月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『不戦戦記』

 

第06話 1935年 『大陸の誘惑』

 3月16日 ナチス・ドイツが再軍備を宣言。

 

 6月 イギリスがドイツの再軍備に耐えかねて、ワシントン条約を破棄。

 赤レンガの住人たち

 「よっしゃー! 条約破棄だ」

 「これで戦艦建造だぞ」

 「次期建艦で予算増額だな」 笑みがこぼれる。

 「マル3計画だ〜」

 「「「「ばんざ〜い!! ばんざ〜い!! ばんざ〜い!!」」」」

 

 

 上海

 アメリカ軍は上海を占領し、

 アメリカ資本は囲い込みで土地を買い取っていく、

 周囲を押さえ、出入り口を塞いでしまうと中が死ぬ。

 これは囲碁の要領だった。

 えげつないのだが先進国はこの方法で土地を買収し、近代化したともいえる。

 因みに日本が半島でやった方法も、これ。

 他にも治水を止めたり、

 わざと洪水を起こさせたり・・・

 これをやられると、中の住人は、生命線を断たれて生きていけず、だった。

 漢民族は、安上がりな方法で上海から内陸部へと追いやられていく、

 上海に上陸した米英仏伊軍が増えるにつれ、

 米英軍の生活用品を支えるため日本商船の行き来も増えていく、

 港に荷揚げされる連合軍の物資は多く、

 上海に上陸したのは、アメリカのクリスティ戦車だけでなかった。

 フランスのルノーAMR33/35軽戦車、ルノーD1歩兵戦車。

 イタリアのカルロ・ベローチェL3(CV3)豆戦車

 イギリスは、余っていた古い菱型戦車を荷揚げする。

 日本商船の船橋からその様子が一望できた。

 「ほう、戦車だ」

 「勢ぞろいだな」

 それでさえ、中国軍を圧倒するのに十分だった。

 「ほう・・・」

 「イギリスは、巡航戦車Mk.Iを開発していたらしいが、まだのようだ」

 「中国軍は大きな匪賊軍に過ぎない」

 「イギリス空軍も来てるし、第一次世界大戦型戦車でも十分だよ」

 「そうだな」

 「日本軍は出なくていいのか?」

 「良くわからんが軍に勅命が出ないらしい」

 「絶好の機会なのに・・・」

 「政府は何をやっているんだ?」

 「いや、皇軍は、陛下の裁可待ちで動く」

 「政府は関係ないよ」

 

 

 

 アメリカの景気回復を支えたのはニューディール政策。

 そして、リメンバー・シャンハイ需要だった。

 憤りが原動力となって需要を作り、

 賃金相場を超える勤労が経済に活力を与える。

 29年の大恐慌から止まっていた重機が動き出し、

 工場に人が集まり始める。

 アメリカが望んでいたのが、これだった。

 アメリカは正義でなければならず、

 敵が悪でなければならず、

 強敵でなければ燃えない。

 しかし、中国軍相手だとパンチ力に欠ける。

 そこで、張学良率いる奉天軍から、

 毎日のように襲撃されていた日本人の被害をアメリカ国民に伝える。

 日本人を奉天軍、匪賊、馬賊に襲撃させていた連中の考えることは人外なのか、

 “凶悪な張学良・奉天軍に襲撃され、怯えてる、かわいそうな日本人を守ろう”

 醜悪な中国人に襲われる日本人女性が描かれたプロパガンダポスターが貼られ、

 アメリカ人の敵意と勤労意欲を掻き立てていく、

 上海でアメリカ人が殺され、

 さらに中国軍の悪逆非道な映像まで流されると、

 正義感に突き動かされた若いアメリカ人が立ち上がる。

 当然、アメリカは自己正当化で上海の日本租界を広げ、

 もちろん、ダシにした日本租界の生殺与奪を握ることも忘れない。

 上海租界の公園

 白人と黄色人

 「アメリカ国民は、漢民族から日本人を守ろうという声が強くてね」

 「日本租界を大きくしてやって」

 「さらに周りをアメリカ租界で囲ってあげたよ」

 「お礼は要らないからね」

 『誰が言うか!』

 国境線を決めるのは誰か、

 それは、強い国に他ならない。

 アメリカが大運河に沿って、

 プラスアルファで適当に線引きした地図が一部に知れ渡ると、

 非公開ながら動揺が広がる。

 白人を殺し過ぎると、こういう過酷な運命になる。

 という気がしないでもない。

 実質、アメリカ軍は漢口まで進んでおり、

 占領地は広大であるにもかかわらず、

 割譲要求の面積は、上海地区と言える程度で、四国より小さい。

 しかし、場所が問題だった。

 揚子江は蓋をされ、

 天津まで繋がる大運河の片側が押さえられ、中国の未来も閉ざされる、

 アジアの未来も怪しいほどで、

 このままだとアジアは、白人の支配する世界になる。

 識者は、大騒ぎになるものの、

 中国を守るため、国運を賭けた戦争に踏み切れる勢力はなかった。

 どちらかというと、日本経済は米英仏軍の上海需要で潤い、

 ほくそ笑んでいる者が多かったのである。

 

 

 某航空機会社

 「やっぱり、採算の合う飛行機を開発すべきだろうな」

 「社長、いくら戦闘機開発から外されたからって・・・」

 「何を言う。大型民間機で儲ければ、それだけ、社会が潤う」

 「戦闘機なんぞ作って、誰が喜ぶ」

 「軍人」

 「軍人は金を作れん」

 「消費するだけ。国家予算を散財するだけだ」

 「金を作るときは、人を殺して侵略して奪うときだけ」

 「それも赤字」

 「しかし、イギリスがワシントン条約を破棄して、軍拡になるのでは?」

 「日本が軍拡する軍事費の、十数倍が上海に注ぎ込まれているのだぞ」

 「これからの時代は、軍人ではなく、需要が神様だ」

 「はぁ・・・」

 「上海は低地で、鹿児島とほぼ同じ緯度だ」

 「つまり暑い」

 「当然、白人は、北の避暑地を求めるだろう」

 「はぁ」

 「だから飛行機だ」

 「日本は、観光立国になるぞ」

 「強引ですね」

 「我を通せば道理が引っ込むのが世界だ」

 最大手の某航空機会社は戦闘機開発に見切りをつけ、

 アメリカ、イギリスからの部品製造を受注し、

 あっさりと外資需要・民間需要に切り替えていく、

 そして、軍事縮小の煽りで、お金持ちのアメリカ・イギリス需要を当てにし、

 上海向けの商品開発に取り掛かっていく、

 飛びついたのが農地転売で利益をあげた新興企業勢力で、

 半分が利潤の良い、上海需要向けの産業へと移行していく、

 そう、農民層の倅とはいえ、

 一世代、昔と違い、学校を出ていた者が多く、

 知識量が多いことから土地売却資金と合わせて成功率が高まっていた。

 

 

 軽井沢

 外国人向けの別荘が立ち並んでいた。

 さらに別荘が建設され、白人たちが集まってくる。

 軽井沢は、日露戦争で負けていたら外国の租界地にされていた、かもしれない。

 もっとも、外国人にすれば治安が良く、

 法が適正で公平であれば良いので日本の治安と法で妥協した可能性もある。

 関係者たち

 「アメリカ、イギリス、フランス、イタリアの高給軍人と、その家族が避暑に来るから」

 「この近辺の整地は、丁寧にやってくれ」

 「はい、しかし、随分と大規模ですね」

 「ああ、上海が領土化なら」

 「たとえ、造成して高台に押し上げても常駐軍は20万を超えるはず」

 「中佐以上だと軽く300人を越える」

 「じゃ その将校が?」

 「将校だけじゃない」

 「後から来る上海利権者は、もっと多い」

 「軽井沢が吸収できなければ、他に取られる」

 「他にも、ライバルが?」

 「外貨が入れば大きいからね」

 「他の家が見えない程度に木も植えてくれ」

 「忙しそうですね」

 「料理人が足りない。訓練されたメイドも少ない」

 「電力も欲しいな・・・尾瀬にダムを・・・」

 「あそこも、自然に五月蝿いから怒るんじゃないですか」

 「観光を尾瀬に取られるじゃないか」

 「あはは・・・」

 「半島も避暑地狙いで動いてるし、分母が大きいと困る」

 「そりゃ そうですがね」

 「でも、あそこも含めて日本に観光に来るのかもしれませんし」

 「・・・・」 むすぅ〜

 

 

 ワシントン

 数人が集まって密談。

 「ドイツの再軍備からイギリスのワシントン条約破棄まで、3ヶ月。随分粘ったな」

 「イギリスの栄光と伝統が条約破棄の邪魔したんでしょう」

 「イギリスは、海軍力で余裕があるので」

 「日本が条約破棄すると期待して、限界まで我慢したんでしょうな」

 「だがワシントン条約の失効は37年6月で2年先だぞ」

 「建造期間で逆算すると・・・」

 「アメリカ、イギリス、日本は、ドイツが戦艦を完成してから建造になりそうですな」

 「旧式戦艦で、新型戦艦を押さえられるものなのか?」

 「ドイツが建造する新型戦艦は、2隻から4隻でしょうな」

 「数を揃えて、ぶつけるしかないはずです」

 「数か・・・」

 「相手が新型だと数が多くても不安だな」

 「ドイツ海軍は、人材的に層が薄く練度が低い」

 「海への出入り口が狭く、Uボートに集中しやすい」

 「あと、戦艦建造の経験が失われているマイナスもあります」

 「んん・・・そんなところだろうな」

 「対中国の足並みが乱れそうだな」

 「ドイツを上海から排除したツケが回ってきたようです」

 「そのツケが、高くつかなければいいが・・・」

 「欧州で戦争になれば、もっと儲けられそうですがね」

 「今は、中国に集中したいな」

 「そのほうが確実です」

 「上海の状況は?」

 「大運河を浚渫して水路幅を広げ」

 「東側に永久堡塁を構築しています」

 「駐留軍は少ない方が良いし」

 「清涼さを求めるなら可能な限り高台にすべきだろうな」

 「海軍基地と航空基地」

 「陸軍を配備すると相当な規模になるかと思われます」

 「消費も、資源も、得られるので日本以上の工業地に出来ますかね」

 「土地の収容を急いでな」

 「資源と市場と。さらにアジア最大の戦略拠点になる」

 「上海を押さえれば日本の首根っこを押さえたも同じだ」

 「日本政府は、対応で割れているようです」

 「もっと甘い汁を吸わせて大人しくさせれば良い」

 「上海を確保できれば、元が取れる」

 「しかし、蒋介石も粘りますね」

 「日本を仲介に賠償金を提示してきましたよ」

 「ふ♪ 賠償金なぞ欲しいものか」

 「蒋介石は、割譲を承認したが最後、盛大な生け贄にされるでしょうね」

 「じゃ 自他とも認めるしかないところまで中国を追い詰めると?」

 「のんびり、利権を拡大しながら進めば良い」

 「口実さえあれば、利権を拡大できるし、高く売ることもできる」

 「資源と市場を抑えれば、日本人をアメリカの奴隷国にも出来ますかね」

 「奴隷国は、かわいそうだろう」

 「生かさず殺さずで、労働国だよ」

 「「「「あははは・・・」」」」

 

 

 第四艦隊事件 (台風による艦首切断。ほか破損多数)

 金剛改装

 伊勢改装

 赤城改装

赤城 排水量 全長×全幅 吃水 馬力 速度 航続力         艦載機
新造 26900 261.2×29 8.1 131200 31 8000海里/14ノット 200mm連装×2 200mm×6 120mm連装×6   60
改装 廃棄 36500 261.2×31.32 9.5 127400 31.2 8000海里/16ノット   200mm×6 120mm連装×6 25mm連装×11 90
改装 新案 38000 261.2×31.32 9.5 136000 32 10000海里/18ノット     120mm連装×6 25mm連装×20 100

 嬉しげな海軍将校が赤城の改装を見守る。

 「農地改革で入ってきた手数料がなければ主力艦の改装も怪しかったですね」

 「だが今度は、イギリスのワシントン条約破棄、再軍備のおかげで37年の6月に失効だ」

 「戦艦建造ですかね」

 「そうだといいがな」

 「最近、軍部は干されてますからね」

 「しかし、米英仏軍の上海上陸もあるし、予算増額だろう。比叡も改装するか」

 「問題は、上海にアメリカ軍の基地が建設され、潜水艦と航空部隊を配備されることです」

 「戦艦を建造しても不利だろうな」

 「では・・・」

 「本当なら米英仏伊軍と一緒に上陸して、列強と足並みを揃えたかったのだが・・・」

 「御前会議はなんと?」

 「陛下は、気が進まぬと・・・」

 「はぁ〜」

 「皇軍より、国軍がいいかもしれませんね」

 「軍不祥事の処断権を政府に取られてから、どうにもならん」

 

 

 とある部屋

 高級将校が長々と弁舌。

 「・・・今をおいて皇軍を動かす時期はありません」

 「しかしの、大陸に行くには海を渡らねばならん」

 「台風で壊れる軍艦で、そのようなことを言われてもの」

 「・・・・・」

 

 

 中国

 アメリカ軍は割譲要求している上海を押さえて横綱相撲なのか、ジリジリと戦線を推し進めていく。

 アメリカ軍は、兵站と通信網を確保しながら進撃する、

 統制された軍隊は拙速を好まず、遅いように見えて無理がなく、ムラもなく、無駄もない。

 無意味な戦死も少なく、厭戦気運も小さい。

 揚子江を輸送船が行き来し、沿岸に鉄道が敷かれ、

 要衝に城砦が建設され、陸軍の進撃を支援する。

 中国を降伏させれば、

 そのままアメリカ権益として残す意図は明白で、

 日本商船は河川砲艦と一緒に重慶まで向かっていく、

 船橋

 軍人、役人、商人ほか数人

 「すげぇ〜 アメリカ軍は鉄道作りながら戦線まで行くつもりだよ」

 「歩いていかないのか?」

 「のんびりしているよな」

 「アメリカ、イギリス、フランス、イタリアが求めているのは殺戮された上海の割譲だけだろう」

 「のんびり蒋介石を追い詰めればいいんだよ」

 「兵は拙速を好むだろう。どんどん行けばいいのに」

 「それで、採算が取れるのか?」

 「採算って? ・・・それ、戦争じゃないだろう」

 「利権を伸ばしながら進撃だよ」

 「大運河は浚渫して幅を広げ、上海側を城壁みたいにしているし」

 「たぶん、日本も物資輸送で利用することになるから割安になるよ」

 「米英仏伊連合が上海を押さえれば白人諸国にアジアの首根っこ掴まれたのと同じだな」

 「利権は大きいよ」

 「それ嫌だろう」

 「日本は、アジアを守るため戦わないのか?」

 「勅命が出たらね」

 「勝てん。ナショナリズムで国を滅ぼすなよ」

 「絶対に?」

 「絶対とは言わんが・・・」

 「予算不足で訓練が出来ず、練度が落ちてる」

 「じゃ 欧米列強と一緒に中国を攻撃?」

 「日本人は、上海から逃げてるからな。死んでないから発言力がない」

 「蒋介石は、日本を味方につけて乗り切ろうとしているけど、どちらにしろ日本は発言力無しで厳しいな」

 「商売も、アメリカ向けが儲かりますからね」

 「中国の資源と市場は欲しいけど。今のところ連合軍相手の商売の方がもうかってる」

 「このままだと、中国の資源も市場もアメリカに押さえられるな」

 「それで、日本はアメリカに首根っこ掴まれて終わりですか?」

 「だな・・・」

 「不憫」

 「何も出来ない小国の哀愁が漂うね」

 「日本は中ぐらいでは?」

 「下を見ればね」

 「周りを見るとアメリカ、ソ連、中国、イギリスに包囲されてる。押し潰されないようにすべきだろうね」

 アメリカ河川砲艦が擦れ違っていく。

 「最近、アメリカ河川砲艦は、見逃しが多いですね」

 「日本の河川砲艦が一緒だと臨検はないな」

 「武器を持っていない農民を撃ち殺すと支障がある」

 「武器を持っていたら匪賊断定で撃ち殺しやすいからワザとかもしれん」

 「正当防衛なのか、それ?」

 「アメリカ的解釈だと過剰防衛も正当防衛のうち」

 「それで、見逃し?」

 「だからって、遠慮なく輸出すると。今度は、それを口実に日本を攻撃だろうな」

 「「「「あははは・・・」」」」

 「だけど、人間で狩猟をするなよ」

 「どっちもどっちだけど、えげつなさ過ぎ」

 「あと、日本製の品物が増えたからだろう」

 「日本人がアメリカ軍の下支えで出張っている」

 「アメリカは失業者対策で戦争しているとか?」

 「戦争需要で失業者を抱え込んで軍需産業で活性化だろう」

 「あとは、上海割譲で東アジアの急所を押さえて領土化」

 「莫大な利益がアメリカに転がり込むよ」

 「それで経済を回そうとしているんだろう」

 「羨ましいね。戦争で儲けられるなんて」

 「アメリカは、マネージメントが得意だから」

 「採算を考えながら戦争しているんだろうな」

 「アメリカは国内に戦略物資と産業を抱え込んでいる」

 「日本は、国内に戦略物資がないし、近代産業を買い支えるだけの市場もない、無理だな」

 「日本産業は戦争してなくても怪しいからね」

 「やっぱり舶来物だよ」

 軍人が舶来の腕時計を見せる。

 「「「おお〜」」」

 「上海需要で儲けた叔父さんにもらった」

 「じ、自尊心なくすな〜」

 

 

 漢口

 弱者たちのたまり場

 「賠償は上海でなく、金で済ませられないあるか」

 「打診はしてるがアメリカ、イギリス、フランス、イタリアとも上海割譲で結束している」

 「このままだとアジアは白人のモノある」

 「そうなったら日本も終わりある」

 「ですが、上海殺戮は普通の殺害より残忍で猟奇的な殺し方で、死者も冒涜していますし」

 「白人は証拠写真も映像も撮って世界中に流してるので、同情の余地は・・・」

 「あ、あれは、事故ある」

 「第19路軍は全滅させたある」

 「匪賊化した民衆も続いているので軍だけの問題に収まっていないような・・・」

 「そこを何とかするのが外交交渉ある」

 「もう少し、交渉しますが同じアジア人の日本人が肩入れし過ぎると日本人も中国人と同じ扱いになりますし」

 「このままでは、日本人も、アメリカ、イギリスの奴隷ある!」

 「困りましたね・・・」

 「日本人が上海から逃げ出したから悪いある」

 「日本人のせいある。何とかするある」

 「そんな、殺生な」

 「資源が欲しいのなら、武器をもっとよこすある」

 「満州も、上海も、販路をアメリカ、イギリスに押さえられてますし・・・」

 「と、とにかく賠償なら、いくらでも用意するある。間に立って欲しいある」

 「そりゃ まぁ 上海が白人世界に割譲されると日本も万事休すですし・・・」

 「「・・・・・」」 ため息

 

 

 満州

 満州全域で漢民族2500万、朝鮮民族2000万、

 満州族200万、回族60万、モンゴル族、その他が混在の無政府状態になっていた。

 普通、無地主の土地があれば侵略が始まるのだが日米ソの利権が絡んで三竦み。

 そして、自分の手を汚さず、馬賊や匪賊にやらせるのが満州トレンドだった。

 ソビエトは朝鮮共産軍に武器弾薬を供給し、反米反日の尖兵にしていく、

 アメリカも対抗上、資金力に任せて漢民族、満州族、回族を抱き込み、

 共産主義勢力を押し返そうとしていた。

 しかし、持ち前の白人至上主義による有色人蔑視とと上海割譲要求が足を引っ張っていた。

 漢民族と満州族の外見上の違いは、ほとんどなく。

 満州族と回族を教育し訓練したりは、費用対効果が得られにくく、困難といえた。

 持永ソウスケは、長春で雑貨屋を営む経営者だった。

 個人商店だったが時折、政府の役人と出会ったりする。

 統計や大局的な見方でなく、

 等身大の視点も気になるらしい。

 長春の公園で石焼芋を買って、のんびりとくつろぐ、

 「満州族の再興はあると思うかね?」

 「ないと思いますよ」

 「漢民族と満州族は言語以上の違いはないですし」

 「回族は宗教上の違いだけ」

 「半分混血しているような状態です」

 「アメリカが本気になったとしたら?」

 「アメリカが本気になっても」

 「満州族が本気になるかどうか・・・」

 「金の問題ではないか・・・」

 「アメリカが清国の元皇帝と接触しているらしい・・・」

 「いまの満州族は漢民族の中で散在してます。清王朝を興すような覇気は感じられません」

 「怒っているとしたら漢民族か?」

 「ええ、アメリカ人は上海殺戮の映像を見せて上海割譲を正当化させようとしていますが・・・」

 「・・・」

 「漢民族の間で略奪は普通のことですからね」

 「白人襲撃映像を楽しんで見てますよ」

 「んん・・・日本人は、到底到達できない境地だな」

 

 

 帝国議会

 休憩室は、議場と違って砕けた会話になりやすかった。

 「軍事費に社会資本を引き抜かれると民間活力を根こそぎ奪われて潰される」

 「優良企業に集中して利権分けすれば良いだろう」

 「どうせ政官財の金のなる木なんだから弱者は切ってしまえよ」

 「アホ抜かせ」

 「ここで設備投資して上海需要に乗らないと安かろう悪かろう商品で信用を落とすんだ」

 「だいたい、なんで、そんなに設備投資に金がいるんだよ」

 「あのなぁ 物価が上がっているんだよ」

 「ちっ! 公共投資も、民間需要も、規模が違うだけで行き着く先は恐竜化で破綻じゃないか」

 「親方日の丸は無駄な競争がなくて大規模な需要を生み出せるよ」

 「親方日の丸は採算と効率が低下しやすい」

 「踏ん反り返った御役所仕事になってしまうだろう」

 「民間だって、足の引っ張り合い潰し合いだろう」

 「年を食えば安定を求めて給与泥棒になるのは仕方がなかろう」

 「それで社会は安定するんだよ」

 「人の資質は、どうしようもないから。この際、後回しにして」

 「米英軍が上海に取り付いた状態で、日本の軍事的劣勢は困るだろう」

 「軍事保険が、一番始末が悪い」

 「戦争になれば安心じゃないか」

 「アメリカとイギリス相手にか?」

 「ソビエト相手にか?」

 「保険を掛けても足らんだろう。安心じゃないよ」

 「アメリカやソビエトを梃子摺らせるくらい必要だろう」

 「艦隊を動かす燃料をどこから買ってると思っているんだ?」

 「・・・・・」

 「日本は資源がないし、日本と構えても得られるものがない」

 「アメリカとイギリスも日本侵略をやめるよ」

 「米英軍と一緒に中国へ行けば、もう少しマシだろう」

 「中国相手なら過剰な保険はいらん」

 「しかし、中国は、バスに乗り遅れて、いまさらだろう」

 「それに勅令は出そうにないし」

 「参謀本部は、なにやってたんだ。上奏も出来んのか」

 「もう時機を逸してる。手遅れだよ」

 「しかし、現状で軍事費増大は、米英仏連合に目を付けられて怖いな」

 「んん・・・」

 「中国がどのくらい持つかな」

 「いや、アメリカが上海を領土確定して。どのくらいで基地化できるのか」

 「その年月じゃないか?」

 「10年?」

 「そりゃ 日本だろう」

 「日本だと、もっとかかりそう」

 「アメリカなら5年くらいか」

 「蒋介石が上海割譲を認めて対中国戦争が終わって、プラス5年?」

 「蒋介石にがんばってもらうしかないな」

 

 

95式軽戦車 重量 全長×全幅×全高 馬力 速度 航続力     乗員
陸軍 廃棄 7.4 4.3×2.07×2.28 120 40 240 36.7口径37mm×1 184.5kg (327kg) 7.7mm×2 3
海軍 新案 7.4 4.3×2.07×2.00 120 40 240 60口径25mm×1 115kg (785kg) 6.5mm×2 3

 海軍型95式軽戦車は、リベットから溶接になり、

 36.7口径37mm砲を海軍系60口径25mm機関砲に換装していた。

 95式軽戦車の再開発は、陸軍の内陸作戦を困難にさせ、

 海軍予算を守る海軍の嫌がらせでもあった。

 そして、軽くなった砲口重量の余剰分が装甲に振り分けられた。

 「電気溶接の具合は?」

 「悪くないよ。軍艦と違って割れても沈むことはないし」

 「スケルトン構造よりモノコック構造の方が重量を稼げる」

 「まぁ 装甲が18mmもあれば、小銃くらい凌げるだろう」

 「しかし、モノコック構造は騒音と振動が直でくるな」

 「コイルスプリングも品質がよくないからな」

 「まぁ 我慢してもらうしかないね」

 「だいたい、戦車より歩兵装備が重要だと思うがね」

 「陸軍は中型戦車も欲しがっているぞ」

 「何トンだっけ」

 「15トン」

 「重量制限か」

 「もう、戦車より道路と港湾を整備しろよ。バカが」

 「それ言うと軍の予算が削られる」

 「まったく、軍部に金を掛けると不毛なものばかりだな」

 「そうでもなかろう」

 「最近は経済が伸びて軍事費は目減りしている」

 「しかし、15トンだと適当な大砲もない」

 「18口径57mmか、36.7口径37mmだな」

 「60口径37mm対空砲を開発して、戦車砲に流用すればいいんじゃないか」

 「それなら軍艦でも使える」

 「んん・・・陸軍の予算で我田引水か、悪くないな」

 「じゃ 中戦車は60口径37mm対空砲の開発待ちだな」

 「陸軍の予算で・・・」

 「うんうん」

 「まぁ 南満州の警備なんて、軽戦車で十分だよ」

 「ソ連が攻めてこなければね」

  

 

 皇居

 34歳の壮年と総理大臣がお茶をすする。

 「今年も良いお茶が採れたの」

 「まったくです」

 「番茶は、どういうものか?」

 「さっぱりとして、少し渋いかもしれません」

 「そうか、渋いなら甘い菓子と合いそうじゃの」

 「干し柿など合いそうです」

 「干し柿は少し堅い方が良いの」

 「同感です」

 

 

   

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 月夜裏 野々香です。

 アメリカは、本腰を入れて堅実に押し寄せそうです。

 元々の賠償要求が上海割譲なので、

 生皮で絞めるが如くです。

 日本は軍部の影響力が縮小していきます。

 利権が複雑に絡んで、ごちゃごちゃ、

 意見を一致させて統合できませ〜ん。

 

 

ランキング投票です。よろしくです。

NEWVEL     HONなび

 

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