第13話 1933年 『極東の楔 VS 中南米の楔』
1月
木工12干支ギルドは、日本を12地区に分けていた。
林業、神社仏閣、宮大工・木工所・個人職人、宮大工学校、神籬社で構成され、
内職で作られた幸幣と、貿易で得た外貨は12干支資金とか、神籬資金と呼ばれ、
50万以上の集票力は、日本の政治と官僚を影から動かしていた。
年末年始にかけて神社仏閣で幸幣付きの御籤が買われていく、
紙幣と幸幣を交換するだけで、
信用創造で発行される公定歩合分が補填されるだけでなく、紙幣量が水増しされてしまう。
しかし、そんな時代は、過去になりつつあった。
紙幣発行が増えるにしたがい、幸幣の希少価値は大きくなり、
ついに1幸幣が300円と交換されるようになり、
外国人が大量に幸幣を買っていくことも珍しくなかった。
日本は潤沢な資本力で工作機械と石油を買うことができ、
世界恐慌で喘いでいる他国をよそに好景気を続けていた。
白人数人が正月気分の下町を歩き、一軒家に入っていく、
通常、幸幣は、みねばり木やつげの木が使われる。
しかし、クライアントが望めば別の木材が使われることが珍しくなく、
ギルドは、一定の品質が確保されていれば材質にこだわらず、通し番号とギルドの印を彫った。
「オヤッサン、デキタト、キキマシタ」
「ああ、できたよ」
ブラックウォールナット材、マホガニー材、チーク材を材料にした幸幣が白人に渡された。
若木なら木目が小さく、みねばり材やつげ材と変わらない細かい木目を見せた。
どちらにしても贅沢品だ。
「ツギハ、コレデタノムヨ」
象牙が畳の上に置かれる。
「おいおい、象牙は曲げが小さいから」
「イッシキ、ドウシテモ、ホシイ。カネハ、ダスカラ」
「とは言ってもね。こう・・・曲げて入れなきゃならんからな」
「ムリナノカ?」
「象牙は、曲げられる角度が小さいから作るとき、折れやすいから成功率低いよ」
「ソレデモイイ、リスクハ、キョヨウハンイ」
「それにギルドが幸幣と認めるかは、別だからね」
「ソッチハ、コッチデ、コウショウスル。シンパイスルナ」
「わかった。取り敢えず作ってみるよ」
「デキタラ、レンラクシテクレ」
「わかった」
ドイツ シュライヒャー内閣総辞職
ヒトラーが独首相に就任、ナチス政権獲得
2月
城東線が電化(大阪天王寺間)
ジュネーブ国際連盟
日本軍の任那撤退勧告案が21対22で否決される。
日本人外交関係者たち
「危ない危ない、念のため買収工作をかけて良かったぜ」
「幸幣様々だな」
「アメリカ代表は買収資金が台無しで、むくれてる、むくれてる」
「だいたい、バトルロイヤルじゃ 一番強い奴を集中するのがセオリー」
「これで、グアテマラとコスタリカにも基地を広げられるかも」
「日本も、そんな金ないよ」
「ケチケチするなよ。円紙幣が紙切れになっても幸幣でやれないこともない」
「幸幣は生産量が足りなすぎるよ」
山陰本線全通(京都幡生間)
ドイツ国会議事堂放火事件。
3月
三陸地方大地震 (M8.1、死者3021名、不明43名、負傷968名)
第32代米大統領フランクリン・ルーズベルト就任。ニューディール政策始動。
アメリカ合衆国
白い家
大統領がテーブルに着くと、カラーコード戦争計画の報告書が乗せられている。
ホワイト(対内乱戦)、グレイ(対西インド諸島諸国戦)、オレンジ(対日本戦)
パープル計画(対中央アメリカ諸国およびロシア戦)、レッド(対イギリス・カナダ戦)
グリーン(対メキシコ戦)、ゴールド(対フランスおよびカリブ海のフランス領戦)、
ブラック(対ドイツ戦)、インディゴ(対アイスランド戦)、ブラウン(対フィリピン戦)、
イエロー(対中国戦)、バイオレット(対中国内乱戦)、
オリーブ(対スペイン戦)、シルバー(対イタリア戦)、エメラルド(対アイルランド戦)、
タン(対キューバ戦)、シトロン(対ブラジル戦)、レモン(対ポルトガル戦)、
ルビー(対インド戦)、スカーレット(対オーストラリア戦)、ガーネット(対ニュージーランド戦)
「「「「「・・・・・・」」」」」
大統領と富裕層は、ため息混じりにオレンジプランを見つめる
「この前は、日本人の消費が増えて、経済が破綻するって聞いていたが」
「北欧道の件を加算しないと」
「「「「・・・・・」」」」」 ため息
「状況も悪くなるばかりだ」
「朝鮮の城塞都市建設で日本に石油、鉄鉱石、石炭が流れたからです」
「城塞都市建設は、朝鮮人を使うはずだったのでは?」
「朝鮮人は、利権基盤作りの役に立たなくて」
「「「「・・・・・」」」」 ため息
「大恐慌では何もできん」
「日本は、統制経済を無視して紙幣を発行してますし」
「このままだと、日本は下克上乱世で成金が増長し、国家経済統制は弱体化しますが、経済が発展していくはず」
「一方、アメリカは、大恐慌下で、利権の買収中ですので、対応がむつかしく・・・」
「なんとか日本を押さえ込まないと」
「北欧道開発で疲弊したところを叩けばいいかと」
「それとも中国に旧式戦艦を売るべきでは?」
「朝鮮半島利権は?」
「もっと、経済投資しないと、足場が脆すぎる」
「だからといって、日本に鉄と石油と石炭を輸出するから、日本が増長するのだ」
「いざとなったら、輸出規制すればいいだろう」
「なんにしても北欧道は、ソビエト海軍を封鎖してくれる」
「こちらにとっては好都合でもある」
「まぁ そうだが・・・」
フランクリン・ルーズベルト米大統領が初の炉辺談話を行う。
独国会で全権委任法可決され、ナチス独裁が確立
ベルリン
マルク通貨の対ドルレート1兆倍の記憶が残っているのか、
希少通貨の幸幣は売れやすかった。
神籬支局店
中規模の木工細工店だった。
しかし、日本の外務省が常駐している諜報機関であることは誰の目にも明らかだった。
「あのちょび髭の小男が総統だとよ」
「見返り100倍なら投資してよかったじゃないか。人造石油の開発が進む」
「あんなのに味方したら、あとで、ドイツ国民に恨まれそう・・・」
「ドイツ再軍備ならフランスに武器輸出したほうが見返りが大きいかもね」
「なんか、どこぞの大金持ちが節操なく、資金給与して戦争を煽っているのかわかる気がする」
「だから傀儡は、日本にお金を借りてでも自力をつけ、傀儡から抜け出そうとしてるんじゃないの」
「どのくらいの資本があれば傀儡から抜け出せるんだろうね」
「そりゃ 親衛隊っていうか。利権の大きさと、私兵部隊の数だろう」
4月
学校の入学式
学科の一つに木工細工があって、幸幣を作る時間があった。
幸幣は木工細工といっても、マニュアル化され
作業の一部は、専用の木工工作機械で幸幣の原型を製造し、木工業者に卸していく、
手先の器用な学生は、幸幣の原型を買い、最終工程まで製造することが許され、
授業料として売買され、
授業料を超えると学校5、生徒5で分配されてしまう。
この頃、紙幣と幸幣を交換するほど流通通貨を水増しでき、
公定歩合分の利息で弱い順に私財を奪われずに済むと気付いたのか、
積極的に幸幣を流通させる勢力も増えていた。
そのせいか、田舎でも消費能力が高く、新築の家が建ち、増築されていた。
さらに財政に余裕のある自治体は、発電所や鉄道を誘致し、道路などを整備し、
工業地と商業地を誘致した。
むろん、木工細工師が増えると過当競争になり、
品物が増えると価格が低迷し、幸幣より割得な木工細工が作られたりなど自然に市場調整していた。
村人たち
「今度、あの山を刳り貫いて隣村まで、トンネル作るらしい」
「へぇ 便利だな」
「その際、軍が避難壕を作るから、掘るか、幸幣で協力しろって」
「なに? 戦争でもするの?」
「戦争になったら朝鮮の米英ソ空軍に爆弾の雨を降らされそうだから、隠れられるように部屋を作れって、ことらしいよ」
「やれやれ・・・」
フランス軽巡洋艦ジャンヌ・ダルクが横浜に入港
在日工作員の午後
どこかの喫茶店
「おうおう、おうおう、何だこりゃニダ」
「はい?」
「こんなこと書いていいと思ってるニカ?」
「こんなって?」
「もっと日本人の戦意を高揚させて、軍人を暴走させるような作品を書くニダ」
「平和が好きなんで・・・」
「だったら反戦するニダ」
「そこまで反戦したくないかなって」
「じゃ 反米、反英、反中、反ソを煽って日本人が世界から嫌われるような作品を書くニダ」
「そして、お人好しの日本人が、親朝、親米、親英、親ソになるような作品を書くニダ」
「そんな無茶苦茶な」
「書くニダ」
「なんか、嫌」
「だったら日本軍万歳で、日本人が馬鹿で単細胞の能無しになるような作品を書くニダ」
「気が進まない」
「なら、エロ作品を書くニダ」
「無理かも・・・」
「じゃ 日本人が自閉症で内向きになる反省作品にするニダ」
「あははは・・・」
「だったら一生、無視して日の目を見ないニダ」
「そんな・・・」
「死ぬまで粘着して叩いてやるニダ。自殺するニダ。餓死するニダ」
「そんな・・・」
「それなら、言うとおり書くニダ」
「そんな・・・」
「なら叩くニダ」
「そんな・・・」
「ぶっ殺すニダ」
「そんな・・・」
米海軍飛行船アクロンが墜落(死者73名)
米国で14年ぶりに飲酒解禁
蒋介石が南昌で第5次共掃戦(共産党掃討戦)を準備開始
米国で金本位制停止
ニューヨークの日本人たち
「ユダヤ人は、非ユダヤ資本を買い占めている」
「そして、アメリカも金本位制停止か」
「アメリカの中南米工作はむつかしくなるな」
「しめしめだ」
「だけど、大恐慌で失業者を増やして、軍人として雇用する」
「そのために金本位制停止ならわからんでもない」
「まぁ 事前の下準備は大切だからね」
「日本みたいに失業者が少ないと戦争したくてもできない」
「戦争しろは言うが、誰だって前線で銃を撃つのは嫌だけどな」
「戦争なんていうのは、前線で銃を撃たない連中が威勢いいし、金もらって画策してるのさ」
陸軍少年航空兵制度始る
厚木基地
ドイツ軍将校が増えていた。
ドイツは、再軍備の前に少しでもパイロットを育てようとしていたのか、
パイロットが派遣され、92式戦闘機や88式軽爆撃機が次々に飛び立っていく、
この時期、92式戦闘機や88式軽爆撃機が主力足りえたのは、ドイツ製BMW VI型エンジンの輸入と、
神籬社製の機体によるところが大だった。
ドイツ人将兵たちは、再軍備が近いと確信しているのか、
表情が柔らかく、自信に溢れていた。
ドイツ軍整備整備士たち
「ほう、日本製エンジンも音が良くなってきてるようだ」
「再軍備の際、エンジンを購入することになってるからな。まともなエンジンを作ってもらわないと困る」
「街に行ったか?」
「鉄工所と木工所が並んでた」
「聞いたところ、山を刳り貫いて大型飛行機製造工場を建設してるらしい」
「たぶん、集約型にする気だろう」
「地下とは、用心深いな」
「半島の航空戦力が増えても対抗できるようにだろう」
「軍艦が条約で制限されてるから、航空機だけは勝つ気なのだろうな」
「黄色人種のくせになかなかやるもんだ」
「いや、日本人は別格だと思うぞ。田舎の百姓ババァが新聞を読んでたよ」
「元貴族だろう」
「日本の貴族は、そんなに強くないよ」
5月
弁護士法全部改正(昭和8年法律第53号)。女性にも弁護士の道が開かれる。
大阪市営地下鉄御堂筋線の梅田(仮) 心斎橋間が開通。日本初の公営地下鉄。
黒部ダム建設現場
電力不足を補うため大規模水力発電工事が始まる。
完成すれば33万5000kwを見込めた。
この時期、日本の発電は400億kwに達し、水力発電が6割、火力発電が4割で少なくなかった。
もっとも、少ない石炭と、もっと少ない石油で火力発電は、話しにならないわけで、
日本各地で水力発電所が建設されていた。
というより、木工12ギルドに紙幣発行権と労働力を取られまいと、日銀が仕掛けた公共投資でもあった。
1000万人にも及ぶ大規模動員は、日本経済を押し上げ、
再生産された資本は、鉄道開発にも投資されていく、
日銀紙幣量は幸幣を圧倒し、流通貨幣からほぼ駆逐してしまう。
幸幣は競売市場に流れ、
十数倍から数十倍の価格で売り買いされるようになったのもこの頃だった。
もう一つ、巨大発電ダムはゼネコン主導と思われたが、
コンクリートの発熱は、ダムそのものを自壊させかねないと知られており、
その解決策を出したのは、砂と土とセメントの配分を研究していた神籬で、
紙のようなガラス繊維のシートで水の地盤への浸透を防げそうなのも神籬だった。
そして、体制は、好ましいと思わなかったものの予算の一部が神籬へ流れていく、
むろん、戦艦の改装などにもガラス繊維は多用され、
神籬社は、日本の5大財閥の一角に浮上していった。
6月
大阪で兵士1名と巡査1名が掴み合いの喧嘩。軍部・内務省間の抗争に発展(ゴーストップ事件)。
阪神本線岩屋 神戸(現・三宮)間が地下線により開業。
丹那トンネル貫通。着工より15年2箇月
横須賀
任那州(1200ku)へ向けて船が出航していく、
当初、ハワイ沖を通過するため、護衛艦隊を引き連れていったが、
いまは、単船で行き来することが増えていた。
日本中、あるいは世界中の物資が任那州へ送られ、近代的な開発が進められていく、
日本人の移民団も徐々に増え、50万人が居住できるような街並みが作られようとしていた。
日本人たち
「コスタリカとグアテマラも同じ条件で不戦条約を結ぶ動きがあるようだ」
「ほぉ 随分と急だな」
「そりゃ 隣国が1個飛行師団と10個師団分の兵器と武器弾薬を持ってたら青くなるだろうよ」
「へぇ 気前がいいと思ったら、そう言う狙いがあったわけか」
「アメリカも同じ条件を提示してるが、アメリカは嫌われてるから相手にされてないそうだ」
「「「「あはははは」」」」
7月
ナチス・ドイツのフランツ・フォン・パーペン副首相とローマ教皇庁のパチェッリ枢機卿(後のローマ教皇ピウス12世)との間でコンコルダート締結。
任那州(1200ku)
日本国が身銭を切った開発が継続され、
発電所、港湾施設、鉄道、道路、送電線、上下水道が作られていく、
開発の中心は、ニカラグアから得た400kuから
エルサルバドルとホンジュラスから得たより広い800kuへと移っていた。
城塞都市3個が建設されることが決まり、任那州全体を地下鉄道で結ぶ計画になっていく、
アメリカの反日工作は、絶えず行われていたが、
今のところ、中南米諸国民全体に広がることはなく、
アメリカよりマシという空気が作られていた。
日本人たち
「反日運動のためにニカラグア、ホンジュラス、ニカラグアにドルが流れてきてる気がするな」
「アメリカも大恐慌なのによくやるよ」
「格差を維持したい資本家は国内に紙幣を流すより、海外に紙幣を流したがるからな」
「日本は?」
「日本は国民国家だから国内で保有したがる」
「しかし、資本家が国境を越えて私利私欲に走ったら国はどうなることやら」
「貧富の格差を作らないと戦争できないからじゃないのか」
「アメリカを民主主義国家じゃなく、資本軍事国家、全体主義国家にしたがってる連中がいるわけか」
「なんか、日本が目の敵にされそうな予感」
「だな」
日本の木工細工店は日本全国に作られるだけでなく、世界中に支店が作られ、
木工細工学校も併設されていた。
そして、木工細工学校が内憂外患の割り出し機関であり、
国外においては、日本諜報部隊の代理人探しの中心だった。
生徒たちが作った木工細工は、はるか、日本本土へ運ばれ、
仙堂と角浦によって、どういう人間なのか書き込まれ、
大使館へ送り返され、現地諜報部隊の組織編成に使われたのだった。
日本の警察は国内の内憂外患に圧力をかけて淘汰するようになり、
外務省が情報戦略戦で欧米に勝ってきたのは、この時期からで、
国内では、より誠実な日本行政が遂行されやすくなり、
国外では、敵国の中に味方を形成していく、
エチオピアでも日本の木工細工店が作られ、学校が併設されていた。
イギリスとイタリアもたかが木工細工と見逃したのだった。
日本人たちが内憂外患の原因になる人間を皇帝に教えていく、
「武器がいる」
「対価が必要です。陛下」
「国を守るのに土地を渡せは、酷い話しだ」
「資源と交換でいいですよ。そっちが都合がいいのですよ」
「あと港までイタリアとイギリスに封鎖されてます」
「輸送ルートがないので、それが最大の問題ですが・・・」
「黒人と黄色人の違いはあっても有色人種同士だろう。なぜ助けてくれないのか」
「助けたくともイギリスやイタリア相手に戦争できませんよ」
「日本は日清・日露戦争で勝った。いずれも大国だ」
「日本は強い、なぜ、イギリスやイタリアを恐れる?」
「武器弾薬を売ることくらいは商売なので回収が見込めればできますがね」
「軍人とはいえ、国民。国民に銃を持たせて外国に突撃させるなんて簡単にできることじゃないのですよ」
「まず、国民に戦争する動機がなければむつかしいのですよ」
「・・・・・・」
8月
改正図書館令施行 (政府による図書館統制強化開始)
第1回関東地方防空大演習実施
採用を開始した陸軍少年航空兵の倍率57倍 (定員170名に9731名が応募)
東京某繁華街
半島から潜入した部隊に反日結社から指令書が届いていた。
“大恐慌で世界中が不況に喘いでいる”
“金のために利権との結びつきを強めるであろう”
“敵は、日本と日本国民を単位に考える者たち”
“部落民を叩き、軋轢と格差を大きくして、共産化か、内戦か、日中戦争、日ソ戦争に誘導すること”
“利権屋の味方をし、利権同士を戦わせろ、格差を固定させて、日本と日本国民の総論を潰せ”
“日本人を一枚岩にしてはならない”
「文部省官僚を買収して学校の木工細工授業を廃止させて、軍事教練をさせるニダ」
「木工12ギルドは、日本のドル箱産業ニダ。むつかしいニダ・・・」
「日本は南満州鉄道から手を引いたニダ」
「今は、蒋介石国民党と南京軍閥とも一定の距離を保ってるニダ」
「日本は、不況じゃないニダ。好景気ニダ」
「やっぱり、最大の敵は、神籬ニダ」
「しかし、神籬が強い間は、鉄鋼業を牽制できるニダ」
「陸奥廃艦の功績は大きいニダ」
「日本を木と紙の国のままにしたほうが、滅ぼすとき有利ニダ」
「いや、違うニダ。いま思えば、陸奥を建造させていたほうが良かったニダ」
「鉄材の多くが再生産で鉄筋コンクリートとして使われたニダ」
「大連、巨済島、任那の要塞化に一役買ってるニダ」
「じゃ 神籬をやっつけるニダ」
「クライアントは、幸幣を買い漁ってるから待てと言ってきてるニダ」
「じゃ もっと、軍拡させた方がいいニカ?」
「んん・・・」
「じゃ ゼネコンを応援したほうがいいニカ?」
「んん・・・」
「どっちニカ!」
「どっちでもいいから中枢に入るニダ」
「そうニダ。日本人は、近視眼で視野が保身と組織防衛だけニダ」
「ゴーストップ事件で軍隊と警察が反目しあってるニダ」
「だから軍隊と警察の両方を応援して、嗾けさせるニダ」
「そして、警察と軍隊で銃撃戦をさせてクーデターニダ。日本を内戦にしてやるニダ」
「国防愛国内戦ニダ」
「「「「ウェハハハハハ! ウェハハハハハ!! ウェハハハハハ!!!」」」」
「「「「ウェハハハハハ! ウェハハハハハ!! ウェハハハハハ!!!」」」」
「「「「ウェハハハハハ! ウェハハハハハ!! ウェハハハハハ!!!」」」」
9月
キューバでバティスタによる軍事クーデター。事実上の独裁者となる。
スペインでアサーニャ内閣総辞職
アメリカ合衆国
白い家
男たちは中南米の地図を囲んでいた。
反日工作はそのことごとくが成功しておらず、
ドルの浪費に終わっていた。
そして、その工作用ドルがフォンセカ湾で消費され、
神籬はそのドルで反ユダヤ系資本と取引し、ユダヤ資本の合衆国支配を妨害していた。
「なんとか、反日運動を激化させて、日本を駆逐しないと、アメリカの南米支配が上手くいかない」
「問題は、日本が10個師団相当の武器弾薬を中南米諸国に輸出できることだ」
「なんで、そんなことができるのかわからんが」
「気前がいいバカなんだろう」
「だが効果的だ」
「艦隊で、フォンセカ湾の日本人街を根こそぎ破壊すればいい」
「フォンセカ湾の45口径356mm連装要塞砲は12基だそうだ」
「しかも高台にあって、要塞砲は届くが、戦艦が撃っても要塞まで届かない」
「「「「「・・・・・」」」」」
「それに海軍はコロラドで長門に勝てる自信がないらしい」
「それと金剛型・扶桑型戦艦に通商破壊されたらおしまいらしい」
「あと、日本と戦争になったら、せっかく中国と朝鮮に足場を作った利権が失われる」
「下手をしたらフィリピンも奪われるだろうし」
「パナマ運河も破壊されるだろう」
「なんでこうなった!」
「ニカラグアに嫌われたからだろうが!」
「まさか、大恐慌を利用して中南米に日本が介入してくるとか、思わんわ」
「対日制裁は? 石油輸出を禁止すればいい」
「反対が多くて、足並みが揃わない」
「もっと日本を悪者にするんだ」
「日本は南満州鉄道から引いたし。朝鮮半島からも引いた」
「中国利権からも引こうとしている」
「それに極東ソビエト軍は増強されてる」
「アメリカが日本と対立したら。朝鮮半島は一気にソビエトに奪われかねない」
「これで、ダーティイメージはむつかしいだろう」
「いっそ、日ソ戦争に持って行ってだな」
「ソビエトは朝鮮半島。アメリカは日本を支配するというのは?」
「だから現状の戦力では勝てないと何度も・・・」
「「「「・・・・」」」」 ため息
10月
ユナイテッド航空機チェスタートン爆破事件
ドイツが国際連盟を脱退
日本の国防が “戦力重視の戦えない戦略” から “燃料重視の戦える戦略” に移行しつつある時代、
戦力重視派が条約に従って、空母を建設しようとする。
むろん、戦える戦略派は、ディーゼル機関への移行を目論んだ。
まともに動かすこともできない空母では、戦争できないからだ。
33000t級瑞鶴型空母 瑞鶴 翔鶴
全長280m×全幅32m×吃水9.7m
MANディーゼル機関6000馬力30基 180000馬力
航続距離16kt/25000海里 速度33kt
78口径88mm対空砲10門 83口径37mm対空機銃20門
艦上機100機以上
すったもんだの結果、世界最強最大の空母、瑞鶴と翔鶴が誕生した。
瑞鶴 艦橋
「長門が小さく見えるとはな」
「砲撃戦をするわけじゃないからね」
「空母を旗艦にするって話しは決定?」
「索敵能力の高さと、航空観測力で空母が適任だそうだ」
「空母で戦艦を撃沈できると思うけどな」
「まぁ できそうだな・・・」
巨大な飛行甲板に90式艦上戦闘機と92式艦上攻撃機が並ぶが、
その気になれば陸軍機の92式戦闘機や88式軽爆撃機まで離着艦することができた。
「しかし、陸軍機も載せなきゃならんとはね」
「陸海軍の規格統一は神籬の圧力」
「大連州と任那州への輸送は政治の圧力だからね」
「まぁ 現地生産する動きもあるが、援軍を送れないと味方から信頼を疑われかねないからな」
「しかし、建前としてはそうだが、さすがにハワイ沖を通過して援軍に行くのはむつかしそうだな」
「まぁな」
神籬社
開発研究所
石英を粉砕し焼き固めていく、木炭を粉砕し焼き固めていく、
石炭を粉砕し焼き固めていく、サンゴ、カニの甲羅を粉砕し焼き固めていく、
鉄鉱石の国産が少なければ代用品を作らない限り、日本の国防は成り立たなかった。
そして、鉄鋼より劣ったとしても民間で使用できるなら、民間の鉄材を国防に流用することができた。
最初に作られたのは、弁当箱で、戦略物質のアルミを使われるより益しと考えられたからだった。
関係者たち
焼き固められた弁当箱を固定し、上に重石を載せていく、
錘が次々と載せられ、
がたっ! がたん!
「折れたよ・・・」
「でも、陶器より、マシだ」
「もっと粘性ないと使えない」
「そうは言っても作り方がセラミックだからねぇ」
「ガラス繊維を束ねたものは意外に粘性がある」
「細分化させてることで柔軟性はあるが、素材はガラスを超えるようなものじゃないだろう」
「軍部は人工石油精製と合流して欲しがってるようだけど?」
「一旦、液化した後、固形化する方法も試してみるか」
「いや、人工石油とは、根本的に方向性が違うから」
「むしろ、石油を利用した新素材を考えるべきでは?」
「元々のコンセプトは、鉄の代用品だよ」
「意外にアメリカの方が進んでるかもな」
「アメリカは現物があるから新規開発。日本は現物がないから代用品開発」
「この前提条件の差と、認識の違いは大きいね」
森林の間引きと、禿山未満の範疇で、銃床を作っていくが、戦争になれば木すらも戦略物資だった。
一方、資源でまだ余裕のあるガラス繊維は、初期投資が大きく、単価が高かった。
資本回収すらままならないものの準鉄鋼材と考えられ、国家的な支援を受けており、将来性が高かった。
そして、適性品を模索していて、銃床もその一つだった。
ガラス繊維が銃床の型にはめられ、44式騎兵銃が組み立てられていく、
射撃場に銃声音が何回も響いた。
「どうよ」
「銃床を中空にできて、その分軽くなるのは面白い、しかし、重心が変わってバランスが悪い」
「そのへんは、改良すべきかもしれない」
「全部をガラス繊維にできないの?」
「ガラス繊維は、火や衝撃に弱い」
「まぁ 銃身内部をクロムメッキすれば少しは長持ちしそうだが、それでも耐久性で不安があるな」
「鉄未満じゃ命を預けられんな」
「銃以外なら使えるってことか」
「まぁ 背嚢とか、弁当箱とか。そういうものかな」
「しかし、軍機だから、そういった小物は使いにくい」
「そうか・・・時に・・・ガラス繊維で、どのくらいの鉄材を水増しできるんだ」
「予算とガラスの生産と発電量によるけど、50万tくらいいける」
「うそぉ〜」
「だって、ガラスだし、予算次第」
「じゃ なにか。鉄を使わず3000t級駆逐艦を20隻くらい作ってもいいのか」
「まぁ 高額だけど。60000tだから作れるんじゃないの」
11月
東京・大阪間夜間定期郵便飛行開始
大恐慌により生糸・木綿の価格低下
市場関係者たち
「やっぱり、全世界的に生糸と木綿の価格が低下したか」
「綿花は、アメリカから買うことが多いからそれほど目立たないか」
「一応、国内産品を守ろうとしただけだ」
「しかし、それだって、アメリカが高く買うというわけじゃないし」
「どうする?」
「俺は、神籬を入れて、天蚕糸を専門にやるかな」
「衣服用じゃなくて、とくにかく強い糸が欲しいらしい。木とか、選別してるらしい」
「なるほど、戦争用か」
「たぶん・・・」
「野生のヤママユからだけど。まぁ 山はあるし、なんとかやるわ」
「俺の息子は手先が器用だったから、木工細工師をやらせるよ」
「俺んところはないな。でもまぁ コネがあるからダム建設で働くと実入りがいいらしい」
「日銀が木工を目の敵にしてるって本当か」
「紙幣を大量に印刷して、幸幣を一般市場から叩き出す気だって聞いたよ」
「おれ、幸幣をたくさん持ってんだけどな」
「お金持ちが100倍の値段で買うって言ってたぜ」
「すげぇな 百倍になるのか」
「おれは、もうちょっとあとにしよ。1000倍になるかも」
「あはははは」
丸善石油設立
昭和天皇の特命により、ゴーストップ事件終結。当事者2名に和解成立。
12月
赤レンガの住人たち
長門改装が検討されていた。
中南米に足場が作られると、直接的な戦力より大洋を往復できる作戦能力が重視された。
また、ロンドン条約も近いことから3000tでできる限りの改装を検討しなければならなかった。
そして、廃艦にした姉妹艦陸奥のほか、土佐、加賀の機材を流用することもできそうだった。
「神籬の工場見たか?」
「ああ、ガラスで糸やシートを作っていたな」
「それと、スクーナー型商船も」
「スクーナーは金になるのかね」
「というより燃料を使う船は鉄鋼産業を強くするだろうからって、ディーゼル機関帆船で、燃料を可能な限り使わない発想らしい」
「ガラス繊維は、帆も作れるからな」
「やれやれ、木工屋と思っていたらガラス屋に転身か。変わり身の早い連中だ」
「だが日本最強の集票マシーン木工12ギルドが中心だし。中核は神籬で。仙堂と角浦が牛耳ってる」
「仙堂と角浦の子供は、閨閥に入るんだろうか」
「まぁ 物心付いたら、学習院に入るそうだから、中でそれらしい相手を見つけるんじゃないか」
「それならいいが。どの閨閥グループと結ぶにしても、閨閥ハズレは、何かと異端視されるからな」
「ふっ 奥方家と確執になるから嫌だっていう華族も多いけどな」
「そりゃ 嫌な旦那や傲慢な奥さんと結婚して。財産、人脈、金脈、利権が倍になるのが閨閥だからね」
「庶民上がりは、そういうのに耐えられないかもしれんが」
「だから浮気するんだろうが」
「そのへんで、自由恋愛とかいう話しも増えてる」
「アメリカ人だって、お金持ちはお金持ちと結婚するだろう」
「おいおい、それより長門の改装を考えないと」
「ガラス繊維か。錆びないのはいいが。どうしたものか・・・」
「鉄と比べると見劣りするね」
「だが準鋼鉄の代用品くらいにはなりそうだ」
「駆逐艦の船体をガラス繊維にできないだろうか」
「1500t未満級の初春型駆逐艦の後期型からになるが、まぁ できないことはないだろう」
「鉄鋼を1000tも浮かせられるならその分をほかに回せる。有利だ」
「長門の船内もガラス繊維にしてもいいくらいだが」
「たぶん、ロンドン条約で、3000tにさらに3000tの加増が認められるから38759tか」
「それよりディーゼル機関電気推進にするんだろう」
「その予定だよ」
「しかし、横幅を広くできないとなると・・・」
「火力が低下するとしても、大改装になりそうだな」
米国で憲法修正第21条批准 (禁酒法廃止)
第65議会召集
大恐慌下でありながら金本位制の続くフランスで、
“フランス バイヨンヌ市立信用金庫倒産”
“ユダヤ人スタヴィスキーは、盗品と模造品宝石類で5億フランを超える債券を発行”
“100マルク=608フランから100マルク=601フランへ”
フランス政財界を巻き込む詐欺事件が発覚し、大騒動になっていた。
シャンゼリゼ通り
日本人たちが新聞を読んでいた。
「為替まで影響が出るなんて、でかい、詐欺事件だな」
「不況で焦ってるんじゃないか」
「金本位制のフランスで紙幣が失われるのは、フランスからゴールドが失われたのと同じだ」
「お金持ちは使わないお金を溜め込んで社会資本も減ってデフレが進んでいるだろう」
「日本は、早々と金本位制をやめたけどな」
「あれは外国製品を買うためでね。紙切れじゃ売ってくれんだろうが」
「最新の工作機械がなきゃ 大型空母や新型戦闘機だって、製造できたかどうか・・・」
「それに神籬のガラス繊維工場だってインフレで泡銭がなければ創設できたかどうか」
「そんなの国民に投資すれば同じ結果だろうが」
「閨閥グループは世襲が多い、国内投資が増えると下克上になって成り金に負けるのが嫌なんだと」
「どこの国だってそうだよ」
「しかし、平時の武器弾薬は金だ」
「権力基盤を守るには、富裕層を縮小させて、紙幣供給を制限して統制経済すべきだが」
「国を強くするには、統制経済ではダメだ」
「国民に金をばら撒き、能力主義、実力主義で下克上にしても新陳代謝を強制し国を強くするしかない」
「面白くはないが、成り上がりの神籬のような会社が、あと、2社も3社もいる」
「つまり、フランスは、故意に弱体化させられている」
「まぁ フランスは、金本位制をやめるまで、フラン紙幣というか、ゴールドをごっそり外資に持っていかれる」
「その金が巡り巡ってドイツの再軍備の投資に使われていたら、お笑いだけどな」
「可能性はあるだろう」
「貧富の格差を誤魔化すなら戦争だし。戦争すればさらに利権を大きくできる」
鹿児島県口永良部島が噴火(全壊14戸、死者8名)
日産自動車設立
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月夜裏 野々香です。
木仙一族
仙堂春和(27歳) × 山城美奈(23歳) 一樹(5) 智樹(1)
角浦秋和(27歳) × 日向奈美(22歳) 青葉(5) 芳樹(1)
設備投資の回収をしなければならないので、最初はお高くなりそうなガラス繊維。
しかし、材料はガラスなので、製造が進めば、鉄材より割安になりそう。
1926年 巨済島(400ku) 済州島(1845ku) 鬱陵島(72.82ku)
1926年 大連州(3462ku)
1930年 任那州 フォンセカ湾 ニカラグア領地コシグイナ(400ku)
1932年 任那州 フォンセカ湾(1200ku) 4カ国不戦条約により拡大
ニカラグア(400ku)+ホンジュラス(400ku)+エルサルバドル(400ku)
1932年 北欧道 カレリア地峡+フィンランド湾諸島 (6000ku)
スールサーリ島(21ku)、ラヴァンサーリ、大・小チュテルサーリ島他
第13話 1933年 『極東の楔 VS 中南米の楔』 |
第14話 1934年 『中南米7ヵ国不戦協定』 |