月夜裏 野々香 小説の部屋

   

20XX年 日本沈没 『龍の魂魄』

        

 

 

 

第06話 09月 『ほお〜』

 紀伊半島沖 約100km

 深海調査潜水艇 “わだつみ6500” がマリン・スノーと一緒に降下していく。

 パイロットは、小野寺俊夫、結城達也(デコ広)の二人。

 「こっちは、あまり、こなかったな」

 「そんなに深くないからね」

 「田所先生、いったい、なに調べたいのかな」

 「さぁ 日本が沈没すると決まったら政府の子飼いになっちゃったし」

 「とりあえず、カメラ回して採取すれば、いいんじゃないか」

 「・・・魚の種類が少し変わっていないか?」

 「んん・・・いや、増えている」

 !?

 大きな黒い物体が見えてくる。

 「おお、でかい!」

 「沈没船だな。タンカーだろう」

 「ていうか、空母だろう」

 「・・・んん・・・空母・・・信濃?・・・・位置が違うぞ」

 「本当だ。こんな場所にないだろう」

 「座標は、合っているような・・・」

 「ああ・・・地震でずり落ちたんだな」

 「うぅ・・・悲惨」

 「ていうか、海底地震は、まだだよな」

 「そうだっけ」

 「まだ、富士とか、内陸の地震で津波は、きてないだろう」

 「じゃ 何で動いてんだ」

 「とにかく、こりゃ 海底の砂を採取だな」

 「・・・なんか、湧いて出てないか」

 「んん・・・微妙だな・・・」

 外を照らすライトの明かりが微妙に揺れている。

   

   

 福岡 某インテリジェントビル(仮官邸)

 閣僚以下、数人が集まっていた。

 その中の一人、田所博士は、人生の賭けに成功し、

 一躍、地震学会のトップ。

 しかし、あれこれ、煩わしさがあるのか、楽しそうでもない。

 「・・・マントルと地震の固有振動数の同調で海底に熱が発生し、深層流が持ち上がっているようです」

 「博士。地震が、多発するのかね」

 「ですが、マントルが活動しているのか、かなりの量の希少金属が認められそうです」

 田所博士が試験管を振ると、黒いガラス管がキラキラと光を放つ

 「日本が沈没するのにいまさら希少金属もなかろう」

 「所有権は、日本にあるのでは? 相当な密度ですよ」

 「んん・・・政府としてはだ。日本人移民の糧になるのであれば何でも利用したい」

 「日本列島は、群小島くらい、残るはず」

 「アメリカに利権を渡せば味方になるでしょうな」

 「中国と、事を構えそうだが」

 「残存する群小島に日本人のよりどころを残すか」

 「それとも、大多数の日本民族の利益のため使うかでしょう」

 「一応民主主義的な観点で、やりたいね」

 「問題は、ですね」

 プロジェクターの画面が変わる。

 「・・・・」

 「深海の海水温度は、3度で安定しています」

 「そして、海底500m以上。つまり、50気圧以上にあるメタンハイドレートを、この熱が溶かしてしまうことでしょう」

 !?

 「メタンハイドレート1立方メートル解凍すると」

 「メタンガス164立方メートルに膨れ上がりますから」

 「利益としては、こちらの方が・・・」

 !?

 「まさか!」

 「ちなみに日本近海のメタンハイドレート埋蔵量は、世界最大です」

 !?

 「メタンの温室効果は、二酸化炭素の20倍ですか?」

 「世界中から資産と資源を集めて押さえ込まないと大変なことになりそうですな」

 「たしかに他国も他人事では、ありませんな」

 「そ、それは、世界を人質にとって恐喝だろう」

 「地震は、自然現象ですし、不可抗力ですし、いや、困りました」

 「人類の存亡と直結するかもしれませんし」

 「国連予算を注ぎ込まないと、これは、駄目でしょう」

 「アメリカの軍事予算も多すぎるかもしれませんな」

 「ここは、穏便に世界平和と安寧のために・・・」

 「この分だと、溶け出してくるメタンハイドレート、採算ベースにのるかもしれませんね」

 「つ、使い切れないだろう」

 「何のために南極移民なのです」

 「適切な気圧でメタンを冷やせばメタンガス164立方メートルはメタンハイドレート1立方メートルに元通り」

 「・・・・」

 「そんな都合のよい保管場所は世界中でも少ないはずです」

 「良かったですね。南極大陸をメタンガスの貯蔵庫にできますよ」

 「それも南極融解の切り札として、温存したままですか?」

 「核兵器より怖いですな」

 「ナノカーボン素材にメタンを吸蔵できるそうですし」

 「まぁ これも技術でしょうかね」

 「・・・に、日本沈没・・・万歳なの?」

 「それは、それだけの努力を払って、勝ち取れれば、でしょうな」

 「総理、今後、労働条件は滅私奉公に近く、厳しくなると計算されます」

 

 メタンハイドレートは、温度の上昇で溶け、

 二酸化炭素の20倍温室効果を持つメタンを大気中に放出してしまう。

 メタンが大量に放出されると温暖化が進み、

 温暖化で、海水温が上がる。

 すると、メタンハイドレートが溶け出し、

 温暖化がさらに加速する悪循環が起こる。

 2億5千万年前、P-T境界の生物大量絶滅は、この温暖化の悪循環が原因だった

 

 

 国連総会

 日本代表が日本沈没が日本近海のメタンハイドレートを発熱させ、

 融解に繋がると報告。

 それまで他人事だった先進国首脳は慌てふためく。

 そして、日本がメタンハイドレート採掘し、南極に保存すると提案。

 大和メタン株式会社への投資を呼びかけると、

 脅迫に近い強制的な提案に主要各国は動揺する。

 国連議会は、たちまち荒れ模様。

 状況を把握し、危機的状況を正しく理解できる知識があるのは先進国だけ。

 後進国は、何が起きているのかわからない。

 主要各国は平然としている日本代表と交渉するよりなく。

 最悪の不幸に見舞われたはずの日本に潜む災厄。

 最悪(−)と災厄(−)を掛ける(×)と、不思議な錬金術で資金と移民先が確保(+)されていく。

 そして、いくつかの妥協がされ、

 大和メタン株式会社が創設されてしまう。

  

  

 各国から集まる資源で日本の生産性は、24時間体制へと移行していた。

 生産計画、工程管理、管理部門、輸送計画、

 これらが、しっかりした状態で労働時間が増えると、生産性が増してしまうのは明白。

 地震と余震の中、

 遊びの少ない生産体制でメガフロートが最優先で建造されていく。

 メガフロートの誹謗中傷は、利害関係者経由で行われていた。

 しかし、日本沈没になると、それも、変わってくる。

 深海域の洋上は、津波が弱く。

 構造上、地震に強いことから期待されていた。

 セラミックやカーボンなど、海水に強い素材が多用され、

 昼夜問わずで組み立てられていく。

 「おっ! 揺れた」

 作業が中断。

 「・・・止まったか、真夜中だというのに良くやるよ」

 「可能な限り建造しないとね」

 「“大和” は、モノになりそうかい?」

 「メタンハイドレート用だろう」

 「メタンを吸蔵するナノカーボンとか、積み込んでいるけど、まだ、採掘という感じじゃないな」

 「“海凰” の方が早いか」

 「そりゃ 試行錯誤のメタンハイドレートと違って既存の技術だけで済む、洋上空港だからね」

 「航空自衛軍は、海の上に引越しか」

 「戦闘機が地震にやられたら目も当てられないだろう」

 「日本の作戦用航空機は、総勢、約350機だよ」

 「本当、洒落にならないね」

 「民間機を入れたら、もっとだ」

 「こっちは、営業運行中だからギリギリまで使うとしても、いずれは、引越しだな」

 「メガフロートの集団をサイドって、名称を使うのか?」

 「あれは、政府じゃなくて、自然発生だろう」

 「・・・笑えるな。いくつ作るんだ。7つ?」

 「あはは・・・」

 「まぁ 台風とか、時化が小さい海域だと、だいたい、見当が、ついてくるか」

 「二期作、二毛作だと、赤道域がいいけどね」

 「温暖な場所の方がいいよ」

 「それより、メガフロートで作物作るの?」

 「結局、メガフロートで、合理的、機能的に再編成しながら工業力を強化しているけど」

 「国としては、最低限の自給率も、ってやつだな」

 「ふ〜ん」

 「ほら、冗長性とか、余白が必要でね」

 「予定より、たくさん作れそう? サイド?」

 「知らんよ・・・・この地震と、余震しだいだね」

 しばらく揺れは収まらなかった。

 警報。

 叫び声が聞こえる。

 「津波だ〜!!」

 海岸線が沖側へと退いていく。

 警報と共に山側へと避難民が逃げていく。

 1時間ほどすると海面が盛り上がり、迫ってくる。

 津波は、深い場所だと大きく盛り上がる。

 しかし、浅瀬に近付くほど、うねりが大きくなり、海面が盛り上がっていく。

 海岸線に迫るほど、高波が、大きくなっていく。

 津波の一角が不意に部分的に逸らされ、抑えられた。

 そして、逸らせず、抑えられていない津波が海岸に押し寄せ、

 防波堤や船舶を破壊しながら、町を飲み込んでいく。

 想像を絶する光景だったものの、

 造船所は、無事だった。

 金さえ惜しまなければ、津波を逸らせて、他の海岸へ押し付け、被害を抑えることができた。

 被害が増した方は “何てことしやがる・・・” だろうか。

 「・・・酷いな」

 「ああ・・・」

 

 

  

 土建屋の多くは、日本本土でなく、海外の仕事へ移行していく。

 その中でも、南極、アフリカは、最大規模で投資していた。

 「・・・南極の上下水道とかは、どうやるの?」

 「それなりじゃないの」

 「世界中に散った日本人を糾合する象徴的なものだし」

 「でも、メタンハイドレートの倉庫にするってよ」

 「南極の地層。穴を掘ったらメタンハイドレートが出てきたりして」

 「んん・・・低温と気圧から・・・ありえるな。それ」

 「少なくとも、暖房は取れる、ということか。水はともかく、下水をどうするかな・・・」

 「シールド工法が南極の氷相手に使いやすいのが救いだね」

 「氷が溶けなければね」

 「問題は、海岸側に向かって、氷が押し出されて、動いていることかな・・・」

 あれこれ頭を悩ませたりする。

  

  

 

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 月夜裏 野々香です。

 日本沈没まで、あと、4年と、?ヶ月。

 今後、日本政府と日本民族は、どこに行くのでしょう・・・・

 でも、宇宙戦艦ヤマトは、出てこない。

 

 

AOE-424 補給艦 はまな

 

DD-172 護衛艦 しまかぜ

 

DD-171 護衛艦 はたかぜ

 

J28E 護衛艦 ひえい

 

DDH-141 ヘリコプター搭載護衛艦 はるな

 

 

 

 

 

 

横須賀 配備艦隊
旗艦 DDH143しらね     5200t
第61護衛隊 DDG174きりしま     7250t
  DDG171はたかぜ     4600t
第5護衛隊 DD111おおなみ DD110たかなみ   4650t
第1護衛隊 DD107いかづち DD102はるさめ DD101むらさめ 4550t
         
横須賀 地方総監部
第21護衛隊 「はつゆき」 「しらゆき」 「さわゆき」 2950t
第41掃海隊 「すがしま」 「のとじま」 「つのしま」  
  特務艇「はしだて」 輸送艇「2号」 多用途支援艦「すおう」 砕氷艦「しらせ」
         

佐世保 配備艦隊

旗艦 DDH144くらま 5200t
第62護衛隊 DDG173こんごう 7250t
DDG178あしがら 7700t
DDG170さわかぜ 3950t
第06護衛隊 DD104きりさめ DD109ありあけ 4650t
第02護衛隊 DD103ゆうだち DD112まきなみ DD157さわぎり 4650t

佐世保 地方総監部

第23護衛隊 護衛艦「いそゆき」 護衛艦「はるゆき」 護衛艦「あさゆき」
第26護衛隊 護衛艦「おおよど」 護衛艦「せんだい」 護衛艦「とね」
第3ミサイル艇隊 ミサイル艇「おおたか」 ミサイル艇「くまたか」 ミサイル艇「しらたか」
第43掃海艇 「いえしま」 「まえじま」 「まきしま」
第46掃海隊 「もろしま」 「ゆりしま」 「ひこしま」

 

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登場人物