月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『不戦戦記』

 

 

第02話 1931年 『暴走と粛清』

 桜会のクーデター計画(3月事件)国家反逆未遂が発覚した。

 橋本欣五郎中佐、長勇(ちょう いさむ)少佐、

 田中清少佐、

 小磯國昭軍務局長、二宮治重参謀次長、

 建川美次参謀本部第二部長、

 社会民衆党の赤松克麿。

 亀井貫一郎、右翼思想家の大川周明等が逮捕される。

 この日本軍クーデター未遂騒ぎは日本の世情を震わせ、

 暗殺未遂でキレていた濱口首相と政府は、さらに激怒、

 海軍を予算増額で味方につけ、陸軍に圧力をかけることに成功する。

 そして、天皇陛下の威光

 “その者達は皇軍ではなく、無法反逆の徒である” と合わせ、

 桜会は孤立無援のまま、とどめを刺されてしまう。

 巨大官僚組織である陸海軍の対立を利用し、飴と鞭の両方が必要だったが・・・

 この大量逮捕劇で桜会は解体され、号外が流れた。

 喫茶店

 「・・・やれやれ、陸軍がクーデター計画で政府を恐喝かよ」

 「まるで狂犬だな」

 「戦国大名と変わらんじゃないか、日本は、全然、近代化しとらん」

 「日本は、むかしから武制君主制だよ」

 「明治維新も薩長同盟が天皇を祭り上げ、力付くの倒幕だから民族病だな」

 「めんどくせぇ 総理を将軍にして国軍にすればいいんだよ」

 「政府が権力と権威の両方持つのは怖過ぎるから、権威と権力を分けるのは悪くないよ」

 「だけど、軍需産業だけ儲けて財政は火の車だしな」

 「その借金も国民に押し付けて軍備拡張だろう」

 「国を守るからで金寄こせで、庶民は見返りも無し、食えなくなった庶民は首をくくるしかないな」

 「軍は、でかくなり過ぎたんだよ」

 「バカ野郎に武器を渡すと、国権が乗っ取られるな」

 「だけど陸軍は、今回の不始末で海軍預かりか・・・」

 「まぁ それくらいの飴がないと海軍も動かないし」

 「陸軍も軍事力で逆ギレしそうで怖いからな」

 「だけど、地主から土地を取り上げて農地改革だと」

 「それだと、地主と家主が収まらんだろう」

 「このままだと水飲み百姓が立ち上がって、共産革命だよ」

 「じゃ 戦争して、水飲み百姓に死んでもらわないと・・・」

 「錦の御旗を後ろ盾にか」

 「ふっ」

 

 

 上がいなくなると下の者が繰上がりで地位が上がる。

 そして、陸軍の不祥事による大鉈の人事刷新は海軍に都合が良かった。

 密約で海軍系ポストの比率が増え・・・

 赤レンガの住人たち

 「農地改革の手数料で10パーセントが軍事費に還元か・・・」

 「一兵卒を味方につけて、無茶苦茶しやがって」

 「どうする?」

 「濱口首相狙撃の件で、やばいんじゃない?」

 「んん・・・3月事件で皇軍も地に堕ちる」

 「もう、半分堕ちているよ」

 「俺たちは繰り上がり出世で良かったけどね」

 「確かに農業生産を上げるなら農地改革だよな」

 「俺んち地主だよ」

 「俺んちもだ」

 「政府も、きたねぇなぁ」

 「貧乏小作人上がりの将兵が色めき立っているよ」

 「手が付けられねぇ」

 「でも、農地の細分化は非効率だよな。徴兵でも非効率的」

 「自作農は生産性が上がるよ」

 「だけど、人間は性悪だからね、水路妨害やら、道の塞ぎあいやら」

 「農民同士の囲い込みやら、農地の奪い合いとか」

 「意地汚い足の引っ張り合いとか、平気でやるし」

 「それは水利権と道路と田畑の区画整理とか振り分け方だろう」

 「えげつない連中は、軍で強行できるよ」

 「徴兵どころか、尉官以下は、人生設計も立てられないから、お先真っ暗」

 「人を撃ちたくて、うずうずしてるし」

 「いまの小作人制度は限界だよ」

 「食えないやつを軍隊に集めて半島とか、満州とかだからね。集票にもなるし」

 「地主は封建的な小殿様か・・・」

 「もう、地主の時代じゃないよね」

 「明治維新のとき、やったら良かったんだ」

 「敵を増やしたら、明治維新が潰されていたよ」

 「問題は、どう土地を振り分けるかだよな」

 「陸軍はいいって?」

 「いいんじゃない」

 「一兵卒は小作人出身ばかりだし」

 「対外膨張しないなら、これしかないよ」

 「左翼とか、共産主義扱いで潰せないの?」

 「んん・・・狙撃に失敗しちゃったからね」

 「政治ポイントを使われるとギリギリやられちゃうね」

 「濱口総理。運の良いヤツ」

 「ヘタレなんだよ。誰が頼んだの? 桜会?」

 「さぁ 右翼勢力のどこかって噂だけ」

 「噂かよ。ただのハネッ返りバカじゃないの?」

 「どこぞの狂犬のおかげで、もう不祥事を起こせねぇ」

 「身内同士のかばい合いも無理だな」

 「狙撃失敗で首相が生きているんじゃ 話しにならんよ」

 「黄昏の地主制度か・・・」

 「とにかくやるしかないんじゃない」

 「地主を漁れば軍事費に転用できるし」

 「んん・・・背に腹は・・どっちも辛い・・・・・」

 「陸軍予算を削って、海軍予算増額はいいけど」

 「軍縮条約中だからな・・・」

 「600トン以下は無制限だよ」

 「あとは・・・・飛行機か」

 

 

 そう、日本は正義より損得勘定。

 強者の論理がまかり通り。

 弱者は事勿れで押し切られていく社会。

 そして、濱口首相暗殺未遂で天秤が傾いていく、

 農地改革で徹底すべきは、水利権、道路整備、区画整理。

 小作人の後押しを受けた陸軍将兵の銃口が地主に向けられ、

 土地が奪われていく。

 ヾ(`□´)ノ〃  「皇軍が共産化してどうする〜!!!!」   

 ヽ( `Д´ )ノ    「うるせぇえ〜!!」

          「土地よこしやがれ〜!!!!!」

 ヾ(`□´)ノ〃  「貴様ら軍人貴族と官僚貴族が裏切りやがったな〜!!!!」   

 ヽ( `Д´ )ノ    「地主貴族が一番弱かったんだよ!!」

          「諦めやがれ〜!!!!!」

 ヾ(`□´)ノ〃  「ふざけんな!! 泥棒!!」

          「資本家と結託しやがって、この人でなしが〜!!」   

 ヽ( `Д´ )ノ   「やかましいワイ!!」

          「逆らえば、こうだ〜!!!!!」

 がちゃ! がちゃ! がちゃ! がちゃ! がちゃ! がちゃ!

 日本本土で始まった農地改革のしわ寄せは、半島へも波及していく。

 なぜかというと・・・・

 ヾ(`□´)ノ〃  「土地なら朝鮮人から奪いやがれ!!」   

 ヽ( `Д´ )ノ    「わかっとるわい!!」

 そして、その皺寄せで、朝鮮人は満州へと押し出されていく。

 

 万宝山事件

 押し出された朝鮮人農民が満州に用水路を作ったところ、

 中国人の土地だったため中国人400人が朝鮮人180人を襲撃。

 しかし、あとから入植した朝鮮人50000人が中国人400人を押し返して土地を奪ってしまう。

 この事件、日本警察は、双方の数が多過ぎて収拾がつけられず傍観。

 奉天軍が動くが朝鮮人の数も多く、

 さらに半島から押し出された朝鮮人が労働者になると認識も変わる。

 また、奉天軍は、戦いになると日本軍やロシア軍に付け入られ、

 ハリマン資本に退かれると計算し、

 結局、関東軍と奉天軍の交渉で、中国人と朝鮮人との間で労働契約が行われ、

 収穫の一部が中国人に支払われることで、落ち着いていく。

 

 

 日本 とある農地

 「お前どうするんだ?」

 「売るよ。そして、東京に行く」

 「俺に田んぼ貸せよ。収穫の半分を送ってやるから」

 「資本主義っていうのは、ちょぼちょぼ、使うんじゃないよ」

 「一度に使うのさ」

 「そうか・・・」

 「もう、買い主を見つけているんだ」

 「いくらだ?」

 ひそひそ・・・

 「おお〜!」

 「この辺が発展すれば、もっと高く売れるはずだから」

 「お前も適当に見限って来いよ」

 「おれは、土が好きなんだ」

 「そうか・・・」

 使われる側で惰性で米を作っていた者が、我が土地で米を作ると意識が変わる。

 自作農が増えると有能な者は我が土地で、おいしい米を作り、

 積極的に収穫を増やそうとする。

 土地の売却など資産運用を行う者も現れ、所得に跳ね返る。

 愚者に資本を持たせると浪費し、

 利に聡い者が資本を持つと数倍に膨らませていく、

 農地転売は不況で淀んでいた経済を活性化させ、

 収穫を増した米と作物が価格競争で物価を引き下げ、内需を拡大させていく、

 金本位制で海外に流出していた “金” が内需拡大に引き止められ、

 海外投資を呼び寄せていた。

 

 

 日露戦争後、

 日本は、南満州鉄道の北端、長春までを権益にしていた。

 その後、ソビエト革命とシベリア出兵で権益線は北上し、支配圏は満州全域に及ぶ。

 しかし、ソビエト連邦がロシアを継承して極東で勢力を押し返し、

 ソビエトは、中国軍閥と連携しつつ満州の勢力を回復し、

 1925年   日ソ基本条約で日ソ国交樹立。

 1928年   張作霖はハリマン資本で

        2本の並行線(打通線・奉海線)を奉天に建設。

        満州鉄道を挟む様に鉄道が建設されてしまう。

        6月 

        関東軍は張作霖が乗る列車を爆破し、

        殺害、(張作霖(ちょうさくりん)爆殺事件)。

        首謀者の河本大作大佐は予備役に回される。

 1929年  ソ連は、張学良のソ連権益侵害(中ソ紛争)で、中国軍を撃退。

        長春以北の鉄道権益を回復。

 

 青々とした大空と、豊かな黒土が地平線の彼方まで広がっていた。

 満州の荒野は乾燥し、短い春と夏、草木が咲き乱れ、

 秋に朽ち、

 冬は、零下30度以下で吹雪き、灰色の世界となった。

 雪は、固まるより速く、凍土と雪原を転がっていく、

 中国大陸は、軍閥の群れが戦国大名のように点々としていた。

 軍閥は地域住民の食料を奪って大きくなった匪賊の総元占めでしかなく、

 資源の転売、住民からの搾取、アヘン売買など阿漕な事業で私利私欲に走っていた。

 国家基盤を支えるべき公序良俗な中国官僚は片手で数えるほどしかおらず、

 近代化整備は遅れ、不正腐敗で治安が崩壊し混沌とし、荒ぶる無法な匪賊の世界が広がる。

 

 満州最大軍閥は、張学良率いる奉天軍で、

 正規軍(25万以上)、不正規軍(20万以上)で構成されていた。

 相手が弱いと判断すればソビエト権益さえ奪おうとした。

 日本は、満州に1個師団を配置し、奉天に将兵4000、

 満州鉄道を警護する独立守備隊約4000人を沿線に配備して守らせていた。

 満州鉄道   旅順--(日本の利権、約430km×幅60m)--長春

 守備隊の警護は430kmで4000人で、換算すると、1km当たり9.3人。

 1日24時間を2交替だと1kmを4.5人で守ることになり、3交替だと1kmを3人弱。

 路線を守ろうとすると絶望的に少なく、

 駅と機関車車両などの要衝を守るのも困難に思えた。

 ソビエト権益の東支鉄道がチチハルからウラジオストックまで近道できる美味しさがあったのに比べ、

 日本が莫大な国家予算を投資した行き着く先は、袋小路の奉天だった。

 奉天軍は地の利があり、

 不正規軍、馬賊、匪賊に襲撃されても日本軍は目が届かないのである。

 これが日露戦争で、日本が総動員兵力109万人を投入し、

 戦死傷者38万人、死亡者8万7983人の損失を出して得た満州利権だった。

 因みに日露戦争中、

 白米主食とした陸軍は、脚気患者25万人と病死者2万7800人も含んでおり、

 死んでも死に切れない。

 損失の割りに得た利権が少なく割損といえた。

 さらに29年以降、

 ハリマン資本は、奉天軍閥の張作霖・張学良親子と結託。

 日本権益の満州鉄道に対抗し、2本の並行支線を敷いて圧力を掛けていた。

 張学良は、アメリカ資本の支援を得ると、遠慮していた日本権益満州鉄道に圧力を掛けた。

 匪賊を使って、日本人を襲撃するようになると、

 日本人は、命大事と満州から引き始める。

 最初、満州鉄道に期待する日本国民は多かったものの、

 時が流れ、理性的になり、客観的な見方をすると、

 派手な戦功で積み重ねられて得た戦利品は、不良債権でしかなかった。

 そして、大多数の農民層は、農地改革で一息つくと、

 満州鉄道に期待するより、

 我が土地大事で、赤字ばかりの放漫財政を続ける納税を嫌いはじめた。

 

 

 日本陸海軍は農地改革遂行で地主の支持を失い、

 土地持ち農民が増えると貧民層を徴兵し難くなって焦りはじめる。

 水飲み百姓なら赤紙で徴兵しても地主は、代わりを見つけるだけ、

 しかし、自作農だとそうも行かない。

 土地持ち農民や資本家が増えると、

 満州利権に希望を失い、外征する意欲も失っていく、

 土地を得た水飲み百姓は、軍事費より現実の社会資本を求め、

 軍事費を押さえる勢力へと変わっていた。

 

 赤レンガの住人たち

 「政府は不拡大だと」

 「無能な日本政府の言うことなんぞ、聞けるか」

 「しかし・・・」

 「五月蝿い」

 「このままだと日本は、満州権益だけに押さえ込まれ」

 「いや、座して待てば、満州鉄道を奪われる」

 「中国軍閥官僚の妨害と並行線の打通線・奉海線で満州鉄道は赤字」

 「馬賊や匪賊から日本人が受けている被害は、確かに多い・・・」

 「ハリマンめ」

 「張学良と組んで満州鉄道を囲い込みで採算不能に追い込んで根こそぎ奪うつもりだな」

 「ですが・・・」

 「内地は、現場をわからぬのだ」

 「はぁ 日本国民は、農地改革で満州鉄道から退いているようです」

 「このまま、小さな権益保護では、軍事費が削減され」

 「日本帝国は、欧米列強に押し潰されてしまうわ」

 「ですが、勅命が・・・」

 「やるぞ」

 

 そして、軍縮に焦った軍部が暴走を引き起こしてしまう。

 柳条湖事件

 1931年(昭和6年)9月18日午後10時20分頃

 奉天の北方約7.5kmの柳条湖で、南満州鉄道線路が爆発破壊された。

 関東軍は、東北軍(張学良)の破壊工作と断定し、

 直ちに行動を起こし、中国東北地方の占領行動に移った。

 柳条湖事件を口実に関東軍15000は、奉天軍250000を蹴散らし、満州を制圧していく。

 

 東京 首相官邸

 関東軍は、独断専行で満州全域を制圧。

 「な、なにやってんだ! 関東軍は!」

 「関東軍は、破壊工作を張学良によるものと」

 「中国人のほとんどが匪賊だとしてもだ」

 「陸軍も張作霖爆殺事件を起こしているだろう」

 「列車妨害で息子の張学良に冤罪だとしたら見境無しですな」

 「このままだと、皇軍は犯罪集団。無法集団ですよ」

 「不拡大と言ったはずだ。もう我慢ならん!」

 この頃、日本政府内で、

 北満州ソ連権益を1億から1億5千万程度で買い取れるはず、と声があがる。

 しかし、皇軍の独断専行を許せば軍規が失われると、

 政府は、天皇お墨付き “処断権” を笠に軍部の圧力を押し返していく。

 そして、陛下の “軍紀を失った関東軍は、逆賊である” と詔を発し、

 政府も、満州鉄道守備隊を反乱軍と宣言。

 武装放棄と無条件降伏を勧告。

 関東軍は、自作自演の柳条湖事件で満州を奪おうとした反乱軍として扱われ、

 腰砕けとなって権益線まで後退させられ、

 送られてきた第二次満州鉄道守備隊に降伏させられる。

 奉天軍とソ連軍は、関東軍が本国からの信頼を失って弱腰になったと計算し、

 さらに高飛車に出て、日本人に圧力を掛けると、

 日本人慰留民は、日本へ帰還し、

 日本の南満州満州鉄道経営は、末期的な状況へと追い詰められていく。

 入れ替えられた日本軍は満州支配どころか、苦しい状態で忍従を強いられ、

 満州鉄道と日本人保護に集中するよりなかった。

  

 柳条湖事件の首謀者と、

 その後の独断専行は、国家反逆罪に問われ、

 数百人が逮捕される。

 日本型ムラ社会は事勿れ、馴れ合いで成り立つ。

 しかし、一旦、村八分にされると、

 死ぬまでいびり倒され抹殺される、

 関東軍高級参謀板垣征四郎大佐、

 関東軍作戦参謀石原莞爾中佐、

 奉天特務機関補佐官花谷正少佐、

 張学良軍事顧問補佐官今田新太郎大尉。

 河本末守中尉。

 関東軍司令官本庄繁中将、

 朝鮮軍司令官林銑十郎中将、

 参謀本部第1部長建川美次少将、

 参謀本部ロシア班長橋本欣五郎中佐。

 ほか尉官以上が処罰の対象にされていく。

 「張作霖と張学良は極悪な匪賊の親玉で外資を導入し、満州鉄道の破壊活動をしていたのだ」

 「日本の権益が脅かされていた」

 「関東軍は、日本人と日本の権益を守ろうとしたのだ」

 関東軍の悲痛で切実な声は、農地改革が進む日本人の心に届かない。

 もちろん、小作人上がりの一兵卒も同情せず。

 関東軍は、皇軍の軍規を破壊したことで処罰された。

 陸軍上層部も大量の逮捕劇で、一新されてしまう。

 

 

 農地改革で農業生産が拡大すると、一部が軍事費に転用されるため、

 軍部の農政干渉が行われる。

 軍人を徴兵するより、

 農村部で農業生産してもらった方が軍事費に反映されるため、

 兵士を増やすより、武器を増やし始める。

 本当なら国債発行と軍票でまかなった方が割得なのだが、

 軍部は暗殺未遂事件で弱みを握られて強く出られず。

 陸軍の師団総数は17個のままだった。

 

 

 とある部屋

 高級将校が長々と弁舌。

 そして・・・・

 「・・・今をおいて皇軍を動かす時期はありません」

 「天皇、政府、国民を自作自演で騙すようなことをして、そのようなことを言われてもの」

 「・・・・・」

 

 

 二等兵は月6〜9円。

 一等兵は月9円 × 12 で、

 兵士の年間給与は 72円〜108円。

 近代化するには、兵士を減らすしかないという単純な計算ができた。

 1個師団 (12000 × 108)                兵士の給与129万6千円   平時

 1個師団 (12000 × 108)  + (13000 × 72)  兵士の給与223万2千円   戦時

 他、将校以上の給与。

 馬7000頭

 38式歩兵銃は80円。銃剣10円70銭。

 ヘルメット8円55銭。99式軽機関銃1200円・・・・

 赤レンガの住人たちは、そろばんを弾いていた。

 「ちっ 関東軍の馬鹿共が!」

 「南満州の権益線まで退いただろうな」

 「ああ、だが張学良の手引きで、満州の外資参入はとめようがない」

 「馬鹿が恥をかかせやがって」

 「だけど膿を出せてよかったよ」

 「師団を旅団に減らして」

 「兵士を農村に返せば農業生産が増えて、軍の近代化も進みやすい」

 「しかし、農作物の輸出で外貨は稼げぬよ」

 「つまり軍の近代化はできん」

 「それでも兵員を減らせば、その分の予算で兵装を増やせるだろう」

 「・・・・」

 「上層部を大量に減らしても、まだ派閥で荒れるぞ」

 「師団を減らすと大変じゃないのか」

 「宇垣軍縮以上だろう」

 「宇垣が中途半端だったんだ」

 「いや、当時はあれが限界」

 「でも飾りの師団とポストを増やすより、装備を近代化しないと負けちゃうよ」

 「浮かした予算を振り分ければ、どうにかなるけどね」

 「関東軍が退いて、その後の奉天軍は?」

 「再建しつつあるよ」

 「しかし、負けて懲りているのか、大人しいようだ」

 「たぶん、数ヶ月くらい大人しいかも」

 「ソ連の方が厄介かな」

 「一応、匪賊狩りということにして、利権は返還している」

 「何とかなるだろう」

 「ソ連と戦争にならなければいいよ」

 「ところで、あの五月蝿いのはどうした?」

 「現状部隊を維持したまま、軍票で近代化とか騒いでた将校は?」

 「死んだよ・・・誰かに撃たれて」

 「“勅命があっても、陛下を諌めて初心を貫く” とか言ってたやつか」

 「思うけど、あのバカたれ将校より、陛下の方が頭良くないか」

 「あはは・・・」

 「自分よりバカに諌められるなんざ、滑稽過ぎるよ」

 「日本軍じゃ 良く見る光景だね」

 「あいつだろう。総理大臣を狙っていたの」

 「たぶん、口封じとか、尻尾切りだね」

 「でも、満州鉄道で戦車が要るんじゃない?」

 「だれか、出世と権力捨てて近代化の生贄になってくれないかな」

 「んん・・・1トン1万円で計算すると・・・」

 「航空機が2万円」

 「中型戦車で15万くらいで、軽戦車は7〜8万円くらいか」

 「戦車は、大雑把なりに割に厚みがある」

 「工作機械がしょぼいから、まじめに作ると、すぐにガタが来るよ」

 「それは、工作機械の方?」

 「それとも戦車の方?」

 「どっちも」

 「どっちに負担をかけるかにもよる」

 「工作機械に負担をかけると戦車の質は良くなるけど」

 「工作機械の消耗率は高くなって、戦車の数が減る」

 「工作機械の負担を減らせば戦車の質は低下するけど」

 「工作機械の消耗率は低くなって、戦車の数を揃えられる」

 「軍縮したんだから質で良いんじゃない?」

 「満州の大地で壊れると勿体無いよ」

 「じゃ 装甲列車でやろうよ」

 「どうせ利権が路線限定なら、それで十分」

 「ていうか、割損だよ」

 「ソビエトは東支線でチチハルからウラジオストックだろう。楽でいいよ」

 「日本に中国領を通過する意味がある?」

 「鉄と石炭が取れる以外にないよね」

 「満州移民は国家の鉄と石炭のため、殺されているんだな」

 「中国人に簒奪されに長春まで何しに行くの? って感じ」

 「損益比怪しいし」

 「日本人の被害者を足したらマイナスだろう」

 「偽善ぶらないで、歴代中国王朝みたいに殺戮したいよ」

 「取り合えずさぁ」

 「半島と満鉄は押さえるとして」

 「国内の不満は、農地改革で一先ず納まりそうだな」

 「しかし、地主から土地を取り上げたあとも人口が増えていくけど」

 「どうするの・・・次・・」

 「そのときは戦争か」

 「そのときは、もう一度、資産の再分配構築なんじゃない」

 「子孫繁栄か・・・」

 「紛争の元でも、種の本能というか、エゴだね」

 「とりあえず」

 「国内の農地改革で水利権、道路整備」

 「区画整理も進めて、紙幣も増刷できたし」

 「経済が回って食える人間が増えたから時間稼ぎできたと思うよ」

 「まぁ 師団を縮小しても自作農の受け皿はできたし」

 「水稲農林1号の評判が本当なら寒冷地でもいけるし、反発は小さいよ」

 農地改革、緊縮財政で軍人の数が減ると、

 日本の軍国主義化は押さえられていく、

 

 

 

 皇居

 30歳の壮年と総理大臣がお茶をすする。

 「今年も良いお茶が採れたの」

 「まったくです」

 「日本のお茶は、外国では売れるのか?」

 「17世紀頃までは、緑茶と抹茶が飲まれていたようです」

 「ですが輸送中に完全発酵しやすかったのでしょう」

 「紅茶が好まれたようです」

 「やはり、主食に合う飲み物が好まれるのかの」

 「はっ、陛下の見識にはとても及びません」

 「時に納入品の種類は増えないものかの」

 「何か探して宮内庁に伝えます」

 「ですが、献上品も、納入品も、安全第一ですので」

 「世のお金持ちのは、余程、自由を楽しんで生きておるの」

 「胸中お察しいたします」

 

   

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 政府は、天皇から貰った処断権を武器に

 不祥事を起こした将兵を粛清していきます。

 

 

 日本軍の農地改革関与は、予算と絡んでいるのか、

 えげつなかったかも、

 いったい、何をしたんでしょうか。

 天皇は、国内・権益内に限定して政府に協力し、

 軍を動かす勅命を与えたようです。

 

 万宝山事件

 背後にいろんな思惑があったようですが、

 朝鮮人の無断許可の水路建設が原因。

 というか、中国官僚の仕事ぶりだと良くある話しで・・・いまも同じ。

 史実と違って、

 満州に押し出されてきた朝鮮民族50000人は、数で圧倒し、土地収奪。

 仕方なく、奉天軍と関東軍が間に入って、

 中国人と朝鮮人の労働契約(水飲み百姓)です。

 満州の人口ですが

 1908年1583万人。

 1931年4300万人。

 1941年5000万人なので、

 日本資本の投機で満州は住み良くなったようです。

 土地の大きさで言うと、まだ余裕があり、でしょうか。

 

ランキング投票です。よろしくです。

NEWVEL     HONなび

 

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第01話 〜1930年 『手負いの獅子』
第02話 1931年 『暴走と粛清』
第03話 1932年 『激情と自制』