中。2年B組。本屋の娘をやっていました」
「へぇ お父さんとお母さんがいるんだ」
「偽装家族だから本当の親子じゃないの。わたし、労働孤児だから」
「よ、良く知らないけど。大変だね」
「周りも、みんな労働孤児だったから・・・」
「でも、運の悪い子は、かわいそうだけど、わたしは、才能あったみたいで待遇は、普通かな」
「あ、あのう。マナ。学校では・・・そのう・・・・」
「親が同じ会社の子にしておいてね。幼馴染で許婚という設定だと嬉しいけど」
「んん、なんか妬まれそうだから・・・」
「じゃ 同じ会社だけでいいや、護衛役だし」
「そ、そうだね。これ以上、妬まれたくないから」
「ふ〜ん、シンジ君。性格の変わり目なんだけどな」
「ど、どうして?」
「いろいろ、あったから。もっと、心臓が強くなるか、不安になると思ったけど・・・」
「妙に自信があるわりに、以前のように繊細なのはなぜ?」
「私の計算ミス?」
「さ、さぁ・・」
「精神的な後ろ盾が、あるのかしら?」
「あ・・・きっと、マナに助けられたかもしれない」
「本当! シンジ君。そう思ってくれる・・・うれしいな♪」
「う、うん・・・・ああいう風にやさしくしてくれたのは、マナが、初めてだったから」
「・・・それでも綾波さんの方が好きなの?」
・・・・・時間が止まる・・・・
3人の間に緊張が漂う。
「・・・うん」
そして、時間が動き出す。
右側から失望。左側から安堵の息が漏れる。
「私。負けないからね。綾波さん」
「・・・・・・」
通学路は、戦車や装甲車が多く。
戦自に支配された都市という雰囲気が強かった。
学校
シンジが、教室に入ると、よそよそしい雰囲気が漂う。
トウジの死とシンジが無関係でない。と、わかっているのか、それぞれの反応。
同情する者。
非難するような態度を見せる者。
無関心を装う者に大きく分かれる。
レイは、いつものように他者に関心を見せず。
シンジは、教室内の空気に動揺する。
「よっ! シンジ。元気だったか?」
「う、うん」
シンジは、ケンスケの雰囲気が、それほど変わっていないのにホッとする。
「・・・NERV本部。半壊したんだろう」
「戦自に占領されたみたいだし。実のところ。どうなったんだ」
「街中に戦自がウロウロしている・・・」
「政府も、テレビも、大騒ぎだし、親父の端末見ても、状況がまったくわからない・・・」
「国連軍と戦争になるんじゃないかって」
「使徒と戦うのは変わらないよ」
「親父が、ぼやいてたよ。本部半壊だけじゃなくて、備品購入先に影響が出ているらしい」
「そ、そうなんだ」
「大変だったな。シンジ」
「うん」
戦自占領後の第3東京市
転出転入が激しくなる。
クラスメートの多くが転入生の霧島マナを政府・戦自関係者の子弟と見当をつける。
それでも、霧島マナのかわいさと明るさは、鈴原トウジの死と直面していた教室を明るくさせる。
綾波レイと惣流アスカの二大美人より劣っても、社交性が高く、
たちまち、ムードメーカー、人気者になった。
「んん、霧島マナか・・・かわいいな〜・・・シンジ」
ケンスケは、ひそかにカメラで追う。
『一緒に寝たとか、風呂に入ったとか言ったら、殴られそうだな』
「そうだね」
「しかし、混乱していると言っても俺の情報網を掻い潜って第二中からの編入か。何かあるな」
「そうかも」
シンジは、適当に情報通のケンスケに合わせる
「戦自の関係者だと思うけど。あまり近付かないほうが良いんじゃないか」
「そ、そうかな」
シンジは、とぼける。
そこにマナがやってくる。
「シンジ君。学校の案内。お願いして、いい?」
「・・・・・・」 シンジ。タラ〜
「・・・・・・」 ケンスケ。むっ!
「シンジ君。行こう」
マナがシンジの腕を引っ張る。
「短い付き合いだったな。シンジ君」
ケンスケは、そういうと窓辺に向かって遠くを見つめる。
シンジは、マナに腕を組まれ、教室中の視線を集めながら連行されて行く。
そして、視線がレイに集まる。
レイは、われ関せずで難しそうな本を読んでいる。
その後、教室中がシンジの不実とレイへの同情。
親友トウジの死も間もないのに、と、嫉妬が爆発。荒れ狂う。
アスカ、ヒカリ、チアキ
「・・・ねえ、今の見た」
チアキが呆れ顔。
「綾波さん。かわいそう」
「ふん。バカシンジのくせに」
「霧島マナ。やるわね。来て、早々のあのタイミングと掴みのよさ」
「そういう問題じゃないでしょう・・・」
「霧島さん、碇君に綾波さんがいるを知らないからやっていると思うけど」
「それに碇君も不実すぎるよ。彼女がいるんだから断ればいいじゃない」
「綾波さんが教室にいるのに引っ張られていくなんて」
「碇君の優柔不断は、変わってないみたいね」 チアキ
「・・・そのことは、触れないでおきましょう」 ヒカリ
「でも、碇君と霧島さん背丈で釣り合いが良いし。これは一波乱あるかも」
「ヒカリ。霧島さんに釘刺さなくていいの」
「いまのところ、そういう気分にまでなれないの・・・碇君がらみだと」
「冷静でいられなくなる?」
「目が死んでるよ。ヒカリ」
「・・・・・・・」 ヒカリ
「まあ、ヒカリが、どうのこうのしなくても、周りが勝手にやりそうだけど」
「ねえ、シンジの話しから離れたいんだけど」
「そうね。帰りにカラオケにでも行くか?」
「カラオケ。パス」 ヒカリ
「そ、そう、だったわね。しょうがない、わたしがタイヤキ奢るわよ」
「やった♪」
第30話 『心のかたち、人のかたち』 |
第31話 『綾 波』 |
第32話 『シンジとレイ、そして、アスカとマナ 1』 |
登場人物 | |||