月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『不戦戦記』

 

第03話 1932年 『激情と自制』

 中華思想は、中国歴代皇帝が自らを天子とし、中国を世界の中心と定め、

 周辺地域の蛮族を東夷、西戎、北狄、南蛮として蔑み、文化の劣った化外の民とした。

 儒教は、人が守るべき規範となった。

 しかし、同時に民衆を盲目的に権力に服従させ、強力な専制君主制を敷く礎にもなった。

 権力者の欲望は、地位と名誉と財産を固定し、中国民衆を奴隷と化し、

 漢民族の自由と能力と実力を封殺し、人権を抑圧するだけでなく、

 欧米の科学技術の導入をも拒ませ、中国近代化の芽をも摘み取っていた。

 人が生き甲斐と人生に価値を見出させず、想像力と活力とモラルを奪った。

 権力と利権を握る者が己が欲望のまま、不正を働き、社会を腐敗させ、

 搾取で民衆の生命を抑圧し、財産を奪っていた。

 夢と希望の喪失は、倫理観と道徳を狂わせ、

 生きる糧の喪失は、匪賊(犯罪)を増やした。

 大国中国が欧米列強に利権を奪われたのも、

 中国官僚が欲に目が眩み、中国民衆が離反したためと言える。

 日清戦争後、

 孫文は、腐敗し滅びつつある清国で維新の動きを見せ、清国封建社会を揺るがせた。

 近代化できない清王朝は、漢民族に見限られ、

 列強の干渉と民衆の離反と叛旗に耐えられず滅んでしまう。

 1912年、孫文は、中華民国を興したものの、

 清帝の退位と引き換えで、袁世凱に総統の座を譲り、

 袁世凱は、大統領となった。

 しかし、権力構造は、封建社会のままで、民主主義、自由主義から遠く、

 袁世凱は中華帝国皇帝と化して独裁に向かう。

 漢民族は、自由、人権、民主化を基盤とした近代化を欲し、袁世凱に反発する。

 地方軍閥は、民衆の支持を失った袁世凱に従わず離反し、

 中華帝国は、求心力を失って崩壊していく、

 中国大陸は、10を越える地方軍閥が戦国大名の如く乱立し、

 蒋介石率いる南京国民政府・国民軍は、北伐を開始し、地方軍閥を従えて行く。

 蒋介石は、反共反日、親英米政策を推し進め、

 日本の中国権益侵食をヨシとしない反日勢力と欧米列強に支持される。

 もっとも、欧米諸国の野望は、蒋介石と与することでなく、

 日本の大陸排除と同時に国民党を躓かせ、

 大陸権益の獲得を狙う両刃の外患だった。

 日本、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツは、自国の産業拡大、就業率向上、国力増強を企み。

 その手段として外交を繰り広げ、貿易を行い、

 時に軍事力を行使する。

 単純な二元論では済まされない駆け引きもあった。

 

 

 世界恐慌は、国際貿易と産業を縮小させ、

 失業者を増大させ、

 庶民は欠乏していく生活物資に喘いだ。

 各国とも国内財政を立て直すため紙幣の増刷が必要となり、

 金本位制を放棄せざるを得なくなっていた。

 国際間貿易は、金の保障のない不換紙幣となったことで信用を失って低迷し、

 列強は、資源搾取と販路を求め、

 混乱した中国大陸を踏み台にしてでも不況から脱しようとしていた。

 欧米列強と日本は、上海だけでなく、地方にも租界を置いていた。

 日本租界は、上海、天津、漢口、杭州、蘇州、重慶。

 イギリス租界は、上海、漢口、広州、鎮江、九江、アモイ

 フランス租界は、上海、天津、漢口、広州

 アメリカ租界は、上海、天津

 イタリア、ソ連、ドイツ、オーストリア、ベルギー租界は、天津。

 これらの租界は、地方軍閥に商品・武器弾薬を輸出し、

 資源を購入し、転売する。

 結果的に地方軍閥は、独自の軍事力を保持し、

 蒋介石、国民軍の中国統一が阻まれていた。

 

 

 租界は領土でなく借地だった。

 中国人に殺されても中国人に対する裁判権もなく、

 居留民の邦人を守る軍事基地もない。

 法整備がされておらず、執行力も乏しかった。

 中国犯罪は、日本と欧米の十数倍に達し、

 租界は、漢民族6億の渦に浮かぶ小船のような存在でしかなかった。

 比較的、治安の良い日本の租界でさえ、内地の数倍の犯罪件数だった。

 そして、上海事変。

 日本人の僧侶2人、信者3人が襲撃されて1人が殺害される。

 

 

 首相 官邸

 「上海で日本人がデモを起こしているようですが、いかがします?」

 「日本は、中国で産する鉄もいる、石炭もいる」

 「作った生糸を売る中国市場もいる」

 「しかし、ここで、一押ししてしまうと・・・」

 「もう一度、日本の軍国主義が再燃するかもしれませんね」

 「海外で暴れて予算増額を狙っているのだろう」

 「陛下の統制からも逸脱するに決まってる」

 「上海事変ですが陸軍の自作自演説も流れていますが」

 「ん? それは好都合だ」

 「このさい真偽はどうでもいい」

 「日本陸軍の自作自演にしてしまおう」

 「しかし、与野党とも上海より南満州問題で荒れてますよ」

 「まぁ 土地持ち農民が増えているから鬼気迫るほどじゃないよ」

 「しかし、ハリマンは並行線を支線に制限させているが徐々に満州に進出している」

 「日本の権益圏に土足で踏み込みやがって」

 「張作霖と張学良の親子は、日本と外国勢力を天秤に掛けて利用し、私腹を肥やしてますから」

 「そりゃ 殺したくなるのもわかる。しかし、殺人は犯罪だし、短絡過ぎる」

 「皇軍が陛下の勅命無しで動かれたら困るよ」

 「軍隊の統制を失った国家など三流だ」

 「下手をすれば陛下の威信が傷付けられるか」

 「陛下が侵略の勅命を出したことにされ、国際信用も失墜します」

 「国家が信義に劣るなら信義によって成り立つ国内・国際社会も崩壊するぞ」

 「しかし、このままだとハリマン資本を呼び水にして、他のアメリカ資本も満州に入ってきます」

 「アメリカ資本と張学良が結んで、満州鉄道は厳しい経営状態に追いやられている」

 「満鉄は、黒字と聞いたぞ」

 「ハリマンが満州鉄道建設で満鉄を利用しているので、一時的なものです」

 「一時的なものか・・・」

 「資本が小さいと勝てんな」

 「満州鉄道の赤字転落は日本にとって不利では?」

 「ふん、アメリカ資本だって中国人の気質を知れば嫌気をさすし投げ出したくなる」

 「並行線だって、そのうち赤字になるだろうよ」

 「最初から満鉄を潰すつもりで投資しているのでは?」

 「ちっ ハゲタカが」

 

 上海事変は、日本人の上海デモという形で騒動を広げていく、

 数日後、

 天皇は “ゴロツキは皇民にあらず” と宣言。

 日本人は農地改革で土地持ちが増え、我が身かわいさで戦争を避けたがる。

 外地の日本人デモは内地の支援を得られなくなると急速にしぼみ、

 日本からの帰還船が上海に送られ・・・・

 「日本人は、財産を処分して、一旦日本に帰国する」

 「ふざけんな。何の権利がある!」

 「勅命・・・」

 「そんなもんが聞けるか!」

 「・・・・」

 「俺たちが石炭と鉄鉱石を日本に供給しているんだぞ」

 「わかっているのか!」

 「帰国しないと、会社を潰す」

 「利権の発注先も変えさせる。おまえら、生きていけんな」

 「・・・そ、そんな権利が、お前らにあるか!」

 「30000に満たない日本人ために日本全体を犠牲にできるか。いやなら残って死ね」

 「日本政府は日本人の生命と財産を守る義務があるんだぞ!」

 「帰還すれば生命は保てる」

 「財産を売り払うか、持って帰るか。選択しろ」

 「くっ!」

 「地主と大家から土地を取り上げた国が、お前らをどうにかできないと、本当に思っているのか?」

 「・・・・・」

 上海在住の日本人27000人は “陛下にゴロツキ扱いされては、身が立たない” と判断。

 上海から撤収していく、

 

 

 第19路軍は日本人が撤収したあとの日本人租界をせしめ、

 上海租界のアメリカ、イギリス、フランス、イタリアなどの外国人13000人は、

 蔡廷楷の率いる第19路軍35000の矢面に立ってしまう。

 そこに蒋介石国民軍が獲物を巡って参戦、

 中国軍は元々、統制が執り難い軍隊で獲物を見ると見境がなくなり、

 日本租界で利権を得ていた中国人は悲劇といえる惨状となった。

 

 第19路軍と国民軍は、競いながら日本租界を襲撃して略奪の限りを尽くし

 中国農村

 「みんな、日本租界が襲われているある」

 「ホントあるか♪」

 「行くある〜♪」

 匪賊も集まって日本人街の略奪し、

 暴徒化した漢民族は勢いに乗って外国人租界まで襲撃した。

 国際都市上海は、暴徒と化した人民の海によって飲み込まれ、

 欧米の軍警察と民間人は、奪われ、殺され、陵辱されていく、

 

 アメリカ合衆国は、移民によって作られていた。

 その歴史は短く、

 アメリカ人を国民としているのは個人の生命、財産、自由など

 憲法で保障された個人の権利にほかならない、

 個人の権利を保障する憲法が自由な発想と積極的な競争を生み、

 経済的な繁栄をもたらしていた。

 しかし、自由、人権、民主主義、資本主義以外の求心力は弱く、

 私利私欲な権利を守る法律はアメリカ人を烏合の衆にさせ、

 国民を自由と正義でまとめなければ国政は成り立たない、

 国民は、国家の侵略行為に動員させられる事を望まず。

 端的にいうなら “戦争なぞ真っ平ごめん” であり、

 その外交政策は国民の総意に基づいているため外征に消極的になりやすかった。

 大恐慌は、アメリカの国政と資本家に対する不信を招き、

 利己主義が強まるにつれ、世俗的な求心力さえ喪失させる。

 しかし、国益は、個人の自由と権利を求める個人主義や民主主義が強くとも守れない、

 アメリカ合衆国は、対外的に挙国一致できる伝統と器を欲し、

 集団としてのアイデンティティを求めていた。

 

 そして、好都合なことにシャンハイ虐殺事件が起こり、

 アメリカ国民を怒らせ、駆り立てた。

 結局、不況と失業者で喘ぐアメリカ経済は、なんでもいいから生け贄を欲し、

 それを見つけたのだった。

 アメリカとイギリスは、キリスト教国家で

 失われた犠牲を見逃す寛容さを持ち合わせていなかった。

 “右の頬を叩かれたら左の頬を差し出しなさい”

 もっとも叩かれたのでなく、

 奪われ、陵辱され、殺されたのだから教義の枠を超えている。

 アメリカ合衆国議会

 “独裁者蒋介石を倒せ、リメンバーシャンハイ” が叫ばれ、

 ホワイトハウスは、笑いが止まらない。

 アメリカ、イギリス、フランス、イタリアは急遽、軍隊の派遣を決め、

 日本軍にも上海派兵を要求した。

  

 

 5月15日

 五・一五事件、犬養毅首相暗殺。

 海軍将校による首相暗殺事件は、政府による軍の処断権発動になった。

 天皇の “勅命なく立つ者は賊軍” 裁可と合わせて、

 海軍の軍縮が執り行われ、反乱罪は死刑となっていく、

 “殉教者を作ると続く者が出るのでは?”

 “殉教者なら続く者が出るが、反乱罪に続きたい者など出んよ”

 “むしろ、前例を作って図に乗らせる方が怖い”

 “それに日本は裁判より、村八分の方が怖いのだ”

 この暗殺事件以降、

 日本の政党政治は、軍事予算と抱き合わせで衰退していく、

 赤レンガの住人たち

 「くっそぉ〜 あのバカたれどもが」

 「首相暗殺で海軍予算を減らされたぞ」

 「海軍士官以上は給与1割返納だ」

 「処罰権のおかげで、ろくなことがない」

 「旧式艦艇を全部廃棄して、あとは・・・人事整理か・・・」

 「最悪だな」

 「もっと、農地改革を断行して軍事費になる手数料を増やそう」

 「しかし、国内も半島も、かなりえげつなく農地改革やってるぞ」

 「いや、ここは、もっと徹底的に・・・」

 「ふ 農地改革が決まってなかったら退役させた将兵の受け皿もなかったな」

 「政府に圧力を掛けられないのか?」

 「味方が減っている」

 「軍のモラルが下がるな」

 「軍縮でモラルが下がってボイコットする軍官僚は堪え性がない」

 「どうせ、保身ばかりで戦争も無能だから辞めさせて別の将校に変えろ、だと」

 「将校の上半分を辞めさせても良いそうだ」

 「誰の言葉?」

 「軍部への圧力で苦言を言いに行ったら、賜ったそうだ」

 「いま、一番、新しい勅命・・・」

 「本気で綱紀粛正かよ。国が守れねぇ」

 

 

 満州 地方農村

 漢民族は、満州族、回族、モンゴル族より多く、最大多数だった。

 しかし、そこに半島から押し出されてきた朝鮮民族が流入すると状況が変わる。

 朝鮮マフィアは満州各地の農村に侵入し、農村を守る自警団、馬賊と衝突する。

 どちらも武器を所持し、

 さながら西部劇のような状況になっていた。

 奉天軍は再建中で対応しきれず。

 何より張学良は、米英仏の “リメンバーシャンハイ” で蒋介石を見限ろうとしていた。

 ところがアメリカ軍から並行線引渡しの最後通牒で、お手上げ、

 アメリカ軍と戦うか、降伏するかの二者選択を強いられる。

 「日本か、ソ連に仲介を・・・」

 「両国とも怖気づいてるようで、リメンバーシャンハイの賠償を支払わないのなら、戦争あるのみと」

 「・・・・」

 

 

 首相官邸

 首相は、電文を見つめ、鼻で笑う。

 「蒋介石が日本租界を返還するからアメリカとイギリスの仲介に立って欲しいだと」

 「アメリカとイギリスは “独裁者蒋介石を倒せ” ですからね」

 「張学良からも対米仲介の要請が来てるが・・・」

 「泣きたくなりそうな状況ですからね」

 「しかし、ただの返還じゃ 仲介も面白くなかろう」

 「損害賠償も必要だぞ」

 「確かに・・・」

 「アメリカとイギリスは、日本に派兵を要求しています」

 「派兵か・・・」

 「どうします?」

 「日本人がいないのに、何で派兵しなければならんのだ」

 「国際協調では?」

 「ふん!」

 「せっかく軍部を押さえ込んだというのに?」

 「将兵を国外に出せば軍拡に繋がる」

 「くだらん」

 「はぁ・・・」

 「アメリカ軍を通過させてもいい」

 「派兵は、適当な口実をつけて断っとけ、上奏してくる」

 農地改革で世相に余裕ができた日本政府は、国際協調を一蹴してしまう。

 

  

 柳条湖事件後、

 関東軍に敗北した奉天軍はしばらく大人しかった。

 しかし、半島から押し出された朝鮮人が満州の大地に居座りると状況が変わる、

 満州全域で漢民族と朝鮮民族が衝突し、

 反逆罪に問われた関東軍は勅命通り、満州鉄道と沿線内に引き篭もるしかなく、

 権益の外では、奉天軍、匪賊、朝鮮民族の抗争に巻き込まれた日本人の被害も増え、

 関東軍は日本人の信頼も失っていく、

 

 日本は、農地改革で社会資本が動き、内地と半島とも好景気になっていた。

 満州鉄道は日本人が内地へ帰還したがるようになると維持できなくなっていた。

 満州

 荒くれ共の巣窟。

 真っ当で窮屈で雁字搦めな世界を嫌い、

 不当で荒っぽく刺激が好きな者は来たがる。

 退役した日本軍人で “夢は満州馬賊” もいたりする。

 日本で犯罪を犯せば刑務所行きだが満州なら、まず捕まらない。

 中国の犯罪は日常茶飯事で件数も多く、

 日本人と外国人だけが被害に合うわけではない。

 しかし、欧米列強の反中圧力は上海事件で限界を超え、

 アメリカは “リメンバーシャンハイ” を口実にアメリカ軍を上海と営口に先遣部隊を上陸させ

 上海利権と、

 ハリマン資本が張学良に投資した二つの平行線の接収にかかっていた。

 大連

 アメリカ人と日本の鉄道警備官が対峙していた。

 「日本軍は参戦しないのか?」

 「まだ、勅命が・・・」

 「こんなチャンスはないのだぞ」

 「残念です」

  

  

 とある部屋

 高級将校が長々と弁舌。

 「・・・今をおいて皇軍を動かす時期はありません」

 「しかしの」

 「国民から信任され、天皇に任命された総理大臣を殺害しておいて」

 「そのようなことを言われてもの」

 「・・・・・」

 

 

 赤レンガの住人たち

 将校が慌てふためき行き来していた。

 「何をやっているんだ。勅命は、まだか!」

 「御前会議はどうした?」

 「アメリカ、イギリスの派兵要請を無視するのか?」

 「まずいだろう」

 「それに中国に足場を得る絶好の機会だ」

 「うぬぅ 最近は、満州鉄道転売の話しも持ち上がっている」

 「そりゃまずい」

 「大陸拡大できずとも、満州権益確保なら予算増加が見込める」

 「転売だと政府に主導権が握られてしまうぞ」

 「潰せないのか?」

 「微妙だ」

 「軍部の利権が切り崩されて、足場がふらついてる」

 「」

 「」

 ・・・・・・・

 

 

 アメリカ軍は、奉天発の二つの並行線(打通線、奉海線)を制圧しても、

 権益幅60mだと路線を守れないことがわかる。

 ホワイトハウス

 数人の男たち満州地図の周りに集まって悪巧み。

 「・・・蒋介石は?」

 「上海でアメリカ人を殺したんだ妥協させるよ」

 「足場さえ作れば、あとは、インディアンと同じ要領だな」

 「あとは、租界で被害者を出した諸国で利権を分けるとしてだ・・・」

 「日本の反応は?」

 「アメリカ軍の上海上陸と満州上陸に反発しています」

 「しかし、勅命が出ないとかで軍は動けないようです」

 「ふっ♪ このチャンスに日本の不決断は罪だな」

 「どうするね?」

 「賠償で営口の利権も得たから、営口から打通線にもう一本敷こう」

 「奉天で日本の満州鉄道と交わって、奉海線で満州鉄層を挟みこめる」

 「ん・・・権益の路線幅は10km欲しいな」

 うんうん

 「あとは、路線をこう延ばして・・・」

 満州地図の線路を鉛筆で延ばしていくと、

 ニヤニヤとした笑いが広がって・・・

 アハハハハ! アハハハハ!

 アハハハハ! アハハハハ!

 「・・・しかし、仮に営口の利権を得ても」

 「アメリカの輸送船団は、旅順の要塞砲に狙い撃ちでは?」

 「是非、撃って貰いたいね」

 「俺が代わりに引き鉄を引いてやりたいくらいだ」

 「ですが、いまの日本は、隙を見せているようで付け込めませんな」

 「軍事費増大で国家財政が破綻なら、嫌でも軍に頼って動くよ」

 「日本の国家財政はともかく」

 「最大の農民層が農地改革で落ち着いているのでは?」

 「満州事変で満州全土を押さえて置きながら退いたのは、それか・・・」

 「ソ連に気後れして臆病になっているだけだろう」

 「どうかな」

 「真っ当な国は目先の利益より軍の統制を優先する。軍の独走など許さんよ」

 「しかし、参ったな」

 「適当な頃合いを見計らって日中戦争を誘発し」

 「日本と中国を戦争で消耗させたあと、大陸利権を奪おうとしたのに・・・」

 「我々が矢面に立たされてしまうとは・・・」

 「なぁに “リメンバーシャンハイ” の口実さえあれば国力で中国を押し切れる」

 「んん・・・」

 「ですが日本にアンガルド(フェンシング基本姿勢)で構えられると」

 「やりにくいのでは?」

 「日本民族は、もっと短慮だと思ったがな」

 「一時的なものだろう」

 「だといいのですが・・・」

 「今は中国に集中したい」

 「日本が大人しいのなら好都合だ」

 「どうせ、堪え性のない短絡民族」

 「上海と満州を押さえ込んで生殺与奪を握って、追い詰めていけば、暴発して自滅する」

 

 

 

 皇居

 31歳の壮年と総理大臣がお茶をすする。

 「今年も良いお茶が採れたの」

 「まったくです」

 「ん?」

 「お、総理は茶柱か」

 「あ、まだ、口をつけていませんので、お取替えしますか?」

 「いや、いや、そちは、よくやっておる」

 「口をつけるがよい」

 「恐縮です」

 「時に総理は “つぶあん” と “こしあん” どっちを先に食べる?」

 「はっ 先につぶを楽しんで、それから、こしあんが良いのではないかと」

 「そうか、余も同じじゃ」

    ・

    ・

    ・

  あんパンの話し

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 5・15事件、史実を調べてみると、

 呆れてしまって、詳しく書く気になれんかった。

 これなら、この不戦戦記でも適当な理由があればやりそうなので起こりました。

 検索で目を通してみるのもいいかも、

 当時の陸海軍将校の気性がわかりそうです。

 

 

 日本の上海租界は失われました。

 残った日本租界は、天津、漢口、杭州、蘇州、重慶。

 中国からの鉄鉱石、石炭の供給が危ぶまれ、

 ドル箱の上海市場も喪失。

 日本産業は窮地に追い込まれます。

 さらにアメリカ資本は本性を現して、満州鉄道を囲い込み。

 満州鉄道は風前の灯。

 

 

 農地改革で内需経済が回っていなかったら。

 政府が処断権を行使、

 軍部を押さえ込んでいなかったら。

 日本は、革命でしょうか。

 

 

 皇居の二人は、なに考えているのでしょう。

 お茶?

  

 

 

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第02話 1931年 『暴走と粛清』
第03話 1932年 『激情と自制』
第04話 1933年 『リメンバー・シャンハイ』