月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『不戦戦記』

 

第04話 1933年 『リメンバー・シャンハイ』

 

 アドルフ・ヒットラー首相就任

 

 上海沖

 戦艦テネシー、カリフォルニア ほか30隻。

 アメリカ、イギリス、フランス、イタリア連合軍は、上海に上陸し、奪われた租界を回復していく、

 中国軍はアメリカ軍と戦う気力もなく後退していく、

 テネシー艦橋

 「くっそぉ〜 日本人め、自国民だけ救出して逃げやがって」

 「13000人の外国人を置き去りでしたからね」

 「中国人に代償を支払わせましょう」

 「日本は師団の再編中だとかで、派兵要請にも応じん」

 「日本軍は暴走しやすく、国軍として欠陥があるのでは?」

 「中国人相手にそんなもの欠陥にならん」

 「武器を持って前進すれば勝てる」

 「中国軍は、野盗集団の類ですからね・・・・」

 「提督、日本商船です」

 「どこに行くんだ?」

 「揚子江に向かっているようです。租界のある漢口か、重慶では?」

 「国民軍向けに弾薬を積んでいるかもしれない。臨検しろ」

 「はっ ・・・ん・・・日本の河川砲艦です。陰から出てきました」

 「ちっ! お守り付きか」

 日本商船は小さな河川砲艦が付いてるだけで臨検を免れ

 アメリカ艦隊の脇をすり抜け、上流に向かっていく。

 「忌々しいものだ」

 「儀礼的なものですから」

 「上海を領土化できない限り揚子江を押さえるのは難しいか」

 「仮に上海を領土化しても」

 「国際河川法の関係で内陸側に日本の利権があると・・・」

 「中国側と交渉次第で、大陸から日本利権を弾き出すことは出来るでしょう」

 「アメリカとイギリスは、日本人を漢民族の緩衝にすることで、中国租界の資財を大きくしたのだ」

 「そう、都合良くいかないかもしれないな」

 「日本人を周りに置いたほうが治安がいいですからね」

 「・・・ところが、日本人が退いて、莫大な資財だけが取り残され」

 「金に目が眩んで統制を失った軍閥と中国民衆が白人の租界まで襲った・・・」

 「・・・なにか、作為的なものを感じますね」

 「んん・・・考え過ぎかもしれないがな」

 「日本人は、そこまで狡猾にできていない」

 「わたしも、そう思います」

 「例の物は、大丈夫なのか?」

 「はい、急に造らせましたが、ちょっとした景気対策になったようです」

 「そうか、失業者対策にもなるな」

 クリスティー戦車(M1930)が上海市に上陸すると中国軍は圧倒され、

 アメリカ、イギリス、フランス、イタリア連合軍は占領地を拡大。

 あとは、匪賊が襲ってくれば、逆襲して勢力拡大できた。

 連合国は、中国に賠償を迫り、怒らせ、更なる大陸権益を得ていく、

 アメリカが西部開拓時、インディアンに対して使った手であり、

 あとは、同じ事を繰り返していくだけだった。

 

 

 日本は、農地改革で自作農が増え、生活基盤を確立。

 景気は収穫増と農地転売で社会資本が潤って上向き、

 庶民は、軍部の利権が縮小して圧力から開放されると、

 国家予算が自分と関係のない世界で食い潰されている事を嫌い始める。

 その結果、満州の中国人と朝鮮人の民族紛争は激化し、

 関東軍は、満州鉄道の利権を維持するのも命がけだった。

 日本の世相は、採算の怪しい満州鉄道の存在意義を疑問視する。

 どうしたものか、という状態。

 “もう、売ってしまえよ”

 “いや、何か儲けがあるかもしれん”

 “儲かってないだろう”

 “・・・うん”

 さらにハリマンは、軍閥の張学良と手を結び満鉄に並行支線を敷き、

 裏金を使って日本の満州鉄道を潰しに掛かる。

 石を置いただけの列車妨害で、列車が脱線していた。

 列車妨害するなら線路に石を置けばすむことで、

 元々、爆薬など無用だった。

 そして、自作自演の柳条湖事件より被害が大きく。

 「やられたな。監視塔は何してたんだ?」

 「関東軍も、こういうとき、動けばよかったんだ」

 「石を置かれても、誰が置いたのかわからんだろう」

 「爆破じゃないと・・・」

 石をレール上に置かれた痕跡が残っていた。

 「もう、沿線上に地雷原を敷きたくなるよ」

 「いらねぇ 日本の権益だし」

 「しかし、機関車だけで済んだが、漢民族を皆殺しにしたくなるよ」

 「だけど、勅命、出ないし」

 「満州から手を引きてぇな」

 「格好付かないけどね」

 「政府も軍も面子で退けないのか」

 「というか、満州全部がこんな感じだろう」

 「点と線を守れないのに面が守れるわけがない」

 「行くも地獄、退くも地獄」

 奉天から代わりの機関車が来るまで列車を動かせず。

 奉天に向かうアメリカ軍兵士が乗っているのか、口々に文句を言っている。

 「満鉄はアメリカじゃなくて、ソ連に売るのが面白いかも」

 「あはは・・・」

 「ハリマンと張学良の妨害工作だろう」

 「なに考えているんだか・・・」

 「しかし、アメリカ軍を大連から奉天まで満州鉄道で輸送するのは、どうか、という気がするね」

 「どの道、営口から降りて並行線まで行くなら大連から乗せてやった方が赤字減らしになるだろう」

 「気が進まないな」

 「南満州を進撃されて荒らされるよりいいよ」

 「少なくとも、その間は、妨害されそうにないし」

 「されてるだろう」

 建設費用と妨害費用では建設側が不利だった。

 しかも資金力に勝るアメリカ資本相手では日本に勝ち目はなかった。

 大連

 技師たちが機関車の前後を挟む装甲車両を見つめる。

 「経済性無視、費用対効果で言うと何の意味があるんだ?」

 「路線幅60mの先は、日本人が殺されてもおかしくない世界だからな」

 「被害者何人と資源何トンを交換しているんだ?」

 「そんなに鉄鉱石、石炭が欲しいのか?」

 「日本経済は日本人の血の代価で成り立ってるんだな・・・」

 「市場もあるよ」

 「被害者のことを思うとペイするか怪しいけど」

 「手ぇ退きてぇ」

 関東軍は、長春までの脆弱で袋小路な路線利権を守らなければならず。

 この軽武装機関車は、苦し紛れだった。

 とはいえ、それなりに効果があった。

 

 大連沖に・・・・

 「おい、アメリカの船団だぞ」

 「げっ! 今度は、すごい数だな」

 アメリカ軍兵士が満州鉄道で北へと向かっていく、

 日本人たちが白人兵士達の移動をみていた。

 「まだ、先遣部隊じゃないか」

 「だけど、蒋介石と張学良とは、話しをつけているらしいよ」

 「やれやれ、大国相手だと国民軍も、奉天軍も簡単に退くな」

 「上海でアメリカ人が殺されたから当然の権利なんだろうな」

 「日本人は、もっと殺されているけど、なんだかな〜」

 「アメリカ人と日本人は、命の価値が違うから」

 「まぁ 保険の総額で行ってもそうだけど」

 「あいつら、そういう目をしているよ」

 「そりゃ 日本人だって中国人と命の値段が同じだと怒るし」

 「アメリカ人だって日本人と命の値段が同じだと怒るだろうな」

 「あ! 路線幅権益を5kmも取るんだって」

 「すげぇ、日本は60m幅なのに羨ましい。で、なんで、5km?」

 「本当は、10km欲しかったらしいけど、半分で妥協したらしい」

 「あと、アメリカ人の平均身長が173cmだとすると」

 「視点の位置から地平線が5kmくらいだろう」

 「ふ〜ん、ていうか、日本も参戦しろよ」

 「国力の差だろう。貧乏な国は資金が続かないから征服なんか無理」

 「満州事変で、満州全部奪っただろう」

 「一時的だろう。維持できないよ」

 「赤字国債で庶民に借金背負わせて浪費、散財するだけ・・・」

 「俺たち軍は、懐が暖まるけど庶民は悲惨になるからね」

 アメリカ軍は、ハリマン資本が張学良に投資した二つの平行線、

 打通線・奉海線を制圧し、利権として沿線に5km幅を掌握してしまう。

 

 

  

 三陸地震8.1

 死者1522名、行方不明者1542名、負傷者1万2053名。

 家屋全壊7009戸、流出4885戸、浸水4147戸、焼失294戸

 勅命が下りて軍による救助が行われていた。

 

 

 五・一五事件で海軍予算が引き下げられ、意気消沈。

 もっとも、陸軍上層部も3月事件の大量逮捕で権限まで奪われ、

 くさっていた。

 軍政・軍令部に海軍将校の比率が増えると、

 雰囲気が変わり毛並みも変わってくる。

 何より、農地改革で下級兵士の土地持ちが増えると、

 一兵卒の毒気が抜けたのか、師団全体が穏やかになっていく。

 一方、軍上層部は地主階級が多く、

 農地改革で土地を奪われ、

 眉間にシワを寄せていた。

 軍上層部は子飼いの手足になるはずの一兵卒のをもぎ取られ、

 処断権も政府に握られクーデターも起こせない。

 どこで間違ったのか、

 軍部は、日本政府に掌握されていた。

 海軍は、利権好きの陸軍と違い、高価なおもちゃがあり、

 海という逃げ場があって、楽しいのだが・・・・

 

 アメリカ軍に上海・営口に取り付かれると、海軍の基本計画の斬減作戦が怪しくなり、

 海軍戦略の見直しが求められる。

 戦艦 山城改装

 戦艦扶桑の改装に続き、山城も改装されていた。

 「失敗だな。この改装は」

 「んん・・・でも強力になっているよ」

 「相手が巡洋艦だったらな」

 「しかし、相手が戦艦だったら」

 「どこに当たっても弾薬庫を撃ち抜かれて轟沈だよ」

 「前任者は神通力があれば弾は当たらないと」

 「アホか」

 「あははは・・・」

 「伊勢、日向の改装は見直しだな。話しにならん」

 「せっかく、地主制度を破綻させて陸軍を弱めたというのに・・・」

 「やはり、陸軍が弱っているのは、それで?」

 「地主制なら徴兵しても代わりを割り当てるだけ」

 「しかし、土地持ち自作農が増えると、それも出来ない」

 「農地改革を妨害していたのは陸軍だからね」

 「ライオン宰相のおかげで、陸軍を押さえ込めたわけですか」

 「まぁ 海軍の暴走も酷いがね・・・」

 「これじゃ 戦争もできん」

 

 

 ルーズベルト大統領就任

 ニューディール政策 & 対中投資

 ルーズベルト大統領は “リメンバー・シャンハイ” を利用して失業対策を埋めようとしていた。

 中国権益を踏み台にアメリカ経済の建て直しを画策し、中国への武力侵攻を進める。

 上海に上陸したアメリカ軍は最大で50000に達していた。

 白い家

 「上海の犠牲は無駄にならず済みそうだ」

 「クリスティ戦車は良いようです。量産を増やすべきかと」

 「クリスティ戦車は、ソ連にも売ったのだろう」

 「惜しいことをしたな」

 「上海事変で急に必要になりましたから」

 「まったく、選挙対策で非戦宣言していたのに」

 「“リメンバーシャンハイ” で中国を例外だから慌てたよ」

 「イギリスとフランスも共同歩調で上陸ですので中国大陸の支配権確立は確実かと」

 「しかし、日本が上海から退いたのは意外だったな」

 「代わりにドイツとソ連が暗躍しているようです」

 「ふっ よほど、中国の希少金属が欲しいとみえる」

 「そうはさせるものか」

 「アメリカは40万、イギリスが20万」

 「フランスが10万、イタリアが2万を上陸させる予定です」

 「イタリアは、被害者がたまたま出ただけで無理やり参戦か」

 「ドイツは、再軍備しない限り無理でしょう」

 「そうか。満州は?」

 「並行線2本を接収しました」

 「営口利権を得て、線路を敷けば、後は囲い込みと同じ」

 「日本の満州鉄道も手に入るでしょう」

 「ふん、日本め大人しく派兵していれば、もう少しマシに扱われたものを」

 「どの道、満州鉄道を採算不能にして奪うのでは?」

 「ふっ♪」

 「ですが、日中関係が改善してしまうのは、面倒では?」

 「対中戦略上、日本を挑発し過ぎない方が・・・」

 「鉄と重油を日本に安く輸出することで日本を抑えている」

 「中国を片付けて生殺与奪権を奪えば取り戻せ・・・」

 扉が開けられ、士官が報告に入ってくる。

 「・・・大統領、極東でソビエトが動きました」

 「なに?」

 

 

 アメリカ・イギリス・フランスの “リメンバーシャンハイ” にソ連も便乗する。

 極東ソ連軍5万7千は、匪賊狩りを名目に北満州に侵攻し、

 張学良率いる奉天軍25万、不正規部隊20万と衝突。

 ソ連軍は、圧倒的な火力と機動力で奉天軍を蹴散らし、

 北満州の権益線を越えて南満州へと押し寄せる。

 日本の密偵たちが馬賊に扮してソビエト軍を監視していた。

 「ソ連軍の前に朝鮮人がいるのはなぜだ?」

 「ただ侵攻するだけだと侵略行為と、国際的に思われていやなのでしょう」

 「それで、半島から押し出されてきた朝鮮人の生存圏を確保するためにか」

 「良くも取って付けたような口実を・・・」

 「朝鮮人は満州に来ると農奴扱いだろう」

 「当然、ソ連軍と組んで漢民族を収奪だな」

 「漢民族殺戮も朝鮮人の仕業にするんじゃないか」

 「ソビエトも自己正当化する大義名分くらい用意しているわけか」

 「朝鮮人の共産主義者を味方につけ、北満州を傀儡にしようとしているのか」

 「いや、満州全土かもな」

 「それだと、アメリカ利権とも、ぶつかるぞ」

 「日本軍は、まだか?」

 「展開が遅れると手遅れになる」

  

 そして、日本軍も陛下の裁可がようやく出たのか、

 増援部隊が権益線に展開。

 しかし・・・・

 「どうして、増強されたのに中国領に出られないのだ」

 「師団を展開させねば負けるぞ」

 「勅命が出ない」

 「そんなもん、後からで、よかろう」

 「・・・実を言うと、中国領への侵犯は陛下に反対された」

 「ばかな」

 「いま、もう一度、師団を展開させるよう、上奏しているところだ」

 「このままだと、沿線の内側で日本軍は全滅するぞ」

 「・・・・」

 ソ連軍は、半島から押し出された数百万の朝鮮人も味方につけていた。

 ソビエト軍と朝鮮人と一緒に沿線の両側に展開し、荒涼たる満州平原を埋め尽くしていた。

 日本軍は、増強されたものの満州鉄道の権益線を越える裁可が得られず、

 沿線幅60mに留まったまま、ソ連軍に挟撃された状況で対峙することになり、

 展開もできず圧倒的に不利だった。

 ソビエト軍は、沿線沿いの遮蔽物に隠れる日本軍にBT戦車の砲口を向け、

 朝鮮人を押し出そうとしていた。

 「・・・どうするつもりだ?」

 「数十万の朝鮮人に日本軍を襲撃させて」

 「そのあと介入だろう」

 「壊滅寸前の日本軍を助けるのも・・・」

 「日本軍と朝鮮民族を血祭りに上げるのも・・・どう転んでも、ソ連はおいしい」

 「うぅうううう〜 しゃからしか〜!! 打って出る!!!」

 「やめろ! 陸軍全体で予算が減らされる」

 「それに、お前は、軍法会議で死刑になるぞ」

 「いつから、そんなに軍規が厳しくなった」

 「昔は、もっと融通が利いたぞ」

 「どこぞのバカがクーデター未遂なんか起こすからだ」

 「このままでは、全滅だぞ」

 「この状態だと手遅れだろう」

 「打って出ても全滅だ」

 「くっそぉ〜 勅命など待っているからだ」

 「少尉・・・軍紀を守って死ぬ。それが皇軍だ」

 「・・・くぅううう〜」

 日本軍士官が遮蔽物から乗り出して手を広げる

 「くっそぉ〜 撃ってみやがれ!!!」

 「おい、危ない、挑発するな」

 「・・・ん?」

 「どうした?」

 「ソ連軍が引き揚げていくぞ」

 ソ連軍が引き揚げていくと、朝鮮人も去っていく。

 死を覚悟していた日本軍将兵は、

 呆然と、その場に座り込む。

 満州に上陸したアメリカ軍が、

 2本の並行線(打通線、奉海線)から降りて展開し始めると状況が変わる。

 ソビエトは “リメンバーシャンハイ” の当事者ではなく、

 火事場泥棒であったことが満州侵攻の正当性を失わせていた。

 ソビエト軍は、アメリカ軍に挟撃される愚を避け、北満州(長春)以北へと後退していく、

 満州は、ソ連軍に踏み潰された奉天軍の残骸と、散らされた匪賊、馬賊が残り、

 そして、朝鮮人1千万以上が満州に流入し、

 混沌とした世界を作り上げていく。

 

 

 赤レンガの住人たち

 アメリカ・イギリス・フランス連合国軍が上海、営口に上陸し、

 日本は、対応を迫られていた。

 「ったく、満州といい、上海といい」

 「米英仏と一緒に上陸作戦をすべきだろう」

 「上奏はした」

 「しかし、まだ陛下の裁可が降りていない」

 「政府は何をやっているんだ」

 「政府は関係なかろう」

 「我々は皇軍。陛下の裁可で出撃となる」

 「このままでは、日本の生命線を欧米に奪われてしまうぞ」

 「結果は同じだよ」

 「“リメンバーシャンハイ” の賠償で並行線を取られたとしたら。お手上げ」

 「張作霖・張学良親子もハリマンに利用されただけか・・・」

 「んん・・・大陸に日本の足場があれば、済し崩しに持っていけたものを・・・」

 「大陸に足場はあったよ」

 「柳条湖事件で下手うって、軍は意気地がなくなったよ」

 「無能なバカ政府に軍の不祥事の処罰権を渡すからだ」

 「いや、それ言うと皇族批判で、不敬罪になるから」

 「ぐっぐぐぐぅううう〜」

 「この好機に動けんとは、何たる損失・・・」

 「しかし、満州は朝鮮人が増えている」

 「漢・朝民族紛争で大混乱らしい」

 「そりゃ 農地改革の皺寄せで満州に押し出したからね」

 「陸海軍も、予算欲しさで、かなり無茶苦茶やったからな」

 「裁可が出て、政府の要請で国内だけは動かせるからね」

 

 

 日本 首相官邸

 「蒋介石は、日本にアメリカ、イギリス、フランスとの仲介を要請しています」

 「代償は、上海租界の返還」

 「あと、鉄・石炭と武器弾薬の交換を申し出ています」

 「武器弾薬はアメリカ、イギリスの反発を受けるのでは?」

 「それは、まずい」

 「国民軍は、地方軍閥からも攻撃されて、かなり弱っているようだ」

 「アメリカとイギリスを敵に回せば、中国統一も遠のくでしょう」

 「アメリカとイギリスは、誰を中国の代表にするつもりだ?」

 「アメリカが愛新覚羅溥儀、宣統帝と、汪兆銘に接触したことが確認されています」

 「ですが動きは見られません」

 「とりあえず。押さえるところを全部押さえて、傀儡を立てるだろうな」

 「アメリカとイギリスは、上海事変の賠償以上に奪いそうです」

 「まぁ 日本は適当に仲介してやって、租界を取り戻すべきだろうな」

 「じゃ 天津の租界で競売にかけるか」

 「アメリカとイギリスの方が高く買ってくれるかも知れんな」

 「ふ♪」

 

 

 その日、

 信号無視で巡査と一等兵が揉め事を起こす。

 自体は乱闘騒ぎになり、

 一等兵は全治3週間、巡査は全治一週間。

 ゴーストップ事件

 軍部は、この事件を利用し、

 将兵の取り締まりを憲兵に限定させようと画策。

 しかし、政府は不祥事を起こした皇軍の処断権を維持しようと巻き返し、

 軍部から憲兵を引き抜き、

 日本警察に組み込んで警察権力を拡大させてしまう。

 皇軍に不祥事が起きた場合に限定されていた政府の処断権が、

 警察権力を通じて現場の予防と逮捕権にまで広がる。

 赤レンガの住人たち

 「警察に軍人の逮捕特権を取られたのかよ」

 「信じらんねぇ」

 「憲兵ごと持っていかれるとは、ひでぇ〜」

 「酷いのは予算まで持っていったことだよ」

 「何で警察権力を軍隊内部に入れなきゃならんのだ」

 「バカたれが大人しく巡査の言うことを聞いてりゃ」

 「波風立たなかったものを面子張りやがって・・・」

 

 

 とある部屋

 高級将校が長々と弁舌。

 「・・・今をおいて皇軍を動かす時期はありません」

 「しかしの、地震のおり、救助するように勅命を出したのに動いたのは連隊一つ」

 「作業ぶりも評判が悪く」

 「そんな事では、戦争も期待できまい」

 「そのようなことを言われてもの」

 「・・・・・」

 

 

 

 加賀改装

加賀 排水量 全長×全幅 吃水 馬力 速度 航続力         艦載機
新造 26900 238.5×29.6 7.9 91000 27.5 8000海里/14ノット 200mm連装×4 200mm×6 120mm連装×6   60
改装 廃棄 38200 247×32.50 9.5 127400 28.3 10000海里/16ノット   200mm×10 127mm連装×8 25mm連装×11 90
改装 新案 38000 247×32.50 9.5 136000 29 10000海里/18ノット     127mm連装×8 25mm連装×20 100

 「大型艦で20cm砲を剥がすのは、至難の業だったな」

 「結局、大砲を減らして飛行機を載せただけか」

 「少し速くなったのが救いだな」

 「陸軍の縮小で予算が舞い込んだからだろう」

 「まぁ 無理に大陸に押し入ることもないさ」

 「しかし、アメリカとドイツが中国の資源獲得でぶつかっているらしい」

 「日本はどうするんだ?」

 「陸軍上層部の大量逮捕でウツ状態だそうだ」

 

 

 満州

 半島から日本に押し出されてきた朝鮮人は、ソ連軍と組んで満州全域に広がっていた。

 ソビエト軍の攻勢によって奉天軍は壊滅し、

 朝鮮共産軍は、ソ連から武器弾薬を供給され、馬賊と匪賊を駆逐していく、

 そのときの殺戮は凄まじく、朝鮮人は足場を確保してしまう。

 善しにつれ悪しきにつれ、

 満州は満州の元締め奉天軍閥の消滅で無法地帯と化し、

 朝鮮族は、満州で一大勢力になっていく、

 撫順も漢民族と朝鮮民族が入り混じり、

 民族(マフィア抗争)紛争を起こしていた。

 何しろ、この撫順。

 石炭10億トンの埋蔵量と年間600万トンの産出し、

 ここを押さえた者は夢のような生活。

 他にも満州全域で1000万トンを越える石炭産出なのだから、

 犠牲を払っても、人が死んでも、利権を得たがる者は後を絶たない、

 そして、鉄と石油の産出も100万トン。

 アルミ、銅、マンガン、塩湖・・・

 命張って利権抗争も起こしたくなり、民族抗争も銃撃戦にまで発展していく、

 武器の売れ行きは良く、

 市街地で使いやすい拳銃は売れていく。

 白人が民家に隠れ、アメリカ製コルト1911(11.43mm×23)の弾丸を隣の家に撃ち込んでいた。

 隣の家からソ連製のトカレフTT1930(7.62mm×25)が撃ち返される。

 アメリカ製は破壊力を好み、

 ソ連製は貫通力を好む。

 ただ、それだけの違いといえた。

 西部劇がしたいのか、

 マフィアの縄張り抗争なのか、

 諜報戦なのか、

 毎日のように、よくわからない銃撃戦が、あちらこちらで行われていた。

 都市の多い欧州勢は、

 使いやすさを追求したドイツ製ワルサーPPK(7.62mm×17)(9mm×17)が主流になり、

 日本は、南部14式(8mm×22)拳銃が使われ、弾丸の性質はコルトの縮小版といえた。

 他にもサブマシンガンのトンプソンが資源と交換で満州に流れ、

 無法地帯は、泥沼の様相になっていた。

 本来なら武器を輸出すべきでないのだが一番売れるのが武器だった。

 駅で市街地を見渡す男たちは行商人だった。

 「やれやれ、アメリカが満州鉄道を権益を囲い込んだと思ったら」

 「今度は、その外側をソ連の傀儡、朝鮮武装集団が囲み込みか・・・」

 「半島の朝鮮人も満州に向かって移動しているらしい」

 「朝鮮共産軍は、ソビエトと組んで満州で我が物顔だぞ」

 「朝鮮共産軍が半島側に押し戻ることはないだろうな」

 「監視しているから鴨緑江を越えられないと思うよ」

 「しかし、この辺も、やばくないか?」

 「勢いは朝鮮民族だけど、まだ漢民族の方が多いよ」

 「アメリカは、そのうち、漢民族と組んで、朝鮮民族を北に追い立てるよ」

 「あいつら日本人に成りすまして悪さするから・・・」

 「だれだ。日本語教えたの?」

 「んん・・・伊藤博文じゃないの」

 「あんのやろう・・・」

 「漢民族は朝鮮人を押し返さないのか?」

 「蒋介石国民軍はアメリカ軍とイギリス軍に追い立てられているし」

 「奉天軍はソ連軍にやられて壊滅状態・・・」

 「アメリカ軍頼りかよ」

 「アメリカ軍も利権を確保したら撤収するかな」

 「利権を確保したら、それを財源にアメリカ軍基地を維持するんだよ」

 「なるほど」

 「しかし、こう治安が悪いと、奉天も寂れていくな」

 「14式とか、南部拳銃を売ったからだろう」

 「日本が売らなくても他の国が売るし」

 「資源を日本に持っていくと高く買ってくれるから・・・」

 「まぁ 売ってるのは日本だけじゃないか」

 「せめて、撫順は要塞化した方が良くないか?」

 「“鉄道の付属地” で行政区画を広げることが出来ても、要塞は無理だろう」

 「だけど、蒋介石は弱っているから、利権拡大のチャンスだろう」

 「んん・・・」

 「満州を売りたがりもいれば、維持したがりもいるからな」

 「石炭と鉄が入って消費地があるなら、退きたいけどね」

 

 奉天軍閥は、満州事変で打撃を受け、

 ソ連軍の南進で壊滅、

 朝鮮人侵入で漢民族の社会基盤は崩壊していく、

 結局、アメリカ軍とソビエト軍の支配は点と線にとどまり、

 満州は外国から支援された小さなマフィア集団による利権抗争に移行し、

 収拾が付かずの無秩序な状態になっていく、

 

 

 そして、中国大陸でも同じ状況になろうとしていた。

 アメリカ・イギリス・フランス軍の攻勢を受け、

 蒋介石・国民軍は、権威喪失。

 どの勢力も大陸全土を押さえるには力不足で、

 それでも、蒋介石が中華民国の代表であることから、

 不祥事のたびに米英仏の要求も増し加わっていく、

 もっとも、日本の利権拡大は、列強の妨害で阻害されていた。

 ようやく回復した日本上海租界は、一時、アメリカ軍の駐屯地にされ、

 その後、日本租界が回復してもアメリカ軍の通行の自由は追認される。

 「どうやら、アメリカとイギリスは、本気で中国人の裁判権と軍事基地建設権も得るつもりらしい」

 「もう二度と、上海事件を起こさせないようにするためか」

 「もう、領土だな」

 「“リメンバーシャンハイ” の賠償で上海を割譲させようとしているのだから、領土だろう」

 「蒋介石は、割譲するかな」

 「上海をアメリカに割譲されると困るな」

 「割譲したくなるまで追い詰められていくよ」

 「たぶん、対岸の啓東側も割譲させるから揚子江も押さえられる」

 「ん? 日本租界はどうなる?」

 「米英仏領の日本租界になるらしいよ」

 「げっ!」

 「満州の営口もアメリカに押さえられているし」

 「上海もアメリカに押さえられたら、日本は万事休すか」

 「蒋介石の陣中見舞いに伺ったら」

 「“日本人が上海から撤収せず、軍隊を派兵して第19路軍を撃破していたら良かった” と」

 「いいねぇ そしたら上海は、日本領だ」

 「いや、賠償には血の代価が必要だからね」

 「あの時いた日本人27000人が犠牲にならないと無理」

 「あはは・・・」

 「そうじゃないと、タダの侵略・・・」

 

 

 ドイツが国連を脱退。

 

 

 榛名改装(二次)

金剛型 排水量 全長×全幅 吃水 馬力 速度 航続力         水上機
一次改装 29330 214.6×31.02 8.65 64000 23 9500海里/14ノット 356mm連装×4 152mm×20 8cm×7    
二次改装 廃棄 32200 222×31.02 8.65 136000 30.3 10000海里/18ノット 356mm連装×4 152mm×16 127mm連装×4 25mm連装×10 3
二次改装 新案 32200 222×31.02 9.60 160000 32 15000海里/18ノット 356mm連装×3 140mm×12 127mm連装×10 25mm連装×20 5

 「第3砲塔を剥がすと、寂しくなるな」

 「航続力が伸びて作戦能力が増す」

 「ディーゼル機関がまともに動けばね」

 「戦艦を通商破壊に投入するのは、どうかと思うよ」

 「アメリカが大陸に取り付いたら、通商破壊で妨害するしかないだろう」

 「艦隊戦・・・したかったな・・・」

 「もう無理だよ」

 「戦艦は相手にせず。巡洋艦以下だけを攻撃」

 

 

 アメリカで禁酒法が廃止。

 

 

 皇居

 32歳の壮年と総理大臣がお茶をすする。

 「今年も良いお茶が採れたの」

 「まったくです」

 「たまには、ケーキも良いの」

 「はい、抹茶のケーキは、お茶にも合います」

 「地震は、大変だったの」

 「大事がなければよいが」

 「関係各省に食料、日用品、家財など便宜を図るように通達いたしました」

 「そうか・・・」

 「自然は、恐ろしいものです」

 「人は怖いものがなければ高ぶる」

 「高ぶれば人同士で醜く争う。醜く争う人の姿は、見たくないの」

 「はっ 国民みな、陛下の御心に適うよう、心がけています」

 「午後のひと時をゆるりと楽しむ・・・・」

 「このまま、平和な時が、過ぎていくのが良いの」

 「御意にございます。陛下」

 

   

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 月夜裏 野々香です。

 リメンバー・シャンハイ。

 アメリカ軍は景気対策の梃入れで匪賊狩りを始めます。

 野心満々のハリマン工作で、満州鉄道や日本人に被害が・・・

 ソ連軍の南進も奉天軍と馬賊・匪賊を掃除し、

 朝鮮民族を満州に定着させただけ、

 ソ連は、アメリカ軍と事を構えるのが面白くないのか退きます。

 血で血を洗う漢・朝民族紛争は、満州全土に広がり無法地帯。

 満州鉄道の点と線の細い利権は、損益収支が怪しい状況です。

 中国大陸も蒋介石・国民軍が弱体化で、かなり怪しい状態です。

 

 

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NEWVEL     HONなび

 

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第03話 1932年 『激情と自制』
第04話 1933年 『リメンバー・シャンハイ』

第05話 1934年 『欲張り過ぎると沈むよ』