月夜裏 野々香 小説の部屋

       

仮想戦記 『白亜の遺産』

 

 第11話 1942年 『黒塗りは保身色の証し』

 大日本帝国 総理官邸

 「国際情勢は?」

 「ドイツ帝国は、フォークランド諸島。北アフリカ。シェトランド諸島を拠点に攻勢防御の構えのようです」

 「フォークランド諸島とシェトランド諸島の占領で、通商破壊作戦の成功率は高まってますし」

 「イギリスは反攻作戦のための陸軍御編成で苦慮してるようです」

 「日本も自農が増えて陸軍編成に苦慮してるよ。心中察するところだ」

 「イラクとイランの親独反英は強まってますし」

 「アルゼンチンは、いつイギリスに宣戦布告してもおかしくない状況にあります」

 「アルゼンチンはそんなにイギリスと戦争したのか」

 「フォークランド諸島の領土化で発言力を得るには宣戦布告と考えてる向きが強いようです」

 「ドイツはなんと?」

 「アルゼンチンの参戦はメリットとデメリットの両方があるので、口出ししてないようです」

 「中立のアルゼンチンを介した貿易を考えるなら、そうだろうね」

 「しかし、ドイツは、島を良く維持できるものだ」

 「イギリスは利権が多すぎて戦力を集中できないからでしょう」

 「それに島の航空戦力と陸軍戦力が強まってるようですし」

 「アメリカに動きは?」

 「戦争したがって、口実を探してるようですが」

 「中ソ戦争は?」

 「膠着状態にあります」

 「国民軍は華北回復を目指してるのですが戦力で劣っており」

 「戦力に勝るソビエト軍は黄河から南下する気がないようです」

 「そうだろうな」

 「ナイジェリア投資が多すぎる気がするが」

 「初期投資が大きいほど成功率が高まりますから」

 「本当に成功率が高いのかね」

 「満州より現地民の反発が弱いと思われます」

 「本当に? 我々はナイジェリア会得のため」

 「江戸時代の大名並みの改易と厳封を強いられたのだぞ」

 「量の拡大ができないとき、改易と厳封など相克的な痛みが伴うものですよ」

 「他人事のように言うな」

 「それが徳川幕府260年の秘密」

 「「「・・・・」」」

 「ナイジェリアは?」

 「ええ・・・民族資本が小さすぎる上に教育がなされてません」

 「小学生も出てない人間がほとんどということです」

 「・・・それでも働けば生きていけたな」

 「私たちの祖父母の時代は多かったでしたな」

 「今は優秀な人間が増えて難しいだろうが」

 「優秀か。優秀な人間ばかりで組織構成すると利害が先鋭化するし」

 「価値が偏って階級差別が強くなる。最後は組織全体が社会の敵になるだろう」

 「それいうと党派政治が成り立ちにくいですよ」

 「まぁな」

 「「「「・・・・」」」」

 「ナイジェリア面積92万ku。満州面積113万ku」

 「若干小さいですし、遠いですし、生活環境は悪いですが」

 「周辺の軍事的脅威が小さく、現地民の反発も弱い」

 「イギリスの設備はそのまま使え、3500kmの線路は有用です」

 「ですが狭軌なので標準軌にする必要がありますし」

 「移民増加に合わせて環状線で6000km」

 「さらに基幹幹線で30000kmは敷設すべきでしょう」

 「そういえば、日本も標準軌に切り替えるのかね」

 「人口が気薄になりますからね。今のうちに土地収用すべきでしょう」

 「日本の人口が減ると採算が合わなくなるだろうが」

 「自作農が増えて収入自体は増えてるので・・・」

 「自作のが増えたおかげで徴兵が上手くいかん」

 「というより近代化で工場やダム建設で人材を取られてしまってるからだが」

 「陸軍の削減は国防をないがしろにしてる」

 「国防よりエネルギー、公共設備、設備投資だろうが」

 「産業界は、海外需要にこたえるため、あと三倍の労働者を必要としてます」

 「海外需要は戦争需要で一時的なものだ」

 「産業を大きくしても戦争が終われば維持できなくなるぞ」

 「英独戦争はそうでしょうが、中ソ戦争は中期的な見通しもできそうです」

 「しかし、近代化も限度があるよ」

 「格差を作れば弱者に皺寄せ行くし、自作農の反発も多きいよ」

 「国民の大多数は水飲み百姓と日雇い生活に戻るのが嫌だそうだ」

 「それでは国策ができん!」

 「閨閥既得権益と新興学閥エリート権益の狭い権力の中心を日本の本体と思いこまれてもね」

 「利害が集中して視野が狭くなるし、行き過ぎれば貧富の格差が広がり過ぎてしまう」

 「貧困層は反発し、我慢できなくなれば反政府勢力が生まれやすくなるだろう」

 「外国勢力と結びつくと反日勢力に化けるかもしれない」

 「彼らの視点から見るなら皇軍は、暴力装置に見えてしまうのですよ」

 「近代化は必要ではあるが少量でも質的な投機を考えるべきだ」

 「安易な量の拡大は、格差が大きくなるだろうし、やり過ぎはよろしくない」

 「「「「・・・・」」」」

 「ナイジェリアの資源は?」

 「石炭とスズが大きいです」

 「グローバルスタンダードの気分は味わえますな」

 「ふっ 夜郎自大が」

 「気分だけですよ。ですが白亜の技術がありますし」

 「イギリスとユダヤ資本の思惑より日本の国力を維持できると思うのですよ」

 「とはいえ、昨今は、内外の派兵要請が強い」

 「軍事的な増強は必要だと思われるが」

 「日本とナイジェリアまでのシーレーンは重要ですな。途中、中東権益もありますし」

 「今後、10年以内に日本人5000万をナイジェリアに移民させたいのですが」

 「まさか、きみぃ日本の総人口を知らんわけじゃないだろう。日本経済が成り立たない」

 「それくらいやらないとシーレーンの負担に耐えられない」

 「シーレーン防衛にどれくらい欲しいと?」

 「正規機動部隊とは別に15000t級護衛空母12隻。6000t級護衛艦60隻。10000t級輸送艦120隻」

 「そ、そんな無茶苦茶な」

 「イギリスの巡洋艦は植民地防衛だけでなく、通商防衛の点でも参考になりましたよ」

 「よく考えられた艦艇です」

 「「「「んん・・・」」」」

 「どうやら、全部見越してナイジェリアと長門陸奥の交換か」

 「そりゃもう、日本の国情を最初から計算ずくでしょう」

 「もうあれもこれも割り振り利かん、フランスの気分だ」

 「国力整備を優先したいがそれすらも・・・」

 「ジリ貧のままナイジェリアとシーレーンを維持しようとすれば財政破綻だ」

 「つまり、ナイジェリアのインフラ、工業力、軍事力を高めて自衛するしかないわけですよ」

 「それで、5000万の移民かね」

 「半島移民で、もう海外移民したがる日本人が少ないのが難点だな」

 「それに人と人の間が開き過ぎて設備効率、生産効率、流通効率、消費効率が悪化してる」

 「どうだろう。機会があるごとにナイジェリアの土地を分配しては?」

 「聞けよ。産業効率が悪くなるといってるだろうが」

 「聞いてるが、しょうがなかろう」

 「それには、まずナイジェリアの社会基盤を整備して区画整理しないと」

 「やれやれ、堂々巡りじゃないか」

 「正直、戦力はどの程度いるのかね」

 「ナイジェリアだけなら当面、瑞風100機、1式陸攻100機」

 「空母機動部隊1個。潜水艦20隻。5個師団もあれば」

 「いまはすぐ無理だが、揃えられるだろう」

 「戦艦はともかく、空母は建造すべきでは?」

 「正規の機動部隊なら60000t級空母4隻、16000t級巡洋艦16隻、駆逐艦60隻は欲しいものだね」

 「魔法じゃあるまいし、ポンポン出せるか」

 「原子爆弾と6発爆撃機を開発できれば軍事費で割安でしょうけど」

 「それは言える」

 「原子爆弾の開発は?」

 「電力不足でして、製造は発電所を建設した後になるかと」

 「あと、中性子線を一度にウラン235に照射するわけですが、こればっかりは実験してみないと」

 「原爆小型化で、一番いいのはプルトニウム239ですが、自然界に存在しません」

 「3、4発分ならともかく。それ以上は、原子力発電所を建設しないと無理かと」

 「原子力発電所はリスクが大きいのでは?」

 「ええ、白亜の記録によると、作業員は遺伝子が破壊されるので、寿命が縮むはずです」

 「種族が違っても同じにかね」

 「症状の現れ方が違っても既に作業員が死んでますね」

 「・・・100発もあれば十分なのでは?」

 「1発で都市一つを破壊できますからね」

 「原子力発電所は、列強に見つからないよう地下に一つあればいいでしょう」

 「問題は核爆弾の管理では?」

 「とりあえず、閣僚全員のサインで使用するのでは?」

 「まぁ 妥当ではあるね」

 「ところでさ、ナイジェリアの名称を変えてもいいと思うんだが」

 「ん、その方が移民も加速するかもな」

 

 

 シェトランド諸島

 シェトランド諸島の北端アンスト島、フェトラ島、イェル島に囲まれた直径5kmほどの内海。

 ティルピッツと駆逐艦隊。そして、Uボート艦隊が停泊していた。

 イギリス空軍機の空襲は、ドイツ空軍機の迎撃によって凌いでいた。

 状況は、バトルオブブリテンの逆で、

 シェトランド諸島のドイツ空軍はレーダーで監視し、

 180kmほど離れたスカパ・フローのあるオークニー諸島や

 300kmほど離れたスコットランドから来襲するイギリス空軍機を発見すると迎撃を出撃させ撃退する。

 

 シェトランド諸島の南端飛行場サンバラ

 要衝や滑走路の周辺に爆風から守るため穴が掘られコンクリートが敷き詰められ、

 56口径88mm対空砲と57口径37mm機関砲が配置されていく、

 これらの対空砲と機関砲は、ドイツが戦線を構築すると配備され、

 前線戦で活躍していた。

 空襲警報が鳴り響く

 滑走路脇でパイロットが搭乗待機していたフォッケウルフ20機が飛び立っていく、

 空中戦は、敵機より高度が上で速度が速ければ、戦術が広がり、

 後続の機体が機銃掃射される前に高度を上げることができる。

 フォッケウルフとスピットファイアは、高速ですれ違い、

 大空に幾つもの弧を描き、互いに機銃を撃ち合った。

 そして、レーダーを避けて低空から迫る双発のビッカース ウェリントンに向け

 88mm対空砲と37mm機関砲が弾幕を張り、

 機銃掃射されたスピットファイアが被弾し、大きく傾きながら大地に激突し爆発する。

 バトルオブブリテンを辛うじて凌いだイギリス空軍は、

 ドイツ空軍が待ち構える島を攻撃し、消耗戦を強いられた。

 

 シェトランド諸島の北端空港スカッツタ

 3機のメッサーシュミットBf110に引っ張られた巨大なメッサーシュミットMe321が

 離陸のためロケット噴射を行い離陸していく、

 上空に上がって速度が増すとパラシュート付のロケット切り離した。

 そして、後を追うように護衛のメッサーシュミットBf110が離陸していく、

 イギリス空軍は、メッサーシュミットMe321の空輸を妨害するため、

 航続距離の長い4発爆撃機ランカスターやハリファックスを北海に巡回させる事があった。

 そのため、双発のメッサーシュミットBf110を護衛につけ、

 双発機と4発機が空中戦を展開するといったことも珍しくなかった。

 そして、Me321は、シェトランド諸島と北アフリカのベンガジの空輸で役立ち、

 量産が続いていた。

 ドイツ軍将校たち

 「一度に中戦車1両か。完全武装の兵士120人か」

 「土地が痩せてるから23t分の物資も役に立つよ」

 「そういえば、前回の輸送船は43口径75mm砲装備の4号戦車を持ってきたらしい」

 「島を守るのに戦車がいるのかね」

 「1隻しかないティルピッツが撃沈されても大丈夫なようにしてるのだろう」

 「ティルピッツは大丈夫なんだろうな」

 「雷撃コースに新型の61口径128mmFlaK40対空砲を配置してるし、防潜網で囲んでる」

 「それに小型の潜水艦はこちらの配備に切り替わりつつある」

 「来たら来たで、何とかなるだろう」

 

 

 イギリスとアイルランドの間、アイリッシュ海

 ロドニー 艦橋

 イギリス海軍将校たち

 「よくもまぁ 惜しくもない戦艦ばかり集めたものだ」

 「上陸作戦ならティルピッツは逃げないでしょうから」

 「それに新型戦艦は輸送船団の護衛で慣らし運転をしなければ・・・・」

 「新型戦艦を残す口実にはなるな」

 「この先、戦艦同士の艦隊戦は期待できそうにないですから、丁度いいのでは?」

 「ふっ 確かにな」

 「提督。リュッツォウに脱出されました」

 「上陸作戦に気付いたかな」

 「この作戦で島を取り戻せれば、ドイツの通商作戦も長くはないでしょう」

 「そうだな・・・・」

 艦隊上空を戦闘機と爆撃機が通過していく、

 「全観出撃」

 

 

 イギリス艦隊の出撃はすぐさまドイツ艦隊の知るところとなり、

 ティルピッツ率いるドイツ艦隊は出航準備を整えていた。

 シェトランド諸島

   戦艦ティルピッツ

   重巡ブリュッヒャー、プリンツ・オイゲン、ザイドリッツ

   軽巡エムデン、ケーニヒスベルク、ライプツィヒ、ニュルンベルク

   駆逐艦10隻

   ヴィルヘルム・ハイドカンプ、ゲオルク・ティーレ、ヴォルフガング・ツェンカー、

   ベルント・フォン・アルニム、エーリッヒ・ギーゼ、エーリッヒ・ケルナー、

   ディーター・フォン・レーダー、ハンス・リューデマン、

   ヘルマン・キュンネ、アントン・シュミット

   Sボート24隻

   Uボート32隻

 

 ティルピッツ 艦橋

 「提督。イギリス艦隊が出撃したようです」

 「敵艦隊は、ロドニー

  クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ヴァリアント、

  リヴェンジ、レゾリューション、ラミリーズ、ロイヤル・サブリン、マレーヤの戦艦9隻、

  巡洋艦12隻、駆逐艦35隻、輸送船32隻との情報です」

 「戦艦は1対9か。しかも旧式戦艦ばかりとは・・・」

 「上陸作戦に高速戦艦は不要ですからね」

 「イギリス軍の上陸作戦がリュッツォウの出撃後でよかったのやら、よくなかったのやら」

 「リュッツォウはともかく、巡洋潜水艦3隻が出撃したのは痛かったですよ」

 「Uボート艦隊とSボートを展開させろ」

 「ドイツ本国に航空部隊と水雷戦隊の援軍を要請しろ」

 「小型潜水艦に活躍の場を与えてくれるとは、イギリス艦隊も気前がいい」

 「敵艦が向かってくるのと、敵艦を追いかけるのでは潜水艦が発揮できる能力が違いますからね」

 「あとは、航空部隊がどこまで粘れるかだ」

 「しかし、イギリスの海外利権の大きさには驚かされますよ」

 「戦力を盛り返してるのですから」

 「この戦いでイギリスを降せば、国際権益の半分は崩壊する」

 「そうなれば世界は変わるだろう」

 

 

 シェトランド諸島上空に向かってイギリス爆撃部隊が押し寄せていた。

 DH.98モスキート、ブリストル ボーファイター、

 双発ビッカース ウェリントン

 4発アブロマンチェスター、ハリファックス、ショート スターリング

 スーパーマリン スピットファイア、フェアリー フルマー、ホーカー タイフーン

 単発フェアリー アルバコア、フェアリー ソードフィッシュ

 フェアリー バラクーダ、

 これらの機体はイギリスが大枚叩いて日本やアメリカに作らせた部品で

 飛んでいるといっても過言じゃなく、

 世界中の植民地奪い、買い漁った寄せ集めでもあった。

 そして、出撃するフォッケウルフとメッサーシュミットの原料もシベリア鉄道経由が少なくなく、

 戦争継続でイギリスの弱体化を望んでる勢力から支援を受けていた。

 

 フォッケウルフ編隊がDH.98モスキート編隊とブリストル ボーファイター編隊に切り込み、

 機銃掃射しながらすれ違い、

 十数機のモスキートとボーファイターが火を噴きながら落ちていく、

 そして、スピットファイア編隊が有利な高度から散開しながら降下しようとしたとき、

 横合いからメッサーシュミット編隊が機銃掃射していく、

 スピットファイア コクピット

 「なんで足の短いメッサーシュミットまでいる!」

 “ノルウェーから最短で350kmくらいですから、その気になれば” 

 「ちっ 乱戦になるぞ。シュヴァルムを崩すな」

 スピットファイアは、航続距離でメッサーシュミットより優性だった。

 しかし、侵攻作戦に向いてる機体とも言えず、

 燃料を気にしながら飛べばドイツ機に追い詰められた。

 百数十機の戦闘機が空中戦を展開してる合間を縫って爆撃部隊が

 88mm対空砲と37mm機関砲が基地上空に弾幕を抜けて爆撃していく、

 ハリファックス コクピット

 「ティルピッツはどこだ?」

 「巡洋艦と駆逐艦はいるようですが・・・」

 「湾内にいないのか」

 「どこかの島陰に隠れてるのかもしれません」

 「ええい、島を周回して探すしかないか」

 

 

 

 シェトランド諸島

 南端サンバラ飛行場は大口径砲弾が撃ち込まれ、爆発が続いていた。

 爆炎と粉塵が塹壕や地下壕を覆い、抉り取られた穴が作られていく、

 掃海艇が機雷処理を行い、

 輸送船から上陸用舟艇が降ろされ、

 砲撃と機銃掃射に晒されながら3つの海岸線に向かっていく、

 ドイツ守備隊は高台から狙い撃ちでき、舟艇は次々と撃沈され沈没していく、

 イギリス艦隊は、単縦陣で大西洋側と北海側を行ったり来たりしながら援護の砲撃を行い、

 巧妙に隠された砲台と機銃座を一つ一つ砲撃で撃破していかなければならなかった。

 今のところエアカバーに成功しており、

 ドイツ空軍は艦隊上空に達しておらず、Uボートの襲撃もなかった。

 ネルソン 艦橋

 「ティルピッツは、どうした?」

 「ドイツ空軍の迎撃で、まだ発見できません」

 「西からくるのか東からくるのかわからんのでは話しにならんな」

 「夜襲を仕掛ける気では?」

 「レーダーは、我が軍の方が優秀なはず・・・」

 戦艦8隻が砲撃を繰り返し、イギリス艦隊が輸送船団を守りながら周囲を経過していた。

 「提督。友軍機がシェトランド諸島大西洋側でティルピッツを発見しました」

 「隻数1! こちらに向かってきます」

 「全艦。陣形を整えろ。左舷からくるぞ」

 イギリスの攻撃部隊とドイツの戦闘機部隊が洋上で激しく交差し、

 水平線上にティルピッツが姿を見せた。

 「最大戦速! このままティルピッツに向かえ」

 「提督。それでは、ティルピッツにT字戦を許すことに」

 「構わん、巡洋艦隊と駆逐艦隊の半分を残して突撃」

 「戦艦部隊は、雁行陣形で突撃せよ!」

 「距離2500m」

 「砲撃!」

 ティルピッツは、空襲と砲撃されながら南下していく、

 「・・・ど、どうした? 来ないのか」

 「提督。このまま、通商破壊に向かうのでは?」

 「おのれぇ! シェトランド諸島を見捨てる気か!」

 「ティルピッツに逃げられては追いつけません。H艦隊に通報すべきでは?」

 「そうだな。ジブラルタルの機動部隊に吊り上げてもらうしかないか・・・」

 「提督。北海側よりドイツ艦隊! 上陸作戦域に向かってきてます」

 「しまった! 第二戦隊を上陸作戦域に戻せ」

 リヴェンジ、レゾリューション、ラミリーズ、ロイヤル・サブリン、マレーヤが上陸作戦域に向かう。

 「ドイツ艦隊は、巡洋艦7隻、駆逐艦10隻です」

 「巡洋艦6隻、駆逐艦16隻と交戦中」

 練度の高さでイギリス海軍が勝っても個艦性能が負けてるため

 単純に同数になると不利という観があった。

 ティルピッツは、水平線から消えていく、

 「くそっ 大西洋上の輸送船団に警報」

 水平線に向かうイギリス巡洋艦隊と駆逐艦部隊がティルピッツに砲撃されていた。

 それでも魚雷の一発でも命中させられるなら、ティルピッツの速度は低下し、

 通商破壊作戦そのものができなくなる。

 かすかな期待を持っていたが、

 「コンウォール直撃!」

 「ドーセットシャー命中!」

 「くそっ!」

 「コンウォール沈みます」

 「提督! 第二戦隊がSボート24隻の強襲を受けてます」

 「なんだと」

 この時、二つの戦艦部隊は護衛艦隊から引き離されていたのだった。

 「提督。シュトゥーカです」

 「対空射撃用意」

 シュトゥーカ編隊は、Sボートを支援するためサイレンを鳴らしながら第二戦隊へと突進していく、

 数十発の爆弾が第二戦隊

 リヴェンジ、レゾリューション、ラミリーズ、ロイヤル・サブリン、マレーヤを包み込み、

 艦上が爆発し赤黒い爆炎が吹き上がる。

 Sボートは、十数本の水柱に翻弄されながらも縫うように突進し、

 洋上を疾駆しながら戦艦部隊に突進し、

 一斉に回頭していく、

 魚雷を発射したと思った第二戦隊は、一斉に回頭しようとし、

 Sボートの第二波に艦腹を見せてしまう。

 「左舷! 2時 雷跡4!」

 「潜水艦だ。取舵。魚雷に艦首を向けろ!」

 3本の魚雷がロドニーの両舷を抜け1本命中して、衝撃と水柱が立ち上がる

 さらにヴァリアントにも魚雷1本が命中し、

 第二戦隊は、Sボートに雷撃され、

 リヴェンジに2本、レゾリューションに2本、ラミリーズに1本が命中してしまう。

 そして、ドイツとイギリスの巡洋艦隊と駆逐艦隊は、砲撃戦を繰り返し、互いに距離を縮めていた。

 イギリス戦艦部隊は、隊形を完全に崩され、1〜2隻ごとで動いており、

 艦隊上空は軍艦から吹きあがる黒煙が立ち上り、

 ドイツ軍機とイギリス軍機が入り乱れながら空中戦を繰り広げていた。

 「なんてことだ・・・」

 「提督。ティルピッツの砲撃によりダナエ、ドラゴン。オランダ巡洋艦撃沈」

 「何としてもティルピッツの足を止めろ」

 「提督。上陸部隊が艦隊の支援が受けられないのなら、航空部隊の支援が欲しいと」

 「わかっておる」

 「ティルピッツは?」

 「速度を上げながら離脱していきます」

 「くそっ 巡洋艦や駆逐艦は、見向きもせずか・・・」

 「第一戦隊も上陸作戦部隊の支援に向かう」

 「提督。ドイツ巡洋艦隊との戦闘でエンタープライズ。駆逐艦ヴァンパイア、テネドス沈没」

 「ドイツ艦隊は?」

 「損傷は与えましたが、全艦逃亡しつつあります」

 「・・・・」

 海上戦が不利になるとドイツ巡洋艦隊とSボートは後退し、

 戦場は、上陸部隊の橋頭堡制圧が中心になっていった。

 

 

 シェトランド諸島

 イギリス上陸部隊は苦戦していた。

 艦砲射撃は不徹底であり、航空支援も続かない、

 高台で地の利を押さえ、しかもドイツ軍は精強だった。

 ロンメル将軍と士官たち

 「フィットフルヘットを押さえてる限り、海峡を抜けて北上するのは難しいだろう」

 「ですが砲座と機銃座の半数が艦砲射撃で破壊されたそうです」

 「夜になったら戦車部隊で夜襲をかけてイギリス軍上陸部隊を海に叩き落としてやる」

 「それまで、好きなだけ艦砲射撃と空襲を繰り返せばいい」

 ロンメルの狙いはイギリス上陸部隊も気付いており、

 イギリスの国防総省でも対空、対艦攻撃より、対地攻撃優先が各隊に通達され、

 そのおかげか、ドイツ空軍とドイツ海軍は、追撃されることもなく後方陣地に帰還できた。

 そして、戦艦ティルピッツは、悠々と北大西洋を南下していた。

 

 戦艦ティルピッツ 艦橋

 「本当に良かったのかね。敵艦隊を素通りして」

 「9対1では勝てる道理がないですし。総統命令ならしょうがないでしょう」

 「チャンスだったような気もするが」

 「ドイツ艦隊と航空部隊は限界でしたよ」

 「空軍の傘がない以上、ティルピッツだけで戦うのは・・・」

 「Uボート艦隊もいたはずだ」

 「Uボートは夜襲用ですから」

 「イギリス軍が地獄を見るのはこれからですよ」

 「提督。味方のUボートより、H艦隊、戦艦1。空母1。駆逐艦6隻が出撃したそうです」

 「イタリア艦隊は?」

 「準備中とのことです」

 「しかし、イタリア軍にクレタ島が占領できるとは思えないのですが」

 「イタリア艦隊を押さえるためにH艦隊とアレクサンドリアの艦隊を配備してるようなものだ」

 「動いてもらったらイギリス機動部隊も迷うだろう」

 「先行してるリュッツォウと合流しますか」

 「いや、リュッツォウは、シュペーと交替するために出撃したのだ」

 「行動範囲が違うし、目的が違うのだから一緒に行動することもないだろう」

 「提督・・・水上偵察機です」

 ティルピッツ上空を見慣れない水上機が旋回していた。

 「発見されたか」

 提督は機体を見た瞬間、長門型戦艦を思い浮かべた。

 情報が事実なら長門型はビスマルクと同じ、高速戦艦。

 速度差で勝っても2、3ノット。これでは引き離すことができない、

 そして、追撃戦をしようものならあっという間に燃料が尽き、通商破壊作戦はなし得ない、

 

 

 長門 艦橋

 「全艦。順調のようです」

 「日本の補修部品も買っていてよかったというべきか。意外と早く治ったな」

 「ですが装甲の質は決していいものではないかと」

 「20年前のものだ」

 「その上、後進国。イギリスの旧式戦艦の装甲と比べて劣っていたとしても仕方がなかろう」

 「艦内が少し狭いのが難点ですが、そのれを除けば優れた設計の戦艦ですよ」

 「それは言えるな」

 「艦長。偵察機がティルピッツを発見しました」

 「ふっ 治ったと思ったら・・・よくよく、因縁がある戦艦だ」

 「本艦と陸奥は修復が終わったばかりですが、前回の損害から、苦戦すると思われますが」

 「これも運命なのだろう」

 「こっちは2隻だ。ティルピッツの艦首側に回り込んで突っ込むぞ」

 「偵察機より報告。ティルピッツは偵察機を射出させました」

 「こちらの動きを悟らせるな。零式水上観測機を射出させて偵察機を落とせ」

 長門と陸奥から2機の零式水上観測機が射出され、

 ティルピッツ上空で零式水上観測機でアラドAr196水上偵察機が空中戦を始める。

 2対1で、しかも最初から空中戦を想定していないAr196に勝ち目がなく、撃墜され、

 ティルピッツ上空は、日本の水上機が滞空することになった。

 そして、長門と陸奥の前方、水平線上にティルピッツが現れた。

 長門、陸奥は、45口径410mm砲弾を40秒から1分20秒ごとに一斉射し、

 ティルピッツは47口径380mm砲弾を18秒から25秒で一斉射した。

 発射速度だけで見るなら長門、陸奥2隻とティルピッツ1隻は、互角だった。

 そして、幾つかの要素が絡み始める、

 長門、陸奥は水平防御重視で長距離砲戦向きの防弾をしており

 ティルピッツは垂直防御重視で中距離砲戦向きの防弾だったことだった。

 長門と陸奥は横陣のまま逆行戦で、ティルピッツを挟もうとし、

 ティルピッツは、長門側に艦首を寄せて、T字戦に移行しようと動いた。

 長門、陸奥は、上空の観測機からの通報で、巧妙な操舵を繰り返し、

 ティルピッツを長距離砲戦のまま、挟撃する。

 長門と陸奥の砲弾がティルピッツを襲い、

 ティルピッツの艦首砲2基は長門に向けられ、艦尾砲2基が陸奥に向けられた。

 発射速度で互角のためか、降り注ぐ砲弾の数は互角で、

 観測機と連携した砲撃と、ティルピッツの優れた測距儀と光学観測も互角だった。

 長門と陸奥を有利にしたのは数の優勢と、8門同時斉射で公算射撃で有利さだった。

 艦が水柱に包まれ、爆発が起こると装甲と機材が破裂し赤黒い爆炎を噴き上げていく、

 3艦とも損傷しながらも砲撃をやめず、命中率を高めようと徐々に距離が縮まっていく、

 長門の第3砲塔、第4砲塔が立て続けに破壊されると、

 ティルピッツは、陸奥に向けて舵を切った。

 陸奥は、ティルピッツと距離を取ろうと離れようとし、

 ティルピッツは、陸奥に迫り、砲撃を集中した。

 公算射撃の不利を承知で砲塔を分け、砲撃するのは撃ち合いによる誤差を強いるためだった。

 そして、長門は砲撃戦から一時的に逃れられ、

 しかも長距離戦向きの距離だった。

 長門が艦首第一砲塔と第二砲塔の砲撃は、ティルピッツ艦尾に命中し

 スクリューを破壊したのだった。

 その後、ティルピッツは同じ海面をくるくる回るだけの的になり、

 長門と陸奥は、ティルピッツに対し、断続的な砲撃を繰り返した。

 大角度から水平装甲に落ちた徹甲弾は、脆弱な装甲を撃ち破って艦内で誘爆を繰り返した。

 ティルピッツは、尚も抵抗をやめず、

 断末魔に撃ち出した砲弾が陸奥のバイタルパートを撃ち破って弾薬庫を吹き飛ばした。

 既に弾薬の5分の4を消費していたものの、艦内で誘爆が続き、将兵を薙ぎ倒した。

 陸奥が沈む始めると、ティルピッツも満足したように横倒しになって沈んでいく、

 H艦隊の戦艦デューク・オブ・ヨークと空母イラストリアスが戦場に到達したとき

 長門は破壊された艦尾砲塔二つから黒煙を出し、

 ボロボロに傾いたまま、10ノットの速度で帰還の途にあった。

 そして、修理を終えたばかりのドックに滑り込み、

 ドックが排水する間もなくズブズブと浮力を失い着底してしまう。

 

 

 シェトランド諸島上陸作戦を前後して、地中海のクレタ島を中心にした海上航空戦も始まっていた。

 ギリシャからはドイツ機とイタリア機が頻繁に飛び立ち、

 イタリア艦隊の支援を行うが長距離戦闘機はメッサーシュミット Bf 110しかなく夜間爆撃に集中する、

 イギリスはモスキートで迎撃するが数で圧倒され、クレタ島の制空権は失われていた。

 ベンガジにいるマンシュタインがキレナイカを動けない実質的な理由はクレタ島にあった。

 この島がイギリス軍に押さえられている限り、

 北アフリカ戦線は、動きようがなかった。

 そして、イギリス艦隊への飽和攻撃と戦線拡大のため、イタリア海軍に出動がかかった。

 地中海クレタ沖

 戦艦 ヴィットリオ・ヴェネト、リットリオ、

     カイオ・ドゥイリオ、アンドレア・ドーリア、ジュリオ・チェザーレ

 重巡 トレント、トリエステ、ボルツァーノ、ゴリツィア

 軽巡 バルビアーノ、バンデ・ネーレ、カドルナ

     モンテクッコリ、アッテンドーロ

     ダオスタ、ディ・サヴォイア

     アブルッチ、ガリバルディ

 駆逐艦12隻、輸送船23隻

 堂々たる艦隊だったが燃料が乏しかった。

 軍艦は存在しているだけで燃料を消耗する。

 イタリア海軍がどういった思惑で艦隊を整備したにせよ。

 整備した艦隊を動かせないという点で、別の選択肢を考えるべきだったのかもしれない、

 とはいえ、艦隊の存続は、国家の制海権と艦隊の継承の二つの意義があった。

 特に艦隊の継承は、艦隊を設計生産し、建造する製造体系であり、

 艦隊と艦隊を動かす技能集団のノウハウの継承だった。

 もし、組織を継承する教育機関がなければ素人からやり直しとなった。

 その価値は、国家が海軍創設以来、累積した価値の総体に匹敵する無形の国家資産だった。

 そういった観点で、日本の戦艦部隊の売却と縮小は、各国海軍にとって驚天動地であり、

 形が存在してるイスラエル艦隊を張りぼて扱いしてる根拠といえた。

 とはいえ、後先考えず出撃することも可能で、その程度の油は備蓄していた。

 戦艦ヴィットリオ・ヴェネト 艦橋

 「ドイツがティルピッツを撃沈された?」

 「はっ 長門、陸奥と交戦、陸奥を撃沈後、ティルピッツも沈んだそうです」

 「ドイツは、海軍を消滅させる気か」

 「まだ、ポケット戦艦3隻と巡洋艦隊とUボート艦隊が残ってるようですが磨り潰しのように・・・」

 「これだから陸軍国は・・・」

 「ドイツはイタリア軍がクレタ島とマルタ島を攻略しない限り、北アフリカを東進できないと」

 「わかっておるわ」

 「出撃せよ」

 

 

 地中海

 戦艦キングジョージ5世、プリンス・オブ・ウェールズ、

 空母イラストリアス、フォーミダブル、ハーミーズ

 巡洋艦6隻、駆逐艦10隻、輸送船16隻が遊弋していた。

 戦艦キングジョージ5世 艦橋

 「ナガトとムツがティルピッツを撃沈したそうだ。ムツは撃沈された」

 「何とも複雑な気持ちになりますね」

 「旧式戦艦と潰し合ってくれたら後が楽だったのだが」

 「ナガトは、どうやら、幸運艦のようですね」

 「まぁ 勝敗は時の運、実力不相応の戦果を出す軍艦もあるさ・・・」

 「提督。偵察機より、イタリア艦隊を発見しました」

 「そして、実力不相応に弱い艦隊もある」

 「デューク・オブ・ヨークとイラストリアスの不在が痛いですが」

 「空母艦上機でどこまで戦力を減らせるかだ」

   イラストリアス、フォーミダブル (ソードフィッシュ20機、D520艦上機型12機)×2

   ハーミース (ソードフィッシュ12機)

 空母からソードフィッシュが出撃していく、

 そして、D520艦上戦闘機も・・・

 日本で改良された機体は翼面積が20uに拡張され、

 競り上がった突出型コクピットになっていた。

 D520がF4Fとの採用で競り勝ったのは対爆撃機で、

 20mmモーターキャノンが有効と思われたからに過ぎず、

 数を揃えられるF4Fを陸上配備、

 数を揃えられないD520を空母艦載機にする方が都合よかっただけだった。

 「日本はマーリンエンジンを採用したんじゃなかったのか」

 「モーターキャノンが気に入ったようで、ソビエトと同様イスパノ・スイザエンジンを改良するようです」

 「というより、ベテランをマーリンのライセンス開発で、若手にイスパノの改良を任せたら」

 「先に若手がスーパーチャージャー1段2速と1200馬力のボアアップに成功してしまったようで・・・」

 「ふん」

 「イスパノエンジン装備のスピットファイアがマルタやクレタ。北アフリカを飛んでるようじゃな・・・」

 「日本製は自由フランス空軍、イスラエル、ブラジルで売れてるようで」

 「日本は、いつから商業国家になったんだ。日英同盟の頃の日本はそんな奴じゃなかった」

 「戦艦を売ってからでしょう」

 「日本は空母を売る気はないのか?」

 「それはないようです。空母売却は頑として撥ね退けましたからね」

 「最低限の海軍力は確保するつもりか」

 「しかし、イギリスとドイツはともかく。戦後、アメリカと日本が伸びるのは確実だな」

 「ソビエトも伸びそうですね」

 「ソビエトは内戦を起こしそうだがな」

 「そんな情報が・・・」

 「スターリンは国民が忍耐できる限度を超えてしまってる」

 「英雄が現れたらどうなるかわからないな・・・」

 「爆撃隊がイタリア艦隊と接触しました」

 ソードフィッシュの無線が聞こえる、

 メッサーシュミット Bf 110に妨害されながらも、イタリア戦艦の雷撃コースに入り、

 魚雷を投下、音信が途絶えた。

 敵味方の無線傍受に成功しており、

 3か国語がわかるならより状況を認識できた。

 「新型戦艦に1本ずつ魚雷が命中したようです」

 「これで、イタリア艦隊を全滅させればイギリス海軍が覇権を握れるんだが」

 「クレタ島の制空権が怪しいですし、もっと万全を期したい気もしますね」

 「しかし、手駒の戦力がもうない」

 「第2波後、イタリア王立海軍レジーア・マリーナを騙って」

 「ウンベルト2世にベニート・ムッソリーニが幽閉され、伊英停戦が成立した。全軍、帰還せよ」

 「と偽電文を流しては?」

 「お、おまえ・・・」

 「ビーコン輻射の確認と電文の真偽を確認する責任は、イタリア艦隊にあると思うのですよ」

 殺意を含む戦意が一度崩れると取り戻すまで時間を要する。

 イギリスが発した偽の平電文は空襲後のイタリア艦隊全艦で受信され、

 望んでた電文に喜んだイタリア将校が将兵に口伝てしまうというミスを犯した。

 そして、上陸作戦前に混乱するイタリア艦隊の前にイギリス艦隊が現れ、

 キングジョージ5世、プリンス・オブ・ウェールズが先制の一斉射を撃ち、

 手を振ろうとしていたイタリア海軍士官の乗るヴィットリオ・ヴェネトとリットリオに命中してしまう。

 混乱するイタリア軍将校の反撃は遅れている間、

 イギリス巡洋艦と駆逐艦部隊が砲撃と雷撃が行われ、

 イタリア艦隊の反撃がようやく行われる。

 戦艦キングジョージ5世 艦橋

 「戦況はいいようですな・・・」

 「ふっ ドイツ空軍機が来たぞ」

 「あいつらは感情より手順を優先しますから騙せませんよ」

 「対空防御! 雷撃機だけは必ず撃ち落せ」

 空母を発進したD520戦闘機が雷撃コースに入ろうとするJu88、He111、Do217を向かいうち、

 護衛機のメッサーシュミットBf110と空中戦になった。

 空母戦闘機の数の劣勢に対し、クレタ島からも残存するスピットファイアが迎撃に上がり、

 クレタ沖は、イギリス機動部隊とイタリア艦隊、ドイツ航空部隊が入り乱れる激戦となっていった。

 381mm砲弾がキングジョージ5世に命中し、振動が伝わる、

 「艦尾左舷。上甲板の半分が破壊されました」

 「イタリア艦隊にしては粘る。ヴィットリオ・ヴェネトは7度ほど傾いてるのに当てやがった」

 「スペック上は、欧州最強の戦艦といってもいいですからね」

 「偽電文に騙されたのに気づいて怒ったかな」

 「かもしれません・・・」

 衝撃で防弾ガラスが割れ、鉄片とガラス片と真っ黒な爆風が流れ込んだ。

 艦橋内が濛々とした黒煙に包まれ、

 将兵たちが立ち上がる、

 げほっ! げほっ! げほっ!

 「どうした?」

 「20cm砲が艦橋を掠ったようです」

 すすけた煙の中、副長が点呼し、

 「総員。無事です」

 運が良かったのだろう。

 破片の散らかった艦橋で艦隊指揮が再開される。

 戦況はイギリス艦隊とイタリア艦隊の双方とも激しく損傷していた。

 ソードフィッシュがリットリオに魚雷を命中させると火災を起こしながら沈んでいく、

 「主砲をヴィットリオ・ヴェネトに集中させろ。撃沈するぞ」

 激しい爆音が後方のプリンス・オブ・ウェールズから聞こえる。

 「どうした!」

 「ヴィットリオ・ヴェネトの直撃を受けたようです」

 「負けるな! ヴィットリオ・ヴェネトに砲門を集中しろ!」

 戦略があり、様々な策が取られ、戦術があるが、最後は将兵の気力だった。

 砲声も爆音も水柱も少しずつ減り、

 イギリス艦隊とイタリア艦隊は、徐々に離れていく、

 イタリア軍のクレタ島上陸作戦は失敗し、

 イギリス艦隊も戦果の拡大が不可能になっていた。

 「アレクサンドリアに撤収する」

 「提督」

 「なんだ」

 「シェトランド諸島上陸作戦は失敗しました」

 「ドイツ戦車部隊の夜襲により上陸部隊は降伏したそうです」

 「戦艦部隊は何をしていたのだ」

 「SボートとUボートの波状攻撃でリヴェンジ、レゾリューション、ラミリーズが撃沈され」

 「全艦艇が中破以上と」

 「なんてことだ」

 

 

 ドイツとソビエトの国境は緊張状態にあった。

 一時は、開戦1時間前といった緊迫感があった。

 しかし、ユーラシア大陸憲章を宣言後、開戦24時間前くらいにまで鎮静化し

 戦略物資を供給しあっていた。

 ドイツが不足していたタングステン、ニッケル、銅、錫が流れ込み、

 優れた冶金技術と相まって、高品質な機械部品、火砲、装甲が量産されていた。

 ドイツの工場

 「Wh85」 「Ww38」 「Ww」 3種のヴォタン鋼が20mm厚4層の装甲が張られていく、

 新型戦車開発は、ルノーB1重戦車、マチルダI歩兵戦車と戦った戦訓で経て、

 イギリスの新型戦車の全てに勝るであろう仕様が求められた。

 56口径88mm対空砲が主砲に決まると、

 対空砲を載せる砲塔の直径のターレットリングが決まり、

 防弾の仕様と橋梁計算で車体総重量50tが弾きだされた。

 その車両を走らせるため700馬力のガソリンエンジンが搭載される。

 「傾斜装甲とヴォタン鋼が使えなかったら50tに収まらず、目も当てられなかったな」

 「北アフリカ戦線とシェトランド諸島の輸送ですから軽い方がいいですからね」

 「ソビエトと戦争にならなければ希少金属は手に入りますし、数でなく、質を維持できますから」

 「問題は生産性だが・・・」

    46t級VI号「タイガー」戦車

      全長6.87×全幅3.40m×2.85m 速度45km/h 高速距離280km

      57口径88mm砲 57口径7.92mm機銃2丁

      装甲80mm 傾斜40度  乗員5人 

 タイガー戦車は、紆余曲折を経て仕様に海上輸送が加えられ、

 軽量であることと潮風に強いことが求められ、海軍装甲に変更されてしまう。

 月日のかかる装甲を使用した反面、軽量になった分だけ機動力が増し、

 

 

 北アフリカ戦線

 マンシュタイン元帥は、ベンガジ港と東のアフダル高地(標高600m)を防衛強化していた。

 イギリス軍は何度もアフダル要塞を攻撃するが、そのたびに撃退され消耗していた。

 イギリス軍は、火を消す習性をもつサイと鉄壁の攻勢防御を誇るマンシュタインを掛け、

 “キレナイカのサイ” と呼称していた。

 

 イギリス軍陣地

 将校たちが双眼鏡で高地を見上げていた。

 「4号戦車4両に3号戦車21両か」

     25t級4号戦車(48口径75mm)

     22t級3号戦車(60口径50mm)

 「偵察機の報告だと」

 「後方陣地に捕獲されたクルセイダーとマチルダIIを数両確認してるそうです」

 「隠れてる分を入れるともっとか」

 「88mm砲が怖いですね」

 「ああ、あいつに狙われたらおしまいだ」

 「増強されてるので、攻めにくいですね」

 「艦隊を大西洋に持って行ってから、輸送船による補給が増えてるようだ」

 「地の利の分を加算するとこちらの増強分が霞んでしまいそうです」

 「高地から見下ろされていたんでは、どうにも動きにくいしな」

 「オーキンレック将軍。戦車23両の増援です」

 「・・・なんだあれは?」

 「日本製ソミュアS35騎兵戦車です」

    19.5t級ソミュアS35騎兵戦車(32口径47mm砲)

 「あんなものが役に立つか」

 「M3戦車か。クルセイダー持って来い」

   26t級M3戦車(28.5口径75mm砲+53.5口径37mm砲)

   20t級クルセイダー巡航戦車(43口径57mm砲)

 「日本はまだ作れないようで・・・」

 「日本製は89式重擲弾筒がましだな・・・」

 「将軍。イタリアのクレタ島上陸作戦を阻止したそうです」

 「むしろクレタ上陸を成功させて、キレナイカのサイを砂漠に引き摺り込みたかったよ」

 「我が方はプリンス・オブ・ウェールズ。重巡2隻、軽巡2隻、駆逐艦2隻沈没」

 「イタリアは、リットリオ。アンドレア・ドーリア、ジュリオ・チェザーレ」

 「重巡3隻、軽巡4隻、駆逐艦6隻を撃沈」

 「双方とも甚大な損失を出して後退したようです」

 「やれやれ、イタリアの輸送船打を食い止める軍艦がないじゃないか」

 「空母部隊は無事だそうです」

 「気休めにはなるな」

 

 

 

 英独戦争と中ソ戦争は別個の戦争ながら中立国を介し、経済的な結びつきがあった。

 黄河戦線は、時折、航空戦が行われ、砲声が轟き、機銃掃射が続く、

 戦っている状況がソビエトの華北、満州支配を認めていないことであり、

 日本にとって大陸に巨大な軍需があるは、好都合だった。

 国民軍陣地

 「少将。ソミュアS35騎兵戦車25両。納入しました」

 「遅いある」

 「なにぶん、立て込んでまして」

 「後回しにしたある」

 「そ、そんなことはないですよ」

 「後回しにしたある。日本はナイジェリアをもらって、中国を後回しにしたある」

 どきっ!

 「ま、まさか、そんな・・・」

 「もういいある。最近は、日本とアメリカの戦車ばかりある」

 「イギリスもドイツも戦争で忙しいですし、フランスは占領されてしまいましたから」

 「兵士ならいくらでも貸すから武器よこすある」

 「中国兵士と日本人兵士を10対1で交換してもいいある」

 「まさか、そんな・・・」

 「人材だけは腐るほどいるある」

 「工夫なら海外に需要があるかと」

 「輸出するある。外貨を手に入れて、国外に脱出するある」

 「い、いや、それは・・・」

 「世界は国賊と国隷しかいないある。常識ある」

 「さ、最近、アヘン患者が減ってるようですが」

 「陣地工事のとき、的になって死んでもらったる」

 「な、なかなか、堅実な戦略で」

 「日本人も堅実ある。あの朝鮮人を輸出してしまったある。あれは見直したある」

 「あははは・・・」

 

 

 高千穂 (ナイジェリア)

 彩亰(ラゴス)に政庁が置かれ、

 鉄道、ダム、港湾、学校、飛行場など

 公共設備の建設が始まり現地民が駆り出されていく、

 民間の資本投資も増え、住宅地、商業地も建設され、

 漢字の標識が増えていく、

 その様子を訝しげに見つめる日本人たちもいた。

 元満州住民は、思うところ少なくなく、テーブルを囲んでいた。

 グラベリマ稲、フォニオ、シコクビエ、ソルガム、トウジンビエ、

 キャッサバ、トウモロコシ、川魚を調理したもの

 そして、マンゴ、パパイア、パイナップルなどの果物が並ぶ

 「なんかもう、口に合うやら合わないやら・・・」

 「果物はうまい。果物を主食にしたいね」

 「日本の作物を持って来て作るべきだろう」

 「桜や梅の木も欲しいな」

 「しかし、太陽が近くて雨が多いから根付くかどうか」

 「アフリカとは思えんな」

 「アフリカは砂漠ってイメージが強いからな」

 「しかし、近い満州で駄目だったのに、こんな遠くとは、日本政府も懲りないもんだ」

 「だけど世界最大のニジェールデルタで石油が出るらしいよ」

 「ニジェールデルタは瑞州に名前を変えるらしい」

 「石油はどれくらいとれるのかな」

 「まだ噂だからな」

 「あの辺、6月から8月の雨季が川の水位ががって氾濫するし」

 「乾季になると川の水位が下がって風景が変わる」

 「その辺の見極めをしないと瑞州開発は難しいよ」

 「それに、日本から離れ過ぎてるからな石油が取れても・・・」

 「結局、ナイジェリア移民する日本人が何をイメージできるか。だろう」

 「まぁ 自衛のため近代化はさせないと」

 「第二の日本」

 「「「「・・・・・」」」」

 「日本同士で戦争にならなきゃいいけど」

 「日本から遠すぎるよ」

 「日本じゃ軍需から民需へ移行して雇用が膨れて所得が大きくなってる」

 「公共設備や娯楽が増え、親殺し、子殺し、犯罪は少しずつ減ってるし」

 「食糧事情が良くなって結核も減ってる」

 「問題は、特定産業利権が強くなるほど社会資本が集約し」

 「特権に胡坐をかく非生産人口が増え、動脈硬化が起こることかな」

 「少し前の陸海軍。今の国土・産業省の傍若無人が保守本流だし」

 「規模が大きくなるにつれて特権が集約して大きくなるし」

 「国家より組織大事になっていく」

 「しかし、よく、陸海軍の縮小に成功したな」

 「うっかりミスで黒く塗りつぶす前の軍機」

 「非常事態手引書っていうか手順書がな。議会に配られてしまった事件があっただろう」

 「あれで、訓練された将校なら誰でも首を挿げ替えられるようになってさ」

 「嫌われてる将校とか、不正腐敗を追及されて一気に・・・」

 「「「「あははは」」」」

 「まぁ 組織内の派閥抗争は、内憂になって外患を呼び込むだろうし」

 「権威主義と年功序列とコネと世襲で膠着すると、活力が失われるか」

 「組織を潰そうとする反組織が作られ外患と結びつくだろう」

 「結局のところ、保守本流の不正と腐敗が反組織と反日の温床になってしまう」

 「仮に石油が取れたとしたら、利権独占と組織防衛ばかり強くなるだろう」

 「そして、理念の戦いでなく、利権の強い弱い、数の多い小さいで物事が決まる」

 「手足となる馬鹿を大量生産し、新規異業種の芽を殺し始めることかな」

 「左派も外患誘致で手段を選ばなくなり、本末転倒な言動の繰り返しになるだろうな」

 「日本は昔から利権主導だろう」

 「外患が割り込んで対立を増長させてバランスを崩してしまうのさ」

 「朝鮮人を追い出したから鎮静化してるけど」

 「開国してるんだし、交易が増えてきたら、」

 「保守本流の腐敗に嫌気がさして外国とつながる人間も出てくるし」

 「保守本流に腐った要素が存在する限り、左派は消えないよ」

 「まぁ 利権をつくりたがって、悟りきった人格者は少ない」

 「宗教的な理念や政治理念なんか見向きもしないし」

 「上に行くほど礼を失って、拝金主義か権威主義の事勿れになってしまう」

 「みんな、有利なところで保身したいのさ」

 「俺は、高千穂が日本と違う日本になって欲しいな」

 「満州も日本のしがらみからの脱出とデモクラシイの達成を望んだのもあるからね」

 「新陳代謝が衰えると膠着して老害みたくなるから」

 「高千穂と日本を競争させるくらいがいい」

 「高千穂の近代化は日本政治を刺激し活性させるためにも必要だよ」

 「そのためには高千穂の利権で聖域を作らせず、競争社会にしないと」

 「だけど、航空機と潜水艦は下支えの企業が増えるらしい」

 「噂は聞いてる。航空機と潜水艦は別格だろう」

 「もっとすごい噂は、都市を破壊してしまう爆弾を作れるんだと」

 茫然・・・

 「「「「あはははははははは」」」」

 

 

 ワシントン 白い家

 日本の国家予算よりお金持ちな人たち

 「・・・以上のような戦況です」

 「イギリスは限界だぞ」

 「限界なのは、イギリスじゃなく、アメリカだよ」

 「これ以上の不参戦は耐えられない」

 「ソビエトからは招待状が来てるが?」

 「ソビエトから宣戦布告してくれたら喜んで攻めてやるよ」

 「スターリンは、宣戦布告した瞬間、クーデターが起こるからと断られた」

 「しかし、中ソ戦争は黄河を挟んで膠着している」

 「この状況は武器輸出で悪くないし、断続的な利益になる」

 「しかし、ソビエトが満州と華北を取り込んだ時が怖い」

 「ふっ ジューコフがソビエトの英雄になりつつあるそうじゃないか」

 「ジューコフは我々のコマになってくれるのなら応援するがね」

 「政治将校がジューコフ監視してるようだ」

 「ジューコフを支援して政治将校の口を塞げる工作員を派遣すればいいんじゃないか」

 「ジューコフはロシア人の満州・華北入植が進んで足場を固めるまで動かないだろう」

 「ジューコフにその覇気があるだろうか」

 「さぁな。しかし、紳士たる者、淑女の欲求を察したら、誘うのが挨拶じゃないか」

 「「「「あははは・・・」」」」

 「ところでマンハッタン計画は、無駄な投資にならないのか」

 「いや、実現の可能性は高いようだ」

 「しかし・・・」

 「ドイツと日本で開発してる兆候がある」

 「世界一が好きなドイツはともかく、出る杭は撃つの日本はなかろう」

 「証言がある。来てもらえ」

 「「「「・・・・・」」」」

 黄色人が部屋に通された。

 「日本人は、毒を作ってるニダ。そこに行くと人が死ぬニダ」

 「日本は人類の敵ニダ。滅ぼさないといけないニダ」

 黄色人は放射線特有の被爆をしており、

 士官がガイガーカウンターを近づけると反応する。

 「こ、これは・・・」

 「連れて行け」

 「長く近くにいると我々まで危なくなる」

 「マンハッタン計画は了承しよう」

 「しかし、日本が原子力というのは・・・・」

 「模倣しかできない民族と思っていたが、油断できませんな」

 「もっと、日本を情報収集をすべきでは?」

 「そうだな」

 「しかし、ユダヤ資本は日本を利用し、イスラエルで軍事的独立を図ってる」

 「ちっ アメリカとイギリスは反ユダヤが強いからな」

 「この戦争が終われば反ユダヤも大人しくなると思ったが」

 「いや、イスラエル建国と艦隊創設で反ユダヤが強くなってる」

 「アメリカ参戦も口実がないから都合がつかない」

 「だからといって、ブラジルでダム建設することもあるまい」

 「ダムは金のなる木だ」

 「日本がブラジルに1000万人以上も奴隷を出したからな」

 「彼らはそのまま居ついて働いて電気代を出してくれるし」

 「後々 我々を潤わせてくれる」

 「錆び付いたアメリカの工場を動かして機械類を作らせ雇用を確保しくれる」

 「コストパフォーマンスが良ければ機材と資金を出したくなる。しょうがなかろう」

 「日本のナイジェリア開発は?」

 「日本のナイジェリア投資予算は国家予算の10分の1弱」

 「入植は100万人ほど動くようですが、後続が尻すぼみのようです」

 「強制でやってる朝鮮人のブラジル移民とフランス領移民のほどじゃないですな」

 「日本は軍事的に弱体化してる、まだ警戒することはないと思うが」

 「ナイジェリアで油田がでる可能性がありますが」

 「本当に?」

 「まだ。兆候があるだけで」

 「イギリスは、なんでナイジェリアを日本に売った」

 「長門と陸奥が欲しかったからでしょう」

 「役に立ったですからね」

 「むしろ、イギリスの日本依存が面白くない」

 「イギリスは大国アメリカが面白くないのさ」

 「だから植民地が守れるのなら日本と取引する方がましだ」

 「日本は、そんなに信用できる国じゃないだろう」

 「海軍が縮小してるから安心感があるのだろう」

 「日本の潜水艦が増えてるというのに」

 「潜水艦の情報は?」

 「戦艦並に機密が強まってる、というより、組織縮小で将兵管理が容易になってる」

 「諜報が困難になってる」

 「日本でエンテ・カナード型戦闘機が開発されてる噂は?」

 「その噂は聞いたことがあるが確証がない」

 「日本のジェットエンジンは?」

 「それも噂だよ」

 

 

 クェート

 日本の中東駐留師団先遣隊が到着し、野営地が建設されていく、

 砂漠生活の適応とノウハウの会得、

 そして、クェート社会と交流など年月を必要としていた。

 この負担は日本の国庫から出されるもので、いくら負担が大きくなっても

 石油権益のイギリス70パーセント。クェート16パーセント。日本14パーセントの比率は変わらない、

 必要最小限の負担で最大の利益を上げようとするならイギリスの負担比率を増やし、

 日本の負担を代行させることなのだが、

 ドイツと戦争中のイギリスも同じことを考えていた。

 白人と黄色人

 「ようやく、ソミュアS35が12両に将兵1200人か」

 「イラクとイランの反英が強まってるのだが」

 『自業自得だろうが』

 「日本は自作農家が増えてるので、徴兵が難しくなってまして」

 「このままではイギリスも日本も石油利権を失ってしまうのだぞ」

 『泥沼に入ったら割損だよな・・・』

 「日本は、もっと海外利権防衛をすべきだ」

 「やり過ぎると人権とか言いながらアメリカが出てくるのでは?」

 「アメリカは民間活力を最大限に利用するため個人の権利と私財を最大限認めている」

 「アメリカの挑発に乗らなければいい。ああいう国は口実なく開戦しにくいのだ」

 「しかし、経済制裁されたりすると厄介で・・・」

 「日本には必要最低限の資源は輸出してやろう」

 『この野郎。日米対立を煽って、必要最低限の戦略物資で日本を下僕にするつもりだな』

 

 

 

 ドイツ戦艦部隊はティルピッツ沈没で事実上壊滅していた。

 洋上で示威可能な艦艇はポケット戦艦

 リュッツォウ、アドミラル・グラーフ・シュペー、アドミラル・シェーアの3隻だけだった。

 リュッツォウは、大西洋を南下しながら巡回し

 イギリス護送船団を夜襲し、空母ヴィクトリアスを被弾させ、

 輸送船5隻、軽巡ナイジェリア、マンチェスター、駆逐艦4隻を撃沈し

 輸送船6隻を拿捕し、マルビナス(フォークランド)諸島に入港していた。

 艦橋

 「集計によりますと、拿捕商船6隻で」

 「M3中戦車45両、M3軽戦車68両。トラック1230台、ジープ44台」

 「P40ウォーホーク57機。戦略物資17万2000tになります」

 これら拿捕物資は、マルビナスドイツ軍の一部に過ぎず、

 ドイツ軍将兵10000は、平均的なドイツ軍将兵の数倍の戦略物資と

 兵装と備蓄で支えられていた。

 不要な戦略物資はアルゼンチンへ流れて莫大な利益を上げ、

 島はアルゼンチン労働者の陣地構築で強化されていた。

 「余剰物資をドイツ本国に送ってやりたいくらいだ」

 「ですがアメリカ船籍を撃沈したとかで騒ぎなってるのが問題です」

 「アメリカは日本と違って補償協定結んでないからな」

 「密約は普通の国でも火種ですし」

 「民主主義国家では倒閣か命取りですからね」

 「給油と補給を済ませたらインド洋を荒らしてみるか」

 「日本商船と会うと厄介では?」

 「日本商船は航路を決めてる。外れることがなければ他はイギリス船になるだろう」

 「日本商船は増えてるようですが」

 「ナイジェリアやリオデジャネイロまで日本商船で送らせ」

 「ナイジェリアやリオデジャネイロからイギリス商船を使えばローテーションが楽だからな」

 「日本商船を攻撃しては? 日本海軍は縮小してますし」

 「日本商船は、我が国向けのスズ、ゴム、タングステンを載せてる」

 「「「「・・・・」」」」

 「何とも割り切れませんね」

 「世の中が割り切れないのだろう」

 

 

 ワシントン

 「アメリカ船籍の商船トム=ソーヤーがドイツ海軍艦艇により撃沈され」

 「尊いアメリカ市民の23名の命が失われました」

 「大統領。アメリカ船籍の商船は、イギリスの護送船団と同行していたのでは?」

 「し、しかし、ドイツは、星条旗を掲げたアメリカ商船トム=ソーヤーを無警告で撃沈したのだ」

 「ドイツは中立国を通じて補償に応じると通達してるし」

 「日本は、航路帯を事前にドイツに伝えてるそうですよ」

 「ア、アメリカ合衆国は、コストパフォーマンスを考え」

 「そのような非採算性な政策は取れない」

 「どうコストパフォーマンが劣るのか説明していただきたい」

 「商業は臨機応変に経済に対応しなければならないし」

 「特定の航路に縛られるわけにはいかない」

 「特定航路は海流や風向きなど経済的な航路のはず」

 「し、しかし、航路を固定し、商業的なチャンスを失うのは」

 「市場主義に反するし、よ、よくないことなのだ」

 「大統領。いま、英独伊戦争の渦中で中ソ戦争の渦中なのですが」

 「アメリカ船トム=ソーヤー号は、いったい、どんな経済至上主義的理由で」

 「イギリス護送船団に紛れ込んだのですかな」

 「そ、それは・・・」

 「」

 「」

 アメリカは、未だ参戦の口実を得られないでいた。

 

 

  

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 戦場が島だからか、キレナイカに引き篭もってるからか

 ソビエトと戦争してないからか、

 この世界のタイガーは、タイガー戦車とパンターを足して二で割ったようなです。

 ヴォタン装甲で傾斜させてるので、史実のタイガー戦車と防弾が変わらないでしょう。

 しかし、ニッケル(0.40〜4.50%)、クロム(0.40〜3.50%)、モリブデン(0.15〜0.70%)

 希少金属馬鹿使いで、史実より生産性が落ちるので戦車生産が少ないかも

 

 

 「しかし、よく、陸海軍の縮小に成功したな」

 「うっかりミスで黒く塗りつぶす前の軍機」

 「非常事態手引書っていうか手順書がな、議会に配られた事件があっただろう」

 「あれで、訓練された将校なら誰でも首を挿げ替えられるようになってさ」

 「嫌われてる将校とか、不正腐敗を追及されて一気に・・・」

 元ネタは、東京電力の “黒塗り” 事故時運転操作手順書事件でした。

 なんか、関東軍(保安院)、南満州鉄道(東京電力)の関係なんでしょうか (笑

 手順書は、これが一般公開されると自分たちの存在価値が低下する。

 一般企業も手引書があるのですが、

 どんな複雑な機構に見えても個人の仕事はミスを減らすため、

 あるいは全体像を隠すため分散され細分化し単純化されてまして、

 作業員に原子炉の知識があって、

 事故時運転操作手順書。

 もう一つ、シビアアクシデント(過酷事故)発生時の手順書。

 この二つを見ながら一通り訓練すれば、原子炉の運転やれるぜ。

 なので、こういう状況で開示されたら東京電力社員は命取り。

 教えたくないでしょう (笑

 まぁ 保身ですね。

 

  

 ユダヤ海軍

 戦艦8隻、小型空母1隻、強襲揚陸艦1隻、軽巡17隻、駆逐艦36隻

 ルベン(金剛)、シメオン(比叡)、イッサカル(榛名)、ゼブルン(霧島)、

 ダン(伊勢)、ナフタリ(日向)、ガド(扶桑)、アシェル(山城)、

 ガリラヤ(鳳翔)

 メギド(神州丸)

 アフェク(天龍) カナ(龍田)

 ツロ(球磨) アコ(多摩) ハモン(北上) ハロシェテ(大井) ケデシュ(木曾)

 シロ(長良) キネレテ(五十鈴) ハマテ(名取) ラマ(由良) ラマ(鬼怒) リモン(阿武隈)

 ヨクネアム(川内) ガテ・ヘフェル(神通) シムロン(那珂)

 サリテ(夕張)

 峯風、澤風、沖風、島風、灘風、矢風、羽風、汐風、

 秋風、夕風、太刀風、帆風、野風、波風、沼風

 神風、朝風、春風、松風、旗風、追風、疾風、朝凪、夕凪

 睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、

 文月、長月、菊月、三日月、望月、夕月

 

 

 

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第10話 1941年 『パラドックス・ストラテジー』
第11話 1942年 『黒塗りは保身色の証し』
第12話 1943年 『高千穂は衆議院抽選制ということで・・・』