第03話 1934年 『白亜の希望』
日本は負担の大きな遼東半島と南満州鉄道を北樺太と交換し、
経済的な負担を軽減させていた。
総理官邸
現代の世界地図と白亜時代の世界地図が並べられていた。
二つの地図は大陸の形が違う、
しかし、ある時代の国際情勢と似てなくもなかった。
「生物は知的生命体になると似たような馬鹿をやるんだな」
「人同士の戦いは地位、名誉、財産を守るだけでなく。組織権益を守る戦いでもあるからね」
「ところで白亜は役に立つ情報や技術を習得できたかね」
「輪切り型建造方式による水圧向上、ハイスキュー・プロペラ、X舵」
「レーダー技術、ソナー技術、シュノーケル技術など、構造上の先進性は認められます」
「????」
「潜水艦の構造だけなら数十年分は先に進めるはずです」
「構造だけ?」
「ええ、品質や微細加工は模倣不可能ですが、それでも十分、有力です」
「戦艦は?」
「残念ながら戦艦は航空戦力と潜水艦の向上によって無用の長物と化すようです」
「そうなのか?」
「建造しても航空機と潜水艦の襲撃に怯え逃げ回らなければなりません」
「それは重要な国家機密だな」
「将兵の一部は航空論者が占めてますし」
「造艦閥と因戚関係でもなければ戦艦の地位転落を認めるのはやぶさかじゃないでしょう」
「軍と軍属財閥の閨閥コネと利益誘導か・・・」
「軍部の主流とはいえ、厄介なものだな」
「白亜のおかげで資本が航空派と潜水艦派にシフトする動きがあるようです」
「その方がいい」
「航空機は?」
「レーダーは流用できそうですが、基礎工業力が劣ってるので複製は無理かと」
「しかし、解読が進めば戦力は大幅に向上できそうです」
「問題は経済不況をどう克服すべきか。なんだが」
「南満州から引き揚げ、マル2を延期しても経済が好転しないとはな」
「生糸が売れないようでは日本経済は成り立ちません」
「ほかに海外に売るものはないのか?」
「人くらいしか・・・」
「・・・・」
「しかし、人を土地から動かすのは簡単ではないと思うが」
「そうせざるを得なくすれば・・・」
試行錯誤に堪えられるだけ人材と資材と資本を開発まで浪費できるか、
科学技術の進捗は、そこにあった。
科学技術的な成果を組みたてることで工業となり、
損益分岐点を超えるシステムの構築と、
労力、流通、市場が存在すれば産業が成り立った。
もし、開発された現物が見本として存在した場合、
科学技術的な蓄積がなかったとしても、工業化までの進捗度は計り知れない、
とはいえ、日本の工業力は低く、ドイツ製の複製さえ困難であり、
それより、はるかに進んだ原子力機関など作れるわけもなかった。
新型潜水艦は、白亜の遺産の一部が流用され、水中性能が重視されたものの、
ディーゼルエンジンと蓄電池・モーター推進だった。
ワシントン条約で、潜水艦は52700t以内、1隻2000トン以下と定められ、
2000トン級白亜01型潜水艦(1500万円)は、12隻の建造となった。
外見は、葉巻型×舵、1軸スクリューが採用され、伊号と比べ異質な艦型となった。
また、白亜に劣るものの列強より洗練された機構が採用され、
水圧隔壁の構造と品質も各段に向上していた。
海軍将校たちが設計図を見つめる。
「エンジンだけでなく、装甲の内側と外側も防音用のゴムか、念入りだな」
「潜水艦は見つかったらおしまいと思っていいでしょう」
「やれやれ、水上艦艇の建造を中止で、潜水艦の建造か・・・」
「いつから潜水艦が海軍の主役になったんだ」
「白亜紀の遺産のせいかな」
「恐竜のいた時代だろ」
「そうらしいけど現代をはるかに超える超近代文明があったなど、にわかに信じがたいな」
「人類史は、贔屓目に見て500万年」
「人類までの進化の年月を省くなら、500万年で人類史を一つ作れる」
「それに人類史以前の歴史に文句を付けてもしょうがないだろう」
「それで、白亜の分析は進んでいるのか?」
「そうだな。音声も記録されているし」
「文字の解読も僅かに進んでいる」
「たぶん、軍事関連以外のデーターも多い」
「自分たちが存在した記録を次の生命に残したかったんだろうな」
「完全に解読できれば、もっと技術力が増すだろう」
「新しい情報は?」
「そうだな・・・白亜紀末の生態系の絶滅は、隕石によるものらしい」
「あと、この潜水艦が海洋に高分子化合物と有機化合物を放出させた形跡があるな」
「潜水艦が原始の生命も作ったと?」
「その形跡がある」
「それにデーターによると海底に沈んでいるのは、一隻だけではないかもしれない」
「この艦に武器は、あったのか?」
「魚雷発射機能は備わっていたようですが」
「その微生物の放流装置と、生命維持装置のようなモノに置き換えられています」
「つまり、全地球規模の危機に備えて、海底に潜水艦を避難させた」
「そして、その内の一隻が6500万年も眠り続け、何かの拍子で浮上してしまった?」
「まぁ そんなところだ」
「んん・・・解読を急がせてくれよ。何があったか知りたい」
「まぁ 武器関連の記録もあるな。見ろよ・・・」
技師がパネルを操作すると画像が動き・・・
「「「「!?」」」」
「陸軍には、この戦車を見せたくないな」
「「「「・・・・」」」」 うんうん
「しかし、むしろ、重要なのは、こっちかな、特許・産業関連・・・」
「「「「・・・・」」」」 わかんねぇ
「まぁ 文字を解析できたら、もっと、飛躍的に日本の科学を発展させられるだろう」
ドイツ・ポーランド不可侵条約締結
荒天での演習で水雷艇友鶴が転覆。艇長以下100名死亡。
満洲
ソビエトの北樺太と日本の遼東半島・南満州鉄道の権益交換により、
ソビエト満州鉄道は遼東半島にまで達していた。
大連港・旅順港は、ソビエト陸海空軍が駐留し、
ソビエト東アジア侵略の一大拠点となりつつあった。
アメリカ資本は、既に南満州に平並線(打通線、奉海線)を建設し、
ソビエトのアジア戦略の矢面に立ってしまう。
渤海に面した営口港
ハリマン社の人たち
「それより満州馬賊の取り込みは?」
「ああ、なんとかうまくいってる」
「中国馬賊とロシアコサックと銃撃戦は、ハリウッド映画で売り込めそうだな」
「しかし、南満州までソビエトの勢力圏に入ってしまうと並行線だけのアメリカは地政学的に不利だ」
「日本は?」
「日本は半島にまで引き上げ鴨緑江沿いに防衛線を建設している」
「ちっ、高みの見物を決め込むようだ」
「やれやれ、日本に嫌がらせするつもりだったのが・・・」
「そういえば、最近、半島で結核、コレラ、気管支炎が急増してるらしい」
「三等国が碌な医療技術もないのか」
「いや、工場から意図的に誘発物質を放出させてるようだ」
「どういうつもりだ?」
「半島で海外移民事業も進めている」
「日本藩は、半島から朝鮮人を追い出す目論見なのかもしれない」
「しかし、結核、コレラ、気管支炎とは日本人も回りくどい方法を・・・」
「我々は天然痘付の毛布をインディアンに送って絶滅させたっけ」
「「「「あはははは」」」」
「しかし、日本に嫌がらせするつもりがソビエト共産主義と矢面か」
「旅順港はソビエトに要塞化され」
「渤海の営口港は、いつでもソビエト軍に封鎖されるだろう」
「常識的に撤退すべきだろうな」
「撤退すると中国がソビエトの影響下に入ってまずいそうだ」
「ちっ 日本の国力を擦り減らしてやろうとしたのに」
「なんでアメリカが苦労させられるんだ」
「しょうがないだろう。日ソで権益交換したんだから」
「うぅ・・・面白くない・・・」
ソビエト連邦
租借地 遼東半島
ソビエト連邦は、ロシア帝国が失った満州鉄道を回復すると、徐々に戦力を南に移動させていく、
スターリンは、62000t級ソビエツキー・ソユーズ型(406mm3連装3基)戦艦8隻、
24000t級クロンシュタット型重巡洋艦(25cm3連装3基)16隻を基幹とするソビエト海軍建造を決め、
太平洋艦隊再建を進めていた。
旅順要塞
ソビエト軍将校たち
「アメリカ資本が南満州鉄道を挟む並行線に取り付いてるようだが?」
「なぁに、遼東半島を押さえてるなら、アメリカ資本などどうにでもなるよ」
「しかし、日本人も満洲利権と北樺太と交換するなんて間抜けだな」
「日本は東アジアで覇権を競うことを諦めたのだろう」
「次は、日露戦争のようにはいかないぞ」
「まだ、日本と戦争になるとは決まってないだろう」
「ま、満洲を押さえたら、次は、中国か、日本になるだろうな」
函館大火。24186戸焼失、2166名死亡。
関係者たち
「救済予算はでるかな」
「こういうとき火消しで軍が動いてくれたら、軍に恩を感じるんだけどな」
「まぁ 軍は、国民じゃなく、天皇と国を守るのが仕事だからね」
「それに持ってるの火薬だから消すより、燃やす方が得意だし」
「ちっ 縦割が強いと予算の取り合いが命懸けになるだけだ」
「もう、金くんなきゃ政治不信」
「来年は、落選決定かな」
呉
9000トン級原子力潜水艦 白亜、
金欠病で強盗紛いをしていた男に特許遺産が転がり込んだようなものだった。
日本の軍事的な変革は、外交戦略を変えてしまう。
特に潜水艦は、構造、設計、戦略のセンスで、列強の先端技術をはるかに超え、
日本海軍は水上艦艇を建造するより効果的と、潜水艦建造に傾注していた。
赤レンガの住人たちが見上げていた。
「こりゃ また凄いな」
「6500万年も海中に沈んでいたとは思えませんね」
「まったくだ」
「保存状態が良いのは、土砂を被っていたからと思われます」
「なるほど・・・と言える年月なのか? 6500万年は?」
「やはり、チタンとセラミックの関係でしょうね」
コツ! コツ!
「音が鈍い、響かないのが凄いな」
「ええ、防音タイルでしょう」
「6500万年後も、そいつが現役とはね」
「いえ、相当、ガタが来てますよ」
「まぁ 運良く浅瀬に乗り上げてくれなかったら、永久にお目にかかれなかったかもしれないな」
「ところで潜水艦は、泡を出しながら進む方が良いのかね」
「解読によれば速度が向上しますし、ソナーに引っ掛かり難いはずです」
「泡は小さい方が浮上が遅くなるので、隠れるなら微粒子が好ましいかもしれません」
「空気を外に出すのは気が進まないが」
「原子力エンジンならではの機構では?」
「第一次世界大戦では、Uボートが空気と残物を外に捨てて生き残っているそうです」
「死ぬよりマシかも知れません」
「それは、そうだがね」
「ところで、原子力機関は?」
「既に燃料が切れてますが、原子力機関の基礎設計は理解できました」
「問題は、ウランの精製か」
「ウランがありませんな」
「ったくぅ・・・」
「どちらにしろ周辺技術が低過ぎて話しになりませんね」
「ところで、電子部品の解析は?」
「こちらは、原子顕微鏡レベルで、常軌を逸してますよ」
「なぁ どういう経緯で白亜人は滅んだんだ?」
「さぁ」
ヒンデンブルク大統領死去。ヒトラーが総統と首相を兼任
ソ連が国際連盟加盟
日本の某おもちゃ工場は大恐慌の直撃を受け、
生産が低迷していた。
独特な臭いがのするセルロイド製のおもちゃが並べられている中、
社長と将校が現れる。
「工場長。君は徴兵されて、軍の研究施設に行くことになった」
「こいつを作って欲しいらしい」
社長に手渡されたモノを見て、工場長の顔色が変わる。
「不可能です」
「にべもなく言うな」 将校
「軍で作ればいいでしょう」
「作れんからこっちに来たんだ。製造畑も必要らしい」
「まともな機材がないんですよ」
「軍で揃えてる」
「し、しかし、第一、こんな・・・・」
薄く滑らかで軽く堅く、それでいて粘りの強い材質は、金属でないものの、
臭いがなく、樹脂と思えない代物だった。
「中佐殿。材料は何です?」
「わからん」
「偉そうに答えないでください、中佐殿。出所を教えてくださいよ。これじゃ話しになりません」
「全て軍機である。頼りになりそうな社員を一人連れて来ていい」
「早急に開発してもらう」
「「「「・・・・・」」」」
丹那トンネル開通
96式艦上戦闘機が離着陸を繰り返していた。
460hp×1。自重1075kg/全備重量1500kg。全長7.71m×全幅11.00m
最高速度406km/h。航続距離1200km。乗員1名。
武装7.7mm機銃×2。 30kg爆弾×2 or 50kg爆弾×1
日本帝国は、白亜の技術を統括的に運用する組織が必要となり、
密かに艦艇技術廠と航空技術廠を設立させ、選抜メンバーを集めさせた。
その集まりは白亜会と呼ばれ、
白亜は、機密全体を意味する隠語にもなった。
「無線は良し。機銃は4丁にした方が良いな」
「運動性が落ちてパイロットが嫌がるらしいよ」
「そんな我が侭は聞いてられない」
「エンジンは、もう少し改良できそうだな」
「ジェットプロップは?」
「構造が複雑過ぎる。ジェットエンジンの方が良い」
「冶金が駄目だろう。エンジンが溶けるよ」
「ハイテン鋼の材料の比率とか、わかってんじゃないの?」
「その通りやってもそうならないのが、現場だからね」
「ヴィッカース製の金剛の改装が大変だった事は聞いてるだろう」
「やれやれ、知識と現物の間に開きがあるのか」
「技術的な蓄積が足りないということかな」
「ところで複合装甲は?」
「炭素(カーボン)素材とケイ素(シリコン)素材は、期待できそうだけど」
「単語がわかってもな。組み合わせの変化が良くわからんよ」
「ちっ 日本人の語学力も問われてるのか」
「それに白亜紀と大気組成が違うみたいだし、製造過程も変わってくるはずだ」
「く、薬とかは?」
「もっとわからんし、基礎が似ているだけで違う生態系だろう」
「そっちの人材を増やすべきだな」
ワルワル事件。伊とエチオピアが武力衝突。
スターリンの大粛清が始まる。
ワシントン 白い家
「南満州の平並線(打通線、奉海線)はどうなっている?」
「ソビエトに遼東半島を押さえられて不利かと」
「まさか、日本が南満洲を捨てるとはな」
「おかげで、満洲を巡って米ソの利権が衝突か・・・」
「問題は日本の変化かと」
「日本で、なにか、変化があると?」
「詳しくは調査中ですが日本が “何かを発見した” 節があります」
「なにかとは?」
「まだ、不明です」
「それは、我々が注意しなければならないレベルのものなのかね」
「日本の軍関係者がアメリカの炭素、ケイ素、セラミック、チタン関連技術を漁っていきました」
「あと医療関連技術も・・・」
「ほぉ〜 鉄と油じゃないのか」
「はい、あと、樹脂も漁っていったようですが」
「北樺太の油田地帯に石油化学工場を建設してるようです」
「日本の開発優先順位が変わることがあるのだろうか」
「日本の国情からして、妙なベクトルの方針です」
「アメリカは、大恐慌で身動きが取れない」
「しかし、日本が何か隠しているのなら探ってくれ」
「はい」
北樺太
オハ油田は、雪に閉ざされていた。
日本軍駐留軍は、撤収の準備中のソビエト軍将兵と疎遠ながら、一部交流していた。
石油精製所と併設する化学工場の建設は、雪が降り始めると作業が中断し、
白亜の研究者は、薬品と素材が集められた研究室で、
現物を片手に各種の素材を幾通りも組み合わせ、
様々な方法で模倣を試みていた。
現物の存在が開発の拠り所であり、
現物と製造可能と信じる将兵たちによって支持され開発予算が保障されていた。
研究者
「駄目だ。もっといい電子顕微鏡をドイツで買ってきてくれ、話しにならない」
「それが今一番いいやつだよ」
「・・・6500万前のものとは思えないな」
「軍用なら採算度外視する時があるから、あり得るさ」
「しかし、炭素繊維とケイ素繊維で飛行機を製造できるなら悪くない」
「問題はどうやって作るかだ・・・・解読は?」
「言語学者が解読してるらしいが良く分かってないらしい」
「古代の大発見を日本だけで分析するのが、そもそも間違いでは?」
「国益が大きすぎてとても言えないそうだ」
「例え、技術的に模倣できても工場のラインに載せるのは、別だが」
「軍人さんたちは、分かっているんだろうか」
「軍人に言ったことがあるな。理解できたかわからんがね」
「さらにいうなら収益が上げられなければ、ラインを作っても赤字操業なんだが」
「それも言ったな。連中は良くわかってなかったみたいだがね」
日本海軍で、白亜人の遺骸をどうするかで揉め、
一部を祀ることになった。
日本海軍の所有地に白亜神社建立したことが、新聞に小さく載せられてしまう。
なぜ白亜という名称なのか、由来定かでなく、
宮司の次男坊で退役士官だった男に役職が回され、
宮司は、見よう見真似で、おおぬさで祓い、
覚えたばかりの式を執り行っていく、
そして、政府関係者、工廠関係者、
海軍首脳部、さらに陸軍首脳部まで、主要な面々か参列していた。
「これで、白亜人も安らかに眠ってくれるといいがな」
「どうだろう」
「後の生態系に文明の結実を宛てたのに」
「公開せず一国家の軍の独占だから旋毛曲げるだろう」
「だから、こうやって祀ってるんだろう」
「御神体の護衛は大丈夫だろうな」
「一応、海軍の所有地内で、靖国の分祀社ということにしてる」
「よく、分祀社できたな」
「それは、もう、軍機は言えないし、人事もこっちでやるから靖国はごねるし」
「新聞も不思議がるから大変だったよ」
「他にも潜水艦があればいいがな」
「それはどうだろう。6500万年だ。あの潜水艦は運が良かっただけかもしれない」
「運が良かったのは、日本かもしれないがね」
「運か、あれだけのお宝、上手く使えなかったら、本当にバチあたりだな」
「ああ・・・」
釜山港
移民船が出航していく、
欧米列強は20世紀の奴隷船と呼び非難するものの、
日本商船の航路を妨げることはなかった。
関係者たち
「朝鮮人を南米だけじゃなく、フランス植民地へも人身売買か」
「しかし、よく出ていく気になれたな」
『軍の防疫部隊が何かしたらしい』 ひそひそ
「うそ〜」
「噂だけどな」
「まぁ 朝鮮人を輸出できるのなら何でもいいんだろう」
「しかし、国際的に評判悪いよ。奴隷貿易なんて」
「生糸売れないし。一応、移民船だよ」
「評判が悪いのは朝鮮人の人柄のことなんだが」
「ファビョるからね」
「それでも人手には違いないさ」
フランス領カメルーン (旧ドイツ植民地)
日本商船から朝鮮人が降ろされると、
フランス軍によって土地が移民者に振り分けられていく、
フランスの人手不足は第一次世界大戦から18年を経ても解消されず、
むしろ、慢性化していた。
日本の朝鮮人輸出は、移民の形を取っていた。
奴隷輸出と陰口を叩かれながらも植民地の独立勢力を削ぎ、
労働力を欲する国々から喜ばれた。
とはいえ、世界恐慌でフランスも金がなく、
朝鮮人は鉱山、土木、農業に投入され、
生産物の一部を日本が手に入れる方式がとられた。
陸王に乗ったフランス人が戻ってくる。
「どうです? 日本製オートバイは?」
「ハーレーより劣るが値段が安いのがいい」
「入用でしたらもっと都合つけられますよ」
「そうだなぁ 朝鮮人はいま一つだが原住民の反感を買ってくれるし」
「もう少し、移民させてもいいかな」
「しかし、なんでハーレーなんだ?」
「へ?」
「どうせ、技術提携するならモトベカンのオートバイにしろよ」
「あははは」
「だいたい、アメリカ人は粗忽すぎて華麗さに欠ける」
「ハーレーなんか、特にそうだ」
「日本人は参考にする国を間違えると馬鹿を見るぞ」
「た、確かに・・・」
「それと扇風機も追加で発注したい」
「ありがとうございます」
赤レンガの住人たち
「白亜の情報だと航空機と潜水艦が主力になるらしい」
「しかし、白亜時代と気圧や大気組成が違うそうじゃないか」
「航空機が有効だと限らないだろう」
「だが期待はできるよ」
「問題は金がないことかな」
「朝鮮人を人身売買した金が軍事費に転用されるだろう」
「気が引けるね」
「綺麗ごと言ってたって国は守れんよ」
「離島に航空基地と補修用ドックを建設するだけでも大変な出費なんだが」
「南満州の負担がなくなるのなら楽だよ」
「それにアメリカの需要も増えてる」
「アメリカは並行線を維持して南満州の足場を守るつもりなのだろう」
「政界恐慌なのに、南満州を捨てると貿易黒字になるとは思わなかったがね」
「そういうこともあるさ」
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月夜裏 野々香です。
取り敢えず、科学技術で先行できそうです。
問題は、分析力と工業化でしょうか。
こちらは、基盤が脆弱過ぎて、もう少し先の話しになるでしょう。
世界恐慌で、輸出できるのは人・・・・ (笑
第02話 1933年 『遺産と相続』 |
第03話 1934年 『白亜の希望』 |
第04話 1935年 『北風と太陽』 |