月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『不戦戦記』

 

第07話 1936年 『2・26』

 某工場

 高価な外国製工作機械は、可能な限りマザーマシーンとして工作機械を製造する。

 通常の製品は、国産工作機械で製造するのが好ましかった。

 原料と素材の品質が底上げされ強度、粘度、硬度が増していくにつれ不良品は増え、

 工作機械の摩耗も早くなる。

 海軍仕様で加工精度が厳しくなると歩留まりが低下し不良品が増えていく、

 精度のいい外国製工作機械で作ればいいじゃないか、

 だと、国産工作機械は自立出来ず芽を潰され、

 ジリ貧となって最終的に屈することになる。

 新興企業は、高価な外国製工作機械で部品を製造、成果を上げている。

 国産工作機械の保護のため、

 外国製工作機械の輸入規制もしたくなる。

 しかし、好景気がそれを許さない。

 そして、外国製部品の規格の厳しさは、陸海軍規格を超えていた。

 ヤスリ云々の誤魔化しは通用せず。

 こちらは、外国製工作機械で製造するのみだった。

 工場長が渋い顔してラインを見つめる。

 「精度の桁が違いますね」

 「・・・・・」 ため息

 「量産を増やそうと思えば、素材を劣化させるしかないですよ」

 「軍事費削減で量が減って、少しはマシになったがね」

 「しかし、濫造は、耐久年数が落ちるな」

 「長い目で見ると損」

 「軍は見栄えで判断しますからね」

 「心臓部の部品より、外版に優秀な工作機械を使って自分の成果にしたり」

 「「「あははは・・・」」」

 「そんな馬鹿は、末端兵士のため。どこぞで戦死してくれって感じだな」

 「規格部品に固定させて、単機能工作機械を並べて作る方がいいのだが・・・」

 「それは、電力を確保しないと」

 「あと、工場をもっと大きくしないと・・・」

 「農地改革のドサクサで上手く手に入れても、電力だけはな・・・」

 「外資を受ける話しは?」

 「政府が15パーセント以上は困ると、ごねている」

 「そんなんじゃ 設備投資は、不可能ですよ」

 「外資も退くでしょう」

 「国内融資は、微妙だからな」

 「あっちも、こっちも、ですからね」

 「なんとか精度を上げてアメリカとイギリスの発注を増やして利益を上げる」

 「自転車操業で設備投資か・・・」

 「この分だと、コアになる部品は、まだ製造できませんね」

 「まだ、基礎子授業力が弱いからね」

 「力をつける時期で、虚勢や我を張る時期じゃないよ」

 

 

 38式小銃が工場から出荷されてくる。

 軍隊といえど一枚岩ではない。

 それぞれのセクトで対立がある。

 例えば、内陸が戦場になると海軍予算が減らされ、陸軍予算が増える。

 それは困るという、者たちもいる。

 軍組織が海軍主導になると海岸線で勝負を付けたい。

 侵略性の強くなる口径増強は気が進まない。

 38式小銃(6.5mm×50)は、威力が小さいと陰口を叩かれながら規格を共有化させ、

 部品の共有化で共食いが可能になると継戦能力が高くなっていく、

  口径 弾数 全長 銃身長 重量 初速 有効射程
陸軍用 6.5mm×50 5 1276mm 797mm 3730g 765m/s 460m
海軍用 6.5mm×50 5 1000mm 521mm 3430g 735m/s 410m
百式機関短銃 8mm×21 30 900mm 230mm 3900g    
ガーランド 7.62mm×63 8 1108mm 610mm 4300g 848m/s 1500m
カービン 7.62mm×33 15・30 904mm 457mm 2490g 607m/s  
スプリングフィールド 7.62mm×63 5 1098mm 610mm 3950g    
Gew98 7.92mm×57 5 1100mm 600mm 3900g    
               
               

 海軍は、38式小銃の銃身長を1000mmに短くして護身用で割り切り、

 海軍用を別に作ったりする。

 「軍艦で使うなら百式機関短銃がいいけどな」

 「もっと短くて良かったのに・・・」

 「百式機関短銃も800mm。海軍用38式も950mmとか」

 「あんまり陸軍の面子を潰すと、あっちこっちで、しわ寄せが来るんだよ」

 「この辺が、歩み寄りどころ」

 「ったく・・・その曖昧なところが日本人の弱点だよ」

 「一概に言えないだろう。それが良い場合もある」

 「今度は、規格を曖昧にしないでくれよ」

 「それは言えるな」

 「本当に合うかな?」

 「試してみるか」

 10基の小銃が分解され、

 バラバラにされた後、組み立てなおされていく、

 海軍系将校は、小銃の組み立てが苦手なのか、

 右往左往のパズル。

 結局、工場からおばさんを呼んで組み立てさせる。

 「すまんね。おばさん」

 「お偉い将校さんとも、あろう御方が・・・」

 「面目ない。このことは内密に・・・」

 「言えません。うちの息子も海軍です」

 ・・・・出来上がり。

 「悪くないな」

 「海軍から先に配っていこう」

 「そうだな」

 「規格外は減価償却したことにして、売った方がいいね」

 「でも、朝鮮共産軍にも流れているってよ」

 「ソビエトと国民軍の横流しじゃないか」

 「腐ってやがる」

 「いや、日本も特定させないようにアメリカとかソビエトから買った武器を国民軍に、って」

 「腐ってやがる」

 

 

 満州

 奉天軍が壊滅すると無地主の満州は、朝鮮軍閥が台頭していた。

 満州で協定を結ばなければ、朝鮮民族主導で傀儡政権を立てかねない状況となり、

 アメリカは、上海割譲を後回しにしても満州が中国領土であるとソビエトに確認させる必要があった。

 アメリカ・日本・ソビエト・中国の代表3者が集まり

 アメリカの打通線と奉海線の並行線とソビエトの東清鉄道の路線幅を5km。

 日本は、南満州鉄道の旅順--(日本の利権、約700km)--長春の路線幅2kmの権益権が決まり、

 さらにアメリカは南満州鉄道の路線の外側2km〜5kmをアメリカ権益とする満州協定を調印させた。

 アメリカは、日本の路線幅60mを2kmに増大させて恩を着せ、

 その路線幅の外側3kmを中国から奪った。

 日本の南満州鉄道は、旅順からの路線が存在してるものの

 アメリカ権益の内側に閉じ込められ生殺与奪権を握られてしまっていた。

 例えば、アメリカ権益線を越えた取引を制限されたり課税されたりすると南満州鉄道は発展性を失う。

 ハリマン資本が得意とする囲い込みだった。

 生命線を奪って中を取る常套手段で、

 これが “か弱い日本人を守る” アメリカ政府の本音といえた。

 とはいえ、中国政府とアメリカ政府が日本の権益圏外の中国領の土地を取引することであり、

 日本が反対できる、いわれはないのである。

 日本は、承認するか。

 いやならアメリカ、中国と戦うしかなく・・・

 日本の将校達たちは、ふて腐れる

 「ずるいよな。日本だけ損してるよ」

 「日本は、おまけで呼ばれたようなものだからね」

 「呼ばれなければ60m幅のまま」

 「泣けてくるな〜」

 「何でソビエトも一緒に調印なんだ」

 「ソビエトが朝鮮人を使って、北満州を押さえにかかっていたからアメリカが協定で足枷をかけたのだろう」

 「ソビエトも路線幅5kmだと得だしね」

 「日本だけ2kmかよ」

 「しかも外側の3kmをアメリカ軍に取られて」

 「軍を出さなかったせいだろう」

 「こりゃ 荒れそうだな」

 

 

 

 2月26日

 二・二六事件

 昭和維新断行・尊皇討奸〜!

 満州鉄道の生殺与奪権を奪われ、

 軍縮に向かいつつある大日本帝国だった。

 国体を憂いた将兵180人がクーデターを起こそうとし、

 憲兵隊に逮捕される。

 ガタガタ ガタガタ ガタガタ ガタガタ 

 「なんだ?」

 「憲兵隊だ。お前達は、密告されたぞ」

 「・・・おのれぇ〜 昭和維新断行・尊皇討奸〜!」

 双方で銃声が轟くも要人達には届かず、

 将校たちのクーデターは、憲兵隊に鎮圧され、逮捕されていく、

 

 

 ドイツ軍がラインラント進駐

 

 

 スペイン内乱

 

 パリのカフェテラス

 日本人が集まっていた。

 フランス軍が上海に上陸し、

 日本商人が御用聞きで回っていたりする。

 「・・・ドイツの再軍備とラインラント進駐。スペイン内乱」

 「フランスは、どうするつもりだろうな」

 「ドイツは、再軍備したばかり」

 「フランスは、そう考えているんじゃないか」

 「中国大陸は、20世紀最大最後の植民地だ」

 「上海から上がる利益は大きい」

 「列強は盛りが付いた犬のように飛びついているだけだろう」

 「はぁ 隣の国が軍備増強中なのに」

 「フランスはアジアで荒稼ぎか。政府は、なに考えているんだか・・・」

 「ドイツは、確か1号戦車を量産していただろう」

 「そういえば、2号戦車、3号戦車も開発していると聞いたな」

 「イギリスとフランスは、ドイツをソビエトの防波堤として利用するつもりだろう」

 「それは良いとしてだ」

 「ドイツが再軍備で、フランス軍とイギリス軍は、中国大陸に上陸している」

 「大丈夫か?」

 「イギリス軍の半分は、急場しのぎのインド軍らしいからね」

 「フランス軍は・・・フランス軍の精鋭部隊を派遣か」

 「んん・・・欧州情勢からすると、まずい判断だな」

 「まぁな」

 「だが、おかげで、イスパノスイザのエンジン部品を発注できた」

 「揚子江で飛ばす気でいるな」

 「んん・・・860馬力だっけ」

 「プロペラ軸で20mm装備は大きくないか?」

 「モーターキャノンはいいと思うよ。ただエンジンはどうかな?」

 「エンジンでマイナス。武装でプラスだろう」

 「プラス・マイナスの数値は主観が入りそうだが」

 「少なくともフランス空軍は、エンジンのマイナスより、武装のプラス数値が大きいと見ているよ」

 「いや、フランスは美学で作るから」

 「ドイツは機能で作るな」

 「ドイツ製の勝ち〜♪」

 「水冷はエンジンに当たると落ちやすいし、防弾すると重くなる」

 「戦争向きじゃないような気がする」

 「空冷は複列星型になると1000馬力を超えて、優勢になるんじゃないか?」

 「んん・・・航空機は、まだまだ暗中模索か・・・」

 

 

 とある部屋

 高級将校が長々と弁舌。

 そして・・・・

 「・・・今をおいて皇軍を動かす時期はありません」

 「しかしの、政府を転覆させるような皇軍に、そのようなことを言われてもの」

 「・・・・・」

 

 

 ドイツ ハンブルグ

 ドイツ人技術者と日本人技術者が設計図を覗き込む。

 一層防御方式、集中防御方式、

 傾斜装甲板、垂直装甲版の比重・・・

 戦艦加賀、巡洋戦艦赤城の設計思想と設計図は、

 いくつかの面でビスマルクの設計より進んでいた。

 海軍国家日本の面目躍如で、ドイツ海軍技術者を驚嘆させる。

 もっとも、体格差などがあって、区画内は広げねばならず、

 日本は、マル3で大型艦建造が破綻したためドイツ海軍を強化。

 大西洋の脅威を増大させることで、米英海軍を牽制してバランスを取ろうとした。

 他にも、赤城の設計図も持ち込まれ、流用されたりする。

 代償として、ドイツは日本に工作機械の供給。

 技術供与を行う取り決めになっていた。

 

 

 長門・陸奥改装

 将校が長門の艦首に頬ずり、

 「・・・ああ、長門だけは、まともだな〜」

 「艦隊決戦。おれは嬉しいよ」

 「日本海軍の象徴だし」

 「改装したとしても、艦体の基本が集中防御だとね・・・」

 「蒼龍は?」

 「20100トン級でようやく建造だ」

蒼龍 排水量 全長×全幅 吃水 馬力 速度 航続力         艦載機
新造 20100 240×22 7.8 152000 34 9500海里/18ノット     120mm連装×6 25mm連装×14 70

 「ところで、ドイツの新型戦艦の設計を日本人が手伝ったって?」

 「ああ、戦艦加賀と巡洋戦艦赤城の設計図を売ったな」

 「いいのか?」

 「日本が予算不足で戦艦を建造できないだろう」

 「ドイツ戦艦の強化で軍事バランスを取ろうとしたんじゃないの」

 「中国大陸利権の争奪戦から手を退きやがって臆病者が、バカ政府の日和見せいだ」

 「ったくぅ 軍事予算を減らして、どこに金を持って行ったんだ」

 「発電所、橋の建設、鉄道建設、港湾整備・・・」

 「あと、土地の売買とか、工場建設とか、増えているだろう」

 「銀行の貸し出しが増えて、景気がいいらしいぞ」

 「けっ バカたれが日本人は清貧、質実剛健でなければならんのだ」

 

 

 満州

 馬賊と匪賊は違う。

 馬賊の最大の敵は、中央の腐敗官吏で自然発生的に馬賊が生まれ、

 村や町の自警団を馬賊と呼び、他所の村の馬賊や匪賊から守った。

 一方、匪賊は、普通の村人、町人で、飢饉になると匪賊に豹変し活動する。

 そして、満州を混乱に陥れているのが新興勢力の朝鮮軍閥だった。

 朝鮮軍閥3000人は、谷間で野営していた。

 大人もいれば、老人、女子供もいる。

 善良かといえば、そうでもなく、

 悪党かといえば、そうでもない。

 これだけの人数が満州で生きていこうと思えば、好き嫌いに関わらず、

 何がどうあれ、しなければならないこともある。

 復讐に燃える馬賊の集団が鵯越の如く崖を下り、

 朝鮮軍閥を襲撃する。

 朝鮮軍閥は、総崩れとなって敗走し、馬賊が追撃しながら銃撃していく、

 馬に慣れた馬賊は機動力で優勢だった。

 

 この時期の日本軍は権益内に引き篭もり、権益圏外は無法地帯と化していた。

 そして、列強の権益圏の外側、無法地帯の外周域上空を九三式中間練習機が旋回する。

 乗っているのはアメリカ人が二人。

 「・・・馬賊と朝鮮軍閥の縄張り争いか」

 「並行線の内側は静かなモノだ」

 「南満州鉄道の周りが一番安全になってるぞ」

 「なんか、損しているよな」

 「ここに住んでいると、日本人の善良さがわかるよ」

 「まぁ 神経質で短絡な欠点はあるがね」

 「繊細で機転が利く、というそうだ」

 「あはは・・・」

 「上手く行ってるときは良い方でとって」

 「上手く行かないときは悪い方でとるもんだ」

 「今は、どうなんだ?」

 「んん・・・日本は目先の利益で儲かっているからな、陰に篭もって、ようわからん」

 「生皮で首が絞まっていても、わからないよ」

 「いまの日本は、どことなく、中国人の利に聡い熟考さを感じるが不気味だな」

 「金に目が眩んでいるだけさ」

 「そうだな・・・で、どうする?」

 「俺たちは、正義の味方だ。強きを挫いて弱きを助ける」

 「馬賊が勝ってるぞ」

 「・・・しかし、時には、不条理でも上官の命令を聞かなければならない」

 九三式中間練習機の7.7mm×2丁が朝鮮軍閥の中枢部を狙って機銃掃射した。

 朝鮮軍閥は阿鼻叫喚となり、数度の機銃掃射で朝鮮軍閥は全面逃走し、馬賊が追撃していく、

 

 

 赤レンガの住人たち

 御通夜状態で放心中

 「「「「「はぁ〜・・・・・・」」」」」 ため息

 陸軍予算3億、海軍予算は6億だった。

 2・26事件の皺寄せで、マル3計画は破綻。

 日本経済は急成長しているのに軍事予算はギリギリまで落とされ、

 どう、こねくり回しても、どうにもならない予算配分になってしまう。

 さらに物価高騰・・・

 「畜生、財政再建されているのに軍事費落としやがって」

 「どこぞのバカが暴走するからだ」

 「バカが! また1割返納だ」

 「もう、死ねって、感じだな」

 「割り振りきかん。基地建設2億、航空機2億、艦隊2億は?」

 「艦隊派が剥れるんじゃないか」

 「またクーデターを起こされるぞ」

 「ふっ 一度、付いた利権は、しがみつかれるな」

 「もう弊害だな」

 「クーデターを起こさせて」

 「いっそのこと軍隊全部を解体して作り直しがいいかも」

 「ふっ また旧式艦艇の廃棄。もう大型艦建造は無理だ」

 「マル3は補助整備予算だね」

 

 

 ベルリン・オリンピック

 仰々しいオリンピックが続けられている。

 日本人の観戦客が集まっていた。

 「凄いな。ベルリンオリンピック」

 「ドイツをこんな風にできるなんてヒットラーって、たいしたヤツだな」

 「そりゃ 独裁者だからな」

 「だけど、戦争になるかもしれないってよ」

 「強そうだし、周りの国も怖がっているのか?」

 「んん・・・図体も大きいから怖いといえば怖いが」

 「怖いのは工業力だろうな」

 「だけど、日本人もベルリンまで応援に来てるから豊かになってるぞ」

 「上海需要だろう」

 「引き揚げさせられたときは腹も立ったが、まぁ 田畑もあったし」

 「いまじゃ ライターの生産は10倍で上海向けに輸出。悪くはなかったよ」

 「昔は繊維物ばっかりでライターは後回しだったからね」

 「軍人が減ったら軍服も減るよ」

 「だけどイギリスのワシントン条約破棄で資本だけじゃなく」

 「電力とか、人材とか、繊維工場に取られるところだったよ」

 「付加価値の高い技能職育てなきゃ 繊維物ばかりじゃ 女工さん虐めだよ」

 「小さい物は安いけどね、トン当たりの価格に換算すると高くなる」

 「小さくて軽いモノは、資源のない日本向きの製品だよ」

 「タバコが売れないと厳しくないか?」

 「ふっ あれは、元々、戦場で使うものだからね」

 「感覚を麻痺させて人を殺しやすくするんだよ」

 「リメンバー・シャンハイ様々だな」

 「まぁ 中国人も安いライターは便利で売りやすいだろう」

 「おかげで、ここにこれた。そっちは?」

 「ボール」

 「ボール?」

 「野球ボール、ミットも、バットも作ったぞ」

 「満州路線に置いたらアメリカ人が来たとたん売れたぞ」

 「アメリカ軍も金持ちだな」

 「日本でも売れ始めたぞ」

 「日本人も所得が増えているんじゃないか」

 「そういえば、そうだな」

 「満州は、底冷えするから石焼いもが受けてたぞ」

 「じゃ 他にも儲けられる物があるかもしれないな」

 「もう、繊維の時代じゃないさ」

 「アメリカ軍が上海で、がんばっていれば、何とか行けそうだな」

 「中国は、匪賊の数が多いけど」

 「武器があれば、それなりだし、がんばろうと思えば、がんばれるだろう」

 「農地改革で、その朝鮮匪賊を押し出しているのは、日本人だけどね」

 「「ふび〜ん〜!!」」

 パチ! パチ! パチ! パチ! パチ! 

 「「おっ・・・・来た・・・」

 喝采

 「「・・!?・・・・・・」」

 パチ! パチ! パチ! パチ! パチ! 

 孫基禎、金メダル

 「・・・結構、残ってるよね。朝鮮人」

 「そりゃ 全部は無理でしょう」

  

 

 大規模な土木建設機械が動き、人の海が大地を覆い、大運河が浚渫され広げられていく。

 エリアごと人事管理され、

 日にちごとの成果主義で労働者の賃金が上がっていく、

 一つのエリアを片付ければ、中国大陸で標準的な生活を望め。

 二つのエリアを片付ければ、標準以上。

 三つのエリアを片付ければ、少し遊べる。

 工事は、中国大陸から上海を切り離そうとするが如くで、

 パナマ運河を超える造成工事になっていく、

 マネージメントに優れた人間が合理的に進めると採算ベースを引き下げて利潤を増やしていく。

 土木建設機械が大雑把に造成すると、漢民族が人海戦術で土砂を運び出していく、

 作業内容は、中国の国益にとってマイナスだった。

 しかし、投下される資本に惹かれたのか、

 宵越しの金を持てない人の海が上海の大地を覆ってしまう。

 そして、中間管理層で日本人がいた。

 「俺たちは、漢民族と白人の間に立って、緩衝か」

 「一番、目の敵にされやすいんだよな」

 「こういうのは、英語の通じやすいインド人が良いんだよ」

 「アメリカとイギリスは、日中離反で結束しているからね」

 「日本人を悪者にしたいんだよ」

 「まぁ 金になるから良いけどね」

 「国民政府もそう思っていたりして」

 「国民政府にも金が流れている?」

 「紛れ込んでるな」

 「あぶねぇよ」

 「ワザとじゃないか」

 「また挑発か」

 「中国も外貨が集まるから悪くないだろう」

 「それを誰かが集める」

 「誰が集めるかは、別の話しになるがね」

 「日本の商人でも良いわけだ」

 「武器は売れるらしいよ」

 「じゃ 漢民族は、ここで利敵行為で働いて」

 「外貨で武器買って、国民軍に供給?」

 「あははは・・・」

 「経済って無節操だな」

 

 

 スターリンの大粛清

 

 

 首相官邸

 あれこれ、情報が集まってくる。

 日本の官僚は資格(科挙)制度で、公務員採用を国家試験の採否で決める。

 有能な官僚を維持しやすい。

 代償として政府の人事権が及ばず。

 特権意識が根強く、政府から半独立し、天下りも起きやすい。

 こういった関係が2・26事件の背景にあった。

 アメリカだと政権を握った党が公務員を登用し、政府の意向は即座に反映される。

 代償として、官僚の質を維持できず、

 短い任期を最大限に利用するため、汚職の温床になった。

 どの制度であれ、利点があれば、欠点もある。

 日本は、農地改革で土地持ちが増え、

 土地の転売が続き社会資本が増加し、新興企業や新しいサービスが増えていく。

 日本経済が多様化していくと煩雑化した税収の関係で官僚も大きくなっていく。

 さらに煩雑化した社会で柔軟な対応やサービスが官僚に求められると、

 国家予算と別に官僚組織の運営で必要な特別会計が大きくなっていく。

 官僚が人事権で自立し、財源でも自立していくと、

 政府の意向は、さらに伝わり難くなってしまう。

 この時期、官僚縦割り国家と言えそうな予兆をみせていたものの、

 特別会計は小さく、まだ、程度の低いものだった。

 首相官邸 日本の偉い人たち。

 「2・26事件で、上手く軍を抑えられたな」

 「少し圧力をかけると、すぐに暴発ですかね」

 「さらに軍事費と利権を抑えて好都合です」

 「スターリンのような大粛清は、無理だが不祥事があれば、ソコソコ、制限できる」

 「工場から軍人を叩き出せたのは良いかもしれません」

 「しかし、まだまだ、ハネッ返りはいますよ」

 「ハネッ返りの結果は、首謀者の死刑。関係組織全体で給与1割削減」

 「軍事費削減、軍属の利権の縮小だ」

 「軍部も、いい加減に懲りたらいいのですが・・・」

 「まぁ 他に予算を回すとしてもだ。自動車関連は大きくないか・・・」

 「目に見えて交通量も増えていますからね」

 「柔軟なサービスも必要でしょうな」

 「発電、鉄道、工場、公団住宅、上下水道で、下支えもいるだろう」

 「お金持ちの方が要求を通しやすいのは世の常ですかね」

 「ただでさえ、官僚は、人事が及ばないのだから可能な限り財政を絞めておきたいね」

 「オリンピックがあるのに微妙な額ですかね」

 「オリンピックだからだったりして」

 「官僚の計算ですから」

 「頭が良ければ、なにやっても良い、と言う風潮は困るよ」

 「少なくとも、政治家より頭がいいでしょうな」

 「それに民間人より頭が良いよ」

 「しかし、親方日の丸で横柄になられて、政府を突き上げられると困るから」

 「この際、数の多い民意と調整したいね」

 「とはいえ、何かやれば利権が生まれ」

 「政治、官僚、企業、民間の、どこかにしわ寄せが行きますからね」

 「まぁ だいたい、弱者にですけどね」

 「はぁ〜 アメリカとイギリスに上海を抑えられそうだというのに」

 「こういう内政ごとのゴタゴタは、困るよ」

 「いまのところ、資源の輸入も順調。産業も拡大中、個人所得も増えて」

 「民意は、資本を公共設備や生活環境に反映させたがっていますし・・・」

 「当然、官僚と関連企業も大きくなるか・・・」

 「また癒着とか、不正腐敗で叩かれるな」

 「大きな金が動けば、誰でもやっかみますよ」

 「だよな」

 「状況から優良企業に集中して積極財政で、やれそうでもある」

 「ところで、上海の動きは?」

 「アメリカの支配地は、区画を造成中で、白人世界にしてしまう予定だな」

 「低地で暑いだろう。白人は住みにくいはず」

 「大運河を浚渫した土砂を使って国民軍が攻めきれない程度の高台に造成しているようです」

 「本格的だな」

 「最初から殺戮地の上海の割譲だけに絞ってますからね」

 「残りは、蒋介石が割譲で妥協するまで、利権を伸ばしていく方式です」

 「無分別に内陸に向かわないわけか」

 「上海に足場さえ作ってしまえば、あとはどうにでもなると思ってるのでしょう」

 「王者の貫禄だな」

 「穴熊作って腰を据えて攻められると蒋介石も弱るだろうな」

 「生殺与奪を握られる日本もです」

 「その日本企業が上海の造成工事を請け負っている」

 「民間は自殺願望でもあるのか?」

 「貿易収支は黒字。痛し痒しでは?」

 「そう言えなくもないが・・・」

 「米英仏連合からの発注が多過ぎて利権が複雑に絡んで政府見解も取りにくくなっています」

 「利権構造を軍需に集中させなかった弊害か。良し悪しだな」

 「現状、貿易収支で儲かっていることだけが救いですが・・・」

 「儲かってる?」

 「あははは・・・死刑台の階段を上がっている気分だよ」

 「上海の日本人27000。見殺しが良かったですかね」

 「そ、そりゃ まずいだろう」

 「ですよね・・・」

 

 

  水冷エンジン 自重/全備重 全長×全幅×全高 最高速度 航続力 機銃
97式戦闘機(キ28) 800hp 1480/1850 7.90×12.00×2.6 470km 1000 7.7mm×4

 パイロットたちが新しい機体に注目していた。

 水冷エンジンの機体は洗練された印象を与える。

 「7.7mmが4丁が決定的だな」

 「速度が10kmずつ低下でキ27、キ33と差がついた」

 「12.7mm機銃がいいような気がする」

 「ライセンスがまだだ」

 「適当に改造してパクるのがいいな」

 「そりゃそうだが重量もある」

 「エンジンしだいだろう」

 「しかし、これからは、引っ込み脚の時代だろう」

 「定速回転プロペラもね」

 「このBMW水冷エンジンは大丈夫なのか?」

 「ドイツ製工作機械をしこたま買い込んだそうだ」

 「整備は空冷より大変だな」

 「機首が長いから突出型風防にしても着艦が難しそうだな」

 「んん・・・だな」

 「空母は、良いって?」

 「飛行機が小さくなることはなさそうだからエレベーターを少し広げるよ」

 「キ28は、作りが頑丈なつくりなのに主翼折りたたみ機構は付けなかったんだ」

 「エンジンがもう少し強ければできそうだけど、次は主翼折り畳みを検討だな」

 

 

 皇居

 36歳の壮年と総理大臣がお茶をすする。

 「今年も良いお茶が採れたの」

 「まったくです」

 「日々が、ゆるゆると流れていくの」

 「はい、大日本帝国の平穏は、陛下の恩寵によるものです」

 

   

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 2・26事件は農地改革と軍縮で味方を作れず、

 10分の1の規模で不発。

 日本は、何もしてませんが

 満州鉄道の利権は、60m幅から2km幅に広がりました。

 代わりに満州鉄道の生殺与奪権と発展性をアメリカに奪われてしまいました。

 しかし、満州鉄道は、アメリカ軍の奉天までの移動と並行線への設備投資で物流が動いて、

 初期投資を回収しそうな勢いです。

 アメリカ人も満州鉄道を利用し、日本の権益線を通過して反対側に行くと、

 アメリカ権益線と同じように課税されたり、制限されたり。

 仮に制限させても、程度の低いものになりそう。

 

 

 史実マル3

 艦艇建造予算:8億0654万9千円 + 航空隊整備予算:7526万7千円

 

 不戦戦記マル3

 基地造成予算2億円 + 艦艇建造予算2億円 + 航空整備予算2億円

 

 大型艦は建造不能になりました。

 その代わり、対上海用で基地・航空機関連は倍以上です。

 因みに航空機は海軍のみ、

 陸軍は侵攻能力を完全に封じられてしまいました。

 

 

ランキング投票です。よろしくです。

NEWVEL     HONなび

 

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第06話 1935年 『大陸の誘惑』
第07話 1936年 『2・26』
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