月夜裏 野々香 小説の部屋

   

SF小説 『銀杏星雲のジル』

        

第02話 『疑 念』

 バルナ・ジルによるラスクィーンの時空間転移は通常通り成功する。

 失敗する要素はない。

 だからこそ、バルナ・ジルの 『自分で時空間転移をしたい』 という要求も通る。

 不確定要素がわずかでもあるなら、

 例え、この船の持ち主の娘でも、叶えられない要求だろうか。

 と、何の問題もなくマトリックスからバルナ・ジル出てくるはず・・・・

 怪訝な顔色で、ボゥ〜 としている。

 「・・・ジル様、お見事な転移です」

 ジルは、空々しいニーダ船長をぼんやりと見る。

 そして、何か言いたげだった表情で飲み込んでしまう。

 「・・・え、ええ、ありがとう、ニーダ船長・・・」

 「少し休むわ・・・」

  

 通路

 バルナ・ジル、サラ・マリア

 「どうしたんです? ジル」

 「転移中に異常は?」

 「何も・・・」

 「そう」

 宇宙船ラスクィーンの散歩は、中止。

 部屋に戻ったジルは、マトリックスに入ると、ラスクィーンの副システムをスタートさせる。

 客船ラスクィーンには、二つのシステムが混在している。

 主システムと副システム。

 副システムは、緊急の場合使用されるもので、緊急でなくても使える少数の人間がいる。

 悪く言えば、バルナ家専用システム。

 そして、これを稼動させたとき、

 ラスクィーンのいかなる情報も、主システムを通すことなく、独自に入手できる。

 『これは、バルナ・ジル様。ごきげんよう』

 「あなた。名前は、あるの?」

 『これは、申し遅れました。カバディといいます。ジル様。お見知りおきを』

 「そう、カバディ」

 「わたしが空間転移させたときの情報が全て欲しいわ」

 「マトリックスが改ざんされていた可能性はない?」

 「わたしのマトリックスに情報を捏造させるような・・・何か?」

 『ジル。どうしたの?』

 『副システムを作動させてしまうなんて』

 横合いから通信が入る。

 「・・サラ・・・少し調べたい事があるの」

 「この船を乗っ取ろうなんて、駄目よ」

 「いくら、わたしでも、お父様に怒られるようなことは、しないわよ」

 サラの通信を強制的に切ってしまう。

 『・・・いえ、ジル様。マトリックスは、正常に作動しました』

 『外部から、いかなる干渉も受けていません・・・』

 「・・・・・」 疑惑

 『重力異常発生。記録されていない生命反応を多数を確認』

 『緊急事態発生』

 「!?」

 『カバディ・システム。最優先コード選択』

 「なに?」 サラ

 「どういうこと?」

 『カイゼルシステムに一部、改ざんあり』

 『Eブロック。緊急優先コードの権限により。強制走査を行います・・・』

 『エンジェル・プラム確認』

 「はぁ〜!!!」 ジル

 エンジェル・プラムは、宇宙最強最悪の麻薬。

 『・・・ウィッチ級プログラムがカイゼル・システムに侵入を図ろうとしています』

 「カバディ。投影して!」

 部屋の中に乗客ではない人影が投影される。

 武装した異風の男たちがマトリックスに干渉していた。

 「どういうこと。ラスクィーンが乗っ取られるなんて、どこから来たの?」 サラ

 『・・・不明です』

 『海賊と思われます・・・・カイゼル・システムが警備システムを作動させました』

 ラスクィーンの警備ロボットと海賊が戦闘状態に入る。

 『カイゼルシステムがウィッチ級プログラムと抗争を開始し』

 「大丈夫なの?」

 『ウィッチ級プログラムでは、カイゼルシステムを落とすことはできません』

 「そう・・・・」

 『ジル様。カイゼルシステム側より通信です』

 「出して」

 『バルナ・ジル様。残念ながらラスクィーンは、海賊の襲撃を受けています』

 『本システムは、ラスクィーンと乗客・乗務員の保障を最優先に行動します』

 『また、密輸組織の摘発と海賊の排除を試みています』

 『ジル様、サラ様は、カバディシステムと行動を共にしていただきたい』

 「わかったわ」

 『それでは、失礼いたします』

 船内の様子が投影される。

 海賊は強く。

 警備ロボットを次々に破壊していた。

 『緊急事態発生です』

 『ウィザード級プログラム侵入しました』

 『カイゼルシステム切断。外壁完全閉鎖します』

 投影がぷつりと消える。

 「なに?」

 『カイゼルシステムが乗っ取られる可能性、78パーセント±3』

 「ジル・・・いったい。転移のとき。何があったの?」

 ジル。モジモジ。

 「ジル・・」 サラ、険悪。

 「・・・転移する瞬間に少年と、意識が接触したの・・・」

 「????」

 『理解不能』

 「だ、だから、言いたくなかったのよ。キチガイ扱いされそうだから」

 「?????・・・・カバディ・・・今後の対応は?」

 『緊急の場合。この区画を切り離して脱出します』

 「こら! サラ、無視するな!」

 「・・・いつ接触したって?」

 「もう、一度、言ってみて」

 「だ・・・だから・・・転移の瞬間。少年と接触したような気がしたのよ」

 「??????」

 『理解不能』

 「カバディ。いつ、切り離す方が、良いの?」

 『早いほうが良いと思われます』

 「お、おまえらぁ・・・無視するな」

 「・・・なんだっけ?」

 「おい!」

 『外壁に物理的衝撃を感知』

 「なに?」

 『ジル様、通信が入っています』

 「・・・・なに?」

 『海賊です。こちらで、対応しますか』

 「試しに出してみて」

 外の映像が部屋に投影される。

 人相の悪い男たちが扉の前に立っている。

 「・・・何か、御用かしら」

 『開けろ!』

 「・・ごめんなさい、海賊さん」

 「ティータイムの時間なの、次の機会に招待することにするわ」

 ジルが合図を送ると、投影が途絶える。

 この区画、戦艦並みの防衛シールドと装甲で区切られ、

 普通の海賊では、お手上げだった。

 『お見事です。ジル様』

 「・・・どうやって、ラスクィーンに進入したのかしら」

 『不明です』

 「あ・・・あの・・・男・・・・サラ・・・あの名刺は?」

 サラが名刺を見せる。

 「・・・この名刺で通信ができるかしら?」

 『ジル様。カイゼル・システムと切り離しましたので困難です』

 「とりあえず。探ってみて」

 名刺のコードがカバディシステムに読み込まれていく。

 『走査します、識別コード確認』

 『第12エリアに潜んでいるようです』

 「何をしているの?」

 『密輸組織と、海賊の動きをトレースしているようです』

 「通信は?」

 『まだ、可能です』

 「出してみて」

 通路で擦れ違った男が部屋の中に投影される。

 『・・・これは、バルナ・ジル様』

 「あなたの情報。買う事になりそうね」

 『残念ながら、古い情報になってしまったようです。エンジェル・プラムのことです』

 「海賊じゃないみたいね」

 「ええ」

 「エンジェル・プラムでも良いわ。買うことにする」

 「そうですね・・・・少し目減りしたので黄緑金1000枚で、どうです?」

 相場、越えているじゃない。このタヌキが!!

 「・・構わないわ。情報を聞かせて」

 『ラスクィーンは、エンジェル・プラムの密輸船にされたようです』

 『この船の乗務員の3分の1は、密輸組織ヤンゴンの人間です』

 「主犯は?」

 「主犯格は、アドリアン副長以下・・・・」

 『・・・・通信が遮断されました』

 「げっ!」

 「アドリアン副長・・・」 サラ

 『ラスクィーン空間転移を開始します』

 『転移座標 245-453-5429・・・銀杏星雲、暗礁宙域方向です・・・・・』

 「カイゼルが乗っ取られたのね」

 「左様です」

 「転移の妨害は?」

 「現段階では無理です。配下のアンドロイドを起動させています」

 「状況は?」

 「対ウィルス策で自律プログラムに切り替えているので不明です」

  

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 月夜裏 野々香です

 バルナ・ジル。お嬢様なのですが、

 マトリックス(電脳世界)で、辛酸気味の人生を数回ほど経験、

 少しばかり、すれてやがるな。という感じでしょうか。

 

 因みにヤマト『南銀河物語』と登場人物と出来事が被っていますが、

 別の話しで、似たような事があったということで・・・・・・

 

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第01話 『令嬢は、お高いのよ』

第02話 『疑 念』

第03話 『捕 囚』