月夜裏 野々香 小説の部屋

   

SF小説 『銀杏星雲のジル』

        

第04話 『走 駆』

 宇宙大型高速客船ラスクィーン。

 ラスクィーンSPアンドロイド VS 海賊 VS 密輸団。

 状況は、まったく掴めないまま、三つ巴の戦場へと移行していた。

 サラとSPアンドロイドは、通路の向こう側と銃撃戦。

 綺麗だったラスクィーンの内壁は、銃痕で穴が開けられ、

 それ、どころか、ガン・ランチャーや高出力ビームを持ち出しての戦場で壁が崩れていたりする。

 サラは、銃撃戦に慣れているのか、えらく様になっている。

 SPアンドロイドが撃たれ、倒れる。

 「・・・ジル! もう持たないわ、あなたたちだけでも、格納庫の宇宙艇で脱出して」

 「・・・でも」

 「わたしは、一人が自由に動けて助かるの」

 「それなら、カバディシステムが自動修復されるまで持ち堪えられる」

 「・・・わかったわ。サラ」

 「3体だけ置いて行って」

 「ええ。行きましょう。ヒュジ」

 ジルとヒュジが移動するとSPアンドロイドが二人を守るように取り囲んで警護。

 カマディシステムから切り離された自律プログラムだと、

 反応速度が半分以下に低下する。

 それでも、一般的な人間と良い勝負。

 そんなに悪くないものの、相手がてだれの海賊だと、やはり分が悪い。

 格納庫までのルートが安全なのか、

 不明で危ない橋といえた。

 「ヒュジ・・・あなた。この宇宙船に飛び込んできたとき・・・・わたしと・・・・・」

 「・・・・・」

 ヒュジが頷く。

 「・・・そう・・・」

 互いの体と体が、すり抜けるような感覚は、そう、得られるものではない。

 たぶん、マトリックスでも無理だ。

 「・・・・・」

 「ヒュジ。どういう特技なの」

 「転移を同調させて、しかも、空間だか、質量だか、をクロスさせてしまうなんて」

 「わからないんだ」

 「最初は、海賊船が転移中、警備艦隊に攻撃されて、気が付いたら別の部屋にいたから・・・・」

 「ふ〜ん・・・で、海賊の頭領が、そのことに気付いて・・・・」

 ヒュジが頷く。

 「ヒュジは、なんで、海賊なんかになったわけ?」

 「・・・村が・・・海賊に襲撃されて・・・たぶん、隣村に売られたんだ」

 「げっ!」

 「・・・魚が獲れなくなっていたから、たぶん、それが原因だと思う」

 「ふ〜ん。浅ましい村が残ったわね」

 「・・・たぶん、どっちが早いか。だったのかもしれない」

 「なるほど」

 「・・・・」

 「ねぇ ヒュジ。どうして、わたしを助けようと思ったの?」

 「そ・・・その・・・し・・信用・・・できそうだったから」

 「ふ〜ん ねぇ、ヒュジ」

 「なに?」

 「この武器、どうやって使うか、知ってる?」

 「・・・あ・・・」

 前触れもなく、側壁が爆発。

 「「いっ!?」」

 壁が吹き飛んだかと思うと巨漢の海賊が現れる。

 SPアンドロイドが巨漢の男に向かって撃ち掛ける、

 しかし、海賊は、力任せの張り手で反対側の壁に叩きつけてしまう。

 「に、逃げよう」

 「ヒュジ! 待てぇ! おまえ、裏切ったな」

 銃撃戦が始まる。

 通路を曲がると今度は、通路の天井が破壊され、海賊が降りてくる。

 「げっ!」

 慌てて、四つ角の反対側の通路を素通りして逃げる。

 「ヒュジィィィ!!!! 裏切り者は、総督になるんだからな!!」

 ビームの射線が辺りを通過していく。

 当たらないのは、運が良いのか、シールドジャケットのおかげ。

 そして、SPアンドロイドの献身的な援護のおかげ。

 状況は、最悪で宇宙艇のある格納庫に向かうルートが塞がれていく。

 カイゼルを味方につけている方は強い。

 それでも武器の差は、出てくる。

 「・・あ・・」

 ジルの銃が連射。

 ジルが持っていた武器は、一度、ロックしてしまうと、

 敵と記憶した生体反応に向かって、銃弾が弾道を変えながら飛んでいく。

 彼らのシールド装置では、防御が困難で状況が少しばかり停滞。

 「・・・・大きめの銃を持ってきて良かった」

 ジル、あまりの威力に驚く。

 そして、ようやく、ラウンジに逃げ込む。

 「ぅぅぅ・・・最悪・・・ヒュジ。良かったわね。あなた。総督になれるんですって」

 「・・・誰もいない、小さな小惑星に置いていかれるんだ」

 「へぇ〜」

 「生きていられる間は、その小惑星の総督だよ」

 「まぁ、素敵・・・」

 “総督” は、残酷かもしれないが残虐というわけでもない。

 海賊でも、同じ釜の飯を食べた仲間を殺すのは気が進まない。

 裏切り者に対する、処置としては、ありだろう。

 少なくとも、小惑星に残された裏切り者に手を振り

 “がんばれよ” “元気でな”

 と心から応援できる。

 表面上、裏切り者を許すような寛容さで、

 良心の呵責も少なく。偽善的ですらある。

 一般的な、死刑執行より、はるかにセンスがある。

 「・・・んんん・・・・よ〜し」 ジル

 「な、なに?」

 「作るわよ」

 「なにを?」

  

 殺傷力ゼロなのだが、

  

 「わっ!」

 「ク、クランプ!」

 「・・・・・・・」

 ピアノ線で転ばされ、

 「おっ!?」

 吊るされたワインのビンが迫ってくる。

 バリンッ!

 「ほっ〜」

 ボコッ!

 「いてぇ!!」

 サラ・マリアを追い出そうとして、使いに使った手だ。

 子供の悪戯でしかない。

 本物の海賊に使うようなものではない、

 もっとも、極度に緊張しているベテランの海賊は、殺意のある罠を避け得ても、

 なぜか悪意の罠は、新鮮すぎて引っ掛かり始める。

 「・・・・くそぉ〜 あのガキども」

 次々に投げつけられる。アルコールのビン。

 「ちっ エネルギーも初速も小さ過ぎて、感覚が狂う」

 そして、ランプ。

 「ちっ! やる気が失せ・・・ん・・・!?・・・」

 アルコールにランプの火が引火していく。

 「に、逃げろ!」

 「あの、くそガキども〜」

 海賊たちがラウンジから逃げ出す。

  

  

 しかし、海賊側も、CICルームを占領していた。

 運が良いはずのニーダ船長が生死不明で倒れている。

 ウィザードクラス。ウィッチクラスのプログラマーがラスクィーンを支配下に置こうとマトリックスを弄っている。

 「頭領」

 「・・・なんだ?」

 「船内ホログラムシステム。制御下です」

 「よし、やつらを脅かしてやれ」

 「了解」

  

    

 「やっぱり、高い酒は、匂いもいいわね」

 「ジ、ジル、飲むの?」

 「・・・味見よ。死水」

 「そ、それって、人にやってもらうんじゃ」

 「うるさいわねぇ 死ぬかもしれないんだから、法令なんて守っていられますか」

 「・・・あ・・そう・・」

 「ゴクン! んん・・ぅぅぅ・・・なんか・・・熱くなるわね・・・・・・」

 「あまり飲まないほうが・・・・」

 「ヒュジって、誰がつけたの?」

 「頭領に拾われたとき。頭領が・・・・」

 「ふ〜ん・・・・安っぽい名前ね」

 「わたしが、もっと良い名前を付けてあげるわ」

 「・・・・うん」

 「・・・あの特技は、ヒュジだけ?」

 「うん」

 「そう・・・おかげで、良いこと、思いついた」

 ジルがフラフラと立ち上がる。

 「こら〜!! 海賊。降伏しないと酷いからね!・・・わ!」

 いきなり銃撃が始まる。

 「きゃー!!」

 「ジ、ジル。飛び出したら、危ないよ」

  

 海賊側

 「ちっ! 突然出てきやがって、外したぜ。素人は、動きが読めねぇ」

 「マッグス。ガキの考えていることなどわからんよ」

 「しかし、向こうは、最新の自動追尾弾だ。あまり近付くなよ」

 「こっちは、マニュアルで、やっているのにいい気なもんだ」

 「3度ほど、下げてみるか」

 「相手がセミプロなら・・・そこにいるな・・・・」

 遮蔽物に隠れていても、銃弾の軌道をある程度変えられる時代。

 遮蔽物に隠れたSPアンドロイドを破壊する。

 そして、船内に突然、現れるホログラフ。

 シールドジャケットや武器に反応しない。

 しかし、人間は、視覚に入ると反応する。

 ・・・・人によって、いろいろ、反応の仕方が違う。

 「・・・きゃっ!」

 ジルが蛇に驚き、ヒュジに抱きつく。

 「だ、大丈夫だよ。ホログラフだから」

 「で、でも、蛇よ。蛇! 気持ち悪い・・・やだ〜」

 「・・海賊や宇宙怪獣は、平気なのに?」

 「だってぇ! きゃっ! ムカデ〜」

 大騒ぎしながら、ジルとヒュジが、ラスクィーンの船内を駆け抜ける。

 「・・くっ・・・・くっそぉ・・・素人が・・・当たらねぇ〜」

 「ホログラムを止めろ! 動きが予測できやしねぇ」

 追いかける海賊が呟く。

  

  

 ラスクィーンの機関室

 密輸組織ヤンゴンと海賊ハイゼン。

 ラスクィーンの外壁をギリギリの破壊しない程度の銃撃戦。

 「ヒュジのやろう。裏切りやがって」 アースリック

 「・・・ヤンゴンのやつら。機関室から直接。転移装置を動かすつもりだな」 ハイゼン

 「ったく。ガキどもといい。密輸組織といい・・・」

 「どうしやす。頭領、人手が足りませんぜ」

 「まず、機関室を取り戻して、この宙域から一刻も離れるんだ」

 「警備艦隊が来たらお手上げになる」

 「ヒュジの裏切りは痛かったですね」

 「ヒュジを一人にしたのが失敗だったな」

 「あんな、小娘に出し抜かれるとは・・・」

  

  

 通路

 三人のラスクィーンの乗員が倒れ、

 通気口からサラが出てくる。

 訓練されているのか、

 シールドジャケットを信頼しているのか、

 子供だましのホログラフは、通用しない。

 「密輸組織ヤンゴンか・・・」

 「バルナ家が疑わしいと思ったけど。宇宙客船を利用されただけ、みたいね」

 そして、通路から現れた海賊のアンドロイド兵を撃ち抜く。

 「・・・使用者責任は、問われそうだけど・・・・」

 『・・・サラ様。ご無事ですか?』

 「カバディ。修復は、順調?」

 通路の向こうから、敵が現れ、撃ち合いが始まる。

 『とりあえず言語機能だけ回復できました』

 『完全修復まで、あと、2時間、必要です』

 「酷いめにあったわね。カバディ」

 『・・・強力な、電磁爆弾の不意打ちでしたから。堪えました』

 「そう」

 『ジル様は?』

 「格納庫の宇宙艇で脱出させているわ」

 『そうですか。回路を回復させ次第、走査します』

 「カバディ。あの、ヒュジという子供。どう思う?」

 『・・・二つの能力が、推測できます』

 『一つは、転移に対する同調性』

 『もう一つは、同、時空間の空間、または、質量に対する交換』

 「そういうことが、ありえるの?」

 『結果からの推測だけですから、実証は、不可能です』

 「でしょうね・・・・」

 その種の研究は、され尽くしていた。

 二つの場所から、一つの転移点へ。

 これは、プラスとプラス。マイナスとマイナスの様に反発し、

 融合することはない、不可能だった。

 転移戦も、この性質を使っている。

 転移点に対し転移点をぶつけて相殺。

 転移不能にする。

 これを逆に同調させ、同一の転移点に合流させてしまうは、ありえない事だった。

  

  

 密輸組織ヤンゴン

 機関室

 ジリジリと焦燥感に包まれる密輸組織。

 「・・・・アドリアン副長」

 「くそぅ 貧相な海賊が、どうやって忍び込んだ」

 「・・・海賊が、現れたのは、転移の直後です」

 「それも、副システムが作動して直後、こちらの欺瞞工作が見破られてからです・・・」

 「ありえんな」

 「では、ずっと、潜んでいたと?」

 「これだけの弾薬を入れさせるものか」

 「それにアンドロイドだけならまだしも、人間だぞ。もっと、ありえん」

 「・・・どうします。副長」

 「・・・んん・・・このまま、ラスクィーンを乗っ取って、海賊に転職するしかないな」

 「裕福な二重取り生活から、貧乏海賊暮らしですか」

 「代わりに自由が手に入るな、いまさらシンジケートもないだろう」

 「ですが、ヤンゴンから武装船を出すそうですが」

 「警備艦のほうが早いよ」

 「・・・アドリアン副長。あと5分で、転移できそうです」

 「そうか、海賊のアジトには、行きたくない。シンジケート側に転移だ」

 

 

 ジル、ヒュジ

 特権階級は、金に任せて、なんでもありな時代。

 普通なら梃子摺る “関係者以外立ち入り禁止” の部屋も、すんなりと入れる。

 カイゼルやカバディでさえ防ぎ得ない強制力。

 そして、海賊も、想定外で側壁や天井、床をぶち抜き、出入りする

 弾薬と労力さえ惜しまなければ、同様に動き回れる。

 「どこに行くの? ジル」

 「・・・一度、宇宙に出るわ」

 「えっ!」

 「宇宙作業用のマニピュレーター船に乗り移る」

 「・・・でも、カイゼルの支配下じゃないの?」

 「回線を切って、プライベートプログラムに変えたもの」

 「げっ!」

 「なによ」

 「な、なんでも、ありなんだね」

 「船主の娘だもの」

 「・・・あはは・・・・」

 公益性より。

 資本主義の原理が優先される世界だった。

 「あなたたちは、ここを死守するのよ」

 4体しか残っていないSPアンドロイドが頷く。

 この時代の宇宙服は、軽量だけでなく。

 プラズマ重力シールドすら可能にしていた。

 気圧室を出ると宇宙空間が広がっている。

 宇宙船がなければ、上も、下も、座標すら判断できない宇宙空間。

 船体を青白いもやが包んでいた。

 『ふ〜ん どうやら、転移するみたいね』

 『うん』

 『急ぎましょう』

  

  

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 月夜裏 野々香です

 宇宙船の中で銃撃戦。

 思い当たるのは、スターウォーズでしょうか。

 辺境の砂漠惑星タトゥイーン軌道上。

 反体制派オルデラン外交船タンティヴィIV VS 帝国軍のインペリアル級スター・デストロイヤーの交戦。

 最初、見たとき、正気を疑ってしまいました。

 『銀杏星雲のジル』では、もう少し派手な戦いになりそうです。

 

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第03話 『捕 囚』

第04話 『走 駆』

第05話 『終 焉』