月夜裏 野々香 小説の部屋

   

SF小説 『銀杏星雲のジル』

        

第03話 『捕 囚』

 ジルが次に気付いた時、縛られた状態だった。

 朦朧とした意識。

 不意に部屋の中に侵入者が現れ、

 何かが爆発したような気がした。

 投影で見た海賊の親玉らしいのが目の前に立っている。

 何が起きたのかわからない。

 目を覚ますと、縛られている。

 隣では、サラ・マリアも縛られていた。

 海賊の頭領らしき男が勝ち誇るように見下ろしている。

 数人の海賊が部屋を物色していた。

 カバディシステムは、半壊。

 自動修復中のカウンターが回っている。

 「・・・ひゅ〜 贅沢な部屋だな〜」

 「お頭、新しい海賊船の船長室ですかい」

 「おうよ。おまえら、あまり壊すんじゃないぞ」

 「「「「へい〜」」」」

 「ふっ このバルナ家の小娘が梃子摺らせやがって」

 「どうします。お頭。小娘と。こっちは・・・・・」

 サラは、24歳で容姿端麗。

 「うほぉ〜♪ 上玉だ〜」

 「ばか〜 小娘を無事に帰せば、この船のコントロールシステムをまっとうな形で手に入れられるんだ」

 「手ぇ〜 出すんじゃねぇ」

 「じゃぁ 上玉の方は?」

 「・・・・・・」

 「・・・・んんん・・・取引が終わるまで、後回しにしとこう」

 「ちっ!」

 「・・・残りの連中を片付けたら、他の乗客をやって良いぞ」

 「よ〜し」 ガッツポーズ

 ドタドタと仲間が部屋に入ってくる。

 「・・・お頭、機関室が押し返されています」

 「なんだと!」

 「密輸団の連中、機動歩兵を隠していたようです」

 「くそっ!」

 「ヤンゴンの連中、思ったより、手強いですぜ」

 「それと。わけのわからない、やつも抵抗しているようですし」

 「・・くそ! 想定外のことばかり、起こりやがる。ヒュジ!!」

 「おまえは、この部屋を見張っていろ。俺たちは、邪魔者を片付けてくる」

 「は、はい」

 そして、一人、少年が残される。

  

  

 機関室

 密輸組織の機動歩兵が圧倒的な戦闘力を発揮。

 機関室を直接、制御下に入れていく。

 海賊側のアンドロイド兵が破壊される。

 「ちっ・・・状況は?」

 「マッグス、ありゃあ、駄目だ。機動歩兵が相手じゃ、話しにならねぇ」

 「ちっ! 見てろよ・・・・・」

 「やれるか?」

 「弾をホップさせれば下の隙間から、いける・・・・・・」

 この時代は、マニュアルで弾道を調整する事ができた。

 機動歩兵の重火器が狙っているものの、

 隠れつつ、辺りに散らばった鏡の欠片を使って、照準を合わせていく。

 そして・・・・

 銃声

 銃弾は、遮蔽物を縫って、機動歩兵の足下からホップして隙間から侵入、

 機関を破壊。軌道歩兵の動きを止めてしまう。

 「ふっ」 にやり

 「よ〜し! これで、機動歩兵は、あそこから動けないぞ」

 「・・・だが、ちょっとした要塞だな」

 「ああ」

  

  

 迎賓室

 「ジル、大丈夫?」

 「サラ、何が起こったの?」

 「転移中に何か起きたみたいね」

 「転移中に何か起こせるの?」

 「聞いたこと無いわ。0.0563秒しかないもの」

 その種の研究は、数多く行われた。

 しかし、まったく進展はない。

 「サラ、状況は?」

 「カバディシステムは、凍結中ね」

 「・・・おい、しゃべるな」

 少年が銃を向ける。

 ジルは、転移中に接触した少年と気付く。

 「・・・どうやら、転移中に外部から干渉されたみたいね」

 「???」

 「・・・しゃべるな」

 このヒュジという少年。

 見かけと違うと感じたのも、

 あの時の接触のおかげだろうか。

 そうでなければ、銃口を向けられて落ち着いていられないだろう。

 人間の本質は、意外と面白いものだ。

 保身のために他者の人生を踏みにじれる人間もいれば、できない人間もいる。

 部屋の外では保身より、もっとつまらない理由で人が殺されている。

 「・・・ヒュジ・・・あなた。このままだと、いいように使い潰しされるわよ」

 「だ、黙れ!」

 「ふ あなたの末路が、見えるわ、仲間だと信じていた海賊に刺されるの」

 「そして、ゴミ溜めの汚水をすすりながら、惨めに、もがいて、死んでいくわ」 嘲笑

 「うるさい!」

 「・・・そうねぇ ヒュジ。わたしにとっては、どうでもいいことだけど・・・・」

 「・・・・・・」

 「一生に一度しかない、チャンスを、あなたにあげる」

 「・・・・・・・・」

 「・・・この縄を解きなさい」

 ヒュジは、銃を突きつけて、今にも撃つような素振りを見せる。

 しかし、表情で比較するなら、

 余裕があるのは、縛られ、今にも撃ち殺されそうなジルだった。

 「ジル! 駄目よ」 サラが焦る

 「ヒュジ! さっさと縄を解かないと、怒るわよ」

 「・・・・・」 ヒュジは、渋々とジルの縄を解いてしまう。

 「ふぅ・・・ありがとう。ヒュジ。サラのも解いてあげて」

 「・・・その必要は無いわ」

 サラは、ふらりと立ち上がるとスルスルと縄が抜け落ちる。

 「へぇ〜 さすが、政府のスパイ」

 パチパチ。

 「・・・命拾いしたわね。坊や、危なく、殺すところだったのよ」

 小さなペンを持っていた。

 サラは、部屋の隅に行くと自分のカードを差し込む。

 いくつかのキーを叩く。

 「ジル、あなたのカードも・・・・」

 特権階級は、不公平な扱いを受けられる。

 ジルがカードを差し込んでキーを叩くと併設されていた武器庫が開く。

 どんなに優秀な武器でも通常兵器の数百倍の価格だと、

 費用対効果で割が悪くなり、一般に流れない。

 しかし、特殊部隊にしか支給されない高性能な武器がずらりと並ぶ。

 自分の命令しか聞かないSPアンドロイド兵十数体、

 自律プログラムのおかげで、ちょっとした軍隊に思えた。

 「・・・・ジル。武器は、好きな物を選んで良いけど、シールドジャケットは、羽織ってね」

 「ええ」

 この頃の銃は、赤外線やレーダー、ソナー、各種探知機まで付いて、

 標的に向けると自動的にロックしてしまう優れものだった。

 当然、防御側も、ステルス機能や電子障害を起こさせるような物になっていく。

 「・・・カバディの再起動まで・・4時間」

 「ジルは、ここに隠れて。時間を稼ぐわ」

 「ええ、サラ、大丈夫?」

 「あまり大丈夫と言えないけど・・・・」

 「ヒュジ。あなた。マトリックスに入って、海賊のこと知りたいわ」

 「・・・・うん」

 マトリックスの便利なところは、人の脳を直接読み取れる。

 海賊の首領ハイゼン。

 以下40人の手下が投影されていく。

 一癖も、二癖も、ありそうな連中が並ぶ。

 「・・・ヒュジ。あなたの記憶が・・・正しいと・・・仮定して・・・」

 「これに・・・プラス・アルファということね」

 「ねぇ ヒュジ。何で、海賊がラスクィーンを襲うことになったの?」

 「バルナ家が、エンジェル・プラムを密輸・・」

 バシッン〜ン!!

 武器を持っている少年を思いっきり引っ叩ける人間は少ない。

 ジルは、倒れたヒュジの胸倉を掴むと更に叩く。

 「待って、ジル」

 サラが止める。

 「バ、バルナ家がエンジェル・プラムを密輸したですって!」

 「・・・・」

 「そんなこと言ったやつは、殺してやる!」

 「ちょっと、ジル。落ち着いて」

 「・・・・・」

 「まず、話しを聞きましょう。海賊の動機を知りたいわ」

 「ラスクィーンには、エ・・・エンジェルプラムを運ぶため」

 「コンピューターに知られていない空間があるって」

 「「・・・・」」

 「だったら、そこに転移できれば、ラスクィーンを強奪できるって・・・」

 「「?????」」

 「「どうやって?」」

 「・・・て、転移、する時、同調して、そっちに乗り移るんだ」

 「「?????」」

 「「どうやって?」」

 「だ、だから、て、転移、する時、同時に・・・」

 「「だから、どうやってよ!!」」

 「・・あ・・はは・・・・」

  

  

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 月夜裏 野々香です

 構成上、天空の城ラピュタの影響を受けていても、

 世代、キャラ的には、あだち充、系かもです。

 いや〜 良いです。

 こういう青春を送りたかった・・・・・・

  

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第02話 『疑 念』

第03話 『捕 囚』

第04話 『走 駆』