月夜裏 野々香 小説の部屋

    

神がかり系 仮想戦記 『神籬の木仙』

 

 第03話 1923年 『関東大震災と、赤城、加賀廃艦』

 この時代、日本は、日清戦争と日露戦争で勝って、列強の仲間入りしており、

 政治家、官僚、財界だけでなく、

 日本国民のほぼ99.99パーセントが “鉄は国家なり” という言葉を疑いなく信じていた。 

 しかし、木仙人と呼ばれた仙堂と角浦が日本の木工産業を変えてしまう。

 その原動力になったのは、二人が作り出す木工製品で得られる集金力だった。

 仙堂は実業界に行くと、

 角浦は後輩の宮大工を育てるため、宮大工専修学校を日本各地につくるよう働きかけた。

 この頃、仙堂と角浦の作った木工製品は、国際的な評価が高まっていた。

 二人が作った木工細工を贈り物にすると政敵が減少し、

 財閥大手の日本の工業立国への圧力を押し返し、

 戦後不況で伸び悩む日本経済を立て直すべく、木工産業復興のための予算が組まれた。

 宿舎 仙堂と角浦

 「学校で作らせた土産物用木工細工を南米移民に渡したら売れたらしい」

 「そうなんだ」

 「やっぱり海外に輸出すると儲かるんだな」

 「生徒たちもやるじゃん」

 「学校が増えたら宮大工を5万人くらい作れるよ」

 「外務省には、国ごとに買ってくれそうな木工製品を探してもらってる」

 「そっちは?」

 「事業は良質の木材を輸入してるけど。林業も力を入れてるかな」

 「おれたち、どういう風に育てたら樹木が育ち易いかよく知ってるから」

 「あと、Tモデルを木製木枠で作ったものをアメリカに送ったら、10000台作ってくれと言われた」

 「へぇ〜」

 「継手や仕口で作ったから面白がられたよ」

 「あと、フィリピンのチーク材。南米のバルサ材の台湾植樹を進めてる」

 「成功したら日本の林業は大きく成長はずだ」

 日本有数の宮大工集団が作る木工細工と家具は、国内だけでなく、海外にも輸出されるようになり

 木工産業を生糸に次ぐ黒字貿易産業にしていた。

 

 

 1月

  フランス・ベルギーがドイツの賠償不払いを口実にルール地方を占領(ルール占領)

 

  フアン・デ・ラ・シエルバがオートジャイロの初飛行に成功

 

  孫文がソビエト代表のヨッフェと会談

 

 

 関東州(3462ku)は近代化した街並みが作られ、

 日本人9万人、漢民族63万人が住んでいた。

 関東州大連から新京まで700kmの南満州鉄道が伸び、奉天から安東線260kmがあり、

 旅順線、撫順線、営口線、煙台線を合わせると路線は1130kmに達した。

 線路と線路に付属する付属地利権182kuがあり、371kuに増えようとしていた。

 しかし、南満州鉄道は、金食い虫で、日本の財政を苦しめていた。

 

  

 台湾

 バルサは、メキシコ南部から南米熱帯地域が原産の常緑樹だった。

 バルサ木は、成長が早く、数年で樹高30mに達する。

 幹は木目が粗く、

 密度は100〜200kg/m3の範囲で軽く軟らかく、一般的な木材の1/4〜1/2の質量になった。

 環境が良く成長が早いほど密度が小さくなる傾向があった。

 木仙である仙堂と角浦は、バルサ樹木が好む環境を知っており、

 そのための林地を選ぶことができた。

 「南米産で見つけたバルサ材は、今までのバルサ材より比重がいいようだ」

 「フィリピンのチーク材もぼちぼちだし、今後はもっと売れ行きがよくなりそうだ」

 麓から社員が登ってくる。

 「おい、甲式四型戦闘機の機体も俺たちが全部作ることになったぞ」

 「「「「・・・・・・」」」」 にや〜

 神籬社の作る機体は、宮大工技法と素材で、大手より17パーセント近く軽量化に成功していた。

 

 

 

 

 3月

  赤瀾会が日本初の国際婦人デー記念集会開催

 

  工場法改正(適用年齢の引き上げ他)

 

 仙堂と角浦の作った木工細工の設計図は、規格化され、地方でも制作されるようになっていた。

 技能さえあれば、商品は、売れやすく、

 林業も仙堂・角浦方式に切り替わり、木の直径が1割ほど増していく、公算が大きくなっていく、

 無論、40年から50年先の伐採になり、

 国全体で真似すれば労苦は変わらないまでも、より貧困層まで木材が行き渡り、

 国全体の力として反映されるはずだった。

 

 

 

 4月

 日本共産青年同盟(後の日本民主青年同盟)設立

 

 第二次山梨軍縮

 

 

 総理官邸 国際外交戦略会議

 「この情報は、信憑性があるのかね?」

 「仙堂と角浦は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアだけでなく」

 「東南アジア、中国、中南米、中東地域と独自の外交ペイプを作っている」

 「その外交パイプは信用できるのか?」

 「どうやってるのかしらんが、少なくとも国内は確実に味方を作っているし、敵を排斥している」

 「普通は、敵味方の判断で誤って組織拡大ができないのに、この二人は違うようだ」

 「仙堂と角浦は、どちらにも同じ力があるのかね」

 「ほぼ同じ判断で敵味方を作ってる」

 「どういう嗅覚してるんだ」

 「さぁ 木が教えてくれるとか嘯いてはいるがね」

 「じゃ 彼らの外交パイプを使って外交戦略を組み立てたほうがいいのか」

 「少なくとも外交ルートの一つとして、認めていいのでは?」

 「彼らはなんと言ってる」

 「木工細工を輸出できるよう、販路と船を作って欲しいと」

 「もし彼らの販路を利用して、親日圏を構築できるなら、独立運動を支援しやすい」

 「バカみたいに軍艦を作らなくてもオンボロの貨物船で現地に武器を送り込むだけでいい」

 「イギリスは、勝手にも独立派と戦争して消耗していく」

 「イギリスはそうかもしれませんが、アメリカとソビエトは違うでしょう」

 「確かに違うが、反体制派の人脈と確実にパイプを作れるのなら面白いと思う」

 「親日勢力が反日勢力を牽制してくれるかもしれない」

 「しかし、仙堂と角浦は、素性の知れない田舎者ですからね」

 「学閥からは、外れているが、彼らは金を作れるよ」

 「それに原敬、尾崎行雄のラインで政界人脈もある」

 「末恐ろしいガキどもだ」

 「なんにしても木工人脈は日本の近代化を足踏みさせる。危険だ」

 「しかし、彼らの外交パイプは、日本の国益になると思うな」

 「二人には適当な鉄鋼利権のポストを与えて、木工業界から切り離すべきでは?」

 「そのへんは、調整してはみるがね」

 

 

 5月

  北一輝『日本改造法案大綱』

 

 

 6月

  エトナ火山噴火

 

  第1回ル・マン24時間レース開催

 

 7月

  ムスタファ・ケマル(ケマル・アタテュルク)首班のトルコ政権が連合国とローザンヌ条約を締結

 

 

 8月

  ハーディング米大統領の死去により、副大統領クーリッジが第30代米大統領に就任

 

 朝鮮工作員たち

 「日本がこのまま軍縮で、平和なんて許せないニダ」

 「政治家、警察、日本軍、マスコミに女をあてがって、媚びて、お金を渡せば取り込めるニダ」

 「何としても日本を軍拡させて、地位を手に入れるニダ」

 「朝鮮半島は、日本の生命線ニダ」

 「満洲は日本の生命線ニダ」

 「朝鮮半島と朝鮮人のために日本人をシベリアと大陸と南洋で戦争させてやるニダ」

 「日本人を戦死させてやるニダ」

 「日本を滅ぼして、朝鮮を独立させるニダ」

 

 

  ドイツでシュトレーゼマン連立内閣成立

 

  加藤友三郎内閣首相死去により総辞職

 

  山本權兵衞に組閣命令

 

  イタリアがギリシャのケルキラ島を占拠(コルフ島事件)

 

 9月

 喫茶店

 仙堂と角浦

 「まったく、日本の政権はコロコロと政権が変わってばかりで安定しないな」

 「呪われてるんじゃないか」

 「日本は民主主義が合わないのかも」

 「議院内閣制への移行が早すぎたとか?」

 「薩長閥支配が続くのも嫌だけどな」

 「俺たちは田舎者だし、特権階級の権力独占は面白くないからね」

 「それは言え・・・・」

 「なんだ? 揺れてるぞ」

 

 9月1日11時58分32秒

 神奈川県相模湾北西沖80km(北緯35.1度、東経139.5度)を震源に関東大震災が発生した。

 昼食を前後して起きたマグニチュード7.9の地震は、

 神奈川県を中心に千葉県・茨城県から静岡県東部までの内陸と沿岸に広がり、

 136ヵ所から炎を立ち上らせ、一部は火災旋風となって、家材を十数メートルも吹き上げてしまう。

 街並みは、押し崩されてがれきの山が作られ、

 所々 焼け崩れ、燃えやすいものが減ると焼け野原になって、紅蓮の炎が燻りっていた。

 余震が減っていくと徐々に沈静化し、混乱から回復して秩序を取り戻していくが、

 朝鮮工作員たち

 「天罰ニダ! まんせーニダ!」

 「もっと、火をつけるニダ」

 「日本人を殺して、全部奪ってやるニダ」

 「強姦もするニダ」

 「井戸に毒を入れてやるニダ」

 「「「「ウェハハハハッハハハハ!! ウェハハハハッハハハハ!!!」」」」

 「「「「ウェハハハハッハハハハ!! ウェハハハハッハハハハ!!!」」」」

 「「「「ウェハハハハッハハハハ!! ウェハハハハッハハハハ!!!」」」」

 

 

 “不逞鮮人については三々五々群を成して放火を遂行”

 “また未遂の事件もなきにあらずも、既に軍隊の警備が完成に近づきつつあれば、最早決して恐るる所はない”

 “出所不明の無暗の流言蜚語に迷はされて、軽挙妄動をなすが如きは考慮するが肝要であろう”

 

 横浜市

 「朝鮮人を諸君には絶対に渡さん。この大川を殺してから連れて行け。そのかわり諸君らと命の続く限り戦う」

 「ふざけんな! メンツのために、人殺しの味方すんな!」

 「毒を入れたという井戸水を持ってこい。その井戸水を飲んでみせよう」

 さらにと言って一升ビンの水を飲み干したが

 「この自己満足野郎が!」

 「こいつら、朝鮮人女とねんごろで、朝鮮人から金もらってんぞ。ヤッちまえ!」

 「「「「「「おおーーー!!!!」」」」」」

 「そ、そんな、げぇ!」

 ボコッ! ボコッ! ボコッ! ボコッ! ボコッ! ボコッ!

 1000人の暴徒は、警察署長ごと、朝鮮人300人を殺戮。

 事態を重く見た政府・官僚は、朝鮮人の追立てを開始していく、

 

 広報

 “東京付近の震災を利用し、朝鮮人は各地に放火し、不逞の目的を遂行せんとし”

 “現に東京市内に於て爆弾を所持し、石油を注ぎて放火するものあり”

 “既に東京府下には一部戒厳令を施行したるが故に”

 “各地に於て充分周密なる視察を加え、朝鮮人の行動に対しては厳密なる取締を加えられたし”

 

 

 広報

 “鮮人中不逞の挙について放火その他凶暴なる行為に出(いず)る者ありて”

 “現に淀橋・大塚等に於て検挙したる向きあり”

 “この際これら鮮人に対する取締りを厳にして警戒上違算無きを期せられたし”

 

 

 関東大震災による被災は、全壊10万9千余棟、全焼21万2000余棟。

 死亡・行方不明10万5千人。被災190万人に達し、一面、瓦礫と焼け野原が広がっていた。

 仙堂と角浦は、焼け出された格好で呆然と佇んでいた。

 「なんだよ。これ、マジ死ぬかと思ったよ」

 「ところで、おまえ、何持ってんの?」

 「コーヒーカップ・・・」

 「あははははははは」

 

 

  関東大震災

 東京市他郡部に戒厳令発令(〜11月15日)

 

 

 

 斎藤隆夫内閣発足

 右翼化が進もうとしていたが、大震災により復興が求められた。

 反軍的な人物が首相になったのは、原、尾崎と続いた不戦派の巻き返しで、

 大震災からの再建が重視されたからと言えた。

 

  関東大震災

    戒厳地域を東京府・神奈川県に拡大

    戒厳地域を埼玉県・千葉県に拡大

    亀戸事件

    支払猶予令(震災手形参照)

    東京市内に夜間外出禁止令発令

    朝鮮人強制帰還命令

  国際刑事警察機構設立

 

  憲兵大尉甘粕正彦が大杉栄と伊藤野枝らを殺害(甘粕事件)

 

  関東大震災 甘粕事件のため福田雅太郎戒厳司令官更迭(後任山梨半造)

 

  スペインでプリモ・デ・リベラ軍事政権が成立

 

 

 10月

  ウォルト・ディズニー・カンパニー創立。

 

  ドイツのマルク暴落に対して暫定通貨であるレンテンマルクの発行を決定

 

  フォッケウルフ社の前身ブレーマー航空機製造株式会社がが設立される。

 

  トルコ共和国成立

  

 

 仙堂と角浦は、特殊な能力を持ち、資金力があり、林業に顔が効くのか・・・

 「素晴らしい木材ですな」

 「ええ、育つのも早いはずですよ」

 「これだけ生育が早いとは大したものです。これからも林業の世話を頼みますよ」

 「ええ、ありがとうございます」

 震災復興で徐々に利益を上げ、力をつけていった。

 

 

 11月

  アドルフ・ヒトラーの国家社会主義ドイツ労働者党などがミュンヘン一揆

 

 

 大震災の救援物資と一緒に白人たちが来ていた。

 表向き、大震災の救援物資輸送だったが、

 同時に大震災に対する日本人と日本社会の動きを調べなければならなかった。

 東京

 白人たち

 「震災からわずか3ヶ月で、暴動なし、暴行なし、略奪なしか・・・」

 「天災の多い土地の民族性かもしれないな」

 「天災に備えて常に修復能力を高め、協力体制を作っている」

 「これまでの報告では、国家意識と民族意識より、世俗的で利権政治だそうだ」

 「江戸時代の幕藩体制を抜けきっていないのだろう」

 「天下国家を語るが、本音は我田引水の利益誘導ってことね」

 「しかしまぁ 真面目な性格のようだし、再建は早いかもしれない」

 「日本人が、もっと、独りよがりな利己主義で、拝金主義で、嘘つきで、泥棒で、人殺しだったらいいのに」

 「そうなったら、後進国真っ逆さまだな」

 「だから、朝鮮人と日本人の交配を増やしてるんだろう」

 「まぁ そうだが、日本国内に反朝鮮が増えてるようだ」

 「その時は金をばら撒いてでも捩じ伏せるしかないな」

 

 

  

 12月

  第47臨時議会召集

 

  ネパールがイギリスから独立

 

  虎ノ門事件

 

 第48議会召集

 「関東大震災という国難にあって、海軍増強等害悪としか言いようがない」

 「軍縮すべきである」

 「国難だからこそ、軍拡で国益を守らねばならないのだ」

 「国家基盤である民を殺して、なんの国益か。片腹痛いわ」

 「皇族が共産主義者に襲撃された共産主義から皇族を守るには強力な軍事力が必要である」

 「共産主義が拡大しないよう、社会保障制度を確立すべきである」

 「不当な差別をするから、共産主義に走るのである」

 「私有財産制を否定する者は共産主義者である」

 「それは、全国民の私有財産を否定しないということであろうか」

 「「「「・・・・・」」」」

 「日英同盟がないのだ。国防をもっと考えろ」

 「では、ドイツと秘密協定を結び、ドイツに軍需技術を教える代わりに、ドイツの技術を取り入れよう」

 「軍機は?」

 「軍機より、技術向上だ」

 刺殺され損なった原敬が参考人として呼ばれ、軍拡を牽制した。

 薩長閥は、具合が悪いのか、歯切れが悪く、目が泳ぎ、

 赤城と天城の廃艦が決まる、

 そして、鉄材は、設備投資など、鉄筋コンクリートに利用されることが決まり、

 浮かした余剰資本は、外資獲得率の高い、木工産業投資が決まってしまう。

 

 

 

 

 関東大震災で苦境に陥る日本国だったものの、大晦日は賑わっていた。

 仙堂と角浦は、神社仏閣の補修作業等で、出入りして、実入りもよかった。

 お神酒が配られ、除夜の鐘がなっていた。

 二人は50番目と52番目に鐘を打って休んでいた。

 「なぁ お金の量が少ないと思わないか」

 「しょうがないよ。換金紙幣は、保有してる金以上の紙幣は刷れないことになってる」

 「戦争中は、保有してる金以上に刷ったよね」

 「うん」

 「そして、戦後も相変わらず刷ってる」

 「本当は、保有金以上に刷ってるんじゃないか」

 「まぁ 保有金の20倍とか100倍とか。規定があるとかないとか言ってたような、言ってなかったような」

 「それ、変だよね」

 「変かも・・・」

 「そうだ。いいこと思いついた」 にや〜

 

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 仙堂 春和 (17)

 角浦 秋和 (17)

 戦災復興でお金がいるので、赤城と加賀は廃艦にしました (笑

 

 

 

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第02話 1922年 『ワシントン軍縮条約と、戦艦陸奥廃艦』
第03話 1923年 『関東大震災と、赤城、加賀廃艦』
第04話 1924年 『そうだ。御籤で幸幣をばら撒こう』