月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『不戦戦記』

 

第05話 1934年 『欲張り過ぎると沈むよ』

 ドイツ・ポーランド不可侵条約

 

 友鶴事件 (転覆)

 赤レンガの住人たち

 「40度傾いただけで転覆かよ」

 「600トン級は復元性が失敗だな」

 「全面的に見直ししないと・・・もう、用兵の言うことは聞けんな」

 「蒼龍も駄目だな」

 「どうする?」

 「白紙撤回で、20100トンで1隻分だな」

 「まぁ その方が予算が少なくて済むし」

 「赤城、加賀と行動しやすいか」

 「拡大改良で、図面の引き直しだな」

 「友鶴事件を幸いというべきかな」

 「金剛型と伊勢型の改装は・・・これで、いいのか?」

 「砲数が減るな」

 「まぁ 確かに巡洋戦艦や伊勢に乗って、アメリカ戦艦と撃ち合いたくないよな」

 「・・・やっぱりワシントン条約破棄だろう」

 「陛下が批准だって」

 「しかし、国を思えば・・・」

 「無理だよ」

 「じゃ 改装か、代艦に金を掛けるかだな」

 「陸軍のヘタレのおかげで、軍事費は期待できそうにない」

 「農地改革の手数料分の軍事費でようやくだからな・・・」

 「武器弾薬が売れているのが救いだな」

 「平均単価が少し減った」

 「しかし、もう少し規格を合わせて部品を共有化しないとな」

 

 

 霧島改装

 日向改装

伊勢型 排水量 全長×全幅 吃水 馬力 速度 航続力         水上機
新造時 31200 208.18×28.65 8.74 45000 23 9680海里/14ノット 356mm連装×6 140mm×20 8cm×4    
友鶴事件前 廃棄 36000 215.8×33.83 9.21 80000 24.5 7870海里/16ノット 356mm連装×6 140mm×16 127mm連装×4 25mm連装×10 3
友鶴事件後 新案 35000 215.8×33.83 9.21 136000 30 12800海里/18ノット 356mm連装×4 140mm×12 127mm連装×10 25mm連装×20 5

 伊勢と日向は高速戦艦となってしまう。

 「大砲が寂しくないか?」

 「航続距離があるから、通商破壊に使うのが吉だな」

 「アメリカ資本の満州投資が始まってから、こんな感じだな」

 「そんなに良いのか、通商破壊?」

 「アメリカ資本が満州と中国大陸に参入し始めているから」

 「通商破壊の方が効果があるだろう」

 この改装に脅威を感じたのは低速戦艦しか持たないアメリカ海軍であり、

 中国に大軍を送り込もうとしているアメリカ陸軍だった。

 二階に掛けられた梯子を落とされては、かなわないと、

 あれこれと画策していく。

 

 

 上海

 日本商船が上海を越え、

 漢口、重慶に向かうとアメリカ河川砲艦が近付いてくる。

 「船長。アメリカ河川砲艦が臨検したいそうです」

 「ちっ! 日本の河川砲艦がいなくなると湧いて出てきやがる」

 「どうします」

 「しょうがない、停めろ」

 「どうせ、アメリカとイギリス向けがほとんどだ」

 「贅沢ですよね。アメリカ人とイギリス人」

 「揚子江は暑い場所が多い」

 「そりゃ ロープウェーで見下ろしたくなるような風景もあるがね」

 「結局、ケーブルは外国製ですか?」

 「強度とか、引っ張り強度とか、散々言われて、結局、箱だけ」

 「まだ、日本製だと、命預けられないですかね」

 「運行されているのに・・・」

 「ケーブルに当たるかは別として、小銃で撃たれても大丈夫はないだろう」

 「そりゃ 厳しいですかね」

 「しかし、中国の租界回収運動で減っていた外国人が上海事変で盛り返しか」

 「このまま、米英仏連合で大陸権益を押し切りだろうな」

 「アメリカとイギリスは、本当に上海を領土にするんでしょうかね」

 「・・・上海を抑えれば、中国と日本の生命線を押さえられる」

 「口実があればやりそうだな」

 アメリカとイギリス商人は、匪賊対策で大陸の山を買って城砦化。

 山と山をロープウェーで繋げて天上人化していく、

 小さな飛行場を建設し、

 日本から飛行機を購入、エアコミューター網を整備していた。

 

 河川砲艦から士官が乗り込んできた。

 「・・・アメリカ製スプリングフィールドとイギリス製エンフィールドが随分と多いようですな」

 「租界で良く売れるもので」

 「最近、匪賊がスプリングフィールドを使っている話しを聞いてますが」

 「さぁ〜」

 「なぜ、国産の38式小銃を売らないでスプリングフィールドやエンフィールドを?」

 「アメリカ人とイギリス人が38式小銃を購入されるのでしたら喜んでご用意しますよ」

 「租界で売るには、数が多いようですが?」

 「これから増えそうですから需要ですよ。需要」

 「日本租界で、大量の小銃が盗難にあったとか?」

 「これは、代わりですかな」

 「かも知れません」

 「・・・きっと、また、盗難に遭うのでは?」

 「まさか、気をつけているはずですよ」

 「・・・・・」 ため息を付きながら士官が帰っていく。

 木を隠すなら森へ隠せ。

 国民軍の持っている小銃は世界各国で売られているもの。

 日本の商社は、安い武器弾薬を購入しては中国へ運ぶ。

 無論、日本の38式も売られていた、

 しかし、日本が背後にいると決め付けられないほどの比率だった。

 

 

 中国

 揚子江のどこかで要人の密談が行われている。

 それが、どんな詰まらない不毛な会話でも、

 要人たちを下支えする者たちが配置される。

 そして、守る側と攻撃する側に分かれ、銃撃戦が行われる。

 風光明媚な山あり谷ありの農村地帯。

 大きな家が一つ、

 この時間、地図を見て、

 自分が潜入するなら、このルートを使う。

 ほか3ヵ所ほど、目ぼしいルートにも人員を配置。

 拳銃は、物理的な法則にしか従わず、

 主義も、思想も、民族も関係ない。

 敵にも味方にも神の如く公平な拳銃が好きで、この仕事をしている。

 拳銃の有効射程はほぼ50m。

 それを越えるとまず当たらない。

 竹林で銃声が響き、

 銃弾が辺りの竹を掠めていく。

 相手は、ガバメント。

 『そんな大きな拳銃を持ち歩くなよ〜』

 腕前が互角で距離が離れた場合、命中率はトカレフが上。

 しかし、大砲のようなガバメントの威圧感に舌打ちしたくなる。

 木森ケンスケは、トカレフ1930を愛用していた。

 前は14年式を使っていたがデザインが気に入らない。

 ワルサーPPKは、都市が少ない中国だと不利。

 ガバメントは、携帯できる弾数と命中率で不安。

 威力も重要だったが持ち物としての限度もあった。

 妥協に妥協を重ねてトカレフ1930。

 トカレフがガバメントより有利だからでなく、

 ワルサーPPK重量635g。トカレフ重量854g。

 十四年式拳銃890g。ガバメント重量1077g。

 日常生活に支障がない程度で持ち歩く銃は、どれ? という程度。

 トカレフでさえ嵩張って煩わしいのだから、

 相手の気苦労に同情する。

 竹林は目障りなだけで盾にはならず、

 相手と一緒に竹林の中を平行に移動する。

 木漏れ日の中で時々、日差しが目に当たる。

 相手は太陽を背にして有利だった。

 弾丸が背を掠めたのがわかる。

 トカレフ   7.62mm×25弾×8発。

 ガバメント 11.43mm×23弾×7発。

 互いに相手と自分が撃った弾丸の数を数える。

 弾切れは、一つの転機で、

 予備の拳銃がなければ、それで決着が付くこともある。

 かといって、ガバメントが当たると致命傷で、

 自分の体を囮に相手に撃たせるわけに行かない。

 その点、トカレフは、当たると致命傷に至り難く、不利といえた。

 向こうが一気加勢に突っ込んできたら負けそうで、

 木森は、夕陽を外そうと竹林の中を走るが、

 相手も夕陽を背にするために走る。

 そして、近付いてくる。

 全速で夕陽と標的を外そうとするものの、

 相手の方が速いく、夕陽と相手の体が重なっていく、

 互いの状況を見据え、必殺の一撃にかけて・・・

 ちっ!

 不意に夕陽の眩さから、相手が出てくる。

 二つの銃声が辺りに響いた。

 木森ケンスケは、左手を離すと竹がしなって元に戻っていく、

 僅かに地の利が良い場所を選び、

 竹の弾力性を認識していただけだった・・・

  

  

 アメリカの上海割譲要求は、列強の見立てで、蒋介石の失墜を辛うじて留め、

 中国地方軍閥を緩やかな連帯で繋ぎとめる分水量と思われた。

 上海の利権は大きく、

 国力比で、中国の反撃も捻じ伏せることができると計算されていた。

 また、日独ソ3国が後から割り込もうとしても、

 ビジネス以上の関係になりえない、

 日独ソ3国は、共闘しても米英仏連合に勝てないと考えられ、

 祖国自衛で戦うならまだしも、中国のために米英仏連合と戦うような、

 お人好しの国は地球上に存在しない、

 また米英仏は工業力、資源でも勝ることから、

 旋毛を曲げられると必要な技術も資源も買えなくなる。

 漢口

 蒋介石は、ソ連、日本、ドイツの代表と交渉する。

 「I-15戦闘機はいいあるか?」

 「ご存知ですか?」

 「I-15戦闘機のエンジンはアメリカ製ですよ」

 「国産に切り替える予定ではありますがね」 ソビエト代表

 「・・・・」

 「我が国の航空機も欧米諸国の技術に依存していますな」

 「・・・・」

 「ソ連、日本、ドイツの3国でも、米英仏連合と敵対行動をとれば、資産凍結」

 「輸入制限や輸出制限を掛けられて、大損ですよ」

 「例え、中国の資源と市場は大きくても」

 「必要以上の肩入れは、出来かねます」

 「上海がアメリカに取られてもあるか?」

 「物資と武器弾薬を可能な限り供給できますがね」

 「米英仏連合と戦争するような自殺願望のある国は少ないと思いますよ」

 「我々が出来ることといえば、程度の低い嫌がらせ程度でしょうな」

 日本、ソ連、ドイツも、

 それらしいことを言いながら中国に資源を叩き売らせていた。

 

 

 とある部屋

 高級将校が長々と弁舌。

 「・・・今をおいて皇軍を動かす時期はありません」

 「しかしの、時化で沈むような軍艦で」

 「そのようなことを言われてもの」

 「・・・・・」

 

 

 

 アドルフ・ヒットラー首相が総統を兼任して独裁。

 

 

 昭和天皇誤導事件

 

 

 中国共産軍 長征

 蒋介石・国民軍は弱体化していた。

 しかし、毛沢東・共産軍は、米英仏軍と事を構えるをよしとせず。

 ソ連の援助を受けやすい有利な場所へと移動する。

 もっとも、ソ連は毛沢東・共産軍を全面的に信用しておらず。

 というより、中国大陸に野心を抱いているため。

 中国が共産化してしまうと、共産主義国家同士の抗争となり、

 共産主義の理想が破綻して困った状態に陥る。

 しかし、蒋介石なら打倒して、満州をせしめる事が出来るかもしれない。

 そういう理由で・・・

 

 

 米英仏連合軍は、上海と香港を基地に匪賊を追い中国大陸へと進撃していく。

 上海租界を襲撃した第19路軍は既に全滅していた。

 そして、蒋介石の国民軍も上海租界を侵害していたため、タダでは済まず。

 米英仏軍は次から次へと無理難題な要求を増やしていく、

 最大の要求は上海の割譲。

 これを飲むと、蒋介石・国民政府は即座に崩壊して消滅。

 蒋介石の国民軍は、米英仏軍との衝突を避けつつ、

 希少資源を売却し、日本、ドイツ、ソ連の武器を得ていく。

 

 米英仏伊連合軍は、上海全域を占領下に置いたものの匪賊に悩まされていた。

 匪賊は、歴代中国王朝から綿々と続く伝統があった。

 成功率が高ければ人種に拘らず公平に襲撃する。

 比較的、当たりを引くのが白人だっただけの話しで、

 白人の被害は、米英仏の利権拡大へと繋がっていた。

 

 上海国際都市は、返還された日本の租界区を除くと、白人が支配者として君臨していた。

 漢民族は、幾つもの勢力に分かれていた。

 米英に反発する民族主義の蒋介石国民軍と毛沢東の共産軍、

 近代化と民主化と外資の甘い汁を求め、新しい支配者になびく裏切り者、

 虎視眈々と力をつけて中央を狙う地方軍閥、

 そして、搾取される大多数の虐げられる者に分けられた。

 中国人が民族自決と主権回復を望んでも、

 国家を主導すべき権力者は私腹を肥やし、

 裏切り者、民族主義者は、大多数の民衆を食い物にするばかり、

 中国の力だけでは、近代化も民主化もできなかった。

 上海ヒルトンホテル

 数人の日本人が泊まって、外を覗き込む。

 「あれが建設中の米英仏伊の上海殺戮碑?」

 「まだ、造成中だけど、でかいな」

 「大きくして、この上海を領土にする口実にしているんだな」

 「だけど、凄いじゃないか」

 「随分、アメリカ人が増えている」

 「黒人とフィリピン人もいるな」

 「インド人もだ」

 「考えていることが、わかりやすいな」

 「日本も農地改革の煽りで、朝鮮人を満州へ押し出している」

 「それ、上手くいってるのか?」

 「半島はね」

 「満州は、漢民族と朝鮮民族で大混乱で収拾が付かないとか言ってたぞ」

 「アメリカも、本国が不況だからな」

 「それで市場を得るため、中国大陸にきたんじゃないか」

 「南米とかあるだろうに、フロンティアスピリットかな」

 「正気な南米人は、イギリス人とアメリカ人を大量に殺したりしないよ」

 「だよな・・・」

 「しかし、アメリカが上海を領有して」

 「海軍基地と航空基地を建設すると・・・」

 「アメリカはアジア太平洋で圧倒的に有利になる」

 「米英仏の共同領地だろう」

 「上海からあがる利潤の配当があるだけで、実質アメリカ領だよ」

 「発言権は被害者の比率で」

 「配当は投資額の比率か・・・」

 「上海アメリカ株式会社ってところか」

 「ドイツとソ連が中国軍に武器を売っているから、そのうち衝突するんじゃないか」

 「日本は、どうするかな?」

 「さぁ 満州事変で軍の聖域化と自主独立が失敗したし」

 「軍を統制できる将軍様もいない」

 「政府お抱えの昼行灯ばかりじゃないか」

 「天皇が勅命を出せば動くだろう」

 「気が弱そうだし出さないんじゃないの」

 「じゃ 日本も日銭稼ぎかな」

 「600トン級河川砲艦は、大丈夫か?」

 「ああ、復原性が怪しかったから丁度良かったよ」

 「魚雷を外し、装備を足せば完璧な河川砲艦だな」

 「不幸中の幸いだな」

 「1200トン級河川砲艦が欲しいらしいよ」

 「河川砲艦でか?」

 「揚子江は広いからね」

 「旧式駆逐艦を払い下げてもらうか」

 「やれやれ、本気で中国大陸を押さえるつもりなんだな」

 「日本も、軍は動かせなくても船は売れるからね」

 「良い金になりそうだ」

 「資源は?」

 「アメリカとイギリスが供給するよ」

 「それは嬉しいね」

 「だけど、アメリカとイギリスが大陸を押さえたら、日本は、いつまで持つかな」

 「日本の生殺与奪権は完全に米英に奪われるね」

 「だよな〜」

 「蒋介石にがんばってもらって、上海割譲だけは防いでもらわないと」

 「米英仏連合軍に攻め立てられたら無理だろう」

 「しかし、蒋介石は、上海割譲なんて認めたら中国じゃ生きていけないよ」

 「アメリカとイギリスは、上海で万単位で殺されたらな」

 「上海を割譲しない限り政治生命が問われるし」

 「どっちも、引っ込みが付かないと思うよ」

 「でも合計で万単位なんだから、その辺は割り引けばいいのに・・・」

 「“上海事変で米英仏伊人合わせて犠牲10000人以上”」

 「言ったもん勝ちだろう」

 「しかし、アメリカも上海を取るなんて欲張り過ぎだな」

 「それが、欧米人の命の対価だろうね」

 「有色人種全体が萎れちゃいそうだな」

 

 

 海軍は不祥事続きの軍事予算削減で取捨選択を強いられていた。

 旧式艦艇の売却、破棄、解体など・・・

 そして、米英仏伊列強海軍が上海割譲要求で東シナ海に集まると、

 艦隊決戦思想は、やっていけなくなる。

 天龍3230トン 全長142.65m×全幅12.34m。吃水3.96m。

 51000hp。33ノット。

 50口径140mm砲4門。40口径8cm砲1門。53cm魚雷3連装2基。

 1919年就役なら艦齢15年。

 まだ使える艦艇から魚雷を剥がし、

 機関をディーゼル機関4500馬力×2。9000馬力に換装して21ノット、

 40口径127mm連装砲4基。

 爆雷投射機6基を装備させ、雑役艦に改造してしまう。

 「水雷は海軍の花なのに酷いよね・・・」

 「哨戒とか、巡回だと、ディーゼル機関がいいからね」

 「聴音機とか、大したことないんだから、こんな艦艇があってもな」

 「だったら尚更だろう。数撃ちゃ当たる」

 「んん・・・」

 「居住性は良くなったぞ。待遇改善」

 「それだけが救いだな」

 「長期作戦できるように」

 「はぁ〜」

 「1920年前後の巡洋艦、駆逐艦は、雑役艦に改造だな」

 「貧乏くせぇ」

 「もう、不祥事はやめてくれよ」

 「予算削減も給与の返納も、ごめんだ」

 「哨戒艦なら、まだマシか」 ため息

  

  

 満州

 奉天軍が崩壊して無法地帯と化した満州で朝鮮共産軍が勢力を拡大していく、

 ソ連軍が南進の口実に利用した朝鮮人は農村部を抑えつつ都市に侵入し、

 町を守る馬賊と衝突する。

 アメリカは侮りがたいと思ったのか、

 馬賊を反共漢民族軍に押し立てようとするが上手く行かない。

 一方、ソビエトに支援された朝鮮人の知的水準は漢民族以上で数が多く、

 ソビエト軍に武器弾薬を供給されると奉天軍より手強かった。

 そういう意味では朝鮮人はソビエト軍を利用し、満州で勢力を拡大したと言えなくもない。

 荒野を満州鉄道で走っていくと、朝鮮人の姿がちらほらと見える。

 無害そうに見えても彼らが列車妨害すれば大損。

 満州の資源と市場は、日本の近代化で重要でありながら日本人は少なく

 犠牲者を含めた損失を含めると収支が怪しくなっていた。

 「満鉄をアメリカに売るべきでは?」

 「ソビエトに売る方が良くないかね」

 「競売にかけると1億ぐらいか?」

 「戦艦1隻分?」

 「もっと欲しい。10億ぐらい吹っかけるべきだ」

 「撫順の石炭埋蔵量は10億トン」

 「年間800万トンも産出だぞ」

 「もっと高く売れるだろう」

 「絶対に反対」

 「そうだ。あそこを失うと中国への販路も失う」

 「遼東半島と朝鮮半島は残るじゃないか」

 「そこでも売れる」

 「現時点で、アメリカに満州鉄道の販路を押さえられているだろう」

 「農地改革で社会資本は余裕があるし、景気は良いだろう」

 「いまさら社会資本を満州に回せるか」

 「そうそう、赤字国債を庶民に押し付けて満州開発なんて」

 「軍人とか、特定の利権者だけが肥え太るだけ。反対」

 「しかし、治安さえ守れれば売ることないだろう」

 「日清戦争からシベリア出兵までの費用は58億円。戦傷者21万だ」

 「それで20億の利益を得たのは、一部の軍属と利権者だけだ」

 「ふっ 戦争せず58億を社会資本で残すか」

 「そのまま、公共投資した方が益だったかもな」

 「将来に対する投資だろう」

 「その将来も、軍属と、一部の権益者ばかりだろう」

 「もう、国全体では大損なんだよ」

 「58億も散財させられたら国民も怒るだろう」

 「しかし、満州鉄道を売っても、その損失を埋められんのが痛いぞ」

 「「「「・・・・」」」」

 利権を抱え込んだ満州鉄道転売派と、

 満州鉄道維持派の間で議会が割れていた。

 沿線上の鉄道付属地で、

 飛行場が作られたのも、この頃で・・・

 費用対効果が良ければ採算に合うと計算の結果。

 96式戦闘機 (空冷610馬力) が監視のため滑走路から飛び立っていく。

 日本軍の将校たちが見送る。

 「まさか、満州に96式戦闘機を配備するとはね」

 「旧式機はアメリカに買われた」

 「あはは・・・」

 「ドル札で頬を叩くような信じられねぇ 買いかたしやがったらしい」

 「この96式戦闘機も買い取りかねなかったほどだ」

 「アメリカのお金持ちは、日本の国家予算くらい持っているだろう」

 「日本政府も、戦闘機売らないと、軍事費ないとか、脅しかけてくるし」

 「アメリカの圧力で国が動いたら勝てんわ」

 「どうだい。96式戦闘機は?」

 「95式戦闘機より良いと思うよ」

 「しかし、格闘戦でちょっとかな」

 「そりゃ 格闘戦だと複葉機に負けるよ」

 「時代の流れか・・・」

 「97式戦闘機は?」

 「ああ、陸軍系だろう」

 「まだそんなこと言ってんのか」

 「海軍で航空部隊を統合するんだろう」

 「ふ 陸軍の暴走で一番嬉しかったのはそれだな」

 「工作機械も集中できる」

 「中島とは仲直りしたのか?」

 「いや、格闘性だと96式があるから」

 「キ28にしようかと思ってね。7.7mm4丁にしたよ」

 「ん?」

 「速度で余裕があるのは水冷エンジンの方だろう」

 「7.7mm4丁だと川崎になるよ」

 「そりゃいいが水冷エンジンは、大丈夫なのか?」

 「統廃合で予算上は余裕ができたから大丈夫だろう」

 「とりあえず、陸軍が大陸に押し入らなければ海軍主導でも支障はないからね」

 「だから、陸軍は大陸に膨張したかっただろうな」

 「キ28の着艦は?」

 「最初の設計から期待されていなかったからな」

 「しかし、突出型風防で視界を大きくして」

 「浮き袋と着艦フックは付けて貰うよ」

 「翼面積はいくつだっけ?」

 「たしか・・・」

 「96式が17.80uで最大重量が1707kgで」

 「キ28が19.00uで最大重量が1760kg・・・たぶん1800kgいくかも知れんな」

 「・・・96式が96.2kg/u。キ28が92.6kg/uか」

 「悪くても94.7kg/u。視界が良ければ、いけそうだな」

 「96式もキ28も、スペック上はいいけど実戦がな」

 「んん・・・適当な戦場があれば良いけど軍上層部は腰砕け」

 「勅命も出そうにないし、政府も退いてるし」

 「しかし、もう少しあれだな」

 「ん?」

 「滞空して監視するだけなら高性能な戦闘機じゃなくても良いぞ」

 「だから、全部、アメリカに買われた」

 「残っているのは戦闘機と練習機」

 「パイロットの方が多いから共有機にしている」

 「・・・・・」 ため息

 日本軍が沿線沿いと付属地に飛行機を飛ばし始めると朝鮮人や漢民族も大人しくなり、

 鉄道妨害も減っていく。

 

 

 この頃、日本航空機がアメリカに売却され、上海と満州の滑走路に並ぶ。

 日本の航空機が優れていたわけではない。

 相手が匪賊なら、旧式でも、新型でも飛べる飛行機なら何でも良かった。

 優れていても、優れていなくても構わない大人買いで、

 単純に大陸に近い日本で買うと輸送が楽だったこと。

 さらに金に任せて軍用機まで買い、95式艦上戦闘機も並ぶ。

 「この戦闘機は狭いが悪くないな」

 「複葉だが航続力があって、P26ピーシューターより良いかもな」

 「日本に負けてるよ」

 「日本もよく戦闘機を売ったな」

 「日本軍が嫌とか言ったから、直接、三菱から新型機を根こそぎ買おうとした」

 「そしたら減価償却前倒しで折れたらしい」

 「しかし、機械の信頼性で言うと駄目だな。エンジンを見ろよ」

 「・・・ん・・こえぇ〜 ヤスリがけだよ〜」

 「すごいだろう」

 「落ちたらどうするんだよ」

 「騙し騙し飛ばして、本国に部品を発注してもらうか」

 「元々、そのつもりだったし」

 「別に高性能機じゃなくて良いんだけどね」

 「普通に飛んで軍閥、馬賊、匪賊の上空を低空で旋回して終わり」

 「300馬力でも十分なんだが・・・」

 「防弾も駄目だな」

 「小銃に落とされると困る」

 「防弾を追加する方がいいね」

 「無線機もな」

 「はぁ〜 やれやれ」

 中国軍相手に必要なのは戦闘機より、

 哨戒機や襲撃機だった。

 

 

 ホワイトハウス

 「日本軍が動かんとは妙だな・・・」

 「アメリカが大陸の資源と市場を押さえると」

 「日本経済の生殺与奪権を握ったようなもの」

 「日本も一緒に参戦すると思いましたが・・・」

 「んん・・・これでは “リメンバー・シャンハイ” を口実に」

 「欧米列強が国益とエゴだけで中国大陸を占領しているようなものだぞ」

 「本音はそうでも、建前上、もっと、大義名分が欲しいですな」

 「本来なら日本軍を咬ませ犬に使うべきでしたが・・・」

 「日本に退かれては “リメンバーシャンハイ” の正当性も薄まる」

 「日本も参戦させよ」

 「工作はしていますが勅命が出ないとか・・・」

 「本来なら日本人が逃げ出さない状態で上海虐殺が起こるべきだったのだ」

 「日米英仏4カ国連合で中国を制圧すべきだったのだ」

 「それを・・・」

 「日本人は、戦略下手ですからね」

 「説明しないと、わからないのでは?」

 「そんな犯罪染みた謀略は、口に出さず、言われなくても悟る」

 「それが常識のある執政者だろう」

 「そうすれば、被害者は10000じゃなく」

 「被害者総数30000で中国の利権を根こそぎだったんだぞ」

 「しかし、日本人の上海租界引き揚げは意外でした」

 「一国だけで上陸して中国とドンパチやらかすと思っていましたが」

 「日中戦争か、そっちも悪くないな」

 「日本民族らしからぬ、ですね」

 「中国と組んでアメリカに宣戦布告はないだろうな」

 「まさか、アメリカ、イギリス、フランスを敵に回して戦うようなバカはしませんよ」

 「そうだな」

 「しかし、もし、いま日本と戦争した場合、倒せるかね」

 「長門型2隻があるので、コロラド型3隻と交換になるかと・・・」

 「んん・・・その交換は困る」

 「つまらない理由で戦争できんな」

 「それと、日本戦艦の伊勢・金剛型6隻ですが」

 「高速通商破壊戦艦に改装する動きがあるようです」

 「・・・・」

 「アメリカ太平洋艦隊の分遣隊は、上海を基地にしてますし」

 「戦争になれば日本沿岸都市を艦砲射撃で破壊できるかもしれません」

 「しかし、日本の通商破壊戦艦は」

 「戦艦以外の全ての艦船を狙うと思われます」

 「肉を切って骨を断たれるのか」

 「いや・・・逆だな・・・骨を断つと肉を切り刻まれるわけか」

 「中国を片付けてからでないと、対日戦は無理かと」

 「中国を片付ければ、対日戦は、楽勝になるよ」

 「ええ、計算上、上海で得られる利権だけで、日本を叩き潰せるはずです」

 「しかし、日本が満州鉄道をソ連に売却する動きもあるようですが」

 「それは、地の利でソビエトが有利になる。困るぞ」

 「満州の朝鮮共産軍は勢いがいいようですし」

 「漢民族は数が多いのですが上海割譲要求でまとまりが悪いようです」

 「あちらを立てようとすれば、こちらが立たずか・・・」

 「満州族と回族を取り込もうとしていますが数が少なく、仲が悪いようで・・・」

 「日本なら、漢民族をまとめやすいかもしれません」

 「そんなことをすれば、満州の利権で日本に押し返される」

 「満州と上海。どちらの利権が大きいと?」

 「上海だ・・・」

  

 

 

 皇居

 33歳の壮年と総理大臣がお茶をすする。

 「今年も良いお茶が採れたの」

 「まったくです」

 「あの者には悪いが誤誘導は刺激があった」

 「たまには、一人で町を歩き回りたいの」

 「それは無理でございます」

 「やっぱり、無理かの」

 「無理です」

 「不自由な皇国じゃの」

 「残念です」

 

   

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 日本政府は、あれこれ難癖をつけて、

 陸海軍を制御できるように統制下に置いていきます。

 

 

ランキング投票です。よろしくです。

NEWVEL     HONなび

 

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第04話 1933年 『リメンバー・シャンハイ』
第05話 1934年 『欲張り過ぎると沈むよ』
第06話 1935年 『大陸の誘惑』